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子どもの願いごとに関する理解やその効力への信念に対

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子どもの願いごとに関する理解やその効力への信念に対
Kobe University Repository : Kernel
Title
子どもの願いごとに関する理解やその効力への信念に対
する親の認識(Parents' view of their children's
understanding of wishing and their belief in its effects)
Author(s)
塚越, 奈美
Citation
神戸大学大学院人間発達環境学研究科研究紀要,1(1):3544
Issue date
2007-11-09
Resource Type
Departmental Bulletin Paper / 紀要論文
Resource Version
publisher
DOI
URL
http://www.lib.kobe-u.ac.jp/handle_kernel/80060005
Create Date: 2017-04-01
(35)
神戸大学大学院人間発達環境学研究科
研究紀要第1巻第1号 2007
研究論文
子どもの願いごとに関する理解やその効力への信念に対する親の認識
Parents’view of their children’
s understanding of wishing and their belief in its effects
塚越 奈美*
Nami TSUKAKOSHI *
要約:幼児の持つ願いごとの理解やその効力への信念について,親はどのように認識しているのかを明らかにした。Wolley,
Phelps, Davis, & Mandell(1999)を参考に,(1)子どもは願いごとをどのようなものだと理解していると思うか,またその効力
を信じていると思うか,(2)子どものもつ願いごとの効力に対する信念にどのように対応しているか,(3)願いごとに関する家
庭環境はどのようになっているか,の 3 点に着目した質問紙を作成し,幼稚園児(年少・年中・年長)を持つ親を対象に調査を実
施した。その結果,約 90% の親が「子どもは願いごとがかなうと信じている」と認識しており,「願いごと」ということばの理解
に子どもの年齢差はなかったが,「願いごと」ということばの使用は子どもの年齢の上昇とともに多くなることが明らかになった。
また,親は願いごとの効力に対する子どもの信念を否定するような対応はしないこと,人工物については科学的説明をおこなうの
に対し自然現象については科学的説明とともに魔術的説明もおこなうことが明らかになった。願いごとに関する内容が含まれてい
るメディアに触れる機会は,どの年齢別クラスでも約 50% があると答えており,その頻度も子どもの年齢による分布の差はなく,
週に 1 回,月に 1 回,年に数回の順に多いことが明らかになった。
信じている」というものである。このどちらが正しいのかについて,
1.問題と目的
七夕には短冊に願いごとを書いて飾ったり,クリスマス前には
願いごと(wishing)と祈り(prayer)*1に関する先行研究の結果
サンタクロースに手紙を書いたりする子どもの姿を目にすることが
から検討し,Woolley は次のような結論を導き出した。子どもが願
ある。Piaget(1929)は,このような子どもの行為は,心的世界と
いごとのような魔術的な因果関係を信じるのは心的世界と現実世界
現実世界との間の因果関係の理解が不十分であることに起因して
との間の区別ができていないからではなく,通常ありえる因果関係
いるととらえた。この考えは,長い間発達心理学の分野で支持され
についての理解を獲得する一方で,生活圏の文化からの影響を受け
てきた。しかし,1980 年代になり,子どもは 3 歳から 4 歳という
て,願いごとや祈りは通常の因果関係とは異なる特別なものとして
幼い頃からある内容や事柄を単に頭に思い浮かべるだけではそれが
とらえていくのではないかというものである。確かに,このように
現実にはならないこと,つまり心的世界と現実世界との間の因果関
考えれば,日常生活で比較的年齢の高い子どもが願いごとをする姿
係を早期から理解していることが示されるようになった(Woolley
を目にすることは不自然ではない。
& Phelps, 1994; Woolley & Wellman, 1993)
。このような知見から
それでは,実際に願いごとに関する先行研究では,どのようなこ
すれば,
「念じただけでそれが実現する」と考えて願いごとをおこ
とが明らかにされてきたのだろうか。Vikan & Clausen(1993) は,4
なうことは,3 歳から 4 歳以前の子どもにしかみられないはずであ
歳児から 6 歳児に,たとえば「家にいる母親に学校にいる子どもが
るが,実際には 4 歳以降にもみられる。このような矛盾について,
願いごとによって影響を与えようとする」などが描かれた絵を見せ,
Woolley(2000)は,次のような 2 つの可能性を考えた。1 つは「子
誰かが願いごとをするだけで他者に影響を与えることができるかど
どもが願いごとをすればそれがかなうというような魔術的な因果関
うかを判断させた。その結果,どの年齢もほとんどの子どもが(90%
係を信じているという逸話は事実ではなく,実証的研究をおこなえ
以上)頭で何かを考えて願うだけで他者をコントロールできると信
ば本当は心と外界との因果関係について正しく理解していることが
じていることが示された。
示される」というものであり,もう 1 つは「子どもは心と外界との
Vikan & Clausen は願いごとによって他者に影響を与えること
因果関係についてかなりの知識をもっていることが実証研究で示さ
が可能かどうかについてたずねたが,Woolley, Phelps, Davis, &
れてはいるが,本心ではまだ願いごとのような魔術的な因果関係を
Mandell(1999)は,願いごとを通して物理的な対象物に影響を及
*神戸大学大学院総合人間科学研究科博士後期課程
2007年4月1日
2007年6月1日
(
− 35 −
受付
受理
)
(36)
ぼすことが可能かどうかをたずねる研究をおこなった。Woolley ら
ら 6 歳児を対象に,願いごとをすると空箱に対象物が出現する現象
は,年少児(3・4 歳児)年長児(5・6 歳児)を対象に,願いごと
を見せ,その後,一人になった時に子どもがその現象の再現可能性
