...

4(PDF:1331KB)

by user

on
Category: Documents
7

views

Report

Comments

Transcript

4(PDF:1331KB)
第3章
燃料電池導入のための漁船調査(エネルギー使用実態調査)
燃料電池漁船を設計するに当たって、その候補船を選択することを目的として、各地の漁
船の燃料使用量等について実態調査を行った。
現地漁船の操業調査をするにあたり、昨年度聞取り調査をした一本釣り漁船(大分県国東
漁港)を始めとして、キンメ一本釣り漁船(千葉県銚子漁港)、タコ樽流し漁船(北海道留萌
漁港)および採介藻漁船(島根県宍道湖)を調査対象とした。
3-1.一本釣り漁船(大分県国東漁港)
本船は、船内外機搭載の沿岸漁船であり、経年15
年程度の中古船を購入して10年ほど経過している。
主機関の始動電源はDC12Vだが、船尾に24V仕様のひ
き釣り用の電動釣機を設置しているため、主機前駆
動で24V、980Wの発電機を回し、釣機だけにDC24V
を供給している。保蔵は水氷。バッテリーは、12V
×2台を機関室に、1台を舵機室に設置している。
図 3-1 調査した一本釣り漁船
操業の概要は、5時頃出港して、漁場まで5分程度
航走する。船尾の釣機から20~30本の釣り針を付け
た釣り糸を繰り出し、主機関回転数500rpm、船速2
ノットでひき釣りを行い、釣機に巻き取る。漁場移
動を含め、操業時間は3時間程度であり、ひき釣り
の他に、メバル・キス等の雑魚の建網も操業してい
る。
主機関は定格出力が53kW(実用最大出力でも
70kW)と小さく、漁労機械は電動釣機のみである。
図 3-2 船尾に設置した電動釣機
漁場が近く、稼働時間も短い操業ではある。
今年は、10月中旬頃、陸岸から100m以内でキスを対象とした建網漁を行い、10月下旬頃か
ら一本釣り操業を行った。この2種の操業データを収集した。
図 3-3 燃料流量計
(上下式に入り側と戻り側をセット)
(橙レバーは燃料バイパス切換コック)
図 3-4 機関回転数検出器
と計測機器類の電源用手
配バッテリー (手前)
- 33 -
図 3-5 GPS
(オーニングステ
ーに取付けた)
漁船への計測機器類の設置状況を図3-3~3-6に示
す。燃料流量とGPSのデータは1秒間隔でサンプリ
ングして、データレコーダに記録した。また、燃料流
量は機関の入り側と戻り側の両方を測定しており、そ
の差を燃料消費量とした。
< 計測機器 >
・流量計----------- フローメイト:LSF45P0-M2
図 3-6 積算計(黒色)とデータロガ
(㈱オーバル)
・積算計----------- 型式:TM-3130 (DC 用)
(㈱小野測器)
ー(銀色)(流量計と機関回転数の記
録保持。フタ付き透明ケース内に収
・光電式回転検出器- 型式:LG-916 (反射シート式)
納し発泡体で固定)
(㈱小野測器)
・データロガー----- 型式:NMEA0183
(常磐商工製)
・GPS----------- 型式:GPS17
(ガーミン製)
3-1-1.
