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AOC国際会合の会議録(テープ起こし)を公開しました - Amur

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AOC国際会合の会議録(テープ起こし)を公開しました - Amur
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
開会~セッション1「 アムール川流域の環境とその変化」
日
時:平成23年11月5日(土)午前10時から
場
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
第1会議室
◎開会の辞
○司会
おはようございます。
私は、北海道大学低温科学研究所の白岩孝行と申します。司会を務めさせていただきま
す。どうぞよろしくお願いいたします。
ただいまより、第2回アムール・オホーツク国際会合を開催させていただきます。
開催に当たり、本学北海道大学理事、副学長の本堂武夫より一言ごあいさつ申し上げま
す。
○本堂
皆さん、おはようございます。
北海道大学では、2007年からサステナビリティ・ウィークという企画を毎年開催してお
り、今年で5年目になります。何を目的としてこういうイベントを開いているかと申します
と、私たち人類が今直面している多くの課題があるわけですけれども、エネルギー問題で
あり、食料問題であり、もちろん戦争や平和の問題もございますけれども、そういうさま
ざまな問題は、環境問題も含めて一国一地域では解決できない問題がほとんどなわけであ
ります。国境を越えた問題がたくさんあるわけでありまして、そういうものをいかに解決
するかということについて、英知を集めるといいますか、さまざまな分野の専門家の知恵
を集めることが何よりも重要だと考えております。それが、本学でサステナビリティ・ウ
ィークというものを毎年開催する一番の目的でございます。
大学は、基本的に高度な専門家を養成するというのがもともとのポリシーでございます
から、非常に狭い分野の高い専門性を持った専門家がたくさんいるわけでありますが、こ
のアムール・オホーツクの問題もそうですが、一つの専門領域からだけでは到底解決でき
ないような多くの問題に私どもは直面しているわけでありまして、いかに幅広い人たちの
知恵を結集できるかということに我々の将来がかかっていると言って過言ではないかと思
います。それが、サステナビリティ・ウィークというものを北海道大学が開く最も大きな
目的であり、動機でございます。
今年は、10月24日から始まりまして、この2週間のサステナビリティ・ウィークの最後を
飾るのにふさわしい企画として、
「環オホーツク地域の環境データ共有化にむけて」という
ことで、シンポジウムを開かれることは、私にとっても大変うれしいことでございます。
2年前に、アムール・オホーツクの問題に絡んでコンソーシアムをつくりましょうという
ことをここで議論したことを皆さんは覚えていらっしゃるかと思いますけれども、そのと
きに、オホーツク、それから北太平洋というのは、世界で最も大きな、重要な漁業の生産
地域であり、漁場であるということがあって、特に北太平地域は非常に広大な漁業地域で
すが、日本の研究者やロシアの研究者、中国の研究者、いろいろな研究者が共同してこの
10年ほど研究した成果として、オホーツク海は、地球上で一番低い緯度にあって、冬は凍
る海ですが、その海が凍るということと、黒竜江(アムール川)を通じて大量の栄養塩が
オホーツク海に供給される、そのことがオホーツク海に非常に独特な自然環境をつくって、
その結果として、その栄養と酸素をたくさん含んだ水が北太平洋に流れ込んで、この一帯
- 1 -
を極めてすぐれた漁業資源の海域にしているということが科学の研究の成果として明らか
になったわけでありまして、2年前のコンソーシアムのときに、オホーツク海は北太平洋の
心臓であるということをコンソーシアムの設立のときにみんなで確認したのをはっきり覚
えております。オホーツク海が北太平洋の心臓であるならば、そこに栄養を供給している
黒竜江(アムール川)というのは、心臓に血液を送り込む動脈、血管であるというような
話も出て、今後、国際的な協力を進めていこうという機運が大変盛り上がったことをはっ
きりと記憶しております。
そのように、大変豊かな漁業資源に恵まれたオホーツク海や北太平洋の自然というもの
は、アムール川のはるか上流から流れ込んでくる水、その周りの陸地の環境、そして、冬
に凍るというオホーツク海特有の自然環境、あらゆることが一体となって私たちに大変す
ぐれたありがたい恵みを与えてくれていることを改めて認識したいと思います。
こういう大変ありがたい自然の仕組みをいかに守っていくかということを、このコンソ
ーシアムでいろいろ議論されてきたわけであります。もちろん、それは政治の課題であっ
たり、行政の課題であったりするわけですが、まず大事なことは、研究者のレベルでお互
いに共通認識を持ちましょうということがこのコンソーシアムの基本的な理念だと思いま
す。そういうものが、近隣の日本、ロシア、中国、韓国、モンゴルといった国々の人たち
が同じ共通の科学的認識を持てば、ここを守るにはどうしたらいいか、将来の食料源とし
て極めて貴重なこの海域の自然をいかにして守るかということが必ず重要な課題になって
くると考えております。
大学というのは、どちらかと言えば、知識を追求するといいますか、高い専門的な知識
を追求するあるわけでありますが、もちろん、そのことをベースに置いて、具体的な、長
期的な視点を持って、どういう問題解決の方法があるのかということを提言していけるよ
うな活動が今求められていると思っておりまして、単なる知識から行動へということが、
今、いろいろなところで盛んに言われているわけでありますが、まさしくそれを具現化す
るコンソーシアムとしてますます発展していくことを期待しております。
また、そのために、多くの方々のご協力を賜りたい。特に、これは日本だけでできる問
題では全くありませんので、ロシアであり、中国であり、モンゴルであり、韓国であり、
近隣各国の研究者の協力のもとに、ぜひアカデミックな活動を続けていっていただきたい
と思っております。
本日は、皆さん、お忙しいところお集まりいただきまして、まことにありがとうござい
ます。(拍手)
○司会
それでは、引き続きまして、アムール・オホーツクコンソーシアムの代表幹事で
ある北海道大学低温科学研究所、環オホーツク観測研究センター長の江淵直人よりご挨拶
申し上げます。
○江淵
北海道大学低温科学研究所の江淵と申します。
アムール・オホーツクコンソーシアムの日本側の幹事ということで、歓迎のご挨拶をさ
- 2 -
せていただきます。
本日は、モンゴル、中国、ロシア、その他遠路からはるばるこの会議に参加していただ
きまして、大変ありがとうございます。皆さんにまたここでお会いできたことを非常にう
れしく思います。
また、土曜日の朝早くからにもにもかかわらず、我々の予想をはるかに超える大勢の皆
さんに集まっていただきました。これも、アムール・オホーツク地域の環境保全に対する
関心の高さを示すものだと考えております。
アムール・オホーツクコンソーシアムは、今、本堂先生がおっしゃいましたように、2
年前、ちょうど11月、この場所でスタートしました。アムール川とそれにつながるオホー
ツク海、そして、その周辺地域の非常に豊かな自然環境、その特殊性と重要性に注目をし
て、その豊かな環境がどのようなメカニズムで成り立っていて、それを守っていくために
はどういうことをしなければいけないかということを、非常に多くの関係各国の研究者が
集まって、情報交換して、知識を共有して、研究を進めていこうということでこのコンソ
ーシアムが始まりました。
また、それと同時に、複数の国にまたがるこういう領域の環境保全という問題の難しさ
にも我々は直面せざるを得ないということになりました。その困難を乗り越えていくため
には、それぞれの国の研究者が持つ知識、情報、ノウハウ、研究データというものを可能
な限り共有していく、そういう方向に向けた対話が必要であるということも認識しました。
今日、通信手段が非常に発達して、インターネットもあり、メールを送ればその日のう
ちに、ロシアでも中国でもモンゴルでも連絡がとれるという状況にはありますが、それで
も、こうやって同じ場所に集まって、それぞれの研究の成果、考えを交換し合うというこ
とは、今でも非常に重要な役割を果たすということは言うまでもないと思います。
データ共有化に向けてというタイトルを考えましたが、具体的な話は、この後、趣旨説
明で白岩さんからあると思いますけれども、一口にデータを共有すると言いましても、そ
れぞれの国には、それぞれのルールや事情がありまして、それを超えてまで無理をしてデ
ータを共有するということは我々にはできません。しかしながら、まず許される範囲の中
でどういうことができるか、だれがどういうデータを持っていて、どういう観測をしてい
て、どういうノウハウを持っていて、どういうことをやっているということをちゃんと交
換すれば、それだけで十分な成果が得られると私は考えています。
アムール・オホーツクコンソーシアムはまだ2年目で始まったばかりと言ってもいいと思
います。これからどのようにしてこのコンソーシアムを発展させていくか、この2日間の議
論の中でその方向性を見出していければ非常によいことだと思っております。そのために、
皆さんの活発な議論をお願いしたいと思います。その議論の中から新しい取り組みの芽が
出てくることを期待したいと思います。
最後に、この会議を開催するに当たって、主催、共催、協賛という形でいろいろな機関
の皆さんにご協力をいただいております。一つ一つのお名前を挙げることはできませんけ
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れども、関係機関の皆様に心から感謝の気持ちを表して、私のご挨拶とさせていただきた
いと思います。どうもありがとうございました。(拍手)
○白岩
ありがとうございました。
それでは、私の方から、アムール・オホーツクコンソーシアム第2回国際会合を開くに
当たっての趣旨説明をさせていただきます。
まず、今回の会議、これは第2回国際会合と銘打っております。内容的には、五つのセ
ッションから成っており、最後に総合討論を行う予定でおります。
最初のセッションでは、アムール川流域の環境とその変化について、いろいろな議論を
行わせていただきたいと思います。
2番目のセッションでは、オホーツク海の環境とその変化、そして、今回、特別に設け
たセッションで、3番目のセッションですが、来る3月に起こりました東北大震災とその
直後に起こった津波、また、それが引き起こした福島第1原発の事故、この影響が私たち
の周辺海域に、あるいは陸域にどのような影響を与えたのか、このセッションを立てまし
た。その理由は、アムール・オホーツクコンソーシアムというのは、もともとオホーツク
海とアムール川流域の環境を議論するために立ち上げた会議ですが、私たち日本自身が自
分たちが引き起こした問題を周辺諸国にきちんと説明しなければ、今後、同じような問題
が起きたときに、外国との議論がうまくいかなくなる、そういう危惧を抱いたからです。
日本がこの問題についてどれぐらいアプローチできるのかということを、セッション3で
皆さんに紹介して議論していきたいと思います。
明日はセッション4から始まりますが、アムール・オホーツク地域の社会経済的な問題
とその分析についてお話しします。
セッション5では、このオホーツク海を取り巻く陸域と海域の環境保全について、国際
的な協力がどのように現状で進んでいるか、あるいは、これから進むべきなのかについて
議論したいと思います。
そして、最後の総合討論では、環境問題、特に海は科学的なデータが極めて重要なので
すが、このデータについて、どうやって国を超えて一緒に構築していくか、あるいは、過
去のデータを共有していくかについて議論できればと考えております。
本堂理事、あるいは江淵コンソーシアム幹事の説明と少し重複しますが、アムール・オ
ホーツクコンソーシアムについてまだご存じない方もいらっしゃると思いますので、簡単
に歴史を振り返りたいと思います。
アムール・オホーツクコンソーシアムが最初に立ち上がったのは2009年の11月7日から8
日、まさにこの会場でありました。このときに、2日間の科学的な討議を通じて、参加し
た研究者が、オホーツク海とその周辺陸域の環境保全に対する研究者による共同宣言とい
うものを作成し、その会場で採択されました。この宣言は、日本語、中国語、ロシア語、
英語で書かれて、現在、ホームページで見ることができますので、ぜひ見ていただきたい
のですが、大事なことは、このアムール・オホーツク地域では情報の共有化があまり進ん
- 4 -
でいないので、これを進めたい。それから、共同の環境のモニタリングが将来的に必要で
ある。また、科学的な議論をさらに活発化させる必要があるということを謳いました。そ
して、このようなものを実現するために、アムール・オホーツクコンソーシアムという組
織を立ち上げることにしました。
アムール・オホーツクコンソーシアムは、ここには英語で書いてありますけれども、概
略を申しますと、このアムール川、あるいはオホーツク海という世界的に見て極めてユニ
ークな陸域と海域のつながりを将来にわたって持続可能な状態で利用し、また保全してい
くために、研究者がどのような形でそれを進めていけるのか、そういうことを背景としま
して、国を超えた多国間の研究者の科学的なネットワークであるという位置づけでござい
ます。
この組織は、非政府、ノンガバメンタルなネットワークであり、特定の国や機関によっ
て維持されるものではございません。これは、研究者、あるいは、それに類似した方々が
集まって、個人的なボランティアベースで進めていく集まりでございます。ここでは、研
究者による自由な議論を通じて問題の追求を行っていく場でございます。
2009年の設立当時は、ロシア、中国、そして日本が参加し、各国から代表幹事として、
ピーター・バクラノフ先生、あるいは中国の笪志剛先生、日本の江淵直人先生が代表幹事
として選出されました。
昨年ですけれども、同じく札幌の北大スラブ研究センターにおきまして、準備会合を行
いました。これは、今回の会合のための準備会合です。ちょうど1年前ですが、この会合
には、各国の代表幹事と、アムール川、あるいは、オホーツク海で活躍されておられるさ
まざまな機関の関係者にお集まりいただきました。そして、この会議の結論として、そう
いう機関、あるいは、ネットワークと密接に協力することによって、コンソーシアムの活
動を進めていくということが合意されました。
例えば、機関あるいは動きが書いてありますが、国連の環境計画と地球環境ファシリテ
ィという国際機関がありますが、ここが共同して行っている国際河川あるいは水資源に関
するプロジェクトがございます。アンパイ・ハラクナラックさんという方に参加していた
だき、連携を確認し合いました。あるいは、日本とロシアの間には、日露生態系保全協力
協定という二国間の協定がございます。外務省の林直樹さんに参加していただきまして、
この動きを紹介していただくとともに、連携を議論してまいりました。
皆さんご承知のように、知床は世界自然遺産でございますが、知床世界自然遺産の科学
的な側面を議論する知床科学委員会からは大泰司紀之先生に参加していただきまして、協
力を約束させていただきました。あるいは、NPOの動きですが、オホーツク環境保全ネ
ット(OPEN)の石川さん、今回参加されております石川さんとも議論をいたしました。
もう一つは、北海道の組織であります北海道環境科学研究センターからも多数の研究者
に参加していただきまして、議論をいたしました。そして、このときの会合の重要な点は、
アムール川流域のもう一つの国であるモンゴルから、今回もお越しいただきましたが、オ
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ユンバートルさんという水文学者に参加していただきまして、アムール川流域の全部の国
と、最下流に位置する日本ということで、4カ国の組織に発展していったわけです。
今回の会合は、このような2年間の流れを受け、三つのテーマを設定しております。ア
ムール・オホーツクコンソーシアムのそもそもの目的であるデータや情報の交換、それは
アムール・オホーツク地域の環境に関するものですが、これが最初の目的であります。も
う一つは、先ほど申しましたように、福島で起こった原発事故の最新の科学的な情報をい
かに我々が公開できるか、この点についての重要なトピックとして挙げています。そして、
最後に、この国境地域に広がる貴重な自然の科学的なデータをいかにして我々は構築し、
共有していくかについての議論を行うということです。この三つのテーマを今回の会合の
大きな目的としています。
この研究会議が行われた結果、3月の末までに、私たちは各発表者から提出していただ
きました論文をまとめて、研究論文集として出版します。紙の媒体と電子情報として公開
する予定でおります。
趣旨については以上ですが、これから五つのセッションと総合討論を進めるに当たり、
皆様にお願いがあります。ルールと書きましたが、この会合を通じて五つのセッションは
そのセッションごとの座長によって進められることになります。この座長は、ある意味、
王様であり、彼はすべてをコントロールしますので、ぜひ座長の意見に従って発表を進め
てください。
それから、発表者の皆さんは25分間の時間を持っております。この25分間の内訳ですけ
れども、20分間を発表に使っていただきたいと思います。残りの5分間は、質問、議論に
使わせてください。そのため、最初の15分が過ぎた段階で最初のベルを1回鳴らします。
これは発表の終わり5分前の意味です。それから、発表の終わりであります20分のときに
ベルを2回鳴らします。その後、議論に移っていただき、持ち時間の25分が終わるときに
ベルを3回鳴らしますので、発表者の皆様はご協力をよろしくお願いいたします。
それから、発表者はもちろん使うと思いますが、質問に当たりましても、ぜひマイクロ
ホンを使ってご質問ください。これは、通訳の方々に聞こえるようにということですので、
よろしくお願いいたします。
先ほども言いましたように、この会議は、研究者あるいは市民の皆様による自由な議論
をモットーしております。ですから、厳しい意見、批判的な意見ももちろん歓迎ですけれ
ども、ぜひ、北大の開学の祖であるクラーク先生の言葉に従って、野心的である一方、私
たちは紳士淑女であり、ぜひ建設的な議論に努めていただきたいと考えております。
以上で、私からの趣旨説明は終わらせていただきまして、この後、セッションに入らせ
ていただきます。
それでは、セッション1の座長である金沢大学の長尾誠也先生、よろしくお願いいたし
ます。
- 6 -
◎セッション1:アムール川流域の環境とその変化
○長尾座長
それでは、最初のセッションを始めたいと思います。
午前中のセッションの座長を務めさせていただく、金沢大学環日本海域環境研究センタ
ーの長尾と言います。最初の王様ということで、少しセッションを頑張っていきたいと思
います。
それでは、最初の講演に移りたいと思います。
最初の講演は、イーリナ・デュギナさんによる「アムール川流域ロシア領における連邦
政府による水文・水文化学モニタリング」ということですが、イリーナ・デュギナさんは
急用ができまして、今回、急遽来られませんので、代理でエフゲニー・カラシェフさんに
発表をお願いしたいと思います。
「アムール川流域ロシア領における連邦政府による水文・水文化学モニタリング」
イリーナ・デュギナ(ロシア連邦水文気象・環境監視センター)
○カラシェフ
皆様、おはようございます。
イリーナ・デュギナのかわりに、私が報告いたします。
デュギナさんは、ハバロフスクにありますロシア気象庁の極東であるわけです。つまり、
水及び環境モニタリングを行うのが極東の観測所の使命であるわけです。また、ロシアの
極東の海に関しての観測も行っています。また、ロシアの経済水域に関しても調査を行っ
ているわけです。このロシア気象庁の極東支部でありますけれども、ハバロフスクにあり
ますハバロフスク地方とアムール州、そしてユダヤ自治州という三つの大きな区域、地域
を管轄しております。ほとんどアムール川の流域すべてをカバーする形になっています。
さて、アムール川でありますけれども、世界の10大大河の一つであります。したがいま
して、アムール川に対する関心度は、このアムール川が流れているすべての国が高い関心
を持っているわけであります。そして、ロシア気象庁の極東支部が管轄している地域を流
れているのがアムール川であります。この観測所でありますけれども、アムール川に対す
る観測、また起こるかもしれない自然災害の予測も行っています。
そこで、水文学的な研究、そして観測結果のデータの1次処理を行います。また、河川、
湖沼に関する現状に関しても情報を集めて、それを住民を含めた適材の箇所に報告すると
いうことを行っております。また、予測と警報を出します。
さて、こちらのスライドでありますけれども、観測所の数がここに書かれています。こ
の観測所でありますけれども、まず、水位だけを観測するという観測所があります。これ
は、水位と水温だけを観測するわけであります。そして、観測所の7%でありますけれど
も、これは他の、例えば支流が流入するところに置かれている観測所でありまして、水位
の観測だけではなく、どれだけ水が流出するのか、消費されるのか、また、堆積物をはか
って、それがどれだけ流入するのかということも観測します。
さて、観測でありますが、一昼夜当たり2回観測が行われます。そして、増水の期間で
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ありますけれども、通常、2時間置きに観測されます。そして、支流の河口地域、堆積物
などを測量するという他の河川、支流の流入地域でありますけれども、この自動の水位計
測器が置かれております。
さて、観測データでありますが、ロシア気象庁の下部組織であるさまざまな研究所で分
析が行われます。誤差を訂正した後で、そういった資料は系統立てたものとしてまとめら
れまして、最終的にはロシア国家の水の登記簿に記載されます。
ロシアの法律によりますと、ロシア水資源庁がありますので、この管轄、監督をするの
はロシア水資源庁であります。そして、データはアクセス可能であり、ここに書かれてい
るサイトでごらんいただくことができます。
さて、水文学的な観測上の密度でありますが、ロシア全体に関しましては、1観測所当
たり管轄している面積が2,829㎞ 2 でありますけれども、ロシアのアジア地方になります
と、より密度が薄くなりまして、1観測所が扱っている面積は平均しますと8,000㎞ 2 以上
になります。
そして、アムール川流域に関しましては、1観測所当たり7,230㎞ 2 を管轄しています。
さて、水の観測所、アムール川及びその支流の密度であります。主に、観測所がありま
すのがアムール川の上流、中流、下流域であります。そして支流、シルカ、アルグン、ア
マザール川といいますと、観測所の数がもう少し少なくなり、ウスリー川の場合はもっと
観測所が少ないわけであります。
GPというものが水位を測定するもの、観測所全体の数でありまして、真ん中のものが
その中で堆積物などを観測するものであります。
さて、観測所の数が不足していると申し上げました。支流などがあるところに設けられ
た観測所、アムール川に関しましては、1観測所当たり平均して10,280㎞ 2 という広い面
積において観測を行わなければいけないわけです。そして、沿岸部、そして山岳地帯、丘
陵地帯ということで、観測所が不足していることがわかると思います。
さて、国際的に水資源を管轄する機関でありますけれども、各水文観測所に関しまして
は、具体的な扱っている区域の特徴を考慮すべきだという基本原則を提示しています。
例えば、社会経済的な状況、また、物理的な気候的な状況を考慮し、また、例えばアム
ール川の地域に関しましては、アクセス困難な地域がたくさんあるという特徴も考慮しな
ければいけません。
さて、こういった観測所でありますが、一番メインの課題は、陸上の水に関する情報を
集めるということ、そしてまた、それが地理的にもどう分布しているかを明らかにするこ
と、また、時間軸によりましてどう変化していくかということをウォッチすることが必要
です。
さて、アムール流域ということになりますと、そういった観測所を設立するための原則
が十分に守られておりません。といいますのは、観測所の数が不足するということであり
まして、20%増やすことが必要であります。
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ただ、現状でも改善策はとられておりまして、ウスリー川の水域、流域に関しましては、
自動化された水位測定所などが設けられており、これは、人口密度がロシア極東としては
極めて高いウスリー川流域においては、洪水がたくさん多いことを考えますと、当然の措
置と言えると思います。そして、こういった自動水位測定装置などを設けることが有効で
あり、効果が出ることがわかっていますので、ロシアの気象庁としましては、こういった
やり方をアムール流域全体に広げたいと考えているわけです。
さて、課題を挙げますと、ロシアと中国の国境を接している地域になります。これは、
アルグン川、アムール川、ウスリー川といったところでありまして、既に長年にわたって
支流からアムールにどういった水が流れ込んでいるかという観測、ロシアと中国は観測が
十分に行われておりません。そしてまた、設備が古くなっているということをお話しした
わけでありますけれども、春には増水をします。そうしますと、観測所が破壊されるとい
うことがたびたび起きておりまして、迅速に復旧させることが必要であります。
さて、水の観測ということになりますと、水の化学分析、つまり、ハイドロケミカル分
析も必要であるわけです。88の河川、そして、湖沼などで汚染度が観測されております。
そして、ケミカルの分析と言いますと、119の観測所で行われております。こちらの表であ
りますけれども、ハイドロケミカル観測所、つまり、水のケミカルの分析が行われている
観測所の数であります。アムール川の上流域、中流域、下流域ということになりますと、
観測所の数が53ありますけれども、支流に関しては、ケミカル分析が行われている場所は
それより少なくなります。この地域全体では合計119の観測所でケミカル分析が行われてい
ます。ケミカル分析ということになりますと、人員的な影響、つまり、工業、そして生活
排水などが水の化学組成に与える影響のデータが収集され、分析されるのです。
こちらの表でありますが、水質評価に関して、水の総合的な汚水指標に基づいて水質評
価がなされるということです。五つの段階に分かれています。これは、総体的な段階であ
りますが、第1段階が総体的にクリーンである、第2段階が軽度の汚染状況、第3段階が汚
染されている状況、第4段階が汚れている状況、そして第5段階は汚染度が極めて進んで
いるということであります。そして、私たちが観測を行っているところでは、主に第3と
第4、つまり、汚染度が進んでいる、そして極めて汚染されているというカテゴリーであ
ります。
汚染物質と言いますと、銅とか鉛、窒素化合物、有機物、そして、季節によってはフェ
ノールなどであります。また、鉄化合物、そしてマンガンの化合物の濃度が高いというこ
とがあります。しかし、これは主に自然条件、自然のファクターというものが原因になっ
ております。
さて、この地域はロシアと中国の国境に接しておりますので、モニタリングも合同で行
うということが重要な意味を持っております。
ハバロフスク地方と黒竜江省政府の間に協定が結ばれております。これは2000年から
2005年にかけての環境保護措置でありまして、2002年からアムール川とウスリー川の共同
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モニタリングが始まりました。そして、25の指標に関しまして、アムール川とウスリー川
のケミカルな物質の含有量に関するデータが得られております。
これは、アムール川の二つの支流、そして、ウスリー川の1支流に関して、年に3回調
査が行われました。2006年からでありますけれども、今年の終わりまでということであり
ますけれども、向こう5年間の作業計画が策定されております。
ということで、何年間にもわたって共同調査が行われているわけですけれども、この国
境に接している地域の水の品質は安定しています。そして、幾つかのケミカル物質に関し
ましては改善が見られております。これは、中華人民共和国が松花江(スンガリ川)に関
しまして、その流域の健全化措置をとっていることが理由であると思います。
さて、結びでありますけれども、この陸上の水の観測、そして、汚染度の分析に関しま
しては、沿岸地域の建設、また、環境保護措置、そして、経済主体、企業の活動に与える
影響、そして、企業の事業計画などにも極めて必要な重要なデータであります。また、学
術的な研究を行っていくことが必要であることはもちろんであります。
そこで、観測のネットワーク同士の協力を今後も一層強化すべきであり、来年2012年か
らロシアにおいては、連邦プログラム、つまり全国家的なプログラムが実現されることに
なっています。
以上です。どうもありがとうございます。(拍手)
○長尾座長
カラシェフさん、どうもありがとうございました。
それでは、ただいまのご講演に対しまして、質問、あるいはコメント等がありましたら
お願いします。
○会場
ちょっと聞きたいのですが、先ほど、アムール川の汚染物質がどうだということ
出ていると言いましたが、それは自然のものだと言っております。それは、本当に自然の
ものなのですか。ロシアは鉱物とかきちんときれいにやっていますか。処理をやっていま
すか。
それと、中国から何年か前に流れてきた川、松花江とか書くのだけけれども、あの川は
物すごく汚染されてアムール川に流れていたでしょう。あれは、中国などとの連携を本当
にやっていかなければいけないと思います。地球の自然は本当に大事ですし、シベリアの
自然は本当に大事なので、日本や周りの国が本当に大事にしていかなければいけないので
すが、いろいろな産業などがこれから発展するところですね。そういうことをちょっとコ
メントしたかったのです。
○長尾座長
実は、私は、アムール・オホーツクのプロジェクトにも関係して、こういっ
た鉄などもはかっていたので、私の方から一言だけ申し上げます。
今、鉄とかマンガンが高いという話をしたのですが、湿地から出たりしていて、大部分
が自然のものだと考えていい状況です。
○カラシェフ
私もお答えしたいと思います。
- 10 -
まさに、今、先生からコメントがあったとおりでありまして、鉄やマンガンということ
を示唆していますけれども、これは主に自然のものです。そして、中国のケミカル工場か
ら汚染が流れてくるということは、確かに、この松花江(スンガリ川)にかつて事故で入
ってきたということがあります。つまり、そのときは排水が十分に浄化されていなかった
わけです。ですから、かつて、水のケミカル分析を行いました。
排水などでありますが、排水の浄化ということに関しては、ロシアの気象庁の極東支部
が管轄しているのではなくて、別のところが管轄していることになります。
○長尾座長
それでは、ほかに質問等がありましたらお願いいたします。
では、白岩さん。
○白岩
貴重なご講演をありがとうございました。
これは、イリーナ・デュギナさんの代理のご講演なので、もしかしたらデュギナさんに
聞くべきかもしれないのですが、ロシアと中国の共同観測が2006年から2011年で
一回終わるという話だったのですけれども、それ以降について何かご計画があるか、カラ
シェフ先生はご存じでしょうか。あるいは、会場の方々でそういう情報があったら、ぜひ
教えていただきたいと思います。
○カラシェフ
私の理解している範囲ということでお答えしたいと思いますけれども、今、
向こう5年間の計画が策定されております。したがいまして、中ロの協力は今後発展させ
ていくということ、より一層充実させていくというふうに理解しております。
○長尾座長
では、よろしいでしょうか。
コンドラチェバさん、この辺のことで何かご存じの情報はお持ちでしょうか。
○コンドラチェバ
実は、二つの異なった分野があるわけです。まず、国家が行うモニタ
リングがありまして、もう一つは、各研究所などが行うモニタリングであります。したが
いまして、今、カラシェフさんがすべてお答えできるわけではありません。つまり、デュ
ギナさんは、あくまでも気象庁の極東支部、ハバロフスク支部の方であるからです。
私は4番目に報告することになっておりますので、私の報告をお聞きになってから質問
をしていただければいいと思います。学術的なモニタリングという分野と国家が行うモニ
タリングがありまして、これは趣旨が少し違っている、あるいは設定している課題が違う
からであります。
○長尾座長
ありがとうございます。
二つの枠組があり、現在、進んでいる状況のようです。
それでは、お願いします。
○会場
こんにちは。
私は、国連の環境関連の部署から来たのですが、先ほどのことについて質問したいと思
います。
五つのクラスに分けるということでありました 。そして、皆さんのところの観測ステー
ションは3から4程度ということでありましたけれども、その評価は、全流域に対して行
- 11 -
ったのか、それとも、上流、中流、下流に分けて行ったのかということです。
○カラシェフ
観測ですけれども、汚染度の五つのレベルすべてに関して観測されていま
す。そして、汚染度ということと、第3度、第4度の汚染になります。スライドでお見せ
したことに補足するのであれば、これはデュギナさんが扱っていることであり、私ではち
ょっとお答えしかねます。
○長尾座長
残念ながら、きょうは担当の方ではないということで、ご了解いただけたら
と思います。
そのほかに何かありますでしょうか。
最初に私の方でアナウンスしておりませんでした。質問される方は、ご所属とお名前を
言ってから質問をお願いしたいと思います。
○野口
北海道立総合研究機構の野口と申します。
2点お伺いしたいと思います。
一つは、先ほどの五つの段階に分けられた汚染度を、どのような成分分析で分けられて
いるのか、どのような科学的なデータを用いてその五つの汚染度に分けられているのかと
いうことが一つです。
もう一つは、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク(EAネット)、East Asia Acid
Deposition Monitoring Networkというものが同じ機関で測定されていると思いますが、ハ
バロフスクとか、そちらとの連携は何かございますか。
○カラシェフ
お答えします。
この報告でありますが、この報告は総論であります。つまり、観測所のネットワークに
関して、アムール川流域の水の観測所に関する総論でありますので、具体的な観測データ
は報告には盛り込まれていません。つまり、詳しい個々のデータということは、また別の
報告、別の論文ということになります。
したがいまして、皆様にお答えするとすれば、デュギナさんの報告がもとになっている
のですけれども、もちろん、そこに詳しい情報は盛り込まれていませんので、デュギナさ
んに例えばメールなどで質問を書いていただいて、それぞれのご関心の問いに関する答え
を得ていただきたいというのが私の答えです。
○長尾座長
カラシェフさん、もう一つの質問があります。
東アジアネットワークでしたか。済みません、もう一度お願いできますか。
○野口
同じ機関で、アジア酸性雨モニタリングネットワークに参画していらっしゃるは
ずですが、そちらとの連携はございますか。
○カラシェフ
それに関しましては、私が既に申し上げているように、この報告はそもそ
もデュギナさんがやるものであり、私は、本省の方から来ておりますので、残念ながらお
答えできないです。
○長尾座長
今回、カラシェフさんは代理の発表ということで、専門分野がちょっと違う
ということもありましてお答えできないという部分もありましたが、ちょうど時間も来ま
- 12 -
したので、これでカラシェフさんの代理の発表を終わりにしたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)
それでは、2番目の発表に移ります。
2番目の発表は、
「 モンゴル国ヘルレン川流域における水資源・水文観測・社会経済なら
びに環境問題の現状 」 ということで、モンゴルの水文気象局のオユンバートルさんにお話
をお願いしたいと思います。
ただ、この発表は、英語で行った後、日本語で通訳をして、それから同時通訳で聞くこ
とになりますので、少し時間がかかってしまいますが、ご了承していただけたらと思いま
す。
それでは、よろしくお願いします。
「 モンゴル国ヘルレン川流域における水資源・水文観測・社会経済ならびに環境問題の現
状 」オユンバートル・ダンバラジャー( モンゴル水文気象局)
○オユンバートル
おはようございます。1年ぶりにお会いできて幸いです。オーガナイ
ズしてくださった日本の皆さん、ありがとうございました。これから発表を始めます。
本日の私の発表は、アムール川の最上流部にありますヘルレン川の一般的な水文状況で
す。覚えていらっしゃる方もいるかもしれませんが、昨年は、もう一本の源流であるオノ
ン川の発表をしました。
こちらが共同研究者です。1人は気象水文研究所、それから、二つの地域の代表であり
ますヘンティー地域とドルノド地域の代表者から成っております。
こちらに、発表の内容を羅列いたしました。
これから、ヘルレン川の水文と水資源についてお話しします。
ヘルレン川というのは、モンゴルで最大の流域を持った川で、アムール川の最上流部に
ございます。流域面積は116,455㎞ 2 、これはモンゴル全域の7.4%に相当し、川の長さは
1,213㎞でございます。ヘルレン川とその流域は、表層水の資源としても重要でもあります
し、それから、国全体の自然資源、それから、経済的な価値の大きなポテンシャルを持っ
た地域でございます。
ヘルレン川は、大ヘンティー山脈の南斜面に流域の源流を持っておりまして、その山は
標高1,750mであります。そして、南東に流れて、中国にあるダライレイクと呼ばれている
湖に草原を通って流出しています。
ヘルレン川の一般的な特徴をあらわしておりますが、流速は毎秒1から2メートルで流
れております。その流域には310の湖や池、それから244の湖、67の小さな川があります。
ヘルレン川は、ステップを流れる川なので、勾配が大変緩く、1万分の11ぐらいの勾配
で、水路の密度が0.1㎞/㎞ 2 となっております。この写真にあるような景色でございます。
こちらにヘルレン川流域の一般的な気候条件について書いております。流域の平均気温
は、上流で-2.8℃、下流で1.5℃となっています。降水量は、年間平均で227㎜から287㎜
- 13 -
です。年間降水量の94.4%は夏に降ります。その他の季節は5.6%しかありません。
この図にあります色分けは、上流から下流への分類です。ヘルレン川流域の自然条件で
すが、高山、タイガから森林ステップ、ドライステップというふうに広がっております。
ヘルレン川流域の流況ですけれども、降水がある川、そして、春に洪水が起こる川でご
ざいます。そういうわけで、春の融雪時期に56%から76%の融雪が起こって、それが洪水
を引き起こします。上流の森林帯の流出のほとんどはバグナウルまで起こっております。
それから、その下流ですが、ステップゾーンでは砂質土壌によって蒸発が起こり、河岸
で浸透が起こっているので、流失が、失われております。
それから、この川では、非常に大きな洪水が頻繁に起こっています。1933年、54年、59
年、67年以降、ここに書いてあるように起こっていて、最も大きな洪水は1954年、はバグ
ナウル観測所で記録されたものですけれども、1,320m 3 /secの洪水がありました。
モンゴルにおける定常的な水文観測は、1947年にヘルレンチョイバルサン観測所で行わ
れたものが初めてです。この表には、各観測地点のさまざまな情報が書かれています。
この図は、ヘルレン川のモンゴル流域の図です。上流からヘルレンバグナウル観測点、
中流にヘルレンアンダーカーン観測点、下流にヘルレンチョイバルサン観測点があります。
この二つの写真は、河川の観測風景です。上の図はヘルレンのアンダーカーンステーシ
ョンにおける流量観測の様子、下がチョイバルサンステーションにおける流量観測の様子
です。
この図は、ヘルレン川の四つの観測地点における年間流量の時系列データです。ごらん
のように、低水位と高水位が周期的に行っていることがわかります。8年から16年ぐらい
のサイクルで、1990年以降、現在まで低水位が続いております。
この図は、ヘルレン川流域の年間平均流出量の分布図です。色分けで流出量の分布図を
示しています。単位はリットル毎秒で1平方キロメートル当たりです。青が3.01~5.0、赤
が0.05~0.20となっています。
この図は、年間流出量の月ごとの分布です。ごらんのように、82%~90%の流出量が夏
に起こっています。
この図は、ヘルレン川における洪水波の減衰の様子を示したものです。上流から下流に
減衰していますが、これについては後ほどご説明します。上流の観測点から洪水波のピー
クが減衰している様子が図にあらわれています。
この表は、ヘルレン川流域の三つの観測点における水収支の表です。ここでQと書いて
あるのは降水量の間違いで、Pが流出量の間違いです。降水量は上流に行くほど多くなり、
流出量も同様に上流が多く、下流が少なくなっています。蒸発散量は逆に下流に行くほど
多くなっております。推測される蒸発散量は、大体1,000㎜に達します。
この図は、日本の筑波大学の研究者との共同研究の成果ですが、安定同位体を使用して、
地下水のリチャージですから、涵養速度を計算したものです。上流域のリチャージの速度
は速く、1970年から80年代ですが、下流域ではその速度が遅く、1950年代と水が古くなっ
- 14 -