の概念を測定する質問と,願いごとの効力に対する信念を測定する
を試すかどうかに着目した実験をおこなっている。その結果,5 歳
質問から構成された実験をおこなった。願いごとの概念の測定に
児・6 歳児のほうが 4 歳児よりも願いごと行動を多く示したが,そ
ついては,
「なぜ願いごとをするのか」といった質問をおこなった。
れは自分が考えた複数の仮説の 1 つとして願いごとをするのであ
これに加え,大人,子ども,赤ちゃん,猫,犬,花,机の中で,願
り,その姿が大人からみれば未熟にみえるのではないかと解釈さ
いごとをする能力を備えているものはどれかについて判断を求めた
れた。しかし,Woolley らのように親への質問紙調査から,日常生
り,パペットに願いごとの方法を教えるように求めた。その結果,
活での子どもの様子を調べた研究は日本ではまだおこなわれていな
年長児は年少児よりも,願いごとをするためには「何かを考え,そ
い。Woolley らの研究は,アメリカでなされたものであり,日本に
れを言語化する必要性がある」と述べ,また,願いごとをすること
おいては文化の違いによって,異なった結果が得られる可能性も考
ができる能力を備えているのは「犬や猫よりも,大人や子ども,赤
えられる。そこで,本研究では,Woolley らの調査内容を参考にし
ちゃんである」と答えた。願いごとの効力に対する信念の測定では,
た質問紙調査を幼稚園児(年少・年中・年長)を持つ親を対象にお
「過去に願いごとをしたときに,それが実現したかどうか」
「大人で
こない*2,(1)子どもは願いごとをどのようなものだと理解して
あれば願いごとを実現させることができると思うか」などの質問に
いると思うか,またその効力を信じていると思うか,
(2)子ども
加え,子どもに空箱に願いごとをさせて実際にその願いごとがかな
のもつ願いごとの効力に対する信念にどのように対応しているか,
うと思うかどうかの判断をさせた。その結果,年少児は年長児より
(3)願いごとに関する家庭環境はどのようになっているか,につ
も「願いごとはいつでもかなう」と考える傾向にあり,
「空箱に願っ
いて調べることにした。現時点では,文化差による違いを十分に比
たものが出てくる」と答えた。このような結果から,年少児よりも
較検討できる知見が十分にない。しかし,日本における子どもの願
年長児のほうが,願いごとについての知識が豊かであり大人に近い
いごとに関する現状とそれに関する親の認知を記述することは,そ
概念を持っているが,その効力に対する信念には懐疑的なところが
のきっかけになるような知見を提供できると考える。
みられると解釈された。
2.方
以上から,子どもを対象とした実験場面では,就学前の子どもは
願いごとによって他者に影響を与えることが可能であると考えてい
法
(1)調査対象者
幼稚園に通う子どもの親 166 名(年少児 29 名,
年中児 70 名,年長児 67 名)であった。
るが,願いごとを通して物理的な対象物に影響を及ぼすことが可能
(2)質問紙の構成 Woolley, Phelps, Davis, & Mandell(1999) との
であると考える傾向は,年長児よりも年少児に強いということが示
比較をするために,Woolley らの質問項目を邦訳し,ほぼそのまま
されてきた。それでは,日常子ども達と接している親は,子どもの
の形で採用した。ただし,Woolley らでは,「子どものもつ願いご
願いごとに対する理解やその効力への信念をどのように認識してい
との効力に対する信念への親の対応」に関する項目は,
「現在,願
るのだろうか。また,子どもの持つ願いごとの内容はどのようなも
いごとの効力に対して子どもが示す信念へどのように対応している
のであり,親は子どもの願いごとの効力に対する信念にどのように
か」と「将来,願いごとの効力に対して子どもが示す信念へどのよ
対応しているのだろうか。
うに対応するか」という2つのみであった。そこで,本研究の質問
この点については,まだ十分に研究がおこなわれていないが,
紙では,これらに加え,どのような場面で願いごとのような魔術的
Woolley らは研究の一部で,日常生活の中で子どもが示す願いごと
な力を持ち出して応答するのかに関する質問項目を追加した。この
の知識とその効力に対する信念を親がどのように認知しているのか
質問項目作成にあたっては,想像の友達に関して親を対象にして調
について調査している。就学前の子ども(3 歳児から 6 歳児)を持
査した冨田(2002,2003)を参考にした。作成された質問紙は,
(1)
「子
つ親を対象に,(1)子どもは願いごとをどのようなものだと理解
どもは願いごとをどのようなものだと理解していると思うか,また
していると思うか,またその効力を信じていると思うか,
(2)子
その効力を信じていると思うか」に関する 6 項目(下位項目も含む),
どものもつ願いごとの効力に対する信念にどのように対応してい
(2)「子どものもつ願いごとの効力に対する信念にどのように対応
るか,(3)願いごとに関する家庭環境はどのようになっているか,
しているか」に関する 5 項目,(3)「願いごとに関する家庭環境
という 3 つの観点から構成された質問紙調査がおこなわれた。その
はどのようになっているか」に関する 10 項目(下位項目含む),計
結果,
(1)については,年長児は年少児よりも願いごとについて
21 項目で構成されていた(Table 1)。
よく知っているし,願いごとということばを理解し(年長児 90%,
年少児 42%)
,願いごとということばを使う割合が多いと親に認知
されていた(年長児 100%,年少児 71%)。(2)については,子ど
もの願いごとへの信念を否定するような応答は誰一人としてしない
ことが明らかになった。
(3)については,家族が願いごとをして
いるのを見たことがあるのは年少児(54%)よりも年長児(84%)
に多く,願いごとに関する本,テレビ番組,映画などに接触する機
会に年齢差はないが,その頻度は年長児よりも年少児に多いことが
明らかになった。
日本では塚越(2005,2007),Tsukakoshi(2006)が,4 歳児か
− 36 −
(37)
Table 1
質問項目の内容
(1)「子どもの願いごとの理解とその効力に対する信念に関する親の認知」
①お子さんは「願いごと」ということばを知っていますか?(はい,いいえ,わからない)
②お子さんは「願いごと」ということばを使いますか?(はい,いいえ,わからない)
・②で「はい」と回答された方にお聞きします。どのくらいの頻度でお子さんは自分から「願いごと」を話題にしますか?(日
