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第3章 燃料電池漁船導入のための漁船調査(エネルギー使用実態調査)

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第3章 燃料電池漁船導入のための漁船調査(エネルギー使用実態調査)
第3章
燃料電池漁船導入のための漁船調査(エネルギー使用実態調査)
沿岸の小型漁船は、その地域によって漁法や船の規模が異なり様々な漁船が存在する。漁
船の装備や機関の使用状況を調査して、燃料電池漁船を設計する候補船を選択することを目
的として、漁船隻数が多い北海道・東北、太平洋岸、日本海、瀬戸内海、九州・沖縄の 5 地
域で、実態調査を行った。
3-1.実態調査漁船の選択について
調査対象として、余市郡漁業協同組合(北海道余市町)の刺し網漁船、豊浜漁業協同組合
(愛知県南知多町)の小型底びき網漁船、大島漁業協同組合(福井県おおい町)のはえ縄・
漕ぎ刺し網漁船、和田島漁業協同組合(徳島県小松島市)の二そう曳き船びき網漁船、大分
県佐伯市の養殖作業漁船の 5 隻を選定した。漁船の概要と選定理由を表 3-1-1 に、調査地域
を図 3-1-1 に示す。
表 3-1-1 全国 5 地域の調査対象漁船
NO
地 域
① 北海道・東北
調査地区
漁 種
トン数
船 名
搭載
機関型式
漁船法
馬力数
刺 網
9.98
三洋丸
6GF19
130kW
北海道余市町 < 選定理由 >
・北海道では採介藻に次いで、2番目に多い隻数(約33%)の
漁種であり、代表される大きさの漁船である。
一 本 釣 (兼 刺網)
②
日本海
太平洋岸
瀬戸内海
九州・沖縄
12
広栄丸
6CH35B
127kW
14
第1・第2金比羅丸
6GHD50
143kW
徳島県小松島市 < 選定理由 >
・瀬戸内海において、143kWの規制がある代表される船びき
網漁業であり、対象隻数が多い漁種である。(約390隻)
養殖作業漁船
⑤
6GHA-ET 268kW
愛知県南知多町 < 選定理由 >
・愛知県、三重県では127kWの規制がある代表される底びき
網漁業であり、対象隻数が多い漁種である。(約384隻)
瀬戸内海機船船びき網
④
勇成丸
福井県おおい町 < 選定理由 >
・新潟県~島根県にかけての日本海における対象隻数が最も
多い漁種(約35%)であり、代表される大きさの漁船である。
小型機船底びき網
③
4.9
13
第11勝海丸
6HAK
大分県佐伯市 < 選定理由 >
・九州管内での養殖漁業の定着は古く、養殖作業船としての
種類は用途毎にある中で、給餌船に代表される漁船である。
・本事業における21年度のアンケート調査漁船である。
- 23 -
134kW
調査に当たっては、調査票をもとに漁
業者や漁協関係者、鉄工場の担当者等か
ら、漁船の装備や操業の概要について聴
き取りを行った。
稼働状況を把握するため、対象漁船の
主機関に回転計及び燃料系統の機関入
り口側と燃料タンクへの戻り側にそれ
ぞれ 1 台ずつの流量計を取り付けた。ま
た、船体に GPS 受信機を取り付け、これ
らのデータをデータロガーに記録した。
出港から往航、操業、復航から帰港まで、
GPS 情報から航跡を求め、船速を算出し
た。あわせて、入りと戻りの流量の差か
図 3-1-1 調査対象地域
ら機関の燃料消費量を算出して出力を
推定し、機関回転数や船速との関係を求
めた。調査対象漁船に設置した計測機器
の配置の概要を図 3-1-2 に示す。
3-2.刺網漁船(北海道余市町)
北海道の日本海側、積丹半島の付け根
に当たる余市町、余市郡漁協は、かつて
はニシン漁で栄えた歴史を持ち、現在で
はアカガレイ、クロガレイ、イシガレ
イ、アザバガレイ、宗八ガレイといっ
たカレイ類やイカ、エビなどの漁が盛
んである。
図 3-1-2 調査対象漁船に設置した計測機器
対象漁船を図 3-2-1 に、その調査票を
表 3-2-1 に示す。稚内市の山上造船所
(すでに廃業)にて 1981 年に建造した
漁船で、予燃焼室式で海水冷却方式の主
機関は過給機も装備していない。主な機
器として、油圧駆動の揚網機、主機関か
らベルトがけ 3.5kW の発電機、魚群探知
