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運動の制御はどのように生まれるか − 自己組織化する身体

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運動の制御はどのように生まれるか − 自己組織化する身体
2008/04/27
専門リハビリテーション研究会
神経系部会研修会
運動の制御はどのように生まれるか
− 自己組織化する身体 −
今日の話題;
ヒトはどのように秩序ある運動を身につける
(学習する)のであろうか?
ヒトの運動発達や学習の過程には,どのよう
な原理が働いているのか?
聖隷クリストファー大学大学院
大城 昌平
そこから,新たな理学療法の道筋がみえてく
るのでは?
赤ちゃんの運動発達:自発運動
目 次;
1. 秩序(パターン)の形成と原理:複雑系
2. 運動制御:脳・身体・環境のダイナミクス
3. 理学療法への応用
赤ちゃんの自発運動:カオス
1.複雑系:非線形性,解放性,自己組織化
instability
Complicatedness
(random)
chaos
rhythmic
stationary
predictability
1
複雑系;非線形性,解放性,自己組織化
姿勢の発達と外部エネルギー(重力)
システム
エネルギー
入力
外部(重力)エネルギーが身
体に作用する
身体のシステムが反作用す
る
パターン(姿勢)を生成する
出力
パターン形成
「散逸構造」(Prigogine)
複雑系; 非線形性,解放性,自己組織化
自己組織化の原理 1:
シナジェティクス(Heken)
構成要素の相互作用によって,自然発生的に協調
構造は生まれる!
「隷属原理」:それまで無関係であった多数の内部変
数のうちの一部に不安定化が生じ,それを通して残りの
多数の内部変数の動きが支配され,その結果,多数の
内部変数の動きに統一的な関係性が生じる
「秩序パラメ タ」:要素間の秩序の度合いによ て生
「秩序パラメータ」:要素間の秩序の度合いによって生
じるパターンを示す変数.例えば,同期の度合い(位相
差)
「制御パラメータ」:パターンを生む外部変数(環境要
因),ヒト自らの発達学習(意欲,認知,筋骨格,内部機
能etc)
シナジェティクスの生体の運動制御に関する
応用実験(Kelso)
逆相位
同相位
メトロノームのリズム(制御変数)に合わせて両手の人差し指の
運動(秩序変数)を逆位相(180°の位相差)で行わせ,メトロ
ノームの周波数を徐々に挙げていくと,2−2.5Hzのところで,突
然,左右の人差し指の動きが同位相(0°の位相差)にそろう.
2
自己組織化の原理 2:
ゆらぎと引き込み現象
引き込み現象entrainment
(同期現象synchronization)
zミクロな多数の要素(非線形振動子)の集まりの間に,
引き込みがおこり,特定の振動数と位相をもった大きな
振動が生まれる
zその振動は,さらにまわりの振動子の振動を引き込ん
で,ますます成長する
zゆらぎが身体の協調性を生む
zゆらぎが安定staticと不安定dynamicsを生む
同期の3つのレベル
1.臓器内の細胞レベルでの同期(化学的・電気
的同期):神経細胞,筋細胞,etc
2.臓器間での同期(身体内部で生じる内的同
期):呼吸心拍,筋骨格,
3.身体と環境との間での同期(大域的引き込み
現象 global entrainment)
zマクロな規則正しい振動は,引き込みによって,系全体
の振動を一つにそろえていく
大域的引き込み現象 global entrainment
脳・神経系
身
体
環境(知覚情報)
Taga, et al.1991
生体の自己発生装置:
神経振動子Central Pattern Generator (CPG)
胎児の自発運動
The earliest recorded fetal movement. Fetus at 8.5 weeks.
Gesell A, Armatruda C. The Embryology of Behavior.
Westport, CT.: Connecticut Greenwood Press; 1945.
3
座位姿勢の発達(COP)
CPGによるdirection
adjustment
En bloc posture
(freezing)
座位姿勢の発達(EMG)
Independent sitting
(freeing:fine tuning)
歩行の発達
Hedberg A, Carlberg EB, Forssberg H, Hadders-Algra M.
Development of postural adjustments in sitting position during
the first half year of life. Dev Med Child Neurol. 2005
May;47(5):312-20.