ています。この図は、もう一つ利用可能な地下水量も示しておりまして、それは20m 3 /day
~187m 3 /dayという値となっています。
こちらの図は、地下水量の分布図でございます。
こちらは、水質の情報ですけれども、我々の分類によりますと、ヘルレン川の水という
のはカルシウム、炭酸水に分類されて、とても新鮮であると考えられています。その水質
中に解けている鉱物の量ですが、上流域では32.7㎎/L、下流域のチョイバルサン観測所で
は428㎎/Lとなっています。
濁度に関しては、これは1立方メートル当たりですが、上流域では5.2g/m 3 になって
いて、下流に行くに従って増え、一番下のドライステップでは200g/m 3 になっています。
これから、社会経済的な状況について少しお話をします。
ヘルレン川流域には四つの区があります。トゥブ、ヘンティー、スフバータル、ドルノ
ドです。それから、その中には23のもう少し小さな単位の行政区があります。ヘルレン川
流域の人口は109,600人です。これは、モンゴル全体の4.1%でございます。
ヘルレン川流域の家畜数は142万頭でして、これはモンゴル全体の家畜数の3.4%に相当
します。
農業に関して言いますと、ヘルレン川では極めて規模が小さく、102.4haしかありません。
これは、モンゴル全体の流域の1%以下でございます。
この写真は、ヘルレン川流域のまちの様子を示したものです。上流にあるウンドゥルハ
ーンと下流のチョイバルサンという村の景色でございます。これらの村の人口は3万から
55万2千人ぐらいです。
ヘルレン川流域の主な工業としては石炭の採掘がございます。2カ所ありまして、上流
の名前は忘れてしまいましたが、年間2億9千万トンから3億トンの産出量があり、モン
ゴル全体の40%を占めています。
一番下流側にある採掘所の写真です。
ヘルレン川流域の土地利用状況の写真です。
農業の生産がありますが、それほど広くないです。それから、家畜を草原で放牧してお
ります。それから、牧草の生産、鉱山資源の採掘、エコツーリズムと自然保護区から成っ
ております。ヘルレン川流域の200万haが厳しく保全された地域、SPA、あるいは国立公
園、自然保護区、ナショナルモニュメントから成っています。これらの地域は、モンゴル
の中でも重要な地域で、さまざまな国際的な環境保全運動と関係しております。
このように、観光と歴史的な遺物がモンゴルのヘルレン川流域にはあって、この下の写
真は、13世紀から14世紀の歴史的な遺産でございます。
ここには、ヘルレン川流域がかかわっている国際的な環境保全とのかかわりが書かれて
います。国連、あるいは地球環境ファシリティや、ドイツのプロジェクトなどが入ってい
ます。下には、国境河川の問題として、中国とモンゴルとの関係についての記述がござい
ます。
- 15 -
ヘルレン川流域というのは、モンゴルにある29の河川のうちの重要な河川の一つで、重
点的に発展させる地域になっております。
ここには、モンゴルの気象水文研究所の将来の気候変化に対する水資源の変化に対する
予測が書いてあります。気温は、今後、1.1℃~1.4℃、2011年から30年の間に上昇するで
あろうと予測しております。降水量に関しては減少傾向にあり、21世紀初頭では減少傾向
であるだろうと考えています。その結果、流域の環境はより乾燥化に向かうであろうとい
うふうにモンゴルでは考えております。
こちらには、謝辞と関連の論文を書きました。
どうもありがとうございました。(拍手)
○長尾座長
オユンバートルさん、どうもありがとうございました。
それから、日本語の通訳としてやっていただきました白岩さん、ありがとうございます。
それでは、時間の関係もありますので、一つだけご質問、あるいはコメントを受けつけ
たいと思います。
○竹田
名前は竹田眞司と言います。
東川なのですが、世界でいろいろな問題とか先住民族問題に取り組んでいる者です。
ヘルレン川ですが、この流域は遊牧地帯なのですか。農地は少ないと言ったけれども、
はんらんして肥沃な大地になるのか。
それから、自分のところの近くに滝川市がありまして、そこはモンゴルといろいろ交流
しているのですが、横綱の白鵬が滝川の親善大使になっているのです。そして、滝川の米
をモンゴルでつくるということですが、どこら辺でつくるのかなと思っているのです。
また、今度、モンゴルと日本は協力してモンゴルでレアメタルを開発するというのです
が、それはどこら辺になるのか。
○長尾座長
時間の関係もあるので短くしていただきたいのと、今の質問は、オユンバー
トルさんは答えることはできないような質問だと思います。
○竹田
オユンバートルさんのように英語しかしゃべられない人は、聞く場合はどうやっ
て聞いているのでしょうか。
○長尾座長
白岩さんが訳してくれます。
○オユンバートル
滝川市の洪水とモンゴルの洪水に関して言うと、モンゴルでも洪水が
土壌を肥沃にしているということはあると思います。
○竹田
滝川の米をモンゴルで生産するというのだけれども、それはどこら辺の土地でや
るのかなと思ったのです。ヘルレン川あたりではんらんするのか、水が豊富でなかったら
できませんからね。モンゴルは砂漠が多いから、どこら辺でやるのかなと思ったのです。
○オユンバートル
モンゴルには水田があるそうです。ヘルレン川流域にもあるのですが、
そんなに大きくないという話でした。
○長尾座長
それでは、ちょっと時間を過ぎていますので、これで発表は終わりたいと思
- 16 -
います。
オユンバートルさん、どうもありがとうございました。(拍手)
それでは、次の発表に移りたいと思います。
次の発表は、「アムール川流域における近年の気候変化と河川起源鉄の挙動に及ぼす影
響」ということで、ウラジミール・シャーモフさんに発表をお願いしたいと思います。よ
ろしくお願いします。
「アムール川流域における近年の気候変化と河川起源鉄の挙動に及ぼす影響」
ウラジミール・シャーモフ(ロシア科学アカデミー極東支部・太平洋地理学研究所)
○シャーモフ
皆さん、こんにちは。同僚の皆さんも、こんにちは。
まず初めに、きょうは、このような形で発表させていただく機会をいただきまして、心
からお礼を申し上げたいと思います。非常におもしろいテーマばかりだと思います。そし
て、いろいろな局面を持っているもので協力した関係、協力した調査を行える研究分野だ
と考えております。
私のテーマですが、今ご紹介がありましたように、アムール川流域の気候変動、そして、
河川起源の鉄の挙動への影響というものです。そして、今までの影響源、それから、今後
どうなるかということをお話ししたいと思います。
ここでごらんになっていただくのは、私のこれからの発表のアウトラインでございます。
ここでごらんになっていただけるように、まず初めに、1990年代に非常に奇妙な鉄の流
出が川にありました。アムール川にありました。スプラッシュと言われるような流出が何
度かあったわけです。そして、これが一体どこからやってきたのか、この鉄はどこから出
てきたのかという問題です。
これについては、前回の会議におきましても研究をしておりまして、それから2年たっ
ておりますので、その間の研究の結果についてもお話をしたいと思います。つまり、この
奇妙な鉄の流出の起源の研究ということです。そして、その起源、それから、その間に気
候変動及び凍土の及ぼす影響です。五つ目には、泥炭水が溶けてこれが川へ流入している。
そして、これと溶存鉄との関係というものについて申し上げたいと思います。
2国間で研究をしているわけなのですけれども、その対象となった地域でございます。
アムール川、それから、鉄の溶存が確認されている地域などがここで示されております。
そして、オホーツク海へ注いでいる川ですけれども、それとの関係を地理的にごらんにな
っていただけると思います。ハバロフスクという街が見られます。これは、ハバロフスク
市を通過していますアムール川の流域でございます。ハバロフスク市のアムール川です。
アムール川の流域の面積は163万㎞ 2 でございます。ざっとしたデータがここにあります。
流域の面積及び川の長さ4,444㎞、その周辺に住んでいる人口ですが1,000万人、この中の
450万人ぐらい、半分以下ぐらいがロシア側に住んでいます。
それから、これを全体的に見たときに、以下のようなことが確認されます。というのは、
- 17 -
気候を見ましても、人口と地理を見ましても、南と北で非常にアシンメトリーな状況だと
いうことです。まず気候ですが、北側は湿度が高く、タイガで非常に寒いところでござい
ます。しかし、南の方は、気温が高く温帯、そして広葉樹林が広がっている乾燥地、もし
くは半乾燥地性を持っております。
それから、人口的にも、南北で非常に大きな差がありまして、ロシア側は、人口が少な
く、土地利用率が低いわけですが、中国側では、人口も多く、そして、非常に活発な土地
利用が行われております。
それから、ここでもごらんになっていただけるように、湿地の開拓率についても大きな
差があるわけです。さらには、ここに凍土の境界線があります。それから、モンスーン気
候が顕著ということが大きな特徴になってきます。これによりまして、モンスーン気候と
いうことで非常にたくさんの雨が降ります。そして、河川の水量の上下が非常に激しいも
のがございます。夏と秋には洪水が起きます。8月、9月を中心として置きます。冬にな
りますと、河川の水位は非常に低くなります。
それから、流入水、いわゆる流出のアップダウンが非常に激しいパターンが10以上に
なります。
それから、下流域に大きな氾濫原が広がっております。そして、水の蓄積率が下流域に
多いため、湖沼湿原が広がっています。
さらに、干ばつが春から夏、秋にかけてありまして、これによる森林火災が起きます。
次に、アムール川の鉄、その他の物質についてです。これは、日本の海洋学者が2000年
初冬に、実はオホーツク海の北部において、これは黒潮水域になるわけですが、魚類の生
産性が非常に大きな低下を示したことから、これによる調査を行いました。それと同時に、
鉄の溶存率が3から4倍ぐらいに広がったということで、このような形でのハバロフスク
周辺のアムール川、さらにはアムール・オホーツク流域のプロジェクトによる調査が進め
られるようになったわけです。この鉄の挙動異常は、ロシアの国立水文気象局がこのモニ
ターを長期的に行っております。ごらんになっていただけるように、鉄の溶存濃度の推移
が2000年直前に異常な動きを見せております。
これは、年ごとの溶存鉄の挙動を示しております。1997年に非常に大きなピークを迎え
ております。そして、この鉄の溶存率ですが、ここで二つのアプローチがあります。つま
り、科学的なアプローチ、そして、ごらんになっていただいているように、さまざまな論
文が出ております。
この中では、粒分、層に分かれまして、この中で非常に高分子の鉄、中分子の鉄などと
分けて考えられるわけです。左側が、粒質の大きさを示しております。
そして、今、私がお話をしているのは、水文研究所との協力のものでございますので、
水の分析、そのほかの分析を行っているわけですが、溶存鉄の検出方法としましては、下
に書いてあるように、溶存鉄を比色法で測ります。1.10フェナントをワットマンフィルタ
ーでろ過し、塩酸を足すことによりまして、粒子鉄層が溶存鉄として検出されることにな
- 18 -
ります。
それから、この鉄がどこから来ているかという話になります。特に、大型の河川におい
て、土壌の中から、地下水の中から、それから、実際の鉱石から出てきて、そこから川へ
流れていくことが考えられるわけです。
さらに、移動性が非常に高いということです。これは、湿地と針葉樹林の泥炭土壌また
は酸性の腐葉土によるもので、鉱物から鉄が浸出し、土と岩のコロイド粒子とともに移動
が起こることになります。まず、小さな川に流れて、それが大きな川に流れ込んでいくわ
けです。そして、有機鉄が、有機酸とのキレート鉄ですけれども、これがアムール川はん
らん原の湿地のアムール川支流で検出されています。申し上げたアムール氾濫原の湿地で
す。いわゆる湿草地で、浅い腐葉土ホライゾンが広がっています。
それから、湿原です。沼地も腐葉土ホライゾンの湿地でございます。その厚さは大体1
メートルないぐらいのものです。
そして、低結晶、高反応の鉄を含む泥炭(ピート)があります。それから、複合鉄で栄
養価が高くなった水が小さな流れになり、洪水時に泥炭の湿原に流入することになります。
このことは、2006年7月にも見られております。
しかし、アムール川の湿原への影響ですけれども、夏の時期に高い乾燥が起きます。ア
ムール平原の沼地で6月から10月ぐらいに乾燥が起きるわけです。これは、これまでのい
ろいろな調査によっても明らかになってきたわけなのですが、これが起きるのは、豪雪の
冬の後、それから、非常に寒くなった冬の後に突然の雪解けが起きたとき、その後、夏、
秋のモンスーンの雨によって、1メートル以上の泥炭層からオーバーフローするとき、こ
れがアムール川に流入することになるわけです。
そして、腐葉土で、酸で豊かになった泥炭水からの鉄は、たくさんあるわけではなくて、
この数字については、ここにも書いてあるわけですが、源流からの地下水をバイパスして
くるものの方が多くなっています。そして、春、夏は沼地のアムール川への流入する水の
貢献度は非常に少なくなってくるわけです。そして、中部アムール平原の湿原から鉄の流
入の平均は、ここでも書いてありますけれども、下流においては、全流入水の中の1%ぐ
らいのシェアになります。そして、中部アムール水域に行きます。
それから、極東南部でも地下水、井戸水に鉄が多く検出されています。これは、泥炭層
の下の地下水の鉄分というのは大体20㎎/dm 3 ~60㎎/dm 3 ですが、アムール平原中部で
は、鉄のもととなる泥炭の蓄積率が地下水の中で上がってきます。このように、泥炭の蓄
積によりまして、地下水に鉄が蓄積されることになるわけです。
次に、私どもは、低水層から川の底を通って浸出する水についても考えてみました。
これは、非常に少ないということで、ダムですが、ハバロフスクの郊外にありますアム
ールの支流にあるものです。鉄を含む浸出水の水位が非常に下がった状態を示しておりま
す。
そして、アムール川流域の最大の貯水池でありますゼア貯水池への影響です。1978年か
- 19 -
ら1994年ぐらいの間におきましては、ゼア貯水池では鉄の溶存率がだんだん低下し、安定
していることが確認されています。
さらに、1988年には、この濃度がまた上下しております。そうなると、1990年に鉄分の
流出があったということはどういう説明ができるかということになりますが、一つは気候
の変動があります。
これは、湿原の状況の推移でございます。各気象局からの情報をまとめたものでござい
ます。そして、このデータをすべて合わせたものがここに書かれているわけですが、1989
年~1990年に温度の急な上昇が見られまして、平均では1.5℃ぐらいの上昇が見られたとい
うことがございます。しかし、その一方で、降水量を見てみますと、ごらんのような状況
でございます。1990年代の前半、それから1995年以降に大きな変化が起こっています。そ
れから、同じような現象がバイカル地方でもあります。ここでは、バイカル湖の流域とア
ムール上流での降水の比較が示されておりまして、降水量が大きくなっている状況が見ら
れています。
さらに、中国側、領土側でも降水量が大幅にふえておりまして、1990年は20%~40%の
拡大が見られています。
次にごらんになっていただいているのは、土壌の温度の推移でございます。表面から3.2
mぐらいのところですが、バイカル地域から沿海地域をカバーしている地域ですけれども、
温度の推移で幾つかの正常ではない動きがあります。その後、一時は高くなりまして、1990
年に入りますと、中盤でそれが下がり、また上がっております。
さらに、このような高い気温と降水量がふえたことによりまして、凍土が解け出してい
るということが起こっております。そして、凍土の南限が北へ上昇しています。また、凍
土の厚さが減っております。ごらんになっていただいているのは永久凍土の国内での分布
図でございます。それから、中国側での凍土の状況ですが、ここでも大きな変化が起きて
いるのをごらんになっていただけると思います。
そして、この二つのデータは合せたものでございます。凍土が解けて、鉄が溶けて、地
下水に鉄の成分自体が多くなってくるわけです。
地下水は、川の水に流れ込むまでに幾つかおくれがございます。こういう形で鉄が川に
流れ込むことになるわけです。これが、アムール川北部の河川の平均の鉄の溶存量が見ら
れております。
それから、この中で、河川で鉄が検出される前に、上流ではもっと早い時期にこれが見
られていると言えるわけです。凍土が解けたために鉄が流出し、北の川の溶存度のピーク
はアムールやゼア川などの南の川から1年ぐらいおくれます。これにより、鉄の異常の原
因は凍土である能性が高いと言えます。
さらに、ごらんになっていただいているものは、凍土の状態の悪化が見られているもの
ですが、2000年から2010年のものでございます。つまり、この凍土の状況の悪化が見られ
ているエリアが丸で囲んでいる部分でございます。
- 20 -
ここが結論でございます。
結論は、聞いていただいておわかりになったと思いますので、以上でございます。
ありがとうございました。(拍手)
○長尾座長
どうもありがとうございました。
時間も過ぎているということもありますし、この辺の解析が実はこの後の講演の大西さ
んのところで行われますので、その講演も含めて考えていただいて質問等をしていただい
た方がいいと思います。シャーモフさんの講演は、これで終わりにしたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)
それでは、次の講演に移ります
次の講演は、
「河川結氷期におけるアムール川の汚染と生態学的危険性の諸要因」という
ことで、リュボフ・コンドラチェバさんに発表をお願いしたいと思います。
「河川結氷期におけるアムール川の汚染と生態学的危険性の諸要因」
リュボフ・コンドラチェバ(ロシア科学アカデミー極東支部・水生態学研究所)
○コンドラチェバ
深く尊敬する皆様と再びお会いできることをうれしく思います。
アムール川の汚染の全般像についてお話をしたいと思います。そして、特に、最近得ら
れたデータをご紹介したいと思います。
シベリアと極東における川でありますけれども、凍結期が年に5カ月から6カ月あるわ
けであります。したがいまして、冬場のこれらの川の状態の評価はとても大きな意味を持
っていると思います。
さて、まず前置きでありますけれども、環境上のリスクが現在存在しているということ
からお話をしたいと思います。この水のエコシステムでありますが、ある種のエコロジー
上のリスクがあるということが具体的な指標からはっきりしております。そして、川に何
かが起きるというのは、1年後、10年後、20年後に何か起きるかもしれない。そういった
ものを潜在的なエコロジー上のリスクというふうに名づけたいと思います。
そこで、私たちの研究所では、潜在的な、つまり、将来の長期にわたるエコリスクを研
究しているわけであります。つまり、原因は1カ所で起きて、それが実際にエコ上のリス
クとなるのは全く別の箇所、遠く離れた場所ということが大いにあるわけであります。
そこで、アムール川に入り込んでくる有害物質、有毒物質がアムール川からずっと下流
にまで流れ、そして、オホーツク海、日本海に至る可能性があるわけであります。
さて、環境上の問題でありますけれども、アムール川流域の最近のエコ上の問題であり
ます。まず、フェノールで汚染されたということが話題となりました。また、大量のケミ
カルな物質によって魚が汚染されているということが話題になりました。そして、私のこ
れまでの報告の中には、中国の工場で事故が起きたことによって、松花江に有毒物質が流
れ込み、それがアムール川にまで流れ込んできたということをお話ししました。
そして、川の汚染でありますけれども、分解しづらい有機物質によって、長年にわたっ
- 21 -
て慢性的に汚染されているということがあります。これがどういう影響を起こすかという
ことは、今後、明らかになりますが、多角的に調査をし、研究しなければいけないと思い
ます。
さて、さまざまなコンポーネント、物質によって魚が汚染されている現状にあります。
赤いところで強調しているのが、アムール川での水銀汚染です。このことについては、後
ほど詳しく述べます。
さて、こちらのデータですけれども、ケミカル物質によって年間を通しての汚染という
ことであります。赤く書いてあるのが、アムール川に定期的、恒常的に指摘されている汚
染物質です。まず、分解しづらい炭化水素があって、そのことについても後ほどお話しし
ます。
こちらは、2005年、2006年の冬場にアムール川に有毒物質が流れ込みました。これは、
中国の工場で事故が起きたからであります。ニトロベンセン以外にも他の有毒物質が流れ
込みました。そして、この汚染が冬場に起きたということによりまして、水、川底の堆積
物、魚、これをすべて調査いたしました。すべてのコンポーネントに含有されていたのは
炭化水素であります。ベンゼン、トルエン、キセノンといったものが検出されました。こ
れは川底の堆積物にも含まれていたわけです。ただ、堆積物に関しましては、重金属もあ
ったということを指摘したいと思います。川の水、そして、川底の堆積物から検出された
ものは、すべて魚からも検出されました。
さて、冬についてお話をすると申し上げました。
私たちの検査、調査を行ったのは、氷が汚染されていたからであります。こちらの表は
氷の汚染でありますが、これは、分解しづらい芳香性の炭化水素によって汚染されました。
これは、石油精製工場から出た汚染物であります。そして、最大に含有されていたのが松
花江です。ジャムス市の付近であります。そして、トンジャン市の下流地域であります。
その後、これがアムール川に流れ込みました。
いずれにしましても、この二つの物質の含有量が一番高かったのが松花江(スンガリ川)
であります。
さて、氷の汚染を調査した結果、私たちが出した結論でありますが、最も汚染度がひど
かったのが工場で起きた事故の期間でありました。前のスライドで松花江(スンガリ川)
では、ナフタリンなどの分解しづらい有機物が含まれていたということをお話ししました。
そして、氷に関しましては348ng/Lが含有されていました。水に関しましては56ng/Lであり
ました。つまり、結論として、氷は水に比べて濃度が高くなるということです。水の中に
含まれていたのはベンゾ(a)ピレンでありました。そして、氷のベンゾ(a)ピレンであ
りますけれども、8倍の濃度でありました。また、クレゾールは、氷は水に比べて4倍の
濃度でありました。つまり、氷というものは有毒物質を集約する、その高い濃度を吸収し
てしまうということであります。
さて、アムール川に流れ込む水でありますが、夏に関しましては、アムール川から流れ
- 22 -
出る水は、4分の3がオホーツク海に流れ込みます。冬場になりますと、アムール川から
の水の4分の3が日本海に流れ込むわけです。そこで、夏に何がどれだけアムールから流
れ出るのか、何が冬場に流れ出るのかということが重要です。
さて、アムール潟であります。2008年の4月に調査をいたしました。幾つかのポイント
で調査をしました。得られたデータですが、物質としてはアムール川から検出されるもの
と同じであります。つまり、冬場もアムール潟で、オホーツク海に向かって流れ出るとい
うことであります。そして、物質の数は次第にふえています。南に行けば行くほど、南は
76の物質、そして北に行きますと43の物質ということになります。
さて、冬場ですが、2011年の冬場、私たちはアムール川の本流を調査しました。そして、
二つの支流、アムールスカヤ、ペムゼンスカヤも調査しました。そして、アムールスカヤ
の環境でありますけれども、ウスリー川の延長であります。川の本流の右岸は、スンガリ
川から、つまり、松花江からの水が流れます。したがいまして、汚染物質の源は二つある
わけです。中ロの国境に接しているところの2カ所が発生源となり得るわけです。
さて、揮発性の物質もガスクロマトグラフィーで調査をいたしました。重金属も検査し
ました。これは、氷の上の部分と下の部分の両方を検査したわけです。なぜそのようにし
たかといいますと、私たちの仮説では、氷の上の部分のケミカル部分は秋に構成されると
いうことです。氷の下の部分ですが、これは春に生成されるものです。つまり、春になっ
て、氷がもろくなって解け始めるときということです。これは、極めて重要なところであ
りまして、さまざまなエコ上の問題が発生する時期であります。これは、ペムゼンスカヤ
という流れであり、アムール川の本流であります。そして、アムール川に流れ込む部分で
あります。ここで氷を調査しました。左岸と右岸を調査しました。ここは、ハバロフスク
沿岸部ということですから、右岸を調査したわけであります。
さて、注目していただきたいのは、このような揮発性の物質の調査を行った際、氷の上
の部分と下の部分で濃度が違ったわけです。下の部分が上の部分より濃度が大きかったと
いうことがよくありました。そして、アムール川から分岐した部分に関しましては、濃度
がより薄いということになりました。ということは、有毒物質をたくさん含んだ氷はアム
ール川の本流で形成されるということです。
では、ナフタリンでありますが、これはアムール川でも検出されます。アムール潟から
も検出されます。23℃のとき、そして2℃のときのモデリングでありまして、シミュレー
ションの冬と夏ということになります。赤で書いてあるところは、スンガリ川の河口より
下流域でありますけれども、ナフタリンの派生物が検出されます。これは、アムール川か
らも検出されます。ということは、仮説ですが、冬場において、水にも、そして氷にも揮
発性の危ない物質が含まれ得るということであります。
そして、強調したいことがあるのですが、メチル化された派生物であります。メチルベ
ンソール、ベンゼンですが、これは、冬場でも酸素が少ないときに形成されやすく、濃度
が高まるということであります。
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さて、重金属のイオンが水の中を移動します。これは、酸素の有無に左右されます。そ
こで、私たちが調査したのは、メチル化された派生物がアムールの本流に存在するのか、
そして、二つの支流に存在するのかということです。濃度が高いのは、氷の下の部分であ
ったわけです。つまり、氷の下の部分は、特に春にメチル化された塩素を含んだ物質の濃
度が高かったわけです。
並行して次の調査も行いました。
では、重金属の行動はどうでありましょうか。水銀、カドミウム、鉛であります。そし
て、これは本流と支流であります。量を見ていただきたいと思います。例えば、アムール
川でありますが、こういった三つの金属の含有率は通常の10倍になるということです。本
流の方が支流に比べて濃度が10倍多いわけです。
また、内容でありますが、氷の上の部分と下の部分では違うということです。水銀に関
しては、氷の下の部分で特に含有量が高かった、つまり、春場の形成が多かったわけです。
揮発性のメチル化された派生物が春になって氷の下の部分にあらわれました。
こちらの図でありますが、水銀の含有量です。アムールのさまざまな地点での含有量で
あります。赤い矢印ですけれども、アムールの支流に関しては、量はかなり少ないわけで
す。本流に沿いますと、ここに主に水銀が流れ込んできます。そして、ペムゼンスカヤ支
流に関しては、濃度が極めて低いわけであります。
そこで、水銀が主にいつ流れ込んでくるのかということでありますが、凍結期の終わり、
つまり春場の濃度が一番高いという結論が出るわけです。
では、メチル化された塩化ベンソールと重金属の間に相関関係はあるのかという比較を
しまして、おもしろい結果が出ました。氷の下の部分でありますが、ここは、メチル化さ
れた派生物と水銀の間の関係が極めて強いということです。つまり、水銀は春場になって
機動力が高まるということです。アムール支流になりますと、塩化メチレンと水銀の間の
関係はありませんでした。ペムゼンスカヤに関しますと、この水銀と塩化メチレンの間の
関係はありました。では、水銀とカドミウムの間の関係でありますけれども、関係はある
種のものはありましたけれども、氷の下部に関しては、ウスリー川、つまり松花江の影響
が強かったということです。
こういった調査を行って、まとめたいと思います。
極めて重要なのは、有機物です。これは自然の発生と人為的な発生がありますけれども、
水だけではなくて、氷の中の含有量、濃度も調査することが重要だということです。
また、氷に関しましては、氷の上層部、真ん中の部分、下の部分すべて調査することが
必要であります。
また、季節によって水の質が変わり、特に春になると水の質が変わるということが着目
点です。流氷期、つまり、アムール川からアムール潟、そして、その後の海にどんどん物
質が流れ込むということは、冬場にアムール川の本流に蓄積されていた有毒物質が春にな
ると海に流れ込むということです。
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したがいまして、沿岸部分の海のバイオリソースに与える影響が大きいということであ
ります。私たちは、一部は夏も研究は行っています。
以上が報告であります。
質疑、応答の時間がありますので、ご質問があればお答えしたいと思います。(拍手)
○長尾座長
コンドラチェバさん、ありがとうございます。
それでは、ただいまの発表に関しまして、質問、あるいはコメント等がありましたらお
願いします。
では、松田さん。
○松田
横浜国大の松田と申します。
きょうは、大変興味深いお話をありがとうございました。
二つあります。
一つは、氷の下部の方が濃度が高いという理由がわかったら教えてほしいと思います。
もう一つは、多分、氷の濃度が高いと、途中、川に流されていって薄くならないと思い
ます。薄くならないということは、将来、生態系にどんな悪影響があると考えられるかを
教えてください。
○コンドラチェバ
氷の下の部分でなぜ濃度が高いかという理由でありますけれども、こ
れは、二つの水の水文学的なリチウムに問題があると思います。
まず、氷が最初に解け始めるのは松花江から始まります。アムール川で氷が解け始める
のは少し遅いわけです。つまり、春になって、松花江で氷が解け始めますと、アムール川
にトランジットという形で流れ込んでくるわけであります。これが一つの説明です。
もう一つの点を説明したいと思います。冬場でありますけれども、冬場は水位が極めて
低いわけです。したがいまして、複雑なプロセスは川底の堆積物の中に起きているという
ことです。揮発物や重金属といったものが水の小さな層の中で起きております。つまり、
氷と接触する部分だけの水の中で起きているわけです。そして、揮発物がディフュージョ
ンを行っています。そして、メチル化したものは、氷の下の層に接した部分で起きるわけ
です。
さて、予測でありますけれども、正しいご指摘であります。水の大部分は流れています。
しかし、氷に関しては、氷に集約されています。そして、ローカルな部分に存在している
わけです。そして、アムールの潟に持ち出されます。アムール潟に出てくるのは濃い濃度
のものが流れ込むことになります。説明になっていますでしょうか。
○長尾座長
○会場
よろしいでしょうか。はい、どうぞ。
2005年の事故の後、私が知っている限り、中国とロシアの合同の観測が制限され
たということです。中国側はベンゼンに課題を集約したいと考えていました。ロシア側は、
もっと広く物事を見たいと考えていたと思います。
そこで、質問です。
皆様が行っていらっしゃる研究の中で、中国の専門家たちとの共同での調査を行いまし
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たでしょうか。あるいは、データを交換した、あるいは合同調査が行われましたでしょう
か。
そして、今後、そういった共同調査は必要だと思いませんか。
○コンドラチェバ
協力は絶対に必要だと思います。そして、例えば、こういった場で一
堂に会しているということ、そして、数年にわたって既に協力をし、話し合いを行ってい
るのですが、これは既に動きが起きているということでありまして、アムール川の水質改
善につながると期待しております。
国によって認められたプログラムが存在し、国がモニタリングを行っております。これ
は一つです。そして、並行して、もう一つのプログラムがありますけれども、これは中ロ
の合同モニタリングの結果を示した質問も中にあります。
また、データによっては、天然資源・環境省のハバロフスク支部が自分たち独自に行っ
ている調査で集めているデータがあります。そして、こういったデータ処理は、現代的な
プログラム、テクノロジーを駆使して行われなければいけないわけで、必ずしも迅速にで
きるわけではありません。そして、学術調査も必要であり、なおかつ行われております。
そこで、実り多い国家間同士の、国の機関同士の協力が必要です。そして、中ロの国際協
力が必要でありまして、そしてまた、研究者同士の研究を今後も行っていき、それを統合
することが必要であると思います。
例えば、報告に関しましても、国のオフィシャルな機関が発表するものが一つです。そ
して、5年間にわたって中ロの研究者が共同で行った結果の報告は、より一層興味深いも
のであります。データベースをつくるべきでありまして、それは、こういった情報を一つ
一つ集めて足していくことが必要です。
さて、モニタリングプログラムの改善、改良でありますが、次のようにお答えしたいと
思います。
指標の数があります。中ロの合同モニタリングの結果から得られるデータの数はふえて
おります。2007年でありますが、約10の新しい指標が研究対象となり、データとして張り
ました。これは、極めて毒性の高い、そして、極めて分解しづらい物質という指標であり
ます。そして、こういったものは、学術的なサイエンスの側面からの調査にも含まれてお
ります。
2005年の事故以降でありますが、私たちの研究所、つまりロシア科学アカデミー極東支
部の水環境問題研究所に関しましては、まさに2005年の中国の事故以降に、水、魚、堆積
物、すべてを調査するようになりました。
以上でよろしいでしょうか。
○長尾座長
このようなことは、多分、きょうのワークショップ、白岩さんの方でつくっ
ていただいた環境データの共有化に向けてというところと非常に密接に関係してくるよう
なところも出てくると思います。この辺の話は、一番最後の討論につなげていければいい
のではないかと思います。
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どうもありがとうございました。(拍手)
それでは、次の講演に移りたいと思います。
次の講演は、
「三江平原の自然・耕作湿地における水と栄養塩の生態学的共通管理」とい
うことで、陳欣と黄斌さんのご発表です。
黄さん、では、発表をよろしくお願いします。
「三江平原の自然・耕作湿地における水と栄養塩の生態学的共通管理」
陳
欣・黄
○黄
斌(中国科学院・瀋陽応用生態学研究所)
皆さん、おはようございます。
本日、主催者の皆さん方の招待を受けてお話しできることをうれしく思います。
私たちのテーマは、三江平原の自然の湿地、人工湿地の水分と養分のバランスについて
です。三つの内容が含まれます。自然湿地の回顧、三江平原の水稲栽培についての問題、
三江平原の湿地の保護、水稲栽培の持続性、それから、地下水の保護・利用、地表水の利
用ということについても分析をしていきたいと思います。
次にごらんいただくのは、人間の活動によって影響が出ているということです。過去50
年の農業の開墾によって湿地が大きな範囲で消失しております。農業のかんがい、開墾で
70%の湿地が既に失われております。湿地の過程の中でいろいろな悪影響も出てきており
ます。主に水文、気候、天然湿地の土壌の変化がそこに出てきております。地表水のせき
とめ、コースかえ、地下水の大量の使用、三江平原がより乾燥化してきております。この
三つの表から、自然の湿地の面積が大きく失われているということ、そして水稲の栽培は、
稲作によって、1990年代から始まっているのですけれども、その水稲の栽培は、地下水に
よって行われておりました。そうすることによって、この地下水が減っていくということ
になりました。そして、三江平原の乾燥化が進んでいってしまったわけです。乾燥してい
くことによって気候にも、温暖化を促進してしまいました。天然の湿地の消失によって、
もちろんこの保護も難しくなってきております。この湿地の科学、それから持続性、炭素
貯蔵についても影響を及ぼしてきております。
湿地の消失によって乾燥化が進んだと言いましたけれども、現在の地表水の流入、それ
から地下水の減少も不利な要素となっております。どういったことにあらわれているかと
言いますと、三江平原の自然の湿地のpH値が、有機酸に頼っています。pH値が上がっ
ています。それから、水中の酸化還元電位の上昇によって、この溶存炭素と溶存鉄が少な
くなってきております。そして、この環境に影響を与えてしまっております。天然の湿地
の消失によって、現在はブロック化しております。そして、湿地がどんどん退化している
わけです。ホンファ(黄河)という場所があるのですけれども、1984年からそういった湿
地ゾーンをつくったわけですけれども、湿地が森林や草地になっています。これは自然の
タイガですが、地表水が減っており、地下水も悪化しております。この三つの自然湿地の
土壌の状況、水分が減っているわけです。そして、炭素蓄積にも影響を与えているという
- 27 -
ことです。これが三江平原の自然の湿地の保護も非常にやりにくくなってきています。確
かに、この自然保護区を幾つかつくることができます。今年も重要な二つの保護区を作っ
ております。
それから、河川敷をつくり、湿地をつくっていくということですけれども、これだけで
は現在の天然の湿地を保護することにはまだならないわけです。地下水と地表水の両方が
非常に重要でありますから、この水稲の栽培とも密接不可分の関係にございます。
この表の中から、水稲の栽培は三つの時期に分けて考えることができます。1990年です。
最近の数年で水稲栽培の面積がふえているということですが、乾田、畑から水稲にすると
いう変化がございます。50%の農地が水田になっております。70%の水田は地下水によっ
てかんがいをしているということです。これは農場の地下水の変化の状況をあらわしてい
る図でありますが、水稲栽培がふえることによって、地下水も失われていくということで
す。三江平原の地下水の脆弱性、これは農業の中で地下水を大量に使うところから来てお
ります。
このセンサンコウという場所が黒竜江省とウスリー川の交わるところにあります。海抜
が低く、地下水の状況が最もいいはずの場所が楽観視できない状況になってきております。
この地域の80%の農地が水稲の水田になってしまっており、地下水を大量に使っていると
いうことで、地下水は元々よかった場所ですが、これが悪化してきてしまっているという
ことになっております。
三江平原はこの水稲の栽培によって、こういった地下水の水位が下がる、地表水もうま
く使われていません。現在の湿地をよりよく保護する、維持していくためには、この水稲
もきちんと維持していくということで、両者をきちんとバランスさせていく必要があると
思います。三江平原の水稲栽培を根本的に変えていかなければなりません。地下水主導型
から地表水を使うというモデルにチェンジしていかなければなりません。
それから、水稲の栽培の中で生態学的な汚染についても規制を加えていかなければなり
ません。現在は、三江平原の水稲栽培は地下水を頼っていると言いました。地表水はうま
く利用されていないということでしたけれども、現在の水利施設も排水とかんがいですか
ら、地表水をうまく使うというシステムに変えていかなければなりません。中小の流域に
ついては、この地表水をうまく使い、それから、大きな川もきちんと導入して使っていく
ということです。それに伴って、天然の湿地も整備をしていく必要が出てきます。
これは一つのいい例ですが、中国の東部に巣湖というところがあります。そこにピシフ
ァンというかんがい区があります。60年代からあるのですが、主な目的は、洪水を防ぐ、
そしてかんがいにも使うということですが、1億4千haの洪水の抑制と、67万haのかんが
いということで、かんがい区は住民にも環境にも大きな促進作用があったわけです。
三江流域において、この三江平原にも農業かんがいシステムがあるわけですが、三江平
原の部分です。これは57万ヘクタールあるわけです。四つの大きなかんがい区がありま
す。その目的は、この地域の水稲の80%の水源を与えるということが目的であります。
- 28 -
これが実施されれば、地下水の水位の回復にも大きなメリットがもたらされます。
三江平原の全体の地形を見ると、平たんな地形であります。かんがいの効率を高める、
そして、洪水災害の影響を食いとめるためには、この古い川や河川敷について修理をして
いかなければなりません。これは、三江地域にとっても非常にいい影響を及ぼすと思われ
ます。
この水稲栽培の中で生態学的な汚染が出てきております。飼料を施したり、農薬を使っ
たり、農業の廃棄物が汚染をもたらしております。
三江流域の水稲栽培は、150㎏N/haの窒素施肥量になっております。実際は100㎏N/haの
窒素で十分なわけです。この窒素飼料を使うことによって、三江平原が硝酸塩に汚染され
ているという状況が起きております。20㎎/Lを超えております。普通は5㎎/Lが世界的に
基準ですけれども、ここでは23㎎/Lになってしまっています。
農産物の茎の廃棄物、固形廃棄物が出てきている状況です。そして、これを燃やしたり
処理をするのもいいのですけれども、これを農地に直接戻すというやり方が環境に対して
は一番優しい方法になります。
農地の生産の中で外に排出するということがありますが、その中には窒素やリンといっ
た栄養分が含まれております。この農地の排水をうまく使えば、汚染を減らし、天然の湿
地の保護にもつながることになります。
これは、ミシシッピ川の事例であります。アメリカの中北部の地域の状況ですが、窒素
