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幼児期における対話を介した鑑賞の方法 ~幼児の発達に適した絵画の選定

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幼児期における対話を介した鑑賞の方法 ~幼児の発達に適した絵画の選定
幼児期における
幼児期における対話
における対話を
対話を介した鑑賞
した鑑賞の
鑑賞の方法
―幼児の
幼児の発達に
発達に合わせた絵画
わせた絵画の
絵画の選定―
選定―
Method on the Interactive Talks Through Appreciation with Pre‐School Children
―How to Select Pictures Suitable for Pre-school Children―
指導教員 小泉卓先生
児童学研究科 1000-110602 佐藤晶子
問題と
問題と目的
近年、芸術作品をグループで「対話」を介しながら鑑賞する取組みが注目されている。
この取り組みは一般に「対話型鑑賞」と呼ばれ、これまで美術館等で行われてきたギャラ
リートークが、作品の解説を司会者が一方的に行うものが主体であったのに対し、トーカ
ーまたはファシリテーターと呼ばれるスタッフや教育者が、鑑賞者と作品について自由に
語り合いつつ、作品への理解を深めていくといった鑑賞法である。日本では、上野行一が
元ニューヨーク近代美術館教育部講師であったアメリア・アレナス(Amelia Arenas)のギャ
ラリートークの手法を紹介し、美術鑑賞教育の現場で認識されるようになった。
幼稚園教育要領をみると、
「表現」の領域では、
「美しいもの、優れたもの、心を動かす
出来事などに出会い、そこから得た感動をほかの幼児や教師と共有し、様々に表現するこ
と」が強調されている。また、
「言葉」の領域では、
「幼児が自分の思いを言葉で伝えると
ともに、教師や他の幼児などの話を興味をもって注意して聞くことを通して次第に話を理
解するようになっていき、言葉による伝え合いができるようにすること」とある。こうし
た内容は、対話を介した鑑賞の活動の中にごく自然な形で含まれていると言える。
しかし、幼児を対象にした鑑賞教育の実践はまだ少ないのが現状である。大原美術館、
富山県立近代美術館、東京都現代美術館、徳島県立近代美術館などが、教育普及活動とし
て幼稚園及び保育所からの来館を積極的に受け入れており(岡山・高橋,2009)、対話によ
る幼児のための絵画鑑賞プログラムの実践も試みられている。とはいえ、保育の現場にお
いて実践するには、学芸員とは異なる保育者が担うであろうファシリテーターの役割が十
分には明らかにされていない。また、美術館での実践では、幼児に提示する絵画が美術館
所蔵のものに限られてしまうため、
幼児の発達に適した作品の提供が難しいと考えられる。
幼児期に、より効果的な対話を介した鑑賞を行っていくためには、幼児期の美的認知の
1
発達に合った絵画を提示し、発達に適した対話を介した鑑賞のあり方を意図的に展開して
いくことが重要である。
そこで、本研究では、幼児の保育の現場で保育者がファシリテーターとなり「対話を介
した鑑賞」を実践して、①幼児の発話の特徴、及び、②教材として鑑賞に適した絵画の特
徴を明らかにし、幼児期における対話を介した鑑賞の適切な方法を検討することを目的と
する。
方法
(1)背景
(1)背景となる
背景となる理論
となる理論
幼児を対象とした対話を介した鑑賞の実践にあたり、幼児は言語の発達が未熟であるた
め、感情や思考を十分に表せないことが考えられる。ファシリテーターが幼児の言葉に込
められた意味をくみ取り、適切な言語で表現していくためには、幼児の美的認知や美意識
の発達段階を理解する必要がある。
この点について、パーソンズ(Michael Parsons) による「美的体験の発達段階(1987)」
