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冬季における最近の大気 ・ 海洋の長周期変動の特徴について

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冬季における最近の大気 ・ 海洋の長周期変動の特徴について
〔論文〕
306:103 03(長周期変動 大気海洋相互作用 海面水温(SST)成層圏)
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
小 出
寛*・小寺邦彦*
要 旨
最近数十年の冬季における,下部成層圏・対流圏・海洋表層の長周期変動とそれらの関係について記述する.冬
季平均の北半球500hPa高度と,ほぼ全球の海面水温(SST)の特異値分解(SVD)解析により,数年以上の時間ス
ケールを持つ変動には2つの種類があることを示す.さらに,SSTの3か月平均だけを前後にずらせたラグSVD
解析を用いて,これらの変動の大気・海洋間の因果関係について考察する.また冬季平均50hPa高度と500hPa高度
のSVD解析の結果から成層圏と対流圏との関連を調べる.
500hPa高度とSSTのSVD第1モード(SIの詔丁一1)と,500hPa高度と50hPa高度のSVD第2モード(SIの
乃o−2),あるいは前者の第2モード(SylO紹丁一2)と後者の第1モード(S四)z50−1)は,極めてよく一致する.SyD
w−1,SyD乃o−2は,エルニーニョ南方振動(ENSO)のシグナルと,1970年代半ばの熱帯太平洋SSTと北太平
洋上の500hPa高度それぞれの,階段状の急激な上昇・低下をとらえている.これに伴い中緯度では偏西風の強まり
がSSTの低下を強制しており,下部成層圏の高度偏差は波数2の成分が増大する特徴を見せた.
これに対して,SyD SST−2とS硯)彷o−1は北半球冬季の成層圏を含む大気全体の内部変動モードと考えられる.
この変動は冬季成層圏極渦の強さと密接に関係しており,対流圏ではNAO(North Atlantic Oscillation)パター
ンの特徴を含むが,東アジア域での高度場の変化も大きい.また,このモードは大気下層の風系の変化を通して中
緯度のSSTにも影響を及ぼし,特に冬から春にかけて,北大西洋の南北三極型の偏差パターンを強める.syD
SST−2やSm z50−1の時系列は卓越した十年スケールとトレンドを持ち,最近では1980年代末に急激に符号を変え
た.このような長周期の存在は,大気の内部変動と数年以上の記憶を持っ気候要素との関連の可能性を示唆する.
1.はじめに
一方,1988年から1989年にかけて北半球で様々な変
近年,大気・海洋の十年∼数十年規模の変動が注目
化が起こったとの報告が相次いでいる.例えば,北極
を浴びている.特に1970年代の後半に北太平洋上で起
圏の海面気圧(Walsh6!α1.,1996),北半球の積雪被
こった大気循環場の変化とそれに伴う海面水温
覆(Robinson6!α1.,1993),オホーツク海南部の海氷
(SST)の低下(柏原,1987;Nitta and Yamada,
(Tachibana6!α1.,1996)などが挙げられる.この時
1989;TrenberthandHurre11,1994)は良く知られて
期には冬季の北半球の大気循環場に大きな変化が見ら
おり,これまでの研究から熱帯中東部太平洋のSST
れ,North Atlantic Oscillation(NAO)インデツク
の偏差が対流活動の変化を通して大気の循環場に影響
スが強まり(Hurre11,1995),日本を含む極東域で冬の
したことが示されている(Nitta andYamada,1989;
気温が上昇したほか,ユーラシア北部での著しい昇温
Kitoh,1991;Graham,1994;Lau and Nath,1994;
が報じられている(Yatagai and Yasunari,1994;
Kawamura6!α1.,1995).
Yasunari6渉α1.,1995).
500hPa高度とほぼ全球のSSTを用いて,時間ス
*気象研究所気候研究部.
一1996年8月1日受領一
一1997年6月2日受理一
◎1997 日本気象学会
1997年8月
ケール別に特異値分解解析(Singular Value Decom−
position analysis,以下SVD解析と略称)を行った
Kachi and Nitta(1997)によれば,十年以上の時間ス
3
536
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
ケールに対するSVD解析の第1モードと第2モード
に,2つの変数間の時間をずらせたラグSVD解析を
がそれぞれ上記の70年代後半,80年代末の変化に対応
行う.一方,大気の変動の特性を理解するためにはそ
する.
の鉛直構造も知る必要があり,第4節では対流圏の変
一方,80年代を通して,冬季成層圏の極渦が強まっ
動と下部成層圏との関係について,500hPa高度と50
ていることが指摘されている(Kodera and Yamaza−
hPa高度のSVD解析を用いて調べる.これらの結果
ki,1994).また,成層圏の極夜ジェットの強弱は大気
について第5節で議論する.
中のプラネタリー波の伝播特性を変化させることによ
り,対流圏の循環場に影響を与えうることが,大循環
2.データと解析手法
モデルによる実験から確認されている(例えば
データは全て月平均値で,気象庁気候情報課(旧長
Boville,1984;Kodera6渉α1.,1991).観測データに
期予報課)編集の北半球500hPa高度と,気象庁海洋課
正準相関解析を適用して下部成層圏50hPa高度と対
の解析による全球SST,ベルリン自由大学成層圏研究
流圏の高度・温度場の関係を論じたPerlwitzandGraf
グループの解析による北半球50hPa高度を用いた.
(1995)は,冬季成層圏と対流圏の結びついた変動に2
500hPa高度は緯経度5。×5。の格子点データで20。N
種類のものがあり,片方はエルニーニョ南方振動
∼90。Nを使用した.1974年1月∼1982年2月に20。N
(ENSO)に関係してアリューシャン低気圧の変動を
上の北大西洋上の数点に欠測値がある.SSTはもとの
伴って強化され,他方は成層圏の極渦の強さと対流圏
緯経度2。×2。格子を4。×5。に平均し,欠測の格子は
の循環場に関係していることを示した.また,Kodera
周囲から内挿して38。S∼58。Nを使用した.ただし南東
6!α1.(1996)は冬平均の50hPa高度場から経験的直交
太平洋の一部はデータが欠けている.期間は共に1963
関数(EOF)解析により2つの異なる長周期変動を見
年から1996年まで(33冬)を使用した.これより以前
出し,一方はENSOに関係するものであるが,他方は
成層圏の極渦の強さに関係しており,大気に内在する
では500hPa高度の低緯度側に欠側値が多いためであ
る.また,50hPa高度のデータは,ベルリン自由大学
力学的な効果による変動性の現れであることを示唆し
の主観解析データを10。×10。格子にあてはめた格子点
ている.
データの10。N以北を,1963年から1994年までの31冬に
これらに対して,Kitoh6!α1.(1996)は,大気海洋
ついて使用した.本稿では冬平均は12,1,2月の3
結合モデルの長期積分において,冬の帯状平均東西風
か月で平均し,冬を特定する西暦年は,原則的に1,
の第1,第2EOF主成分の時系列と,500hPa高度お
よびモデルSSTとの相関係数を計算し,観測にほぽ
2月に対応するものとする.
解析手法としては最近多く用いられているSVD解
対応する2つのモードを見出した.
析を用いた.この手法については既に多くの解説がな
このように最近の長い時間スケールの大気・海洋表
されているので(例えばBretherton6!召1.,1992;
層の変動には,熱帯のSSTと直接関係するものと,そ
IwasakaandWallace,1995;谷本,1996),ここでは
れとは全く異なるタイプがあることが,最近の研究か
簡単に説明しておく.SVD解析は2つの異なるベクト
ら次第に明らかになりつつある(渡部・新田,1997).
ル場の時系列から互いの場と関連する時空間変動を抽
本稿の目的は,このような最近の冬季の大気・海洋
出する統計的手法の1つである.これを適用すること
の,数年以上の時間スケールを持つ変動を抽出し,特
により,それぞれの場で空間直交性を持つ空間パター
に80年代以降の変化について,その特徴を記述するこ
ンとその展開係数の時系列が得られる.SVD解析で取
とにある.大気・海洋結合系の長期変動のモードを抽
り出されたモードが上位であるほど2つの場に同時に
出するため,最近良く使われる統計的な解析手法の1
対応する空間パターンが出現する確率が高くなる.も
っであるSVD解析を用いる.SVD解析は2つの空間
ともとSVDは線形代数の演算の1つで,任意の躍×
分布する変数の間で相関の高い変動を抽出する方法で
ノV行列(〃≧N)を,〃×Nの列直交行列Uと,ノV×
ある.次節では,SVD解析について簡単に説明し,続
ノ〉の非負対角行列W,N×Nの直交行列の転置yT,
の3つの行列の積に分解する技法であるが(Pressα
いて第3節でこれを500hPa高度とSSTに適用した
結果を示す.またSVD解析のような統計解析では大
α1.,1992),これを利用して,2つの異なるベクトル(例
気と海洋の変動の結びつきは示せるが,それらの因果
えば,SST場〃点と500hPa高度場N点など)の時
関係については分らない.これについて考察するため
系列から,互いの格子点間の共分散行列や相関行列を
4
“天気”44.8.