の含有量が非常に多いわけです。ミシシッピ川の三角州に富栄養化によりデッドゾーンと
いうものが出てきております。この場所は、栄養の不足によって湿地が退化をしてきてお
ります。ミシシッピ川の水を湿地に流入させることによって、このデッドゾーンの発生を
食いとめ、湿地の回復にもつながっていくものと思われます。これは、既に研究が行われ、
効果を上げています。
三江の流域に似たような場所もあります。川の水を湿地に導入して、この汚染を食いと
めることもできますし、湿地の保護もできるということです。ホンファという保護区です
けれども、200㎞ 2 です。この三江平原の降雨量は、起伏が激しいので、地表水の不足とい
うことがよく出てきていまして、退化をしております。現在の排水系統について改造をし
ていくと。そして、この排水だけではなく、かんがいの機能を高めるということ、そして、
この水を導き入れることによって湿地が回復し、健全な発展につながることになります。
この農地の生産の中で、農薬を使ったり、殺虫剤を使ったりします。ですから、水の質に
ついて、農薬の含有量ももちろん注目していく必要がありますが、ホンファの保護区の土
壌の利用ですが、この地域によって地表水の実験をする必要があります。これは小さな湿
地ですけれども、小さい規模のテストをするのに適した場所です。そして、地表水を導入
することで、生態学的な汚染を防ぎ、湿地の保護にも益するところがあるということです。
結論ですけれども、水稲の栽培は地下水を主に使っていますが、この状況を長期にわた
って持続していってはならないわけです。このままでは、天然湿地の持続性に大きな影響
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を与えてしまいます。現在の水利施設について、拡張工事や改善をする、地下水主導から
地表水主導に切りかえていくことが必要だと思います。そうすることで三江地域の地下水
を改善することによって、湿地の保護にもつながり、農業排水にも栄養分が含まれており
ますから、適宜、天然湿地にこれを利用することによって、湿地の持続可能な維持にもつ
ながっていくと思います。
私の報告は以上です。
○長尾座長
どうもありがとうございました。
三江平原の現状ということで、その湿地と稲作、農業のバランス、持続性のためにはそ
ういったバランスが必要だというお話を紹介していただきました。
それでは、ただいまのご講演に対しまして、質問、あるいはコメント等がありましたら
お願いします。
○竹田
先ほどと同じ水稲ばかりの質問ですが、地下水を使わなくて雨が降ったものをか
んがいにやると言いました。水稲はたくさん水が要るのだけれども、三江地域だけの雨で
足りるのか。今、中国の南の方が物すごい洪水でしょう。それで北の方に送るなんて言っ
ているでしょう。そういうものを三江地域にも送るのですか。今、そういう工事をやって
いるのですか。
○黄
ご質問、ありがとうございました。
三江平原の入ってくる川がありまして、黒竜江、松花江、ウスリー川などの水源がある
わけですけれども、三つの川が三江平原に入り、地表水は大体2千億m 3 という量が入っ
てきます。実質上、10%ぐらい使えば三江平原の水稲栽培に足ります。稲作には足ります。
地下水を使わない。この地下水は使い過ぎで、地表水が使われていないということに問題
があるわけです。地表水をどんどん使っていくというところにポイントがあるわけです。
○長尾座長
○会場
よろしいですか。
地表水を利用するというのは非常にいい考えだと思うのですが、やはり、川の水
を長い距離運ぶとなると、設備への投資がかなり大きくなると思うのですけれども、そう
いうところの見通しですね。例えば、政府からの援助であるとか、農業団体があって管理
をするとか、そういう見通しはあるのでしょうか。
○黄
先ほど三江流域はセンサンコウという地域と言いました。そこには国営の農場があ
ります。三江平原の農業のかんがいは国営農場が経営しているわけです。この地域に対し
て、水利設備の拡張や改善、改造は政府も、やっておりまして、これはいいモデルだと思
います。先ほど私が言いましたとおり、この水稲栽培の稲作のかんがい面積は、中国全体
の中では一番多いわけです。非常に重要な農業生産地であります。中央としても、省とし
ても、これを非常に重視しております。ですから、今後、それは進むと思います。
○長尾座長
では、私から一つだけ質問をさせてください。
今、湿地と稲作のバランスが必要だという話をされていました。それで、実際にどうい
った管理系統とか方式を行えばいいかということを考えると、何か基準を策定するという
- 30 -
ことも必要ではないかと思うのですが、その辺は、今、どういった方向で検討されている
のでしょうか。
○黄
ありがとうございます。三江平原の自然湿地の保護は、中国の政府も非常に重要視
しております。しかし、先ほども言いましたとおり、地下水の水位が下がることによって
湿地に対して悪影響を及ぼします。ですから、地下水の保護という角度から見て、稲作の
方法も考えていかなければならないわけです。
現在の三江平原の状況は、古い川や河川敷があるのですけれども、これを改造しまして
天然湿地に変えることができます。政府や自治体や農場がこれを実践していかなければな
らない。天然の湿原を増加させるということは、かんがいや洪水の影響を食いとめるため
にも非常に利益があるわけです。
○長尾座長
どうもありがとうございました。
それでは、ここで黄さんの発表を終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)
それでは次に、午前中最後の講演になりますが、
「アムール川流域における溶存鉄の生成
と輸送のメカニズム-プロジェクトでどこまでわかったのか?」ということで、大西さん
に発表をお願いします。
「アムール川流域における溶存鉄の生成と輸送のメカニズム-プロジェクトでどこまで
わかったのか?」大西
○大西
健夫(岐阜大学応用生物科学部)
ただいまご紹介いただきました大西と申します。
きょうのご報告は、2005年~2009年の5年間に総合地球環境学研究所で行われたアムー
ル・オホーツクプロジェクトの一環として、陸域の溶存鉄がどのように生成されて、どの
ように輸送されているのか。そして、それに対する人間活動のインパクトはどういうもの
があるのかということを評価した研究です。その成果と、それが終わってからいろいろ見
えてきた課題を含めてご報告させていただきたいと思います。
最初に、これは、日本のみならず、中国、ロシアの3国との間の共同研究であるという
ことを再度申し上げておきます。コラボレーターと書きましたが、多くの方々の3国をま
たいだ共同研究によって初めて成立した研究です。
私は、このメンバーの中でかなり若い方なので、このような場で皆さんの成果をまとめ
て発表させていただくということはちょっと不遜かと思いつつ、白岩さんからそのような
依頼を受けましたので、私が皆さんを代表して発表させていただきます。間違っていたと
ころがありましたら、またつけ加えていただければと思います。
きょうの発表のアウトラインはこのようになっています。六つほど課題があるのですけ
れども、1から5がプロジェクトでわかったこと、そして、最後の6にまだわかっていな
いこと、あるいは解決していないことをまとめます。
1番目は、アムール川での溶存鉄の主要な起源です。2番目は、アムール川での溶存鉄
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の負荷量、総量としてどのぐらいあるのかということです。3番目は、アムール川の一番
河口の部分でどのような挙動を見せるのか。4番目は、森林火災、そして土地利用の変化
ということで、特に農地化が溶存鉄の生成にどのようなインパクトを及ぼすのか。そして、
その及ぼし得る影響を5番目でモデルを使って評価しました。6番目は先ほど申し上げた
ことです。
早速、1番目から行きたいと思います。
まず、アムール川流域の土地利用の構成を確認しておきたいと思います。
森林が60%ほどを占めています。それから、自然の植生としては森林と湿地です。湿地
が7%です。それから、草地が10%です。残りの30%のうち20%ぐらいが農地になってお
ります。この数値をとりあえず頭に入れていただいて、まず、自然の植生、森林と湿地を
主として、それからどれほどの溶存鉄が生成されているのかということを見ていきます。
これは、中国の小興安嶺山脈の森林流域で、上流から下流に向かって溶存鉄の濃度をま
とめたものです。これが一番上流部分で、下流に行くほど溶存鉄の濃度が高くなっている
ことがわかります。平均的には0.5㎎/Lということです。
次に、これは中国とロシアの森林及び湿地の溶存鉄の濃度を比較したものです。一番上
が中国の森林流域です。それから、下の二つが中国とロシアの湿地流域の渓流の溶存鉄の
濃度です。もうちょっと後の方で言いますが、これは森林火災の影響を受けた森林からの
溶存鉄の濃度です。これを見ていただくと一目瞭然で、湿地の濃度、渓流の濃度が高いこ
とがわかります。平均的には1㎎/L以上あって、高いときには2.3㎎/Lぐらいということが
わかります。
さらに、今度は別の流域ですが、ロシアの中流域より下流にガッシ湖という湖を末端に
もつアムール川の支流域があります。その流域で、下流部分が湿地になっていて、上流部
分が森林なのですが、それぞれの森林と湿地の土壌中の水の溶存鉄濃度を比べたものです。
これから見て、左側の三つが湿地の土壌の溶存鉄濃度です。それから、右側の三つが森
林の溶存鉄濃度です。これは、湿地の土壌中の溶存鉄濃度が高いということです。こうい
った三つの事柄をいろいろ考えていくと、まず、湿地が非常に重要な溶存鉄の供給源であ
ることがわかります。
それから、これは溶存態有機物DOCの濃度と、横軸にDOC、縦軸に溶存鉄の濃度を
とったものです。こちら側は、先ほどのガッシ湖流域のデータで、こちら側はアムール川
本流のデータです。これを見ていただくと、本流になると若干関係が弱まりますが、DO
Cと溶存鉄は非常に密接な関係にあることがわかります。
このセッションの中でも幾つか話題が出てきましたが、湿地は未分解の有機物の供給源
でもありまして、そういった湿地あるいは森林からも供給されますけれども、そういった
有機物と錯体を形成することによって溶存態の鉄が形成されていることがわかってきまし
た。
二つ目ですけれども、アムール川流域の流域はどのぐらいの溶存鉄の負荷量があるのか
- 32 -
ということです。これは、まず本流に沿って三つの異なる地点で上流から中流にかけて見
てみたもので、チェルニャエボというのが一番上流です。そして、ここはブラゴヴェスチ
ェンスクで、ここはハバロフスクです。それを比べて見ていただくと、まず、ブラゴヴェ
スチェンスクからハバロフスクに行って、ハバロフスクで明確に溶存鉄の濃度が上がると
いうことがわかります。特に、この土地利用を見ていただくと、この水色のところが湿地
なのですが、特に、ハバロフスクの周辺部分から下流域に向かって湿地が多くなっていて、
この湿地からの供給が大きく寄与しているだろうということです。
それから、ハバロフスクより上流でも溶存鉄は存在しまして、これは、恐らく湿地と同
時に森林からもあわせて供給されているのではないかということを意味します。
さらに下って、ハバロフスクから、ステーションの1になりますけれども、それより上
流の21あるいは14のあたりがこの濃度になって、ここで急激に上がって、そこから下
流に向けてステーションごとに溶存鉄の濃度を示しています。本流沿いの溶存鉄濃度で、
これを見ていきますと、ステーション3、5、7ぐらいで高くなっていて、その周辺を見
ていくと、やはり湿地が卓越していることがわかります。
これは、季節的な溶存鉄の濃度の変動を示していまして、ピークが二つあります。一つ
は9月ぐらいです。これは、夏場の雨によって供給されるものです。もう一つは、実は冬
場にありまして、3月ぐらいにピークがあって、2006年から8年のデータですが、より長
期のデータを見てみてもそういう傾向があることがわかります。
この冬場の溶存鉄濃度が上がることの原因はまだはっきりわかっていなくて、その辺は、
まだプロジェクトの中で追求されていないところです。これは、先ほどのコンドラチェバ
さんからの報告ともかかわると思いますけれども、その辺がこれからのおもしろい検討課
題かなと私自身は思っています。
これが、溶存鉄が生成されるプロセスを模式化してあらわしたものです。この川があり
まして、川の水位が上がってきます。上がってくると、周囲の河岸域に還元的な状態が形
成されて、そこから溶存鉄が供給されます。こういうところには湿地が多いです。あるい
は、森林でも下流域では比較的水分の多いところがあります。さらに水位が上がってくる
と、河岸域のこういうところを超えて、周りの氾濫原にもさらに水が行って、そこからも
供給されて出てくるというプロセスが、少なくとも夏場にはこういうプロセスが働いてい
ることがわかってきました。
3番目ですが、このようにして生成され輸送された溶存鉄が河口域でどうなるのかとい
うことを示したのがこの図です。
ここは、ちょうど河口域になりまして、河口域からアムールリマンに沿って、ここに示
した測線に沿って、表層と底部から採水をして鉄の濃度をはかったものです。ここでは、
溶存鉄と酸可溶性鉄とをあわせて測ったもので、真ん中が濁度で、一番下が塩濃度です。
当然、海洋に近くなるほど塩濃度が高くなって、それに反比例するような形で溶存鉄濃度
が低くなっていくことがわかります。同時に、濁度も減っていくわけです。そうすると、
- 33 -
一般に河口域で生じている塩との凝集反応作用によって、大部分が、河床部に溶存してい
るものが除去されるプロセスの中で鉄もそういうことが起こっているということです。こ
れは、アムール川だけではなくて、いろいろな流域でそういうことが起こっているという
ことが鉄についても言われています。それが確認されたということだと思います。
もう一度、それを模式的にあらわすと凝集反応が起こって、およそ90%程度は除去され
ることがアムール川の流域ではわかりました。90%は除去されるのですけれども、それで
も結構な濃度の溶存鉄が残りまして、年間のフラックスとして、およその見積もりであり
ますけれども、計算してみますと、1.1±0.7×10 7 g/yrくらいの鉄が、毎年、海に向かっ
て供給されているというふうに推定されました。
それでは、このようなメカニズムで輸送され、そして海まで運ばれますけれども、それ
に対して、特に森林火災、農地への転換がどういった影響を及ぼすのかというものを調べ
てみたのが4番目で、それをそのデータに基づいてモデルを使ったのが5番目です。
これは、もう一度思い出していただくと、農地が全体の20%ぐらいを占めていて、農地
のうちほとんどが畑です。最近は水田がふえてきていますので、水田と畑と湿地を比べて
みます。これは、それぞれの異なる土地利用の土壌中の溶存鉄の濃度の季節的な変化をあ
らわしています。横軸が1シーズンをあらわしています。5月ぐらいから始まって11月で
す。縦軸は溶存鉄濃度で、ここは10㎝の深さ、こちらは50㎝の深さの土壌です。
見ていただくと、まず、畑はほとんどありません。次に、水田の場合は、湿地ほどでは
ありませんけれども、夏場に向かって溶存鉄の濃度がふえて、その後、減ります。ここは、
落水しますので、そこでゼロになる傾向があることがわかりました。10㎝、50㎝ともに同
じような傾向を示しております。
さらに、今度は、土壌中で鉄の存在形態はもうちょっと細かく区分することができまし
て、この茶色っぽいものと赤っぽいもので示したのが割と溶けやすい形の鉄で、特に、茶
色っぽいところが、アモルファスと言いまして、結晶化していないような鉄です。縦軸は、
ここの割合が多いことを示しています。横軸は、逆にこの割合が少ないというか、こっち
が全体に対してこの割合が低いのです。要は、こちら側は、値が大きいと溶けにくく、値
が大きいと溶けやすいということです。湿地がこのピンク色のところで、次いで水田があ
って、アップランドというのは畑です。畑があって、フォレストがあります。このような
明瞭な関係が見られることがわかりました。
同じ基準に基づいて、今度は深さ方向にとってみると、一つおもしろいことがあります。
それは、水田において表層部分で動きやすいものが実は多いのです。動きやすい鉄が多い
ということがわかりました。これは、先ほど出てきましたね。恐らく、灌漑用に地下水を
くみ上げて、表層に持ち上げられた鉄というものが影響しているのではないかと現在のと
ころは推察しています。
次は、森林火災の影響ですけれども、一番最初にお見せした図と同じものですが、2番
目の森林火災が起こった流域での溶存鉄の渓流の濃度です。これを見ていただくと、サン
- 34 -
プルが多少少ないのですが、ほかの森林流域に比べると若干低下することがわかります。
二つ目の課題は、この森林火災が起こることによって、果たして溶存鉄濃度の生成能力が
落ちるのかということについては、メカニズムと基礎的なデータを含めて、両方ともまだ
不十分であるということがあると思います。
それでは、こうやって土地利用が変化してきて、実際に鉄の濃度が減っているかどうか
が確認されているかということで、非常に長期のデータを得ることは難しいのですけれど
も、一つ、先ほどから出てきています三江平原の一番大きな支流であるナオリ川の流域に
おける鉄の長期にわたる変動を示したのがこの図です。これを見ていただくと、減少して
いることが明瞭に出てきております。
それでは、このように土地利用が変化した場合に、果たしてどれほど全体として負荷量
が減るのかということを評価してみたのがこれです。これは、1930年代の土地利用で、黄
色のところは農地です。見ていただくと、ちょっと色は悪いのですが、農地がふえていま
す。これは、定量的にあらわしたもので、グラスランドとウエットランドが、1930年がオ
レンジ色ですけれども、青い方向に向かって減って、それに対してドライランド(畑)、あ
るいはパディフィールド(水田)がふえていることがわかります。ですから、実は、土地
利用がかなり変化しています。農地化しているということ。
それから、先ほどから出てきています森林火災の影響ですが、それも評価してみました。
これは非常に極端な例ですが、左側は、湿地が畑地になった場合、50%になった場合と100%
になった場合で、右側が10%森林火災、これが30%森林火災です。合わせて1930年代の土
地利用も評価してみました。
これは、私が構築した水文モデルです。このモデルに、溶存鉄の生成のプロセスを組み
込んで、水文のモデルを使って、全体を1,036ぐらいの区域に分けて、さらに細かくブロッ
ク分けして、それぞれのブロックでどれだけの溶存鉄が生成されているのかということを
計算しています。土地利用を変化させて計算させてみるということをやっています。
これが結果です。
結果として、2000年のときの量を1として正規化してありますが、まず、1930年代には
2000年に比べて、計算の結果でいくと20%ほど高かったであろうということが示唆されて
います。
これが、湿地減少の効果です。こちらが森林火災の影響の効果です。見ていただくと、
一番下流部の評価値ですけれども、湿地の減少は非常に大きく影響するであろうというこ
とがわかります。恐らく30%、40%ぐらいは減るかもしれません。各支流で細かく検討し
ていきますと、湿地がある流域で特に減少傾向が大きいことがわかります。それから、30
年代と比べてみますと、かつて湿地が多かったところでの減少が多いことがわかりました。
改めまして、もう一回、メカニズムを含めてまとめてみますと、特に自然要因について
は既にご説明しましたので、人間要因の方ですが、まず、森林火災によって影響が起こる
かもしれませんが、まだわかっていません。また、農地の変化については、実際に検証さ
- 35 -
れるデータも出てきていますし、モデルを使ってみると、湿地の影響は非常に大きいとい
うことです。もう一つは、かんがい水ですね。かんがい水として地下水をくみ上げていく
ことの効果も無視できないということがわかりました。
最後に、まだ解決していないものを若干ご紹介します。
これは、アムール川本流のハバロフスクにおける溶存鉄濃度の時系列の変動ですが、1995
年ぐらいまではこのように変動してきて、黒い線が実測値です。赤い線が計算した値です
が、シャーモフさんの報告にありましたように、1990年代の後半に非常に大きなピークが
ありまして、実は、私がつくったモデルでは、このピークを評価することができないので
す。では、このときに何が起こったのかということを、モデル上ではありますが、幾つか
考えられるシナリオを考えて評価してみようということで行ったのがこの結果です。二つ
の影響が考えられまして、一つは、洪水によって氾濫した。もう一つは、地下水のかんが
いによってくみ上げられた鉄がまた流出してきた可能性です。それぞれ、メカニズムにつ
いて詳細をご説明する時間がありませんが、地下水による灌漑がなかった場合はこちらで、
青いラインは灌漑を考慮した場合です。これは、同じような傾向で上がってくれることが
わかりました。さらに、フラッディングを考慮するとちょっと上がることがわかりました
が、ここにはまだ大きな差がありまして、十分には表現できていないということが現在の
状況です。
もう一つ、森林火災の影響ということを何度か申し上げてきましたが、森林火災と関係
しまして、実は、春先に湿地において湿地の火災、ピートファイヤーのようなものが生じ
ています。4月、5月あたりに湿地に起こっていて、局所的ではなくて、これは衛生画像
を使って見たものですが、かなり広域にわたって湿地の火災が起こっていて、その火災の
影響はかなりのインパクトがあるのではないかというのが現在の時点での我々の残された
課題になります。
以上で終わります。(拍手)
○長尾座長
どうもありがとうございました。
それでは、ただいまのご発表に対して、質問、あるいはコメント等がありましたらお願
いします。
○竹田
いつも質問させてくれて、どうもありがとうございます。
先ほどは、何年か前の、ロシアの研究者の人も、アムール川では鉄が多くなって、それ
を汚染物質と言っていましたけれども、一番最初の人も、鉄とかマンガンとかいろいろ含
んでいるものを汚染物質と言っています。オホーツク海といったら、世界の三大漁場の一
つで、漁業資源は物すごく豊富なのですが、アムール川から来ている豊富な栄養分によっ
てなっているのはわかっています。ただ、鉄だとかマンガンだとか汚染物質はどうなのか。
それと、開発がそんなに進んでいなかった100年前からどのぐらいアムール川にその
物質が含んでいたのか、永久凍土が解けてきてその辺も影響してきているのか。冬場の方
は鉄が多いと言ったでしょう。だから、夏場は有機物がいつぐらいから多くなるのか、森
- 36 -
林火災とか、本当に環オホーツク地域の環境データで徹底的に調べてやって、本当に環境
をよくしていただかなければいけないと思うのです。
○大西
おっしゃるとおりだと思います。鉄に関しては、鉄は栄養ということです。プラ
スの作用です。
我々もアムール・オホーツクプロジェクトでは、特に鉄だけに焦点を絞ってやったので
すけれども、もちろん一方では、川と海はつながっていますから、汚染物質も運ばれてく
ることは十分にあります。ですから、我々プロジェクトでも話し合ったのですけれども、
本当はプラスとマイナスの両方を評価しなければいけないねということだと思います。鉄
は少なくとも汚染ではないです。
○竹田
だから、そういうものを全部含めて研究しなかったらだめなのです。
○長尾座長
今、話のありましたところは、もちろん陸だけやっていてはいけないという
ところもありますし、今後、一緒に調査をして評価をするということが必要になってくる
と思います。
海の話は、きょうは午後の方にセッションもありますし、全体を通してこの辺の話を聞
いていただいて、少し考える機会を設けるということができたらいいのではないかと思い
ます。
よろしいでしょうか。
それでは、そのほかにありますでしょうか。
○野口
北海道立総合研究機構の野口です。
鉄の役割の成果とか、まだ残された課題とか、いろいろ教えていただきまして、ありが
とうございます。
一つだけさらにお聞きしたいのですが、この鉄の役割がわかった後で、さらにオホーツ
ク・アムール地域でいろいろな生態系システムなり何なりを大きく研究を行うという意味
での大きなプロジェクトとして、今後、どういうものを考えられますかね。
○長尾座長
○白岩
それは、白岩さんの方から少し答えていただいた方がいいと思います。
では、横から失礼します。
今、低温科学研究所で、このプロジェクトに引き続くプロジェクトを進めています。我々
は、アムール川から入ってくる部分を我々はやったのですが、それは海洋学の研究者がオ
ホーツク海に入る、オホーツク全体の物質収支を視野に入れた、水と物質の収支を考えた
研究をロシアと共同で始めました。
我々は、アムール川の次は、アムール川をやりつつ、そのほかにも川がありますから、
北海道を流れるさまざまな川も含めて、陸と海の物質循環をオホーツク海全体でやりたい
と考えています。
○長尾座長
よろしいでしょうか。
それでは、時間が過ぎましたので、これで大西さんの発表を終わりたいと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)
- 37 -
これで、きょうの午前中のセッション1は終了になります。午後は2時半から開始いた
します。
〔
休
憩
- 38 -
〕
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
セッション2「オホーツク海の環境とその変化」
日
時:平成23年11月5日(土)午後2時30分ら
場
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
- 39 -
第1会議室
◎セッション2:オホーツク海の環境とその変化
○司会
それでは、時間になりましたので、午後のセッションでありますセッション2に
移らせていただきます。
セッション2は、オホーツク海の環境とその変化と題しまして、座長は北見工業大学未
利用エネルギー研究センターの庄子仁先生にお願いしたいと思います。
庄子さん、よろしくお願いします。
○庄子座長
庄子です。よろしくお願いします。
セッション2の最初は、北海道大学低温科学研究所の西岡さんと、ロシア極東水文気象
研究所のボルコフさんとシェルビーニンさんです。
タイトルは、「海氷がオホーツク海の生物地球科学的過程に果たす役割」です。
発表は、西岡さん、お願いします。
「海氷がオホーツク海の生物地球科学的過程に果たす役割」
西岡
純(北海道大学低温科学研究所)、ユーリN.・ボルコフ、アレクレイ・シェルビー
ニン(ロシア極東水文気象研究所)
○西岡
北海道大学低温科学研究所の西岡と申します。よろしくお願いします。
我々低温科学研究所では、1998 年から、きょう、私の後に講演をいただくカラシェフ博
士がその所属になりますが、ロシア極東水文気象研究所と共同研究を実施しています。そ
の 13 年間の共同研究の中で8回のオホーツク海の観測を実施しています。きょうは、その
ロシアの極東ロシア水文気象研究所と実施してきた成果の中から、海氷がオホーツク海の
植物プランクトンの生産にどういう役割を果たしているかという観点の研究成果を報告さ
せていただきたいと思います。
その前に、これまでアムール・オホーツクプロジェクトの中でもこの共同研究を実施し
てきたわけですが、その中での成果を、まず最初に把握したいと思います。
アムール・オホーツクプロジェクトでは、オホーツク海、アムール川から大陸棚に流れ
込んだ鉄分が、オホーツク海の海洋の循環に乗って北太平洋まで運ばれ、特に北太平洋の
親潮域周辺の植物プランクトンの生産が非常に大きくなっている海域がある。それにこの
アムール・オホーツクへ運ばれてくる鉄分が重要な役割を果たしていることが明らかにな
ったわけです。
ただ、今からお話しするのは、このシステムとは全く違う話になるかもしれません。ま
た、今からお話しする対象とするエリアが、今まではこのシステムが親潮域とかオホーツ
クの外側にどういう影響を与えているかという点での話が進んできたと思うのですが、き
ょうはオホーツク海の中そのもののお話になります。
きょうのお話は、海氷が生物生態にどういう役割を果たしているのかということでお話
ししたいのですが、まず、左側の図は、衛星から見た冬場の北極を中心に見た海氷が覆っ
ている様子です。右側は、春先の海氷が少なくなったときの北極を中心にした衛星画像で
- 40 -
す。衛星画像で色がついているところは、植物プランクトンの色素、プランクトンの量が
多いところほど黄色から赤になっていまして、緑色のところも植物プランクトンが非常に
多く生息しております。この図で比較して見ていただけるとわかるとおり、海氷が溶けた
ところでは植物プランクトンの生産が非常に高いことがわかるかと思います。
この図で、オホーツク海はここにあります。ここをクローズアップして見てみますと、
オホーツク海も決して例外ではありません。オホーツク海は、冬期に季節風が吹いて、海
の表面が冷やされることで氷が発達します。氷ができたものが、風や海流によって流され、
海氷がオホーツクの広範囲に広がっていきます。この海氷が凍っている冬期から海氷が融
解して春を迎えますと、植物プランクトンの大増殖がこの海域では起こるわけです。この
植物プランクトンの大増殖によって、この海域の豊かな水産資源が支えられていることは
明らかです。
では、なぜこの植物プランクトンがこんなに大きな大増殖を春先に生み出すことができ
るか考えていきたいと思います。
我々は、アムール・オホーツクプロジェクトで、アムール川からの栄養分の供給は一つ
わかっておりました。また、大陸棚に降り積もった鉄分が遠くに運ばれ、親潮域などの生
産を支えているということも押さえてありました。
しかし、オホーツク海の最大の特徴である、冬期に氷が発達するということに関しては、
我々の今までの研究では確認をしてきませんでした。
そこで、我々がきょうお話しするのは、ロシアとの共同研究の中で見えてきた海氷の役
割がどういうものなのかという点を探っていきたいと思います。
植物プランクトンが増殖するためには、光、栄養分である窒素とかリンとかケイ素、ま
た微量栄養物質である鉄が必要になります。このうち、海氷が溶けることによってこれら
の条件にどういう影響を与えているのでしょうか。それを一つ一つ考えてみたいと思いま
す。
一つ目は、物理的に大きな影響を与えます。これは、海氷が溶けることによって塩分の
甘い水が海洋表面に漂うことになります。そうすると、海の表面に成層できます。非常に
安定した層ができるので、植物プランクトンにとっては、そこは非常に光を受けやすい格
好のすみかになります。
もう一つ考えなければいけないのは、栄養物質に関してです。
海氷が溶けることによって栄養物質がどういう影響を受けるのか。主要な栄養物質であ
るリンと窒素とかシリカに関しては幾つか報告があって、海氷の中の栄養分というのが下
の海水よりも濃度が低いため、溶ける水の影響受けて、表面が薄まってしまうという報告
があります。しかし、一般の人々には、オホーツクの海氷が栄養分を運んできて豊かな海
をつくり出しているのだという、一方での認識があります。それが本当なのかどうかを科
学的に明らかにする必要があります。
また、これまで、分析が難しさから注目するのがなかなか難しかった鉄分、微量栄養物
- 41 -
質である鉄分についても海氷はどういう役割を果たしているかについて情報を探る必要が
ありますが、今のところ、明確な科学的情報はまだ存在しません。
そこで、我々の研究のモチベーションとしては、海氷がこのような微量栄養物質とか主
要な栄養塩に対してどういう役割を果たしているのか、例えば、それらを運んでいるのか
どうかをちゃんと確認をしたい。また、海氷が溶けたときに、植物プランクトンの増殖に
どういう影響を与えているのだろうか、それを確認するための研究を実施してきました。
研究に当たっては、砕氷船また耐氷船を利用して冬期に観測、または海氷の融解期の観
測を実施することができました。特に、きょうお見せするは、ロシア極東水文気象研究所
のクロモフ号で観測した例をとってご紹介していきたいと思います。
これは、2010 年の5月から6月に行われたクロモフ号航海のオホーツク海内の観測をし
た測点をあらわした図です。赤いところと青いところの両方を観測しております。
また、右側は、同じ時期の衛星から見た海氷がどこにどれだけあるかをあらわしている
図です。赤いところ、黄色いところに海氷があります。衛星から見たところのとおり、我々
が実際に現場に行ったときにこの青い点では海氷が観測されました。海氷はこのような状
況で海の上を覆っておりました。このような海氷融解期に観測がこの航海では実施できま
した。
観測内容は、このセンサーを使って温度、塩分、溶存酸素、濁度などを測定しておりま
す。
また、水をこの採水器でくみ上げて、船上で硝酸塩や、植物プランクトンの色素ですが、
クロロフィルa、溶存鉄、アルカリ度などを測定しております。すべて船上で分析してお
ります。
データを見ていきたいと思います。
まず、海氷が存続していたステーションF7、E8と呼ばれるところのクロロフィルの
鉛直分布を示しております。横軸に濃度、縦軸に深さです。どちらもこのような海氷の状
況でありました。クロロフィルの濃度は表面でとても高く、20μg/L や、こちらでは 15μ
g/L 程度、これは植物プランクトンの増殖が沿岸域と同じぐらい高い値を示しております。
このように、非常に高い植物プランクトンの増殖の増殖がこの海氷が溶けているところ
では確認されています。
それでは、このような植物プランクトンはどういう水塊構造の中で増えていたのかどう
かを確認するために、クロロフィルであらわしているプランクトンの指標を濁度に変えて、
もう少し細かく見ていきたいと思います。
緑色が濁度であらわした植物プランクトンの量を示しています。また、赤色が塩分、青
が温度です。深さは0m~50m、こちらが0m~50mで、同じ凡例で示しております。
どちらの測点も海氷が存在していたわけですが、よく見ると、塩分の甘い水が表面にあ
って、その塩分の甘い水と下の海水との境界面で非常に高い植物プランクトンの増殖が見
られています。
- 42 -
このように、海氷に融解していると考えられる塩分の甘い水と、その下の塩分がしっか
りある海水との混ざっているところで大きな植物プランクトンが見られたわけですが、ま
ず、本当にこの塩分の甘い水は海氷が溶けたものなのかどうかを確認する必要があります。
ご存じのとおり、アムール川はこのサハリンの東側に流れてくるわけですが、まず、こ
の時期は、海氷はちゃんと河口に発達しており、夏場のように流れてくる状態ではありま
せんでした。
また、データとして、この2点だけではなくて、このエリアの表面のアルカリ度のデー
タをとって、アルカリ度のデータと塩分をプロットしてやると、接点のゼロのところのア
ルカリ度の値が、アムール川から流れてくるものではない指標が得られています。このプ
ロットからすると、この海水の起源は、やはり、海氷が融解したものであろうということ
が推測されました。よって、この境界面で大きな増殖の見られた部分は、上に海氷が融解
した水があって、下に海水が存在しているような状況で起こっていることが確認されまし
た。
次に、まず海氷の中に栄養分がどれぐらい入っているのかを確認したいと思います。
これは全く別な砕氷船による航海で、オホーツク海に真冬に繰り出して、氷をサンプリ
ングしております。氷の中の窒素、リン、ケイ素、氷の中のその3元素と鉄の濃度を測定
したものと、その直下の海水の中の同じ栄養塩と微量栄養物質である鉄分の濃度を測定し
てやると、このような表になります。
海氷に関しては、栄養塩に関しては、直下の海水の方が海氷よりも十分高い濃度があり
ました。海氷が溶けることによって、やはり栄養塩というのは、溶けたところでは表面の
海水を薄れてしまう効果があることが判断されます。
一方で、鉄分に関しては、海氷の方が直下の海水に比べて非常に高い濃度を持っていま
した。海氷が溶けることによって、表面に鉄分を付加する傾向があることが、この海氷の
分析からわかります。
そこで、先ほどのプロファイルに戻るのですが、このプロファイルの表面の塩分の甘い
ところの鉄濃度を見てやると、表面に高いピークが見られますので、海氷が溶けることに
よって鉄が付加している様子がとらえられていると考えております。
一方で、これは硝酸塩、栄養塩の濃度ですが、栄養塩の方は、プランクトンにも使われ
て、また、海氷によって希釈されている効果で、表面はどちらも低い濃度になっておりま
す。このようなことから、海氷が溶けることによって表面に鉄分が付加される。また、栄
養塩は希釈される傾向にあることが考えられました。
ここで、付加された鉄分が本当に植物プランクトンにとって使えるものなのかどうかを
確認する必要があります。そこで、我々は、全く鉄分が制限されているような、鉄が足り
なくなっているような状況の植物プランクトンに対して、海氷の融解水と鉄分を添加する
ような実験を行いました。
その結果、何も加えていないものがこれで、海氷を加えたものに関しては緑色の増殖、
- 43 -
鉄だけを加えたものは赤い増殖を示しております。この結果からすると、海氷の中に入っ
ている鉄分は、植物プランクトンを増殖させることができるような利用可能な科学形態の
ものであること、また、海氷が溶けたことによって植物プランクトンに付加される鉄分は
とても大事なものであることが示唆されるかと思います。
我々の今までのデータからすると、海氷が溶けたところでは鉄分がリッチで、その直下
にある栄養塩が十分にある海水との混合している非常に安定している層で植物プランクト
ンの大増殖が起こっていたことが確認されました。
それでは、このような海氷によって付加される鉄分がどこで大事なのかということを考
えていきたいと思います。
これは、アムール・オホーツクプロジェクトで得られた結果の一つです。これは夏場の
データですが、河口域は、アムール川の影響があるような、とても鉄濃度が高いところが
あるのですが、このクリル海盆のあたりというのは、もちろん親潮程度のブルームはある
のですが、それでも栄養分が十分に余っているような海域でした。こういう海域で植物プ
ランクトンの入っている海水をくみ上げて、これは春先に実験をやったのですが、こうい
う海域の春先の水を培養してやると、鉄を加えて培養したものと、加えないで培養したも
のでは、培養の後半に非常に明確な差が生まれます。鉄を加えてやると、さらに増殖が伸
びていきます。つまり、このエリアでは、栄養塩が十分にあるので、鉄が先になくなる。
けれども、さらに鉄を加えてやることによって、植物プランクトンの増殖はさらに長い間
維持することができることをこの実験では示していると思います。
要するに、このクリル海盆では、鉄が制限因子になり得るということがこの実験の結果
から言えるかと思います。
我々が今考えているのは、海氷は、冬場の大気ダスト、あるいは、海氷は沿岸にあると
きに鉄分をため込むことができ、その冬場の海氷が春先に溶けることによって、植物プラ
ンクトンにとって必須な栄養の要素である鉄を表面に供給することができるのではないか。
しかも、この右側の図は、Nakanowatari et al.で報告されている 1979 年~2006 年にか
けた海氷の張り出しぐあいです。このような海氷の張り出しぐあいによって鉄が移送され
る範囲は大きく決まっていて、生物の植物プランクトンの春季の生産、大増殖に大きな影
響を与えているのではないかと考えております。
以上をまとめますと、海氷の融解水は、海洋の表面に十分な鉄分を供給する能力がある。
また、その下には、栄養分が十分存在している海水が存在しています。それらが混ざる境
界層で植物プランクトンの大増殖が春季に起こっている。そのように、海氷は微量栄養物
質である鉄分の運搬、移送に大きな役割をしていて、特にクリル海盆とか鉄制限になり得
る海域の春季の、しかも広範の生物生産に大きな影響を与えているのではないかと我々は
考えております。
以上です。(拍手)
○庄子座長
ありがとうございました。
- 44 -
それでは、質疑応答、討論をお願いいたします。
○カワノ
JFスチールのカワノと申します。
海氷中に鉄イオンが含まれるメカニズムなのですが、例えば、鉄とシリコンのどちらが
酸化されやすいかと言えばシリコンです。ところが、鉄の方が優先的に含まれるとなると、
鉄は水の中のイオン状のものであれば、恐らく、氷が凍るときに外に排出されると思うの
ですが、コロイド状になったものが、例えばコロイドを核としてそこから海氷が成長する
というようなメカニズムなのでしょうか。
○西岡
海水中に含まれているものが凍るときに取り残されるという点では、栄養塩と同
じように排出されて濃度が低くなる傾向にあると思います。
ただ、鉄に関しては、さらにそれ以外のソースが、例えば、大気ダストが常に雪と一緒
に氷の上に降り積もっているわけです。そういうものには非常に高い鉄濃度が確認されて
いますし、セジメントとか、浅い海域で氷ができるので、大陸棚の斜面をなめていろいろ
なものが取り込まれておりますね。そういうものに鉄分のソースが、一番大きなソースが
あるのだと我々は考えて、今、研究に取り組んで、それらしい証拠も上がってきています。
○庄司座長
○能田
もう一つぐらい、はい、前の人。
貴重な話をありがとうございました。
酪農学園の能田と申しますが、ダストとセジメントとの比というか割合を鉄だけではな
くて、ほかのエレメントを見たりしてソースを突きとめるようなことは検討されているの
でしょうか。
○西岡
それを現段階で定量的に評価するのは非常に難しいのですが、最近では、重金属
の同位体が分析できるようになりつつあるので、例えば、セジメントでは還元的に出てく
る鉄分が多い場合がありますので、その酸化還元で同位体比が変わるような話でトレーサ
ーとなるのであれば、今後、その分析をすることで定量的な評価ができるかもしれません。
現段階では簡単ではありません。
○庄子座長
ありがとうございました。