常的に,時々,特別な行事のときだけ,こちらから働きかけたとき)
・②で「はい」と回答された方にお聞きします。お子さんがもっともよく「願いごと」ということばを使うのはどのような時で
すか?(複数回答可)
(何かが欲しいときにいつでも,誕生日プレゼントについて話すとき,七夕のとき,クリスマスプレゼ
ントについて話すとき,神社仏閣で,仏壇や墓の前で,星を見ているとき,物語を読んでいるとき,テレビを見ているとき,ゲー
ムなどで遊んでいるとき,その他)
③②で「はい」と回答された方にお聞きします。お子さんがもっともよく願いごとをする場面について,詳しくその状況をお書き
ください。
④お子さんは,願いごとはかなうと信じていると思いますか?(信じていると思う,少し信じていると思う,信じていないと思う,
わからない)
(2)「子どものもつ願いごとの効力に対する信念への親の対応」
⑤お子さんが願いごとについて話したとき,あなたは今どのようにこたえていますか?(何もこたえない,願いごとはかなう(と
思う)よ,とこたえる,願いごとはかなわない(と思う)よ,と言う,状況によって違う応答をする)
⑥お子さんが小学生になってから願いごとについて話したとき,あなたはどのように答えると思いますか?(何もこたえない,願
いごとはかなう(と思う)よ,とこたえる,願いごとはかなわない(と思う)よ,と言う,状況によって違う応答をする)
⑦⑤と⑥でチェックをつけた箇所が異なる方にお聞きします。なぜ,答え方を変えると思いますか?その理由を教えてください。
⑧もしもお子さんから「自動ドアはどうしてひとりでに開くの?」「テレビってなぜ映るの?」などとたずねられたとしたら,そ
れについてあなたはどのように答えますか?(できるだけ科学的に説明しようとする,魔法などの不思議な力をもちだして説明
しようとする,科学的説明と魔法的な説明の両方をつかって説明しようとする,わからないと答える)
⑨もしもお子さんから普段余り目にすることのない自然現象(流れ星,蜃気楼,オーロラ,虹,など)を見て「なぜこんなことが
起きるの?」とたずねられたとしたら,あなたはどのように答えますか?(できるだけ科学的に説明しようとする,魔法などの
不思議な力をもちだして説明しようとする,科学的説明と魔法的な説明の両方をつかって説明しようとする,わからないと答え
る)
(3)「願いごとに関する家庭環境」
⑩家族である大人が,お子さんの前で願いごとをしますか?(日常的に,時々,特別な行事のときだけ,しない)
(何かが欲しいとき,
⑪家族である大人がもっともよく「願いごと」ということばを使うのはどのような時ですか?(複数回答可)
七夕のとき,クリスマスプレゼントについて話すとき,神社仏閣で,仏壇や墓の前で,星を見ているとき,物語を読んでいると
き,テレビを見ているとき,ゲームなどで遊んでいるとき,その他)
⑫お子さんは,
「大人なら願いごとをかなえることができる」と信じていると思いますか?(信じていると思う,少し信じている
と思う,信じていないと思う,わからない)
⑬あなたのお子さんは,願いごとにかかわるシーンが含まれている本,テレビ,映画(ビデオ)などを見ていますか?(はい,い
いえ,わからない)
・「はい」と回答した方がお答えください。お子さんはどのくらいの頻度でそのような本,テレビ,映画(ビデオ)に触れる機
会がありますか?(一日に2回以上,一日に1回,一週間に1回,一ヶ月に1回,年に数回)
・そのタイトルをお書きください。
⑭お子さんは,例えば,
「願いごとをするとサンタクロースがクリスマスプレゼントを持ってきてくれる」などのように,願いご
とと何らかの存在とを結びつけていると思いますか?(はい,いいえ,わからない)
・「はい」と回答した方がお答えください。実際にお子さんが願いごとと結びつけている存在について教えてください。(複数回
答可)(サンタクロース,妖精,魔女,ランプの精,手品師(魔術師),その他)
⑮お子さんは,例えば,
「首飾りをつけて願いごとをするとそれが叶う」と信じるなど,特定のモノと願いごととを関連づけてい
ると思いますか?
(はい,いいえ,わからない)
・「はい」と回答した方がお答えください。実際にお子さんが願いごとと結びつけているものについて教えてください。(複数回答
可)(マジックの棒,アクセサリー,ろうそく,星,その他)
3.結
いごとということばを知っているか」について,「知っている」と
果
(1)「子どもは願いごとをどのようなものだと理解していると思う
答えた人数は年少児 23 人(79%),年中児 61 人(88%)
,年長児
か,またその効力を信じていると思うか」について
63 人(95%)であり,年齢とともに「願いごと」ということばを知っ
①「願いごと」ということばの理解と使用頻度および使用場面
ていると親が認識している人数が増えていた。「願いごとというこ
「願いごとということばを知っているか」と「願いごとというこ
とばの使用」について,
「使用する」と答えた人数は,年少児 16 人
とばの使用」に関する項目によって,願いごとということばに子ど
(55%),年中児 42 人(60%),年長児 52 人(78%)であり,「願い
もがどの程度親しんでいるかを知ることができる(Table 2)。「願
ごとということばを知っているか」と同様に年齢の上昇とともに「願
− 37 −
(38)
いごと」ということばを用いた会話がなされるようになっているこ
割合には多少の差が見られるが,どの年齢別クラスでも子どもが願
とがわかる。
いごとということばを使用する上位 3 場面は,クリスマス,七夕,
誕生日プレゼントについて話すときであることがわかる。
「願いごとということばをどの程度の頻度で使うのか」をたずね
また,子どもが願いごとをする場面についての詳しい状況を自由
た項目では,「こちらから働きかけた時だけ」という子どもは年中
児 3 人,年長児 2 人だけであり,ほとんどの子どもが自発的に「願
記述で回答を求めたところ,年少児 16 名(55%),年中児 41 名(59%)
,
いごと」ということばを使用していることが示された(Table 3)。
年長児 51 名(76%)の回答が得られた。自由記述の回答内容の具
年長児では年少児・年中児よりも「日常的に」願いごとということ
体例を Table 5 に示す。どの年齢別クラスでも「クリスマス」と「七
ばを使用する割合が若干高くなっていたが,どの年齢別クラスも多
夕」に関する記述が多くみられた。クリスマスに関する記述は,年
くの子どもが「時々」または「特別な行事の時」に使用していた。
少児 9 名,年中児 20 名,年長児 26 名であり,そのほとんどがクリ