CPG-model による運動発達
(Forssberg H, 1999))
脳・神経系
Fine tuning
発達
発達・
経験学習
CPG
環境
(知覚)
身体
運動発達の U字型 現象
解放Freeing
(Fine tuning)
多自由度(冗長性)
(CPG)
自由度の変
変化
Neuronal group selection theory
on Motor development, Forssberg H (1999)
凍結Freezing
運動学習
4
自己組織化の原理 3;
相転移(Phase Shift)
相転移
揺らぎ
引き込み
制御変数
逆相位
同相位
安定状態
メトロノームのリズム(制御変数)に合わせて両手の人差し指
の運動(秩序変数)を逆位相(180°の位相差)で行わせ,メト
ロノームの周波数を徐々に挙げていくと,2−2.5Hzのところで,
突然(臨界点),左右の人差し指の動きが同位相(0°の位相
差)にそろう相転移が生じる.
新たな運動
現在の状態
ここまでのまとめ
複雑系(非線形性,解放性,自己組織化)では、
自然にある秩序(パターン)が生まれる
揺らぎ,引き込み(協調),制御パラメータ
の変化が新たな運動への相転移を生む
パターンの選択;拘束条件
環境
課題
パターン生成の原理
z シナジェティクス(隷属原理、秩序パラメータ、
制御パラメータ)
z 揺らぎと引き込み現象
z 生体の神経振動子 Central Pattern
Generator (CPG)
z 相転移:制御パラメータ
1) 脳の発達と進化の過程
神経系
進化・遺伝
身 体
5
直立二足歩行の獲得
20-10万年前:
ホモ・サピエンス
(現生人類)
ヒトの誕生(ホモ属:原人)
道具(石器)の使用
脳の発達
四足歩行から直立二足歩行へ
1000万年前
森林の乾燥化
西へ:
チンパンジー
ゴリラ
大地溝帯
直立二足歩行300万年前
•移動の省エネ化
移動の省エネ化
•日射の回避
•手の使用(物を運ぶ)
•繁殖
直立二足歩行
700-500万年前:
人類(猿人)の誕生
(直立二足歩行・犬歯の
縮小)
猿人と現生人類の骨格変化
身体構造の変化
脳の発達(240万年前)
イーストサイドストリー
(Yves Coppens1982)
二足歩行と前頭前野の発達
ヒトは二足歩行を始めたことにより前頭前野の方向に向かって
脳(αの領域)を増やす余裕が生まれた
(田中力:ぷらす・あるふぁ(紀伊國屋書店)より)
2)身体・環境・脳のダイナミクス
神経系の階層性発達と運動発達(成熟論)
運動の制御
中枢神経系
身体
環境.行為の生む主体はなにか?
反射・反応
運動レベル
随意的
(意図的)
平衡反応
立位・歩行
(二足機能)
中脳・小脳
自動的
(パターン)
立ち直り反応
四つ這い
座位
(四足機能)
脊髄−脳幹
不随意的
原始反射
臥 位
(無足機能)
大脳皮質
脳
運 動
神経系の発達と運動の発達
6
ダイナミカルシステムズ理論
システム
(脳)
制御指令
知覚入力
身 体
運動出力
感覚入力
神経系のみが発達原理
ではない
知覚運動の循環が,神
経システムを構築する
(フィードバック経路)
環境ー神経ー身体の動
的関係が、目的(課題)
に適合するように自ら調
整する(自己組織化)
環 境
(1)脳:内部モデルの形成
乳児の(運動)学習モデル
感覚モジュール
運動行動
(共感覚)
記憶 長期記憶
・手続き
・エピソード
・意味
脳の発達:感覚運動系から,前頭葉の抑制系へ
新生児・乳幼児の脳活動変化
Kato T. Principle and technique of NIRS-Imaging for human
brain FORCE: fast-oxygen response in capillary event.
International Congress Series 1270 (2004) 85‒ 90
まずは自由に動かした後に抑制をつくる
運動と抑制の繰り返しが学習の始まり
止まったエスカレーターにはつまずいてしまう!
