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I am with you alway, vntil the end of the worlde

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I am with you alway, vntil the end of the worlde
関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
―― The Dark Knight Rises(2012)論への序章(続)――
島 村 宣 男
Abstract:
Christopher Nolan’
s Batman trilogy in film, i.e., Batman Begins(2005), The
Dark Knight(2008), and The Dark Knight Rises to be released in July, 2012,
solely following a‘realism’approach, will ever remain as a grand-styled‘epic,’
with thrilling stories, powerful performances, refined visual images, and nice and
intellectual lines, in the history of American films.
The Batman, a comic-book hero, who first appeared in the Detective Comics in
1939, is exactly the‘cultural hero’of America today. Nolan’
s trilogy to be
completed at the peak of its popularity, in this sense, may be interpreted as an
all-inclusive interpretation of the thought and behavior of the‘Caped Crusader’in
the context of the contemporary America.
The shooting of TDKR, which began in May, 2011 and almost wrapped in
December, has now entered into the post-production, and the first six-minute
prologue, which tells about the early life of Bane, a new nemesis of Batman, will
be released as a special footage in some IMAX theaters soon. Thus it is highly
interesting to imagine out of the present state of film-making how Nolan will
bring his Batman-saga to an end.
The present paper is part of my series of preliminary essays for the conclusive
discussion on aspects of linguistic and cultural representation in TDKR, to appear
after the release of the film, followed by the publication of the script.
Key Words:
American films, The Dark Knight Rises, Christopher Nolan, Christian Bale,
Batman, Bane, Catwoman
― ―
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“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
Ⅰ
ここに提供するのは、先に公表した小論「“He is not here, for he is
risen . . .”――The Dark Knight Rises(2012)論への序章」1 )の続稿、タイ
トルの英文は Geneva Bible(1560)は Matthew, 38. 20 からの引用である。
ここでは、その後に入手した多くの関連情報のなかから、予定される本論
執筆に備えて必要なものを順次整理しておきたい。
9 月下旬以降の屋外撮影はピッツバーグからロサンゼルスへ移動、ヘリ
コプターを動員しての大がかりなバットウイングのアクション場面の夜間
撮影が終了して、10月下旬から“the Big Apple”ことニューヨークの実業
家 Donald John Trump(1946−)2 )が保有するビルの一角で、ブルース・ウ
エインを演じる Christian Bale と警邏巡査(beat cop)ジョン・ブレイク
(John Blake)3 )を演じる Joseph Gordon-Levitt との共演シーンなどの撮影が
行われた(Fig. 1 )。なお、撮影チームの一部は11月上旬からニューアーク
(Newark, N. J.)へ移動するという。
Fig. 1
Bruce Wayne & John Blake(from the shooing in New York)
10月中旬に開催された2011年度 SCREAM Awards の授賞式で、TDKR が
数ある未公開映画のなかから期待度の最も高い作品に贈られる‘The Most
Anticipated Movie’賞を受賞、第一作の Batman Begins(以下、BB)の続
編 The Dark Knight(以下、TDK)の爆発的ヒットを受けての「三部作」
の完結編に対するファンの意識のいかほどかを如実に物語っている。
物語展開に関して興味深いのは、夕刻にランボルギーニ・カウンタック
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の新型車から降り立ったブルースが杖をついて建物のなかに入るシーンの
撮影現場がリークされたことである。なお、情報はこれより早く流れては
いたが、「プレイボーイの大富豪」のブルースは、BB 以来の愛車ムルシエ
ラゴ(Murciélago)4 )を後継モデルのアヴェンタドール(Aventador)5 )に乗
り換えることになっている。
11月初頭、世界的な異常気象は時ならぬ大雪をニューヨークにもたらし
た。リアリストの Nolan はこれ幸いとばかりに、すでにピッツバーグで人
工雪を降らせての撮影済みの市役所前での正邪入り乱れての乱闘シーンを、
この大都市で撮影し直した模様である(Fig. 2 )。今回の撮影でリークされ
たのは、ベインが扇動する動乱のプロパガンダで、「金は人間を醜くする」
(MONEY MAKES YOU UGLY)というものである。確かに、一面の真理を
穿つメッセージではある。この展開、時あたかもウオール・ストリートに
おける市民生活における「格差拡大」の是正を求めて行われたデモ活動の
現実に一部重なる感もなしとしないが、ベインが招く市内騒乱の顛末を
Nolan がいかに描くか、これも TDKR の見逃せぬ点となろう。
Fig. 2
Batman fights Bane“again”(from the shooting in New York)
物語の細部は監督の Nolan や主演の Bale はもとより、関係スタッフにあ
っても依然として匿秘されており、状況は先稿の域をほとんど出てはいな
い。新たな展開は、
「杖をつくブルース」という一点にかかって興味をそそ
られるが、これが物語の前半なのか、あるいは後半なのか、またベインと
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の死闘による負傷、あるいは後遺症によるものかは定かでない。ともかく、
ベインがバットマンの背骨をへし折るという衝撃的な原作コミックの設定
(Fig. 3 )が、左程大仰にならぬ程度に Nolan 風の潤色が加わることになる
だろう。原作コミックのファンのなかには、敵役のジョーカーのファンが
多いように、ベインのファンも少なくない。とはいえ、物語の完結がバッ
トマンの「引退」ではいかにも寂しい。むしろ、
「死」のほうが英雄叙事詩
的(heroic epic)ではあるだろう。
Fig. 3
Bane breaks Batman’
s back in the“Knightfall”story(D. C. Comics)
Ⅱ
TDK に続いて、 TDKR の脚本の共同執筆を手掛けた Jonathan“Jonah”
Nolan は監督 Christopher Nolan の実弟、 Los Angeles Times 紙の記者
Noelene Clark による短いインタヴューに応じ、TDKR に触れて次のように
6)
答えている。
以下、私訳(丸括弧内は原文)によって引こう。
NC: 超大作(big screens)といえば、TDKR に期待できるのは?
