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ホッキョクグマの歴史は思いのほか古かった
Embargoed Advance Information from Science The Weekly Journal of the American Association for the Advancement of Science http://www.aaas.org/ 問合せ先:Natasha Pinol +1-202-326-6440 [email protected] Science 2012 年 4 月 20 日号ハイライト ホッキョクグマの歴史は思いのほか古かった 豊かに老いるにはくよくよしないこと 合成「XNA」は DNA と同様に機能し進化する 気候変動と闘う南ヨーロッパの植物 ホッキョクグマの歴史は思いのほか古かった Polar Bears Older Than Previously Thought ホッキョクグマが最も近縁な種から枝分かれしたのは約 60 万年前だったことが、新たな遺 伝子分析でわかった。これにより、低温に適応したこの種は、従来の説よりも 5 倍ほど歴史 が古いことになり、極北の環境に適応するのに要した時間もこれまでの推測より長かった可 能性がでてきた。従来のホッキョクグマ研究ではミトコンドリア DNA(mtDNA)に注目し ていたが、この mtDNA は母親から子へと受け継がれるものであり、ゲノム全体のごく一部 に過ぎない。ゲノムの各部分は独自の物語をもっているので、種の進化の歴史を再現するの に mtDNA しか用いないのは、本を数ページしか読まないのと同じで、情報の大部分を見落 としかねない。今回 Frank Hailer らは、核ゲノムでも mtDNA と同じ物語がみられるかどう かを調べることにした。mtDNA 分析によると、ホッキョクグマは基本的に北方のヒグマが 最近進化した種だとされていたが、核ゲノム分析の結果は全く異なるものだった。核ゲノム 上にある多くの異なる遺伝領域のデータから、ホッキョクグマもヒグマもこれまで考えられ ていたよりかなり古い種であることが明らかになったのだ。更新世の気候記録から、ホッキ ョクグマが枝分かれした当時の地球の気温は長期にわたり低かったことが判明している。著 者らは単なる偶然かもしれないとしながらも、今回の結果から、更新世における気候の急激 な寒冷化がホッキョクグマの進化的起源と関連しており、適応には比較的長い時間を要した ことがわかったと主張している。人間活動によって気候変動が加速しているため、北極圏の 気温は過去の温暖期に比べてより早くより高温に達する可能性がある。そして今回の研究か ら、過去においては気候変動への適応に長い時間を要したことがわかった。従って、現在の 温暖化ではホッキョクグマの適応が間に合わない可能性がある。 Article #14: "Nuclear Genomic Sequences Reveal that Polar Bears Are a Distinct Bear Lineage," by F. Hailer; V.E. Kutschera. B.M. Hallström; D. Klassert; A. Janke at Senckenberg Gesellschaft für Naturforschung in Frankfurt am Main, Germany; S.R. Fain at National Fish and Wildlife Forensic Laboratory in Ashland, OR; J.A. Leonard at Estación Biológica de Doñana (EBD-CSIC) in Seville, Spain; U. Arnason at Lund University Hospital in Lund, Sweden; A. Janke at Goethe University Frankfurt in Frankfurt am Main, Germany. かに老いるにはくよくよしないこと To Age Well, Let Go of Regret 精神的健康を保ちながら年齢を重ねるための鍵のひとつは、逃した機会を悔やまないことだ ということが新たな研究からわかった。青年時代には、後悔することがその後の決断をより 良いものにしていたかもしれないが、年齢を重ねるにつれて新たな機会を得る可能性は減り、 その可能性に思いを巡らしても利点はないように思われる。この考えに関する生物学的基盤 を探索するなかで、ドイツの Stefanie Brassen らは機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて、 若年成人、うつ病高齢者、健常高齢者という 3 つのグループの脳活性を比較した。被験者ら は一連の箱を開けていくコンピューターゲームを行った。箱には賞金が入っているものとア ニメの悪魔の絵が入っているものがあり、悪魔の箱を開けるとゲーム終了となり、それまで 獲得した賞金がすべて没収される。被験者はひとつの箱を開け終わると、次の箱を開けるか、 止めて賞金を受け取るかを決めることができる。一通り終わると箱がすべて開き、どの箱ま で開けて良かったかがわかるようになっている。 若年成人とうつ病高齢者は、賞金獲得の機会を逃したことがわかると、次のゲームからリス クを冒すようになったが、健常高齢者は行動に何ら変化を認めなかった。さらに、後悔の念 に関与する腹側線条体と感情の制御に関連する前帯状皮質という脳領域の活性が、若年成人 とうつ病高齢者はほぼ同じであった。健常高齢者は別の脳活性パターンを示し、あまり後悔 せず感情をうまく制御していることが示唆された。このほか、若年成人とうつ病高齢者では 賞金を得る機会を逃したことがわかると皮膚伝導が増大し、心拍数が高くなっていたが、健 常高齢者にはこのパターンがみられなかった。Brassen らは、健常高齢者がゲームの結果は 偶然に過ぎないと自らに言い聞かせるといった有益な精神的戦略を用いているのに対して、 うつ病高齢者は結果について自責している可能性があることを示唆している。