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
537
計算し,さらにSVDを行なうことで,互いに関連性の
リニアトレンドの除去や時間フィルターを使う前処理
高い変動モードを抽出することができる.ここでモー
は行っていない.
ドの順位はWの対角成分(特異値)の2乗が大きい順
に決まり,そのモードで説明できる共分散の2乗和が
3.500hPa高度とSSTの関係について
大きい順に等しい.得られたU,『Vの直交ベクトルは,
まず,最近の長期変動について単純な方法で見てお
それぞれがN個の空問パターンに対応しており,こ
く.70年代に起きた対流圏の循環場の変化がどのよう
れらを用いて元の場を展開すれば,それぞれの場に対
なものであるかを見るために,1976年夏を境とした前
してN組の展開係数の時系列が得られる.
後の5冬平均の500hPa高度の差をとって,第1図a
変動の空間分布を見るためには時系列と各格子点の
に示す.危険率5%の両側t一検定に基づく有意差のあ
データとの線形回帰係数(または相関係数)を計算し
る領域には陰影を施した.北太平洋に80m以上の高度
て図示するが,相互関係を調べる相手の場の時系列と
の低下が見られ,カナダ北部からグリーンランドにか
の関係を使うか,自身の時系列との関係を使うかの2
けては高度上昇,北アメリカ東岸からヨーロッパにか
つの方法があり,前者をheterogeneousregression(ま
けては帯状に高度の低下が見られる.この期間に北太
たはcorrelation)map,後者をhomogeneousregres−
平洋上で有意な差のある領域は小さく,北太平洋域で
sionmapと呼ぶ.異なる場の相互の関係性を明瞭に示
の年々の変動の大きさをうかがわせる.これに対して,
すことか’ら,heterogeneousregressionmapを使うの
アラスカから北大西洋周辺,カスピ海付近までは有意
が一般的である.もし2つの場に同じデータを使って
な差が広く分布する.同様に求めたSSTの変化を第
SVD解析を行えば,対象となる行列は正方行列となり
1図bに示す.中緯度南北太平洋で低下,熱帯太平洋
通常のEOF解析と全く同じになる.
から南北アメリカの西岸で上昇が見られ,昇温域は赤
SVD解析で得られる各々の変動モードを評価する
ために幾つかのパラメーターが用いられる.Wの対
道の日付変更線付近と,カリフォルニア沖から赤道に
伸びる領域,熱帯東太平洋でそれぞれ1.0。C以上のピー
角成分の2乗和に占める特異値の2乗の割合は
クを持つ.また昇温量は小さいが,北大西洋亜熱帯域
squared covariance fraction(SCF)と呼ばれ,その
にも広く有意な差が存在する.北太平洋で最も低下の
モードの相対的な重要性を示す.また時系列同士の相
激しいのは30。N,160。Wあたりで一1.0。C以下となっ
関係数7は,2つの場の相互の関係の強さを示す.そ
ているが,赤道に対してほぽ対称に南太平洋にも
のモードにおいて,片方の場の時系列が,他方の場の
一1.0。Cの降温が見られる.第1図bはMiller6渉α1.
変動全体のどれだけを説明するかという指標は,het−
(1994)のFig.6と同じ期間で表示しており,データ
erogeneouscorrelationmapの格子点値の2乗を,解
ソースは異なるが細部まで良く一致する.
析した空問内で平均したvariance fraction(VARF)
一方,第1節で示したように1988年から1989年にか
を使う.
けて北半球で様々な変化が起こっている.この時期に
本稿におけるSVD解析は,全て解析期間の平均値
からの偏差の相関行列を用いて行った.500hPa高度
とSSTの場合,空間的には,500hPa高度は各緯度円
起こった変化として,1988年夏を境とする前後5冬の
平均の差(第2図)を見ると,SSTの熱帯での変化は
ほとんど見られず,70年代の変化とは違った変動であ
上で内挿し,低緯度と高緯度の格子点の密度をほぽ同
ることが分る.また,500hPa高度のグリーンランドと
じにしてから1次元に並べ直してN=571に,高緯度
を含まないSSTについては,陸地を含まない元の格
北大西洋周辺では偏差のパターンが70年代のもの(第
1図a)の裏返しになっており,グリーンランド西部
子点の値を全て使って〃=1076としてから,相関行列
には120mもの高度低下が生じている.これに対して
を計算した.500hPa高度と50hPa高度のSVD解析に
太平洋側のアジアから北アメリカ西部にかけてのセク
ついては,緯度円上の内挿を用いる代わりに,格子点
ターでは,70年代と変化の様相は大きく異なっている.
値の代表する面積の平方根で重みをかけて相関行列を
日本を含む極東アジア域で60mの高度上昇があり,ア
計算した.結果はどちらでも変わりないが後者の方が
ラスカの高度変化は小さい.北半球のSSTの変化(第
処理自体は簡便である.また時間的には,どちらの場
2図b)は中緯度に偏っており,北太平洋中部の40。N
合も元のデータ時系列に含まれる階段状の変化の特徴
付近に最大1.50C程度の昇温が見られ,その南北は弱い
をとらえるため,KachiandNitta(1997)とは異なり,
降温域となっている.また北大西洋の40。N付近にも,
1997年8月
5
538
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
(a)Z500DJF(1981−77)一(1976−72)
0
(a)Z500DJF(1993−89)一(1988−84)
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(b)SSTDJF(1981−77)一(1976−72)
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60E 120E 180 120W 60W O
60E 120E 180 120W 60W O
Fig.1 (a)Difference map between5−winter aver−
Fig.2 As in Fig.1,but for(1988/89∼1992/93)一
ages of unfiltered 500hPa geopotential
height:(1977/78∼1981/82)一(1971/72∼
1976/77).Contour interval is20m.Shaded
areas indicate whereたtest exceed5%sig−
(1983/84∼1987/88).
S硯)舘丁一1は熱帯太平洋のSSTの変動と結びつい
nificance leveL(b)As in(a),but for un−
た北太平洋∼北アメリカ上の高度場の変動である.500
filtered SST.Contour interval is O.5。C.
hPa高度の空間パターン(第3図a)は北太平洋東部
からカナダにかけての逆符号のシグナルと低緯度に帯
ピークで0.8。Cの昇温が見られる.
状に広がる正相関が特徴的であり,これまで示された
これら大気と海洋の変動がどのように関連して起
ENSOに対する冬の北半球対流圏の応答パターンと
良く一致する.SSTの空間分布(第3図b)は中東部
こっているかを調べるために,1964∼1996年の冬平均
500hPa高度と冬平均SSTのSVD解析を行った.以
下では500hPa高度とSSTから求めたSVD第1モー
熱帯太平洋の赤道付近の正の値が最も大きく,中緯度
ドをSレZ)認丁一1,第2モードをSmSST−2と呼ぶこと
0.2。C程度と小さいが,インド洋,北大西洋の正のシグ
北太平洋にそれと逆符号の領域がある.また,値は
にする.SIのSST−1について,SSTの展開係数と500
ナルも有意なものがあり,日本の南にも正相関がある.
hPa高度の線形回帰図 (heterogeneous regression
展開係数のピークを見ると(第3図c),例えば1966,
map),500hPa高度の展開係数とSSTの線形回帰図,
1970,1973,1983,1987−88の主なエルニーニョ年がと
および展開係数の時系列をそれぞれ第3図a,b,c
らえられており,これがENSOと関連した変動である
に示す.空間パターンは線形回帰係数で表示し,互い
ことは容易に分る.また,展開係数の時系列は1970年
の場の展開係数時系列との相関係数が絶対値で0.4以
代前半に大きな負の値を示しているが,1977年以降は,
上の領域には陰影をつけた.独立なデータ数が33の場
ほとんど0か正の値となっており,数十年以上の時間
合,両側5%水準で有意な相関係数は0.344,両側1%
スケールの変化が重なっていることが見て取れる.一
水準では0.442である.実際には各年は完全に独立では
方,第1図aの北大西洋からグリーンランドにかけて
のパターンは第3図aにはほとんど見られない.