J N: ワーナーには僕を付けまわす忍者部隊(a little team of Warner Bros. ninjas)
がおりましてね。口を開こうものなら、「シーッ!」(“Quiet!”)とばかり
に突如姿を見せて、毒矢(a little poison dart)を射かけてくるのですよ。
NC: バットマン・シリーズに参加されて数ヶ年、いよいよ完結を迎える感想
は?
JN: ほろ苦い(bittersweet)ものです。人生の 9 年間をこれにつぎこみまし
たからね。刺激的(exciting)でしたよ。物語を完結できて嬉しいかぎり
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です。でも、あの〔バットマンという〕キャラクターがいなくなると思
うと寂しいですよ。このような宇宙(this kind of universe)を、それも
ニューヨークで全てを取り込んで構築しようというわけですから、それ
はワクワクものです。バットマン的な世界からは離れるかもしれません
が、共有する要素もありますね。このような物語を語り続けることがで
きて興奮しています。〕
ことほどさように秘匿の口は固い。ただ、Jonah がシリーズ関与の 9 年間
を「ほろ苦い」
(
“bittersweet”
)という形容詞で総括していることには、否
応なしに気にかかる。ブルース・ウエイン/バットマンの「自衛行動」も
おそらくそれに近いものになるのでは?と予想せざるをえない。BB におい
ては、価値観の相違から旧師ラーズと袂を分かち、そして TDK においては、
ジョーカーの姦計によって恋人レイチェルばかりか、盟友デントを失った
代償は余りにも大きい。
一方、撮影も終盤に入った11月下旬、監督の Christopher Nolan が沈黙
を破って次のように述べたと伝えられている。
「TDKR によって、バットマ
ン/ブルース・ウエインの物語は完結します。彼は非常に危機的な(precarious)状況に追い込まれます。一部のファンには驚きでしょうが、物語
は TDK から 8 年後で、かなり歳月が経過した時点になります。ブルース・
ウエインも年齢を重ね、その体力も万全の状態にある(in a great state)わ
けではありません。ベインに関連しては、バットマンはこれまでに経験し
たことのない難題(challenge)を突きつけられます。悪人の選択と物語の
選択に関連しては、バットマンは精神的にも、身体的にも試練の時を迎え
ることになります。」7 )
これとほぼ同時に公表されたあらすじ(official synopsis)は、すでに先
行予告編で流れたタグラインを含んで、これを私訳で引けば以下のようで
8)
ある。
「英雄は旅をする。旅には終わりがある。Batman Begins に始まり、ブロ
ックバスター The Dark Knight という興行収益10億ドルの高み(the
stratosphere)にまで達したゴッサム叙事詩の三部作(the epic Gotham
trilogy)の完成に向け、Christopher Nolan が帰ってくる。バットマンはい
まやハーヴィ・デントの殺人の罪を一身に負い、その名声を守るべく、
― ―
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盟友の警察署長ゴードンの法的な追求を受ける身となっている。ゴッサ
ムが永遠に失われることがないように、バットマンは新たな悪、ゴッサ
ムの破壊と混乱を企むベインの襲撃に迅速に対処し、過去の古傷に向か
い合い、素性の知れない(enigmatic)セリーナ・カイルを味方につける
ことになる。」
これで、先に紹介した「杖をつくブルース」の意味がおおよそ了解でき
よう。バットマンはベインとの激闘で、背骨を折られるかどうかはともか
く、相当の重症を負うことになる。また、すでに前稿で予想したように、
Nolan 版のセリーナ・カイル/キャットウーマンは、ブルース・ウエイン
とバットマンとの間で揺れる微妙な敵対者であった Burton 版とは違って、
密接な協力者であることがいよいよ明確になったことになる。
Ⅲ
映画情報の専門誌 Empire(Jan. 2012)に掲載され、後に公式に発表された
スティル写真(official features)の一部は TDKR のその細部の多少を伝え
てくれる。
Fig. 4 は、すでに先行予告編の最後に描かれていたシーンに繋がるもので
ある。もっとも、これが後半のバットマンとベインの一対一の対決シーン
なのか、あるいは前半に予想されるバットマンの重傷につながるシーンな
のかは明確ではない(おそらくは、後者)
。ただ、ベインの服装から想像す
るかぎり、Fig. 5 に見る厳冬期の騒乱シーンに繋がるものではないだろう。
注目すべきショットは Fig. 5 である。ウエイン・エンタープライゼズか
ら略奪したと思われるタンブラーの上に仁王立ちになって市民を煽動する
ベインが左手に掲げ持つのは TDK でジョーカーの狡猾な罠にかかって復讐
の鬼トゥー・フェイスとして死んだ廉直の地方検事ハーヴィ・デントの写
真である。これは何を意味するのだろうか。デントが犯した罪を被って長
らく雌伏しているバットマンを引き摺り出そうとの魂胆か。バットマンが
“rise”するからには、すでにデントの罪が白日の下に晒されていなければ
ならないだろう。つまり、バットマンの無実はすでに社会的に晴らされて
いる必要がある。アナキーな騒乱を煽動するベインは、ここでバットマン
を挑発していると見るのが自然であろう。
― ―
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Fig. 4 Bane Confronting
Batman
Fig. 5 Bane standing astride his own Custombuilt Tumbler
TM & DC Comics
2011 Warner Bros. Ent.
All Rights Reserved.
Fig. 6
TM & DC Comics
2011 Warner Bros. Ent.
All Rights Reserved.
