...

見る/開く - 東京外国語大学学術成果コレクション

by user

on
Category: Documents
6

views

Report

Comments

Transcript

見る/開く - 東京外国語大学学術成果コレクション
Asian and African Languages and Linguistics, No.4, 2009
スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar塩
原
朝
子
(アジア・アフリカ言語文化研究所)
The Two Valence-Decreasing Prefixes N- and bar- of Sumbawa
SHIOHARA, Asako
Research Institute for Languages and Cultures of Asia and Africa
This study deals with two prefixes of Sumbawa, N- and bar-, both of which are involved
in valence-decreasing process in a similar way; they derive anti-passive, reflexive,
reciprocal, or resultative verbs, depending on the individual stem.
The distribution of the two prefixes is so irregular and unpredictable that from the
phonological or semantic feature of the stem we cannot tell either one/both/none of the
two prefixes can be attached to a given transitive stem, or which type of
valence-decreasing process is involved in the individual derivation. After investigating in
detail the distribution and function of the two suffixes, we will look at their historical
background, comparing with Malayic languages (Adelaar: 1984, 1992), which are closely
related to Sumbawa in Austronesian family, and consider how the irregularity was
possibly brought about.
キーワード:逆受動文,再帰動詞,スンバワ語,マレイック諸語,インドネシア諸語
Keywords: Anti-passive, Reflexive, Sumbawa, Malayic, Indonesian Languages
1.
2.
3.
4.
5.
6.
はじめに
接頭辞N-とbar-の形態
接頭辞N-とbar-の「減項」にかかわらない機能
接頭辞N-とbar-の「減項」にかかわる機能
Malayicとの比較
さいごに
1.
はじめに
スンバワ語はインドネシアのスンバワ島西部で話されている言語である。系統
的にはオーストロネシア語族,西マラヨ=ポリネシア語派中のスンディックグル
ープ1に属すると考えられている(Tryon 1995: 24)。また,Dyen (1982)によれば,ス
1
スンディックに属する言語には,スマトラ島のアチェ語,トバ・バタク語,インドネシア語,スンダ語,
ジャワ語,マドゥラ語などがある。
62
アジア・アフリカの言語と言語学
4
ンバワ語はスンディックグループの中で,東隣のバリ語,ササク語とともにバリササクグループを形成している。
本稿は,スンバワ語の「動詞の結合価の変更に関わるプロセス valency changing
process」のうち,接辞 N-と bar-が関与する「自動詞化」に伴う減項を扱う。
本稿の構成は以下のとおりである。最初に,第 2 節で接頭辞 N-と bar-の形態(異
形態とそれぞれが現れる条件)について記述し,次に第 3 節で接頭辞 N-と bar-の
「減項」にかかわらない機能を簡単に概観する。第 4 節で 2 つの接辞が担う自動
詞化(減項)の機能について述べ,第 5 節で 2 つの接辞がほぼ同様の「減項」機
能を持つに至った背景について歴史的角度から考察する。
2.
接頭辞N-とbar-の形態
接頭辞 N-と bar-は,いずれもいくつかの異形態を持つ。それぞれの現れ方につ
いて以下に述べる。
2.1 接頭辞N-の形態
接頭辞 N-は語基の音節数および冒頭音によって m, ng, ny, nge, me2いずれかの形
で現れる3。それぞれの形が現れる条件は以下のとおりである。
(i) 語基が 1 音節である場合は,nge が現われる。
(この言語では,1 音節の語根はすべて冒頭音が子音である。)
例:nge-jét「縫う」< jét「縫う」
(ii) 語基が 2 音節以上である場合は,その冒頭音によって以下のように現れ方
が決まる。
(a) 冒頭音が母音である場合は,ng が現れる。
例:ng-inóm「飲む」< inóm「飲む」
(b) 冒頭音が子音である場合は,その子音が,調音位置が同じである鼻音に置き
換えられる4。
・冒頭音が唇音(p または b)の場合は,m に置き換えられる。
例:mina’「作る」< pina’「作る」,miso’「洗う」< biso’「洗う」
2
転写記号については,論文末の「転写に用いる記号」の項を参照されたい。原則としてインドネシア語の
正書法に従っており,ng は[ŋ], ny は[ɲ], e は[ə]に対応する。
3
5.1 で示すように,この接頭辞は,Adelaar (1992)が proto-Malaic に存在する接辞の一つとして立てている
*mAN-という形式に対応している(A の音価については不明。現代インドネシア語での対応形は meN-)。
スンバワ語では,一部の例外を除き,接辞の最初の音節が脱落し,鼻音部分だけが残っている。例外は語
基の語頭音が流音(l または r)である場合であり,この場合は祖形に対応する me-という形式が現れる。こ
の位置においてのみ me-が保持されているのは,この環境では鼻音部分が現れないため,me が脱落すると
語基と派生形との区別が保たれなくなるためであろう。(流音の前で鼻音が現れないという現象は,マレ
ー語の対応する形においても見られる。)
4
鼻音で始まる二音節の語基に N-が付く例は確認されていない。データ中では,鼻音で始まる二音節の語基
は menong「聞く」のみで,この語基には N-は付接せず,bar-のみが付接する。この種の語基には,鼻音で
始まる一音節語基に N-が付く例としては,nge-nti< nti「握る」が確認されている。(この場合,語基が一
音節であるため,規則の(i)に従い nge が付接している。)
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
63
・冒頭音が歯・歯茎閉鎖音(t または d)の場合は,n に置き換えられる。
例:numpan’「手に入れる」< tumpan’「手に入れる」
・冒頭音が s の場合は,ny に置き換えられる。
(s に最も調音点が近い鼻音は n であるため,この点で,冒頭音が s である場
合の対応は例外的である5。)
例:nyólé’「借りる」< sólé’「借りる」
・冒頭音が軟口蓋音(g または k)の場合は,ng に置き換えられる。
例:ngiki「すりおろす」< kiki「すりおろす」
ngoco「刺す」< goco「刺す」
・冒頭音が流音 l, r である場合,me-が付接する。
例:me-lokèk「皮をむく」< lokèk「皮をむく」
meracén「毒を盛る」< racén「毒を盛る」
2.2 接頭辞bar-の形態
接頭辞 bar-は,語基の語頭音によって,bar, bare, ba, ra いずれかの形で現れる。
それぞれの形が現れる条件は以下のとおりである6。
(i) 語基が 1 音節である場合は,bare が現れる。
bare-to’「知っている」< to’「知っている」
bare-rék「踏む」< rék「踏む」
(ii) 語基が 2 音節以上の場合は,その最初の音によって現れ方が決まる。
(a) 母音の前では,bar が現れる。
bar-anak 「子どもがいる」< anak「子ども」
bar-itóng’「勘定をする」< itóng’「計算する」
bar-ukér「測る」< ukér「測る」
bar-ósó「自分の体を洗う」< ósó「磨く」
bar-ètè’「結婚している」< ètè’「取る」
(b) 唇音(b, p)以外の子音の前では ba が現れる。
ba-langan「歩く」< -langan(拘束語根)
ba-salaki’「(女性が)結婚している,夫がいる」< salaki’「夫」
ba-kemang「花が咲く」< kemang 「花」
このことから,この言語における s 音は,元は ʃ 音だったという可能性が考えられる。
5.2 で示すように,この接頭辞は,Adelaar (1995)が proto-Malayic として立てている*(mb)Ar という形に対
応すると考えられる(A の音価は不明)。ここで示した異形態のうち,(ii)(c)(唇音の前における最初の部
分の脱落による ra-の生起)は,Malayic 諸言語にはみられず,スンバワ語独自の変化の結果であると考え
られる。この現象は唇音の連続を避けるため生じたものであると解釈できるが,このような異化現象はこ
の言語の他の箇所には見られず,言語内の現象としても特異である。
5
6
64
アジア・アフリカの言語と言語学
4
(c) 唇音(b, p)の前では ra が現れる7。(1 音節で b, p ではじまる語基の例は確認
されていない。)
ra-bètak 「引く」< bètak「引く」
ra-bau「漁をする」< bau「何かを手に入れる」
ra-perés「マッサージする」<perés「押す,揉む」
3.
