...

第 56 回宇宙科学技術連合講演会 に参加して

by user

on
Category: Documents
35

views

Report

Comments

Transcript

第 56 回宇宙科学技術連合講演会 に参加して
特集
学生の研究活動報告−国内学会大会・国際会議参加記 18
の揚力を利用することで再突入飛行時の飛行経路の
第 56 回宇宙科学技術連合講演会
に参加して
上
健
私たちの研究グループの過去の研究では,宇宙機
二
とバルートを剛体と仮定し,ワイヤーロープのみ柔
Kenji UESHIMA
軟性のある模型で風洞実験を行った結果,バルート
機械システム工学専攻修士課程
嶋
修正や,減速度の低減が可能となる.
2012 年度修了
の姿勢を安定させることが可能であった.
そこで本研究では従来まで剛体と仮定していたバ
1.はじめに
ールを実際の運用を模擬した柔軟性のあるインフレ
2012 年 11 月 20 日∼11 月 22 日に別府国際コンベ
ータブル構造の模型で風洞実験を行い,バルートの
ンションセンター(ビーコンプラザ)において,
大きさや位置がバルートの挙動や姿勢に与える影響
「第 56 回宇宙科学技術連合講演会」が開催されまし
た.
を調べることを目的とする.
2. 2
私はこの講演会で「インフレータブル構造を用い
極超音速風洞実験
2. 2. 1
実験模型
たトーラス型バルートの姿勢の安定性評価に関する
実験模型の写真を図 2 に示す.再突入カプセルを
研究」というテーマでポスター発表を行いました.
ステンレス製半球で模擬し,バルートは線径 1 mm
の 3 本のステンレスワイヤーロープでスティングに
2.研究内容
2. 1
接続されており,通風中は自由に動くことができ
背景・目的
る.
バルート(Ballute)とは,バル ー ン ( Balloon)
バルートのインフレータブル構造は図 3 に示すよ
とパラシュート(Parachute)の複合語で,再突入飛
うに,耐熱層となる外皮を厚さ約 0.5 mm のザイロ
行時の減速に使用されるインフレータブル構造の減
ン製の生地でトーラス形状を作成し,内部は気密構
速装置である.軽量で大きな投影面積を持つバルー
造となるように厚さ約 0.4 mm のシリコンゴムシー
トを再突入機に取り付けることで弾道係数を低下さ
トで作成されたチューブを挿入する.このシリコン
せ,高高度の低密度域での減速が可能となり空力加
チューブには空気を充填できるように φ 0.5 mm の
熱を避けることができる.図 1 に示すようなトーラ
シリコンホースが取り付けてある.通風直前にチュ
ス型バルートを再突入機が複数本のテザー(ひも)
ーブ内に空気を入れると通風試験時は測定室内部が
で曳航する形の場合,抗力だけでなくテザーの長さ
約 100 Pa まで減圧されるのでチューブ内の空気が
を調節してバルートを傾けると揚力が発生する.こ
膨張しトーラス状のバルートが形成される.
2. 2. 2
実験方法
宇宙航空研究開発機構,調布航空宇宙センターに
ある 1.27 メートル極超音速風洞を使用した.気流
条件は,貯気層圧 P 0 を 1.0 MPa,貯気槽温度 T 0
図1
トーラス型バルート概略図
図2
― 23 ―
実験模型
図3
バルート断面図
図4
試験模型パラメータ
図5
振動したケース
図6
安定したケース
を 650℃,マッハ数 M を 10.0 に設定した.
実験は図 4 に示すパラメータを変更して行った.
通風中の模型の挙動と姿勢の観測は,測定室側面よ
りシュリーレン法による撮影と測定室内部の CCD
カメラにより模型を斜め前方から撮影を行った.
2. 2. 3
実験結果
実験の結果,バルートが激しく振動するケース
図7
と,ある程度姿勢を維持できるケースの二つに分か
れた.
激しく振動を起こしたケースの流れ場の様子を図
5 に示す.再突入カプセルからの衝撃波がバルート
バルート位置
とバルート表
面圧力の関係
図8
バルート表面の
圧力分布
8).この圧力分布の変化がバルートの姿勢に影響を
与えたと考えられる.
からの衝撃波とバルート前方表面で干渉を起こして
いることが確認できる.次にある程度姿勢を維持で
2. 4
まとめ
きたケース流れ場の様子を図 6 に示す.バルートが
本研究ではインフレータブル構造を用いたトーラ
カプセルからの衝撃波の内側に位置しており,衝撃
ス型バルートによる再突入飛行の実現に向けて,風
波干渉はバルートから離れた位置で発生している.
洞実験と数値流体解析により実現可能性の検討を行
この結果から,衝撃波干渉の発生する位置がバル
った.実験は実際の構成を模擬した実験模型を使用
ートの姿勢や挙動に影響を与えていると考えられ
してバルートの挙動や姿勢に与える影響を調べた.
る.
実験の結果,衝撃波干渉の位置がバルートの挙動や
2. 3
姿勢の維持に大きな影響を与えていることがわかっ
数値流体解析
衝撃波干渉の影響を調べるために二次元軸対称の
た.また,数値流体解析より衝撃波干渉が発生する
数値流体解析を行った.再突入カプセルからの衝撃
と急激な圧力上昇が起こることがわかり,バルート
波へバルートを近づけていき,バルート表面圧力の
表面での衝撃波干渉がきっかけとなり,バルート表
変化を調べた.図 7 にバルートの位置とバルート表
面圧力のバランスが変化することで振動が発生した
面の圧力の関係を示す.バルートとカプセルの距離
と考えられる.
を短くすると衝撃波干渉が激しくなり,バルート表
面での圧力が高くなることがわかる.
3.おわりに
次に,三次元の数値流体解析によるバルートの姿
学会では様々な研究発表を聞くことができ,また
勢が変化した場合のバルート表面の圧力分布の様子
本研究に多くの意見を頂き貴重な経験となりまし
を調べた.バルートの姿勢が前方へ傾くとバルート
た.この経験を残りの研究生活に活かしていきたい
上側でのみ衝撃波干渉が発生しバルート表面の圧力
と思います.最後に,ご指導を頂いた大津広敬先
分布のバランスが崩れていることが確認できる(図
生,大津研究室の皆様には厚く御礼申し上げます.
― 24 ―
Fly UP