Comments
Description
Transcript
形状記憶合金ワイヤの歪み量制御に関する研究
形状記憶合金ワイヤの歪み量制御に関する研究 辻善夫・渡辺哲史 Yoshio TSUJI,TetsushiWATANABE キーワード 形状記憶合金,PI制御,ヒステリシス EEY Shape WORDS 1 Memory Alloy,PIControl,Hysteresis はじめに 近年、医療用機器をはじめとする機器の小 型・軽量化が進み、更なる小型軽量化を実現す るためにマイクロアクチュエータの開発が期待 されている。ここで、形状記憶合金ワイヤ(Sape MemoryAlloyWire)は、常温(冷却時)では 糸のようにしなやかであるが、電流を印加する と自己加熱し、軸方向に収縮する性質を持つ。 また、出力重量比が大きく、駆動機構もシンプ ルになるため装置の小型化に有効である。この ため、SMAワイヤをアクチュエータに用いた 能動錯子やマイクログリッパに関する様々な研 究が行われてきた。(l)∼(3) 図1特性計測システム しかし、SMAワイヤはヒステリシスを持つ 非線形素子であるため、これを用いたマニピュ レータの高精度な位置制御は困難である。この ため現在までのところSMAワイヤをアクチュエ 試行1 ・闇討行2 ータとして用いた実用例は一部に限られてい そこで、本研究ではSMAワイヤの非線形性 V▲lノ▲_ を考慮した制御系を構成し、中間的な歪みへの 制御を行い、SMAマニピュレータの位置決め l 闘....... / る。 ▼7 -=----′試行3 【 5 精度を向上させることを目的とする。本報告で 10 は、SMAワイヤの特性計滞を行い、歪み制御 系を構成し、ステップ応答実験により制御系の 妥当性を検証した。 2 図2 SMAの特性計測 歪み応答(一定電流印加) 態(0.03m/s以下)で実験を行った。 2.1実験システム 2.2 実験に用いるTiNi系SMAワイヤの特性計測 システムの概形を図1に示す。SMAワイヤ(商 品名:BMFlOO、㈱トキコーボレーション製、 SMA 過疲応答 ワイヤの歪の過渡応答を調べるため、 140mAの一定電流を10秒間印加した。サンプリ ングタイムは10msである。この際、電流印加前 直径0.1mm)を長さエ=50mmに切断したもの を使用し、片端に錘玩=11.9g)を取り付け、鉛直 のSMAワイヤの温度を一定にするため、5分間 自然冷却を行った後、再び電流を印加する試行 方向に吊した。SMAワイヤに電流を印加するた を3回繰り返した。この時の各試行における盃 めにDC電流・電圧源(ADVANTSET製TR61 43)、変位を計測するためにLED式変位計(オム ロン製Z4WtV)を用いた。室温は29℃、無風状 の応答を図2に示す。試行毎に最大歪みは大き く異なり、一定電流を印加しただけでは、10秒 -83- 1 る事が予想される。 以内にSMAワイヤをある中間歪に制御すること は困難である事が分かった。 2.3 定常応答 月=′(g)=-45・9g+10・0 SMAワイヤに一定電流を3分間印加した場 合、SMA ワイヤの歪みは印加電流値に応じた一 定値に収束した。この状態における印加電流 J[A]と歪みどの関係を図3に示す。図中の○印 は印加電流を増加させた加熱過程における歪 み、×印は印加電流減少させた冷却過程におけ る歪みを示す。図3より、加熱過程と冷却過程 で電流一歪曲線には僅かな違いしか認められな かったため、本研究ではヒステリシスは考慮し ないこととする。また、中間歪み領域では僅か な電流変化によって歪みが大きく変わり、微小 歪み領域と大歪み領域では印加電流変化に対す 図4 歪み一抵抗図 る歪み変化は小さい事が分かる。