建網操業時のデータ分析結果
3-1-1-1.GPSによる操業航跡
10 月 16 日の建網操業時のGPSデータを使用して、本船の航行跡測定することにより、航
行距離と速力の分析を行った。図 3-7 の左側図が、国東半島エリアにおける位置で、右側図
が拡大した航跡図である。
図 3-7 GPS による操業航跡図(建網)
- 34 -
漁場では、白線に従って投網してから、赤線のように一旦建網の漁場を離れて、ひき釣操
業を行った後、再び元の位置に戻って緑線に従って建網の揚網を行い、帰港している。
3-1-1-2. 燃料消費量と機関回転数と船速
建網操業時の機関回転数、船速と燃料消費量を図 3-8 に示す。測定した燃料流量計のデー
タにバラツキが大きく、機関の入り側と戻り側の流量の差に対して 50 個移動平均をかけるこ
とでバラツキを抑えてグラフ化した。サンプリング間隔が 1 秒であることから、グラフの表
示は 50 秒間の平均値となるため、瞬間的な変動に追随できず、ピーク値が鈍っていることも
考えられる。
5 時半過ぎに出航後、最大 1850rpm、7.5 ノットで漁場に向かっている。この時の燃料消費
量は過大と思われる値が記録されているので、操業終盤の漁場移動時や帰港時のデータから
推測して、
機関の出力は 11kW 程度と推定される。
漁場では速力 2 ノットで投網を終えたあと、
3 ノット程度で航走しながら、ひき釣りを行っているが、この間の機関出力は、わずか数 kW
に過ぎない。1 時間半後に 2 分間ほど、2,250rpm、10 ノットで建網の漁場に移動しているが、
この時の出力が 20kW、2 ノットで 15 分程度の揚網の後、帰港時の速力は 9 ノット、機関出力
17kW 程度と推測される。なお、建網の投網や揚網は全て手作業で行っており、漁労機器は使
用していない。ひき釣りには、バッテリー駆動の小さな電動釣機を使用している。
図 3-8 建網操業時のデ-タ解析結果(燃料消費量、速度、機関回転数)
- 35 -
3-1-2.一本釣り(ひき釣り) の操業データ分析結果
3-1-2-1.GPSによる操業航跡
10 月 25 日のひき釣り操業時のGPSデータを使用して、本船の航行跡を測定することによ
り、航行距離と速力の分析を行った。図 3-9 の左側図が、国東半島エリアにおける位置で、
右側図が拡大した航跡図である。当日は、途中で一度入港し、2 回に分けて操業している。1
回目の航跡を白で、2 回目を赤で示す。
図 3-9 GPS による操業航跡図(ひき釣り)
3-1-2-2.燃料消費量と機関回転数と船速
ひき釣り操業時の機関回転数、船速と燃料消費量を図 3-10 に示す。建網時と同様に、燃料
流量は 50 個移動平均をかけてグラフ化した。
6 時過ぎに出港し、9.5 ノットで 3 分間航走して漁場に着いている。この時の燃料消費量
6L/h から、機関出力は 22kW 程度と推測される。その後、2~3 ノットで 50 分程度ひき釣り操
業を行っているが、機関出力は数 kW に過ぎない。続いて、9 ノットで 6 分間航走して沖合へ
漁場を移動しているが、この時も機関出力は 22kW 程度と推測される。沖合では旋回しながら、
その後は漁港に向けて 2~3 ノットでひき釣りを行い、8 時 40 分頃に一旦入港している。9 時
50 分頃、再び出港し、1~2 ノットで操業後、10 時半頃に入港している。
3-1-2-3. 燃料電池漁船への適用
当該漁船は漁港から漁場までの距離が極めて近く、定格出力 53kW の機関を搭載しているが、
航走時の速力は 10 ノット未満であり、燃料消費量からみた機関出力も最大でも負荷率 42%の
22kW 程度となっている。搭載している漁労機器は、バッテリー駆動の小型電動釣機のみで、
油圧の漁労機械を搭載していない点からも、装備の上では燃料電池漁船に適している。
- 36 -
図 3-10 ひき釣り操業時のデータ解析結果(燃料消費量、速度、機関回転数)
現状の自動車用燃料電池スタックの表示されている出力に対する連続定格出力を 50%程度
とみなすと、90kW(連続定格出力 45kW)スタック 1 台と、出力 25kW(最大出力 45kW)程度
の電気自動車用、あるいは汎用のモータを採用することで、出力に十分な余裕を持った燃料
電池漁船を設計することができるものと思われる。
調査した一本釣漁船の免税軽油日報によると、平成 22 年 6 月から 11 月までの稼働日数、
時間と給油量は表 3-1 のとおりで、概ね月に 1 回 50L を給油している。
発熱量から計算すると、軽油の低位発熱量を 34.3MJ/L とすると 50L で 1,715MJ となり、熱
効率を 30%と仮定すると有効に使われる熱量は 515MJ となる。標準状態における水素の高位
発熱量を 12.8kJ/L とすると、最近の燃料電池自動車で使われている、圧力 70MPa の水素ボン
ベを採用して 39L を 4 本、合計 156L を積載すれば 1,380MJ となり、熱効率を 50%と仮定する
と有効に使われる熱量は 690MJ となる。従って、水素供給間隔は軽油の場合より長くとるこ
とができる。実用上は圧力 35MPa の水素ボンベでも、容量的には十分に対応可能と思われる。
表 3-1 調査した漁船の燃料給油状況
月
6
7
8
9
10
11
合計
月平均
操業日数 操業時間数 1日の時間
6
13
2.2
5
8
1.6
11
23
2.1
9
16
1.8
17
36
2.1
13
28
2.2
61
124
20.7
- 37 -
給油 L
50
0
50
50
50
100
300
3-2.キンメ一本釣り漁船(千葉県銚子漁港)
千葉県銚子市の銚子市漁業協同組合の企画運営から始まった、毎年 7 月中旬か 8 月初旬頃
に開催されている「きんめだい祭り」が有名になり、今では大きな銚子市のイベント行事とな
っている。銚子漁協所属のキンメ一本釣り漁船の操業調査データについて、水産工学研究所
から提供を受けた。詳細な解析を行うとともに、燃料電池漁船の適用について検討した。
3-2-1.