時間が来ましたので、次に移らせていただきます。(拍手)
それでは、次の講演ですがサハリン州立大学のミネルビンさんで、タイトルが「オイル・
ガスプロジェクトに対するオホーツク海の海氷モニタリング」なのですが、ミネルビンさ
んは来られないのですね。原稿を読んでいただくのは、同じくサハリン州立大学のシク・
トゥさんです。お願いいたします。
「オイル・ガスプロジェクトに対するオホーツク海の海氷モニタリング」
イゴール・ミネルビン(サハリン国立大学)
○トゥ
ミネルビンさんはいらっしゃることができませんでしたので、皆さんに、かわり
に報告を読ませていただきます。
前もっておわびを申し上げておきたいのですけれども、このミネルビンさんの氷の状況
- 45 -
の影響に対して、オイル・ガスプロジェクトがサハリン州で行われているわけですが、ガ
ス、石油の掘削の専門でないことをお断りしておきます。
このスライドに出ていることは大学が計算したもので、モデルですけれども、この流れ
をあらわしていまして、海氷の移動というものを冬、そしてサハリンの北端、それから、
オホーツク海の南の方に移動しているという状態があらわれています。
このスライドは、海氷の流れの主要な方向をあらわしていまして、そして、そこに擬似
的な安定した固定域ができていることを見ることができます。
このスライドでは、冬の状況で船が使われている、また、ビチスとオルランというプラ
ットフォームを使っている状況です。
このベースを選ぶときに、海氷の状況について選んだのですが、南東の方向に常に動い
ていることがわかります。その流れの時間は大体8週間ぐらいかかっておりまして、北西
の方向にある余り動かないように見える擬似的な固定域も見えています。北から南への動
きが認められます。
シャンタル諸島のそばに氷をとどめてしまう袋小路のようになっているところがありま
す。北西の方向があります。そして、5月ぐらいに海氷がわかりますけれども、北の方の
部分は南に動いていく、そして南の方のものは北へ動いていきます。モリックファークの
そばです。そして、シャンタル諸島の近辺でこのようなことが起きています。
これは 1988 年に形づくられた氷塊の大きな重なりであります。
その次のスライドですけれども、プラットフォームと沿岸を結ぶパイプラインの近くの
部分の氷塊ですが、このような氷塊によってパイプが破損することがあり得まして、それ
によって環境汚染が非常に大きな規模になるという可能性があります。すべてのパイプラ
インの途中に弁はないので、ここからオイルの流出が起きた場合には、非常に大きな災害
になることがあります。そして、安全で効果的な航行を冬にも続けるということに関して、
沿岸近くでできる氷の集まりや重なり合い、しきりに動くというところを調査する必要が
あります。
このスライドを見てわかることですけれども、石油パイプラインが余りよく守られてい
ません。それを守ろうとして砂袋が置かれているのですが、余り効果を上げているように
は見えません。そして、安定したかたい氷ができると、流れる氷からプラットフォームを
守ってくれます。そして、それが最も危険なのは、このかたい氷が壊れるときであります。
氷が集まって、乗り上げた大氷塊を通して海底に作用するなどということが起きると、非
常に大きなことが起きます。そして、氷塊の重さと砕氷船の効果を比べますと、重量上、
全くバランスがとれておりませんので、効果が期待できるのは、氷の流れる方向をプラッ
トフォームから避けるように変えてやるという程度であります。
2001 年から 2111 年の氷の動きをごらんに入れます。
これは衛星と航空機で30年間ずっとスペクトル分析をしてきたわけでありますけれど
も、それによってノイズをよくカットをすることができますし、コヒーレント信号を取り
- 46 -
出すことができ、ノイズのないトレンドを見ることができます。
このスライドでは、沿岸部の氷結しない水面の部分がどのように増大していくかという
ことをごらんに入れることができます。
これは、サハリンとの北東岸、海岸線に氷結しない水面が残っているわけでけれども、
結論として、これまでの調査で、さまざまな研究者が海氷の状況について調べていますけ
れども、それについては、計算方法などの統一をするべきでありまして、海氷の面積の成
長の動力学的モデルをつくるために必要なことは、面積や厚さを左右する大気温や海水温
だけでなく、沖合の水域の氷形成の空間とか時間的な状況を見ることが大事であります。
移動の早さや一つの大きさから別の大きさに変わっていく変化、あるいは、氷の積み重な
りなどを、時間当たりの氷の集まり方、壊れ方、そして降雪などを見るべきであります。
氷の状況や海上輸送、大陸棚での石油掘削と輸送などの安全の主要な要素で環境リスクが
ありますので、この法的なレベルで義務を負わせるべきであります。これにかかわってい
る会社が、海での作業による環境リスクを低下させるための学術調査に協力すべきである
と考えます。そして、私は前もってお断りしましたが、ミネルビンさんのかわりに皆さん
にお答えすることが難しいことをおわびしておきます。(拍手)
○庄子座長
ありがとうございました。
一つ訂正とおわびです。最初にシク・トゥさんとご紹介しましたが、正しくはトゥさん
だそうです。ケンシクさんが名前で、名字がトゥさん。失礼いたしました。
それでは、ただいまの講演で質疑応答と討論をお願いいたします。いかがでしょう。
白岩さん、何かないですか。はい、どうぞ。
○会場
基本的なことですが、油が漏れている状態を継続的にモニタリングするようなこ
とをやっていらっしゃるのでしょうか。もしやるとしたら、こういう石油会社がやってい
ることですか。それとも行政機関でやるような形なのでしょうか。
○トゥ
この問題についてミネルビンさんに出る前に聞いたのですけれども、これをやっ
ているのは石油会社だけでありまして、私が理解した限りでは、監視の方法が十分なもの
ではなく、それに対する対応策が考えられていても、それも十分なものではない。そうい
うことで、サハリン大学としては、この問題をもっと体系的に取り扱うべきであり、そし
て効果的にやるべきであると考えています。それを提案しています。
○庄子座長
○西岡
どうぞお願いします。
北海道大学の西岡です。
真冬に凍りの観測をするとなると、アクセスが非常に難しいと思うのですが、ロシア側
では、例えば、オホーツク海の冬の観測に使えるような砕氷船はどのぐらい持っているの
か、どういう機関が使っているのかということを教えていただけませんか。
○トゥ
残念ながら、この問題について私は専門家ではないのでお答えができません。私
は、別な分野の専門家なので、残念ながら、今回いらっしゃることができなかったミネル
ビンさんがこの問題をやっています。また、砕氷船の数ですけれども、砕氷船は非常に高
- 47 -
いものでありますし、私がお答えできる限りとしては、砕氷船が出てくるというのは非常
に断片的なことでありまして、常に必ず砕氷船が調査に出てくるというようなものではあ
りません。ミネルビンさんが話していらっしゃる限りでも、このプラットフォームでの作
業も恒常的に行われているものではありません。
○庄司座長
○会場
はい、どうぞお願いします。
モニタリングについて、幾つかのコメントをさせていただきたいと思います。
サハリンの大陸棚で、サハリン・エナジーというところがありますけれども、そこにパ
ーベル・ゴルジエンコという調査船がありまして、それが秋と夏に調査を行っています。
パーベル・ゴルジエンコは、今、航海中であります。そして、プラットフォームの近くの
環境状態、あるいはアニワ湾のあたりを調べています。そして、来る前ですが、どんなパ
ラメーター、どんなトレンドが見られているのか、プラットフォーム、モリパックやサハ
リン大陸棚の近くで起きているかということを聞こうと思っています。
というのは、冬の段階にはサハリン・エナジーが調査をするということにはなっていな
いので、冬のものがありません。
○トゥ
補足していただいて、ありがとうございます。
つまり、どういう時期にやるかということ、そして、冬の時期に定期的な、恒常的な観
察が行われていないということが私は残念だと思います。
○庄子座長
○チュ
では、そちらの方、どうぞ。
チュ・ショウトウと申します。NOWPAPの者です。
質問したいということではなくて、この問題に関係するご説明をしたいと思います。N
OWPAPという4カ国からなるアクションプランです。中国、韓国、日本などが含まれ
ています。この範囲ですけれども、日本海、渤海、オックス海は、私の調査の範囲に含ま
れておりません。4カ国の海上の汚染、石油の流出事故、海洋の石油流出についての対策
も打っております。
サハリンのオイル・ガスプロジェクトですが、国際的にも非常に注目をされております。
NOWPAPの地理範囲ですけれども、サハリンのオイル・ガスプロジェクトによって、
北の方はサハリンの南部も含まれております。ですから、現在のオイル・ガスの開発には
潜在的な石油流出のリスクはあると。NOWPAPの傘下にあるロシアと日本の間で、北
海道の稚内で連合の石油流出の演習をしました。そういう潜在的なリスクに対して、石油
流出の海上の流出についての事故対策の演習を行っております。これは関連の情報提供で
した。
○庄子座長
ありがとうございました。
トゥさん、よろしいでしょうか、補足とか。
○トゥ
もう一度おわびを申し上げたいのですけれども、ミネルビンさんはご自分の報告
をご自分で報告したかったと思います。彼は、やはり、石油パイプラインとその周りの環
境、あるいは海氷との関係というものに非常に心を痛めております。そして、きょうの質
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問が活発に出たことも、そのことをよくあらわしていると思います。
討論をどうもありがとうございました。(拍手)
○庄子座長
ありがとうございました。
それでは次の講演に移りたいと思います。
次は、ロシア極東水文気象研究所の「極東海域の生態学的状況に関するモニタリング」
についてです。カラシェフさんお願いします。
「極東海域の生態学的状況に関するモニタリング」
エフゲニー・カラシェフ(ロシア極東水文気象研究所)
○カラシェフ
私の話は、今ご紹介がありましたように、極東海域における環境モニタリ
ングについて、でございます。ロシアの沿海ロシア、そのほかの極東海域水域ということ
になります。
連邦水文気象環境モニタリング局によりまして、モニタリングが行われています。環境
モニタリングですが、放射線のモニタリングも行っております。サハリン大陸棚、それか
ら、ロシアの排他的経済水域において行われているわけです。
そして、3月に東日本大震災、それに続く福島第一原発での事故を受けまして、この放
射線の状況のモニタリングを行うために調査が行われることになりました。対象はロシア
連邦の沿海部でございます。オホーツク海、日本海のロシア沿岸でございます。そして、
このために、連邦水文気象環境モニタリングほか、ロシアの関係官庁が専門家を派遣しま
した。この中で、土、海洋水、海底の土を含むサンプリングが行われることになりました。
まず、最初の調査ですが、5月に行われました。4月から5月にかけてのものでござい
ます。使われたのは、調査船のパーベル・ゴルジエンコ号でございまして、津軽海峡を通
りまして、このルートに従ってモニタリングをクリル諸島に沿いまして行いました。ルー
トについては、ごらんになっていただいているとおりです。
このルートですけれども、そのルート上で水、大気のサンプリングが行われました。そ
して、その中に放射性物質の有無、そのレベルについて行われたわけですけれども、14 の
サンプル、水です。それから、表層水、中層水、50m、100mの水深の中でもサンプリング
が行われました。
そして、ここでの結果ですが、海水の表面水のガンマ線、自然のガンマ線ですが、0.03
μSv/h~0.08μSv/h でした。これについては、ロシアの平均のガンマ線レベルを下回って
いました。
それから、ヨウ素 131 及びセシウム 137 につきましては、これはガンマ放射性物質の主
要なものです。これは、福島第1原発から排出されたガンマ放射性物質であるわけなので
すけれども、これについては、日本の沿岸、津軽海峡を横断したとき、それから、北海道
の太平洋北西部分を通ったときに増加傾向が見られました。
最高値は、ヨウ素 131 で 4×10-4 Bq/m 3 、セシウム 134 については 29×10-4 Bq/m 3 、
- 49 -
及びセシウム 137 につきましては 32×10 -4 Bq/m 3 という値が検出されました。しかし、
これにつきましては、いずれも国内の、ロシアの基準の1万分の1を超えたぐらいのもの
でございます。
水質ですけれども、サンプル収集ステーションにおきまして、すべてのところで、すべ
てのサンプルにおきましてセシウム 134、137 を検出しました。
それから、海水のセシウムの放射線原水の最高値は 20Bq/m 3 ~30Bq/m 3 で、太平洋の
北西部で検出されました。北海道から離れたところですね。これは 20Bq/m 3 ~30Bq/m 3
の値でした。
それから、福島第一原発から 400 ㎞ぐらいの地点によりまして、深層部、50m~100mの
あたりに浸透があることを示していました。
そして、実は、ロシアの極東水域での海中でこれまで記録された放射線セシウムアイソ
トープ最高値は、今回の検出量の約千分の1に当たるぐらいのものでございました。
それから、その後、6月から7月中旬に実施した調査ルートでございます。このときに
もパーベル・ゴルジエンコ号が使われたわけですけれども、サハリン大陸棚、アニワ湾で
サンプリングが行われました。
それから、ミラージュ号を使用してサンプリングを行ったのは7月ですけれども、クリ
ル諸島の各地点で行われました。その結果は、ごらんになっていただいているとおりでご
ざいます。サハリン大陸棚のモニタリングの結果でございます。
まず、人工RNのストロンチウム 90 とセシウム 137 の濃度が測られたわけですが、スト
ロンチウム 90 につきましては 0.82Bq/m 3 ~0.2Bq/m 3 という数字が出ていますけれども、
セシウム 137 についても 1.0Bq/m 3 ~1.8Bq/m 3 が出まして、表に見られるように、スト
ロンチウム 90、セシウム 137 ともに以前の分析データに対応する範囲におさまっていまし
た。
それから、オホーツク海、サハリン大陸棚の海底の堆積物、表面の人工RNセシウム1
37の濃度はごらんになっていただいているとおりでございます。
サハリン大陸棚東部では、すべての海底堆積物でとられたサンプルにおきまして、セシ
ウム 137 を検出しています。アニワ湾でもとられているわけです。
それから、サハリン湾の石油生産のための各プラットフォーム付近でとられたものです。
そして、これまでのデータと比較されました。そして、東サハリンの大陸棚におきまし
ては、先ほど申し上げたように、セシウムの検出が行われたわけですけれども、そのほか
の人起源のガンマ線放射NRは検出されていませんし、クリル諸島周辺の大気中のガンマ
放射線のレベルにつきましても、正常な自然背景値内のものでございました。これは 0.04
μSv/h~0.13μSv/h というレベルでございます。
次に、2011 年、これはロシア、日本の共同調査が7月から8月にかけて行われていまし
たけれども、このルートでございます。これは、5月とほとんど同じルートを使ってサン
プリングが行われました。比較対象となるためのデータでございます。そして、5月の段
- 50 -
階との数値を比較することができるようにこのサンプリングを行ったわけです。
この表ですが、比較をすることができます。春、夏の海水中の日本海と太平洋北西部、
クリル諸島隣接水域の表層水のセシウムRN濃度でございます。
そして、夏と春に行われている数値がここに示されておりますが、これを見ていただく
とおわかりになりますように、ロシアの沿岸部ですけれども、人為的な濃度について、セ
シウム 130 については、最低レベルで非常に少ないものでございます。0.36+0.06Bq/h を
見ていただけると思います。それから、セシウム 137 についても 2.1+0.2 Bq/h という値
でございます。
しかし、クリル諸島ですけれども、日本海よりは少し高めでした。セシウム 134 につい
ては 2.9+0.2Bq/h という値がここに見られております。それから、セシウム 137 について
もここに載っている数字のとおりでございます。そして、このセシウムの濃度の最高値は、
クリル諸島の中央部で検出されたものでございます。このセシウム 134、137 の両方の濃度
の最高値は水中におけるものですが、このサンプリングステーションは太平洋北西部であ
りまして、黒潮の限界水域です。福島第一原発から大体 400 ㎞離れているところです。そ
して、大気に排出されました放射線レベルにつきましては、背景値でございまして、0.04
μSv/h~0.13μSv/h ぐらいのものでございました。
これからまとめとして言えることは、観測時の海水の表層水のガンマ線放射線レベルは、
背景値レベル内であったということでございます。そして、大気中のエアゾールのサンプ
ルでは、ガンマ放射性物質につきましては、ロシア沿岸、それから極東では検出されてい
ません。そして、大気エアゾールサンプルへの福島原発事故の影響は日本沿岸のみに限定
されたものだと言うことができます。
そして、セシウムアイソトープについては検出されていますが、ロシア沿岸については、
日本海の方では最低レベルとして非常に少ないものです。ですから、ここの距離としては
実際の 400 ㎞からの黒潮内で環境性の周辺で太平洋の北西部の水中でした。
そして、サハリン大陸棚の海中の海底堆積物の中もデータの範囲内ということになって
おります。
以上です。ありがとうございました。(拍手)
○庄子座長
ありがとうございました。
それでは、質疑応答、討論をお願いします。
○会場
このテーマは、極東会議における環境モニタリングというものだったと思います。
これは、放射性物質による汚染の話でした。環境モニタリングということでしたら、水生
生物などへの影響ということになると思ったのですけれども、どうしてなのでしょうか。
○カラシェフ
お答えします。
私のきょうのテーマは、大気及び水中に対する福島第一原発事故の影響をまとめたもの
になりました。もちろん、これが環境モニタリングになりますと、水生生物、そのほかの
エコシステムに対する影響というものについて、もっと加えなければいけない問題はたく
- 51 -
さんあったと思うのですけれども、しかし、パーベル・ゴルジエンコ号というのは、これ
ら調査を行ったときに、そのほかの特別の専門家も乗っておりまして、今、おっしゃった
ようなテーマについても行いました。
○フロア
そうしますと、今のテーマについては、環境モニタリングではなくて、放射性
物質についてという題に直した方がよろしいのではないでしょうか。
○カラシェフ
○庄子座長
はい。それでは、そうしたいと思います。
ありがとうございました。
では、そちらの方。
○会場
北緯 46 度東経 151 度のところの数字が高くて、セシウム 134 が 1.6Bq/m 3 で、セ
シウム 137 が 2.7Bq/m 3 くらいであったのだけれども、セシウム 134 というのは半減期は
2年なのだけれども、北緯 46 度東経 151 度といったら、黒潮が走っているところではない
ですね。そこはまだ北ですね。そこら辺でセシウム 134 が 1.6Bq/m 3 もあるということは、
海洋に乗っていったのではなくて、風に乗っていったのではないですか。
○カラシェフ
そうですね。実は、そういう質問が出るのではないかと思っていました。
ここに海洋学研究者の皆さんがいらっしゃるわけですけれども、北緯 46 度のところで黒潮
の境界線があるわけです。そこで、私が考えたのは、これが黒潮によっても運ばれたもの
なのか、そして、これが福島原発と本当にかかわり合いがあるのか、もしかすると、これ
は人為的な根源ではないのではないかといういろいろな議論をもたらすものなのです。
前後を考えて、もしかしたら原発事故との関係があったと考えるのが自然かもしれませ
んけれども、それを前提として、クリル諸島についてはクエスチョンマークです。こうい
うデータが出ましたが、これが何と起因するものなのかは、次の私どもの調査の目的とな
ると考えていただければ結構かと思います。
○庄子座長
○会場
よろしいでしょうか。いいですか。
よくわかりました。本当にどういう原因なのか、これからの研究を心待ちにして
います。
○庄子座長
○池田
ほかに質問、あるいは討論をお願いします。
北大の池田といいます。
休憩時間の後に私が発表しますので、楽しみにしていてください。
今の質問したいことは、このようなモニタリングをこれから続けて行うのかどうかとい
うことです。
○カラシェフ
今までどのようなことをやったのかということと、今後のことですけれど
も、94 年、95 年には2回に分けてクルーズを、これは日・ロ・韓国が入った共同調査をい
たしました。これは放射性廃棄物についての調査でした。
それから、私どもの研究所は、これを継続して、今度は国際科学調査センターのプロジ
ェクトとして行いました。2002 年まで日本海において行ったわけですけれども、テーマは
またほかの方がお話ししてくださると思うのですけれども、そのほかに、日本の専門家も
- 52 -
協力していただきまして、放射線調査で芥川先生などが入っていらっしゃったわけですけ
れども、これは日本海での調査も行いました。
それでは、今のご質問の答えになる今後ですが、現在のところはプログラムの作成中で
ございます。これは、私ども気象天文学局の方で承認された後に、これが継続されること
が実現されるようになるわけです。しかし、まだこれはドラフトの段階で、今後、これが
承認されることになるわけです。どのような規模で、いつどこで行われるかはこれから決
められることですが、調査としては継続して行われますので、答えとしてはイエスでござ
います。
○庄子座長
ありがとうございます。
ほかにどなたかいらっしゃいませんか。いいでしょうか。
それでは、セッション2はこれで終わらせていただきます。
マイクを白岩さんにお返しします。(拍手)
○司会
庄子先生、発表者の皆様、ありがとうございました。
それでは、これから休憩に移らせていただきます。
セッション3、本日の最後のセッションは、4時 15 分から予定どおり開始いたします。
〔
休
憩
- 53 -
〕
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
セ ッション3「福島第一原発事故とその海洋環境への影響」
日
時:平成23年11月5日(土)午後4時15分から
場
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
- 54 -
第1会議室
◎セッション3:福島第一原発事故とその海洋環境への影響
○司会
それでは、時間になりましたので、本日最後のセッションに進ませていただきま
す。
最後のセッションの座長をお願いしますのは、総合地球環境学研究所の阿部健一先生で
す。
では、よろしくお願いします。
○阿部座長
京都にあります、総合地球環境学研究所の阿部でございます。よろしくお願
いします。
本日最後のセッションは、去年の第1回の国際会合のときには全く想定もしていなかっ
たセッションであります。3月 11 日の東日本大震災を受けて、汚染物質、とりわけ放射性
物質の海洋汚染について議論していきたいと思っております。
この件に関しては、国内のみならず、先ほどカラシェフさんの報告もありましたが、海
外の関心も高く、さらに言えば、情報の公開、データの共有化、さらに国際共同研究へと
考えている、このコンソーシアムの健全な発展を考える上でも極めて重要なものだと思っ
ております。活発な議論を期待しております。
それでは、早速、最初のご発表をお願いしようと思います。
先ほどのカラシェフさんの発表の後に、楽しみにしておいてくれとおっしゃられた池田
先生、よろしくお願いいたします。
「東日本大震災による汚染を解明し解決するため海洋科学専門家が進める協同」
池田
○池田
元美(北海道大学
名誉教授)
ありがとうございます。
楽しい話ではないのですが、内容を楽しみにしてくださいという意味です。
ここに題名が書いてあります。キーワードは、海洋研究の専門家がマグニチュード9の
地震による汚染に対してどういうことができるかと、そういうことがキーワードでありま
す。まず、地震のことから始めたいと思います。
これが、地震のときに、太平洋プレートというものがありまして、二つのプレートがず
れたときの、ずれた範囲です。ここの特徴は、この距離がかなり長く、300 ㎞ぐらいある
ということです。ですから、地震が大きいことがわかります。
それから、これは鉛直方向にどのぐらい動いたかということです。この辺が沈んだので
すが、それが大体1メートルぐらい沈んでおります。これは、量としては大きいと思いま
す。
地震が起きると、もしかしたら皆様の中には地震を経験したことのない方がいらっしゃ
るかもしれませんが、すごく揺れます。それで、海面が大きく変動して、ここに津波の高
さが 15mと書いてありますが、かなり大きい津波です。この赤いところが、津波に洗われ
た地域です。仙台がここにあります。仙台というのは 100 万人都市です。大体、この赤い
- 55 -
幅が5㎞ぐらいです。一番高いところに上がってきたのは、海抜 35mぐらいまで津波に洗
われたということです。
それから、非常に悲しいことですが、現在わかっているところで死者が1万5千人を超
えています。恐らく、1万9千人ぐらいになるのではないでしょうか。これは非常に甚大
な被害です。
福島はこの辺です。そこに原子力発電所、原発がありまして、津波に洗われたのが原因
だろうと言われていますが、まず、電気が切れました。それから、核燃料が溶けて下に落
ちました。そこに水をどんどんかけていたので、水が分解して水素ガスができたというこ
とです。それが爆発したときに、この建物の屋根が吹き飛んで、核物質が空気中に放出さ
れました。もう一種類の汚染の原因は、入れた水が汚れた水になっていますから、それが
ちょっとした隙間から漏れて海に流れ出た。この二つが主な汚染原因であります。こうい
うことなのですが、もう一回ここにまとめてみます。
一つは、大気に飛び出て、それが流されて、これが非常に早く広がったということです。
出た時期は大体3月の中旬です。もちろん陸の方にも来ていますが、海としては、太平洋
の方に飛んでいきました。2番目は、先ほど言いました汚染水が海に直接出てきた部分で
す。これは後でまた見せますが、4月の初めごろにたくさん流れ出ています。ここに書い
てあるのは、北風が吹くと南に流れます。南風が吹くと北に流れます。そういう単純な話
ですが、黒潮が流れていますので、そこに取り込まれて東にどんどん流れていきます。こ
れは、割とゆっくりです。
3番目は、ここにクエスチョンマークをつけてありますが、これがどのぐらい起きてい
るのかは不明です。不明ですが、川、地下水に含まれて、だんだん海に出ていって、海の
底にたまっているのではないかと考えられています。今のところは、ちょっと先の話にな
るかなということで3番目に置いてあります。
これは、非常に基本的な基礎的な質問を並べております。
まず、核物質がどういうふうに広がっているか。ラジオニュークライドという単語です
ね。大気に出ていったものが陸に落ちてくるのはどういうプロセスを経ているか。それか
ら、海に汚れた水が流れ出たのはどういうふうに広がるか。それに関しては、特に海流、
それから混合する過程が重要だろうということです。そういう物理的なところではなくて、
流れのところだけではなくて、生物が入ってきた場合、植物プランクトンと動物プランク
トンとありますが、プランクトンにくっついて下に沈んでいく効果、あるいは、食物連鎖
の中に含まれ場合、セディメントは海底にたまるものです。
そして、海洋の生態系に対する影響です。こういうものに関して基本的な質問をまず掲
げました。
ここで言いたいことは、たくさん字が書いてありますけれども、日本海洋学会でこの問
題に取り組むためにワーキンググループをつくりました。震災対応ワーキンググループと
いう名前をつけました。ですから、皆一緒にやろうよということですが、ここでは、五つ
- 56 -
のサブグループがあるということだけ言います。五つのグループのうち、これは観測モニ
タリングです。船の計画をつくったりするのは非常に重要です。それから、サンプルを分
析するということです。これは、ある決まった方式で分析しないと比較できないので、そ
ういう点が非常に重要です。それから、専門家が少ないので、どういうネットワークを組
んで分析するかということを決めなければいけません。
モデリングのシミュレーションは、私が世話人となっていますので、また後で詳しく言
います。こういう研究調査面と、一番最後にあるのは、どうやって情報を知らせていくか
ということです。これも非常に重要な点なので一つのサブグループになっています。こう
いうものをつくって取り組みを始めたというのが4月の初めの段階です。
ここには、どういうふうに分布しているのかということを整理しています。
皆さんよくご存じかもしれませんが、これは陸にどのぐらいのセシウムがどのぐらい広
がっているかということです。この場合はセシウム 134 と 137 ですが、高い値です。福島
はここです。原発がここです。これが 30 ㎞圏というやつです。それから、この場合は、空
に出ていって、雨にくっついて落ちたということです。
これは前の例と比べてみます。チェルノブイリのケースです。この場合も、値自体、濃
度自体は同じ程度ですが、非常に大きいところに広がっています。これは 300 ㎞ぐらいで
す。そういう意味で、全体の大きさとしてはチェルノブイリの方が大きかったです。
では、一体どのぐらいの量なのか。これも先ほどの発表でありましたが、セシウム 137
が五、六十年どういうふうに変わってきたかということです。この高いところは原水爆実
験の影響です。太平洋でもその影響を受けたということです。
それから、値ですが、単位はこれだけを使います。ベクレル/リットルです。1リット
ル当たりに何ベクレルかということです。1はここですから、それに比べて非常に少ない
状態であったということです。これが1になったり 10 になったり 100 になったりします。
それから、先ほどの大気の方は3月中旬に出ましたが、海に汚染水が出たのは、これは
3月です。3月の終わりぐらいに水が流れ出て、それが広がったということです。海に出
た方が少し後です。
観測をした結果、どういう値が見つかったかということですが、これは、4月の7日、
11 日、14 日、大体二、三週間後ですね。
それから、紫のところはここですから、これは 10Bq/L です。事故の起きる前の値に比べ
ると約1万倍です。この青いところになると、その 10 倍の 100Bq/L です。ですから、これ
は明らかに福島原発事故の影響であるということがわかります。
これが先ほどのお話です。
JAMSTECという研究所ありまして、そこの船を使って4月、5月に観測しました。
こういう経路です。ここに 100 倍の背景と書いてありますが、この値で言うと 0.001 Bq/L
とか 0.002 Bq/L というのが背景です。それに対して 100 倍ぐらいあります。この辺に出て
いるのは、海流はこう行きますから、この辺は大気に乗って飛んでいったものが落ちたと
- 57 -
いう判断をしております。これが先ほどの話に関係するところです。
ですから、カムチャツカがこの辺で、その南 500 ㎞ありますね。ですから、一方では見
つからなくて、ここでは見つかっているのは不思議ではないと思います。
これは現状ですけれども、モデルシミュレーションです。モデルを使って実験して見よ
うということで、モデルというのは、海の流れや物質の移動など法則がありまして、方程
式があります。プログラミングをして、それを計算機に計算させるのです。それがモデル
というものです。これは、どういうところで役に立つか。皆さんが天気予報を見ていると、
最近は、かなりモデルを使った予報をしています。
それと同時に、どういうプロセスでこれが起きるかということを、理解する助けもでき
るということです。
そのモデルはどういうモデルなのかというと、全体のモデルが最初からあればいいので
すが、従来はそうではなくて、一つは、コースタルモデルという岸の近くです。海岸の近
くです。それから、黒潮や親潮と行くずっと東に長いモデルで、この二つを組み合わせま
した。そうしなければできないということです。岸のそばは風や川から入ってくる塩分ゼ
ロの水によって流れができます。
それから、黒潮、親潮の東にずっと流れていくところは、後で図が出てきますが、中規
模のうずがあります。こういう両方が必要だということで計算しました。これは、黒潮、
親潮モデルです。外洋と言ってもいいですが、これが日本で、この辺ですね。これが 2,000
㎞ぐらいあります。
2011 年の5月1日です。そして、セシウム 137 はどのぐらい広がっているのかというこ
とが、シミュレーションの結果でわかりました。これは、先ほど言ったうずです。うずみ
たいに見えますね。黒潮に乗って東にがっと流されました。値は、この辺が 0.1 Bq/L です。
この辺は 10 Bq/L ですから、この背景に比べると1万倍ということです。
それから、これが岸の近くのモデルです。これは3回ぐらい繰り返します。まず、ここ
に 2011 年5月6日、7日、8日、9日と、3月から始まります。赤いところが濃いのです
が、それが沿岸に沿って北へ行ったり南に行ったりします。
これは、主に風です。それから、ぐわっと引き延ばされているが、黒潮により東に持っ
ていかれます。最初は広がっているうちに、ここの黒潮によって持っていかれます。この
黒い点が、ちょっと前に見せた海ではかった観測点です。この値を比べるということをし
たわけです。モデルと実際の観測で、です。
では、ここにモデルはどうだったかということを書いてありますが、海の流れ、あるい
は混ざり方に関しては、まあまあいいだろうということです。それから、放射性物質の分
布ですね。これは、先ほどの観測のモデルと比べると、大体合っているだろうということ
です。非常に大ざっぱですが、今のところはそういう評価をしています。
もう一つは、引き伸ばされていたところです。あれは、黒潮、親潮の東に向かって流れ
ていく海流がなければできないので、そういうものが必要であるというのが今のところの
- 58 -
結論です。
ああいうことがあったのですが、もう少しやらなければいけないということで、ここに
書いてあるのは生物系の話です。先ほど言いましたね。それから、川と地下水です。もう
一つは、大気に乗ってずっと東の方に行ってしまうものです。これは、遠くに行きますの
で、国際的な問題になり得るということで、国際的な責任を果たすためにはこれをやらな
ければいけないと思っております。
最後は、自分たちに向けて言っているわけですが、海洋科学の専門家は何をしなければ
いけないか。地球温暖化のときによく使われるのですが、非常にひどくなる前に手を打ち
ましょうというやつです。どのぐらいひどくなるか本当はわからないけれども、それより
ももっと詳しく知りたい、調べるべきだ、どうしてそうなるのか知らなくてはいけません。
それは研究する者からの気持ちです。
しかし、それを余り言い過ぎると、市民は、自分たちの研究がおもしろいからやってい
るのではないかと非難します。それは然るべき非難なので、自分のことを売り過ぎてはい
けません。もう一つ、リスクアセスメントで危険管理ですか、それをする場合には、どの
ぐらいそれが確かかということをパーセントで言わなければいけません。50%なのか、80%
なのか、20%なのか。それを非専門家もわかりやすい言葉で伝えるということが非常に重
要であると考えて、それを進めております。
以上です。(拍手)
○阿部座長
ありがとうございました。
最後に、専門家以外の方にもわかりやすくということをおっしゃられましたが、実際に
極めて明快なご発表だったと思います。
ご質問、意見がありましたら、どうでしょうか。
海外の方を優先したいのですが、もしいなければ、長尾さん、どうぞ。
○長尾
金沢大学の長尾です。
一つは、モデルに関しての質問ですが、今示していただいたモデルは、ソースとして定
常的に福島から出ているという条件で行ったのか、あるいは、一度出て、後は出ないとい
うことで行ったのか、どちらの条件のモデルかということのご説明をお願いします。
○池田
今やっている方法は、先ほど見せたように3月の終わりから4月の初めにたくさ
ん出ているのは確かであって、その後、少し出ているだろうというのが一番確からしいの
で、そういう値を入れまして、ですから、ほぼ瞬間的に出ていると見ていいと思います。
○阿部座長
○竹田
それでは、向こうの方、手が挙がったと思います。
先生の調べたものはよくわかりました。
チェルノブイリと比べてやったのですが、チェルノブイリは陸地一面が汚れたのですけ
れども、福島の場合は右側は海面ですね、半分は。当時、3月 11 日以降はまだ西風が強く
て、多くは海の方の海面に行ってしまったかと思います。あまりチェルノブイリと変わら
ないぐらいの量が出ていたけれども、多くは西の海面の方に行っちゃったと思うのです。
- 59 -
それから、先ほどのセシウムの値を見ましたら、前に発表したロシアの人とはまたデー
タは違うのです。先生の場合は、遠くなるほど薄くなっているのだけれども、ロシアの人
は、北緯 46 度東経 151 度のところだけぽつんと高いでしょう。それはなぜかというと、カ
ラフトに環境団体があるのですが、その人にもらった資料があるのです。昔、旧ソ連時代
に、爆撃機が核兵器を積んで墜落したところの場所が記してあるのです。それは全く秘密
になっていて、あと、放射性物質を投げたところがこの地点とか、あったところに、得撫
島の北のところにあるような気がするのですが、その影響はないのですか。
○池田
ちょっと待ってください。
まず、こちらの方から簡単にいきたいと思います。
これは、風で吹かれて、その後、雨が降ったときに下に落ちるのです。陸の方はかなり
正確にわかります。要するに、陸面を調査すればいいので。海の方は、それほどよくわか
りません。ですから、恐らく半々ぐらいではないかというのが非常な大まかな推定ですけ
れども、こちら側に来たのと、こちらですが、西風が強かった季節だというのだけれども、
実は、以外と低気圧でかき混ぜられていたのではないかと思っています。
ですから、その辺は、陸の方は検証できるけれども、海は検証が難しいということで、
確かにアンノウンのところがあります。
それから、必ずしも一様にだらっと広がっていくわけではないので、あるところが高く
て、これだって場所によって違いますよね。ですから、余り細かい変動というのは、説明
するのも難しいのですけれども、十分あり得ることで、遠くの方でぽっと高いことがあっ
てもおかしくはないと思います。
ですから、ちょっとそこの旧ソ連の話は、私はノータッチとしたいと思います。
○阿部座長
時間にもなりました。池田先生には、また、あすの総合討論でもご発言いた
だければと思っております。
ということで、どうもありがとうございました。(拍手)
引き続きまして、北海道総合研究機構の福山さん、よろしくお願いします。
「北海道周辺海域の放射性物質のモニタリング結果について」
福山
○福山
龍次(道総研
環境科学研究センター)
道総研の福山です。
実は、今回、白岩先生に、北海道の福島第一原発の事故の影響、特に海洋影響を話して
いただきたいということだったのですけれども、私は専門でなくて、実は困ったのです。
実際にモニタリングをやっているのは北海道庁です。私は、その北海道庁のモニタリン
グの結果に、報道機関で出されているデータと加味して話をしたいと思います。
まず、ここに四つ話したいことを書いたのですけれども、一つは、本当に福島から出た
放射性物質がどういうふうに動くのかと。2点目は、北海道に本当に来るのだろうかと。
3点目は、北海道にもし来たとしたら、要するに、監視体制というのはどうなっているの
- 60 -
かと。最後に、その結果はどうなのかと、この4点だけお話しします。ですから、余り時
間はとらせません。
これは、北大の斉藤先生につくってもらったのですが、福島原発からどういうふうに海
流が流れていくか。先ほど、池田先生が話しましたので、私としては余り細かい話はでき
ないかもしれませんけれど、これを見ると、寒流と暖流がぶち当たって、ここは世界三大
漁場ということで有名です。ぶつかった暖流と寒流が外に流れていくのはわかるのですが、
先ほどのシミュレーションでもありましたように、沿岸流というのは、逆に交流と反対側
に流れるのです。そういう特徴があります。それから、例えば津軽海峡も下の方の流れと
表層の流れは逆になることがよくあります。
これは、私もどこから持っていこうか悩んだのですが、これは気象庁が出している普通
の一般的な流れでして、色の濃いところは強いのです。先ほど、池田先生もモデルでいろ
いろ出していましたが、これを見ると、基本的には、皆さんご存じだと思うのですけれど
も、大きな流れがぶつかって太平洋の真ん中に流れていきます。
しかし、問題なのは沿岸流です。これは、ここに津軽海峡があるものですから、ここか
ら流れていった流れが逆にうずを巻かせたり、反対側に沿岸流を起こすということが一つ
問題になるわけです。
これも、北海道新聞に載っていたのですが、版権を買いまして、話していいですかと言
ったら、いいですよと。これを見ると、福島の沖から出ていったものは、太平洋を 30 年か
けてぐるっと循環するという予測が載っていました。多分、こういうものは正しいのだろ
うと思います。ただ、30 年という年数が、セシウム 137 の半減期とほぼ同じなのです。半
減期といえば半分になるということですが、30 年たったときに、半分になってもとに戻っ
てくる可能性がある。そのときに、暖流がこちらから日本海に入ってくるわけです。そう