ないが,およその目安にはなるであろう.展開係数は
解析した期間の標準偏差で規格化してあるので,例え
ば500hPa高度の図で20mの等値線は,SSTの展開係
数が+1標準偏差だけ変化した時に20m高度が上昇
する領域を示している.
6
第2モードであるS硯)SST−2を見ると,500hPa高
度の空間パターン(第4図a)は80年代末に起こった
変化(第2図a)の特徴を良くとらえている.つまり,
極域で高度が低く中緯度で高くなるというシーソー・
“天気”44.8.
539
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
SVDIZ500(DJF)一SST(DJF)Lq9:0
SVD2Z500(DJF)一SST(DJF)LGg:O
(a)VARF−10・1%・Z500Heter・・Reg・[m]
90E
(a)VARF−13・7Z・Z500Heter・・Reg・[m]
90W
(b)vARF=15.1z18・ssTHeter。.Reg.[K]
(b)VARF=4.5%
60N
1甑Il∴IIく蓮1∫…詠濾黎ぞ
20N
為
EQ
1.◎辮
EQ
選 ㌣i一灘蚤・,
40S
㌧ i o コ・ ・
6
、
20S
ま ロヒ (C)SCFニ44.9%
塀一i一
20S
コ し
→ 1
(C)SCFニ16.2%
Time Series
1
1
づ てロ ド ドし ヨ ロ … 1 yi i
ル て つ じ び び ぼ
ヌ ロコ ドド ド ヨ
N+一
i
120W 60W O
Time Series
_,_」____一一一___」__________」__________」一一一一一一一一一一」一一一一一一一一
ラ ド
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40S
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180SSTHeter・.Reg.[K]
60N
40N
一1
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ー†…一一一一一1”一”一一菅』”
”一一一S61idゴZ500−Ddsb6d1SST’
ヨ じ し
i i i i 愚貞
甲
I I●
レ し ク ロ ヨ
_+rロ興、…一1……・一1一 ー 一 禦」
牛一一」一1一……一斗
i ’
一2
”、一−君脅 黄…
i■ i iR=0.875
ロ ヨ
ー一コ……”””…一層一”+一 一甲一一一SdidごZ500”DdSハ◎diSST一
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
Fig.3 The first SVD mode of winter(DJF)500−
hPa height in the Northem Hemisphere(20。
∼90。N)and quasi−global SST(38。S∼58。
N)for1963/64∼1995/96.(a)Heterogene−
Fig.4 As in Fig.3but for the second SVD mode.
ous regression map for500hPa height where
the local unfiltered height anomaly is
linearly regressed with the expansion co−
efficient of SST shown in (c).Contour
interval is10m.Shading indicateswherethe
absolute heterogeneous correlation is
greater than O.4.(b)Heterogeneous regres−
1970∼72年,1976∼77年にも階段状の変化をしており,
1976年を境とする前後の5冬平均の差(第1図a)に
見られる北太西洋からグリーンランドにかけての変化
も,このモードにとらえられているようである.1980
年代末以降はずっと正の値が持続していたが,1996年
始めにはわずかに負に転じた.さらに,このモードに
sion map of SST,where the local unfiltered
はより長い時間スケールのトレンドもあるように見え
SST anomaly is linearly regressed with the
る.SSTとの関係を見ると(第4図b),相関は弱いが
expansion coefficient of the height.Contour
北太平洋と北大西洋の中緯度域に正のシグナルがあ
interval is O.2。C.(c)Time series of the
り,熱帯域に有意な関係はほとんど見られない.
normalized expansion coefficients for500−
hPa height(solid)and SST(dashed).
以上,500hPa高度とSSTの関係をSVD解析によ
パターンで,その中でも特に,カナダ北部∼グリーン
間の変動の結びつきは示せるものの,それらの因果関
ランド域の負域,ヨーロッパから北アメリカ東部,東
係については分らない.原因と結果について考察する
アジアの正域が特徴的である.展開係数の時系列(第
4図c)は80年代前半は,小さな負の値だが,1989年
ために500hPa高度とSSTの間で時間をずらせたラ
グSVD解析を行った.大気の循環場は季節ごとに大
以降大きな正の値となり,このモードが80年代の終わ
きく性質が変わるため,500hPa高度は冬季(12,1,
りに起こった変動を良く表していることが分る.また,
2月平均)に固定し,SSTの3か月平均値を1か月ず
り調べてきたが,このような統計解析では2つの変数
1997年8月
7
540
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
(a)
60
SCFforLGggedSVD
を行った.
一十一一Mdde一千÷一
50
(40
bし020
第5図にはラグSVD解析の各モードのSCF,
VARFの時間ラグによる変化を示す.例えば,500hPa
駅
)
50
つ前後に最大3か月ずらせて相関行列を計算し,SVD
藁rIIIIIIII磁IIIIIiIIIIIIIIiIIIIIIIIIIII
←∼}一}一遭’?}マ}つ
高度(Z500)のVARFは,解析領域内の高度場の変動
全体をSSTの展開係数がどれだけ説明できるかを示
す数値であるが,ここでは,大気・海洋間の相互作用の
10
O
一3 −2 −1 0 +1 +2 +5
性質が全く異なる熱帯域と中高緯度を一緒にして扱っ
Log for SST(month)
ているという点に注意する必要がある.この点を考慮
(b)VARFf・rLGggedSVDM・de1
40
∼14。N,120。E∼80。W),北太平洋(NP:14。N∼58。N,
50
罷
L20
庄
〈
>
10
してSSTのVARFについては領域別に計算した値
も示しておく.図中の記号は赤道太平洋(EP:14。S
s$丁(EP)
120。E∼105。W),北大西洋(NA:14。N∼58。N,80。W
SST(Tbtd)
∼0。)の各領域で面積加重平均したことを表す.第5
6一’”’辱一一一,一・一一庵一一一←一_一φ一一一一..6
S5T(NP) 250φ(T・IGI)
0
一5 −2 −1 0 十1 +2 十5
Log for SST(month)
(c)VARFf・rLGggedSVDM・de2
40
図はSIの詔丁一1とsmSST−2の違いを集約して表し
ている.
SCF(第5図a)でラグのとり方によるモードごと
の特徴を見てみると,sm SST−1ではSSTを先行さ
せた場合に,sm SST−2ではSSTを遅らせた場合に,
SCFの値はラグなしの場合より大きくなる.SCFは第
1モードが圧倒的に大きく45%前後を占め,SyDSST−2
50
酸
ロ
iS白丁(NiA)
L20
に
<
〉
10
Z5Φ0(T←td!才一
←一をーイ
0
、、6一.一一一一φ
i SS『TO土GI
−5 −2 −1 0 +1 +2 +こ3
LGg for SST(month)
Fig.5
は16%程度を占める.これはsm SST−1のSSTの空
間パターン(第3図b)が熱帯の広い範囲にシグナル
Squared covariance fraction (SCF) and
variance fraction(VARF)based on lagged
をもっているのに対し,smSST−2はSSTのシグナ
ルがほとんど見られず(第4図b),大気の変動が大半
を占めているためだと考えられる.従ってSCFの大小
は,解析に使用した領域の変動において,各モードが
占める割合に依存することに留意すべきである.
with which3−month averaged SST leads
Sm ssT−1のVARF(第5図b)はSSTが先行する
場合に赤道太平洋域では約36%を占め,SSTが3か月
winter500hPa height(for DJF).A positive
遅れると半分以下まで落ち込む.北太平洋中高緯度だ
SVD analysis are plotted as functions of lag
lag denotes the height leads SST and vice
versa.(a)SCFs for the first and the second
けでは逆にSSTを遅らせた場合にVARFが増大
SVD modes,(b)VARFs for the first mode
し,+3か月で15%に達する.SST全体のVARFは,
of500hPa height(Z500Tota1:20。N∼900
解析領域に相反する傾向を含むため変動幅が少ない
N),quasi−global SST(Total:38。S∼58。N),
equatorial Pacific SST (EP:14。S∼14。N,
120。E∼80。W),and north Pacific SST
が,面積の大きい赤道太平洋域の変化を反映している.
500hPa高度のVARF(20。N以北全域)は10%前後で,
(NP:14。N∼58。N,120。E∼105。W).(c)
こちらもSSTが先行するとわずかに増加した.