と、ハウゼン(Abigail Housen)による「美的認知の発達段階(1983)」の理論、及び、美的
特性の発達の指標として、ヘルメレンの美的特性の類型学的分類について検討した。
(2)実践
(2)実践で
実践で使用する
使用する絵画
する絵画の
絵画の選出
また、幼児に提示する絵画を選出するため、山本正男による美的分類に依拠しながら、
平成 23 年度発刊の中学校美術科の教科書(開隆堂・日本文教出版・光村図書の計 3 社)に記
載されているすべての絵画を分類した。それに基づき、①「風神雷神図屏風」俵屋宗達、
②「記憶の固執」サルヴァドール・ダリ、③「ラス・メニーナス」ベラスケス、④「ヴェ
トゥイユのモネの庭」クロード・モネ、⑤「花咲くりんごの木」ピエト・モンドリアン、
⑥「コンポジションⅦ」ヴァシリー・カンディンスキー、の 6 枚の絵画を選出した。
(3)
(3)実践の
実践の実施手順
まず、予備実践(参加児の延べ人数は、年少児 18 名、年中児 24 名、年長児 30 名)を行
い、幼児が集中して参加することが可能な人数と時間を検討した。絵画の提示順について
は、参与観察時の幼児の絵画への反応の様子から、反応が比較的早かった絵画を活動の前
半の提示順に設定することとした。
本実践は、3 園にて実施した。参加児の人数は計 38 名。予備調査に基づき、年長児 5
名、年中児 4 名、年少児 3 名のグループを構成し、各グループで計 4 回の対話を介した鑑
賞を行った。筆者(小学校教諭・幼稚園教諭・保育士の資格を取得しており、幼稚園にて 3
2
年間、担任としての実務経験を有する)がファシリテーターとなり、対話を介した鑑賞を実
施した。
(4)分析
(4)分析の
分析の視点
幼児の発話については、量的、質的、相互交渉の 3 つの視点から分析した。量的分析と
して、内容語(名詞・動詞・形容詞)の数をカウントした。質的分析として、ヘルメレン
の美的特性の分類をもとに、美的特性とみなされる語の抽出を行った。相互交渉について
は、それに相当する発話を同定し、新たにカテゴリーを生成して分類した。
以上の視点から、絵画の比較を行った。さらに、絵画ごとに内容語量、相互交渉量、及
び、幼児の絵に対する評価(
「話していて楽しかった絵」
、
「好きな絵」
)を指標にして、ク
ラスター分析を行い、絵画の総合的な分類を行った。
結果
本実践の分析結果について年長を中心に述べる。
年長児の発話の特徴についてみると、まず、発話量の指標として、内容語をカウントし
たところ、絵画によって統計的に有意差が見られ、カンディンスキーが多く、モンドリア
ンが最も少なかった。
次に、内容語の中から、美的特性とみなされる語を抽出したところ、
「感情特性」を示す
語が最も表出されやすいことがわかった。このように特定のカテゴリーに偏ってはいるも
のの、美的特性とみなされる語が表出されたことは、対話を介した鑑賞が、幼児の美的感
覚や美意識の発達を促す契機となる可能性を示唆している。ただし、幼児が自発的にこれ
らの語を表出することは少なく、ファシリテーターの働きかけが必要であった。
また、幼児どうしの相互交渉については、①「共感」
、②「別の見方」
、③「反論」
、④「付
け足し」の4つカテゴリーを設けて分類した。総発話量の中で、相互交渉の発話は僅かで
はあったが、年長児になると発話の中に相互交渉が見られるようになることが明らかとな
った。
幼児にとって適切な絵画を探るために、クラスター分析を行ったところ、大きく 3 つの
群に分かれた。この中でも特にカンディンスキーは、内容語量が最も多く、相互交渉量も
中程度、そして幼児が「話していて楽しかった絵」の支持数が高いという特徴が見られ、
6 枚の絵画の中で、対話を介した鑑賞活動が最も活発であったといえる。これに対して、
モンドリアンは内容語量、相互交渉量ともに最も少なく、
「話していて楽しかった絵」の支
持数も低いという特徴が見られ、あまり活発でなかったと考えられる。なお、両者の「好