すると、対馬暖流からさらに北海道の方に流れ込んでくる可能性があるということです。
これにも書いてありますように、表層 200mのところを主に動くということです。
今、新聞記事を集めて、要するに、北海道に本当に来るのかどうかが私の一番大事な関
心事です。これも道新に乗っていた記事です。これも道新さんに許可を得て、新聞でごら
んになった方もいらっしゃると思います。北海道に近いところから宮古市、気仙沼市、相
馬市の3点からボトルを流しまして、どういうふうに動いたかというのがこの流れです。
北海道に一番近い宮古市は、こういうふうに流れて北海道の近くまで来て、そして流れて
いった。それから、気仙沼の方は、途中まで流れてきて、また去っていった。相馬の方は、
これは福島原発に近いところですが、この辺にとどまっていたということです。ですから、
岩手県の宮古市から来たものは近づいたけれども、福島原発の近くのものは余り近くまで
来なかった。つまり、滞っていたということです。
これは、池田先生もおっしゃったように、陸岸のところに滞留していたのが、そうでは
ないかと思います。ですから、可能性として、北海道に近づく震災の破砕物、漂流物は、
岩手県とかからのものは来る可能性があるけれども、福島からのものは来づらいのではな
- 61 -
いかというふうな予測があります。
実際に新聞記事に書いてありますが、それを見ると、今のところ、北海道にはそんなに
簡単には来ないのではないだろうかという予測です。
実際に物が流れてきたときにどういうモニタリングをやったらいいかというのは、恐ら
く道庁も迷ったと思いますが、最初に私の方に話がありました。現実には、サンプルをし
て、衛生研究所で分析して、ホームページに載せて、常時公開しています。そして、この
新聞記事にありますように、すぐに対応して環境のモニタリングをしなければならないと
書いてあります。どこの新聞にもこういう記事がありますので、水産物も徐々に汚染が拡
大しているのではないか、福島中心にきちっとした生態系のモニタリングをしなければだ
めだということは当たり前で、それも当然やっていかなければならないことではないかと
思っています。
これは、道庁にも許可を得てホームページに載せています。北海道庁がどんなことをは
かってモニターしているのかというのがこれです。ここは赤で要点を書いています。
一つは、北海道の稲わらです。これは福島でもちょっと問題になりました。それから、
福島産のビーフもちょっと調べましょうということになって、調べています。それから、
北海道の観光地での空間線量です。それから、北海道での海水、海産物です。札幌市自体
も、水道水とか、降下物ですね。空間線量もはかっているのです。それから、北海道自体
も各地の水道水をはかっています。さらにビーチですね。海水浴場のオープン前とオープ
ン後をはかっています。それから農地です。これは大事なところなので農地はやります。
それから水田です。これらはすべて北海道のホームページに掲載されていまして、随時ど
んどん更新されていますので、見ることができます。
きょう、私は、海域への影響なので、シーウォーターとシーライフとビーチの数値を例
として挙げてみたいと思います。これは、震災が起こって即座に北海道の方で、室蘭の海
域、襟裳海域、釧路海域の3海域についてセッティングして、私のところに電話が来たの
です。どこがいいのでしょうか、どうしましょうかと。専門外なのでという話で、本来、
沖の方がいいのではないかという話をして、3点を選んでセッティングしてはかりました。
実際問題として一番大事なのは、人間の影響が一番大きなところではかるべきではないか
という話が出たのではないかと思います。それで、13 回以降は、ブルーのところは最初に
セッティングしたのですけれども、赤い方の港に、室蘭、襟裳、釧路の方に3点をセッテ
ィングして、継続して2週間ごとにはかっています。ですから、今も2週間ごとに随時新
しいデータをどんどん更新していますので、ホームページを見ていただければと思います。
これは、そのサンプルの一つですが、海水、ここに暫定規制値が書いてあります。ヨー
ドは 40Bq/L、セシウム 134 は 60 Bq/L、セシウム 137 が 90 Bq/L と、基準があるのですが、
実際はすべて見事に測定値で、いわゆる検出されずということになっています。
シーライフですが、これもコマーシャルキャッチというか、商業ベースで非常に重要な
ものとかポピュラーなものはやっていますし、それ以外にも、有名なマツカワとか、イカ
- 62 -
ナゴとか、これはほんの一部です。今、随時更新されていて、新しい魚種、それから、日
にちも私が出したのがちょっと早かったものですから、9月末のものとか、これしかない
ですけれども、10 月とどんどん更新されています。カキもありますし、スルメイカもあり
ますし、暫定基準規制値が、例えば、ヨウ素だと 2,000 Bq/㎏、セシウム 134 と 137 は 500Bq/
㎏という値が出ています。
特に、北海道の場合はシロサケが大事なものですから、シロサケはかなり、シロサケと
思っていたらアキサケと書いてあったりしますけれども、サケは北海道の漁獲高で高い方
で有名なものです。あとはサンマですね。こういうものはかなりシビアに頻度を上げてや
っています。
次に、ビーチですけれども、これもこれからずっとやっていくと思うのですが、日本海
側、太平洋側、もちろんオホーツクの方もやっていまして、これも規制値よりはるかに以
下となっています。
私は少し言い忘れましたが、海産物の中でよく見ると数字が全部違いますね。私、これ
は詳しくなくて、衛生研究所の友達がやっているのですが、ちょっと聞きそびれて、やり
方が違うと思うのです。ですから、物によって全部数値が違うのですが、これがはかった
ときの定量下限値であり、それよりは低いということで、これは後で質問されても答えか
ねるということで、先に言っておきます。
最後になりますけれども、では、今まではセシウムがなかったのかというと、皆さんご
存じのとおり、当然あります。これは、我々が 2000 年に石狩湾でコアをとって年代測定を
やったときのデータです。要するに、前にセシウムはなかったのかと言えばありますよと
いう話をしたくて出したものです。
これは、東京に降ったセシウム 137 のピークのです。皆さんご存じだと思うのですけれ
ども、1950 年代から 60 年にかけて核実験が行われて、そのときのピークが 1963 年あたり
にあるということで、年代測定をやるときも必ずこれを用います。そうすると、石狩川河
口のところで 20 ㎝の深さのところにピークがあって、恐らく 1963 年のはこれだろうとい
うことで、我々は同定に使っています。ですから、昔もセシウムは降っていましたという
話をちょっと、これが我々が年代測定をするときに気になっているということです。
リザルトというか、大したリザルトにはならないかもしれませんが、非常に大量の放射
性物質が降りました。それは大量に広がって行きました。それで、恐らく 30 年という過程
があります。ぐるぐる回るのでしょう。しかし、そのうち回ってくるということは、暖流
に乗って対馬海流からまた中に入ってくる可能性があるということです。
それから、現在のところでは北海道にそんなに簡単には寄ってきていないのではなかろ
うか。それから、今まで見せたいろいろなものでやっていますので、ぜひ北海道のホーム
ページをごらんになってください、そうすると、随時結果が見られますということです。
それから、今のところは非常に少ない値です。
もう一つは、これからどういう調査が必要かというと、恐らく、海流に乗ってくると沈
- 63 -
むのです。海流は海底地形によって流れが複雑に変わります。ですから、どこにたまるの
かということが今後は大きな問題になってくるのではないかと思います。ですから、海底
の地形をよく考慮したモニター場所を見つけて、きちっとモニターしていくことが大事な
のではなかろうかと思っています。
私も専門ではないので、めんくらいましたけれども、以上が結果です。
ご清聴、どうもありがとうございます。(拍手)
○阿部座長
ありがとうございました。
今のところ、北海道は、海洋汚染という点でまだ大きな影響を受けていないようですが、
今後、起こり得るべく自然災害、あるいは人為災害に備えて、今のモニタリングの体制で
いいのか、また、これからどんなことが必要なのか、その点に関して議論していただけれ
ばと思います。
どなたでも結構です。あるいはコメントでも結構です。
○白岩
北大の白岩と申します。
貴重なデータを見せていただきまして、ありがとうございました。
私の質問は、今回、福山先生にお願いしたのは、北海道としてどういうデータが出てい
るのかぜひ見たいという希望もありましたし、それでお願いしたのですが、結局、国の機
関でもいろいろはかられていて、北海道でもはかっている。あるいは、研究者が学会ベー
スでさまざまな活動をしているという構造があると思うのですが、それぞれがはかった結
果の連携ですね。研究者の方はちょっと違うかもしれませんが、国と道の連携はどういう
ふうになっているのでしょうか。
日本人が日本人に質問するのは変なのですが、私自身がわからないので、ぜひご紹介い
ただければと思います。
○福山
よくわからないというのが実態ですが、道庁の方で専門的な部署をつくっていま
して、私が直接聞いたのは、水産林務部の方と生活環境部の方に許可を得て、両者でモニ
ターをやっていました。
また、国の方とのつながりというのは、私が言うのも変ですが、我々は昨年から地方独
立行政法人になりまして、直接道庁と関係ないというか、そういう情報が余り流れて来な
いということもあります。道庁の方が来ていますので、逆にその方に教えてもらった方が
いいかと思います。
○阿部座長
どなたなのでしょうか。道庁の方、お手を挙げていただければと思います。
今回、データがすべてネガティブだったので、さほど連絡が頻繁でなくても問題はなか
ったと思いますけれども、もし、これがポジティブなデータだった場合にどうするのか、
全然違った機関が違ったデータを出してときにどうするのか、これは大きな問題だと思い
ます。
道庁の方、いかがでしょうか。なかなか言えないものでしょうか。
○福山
私が思うに、今の体制は非常にオープンになっていますので、衛生研究所ではか
- 64 -
るのです。私の友人がそこの部署でやっているのですけれども、ものすごく忙しいと言っ
ていました。ですから、次々にサンプルが運ばれてくる。ですから、そのデータを、よほ
ど変なデータでない限りは、もう一回、やり直すかどうかはあるかもしれませんが、素直
に出ているのではないかと私は思います。連携は、国にこれを出していいか、悪いかなと
いう相談はないと思います。
○阿部座長
よろしいでしょうか。
もしかしたら、あすの総合討論で、いろいろな研究機関がとっているデータをどう統合
していくのか、比較していくのか、そういったことが課題になると思います。
ほかにございませんようですので、福山さん、どうもありがとうございました。(拍手)
引き続き、このセッションは海洋汚染のことについてご発表いただいているわけですが、
もちろん、土壌の汚染も極めて重要であります。
次は、その土壌の汚染について、産業技術総合研究所の保高さんにお願いしようと思い
ます。よろしくお願いします。
「土壌中の放射性物質の状況、挙動、そして対策の課題」
保高
○保高
徹生(産業技術総合研究所)
皆さん、こんにちは。
産業技術総合研究所は茨城県のつくば市にあるのですけれども、今日はなぜか、海のセ
ッションなのに呼ばれて参りました。しかも、私は、この会場に来て知っている人はわず
か2人しかいなくて、かつ、恐らく発表者の中で一番若いということで非常にプレッシャ
ーを感じていますが、お手やわらかによろしくお願いします。
私は、今日は、土壌中の汚染の濃度、挙動、そして対策の課題ということでお話をした
いと思います。
今日話す内容は、産総研の中で取り組んでいるテーマが2割ぐらいで、あとは国とか、
私たちの隣にある国環研さんなどと共同で取り組んでいたり、もしくは彼らがはかってい
るデータを、データの共有化という視点からお話しできればと思っております。
この写真は、私は先週も4日間福島に行っていまして、これは飯舘村というところで、
ちょうどこの向こう側 30 ㎞のところに福島第一原発がございます。紅葉が非常にきれいで、
福島県はいいところだなと思いながら行ってきましたが、ここの線量は大体 10μSv/h、年
間に直すと大体 80mSv ぐらいの被曝量がある場所です。当然、ここは計画避難区域という
ことで人が住むことはできませんが、非常に高線量です。ただ、植物もしくは生物等は普
通に生きております。
こちらは飯舘村の農地ですけれども、ことしの秋は作付けを全くしなかったということ
で非常に荒れています。ここ数百年やってきた農地というのは、1回作付けをしないだけ
でこんなに荒れるのかということで、我々は、農業系の方と一緒に見ながら、さてこれを
どうしていくかということもいろいろ議論をしております。
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一方、計画的避難区域の外においては、これはある住宅地で、伊達市の霊山というとこ
ろですが、皆さんは普通に生活をされております。ただし、ここのエリアの空間線量が大
体1μSv/h で、年間の被曝量として8mSv ぐらいということで、普通の生活をしながらも、
いろいろなリスクを抱えながら、不安を抱えながら生活されている現状がございます。
きょうお話しする内容は、最初に環境中の濃度、特に海の話は既に出ましたので、土壌
中及び陸域全体のお話を少ししまして、その後、挙動、そして、もし時間があればという
ことで対策の話を少しさせていただきたいと思います。
まず、陸域の挙動ですが、原発から大気中に出たものは、先ほどからお話があったとお
り、雨によって落ちて、川とか、森とか、土壌とか、海などに落ちていきます。それぞれ
について、今、現状はどういう濃度になっているのかということを、皆様と共有できれば
と思っています。
まず、大気です。
これは国環研さんがやられているシミュレーションの結果でして、3月 15 日から福島第
一原発から放出されたものを、大気中濃度して表現しているものです。今、15 日ごろに関
東地方に一度来まして、その後、18 日からずっと海へ偏西風で来て、21 日ごろにまた関東
に来て、という状況です。
先ほど、陸域に何%落ちたかというお話がございましたが、国環研さんのモデルの試算
によると、陸には大体 22%、海には 78%というふうにホームページで公開されております。
では、実際に大気中濃度がその後どうなっていったかを示したのがこちらのグラフです。
これは茨城県のつくば市、我々の住んでいるところのデータですけれども、縦軸が大気中
濃度です。濃度の単位は置いておきまして、一つ上がると 10 倍になると思っていただけれ
ばと思います。3月 20 日ごろに一度上がりまして、その後、濃度がどんどん下がっていき
まして、5月の段階では1万分の1から 10 万分の1ぐらいまで下がっており、現段階では
もっと濃度が下がっているということで、大気中の濃度は、基本的に原発周辺以外は低減
している状況でございます。
続いて、川と底質です。
これは、阿武隈川です。福島県は中通りというところに阿武隈川が出ていまして、これ
は仙台の近くの名取の方に抜けております。あとは、海の際の方に関しては小さい河川が
どんどん海の方に出ていく状況でして、3月のころは、当然、河川中から濃度が出ており
ましたが、上のデータ見ていただきますと、5月、7月にはかったところ、定量下限値以
下のデータで、川の水からは検出されていない状況でございました。
一方、底質、川の下にある泥に関しては、下の方のデータを見ていただきますと、5月
の段階、7月の段階とも 100~30,000Bq/㎏ぐらい出ておりまして、底質の部分で濃縮がか
なり進んでいる状況が見てとれます。この底質の影響なのか、福島県内の川魚に関しては
一定の濃度が出ているのが現状でございます。
続いて、土と森林について、簡単に状況をご説明したいと思います。
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この図は、先ほども出ていましたが、今、放射性物質がどの辺に落ちたかを示している
のですが、福島第一原発から北西に延びてきまして、福島県の中通りと言われている部分
から那須の方へ抜けて高濃度のものが出ています。
あと、私が住んでいるつくば市はここですが、3月 20 日ごろに、この上あたりにプルー
ムが来て、ここでちょうど降雨があったということで汚染があるということで、風向きと
降雨が非常に大きなファクターになっています。
続いて、国環研さんが雨の量を含めてシミュレーションした結果を、お見せしたいと思
います。当然、許可をいただいています。
左側が大気中の濃度、右側が地面に降り積もった蓄積量です。ここを見ていただくと、
15 日ごろにだだだだだっと福島県の北部に汚染が広がったことがわかりまして、また、20
日~22 日ぐらいに汚染が広がっていくということで、ちょうど陸側にプルームが来たとき
に降雨があるということが、こういうシミュレーションによってかなりわかってきており
ます。これは、国立環境研究所さんのホームページで見ることができます。
あとは地下水です。地下水に関しましては、環境省さんがかなり調査をされておりまし
て、福島県内 111 地点で調査をした結果、すべて 10Bq/L 以下だったということで、原発の
周辺はわかりませんが、20 ㎞、30 ㎞圏外においては、地下水の汚染は今発生していないと
いうことになっております。
ということで、ここまでのまとめとしましては、大気や河川の水の濃度は低減しており
ますけれども、森林や土、底質といったところにたまっております。そして、地下水に関
しては、今後、どうなっていくかということで、我々の方もいろいろシミュレーション等
をしているところでございます。
続いて、土壌中の挙動ということで、土壌に入ったものがどういうふうに動いていくか、
どのように濃度が変化していくかということについてお話をしたいと思います。
土壌中では大きく四つのファクターがございまして、一つは、先ほどからお話がある半
減期、物質自体が崩壊して濃度が減衰していくもの、これによる濃度減衰です。あとは、
雨とか風によって飛んで、もしくは雨水によって流されて濃縮するということで、今、マ
イクロホットスポットとよくいわれている雨どいの下にたまっていくというのはこういっ
たものの作用によります。
あとは、地下への浸透です。そして、最後に植物への吸収です。この四つの評価をして
いれば、おおむね土壌中の挙動は把握できます。きょうは、このうちの半減期と植物への
吸収、そして、地下への浸透についてお話をしたいと思います。
こちらのグラフは、縦軸がヨウ素、セシウム 134、セシウム 137 の濃度でございます。
オレンジがヨウ素、青がセシウム 134、緑がセシウム 137、オレンジは半減期が8日、青は
半減期が2年、緑は半減期が 30 年ということで、これは汚染が発生してから3カ月ごとの
3日平均のデータをとったものですが、ヨウ素に関しましては、このように半減期に従っ
て濃度がきれいに低減しているということで、数十万ベクレルあったものが6月の段階で
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定量下限付近まで濃度が落ちていることになっておりますが、セシウムに関してはほぼ一
定濃度を繰り返しています。
つい最近のデータを見ていきますと、セシウム 134 と 137、それぞれ半減期は異なりま
すので、これらの濃度差が徐々に開き始めている現状がございます。
続いて、地下への浸透についてお話をしたいと思います。
地下への浸透に関しては、ヨウ素とセシウムで挙動が大きく異なります。ヨウ素に関し
ましては、土壌中での移動が比較的早いです。これは、1価のマイナスのイオンというこ
ともありまして比較的早いのですが、半減期は8日ということで非常に素早くなくなって
いくということで、イメージすると、1年後には多少落ちているのだけれども、半減期が
早いためにほとんどなくなっている状況になります。
一方、セシウムに関しては、移動性が非常に低く、半減期も長いということで、地表面
付近に長く長くとどまっていくことになっております。チェルノブイリの事例でも、大体
8年後ぐらいで5センチまでにしか浸透しないというような事例が確認されております。
なぜセシウムが落ちにくいのかということに関しまして、一つのポンチ絵を出させてい
ただきます。
砂に黒いものがよく入っていると思いますが、それは雲母と言われているものです。そ
の黒雲母と言われているものを拡大すると、1.4ナノメートルの隙間があるのです。こ
の隙間にセシウムの水和物がぴったりと入るのです。これは、フレイド・エッジと言われ
ているのですが、ここに一度入ってしまうとなかなかとれないということで、雲母は日本
のどの地にもある程度入っていますので、こういったところに入ることによって動きにく
くなっていることがわかっています。これは、原発の事故の前からこういうことが判明し
ておりました。
実際に我々がいろいろサンプリングをしておりまして、例えば、これは福島県の郡山市
での土壌のサンプリングの結果ですが、震災後4カ月たった後でも、地表1㎝に大体 80%
のセシウムがあるということで、ちょうど先週もサンプリングをしてきたのですが、簡易
検査の結果でも、現段階でも 70%程度は1㎝にとどまっているということで、非常に動き
にくいということが確認されております。
こちらの内容については、今、産総研のホームページでも公開されておりますので、も
しご興味があればごらんいただければと思います。
最後に、植物への吸収ということになります。
植物への吸収というのは二つの観点がございまして、一つは、植物による浄化において
は吸収が多い方が有効である。一方、我々が食べるものに関しては吸収が低い方がいいと
いうことで、どのように吸収されるかということが非常に重要なファクターになってまい
ります。
植物への吸収は大きく二つございまして、一つは、葉っぱの表面から吸収される経路、
これを直接吸収とか葉面吸収とか呼んでおりますが、大気中から降ってきたものが植物の
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葉について、それが気孔等から植物の中に吸収される経路です。
もう一つが、土壌まで落ちてしまった後に根っこから吸収される経路です。これは経根
摂取の経路と言われています。それぞれの作物の種類とか、もしくは、その大気から降下
があった時期に作物を育てていたかどうかによって、これらの影響は大きく異なります。
今から二つほど事例をお見せしたいと思います。
一つ目がホウレンソウの事例です。
左側がセシウム 134、137、右側がヨウ素 131 のデータでして、縦軸がホウレンソウ中の
濃度、横軸が日付になっていまして、ここが3月から9月までとなっておりますが、ホウ
レンソウというのは、基本的に葉面からの吸収がほとんどで、根からは余り吸収しないこ
とがわかっていますので、これを見ていただきますと、大気中に濃度がある程度あった3
月から5月にかけては高濃度のセシウムなりヨウ素が出ていたのですが、それ以降に関し
ましては全く出なくなっております。これは、野菜全般に関して言えているのですけれど
も、福島県内も含めて、野菜の吸収というのは、葉面からの吸収がなくなった今、ほとん
どなくなっている状況でございます。
このデータは、厚生労働省、福島県が日々更新してオープンにされていますので、ご興
味のある方は、ホームページで見ていくことによって、今、どういったものがどういう濃
度にあるかということは確認が可能になります。
続いて、米です。
米に関しても、やはり、皆様、いろいろご心配があり、実際に本作付が終わって収穫が
終わった後にどうなるかという話があったわけですが、米に関しては、10 月 20 日までの
データで、福島県内、県外を合わせて 3,000 近くのデータが出ていまして、そのうちの 92%
が定量下限値以下で、多くは 10Bq/㎏とか 20Bq/㎏以下であるということです。
そして、100 Bq/㎏以下のものが 7.8%、100 Bq/㎏~500 Bq/㎏が 0.2%、500 Bq/㎏を超
えたものが1検体だけあったということで、このデータから見ていきますと、日本の暫定
の基準値は 500 Bq/㎏という値がありますが、基準値を超えているものはほとんどなかっ
た状況でして、米に関しては、当初心配されていたよりも吸収が少なかったと言われてい
ます。
これは、いろいろな理由があると言われていますが、根からの吸収の能力はそんなに高
くなかったことと、代かき等によって土を 15 ㎝までかき混ぜる行為をしますので、それに
よって濃度がある程度下がったということがあるのではないかといわれています。
では、あと5分となりましたが、5分で対策についてお話をできればと思います。
放射性物質の対策は大きく二つあります。
一つは、現地に置いたまま管理していく方法です。例えば、空間線量を下げるため、こ
の放射性物質の上にこういう土を敷いて空間線量を下げます。例えば、土を 30 ㎝敷くこと
によって、盛り土をするということによって、空間線量は大体 99%カットできます。コン
クリートを敷くともっとカットできます。ですから、持って行き先がないような場合はこ
- 69 -
ういった対策も当然有効になってまいります。
もう一つは、現場に置いておきながら深く埋めてしまう方法です。これは福島県内の小
学校でよくとられていた方法ですが、こういった方法をすることで空間線量の低減ができ
ます。ただし、どこに行くかわからないという危険性も当然出てきます。
もう一つの方法は、浄化とか処理といわれますが、実際にここにある放射性物質を取り
除いてどこかに持っていく、どこかで何らかの処理をしますという方法になります。
放射性物質の対策において一番重要なポイントは、除染、除染といいますけれども、そ
のもの自体は絶対なくならない。半減期以外はなくならないということで、例えば、雨ど
いの泥を水で洗い流すということは、当然、下水処理場や河川に流れてどこかにたまって
いくということで、最終的に放射性物質がなくならないということは、どこかで管理しな
ければいけないということを最後まで視野に入れて、我々は取り組まなければいけないと
いうことを日々考えながらやっております。
一つ目の浄化の方法が、植物に吸収させるということです。特にヒマワリに吸収させれ
ばいいのでないかという話がありまして、これは川俣町での実証試験の結果ですけれども、
実際には土の中の2千分の1ぐらいしか吸わず、
「何年かかるんや」ということで、なかな
か難しいという結論に達しております。ただし、よく吸う植物も当然あるかもしれないの
で、そういった研究は当然続けなければいけません。ただ、問題なのは、その回収した植
物をどこへ持っていくかということがまだ決まっていない状況でして、それも考えた上で
の選択となってきます。
二つ目が、実際に土をとって、こういった最終処分場に持っていって埋める。もしくは、
これは先週の月曜日に飯舘村に行ったときに、農水省の放射性物質の封じ込め容器第1号
が置いてありまして、これを 150 万個つくるとかつくらないということをいっているので
すけれども、こういった容器に入れて一時的に保管をするといった方法がございます。こ
の方法のいいところは、当然、どこかから持ってきて、ここの部分にためられるというこ
とで、人の健康への影響とか土地利用は制限されなくなります。ただし、今、汚染土壌が
東京ドーム 23 個分、2,300 万m 3 あるといわれていますので、そういった場所をどう見つ
けていくかということが非常に大きな課題になっています。
最後に出てくるのが、今、我々がよく取り組んでいる課題でして、抽出です。これはど
ういうものかと申しますと、土に入っている放射性物質を、土と放射性物質に無理やり分
離するというものです。この分離に関しては、水で洗って分離をする方法があったり、い
ろいろな薬液を使ったり、高圧で、ホウ酸で溶かしたり、いろいろな方法がございまして、
これは、我々産総研、もしくはいろいろなゼネコンさん、研究機関がそれぞれの方法で取
り組んでいるところでございます。
この方法の問題としては、最終的にはきれいになった土を再利用できなければ意味がな
いというところで、この土の受け入れ先があるかどうかと、高濃度に濃縮された放射性物
質をどこかに置かなければいけません。当然、高濃度になると扱いにくくなりますので、
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その部分が非常に難しくなっていきます。これは、土壌洗浄をやるとなった場合のプラン
トは、このように大規模なプラントでやることになります。
実際に土壌洗浄をやったらどれぐらい効果が出るか、という我々の試験結果があるので
すが、これが洗浄前、洗浄後の濃度ですが、砂の土であれば大体 10 分の1くらいまで落ち
るということになります。15,000 Bq/㎏のものが 1,500 Bq/㎏ぐらいまでになって、これ
を再利用していくということになるのですが、そもそも 1,500Bq/㎏の土を使ってくれると
ころがあるのかという課題が出ていまして、この方法自体、技術的には確立できたとして
も、実際に運用していくとなると課題が多い状況でございます。
こういったいろいろな課題がございますが、最後に、個人的な見解として、どんな問題
があるかということでまとめさせていただきます。
一つは、2,300 万m 3 といわれる汚染土壌の保管先の確保です。これは、国が用意する、
自治体が用意する、いろいろありますけれども、一応、今のところは自治体が仮置き場を
用意するということで検討しているのですが、設置場所には住民の方との話し合いで困難
があります。
二つ目は、実際にどういう対策方法が本当に有効なのかということをだれも評価してい
ません。Aという方法、Bという方法、それぞれいいよという方法はあるのですが、ベス
トミックスは何なのかという解が出ていません。
三つ目が、これは水文学者の方が特に出番かと思うのですが、再汚染の可能性が否定で
きません。特に、福島県は森林が70%を占めるところでして、そこから放射性物質がま
た流れ込んでくる可能性が否定できないのです。そういったところをどう評価していくか
というところも取り組んでいかなければいけないかと思っております。
少し時間をオーバーして恐縮でございますが、どうもありがとうございました。(拍手)
これは、計画的避難区域のおじさんたちと一緒に飲んでいる様子です。表面上は、みん
な元気ですよということです。
○阿部座長
ありがとうございました。
保高さんの発表も、極めて明瞭なものでありました。ご質問はありませんか。
社会科学をやっている者としては、このように明瞭に説明されるとかえって疑ってしま
うようなところがありますが。向こうで手が上がっていますね、はい。
○竹田
いつも自分ばかり質問させていただいて、どうもありがとうございます。
本当に汚染物質がたくさんあって置き場がないぐらいで困っております。今、土の中に
埋めるということでしたが、今、研究でわかっているのは、土の中にたくさん微生物がい
て、埋めた汚染物質がコロイド状になって地面を移動して、ずっと何キロも先に移動する
ことがわかっているのです。ですから、それをどうするかという問題があります。
今、地表か何かでグラウンドなんかで今やっているでしょう。それは、日本製ではなく
て、アメリカ製のシートを使っているのです。分厚いものです。なぜ日本製がないのか。
その半減期は 30 年だから、それを 100 年以上持たせなければいけないからそれを使ってい
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るのだけれども、本当にそれが持つのかどうか。日本でもそういうものをちゃんと開発し
てやらなければいけないと思います。
先ほど、汚染土壌を洗うと言ったでしょう。放射性物質だけを吸着する、界面活性剤を
開発しなければだめなんだ、総合研究所でそういうものを。それを開発したら、本当にた
くさんの汚染物質がとれていくから、すごく大事です。それに、今、使われていない鉱山
がたくさんあるんだ。炭鉱はまだ掘る可能性があるからだめだけれども、掘り尽くした鉱
山がいっぱいあるから、そこに埋める可能性もあるし、そういうところもちょっと研究し
た方がいいと思います。
○保高
ありがとうございます。
答えられそうなのは1点目と3点目ですけれども、1点目の1㎞程度移動するというお
話ですけれども、基本的にコロイドで移動するのは地表面付近で非常に移動しやすいので
す。
○竹田
もっと深くでも移動したといったよ。
○保高
我々も、いろいろ実験をしたり、シミュレーションをしたり、現地でモニタリン
グをしていますが……。
○竹田
アメリカのちゃんと研究した人で、アメリカで埋めていた物質が何キロも先であ
らわれたというデータがあるのです。それは、地中深く埋めてあるものが何キロも先に移
動しているというデータがあるのですから、そういうものをちゃんと検討しなければいけ
ないですよ。
○保高
その件に関しては、私も地名は忘れましたが、アメリカのハンフォードかどこか
で、廃棄物を埋めたのに関する移動でして、核種の中でも非常に多くの核種がございます
ので、セシウムのように非常に移動しにくい核種もあれば、移動しやすい核種もあります。
その移動しやすい核種を地下深くに埋めてしまって、地下水層の中で移動するような状況
であれば、そういった状況も起こり得ます。確かに、私もその論文を拝見しておりまして、
そういった論文だったかと思います。
今回のようにセシウムがメインの状況では、地表付近もしくは土壌中の移動性は非常に
低いと考えております。
あとは、後ほどでも。
○阿部座長
○会場
よろしいでしょうか。ほかに、どうぞ。
お伺いしたいと思います。先ほどおっしゃいました黒雲母ですけれども、実際に
それがどの程度の状況なのか、具体的に紹介していただけないでしょうか。
要するに、黒雲母を使って実際のセシウムを吸着して、その移動にどの程度の効果があ
るのでしょうか。
○保高
実際に黒雲母に吸着試験をしたところ、99.9%以上出てこない状況になっていま
す。水溶出においては、です。ですから、黒雲母に吸着させるというのは非常に有効な方
法ではあります。
- 72 -
ただ、一方で、黒雲母だけに吸着させると、雲母自体の量が砂の中でそんなに多くない
ので、廃棄物の量の方が多くなってしまうという課題がございます。ですから、例えば、
ゼオライトとかプルシアンブルーと言われるより高性能な吸着剤といわれるものを、今、
我々の方でも、もしくは国の方でも検討しているところでございます。
○阿部座長
よろしいでしょうか。
まだ質問があるかもしれませんけれども、時間になりました。
保高さん、どうもありがとうございました。(拍手)
それでは、セッション3の最後のご発表となります。
皆さんも感心が高いと思われます、魚介類あるいは野生動物への影響について、松田さ
んにご報告いただこうと思います。よろしくお願いします。
「水産資源・野生生物への影響」
松田
○松田
裕之(横浜国立大学環境情報研究院)
皆さん、こんにちは。松田と申します。
前回は、知床のお話をさせていただきました。今回、私は別に放射線の専門家と言うわ
けではありません。ただ、日ごろ、水産資源管理などでリスクの計算をしているところが
ありまして、そういう計算をやってみるということで、今、お話をさせていただきます。
水産研究所の人や放射線関係者や海洋学者など、そして保高さんですね、今、立派な発
表をいただきました。保高さんが学位を取るときの指導教員が私だったというだけであり
ます。そういう知恵をおかりしながらお話をしたいと思います。
私は水産学会員でありますが、私たち水産学会員は、魚自身への影響というよりも、魚
自身が汚染されてその魚が売れなくなるということを非常に心配しております。
同時に、水産学会としては、最大の問題は津波地震です。これによって、東日本の多く
の漁村が全部やられてしまいました。これをどうしたらいいのかというのが最大の関心事
でして、それに比べれば、この原発地震の話はその次なのかもしれません。
きょうの話としましては、先ほどから何度もありますように、3月 11 日の大地震から
16 日ぐらいまで一体何が起こったのかということです。それから、放射線に関するモニタ
リングの結果です。私自身がデータをとっているわけではありませんが、それはどのぐら
いか。実際にそれでどのぐらい健康に影響があるか、つまり、がんにかかるのか、そして、
実際に水産物がどれだけ汚染されているかという話をしたいと思います。
この辺は予想どおり池田先生がお話しになりました。津波の写真は、世界じゅうでこう
いうふうに流れていると思います。非常に大きな津波が起こって、これによって福島第一
原発も壊れてしまったところがあります。津波の高さは非常に高かったということです。
日本には 60 基近くの原発がありますが、そのすべてが壊れたわけではありません。壊れ
たのは福島第一原発の1号炉、2号炉、3号炉です。それから、4号炉、これは動いてい
なかったのですが、4号炉にためていた燃料プールが沸騰してしまったということが非常
- 73 -
に大きなダメージでした。ほかの原発は、かなり危なかったものもありますが、一応、大
丈夫だった。これは不幸中の幸いだったと思います。もし、二つ以上の場所で同じような
深刻な事態が起こったら一体どうなったのか、ということを考えなければいけません。
3月 11 日に大地震が来て、その1時間後に津波が来ました。そのとき、私は札幌におり
ました。ちょうど日本生態学会を札幌でやっていた最中でして、私は、その日、東京に帰
るつもりでしたが、帰れなくなりました。札幌の地もかなり揺れたことは札幌の皆さんも
ご存じだと思います。
その後、深刻な原発の水素爆発が起きたのは、14 日~16 日ぐらいの間が特に大きかった
ということです。
ちょっとだけ見せますが、その近くの放射線量の濃度がどのぐらい高くなったかという
ことです。3月 11 日が津波で、15 日ぐらいからどんどんどんと水素爆発で多かった。こ
れはウィキペディアからとりました。日本語版のウィキペディアですが、なぜか、これを
よく見るとドイツ語です。
この辺の話は、直後にいろいろな方がやられていまして、とにかく燃料の破砕も含めて
かなり深刻でいろいろなものが出てくるぞという話がありました。
これは、先ほどから皆さんが何度も見ている計画的避難区域、そして緊急時避難準備区
域です。これをロシア語でどう訳すか、今、考えなければいけないと思いますが、そうい
う地域を設けて、20 ㎞圏内だけでなく、30 ㎞圏内、さらにそれを広げた形で避難を勧める
というところがありました。ただ、この地域に関しては9月 20 日に解除されております。
また、先ほどの池田さんの絵にはありましたけれども、3㎞以内というものがありまし
た。多分、3㎞以内は、今後もかなり長い期間、立入禁止などになるかもしれません。
海の話は、池田さんがされたとおりです。
先ほど、ロシアの方からも、ロシアも調査していただいたということがあって、そうい
う調査が日本だけでなくて精力的に行われているというのは、むしろ日本にとっても安心
かと思います。
先ほどの池田さんの話に一つなかったのは、ウッズホールですか、アメリカの調査船も
入って調査をしております。多分、それも海洋学会でデータを共有されていると思います。
そういう国際的なモニタリング体制ができているということが一ついいことかと思います。
この事故の直後は、日本政府は何をやっているのだ、日本の学者は信用できないと、い
ろんな不信がうず巻いておりました。そういう中で、そういう調査がちゃんと行われてい
るということが大事なことであると思います。
特に、私たちの関心は、海、そして、先ほど私が申し上げたように、水産物にどれだけ
大きな影響があるかということです。NHKの報道でもよく流れていたのですが、ここに
穴があって、ここから排水溝の中にだっと水が流れているのですね。これが海を汚してい
るのだと、4月2日でしたか、そういうふうに言われて、これを一生懸命止めようとして、
4月6日にやっと止まったということがありました。
- 74 -
その報道を聞いている中で、私たちは、こんなのは氷山の一角で、きっと、そういうも
のがいっぱいあるのだろうと、私も思っておりました。ただ、後のデータを見てみますと、
これが主要な海への汚染源であった。もちろん大気からは来ているのです。海水に直接流
出するというものでは、主要な汚染源であったとされています。
そして、後から海の中の濃度から計算すると、3.5 ペタベクレル(PBq)ぐらいです。ペ
タというのは、キロ、メガ、テラ、ペタということで、すごく大きな単位ですが、そうい
うものが放出されたらしいということになります。大気中には、もっと大きなもので、そ
の一部は海に行きました。先ほどの保高さんの話ですと、8割ぐらいが海に落ちただろう
というお話でした。
その後、原発の事故を起こしたので冷やし続けなければいけませんから、水、特に海水
をどんどん注入して、冷やしていきました。そうすると、汚染された海水がどんどんでき
ていて、タンクにどんどん貯めていたのですが、すぐに一杯になったということがありま
す。タンクが足りなくなったので、そのタンクの水の中で特に汚染の度合いの少ないもの
を海へ流しました。事故で流れるのではなくて、わざと流すのかと非難ごうごうでしたけ
れども、計算したところ、それによって流れた計画的な排出は、けたが非常に低いものだ
ったと今は言われております。
これも、電力中央研究所の津旨さんという人からの分析を借りてきたのですが、これは
観測データです。セシウム 137 の濃度です。先ほどの池田さんの話ですと、このレベルが
バックグラウンド、事故がないときにはこの1ぐらいになるということです。これも、自
然というよりは、過去の核実験によってこのぐらいのレベルが今あるということです。
それに対してはるかに高いものが、原発の施設のごく近くの海の水であったというとこ
ろです。それがどんどん下がっていくというのは、先ほどのお話のとおりで、3月中旬に
そういう排出が起こって、それが4月6日にとめてから、みるみる下がっていった。みる