それでは,子どもは実際にどのような時に願いごとということば
スマスプレゼントをサンタクロースに願うというものであった(年
を用い,どのような場面で願いごとをしているのだろうか。まず,
少児 8 名,年中児 15 名,年長児 17 名)。七夕に関する記述は,年
「願いごとということばを使用する場面」をたずねた項目で,30%
少児 3 名,年中児 12 名,年長児 9 名であった。その内容はクリス
以上が選択された場面を取り出し,その選択率が高かった順番を年
マスとは異なり,
「自分の将来の希望」「家族の健康」などを願って
齢別クラスごとに挙げる(Table 4)。年少児では,1 位:クリスマ
いるという記述がみられた(年中児 4 名,年長児 3 名)。また,興
スプレゼントについて話すとき(75%),2 位:七夕のとき(50%),
味深い年齢的変化としては,年少児では願いごとの内容は,そのほ
3 位:誕生日プレゼントについて話すとき(44%),4 位:何かほし
とんどが品物(クリスマスプレゼントや誕生日プレゼントなど)を
いときにいつでも,神社仏閣で,仏壇や墓の前で,その他(いずれ
得ることと関連しているのに対し,年中児・年長児ではそれに加え
も 31%),であった。年中児では,1 位:クリスマスプレゼントに
て自分や家族の幸せを願うという内容がみられるようになってくる
ついて話すとき(81%),2 位:七夕のとき(48%)
,3 位:誕生日
ことである(年中児 5 名,年長児 4 名)。また,願いごとをする際に,
プレゼントについて話すとき(33%)であった。年長児については,
手を合わせるなどのポーズや願いごとの内容を唱えるという記述も
1 位:クリスマスプレゼントについて話すとき(92%),2 位:七夕
年中児・年長児の親に多くみられた(年少児 2 名,年中児 9 名,年
のとき(62%),3 位:誕生日プレゼントについて話すとき(44%)
,
長児 10 名)
。
4 位:神社仏閣で(40%),5 位:仏壇や墓の前で(31%)であった。
Table 2「願いごと」ということばの理解と使用
理解
年少
N=29
年中
N=69
Table 3「願いごと」を話題にする頻度
年長
N=66
年少
N=29
年中
N=70
1(6)
2(5)
7(14)
時々
8(50)
19(46)
27(53)
特別な行事の時だけ
7(44)
17(41)
15(29)
こちらから働きかけた時
0(0)
3(7)
2(4)
61(88)
63(95)
16(55)
42(60)
52(78)
いいえ
3(10)
3(4)
2(3)
12(41)
26(37)
10(15)
5(7)
1(2)
1(3)
2(3)
年長
N=51
日常的に
23(79)
3(10)
年中
N=41
年長
N=67
はい
わからない
年少
N=16
使用
5(7)
( ) は N に対する割合
( ) は N に対する割合
Table 4「願いごと」ということばを使う場面
年少
N=16
年中
N=42
年長
N=52
何かがほしいときにいつでも
5(31)
6(14)
8(15)
誕生日プレゼントについて話す時
7(44)
14(33)
23(44)
七夕の時
8(50)
20(48)
32(62)
クリスマスプレゼントについて話す時
12(75)
34(81)
48(92)
神社仏閣で
5(31)
11(26)
21(40)
仏壇や墓の前で
5(31)
8(19)
16(31)
星を見ているとき
3(19)
10(24)
10(19)
物語を読んでいる時
1(6)
6(14)
4(8)
テレビを見ているとき
1(6)
2(5)
4(8)
ゲームなどで遊んでいる時
0(0)
2(5)
2(4)
その他
5(31)
3(7)
7(13)
( ) は N に対する割合
− 38 −
(39)
Table 5
カテゴリー
年齢別クラス
クリスマスに関す
る記述
七夕に関する記述
その他
子どもが願いごとをする場面に関する自由記述内容
数
内容の具体例
年少
9
・何かほしいものができると「サンタさんにお願いする」と口にする。
・サンタクロースへのお願いごとを手紙に書いてツリーに飾る。
年中
20
・クリスマスの 1 ヶ月以上前からサンタクロースに対しての願いごとを紙に書いたりする。
年長
26
・サンタクロースに自分のがんばっている様子を近況報告するとともに,その頑張りを認め
て願いごとをかなえてほしいという内容の手紙を枕もとに置く。
・クリスマス 1~2 ヶ月前からプレゼントに何をお願いするか悩み,直前に手紙を書く。
年少
3
・短冊に願いごとを書く。
・七夕のお飾りを作る際,「ここに(短冊)お願いごとを書いて」と短冊を持ってくる。
年中
12
・願いごとを短冊に書いて,笹の葉につけて一緒に飾る(その願いごとの内容は「パパとマ
マがげんきでいてほしい」)。
年長
9
・七夕の時には「なりたい自分」について必ず願う。
年少
5
・翌日の晴れを願って,てるてる坊主を作る。
・神社で「元気な妹が生まれてきますように」と願う。
年中
18
・神様がいると信じていて,毎日床の間の前で正座をし手を合わせて願いごとをする。
・母親が体調不良の時,家に祭っている寺のお札の前で「お母さんの病気が早く直りますよ
うに」と願いごとをした。
年長
21
・自分が何かを我慢した時「神様はお空から見てるから , 我慢しているのを知っているよね。
だから,きっとお願いごと聞いてくれるね」という。
・仏壇の前で,出張中の父親の無事を願って 「 お父さんが無事に帰ってきますように 」 と願う。
Table 6 願いごとと結びつけている対象
生きている対象
物理的対象(物)
年少
N=29
年中
N=70
年長
N=65
年少
N=29
年中
N=69
年長
N=65
24(83)
53(76)
52(80)
3(10)
6(9)
10(15)
いいえ
2(7)
6(9)
6(9)
19(66)
50(72)
37(57)
わからない
3(10)
11(16)
7(11)
7(24)
13(19)
18(28)
はい
( ) は N に対する割合
Table 7 願いごとと結びつけている対象の種類
年少
N=24
年中
N=53
年長
N=52
23(96)
53(100)
52(100)
妖精
2(8)
4(8)
3(6)
魔女
3(13)
5(9)
10(19)
ランプの精
1(4)
1(2)
2(4)
手品師(魔術師)
0(0)
0(0)
1(2)
その他
6(25)
16(30)
15(29)
年少
N=29
年中
N=69
年長
N=67
信じていると思う
23(79)
49(71)
47(70)