キンメ一本釣り漁船の概要
調査した漁船は、7 トンで 390kW/2,230rpm の機関を搭載している。漁労機器は電動釣機で、
資源管理のため人数+1台に自主規制しており、当該漁船は 1 人乗りのため 2 台設置してい
る。漁法は、釣り糸長さが約 300m で、その釣り糸に針数が 60 本付いており、その針にイカ
の短冊を餌として付け、キンメダイのいるポイントに投入する。
使用した計測機器は、つぎのとおりである。
※GPS---------------EMPEX
map21EX
(サンプリング間隔 10 秒)
※燃料流量計--------日東精工 オイルアイシリーズ(機関入り側と戻り側各 1 台)
※回転計------------小野測器
※データレコーダー--GRAPHTEC GL200A (サンプリング間隔 2 秒)
図 3-12 回転計、流量計表示器及び
データロガーの設置
図 3-11 キンメ一本釣り漁船
図 4-13 キンメはえ縄漁船
図 3-14 燃料流量計(入りと戻り)
図 3-13 機関室内の状況
- 38 -
3-2-2.GPSによる操業航跡
GPSによる操業航跡を図 3-15 に示す。キンメ一
本釣漁船は、銚子市の南東の沖合 50km 付近の太平洋
で操業している。下図は漁場付近を拡大した航跡図
で、3 個所のポイントで操業している。
3-2-3.燃料消費量、機関回転数、船速
1 日の操業経過を図 3-16 に示す。日帰り操業で、
日の出の操業開始時刻から逆算して、午前 1 時過ぎ
に出港する。往航は、主機関 1,250rpn、船速 11 ノ
ットで 2 時間 15 分程度。燃料消費量の測定値から出
力は 80kW 程度と推定され、機関の負荷率は低い。省
エネルギーのために、出港時刻を早め、出力を落と
して航行しているとのことである。
機関回転数、燃料消費量と船速を図 3-16 に示す。
キンメダイは瀬に付く魚のため、漁場は限定され、
狭い範囲に多くの漁船が集まる。図 3-15 左下の最初
のポイントで、電動釣機を使用して漁具を投入し、
巻き上げる。この時の機関は、概ね 550rpm のアイド
リング回転。30 分ほどかけて次のポイントに移動し、
1 操業 40 分程度で 3 回操業している。漁具の投入か
図 3-15 GPS による操業航跡
図 3-16 データ解析結果(機関回転数、燃料消費量、船速)
- 39 -
ら巻揚げまでの操業中に潮で流されるた
め、次の投入時には 2 分程度かけて、もと
の ポ イ ン ト に 戻 る 。 移 動 時 は 1,300 ~
1,600rpm で、船速 12~15 ノット。燃料消
費量から機関出力は 120~190kW 程度と推
定される。さらに、20 分ほど北東のポイン
トに移動し、ここで 2 回操業した後、漁場
を切り上げ漁港に向かっている。復航時は、
1,700rpm で 17 ノット、1 時間 40 分程度で
図 3-17 漁場で輻輳する漁船
帰港しており、この時の機関出力は、210kW
と推測される。1 日の操業に要する燃料は
160L となる。
10 時頃に入港後は、
漁獲物を軽トラック
に積み替え、銚子市場に搬入する。市場で
は搬入した順に入札が行われる。午後は、
翌日の出漁に向け、漁具の整備や餌の準備
等の作業を行う。
市場への搬入時間が遅くなると、魚価や