みるといっても、すぐにゼロになったわけではありませんが、99%以上は下がったという
のがあります。
ですから、先ほども申し上げたように、報道でもいっぱい流れたあの排出が。海への主
要な汚染源であったと考えられるわけです。
ただ、その後ずっと同じように下がるかというと、同じように下がっていません。もと
の背景の10倍ぐらいで維持されています。やはり、それだけが汚染源ではないのです。
ほかにも排出が続いているということです。それを、今、完全にシールドを張ってとめよ
うというような計画をつくっているところです。
もう一つ別の津旨さんの分析を紹介しますと、ヨウ素 131 とセシウム 137 の比率です。
先ほどの保高さんの話にもありましたように、ヨウ素 131 は8日という短い半減期で放射
線がどんどん減っていきます。そうしますと、セシウム 137 は 30 年ですね。それによって、
同じ汚染されたものでも、ヨウ素がだんだん減っていくので、この比率がどんと下がって
いきます。この片対数グラフにして、緑の理論式に従って下がっていきます。実際に観測
- 75 -
されたデータもそのように下がっていることがわかります。これが何を意味するかといい
ますと、最初の汚染源、同じものがずっと続いています。新たに核反応が起こって別の汚
染が加わっていることはないだろうということが、ここから示唆されるわけです。ただ、
この辺でずれてくるのは、それ以外の要因とか、一つの原子炉だけではなくて、三つ壊れ
てしまいました。この辺がチェルノブイリと違うところですが、使用済核燃料プールも火
災したといういろいろなものがありますので、この下がってきたところがずれております。
このような、かなりきれいなデータを探してくるのも、環境科学においては非常に重要
なことであると思いました。
ですから、主要な海への汚染は4月6日にとまったであろう。ただし、すべてがとまっ
たわけではないというのがこの分析です。
そういうふうに見ますと、先ほどの池田さんからの話にあるように、1、2、3と三つ
の原子炉がメルトダウンを起こしました。それから、主要な心配はヨウ素 131 です。これ
は、先ほど保高さんのお話にもありましたように、3月、4月は我々みんな心配しており
ましたが、その後は物理的な半減期が8日と短いこともあって、かなり安心できるレベル
になりつつあります。そして、セシウム 137 は 30 年ですから、まだ心配であるという事態
です。
もう一度繰り返しますが、原子炉のそばにあった排出口からの排水が主な排出源で、そ
れはとまっているわけです。
これからのお話は、そういう意味で水産物への影響は、野菜も含めてですが、率直に申
しましてゼロでありません。3月に事故の起こった当初は、まず、3月の事故の直後にア
メリカ人がいっていたのは、この原発の放射線のリスクは、何より安全かという比較の対
照をするのですね。彼がいっていたのは、携帯電話で電話をしながら運転するよりは安全
だということです。よほど危険なので、それは皆さんやめてください。
もうちょっと後で、私も含めていっているのは、自分の家にヘビースモーカーが同居す
るようになった、そこで間接的に喫煙する、それによってがんにかかるよりは安全だとい
うことです。もちろん迷惑なことですが、そのぐらいのレベルであるというような議論が
ありました。
ゼロではありませんが、この農林水産省のスローガン、キャンペーンは、別に原発だけ
のことをいっているわけではなくて、東日本全体のことをいっているわけですが、農産物
を食べる、あるいは買うことによって彼らを支援してほしいというスローガンです。これ
は、農水省の方で4月ぐらいからやられていると思うのですが、3月下旬から私と電子メ
ールを交換した人は、私の方が先にこのスローガンを電子メールで使っていたことは、私
の友人ならご存じかと思います。その意味では、農水省が後からやったといえます。
先ほどの保高さんの絵にもありました。この 20 ㎞圏内に人は住んでおりません。ここに
一度行こうとしましたが、厳重に、どの道路から行ってもブロックされます。
ただ、それ以外のこういうところは走ることができます。そして、飯舘村のそばとか人
- 76 -
が住んでいるところはありますが、農業をやっていません。去年と比べて草ぼうぼうにな
っています。先ほどの保高さんのとおりですね。ということは、単に放射線のリスク、健
康への被害だけではなくて、そこの経済、社会、それが非常に大きな痛手をこうむってい
るということが大きな問題です。
もう一つは野生動物ですが、チェルノブイリのときにも野生動物にマイナスの影響があ
るという感じで、当然、人間に健康被害があるのなら動物にもあるだろうということで、
もちろんあると思います。例えば、人間だったら1万人に1人が亡くなるということは、
がんにかかることは大変だということはあります。動物にもそれだけあるかもしれません
が、むしろこちらのBBCニュースでいわれていることは、人間がいなくなることによっ
て、そこで動物が野放しになっていて、そこでふえているという現実です。そういうこと
によって、それは放射線でふえたわけではありません。原発事故によって人がいなくなる
ことも含めればふえるという効果があって、日本は、実は今、野生鳥獣がふえ過ぎて困っ
ている農村がいっぱいあります。人間はもうとても取り切れないのです。管理できません。
これは、シカが増え過ぎるということはイギリスやアメリカでも起こっています。管理で
きなくなっているのです。しかも、撃とうとすると、彼らは避難区域に逃げ込みますから、
人間はそこまで追っていけません。そうすると、そこで幾らでもふえて、周辺に被害をも
たらすという心配が出てくるわけです。
水産物への影響です。先ほど、保高さんからホウレンソウに関して見せていただきまし
たけれども、当初は非常に高く、暫定基準値から一けた以上高いものも、これはヨウ素の
例ですが、セシウムの問題もありました。ヨウ素は半減期が8日ですから、どんどん減っ
ていきます。ただ、汚染されているものではなくて、そうでないものもいっぱいあります。
単純に言うと、これを無作為に1日野菜 400g、魚を 80g食べ続けても、摂取量はそれほ
ど大したことはありません。この暫定基準値以上のものは市場には出回らないはずですか
ら、そうしますと、さらに人間の被曝量は少なくなります。どのぐらい少ないかと申しま
すと……、その前にもう一つです。
もう一つの心配は、生物濃縮が心配だという話があります。例えば、このセシウムです
が、生物学的半減期というものがありまして、筋肉に蓄積しますが、それは代謝によって
だんだん失われます。大体 30 日ぐらいで生物学的半減期というもので、そんなに長くはた
まってはいかないというデータがあります。
さらに、食物連鎖を通じて、例えばDDTは1万倍と蓄積するという話がありますけれ
ども、せいぜい海の水の濃度に対して 10 倍から 100 倍の間にとどまると。ストロンチウム
という物質がありまして、これがかなり心配ではないか。なぜならば、物理的半減期も 30
年ぐらいあるし、骨にたまります。ただ、吉田勝彦さんがおっしゃるには、上位捕食者、
私もサンマの骨はいっぱい食べます。ただ、蓄積した後、マグロの骨を食べる日本人はい
ないと思います。つまり、上位捕食者の骨を直接摂取すれば、確かに汚染を気にすること
はあるかもしれませんが、その心配はないということです。むしろ、心配は海藻です。海
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藻はヨウ素が非常に定着します。この間の3月に起こったころはまだそんなに心配はなか
ったです。その次のときにどうか、一応気にされた方がいいのではないかと思います。チ
ェルノブイリのときの教訓から、そういうことになると思います。
ほかの魚は、特に海底の泥に影響を受けるような生き物の場合は、セシウムはずっと残
っておりますので、3年ぐらいずっと濃度が高い状態が続く可能性があります。ただ、そ
れは暫定基準値を守っていればそんなに心配ありません。その基準値も、今、さらに5分
の1に下げられようとしています。ちょっとやり過ぎではないかと私は思いますが、そう
いうことになります。その基準値を厳しくすればするほど、農業と水産業ができなくなる
という大きな問題が起こります。できなかった漁業者に対してはむしろ保障するといって
います。保障するかもしれません。ただ、例えば、築地の市場の人たちは、おれたちには
何の保障もないといっていました。つまり、巡り巡っていろいろな産業がそこにぶら下が
っているのですが、その全体に対する保障はありません。せいぜい、例えば、年間 11 mSv
であるとかというぐらいです。それで、内部被曝、これはチェルノブイリではかなり大き
な問題になりました。それは、ミルクをずっと汚染されて飲み続けたからだと伺っており
ますが、今回は、今のところ、その心配は特にありません。この間、牛肉からセシウムが
検出されましたけれども、それもすぐにとまっています。そういう体制ができていれば、
その心配はないと考えていいと思います。
結論を申しますと、水産物は、確かにこれからも検出され続けるかもしれません。ただ、
それを少しでも検出されたら全部食べないというよりは、これは私からのお願いですけれ
ども、それを食べつづけたとしても、そのリスクはバックグラウンドに比べてむしろ一け
たぐらい少ないレベルであります。むしろ、それを受け入れていただかないと、本当に福
島近辺の農業や水産業は回らなくなってしまう、ということが非常に大きな問題だという
ことも同時に考えていただきたいと思います。
あの直後から、逆に福島産の農産物を買おうという、宅配の運動もあったと聞いており
ます。
ご清聴、どうもありがとうございました。(拍手)
○阿部座長
ありがとうございました。
ご質問はございますか。
○竹田
いつも質問させてもらって、どうもありがとうございます。
汚染された物質を食べるのは想像外だけれども、ちょっとぐらい汚染された物質を食べ
て経済を発展させなければいけない面もあるのだけれども、その場合は、何でこんな事故
が起きたのか、公権力あるところの内閣の原子力安全委員会とか経済産業省の原子力安
全・保安院だとか、そういうところにちゃんと責任をとらせて、何でこんなことが起きた
のか全部検証して、今度起きないように全部やってから、そうしたら国民は納得して食べ
ると思うのです。
○松田
ありがとうございます。
- 78 -
その責任の追及は同時に行われるべきだと思います。ただ、それも、それなりに時間が
かかると思います。その間、例えば2年間、彼らはずっと放置していいかというと、私は
そうは思いません。それは、いろいろな考え方の方がいらっしゃると思いますけれども、
いろいろなリアクションが市民の間からも出ていると私は思っております。
ありがとうございました。
○阿部座長
○池田
ほかによろしいでしょうか。池田先生。
私は、個人的には、多少含まれていても全く気にしないで食べる人間ですが、私
の専門家としての態度は、なるべく、今どういう状態なのか、そこをちゃんとおっしゃっ
ているので、そこまでは同じです。要するに、こういう状態で、なぜそうなったのかとい
うことをわかる範囲で伝えて、最後の、食べるか食べないかは、危険の確率で言うしか仕
方がないのですけれども、それを言って、一人一人の人が決めるということだと思うので
す。
○松田
そのとおりです。
○池田
ですから、専門家が大丈夫、大丈夫と言うと、かえってそれで、大丈夫でないだ
ろうという人もいるので、その辺が非常に難しいところだと思うのです。
○松田
それは全くおっしゃるとおりです。それは、今後の日本をむしろ決めていくので
はないかと思っております。
○阿部座長
今の池田先生のお話は大きなことですね。こうなのだという事実命題を問う
科学だけでなくて、こうあるべきだという価値命題を問うということもこれからは考えて
いかなければいけないと思います。そのようなことを今回の福島第一原発の事故が思い起
こさせてくれました。
ほかにご質問がなければ、最後に私から感想を述べさせてもらおうと思います。
きちっとしたデータを持っている、しっかりとした信頼のおける研究者にわかりやすく
事情を話してもらうと、無用な不安とか無用な心配をしなくてもいいのだ、このことは我々
のコンソーシアムでも常に考えていかなければいけない、その点を思い起こさせてくれた
ということで、4人の発表者の方に感謝を申し上げて、今日の三つ目の最後のセッション
を終わらせていただこうと思います。
どうもありがとうございました。(拍手)
○司会
阿部先生、ありがとうございました。
それでは、きょう予定していたプログラムはこれで終了となります。スピーカーの皆様、
それから議論に参加していただきました会場の皆様、どうもありがとうございました。
以
- 79 -
上
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
セッション4「アムー ル・オホーツク地域の社会と経済」
日
時:平成23年11月6日(日)午前9時から
場
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
- 80 -
第1会議室
◎セッション4:アムール・オホーツク地域の社会と経済
○司会:白岩
おはようございます。
北海道大学低温科学研究所の白岩と申します。
本日、総合司会を務めさせていただきます。よろしくお願いします。
本日は、第2回アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合の2日目です。今日は二
つのセッションと総合討論に分かれて議論させていただきます。
この後、セッションの座長である東京農工大学の楊宗興先生にお願いしたいと思います。
よろしくお願いします。
○楊座長
「 アムール・オホーツク地域の社会と経済」ということでセ
きょうの午前中は、
ッションを進めてまいりたいと思います。
私は、座長を務めます東京農工大学の楊と申します。ここで話される内容はかなり専門
外なのでございますが、どうぞよろしくお願いいたします。
時間配分ですけれども、昨日と同様に、15分で1鈴がなります。20分で発表終了の
2鈴がなります。そして、25分で終了の3鈴がなりますので、20分で発表を終了して
いただくようにお願いしたいと思います。
それでは、早速、最初のご講演ですけれども、
「新プロジェクト『アムール川流域におけ
る持続可能な自然管理プログラムのための環境基準と限界』における課題と期待される成
果」というテーマで、ヴィクトール・エルモーシンさん、よろしくお願いいたします。
「新プロジェクト『アムール川流域における持続可能な自然管理プログラムのための環境
基準と限界』における課題と期待される成果」
ヴィクトール・エルモーシン(ロシア科学アカデミー極東支部・太平洋地理学研究所)
○エルモーシン
まず最初に皆様にお礼を申し上げたいのですけれども、このアムール・
オホーツクコンソーシアムの非常に興味深い会議に参加させていただき、主催者に感謝を
申し上げたいと思います。
そして、このプロジェクトの名前は、アムール川流域の持続可能な自然管理プログラム
のための環境基準と限界というものでありまして、これはISTCの奨励金を得て実施さ
れています。実施者はロシア科学アカデミー極東支部・太平洋地理学研究所です。そして、
共同研究者は、ロシア科学アカデミー極東支部の環境研究所です。
我々は、自然利用、土地利用ということについて、ロシアのアムール川流域について、
その現状と今後の持続的発展計画の可能性を探るということを非常に強力にやってまいり
ました。ロシア側アムール川流域の総合的特徴を調べるということであります。
課題は3、4でありますが、ランドスケープ地図の作成、流域の地質系についてですが、
これは、今後、続けていくというものであります。そして、人為的な影響がこの土壌や植
生や淡水などに影響をどのように与え、破壊されていくのか、そして、環境及び経済パラ
- 81 -
メーターで分けた区分やゾーン分け、あるいは、環境基準と限界システムをつくり出すと
いうことであります。
ここで、環境及び経済パラメーターで分けた区分ゾーン分けというものを、また、環境
のクライテリア、今後の環境問題を見ていくということ、そして、経済と環境のバランス
をとる方法、モデルを見つけていくということを狙っております。
オホーツク関係のプロジェクトに参加した皆さんもいらっしゃいますのでよくご存じと
思いますが、我々はアムールのロシア側の領域についてやってきたわけであります。
アムール・オホーツクプロジェクトですけれども、ここでは、我々としてはエコロジー、
環境の情報、そして、経済社会的なブロックをつくる、そして、ゾーン分けをするという
こと、そして、分けるということを、そのブロックをつくるということであります。それ
から、自然利用、そして、その社会的な経済的な特徴を見るということ、また、自然利用
のタイプの評価ということ、それは少数民族の伝統的なタイプも含むということです。
私は、この中で非常に手短にテーゼとして申し上げますけれども、もう一人の方がもっ
と詳しく述べてくださると思いますので、つまり、どういう情報があるのかということ、
我々が何をしてきたかということだけを申し上げようと思っています。
我々の課題は、経済、そして極東での問題についてですけれども、鉱物原料資源の分布
の詳細な分析を行うこと、そして、それらが環境に与える影響を評価するということ、ア
ムール地域の森林資源の評価、あるいは、それらのポテンシャル、そして、天然資源が地
域でどのように組み合わさって分布しているかということの評価です。
ここに表しているのは森林資源と森林面積の2008年の状況であります。それと同じ
ように、下には鉱物資源があります。そして、このようなさまざまな自然資源のポテンシ
ャルを表す表がつくられております。そして、さまざまなアムール地域について鉱山業の
構成など、その専門などについて調べています。どのようにしてそういう企業というか産
業がつくられてきたか、専門ができているのかというようなことです。
それから、これは経済あるいは地理的な動向の可能性(ポテンシャル)がどのようにな
っているかということを見せようとしているわけでありまして、極東の幾つかの行政地域
というものが列挙されています。
例えば、自然利用については、狩猟というものが行われておりますし、また、ここにず
っと元から住んでいる原住民の少数民族による伝統的な自然利用というものがあります。
そして、この伝統的な自然利用というものがどういうものかというと、これが極東地域で
の特徴と言うほどの大きなものではないのではないのですが、アムール地域には22もの
北方民族が元から住んでおりまして、その人口は約1,500人以下であります。そして、
アムールの環境問題と脅威の因果関係の分析でありますけれども、これについては、ミシ
ナ博士のプレゼンテーションで詳しく紹介していただくつもりです。我々が詳しく分析し
ているのは、流域の生物多様性の状況でありまして、ここには保護種となっている大事な
樹木の種類というものがたくさんあります。
- 82 -
また、図解を含めてですが、自然保護エリアのデータが体系化されています。そして、
その面積もここにあります。特に、自然保護はザバイカル地方に大きく広がっています。
そして、この状況を、モデルをつくろうということを行ったわけでありますが、水力発電
所がつくられるとき、その影響を調べております。そして、その一つの開発シナリオにつ
いて、今、流域における水力発電所は二つあります。ブレイスキーとゼイスキー水力発電
所です。そして、もう一つ運開することになっているものがアムール川にできるわけです
けれども、その開発シナリオからは、最終的には水力発電所七つぐらいになりそうです。
課題の第3の目的でありますが、これは、持続する自然利用を計画し、機能上のゾーン
分けをするため、ランドスケープ情報ベースをつくるということです。そして、このため
にマトリックスを選びました。理想的な関係、コンポーネントの関係を選んだものであり
まして、これは、このように平野、山岳部、あるいはサブクラスとして、低地、丘が多い
とか、谷間であるというものがあって、その中で39分類の植物と45種の土壌がありま
す。
また、そこに10の総括的なタイプの地形というものがあります。この分類マトリック
スには171のランドスケープが含まれておりまして、このランドスケープの分類のバリ
エーションをもとに、ランドスケープによってアムール川流域の地図がつくられました。
縮尺250万分の1であります。
そして、これがマトリックスの分類の一部でもありますけれども、ランドスケープによ
る地図でありますけれども、ここの植生、あるいは土壌、地質系、岩石をまとめた表がつ
くられております。25ページぐらいになる非常に複雑な171のランドスケープを含ん
でいるわけですから、かなり厚いものができました。そして、総合ランドスケープの電子
レイヤーの情報のベースになったのは、ランドスケープの分類マトリックスを作ることに
私は直接関わっているわけでございますが、そのときには、我々がかつて作ってきた電子
地図を使って、それを情報ベースとして電子レイヤーをつくりました。それは、起伏、あ
るいは地形学上の区分分け、地質構造、植生、土壌、そして土地利用の状況というもので
あります。これは、総合ランドスケープの形成の際のテーマ別電子レイヤーの積み重ねの
順ですが、その後、それらの合成の順は次のようであります。地形別のゾーン分けのタイ
プ、植生のタイプ、土壌のタイプ、そして岩石の種類を重ねました。そのようにして総合
的なランドスケープという電子レイヤーがつくられたわけです。
ここはまとめて71の種類が入っていますが、この情報をわかりやすくするために少な
くしてあります。ロシア側の流域全体について比較したものであります。通常の地図と同
じような250万分の1の地図を拡大したものです。
それから、今後の分析ということに関してですけれども、このランドスケープの電子レ
イヤーでありますが、ここで使われているのは、コンタクトゾーンといいますか、平野部
と山岳部の間にあるランドスケープを機能別のゾーン分けの使用原則のために使いました。
地形によるゾーン分けでは次のタイプが入っています。高台の平野、丘陵地、500 メー
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トル以下の低山などであります。このような地域を我々はコンタクトゾーンと呼んでいま
す。これが非常に興味深いところでありまして、ここのアムールの流域は、まさに平野部
に経済活動が展開されているわけでありますが、この点であらわされているようなところ
に農耕地があり、また、道路網が最も発達しているところです。つまり、非常に人為的な
影響が強いところがこの辺で、この部分がコンタクトゾーン、ランドスケープに影響を大
きく与えるということです。
そして、このランドスケープのコンタクトゾーンでの組み合わせがどのようになってい
るかということですけれども、自然保護地域との関係でありますが、沼沢地があります。
そして、次はより大きな東部を見てみます。また、西部の方は低山で、東の方は広葉樹な
どが広がっている森林のランドスケープになっています。そして、ここでの保護をすると
いう、つまり、疎林や沼沢地が自然を守るゾーンになっています。人為的な行為は極力制
限されています。
そして、この暗い色でつけられていますけれども、この辺は森林火災が起きまして、山
岳部に大きな影響を与えています。
ここでは機能別のゾーン分けが行われていますが、これは純粋に自然保護が行われてい
る部分でありまして、また、湿地あるいは黄色い部分というものが沼沢地であります。そ
のほかの部分は、さまざまな森林に覆われているところです。そこでは、経済活動が行わ
れてもいいけれども、ある程度の規制が行われている地域です。
さらに、別のランドスケープを見ていただきますけれども、火災の跡を見ていただきま
す。拡大したものですが、ハバロフスクの一部でありまして、これは再生しなければなり
ません。ランドスケープとしてはよく似ております。また、北西部も、ノーコンタクトゾ
ーンも似ております。
全体としてのこのアプローチについてでありますが、自然利用の分析を行う、そして、
ランドスケープの図形をつくる、そして、人為的な活動によりどのような影響があるか、
そして、保護をどのようにしていくかということを見るということです。そして、このよ
うな作業、あるいは今後の作業は、情報のベースをつくって、アムール・オホーツクの環
境を保護していくということでありますし、今後の自然利用を持続的に保障することを目
的にしております。そのプログラムの中で行われておりまして、より近くとしては、アム
ール川の状況についての機能別のゾーン分けのための調査が始まっておりますし、アムー
ル川全流域のランドスケープ地図の作成を終えるということ、ランドスケープ構造の人為
的行為による破壊評価を終える、そして、ランドスケープをベースとして機能別のゾーン
分けの図をつくるということであります。
バクラノフさん、そのほかの研究所の方たちの助力も得ております。
以上でございます。(拍手)
○楊座長
ありがとうございます。
それでは、ご質問、コメントをお願いいたします。
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○白岩
こんにちは。北海道大学低温科学研究所の白岩と申します。
まず、非常に詳細な研究のご報告をありがとうございました。
エルモーシン先生初め、ガンゼー先生の多大な努力に敬意を表したいと思います。
私からの質問ですけれども、まず一つは、保護地域を設定されておられましたけれども、
その保護地域が、川に近いところ、人の生活に近いところにあって、山の奥の方には色が
塗られていなかったのですが、山の奥の方は開発を自由にしていいのか、それとも開発が
入れないので保護を設定する必要がないのか、どちらでしょうか。それが最初の質問です。
○エルモーシン
私たちは、そのコンタクトゾーンだけの分析をしているのです。つまり、
山岳部にも保護区はあるのですが、そこは調べていないということであります。そこも、
やはり、全体としての機能別のゾーニングを行うのですが、このコンタクトゾーンのやり
方というものを見せるために、そこだけを出した情報をお見せしました。
○白岩
ありがとうございました。よくわかりました。
もう一つは、こういう生態学的に重要な地域を守る研究をされて、研究者の側から見た
保護すべき地域を極めて明瞭に示されているわけですけれども、この後、こういう結果を
どうやって実際の政策なり行政での仕事に持ち上げていくのかというところです。日本で
は、研究者と行政とか政治とのつながりが薄いものですから、ロシアの事例を教えていた
だきたいと思います。
○エルモーシン
とてもいい質問で、それを期待していました。
その問題は心配していまして、五つの課題を出しましたが、六つ目の課題が、今、白岩
先生がおっしゃったところです。つまり、プログラムをつくるということではなくて、そ
れをどのような機関で実施していくかというところが一番難しく深刻な問題です。我々研
究者は、そこのところまで注意が届かないのが事実でありまして、それも我々にとっては
大きな課題としてあるということです。
○楊座長
○ゾン
いかがでしょうか。
こんにちは。私はゾン・シャオドンと言います。NOWPAPから来た代表です。
あなたは太平洋地理学研究所からいらしたのですよね。イーカムというものを知ってい
ますでしょうか。そういったプロジェクトがあることをご存じでしょうか。このプロジェ
クトは、ご紹介していただいたプロジェクトは、イーカムの一部とて考えられていますか。
それから、先生ご本人がイーカムのプロジェクトに直接ご参加されたことはありますでし
ょうか。それをお伺いしたいです。
○エルモーシン
私自身、個人的には参加したことはありません。そして、このプロジェ
クトは、アムール・オホーツクプロジェクトが行われてきて、そのアイデアを実施してい
く、実現していくということが我々の研究調査でありました。
科学技術センターを使ってそれが行われるわけですが、いずれにしても、この調査はア
ムール・オホーツクコンソーシアムの中で行われて、コンソーシアムのプロジェクトとし
て行われていまして、江淵さんとか日本の白岩さんとか、そういう方たちが協力していた
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だいて行われているプロジェクトであります。
○楊座長
それでは、エルモーシン先生、どうもありがとうございました。(拍手)
次のご講演は、引き続き、同じプログラムについてのご講演だと思いますが、
「アムール
川流域ロシア領における環境問題:過去10年間の傾向と今後の見通し」を、太平洋地理学
研究所のナターリア・ミシナ先生、お願いします。
「アムール川流域ロシア領における環境問題:過去10年間の傾向と今後の見通し」
ナターリア・ミシナ(ロシア科学アカデミー極東支部・太平洋地理学研究所)
○ミシナ
皆さん、おはようございます。
エルモーシン先生のところでもお話がありましたけれども、内容的には論理的な継続と
いうふうに理解していただいていいと思います。
私が今日お話をしたいのは、このプロジェクトの1年目から取り組まれてきたものでご
ざいます。これは、自然資源の利用であるとか環境的な脅威、リスクの分析がアムール川
流域の持続的自然利用プログラムの中の主要ポイントになっています。
四つのサブテーマがございます。ご覧になっていただけるように、自然利用の環境問題、
環境の脅威とリスクの分析、生物多様性と現状と自然保護の分析、環境問題と環境的脅威
の原因調査、それから、今後のあり得る変化に対する予測的評価でございます。
私のプレゼンテーションでは、ロシア領のアムール川流域の環境問題を研究するに当た
り、明らかになった結果の一部についてお話を申し上げたいと思います。
これは、大気と表面水の汚水、土壌の汚染、生物相の悪化と枯渇などでございます。特
に、この10年間の環境の多様なコンポーネントに対して影響を与える人為的な行動を特
徴づける指標の変化について特に注意を払っております。そして、この中での考察は、地
方政府のインターネットで掲載されている公的な統計資料をもとに行っております。
この対象としましては、アムール川流域の広がる沿海地方、ハバロフスク地方、ザバイ
カル地方、アムール州、ユダヤ自治州でございます。
そして、まず最初の問題でございますけれども、これは大気汚染の問題です。
この中でご覧になっていただけるように、大気汚染の考察対象期間おいて、固定的な汚
染源からの汚染物質が特に沿海地方の大気を汚染しています。2010年には、ハバロフ
スク地方、アムール州に比較し、汚染状態は2倍になっております。全体的に、この地方
では汚染物質の排出が若干削減していますし、州、これは連邦の単位になるわけですけれ
ども、増加の傾向が見られます。数字にしていけば75%から90%ぐらいです。
しかし、それに対して、この汚染を収集した後の回収処分率が非常に低くなっておりま
す。これにより、水、土壌、大気の2次汚染が起きているという問題があります。そして、
このような問題は日に日に拡大していると言えます。
さて、大気汚染の主な原因となっているのは、電気、ガス、水の生産配分を行っている
企業です。それから、2010年の大気汚染の60%から80%が、今、申し上げました
- 86 -
光熱エネルギー関係の生産配分会社からのものでございました。
そのほかには、いわゆる加工産業、特にハバロフスク地方、ユダヤ自治州がそれぞれ1
2、14%という数字を見せていますし、天然資源の生産、これはザバイカル地方で高く
なっています。
それから、空間的に考えますと、ロシア領のアムール川流域で汚染が集中しているのは、
都市部とその周辺部でございます。ハバロフスク地方では、2010年の大気汚染源の6
0%がハバロフスク市、それから、コムソモリスク・ナ・アムーレ市とそのほかの周辺都
市でございます。沿海地方では、ちょっと細かくてよく見えないと思うのですけれども、
中心となっているのはウラジオストク市、アルチョム市、さらにポシャール市で高くなっ
ています。ここにはプリモール発電所があるということで数字が高くなっています。それ
から、アムール州ですけれども、ブラゴヴェシェンスク市、それからティンダ市の周辺、
さらに、ザバイカル地方のところでもチタ市、クラスノカメンスク市などその他の産業都
市が中心になっています。
それから、表層水の汚染は、資源の利用から見ると、沿海地方が最大であり、そのほか
の地域に比べて非常に高くなっております。しかし、これを取水量から見ると、ハバロフ
スク地方の約2倍、アムール州の6倍、排水量は幾らかそれを下回っています。そして、
ほかの地方ではこの数年で排水量が増加し、特に沿海地方では減っています。
それから、排水源ですけれども、このような排水源となっているのは、先ほどもお話し
たような電力エネルギー関係、ガス、水などの生産配分業界が中心になっています。
アムール州では、さらに天然資源の生産、沿海地方では農業が16.5%を占めており
ます。それから、排水廃棄物の集水はいずれも各地方、州の行政の中心都市で多くなって
います。例えば、ハバロフスク地方では、2011年に60%以上がハバロフスク地方の
中心部、ハバロフスク市に集中していますし、それから、コムソモリスク・ナ・アムーレ
市、それから、その周辺、それから、ベルフネブリンスキー地域の工業地帯、アムール州
ではオクチャベリ地域に排水の39%が集中しています。
ティンデンスキー市、スヴァボドヌイ市、それからブラゴヴェシェンスク市などが中心
となっています。
それから、企業組織からの排水の次に多い水の汚染源を考えますと、居住地域からの産
業生活水です。ロシア領のアムール川流域全体で排水設備や汚水処理の設備はまだまだ十
分ではございません。そして、下水道設備は都市部、いわゆる都市型コミュニティーに限
定されているものでございます。2010年にハバロフスク地方では、わずか16%の下
水道が完備されています。それから、ユダヤ自治州については農村部の11%でございま
して、ザバイカル地方では50%でのみ下水道の完備がされています。
次に、土壌のデグラデーションとその汚染でございますが、統一された形態、内容での
データがございませんので、現在の時点で、流域の各地点での土壌の環境状態の比較がで
きないという状況でございます。ですから、一部のアスペクトのみでそれを考えてみます
- 87 -
と、以下のようになります。
まず、農業です。
農業用地のシェアは地方によってさまざまですが、例えば、ハバロフスク地方で1%か
ら、ザバイカル地方で18%になっています。そして、アムール州では、21世紀初頭に
は耕地の12%に当たる部分で水や風による浸食が起きています。そして、沿海地方では、
2010年1月1日の状況で、農業用地の4分の1が、ザバイカル地方では、2008年、
2009年、農業企業用地の29%がこれに当たっております。それから、この15年か
ら20年で、農地作物植え付け用地が削減の傾向を見せております。最近になって若干増
加はしていますが、この10年間で農業製品の生産量の安定化を行っているという影響を
受けております。
これは、穀物や大豆、家畜、養鶏などが行われているわけなのですけれども、スライド
をご覧になっていただくとおわかりになるようなものが中心になっています。そして、そ
の農業生産の強化が行われており、それも昔から発展してきた地域に集中しているのが現
状でございます。これらの土地については、土地利用の条件が揃っておりますし、また、
市場(マーケット)へも近いという利点がございます。
その一方で、肥料の利用ですけれども、2000年に入って頭打ちになっています。土
地利用、畜産技術の具体的な変化は起こっていません。
沿海地方では、米の生産が拡大している傾向が見られております。そして、20世紀後
半には、土地や表面水の汚染がひどく米の生産ができなかったのですが、それが最近拡大
しているということで、そのほかの利用もあって農業用土壌のデグラデーションが起きて
いるということが見られております。
それから、工業ですけれども、産業廃棄物による土壌汚染が起きています。
沿海地方では2000年以降の汚染レベルがアムール州、ザバイカル地方に比べて低い
のですけれども、2010年までの蓄積産業廃棄物を見ると、ほかの地方を上回っていま
す。
それから、この原因となっているものですけれども、また、どこでも同じように、ハバ
ロフスク地方、沿海地方におきまして、産業廃棄物の生成と蓄積源というのは鉱物生産活
動です。アムール州では、電気、ガス、水の生産配分企業、それから、加工業、運輸・通
信分野の企業も廃棄物を出しております。そして、ここでご覧になっていただくように、
沿海地方、ユダヤ自治州で徐々にこの廃棄物を収集することは進んでいまして、それを処
理することもだんだん広がっているわけですけれども、残念ながら、まだまだ廃棄物の処
理が進まないという大きな問題がございます。
このほかに、自然発生的なごみ捨て場が大量にあるということも大きな問題になってい
ます。そして、その自然環境に及ぼされる廃棄物の量は実際にはもっと多いということで、
大きな問題につながっていくと考えられています。スヴァボドヌイ、それから、ボルガー
ウォィシンスキーなどでは、80%ぐらいに当たる150万立米が生活ごみとして持ち出
- 88 -
されています。
そういうわけで、収集されてもそれが処理されないということで、これが廃棄されたま
まになっているということ、自然環境に及ぼされる廃棄物の量が実際には把握しているよ
りももっともっと大きいということで、危険な科学物質、例えば、水銀などが垂れ流しに
なって、自然環境を汚染する危険があります。
それから、生物相のデグラデーションと枯渇ですが、生態系にとって重要なのは森の被
覆でございます。ここでごらんになっていただくのは衛星写真をもとにしたものですが、
2000年の初めにはロシア領アムール川流域の被覆量は70%でした。1998年から
2009年、アムール地域のすべての行政地域で森林覆の大きな変化は見られていません。
ハバロフスク地方でのみ若干拡大しています。
それから、過去20年を見ると、林業の中心はこれまでずっとハバロフスク地方だった
わけですが、生産量から見ますと、沿海地方やアムール州、ザバイカル地方、それから、
ユダヤ自治州もだんだん拡大しております。そして、2007年までには生産量が増加し、
その後、縮小しました。これは木造生産量のロシア政府による丸太の輸出税増額政策によ
るものです。そして、2007年以降、伐採の面積が減ったと考えられることもあったわ
けですが、残念ながら、それを裏づけるデータはどの地域にもございません。
それから、アムール州、ユダヤ自治州の信用できる情報によりますと、2009年の伐
採面積がこの地域では2007年に比べ大幅に縮小されたというデータだけがございます。
しかし、森林の環境的状態は、生産量や伐採面積にだけ依存するものではありません。伐
採方法にもよるわけです。この地方の産業伐採の特徴は、木材のよい部分だけを取り除く
もので、もとの木材のごく一部である30から50%が伐採された場所に残されることに
なります。そして、このような伐採方法に過去10年で大きな変化は見られておらず、し
たがって、これまでと同様の環境問題が存在し続けています。例えば、伐採面積の拡大と
か森林火災の危険、若木の養生の問題などが出てくるわけです。
そして、森林のトランスフォーメーションに大きな役割を担っているのは森林火災です。
森林火災のデータをご覧になっていただけると思います。どの地域でも2003年が顕著
で、5,700件の火災、そして、火災に見舞われた面積も最高で、森林で被覆された土地
の140万ヘクタールに及んでおります。これが燃えてしまったわけです。2008年、
2009年も同じような現象がありまして、2003年にはザバイカル地方、2008年、
9年にはハバロフスク地方とアムール州でも同じような傾向が見られています。
それから、2003年から2010年の間に、どれだけの木材、森林が燃えたかという
ことから見てみますと、6,900万立米の森林が燃えてしまったことになります。20
04年から2010年に伐採された木材8,040万立米をわずかに下回る数字です。非
常に大きな量です。
そして、その他の生態系の自主生物種のシェアが削減されたほかに、生態系の生物学的
生産性の低下や、動物の個体量の削減や、生息地のフラグメント化、野生の動物の移動ル
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ートへの影響など、森林火災の問題はたくさんございます。
その結果、アムール川流域の自然環境に著しい影響を与える経済発展方向性を考えるこ
とができます。
中心になってきているロシア東部の経済発展の方向性に関する公式な情報を考えたわけ
ですが、具体的には、2025年までの極東・ザバイカル地域社会経済発展戦略です。詳
細については、極東ザバイカル地域の地方政府がおのおの作成した社会経済発展プログラ
ム戦略などがございます。
そして、これらの文書を分析するとこの経済発展の5つの方向性が明らかになってまい
ります。そして、それ自体が自然環境に著しい影響を与えるものと考えられます。
まず初めに、連邦ベースの運輸エネルギーインフラ開発プロジェクトです。パイプライ
ンが一番大きいものです。それから、さまざまなタイプの発電所です。
それから、二つ目は、鉱物採掘業が鉱物濃縮コンビナートと冶金工場とのコンビネーシ
ョンにより発展しています。
それから、三つ目は、先端経済発展特区が形成されたということです。
そして、さらにコムソモリスク、ウラジオストク、ハバロフスクのメトロポリタンエリ
アの発展が見られているということ、四つ目は林業の発展、森林資源の利用拡大から軟材
(針葉樹材)の加工度がアップされていることなどがございます。
これらのプロジェクトの実現は、環境状態の二つの課題が解決できるかにより左右され
てきます。
一つは、経済プロジェクトの実施の際に、技術レベルを保ちながら環境制限を守れるか
ということです。それから、二つ目は、現在の環境状態を改善、環境的にリスクのあるエ
リアのリハビリテーションを行えるかということ。この条件の組み合わせにより次のよう