VARFs for the second mode of500hPa
一方,sm SST−2(第5図c)はSSTの時間を遅ら
せるとVARFが増加し,特にラグ+2か月で北大西
洋域のSSTの変動を良く説明するが,全域で平均す
るとSSTとは関係が弱い.S四)∬T−2は500hPa高度
についてはsmSST−1と同じかそれ以上の変動を説
height (Z500Total:20。N∼90。N),quasi−
global SST(Tota1:38。S∼58。N)and north
Atlantic(NA:140N∼58。N,80。W∼0。).In
(b)and(c),VARF values are obtained by
averaging the squared heterogeneous corre−
1ation coefficients over each of the domains
明する.
as indicated.
Sm腰一1では,ラグの変化に対してVARFの変
8
“天気”44.8.
541
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
SVDla課鰍灘蹴翫丁3
(b)VARF=16.3%」
180SSTHeter・.Reg.[K]
1’響i、嶺〉i
!一 l露茄欝響
Ӧ
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魅 :
1 。0.
一一一蓬一一
謁………雛…………1嚢………i………ii…………灘…舗 …㌧
EQ
鰹
、i嚢㍊隅 劉一
−
20S
40S
……1……………………… 惑…………1鍵
一礎…羅
−.−
.i(測1
灘押
ヒ ま ヒ (C)SCF−50.1%
2
1
0
: : 120W 60W O
: 興 : ’
一1_一__1一_一_ 一一一
iノ : 1 轟 ・亭 ノ
■:’、、 唱 1
: 亀ノi l
一一改
1 1 一 一一一一1…
i ,、
”一1一”一一一…一1”一一一一一一」^’
げ凧’i
l ’ 1’ 1
⋮,
一2
i /i ∂ ’ i噛 ■ 1一
40N 一一窟一f…一一一
灘翻一一繁雛
一i_
1
i i iR=0.8与9
”””SDlidごZ500一一DσsれediSST−
_一輪一
一. 」…幅 +一
2。N、_
・1 轟D 奪 1 蓬 に
EQ
よララノ
、 ’ 、 α2. 1
磯難:一袋
40S
襲ト冒一査
ヒ だ ま (C)SCF−41.2%
Time Series
: , :
一1
(b)vARFニ14.8%18・ssTHeter。.Reg.[K]
60N
ク ゆ
20S
一一1一一……一一■一一1一一一 一1…一一
90W,
90E
−
: ノ :
一.窟、二__一…1
40N
20N
(a)VARF=9・8%・Z5・OHeter・・Reg・[m]
90W
90[
60N
SVDIZ500(DJF)一SST(MAM)LGg:+3
2
120W 60W O
Time Series
i i i 興 i r :
一一一1一一一一一…,一一一一…一1…一一一…一」一一一 一J一トー一1一一』彊;世一
1
0
一1
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1 …i皐z・i竃‘ i
i簸燃 =・ : ii i
一還1…
上1一 一1一
一』_{一写
…1
……,
.一r.一_騨…馨堅一一一巻。1idfzl。。一D晶§蕃一
一2
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
Fig.6 As in Fig.3,but for a SVD analysis with lag
Fig.7 As in Fig.3,but for a SVD analysis with lag
of−3months(i.e.,for SON−mean SST and
of十3months(i.e.,for MAM−mean SST
DJF−mean500hPa height).
and DJPmean500hPa height).
化が相対的に緩やかで,北太平洋平均を除いてSST
のラグー3か月でVARFの値が最も大きくなるが,
sm SST−2の場合はラグの変化に対してVARFの変
化がS辺1)w−1よりも急激であり,500hPa高度と
SSTのVARFにそれぞれラグ+1,+2か月でピー
はSSTの熱帯太平洋のシグナルは有意だが絶対値が
小さくなる.しかし,興味深いことにインド洋と北大
西洋,日本の南の20。N付近に見られる正相関域,中緯
度北太平洋の負相関域は強まる.ラグの時間スケール
から見て,基本的にこれらのラグ相関はENSOの影響
クが現れる.このことは変動を強制していると見られ
が大きいと見られる.第3図と第6,7図ではSSTの
る側の場(SmssT−1ではSST,SmssT−2では500
季節が異なることから,線形回帰表示では標準偏差の
hPa高度)において,卓越する時間スケールの違いを
違いに影響される可能性があるが,相関係数で見た場
表すと考えられよう.
合もここで示した傾向は変わらない.
第6図に冬平均の500hPa高度とそれに3か月先立
つ9,10,11月平均のSSTのラグSVD解析第1モー
ドを示す.VARF,SCFだけでなく7の値もわずかに
ラグをとる前よりも大きい.500hPa高度の空間パ
第2モードsmSST−2については,第8図に冬の
ターン(第6図a)にはそれほど大きな変化はないが,
だが,SSTにはほとんど有意な相関が見られない.第
500hPa高度とそれに1か月先立う11,12,1月平均の
SSTのラグSVD解析の結果を示す.大気の空間パ
ターンにほとんど変化がないのはsmSST−1と同様
SSTは中東部熱帯太平洋で変動幅と有意な相関域が
9図には逆に1か月遅れた1,2,3月平均のSSTを
増大している(第6図b).一方,時問ラグを逆にして
使った場合のS巧DSST−2を示す.特に南北に負・正・
SSTが大気に3か月遅れる方にずらした時(第7図)
負の相関が並ぶ北大西洋の三極型のパタrンが特徴的
1997年8月
9
542
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
sv唯)そ贈1身)灘鵬需丁1
SV覧)櫟鱗)灘贈鮒1
、/嘱嚢……諭嚢、、融
’、、7」
90E ぐ一1罷舗i……1…9側
夢……1…il…… 覇ll,lli…
、1戴顎
讐7顎≧滋
(b)vARF=46%18・§iTHeter。.Reg.[K]
60N
、一’り藩
∫’1、 ヤしし ロ
18・ζSTHeter。.Reg.[K]
(b)VARF=5.3%
20N
、 : ・’ “ o l一{
S二ぐ
2・S一り6斗
㌦一‡
、 1
1
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r く》^1
^1ノ鳥 嵐 (
40S
、 ヒ ビ ヌ (C)SCF−15.1%
120W 60W O
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40S
0
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一1
一2
i i ’ i l㌔ノ 』イi
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東ノ : l i i R=0.847
”†冒一一一1…一一一一一一1………一8−01id1Z500−t)αS欄1SもT一
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
Fig.8 As in Fig.4,but for a SVD analysis with lag
∼一鐡勤一,
一b一、J
準蕪饗 二線.
1
:
一1一
… 一「…
∼ , 『1一 い
、 i‘
:
一・一 〇
i :
…・∂も^i・
一
じ ヒ 0
120W 60W O
Time Series
一一一、“.一.畠一一一一一__一一一一」一−、ー
リ ヨ オ
ドリヨ ヨ しし ロ ココリリ モ しラロ コしロじ コラコじ き ヨ
ト ド ヨ ヒ ナ
ペ じ コ
1
i”1
卜 占
(C)SCF−17.7%
コ コ ド ナ ヨ ロ
…1一一一一一一一一1一一一一餐子一一一一一一一1一一一一一一一一一一1一一一一一罰一 一
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1
20S
Time Series
2
1
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ー十一…一…一1一一一一ミー一i− ー一一一十一一十一一…峯ゴ拝一一…
i i 8
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i 、1’ i 愚貞 イ i
1一一卑一一一
享…
一1
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一2
”一1一一…一”晋”ロー一一一一+……一一言01idlZ500−DσS穂d:S$T一
i一
』一
一疑ノー
i冒 l iRニ0.839
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
!
Fig。9 As in Fig.4,but for a SVD analysis with lag
of−1month(i.e.,for NDJ−mean SST and
of十1month(i.e.,for JFM−mean SST
DJF−mean500hPa height).
and DJF−mean500hPa height).
で,北太平洋の30。N帯でも正の値が第4図bに比較し
符号になるが,東アジアの正相関も大きい.SSTのシ
て大きくなっている.また時系列の1989年以降の強ま
グナルは非常に弱く,中緯度北太平洋,北大西洋でか
りは第4図Cに比較してもより顕著に現れている.こ
ろうじて有意である.時系列はトレンドに重なって
こで図は示さないが,ラグを2∼3か月遅れにした場
合,SSTの北太平洋の偏差は弱まり,北大西洋の偏差
1970∼72年と1976∼77年,1988∼89年に階段状に変化
は正負共にさらに強くなった.