接頭辞N-とbar-の「減項」にかかわらない機能
この二つの接辞は,それぞれ,他動詞の他に,名詞や拘束語根(bound morpheme
単独では単語として現れない要素)に付接する場合もある。ここで,各接辞のこ
の種の機能,つまり,次節以降で扱う「減項」にかかわらない場合について,簡
単に見ておこう。
接頭辞 N-と接頭辞 bar-に共通する機能として,拘束語根(単独では単語として
用いられない要素,冒頭にハイフン-を付けて示す)に付接し自動詞を派生すると
いう機能がある。派生語は,多くの場合,アスペクトの点で不完了的 imperfective
な状況を表す動詞であり,この点で,次項で扱う他動詞を語基とするものと類似
の意味的な特徴を持つ。
接頭辞 N-の例
nangés「泣く」< -tangés
nguléng’8「横たわる」< -guléng
ngeluét「身動きする」< -luét
nganga「口をあけている」< -ganga または -anga
接頭辞 bar-の例9
be-langan「歩く」
be-rari’「走る」
ba-kedèk「遊ぶ」
be-renang「休息する」
ba-surak「叫ぶ」
7
例外的に,次の 4 例では,語基の冒頭音の鼻音化を伴う。
ra-mada’「伝える」< bada’「伝える」
ra-misó’「自分の体を洗う」< bisó’「洗う」
ra-mamong’「ばれる」< pamóng’「においをかぐ」
ra-mili’「えり好みする」< pili’「選ぶ」
8 語基-guléng’は,複合語 galang-guléng’「抱き枕」の一部として確認されている。
9 この言語では,3 音節以上の単語で,第一音節の母音が a である場合,速い発音では,a が弱化して e[ə]
音が現れる場合もある。通常はこの位置での a 音と e 音は自由交代だが,単語によっては常に e 音が現れる
ものもある。ここに挙げた bar-形動詞のうち,be-langan「歩く」,be-rari’「走る」はそのような例である。
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
65
また,接頭辞 bar-は名詞に付接し,基本的には語基の表す事物を所有する(主
体の一部として含む,付属物として身につける)という意味を表す自動詞を派生
する。(この機能に関して接頭辞 bar-による派生は生産的である。)
例
ba-kemang「花が咲く,花が咲いている」< kemang「花」
ba-lamong’「服を着ている」< lamong’「服」
ba-semèmat「口ひげをはやしている」< semèmat「口ひげ」
N-形自動詞の中にも,名詞を語基とするものがあるが,例は少なく,また語基
と派生先の名詞の意味的対応も不規則である。データにある例をすべて示す。
例
ngentén「ひざまづく」< entén「ひざ」
ngentét「おならをする」< entét「おなら」
nyurat「手紙を書く」< surat「手紙」
4.
接頭辞N-とbar-の「減項」にかかわる機能
この二つの接頭辞によって派生される語(以下派生動詞)はほとんどすべてが
自動詞であり,他動詞に付接した場合は減項が観察される。この節では,その「減
項」のプロセスについて記述する。
接頭辞 N-と bar-による派生は,いくつかの面で不規則な特徴を示す。第一に,
この 2 つの接頭辞は,すべての他動詞語基に付接するわけではない。これまでの
調査で,接頭辞 N-と bar-両方について,123 語の他動詞に関して付接可能性を調
べた10。その結果,接頭辞 N-は 77 語に,bar-は 57 語に付接しうることがわかっ
10
この 123 語はいわゆる「基礎語彙」であり,インドネシア語の動詞に対応するスンバワ語の単語を話者
から聞き取るという形で集めた。調査リストとしてアジア・アフリカ言語文化研究所(1967)を用いたが,表
にリストした動詞は調査票にある単語を網羅したものではない。また,調査の過程で得られた,調査リス
トに含まれていない単語等も含む。
調査対象の他動詞は大部分が語根形(形態的にそれ以上分析できない形)だが,一部他動詞形成接辞 saを含むものも含む(全部で 5 語)。接頭辞 N-と bar-は,sa-の付いた形にも付接する場合があり,接頭辞 Nは 5 語中 2 語に,接頭辞 bar-は 5 語中 4 語に関して付接可能であるとの判断が得られた。
接頭辞 N-+sa-の例
nyentèk < s-entèk「持ち上げる」< entèk「登る, 上がる」
nyalés < sa-lés「出す」< lés「出る」
接頭辞 bar-+sa-の例
ba-sa-maté (ba-ja-maté)「殺人を行う」< sa-maté「殺す」< maté「死ぬ」
ba-se-bo「朝食を取る(空腹で熱くなった腹を冷ます,が原義)< se-bo「冷ます」< bo「冷める」
ba-s-entèk「何かを持ち上げる作業を行う」< s-entèk「持ち上げる」< entèk「登る」
ba-sa-tama’「(ものを袋等に)入れる作業を行う」< sa-tama’「入れる」< tama「入る」。
ただし,接頭辞 N-,接頭辞 bar-いずれも,すべての sa-形派生動詞に付接可能なわけではない。上記の sa形他動詞は,いずれも,話者に取ってもはや派生形であるとは認識されていないほど語彙化の程度が高く,
N-,bar-の付接が可能なのはそのためであると考えられる。
66
アジア・アフリカの言語と言語学
4
た11。123 語中,接頭辞 N-と bar-の両方が付接しうるものが 20 語,いずれもが付
接しないものが 9 語ある。また,どの他動詞語基にどちらの接頭辞が付接可能か
について,語基の音声的12/意味的特徴から説明することは難しい。
例えば,他動詞 ingo’と gita はともに「見る」というほぼ同じ意味を表すが,前
者は接頭辞 N-のみが付接可能で ngigo’という自動詞が派生され,前者は接頭辞
bar-のみが付接可能で bagita’という自動詞が派生される。(両者はいずれも「(不
特定の何かを)見る」という類似の意味を表す。)別の例では,他動詞 sió’「隠
す」からは,両方の接頭辞による派生が可能で,接頭辞 N-による派生動詞 nyió’
は「(不特定の対象を)隠す」という意味を,接頭辞 bar-による派生動詞 ba-sió’
は「隠れる」という意味を表す。また,他動詞 osap「ぬぐう」にはいずれの接頭
辞も付接しない。(詳細については,論文末に付したデータ表を参照されたい。)
第二に,それぞれの接頭辞によって派生される語(以下派生動詞)と語基の他
動詞との意味的・統語的対応には複数のパターンがある。どのパターンを取るか
は個々の語基によって決まっており,予測は難しい。この項の冒頭で述べたよう
に,派生動詞はほとんどすべてが自動詞13であるが,語基と派生形の自動詞の対応
は,「減項」の対象となる要素の種類によって,次の三種類に分類される14。いず
れの接頭辞に関しても,
数の上では(1)の P が減項の対象となるタイプが最も多い。
(1) P が減項の対象となるタイプ
派生形の自動詞の文に,元の他動詞の文における動作の対象を表す名詞句,
および,統語的にそれと同じ役割を果たす名詞句(以下 P)に相当する要素が
現れないタイプ。派生形の主語は,語基の他動詞の文の A に対応。
(2) A が減項の対象となるタイプ
派生形の自動詞の文に,元の他動詞の文における動作主を表す名詞句,およ
び,統語的にそれと同じ役割を果たす名詞句(以下 A)に相当する要素が現れ
ないタイプ。派生形の主語は,語基の他動詞の文の P に対応。派生形は多くの
場合,「結果としての状態」を表す。
また,調査対象とした 123 の他動詞の中には,意味的に関連する名詞からの転成によると推測されるも
のもある。
例:sapu「はく」<「ほうき」,sikat「みがく」<「ブラシ」
11
例外的な対応として,他動詞 kakan「食べる」に関しては,形態的に直接対応しない形 mangan が他の語
基に対して鼻音接頭辞の付接した形に相当するという話者のコメントが得られた。mangan はジャワ語の「食
べる」という形という動詞と同形である。
12
ただし,実際のところ,語基の語頭音の調音的特徴と各接辞の付接可能性の対応には考慮に値する偏り