機、レーダー、漁業無線、自動操舵装置
(東京計器)等を装備している。
カレイ等を対象にした刺し網の操業
期間は産卵期の 2 月を除く周年だが、当
該漁船の船主は 3 隻の漁船を使用して、
図 3-2-1 調査した刺し網漁船
- 24 -
4 月 15 日から 7 月 10 日まで、なまこ桁びき網、その後は 8 月末までウニやアワビの採介を
行っており、本船の稼働期間は 10 月 1 日から翌年の 3 月 31 日の間で、実際の操業日数は 70
日程度と尐ない。
表 3-2-1 刺網漁船の調査票
- 25 -
図 3-2-2 無過給の主機関
図 3-2-3 主機関からベルトがけの発電機
本船は、余市漁港から 9 マイル沖の水深 30~60m を漁場としている。聴き取りによる操業
状況は、以下の通り。夕方 6 時に出航し、往航は 1500rpm、9 ノットで1時間。漁場では前日
に投入した刺し網を 500rpm で 4 時間かけて揚網後、搭載してきた 150m 網 10 枚を 500rpm で
1 時間かけて投網する。復航は 1500rpm、9 ノットで1時間。帰港は、未明の午前 2 時頃とな
る。
主機関の船首側のフライホイールと推進軸に回転計を、燃料系統の機関入り口に流量計を
設置し、船体に設置した GPS とあわせ
て、6 秒間隔でデータレコーダーに記
録した。なお、本船の機関は燃料の戻
りはないので、機関入り口の燃料流量
がそのまま燃料消費量となる。
本船の航跡を、船速で色分けして図
3-2-6 に示す。調査した日は漁場が漁
港から 4~5 マイルと近く、16 時 39
分に出港して往航は機関回転数
1380rpm、10 ノットで 25 分、17 時 5
分に漁場に到着している。まず、ボン
図 3-2-4 油圧式の揚網機
デンを目印に、前日に設置していた刺
し網の揚網を開始する。揚網時には、
機関は 800rpm 一定で油圧ポンプを駆
動し、これを動力源にする揚網機を使
用するとともに、1 分間に 1 回程度ク
ラッチを嵌にして船を進める。揚網時
のプロペラ回転数は 0~200rpm、船速
は 0~3 ノットで約 2 時間、19 時 9 分
に揚網を終え、投網地点まで 6 ノット
で 5 分程度移動、19 時 19 分から 7 ノ
図 3-2-5 聴き取りによる操業パターン
- 26 -
ットで 15 分程度、漁港から搭載してきた網
を投網する。投網を終えると、揚網した網
を搭載したまま機関回転数 1400rpm 10 ノッ
トで 30 分かけて 20 時 07 分に入港している。
この間のデータを、横軸に時刻、縦軸に
それぞれ主機関回転数、プロペラ回転数、
燃料消費量、船速をとって図 3-2-7 に示す。
なお、図中の薄いグレーで示す計測生デー
タにはバラツキの大きな項目もあるので、
スムージングをかけて赤で示す。船速は 5
項移動平均、その他は 3 項移動平均として
いる。図中で、18 時 50 分過ぎから 19 時 45
分頃まで、燃料消費量のデータが過大な値
を表示している。
図 3-2-6 刺網漁船の航跡
後日船主に確認しても、その原因となる
ような動力は使用していないとのことなので、燃料消費量の異常値を補正の上で主機関の出
力と負荷率を推定し、電動化した場合に 1 日の航海に必要となる電力量を表 3-2-2 のように
算定した。聴き取り調査によると、多くの場合、計測時より漁場が遠く、往復航海に要する
時間及び燃料や電動化した場合の所要電力は、表の 2 倍の 300kWh 程度を見込んでおく必要が
あるものと思われる。
図 3-9 刺し網漁船の操業状況
図 3-2-7 刺網漁船の操業状況
- 27 -
表 3-2-2 刺網漁船の実態調査から推定した所要電力
往航
揚縄
移動
時間(h)
0.45
1.92
0.08
回転数(rpm)
1,380
800
800
船速(kt)
10.0
1.5
6.0
燃料消費量(L/h)
45
5
11.5
燃料消費率(L/kWh)
0.336
0.437
0.336
推定出力(kW)
133.97
11.45
34.24
推定主機関負荷率(%)
67
6
17
推定所要電力(kWh)
60.28
21.95
2.85
9.98GT 実用最大199kW 1600rpm 1日1回操業