Batman in the lingering snow
TM & DC Comics
2011 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
Fig. 6 はかすかに雪の残る市街地の一角、騒乱が鎮静化した直後の風情
である。
「闇の騎士」バットマンの周りに横たわる男たちの死体はベイン配
下の者たちのそれと思しい。それでは、TDK のジョーカーとは異なる新た
な《悪》(evil)としてのベインがバットマンに対して仕掛けるのはいかな
る難問であろうか。
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ジョーカーの本質は《善》
(good)の存在を信じない悪である。バットマ
ンが善を行うように、ジョーカーは悪を行い、しかもそうした行動を楽し
んでいる。ジョーカーは、自分自身の考えを証明すべく他者をその極限状
況に追い込んで試す。選良(エリート)のデントをほんの「一突きで」堕
落させることはできたものの、平凡で純朴な市民を堕落させることができ
なかったことが示唆するように、語られることのなかったジョーカーの過
去は、堕落以前のサタンがそうであったように、おそらくはデントと同じ
選良のそれであったのではなかろうか。確かに、その悲惨な少年時代と不
幸な結婚生活がジョーカー自身の口から語られたとはいえ、その殆どは精
神を病んだ挙句の妄想であったろう。
それにしても、ベインとはいかなる悪なのか。先にも触れたように、こ
の2011年明けには遠くイスラム圏諸国で勃発した反政府運動は武装化を伴
って革命へと変じ、やがて一独裁国家の崩壊へと繋がったが、そのまとも
な市民感覚は経済問題の深刻化の度を増している欧米諸国へと飛び火する
ことにもなった。大西洋を間に挟んだ米国はニューヨークでも、その余波
であったろうか、9 月半ばに至って格差社会を糾弾するウォール街周辺の
デモ行為となって現出した。当然のことながら、そこには「ウォール街を
占拠せよ」(OCCUPY WALL STREET!)と唱和する若者たちと、秩序の維
持を旨とする警官隊との衝突は不可避であった。しかし、この一連のデモ
は騒乱に繋がるものというにはほど遠く、穏健な社会的な良識に基づくも
のである。11月半ばにデモの現場を目撃した特派員の報告によれば、対催
涙ガス用のマスクを首にかけた90歳近くの女性が70歳代の女性たちととも
にこの行進に参加しているのを見て、警官たちの表情にも微笑が浮んでい
たという。9 )
ベインは、原作コミックに準じ、おそらく語りの前半においてバットマ
10)
ンの正体を見抜くことになるだろう。
自分は犯罪者の親をもつ惨めな刑務
所育ち、相手はゴッサムきっての大富豪の御曹司、その雲泥の格差に対す
る怒りがベインのその後の行動のエネルギーとなるはずである。すなわち、
「贅沢は敵だ」というわけである。やがて、知的肉体派のベインは「影の同
盟」とともにゴッサムの武力制圧に乗りだすが、警官隊はともかく、こう
した戦闘状態に一般市民が対処するのは至難だろう(Figs. 7 & 8 )。ブル
ース・ウエイン/バットマンは最新鋭の秘密兵器によってベインの力を殺
ぐことになるだろうが、同時に、ベインとの間に横たわる深い溝を理性的
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に埋めなければならない。ジョーカーはともかく、ベインをアーカム精神
病院に収容させるわけにはいかないだろう。監督の Chris がどのような手腕
を見せるか、期待するところは大きい。
Fig. 7
Catwoman chasing a camouflage tumbler(from the shooting in Pittsburg)
Fig. 8
The tumblers attacks Gotham(from the shooting in New York)
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Ⅳ
撮影もいよいよ最終段階にかかって、TDKR に関する新情報はうねりの
ごとくネットを席巻しつつある。なかでも興味深いのは、Inquire.net に登
場したもので、主役 Christian Bale のロサンゼルスで行われた長時間のイン
タヴューを基にした記事、“Bale talks about his co-stars in‘Dark Knight
11)
Rises’
”
(
「Bale、TDKR の共演者たちを語る」
)である。
以下、TDKR 以外
の情報も含め、私訳によって紹介しよう。
インタヴューの間、Christian Bale は終始上機嫌だった(in a good mood)。
愛嬌がなく(terse)
、非常に真面目な(very serious)俳優とされるこの俳優は
終始笑顔で語ってくれた。クリスチャンは以前行われたインタヴューで、質
問への答えを拒絶する場合もあったが、ここ Beverley Hills の Montage Hotel
では、そのような状況に至ることはなかった。彼は TDKR に関する新たな詳
細を明かしてくれ、監督の Chris Nolan や Anne Hathaway(セリーナ・カイ
ル/キャットウーマン)
、Tom Hardy(ベイン)
、そして Joseph Gordon-Levitt
(ジョン・ブレイク)を含む共演者たちについての印象を語ってくれた。The
Fighter における見事な演技で、2011年度のオスカーとゴールデン・グローブ
賞の最優秀助演部門でダブル受賞を果たしたこの俳優は、
(彼が Terry と呼ぶ)
、Terrence Malick 12)と再びタッグを組む二
「The New World(2005)の監督」
作品について話してくれた。さらに、近づく映画賞レースで最優秀外国語映
画賞の候補に上がるはずの中国映画 The Flowers of War での中国の張芸謀
(Zhang Yimou)監督との仕事について洞察にあふれる見方を披露してくれ