がみられる。語頭音が有音破裂音である全 25 例中,N-は 8 例のみに付接可であるのに対して,bar-は 19 例
に付接可である。一方,語頭音が無声音である全 68 例中,N-は 54 例に付接可,bar-は 18 例のみに付接可
である。この偏りについての考察は今後の課題である。
13
例外的に,他動詞 bawa「運ぶ」に対応する mawa という形は,「荷物」という意味を表し,名詞として
機能する。接頭辞 N-のこの種の用法(名詞を派生する用法)は,インドネシア東部の言語,Lamaholot
(Nishiyama and Kalen 2007: 48)にみられる。
14
接頭辞 N-による派生のうち,例外的な対応を示すものに,panang「~を立って見ている(傍観する)」
から派生した manang「立つ」がある。
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
67
(3) その他のタイプ(減項の対象が明確ではないタイプ)
派生形の主語が,語基の他動詞の文の A に対応するのか P に対応するのか明
確でないタイプ。
それぞれのタイプについて以下に述べる。
4.1 Pが減項の対象となるタイプ
接頭辞 N に関しては,77 例中 68 例がこのパターンにあてはまる。一部の例を
以下に挙げる15。
ngajak「勧誘を行う」< ajak「誘う」
meli「買い物をする」< beli「買う」
misó’「洗い物をする」< bisó’「洗う」
ngiléng「挽く作業を行う」< giléng 「挽く」
ngoco「刺す作業を行う」< goco「刺す」
ngingo’「見物する」< ingo’「見る」
nginóm「飲む」< inóm「飲む」
ngejét「縫い物をする」< jét「縫う」
ngali「掘削をする」< kali「掘る」
接頭辞 bar-に関しては,56 例中,42 例がこのパターンにあてはまる。一部の例
を挙げる。
bar-antat「持って行く」<antat「持って行く」
ramada’16「伝える」< bada’「伝える」
ba-gerék「振る,ゆらす」< gerék「振る,ゆらす」
ba-gigél「咀嚼する」< gigél「噛む」
ba-gita’「見る」< gita’「見る」
bar-itóng’「勘定をする」< itóng’「数える」
bare-ntok「見張る」< ntok「見張る,ガードする」
ba-sedia「準備をする」< sedia「準備をする」
ba-tari「待機する< tari「待つ」
ba-rentas「洗う」< rentas「洗う」
以下に接頭辞 N-による派生形 nginóm (< inóm )「飲む」の例と接頭辞 bar-による
派生形 ba-tari (< tari )「待つ」の例を語基の他動詞の例とともに挙げる。
15
この項に挙げた N-形動詞,bar-形動詞の日本語訳は,動詞「する」を含んだいくつかの表現,例えば,「洗
い物をする(「動詞+物+を+する」)」「見張りをする(「動詞の連用形+を+する」)」「咀嚼する(漢
語+「する」)」のような形で類似の内容を表すことができるが,語基によっては上記いずれの表現も存
在しない場合がある(例:「振る」「刺す」など)。そのような場合は,語基の他動詞と同様の訳語を仮
に当てておく。
16
ここでは例外的に語基の冒頭音が鼻音化される。注 5 を参照されたい
68
アジア・アフリカの言語と言語学
4
(1)
ya=ku=inóm
kawa=nan léng
aku.
FUT=1SG=drink coffee=that by
1SG
「私はそのコーヒーを飲むことにする。」
(2)
ta
ku=nginóm aku.
this
1SG=N-drink 1SG
「私は(何かを)飲むところだ。(何か飲み物でも飲んで
休憩する,というニュアンス)」
(3)
tó’
ku=tari
nya léng aku nta.
3
by
1SG here
now
1SG=wait
「今,私はここで彼を待っている。」
(4)
muntu
ku=ba-tari
aku nta.
PROG
1SG=BAR-wait 1SG here.
「私はここで待機している。」
この言語における他動詞と自動詞の区別は,他動的動作の動作主を標示する前
置詞 léng との共起可能性によって明確な形で行うことができる。たとえば,(1)(3)
の他動詞構文では動作主を表す要素は前置詞 léng に導かれて現れている。一方,
対応する(2)(4)の派生形の構文は自動詞構文で,意味的に対応する動作主を表す要
素が格標示の上で無標の形,つまり,前置詞の付かない形で現れている。
この場合,派生形の自動詞は,潜在的に動作の対象を持つ動作を表すが,動作
の対象に相当する語と共起することはない。
たとえば,上記(2)の自動詞 nginóm「飲む」の文に,飲む対象を表す要素が現れ
ることはない。動作の対象を表す(と解釈されるような)名詞句が nginóm と共起
している(5)のような文は容認されない17。
(5)
17
*ya=ku=nginóm
kawa=ta
FUT=1SG=N-drink
coffee=this
(期待される意味)「私はこのコーヒーを飲むことにする。」
動作の対象を表す要素が道具や随伴者を表す前置詞 ké’の句で現れている文も容認されない。たとえば,
(14)に対応する(a)のような文は容認されない。
*ya=ku=nginóm
ké’
kawa=ta.
FUT=1SG=drink
with
coffee=this
(期待される意味)「私はこのコーヒーを飲むことにする。」
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
69
動作の対象を表す要素は,前置詞句補語の形でも現れることがない18。
このタイプの動詞は,進行中の動作や属性など,不完了 imperfective 的な内容を
表す傾向が強い。聞き取り調査において,話者に派生形の意味をたずねると,多
くの場合,「今~している」という内容を表すという返答が返ってくる。また,
派生形を用いた文を作るように求めると,(4)のような進行中の状況を表す例文が
得られることがほとんどである。また,日常の会話など,自発的な発話における
このタイプの動詞が用いられている例を見ると,進行中の動作を表すものに加え
て,属性を表す例が多くみられる。
(6) 属性を表すのに用いられる派生動詞の例
tau=19nyoro
「泥棒」
person=N-steal
tau=ngapan
person=N-chase
「追っ手」
tau=bare-ntok
person=BAR-guard
「見張り番」
この「不完了的」な特徴は,通言語的にみて,この種の逆受動的構文によく見
られる特徴である。(Cooreman 1996: 57-58)
また,派生形の中には,平叙文,疑問文には用いられるが命令文には用いられ
ないという話者からのコメントが得られたものもある。論文末の表中では命令文
に用いられないものに#を付けて示した。
上記のような特徴に加え,この種の自動詞が用いられる条件は,動作の対象の
談話的属性,具体的には,その定性 definiteness とも関係している。
動作の対象が定である場合,つまり,動作の対象について,聞き手が一通りに
特定可能であると話し手が考える場合は,派生形ではなく,語基の他動詞が用い
られる傾向が強い。特に,動作の対象を表す言語形式が既に談話に導入されてお
り,それゆえ定であるとみなされる場合には,常に語基の他動詞が用いられる。
例えば,(7)のように,動作の対象を表す語が,先行する文において既に現れてい
る場合,自動詞は用いることができない。
18
この節でここまで述べた接頭辞 N-による派生形の構文上の特徴については,Wouk (2002: 300-310)で既に
言及されている。
19
この言語では,不完了的な内容を表す動詞が名詞を修飾する際,主名詞と修飾要素である動詞が同一の
強勢の単位を形成する。(全体の強勢が最後の語の末尾に置かれる。)ここではこの現象を,二つの単語
を等号記号=で結ぶことによって示した。
70
アジア・アフリカの言語と言語学
4
(7)(早くご飯を食べさせてくれとせがむ子どもに対する母親の返答。)
ku=nepé.