少し信じていると思う
4(14)
12(17)
17(25)
信じていないと思う
0(0)
0(0)
1(1)
わからない
2(7)
8(12)
2(3)
サンタクロース
( ) は N に対する割合
Table 8 願いごとはかなうと信じているか
( ) は N に対する割合
− 39 −
(40)
ている。
②願いごとと関連づけている対象
願いごとは「大きくなったら花屋さんになれますように」のよう
次に,「大人なら願いごとをかなえることができると信じている
に,特定の対象に向けた願いごとではないものもあるが,
「サンタ
か」をたずねたところ,「信じている」「少し信じている」を合わせ
クロースにクリスマスプレゼントを願う」
「晴れるようにてるてる
ると,その人数は,年少児 21 名(75%),年中児 33 名(46%)
,年
坊主に願う」などのように,特定の対象(物)に向けた願いごとも
長児 32 名(50%)であった。年少児では,大人であれば願いごと
ある。そこで,子どもがどのような対象(物)と願いごととを関連
をかなえることができると信じている割合が高いことがわかる。
づけているのかをたずねた。まず,サンタクロースのように架空で
はあるが生命のある対象と願いごととを結びつけていると思うかを
(2)
「子どものもつ願いごとの効力に対する信念にどのように対応
たずねたところ(Table 6)
,どの年齢別クラスも約 80%が「はい」
しているか」について
と答えていた。次に,
「はい」と答えた親に,その対象の種類を,
①願いごとの効力に関する子どもからの質問に対する親の応答
サンタクロース,妖精,魔女,ランプの精,手品師(魔術師)
,そ
願いごとの効力に関する子どもからの質問に対し,現在どのよう
の他,から複数回答を求めた。その結果,圧倒的にサンタクロース
に応答しているのかと将来どのように応答するかをたずねた項目の
と結びつけているという回答が多く,年少児 23 名(96%),年中児
結果を Table 9 に示す。まず,現在の応答については,「願いごと
53 名(100%)
,年長児 52 人(100%)であった(Table 7)。しかし,
はかなう(と思う)よ」と肯定的に答える親がどの年齢別クラスで
「首飾りをつけて願いごとをするとそれが叶う」のように物理的対
も最も多く,それらは年少児 17 名(59%),年中児 47 名(67%),
象(物)と願いごととを結びつける傾向は,どの年齢別クラスも「は
年長児 41%(61%)であった。次いで,「状況によって違う応答を
い」と回答したのは 10% 前後しかいなかった。Table 6 の右側にそ
する」と答えた人数が多く,年少児 12 名(41%),年中児 23 名(33%),
の結果を示す。
年長児 22 名(33%)であった。どの年齢別クラスにおいても,否
③願いごとの効力に対する信念
定的な応答をすると答えた親は 1 人もいなかった。
親は子どもが願いごとがかなうとどの程度信じていると認知して
次に,将来の応答については,現在の応答と比べ,どの年齢別ク
いるのだろうか。このことについて,信じていると思う,少し信じ
ラスでも「願いごとはかなう(と思う)よ」から「状況によって違
ていると思う,信じていないと思う,わからない,の 4 件法でたず
う応答をする」に若干人数がシフトする傾向にあった。「願いごと
ねたところ,
「信じていると思う」「少し信じていると思う」を合わ
はかなう(と思う)よ」と答えた人数は,年少児 13 名(45%),年
せると,どの年齢別クラスも約 90%が信じていると思うと回答し
中児 39 名(56%),年長児 31 名(46%)であり,「状況によって違
た(Table 8)。これは,3 歳から 6 歳の年齢の幼児のほとんどが,
う応答をする」と答えた人数は,年少児 16 名(55%),年中児 31
親から願いごとがかなうと信じていると認識されていることを示し
名(44%),年長児 33 人(49%)であった。ここでも「願いごとは
Table 9 願いごとの効力への信念に関する応答
現在
願いごとはかなう(と思う)よ,と答える
願いごとはかなわない(と思う)よ,と答える
状況によって違う応答をする
何も答えない
将来
年少
N=29
年中
N=70
年長
N=67
年少
N=29
年中
N=70
年長
N=67
17(59)
47(67)
41(61)
13(45)
39(56)
31(46)
0(0)
0(0)
0(0)
0(0)
0(0)
0(0)
12(41)
23(33)
22(33)
16(55)
31(44)
33(49)
0(0)
0(0)
4(6)
0(0)
0(0)
3(4)
( ) は N に対する割合
Table 10 子どもの願いごとへの信念に対する応答を変える理由の自由記述内容
カテゴリー
理解力の向上に関する記述
数
内容の具体例
11
・物事に対する子どもの理解力が伸びているため。
・成長することで子どもなりの考えが出てくるため,その状況に合わせて話していきたい。
8
・日頃のきちんとした行いにより願いごとはかなったりかなわなかったりすることをきち
んと教えたい。
・本人の努力次第でかなう願いごとと,本人が望むだけではどうしようもない願いごとが
生じてくるから
10
・夢をかなえてあげたいし,夢を持って育ってほしいが,明らかに実現しない願いごとの
時には,うそつきにならないようにしたい。
・物を得るための願いごとは常識の範囲内で「かなう」と答え,夢に関する願いごとは「か
なう」と答える。
願いごとの性質の説明に関する記述
その他
− 40 −
(41)
Table 11 人工物と自然現象に関する質問への応答の仕方
人工物
できるだけ科学的に説明しようとする
年中
N=67
年長
N=67
年少
N=29
年中
N=67
年長
N=67
19(66)
45(67)
52(78)
14(48)
23(34)
25(37)
0(0)
2(3)
0(0)
2(7)
7(10)
5(7)
10(34)
17(25)
13(19)
13(45)
34(51)
34(51)
0(0)
3(4)
2(3)
0(0)
3(4)
3(4)
魔法などの不思議な力を持ち出して説明しようとする
科学的説明と魔法的な説明の両方を使って説明しようとする
自然現象
年少
N=29
分からないと答える
( ) は N に対する割合
かなわない(と思う)よ」と答える親は 1 人もいなかった。
に数回」は年少児 5 名(36%),年中児 11 名(32%),年長児 11 名
以上から,親は子どもの願いごとに対する信念を否定することは
しないことが明らかになった。
(33%),