た。
多彩な共演者たち
最初に話題に上ったのは、シリーズ最新作の共演者たちである。実績のあ
る演技陣のなかでも、私たちは Anne Hathaway, Tom Hardy, そして Joseph
Gordon-Levitt の三名に狙いを絞った。Christian はこう切り出した。
「Anne と
の共演シーンが多くあります。彼女のスクリーン・テストにも僕は立ち会っ
ています。その日、僕が Chris に言ったのは、キャットウーマンというキャ
ラクターを理解している実力派女優ばかりだということでした。僕はオーデ
ィションと聞くと、いまだに震えがきます。だから、まだ演じた経験もない
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のに、また時間をかけて準備したわけでもないのに、当のキャラクターをし
っかりと把握している演技者を見ると、それは感動的ですよ。」
超ハードな仕事
「僕は Anne にそれを見たのです」と Bale は付け加えた。「スクリーン・テ
ストを見た Chris も彼女の仕事の素晴らしさを認めていました。彼女にはい
ろいろと超ハードな仕事があるのです。多くの人がキャットウーマンの役は
前から決まっていたと感じています。僕は Anne の役柄が一番きついのでは
ないかと見てきました。僕の場合、外的な関連情報は耳に入れないようにし
ています。演じ続ける対象への導きの手として僕が参考にするのは、Chris 自
身のバットマン的世界なのです。」
Bale は〔ベインを演じる〕Tom Hardy を絶賛して、「素晴らしい(phenomenal)俳優です。彼との共演は楽しかったです。手の付けられない麻薬
中毒者そのもの(the whole hog)を演じました。ベインはすでに以前の映画
で登場したキャラクターです。でも、僕の眼からは、ベインを本質的なかた
ちで創造したのはトムが初めてということになります。トムにはそれを可能
にさせるだけの大きな自由があるのです。
」と言う。
さらに Bale は、 Inception (2010)で Chris と手を組んだ俳優[GordonLevitt]について、「Joseph は非常に興味深い(intriguing)男」であると言
う。偶然ではるが、Tom も同作品に出演している。「〔TDKR の〕撮影中に、
Joseph が出演した他の作品の演技ぶりをよく見ました。演じるのが大好きと
いった信頼できる俳優です。優秀で、頭の切れる男です。
〔TDKR では〕素晴
らしい仕事ぶりでしたよ。
」
秘密の正体(secret identity)
Christian は TDKR をもって仮面の戦士バットマン――その秘密の正体は、
少年期に両親が眼の前で殺害されて、犯罪に対する復讐の人生をおくるアメ
リカ人大富豪ブルース・ウエイン――を演じる最後の作品になると述べた。
「二、三日前に〔撮影が〕終了し(wrap)たので、それが〔バットマンの〕仮
面を外す最後の日になるでしょう。」と彼は言う。「〔撮影の〕全日程は昨日
〔11月24日〕終了したと思います。全てが終りました。僕と Chris の――バッ
トマン年代記の終結になるでしょう。
ブルース・ウエインを演じることは「楽しかった」と、Christian は認める。
― ―
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彼の説明によれば、
「私たちが最初からいつも主張してきたのは、簡単に分析
(break down)すれば、そこには三つの人格(persona)があるというわけで
す。つまり、誠実な(sincere)バットマンと誠実な私人(private)としての
ブルース・ウエインがいて、公的なプレイボーイのブルース・ウエインがそ
の完全な擬態を演じる(a complete fabricated performance)というわけで
す。」
他の情報について、Christian は Terrence Malick の二作品 Lawless(2013)
と Knight of Cups(2014)に出演(共演は、ともに Cate Blanchett)するこ
とを確言した。フィルムの完成のためには撮影期間の延長も憚らないという
テレンスの評判に、彼は微笑みながら皮肉交じりに、
「テリーは全ての期待に
背こうという主義ですから、私たちは両作品の間を飛び回ることになるでし
ょうね」と応じた。
〔中国の映画監督〕張芸謀が1937年当時のセットを組む「金陵十三釵」
(The
Flowers of War)にあって、Christian は旧日本軍の侵略を受けて包囲された南
京で自由を拘束されるアメリカ人のジョン・ミラーを演じる。絶望に瀕した
民間人たち――
〔キリスト教学校の〕女学生たちと高級娼婦たち――が〔カト
リック教会の〕聖堂に避難場所を求めたために、ジョンはやむなく神父にな
りすます。英雄的行動が絶望的な集団の反撃を喚起することになる。
ハリウッドやロンドンから遠く離れた撮影
の間に着目した相違に触れて、Christian は言
う。
「多分、中国の手法(set-up)なのでしょ
う。あるいは、芸謀があちらでは高名な監督
であるからかもしれません。相当なワンマン
(autocracy)ですね。どんな時でも、これか
ら何が撮影されるかは彼が決定するのです。
他の誰にも説明する必要はありません。製作
者側にしても彼に異を唱えることはありませ
ん。どう見ても独裁者(dictatorship)です
が、芸謀は温和な人物で、一方通行という事
態にはなりません。」
以下、Bale の補足説明を付け加えれば―― Fig. 9
「撮影所で働く人たちには組合(unions)が
ありませんから、毎週七日間労働です。
「万事
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A Theatrical Poster of
The Flowers of War
2011 EDCO Film
All Rights Reserved.
