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畜産農家と「あんなこと、こんなこと」

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畜産農家と「あんなこと、こんなこと」
載
連
畜産農家と「あんなこと、こんなこと」 その1 盛岡種雄牛センター・家畜改良アドバイザー 後藤太一
はじめに
ている畜産人も多いでしょうが、私からみれば、畜
私は、大学の獣医学科を卒業後、直ちに小岩井農
産人には科学者たりうるひとが多く、畜産に限らず、
場に就職し、最初の3年間は小岩井農場周辺の酪農家
動物や植物を相手に、自然の中で営まれる農業は高
の診療と人工授精業務に就きました。その後、会社
度な科学であると思うのです。
の方針により、小岩井農場にいる牛の診療や人工授
都会暮らしのサラリーマンが、定年退職後に地方
精業務が中心となり、受精卵移植の実用化に向けた
(田舎)で農業をしたいという夢をもたれることが多
研究にも長年携わりました。
いとのことですが、その一因は、機械的に生産され
11年前に小岩井農場を退職後、牛胚移植を中心と
る工程の一部を担う工員や商品を営業販売するより
した家畜診療所を開業しながら、家畜改良事業団の
も、自分の技術や能力で、自然を相手に農業をする
嘱託アドバイザーとして、体外受精卵の普及と指導
ことに醍醐味を感じるからだと思います。しかし、
を行っています。主に東北地方の酪農家を対象に、
退職後に畜産をしたいという人は、皆無とはいかな
体外受精卵移植の実施に加えて、生産子牛の哺育育
いまでも、実施できる人はほとんどいないのではな
成や繁殖成績の向上に向けての指導なども併せて
いでしょうか。
行っています。
それは、牛を相手にと一言で言ってしまうと、畜
小岩井農場勤務時には企業経営の酪農に携ってい
産を知らない方には簡単なことに聞こえるかもしれ
たので、畜産農家と直接接するようになったのは、
ませんが、実際は生半可なことでは立ち行かないも
家畜改良事業団の嘱託になってからであり、東北各
のだからだと思います。
県の多くの酪農家を訪れる機会を得ることになり、
生業(なりわい)として牛を相手にすることは、
そんな中で感じたことや経験したことを書いていこ
牛の一生に付き合いながら、生計を立てるというこ
うと思います。
とです。生まれ落ちた子牛を健康に育て、1年後には
私の考えの基本は、畜産農家が儲からなければ、
妊娠させて、10 ヶ月後には子牛を産ませ、乳を搾り
それに携わる関係者の我々の生活もままならない。
ながら、分娩後3 ヶ月には再び妊娠させる。牧草地
酪農家に対するアドバイスもあれば、獣医師や授精
を所有している農家にあっては、天候の変化に対応
師あるいは畜産関係者の皆さんへの提言や苦言もあ
しながら、最も栄養価が高い状態の牧草を、しかも、
りますが、そこは「みんなで良くなりましょうよ」
収穫量は多く得なければなりません。そこには、幅
ということです。
広い知識と経験が必至の畜産の難しさがあるのです。
ですから畜産はサイエンスでありそれを駆使する畜
畜産人は科学者!
産人をして科学者であるといいたいのです。
ところで、牛を相手にした畜産は非常に高度な科
学(サイエンス)であり、経営している畜産農家は、
■エピソード1■私が大学を卒業して酪農家の牛
高度な科学者(サイエンティスト)であるし、そうあっ
の診療に回り始めて、大学でもっと勉強しておけ
てほしいと思っています。サイエンス(科学)とい
ば良かったと思わされたのは、草地土壌学でし
うと、小難しい、面倒くさい、理屈っぽい、と思っ
た。酪農家から牧草の栄養価や施肥のことを質問
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されて答えられず、大学で畜産の勉強をないがし
知っています。一つ一つの商品の中味を確認すると、
ろにしていたことを大いに恥じたものでした。学
繁殖とは直接関係のない成分や、一商品の中に複数
生のときは、臨床獣医師になるのだから、畜産の
の物質が含まれており、その結果、重複してビタミ
勉強は単位を取りさえすればいいのだと思って全
ンやミネラルを給与する結果となっていました。こ
く勉強しませんでした。酪農家にとっては、獣医
の農家の事例は、ちょっと悪質だったので、農家に
師が牛の病気を治すことは当然のことであり、餌
アドバイスをして、「私に相談した結果、これとこれ
や草地管理の知識は大学で学んできていることが
は重複しているし、これは給与効果が薄いから必要
当り前であったわけです。40年経った今でも、新
が無いと言われた」と言って半減させました。
米獣医師だった頃の私は、酪農家から本当に沢山
この例は、ちょっと極端な話と思われそうですが、
のことを教えられ、叱咤激励されて育てられたと
多かれ少なかれ似たような事例が多くみうけられま
思っています。これからも新人獣医師を上手に育
す。
てていただきたい。そうすることで、数年後には
それでは、なぜこのようなことが起こるかという
皆さんの大きな力になってくれるわけですから。
と、まさに科学的でないからです。人間心理から言っ
ても、ビタミンミネラルは必要なものであると思っ
数値化して客観的判断を科学者の目で!