「1 ヶ月に 1 回」は年少児 3 名(21 名)
,年中児 9 名(26%)
,
年長児 7 名(21%)であった。
現在と将来で異なった応答を選択した親に対し,その理由を自由
②家族である大人が願いごとをする場面
記述で回答を求めた。自由記述の回答内容の具体例を Table 10 に
日常生活の中で,子どもは大人が願いごとをする姿を見る機会が
示す。その結果,年少児 8 名(28%),年中児 8 名(11%),年長児
あるのだろうか。また,どのような場面でそのような姿を目にする
13 名(19%)の回答が得られた。最も多い理由は,
「子どもの理解
ことが多いのだろうか。
力の向上」であり(年少児 3 名,年中児 4 名,年長児 5 名),次に「願
まず,家族である大人が子どもの前で願いごとをする場面がある
いごとの性質(願いごとは何らかの努力や行動の結果である,など)
かどうかをたずねたところ,
「ない」と答えたのは年少児 1 名(3%)
,
について説明したい」という理由を挙げた人数が多かった(年少児
「日常的に」
「時々」
年中児 12 名(17%),年長児 5 名(7%)と少なく,
2 名,年中児 3 名,年長児 3 名)。その他に,「自分の努力なしに物
「特別な行事のとき」などを合わせるとどの年齢別クラスも 80% 以
質を得ようとする願いごとは必ずしも肯定することはできないが,
上の親が家族である大人が子どもの前で願いごとをする機会がある
基本的には願いごとがかなうといいねと肯定的な対応をとりたい」
ことを報告している。
という記述もみられた。
次に,親自身が最もよく「願いごと」ということばを使うのはど
②魔術的な力を持ち出して応答する場面
のような場面かをたずねた。年齢別クラスごとに 30% 以上が選択
合理的な説明が可能だが説明が困難な事象として,人工物(テレ
された項目のうち,その選択率が高かった場面を順に挙げると,年
ビや自動ドアなど)と自然現象(虹やオーロラなど)を取り上げ,
少児では,1 位:七夕のとき(66%)
,2 位:クリスマスプレゼント
どのような場面で願いごとのような魔術的な説明を用いるのかに
について話すとき(59%),神社仏閣で(59%),3 位:仏壇や墓の
ついて調べた(Table 11)。まず,人工物に関しては,「できるだけ
前で(52%),4 位:星を見ているとき(34%),であった。年中児
科学的に説明しようとする」と答える親がどの年齢別クラスでも多
では,1 位:クリスマスプレゼントについて話すとき(56%),2 位:
かった(年少児 19 名
(66%),年中児 45 名(67%)
,年長児 52 名
(78%))
。
七夕のとき(50%)
,3 位:神社仏閣で(47%),であった。年長児
これに対し,自然現象については,年少児では「できるだけ科学的
では,1 位:神社仏閣で(55%),2 位:七夕のとき(52%),3 位:
に説明しようとする(48%)」と「科学的説明と魔術的な説明の両
クリスマスプレゼントについて話すとき(47%),4 位:仏壇や墓の
方を使って説明しようとする(45%)」と答える親が半々であったが,
年中児と年長児の親では「科学的説明と魔術的な説明の両方を使っ
Table 12 願いごとに関する内容が含まれているメディアに触れる機会の有無
年少
N=29
年中
N=70
年長
N=65
はい
14(48)
36(51)
34(52)
いいえ
10(34)
16(23)
15(23)
わからない
5(17)
18(26)
16(25)
て説明しようとする」と答える親が多かった(いずれも 51%)
。以
上から,人工物よりも自然現象に関する説明において,親は魔術的
な説明を使う傾向にあることが分かる。
(3)「願いごとに関する家庭環境はどのようになっているか」につ
( ) は N に対する割合
いて
①願いごとに関係するメディアに触れる機会
願いごとに関する内容が含まれているメディア(本・テレビ・映
Table 13
願いごとに関する内容が含まれているメディアに触れる頻度
画など)に子どもが触れる機会があるかどうかについてたずねたと
ころ(Table 12),どの年齢別クラスでも約 50% が「はい」と回答した。
メディアに触れる頻度についてたずねた項目では(Table 13)
,ど
の年齢別クラスでも「1 週間に 1 回」が最も多く,
次に「年に数回」,
「1 ヶ月に 1 回」という順であり,
「1 日に 2 回以上」と「1 日に 1 回」
はほとんど選択されず,年齢による分布に差はみられなかった。年
齢別クラスによる人数の内訳をみると,
「1 週間に 1 回」は年少児 5
名(36%),年中児 13 名(38%),年長児 14 名(42%)であり,
「年
年少
N=14
年中
N=34
年長
N=33
一日に 2 回以上
0(0)
0(0)
1(3)
一日に 1 回
1(7)
1(3)
0(0)
一週間に 1 回
5(36)
13(38)
14(42)
一ヶ月に 1 回
3(21)
9(26)
7(21)
年に数回
5(36)
11(32)
11(33)
( ) は N に対する割合
− 41 −
(42)
前で(30%),であった。クリスマス,七夕,誕生日プレゼントが
ア環境の違いに起因している可能性があり,この点については,今
選択された割合が高かった点は,子どもと同様の結果であるが,神
後検討していくことが必要だと思われる。また,家族である大人が
社仏閣と仏壇や墓の前もそれとほぼ同じ割合で選択された割合が高
子どもの前で願いごとをする場面があるかどうかについては,どの
かった点が異っていた。
年齢別クラスでも 80% 以上の子どもが大人が願いごとをする場面
を見る機会があることが示された。Woolley らでは,家族が願いご
4.考
とをしているのを見たことがあるのは年少児(54%)よりも年長児
察
本研究の目的は,Woolley らの調査内容を参考に作成した質問紙
(84%)に多いという結果が得られており,年少児の結果が本研究
を幼稚園児(年少・年中・年長)を持つ親を対象に実施し,日本に
よりも少ない傾向にあったが,これは Woolley らでは年少児に本研
おける子どもの願いごとに関する親の認知の現状を記述することで
究での年少児よりも幼い 3 歳児が含まれていることによるものであ
あった。注目したのは,次の 3 点である。(1)子どもの願いごと
ると考えられる。
の理解についての親の認知,
(2)子どもの願いごとへの信念に対
する親の対応,(3)願いごとに関する家庭環境,であった。
以上から,メディアに触れる頻度には日本とアメリカでは差がみ
られたが,その他の結果は総じて Woolley らの結果を支持するも