関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
が、特にセットの組み立ては、サイズといい、スケールといい、そのスピー
ドは眼を見張るものがあります。
「僕が現場に着いたら、もう何年間もそこに
あると思われるような二つの撮影スタジオ(sound stages)があったのです
が、なんとこの作品のために建てられたものだったのです。
「〔旧都の〕南京を再現するために数エーカーにも及ぶ大通りを敷設しまし
た。聖堂も正面(facçde)だけで済ますことはせず、コンクリート製でした。
〔その聖堂は〕築100年ほどという設定です。それを成し遂げてしまう力量は
途方もないものです。
Christian は通訳を介して、 この高名なアジアの映画作家に個人的なアイデ
アを提供している。
「芸謀は僕が出会った最も穏やかな監督の一人(one of the calmest directors)です。慌てふためく(panic)ということが全くないのです。心配そう
な彼の顔を見たことがありません。どんな問題が降りかかろうと意に介しま
せん。ユーモアのセンスも抜群(a great sense of humor)です。
「僕たちは笑い転げて、いつの間にか、何のことで笑っていたのか本当に分
らなくなったこともありました。彼となら自分と同じ血が流れているのを感
じとれます(get a feeling of kinship)。彼は自分が成すべきことを熟知して
いるのです。長年の経験の賜物なのでしょう。」
ヒロイズム(Heroism)
映画の主題に他ならぬヒロイズムの話題は、Christian 自身のヒーロー像に
ついて語ることに繋がった。
「はっきり言って、それは父ですね」という即答
が返ってきた。
「僕にとって、父はいつも見上げる存在でした。いろいろ比較
をしたり、逆の判断をしたこともあります。父ならどうのように思い、どう
したかを、僕は常に考えてきました。」私生活で女性たちに囲まれている
Christian は――彼には三人の姉、そして自分の妻と愛娘が一人いる――彼女
たちの前では自分から破目を外す(revel)という。
「僕の一族の女性たちは、
なかなかお目にかかれないような、とてつもなく強い(the strongest bloody)
女性たちなのです」と彼は言う。「彼女たちにどうこう言う(mess with)こ
とはできませんし、僕はそれでいいと思っています。特別な女性たちだけが
享受できる素晴らしい能力に持ち前の器量が加わって、純粋な気持から思い
やる母親的な側面のようなもの(kind of absolute, caring maternal side)を
備えているのですから。非常に活力に溢れた女性たち(very feisty ladies)で
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“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
すよ。僕はもう慣れっこになっていて、それを楽しんでいます!」
TDKR に関する限り、Bale 自身の口も非常に固い。しかし、ブルース・ウ
エイン/バットマンとセリーナ・カイル/キャットウーマンの絡みのシーン
が多いという発言は甚だ興味深く、私の想像するところに十分に適っている。
また、インタヴュー後半の 13 Flowers of War に関する情報も、先稿の言及
箇所を補って余りある内容である。
Ⅴ
11月末にネットに流れたのは、三部作を通しでバットマンの無二の盟友
であり、ゴッサム市警本部(Gotham P. D.)の署長ジェームズ・ゴードン
(James“Jim”Gordon)を人間味豊かに演じた Gary Oldman の、短いが最
13)
新のインタヴュー記事である。
Oldman によれば、
「ゴードンのキャラクタ
ーは、三部作の最後(the trilogy’
s finale)を締めくくるために本来のかた
ち(an earlier form)に回帰する」という。Bale と同じくイギリス出身のこ
のベテラン俳優が大任を終えて語った内容は以下のようなものである。
「彼〔TDKR のゴードン〕は、BB のゴードンをちょっと思い起こさせるよ
うな存在(a little reminiscent)だね。ゴッサムを浄化して(tidy up)きたけれ
ども、まだなすべきことがある。現世にはうんざり(very world-weary)と
いったところかな。」
確かに、BB における警部補(lieutenant)ゴードンは、バットマンの出
現を知るまでは、この世の、とりわけ警察内の腐敗堕落に与することなく
孤立して、無情にも昇進すら阻まれていた。バットマンに協力してラーズ
のゴッサム襲撃を阻止し、バットマンと二人だけの「盟約」を結んだゴー
ドンは、TDK では地方検事デントの「盟約」への新加入もあり、ジョーカ
ー逮捕という大手柄をあげ、市長アンソニー・ガルシア(Mayor Anthony
Garcia)の即断で署長(commissioner)へと昇格している。TDKR の、と
りわけ前半部にあっては、デントの罪を被ったバットマンの雌伏という状
況もあって、ベインという桁外れの《悪》の攻撃に対する無力感に苛まれ
ることになろう。本稿冒頭で言及した巡査ブレイクの役割は、病床に伏し
て弱気になった孤立無援の上司ゴードンをバットマンと再び結びつける「連
― ―
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関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
絡係」といったところか。
12月に入って、期待がいや増しに高まりつつある現在、「主役(the lead
character)を張る Bale と警察署長(police honcho 14))役の Oldman」の、
短いが新たなインタヴューも報じられている。15)そこで、Bale は次のよう
に応じている。
「興行成績(box office)についてプレッシャーは感じません。僕はバット
マンとブルース・ウエインを大テントの支柱(a big tent pole)としては見て
いません。演じるのが好きな、もう一つのまた別のキャラクターというわけ
です。でも、新たなものを創り出さなければというプレッシャー(a creative
pressure)はあります。それを感じなければまずいでしょうね。」
いっぽう、バットマンの秘密(Batman’
s secrets)を知る数少ない人物の
一人を演じる Oldman は、一線を画すことで、そうした期待を寄せつけな
いようにしている(keeping the expectations at bay)と言う。
「私などより、Chris〔Nolan〕のほうがプレッシャーはずっと大きいはず
です。ファンがゴードンにがっかりするか、作品自体にがっかりするかは、
別問題です。
」
加えて、シリーズものも三作目は第一作や第二作の出来には及ばないこ
とがしばしばだが、ファンは気を揉む(fret)必要はない、と Goldman は
断言する。
「Chris は一段上を行っている(classy)から、