(3)冬平均の500hPa高度に対して時間差をとった3
以上の結果にっいてまとめると次のようになる.
か月平均SSTのラグSVD解析によって,S→VZ》紹丁一1
しているが,1996年初めにはわずかに負に転じた.
(1)500hPa高度とSSTの冬平均同士でのSVD解析
とSm詔r2を比較すると,sm SST−1はSSTを先
第1モード(syz)詔丁一1)は熱帯太平洋SSTと北太平
洋∼北アメリカ上の大気循環場に関係し,SSTにっい
行させた場合に,赤道太平洋SSTのVARFが極めて
大きくなり,全体のSCF,VARFもほぼこれに従って
ては中緯度北太平洋とインド洋,北大西洋,日本の南
変化する傾向がある.しかし,北太平洋域では,SST
にも相関を持つ.このモードは年々の時間スケールで
が遅れる方がVARFが大きい.S’VD詔丁一2は全体と
はENSOに対応し,数十年の時間スケールでは1970年
してSSTが遅れるラグの方が結び付きが強くなり,
代半ばに階段状に符号が変化した.
(2)第2モード (Sm SST−2)は北大西洋周辺の500
SSTの北大西洋平均のVARFが著しく増大する.
SCFはsm∬T−1がはるかに大きく40∼50%を占
hPa高度のシグナルが最も顕著で,北アメリカ東部
め,syD詔丁一2は15∼19%程度である.
∼ヨーロッパとカナダ北部∼グリーンランド付近が逆
(4)ラグを伴うS促)SST−1は,SSTを3か月先行さ
10
“天気”44.8.
543
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
SVDIZ500(DJF)一Z50(DJF)
SVD2Z500(DJF)一Z50(DJF)
(a)VARF=29・8%・Z50Heter・・Reg・[m]
90E
(a)VARF=10・7%・Z50Heter・・Re9[m]
90W
(b)vARF−11・7%110z5・・Heter・・Reg・[m]
90E
2
一1
一2
(C)SCF−19.8%」18。
ドう
i算 1’, 亀iイ i 』i
イ ロヨ イ す
ド ゼじ
Time Series
2 i ● l i i I i
ξ一一≒繋六一鹸絃¥駄
⋮、
0
90W
90E
Time Series
180
1
(b)vARF=1・・7%110z5・・Heter・・Reg・[m]
90W
(C)SCF=61.6%
90W
90[
1
訟一菰ぎ…、蜘解蝋倉
0
i. i 、,
一1
い ヨ i , i i iRニ0.818
一一一1”””” 1””””−一一一”””一S61kfゴZ500”Dて】奪hedゴZ5’0一
一2
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1
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…1『
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蚤三び謝
一丁一……†一一一一一」一 ”一’一一”S6庁dTZ5()(}’Dて悟hedゴZ50一
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995
Fig.10 The first SVD mode of winter(DJF)500
hPa height and50hPa height both over the
Fig.11 As in Fig.10,but for the second SVD mode.
Northem Hemisphere (20。N∼90。N) for
1963/64∼1993/94. (a) Heterogeneous
regression map for50hPa height where the
local unfiltered height anomaly is linearly
regressed with the expansion coefficient of
500hPa height shown in(c).Contour inter−
val is20m.Shading indicates where the
absolute heterogeneous correlation is
greater than O.4.(b)Heterogeneous regres−
sion map of500hPa height,where the local
unfiltered500hPa height anomaly is linear−
1y regressed with the expansion coefficient
せると熱帯太平洋SSTの正相関は弱まるがインド
洋,北大西洋,日本の南,ギニア沖の正相関と中緯度
北太平洋の負相関は強まる.
(5)S硯)SST−2はSSTを1か月先行させるラグをと
ると,SSTの相関が弱まり大気だけに強い変動が残
る.SSTが1ヵ月遅れるラグをとると中緯度北大西洋
の南北に並んだ三極型の構造と北太平洋30。N帯の正
相関が強まり,時系列の1988年前後の差がはっきりす
る.
of50hPa height.Contour interval is10m.
(c)Time series of the normalized expan−
sion coefficients for500hPa height(solid)
4.対流圏と下部成層圏の関係について
and50hPa height(dashed).
さて,ここまで冬季の対流圏の循環場とSSTの関
係について見てきたが,次に対流圏の変動と下部成層
せると熱帯太平洋SSTの正相関域が増大し,南太平
圏の関係について調べてみる.1964∼1994年の31冬の
洋を除くその他の領域のシグナルは減少する.また,
500hPa高度と同じ期間の下部成層圏50hPa高度(領
500hPa高度の相関はやや強まるが,パターン自体に
域は共に20。N以北)を用いてSVD解析を行った.得ら
あまり大きな変化はない.逆にSSTを3か月遅れさ
れたSVD第1モードをSγOz5。一1,第2モードを
1997年8月
11
544
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
SγO z5。一2と称する.第10図にS四)乃。一1,第11図に
hPa高度の特徴は,低緯度の帯状の正域,北太平洋東
S四)z5。一2を示す.図の表示は前節の第3,4図に準ず
部から北アメリカの波列状のパターン共,500hPa高
度場でのSyD詔丁一1(第3図a)に酷似する.syDz50−2
るが,データ数は31なので,全てが独立とした場合に
両側5%(1%)水準で有意な相関係数は0.355(0.456)
の50hPa高度と500hPa高度のVARFは共に10.7%
である.
である.第11図cの二つの時系列は,相関0.828で1964
SIのz5。4の50hPa高度の空間パターン(第10図
から1977年には特に相関が高い.
a)は,60。N以北の極域と中緯度20∼50。N帯のシー
500hPa高度と50hPa高度のSVDモードの時系列
と,前節で得られた500hPa高度とSSTのSVDモー
ソー・パターンであり,極夜ジェットの強化と亜熱帯
ジェットの弱化(またはこれらの逆)を表す同心円状
ドの時系列とを比較すると,同じ500hPa高度の展開
の特徴を示す.このモードは20。N以北で50hPa高度場
係数に関しては,SyD z50−1とSm∬T−2(第10図c
全体の変動のほとんど30%を説明する.高度場の特徴
と第4図cの実線同士)の対応する31冬で相関0.946,
はグリーンランド北部から東シベリア海上にかけて
SIのz50−2とSm ssT−1(第11図cと第3図cの実線
140m以上(相関係数0.6∼0.7)の負偏差を示し,線形
同士)では相関0.959を持つ.同じ場の展開係数ではな
回帰で示しているため低緯度は弱い表現になっている
く,50hPa高度とSSTの間だと,S曜)z50−1とSIの
が,30∼40。Nの緯度円上の相関係数はほぼ全域で0.6,
詔丁一2(第10図cと第4図cの破線同士)で0.548,Sγ0
ヨーロッパ西部では0.8に達している.これと500hPa
乃。一2とS’VD SST−1(第11図cと第3図cの破線同士)
高度の空問パターン第10図bを比較すると,このモー
では0.790となる.このことは成層圏の変動の力学的な
ドが持つ対流圏上部から下部成層圏にかけての等価順
影響が直接にではなく対流圏を介して地表面やSST
圧的な構造は明らかである.より詳しく見るとグリー
と関係しているという意味で当然と言える.500hPa
ンランドと東シベリア海上の高度低下,ヨーロッパ西
高度とSSTのラグSVDの結果を用いた場合には,
部,極東アジア,北アメリカ東部の高度上昇はほとん
SIの乃。一2とラグー3のSyDssT−1との500hPa高度時
どその中心が50hPaと500hPaで一致している.しか
系列(第11図cと第3図cの実線同士)で相関0.979,
し,50hPa高度の方がより経度方向に一様になる特徴
50hPa高度とSSTの時系列(第11図cと第3図cの
があり,北太平洋東部とカスピ海付近のみは500hPa
破線同士)では0.807と,同時のSyZ)SST−1を使った場
高度との符号が一致しない.500hPa高度のVARFは
合よりもやや相関が高い.しかしS硯)z5。一1とラグ±
11.7%である.
1のSyD ssT−2の場合は第10図と第8,9図の500hPa
SyD z5。一1と前節のSm ssT−2の500hPa高度のパ
高度の時系列(全て実線同士)の間での相関はそれぞ
ターン(第10図bと第4図a)は極めて良く似ている
れ0.919,0.937となり,ラグなしのSm ssT−2の場合
が,細部に注意すると,S硯)z5。一1ではSyZ)SST−2に
より共にわずかに低くなる.