図 3-18 電動釣機
午後の作業に影響するため、復航時には速
力が求められる。
3-2-4. 燃料電池漁船への適用
キンメダイ一本釣漁船の装備と稼働状
況を調査した。
7 トンの船体に対して 390kW
と出力の大きな機関を搭載している。機関
の使い方をみると、油圧漁労機械等は搭載
していないため、漁場では概ねアイドリン
図 3-19 キンメダイ
グ回転で、出力が求められるのは往復航海
と漁場移動に限定されている。昨今の燃料
費の高騰に対応するため、出港時刻を早めて往航時の速力を抑えることで出力も 80kW 程度と
低負荷で運航し、省エネ化をはかることで、経費の削減に努めている。一方、復航時は漁場
滞在時間の確保と水揚げ時間の関係から速力が求められ、210kW 程度で運航している。これ
でも、機関の定格出力に対して負荷率は 54%と低く、省エネ運航が行われていることがうか
がわれる。
油圧の漁労機械を搭載していない点から、装備の上では燃料電池漁船に適している。しか
し、現状の自動車用燃料電池スタックの表示されている出力に対する連続定格出力を 50%程
度とみなすと、復航時の出力 210kW で 1 時間 40 分の連続航行を満足するには 90kW(連続定
格 45kW)を 5 台搭載する必要がある。また、1 日の燃料消費量が 160L に及ぶため、必要とな
- 40 -
る水素の搭載量も多くなり、燃料電池のキンメ
一本釣り漁船への適用は時期尚早と判断され
る。
3-3.タコ樽流し漁船(北海道留萌漁港)
正月に欠かせない赤く染色された酢ダコで
有名な北海道に生育する大きさ 2m 位のミズダ
コの漁法は独特である。タコ漁であれば、タコ
壺あるいはタコ箱が使用されるのが一般的で
あるが、北海道では、この大きなミズダコ漁を
図 3-20 タコ樽流しの仕掛け
通称「タコイサリ」と呼んでいる。図 3-20 に示
すように、タコの好物な餌のサンマ等を台座の
付いた熊手形の針のところに縛り付け、その熊
手形の台座と水深により調整した道糸を樽に
縛り付けた仕掛けを使っている。この漁は、潮
が動く時間帯を狙って行われる。
タコ樽流し操業の操業調査データを事業推
進評価委員会の委員である、はこだて未来大学
の和田准教授より提供を受けて解析を行うと
ともに、燃料電池漁船への適用の検討を行った。
図 3-21 タコ樽流し漁船
3-3-1.タコ樽流し漁船の概要
調査した漁船は、3.6 トンで 183kW/2,600rpm の機関を搭載している。タコ樽流し以外に、
刺網、はえ縄、一本釣、採介藻を兼業している。漁労機器は、刺網操業時に使用する油圧駆動
の揚網機を、船首左舷側に 1 台設置している。タコ樽流し操業時に GPS を取り付けて稼働状況を
把握するとともに、船速にあわせて 1 日の燃料消費量を割り振ることで、機関の出力を推定した。
3-3-2.GPS による操業航跡
GPS による操業航跡を図 3-22 に示
す。拡大部分を左に示すが、漁場は
留萌港の沖合 1km 程度と沿岸に近い。
図 3-22 GPS による操業航跡
- 41 -
3-3-3.船速と燃料消費量
5 月 28 日の操業を例にとり、1 日の操業経過を図 3-23 に示す。5 時過ぎに出航し、港内を
出ると 11 ノットで数分間航走して漁場のポイントに到着する。樽の仕掛けを間隔を取って海
