Comments
Description
Transcript
銀座の晴海・中央通り
都市景観における街路の色彩構成と環境認知及び行動特性との関係性 −銀座の晴海・中央通りにおけるケーススタディ− 日大生産工(院) ○柳瀬 英江 日大生産工 大内 宏友 1.研究の背景と目的 3.調査概要 人は景観をすべてそのまま記憶することはなく、 調査対象地域は東京都中央区銀座のメイン通り である、晴海通り・中央通りを選定した。対象地域 において人の景観が構成される際の物理的要因と心 理的要因の相関分析を行うため、心理量調査として アンケート調査、物理量調査として街区の色彩調査 を行った。Table-1に調査期間・時間帯を示す。 物理的形態が心理や行動に影響を与え、総体として 心理的景観を作り出しているといえる。その中でも 都市景観において色彩は重要な要素である。空間の 物理的条件下にある対象色(施設色および環境色) と、眺望主体である人間及びその集合の心理的イメー ジとの相関によって景観は形成されるといえる。 建築物の外装色は、都市において大きな面積で私 Table-1 調査期間・時間 地域 銀座 時間 昼間 対象時間 10時∼14時 心理量調査期間 2000年11月 物理量調査期間 2001年 1月 達の眼前に広がっている。色彩を景観の構成要素の 3.1.心理量調査 一つとして捉え、色彩の視点から都市景観の環境認 調査対象者は一般の人々のとらえる認知を明ら かにするために、現地においてアンケート調査を行っ た。調査項目は、属性調査、行動調査、景観認知 調査、イメージ調査である。行動調査に関しては 白地図を用い被験者に行動範囲を直接記入しても らい、景観認知調査の色彩認知調査に関しては、 カラーチャートを用い被験者に色を選んでもらった。 Table-2にアンケート調査内容を示す。 知と現状を調査分析し、検討を行う。 都市景観における色彩に関する研究は、街区の色 彩構成の現況と地域特性を比較、検討し、 色彩構 成と認知に関する研究は、現地あるいは写真から心 理的反応をSD法などで分析し、検討を行っている。 一方、環境認知に関する研究は、認知・行動・形態 の相互の関係を検討し、実態圏域を考察している。 都市景観における街区の色彩構成と環境認知、行 動特性の関係性を考察した研究はいまだ少ないとい え、環境心理へのアプローチにおいても重要である といえる。 Table-2 アンケート調査内容 性別、年齢、職業 頻度、目的、行動範囲、使う道のり 色彩認知調査、ランドマーク調査 15項目に対し5段階評価 属性調査 行動調査 景観認知調査 イメージ調査 3.2.物理量調査 2.研究方法の概要 これまでの既存研究において、銀座地域における 行動特性と色彩認知との相関が行なわれている。本 稿では、景観が構成される際の街路における色彩構 カラーチャート*1)を用いて視感測色により10時 ∼14時に街区の色彩調査を行った。各対象地域にお けるメイン通りに面する全ての建物についてのベー スからー*2)、アクセントカラー*3)を調査した。 Table-3に調査内容を示す。 Table-3 色彩構成調査内容 成に着目し、現地調査と物理的要素の調査をもとに、 人の心理状態や行動条件がどのように景観形成に影 響を与え景観として認知されるかを、銀座地域にお いて街路ごとの色彩構成と認知及行動特性を詳細に 捉えるために、行動強度の最も強い値を示す銀座4 丁目交差点を中心とした位置から、銀座のメイン通 対象通り 建物数 事前準備 銀座 銀座通り・晴海通り 銀座 182棟 1. 現地調査より立面の撮影を行う。 2. 写真を統合。立面図を作成。 高さに関してはゼンリンマップと現地調査をもとにする。 3. 測色ポイントを明記したデータ記録用紙を作成。 測色・計測 測定個所を確認しながら、視感測色調査を実施。 測定は測色者と記録者がペアとなり、建物1棟づつ調査を行う。 りである晴海・中央通りを分割し、計4街路におい 4.色彩認知・行動強度による認知特性 ての色彩構成と環境及び行動特性との関係性につい 各対象地域のアンケート調査より得られた被験者 の概要をTable-4に示す。 ての比較、分析を行う。 Relation among color composition environmental, acknowledg ment and action characteristic of street in cityscape − The case study in the Ginza in the Ginzastreet, and a centerstreet − HanaeYANASE,Hirotomo OHUCHI Table-4 銀座地域における被験者の概要 対象時間 昼間 男性 43 性別 女性 57 学生 13 社会人 67 職種 8 フリーター 主婦 12 対象地域 10代 20代 年齢 30代 40代 50代以上 合計 に対応して図示する。Fig.-4に晴海通り、Fig.-5に 中央通りの色彩分布を示す。 