比して北アメリカ東部の正相関がやや弱く,東シベリ
ところで,ここで結果は示さないが500hPa高度と
アの正相関が強くなっている.また有意ではないもの
50hPa高度を扱う場合にラグSVD解析を用いても,
の,第4図aや第2図aで見られた北太平洋東部の高
2∼3か月平均値を用いる限りは明瞭な関係は得られ
度場の正偏傾向は,第10図aには見られない.
ず,VARFの値は同時相関の時に最も大きい.このこ
一方,第10図cの展開係数の時系列間での相関は
とは抽出した大気圏内部での変動の時間スケールが,
0.818である.大きく見ると,破線の50hPa高度の展開
SSTのそれよりもはるかに短いことを反映している
係数は1960年代末からトレンドに乗って約10年周期で
と見られる.
3つの山があるのに対し,500hPa高度(実線)は1980
ている.
5.議論とまとめ
これまで行われた研究から,熱帯太平洋のSSTの
第11図のSm z5。一2に目を移すと,50hPa高度の空
変動は数年から数十年の時間スケールで北半球の大気
間パターン(第11図a)には東シベリア∼北太平洋域
循環場に影響を与えることが明らかになっている.す
と北西ヨーロッパ上の負相関と,カナダ北部から北極
なわち熱帯太平洋のSSTの上昇が対流活動の変化を
にかけての正相関が見られ,基本的には極渦を浅くし
通して冬の大気の循環場に影響し(例えばNitta and
て極夜ジェットを弱める傾向である.第11図bの500
Yamada,1989;Lau and Nath,1994),北太平洋か
年代前半の山がなく,わずかに1983年が正の値を持っ
12
“天気”44.8.
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
545
ら北アメリカにかけて準定常ロスビー波の伝播による
時間スケールの変動に加えて,熱帯太平洋SSTの数
高度場の偏差パターン(WallaceandGutzler,1981;
十年スケールの変動とそれに伴う北半球の大気循環場
BamstonandLivezey,1987;Karoly6!α1.,1989)を
の変動を含んでいることを示す.熱帯太平洋のSST
もたらすと考えられている.
の変化はEI Ni面の出現頻度が変わったというより
このような変動はSSTを使ったSVD第1モード
は,バックグランドの平均状態が変わっているように
であるSIの腰一1に良くとらえられており,高度場の
見える(Graham,1994).北太平洋域のSST変動を時
偏差パターン(第3図a)はこれまで示されたENSO
間スケール別に調べたTanimoto6渉α1.(1993)は,
に伴って現れやすい北半球の偏差と良く一致している
ENSOスケールと十年スケールで変動の空間パター
(例えばKaroly6厩1.,1989).SSTを数か月先行させ
ンが異なることを指摘しており,大気海洋結合モデル
た場合のsyD SST−1のSCF,VARF,7の各パラメー
の長期積分の結果からも,モデルENSOとそれと良く
ターが増大し,熱帯太平洋SSTの相関が増すこと(第
似た空間パターンを持つ数十年スケールの変動で,特
6図b),逆にSSTが大気に遅れる方向にラグをとっ
た場合は相関が減ること(第7図b)から,このモー
示唆されている(Yukimotoε渉α1.,1996).ここでは
に中緯度での大気と海洋の関係が異なっていることが
ドにおいて熱帯太平洋のSSTが大気に先行して変化
これ以上立ち入らないが,このモードについてさらに
し,大気循環場に影響を与えていることが推察される
理解を深めるには時間フィルターや調和解析等で時間
が,このことはこれまで示された結果と良く整合する.
スケールを分離して取り扱うことも必要であろう.
ラグSVD解析において,SSTが大気に遅れる方向
にラグをとると,第7図bの熱帯インド洋と中緯度北
それでは,ここで注目しているS弱D紹丁一2の変化は
どういう特徴を持っているであろうか?前節で述べた
太平洋のSSTの相関が強まることは,熱帯太平洋
ように,大気循環場の偏差(第4図a)は,北極域と
SSTに強制され変化した大気循環が,さらにこれらの
中緯度で逆符号のシグナルをもっており,グリーンラ
領域のSSTに影響を与えることを示唆する.北太平
洋の40。N付近のSST低下については,大気循環場の
ンド,ヨーロッパ,東アジア,西大西洋に相関の中心
が位置している.北大西洋周辺域のみに注目すると,
変化によって強められた下層の西風が,第1に潜熱・
この変動はNorthem Atlantic Oscillation(NAO)パ
顕熱フラックスの変化と,エクマンドリフトの変化に
ターン(例えばWallceandGutzlar,1981;Bamston
よる海洋表層の南北移流の効果(Tokioka6渉α1.,
andLivezey,1987)として知られるテレコネクション
1993;Iwasaka andWallace,1995)や乱流運動エネ
パターンと良く似ており,時系列で見ても1989年以降
ルギーの増加による海洋混合層の深まり(Miller6渉
の最近のNAOパターンの強化(Hurrell,1995)と符
α1.,1994)によって変化していると解釈できる.また熱
合する.しかし,NAOとは異なり,S巧D SSr2やSIの
帯太平洋から熱帯インド洋,熱帯大西洋へのウォー
カー循環の変化を通しての影響が存在しうることもモ
z5。一1の高度場のパターンは北大西洋域だけでなく半
デル実験から指摘されている(Latif and Bamett,
1995).一方,Kawamura(1994)は,1955∼1988年の
月平均SSTの回転EOF(R−EOF)解析を行ない,こ
球的な広がりを示している.
大気が先行して変化しSSTが遅れて追従する方へ
のラグ相関を使ったSVD解析で,全変動のうちSm,
SST−2で説明される変動量は増大し,SSTの空間パ
の期間においては,第1R−EOFにENSOに伴う
ターンには北半球中緯度に有意な相関が現れる(第9
SST変動が,第2R−EOFにはインド洋と中緯度北太
平洋の逆符号の変動が見えることを示したが,第2R
−EOFの空間パターン(Kawamura,1994,Fig.1下)
図b).一方,逆にSSTが先行する場合はほとんど
SSTにシグナルはない(第8図b).これらのことか
ら,この変動においてSSTは受動的に変化している
は東部熱帯太平洋以外では第7図bと良く似ており,
と考えるのが自然である.
しかもよく見ると東部熱帯太平洋にも弱い正の相関が
第9図bのSSTの空間パターンを見ると,北大西
ある.このことは,熱帯太平洋域の変動にやや遅れて,
洋で中緯度の30。N∼40。N付近の正相関をはさんで南
インド洋と北太平洋に同時に現れる偏差があるという
北に負の相関があり,北太平洋にもやや弱いながら符
第7図の結果と整合する.
号は一致した特徴が見られる.北大西洋の特徴は,
第1図a,bと第3図a,bの類似と,時系列(第3
basinごとに熱フラツクスとSSTの変化傾向のSVD
図c、)の1976∼77年の変化は,Sm ssT−1がENSOの
解析を行ったIwasakaandWallace(1995,Fig.8)の
1997年8月
13
546
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
[∪]65N,50hPGvsZ500(DJF)
うか.
80年代を通して冬季成層圏の極渦は強まる傾向があ
0
ることが既に知られている(Kodera and Yamazaki,
1994)が,SylO詔丁一2,Sm z5。一1の500hPa高度場の
空間パターン(第4図a,第10図b)は半球スケール
! :蓋、
¥
の広がりを持っており,これまで示された成層圏の極
、
渦の変動と相関の高い対流圏の偏差パターン(Kodera
、
t‘’
and Yamazaki,1994,Fig.4:Baldwin6!α1.,1994,
90E
90W
誌鍼、、監護…i灘
㌧
、
、’/“
’
、《 ’
ヤ ノ
ノ 、ノ ノ
ヤ
,、 ¥ ノ
ノ ノヤ
ノ ノ
レロ ヤ ペ
Fig.3a;Perlwitz and Graf,1995,Fig.4c)と,よい
一致が見られる.Sm SST−2とsyD z50−1を比較した
結果から,これらに見られる対流圏の高度場の帯状平
均の極と中緯度のシーソー・パターンは,冬季下部成
ヤ ヤ
¥噸翼…4
層圏の極夜ジェットの強さの変化にも関係したものと
、
とらえることができる.