〔シリーズ物の〕三本目を作
っているだけという認識はないですよ。素晴らしいストーリー(a terrific
story)で、叙事詩的な(epic)内容です。」
三部作を通して音楽部門(score)を担当した、当代きっての作曲家 Hans
Zimmer(1957−)がほぼ同時期に行われたインタヴューに応じた模様も伝
16)
わっている(Fig.14)。
「TDKR のアイデアは、
〔Robert Downey, Jr. とJude Law 共演の〕ホームズの
― ―
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“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
シリーズ二作目に取りかかる前に浮かびました。そこで、クリスに質したの
です、
「常軌を逸したオーケストラ(the most outrageous orchestra)を使って、
実験的な音楽(the experimental thing)をもってきてもいいかな?」って。
聖歌(chanting)とか、あらゆるものを詰め込んだものなのです。でも、駄
作であれば、放り捨てるだけのこと、ハンスのやつ、金の無駄遣いをしたと
陰口を叩かれることもありません。そういうわけで、数週間それに集中して
仕上げました。一部の録音が終えたところへクリスが立ち寄って、こう言っ
てくれたのです。「半分まで完成したのでは?」とね。僕はこう応じました。
「正直言って、そこまでは達していないよ」とね。でも、問題の礎石(the
cornerstone)は見出せたと思っています。いまは野心満々といったところ
(hellishly ambitious)です。聖歌(chant)の部分が非常に複雑になったの
は、数百万人の声(hundreds of thousands of voices)を必要としたからなので
す。だから、参加希望者のために、ツイッター(Twitter)もしてみたし、ネ
ットで呼びかけもしたわけです。面白い試みではなかろうかと考えたのです。
僕たちは前二作にわたって、この〔バットマンの〕世界を創りあげてきまし
たから、観客やファンの人たちもその一員になっているのです。彼らの存在
を念頭に置かねばと考えたわけです。観客が実際に映画製作の一部に、その
参加者(participants)になれれば素晴らしいと思いました。そういうわけで、
誰でも入れて、その一員になれるようなウエブサイト www.ujam.com を立ち
上げたのです。眼を見張るよう(fantastic)でしたよ。最初のツイッターで、
秒当たり何万人もの人々がそのサイトへ入ろうとして、サーバーがメルトダ
ウンを起こして(melt)しまったのです。
Zimmer の発言で注目されるのは、動名詞派生の名詞“chanting”
、あるい
は普通名詞の“chant”ということばである。いま後者についてその語義を
OED に探れば、第一義は英国の17世紀は Milton, Paradise Regained, Ⅱ. 290
から引く詩語としての‘a song, melody; singing’である。しかし、Zimmer の
用いた文脈を考慮すれば、第二義の音楽用語としての‘a short melody or
phrase to which the Psalms, Canticles, etc., are sung in public worship’のほ
うを採るべきであろう。ここでは「聖歌」
、要するに〈宗教的な歌曲〉の謂い
ということになる。当然のことながら、その多声性(polyphony)は集団的
な《祈り》に繋がるはずである。
「集団」とはゴッサムを支える善良な市民
に他ならず、その《祈り》が向かうところは、救世主としてのバットマン
― ―
52
関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
の「復活」以外の何ものでもなかろう。
Ⅵ
TDKR の製作もいよいよ最終段階(post-production)へと突入した12月
も中旬に入ろうとする時期、ネットに飛び込んできたのは、近日公開予定
の冒頭の導入部の内容についての「 TDKR の IMAX プロローグを見た!」
(WE’
VE SEEN THE DARK KNIGHT RISES IMAX PROLOGUE!)と題す
る、以下に引くプレミア上映の情報である。17)
TDKR は2012年度公開の映画のなかでも最も期待される作品の一つだ
が、初めてその姿を現した。この12月16日に一部の IMAX 劇場で Mission:
Impossible-Ghost Protocol の上映に先立って公開される 6 分間のプロローグ
がそれである。
Christopher Nolan 自身による挨拶ののち、その映像がヴェールを脱いだ
〔ハリウッドの〕ユニヴァーサル・シテイの AMC IMAX 劇場は、ひとしきり
嵐のような歓声に包まれた…
開始直後の35mmの映像はすぐに IMAX へ、そして人質事件(a hostage situation)の間に生じる出来事へと移行する。ベインの姿と IMAX スクリーン
を利して必然の格闘場面(a ensuing fight)が映し出される。 TDK よりも
Inception に近いと、あるいはより近くは、ジェームズ・ボンド映画の IMAX
版だと考えればよい。
Nolan は先の挨拶のなかで、映画撮影というものを彼の少年時代のような
壮大なもの(the grandeur)に回帰することの重要性を強調し、所謂スケー
ルというもの(that said scale)があらゆる仕方で少しずつ削り取られている
と警告していた。
〔記者発表の〕招待者たちの反応は圧倒的に賛成の表明がなされたが、ベイ
ンの声については多くの議論があった。
〔顔面の半分を覆った〕マスクのせい
で声が殺されたうえに、イギリス英語のアクセントが強く、何を言っている
のか十分に理解できないのだ(あるいは、意図的であるかも)。
映像の結末部分は、IMAX による電光石火のごときモンタージュ映像(a
rapid montage of shots)がファンを興奮の坩堝へと誘う。
Nolan は笑いながら警告した。
「映像の残りの部分の編集にはまだ殆ど着手
― ―
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“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
していません。ですから、結末はどうなるのかとかいう話は私にしないでく
ださい。」
いっぽう、この一日遅れで報じられたのが、かの“Jett”のファン・サイ
ト Batman-on-film.com に掲載された「TDKR プロローグ、ワールド・プレ
ミア!」(The Dark Knight Rises World Premiere !)と題する、以下に引く
18)
熱気溢れる記事である。
先週、私はハリウッドで開催されたTDKR のプロローグ部分の特別試写会
へ招待された。Chris Nolan のバットマン三部作の最終作、この機会を逃すわ
けにはいかない!