のであり,日本とアメリカで大きな違いが見られないことが明らか
(1)Woolley らとの比較
になった。
「願いごと」ということばを知っていると親が認識している子ど
もの割合と「願いごと」ということば使用する子どもの割合は,と
(2)子どもの願いごとと生育環境の関係性,および今後の展望
もに年齢の上昇とともに高くなっていた。Woolley らでも,年少児
Woolley らは,親と子どものデータが対応しており,実験での子
に比べ年長児のほうが「願いごと」ということばを理解し(年長児
どもの姿と親が認知している子どもの姿との一致や関連性などにつ
90%,年少児 42%),願いごとということばを使う割合も多い(年
いても検討していた*3。しかし,本研究では個人情報保護の問題
長児 100%,年少児 71%)と親は認識していた。ただし Woolley ら
からそのような検討は難しく,親を対象とした質問紙調査のみを実
では,年少児に本研究での年少児よりも幼い 3 歳児も含まれてい
施した。今後は,親や幼稚園・保育園関係者に理解を得て,親の質
るため,「願いごと」ということばを知っている割合が本研究の年
問紙への回答と子どもを対象にした実験結果との対応関係などにも
少児の結果よりも若干低かったが,3 歳から 6 歳にかけて「願いご
とづく検討ができるような努力が必要である。しかし,本研究では,
と」に関する知識が増えてくると考えられる点で,本研究の結果と
子どもの願いごと理解やその効力への信念などを調べる上で参考と
Woolley らの結果は一致していると考えられる。
なる興味深い結果がいくつか得られた。それは,主に,
「子どもの
次に,願いごとの効力に関する子どもからの質問に対し親がどの
願いごとの内容」,「願いごとの際のポーズ」,「親が魔術的な説明を
ように応答しているのかについては,現在も将来も「願いごとはか
しやすい場面」についてであり,この3点について考察することは,
なう(と思う)よ」または「状況によって違う応答をする」と答え
今後の研究の展望につながると考えられるため、以下で議論する。
る親がどの年齢別クラスでも多く,
「願いごとはかなわない(と思う)
①「子どもの願いごとの内容」
よ」と答える親は一人もいなかった。Woolley らでも,誰一人とし
まず,場面(行事)別に子どもの願いごとの内容を検討する。子
て子どもの願いごとへの信念を否定するような応答はしないという
どもが「願いごと」ということばを使う場面は,圧倒的に「クリス
結果が得られており,本研究の結果と一致している。Woolley らは,
マスプレゼントについて話すとき」が多かった。次いで「七夕」,
「誕
この結果を「私たちは,子どもが成長するにしたがって,両親が願
生日プレゼントについて話すとき」が続いた。実際に,子どもが願
いごとへの信念を阻み始めると考えがちだが,そのような事実は示
いごとをする場面の自由記述においてもクリスマスと七夕に関する
唆されなかった」と述べている。本研究における,現在と将来とで
記述が多くみられた。自由記述の願いごとの内容に注目すると,ク
応答の仕方を変えると回答した親に対し,その理由についてたずね
リスマスでは「クリスマスプレゼントをサンタクロースに願う」と
た自由記述でも「基本的には願いごとはかなうと答えたい」という
いうものが多いが,七夕では「自分の将来の希望」
,「家族の健康」
親が多く,多くの親が「願いごとがかなう」と考えることを否定的
などが多くみられた。
にはとらえておらず,その真偽についての判断は親から与えるもの
Hurlock(1964)による Freeman の研究の紹介によると,小学校
ではなく,子ども自身が発見していくものであると考えているよう
1 年生の子どもの多くが「クリスマスは,何かをほしいと思ってい
であった。
る気持ちが満たされる時」と理解しており,自分が何かを手に入れ
最後に,願いごとに関する家庭環境については,願いごとに関す
ること(得ること)が問題なのであり,自分が他者に与えることに
る内容が含まれているメディアに触れる機会は,どの年齢別クラス
ついてはほとんど考えることが出来ていないという。本研究におい
でも約 50% の親があると答えており,その頻度も年齢別クラスに
ては,年中児・年長児ではクリスマスに関しても他者のための願い
よる分布の差はなく,週に 1 回,月に 1 回,年に数回の順で多かった。
ごとがあったが,クリスマスプレゼントに比べれば少数であったこ
Woolley らでも 53%の親が,子どもは願いごとに関する内容が含ま
とも,この Freeman の指摘と共通する。
れているメディアに接触する機会があると答えていた。しかし,そ
これに関係し,子どもが願いごとと結びつけていた存在に注目
の頻度は年長児よりも年少児が多く,週に 1 回が最も多いという結
すると,圧倒的にサンタクロースが多かった。麻生(1996)は,
果であった。この違いは,子ども向け番組の内容やその放送回数の
Prentice, Manosevits & Hubbs(1978)がアメリカの子どもを対象
頻度,出版物の内容などにおける日米での子どもを取り巻くメディ
にサンタクロース,イースター・バニー,歯の妖精などのような存
− 42 −
(43)
在をどの程度信じているかについて検討した調査結果を報告してい
年中児・年長児の親からは,願いごとをする時に手を合わせるな
る。それによれば,4 歳から 8 歳までの子どもの約 80% 以上がサン
どのポーズや願いごとの内容を唱えるという報告が得られた。大人
タクロースの存在を信じており,サンタクロースの存在を信じる傾
がどのような時に願いごとということばを用いるかについてたずね
向は,イースター・バニーや歯の妖精のような他の架空の存在より
たところ,
「神社仏閣で」,
「仏壇や墓の前で」が「七夕のとき」,
「ク
も強かった。また,架空の存在を信じる傾向は,子どものファンタ
リスマスプレゼントについて話すとき」とほぼ同じ割合で選択さ
ジー傾向やイマジネーション能力と関連しているというより,親の
れていた。このことを考えると,子どもは,家族である大人が神社
態度が深く関与していた。つまり,多くの子ども達がサンタクロー
仏閣や仏壇や墓の前で手を合わせるなどの行為をしているのを観察
スの存在を信じて願いごとをしたりするのは,「クリスマスにはサ
し,それを取り入れるようになっていくのだと考えられる。
ンタクロースがプレゼントを持ってやってくる」という文化を大人
また,保育園に通う年少児・年中児・年長児を対象にした塚越
が子どもに積極的に与えていることと関連しているのだと考えられ