180
観測だけでなく大気海洋結合モデルにおいてもこの
Fig.12 Correlation map of winter500hPa height with
種の変動は見出されているが(Kitohαα1.,1996),
winter50hPa zonal−rnean zonal wind at65。N,
極夜ジェットが強くなるか弱くなるかの変化は,大気
based on two integrations of MRI atmo−
中のプラネタリー波の伝播特性の変化による影響が大
spheric GCMscombinedto yield19simulation
years.Each of the integrations was performed
きい.これは冬の初めに成層圏の高緯度側で西風が強
with the lower boundary condition fixed to
い時に,大気下層からの波が極域に伝播しにくくなり,
the observed climatological SST.Contour
西風がさらに強化されて,その影響は次第に大気下層
interval is O.2.Negative values are shaded.
(adapted from Fig.110f Kodera6!α1.,1996).
にまで及ぶという過程である.すなわち中層大気まで
含めた大気圏全体において,プラネタリー波と平均流
の相互作用によって冬期間を通して進行する内部変動
結果と酷似している.Tokioka6!α1.(1993)は,大
モードと理解することができる.例えば,Kodera
気・太平洋結合GCMの冬の北太平洋のSST変動の原
因を,SSTのEOFからのコンポジット解析で調べ,卓
(1995)は,冬期間の帯状平均東西風の連続する月平均
越風(偏西風・貿易風)の強弱による潜熱・顕熱フラッ
変動を取り出して示している.
値を用いた拡張EOF解析により,このような一連の
クスの増減と,西風のエクマンドリフトの強弱による
もしsm SST−2やS四)z5。一1に代表される変動が
高緯度側の冷たい表層水の南向き移流の増減が同じ程
大気内部の力学的効果によって励起される変動である
度に重要であることを示した.一一方,Miller6!α1.
とすれば,年々変動が全くないSSTを下部境界条件
(1994)は海洋GCMに観測の熱フラックス,風地表
として大気大循環モデルを積分しても,同様な変動が
付近の乱流運動エネルギーの偏差を与えて積分して基
生じるはずである.第12図に,2つの大循環モデル
本的には同じ結論を得ており,さらに下層大気の乱流
(MRIスペクトルモデル,グリッドモデル)の10年積分
運動エネルギーの変化による海洋混合層の深まりの影
の結果を併せた19冬(10冬+9冬)のデータにおける,
響も重要であることを示している.これらの結果と第
成層圏ジェットの強さ(65。N,50hPaの冬平均東西風)
9図bのSSTの正負の特徴は良く似ており,高度場
の変化(第9図a)に伴う中緯度の下層風系の変化に
(Kodera6砲1.,1996,Fig.11より).第4図a,第10
よって,卓越風が弱まる領域と強まる領域で,潜熱・
図bと非常に良く似た空間パターンが見出される.こ
顕熱フラックスと表層水の南北移流の効果が働いて
のことは,sm SST−2やSyD乃。一1の大気圏の空間パ
SSTが変化すると解釈できる.
ターンが内部変動モードとして存在する可能性を裏付
このようにS’VD詔丁一2の変動は,大気循環場によっ
けるものである.
て主導されていると考えられるが,ではこの大気の変
SSTを使ったSVD第1モードSレZ)ssT−1と50
動はどのようなメカニズムでもたらされているのだろ
hPa高度を使ったSVD第2モードS四)z5。一2,ある
14
とモデルの冬平均500hPa高度との相関を示す
“天気”44.8.
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
いはsyDSST−2とsyD乃。一1がそれぞれ非常に良く
547
性もある.このような成層圏・対流圏の長周期変動の
対応していることは,前節の終わりに時系列に関して
時問スケールが何によって規定されているかという問
示した通りである.syz)SST−1とS巧D乃o−2の500
題は,熱帯および北太平洋大気海洋系の数十年変動の
hPa高度の線形回帰図同士(第3図aと第11図b)で
原因の解明と並んで,今後の気候研究の1つの焦点と
空問相関を計算してみると0.922,S’VD SST−2とSyD
なるであろう.
z5。一1(第4図aと第10図b)では0.919と,どちらの
モード間でも極めて高い一致が見られる.これらのこ
謝辞
とカ〉らSレZ)舘丁一1とSyD乃o−2,SγZ)舘丁一2とSVZ)
データを提供して下さったベルリン自由大学,気象
z50−1はそれぞれ大気圏と海洋表層を含む,一つながり
庁気候情報課,海洋課の関係者の方々にお礼申し上げ
の現象を異なる断面で見ていると考えることができ
ます.2人の査読者と編集委員の中村尚氏の建設的な
る.例えばKodera6!α1.(1995)では1958∼1994年の
御批判により本稿は面目を一新しました.また,終始
冬季50hPa高度の第1,第2EOF主成分と500hPa高
有益な議論と助言を頂いた気象研究所の鬼頭昭雄,二
度,SSTの同時相関図を示しているが,その時系列や
階堂義信(現気象庁),行本誠史の各氏に感謝致します.
空間パターンの特徴もここで得られた結果と一致して
いる.本研究で特筆すべきことは,500hPa高度とSST
参考文献
のSVD解析で見ても下部成層圏から始めても1時間
Baldwin,M.P.,X.Cheng and T.J.Dunkerton,1994:
フィルターその他の人為的な操作を経ない年々の冬平
Observed correlations between winter−mean
均値だけから,ほぽ同じように時間変動する2つの
tropospheric and stratospheric circulation anom−
モードが抽出できるということである.
以上を総合すると,SyD SST−2やS硯)z5。一1にとら
えられた80年代末の変化は,70年代の変化とは異なり
熱帯のSST変動と直接には関係ないと考えられる.
alies,Geophys.Res.Lett.,21,1141−1144.
Bamston,A.G.and R.E.Livezey,1987:Classifica−
tion,seasonality and persistence of lowイrequency
乞tmospheric circulation pattems,Mon.Wea.Rev.,
115,1083−1126.
では何がこのモードの時間スケールを決めているのだ
Boville,B.A.,1984:The influence of the polar night
ろうか?実はSmSST−2やSmz50−1が大気の内部
jet on the tropospheric circulation in a GCM,」.
変動に関連したモードだということは,必ずしもその
Atmos.Sci.,41,1132−1142.
出現がランダムに起こるということを意味しない.外
力が加わった場合にも,大気の力学的な効果による応
答として(i)極渦が強くなる,あるいは(ii)弱く
Bretherton,C.S.,C.Smith and J.M.Wallace,1992:
An intercomparison of methods for finding coupled
pattems in climate data,」.Climate,5,354−369.
Graham N.E.,1994:Decada1−scale climate variabil
なるという2つのタイプの循環場のどちらかがより起
ity in the tropical and North Pacific during the1970s
こりやすくなることが考えられる(Kodera,1995).例
and1980s:Observations and model results,Clim.
えば,火山噴火によるエーロゾル加熱が加わった場合
Dyn.,10,135−162.
には,極渦が強くなるモードが現れることが指摘され
Graham,N.E.,T.P.Bamett,R.Wilde,M.Ponater
ている(Kodera,1994).同様に,SSTの変化も,直
and S.Schubert,1994:0n the roles of tropical and
接的にこのモードのどちらか一方の大気循環場がより
midlatitude SSTs in forcing interamual to inter−
現れやすくなるという環境を作りうる(Kitoh,1988).
もっとも,これはSSTだけに限らず,海氷や雪氷も同
様な効果を及ぼしうる.
syz)SST−2あるいはsyz)z5。一1の時系列(第4図
decadal variability in the winter northem hemi−
sphere circulation,J.Climate,7,1416−1441.
Hurre11,J.W.,1995:Decadal trends in the North
Atlantic Oscillation:Regional temperature and
precipitation,Science,269,676−679.
c,第10図c)において,年々の変動より,10年規模
Iwasaka,N.andJ.M Wallace,1995:Largescaleair
あるいはトレンドが卓越していることは,大気だけで
sea interaction in the Northem Hemisphere from a
なく何らかの記憶を保持できるものとの相互作用があ
view point of variations of surface heat flux by
ることを示唆している.またトレンドは,人為起源に
SVD analysis,J.Meteor.Soc.Japan,73,781−794.
よる放射強制力の変化との関連を考えさせるが,非常
に長い時間スケールの自然変動の一部を見ている可能
1997年8月
Kachi,M.and T.Nitta,1997:Decadal variations of
the global atmosphere−ocean system,J.Meteor.
15
548
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
Soc.Japan,75,657−675.
Lau,N.一C.and M.J.Nath,1994:Amodelingstudyof
Karoly,D.J.,R.A.Plumb and M.Ting,1989:Exam−
the relative roles of global atmosphere−ocean sys−
ples of the horizontal propagation of quasi−station−
tem,J.Climate,7,1184−1207.
ary waves,」.Atmos.Sci.,46,2802−2811.