(a)
ao’, anak é,
ta
muntu20
1SG=N-winnow
yes child INTERJ this PROG
(b)
(c)
ka
mo
PAST
MM
ta
this
PROG
muntu
suda
finish
ku=tuja’
1SG=polish rice
padé=ta.
plant=this
ku=tepé (*nepé).
1SG=winnow (*N-winnow)
(a) 「はいはい。私は今,風選(箕を使って米と籾殻をよりわける
作業)を行っているところだよ。」
(b) 「私はもう,この米をつき終えた。」
(c) 「今,
(その米を)風でよりわけているところだよ。」[BL019-020]
(a)-(c)いずれの節が表す状況においても,動作の対象は,母親が炊こうとしてい
る「米」である。(a)と(c)の表す状況は,いずれも,風選を行うという動作を含ん
でいるが,この動作は,(c)では他動詞 tepé で表されているのに対して,(a)では,
その他動詞を語基とする自動詞 nepé で表されている。
(c)で他動詞 tepé と自動詞 nepé を置き換えた文は容認されない。これは,ここで
の動作の対象を表す要素を指す要素 padé=ta「この米」が,既に先行する(b)に現
れているからだと考えられる。
また,動作の対象が発話の場に存在し,それゆえ定であるとみなされる場合も,
派生形ではなく,語基の他動詞が用いられるのが普通である。漁の後,目の前に
獲物の魚を置いて,それについて「誰が捕ったのか」聞く場合には,(8)のように
他動詞が用いられる。
(8)
sai
adè
ka=tumpan’ dèta (jangan=ta).
NOM
PAST=get
this (fish=this).
who
「誰がこれ(この魚)を捕ったのですか。」
このような場面においては,(9)のような派生形の自動詞 numpan’は用いること
ができない。
20
muntu はここでは PROG とグロスを振ったが,本来は「とき」を表す名詞で,後続する節(述部 ku=nepé
‘1SG=winnow’)による修飾を受けている。この文を先行する近称の指示詞 ta ‘this’も含めて逐語的に訳すと,
「これは,私が風選を行っているときである」となり,この文につけた訳「私は今風選を行っているとこ
ろだよ。」はそれを意訳したものである。
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
(9)
71
sai
adè
ka=numpan’?
NOM
PAST=N-get
who
「獲物をとったのは誰ですか?」
上記のような条件があるため,一般に,派生形の自動詞は,当該の発話におい
て,動作の対象に言及する必要がない場合,つまり,発話の意図が,動作の種類
を特定することであり,動作の対象の種類を特定することではない場合,あるい
は,動作の対象が一般的な常識,あるいは,まわりの状況などから明らかである
場合に用いられる。たとえば,(9)のような文は,皆で漁をしているという状況の
中で,動作の対象(ここでは魚)の種類が明らかであるような場合に,その対象
についてそれ以上特定することなく「誰に収獲があったか」と聞く場合に用いら
れる。
派生動詞は,やや特殊な意味を表す場合もある。以下にいくつか例を示す。
接頭辞 N-の例
mongka’「ご飯(米)を炊く」< bongka’「~(穀類一般)を炊く,煮る」
notang’「思慕する」< totang’「~を思い出す」
mili’「果実の収穫や落ち葉拾いを行う」< pili’「選ぶ」
nyamóng「口答えをする」< samóng「~に返事をする」
接頭辞 bar-の例
ra-buya「生計の手段を求める」< buya「探す,求める」
ba-kakan「おやつなど食事以外でものを食べる」< kakan「食べる」
ba-garu’「騒ぎを起こす」< garu’「邪魔する」
ra-mili’「えり好みする」< pili’「選ぶ」
ba-turét「人のいいなりになる,列を作って歩く」< turét「ついて行く」
既に述べたように,派生形の動詞でこのパターンを取るものは,動作の対象を
表す要素とは共起しないという制約を持つ。上記の動詞は,そのような制約の下,
常に一般的な事物をその対象とする形で,あるいは,語基の表す動作から最も連
想されやすい特定の事物を動作の対象とするような形で,意味変化したものと思
われる。
4.2 Aが減項の対象となるタイプ
接頭辞 N-による派生形は,3 例が確認されている。
nyompo’「人の肩に乗る」< sompo’「誰かを肩車する」
mamóng「におい(悪臭)を放つ」< pamóng’「においをかぐ」
ngulèng「開く,開いている」< ulèng「開ける」
72
アジア・アフリカの言語と言語学
4
接頭辞 bar-による派生形では,以下の 5 例が確認されている。このペアの派生
形はいずれも変化のプロセスではなく,変化の結果としての状態を表す。
ba-campér「混ざっている」< campér「混ぜる」
ba-dadi「広がっている,大きくなっている,増えている」
< dadi「~になる」
ba-kala’「沸騰している」< kala’「煮る」
ramamóng’「ばれている」< pamóng’「においをかぐ」
ba-tukar「(ものなどが)入れ替わっている」< tukar「交換する」
4.3 その他のタイプ
接頭辞 N-による派生形のうち,次の 6 例が A が減項されているとも,P が減項
されているとも言い難いタイプである。
manéng’「水浴びをする」< panéng’「水浴びをさせる」
mutar「回転する」< putar「回転させる」
méngkó’「自身の方向を変える」
< péngkó’「(家畜などを)方向転換させる」
nalat「地中に潜る」21< talat「埋める」
nèmpèl「くっつく」< tèmpèl「貼る」
他動詞 panéng’「水浴びをさせる」とそれを語基として派生した動詞 manéng’「水
浴びをする」の例を示す。
(10)
ka=ku=panéng’
tódé=nan
léng aku.
PAST=1SG=give.a.shower child=that
by
1SG
「私はその子に水浴びをさせる。」
(11)
ka=ku=manéng’
aku
PAST=1SG=take.a.shower
1SG
「私は水浴びをした。」
接頭辞 bar-による派生形の中では,次の 12 例がこのタイプに分類される。
ra-misó’「自分の体を洗う,排便後尻を洗う」< bisó’「洗う」
ra-buka「断食後,物を食べる」< buka「開ける」
ra-bètak「最後の息を引き取る,引く」< bètak「引っ張る」
ba-sebo「朝食を取る」< sebo「冷ます」
21
nalat という形は「(稲などを)植える」という意味で用いられることもある。この場合は[1]の逆受動的
対応を示しているということになる。
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
73
ba-sisér「自分の髪をとかす」< sisér「髪をとかす」
ba-sió’「隠れる」< sió’「隠す」
bar-ósó「自分のからだをこすって洗う」< ósó「こする」
bar-ètè’「結婚している」< ètè’「取る」
ba-ganti「交代する」< ganti「代える」
ba-gentan「交代する」< gentan「代える」
bar-óló’「性交する」< óló「置く」
ba-rempók「争う」< rempók「何度も叩く」
bar-ulèng「一緒に服を脱いでからだを見せ合って遊ぶ」
< ulèng「開ける,(服などを)脱ぐ」
他動詞 sió’「隠す」とそれを語基とする自動詞 basió’「隠れる」の例を示す。
(12)
(13)
ku=sió’ tódé=ta, léng
apan léng tau.
person
1SG=hide child=this because chase by
「私はこの子どもが人に追われているので,かくまっている。」
ba-sió’
nya léng
apan léng tau.