に投げ入れて流し、その流れ具合と沈み具合を漁船の上から監視する。ミズダコは縄張り意
識が強く、目の前の海底をズリ動く餌を抑え込むことで、流している樽が沈み込み停止する
ので、漁船がその樽を目掛けて 6~7 ノットで駆けつけ、樽を引き上げてミズダコを漁獲する。
ミズダコを回収後は再び、樽を海に投入する。これらの船上における作業には、漁労機器は
使用せず、全て手作業で行っている。12 時過ぎに漁場を切り上げ、13 ノットで数分間航走し
て帰港している。
当該漁船には燃料流量計は取り付けていないが、GPSのデータを連続して収録した 5 月
26 日から 6 月 3 日までの 9 日間の合計燃料消費量が 261L と判明している。機関のアイドリ
ング時の燃費及び低負荷時の燃費率増加分を 2L/h と仮定して 261L から差し引き、残りを船
速の 3 乗に比例して燃料消費量が増加すると仮定して案分することで、燃料消費量を推定し
た。5 月 28 日の操業における 1 日の燃料消費量は、23.8L と算出した。
速力 11 ノットの往航時と漁場移動時では、燃料消費量 17L/h から機関出力は 63kW、速力
13 ノットの復航時は 30L/h から機関出力は 110kW と推測される。一方、漁場では半径数百 m
の狭い範囲で 2~6 ノット程度で操業を行っているが、大半は燃料消費量 5L/h 以下で機関の
負荷率は低く、出力も数 kW と推定される。
図 3-23 データ解析結果(船速と燃料消費量)
3-3-4. 燃料電池漁船への適用
タコ樽流し漁船の装備と稼働状況を調査した。3.6 トンの船体に 183kW の機関を搭載して
いる。機関の使い方をみると、漁場では低速での移動で漁労機器は使用せず、出力が求めら
れるのは往復航海と漁場移動に限定されている。最大出力は、復航時の 110kW であるが、漁
場が極めて近いため 5 分間の航走中 1~2 分間に過ぎない。往復航行を速力 10 ノット以下、
- 42 -
機関出力 50kW 以下に限定しても、所要時間の増加はわずかであり、自動車用の燃料電池スタ
ックとモータの能力の範囲で燃料電池漁船を設計することは可能と思われる。しかし、当該
漁船はタコ樽流し以外に、刺し網やはえ縄等、複数の漁業を兼業している。遠方の漁場に出
漁するときは船速が求められ、刺し網操業時には油圧駆動の揚網機も使用する。従って、燃
料電池スタックの搭載個数や水素ボンベの容量について、タコ樽流しのみを基準に設定する
ことはできない。燃料電池のタコ樽流し漁船への適用は、兼業する他の漁業種全てにおける
船速や機関の使用実態を明らかにした上で判断する必要がある。
3-4.採介藻漁船(島根県宍道湖)
平成 21 年度に調査した島根県宍道湖のシジミ採取漁船
は、1 トン程度の船内機船又は船外機船が使用されている。
その採取方法には、「きかいかき」「手かき」「入りかき」の
やり方があるが、永続的な資源管理の観点から、操業規
則や宍道湖漁協漁業権行使規則等、明確な操業規定の基
に漁労が実施されていることと、建造した造船所及び搭
載機関のメーカからデータが入手できたことから、現地
調査による当該漁船の稼働状況のデータ収集を行わなく
ても試設計が可能と判断した。
昨年度に調査した操業規定及び搭載機器等を記す。
図 3-24 シジミ採取漁船
3-4-1.