な環境変化があり得ると考えられます。
まず一つ目は、悲観的なシナリオですが、経済発展が進んでいくけれども、その一方で
生産技術に変化が起こらず、環境の現状改善策がとられない場合です。さまざまな環境問
題が次々と表面化してきます。環境的に問題のある地域の面積がどんどん広がって、経済
や社会の発展のはずみ、惰性による問題も出てきます。
二つ目の中立シナリオですが、これは環境保全、環境安全技術、現在の状況改善策も一
部でとられるという場合です。ある一定の環境問題が表面化してきまして、環境問題地域
の著しい拡大は見られなくなります。その一方で縮小するところもございます。そして、
社会経済発展においてイノベーションシナリオが実現される場合に可能となってまいりま
す。
三つ目が楽観的シナリオで、自然保護環境安全技術に完全に移行することです。あらゆ
る分野で既存の環境問題に対処できて、問題地域が削減することになるわけですけれども、
理想的な状況にある時のみ可能で、ほとんどあり得ないユートピア的なものと言えるでし
ょう。
- 90 -
どのシナリオになるかは今の段階ではわかりません。そして、新技術を開発導入し、現
状の改善策を導入していくためにはかなりの資金の投入が必要となってきます。ご覧にな
っていただいているこの数字が資金の投入の状況ですけれども、この地域の南部、ザバイ
カル地方で地方政府が投資を行い、その結果が実際に見えてきています。
それから、2008年、2009年に沿海地方で2倍、アムール州では、固定資産に投
資が行われています。固定資産への主な投資は、運輸、資源生産、発電・配電、ガス、水
道供給などに向けられています。農業なども優先分野になっています。
それから、合理的な資源利用などのための固定資産への投資のスライドです。
アップ・アンド・ダウンを示しているのがご覧になっていただけると思います。ほかの
分野への投資をしてしまって、この分野への関心が少ないことが問題の一つとなっていま
す。
結論ですが、この地域の環境問題は複雑な起源を持っています。自然利用の幾つかのタ
イプが相互作用を起こし、問題として表面化しています。
環境問題の幅が広く、問題が深刻なのはこの地方の南部、中国との国境に沿った地域で
す。原因は、ここにある大都市、中型都市で、人口や工業、エネルギー関連施設が集中し
ているところです。
人口が集中していないところは環境も健全ということが見られています。しかし、ロシ
ア北部は、産業が発展していないために環境状況も良いということが見られます。198
0年末まで環境問題が深刻さを増し、1990年初めには人口が増加し、生産量が拡大し、
この問題がますます深刻になりましたが、90年代の経済危機により環境への人為的影響
が縮小し、2000年初めにはこの生産量が元に戻り、また、環境問題のリスクにつなが
っている状況でございます。この地域での環境状態は、今後、10年から15年、経済発
展がどの程度、どのように実現するかによって変わっています。
以上です。ありがとうございました。(拍手)
○楊座長
ありがとうございました。
それでは、時間も余りないのですが、質問、コメントをお願いいたします。
○能田
酪農学園大学の能田と申します。
大気汚染のことでちょっとお伺いしたいのですけれども、大気汚染とひとまとめでおっ
しゃっていて、中身が何かというのはわかっていらっしゃるのでしょうか。もし内訳をご
存じでしたら教えていただけますか。
○ミシナ
ありがとうございます。
もちろん、大気汚染と私も一言で申し上げましたけれども、どのようなものがあるかと
いうこと、どれだけの量があるかという情報はあります。そして、私が今示したいろいろ
なデータの中にももちろん情報はございます。今日は使いませんでした。というのは、論
文の発表時間が非常に少なかったからです。
私が使ったのは、総量です。ガス状、それから、固形の産業廃棄物による大気への汚染
- 91 -
というもので、代表的なものとして使いました。残念ながら、今回はデータを持ってきて
おりませんが、どうしても必要でしたら、これはオープンになっているものですから、入
手することができると思います。是非ご覧になっていただきたいと思います。これは、き
ちんと発表されたデータでございます。
○能田
多分、物によって挙動が違ってくると思うので、一概にまとめて総量がこれだと
いう風におっしゃっても、かなり違ってくるのではないかなという印象なので、また後で
お話させてください。ありがとうございます。
○楊座長
時間が来てしまいましたので、ミシナさん、どうもありがとうございました。
(拍手)
次のご講演に行きたいと思います。
「中国三江平原における土地利用研究」、張柏先生、よろしくお願いいたします。
「中国三江平原における土地利用研究」
張
柏(中国科学院・長春東北地理農業生態学研究所)
○張
北海道大学の皆様方、ありがとうございます。
私の内容でありますけれども、中国の三江平原の土地利用の変化についてであります。
私の話す内容は四つありますが、まずは概況です。そして、もっと広い範囲から中国の
三江平原を見るとどうなるかということもお話したいと思います。最後に結論を申し上げ
ます。
三江平原には3つの川があります。まず、中国の松花江、ウスリー川、黒竜江、これら
の沖積によってでき上がったのが三江平原です。こうした土によりまして肥沃な土地を形
成しております。
今、三江平原におきましては、五つの行政区画があります。これは黒竜江省に属してお
りますが、この図でご覧になっておわかりになりますように、これは地形図でありますけ
れども、一つは降雨図です。三江平原というのは、中国の東北平原の一部分となっており
ますけれども、これは農業生産に非常に向いているところです。そして、この降雨は年間
大体600ミリメートルぐらいであります。これは、農業生産にとっては基本的な保障と
なっております。土地の開発、農業生産において水は必ず必要であります。
ここでご覧いただくのは、中国全体の四つの主要な作物の生産地域です。中国の東に多
いのですが、この中には、米、大豆、小麦、トウモロコシなどがあります。中国の東北地
域におきましては、米、大豆をたくさん作っておりますし、また、小麦、トウモロコシも
作っております。昔は小麦が非常に多かったのですが、今は水田に変わったものが多いで
す。
この図で見ますと、三江平原におきましては、2000年以降、農業生産において大き
な変化があらわれました。2000年から2006年にかけまして、農業生産高を見てみ
ますと、三江平原におきましては、農業の発展が非常に早いことがわかります。この生産
- 92 -
高は大体2倍ぐらいになったことがおわかりかと思います。潜在力も非常に高いことがわ
かると思います。
中国東部の主な商品穀物の生産の割合ですが、三江平原は非常に多いということで政府
にも注目されております。そして、商品穀物の割合はこれほど高いものになっております。
中国の食の安全に非常に大きな保障を与えている地域であります。これは、幾つかの地域
におきまして、耕地、土地面積、人口をあらわしたものでありますけれども、三江平原の
耕地はまあまああるのですが、人口はそれほど多くなく、土地面積もそれほど広くありま
せん。しかしながら、食料の提供という意味においては非常に高い比率を誇っております。
これは、新たに開発された地域ということでこうなっております。そして、全体の生産
量ですけれども、1人当たりの穀物生産量も一緒に見てみますと、三江平原は全国で非常
に高い地位を占めております。1人当たりの穀物生産量は120キログラムとなっており
ます。将来的には、農業技術が発展していきますので、この比率はさらに上がっていくも
のと思われます。これは簡単な分析ですが、三江平原におきましては、中国の主な生産地
域の中で占める割合は1%未満ほどです。それぐらいしかないです。それから、2番目の
図を見ていただきますと、その人口の割合ですが、大体2%ぐらいです。そして、耕地は
7%ぐらいです。しかしながら、その食料は中国の10%ぐらいを占めております。とい
うことで、中国の食物生産に非常に大きな役割を果たしております。
それから、土地の利用の変化ですけれども、これは衛星のセンサーによって見たもので
ありますけれども、この三江平原の地域は、これは2000年の図ですが、既に農地に変
わったところが非常に多いです。一部、湿地も残っております。
次に、比較をもう一つしてみました。1950年から2010年にかけましてどのよう
な変化があったか。農地の部分を見ていただきたいのですが、かなり大きな部分を占めて
おります。もともとは15%しかありませんでしたが、現在では60%まで増えました。
つまり、非常に広い土地が農地に変わっていったことがわかると思います。ここで見てい
ただくのは、三江平原の農地の変化でありますけれど、1950年代から2010年に至
るまでの農地面積の変化を示しております。大体、倍増、倍増で増えてきております。1
8、36ときて、最終的に65万ヘクタールまで増えました。この速度は非常に速いもの
だと思います。
これはもう一つ、70年代から2000年にかけての水田の比率スピードを対数で表し
た図です。80年から90年にかけて若干成長はありますけれども、しかしながら、90
年以降でかなり速くなってまいりました。
ここで、何年間かのセンサー測定によりましてわかったことですけれども、つまり、耕
地の利用状況、タイプの変化です。基本的には90年代に大きな変化があらわれました。
たくさんの土地が開墾されて農地となりました。これは、タイプが変化した転換比率を示
してものです。最終的に申し上げたい点は、三江平原がなぜ中国で重要な地位を占めてい
るかということですけれども、20世紀になりまして、中国の人口は4億人から13億人
- 93 -
になりました。今後、また増えいくと思います。これによって大きな食物への需要が生ま
れてまいりました。しかし、中国の北方にはまだまだ耕作できるところがありますので、
これからも開墾されていきますし、これまでの100年間でも東北の人口は激増いたしま
した。そして、中国の人口、そして東北の人口の増加を見てみました。東北の人口の増加
は、そのスピードは非常に速いものであります。中国の東北の三省、遼寧省、吉林省、黒
竜江省における開墾の量を見たのですけれども、これは最近100年間に行われた開墾で
あります。50年代から2000年にかけまして、人口は1400万人からこの数字まで
ふえました。ですから、大体5倍ぐらいにふえたことがおわかりかと思います。
土地の開墾は、人がいてできるということ、人口がサポートしているということででき
るわけです。今までの50年間におきまして、中国の東北における状況の比較をしてみま
した。中国全体としましては、60年以降はちょっと耕地が減っていたのです。なぜかと
いいますと、中国南方におきまして都市化が進んだからであります。それから、東北では、
90年に入りましてかなり安定的になってきました。黒竜江省におきましては、ある時期
にピークを迎え、今はこういう状態です。そして、今後は、このスピードも大分弱まって
くると思います。その三江平原は非常に寒いということで開墾には向かなかったのですが、
今では開墾が進んでおります。というのは、全体に気温が上がってきましたので、開墾に
は有利ということで開墾が増えてきたわけです。
これは湿地の比率の変化を見たものですが、この湿地というのは、開墾するための重要
なソースです。湿地の開墾は、今、進んでおりますけれども、ここ50年間、三江平原の
割合が30%あったものが今では7%に減ってきております。しかしながら、三江平原の
農地が発展してきまして、耕地がふえてきたのですが、今、そのスピードは緩まってきて
おります。もとは20%程度の成長率でありましたけれども、今は1%ぐらいになってお
ります。政府としましても、社会としましても、農業と生態のバランスに注目をしていく
ことになると思います。耕地と湿地のバランス、そして、生態の保護が非常に大切だと思
いますし、農業にとってもサポートとなるものだと思います。
以上であります。ありがとうございました。(拍手)
○楊座長
どうもありがとうございました。
それでは、ご質問、コメントをお願いいたします。
○竹田
私は、東川町の竹田眞司と言いまして、世界のいろいろな問題とか先住民族問題
をやっている者です。
昨日も中国の人が三省の話をしたのですが、湿地が無くなってくるから、地下水に吸い
上げているから、雨水をためてやると、昨日、黄斌さんが発表していました。
今、中国三省のところは開墾がどんどん進んでいるということですが、黒竜江省の土地
はものすごいがんがらがんな土地があるのです。ああいうところも開墾していますか。
○張
非常に良いご質問だと思います。中国の東北の開発につきましては、人口が増えて
きますので、開墾は必然だと思います。経済の発展によりまして、政府としましても、ま
- 94 -
た社会もそうですけれども、環境に非常に注目をするようになってきましたし、また、そ
れに対する投資もふえております。湿地でも、ほかの生態系にしても、やはり保護は大切
だと思います。将来的には、三江平原の湿地はかなり保護されるようになってくると思い
ますけれども、農業技術が発展してきましたら、その生産効率が上がってくると思います
ので、中国の人口がピークに達した以降は湿地がまた回復してくると思います。
というのは、例がありまして、ロシア、日本で視察したときもそうでした。私が思うに
は、中国の政府が資金を投入すれば、農地、湿地の関係は当然矛盾が生じるわけですけれ
ども、将来的には湿地が回復されていくことと思っております。
○楊座長
ほかにはいかがでしょうか。
同じような質問になるかもしれませんが、農地開発と生態系、自然保護のバランスをと
ることが重要であるとおっしゃいましたけれども、将来、どの辺にバランスを持っていく
べきとお考えでしょうか。
○張
ありがとうございます。
現在のところ、今後の5年間の計画がありまして、現在の湿地は水利灌漑に使います。
生態学研究所の黄さんもおっしゃっていましたけれども、灌漑については、農業の排水、
そして湿地を結びつけることを考えております。つまり、湿地に対して水を提供するわけ
であります。農業の排水がその湿地によって浄化され、川に入っていくということになり
ます。ですから、生態の改善に役立つと思います。
○楊座長
○吉田
ほかにはいかがでしょうか。
新潟県と三江平原は非常に深い関係があります。かつて、王震将軍が新潟県に来
られたときに、新潟の米の政策をぜひ三江平原に紹介してほしいと。それで、三江平原の
ダムが日本の協力でできました。ところが、その後、中国の政策が変わって、自然保護で、
一時、米の栽培を中止しました。今伺いますと、それがどんどん増えていっているのです
が、今後、新潟と三江平原が協力する可能性についてどういう風にお考えですか。新潟の
人たちは、それを大変望んでいるのですが、実際に中国側からの呼びかけは今のところあ
りません。
○張
ありがとうございます。
それは非常に良いと思います。日本の北陸はお米が非常に発展しているというところで、
私も見たことがありますけれども、日本の北陸は、日本の高度経済成長の時代におきまし
て、水田が非常に開発されてまいりました。しかし、経済が成熟してから、農地が保護区
に変わってしまいました。
中国の三江平原は、北陸に学んでおりますので、その経験を学びたいと思っております。
現在、中国におきましては、三江平原というのは、北大荒という開発団がありまして、
日本と農業技術の協力をやっております。例えば、自然保護などについてです。私の知る
限りでは、日本の北陸ではたくさんの協力プロジェクトがあるそうです。中国は、やはり
日本と協力を強めたいと考えております。エコ農業を学びたいと考えております。
- 95 -
○楊座長
○白岩
ほかにはいかがですか。
北大の白岩と申します。
日本のように島国に住んでいるとなかなかイメージできないのですが、三江平原のよう
にロシアと国境を接していて、湿地は三江平原だけではなくてロシア側にも広がっている
ので、こういう可能性があるかどうかを伺いたいのですが、将来、ロシアと農業協力をす
ることによって、中国とロシアが農地を共有して、ロシア側にさまざまな農業活動を広げ
るという計画あるいは考えはないのでしょうか。
○張
白岩先生、ありがとうございます。
私が視察して調査した結果、黒竜江省としましては、こうした農業集団でありますけれ
ども、農業の政府のプロジェクトがあるのですけれども、極東地方と協力プロジェクトが
あります。ロシアにつきましては、私も視察しましたが、非常に美しいところであります
し、森林、湿地もたくさんあります。しかし、現在のところ、開発というところから見て
みますと、大量の食料の需要がなければこうしたことはできないと思います。
そして、辺境地域におきましては、沿海地方では若干の協力プロジェクトはあると聞い
ております。これはかなり役に立っていると思います。これは良い面だと思います。
○楊座長
○八木
まだ多少の時間がございます。
東京大学の八木と申します。
中国で湿地または森林が農地に転換されるというお話ですが、政府の規制があるのかど
うかということをお伺いしたいと思います。
政府が補助金を出して農地をつくることを奨励しているのか、また、何かの法的な規制
で制限をしているのか、どちらなのでしょうか。
また、森林や湿地の所有権は政府にあるのでしょうか。また、農地の所有権も政府にあ
るのか、または個人の農家にあるのか、その辺の情報をお聞かせいただければありがたい
と思います。
張
ありがとうございます。
中国におきましては、現在のところ、土地の所有権につきましては、すべて国に属して
おります。しかし、一部に都市につきましては、集団に属しているものもあります。それ
から、個人の使用権も認められております。中国におきましては、農地の開発、森林の保
護、草原の保護については、それぞれの保護法があります。勝手に開墾できるものではあ
りません。それは、申請したとしても、国の計画で認められるとは限りません。政府とし
ましては、そうした生産力の低い農地は改造することができるということになっておりま
すけれども、盲目的に拡大することはできません。中国の耕地水準は下がってきておりま
すから。
○楊座長
それでは、張柏先生、ありがとうございました。(拍手)
それでは、休憩に入りたいと思います。
- 96 -
再開は10時35分です。
〔
休
憩
- 97 -
〕
○楊座長
それでは、後半のセッションを始めたいと思います。
まず、最初は「非伝統安全のリスクに直面する北東アジア諸国の喫緊的な課題に関して
―生態安全と環境保全という視点からの情報享受に関して」というタイトルで、黒竜江省
社会科学院東北アジア研究所の笪志剛先生、よろしくお願いいたします。
「非伝統安全のリスクに直面する北東アジア諸国の喫緊的な課題に関して―生態安全と
環境保全という視点からの情報享受に関して」笪
志剛(黒竜江省社会科学院東北アジア
研究所)
○笪
皆さん、こんにちは。
ただいまご紹介いただきました中国の東北三省の一番北にある黒竜江省の地元のシンク
タンクである黒竜江省社会科学院東北アジア研究所の
笪 と申します。
まず、座長さん、そして開催校の皆さんにお礼を申し上げたいと思います。
日本語が下手で、皆さんは耳が疲れるかもしれませんが、日本語で話させていただきた
いと思います。
早速、本題に入りたいと思います。
きょうの私の報告のテーマ、非伝統安全保障リスクに直面する北東アジア諸国の喫緊の
課題に関して、そして、生態安全と環境保全という視点からの情報共有化を目指してとい
うことです。
皆さんご存じのように、近年、伝統的安全の保障、そして非伝統安全の保障のことがよ
く話題に出て取り上げられています。そして、総体的にコントロールできる伝統、昔のか
つての伝統、安全保障に対して、今、北東アジア、ないし世界的に非伝統的な安全保障の
リスクがますます高くなっておりますし、そのマイナスの影響も各方面にわたってもたら
していると思います。それは、特に生態安全、環境保護、商品安全、原発災害などをめぐ
って、2国間、そして多国間のいろいろ矛盾をもたらして、また摩擦もありまして、一連
の非伝統的な安全保障のことについて、要因はいろいろありますが、その中の極めて目立
っている要因は、環境保全、生態安全についての情報の不透明、そして、公開の不十分、
共有できないに絡んでいると私は思っています。
そして、このようなテーマを通して、我々コンソーシアムの責任として、これからどう
いう形で情報の公開、そして、そのデータを共有し、我々北東アジア各国の提携によって
将来の新しい安全の脅威を克服できるかどうか、それは待ったなしの課題だと感じており
ます。
もちろん、今度のデータ共有の設置ですが、私の目から見れば、コンソーシアムは大き
な転換期を迎えていると感じています。このような議論で、将来への実践レベルの移行を
心から期待しております。
また、きょうの発表の構成なのですが、北東アジア地域における非伝統的な安全保障、
まず、ちょっと昔の伝統的な安全保障、また、今の目立っている非伝統的な安全保障の簡
- 98 -
単なことに触れて、北東アジア地域における非伝統的な安全保障の特徴を幾つか話したい
と考えております。
その次は、このような非伝統的な安全保障の背景において、黒竜江省は北東地域におい
て一体どういうリスクがあるか、もちろん、環境保全、生態安全についていろいろありま
すが、ここでは河川の汚染と生態悪化、そして、食品安全の影響、伝播、また原発災害の
前の水のリスクに絞って紹介したいと思います。
また、三つ目は、生態安全と環境保護協力のための情報享受について、その必要性、ま
た、それを実現させるためにどういう難しさ、難点があるか、そのような情報公開と共有
化の今までの私の見る幾つかのマイナスの例を挙げてみたいと思います。
もちろん、議論の結論、政策提言として三つ話したいと思います。
まず一つ目は、北東アジア地域における非伝統的な安全保障についてです。
皆さんご存じのように、伝統的な安全保障のうち、主に軍事を中心とした規範、パラダ
イムですね、支配的だったのですが、冷戦の終焉に従って伝統的安全保障が沈静化、もち
ろん局地的な衝突があるにもかかわらず安定化しつつあるのが現状であると思います。
例を挙げると本当に数え切れないのですが、第1次世界大戦、第2次世界大戦、また朝
鮮戦争、ベトナム戦争とかいろいろあると思います。今でも、冷戦が終わって伝統、安全
がなくなるというわけではないですが、国際社会のみんなの努力で、伝統、安全を総体的
にコントロールできるような状態であると認識しております。
二つ目は、リスクの目立っている非伝統的な安全保障です。すなわち、冷戦の終焉に従
って、かつて我々が体験のない、あるいは、我々が見られない新たな、新しい安全脅威が
いろいろな分野でたくさん出ました。それは、政治、経済、文化、社会にも及んでいると
考えております。例えば、具体的にマネーのロンダリング、武器の密輸、人身売買、食品
中毒、原発災害、本当にいろいろありますが、さらに、広く言えば、それは経済の安全、
金融の安全、また、生態の安全とかいろいろまとめられると思います。
伝統的安全保障と比べて非伝統的な安全保障は、突発性ですね。国境を越えた伝播です。
また、集中的に爆発、その動きが把握できない、予見ができない、いろいろな側面がある
ので、昔の伝統安全の対応と違って、1国あるいは2国の力で対応できない、あるいは他
国の皆さんの協力によって初めて解決できる、そのような特徴があります。北東アジア地
域における非伝統的な安全保障は最も目立っていると認識しております。
伝統的安全保障の立場から見ると、この地域は、伝統安全の火薬庫ですね。すなわち、
歴史をさかのぼって考えると、日清戦争、また日露戦争、中日戦争、第2次世界大戦、北
朝鮮とかいろいろありますね。ですから、本当に伝統安全の火薬庫と言うほどひどかった
地域だと思います。
また、非伝統的な安全保障の立場から考えると、この地域も 2003 年からSARS、2005
年の松花江の水汚染事件、2008 年の毒餃子の事件、また、ことしの東日本大震災ですね。
本当に多発しています。氾濫の地域とは言えないですが、本当に多発している地域として、
- 99 -
また、関連の法整備、協力の制度の構築が足りない状態で、ある意味では薄弱の地域であ
ると私は思っております。
これは、伝統的安全保障と非伝統的な安全保障の写真です。これはSARSのとき、ま
た昔の朝鮮戦争、イラク戦争とか、それは象徴的なことだと思います。
第2番目は、北東アジア地域が直面している非伝統的な安全保障のリスクです。まず、
河川汚染と生態悪化のリスクです。この地域は、今は河川の汚染、そして生態の悪化と本
当に厳しい状態にあると思います。例えば、黄砂、洪水、大気、水質の汚染など、特に、
1国だけではなくて、国境地帯で起こっており、多国間の国境を越える汚染が多発してお
ります。
いろいろなデータがありますが、ちょっと中国のデータを見てみます。中国の場合、700
の川の中で 50%以上は中度的あるいは重度的に汚染されております。揚子江、黄河、松花
江を含みまして、ほとんどですね。軽い汚染やひどい汚染を多少は持っていると思います。
また、HTUの関連記事によりますと、世界じゅうにおける二重の汚染のひどい都市の
中で、中国だけが 16 を占めておりますし、毎年、それによって何万億円の損失がありまし
て、35 万人がそれで亡くなるというデータもありました。
その2番目の食品安全の影響のリスクですが、中国ではこういうことわざがあります。
民は食を以て天となす。すなわち、普通の市民が食に頼って生きるから、食を最も大切な
ものとするということです。フランスのある栄養学科は、一つの民族の未来を考えるとき
に、その民族が何を食べるか、いかに食べるかから把握するのです。だから、食文化、食
の習慣がいかに重要であるかがわかると思います。
今、インターネットで食品という文字を入力して最も多かったのは「安全」
「中毒」とい
う言葉です。ですから、食に関するこの該当地域は本当に厳しい状態にあると思います。
これは、単に東アジア地域のことだけではなくて、地球規模の問題になっております。
今、世界中で年間数億人が汚染された食と水の摂取で病気にかかったり、また、15 億人の
5歳以下の子どもが汚染された食品で下痢を起こして、その中で年間 300 万人が死亡した
という例があります。
また、原発災害ですが、蔓延のリスクです。皆さんご存じのように、1986 年に、ロシア
のチェルノブイリ原子力爆発・漏えいの事件がありまして、ことしの東日本大震災の福島
の漏えい事件もありまして、本当に人間が原子力を平和的に利用すると同時に、いろいろ
災難の苦しみを味わったと思います。
例えば、今、日本政府は、民衆や地方自治体からの強い圧力に直面しています。海の方
を、汚染水を放出することで、もちろんいろいろ理由があるとしても、やはり、中国とか
韓国からの不満といろいろな心配を招いた、また、日本のイメージがダウンして、日本が
これから二流の国家になるのではないかという憶測が飛び交ったこともあります。
これは、中国における重大な水汚染事件、これを見ると、ほとんど中国の内陸部の川の
汚染ですが、6番目の松花江の重大水汚染事件ですね。アムール川を通してオホーツク海
- 100 -
に流れ込むという指摘があるのですが、すなわち、将来はこの生態安全と環境保全に力を
入れないと、汚染のリスクがいろいろ出てくるのではないかと心配しています。
これは、この 10 年以来、中国における民間の重大食品安全事故の一覧です。これは、イ
ンターネットからまとめたもので、無実とか報道の誤解があるかもしれませんが、この中
に、飲料水から野菜、食用油、ミルク、しゃぶしゃぶ、うどん、豚肉、まんじゅう、もや
し、ほとんどの農産物をカバーしていると思います。ですから、食品の安全問題は極めて
大きなことかと思います。
これは、全盛期における世界の重大核実験の一覧です。これは 20 世紀の今のことは書い
ていないですが、日本はそのときに東海村の原発の臨界事故がありました。
あとは、生態安全と環境保護議協力のための情報共有化について簡単に触れたいと思い
ます。
情報公開と共有化の必要ですね。すなわち環境保全生態の悪化しつつある、一番最大の
結果は、人間が住む環境が破壊され、直接、人間の生命にかかわっていることです。です
から、一般の情報公開と違って、これは、市民の知る権利、また社会的な関与、企業とし
ての公開の自覚、また政府としての管理のレベルアップと、いろいろ関連していると思い
ます。
情報公開と共有化は、今、いろいろ難点があります。例えば、企業側から見ると、いつ
もビジネス秘密という口実に、市民の知る権利、また、いろいろ社会の関与を無視してい
ます。すなわち、政府との協力だけがあればもう大丈夫だという認識が一般的です。
また、地方自治体としては、関連のマイナスの情報を公開し過ぎると、地元の経済の発
展、また、社会の安定にマイナスの影響が出てくると心配して、やはり一般的にはしたく
ない。それは多いです。
もちろん 、 国としてはいろいろ頑張っているのですが、多国間の協力の場合、やはり、
積極的な意欲があるのですけれども、心配で、警戒感があります。特に、未開発の国土資
源に対して、どういう目的に使われるか、また、自分の国益に合っているかどうか、いろ
いろ心配があると思います。
また、政府としては、汚染源となる企業の情報をきちんと正しく把握できないと、求め
られても公開できないという状態があります。
ここの情報公開と共有化の実例ですが、1986 年のソ連のチェルノブイリ原子力、また、
日本の今度の大震災の事故、中国のSARS、また松花江の水の汚染、いずれも政府と企
業の対応の遅れが目立っていると思います。
これは、世界の重大環境汚染の事件ですが、いずれも情報公開の不十分と、不透明の共
通性を持っていると思います。
最後に提言としては、まず、私の目から見ると、効果のある情報協力システムの構築が
必要です。ここは、私は、実務レベルの協力がどうしても必要だと思います。なぜかとい
うと、データの共有化について、政府、あるいは企業からの意欲的な要請がなければ、そ
- 101 -
れはほぼ実現できないということを心配しています。
また、今、北東アジア環境共同体の設立を私は推奨したいです。今まで、安全、文化、
エネルギーとか、北東アジア共同体の提案があったのですが、長い目で見ると、生態安全、
環境保全、地域の福祉向上、地域全体の持続的な発展に強くつながりますので、共同認識
がされやすい側面があります。
また、第3番目ですが、環境と生態協力の多国データバンクです。すなわち、このデー
タバンクは、政府、民間、企業、いろいろ多方面にわたって出資してつくっていまして、
政府の情報だけではなく、汚染企業の入れる情報も、共同モニタリングのような働きを果
たせばいいと思います。
また、最後に、コンソーシアムによる多国間の提言ですが、我々の今までのコンソーシ
アムの性格、政府の実務レベルの実践につなげるようにいろいろ考えなければなりません。
すなわち、これから実践レベルへの移行期に入る大きな転換期を迎えると思います。
同時に、民間のNPOとかNGOの育成、そして、これによって政府、企業以外の第三
者の評価システムを構築しなければならないと思います。
ありがとうございました。(拍手)
○楊座長
笪先生、ありがとうございました。
それでは、ご質問、コメントをお願いいたします。
○ウヤル
ありがとうございます。
先生、ご発表をどうもありがとうございました。地球研のウヤルと申します。
北東アジアは、伝統的な安全保障の核問題まで進んでいるということで、こういうコン
ソーシアムをつくった場合は、非伝統な安全保障問題と伝統的安全保障問題の関連性も考
えられますか。
○笪
先ほどの私の報告の中で少し触れましたが、伝統的な安全保障は、国の政治、外交
に強くかかわっている分野で、昔は主に軍事という手段で実現させるという側面がありま
す。これからもそのような性格で続けていくと思います。
それから、我々のコンソーシアムは、非伝統的な、国際関係から見るとこの二つが交錯
しています。しかし、我々は、生態安全、環境保全という立場から考えると、やはり、そ
れを切り離す方がいいと思います。
○楊座長
○竹田
ほかにいかがでしょうか。
本当に先生の言っていることはすばらしいです。これは本当に大事なことです。
安全保障ですね。環境問題とか、犯罪、食品とか、いろいろ食べ物とか、病気とか、いろ
いろな問題を解決するのに、本当に周りの国々が協力し合って、それは世界じゅうで協力
し合っていかなければいけないのだけれども、本当に先生の提唱していることは大事なこ
とだと思います。今も、そういうふうにやっていくのにはどうするかというのは、もう行
動に行かなければいけないと思うのです。言っているばかりになって進んでいかないのだ
けれども、先生の言っている情報公開をどう進めていくかですね。
- 102 -
中国も日本もロシアもそうですが、中国もどういうふうに情報公開を進めていくのか、
それを具体的にどうやっていくかも大事ですし、先生の言っているアジア環境共同体です
ね、北東アジア、これも本当に大事だと思います。具体的にどうやっていくかということ
も検討していかなければならないと思います。
○笪
ご質問をありがとうございます。
もちろん、ご指摘されたとおりで、北東アジア各国はそれぞれ国内の事情がありまして、
情報の公開に向けてすべて同じスピードで足をそろえてやることはできないと思います。
しかし、今、一番大きな発展中の国としては、中国は 2008 年から環境情報公開の方法を
既にやりました。それを評価したいのは、それによって中国は初めて法律によって環境関
連の情報公開が始まりました。もちろん、2008 年から今までいろいろ模索して、このよう
な法律によって、将来はグローバル化によって、地域周辺の各国の皆さんと国レベル、政
府レベル、住民レベルで、経済の相互理解の深化によって、その情報の公開のスピード、
または方法、外国の最もいい方法をかりて、ともにこの地域の発展のためにやる、多分、
将来はそのようなビジョンを描けると思います。今、中国は環境情報公開に結構努力して
いると私は評価したいです。もちろん、私は報告の中でも指摘しましたが、企業、地方自
治体、国レベルはそれぞれ思惑が違いますので、短期ですぐにすべて公開できるようにな
るにはやはり時間がかかります。
以上です。
○楊座長
では、時間が参りました。
どうもありがとうございました。
○笪
ご清聴、ありがとうございました。(拍手)
○楊座長
次のご講演ですが、
「ロシア極東地域の森林開発と利用」というタイトルで、封
安全先生、よろしくお願いします。
「ロシア極東地域の森林開発と利用」
封
安全(黒竜省社会科学院東北アジア研究所)
○封
皆さん、こんにちは。私は、中国黒竜江省社会科学院の封安全と申します。
きょうのタイトルは、「ロシア極東地域の森林開発と利用」です。
森林産業は、極東地域の主要産業の一つであり、その地域の経済の発展にとても大きな
役割を果たしています。
各地域の森林産業は、危機的状況に陥り、今はまだ完全に回復していないです。需要が
減少したため、この地域の森林産業はほとんど輸出市場を志向しています。近年、輸出志
向に伴い、極東地域の木材産業は回復しつつあるが、2007 年からロシアの丸太輸出関税率
の引き上げ政策により、ロシアの木材産業、特に極東地域の木材産業に大きな影響を与え
ております。
きょうの報告は、三つの目的があります。
- 103 -
一つ目は、ロシア極東地域の森林資源を分析することです。二つ目は、極東地域の森林
産業発展に対する政策を整理することです。三つ目は、極東地域の森林貿易、木材貿易と
国際協力について検討することです。
極東地域は、このように広大な地域ですね。面積は約3億 ha あり、ロシア極東地域の森
林総面積の3分の1を占め、木材の蓄積量は約 210 億m 3 です。ロシアの総蓄積量の4分
の1を占めています。この地域の森林の被覆率は 48%です。この地域の森林分布は、主に
サハ共和国とハバロフスク地方、アムール州と沿海地方に集中しています。この表からわ
かるように、93 年と 98 年を比べると、この 15 年の間に面積と蓄積量の両方ともふえたこ
とがわかりました。
極東地域の森林は豊富ですが、この地域の森林産業は立ちおくれています。森林産業は
主に森林伐採と木材加工です。ソ連崩壊後、木材生産は急減しました。この辺は、丸太の
生産量として 90 年代は約3千万m 3 です。ソ連崩壊後に急減して、99 年に 600 万m 3 しか
なかったです。2000 年以降、輸出増加により伐採量がふえて、2007 年は 1,600 万m 3 に達
しました。近年の成功です。でも、2008 年からの丸太輸出関税率の引き上げと 2008 年の
経済危機により、伐採量は 2008 年から急減し、2009 年、2010 年の生産量は、2000 年の初
めくらいの水準に戻しました。
この地の木材生産は、主にハバロフスク、沿海地方とアムール州に集中しています。で
すから、次に、これから州と地方の資料を少し話したいです。
アムール州の森林の状況です。アムール州は、2008 年時点で面積は 2,000 万 ha、蓄積量
は 20 億m 3 です。その構成についてですが、主に針葉樹林と広葉樹林ですが、針葉樹林と
広葉樹林の比率は 78%対 22%です。この面積で見ると、若齢林は 20%です。中齢林は 28%
です。中高齢林は 13%、熟林と過熟林は 39%ぐらいです。
次に、ハバロフスク地方の森林資源です。ハバロフスクの面積は 5,000 万 ha、蓄積量は
50 億m 3 です。同じように、針葉樹林は総面積の 85%を占め、広葉樹林は 15%くらい占め
ています。面積で見ると、若齢林が 16%を占め、中齢林 31%、中高齢林は9%、熟林と過
熟林は 43%です。
次に、沿海地方のデータです。沿海地方の面積は 1,100 万 ha で、蓄積量は 17 億m 3 で
す。被覆率は 77%に達した。この地域で一番成功しています。その中で、針葉樹林は 56%
を占め、広葉樹林は 44%を占めています。この面積で見ると、若齢林は5%、中齢林は 33%、
中高齢林は 18%、熟林と過熟林は 42%です。
近年のロシア極東地域の生産回復の要因は、主に輸出の増加ですが、極東地域の輸出に
ついて詳しいデータはなかなか入手できません。木材生産量の半分以上は輸出され、輸出
製品は主に丸太、輸出先は主に中国、日本と韓国であると判断できます。
これは、中国とロシアの木材貿易の図です。中国にとってロシアはもともと重要な木材
の輸入先であり、98 年から中国とロシアの輸入は急増し、2001 年の 800 万m 3 から 2007
年の 2,900 万m 3 に達しました。その理由は、先ほど述べたように、中国の消費が増加し
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て、その間にロシアがいろいろな誘引政策を出しました。
輸入については、2007 年から輸入は激しく減少しました。その理由は、先ほど述べたよ
うに、輸出関税率の引き上げと経済危機です。
輸入増加により中国の丸太輸入総額に占めるロシアの比率はすごく高くなって、90 年代
の中ごろは 10 数%で、2001 年で 50%を超え、2007 年ぐらいに 68%に達しました。中国と
ロシアの輸入の中で、約3割は極東地域から輸入されると推測されます。
次に、日本対ロシアの丸太輸入の関係ですが、実は、2002 年まで日本はロシアにとって
とても大きな木材輸出先です。2001 年と 2007 年の間に、日本の対ロシア丸太輸入は 600
万m 3 ぐらいの水準を維持しました。しかし、2007 年から日本の対ロシア輸入は激減して、
2010 年は 47 万m 3 しかないです。3年前の 10 分の1しかないです。
次に、ロシア極東地域の森林産業における存在する問題について簡単に話したいと思い
ます。
1番目は、極東地域の生産の立ちおくれ、かつ能力の低下です。
2番目として、極東地域の木材生産の立ちおくれの主要因は投資不足です。近年、ロシ
ア政府は、森林分野への投資に力を入れましたが、依然として少ないです。海外からのロ
シアの森林分野への投資は主に中国と韓国と日本です。実際には、この三つの国で特に日
本ですね。対ロシアの森林分野への投資は非常に少ないです。2009 年まで 5,600 万ドルし
かなかったです。その理由は、ロシアの法律です。政策などが頻繁に変化して、まだ投資
の環境は悪いと考えられます。
3番目は、交通のインフラ整備の立ちおくれです。この交通のインフラの立ちおくれで
すが、極東地域の主要な鉄道は二つしかありません。シベリア鉄道とバム鉄道の2本しか
なく、鉄道の密度は非常に低いです。このロシアの極東地域の鉄道の密度は、1万㎞ 2 で
13 ㎞しかなく、ロシア全体の平均水準の3分の1しかないです。特に、サハ共和国とカム
チャツカ地方、マカダン州には鉄道はほとんどないです。道路も同じく、国土地域の1万
㎞ 2 当たり 55 ㎞の道路しかなく、ロシア全体の水準の5分の1しかないです。
この表からわかるように、90 年から 2009 年までの 20 年の間にロシア極東地域の道路の
インフラの建設は余り展開しなかったです。このインフラの弱さですね。ロシア極東地域
の開発は大きな障害になります。
次は、4番目の違法伐採と違法輸出です。ロシアの特に極東地域は違法伐採が非常に深
刻です。ロシアの違法伐採量は、年間約 2,000 万m 3 でして、その中で極東地域は 600 万
m 3 と推測されます。その違法伐採のたびに輸出され、ロシアの丸太輸出の 20%から 90%
の間ぐらいが違法に輸出されていると推測されます。
5番目の問題は森林火災です。極東地域では毎年 2,000 件ぐらいの森林火災が発生して
います。被害面積は 100 万 ha くらいです。風が良く発生する地域ですが、南部の人口密度
の高いアムール州、ハバロフスク地方と沿海地方で、人的な活動によるものが 60%ぐらい
を占め、落雷によるものが 15%ぐらい占め、風などの原因は 25%ぐらいを占めます。
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問題の6番目ですが、木材輸出政策の調節です。近年、ロシアは、森林工業を発展させ