BAR-hide.oneself 3
because chase by
person
「彼は人に追われて身を隠している。」
4.4 第4節のまとめ
以上,3.1-3.3 で接頭辞 N-および bar-が他動詞の自動詞化に関わる場合について
見て来た。123 の他動詞語基について付接可能性を試した結果,接頭辞 N-は 77
(62.6%)の語基に,接頭辞 bar-は 56 (45.5%)の語基に付接可能である。また,自動
詞化のパターンは(1) P が減項されるタイプ,(2) A が減項されるタイプ(多くは結
果動詞),(3)その他の三種類に分かれる。2 つの接頭辞のパターン別分布は以下
のとおりである。(付接可能語基に対する割合を付した。)
接頭辞N接頭bar-
表1 接頭辞N-とbar-のパターン別分布
(1) Pが減項される (2) Aが減項される
(3)その他
タイプ
タイプ(結果動詞)
68 (88.3%)
3 (3.9%)
6 (7.8%)
42 (75%)
5 (8.9%)
12 (21.4%)
この節の冒頭で述べたように,接頭辞 N-,接頭辞 bar-による派生プロセスは,
いずれも予測不可能で不規則なものであるが,2 つの接頭辞の分布のばらつきに
は多少の違いが見られる。接頭辞 N-は,比較的,付くことのできる語基が多く,
また,その自動詞化パターンも(1)の P が減項の対象となるタイプが圧倒的に多い。
74
アジア・アフリカの言語と言語学
4
一方,接頭辞 bar-は,比較的付くことのできる語基が少なく,また,その自動詞
化タイプのばらつきも比較的大きい。
5.
Malayicとの比較
本節では,第 4 節の内容を踏まえ,二つの接辞による派生プロセスにみられる
不規則性の背景について,近隣諸語との比較による考察を行う。
本稿の冒頭で述べたように,スンバワ語は,スンディックグループの中で,さ
らに,西隣のササク語,バリ語とともにバリ-ササクグループを形成していると考
えられている。しかし,この最も近いと考えられている 2 言語のうち,ササク語
に関しては,現時点では十分な研究がされていない22。また,バリ語は接頭辞 barの対応形に関して,形式の上でも機能の点でも相当程度,異なる特徴を示す。(一
般に,バリ語での対応形は結果相を表す接頭辞 ma-であるとされているが,その
対応関係は必ずしも確実であるとはいえない。)
スンバワ語の近隣に位置し,比較的近い系統関係にあると考えられる言語のう
ち,本稿で扱って来た接辞に関して,スンバワ語と対応関係が明確で,信頼に足
るデータが存在するのは,Adelaar (1984, 1992)が Malayic と呼び,比較による祖語
再建を行っているマレー語を中心とする 6 言語23である。ここでは,それらの言語
を比較の対象とする。
5.1 接頭辞N-に対応する形
スンバワ語の接頭辞 N-に対応する Proto-Malayic の形として Adelaar (1992)が立
てているのは*mAN-(A の音価は不明)である。この形の反映形は現代マレー語
では meN-,その他の Malayic ではおおむね語基の語頭音と調音位置が同じ鼻音(N-)
という形で現れる。Malayic 諸言語は,ほとんどすべてが二つの態 Actor Voice と
Undergoer Voice の対立を持ち,*mAN-の反映形は前者(Actor voice)のマーカーとし
て用いられる。後者の態には動詞の無標の形が現れることが多い。(ただし,マ
レー語の非標準変種にはこの種の態の対立を持たないものもある。この点につい
ては,後で触れる。)
以下にインドネシア語の例を示す。
(14)が Undergoer voice の例,(15)が対応する Actor voice の例である。(14)には無
標の他動詞が現れているのに対して,(15)では動詞に接頭辞 meN-のついた形が現
れている。
22
Wouk (2002:286-287)はササク語に関して,本稿で扱う 2 つの接辞 N-, bar-の対応形としてそれぞれ N-と
be-を挙げている。このうち N-の機能に関しては,この節で扱う Malayic と同様であることが示されている
が,be-の機能についてはほとんど言及がない。
23
この 6 言語とは,標準マレー語,ミナンカバウ語,バンジャル語,中期マレー語,イバン語,ジャカル
タマレー語で,いずれもスンバワ語と同じスンディックグループに属する。
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
(14)
Surat itu
saya
baca.
0-read
letter that
1SG
[ 主語 ]
「その手紙は私が読む。」
(15)
Saya
mem-baca surat itu.
meN-read letter that
1SG
[主語]
「私はその手紙を読む。」
75
このような態の対立はほとんどすべての他動詞に見られる。(つまり,接頭辞
meN-はほとんどすべての他動詞に規則的に付接可能である。)
Undergoer Voice/ Actor Voice というラベルが示すように,(14)では動作の対象を
表す語が,(15)では動作主を表す語が主語として機能する24。つまり,(14)の構文
では主語であった動作の対象を表す語が,(15)では非主語の位置に「降格」し,(14)
では非主語であった動作主を表す語が(15)では主語に昇格している。この点でイン
ドネシア語の meN-形他動詞の構文は,有標な形を取るという形態的な面からも,
構文の機能的な面からも,逆受動文的特徴を持つといえる。
第 4 節で扱ったスンバワ語の対応形(接頭辞 N-による派生形)は,そのほとん
どが動作の対象と共起することがない P が減項の対象となるタイプの自動詞であ
るという点で,Malayic とは異なる特徴を持つ。ただし,スンバワ語の対応形のこ
のような特徴は,現在の Malayic 諸言語に見られ,また,Malayic 祖語においてこ
の接辞が持っていたと考えられる,動作の対象を表す要素の降格という逆受動的
特徴が,この言語独自の変化を経て,極端な形,すなわち完全な減項というとこ
ろまで進行した結果だと解釈することもできる。
Gil (2002)によれば,マレー諸語の非標準変種の中には,*(mb)Ar-の反映形がほ
とんど観察されず,Actor Voice/ Undergoer Voice の対立が存在しないものもある。
Gil (2002)はこのような状況の説明として,相反する 2 つの可能性,つまり,(i)過
去に祖語に存在した態のシステムが,非標準変種では崩壊したのだという可能性
と,(ii)祖語には(少なくとも現在のように確固とした形では存在しなかった)態
の対立が,比較的近年のマレー語(インドネシア語)の標準化と,学校教育によ
る全土への浸透の過程で,現在のような確立された形になったという可能性のい
ずれもがありうると述べている。
24
主語の定義の根拠としては,(i)語順と(ii)複文におけるふるまいが挙げられる。(i)に関していえば,主語
は文中での位置が比較的自由であるのに対して,主語以外の補語が現れる位置は,動詞の直前または直後
に限定されることが多い。また,(ii)に関していえば,関係節の主要部になったり,いわゆる co-referential
deletion を受けるのは主語のみである。(詳細は,Sneddon (1996)などを参照されたい。)
76
アジア・アフリカの言語と言語学
4
現在のスンバワ語にみられる接頭辞 N-の分布は,上記二つの仮説のうち,前者,
つまり,現在の態のシステムがある程度古い段階,つまり,スンバワ語が Malayic
から分岐した段階において,既に存在していたという可能性を支持するものであ
ると考えられる。第 4 節で見たように,接頭辞 N-は,(現状では独自の変化を経
て規則性を失っているものの)かなりの割合の他動詞に付接可能で,ほとんどの
場合,P の減項に関与している。このスンバワ語における P の減項を一種の(そ
して極端な形での)逆受動化であると考え,それを Malayic における対応形の機
能と考え合わせれば,この接頭辞は,共通の祖語においても逆受動的な性質を持
っていたと考える方が自然であると考えられるからである。
5.2 接頭辞bar-に対応する形
スンバワ語の接頭辞 bar-に対応する Proto-Malayic の形として Adelaar (1984)が立
てている形式は*(mb)Ar-である25。(A の音価は不明。)この形の現代標準マレー
語での形は ber-である。接頭辞 N-の場合と異なり,接頭辞 bar-は,Malayic の多く