(2005,2007)
,Tsukakoshi(2006)でも,年中児・年長児は願い
る。現代の日本では,サンタクロースは社会的に是認された存在で
ごとを工夫する(手の組み方を変える,声を大きくするなど)と
あり,「クリスマスにはサンタクロースがプレゼントを持ってやっ
いう行為が多く見られたが,年少児にはそのような行為はほとんど
てくる」という考えは親をはじめとする大人によって子どもに持ち
見られなかった。これは,年中児・年長児になると,願いごとをす
込まれるものである。
るための条件を意識的に設定するようになってくるためだと考え
以上から,クリスマスには七夕などに比べ,プレゼントなどの品
られる。さらに,これは祈りに関する外国の先行研究の知見である
物を願う子どもが多いのは,自然なことであり,社会・文化的な影
が,就学前までに「神」や「神に祈る」ことに関する漠然とした概
響が大きいと考えられる。
念を獲得することが示されている(Long, Elkind, and Spilka, 1967;
次に,場面(行事)を込みにして,年齢別にみられた願いごとの
内容を検討する。本論文の「問題と目的」では,Woolley(1997)
Woolley )。
以上から,就学前の段階で,願いごとをする際に必要な条件を文
の次のような知見を紹介した。それは,願いごと(wishing)と祈
化を通し獲得し,大人がおこなう形式的・儀式的な願いごとにつな
り(prayer)は,生活圏の文化の影響を受けて,通常の因果関係と
がる理解に近づいていくという変化がみられるものと思われる。
は異なる特別なものとしてとらえられていくというものである。外
③「親が魔術的な説明をしやすい場面」
国では,宗教に関係するものは「祈り」
,それ以外のものは「願い」
本研究では,願いごとの効力に関する子どもからの質問に対し親
と区別される傾向にある。しかし,日本では「願いごと」と「祈り」
がどのように応答しているのかだけでなく,人工物と自然現象を取
は厳密に区別されていない。また,「願望(desire)」との区別も十
り上げ,どちらの場面で願いごとのような魔術的な力を持ち出して
分ではない状況にある。本研究で得られた回答をみても,願いごと
応答するのかをたずねた。その結果,人工物に関する説明では,
「で
の内容は多岐にわたっている。たとえば,「サンタクロースにプレ
きるだけ科学的に説明しようとする」と答える親がすべての年齢別
ゼントを願う」という現実に手に入れたい品物に関する願望であっ
クラスで多かった(66% ∼ 78%)。(この質問項目の作成にあたり参
たり,「夢が実現するように願う」という将来への希望であったり
考にした冨田・山崎(2002)では,90 名中 59 名(66%)が科学的
する。また,自分に関する願いごともあれば他者のための願いごと
な説明をすると答えており,本研究の結果はそれを支持するもので
もあった。
あった。)
年齢別には,次のような傾向がみられた。年少児では品物(クリ
しかし,自然現象に関する説明では,
「科学的説明と魔術的な説
スマスプレゼントや誕生日プレゼントなど)を得るための願いごと
明の両方を使って説明しようとする」と答える親が多くなる傾向に
が圧倒的に多いのに対し,年中児・年長児ではそれに加えて,自分
あった(どの年齢別クラスも約 50%)。現在は,科学の発展により,
や家族の幸せを願うという内容がみられた。小学校高学年を対象に
多くの自然現象の理解とその科学的な説明が科学者でなくとも可能
どのような時に祈るのかをたずねたアンケートでは(ベネッセコー
になっている。しかし,子どもにそのことを説明する時,科学的に
ポレーション教育研究所,1994),「家の人が病気の時」が最も多い
説明できたからといって必ずしも子どもが納得するとは限らない。
結果(約 80%)であった。本研究で,年少児において「他者のため
中には,魔術的な力を用いて説明したほうが子どもには理解しやす
の願い」に関する記述が得られず,年中・年長になるとそれに関す
いと大人が判断するものもあり,自然現象の説明は,そのように感
る記述が得られたのは,この年齢の間に,誰かのために願う(祈る)
じられやすいものが多いのかもしれない。また,この事実は,雨乞
という行為が出現してくる時期であると考えることが出来るかもし
いのような伝統的習俗との関連性を思い起こさせる。大人にとって
れない。また,既述した Freeman の研究から,それらは品物を得
伝統的習俗がどのような意味を持っているのかについて検討するこ
るための願いや自分のための願いよりも年齢的に後になって出現し
とも,今後検討していくことが必要である。
てくるものと考えられる。
今後は,子どもの願いごとの内容についてより詳しい分析をした
文
献
り,大人の願いごと概念を調査したりすることで,大人と子どもの
麻生武 . (1996). ファンタジーと現実 . 東京:金子書房 .
認識の違いや,日本人にとっての願いごととは何かという点を明ら
ベネッセコーポレーション教育研究所 . (1994).「おばけとジンクス 」
かにしていくことが必要だと考える。このことが,日本における願
いごとの定義づけにつながると思われる。
②「願いごとのポーズ」
受けとめ方・関わり方 . 東京:ベネッセコーポレーション .
Hurlock, E. B. (1964).
McGraw-Hill Book Co.
New York.(小林芳郎・加賀秀夫・相田貞夫(訳) 1972
− 43 −
児童
(44)
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*1
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外国では,宗教に関係しているものを「祈り」,それ以外のも
のを「願い」と区別している。ただし,これは日本では当てはまら
ない可能性があり,このことについては考察部分で論考している。
*2
Woolley, Phelps, Davis, & Mandell(1999)は,子どもの願い
ごとに関する親の認知とともに,願いごとに対する子ども自身の認
知を実験によって測定し,両者の関連をみている。しかし,日本で
は個人情報保護の点でこのような対応のあるデータを取ることが難
しい現状にある。筆者は,子ども自身の認知に関する研究を別途お
こなっているため,本研究では親の認知のみを測定し,両者を関連
づけて検討する研究は今後の課題とした。
*3
同上*2参照。
− 44 −
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