ここで、加熱 制御系設計 SMAワイヤを中間盃領域において制御するよ 5 に示 う設計した制御系のブロック線図を図 3 過程の実測値を用い最小二乗近似で求めた区分 直線の式は以下のとおりである。これは、後に 述べる制御系で電流指示値を算出する際に用い る。 す。ここで、′ 1(坤ま式(2)の逆関数、毎払】 .05ト0.002(0くJ≦110[m勾) は比例ゲイン,屯[A/s]は積分ゲインを示す。図3 .28ト0.145(110<J≦160[血司)(1)より、全ての歪み領域において同等な歪み制御 g=g(∫)望g .03J+0.056恒0<J≦260[m司) 性能を得るためには、中間歪み領域における歪 み偏差£eに対する印加電流偏差ん[A]は微小歪 み領域における印加電流偏差に対して小さくす る必要がある。このため、式(3)のように電流誤 差左[A]算出時には、歪みの推定歪み誤差geに 応じて変化する係数 密 1(g) (式(1)の逆関数の dg 微分)を用いる。 図3 定常応答 J.・= 砲 1¢)‥∫ ×ge dg 2.4歪み推定 20 アクチュエータの小型化を図るためには、セ ×ge(g≦0.006) 0.78×ge(0.006<g≦0.06) (0.06<g) (3) ンサはできるだけ少ないはうが望ましい。これ までの研究では、SMAの盃と抵抗に相関がある ことが報告されており3)、本研究でもSMAの抵 抗から盃を推定する。 ×ge 図4に一定電流(J=170mA)を10秒間印加 した場合の、歪と抵抗皮[白]を示す。ここで、 抵抗月はSMAワイヤに印加した電流J[ⅢA]、SMA ワイヤ両端の電圧且[Ⅴ]より算出した。図中の点 は実測値、直線は最小二乗近似によって求めた 近似直線(式(2)、墓相関係数は0.94)であり、 抵抗と歪みには高い相関があることが分かる る。しかし、近似曲線に対して最大0.5〔〕の抵 抗のずれが存在しているため、この近似式を用 いた場合、歪みは目標に対して最大0.011異な 図5 4 ブロック線図 実験結果 提案した制御系の妥当性を検討するため、ス テップ状の目標盃∼(ど∫=0.04)に対してPI制 …84- 御実験を行った。制御ゲインはオーバーシュー ト を 生 じ な か っ た 値 を 採 用 し、 卑=5【A],幻=15[A/s】とした。図6中の中太一点 鎖線は目標歪、細実線、太実線、細点線は3回 の試行結果である。図より、各試行とも2砂以 内にはぼ同じ歪みに収束する事が分かる。また、 2)に比べて立ち 一定電流を印加した場合(図 上がりが早くなっている。また、目標歪に対し て定常偏差を生じているが、これは図4におい て算出した歪みの誤差の範囲内である。 5 おわりに SMAワイヤの抵抗値から歪を推定し、PI制 御を適用してSMAワイヤの歪み制御を行った。 ステップ応答実験の結果より、提案する制御系 によってSMAワイヤを中間歪に制御可能なこ とを確認した。また、盃の立ち上がり速度も一 定電流を印加する場合に比べ向上した。 しかし、歪みの推定精度不足が原因と考えら れる定常偏差が生じた。このためSMA両端の 電圧、電流計測方法について再検討を行い、歪 み推定精度の向上を図ることが今後の課題であ る。また、抵抗値以外の負荷やSMAワイヤの 表面温度等が歪に与える影響についても今後調 べる予定である。 参考文献 (1)本間,三輪,井口,形状記憶効果を利用したデ ィジタルアクチュエータ,日本機械学会 誌,4,-448,(1983),2163. (2)広瀬・生田・塚本,形状記憶合金アクチュエ ータの開発(材料特性の計測と能動内視鏡の開 発),日本ロボット学会誌,5-2,(1987),87. (3)児玉,長谷川,真島,ヒステリシスモデルを用 いた SMA アクチュエータの位置制御,機 論,`5-640,C(1999),4708. カ -____一J l 5 川 1声 一一一-・・・H・・・肌1相手 t【s】 図6 歪み応答(PI制御) -85-