シジミ採取漁船
宍道湖のシジミ採取船内機漁船の操業規則を記載する。
(1)船内機・船内外機漁船の搭載機関出力は 34kW 以下
とする。
(船外機船は 30kW 以下。
)
(2)「きかいかき」の場合は、1 日操業 3 時間以内で、
規定カゴ 2 箱(90kg)以内で、蓋が閉まる漁獲量と
する。
(3)使用する「じょれん」の目の大きさ 11mm 未満は使
用禁止。
図 3-25 シジミをかく じょれん
(4)操業開始時刻:11 月~3 月は 8 時、4 月、9 月と 10
月は 7 時、5 月~8 月は 6 時からとする。
(周年操業)
ただし、資源管理のため操業日は、月曜、火曜、木
曜、金曜の週4日のみ。(水、土、日曜日の休漁日
は、湖底の清掃(ゴミ取りじょれんで 2 時間程度)や
湖底耕耘(船でマンガンを 2 時間程度曳く)実施。
代表的なシジミ採集漁船の搭載機器を記す。
・搭載機関:33kW/3,489rpm
- 43 -
図 3-26 ミニカール
・漁労機器: ①ミニカール(12V-140W )⇒じょれん引揚時の補助用(30 分位稼働)
②選別機駆動モーター(AC100V-60W)⇒最後にまとめて選別( 〃 )
③海水ポンプ(主機前部ベルト駆動)⇒
〃
( 〃 )
※100V モーターは、インバーターで DC12V→AC100V に変換使用。
※機関室内はかなり狭い。
表 3-2 シジミ採取漁船の仕様
船名
艇種名
エンジン
連続定格出力
実用最大出力
全長(m)
全幅(m)
全深さ(m)
総トン数
船体重量(kg)
宍道湖しじみ漁船
DC31B
ディーゼル船内機
33.8kW/3489rpm
36.8kW/3600rpm
9.41
1.89
0.88
0.7
970
機関部重量(kg)
セット質量(kg)
出航状態排水量(kg)
水線長(m)
燃料(kg)
水、オイル(kg)
安全備品(kg)
人員1名(kg)
漁具、ぎ装&積込み品
漁獲物
軽荷時最大船速(ノット)
3-4-2.
330
1300
1570
8.3
40
10
25
75
120
90
17(46PS、出航時)
備考
ヤンマー型式4JH3
図 3-27 前部駆動海水ポンプ(右)
エンジン254,プロペラ軸16,
プロペラ10、バッテリ32,
舵15
選別機55kg、鋤簾
35kg、電動ウインチ
15kg、防縁材10kg、そ
の他5kg
しじみカゴ2箱
シジミ採取漁船の操業
シジミ採取漁船の操業を図 3-29 に示す。
平成 21 年度の調査における漁業者からの
聞き取りによると、最も遠い漁場まで速力
20 ノットで 1 時間であり、通常は 15 分程
度の漁場で操業している。
大窪委員から提供を受けたシジミ採取漁
船の仕様を表 3-2 に、シーマージンを見込
んだ機関回転数と船速の関係を図 3-30 に、
軸出力と船速の関係を図 3-31 に示す。
これによると、全速でも 18 ノットとなっ
ており、航走時は機関をフルスロットル
36.8kW で使用していることがうかがえる。
図 3-29 シジミ採取漁船の操業
- 44 -
一方操業中は、左舷側から「じ
ょれん」を湖底におろし、1,600rpm
(荷重がかかると1,500rpm程度ま
で落ちる)で船を5~6周してシジ
ミを収納した後、湖底から「じょ
れん」を引き上げて水中に保持し
たまま、船を高速で1~1.5周して
水中で泥や砂を落とす。1サイクル
10分程度で、この時の出力は、5kW
にも満たないものと推測される。
3-4-3.
電池推進漁船へ
の適用
図 3-30 機関回転数と船速の関係
シジミ採取漁船は、喫水の浅い
1 トンに満たない小さな船体にシ
ジミ選別機を搭載しており、燃料
電池漁船の燃料である水素ボンベ
の搭載が困難と思われる。内水面
図 3-29 シジミ採取漁船の操業
での操業で漁場は近く、資源管理
のために稼働時間や日数も厳しく
制限されているため、大気や水質
汚染の心配が無く、環境面からも
好ましい電池推進船の適用を検討
することにした。リチウム電池の
場合、船内に分散して配置するこ
図 3-31 機関出力と船速の関係
とができ、重量のバランスもとり
やすい。また、既存船の漁労機器
が、ミニカールとシジミ選別機の
いずれもバッテリーを電源とする電動であることも、電池推進船に好都合である。
重量とコストの両面から、搭載できる電池容量に限界があるため、遠方漁場へは出漁せず、
航走時間が片道 15 分程度の漁場を対象とするとともに、資源管理のために船でマンガンを 2
時間程度曳航する湖底耕耘の作業には使用しないことを前提とした。
- 45 -
Fly UP