の言語と,その不規則性という点で,類似の機能を持つ。いくつかの例外はみら
れるが,(mb)Ar-の反映形は,スンバワ語の bar-と同様,さまざまなタイプの自動
詞化(A が減項されるタイプ,P が減項されるタイプ,その他)を,語基の意味
からは単純に予測できないような不規則な形で担う26。Adelaar (1984: 411-413)がイ
ンドネシア語について挙げている例を引用する。
P が減項されるタイプ27
ber-buru「狩猟を行う」< buru「〜を追う,狩る」
ber-tolak「排除する,拒絶する。」< tolak「〜をおしのける」
A が減項されるタイプ
ber-campur「混ざっている」< campur「混ぜる」
ber-ganti「交換済みである」< ganti「交換する」
その他(多くは再帰/相互的内容を表す)
ber-bantah「口論する」< bantah「〜に反駁する,異論を唱える」
ber-kirim(-an)「送り合う」< kirim「〜を送る」
ber-tembak(-an)「打ち合う」< tembak「〜を撃つ」
ber-cukur「(自分の)ひげをそる」< cukur「(毛を)剃る」
25
この接辞の冒頭音は Adelaar が Malayic として扱っている 9 言語ではすべて b 音で現れているが,古いマ
レー語の碑文および Malayic と近い類縁関係にあると考えられるバリ語に m 音で現れている。Adelaar (1984)
は,現状では,この差異を適切に説明するような形での冒頭音を再建することが難しいことを認めたうえ
で,仮に(かっこつきで)mb 音をたてている。
26
インドネシア語の接辞 bar-の分布,機能の詳細については,佐々木(1983)を参照されたい。
27
Adelaar (1984: 411)はこのタイプの ber-形動詞が持つ意味的特徴を diffusion of action と呼んでいる。
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
77
以上の例からわかるように,マレー語の接頭辞 ber-は,スンバワ語の bar-とほ
ぼ同様の,不規則な分布を示している。(このことは,Malayic の他の言語に関し
てもいえる。)このことから,おそらく,この形は,Malayic とスンバワ語の共通
の祖語の段階で,既にこの種の不規則性を表していたのだと考えられる28。
5.3 まとめ
5.1,5.2 で行った,スンバワ語と Malayic との比較から,スンバワ語の「減項」
プロセスにみられる 2 つの接辞の不規則な形での共存は,接頭辞 N-が,古い段階
にあった Actor Voice の標示という機能から,独自の変化を経て,単純な自動詞と
しての機能を持つようになったことにより,比較的古くからあった接頭辞 bar-の
派生プロセスと競合するようになったため生じたのだと考えられる。
つまり,スンバワ語の接頭辞 N-は,従来は Malayic にみられるような規則的な
派生を行っていたのが,その構文が独自の発達をする中で,動作の対象を表す要
素と共起しなくなり,接頭辞 bar-形と機能が競合するようになった結果,類似の
意味を表す bar-形の単語が既に語彙化されていた場合にはその形が用いられなく
なったのではないかと思われる。
このように考えれば,接頭辞 N-の分布が,接頭辞 bar-と比べれば比較的単純で
あること(比較的多数の他動詞語基(62.6%)に付接可能であり,また,逆受動パタ
ーンを示す割合が高い(88.3%)こと)が説明できるだろう。
ただし,スンバワ語の接頭辞 N-に上記の変化を仮定する場合,少数とはいえ確
認されている例外(接頭辞 N-が再帰化や受動化を担うケース)について別に説明
を行う必要が生じる。一つの仮説として考えられるのは,これらの形が接頭辞ご
と,他の言語から借用された可能性である。この点は,例外の一つ一つについて,
近隣言語の語彙と比較し,出自を探ることによって確かめることができるかもし
れない。
6.
最後に
本稿では,スンバワ語における他動詞の自動詞化(減項)プロセスについて記
述し,このプロセスを担う 2 つの接頭辞 N-と bar-の不規則な共存について,歴史
的な視点から考察を行った。これはいずれの接頭辞にもいえることだが,この接
辞の出自をさらにさかのぼれば,Ross (2002)が指摘している,インドネシア諸語
の態のシステムの歴史に関わる興味深い問題にいきつく。オーストロネシア祖語
にはおそらく現在の台湾原住民後,フィリピン諸語にみられるような「フォーカ
28
ただし,この点については,共通の語基を持つ派生形の派生パターンの異同を見てさらに確かめる必要
がある。そうすれば,現在各言語にみられる派生パターンの不規則性が,共通の祖語にさかのぼることが
できるのか,それとも後の変化の結果であるのかがより明確になるだろう。
78
アジア・アフリカの言語と言語学
4
スシステム」(三つ以上の態の対立がみられるタイプ)が存在したと考えられる
が,そこからどのようにして今日のインドネシアタイプのシステム(第 5 節のイ
ンドネシア語の例に見られるような Actor Voice/ Undergoer Voice の対立を基本と
するタイプ)が生じたのか,という問いである。スンバワ語の接頭辞 N-, bar-, (そ
して,Malayic の*mAN-, *(mb)Ar-)に対応する形は現在のフィリピン諸語にもみら
れ,それゆえおそらくオーストロネシア祖語にさかのぼることができると考えら
れるが,この対応形の機能はフィリピン諸語とインドネシア諸語の間で統語的に
も意味的にも,少なくとも直接的な形では対応しない。この問いの具体的な解明
までには,全ての研究者にとって非常にたくさんのプロセスが残されているよう
に思われる。
上記の問題の解明には,いうまでもなく,より広い範囲のインドネシア諸語,
そして,より広くオーストロネシア諸語のデータを検討する必要がある。さらに,
その際には,本稿で扱った他動詞が語基である場合に議論を限定せず,拘束語根
や名詞が語基である場合も含めて包括的にその機能を捉える必要があるだろう。
略号/記号
1, 2, 3…
人称(それぞれ1人称,2人称,3人称)
未来
INTERJ
間投詞
MM (Mood Marker) 叙法辞
PROG
進行
NOM
名詞節形成詞
PAST
過去
SG
単数
<
派生関係を示す(派生先(派生語)< 派生元(語基))
FUT
転写に用いる記号(原則として,インドネシア語の正書法に則っている。)
・子音(IPA と異なるものについてのみ挙げる。)
ny (ɲ), ng (ŋ), c (ʧ), j (ʤ)
・母音
Close
Close Mid
Open Mid
Open
i [i]
é [e]
è [ɛ]
u [u]
ó [o]
e [ə]
o [ɔ]
a [a]
また,この言語では,語の最後に強勢が置かれ,強く発音される。この強勢は,
単語によっては他の語より特に強く現れ,単語が開音節または ng [ŋ]で終わる場合
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
79
は,統語的条件によって声門閉鎖音や下降音調を伴う場合がある。そのような語
には語末にアポストロフィを付けて示した。
例:
tunóng’「燃やす」 tunóng「寝る」
popo’「洗う」
popo「魔法をかける」
本研究のデータ
本研究のデータは,1996 年から 2009 年の間に,のべ約 10 か月間行った筆者自
身の現地調査によるものである。調査の拠点は,スンバワ県東部の町,ウンパン
(Empang),および,スンバワ県中心部の都市,スンバワ・ブサル(Sumbawa Besar)
である。この 2 つの地点で話されている言語は,スンバワ・ブサル方言と呼ばれ
る,この言語の中では比較的標準的とされる方言である。
聞き取り調査は,主に以下のスンバワ語話者の協力を得て行った。
Dedy Mulyadi(デディ・ムリヤディ)
男性 1975 年 Empang 生まれ。両親はいずれも Empang の出身である。
1987 年 (12 歳) 家族とともに Taliwang に移る。
1990 年 (15 歳) 高校進学のため Sumbawa Besar に移る。
2000 年 (25 歳) 結婚のため Sumbawa Besar 郊外の村 Desa Pungka に移り,
現在に至る。
参
考
文
献
[英文]
Adelaar, Karl Alexander. 1984. “Some Proto-Malayic Affixes”. Bijdragen tot de Taal-, Land- en Vilkenkunde, 140/4.