著者らは、こ のような精神的戦略を用いるよう訓練することが高齢者の精神的健康を守ることにつながる と考えている。 Article #21: "Don’t Look Back in Anger! Responsiveness to Missed Chances in Successful and Nonsuccessful Aging," by S. Brassen; M. Gamer; J. Peters; S. Gluth; C. Büchel at University Medical Center Hamburg-Eppendorf in Hamburg, Germany. 合成「XNA」は DNA と同様に機能し進化する Synthetic “XNA” Can Function, Evolve Like DNA 研究者らは、DNA と同様に情報を蓄積しコピーできる一連の合成ポリマーを作成した。こ れらのポリマーは実験条件下で、進化に類似したプロセスで変化することもできる。関連す る Perspective で Gerald Joyce は「この成果は、合成遺伝子の時代の幕開けを告げるものであ り、宇宙生物学やバイオテクノロジー、また生命そのものの理解にとって重要である」と記 している。すべての DNA は、糖とリン酸基から成る骨格構造に沿って並んだ、一般に A、 G、C、T と呼ばれる 4 つのヌクレオチド塩基で構成されている。Vitor Pinheiro らは今回、構 成要素である天然の糖が他の 6 種類の糖のいずれかと置換された核酸様「XNA」分子の進化 を誘導したことを報告した。これらの XNA 分子はすべて、相補的 RNA(cRNA)や DNA と結合する。研究者らはまた、DNA テンプレートから XNA を合成できるポリメラーゼ酵素 や、逆転写して XNA を DNA に戻すことのできるポリメラーゼ酵素を作成した。この実験 系により、XNA によりコードされた遺伝の基礎となる情報の複製が可能になる。さらに Pinheiro らは、HNA として知られるポリマーの 1 つを、自然選択に近い実験条件下においた。 同様の条件下の DNA で予想されるように、HNA は特定の標的と緊密かつ特異的に結合する 形態に進化した。 Joyce はその Perspective の中で、XNA の合成生物学研究は RNA を用いる研究には追い付く ことはないであろうと述べている(RNA の精製はより容易であり、その解析に利用可能な ツールが多いため)。とはいえ、Joyce は XNA 分子が、DNA や RNA を分解する天然の酵素 の影響を受けないこと、またそのために物質科学、分子診断薬および分子治療薬において、 DNA や RNA とは異なる利用可能性をもつであろうことを指摘している。また警告として、 合成生物学は、ヒトの生物学的システムを害する可能性のある分野には踏み込まないように すべきだと述べている。 Article #13: "Synthetic Genetic Polymers Capable of Heredity and Evolution," by V.B. Pinheiro; A.I. Taylor; C. Cozens; S.-Y. Peak-Chew; S.H. McLaughlin; P. Holliger at Medical Research Council (MRC) in Cambridge, UK; M. Abramov; M. Renders; P. Herdewijn at Katholieke Universiteit Leuven in Leuven, Belgium; S. Zhang; J.C. Chaput at Arizona State University in Tempe, AZ; J. Wengel at University of Southern Denmark in Odense M, Denmark; M. Renders at University of British Columbia in Vancouver, BC, Canada. Article #5: "Toward an Alternative Biology," by G.F. Joyce at Scripps Research Institute in La Jolla, CA. 気候変動と闘う南ヨーロッパの植物 Plants in Southern Europe Struggling With Climate Change ヨーロッパの植物種は標高の高い場所へと移動することで気候変動に対応している。今回、 植物種の数は北ヨーロッパの山頂では増加し、南ヨーロッパの山頂では減少していることが 発表された。Harald Pauli らは、ヨーロッパの山脈地域に自生する植物種の数は過去 10 年間 で平均的に増加していることを発見した。しかし、地中海地域の山脈のような南ヨーロッパ の山脈地域では近年、植物種は減少しているという。植物種の自生地域がより標高の高い場 所へと移行したことで、ヨーロッパ北部では植物種が増加し、南部では減少する結果となっ た。また、ヨーロッパ大陸で引き続き温暖化が進み、さらに乾燥することで、南ヨーロッパ の植物種はより大きな圧力を受けることになるであろうと Pauli らは述べている。Pauli を始 めとする研究者グループは、ヨーロッパの主要山脈全体を網羅する 66 ヵ所の山頂を調べる 国際的な調査に参加した。Pauli らはまず 2001 年に、そして再度 2008 年に、それらの山頂 に自生するすべての維管束植物の記録を取り、その分析結果を今回の論文で発表した。 Article #15: "Recent Plant Diversity Changes on Europe’s Mountain Summits," by H. Pauli; G. Grabherr at Austrian Academy of Sciences in Wien, Austria. For a complete list of authors please see the manuscript.