感覚モジュール
無意識
︵
自動化︶
連合野
運動行動
記憶
内部モデル
(予測)
知覚
内部モデル
(予測)
行動
つまづく
運動行動
自分の記憶に保持しているモデルによって知覚した現実
を自動的に再構成している.G. Edelman
内部モデルの修正
学習
7
知覚と行為の意図と脳活動
知覚情報に基
づく予測(内部
モデル)
知覚情報
高次運動野
一次運動
運動出力
準備電位
意志(意図)
−550
結果情報
運動学習:予測情報と結果情報の差異を少なくしていく
行動
(筋活動)
0
−200
msec
350
行為を実行しようとする自分の意志(意図)に気づく、
350msecほど前に、自発的なプロセス(準備電位)が無意識に起
動する(Benjamin Libet)
知覚ー内部モデルー前頭前野(抑制)ー行動
(2)身体の制御:運動の協調構造
z古典的運動制御モデル(19世紀):「鍵盤支配型モデル」
z脳の中には,小人がいて,楽譜(運動プログラム)に併せてキー
ボードを弾く
zそのような膨大な運動を制御するプログラムが脳にあるの?
協調構造(シナジーsynergy):
Bernsteinの自由度問題:
100個の関節
1000個の筋肉
ヒトはどのように膨大な「運動の自由度」をいか
に制御するのか?
運動発達の U字型 現象
多自由度
(冗長性)
自由度の変
変化
解放Freeing
(Fine tuning)
身体の構成要素が協調構造を形成して自由度を減らすことで
運動をコントロールする
凍結Freezing
運動学習
8
協調構造の神経機構
関節運動の自由度の縮小
一次運動野
X
Y
Z
x
y
z
運動
x, y, z, x+y, x+y, y+z, x+y+z
パターン
リーチ動作の自由度の縮小(2から1へ)
(Nagasaki, 2003)
「脳」はパターンをコントロールするのみ.
個々の筋肉のことは知らない!
知覚と運動の学習:Mirror Neuron
(3)環境(知覚と運動)
アフォーダンス:環境(知覚)が与える行為の可能性
(Gibson)
Cogn Brain Res. 1996 Mar;3(2):131-41.
Premotor cortex and the recognition of motor actions.
Rizzolatti G, Fadiga L, Gallese V, Fogassi L.
• 環境は直に知覚情報(アフォーダンス)を返してく
る(直接知覚)
• アフォーダンスが実現すべき運動(動作)をガイド
する
生後1ヶ月の乳児の模倣
運動観察(視覚)による動作の引き込み現象
Mirror Neuron
•学習(ことば,運動,行動)
学習(ことば,運動,行動)
•感情理解(共感)
•「心の理論」
Meltzoff AN, Moore MK. Imitation of facial and manual gestures
by human neonates. Science. 1977 Oct 7;198(4312):74-8.
Ertelt D, et al. Action observation has a positive
impact on rehabilitation of motor deficits after
stroke. Neuroimage. 2007;36 Suppl 2:T164-73.
他者の動作は、私自身の運動性に訴えてくる
9
身体と身体の意識
ここまでのまとめ
z生体と環境との相互作用が,脳の形成を変化させ,それ
によって情報を蓄積していく(内部モデル)
視覚的身体
(ワロン:融合的世界)
自身の身体イメージ
z内部モデルに基づく予測情報と,結果情報の差異を少
なくするように学習していく
z身体は協調構造を形成し運動(行動)をパターン化する
z知覚情報にもとづいて,そのときどきに適した行動パ
ターンを選択する
鏡の助けを借りて獲得する自分自身の身体象
まとめにかえて,理学療法への応用
1)脳は変わる:可塑性と神経リハビリテーション
2)運動の(再)学習:ゆらぎ 引き込み 制御変数
2)運動の(再)学習:ゆらぎ,引き込み,制御変数
3)内部モデルの再学習 :気づきと言語化,関心
4)神経機能補てん
CI療法
Constraint-induced movement therapy
z脳、身体、環境は絶えず循環している
1)脳は変わる:
可塑性と神経リハビリテーション
z 1895年:シェリントンの反射学(感覚遮断実験)
z 1913年:成人では神経回路の中枢は固定され,完了
し,不変 ある。
し,不変である。全て死ぬかもしれないが,どれも再
死 かもしれな が, れも再
生しない。(サンチエゴ・ラモン・イ・カハル)
z 1957年:「学習された不使用」(エドワード・タウブ)
z 1960年:「視覚遮断実験」(ヒューベルとウィーゼル)
z 1972年:「活動依存的な皮質再構成」(マイケル・マー
ゼニック)
z 1990年代:PET,fMRIによる脳機能の可塑性研究
①脳地図の変化
10
Use-dependent alterations of movement representations in
primary motor cortex of adult squirrel monkeys.