往復航海時燃費率0.286kg/kWh、揚縄時は×1.3と仮定
揚網時クラッチ嵌脱
投縄
0.25
800
6.5
11.5
0.336
34.24
17
8.56
停船
0.25
800
1.0
0.5
0.336
1.49
1
0.37
復航
0.45
1,400
10.0
47.5
0.336
141.41
71
63.63
合計
3.40
55.17 (L)
157.65
3-3.はえ縄・漕ぎ刺し網漁船(福井県おおい町)
福井県小浜市の西に隣接する大飯
郡おおい町の大島漁業協同組合は、若
狭湾と小浜湾を隔てる大島半島の先
端に近い小浜湾側に位置している。
対象漁船を図3-3-1に、その調査票
を表3—3-1に示す。長崎県の共立レジ
ンクラフト(現在は廃業)で平成2年
に建造してから20年が経過するが、こ
の間に主機関の換装を行っている。
若狭湾内のアマダイ・レンコダイを
漁獲対象として、9月1日から翌年7月
図 3-3-1 調査したはえ縄・漕ぎ刺し網漁船
31日まではえ縄、8月1日から31日まで
漕ぎ刺し網で操業する。湾内のため、
年間の操業日数は200日~250日と、日
本海側としては多い。
漁労機械として、図3-3-2に示す岩
崎電機工業製DC24V、350Wの電動ライ
ンホーラとネットホーラをそれぞれ1
台ずつ装備している。魚群探知機に加
図 3-3-2 電動ラインホーラとネットローラ
えてソナーも装備しており、航海機器
等はGPS、レーダー、自動操舵装置、
漁業無線2台、マリンホーン等である。
聴き取りによる操業状況は、図
3-3-3のように、早朝の日の出前に大
島半島の先端に近い大島漁港を出港
し、小浜湾から若狭湾に出て9~15m
先の漁場まで、14ノットで1時間程度
図 3-3-3 聴き取りによる操業パターン
航走する。
- 28 -
表 3-3-1 はえ縄・漕ぎ刺し網漁船の調査票
1 漁 船 デ ー タ
2 操 業 デ ー タ
漁 業 種 類 *
は え な わ ・(コギ サ シ)
主たる漁獲対象
年間稼働日数
ア マ ダ イ (グ チ ) ・ レ ン コ ダ イ
(日 )
200~ 250
船名
平 成 2年 9月 30日
建 造 造 船 所 (型 式 )
共 立 レ ジ ン ク ラフ ト
総 トン数
( トン)
4 .9
喫 水 深 さ (排 水 トン 数 )
登録L x B x D
(m )
魚倉
(L)
燃 料 タン ク
(L)
11.93× 2.69× 0.89
約 9~ 15
( h r)
約 8
航 行 時 間 (往 復 )
( h r)
10
約 80
漁場へ向かう時の速力
( k 't )
操業時の速力
( k 't )
1
帰航する時の速力
( k 't )
15 (5)
14 (14)
500
清 水 タ ン ク (L)
乗組員
(km )
操業時間
1操 業 あ た り の 燃 油 使 用 量 (L)
勇成丸
竣 工 (年 月 )
漁場までの概算距離
(名 )
1
主機関型式
6 G H A- ET
主機関出力
3 2 4 k W / 2 ,2 5 0 r p m
漁場へ向かう時の出力
(kW )
操業時の出力
(kW )
帰航する時の出力
(kW )
発電機型式
発電機出力
※ M A X 使 用 回 転 数 1 ,8 0 0 r p m 以 下
軸発電機の有無
※ M IN 使 用 回 転 数 約 4 5 0 rp m
有 り ・ 1kW
油 圧 ポ ン プ容 量
作 動 油 タン ク容 量
(L)
操舵機用有り
3 漁 船 用 各 種 機 器 類 の 電 源 と 消 費 電 力 (※ )
機器名称
型 式 ・G PS航 法 装 置 (※ ※ )
古 野 :
・魚 群 探 知 機 (魚 探 )
・
航海機器
古野 :
〃 ( ソナ ー )
消費電力
FET
古 野 : FC V -561
・カ ラー レ ー ダ ー 装 置
古 野 : LC -880
・自 動 操 舵 装 置
マ ロ ー ル : CB -87
・無 線 27MHz
古 野 : DR-81
・無 線
必要電源
GP-3500
27MHz
古野 :
1W
H M -2S
1W
・マ リン ホ ー ン
古 野 : FM 38
・ヤ ン グ -ネ ッ ト ライ ン ホ ー ラー