ているから、繁殖成績や乳質低下で困っているとき
私は牛の繁殖の専門家であると自任していますが、
に、勧められると簡単に受け入れてしまいがちです。
酪農家が発情を発見するその観察眼には太刀打ちで
そして、一旦給与し始めると、今度は給与を中止す
きないと思っています。獣医師・授精師の方でも、畜
ることが難しくなります。なぜなら、もしこの製品
主のいない牛群の中から、発情牛を発見して、授精適
を止めてしまって繁殖性や乳質にまた問題がでたら
期か否かを判断せよといわれて、的確にできるとい
困ると思うからです。
う自信家は極めて少ないのではないでしょうか。酪
ここにサイエンスの出番があり、経営に直接寄与
農家によっては、日々の乳量の変化で発情を発見し、
する場面なのです。難しいサイエンスはいりません。
かつまた、授精後に妊娠したことまで乳量変化によ
要は目的がはっきりしているのですから、小学校時
り判るという方もいます。まさにそのような経験に
代に習った、夏休みの宿題の実験と同じことを実行
裏打ちされた観察眼こそが、科学者である証です。
すれば良いのです。
でも、そんな酪農家に欠けていることがあります.そ
すなわち、●今困っていることを、文章に書く(試
れは、日々の経験や実績を、取りまとめて、現状を客
験の目的:たとえば繁殖成績の改善)。●それを数字
観的な視点で評価検討してみること、さらには、経
として捉える(現状の把握:受胎までの平均授精回数)。
営者としてその結果を経営に活かすことです。
●解決するために何をするか決める(試験方法:ビ
具体的には数値化して、それを評価して文章にす
タミンミネラル商品の給与)。●給与期間は何日とす
るということですが、そのプロセスで、客観的評価
るか定める(試験の期間:3 ヶ月〜 6 ヶ月間)。●何と
が可能になってきます。具体的な数値を明示して議
何を調べて効果判定とするか決める(調査項目ある
論しないと、後継者である息子(娘)さんとの間であっ
いは試験項目)。今給与している製品の効果に疑問が
ても、経験や感覚が論点の中心となり、水掛け論や
あれば、添加を控えるか減量して、上記の方法で確
意地の張り合いとなって、建設的な議論や検討にな
認してみることです。
らず、判断をも狂わせます。
繁殖成績が悪いといっても、具体的に数値化してみ
私の経験した事例で、繁殖障害の多発に困って、
「エ
ようとすると、いろいろな項目が浮かび上がってくる
サ屋さん」に相談したところ、ビタミンの添加物を
ものです。たとえば、受胎率が良くないといっても、1.
勧められて給与し始めたら、数年後には10種類もの
分娩後の発情が何日で明瞭に来ているか? 2.受胎
添加物などを給与する羽目になったという経営者を
までの授精回数は何回か? 3.周産期疾病の発生は
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多くないか? などを調べなければなりません。
場合によっては、この現状把握を進める中で課題が絞
り込まれる可能性も高いのです。周産期疾病が多い
ことで、初回発情が遅れる、授精開始が遅れることで、
受胎までの日数が大きくなる。乾乳時には過肥状態
となり、さらにお産後の回復が悪くなるという悪循
環に陥っている。これでは、当初に想定したビタミ
ンミネラル添加物の話ではなくなってしまう。
このように、順序だてて整理してゆき、得られた
データを客観的に判断してゆく、科学的なアプロー
チにより、的確な問題解決に繋がっていくのだと思
います。
「畜産は高度のサイエンスだ」 をキーワードに畜産農
家の皆さんといろいろ考えてみたいと思いますので、
ご愛読の程をお願いします。
遺伝子噺
F1子牛の父方血統をDNA型で証明できます!(親子判定を必要とするもうひとつ場面として)
ご存知のとおり純粋種では血統登録が行われて
方のみ)が確認されていれば、市場取引でも購入
いて、今では、DNA検査技術が親子判定に取り入
者からの信頼が高まることも期待されます。最近
れられ、登録業務におおいに活用されています。
徐々にF1子牛の親子判定申込数が増えています。
それでは、ホルスタイン種と黒毛和種による「交
子牛の価値をあげようという家畜市場・生産農家・
雑種(F1)」の判定はどうでしょう?答えは、十
肥育農家の方々の取組みが始まっているというこ
分可能といえます。
となのでしょう。
黒毛和種種雄牛の改良と管理技術の向上により
いかがでしょうか?F1親子判定を取り入れて
F1の肉質はますます向上しています。F1は適
F1子牛の付加価値の向上を狙ってみませんか。
度な霜降りで販売価格も手頃なため、消費者のニー
(詳細は家畜改良技術研究所まで)
ズを捉えた牛肉としてさらに注目されるでしょう。
今のところF1は純粋種ではないため授精証明
書などが血統証のかわりとなっているようです。
しかし、DNA検査により父方血統(種雄牛)の証
明をすることができます。
あたり前の話ですが、F1子牛の市場取引の価
格は種雄牛によってかわります。DNA検査により
父子関係の親子判定をする事で、正確な血統(父
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