「おいおい、たった 6 分間の上映のためにロサンゼルスまで大金(some
major coin)をはたいて出かける馬鹿がいるかよ?!」と言う御仁には、こう
お答えしよう、
「嘘偽りは言わない、その価値は十分にあったよ」と。いやは
や…
上映会は、ハリウッドはユニヴァーサル・シテイウオークの IMAX 劇場で、
〔配給元の〕ワーナー・ブラザーズ、監督の Chris Nolan、脚本の Jonathan
Nolan〔Nolan 夫人で〕製作の Emma Thomas と Charles Roven を主催者とし
て行われた。列席者は約100名の報道関係者、しんがりは BOF の私である。
Nolan 監督の簡単な挨拶が終って照明が消されと、問題の最初の 6 分間の試
写に続いて、二、三の抜粋部分(clips)の短い紹介があった。
さて、見終わっての感想?いやはや、スゴイの何のって(IT WAS F'N
BADASS !)。Nolan のチームが、もう一本のバットマン映画をただ作るため
に作ったのではないかとご心配の向きがあれば、そんなご懸念はこのプロロ
ーグを見た途端に払拭されること、この私が保証する。このことに関して言
えば、なぜ Nolan のチームが本格的な IMAX スタイルで見てほしいと願った
かが完全に理解できたのである。来年の 7 月に TDKR を通しで見る場合でも、
絶対に IMAX 劇場で見ることを是非ともお奨めしたい。また、 Mission:
Impossible-Ghost Protocol とともに一般公開されれば、来週のネット上に携
帯電話によるお粗末な盗撮動画(bootlegs)に加えて、確実に現れるはずの
ありとあらゆる能書きを、私なら覗くことなどしないだろう。もし、
〔その誘
惑に〕負ければ、Nolan が観てほしいと意図したように観るカッコ良さ(coolness)を全く放棄することになる。
上映終了後、映画製作者たちを交えた報道陣向けのレセプションが開催さ
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関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
れ、私は Emma Thomas, Jonathan Nolan, そして Chris Nolan その人と話す機
会に恵まれた。私は彼ら全員に、こうした素晴らしい(great)バットマン・
シリーズを提供してくれたことへの謝辞とともに私のサイトも終了になるの
で TDKR はほろ苦い(bittersweet)ものになるとお伝えした。この TDKR が
完成すれば、バットマンがいなくなって寂しくなるのではないか、と三人に
尋ねると、異口同音にその通りという答えが返ってきた。Jonathan の見通し
では、バットマンについての見事な解釈(an inspired take)をもつ誰かが出現
して、さらに優れたバットマン映画を多くのファンに――自分を含めて――
提供してくれるだろうとのことである。Chris と話している間に私にはっき
りしたのは、彼が TDKR のプロローグそのものに相当の誇りをもっている
(tremendously proud)ということである。何か特別なものが〔来年の〕7 月に
出来することが分って、私は胸をときめかしている。
そうそう、Emma の話では、新しい予告編も来週公開される予定で、それ
はもの凄い(awesome)そうだ。
Chris が IMAX〔撮影〕に非常に情熱を注ぎ込んでいる(very passionate)
ことを記しておく必要がある。IMAX は「はるかにずば抜けた画面構成を創
りだせる(far and away the best imaging format created)」と彼は言う。彼は
旧派(old school)で、私たち――映画ファン――がかつて味わったような
経験をしていない事実を嘆いている。
TDKR が来年夏に公開されたら、絶対に(Chris ではなく、私の言葉)IMAX
で観るようにとファンに薦めるよう、私たちに発破をかける始末。でも、昨
夜の 6 分間の IMAX 映像を見てからというもの、私も彼と全く同意見で、彼
がなぜ IMAX で観てほしがっているかがよく分った。
プロローグの詳しくて、ぶちまけるような(blow by blow)説明を期待し
ていたのなら、ここでは見つからない。ワーナー・ブラザーズや製作者側か
らも、ファンは昨夜の私たちのように新鮮なまま見たいはずと、釘を刺され
ている。ベイン(Tom Hardy)を観客に紹介する息を呑むような破天荒なアク
ション・シーンの連続とだけは言っておこう。最後の抜粋場面のモンタージ
ュに関しては、バットマン(Christian Bale)とその新兵器の数々、キャット
ウーマン(Anne Hathaway)、そして「ジョン・ブレイク」を演じる Joseph
Gordon-Levitt の姿を急ぎ足でカメラがとらえる。
本報告を閉じるにあたり、私としては来るべき夏の最終的な成果を鶴首し
て待ちたい!同時に、プロローグと新しい予告編の到来にあわせて――いま開
― ―
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“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
始されたばかりの宣伝キャンペーン(the viral campaign)をふくめ――ファン
の方々には次の数ヶ月間にわたってこの報告内容に信を置いてもらい、この
ような経験をまたいつ経験できるか分らないけれども、大いに楽しんでほし
いと思う。
TDKR の公式サイト、thedarkknightrises.
com が12月10日に公開したのが POSTER 2
(Fig. 10)である。新たなタグライン“THE
LEGEND ENDS”(伝説の終わり)を背に、
降りしきる雪のなか、中央にこちらに後姿を
見せてベインがすっくと立ち、前方にはバッ
トマンのマスクの左下部が無残に砕けて転が
っている。先のプロローグと同じく、ベイン
の肉体の威力がいかなるものかを効果的に表
象して、おそらく TDKR 前半部の内容を十分
に物語るものであろう。まさしく、傑作であ
る。これを評して、
“awesome!”というアメリ
Fig. 10 A New TDKR Poster
カ英語のスラング以外に適切な言葉が見つか
TM & DC Comics
2012 Warner
Bros. Ent. All Rights Reserved.