岩 崎 電 気 工 業 ・O
2T35
24V
350W
・ヤ ン グ -ネ ッ ト ライ ン ホ ー ラー
岩 崎 電 気 工 業 ・N
O 2T-D
24V
350W
・前 部 駆 動 装 置
電 ク ラ付 駆 動 装 置
漁労機器
(森 田 鉄 工 )
・電 話
A3E
艤装品
ビルジポンプ
ポ ン プ類
雑用水ポンプ
小型水中ポンプ
合 計 使 用 電 力 (常 用 )
-
合 計 使 用 電 力 (最 大 )
-
- 29 -
1W
図 3—3-5 燃料流量計
図 3-3-4 漕ぎ刺し網漁法
(平瀬数恵 あまだいこぎさし網試験操業結果について)
(福井水試資料 平成 18 年 8 号)
はえ縄操業時は、
主機関回転数450rpm船速1ノット程
度で投縄を行う。投縄終了後に、最初の投縄地点に戻
って揚げ縄を行う。これを2回繰り返した後、水揚げの
ために15ノットで小浜湾奥の小浜市場に向かう。水揚
げ終了後に、20分程度かけて小浜湾を横断して係留先
の大島漁港に戻る。一方、漕ぎ刺し網は、図3-3-4のよ
図 3-3-6 機関回転計検出部
うに網の一端に固定用のアンカーを取り付け、これを
沈めた場所に目印となる旗を設置し、海底に沈めるた
めのチェーンを取り付けた網の他端を船尾に固定し、
旗を中心とした円を描くように、1~2ノットで2時間漕
ぐ漁法である。
はえ縄と同様に、1日2回操業している。
データの収集のために、機関に燃料流量計と回転計
を設置し、漁船に搭載されている GPS データと一緒に
データレコーダーに記録するシステムを構築した。図
3-3-5 の燃料流量計を、機関入り口側として燃料タン
図 3-3-7 機関回転計表示部
(左)とデータレコーダー(右)
クから機関に燃料を供給するフィードポンプの間に、
機関出口側として燃料タンクに戻る配管にそれぞれ 1 台ずつ組み込んだ。
図 3-3-6 のように、
機関のフライホイールに反射板を貼り、近くに非接触式回転計の検出部を固定した。回転計
の表示部とデータレコーダーを図 3-3-7 に示す。
データレコーダーは 4 チャンネルを使用し、
機関入り口の燃料流量、機関出口側の燃料流量、機関回転数、GPS のデータを、1 秒間隔で
SD カードに書き込んだ。なお、GPS データは低速時の船速を求めるため、解析時に 6 秒間隔
に間引いている。
データ収録は、8 月 31 日、9 月 1 日、7 日~9 日の 5 日間にわたって行った。いずれも、は
え縄操業である。8 月 31 日の航跡を図 3-3-8 に、漁場滞在部分の拡大を図 3-3-9 に、主機関
- 30 -
回転数と燃料消費量、船速を時系列で図 3-3-10 に示す。この日は、大島半島の先端に近い小
浜湾側の大島漁港を未明の 3 時 42 分に出港し、主機関回転数 1400rpm、14 ノットで若狭湾の
漁場に向かっている。
4 時 37 分頃に漁場に到着して待機後、投縄地点に移動して 5 時に 420rpm、
2.5~3 ノットで北に向けて投縄を開始、6 時頃南に方向転換、6 時 35 分頃再び北に方向転換
し、6 時 56 分に投縄を終了している。直ちに 1700rpm、18 ノットで投縄開始地点に戻り、7
時 6 分から滑りクラッチを使用して 530rpm、2 ノットで揚縄を開始。10 時 45 分頃に揚縄を
終了して、1600rpm、17 ノットで小浜湾内に戻り、11 時 25 分に小浜漁港に入港して、水揚げ
を行っている。
図 3-3-8 はえ縄漁船 8 月 31 日の航跡
図 3-3-9 航跡の漁場滞在部分拡大
船 8 月 31 日の航跡
図 3-3-10 はえ縄漁船 8 月 31 日の操業状況
- 31 -
水揚げ終了後の 12 時に小浜漁港を出港し、1400rpm、14 ノットで小浜湾を横断して、12 時
15 分に大島漁港に戻っている。図 3-3-10 では投縄開始前の漁場での待機時(機関はアイド
ル回転)に、ノイズを拾って燃料消費量が過大な値を示している。
8 月 31 日と 9 月 1 日は、1 日に投縄、揚縄とも 1 回の操業であったが、9 月 7 日~9 日は 2
回に分けて操業しており、聴き取り調査ではこちらが一般的な操業パターンの様である。9