昼間 4 37 21 9 29 100 ベースカラー P 4.1.色彩認知 N V P Dp アンケート調査よ RP V り得られた景観認知 P PB S 調査-色彩認知調査よ B S り、印象的な色6色を BG G 統計し、対象地域に GY おける色彩認知特性 Y B YR を明らかにする。 R V S Dp 0 20 40 60 80 100 120 Fig.-1に銀座地域を Fig.-1 色彩認知特性 示す。 銀座地域における印象的な色6色では、色相Rの認 知が高く、全体の20%を占め、無彩色の認知も高く、 全体的な色彩の認知が広がる。 L Gr Dgr Lgr R Dk Dl Lgr Dgr Gr Dgr Gr Dgr Vp Y GY Dl Dl G BG ベース YR Vp YR S Vp B アクセントカラー R B B B P Vp GY N アクセント N 晴海通り色相分布 4.2.行動特性 アンケート調査より得られた行動調査-行動範囲 より、圏域図示法から得られたデータを地図上に重 ね合わせ、グリッドに含まれる人数をカウントし、 行動範囲の強弱を5段階で表記する。Fig.-2に晴海 通り、Fig.-3に中央通りを示す。 晴海通り・中央通り共に、銀座4丁目交差点(和 光前)付近が行動強度が最も高く、中央通りを中 心として、横の広がりを見せている。晴海通りで は歌舞伎座方面よりも駅側のマリオンの方に広が りがあり、T字型の行動範囲が伺えた。 5.街区の色彩構成 街区の色彩調査をもとに、銀座地域のベースカラー、 アクセントカラーについて色彩分布を色相環に置換 して図示する。また壁面色彩変化につい て立面図 BG PB 1 2 6 5 トーン分布 Fig.-4 晴海通りにおける色彩分布 JR有楽町 伊東屋 マリオン 松屋 ソニービル 三愛ビル 歌舞伎座 通り 歌舞伎座 晴海 昭和通り 銀座通り 晴海 JR新橋駅 昭和通り 弱 68 4 数寄屋橋 和光 銀座通り JR新橋駅 行動強度 51 3 壁面色彩変化 通り 博品館 博品館 34 PB Y ベースカラー 松屋 ソニービル 三愛ビル 17 GY B アクセントカラー 数寄屋橋 和光 1 RP B 晴海通り色相分布 V S B P Vp Lgr L Gr Dl Dp Dk Dgr 伊東屋 マリオン GY N 並木通り 並木通り JR有楽町 ベース Y アクセント B 83 強 200 0 100 Fig.-2 晴海通り・行動強度 行動強度 500 1 弱 17 34 51 68 83 強 200 0 100 Fig.-3 中央通り・行動強度 500 ベースカラー アクセントカラー R R RP Vp Gr Dk RP YR Gr Dgr Lgr YR Vp Vp Dgr Gr Vp Table-4 アイテムカテゴリー分類表 Dgr Dgr S Y G ベース 目交差点を中心として晴海・中央通りを分割し、計 4街路において10アイテムのカテゴリー分けを行なっ た。Table-4にアイテムカテゴリー分類表を示す。 N アクセント N 中央通り色相分布 IN アイテム CN 1 色相R 1 2 3 4 5 2 色相Y 1 2 3 4 3 色相G 1 2 3 4 4 色相B 1 2 3 4 5 5 色相P 1 2 3 4 5 IN 6 カテゴリー 0∼0.5 1 1.5 2∼2.5 3∼5 0 0.5 1 1.5∼3.5 0 0.5 1 1.5∼4.5 0 0.5 1 1.5∼2 2.5∼4 0 0.5 1 1.5 2∼3 7 8 9 10 11 12 13 アイテム 無彩色 CN 1 2 3 4 トーン(V.S) 1 2 3 4 トーン(B.P.Vp) 1 2 3 4 5 トーン(Lgr.L.Gr.Dl) 1 2 3 4 トーン(Dp.Dk.Dgr)1 2 3 ベースカラー サブアクセントカラー アクセントカラー カテゴリ− 0 1 2 3∼6 0 1 2∼3 4∼6 0 1 2 3 4∼6 0 1 2 3∼6 0 1 2∼6 面積(㎡) 面積(㎡) 面積(㎡) 各街路における分析結果として、重相関係数と予 測式を得て、Fig.-6に晴海・中央通りの色量プロッ ト比較図をFig.-7∼10に実測値と予測値の値からプ ロット図を示す。 ベース N RP アクセント YR N N P N N N RP N B 24000 中央通り色相分布 20000 中央通りのプロット分布 16000 ベースカラー 12000 アクセントカラー 1 2 3 4 5 壁面色彩変化 8000 6 トーン分布 4000 Fig.-5 中央通りにおける色彩分布 晴海通りのプロット分布 0 4000 8000 12000 散布図(ベースカラー) 予測値=459.5588+0.8327X 5500 2000 5000 1800 4500 1600 4000 1400 3500 3000 2500 2000 16000 20000 散布図(サブベースカラー) 予測値=163.1159+0.8472X 1200 1000 800 600 1500 400 1000 500 1000 6.