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きな絵」としての支持数には差はみられなかった。このことから、幼児にとって、対話が
盛り上がる作品と作品の嗜好は必ずしも一致しないことが示唆された。
対照的であったカンディスキーとモンドリアンを取り上げ、内容語の質的な比較を行う
ために、内容語を、①事物、②生物、③建物、④植物・自然、⑤記号・図形、⑥ファンタ
ジー、⑦色、⑧オノマトペ、⑨匂い、⑩述語、⑪感情の 11 のカテゴリーに分類した。そ
の結果、カンディンスキーの方が、モンドリアンよりも、内容語の各カテゴリーに万遍な
く発話が見られた。
次に、絵柄に着目してみると、どちらも写実的な絵画ではないが、モンドリアンよりも
カンディンスキーの方が絵画の中の情報量が多く、より多様な「見立て」が出来たと考え
られる。また、幼児は絵画を何らかのものに見立て、物語を作り出す傾向があることが指
摘されているが、本実践においてもその特徴が確認された。その際、幼児は、自分の生活
圏内にある事物や、経験したり見たりしたものに見立て物語るが、主語となるものは、必
ずしも「生物」のカテゴリーに分類された内容語ではない、生物と無生物を区別しないア
ニミズム的な思考を示していた。
なお、年中・年少の分析結果においても、同様の傾向が見られた。
考察と
考察と結論
本研究から幼児期において対話を介した鑑賞が成立し得ることが明らかになった。対話
を介した鑑賞は、幼児の鑑賞対象に対する認識活動でもあるといえる。保育者が、絵画の
中の曖昧なものに言葉掛けすることで、幼児は「形」と「名前」を探求するプロセスに遊
びとして取り組む。そのプロセスを通して、それまで意味を持たなかったものが、表象と
言語とが組み合わされて認識されることにつながると考えられる。本実践において幼児は
3 学年ともに、積極的に活動に取り組む姿が見られ、「見立て」遊びとして楽しむ姿が見ら
れた。グループで対話を介した鑑賞を行うことで、他者との相互交渉を通して、絵の見方
や感じ方が広がり、そして深めることが出来る。つまり、多様な見方を共有することが可
能となる。これは、
「見立て(思考)
」を比較、共有、創造していくプロセスでもあり、幼
児にとって、自身の表象の拡充にもつながることが期待される。さらには、この時期の認
知の中心である、自己中心性からの脱却が促されるのではないだろうか。
幼児期において対話を介した鑑賞を実施する上では、少なくとも、ファシリテーターの
役割と鑑賞対象の絵の選択が重要な鍵を握る。重要な役割を担うファシリテーターは、幼
児一人ひとりの言葉を丁寧に受け止めることが必要である。また、幼児どうしの関わりや
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相互交渉、トラブルが起きた際の仲介等も、活動をスムーズに行う上で重要なスキルであ
るため、保育に精通している者がファシリテーターを行うことが幼児の発話をより促進す
ると考えられる。
本実践の結果及び先行研究から、幼児の対話を介した鑑賞に適した絵画の特徴として、
①具象画のみならず抽象画においても物語を作りやすい情報が絵画の中にあること、②形
や色などの情報量が多いこと、③多様な見方ができること、④不思議で疑問が出やすく、
興味を引き出しやすいことの 4 点の特徴をあげる。
以上、本研究によって、一定の環境条件が整えば、すなわち、保育に精通したファシリ
テーターの確保、及び、幼児の反応を喚起する絵画を用意にすることによって、対話を介
した鑑賞が成立し得る可能性が見出された。さらには、対話を介した鑑賞は、幼児教育の
5 領域のうち、
「言葉」
「表現」の 2 つの領域と関連が深く、幼児期において意義のある保
育活動となり得る可能性も示唆された。本研究は、保育において、対話を介した鑑賞を一
つの活動として検討することに積極的な動機を与えるであろう。
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