Nudo RJ, Milliken GW, Jenkins WM, et al.
J Neurosci. 1996 Jan 15;16(2):785-807.
Nudo RJ. Remodeling of cortical motor
representations after stroke: implications for recovery
from brain damage. Molecular Psychiatry. 1997
May;2(3):188-91.
トレーニングによる手領域の再構成:
Use-dependent plasticity
②ニューロンの
組織学的変化
z軸策の伸長と再生、樹状突起の増加,スパイン発芽
z軸策の伸長と再生
樹状突起の増加 スパイン発芽
zヘブの学習則
zシナプス可塑性
*long-term potentiation (LTP); シナプス伝達の長期増強
*long-term depression (LTD); シナプス伝達の長期抑圧
④機能代償
Unmasking of ipsilateral corticospinal projections
③ニューロンの増殖
Henriette van Praag, et al. Exercise Enhances Learning and
Hippocampal Neurogenesis in Aged Mice. The Journal of
Neuroscience, September 21, 2005 • 25(38):8680‒8685
2)運動の学習:CPGの利用
Body Weight Support Treadmill Gait Training
脳・神経系
Netz J, et al. Reorganization of motor output in the non-affected
hemisphere after stroke. Brain. 1997 Sep;120 ( Pt 9):1579-86.
身
体
環
境
Katherine J Sullivan, et al. Effects of Task-Specific Locomotor
and Strength Training in Adults Who Were Ambulatory After
Stroke: Results of the STEPS Randomized Clinical Trial.
PHYS THER 87, 2007, 1580-1602
11
Dale A Ulrich, et al. Effects of Intensity of Treadmill Training on
Developmental Outcomes and Stepping in Infants With Down
Syndrome: A Randomized Trial. PHYS THER 88, 2008, 114-122
感覚モジュール
無意識
︵
自動化︶
連合野
内部モデル
(予測)
運動行動
記憶
意識
︵
気づき︶ 言語化
3)内部モデルの再構築
Bilateral Movement Therapy
脳梁切断(分離脳)
単純な気づきと 帰的気づき
単純な気づきと再帰的気づき
再帰的気づき:
言語化(左大脳半球):内的発話
再構成
運動行動
身体運動イメージと実際とのギャップ
選択的関心がニューロン活動を促す
脳の可塑的変化は、関心を向けているときにだけ表れる
Polley DB, Steinberg EE, Merzenich MM.
Perceptual learning directs auditory cortical map reorganization
through top-down influences.
J Neurosci. 2006 May 3;26(18):4970-82.
12
4)神経機能補てん
まとめ:
Ⅰ.秩序(パターン)の形成と原理
1.複雑系:非線形性,開放性,自己組織化
2.シナジェティクス(隷属原理,制御パラメータと秩序パラメータ)
3.揺らぎと引き込み現象,相転移
Ⅱ.運動制御(運動パターンの拘束条件)
1.進化
2 脳(神経系) 身体 環境のダイナミク
2.脳(神経系)−身体−環境のダイナミクス
3.脳:内部モデル
4.身体の制御:自由度問題と協調構造
5.環境:アフォーダンス
Device may be new pathway to the brain
Researchers invent system that helps with
balance, sight (Paul Bach-y-Rita)
Ⅲ.理学療法の応用
1.脳の可塑性と神経リハビリテーション:use-dependent plasticity
2.新しい運動の(再)学習:揺らぎ,引き込み,制御変数,相転移
3.脳内表象の再学習 :気づきと言語化,関心
4.神経機能補てん
13
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