認知特性の構造について 1500 2000 2500 3000 実測値 3500 4000 4500 200 400 600 800 1000 1200 1400 実測値 散布図(アクセントカラー) 予測値=47.6874+0.8443X 550 相関係数 500 450 400 予測値 空間に働く心理と実際の空間を対応させて相互に どのような関係があるか明らかにする。 第1にアンケートによる色彩認知調査と視感測色 による色彩と、街区の色彩構成調査より得られた 街区の色量を 多変量し、第2に数量化Ⅰ類による 分析を行ない、その結果より得られた相関係数と予 測値から考察を行なう。 対象街路を行動強度の最も強い値を示す銀座4丁 0 Fig.-6 晴海・中央通り 色量プロット図の比較図 予測値 晴海・中央通り共に、ベースカラー・アクセン トカラーで無彩色が50%以上を占めた。有彩色につ いては晴海・中央通り共に、色相YR 、色相R、色相 RPが多く分布した。晴海通りにおいてはアクセント カラーで色相Bの分布が多い。トーンについては晴 海通りにおいてはトーンGrの分布が多く、中央通り においてはトーンDgr、トーンVp、トーンGrが多く。 アクセントカラーにおいてはトーンSの分布が多かっ た。 予測値 V S B P Vp Lgr L Gr Dl Dp Dk Dgr 350 300 ベースカラー 0.912550 サブベースカラー 0.920436 アクセントカラー 0.918860 250 200 150 100 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 実測値 Fig.-7 晴海通り‐East 数量化Ⅰ類の実測値と予測値のプロット図 サンプル 予測式 1600 散布図(ベースカラー) 予測値=699.6708+0.7913X 5000 2000 4500 1800 4000 1600 3500 1400 3000 2500 1200 1000 2000 800 1500 600 1000 500 いえる。本稿での予測値とは被験者が認知している 色量のことである。 晴海通りでは実測値の低いサンプルグループでは 色相R・色相B、トーンGl・トーンDgrと無彩色が多 く認知されている実測値が高いサンプルグループに なるにつれて色相B・G・Pの認知が増えている。中 央通りでは実測値の低いサンプルグループでは色相 R・色相YR・色相G、トーンVp・トーンDgrと無彩色 が多く認知され、実測値が高いサンプルグループに なるにつれ、トーンDl・トーンDpが増えてくる。 晴海・中央通り共に、色相分布と比較をしても同様 の結果が得られ、実際の街区の色量と認知される色 量の相関係数が高く信頼性が高いといえる。 このように街路の色彩構成と環境認知及び行動特 性との関係性を多元的にとらえ予測式を導くことが 出来た。今後の展開として人が街路の色彩構成の多 様な要因のうち、どの要因の影響を受けているかを 予測することで、街路の景観計画を行なう際の判断 指標になるよう、高さ・距離などの外的要因を取り 入れて検討・研究していく必要がある。 散布図(サブベースカラー) 予測値=306.6522+0.7812X 2200 予測値 予測値 5500 400 500 1000 1500 2000 2500 実測値 3000 3500 4000 4500 200 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 実測値 2000 散布図(アクセントカラー) 予測値=226.7256+0.7539X 1600 相関係数 1400 1200 予測値 1000 800 600 400 ベースカラー 0.889552 サブベースカラー 0.883876 アクセントカラー 0.868281 200 0 サンプル 予測式 -200 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 実測値 Fig.-8 晴海通り‐West 数量化Ⅰ類の実測値と予測値のプロット図 散布図(ベースカラー) 予測値=1217.2749+0.7503X 散布図(サブベースカラー) 予測値=607.4664+0.7685X 7000 12000 6000 10000 5000 4000 予測値 予測値 8000 6000 4000 3000 2000 1000 2000 0 0 1000 2000 3000 4000 5000 6000 7000 8000 9000 10000 実測値 -1000 500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500 5000 5500 実測地 散布図(アクセントカラー) 予測値=246.0826+0.7368X 2000 相関係数 1800 1600 1400 予測値 1200 1000 800 ベースカラー 0.866185 サブベースカラー 0.876648 アクセントカラー 0.858369 600 サンプル 予測式 400 200 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 実測値 Fig.