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地上と上空の気温差で形状記憶合金を変形(PDF:764KB)

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地上と上空の気温差で形状記憶合金を変形(PDF:764KB)
概 要 形状記憶合金スマート構造体
地上と上空の気温差で形状
記憶合金を変形
名古屋大学大学院工学研究科 航空宇宙工学専攻 池田 忠繁准教授
POINT
技術のポイント
■用途展開
本技術の温度変化等に応じて多方向性特性を有するボルテックスジェネレータは、
航空機の飛行性能向上のほか、騒音低減をはじめ自動車の走行性能向上、風車の
強風時停止等への応用が期待されている。
・形状記憶合金の特性を利用した無電力での作動
・自ら環境を検知して判断し、最適な形状に変化するスマート構造体
☆航空機(飛行性能向上、騒音低減)
☆自動車(走行性能向上、騒音低減)
・単純構造、設置が容易
先端ものづくり関連産業
発明の用途イメージ
~飛行機の運動性能や燃費を向上~
☆風車(強風時停止、層流から乱流への穏やかな遷移)
☆船舶、タービン、圧縮機、ターボポンプ等の部品への展開
現在の研究開発段階
基礎研究段階
試作段階
実用化段階
背景
エンジン
■飛行性能の向上
飛行機の翼は飛行経路中で最も時間の長い巡航時に、高速で重量分の揚力を得ること
ができ、同時にできるだけ抗力が小さくなるように設計されている。一方、離着陸時の低速
飛行時や旋回時には高い揚力を得るため、翼の迎角を大きくしたり、翼に設けられたヒン
ジ部分で翼形状を大きく曲げている。しかし、翼の迎角が限度を超えて増したり、翼の曲げ
が大きくなりすぎると空気の流れが翼表面から剥がれて抗力が大きくなるとともに、十分な
揚力が得られず、操縦性が低下する懸念がある。
そこで、翼の迎角や曲がりが大きくなる離着陸時に翼表面で発生する流れの剥離を抑
制するため、翼表面に長方形や台形等の板状のボルテックスジェネレータ(用語1)が設
置される場合がある。かつて500系新幹線のパンタグラフに付けられた風切り音防止のた
めの突起もボルテックスジェネレータである。しかし、巡航時には航空機の運動性能や燃
費の観点から大きな問題となる。
従来技術より優れている点
風車
ウイングレット
自動車
中小企業への期待
■形状記憶合金材料の活用
・昇温時と降温時の変形温度差の小さい形状記憶合金材料の開発を期待している。
■設置が容易、無電力で作動のボルテックスジェネレータ
形状記憶合金の性質と、地上と巡航飛行時の約70℃の気温差を利用し、自律的に形状
変化するボルテックスジェネレータを開発した。構造が簡単で故障しにくく、修理やメンテ
ナンスも容易なうえ、取り付けも簡単であり、無電力で作動する特長がある。
用語
1.ボルテックスジェネレータ:ボルテックスジェネレーターは、航空機の主翼上面にみられる小さな
突起物であり、主翼上面に渦を作り、空気の流れを剥がれにくし、揚力を安定させる機能を持つ。
自動車や電車の走行安定性を高める目的で使用される事もある。
01
・形状記憶合金材料の特性をいかした各種用途への展開を期待している。
問合せ先
国立大学法人 名古屋大学 研究協力部 社会連携課
電話番号:052-789-5545
02
形状記憶合金スマート構造体
効果
技術の特長
飛行機は,離着陸時に翼後方のフラップが下方へ折れ曲がる構造を有するが、こ
の時、空気の流れが翼表面から剥離すると航空機を浮かせる力を著しく減少させ、
かつ、進行方向とは逆向きの力が発生する。これを防止するための手段のひとつと
して、ボルテックスジェネレータを翼面上に設置する。しかし、このようなボルテックス
ジェネレータはフラップを下げた離着陸時には必要だが、定常飛行時には抵抗にし
かならない。そこで、形状記憶合金(SMA)の性質と地上と定常飛行時の約70℃の
気温差を利用し、自律的に形状変化するスマートなボルテックスジェネレータ(SVG)
を提案している。このSVGにより、飛行機の場合、飛行性能と燃費の向上が期待で
きる。また、このSVGは空気力の変化によっても変形させることができる。
■従来の技術
ボルテックスジェネレータは翼面上のある位置から縦渦を発生させ、運動量の大き
い境界層の外側の流れを翼表面の遅い流れと混ぜることで翼表面の流れの運動量
を増加させて剥離の発生を抑制する。その機能の一方で翼の迎角や曲がりが小さく
なる巡航時には、ボルテックスジェネレータにより発生する渦によって翼表面の流れを
乱す乱流により抗力を増大させる欠点があり、飛行機の運動性能や燃費の観点から
は大きな問題。このためセンサーやアクチュエータを付加することにより昇降可能とし
たボルテックスジェネレータを備えた剥離制御装置が考えられている。
ボルテックスジェネレータ(VG)の効果
先端ものづくり関連産業
スマートボルテックスジェネレータ(SVG)のコンセプト
■効果の検証
簡易計算モデルによる動作確認シミュレーションを行った結果、スマートボルテックス