らないのは私だけではあるまい。
いまは、TDKR の新情報に備えつつ
(preparing for TDKR )、 TDKR の語りの世界を求めつつ(searching for
TDKR )、ようやく半年余りに迫った TDKR の公開を待つ(waiting for
TDKR)のみである。
Ⅶ
私の関心の在り処を改めて記して稿を閉じたい。
アメリカの大衆文化(pop culture)
、わけても綜合芸術としての映画を採
り上げれば、その表現の諸相において、すなわち明快な物語展開に、個性
的な登場人物に、鮮烈な映像美に、躍動する楽曲に、そしてタイトルや台
詞の言語そのものに、いわば椀のなかの出汁のように、あるいはこの表現
が濃すぎれば、むしろ隠し味のように微妙に溶け込んだ豊かな文化の歴史
的表象が、あるときは歴然と、またあるときは隠然と現れる場合がある。
― ―
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関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
Burton の「バットマン連作」に民俗学的(ethnological)な匂いが仄かに
漂っていたように、文化的に重みのある Nolan の「バットマン三部作」
(the
Batman Trilogy)に特徴的なものを看取できるとすれば、それは何よりも
「聖書学的」(biblical)な彩りであって、それは旧稿でも言及したように、
特に第二作目は The Dark Knight(2009)の前半にあってはヴァカンスを
装うヨット上でブルースのはだけたシャツから覗く左脇腹に残る深い《聖
痕》――ラーズによる刺し傷――が顕著な一例であり、さらに最終場面に
あってはバットマンの行為に《自己犠牲》の精神を投影させたことに如実
に描かれている。これに、前後各一回ずつ、ゴッサムという名の地獄に蠢
く《猛犬》に急襲される場面を加えてもよい。19)
受難の表象でもある《聖痕》について付言すれば、 Geneva Bible は
Matthew, 19. 34 に、“But one souldiers with a speare perced his side, &
forthewith came there out blood and water.”20)(しかし、一人の兵士が槍で彼
〔イエス〕の脇腹を刺すと、血と水とが流れ出た)とあるごとく、後世に付
加された伝承では、イエスの死を確認するためにロンギノス(Longinus)
21)
と称するローマ兵が付けた刺し傷がもとより第一義的なものである。
先に触れた「彩り」であるが、必ずしも下敷きの順序にしたがって加味
されるわけではない。それはあくまでも「隠し味」
、映画作家としてはいつ
いかなるときでも添加できる裁量が与えられて当然である。観客のほうは
と言えば、その感覚を強制される謂われはもとよりない。
注
1 )関東学院大学文学部紀要123号、pp. 53−70(2011)を参照。
2 )Trump は総資産額20億ドルといわれる米国の大富豪、撮影の舞台となったビ
ルはウエイン・エンタープライゼズ本社に擬せられたものだろう。
3 )Marion Cotillard 演じるミランダ・テイトとともに、ブレイクは原作コミック
には登場しない人物であるが、ジム・ゴードン腹心の部下の一人という設定
ではなかろうか。
4 )BB においては「プレイボーイの大富豪」用のスーパーカーでしかなかった
ムルシエラゴ(スペイン語の名詞 murciélago は「蝙蝠」の意味)、TDK にお
いてはジョーカーに命を狙われた顧問弁護士リースの命を救っている。
5 )スペイン語の名詞 aventador は、一般には「換気装置」(ventilator)、「ふい
ご」(bellows)、あるいは「送風機」(blower)などの機器を意味することば
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“I am with you alway, vntil the end of the worlde . . .”
であるが、この新スーパーカーの名称、本来は闘牛に登場する「牡牛」
(bull)
の名に由来するようである。
6 )“Hero Complex”欄(10月27日付け)。
7 )Empireonline.com(11月21日付け)。
8 )GotchaMovies.com(11月21日付け)
。
9 )朝日新聞「特派員メモ」
(11月25日付け朝刊)
10)TDK が「ジョーカーの銀行強盗」を描く冒頭の導入部(prologue)を先行上
映したように、TDKR もベインの来歴と映画全体の雰囲気を冒頭 6 分に渡る
導入部を設定する旨の Nolan 自身の発言があったことを、インターネットサ
イト Batman-on-Film が伝えている(11月22日付け)
。これを追って、BatmanNews.com が伝えるところでは、この導入部はクリスマス前に一部のIMAX劇
場で、Tom Cruise主演の人気シリーズ最新作 Mission: Impossible-Ghost
Protocol の全米公開に合わせて先行上映されるという(11月28日付け)。
11)Entertainment. inquirer.net(11月25日付け)、インタヴュアーは Ruben V.
Nepales である。
12)Terrence Malick(1943−)は Harvard 大学出身、MIT で哲学を教えるかたわ
ら、寡作で知られる映画作家として知られる。その名を高めた作品は、Richard
Gere 主演の Days of Heaven(1978)で、オスカーは撮影賞を受賞したほか、
衣裳デザイン、作曲、音響の三部門で候補に上がっている。その20年後に長
い沈黙を破って発表した戦争映画 The Thin Red Line(1998)では、オスカ
ーの監督賞ほか全 7 部門の候補に上がっている。実在したネイティヴ・アメ
リカン女性の Pocahontas と二人のイギリス軍人 John Smith と John Rolfe との
愛を描いた The New World(2005)で、Bale は後半に登場する Rolfe を演じ
ている。最新作は Brad Pitt と Sean Penn 共演の話題作 The Tree of Life
(2011)。
13)Batman-News.com(11月31日付け)
。
(隣組の)班長」に由来する軍用スラングから一
14)米語 honcho は、日本語の「
般化したもの。
15)24 Flames――Movies: Past, Present and Future(12月 2 日付け)。
16)Collider.com(12月 4 日付け)
。Zimmer はドイツ出身の作曲家、代表作に The
Gladiator(2000)や Inception(2010)、また Johnny Depp 主演の人気シリー
ズ Pirates of the Caribbean(2003, 2006, 2007, 2011)があり、オスカーはアニ
メーション映画 The Lion King(2004)で受賞している。
17)SuperHeroHype.com(12月 8 日付け、記者は Silas Lesnick)。
18)Batman-on-film.com(12月 9 日付け)。
19)
「
“You truly are incorruptible, aren’
t you?”――バットマン敗れず」関東学院大
学文学部紀要118号、pp. 1 −13(2010)を参照。
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関東学院大学文学部 紀要 第124号(2011)
20)以下、聖書からの引用は The Geneva Bible, 1560 Edition , Hendrickson
Publishers(2007)による。
21)《聖痕》としての脇腹の槍の刺し傷は、新約は The Epistle of the Apostle to
the Galatians, 6. 17 に“From hence forthe let no man put me to busines: for I
beare in my bodie the markes of the Lord Iesus.”
(これよりのちは、何人にも
私を煩わすことのなきようにしてほしい。なぜなら、私は身体に主イエスの
焼き印を帯びているのだから。
)に受け継がれ、両の手足に打ち込まれた四本
の釘の跡と合わせて計五箇所がもとより伝承発生の原点であろうが、これに
想像されるかぎりの受難の痕跡(例えば、荊冠による頭部の傷跡)が付加さ
れて現代に及んでいる。
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