pp. 402-21.
Adelaar, Karl Alexander. 1992. Proto-Malayic: The Reconstruction of its Phonology and Parts of its Lexicon and
Morphology. Canberra: Research School of Pacific Studies, Department of Linguistics, Australian National
University.
Cooreman, Ann. 1994. “A Functional Typology of Antipassives”. In Fox, Barbara and Paul J. Hopper (eds.). Voice
Form and Fuction. Amsterdam/ Philadelphia, John Benjamins. pp. 49-88.
Dyen, Isidore. 1982. “The present status of some Austronesian subgrouping hypotheses”. In Amran Halim, Lois
Carrington, and S. A. Wurm (eds.). Papers from the Third International Conference on Austronesian Linguistics.
Camberra: Research School of Pacific Studies, Australian National University. pp. 31-35.
Gil, David. 2002. “Prefixes in Malay/ Indonesian dialects”. In The History and Typology of Western Austronesian
Voice Systems. Camberra: Research School of Pacific and Asian Studies, The Australian National University. pp.
241-283.
Nishiyama, Kunio, and Herman Kelen. 2007. A Grammar of Lamaholot, Eastern Indonesia. Muenchen: Lincom
Europa.
Wouk, Fay. 2002. “Voice in the Languages of Nusa Tenggara Barat”. In Fay Wouk, and Malcom Ross (eds.). The
80
アジア・アフリカの言語と言語学
4
History and Typology of Western Austronesian Voice Systems. Camberra: Research School of Pacific and Asian
Studies, The Australian National University. pp. 285-309.
Ross, Malcolm. 2002. “The History and Transitivity of Western Austronesian Voice and Voice-marking”. In Fay
Wouk, and Malcom Ross (eds.). The History and Typology of Western Austronesian Voice Systems. Camberra:
Research School of Pacific and Asian Studies, The Australian National University. pp. 17-62.
Sneddon, James Neil. 1996. Indonesian: A Comprehensive Grammar. London/ New York: Routledge.
Tryon, Darrell T. 1995. “Introduction to the Comparative Austronesian dictionary”. In Darrell T. Tryon (ed.).
Comparative Austronesian Dictionary, And Introduction to Austronesian Studies, Part1: Fascicle1. Berlin/ New
York: Mouton de Gruyter. pp. 1-44.
[日本語]
アジア・アフリカ言語文化研究所.1967.『アジア・アフリカ言語調査票〈上〉』.東京:東京外国語大
学アジア・アフリカ言語文化研究所.
佐々木重次.1977.「インドネシア語の動詞体系におけるBER-動詞とME-動詞の対立の意味(その1)」.
『東京外国語大学論集27』.pp. 67-87.
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
81
Appendix 接頭辞N-,接頭辞bar-の付接する他動詞語基のリスト
・話者に容認されない形には*を付した。また,容認性に関して話者の判断が一定
しなかった形には(*)を付した。
・N-が付接した形のうち,命令文に用いられないものには#を付した。
[A] 接頭辞N-, bar-の両方が付接するもの
語根
ajak
日本語訳
誘う
N-が付接した形
#ng-ajak「勧誘する」
bolang
投げる,捨てる
gambar
gigél
描く
噛む
kela’
pamóng’
煮る
においをかぐ
#molang「投げる,捨てる(無
駄遣いする)」
ngambar「絵をかく」
#ngigél「噛んで放さない,
噛み切れないものをずっと
噛み続ける」
(*)ngela’「煮る」
#mamóng’「悪臭を放つ」
panéng’
水浴びをさせ
る
握る
manéng’
「水浴びをする」
マッサージす
る
答える
持ち上げる
選ぶ
merés
「マッサージする」
nti’
perés
samóng
s-entèk
pili’
rék
#ngenti’「握る」
#nyamóng「口答えする」
#nyentèk「持ち上げる」
mili’「上から落ちてきたた
くさんの果実や木の葉など
を取る」
#(*)merék「脱穀するために
米を踏む」
#nyió’「隠す」
#nyisér「髪をとく」
#nukar「交換する」
nurét「従う」
sió’
sisér
tukar
turét
踏む,足をのせ
る
隠す
髪をとく
交換する
付いて行く
ukér
測る
ulèng
開く
#(*) ng-ukér
「測量する」
#ng-ulèng「開いている」
ètè’
取る
#ng-ètè’「追い越す」
bar-が付接した形
bar-ajak「仕事などの募集を行
う」
ra-bolang
「廃棄する」
ba-gambar「絵をかく」
ba-gigél「咀嚼する」
ba-kela’「沸騰する」
ra-mamóng’
「(悪事等が)ばれる」
ra-panéng
「水浴びをさせる」
bar-enti’「握っている,責任を
取る」
ra-perés
「マッサージする」
ba-samóng「答える」
ba-sentèk 「持ち上げる」
ramili’「えり好みする」
barerék「踏む」
ba-sió’「隠れる」
ba-sisér「自分の髪をとく」
ba-tukar「入れ替わる」
ba-turét「人の言いなりになる,
順番を守って歩く」
bar-ukér 「測量する」
bar-ulèng「一緒に服を脱いで互
いの体を見せ合う」
bar-ètè’
「結婚している」
[B]接頭辞N-は付接するが接頭辞bar-は付接しないもの
baca
beli
coba
ingo’
読む
買う
試す
見る
#maca「暗唱する」
#meli「買い物する」
#nyoba「試す」
#ng-ingo’「見る」
*ra-baca
*ra-beli
*ba-coba
*bar-ingo’
82
アジア・アフリカの言語と言語学
inóm
jét
kali
kokèk
kukés
kèlo
lanyak
loat
lokèk
lèla’
panto
parku’
patèk
pelèntong
pikér
pina’
popo
popo’
poyong
pukél
putar
pènok