ジェネレータを取り付けた飛行機が0kmの地上から11kmの巡航高度まで上昇し、再び
0kmの地上に戻る場合、スマートボルテックスジェネレータの傾きは0kmではほぼ90
度の渦発生姿勢、高度4~8kmに上昇するとスマートボルテックスジェネレータは大きく
変形し、11kmではほぼ0度と抵抗低減姿勢になった。逆に、下降時は高度7kmから3km
の間に渦発生姿勢に戻った。
実際に動作可能かどうかを確認するため実証模型を製作した。板バネもスマートボル
テックスジェネレータと同程度変形することを考慮して超弾性合金板を用い、スマートボ
ルテックスジェネレータの変態温度は約50℃のものを用いた。コールドスプレーで冷却
すると模型は平らな方向へ倒れ、ヒーターで加熱すると起き上がって再び渦発生姿勢
になった。これによりスマートボルテックスジェネレータが温度変化だけで自律的に渦
発生姿勢と抵抗低減姿勢に変化することを確認した。
スマートボルテックスジェネレータにおける形状記憶合金(SMA)の形態変化
ボルテックスジェネレータ
■本技術の特長
本技術では、単純構造で無電力で自律的に形状を変化させるボルテックスジェネ
レータとして、形状記憶合金を活用したボルテックスジェネレータ(スマートボルテック
スジェネレータ:SVG)を開発している。SVGの原理は、形状記憶合金の曲面板と自然
状態ではそれとは逆向きに反った板バネで構成する。形状記憶合金は通常、高温で
の形状は記憶できるが低温での形状は記憶できない。そこで、低温で変形しやすい性
質の形状記憶合金と板バネの復元力を利用して低温での希望形状へ変形させる。形
状記憶合金の性質が切り替わる温度(変態温度)はマイナス30~マイナス40℃に設定
する。
03
04
特許
形状記憶合金スマート構造体
【特許番号】 特許第4940434号(登録日:平成24年3月9日)
米国特許 8256720(登録日:平成24年9月4日)
カナダ特許 2622938(登録日:平成22年11月9日)
【発明の名称】 スマートボルテックスジェネレータ及びそれを備えた航空機、船舶、
回転機械
【特許権者】 国立大学法人名古屋大学
【発明者】 池田 忠繁
特許の内容
■要約
スマートボルテックスジェネレータは、流体の流れと境界をなす航空機の主翼等、
物体表面に配設される、少なくとも一部が形状記憶合金よりなる本体を備えている。
本体は、流体の昇・降温に応じて、形状記憶合金が高温側で安定な高温側安定相と
低温側で安定な低温側安定相とに相変態することにより、渦の発生により流れの剥
離を抑制しうる第1形体と、乱流を抑制しうる第2形体とに形体が変化する。このス
マートボルテックスジェネレータは、温度変化に応じて多方向性特性を発揮し、外部
からのエネルギー供給が不要で、構造が簡単であり、故障が発生し難く、かつ、修理
及びメンテナンスや既存の翼に対する取り付けも容易である。
発明者の関連技術、最近の研究例
■現在の研究内容
名古屋大学大学院の池田准教授の構造力学研究グループでは、形状記憶合金の
利用研究以外に下記研究が行われている。
・スマート構造物
形状を保持し、荷重を支えるために設計されていた従来の構造物とは異なり、構造
物自身が検知、駆動機能を有し、構造物の周囲の環境や内部状況の変化に対し、構
造物自らその変化を検知し、判断し、形状や機械的特性を最適化するスマート構造物
の研究を行っている。例えば、航空機の翼を鳥の翼のように滑らかに変形させたり、
人工衛星のアンテナ反射鏡の形状を軌道上で高精度に補正するための研究を行って
いる。
先端ものづくり関連産業
特許情報
発明者紹 介 形状記憶合金スマート構造体
・複合材
繊維方向によって熱力学特性が変化する繊維強化プラスチック複合材料に関して実
験および理論による現象理解や応用に関する研究を行っている。例えば、より軽量で
高強度・高剛性な構造を設計するために、刺しゅう機を用いて、目的に応じて最適な
方向へ曲線的に繊維を配置する研究や短い時間で低コストに複合材を製作できる熱
可塑樹脂を用いた複合材の成形と力学特性に関する研究を行っている。
・血管と血流の連成振動
病的な血管や手術時に人工心肺につながれた大静脈は、場合によっては、血管は
つぶれ、振動する場合がある。このような振動は血液成分や血管に悪影響を与える
ので、この血管と血流の連成振動メカニズムを理解するための、 基礎実験と数値解
析を行っている。
・声の生成
人間の声の生成では、喉の部分にある左右一対の柔らかいひだの声帯と声門と呼
ばれる声帯の隙間を通過する肺からの空気の流れが相互に干渉して発生する自励
振動がその音源となっている。声の生成メカニズムを明らかにすると供に、病的な声
の診断や手術手法の検討支援をするための研究を行っている。声帯の自励振動に直
接関係する、振動し、剥離し、再付着する流れの基礎的データの収集と一次元非定常
剥離再付着流理論の提案を行い、それを用い、正常または異常の声帯を持つ場合の
発声のシミュレーション解析を行っている。
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