-9 中央通り‐Nouth 数量化Ⅰ類の実測値と予測値のプロット図 散布図(ベースカラー) 予測値=3215.2432+0.6281X 16000 14000 10000 予測値 予測値 12000 8000 6000 4000 2000 予測値 0 2000 4000 6000 8000 実測値 10000 12000 14000 散布図(アクセントカラー) 予測値=599.2529+0.6082X 2600 2400 2200 2000 1800 1600 1400 1200 1000 800 600 400 200 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800 2000 2200 2400 2600 実測値 5500 5000 4500 4000 3500 3000 2500 2000 1500 1000 500 0 散布図(サブベースカラー) 予測値=1017.047+0.6492X 1000 1500 2000 2500 3000 実測値 3500 4000 4500 5000 相関係数 0.792524 0.805713 アクセントカラー 0.782079 ベースカラー サブベースカラー サンプル 予測式 Fig.-10 中央通り‐South 数量化Ⅰ類の実測値と予測値のプロット図 7.まとめ 都市景観における街路の色彩構成と環境認知及び 行動特性との関係性について考察する。 実測値においては数値の低い方にプロットされて いるサンプルは行動範囲が狭く、実測値が高いサン プルは、行動範囲の広いサンプルであったと [註記] *1)カラーチャート:色の3属性である色相、明度、彩度のうち、明度 と彩度を合わせてトーンとして表現し、色を色相×トーンで表した表 。有彩色について10色相×12トーンに区分した120色と無彩色 (N:Neutral)について明度10段階に区分した10色、計130色で構成され る。 <色相> R(Red) YR(Yellow Red) Y(Yellow) GY(GreenYellow) G(Green) BG(BlueGreen) B(Blue) PB(PurpleBlue) P(Purple)RP(RedPurple) <トーン> V(Vividさえた)S(Strongつよい)B(Brightあかるい) P(Paleうすい)Vp(Very Palとてもうすい)Lgr(Light grayishあかる い灰みの)L(Lightあさい)Gr(Grayish灰みの)Dl(Dullにぶい) Dp(Deepこい)Dk(Dark暗い)Dgr(Darkgrayish暗い灰みの) *2)ベースカラー:基調色。:建物壁面の中で最大面積を占める色。 1色で建物を代表させる時の色彩。また、今回の測定では1色で言い 表せない場合、次色も測定を行う。 *3)アクセントカラー:配色のポイントになる色で、全体の色調を引 き締めたり、視点を集中させる効果のある色。強調色。(色彩辞典よ り) [既往研究] 1) 大内宏友、柳瀬英江、根來宏典:「Construction of The Abstraction 3D Model of The Cognitive Structure of The Color in Tokyo - Correlation Between Color Composition of District, Environmental Recognition and Behavioral Characteristics in Cityscape-」、48th IFHP World Congress Oslo(International Federation for Housing and Planning)2004.09 2)田胡智子、大内宏友: 「都市景観における街区の色彩構成と環境認 知及び行動特性との関係性−銀座・原宿・渋谷地域における色彩認知 3Dモデルの構築」、第26回情報・システム・利用・技術シンポジウム(論 文)2003.12 [参考文献] 1)中山和美、山本早里、槙究、佐藤仁人、乾正雄:「街並みの色彩構 成に関する研究」 日本建築学会計画系論文集、 pp.17∼23,2001.05 2)木多道宏、奥俊信、舟橋國男、紙野桂人:「都市景観における色彩 の評価構造に関する研究」、日本建築学会計画系論文集、pp.147∼ 154,1997.12 3)木多道宏、奥俊信、舟橋國男、他:「建物壁面の色彩配列および修 景操作と心理効果との関係」日本建築学会計画系論文集、pp.177∼ 184,1999.02 4)木多道宏、舟橋國男、鈴木毅、小浦久子:「街路景観における色彩 心理効果」日本建築学会計画系論文集、pp.239∼246,1999.08 本稿は日大生産工(学部)三沢浩二との共同研究をまとめたものである。