péngkó’
racén
sa-lés
sapu
sempét
seru
sikat
siong
suróng
sepan
sèsèk
sét
sompo’
sólé’
sóró
talat
tanam
telét
ng-inóm「飲む」
ngejét 「裁縫をする」
#ngali「(典型的には井戸や
墓,用水など大きいものを)
掘る」
剥く
#ngokèk「剥く」
蒸す
#ngukés「蒸す」
だます
#ngèlo「だます」
足の裏でける
#me-lanyak「足の裏でける」
薄切りにする
#me-loat「薄切りにする」
剥く
#me-lokèk「剥く」
なめる
#me-lèla’「なめる」
(テレビ等を) manto「(テレビ等を)みる」
みる
斧で切る
#marku’「斧で切る」
飼う,面倒を見 #matèk「飼う,面倒を見る」
る
投げる
#melèntong「投げる」
考える
mikér「考える」
作る
#mina’「性交する」
魔法をかける
#mopo「魔法をかける」
洗濯する
mopo’「洗濯する」
包む
#moyong「包む」
殴る
#mukél「殴る」
~の周囲をま
mutar「回転する」
わる
のぞく
mènok「のぞく」
(家畜,のりも méngkó’「自身の向きを変え
のなど)を方向 る」
転換させる
毒を盛る
#me-racén「毒を盛る」
出す
#nyalés「出す」
掃く
nyapu「掃く」
送る
#nyempét「送金する」
炒める
#nyeru「炒める」
ブラシで磨く
#nyikat「ブラシで磨く」
煎る
#nyiong「煎る」
押す
#nyuróng「押す」
呼ぶ
nyepan「神様のことを考え
る」
織る
nèsèk, nyèsèk「織る」
噛む
#ngesét「噛む」
肩車する
nyompo’「肩車される」
借りる
#nyólé’「借りる」
(典型的には行事のため近
所から必要な食器を借り
る)
盗む
#nyóró「盗む」
埋める
nalat「稲を植える,土の中
に入っていく」
植える
#nanam「植える」
指差す,指示す #nelét「指差す,指示する」
る
飲む
縫う
掘る
4
*bar-inóm
*bare-jét
*ba-kali
*ba-kokèk
*ba-kukés
*ba-kèlo
*ba-lanyak
*ba-loat
*ba-lokèk
*ba-lèla’
*ra-panto
*ra-parku’
*ra-patèk
*ra-plèntong
*ra-pikér
*ra-pina’
*ra-popo
*ra-popo’
*rapoyong
*ra-pukél
*ra-putar
*ra-pènok
*ra-péngkó’
*ba-racén
*ba-sa-lés
*ba-sapu
*ba-sempét
*ba-seru
*ba-sikat
*ba-siong
*ba-suróng
*ba-sepan
*ba-sèsèk
*baresét
*basompo’
*ba-sólé’
*ba-sóró
*ba-talat
*ba-tanam
*ba-telét
塩原朝子:スンバワ語の減項にかかわる接頭辞N-とbar-
tetak
切る
totang’
覚えている,思
い出す
搗く
書く
助ける
tuja’
tulés
tulóng
tumpan’
見つける,取り
戻す
tunóng
tutóp
tèmpèl
udét
èjèk
焼く
閉める
貼る
たばこを吸う
あざける,から
かう
bawa
panang
運ぶ
傍観する
#netak
「型紙通り布を切り抜く」
#notang’「思慕する」
nuja’「搗く」
nulés「書く」
#nulóng「(近所の行事など
を)手伝う」
#numpan’
「探していた物をみつけ
る」
#nunóng「焼き物をする」
#(*)nutóp「閉める」
nèmpèl「くっついている」
ng-udét「たばこを吸う」
#ng-èjèk「あざける,からか
う」
*ba-tetak
*ba-totang’
*ba-tuja’
*ba-tulés
*ba-tulóng
*ba-tumpan’
*ba-tunóng
*ba-tutóp
*batèmpèl
*bar-udét
*bar-èjèk
[B]’ [B]のうち特殊な意味的対応を示すもの
mawa 「荷物」
manang 「立つ」
*ra-bawa
*ra-panang
[C]接頭辞bar-は付接するが接頭辞N-は付接しないもの
angkét
持ち上げる
*ng-ankét
antat
*ng-antat
bada’
bau
bisó’
連れて行く,持
って行く
伝える
手に入れる
洗う
buka
開ける
*muka
buya
探す,求める
*muya
bèang’
与える
*mèang
bètak
引く
*mètak
campér
混ぜる
*nyampér
dadi
〜になる
*nadi
dagang’
ganti
garu’
売る
換える
邪魔する
*nagang’
*nganti
*ngaru’
gentan
gerék
giléng
換える
振る,揺らす
挽く
*ngentan
*ngerék
*ngiléng
*mada’
*mau
*misó
bar-angkét「(大勢で)何かを
運ぶ作業を行う」
bar-antat
「連れて行く,持って行く」
ramada’「伝える」
ra-bau「漁をする」
ra-misó’「トイレの後に自分
の尻を洗う,自分の体を洗
う」
ra-buka
「断食の後で物を食べる」
ra-buya
「生計の手段を探す」
ra-bèang’「気前よく与える。
常に与える」
ra-bètak「引く,最後の息を引
き取る」
ba-campér「混ざる,混じって
いる」
ba-dadi「広がる,大きくなる,
増える」
ba-dangang’「商売をする」
ba-ganti「交代する」
ba-garu’「人の邪魔をする,
騒ぎを起こす」
ba-gentan「交代する」
ba-gerék「振る,揺らす」
ba-giléng「挽く作業をする」
83
84
アジア・アフリカの言語と言語学
gita’
gorèk
itóng’
jual
kakan’
見る
線を引く
計算する,数え
る
売る
食べる
4
*ngita’
*ngorèk
*ng-itóng’
ba-gita’「見る」
ba-gorèk「線を引く」
bar-itóng’「勘定をする」
ba-jual「売る」
ba-kakan’「おやつなど食事以
外のものを食べる」
ba-kènang’「使う」
ba-kelèk「呼ぶ,叫ぶ」
ra-menong’
「聞く」
ba-rentok「見張る,ガードす
る」
ba-rempak
「足をふみならす」
barempók
「争う」
barentas
「洗う」
ba-jamaté, ba-samaté「人殺
しをする」
ba-sebo「朝食を取る」
ba-sedia「準備をする」
ba-satama’「入れる」
batari「待機する」
bare-to’「知識を得る」
bar-óló’「性交する」
bar-ósó「自分の体を洗う」
kènang’
kelèk
menong’
(*penong’)
ntok
使う
呼ぶ
聞く
*nyual
*ngakan (意味的に対応する
形はmangan「食事をする」
*ngènang
*ngelèk
*ngemenong’
守る,見張る
*ngentok
rempak
踏みつける
*merempak
rempók
何度も叩く
*ngerempók
rentas
洗う
*merentas
sa-maté
殺す
*nyamaté
se-bo
sedia
sa-tama’
tari
to’
óló’
ósó
冷ます
準備する
入れる
待つ
知っている
置く
磨く
*nyebo
*nyedia
*nyatama’
*nari
*ngeto’
*ng-óló’
*ng-ósó
beri’
bilén
osap
perèksa
potong
好む
置き去る
ぬぐう
調べる
布を型紙どお
り切り抜く
閉める
火にかける
受け取る
[D] いずれの接頭辞もつかないもの
sampat
tedéng
terima
*meri’
*milén
*ng-osap
*merèksa
*motong
*ra-beri’
*rabilén
*barosap
*ra-perèksa
*ra-potong
*nyampat
*nedéng’
*nerima
*basampat
*ba-tedéng
*ba-terima
Fly UP