Miller,」.A.,D.R.Cayan,T.P.Bamett,N.E.Graham
柏原辰吉,1987:北太平洋を中心とした最近の冬季の冷
and J.M.Oberhuber,1994:Interdecadal variability
化について,天気,34,777−781.
of the Pacific Ocean:Model response to observed
Kawamura,R.,1994:A rotated EOF analysis of
heat flux and wind stress anomalies,Clim.Dyn.,9,
global sea surface temperature variability with
287−302
interannual and interdecadal scales, 」. Phys.
Nitta,T.and S.Yamada,1989:Recent warming of
Oceanogr.,24,707−715.
tropical sea surface temperature and its relation−
Kawamura,R.,M.Sugi and N.Sato,1995:Inter−
ship to the Northem Hemisphere circulation,」.
decadal and interannual variability in the northern
Meteor.Soc.Japan,67,375−383.
extratropical circulation simulated with the JMA
Perlwitz,」.and H.一F.Graf,1995:The statistical
910bal mode1.Part I:wintertime leading mode,J.
connection between tropospheric and stratospheric
Climate,8,3006−3019.
circulation of the Northem Hemisphere in winter,
Kitoh,A.,1988:A numerical experiment on sea sur−
」.Climate,8,2281−2295.
face temperature anomalies and warm winter in
Press,W.H.,S.A.Teukolsky,W.T.Vetterling and
Japan,J.Meteor.Soc.Japan,66,515−533.
B.P.Flannery,1992:Numerical Recipes in FOR−
Kitoh,A.,1991:Interannual variations in an atmo−
TRAN(2nd ed.),Cambridge Univ.Press,51−63.
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Robinson,D.A.,K.F.Dewey and R.R.Heim,Jr.,
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1993:Global snow cover monitoring:An update,
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Tanimoto,Y.,N.Iwasaka,K.Hanawa and Y.Toba,
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ern part of the Sea of Okhotsk in 1989 and its
Kodera,K.,1995:0n the origin and nature of the
relation to the recent weakening of the Aleutian
interannual variability of the winter stratospheric
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Kodera,K.,M.Chiba,H.Koide,A.Kitoh and Y.
realized in a coupled atmosphere−ocean general
Nikaidou, 1996:Interannual variability of the
circulation mode1.Extended Abstracts of Intema.
winter stratosphere and troposphere in the North−
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Trenberth,K.E.and J.W.H皿rell,1994:Decadal
the subtropical tropospheric jet,J.Meteor.Soc.
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Japan,69,715−721.
Dyn.9,303−319.
Kodera,K.and K.Yamazaki,1994:A possible influ−
Wallace,」.M.and D.S.Gutzler,1981:Teleconnec−
ence of recent polar stratospheric coolings on the
tions in the geopotential height field during the
troposphere in the northem hemisphere winter,
Northem Hemisphere winter,Mon.Wea.Rev.,109,
Geophys.Res.Lett.,21,809−812.
784−812.
Latif,M.and T.P.Bamett,1995:Interactions of the
Walsh,J.E.,W.L.Chapman and T.L.Shy,1995:
tropical oceans,」.Climate,8,952−964.
Recent decrease of sea level pressure in the Centra1
16
“天気”44.8.
<
;ec
5 e
;
: : ) j
' i
Arctic, J. Climate, 9 , 480-486.
1
f
,
i:EEI
, 1997
;
I
) :J 1 1
)
ec
) v>
549
Yatagai, A. and T. Yasunari, 1994 : Trends and
e* 5
;
:
)
decadal-scale fluctuations of surface air tempera-
Yasunari, T., T. Mito and M. Nishimori, 1995 : Two
ture and precipitation over China and Mongolia
during the recent 40 year period (1951-1990), J.
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Meteor. Soc. Japan, 72, 937-957.
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Wadati Conference on Global Change and the Polar
Yukimoto, S., M. Endoh, Y. Kitamura, A. Kitoh, T.
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Climate, Tsukuba Science City, Japan, 7-10
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Characteristics of the
Recent Long-Term Wintertime Variability
in the Atmosphere and the Oceans
HirOShi KOide* and KunihikO KOdera**
* ( Corresponding author) Climate Research Department, Meteorogica/ Research Institute,
Tsukuba 305, Japan.
* * Climate Research Department, Meteorological Research Institute.
(Recerved I August 1996 Accepted 2 June 1997)
Abstract
Long-term variations in the lower stratosphere, troposphere, and upper oceans during recent winter
seasons, and their interrelationship are documented. The two leading modes ofthe interannual-interdecadal
variability are extracted using a singular value decomposition (SVD) analysis of the unfiltered Northern
Hemisphere (NH) 500hPa height and quasi-global sea surface temperature (SST). We also conducted a
SVD analysis of the winter 500hPa height and the lagged SST to get insights into their causal relationship.
Then, we investigated the relationship between the tropospheric and stratospheric circulation using a SVD
analysis of the unfiltered NH 500 and 50hPa height fields.
Highly significant correlation is found both (i) between the first SVD mode ofthe 500hPa height and SST
(SVD ssT 1) and the second SVD mode of the 500 and 50hPa height (SVD z50 2) and (ii) between the
second SVD mode ofthe 500hPa height and SST (SVD ssT 2) and the first SVD mode ofthe 500 and 50hPa
height (SVD z50 1) . SVD ssT 1 and SVD z50 2 capture a striking ENSO (EI Nifio/Southern Oscillation)
signal. They also capture stepwise interdecadal rising and falling of the tropical Pacific SST and 500hPa
height over the North Pacific, respectively, both of which occurred in the mid 1970's. The lagged SVD
suggests that the enhanced westerlies over the North Pacific forced the cooling of the underlying SST. The
associated height anomalies in the lower stratosphere are characterized by the zonal wave number 2
components.
The other mode of the global variability represented by SVD ssT 2 and SVD z50 1 may be considered as
the internal variability in the atmosphere. This mode represents the variability in the strength of the winter
stratospheric polar vortex, and it is characterized by the tropospheric North Atlantic Oscillation (NAO) and
1997
8
I
17
550
冬季における最近の大気・海洋の長周期変動の特徴について
distinct height anomalies over East Asia.This mode also influences the mid−latitude SST by changing the
low−1evel wind.The associated SST anomalies appear as a meridional tripole pattern in the North Atlantic
that develops fヒom winter to spring.The time coefficients ofthis mode exhibit a predominant decadal signal
superimposed on a linear trend,with an abrupt sign reversal at the endρf the1980’s.The presence ofthis
mode may suggest a possible link between the atmospheric intemal variability and anomalies in the Earth’s
s皿face conditions or somewhere else in the climate system which acts as long−term“memory”.
日本気象学会1997年度秋季大会シンポジウムのお知らせ
一北極圏の大気環境と物質循環一
日時:1997年10月8日(水)・(大会2日目)
プログラム
15時00分∼17時00分
1 「北極圏の擾乱の構造と水輸送」
場所:第1会場(北海道大学学術交流会館2∼3F
遊馬芳雄(北海道大学大学院理学研究科)
講堂)
2 「北極圏の大気環境汚染」
司会:塩谷雅人(北海道大学大学院地球環境科学研
太田幸雄(北海道大学大学院工学研究科)
究科)
3 「対流圏の大規模な物質循環と水循環」
王 目
山崎孝治(北海道大学大学院地球環境科学
近年,水蒸気や大気微量成分の時間・空間分布を通
研究科)
ヤ ヒコ
して,さまざまなスケールの大気現象とその背後にひ
4 「衛星センサーILASによる北極成層圏の観測」
そむ物理・化学過程について考えていこうという研究
神沢 博(国立環境研究所)
が活発に行われるようになってきています.このシン
問い合わせ先
ポジウムでは,特に北半球の極域を中心として,地表
〒060 札幌市北区北10条西5丁目
付近から成層圏にまで視野を広げ,それぞれの領域で
北海道大学大学院地球環境科学研究科
特徴的に見られる大気の流れ,およびそれに伴う微量
大気海洋圏環境科学専攻 塩谷雅人
成分等の分布の動態について講演していただきます.
TEL:011−706−2366
そしてその中から,物質循環というキーワードで大気
FAX:011−726−6234
環境をとらえることの面白さや重要性が見えてくるも
E−mai1:shiotani@ees.hokudai.acjp
のと期待しています.
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“天気”44.8.
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