月 7 日の航跡図を図 3-3-11 に、漁場滞在部分の拡大を図 3-3-12 に、主機関回転数と燃料消
費量、船速を時系列で図 3-3-13 に示す。漁場では、往航→投縄→移動→揚縄→移動→投縄→
図 3-3-11 はえ縄漁船 9 月 7 日の航跡
図 3-3-12 航跡の漁場滞在部分拡大
図 3-3-13 はえ縄漁船 9 月 7 日の操業状況
- 32 -
移動→揚縄→復航と、同じ場所を 4 往復していることが読み取れる。また、燃料消費量は 1
回目の投縄及び揚縄時にノイズを拾って過大な値を表示しているが、2 回目は概ね正常値と
判断される。
はえ縄操業時のデータをもとに、燃料消費量から主機関の出力と負荷率を推定し、電動化
した場合に 1 日の航海に必要となる電力量を表 3-3-2 のように算定した。図 3-13 に示す、8
月に行う漕ぎ刺し網の場合も、操業時の船速が 1~2 ノットと低いことから、はえ縄操業に対
して必要な所要電力が大きく増えることはないものと思われる。
表 3-3-2 漁船の実態調査から推定した所要電力
往航
投縄
漁場移動
揚縄
時間(h)
0.67
2.00
0.42
3.50
回転数(rpm)
1,400
420
1,700
530
船速(kt)
14.5
3.0
18.0
2.0
燃料消費量(L/h)
28
1
44
1.6
燃料消費率(L/kWh)
0.269
0.349
0.269
0.349
推定出力(kW)
104.2
2.9
163.7
4.6
推定主機関負荷率(%)
32
1
51
1
推定所要電力(kWh)
69.5
5.7
68.2
16.0
4.9GT 324kW 2250rpm 1日2回操業(投縄・揚縄は2回の合計時間)
往復航海時燃費率0.228kg/kWh、投縄・揚縄時は×1.3と仮定
復航
0.75
1,600
17.0
40
0.269
148.9
46
111.6
移動
0.33
1,400
14.5
28
0.269
104.2
32
34.7
合計
7.67
83.93 (L)
305.8
3-4.小型機船底びき網漁船
(愛知県南知多町)
愛知県知多半島の先端、知多郡南知多町
の伊勢湾側に面した豊浜漁協は、小型底び
き網、ぱっち網、船びき網などの漁船漁業
が盛んで、愛知県下でも有数の漁業地域と
なっている。また、名古屋から比較的近い
こともあって、産地市場を消費者にひろく
開放した「豊浜魚ひろば」
が賑わっている。
伊勢湾を主漁場に、渥美外海、三河湾で操
図 3-4-1 調査した小型底びき網漁船
業する140漁業経営体の構成は、小型機船底
曳き網54経営体、曳き網4経営体、のり養殖
15経営体、刺し網及びその他の漁業67経営
体となっている。年間の水揚げ総額24億円
に対して、漁業種類別では小型底びき網が
8.8億円と1/3を占め、トップとなっている。
その主な魚種は、マアナゴ、シャコ、スズ
キ、クルマエビ、サルエビ、フグ、マアジ、
キス、タイ類、カニ類、イカ類、コノシロ、
タコ類、カレイ、カマスなど、底魚類を中
心に広い範囲に及んでいる。なお、操業期
図 3-4-2 操舵室と搭載機器
間1月1日から12月31日までとなっている。
- 33 -
対象漁船の調査票を表3-4-1に示す。地元豊浜の造船
所で1990年に建造した。漁業調整規則により主機関の出
力の上限は127kWとなっている。年間操業日数は約180日。
主な漁労機械として油圧式のネットリールを搭載し
ており、機器として操舵装置、海水冷却装置(フィッシ
ュメイト)を、航海計器は、プロッタ、レーダー、漁業
無線、汽笛・マイクを装備している。
図 3-4-3 ネットリール
表 3-4-1 小型底びき網漁船の調査票
- 34 -
主機関に回転計と、燃料
の入り口側と出口側に流
漁場移動(12kt・30分)
量計を取り付け、それぞれ
投網(5分) 揚網(10分)
60分
繰返し(投網・曳網・揚網)10回
曳網
1秒毎の瞬時値をデータレ
コーダーに記録するとと
もに、ブリッジにハンディ
帰港移動(12kt・50分)
4時
(早朝)
図 3-4-4 聴き取りによる操業パターン
16時
(帰港)
ータイプのGPSを置き、10
秒間隔で位置と時刻をSD
カードに記録した。8月下
旬から9月上旬の航跡を船
速で色分けして図3-4-7~
3-4-8に、このときの時刻
と船速の関係を図3-4-9~
3-4-10に示す。
図 3-4-5 燃料流量計
図 3-5 燃料流量計
図 3-4-6 流量計表示部と回転計
図 3-6 流量計表示部と回転計
図 3-4-7 小型底びき網漁船の 8 月の航跡
- 35 -
図 3-4-8 小型底びき網漁船の 9 月の航跡
図 3-4-9 小型底びき網漁船の 8 月下旬の操業状況(船速)
- 36 -
図 3-4-10 小型底びき網漁船の 9 月上旬の操業状況(船速)
8月下旬は豊浜漁港から近い知多半島側で操業している、9月になると伊勢湾を横断して三
重県側に漁場を移している。出港と帰港時刻は概ね一致しているが、知多半島側の漁場に対
して三重県側の漁場で操業するときは往復航海の時間が長い。本船は、8月末までは海苔養殖
業者を季節雇用して、船主と2人乗りで操業しているが、9月になると海苔養殖が始まるため、
1人乗り操業となる。1人乗り操業時は、
漁船が輻輳する知多半島側の漁場を避け、
より安全な三重県側で操業している。三
重県側は泥場であり、資源豊度は知多半
島側の方が高い。1人乗りでは、漁獲物の
揚収・選別時間が長くなり、曳網時間も
長くなる傾向にある。往復航海に時間を
要することもあるが、2人乗り時の曳網回
数が10~13回に対して、1人乗りでは7~8
回にとどまる。
5月の操業時に、図3-4-11に示すように
1日の操業の途中で知多半島側から三重
県側の漁場に移動し、両方で操業してい
るデータがある。航走時間が長くなり、
主機関の負荷条件も厳しいと思われるで、
このデータを詳細に解析することにした。
図 3-4-11 小型底びき網漁船の 5 月 14 日の航跡
なお、このときは2人乗りで操業している。
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図 3-4-12 小型底びき網漁船の 5 月 14 日の操業状況
図3-4-12のように、午前4時過ぎに豊浜漁港を出港後、12.5ノットで20分余り航走、知多半
島近傍の漁場で1時間程度の曳網を2回繰り返した後10分ほど移動してさらに2回曳網、その後
10分ほど移動してから5回目の曳網、25分ほどかけて全速で三重県側の漁場に移動して、ここ
で5回曳網後、12ノットで45分程度かけて帰港している。
往航から1回目、2回目の曳網までの燃料流量計にノイズの影響で、図中に計測データの変
動幅がきわめて大きく、過大な値を示した箇所があるが、その後は精度の良いデータが得ら
れている。
燃料消費量から主機関の出力と負荷率を推定し、電動化した場合に1日の航海に必要となる
電力量を表3-4-2のように算定した。主機関は航走時には負荷率100%近くで、曳網時も70%以
上の負荷率で使用されている。小型底びき網の場合は、出港から入港まで1日の操業時間が長
く、全体に占める航走や曳網時間の割合が大きいことから、燃料消費量やこれらから推定し
た所要電力が多い。
表 3-4-2 小型底びき網漁船の実態調査から推定した所要電力
往航
投網
曳網
揚網
漁場移動
復航
合計
時間(h)
0.37
0.47
9.01
1.03
0.79
0.74
12.41
回転数(rpm)
2,250 500-2250
1,900 500-1200
2,250
2,250
船速(kt)
12.0
5.5
3.6
1.0
12.0
12.0
燃料消費量(L/h)
40
10
29
7
40
40 348.99 (L)
燃料消費率(L/kWh)
0.320
0.416
0.320
0.416
0.320
0.320
推定出力(kW)
125.04
24.05
90.65
16.83
125.04
125.04
推定主機関負荷率(%)
98
19
71
13
98
98
推定所要電力(kWh)
46.01
11.30
816.85
17.34
98.65
92.15
1082.30
12GT 127kW
1日10回操業(投網・曳網・揚網は10回の合計時間)、移動3回
往復航海時燃費率0.272kg/kWh、投網・揚網時は×1.3と仮定
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