るための政策を出しまして、その中で、主な調節政策は 2007 年から実行された丸太輸出関
税の引き上げです。この政策は、2000 年から3段階で輸出関税が引き上げられました。第
一段階は 2007 年7月からで、契約の 20%、あるいは少なくとも1m 3 当たり 10 ユーロと
され、第二段階は 2008 年4月から 25%、あるいは、少なくとも1m 3 当たり 15 ユーロで
す。第三段階は、まだ実行されていませんが、80%、あるいは、少なくとも 50 ユーロです。
もし実行されるとロシアの丸太はほとんど輸出できなくなるかもしれません。
最後ですが、ロシアの極東地域木材産業の潜在力と今後の発展性について話します。
1番目は、ロシア極東地域の森林資源の潜在力です。森林資源は、石油などの資源と違
って生成可能な資源です。合理的に利用すれば使っても尽きることはないです。
極東地域の齢級別を見ると、大まかに若齢は 19%ぐらいを占め、中齢林は 20%ぐらい占
め、中高齢林は 20%ぐらい占め、熟林・過熟林は 45%を占めています。このような構成で、
迅速的な林業の開発に有利です。
極東地域の森林開発は、理論的に2年間の許容伐採量は 9,000 万m 3 くらいです。今ま
で 1,000 万m 3 くらいで、10 分の1しかないです。ですから、この地域の潜在力は大きい
です。
2番目ですが、森林分野への投資促進です。丸太輸出関税率引き上げの効果はまだ出て
いないですが、丸太輸出を制限して木材興業を振興する目標は変わらないと思います。
森林への投資を促進するため、ロシア政府は一連の政策を打ち出しまして、例えば、2006
年に施行された新しい森林法があります。また、木材加工用設備の輸入免税などがありま
す。
最後です。国際協力の緊密化です。先ほど述べたように、極東地域の森林効果が立ちお
くれた一つの要因ですが、機械設備老朽化ですね。ソ連崩壊後の国内と海外からの森林分
野に対する投資は少なかったです。
近年、極東地域への海外投資がかなりふえていますが、主にエネルギーへの投資であっ
て、ベニヤへの投資、森林分野への投資は非常に少なく、ある資料によると、ロシアの森
林工業振興は 1,100 億ドルの資金が必要です。そのようなたくさんの資金ですから、ロシ
ア国内からでは足りず、海外融資のため、国際協力はますます重要であると思います。
報告は以上です。
どうもありがとうございました。(拍手)
○楊座長
封先生ありがとうございました。
それでは、ご質問、コメント等をお願いいたします。
○吉田
大変興味のある報告をありがとうございました。
ERINAの吉田です。
先ほど最後のところで出ましたように、従来、6%だった関税が 2007 年ごろから 20%、
さらに 25%にふえて、実施されませんでしたけれども、2009 年から 80%になるというこ
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とで、日本の木材業者は、先ほどの表にありましたように、かつては 600 万m 3 入れてい
たのが、今は 20 万m 3 ぐらいまでに減ってしまったという結果が出ております。ロシアが
これを実施した理由は、一つは、森林からの国家の収入をふやすということです。二つ目
は、加工業をふやしていくということです。いつまでも丸太を売るのではなくて、製材を
売りたいという目的があったと思うのです。
ところが、結果から言うと、この 600 万m 3 は、日本はすべてアメリカから入れており
ます。ロシアから入った 600 万m 3 が、この政策の結果、全部アメリカ依存になったので
す。アメリカは距離が遠いので、3万トンの大型船を使って今入れていますので、採算は
合っています。という現状から見て、この政策が成功したのかどうか。本当にロシアの加
工業がふえたかというと、ふえていません。
こういう主観的な政策が対外貿易に非常に大きな影響を与えてしまったのですが、これ
についてどういうふうに評価されますか。
○封
どうもありがとうございました。
いい質問です。実は、ロシアの政策は、少なくとも二つの目的があります。一つは、国
内の木材産業を振興することです。もう一つは、ロシアの違法伐採を抑えるためにこの政
策をすることです。
今、先生がおっしゃったように、日本ではロシアの丸太の輸入は特に 2007 年から激しく
減少して、2010 年では 50 万m 3 しかありません。しかし、直接ロシアからの輸入ではなく、
中国を経由して輸入するということがあります。以前は丸太を輸入していたのが、中国か
らの加工材、あるいはヒキ材の輸入がふえています。
○楊座長
では、時間が来てしまいました。どうもありがとうございました。(拍手)
次のご講演ですが、
「 アムール川集水域における自然資源管理に関する新投資プロジェク
ト」、太平洋地理学研究所のピョートル・バクラノフ先生、お願いいたします。
「アムール川集水域における自然資源管理に関する新投資プロジェクト」
ピョートル・バクラノフ(ロシア科学アカデミー極東支部・太平洋地理学研究所)
○バクラノフ
尊敬する議長、そして尊敬する同僚の皆様、私の報告の中でお話するのは、
アムール川流域の天然資源、そして、自然のポテンシャルの評価であります。
そして、投資プロジェクトがこの地域で幾つも実現されるということで計画されていま
すけれども、そのことについても話をしたいと思います。
また、投資プロジェクトが実行されることによって、アムール川流域の自然利用の動向、
ダイナミクスにどういう影響が及ぶかということもお話したいと思います。
さて、アムール川流域の自然利用ということを話題にするたびに、私たちが考えている
のは、この地域が複数の国が集まっている地域であり、つまり国境を越える川であるとい
うことに注目するわけです。
といいますのは、アムール川流域と言いますと、面積は小さいですけれども、実は北朝
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鮮の領土もこの地域の一部となっているわけです。そして、アムール川流域の自然利用に
影響を及ぼしているもう一つのファクターがありまして、これは、この地域には複数の国
家があり、合計すると 13 の行政単位が集中している地域であるということです。それぞれ
の国の法律もありますし、また、各行政単位でもさまざまな法令などによって規則、規定
が異なっております。そこで、このアムール川流域の自然利用ということになりますと、
この地域の特殊性、つまり、合計 13 の複数の国の行政単位があり、各行政単位はそれぞれ
の地方の法律があることを忘れてはいけないわけです。
さて、これがアムール流域の地図です。
人口は 9,000 万人ですので、ヨーロッパの大国、例えば、ドイツやフランス、イギリス、
それぞれ一つの国よりもはるかに大きな人口がこの地域にあるということです。そして、
各地域ごとで一番大きな地位を占めている業種、職種もさまざまでありますので、このア
ムール川流域と一口で言いましても、細かい地域に分けると、それぞれ自然利用には特徴
があるということになります。
さて、この地図でありますけれども、実は複数の地図の寄せ集めです。中国に関しては
中国の地図を用い、モンゴルに関してはモンゴルが出したオフィシャルな地図を活用しま
した。そして、私たちの研究の結果、こういった経済地図をつくったわけですけれども、
150 の経済センター、つまり大きな都市、経済の単位として 150 のセンターをこの地図の
中に記しました。そして、それぞれの現状と今後、将来についてということで分析を行っ
たわけであります。
私たちの研究は、基礎研究でもあり、また応用的な実際的な研究でもあります。すなわ
ち、現状の分析を行い、今後、どのような変化が起こり得るかという予測も出したわけで
す。ということで、数多くの研究者が参加したチームによる研究でありますが、それぞれ
の専門に従って研究課題を設けたわけです。
そして、数十年という先のスパンを考えております。やはり、自然利用ということにな
りますと、数年単位ではなく、数十年単位となります。今後、きちんと自然に配慮した形
で開発が行われていけば、向こう数十年にわたってアムール川流域の自然利用、そして、
天然資源のポテンシャルは十分なものになるという結論に至りました。
さて、天然資源ということですけれども、そもそも天然資源のリソース、埋蔵量の評価
が必要です。そして、埋蔵量ということになりますと、個々の鉱脈だけではありませんで、
複数の地域にまたがった埋蔵量ということが重要になります。
こちらの地図ですけれども、アムール川流域全体、つまり、ロシアと中国に関しまして、
特に中国の黒竜江省に関して複数の行政単位にわたる各天然資源、鉱物の埋蔵量というこ
とになります。エルモーシンさんの報告の中では、既に天然資源のポテンシャルについて
報告がなされたわけです。
そこで、私の報告の中では、ロシアの地域に特化した数字を上げております。
これは、ローカルな意味を持っている、つまり、この小さな地方にとって重要な意味を
- 108 -
持つ鉱物もありますし、より大きな単位の広がりに重要な意味を持つ鉱物もありますし、
国全体の輸出力にかかわってくるという埋蔵量もあるわけです。
さて、このアムール川流域でありますが、地域が大変広いので、それぞれの埋蔵量に関
しても相互補完性があるわけです。そして、アムール川流域の外の各地域との補完関係も
重要な意味を持ってきます。天然資源のポテンシャルをどう活用するかということと、将
来の像を描き、そして具体的な政策をとっていくには、自分の地域の埋蔵量だけを考えれ
ばいいのではなく、隣接する、そして、若干離れた地域に関しても、どれだけの埋蔵量が
あり、どれだけの開発がなされ、どれだけの他の地域への輸出が可能であるかということ
を考える必要があるからです。
ということで、ロシアの地域をここに示してありますし、そしてまた黒竜江省、黒竜江
省よりも南の地域ということも考慮する必要があります。
さて、これは、それぞれの鉱物資源でありまして、その地域ごとの埋蔵量があります。
そして、天然の資源ということになりますと、単なる鉱物だけではなくて、森林資源も重
要になりますし、土地そのものも重要な資源となるわけです。
そして、このポテンシャルということになりますと、各行政単位だけではなく、アムー
ル川流域全体、そして、アムール川流域に隣接する地域の埋蔵量、そして、その可能性も
考える必要があります。
近年、ロシアにとって、そして極東の地域全体にとって重要な研究としまして、そして、
研究の成果といたしまして、この地域の長期計画が策定されました。ロシアの極東に関し
ましては 2025 年まで、最近では 2030 年までの計画が策定されています。また、ロシアの
大統領の命を受けて、2050 年までのロシアの極東の開発という計画が策定されている途上
です。
そして、イシャエフという科学アカデミー会員の方がリーダーとなって、2050 年までの
ロシア極東の開発計画の分析作業が始まっております。そして、発展計画ということです
ので、天然資源の活用、そして自然全体の活用ということが重要な要素になっています。
さて、この表でありますが、まとめたものです。ロシア極東の各行政単位、そして、特
にアムール川流域に入っているロシアの行政単位の発展の可能性ということです。
先ほど、ミシナさんの報告の中で、プライオリティーの高い分野ということで既に話は
ありました。
いずれにしましても、私たちが結論として出しているのは、すべての地域が発展の大き
なポテンシャルを持っており、林業に関しても、マイニングに関しても、また、石油ガス
に関しても、採掘し、精製し、輸送するということでポテンシャルを持っています。また、
造船も含めました海の産業に関しましても、ハバロフスク地方を初めとして大きなポテン
シャルがあります。ハバロフスク地方そのものは、海に面しているところはそれほど大き
くはありませんが、造船や船舶修理ということで大きなポテンシャルがあります。
さて、ロシア、中国の協力ということで、極東地域全体の協力ということも今後の大き
- 109 -
なテーマになりました。そして、国境をまたいだ中ロの協力があるわけですけれども、こ
れはロシアと中国の政府のトップ、首脳が調印した政府間協定が既にあります。そういっ
たプロジェクトが幾つもありますが、その中でも重要なものをここに書き上げました。重
要な種類です。特に重要なのは、輸送に関しまして国境を越える輸送であります。鉄道輸
送、自動車道路、パイプラインもあります。
また、送電線というものも考えられておりますし、林業、マイニング、科学技術の協力、
そして、観光業に関しても協力は可能です。また、自然保護に関しましても、中国とロシ
アの国境をまたいだ協力が既に計画されていまして、一部は実現段階、実行段階に入って
おります。それぞれの種類です。協力のタイプ別でロシア側、中国側の役割が書いてあり
ました。
さて、こちらは数量的な評価であります。ロシアの各行政単位ごとのプロジェクト数で
あります。ロシアの行政単位、これは州や自治区であります。合計約 100 のプロジェクト
がこの表には書かれています。そして、投資の額ですが、アメリカドルで表示しておりま
す。そして、どれだけの雇用が生まれるかということが書かれています。
こちらは、投資プロジェクトで、中国領土に関してで、あります。プロジェクト数は 100
を超えていますので、アムール川流域のロシア側よりはプロジェクトの数が大きいわけで
す。
こちらの表ですが、アムール州の流域に関するもの全部です。総数で 200 以上のプロジ
ェクトになっておりまして、極東ロシアと中国東北部ということで、172 のプロジェクト
がアムール川流域に関しては計画されております。プロジェクトの数としてはかなり多い
ことは明らかです。これは、地図上にそれぞれのプロジェクトの場所が記してあります。
こちらの地図に関しては、ロシアの部分だけの投資プロジェクトです。
アムール川流域でありますが、プロジェクトがかなり集中した地域になると思います。
ロシアの地域のかなり広い面積でさまざまな都市プロジェクトが行われることになります。
これは水力資源の活用、例えば、水力発電所の建設、貯水池やダムの建設という地図で
ありました。また、ガスによる発電所も計画されております。こちらの赤は、現況の水力
発電関係の施設です。青い丸が、予定されている水力発電所などです。すべてが実現する
というわけではありませんが、これらがすべて実現されるという仮定のもとに、どれだけ
環境に影響が及ぼされるかということを考えていかなければいけません。ということで、
私たちは、スキームを作成しまして計算を行っています。エルモーシンさんのお話に重な
る部分があります。
私たちの課題でありますが、計算を行い、そして評価を行います。つまり、都市プロジ
ェクトの実行に移される数、そして、予算の枠によってどれだけ影響が出るかという計算
です。
まず、沿海地方ということで考えてみたいと思います。また、自然の利用ということに
関しても、工業が発展することによって、技術がどのような形で確保されるかによりまし
- 110 -
て、自然への悪影響、そして、自然資源、天然資源への悪影響、天然資源がむしろ減ると
いう影響も考えられるわけです。また、大気汚染ということも考えられるのです。
さて、こちらは、環境ということに関しまして、各行政単位別にどれだけの影響が及ぼ
し得るかということが書いています。
研究のまとめとしましては、現状の評価が必要であります。そこで、現状の分析に関し
ましては、経済的な地図が基礎になります。また、経済上の地図をもとに行った計算とい
うことも、質、量ともに将来像の評価の指標となります。
また、投資プロジェクトもグループごとにまとめることができますので、それがどの程
度実現されるかということが、土地の利用、その割合も含めて環境に対する影響が計算可
能になります。
さて、自然利用の今後の動向になりますと、二つの地図をお見せいたします。これは、
アムール・オホーツクプロジェクトの枠内でつくられた地図です。上の地図は 1930 年から
40 年代でありまして、下の地図が 21 世紀ということになります。この地図を見ますと、
傾向がわかります。つまり、過去 40 年間で土地の利用に関してどういった変化が起きたか
ということが手にとるようにわかるわけです。これは、過去 100 年間の森林活用です。
こちらの表は、2030 年までのということで予測に関する評価です。当然ながら、現状を
計算して将来に投影したわけであります。いずれにしましても、土地をどのように活用す
るかということになります。
右の二つの縦欄が予想図です。つまり、それぞれの土地利用の種類が書いてありまして、
面積として減るもの、面積としてふえるものが書いてあるわけです。つまり、実数値と変
化の割合の両方を書いてあります。これを地図に当てはめますと、地図で将来の予測がわ
かることになります。これも同じような予測評価でありまして、これは中国に関する予測
です。
さて、水利学的な出来事ということで、危険な現象も起きております。つまり、自然を
利用するということの動向、ダイナミクスでありますけれども、急激な変化、あるいは災
害も考慮しなければいけません。森林火災ということは既に他の講師がお話されました。
私たちの太平洋地理学研究所におきましても、例えば、洪水の調査が行われています。
こちらは過去の大きな洪水が記入されているものであります。過去 100 年間の大きな洪水
が記入されています。もちろん、この地図だけでストレートに将来が予測可能なわけでは
ありませんが、将来に対するヒントは与えてくれます。こちらは数量的な評価です。損害
も書かれています。各地域ごとのリスクが書かれています。火事や洪水といった災害のリ
スクが書かれています。
また、長期にわたって森林、土地、水を非合理的に利用した場合、どのような損害が生
じるおそれがあるか、それも後戻りできない、不可逆的な損害が起き得るかということが
書かれています。
これは、リスクの規模であります。非合理的に自然を活用するとどういうリスクが起き
- 111 -
るかということであります。
それでは、持続性のある自然活用ということになりますと、自然保護区が重要な役割を
持つようになります。これがアムール川流域の自然保護区です。そして、自然保護区に関
しましても、ペアになっている、あるいは越境する自然保護区が重要な意味を持ちます。
この自然保護区でありますけれども、私たちとハバロフスク地方の研究者が、共同研究の
結果、提案した設けるべき自然保護区であります。一部の自然保護区については、ハンカ
地方ではこの自然保護区は既に導入されております。中国側からも自然保護区となってい
ます。
また、越境する自然保護区に関しましても、この地域の南部で既に設けられています。
ロシア側、中国側でも自然保護区が幾つか導入されています。また、北朝鮮においても、
面積は小さいですが、自然保護区が設けられることになっています。
さて、締めくくりに申し上げたいのは、私たちの地域は国境をまたぐ地域であることを
忘れてはいけません。
そこで、分析を行うに関しましては、特に将来の傾向を占うことに関しましては同じ方
法論を活用することが必要であるということです。この地域の心臓となるのはアムール・
オホーツク地域です。そして、将来ではありますが、モニタリングの対象地域となるべき
であります。
現在、既に複数の国ではエコモニタリングの地域がありますけれども、そのような地域
に将来なり得るのがアムール・オホーツク地域であると思います。といいますのは、こう
いったモニタリング地域を詳しく分析していくことによって、天然資源の埋蔵量、そして、
人間と自然のかかわり方の将来像がきちんと描けるからであります。
ありがとうございました。(拍手)
○楊座長
ありがとうございました。
○フロア
バクラノフ先生、本当にすばらしいご講演をありがとうございました。
質問ですけれども、中国とロシアの2カ国で 2009 年に協力機構をつくりまして、それか
ら、ロシアのシベリア、沿海地方、そして中国に関してできた協約ですが、もう既に2年
ぐらいたっております。中国は 114 のプログラムがあります。しかし、今、理想的に進行
しているとは言えません。こうしたプロジェクトについては、実際にロシアでの実行の状
況、進度はどのようなものでしょうか。
○バクラノフ
ご質問ありがとうございます。
理想的というのはどういうことか、あるいは、非理想的とはどういうことかということ
でありますが、これはなかなか難しい問題です。
ただ、言えるのは、中国とロシアの両国が、そして中国、ロシアの政府がともに協力が
必要であり、良い協力をする必要があるということを理解しているということです。
ということで、国境地帯、特にアムール流域に関しては、中ロの国境地帯にありまして
は、長期の協力ということは向こう 20 年、25 年ということでありますけれども、余りき
- 112 -
ちんとした時間枠を設けておりませんで、やるべきことを具体的にやっていくということ
です。
私個人の考えとなりますけれども、世界経済全体を見てみますと、順調に発展している
とは言えないわけであります。そして、世界経済危機の第2の波、あるいは第3の波が、
きょう、あすにも到来するということが言われております。
中国ももちろん影響はあるわけです。ロシアに関しましては、幾つかのプロジェクトは
実行の段階に既に移っています。例えば、ユダヤ自治州に関しては、既に建設が始まりま
した。オキナマンニングコンビナートであります。そして、既に設計段階となっているの
が橋であります。私自身大変びっくりしたのですが、アムール川の橋であります。吉田先
生がご存じですけれども、ブラゴヴェシチェンスクのところでアムール川の橋をつくると
いうことはもう数十年にわたる懸案であるわけですが、両国が力を合わせたことによって、
既にこの橋を建設するという作業が始まっています。観光業、建設業に関しても幾つもプ
ロジェクトが実行段階に入っているものがあります。
○楊座長
では、時間が参りました。
バクラノフ先生、ありがとうございました。(拍手)
では、次のご講演ですが、「北東アジアにおける経済協力の最近の特徴」と題しまして、
環日本海経済研究所の吉田進先生、お願いいたします。
「北東アジアにおける経済協力の最近の特徴」
吉田
○吉田
進(環日本海経済研究所)
北東アジアにおける経済協力の最近の特徴について報告したいと思います。
まず1番に、オホーツク海と関係各国の協力でありますが、この地域の地理的な地位か
らいって、産業も非常に似たところがたくさんあります。農林業、牧畜業、漁業、食品加
工、ハイテク産業、それから、南部地域からの資本導入、こういう幾つかの共通点があり
ます。これらの共通点をお互い生かしながら、現在地域協力が大変進んでおります。
また、資源開発、それから産業の発展、輸送回廊の発達、当然、これは環境保護とぶつ
かる問題でありまして、これをいかに解決していくかということも共通の問題です。
今後、オホーツク海からさらに北の方へ行きまして、北極海の資源の開発、あるいは新
しい航路の開発などが大きな課題となっています。こういう将来の問題を考えたときにも、
この地域の協力が大変必要であり、地域連携、科学技術の交流、気象情報の交換、人材育
成、経済社会的な側面における協力関係の拡大、強化、こういうものがますます重要な意
義を占めてくるだろうと考えております。
この20年間を見てみますと、北東アジア各国では、かなり大きな発展がありまして、
社会経済の牽引者、または、経済の金融危機などの際にかなり大きな力を果たしてきてお
ります。この地域の協力自身も大きな発展を示しているわけでありますが、この中でどの
ような政策をとり、どのような結果が出てきているかということを分析していくことは今
- 113 -
後の方向を見きわめる上で大変重要だろうと思います。
まず1番に、ロシア極東の発展計画が注目されております。
一つは、2012年のウラジオストクにおけるAPEC開催のための施設建設がどんど
ん進んでおります。それは、2013年までの極東ザバイカル地方社会経済発展特別プロ
グラムの中に含まれておりまして、その一環として進めております。
さらに、これが終わった後、2018年までの特別プログラムがあり、さらに2025
年までの発展戦略があり、先ほどバクラノフさんが言われたように、2050年までの長
期発展コンセプトが既に採択されております。
これらの計画は、ロシア全体として2020年までの計画が確認されているわけですが、
それと比べると、極東の場合は一歩先を進んでいるのです。なぜかといいますと、一つは、
ロシア連邦が極東の発展を非常に重視しているということです。二つ目には、資源開発を
するには、まず、インフラ構築をしなければなりません。このインフラ構築をやった後に
こそ資源開発ができるということで、より長期的な計画が必要であることを物語っており
ます。
この中で第1に述べましたウラジオストクにおけるAPECにつきましては、まず、A
PECの会場の施設の建設、それから、二つの造船場をつくる。さらにSOLAS、三井
物産、トヨタ、日産、マツダが自動車組み立て工場をつくる。また、石炭、食料を積み出
すための新しい港をつくるという計画がその中に含まれております。その中で橋を二つだ
けお見せしたいと思います。これは、金角湾の橋で、ウラジオストクの真ん中のところに
架け橋をつくりまして、このことによって対岸へ行く距離を縮めます。今、そこへ行きま
すと40分間から1時間かかるのですが、一挙にこれを渡ることができます。もう一つ非
常に重要な橋ですが、これはウラジオストクの一番南から新しくAPECの会場になるル
ースキーという島を横断する橋であります。これは、斜張橋で、トータルの長さが大体3
キロ、その一番重要な部分が1,300メートルです。これができ上がったときは世界で
第一になりました。この設計は日本の石川播磨が行いました。この橋をつくって、これを
繋ぐべきだという計画を一番初めに出されたのが、ここにおられるバクラノフさんです。
次に、エネルギー問題でありますが、サハリン大陸棚からの天然ガスと原油の供給は既
に始まっております。今、サハリン3とサハリン5の開発が継続して行われています。そ
れから、東シベリア・太平洋石油パイプラインの第1段階が完成しております。さらに、
ハバロフスク、ウラジオストクのガスパイプラインが今問題になっているわけですが、こ
れも既に完成しております。サハリン大陸棚の天然ガス、石油開発に関しては、北海道は
サハリン1、サハリン2の開発支援基地、後方基地となり、大変大きな役割を果たしまし
た。サハリン1の石油は2005年10月から、サハリン2の石油は2008年の12月
から、天然ガスは2009年の4月から日本に供給されております。
これは、今申し上げました石油パイプラインの構図でありますが、現在のところ、この
地点からここまでが完成しております。
- 114 -
今、スコヴォロジノから最後のコズミノという港があるのですが、この段階の建設を進
めております。約2,000キロです。さらに、地図に出ていないのですが、このスコヴ
ォロジノから南に来て中国の大慶のパイプラインが既に完成しており、1,500万トン
の石油を中国に運んでおります。
さらに、先ほどちょっと説明したのですが、天然ガスの東方ガス化計画というものがあ
りまして、これで話が進んでおりまして、先ほど私が説明しましたように、このサハリン
センターからこのルートを通って、それからハバロフスク、そこからこのウラジオストク、
このパイプラインが今完成したわけです。さらに、西のシベリアの方からの天然ガスのラ
インを建設して、これに繋ぎ、その増量を図るということです。
それから、この間、北朝鮮の金正日総書記とメドヴェージェフ大統領の間で話が決まっ
たパイプラインは、ここから朝鮮半島に入り、ここを通過して南へ行くという計画であり
ます。
次に、中国の場合、一番大きなのは長春・吉林・図們プロジェクトだと思います。この
計画は、2009年8月に国家レベルの事業に格上げされました。そして、この地域は吉
林省の長春と吉林省及び図們江地域を含みます。総面積が、この地図は余り適当ではない
のですが、今申し上げているのはこの地域です。これが長春、ここが吉林、これが図們、
この非常に長い地域のことを今説明しております。この地域は、先ほど申し上げましたよ
うに、かなり大きな開発区でありまして、中国政府は、この計画の実現を北東アジア経済
発展の推進力にしようとしております。ちなみに、2010年における吉林省のGDPの
伸びは前年比13.7%で、全国の平均より大分上を行っております。
次に、中ロ関係でありますが、これにつきましては、今、バクラノフさんの報告の中で
具体的に示されたので、さっと触れたいと思います。
シベリア極東と中国東北地方の経済協力プログラムが2009年9月に採択されました。
その中の幾つかの例を挙げますと、一つは、先ほど私が申し上げましたスコヴォロジノか
ら中国大慶へのパイプライン1,000キロメートルの完成があります。既にこれは稼働
しております。その次に、大ウスリー島の中ロ国境の確定が行われ、この島を両方で解決
しようということで既に着手しております。これは、日本の北方領土の解決に一つの方向
性を示した具体的な最近の例であると言えるかと思います。
それから、ここには書いていないのですが、サハリン大陸棚のサハリン3へ中国が参加
するということが出ております。
また、シベリアの天然ガスを中国に供給するということで、2本のパイプラインをつく
るということが計画されております。
また、2010年の9月にロシアの中央銀行がルーブルと人民元の直接交換を許可しま
した。そのことによって、旅行者が大変増えております。
一例を挙げますと、2010年7月のアムール州から中国の黒河へ来た旅行者が前年同
期と比較して25%増えて11万人、沿海州から綏芬河(スイフンガ)経由中国への旅行
- 115 -
者がなんと42%増えて8万人になっている、こういう現象が生まれております。
その次に、北朝鮮でありますが、北朝鮮は羅津・先鋒市が特別市に位置付けられました。
これは2010年の1月です。これは面積が746平方キロメートルで人口が約20万人
です。この地域は、従来からお互いの経済貿易を発展させるための特区になっていたので
すが、今後、国際交易拠点としてさらに重視されるだろうと思います。
それから、北朝鮮の変化で見落とせないのは、労働党の代表者会議が40年ぶりに開か
れて、この党組織を中心に再建しており、後継者の金正恩を労働党中央軍事委員会副主席
に選出いたしました。これは、従来の軍から党への中心の変化、言葉を変えると、経済開
放政策をとるには軍ではできない、やはり中国がやっているように党を中心にしなければ
ならないという一つの変化だと私は考えています。
それから、金正日総書記の訪問は、今回も含めて4回にわたっておりますが、大変緊密
な相互の関係ができつつあります。さらに、先ほど申し上げましたメドヴェージェフ大統
領との会談では、天然ガスのパイプラインをつくることを中心に双方の話し合いが進みま
した。南北会談と6カ国協議も、今後、大きく進むであろうと思います。
次に、輸送回廊でありますが、先ほど申し上げましたように、中国は延吉市と琿春市を
中心に、図們江流域を北朝鮮並びに日本との交流の中心に育て上げようとしております。
羅津港を50年間借りる、あるいは、そこまでの道路を自分でつくる、これは中国がやっ
ております。
一方、ロシアの方では、ハサン駅から羅津までの54キロの鉄道改修工事をほぼ完成し、
この間、試運転を始めました。このような大きな変化が出ていることを無視することはで
きないだろうと思います。これは、輸送回廊がどういう形で北東アジアからロシア、ヨー
ロッパにつながっているかということを表示した表です。
さらにあと一つ触れておきたいのはモンゴル政府でありますが、モンゴル自身も大変大
きな変化を遂げております。特に、南ゴビの銅と石炭の開発に力を入れて、オユ・トルゴ
イの銅鉱山の開発が去年の6月から始まりました。ことしはタバン・トルゴイ炭田の入札
がありまして、これは日本、さらにアメリカ、ロシアが受けております。それに関連した
鉄道建設、発電所建設などがかなり進んでいきます。ここには二つの鉄道の可能性につい
て述べてありますが、これがさらに国際的な協力で進むことになると、大きな進展を得る
だろうと思います。
今後の展望について言いますと、従来からの伝統的ないろいろな会議があるのですが、
そういう会議を通してこの地域の一つの経済圏が形成されつつあります。そのことと、今
のアムール川、オホーツク海のこの会合は並行して進んでいるのだと私は思っております
し、こちらはより学術的な交流を中心にしているのですが、相互の連携が考えられるので
はないかと思っております。
さらに考えますと、北東アジア諸国間の協力関係は、エネルギー、省エネ、環境保護、
食糧、輸送・観光、貿易・投資、金融分野で全般的な経済社会的な協力への拡大の時期に
- 116 -
移っております。それぞれの分野で話が進んでおりまして、例えば、エネルギー分野では
エネルギー共同体の構築が目標の一つになっていますし、環境問題については、先ほど
笪
さんが述べましたように、やはり、環境の共同体をつくろうという動きも出ております。
こういうものが進んでいき、局地経済圏が形成されていくのだと思います。
最後に考えたいことは、この地域でも資源開発と地球温暖化による自然破壊の危険性が
共通の認識になりつつあります。開発と環境保護を対立させるのではなくて、適切な妥協
点を見出すことが切実な問題になっていると思います。そのためにも、自然環境保護、自
然監視体制の確立、各種判定基準を制定する、規制法規などの国際化が非常に重要であり
ますし、そのためにこそ、この分野における学術交流の人材教育の一層の発展が求められ
ているのだと思います。
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合は、それらの課題の一端を担う非常に重
要な機能を持っており、国際的にも評価されております。今や、この組織を各国の関係者
が共同でさらに努力し、プラットホームに育て上げていくことが急務ではないかと考えて
おります。
ご清聴、どうもありがとうございました。(拍手)
○楊座長
ありがとうございました。
それでは、ご質問、コメントがありましたらお願いいたします。
○竹田
日本を含めた極東の開発によって発展するのは大事ですが、先ほどバクラノフさ
んも言ったように、その地域のアムール・オホーツクの資源を生かしていくということで、
この資源は物すごく大事で、大切に使っていかなければいけなくて、この地域の資源は、
その地域の人たちの発展に使われていかなければいけないと思います。ただ使い捨ててど
んどん放っておいたら、すぐになくなってしまうし、環境が汚染されてだめなのです。先
ほど、吉田さんも中国の人に質問していましたが、ロシアから木材が入ってこなくなった
と言ったでしょう。アメリカから買ったのだと。ロシアが木材もこの頃切らなくなったの
だと。それは木がなくなってきたから切らなくなったのです。今、自然環境破壊になって
きているのです。あそこら辺にウデへという先住民族が住んでいるところが保護区になっ
ていて、そこに良い木がたくさんあるのだけれども、今度、それを切ろうということにな
っていまして、今、ウデヘの先住民族の人たちはロシアの人たちに反対運動を起こしてい
ます。そして、日本のNPOの人たちも応援しているし、そういう自然環境破壊をやって
いたらどうにもなりません。そういう自然環境を破壊したら、かえって人の発展がなくな
るから、そういうことをしないでやっていかなければいけません。先ほどのバクラノフさ
んも水力発電などをどんどんつくっていくと言ったけれども、海からの魚も揚がらなくな
るし、そういうことはどうなるか。
あと、カラフトの石油資源が始まったときに、あそこは流氷が多くて、何かあって石油
が破裂なんかして海底から掘っているのだけれども、あれはすべて回収不可能になるし、
何年か前にも油でオホーツク海に6,000羽の海鳥が油まみれで死んだことがありまし
- 117 -
たが、それもわからないままになっているし、そういう環境を大事にしながら発展してい
くことを望みます。
○吉田
どうもありがとうございます。
今のご質問を大きく分けて三つになります。
一つは、先ほど、バクラノフさんも述べられましたが、2009年にロシアと中国の間
で長期にわたる協力協定が結ばれたわけであります。それで、先ほど中国の封さんが、そ
れほど進んでいないのではないか、どうなっているのだという質問をされたわけでありま
すが、最近は、双方でお互いに一定の資金を出し合って、合理的に進めようという一歩進
んだ処置がとられております。
そして、この計画の中では、やはり、環境保護を非常に大切にしながら進めていくとい
うことが出ておりますので、そういう極端な環境破壊は起こらないという前提で進められ
るものであろうと考えております。
それから、二つ目の木材のことについては、先ほどの封さんの報告の中にもありました
ように、成熟し過ぎた木材は絶えず出てくるのです。採らなくても自分で枯れていってし
まうのです。だから、地域を広げていって、成熟したものだけをどんどん採っていくとい
うことが一つ大切だろうと思います。
ただ、その場合に、どうしても奥地に入っていくので、その奥地から鉄道のあるところ
まで出してくるのが非常に困難です。それから、ロシアの場合は、いつ木材を採るかとい
うと、冬に採るのです。夏になりますと、沼沢地域などで運び出しができない、だから冬
に採るのです。その冬の寒さと、奥地に入った場合の輸送距離の問題と、そこからコスト
の問題が出てくるので、それをどういうふうに処理していくかということと環境保護とい
う問題をうまく両立させるということが最大の課題かと思います。
三つ目の問題は、今まで北海道大学で大変よく研究されている問題でありまして、今ま
でもルートを選ぶのに子クジラのいるところはやめるとか、いろいろな配慮をしてきてお
りますが、一番大きな問題は、先ほど言われましたように、突発的に何か起こったときに、
それをどういうふうに処理をしていくかと、その予防的な処置が今後大変重要であるであ
ると思います。それは、それなりの手を打ってきているのですが、十分かと言われると、
私はまだ十分ではないのではないかと感じております。
○楊座長
○司会
それでは、時間が来てしまいました。
白岩
それでは、楊さん、座長をありがとうございました。発表者の皆さん、あ
りがとうございました。
それでは、これで午前中のセッション終わらせていただきます。
〔
休
憩
- 118 -
〕
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
セ ッション5「環オホーツク地域の環境保全に向けた国際連携」
日
場
時:平成23年11月6日(日)午後13時30分から
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
- 119 -
第1会議室
◎セッション5:環オホーツク地域の環境保全に向けた国際連携
○白岩
そろそろ時間になりましたので、午後のセッションを始めさせていただきます。
それではセッション5は、北海道大学スラブ研究センターの田畑伸一郎先生に座長をお願
いします。よろしくお願いします。
○田畑座長
座長の田畑です。よろしくお願いいたします。
セッション5は、環オホーツク地域の環境保全に向けた国際連携というテーマで行います。
二国間、多国間で環オホーツク地域の環境を保全する試み、或いは努力について報告があ
ると思います。
最初の報告者を紹介します。サハリン国立大学のトゥ・ケンシクさんです。テーマは「ア
ムール・オホーツク地域の持続可能な発展に向けた協力」です。それではよろしくお願い
します。
「アムール・オホーツク地域の持続可能な発展に向けた協力」
ケンシク・トゥ(サハリン国立大学)
○トゥ
それでは発表させていただきたいと思います。
テーマは、今ご紹介していただきましたアムール・オホーツクの生態系の持続的発展のた
めの様々な当事者の間のパートナーシップの構築についてでございます。
内容ですが、まず社会の持続的発展プロセスとシステムプレゼンテーションとその当事者
の役割を少し感じています。
そのために、個人及び社会的利益の強調としてのバイザレイクシミュレーションモデルを
使ってのビジネスゲームの展開、そして当事者間の相互関係の方法としてのパートナーシ
ップ、それを元にアムール・オホーツク生態系における協力を考えて見たいと思います。
持続的発展をするには色々な難しさがございます。社会で起きていること全てはこの発展
の問題、障害となる可能性があるためです。
このため、発展の一番大事な部分を区別し、理解するのが難しくなるわけですが、これを
解決するには一方で発展のプロセスの構成物を見、考えて、主要な部分を区別するシステ
ムアプローチが必要なってきます。そしてここでご覧になっていただくように、一番大事
なものは当事者間のパートナーシップの構築だということを申し上げたいと思います。
実はこのことについては池田先生も昨日、それから福山先生も今日、中国の参加者の皆さ
ん、石田先生からもお話しがあったことでございます。この中で発展のプロセスというの
は、様々な活動の種類を構成するためのシステムでありまして、この場合は社会活動の経
済的環境的社会的な意味でそれぞれが目標を達成しようとする、そしてそれは発展のマネ
ジメントで新しい目的のシステムの条件となってまいります。
発展の目標の達成は様々な活動の種類の調整が必要となってまいります。
当事者の利益の調整というものが行われるわけです。これがインディケーターとなるわけ
なのですけれども、その中での発展というものを少し考えていきますと、スライドをご覧
- 120 -
になっていただいているように、各当事者の間には矛盾があります。そして 1 つの分野で
の利益が満足させられればさせられるほど他の分野での利害が制限されることになります。
このため、当事者間の利益の合意というのは、実際におきましては殆ど不可能であるとい
う事だと思います。
実は私は、1 人の人物と会うことによりましてこの様な問題を解決するための解決策、つ
まりビジネスゲームのアイディアをいただきました。
これは、私の先生でありますノヴォシビルスクのカマロフ先生でいらっしゃいます。
そして、このいわゆるバイザレイク(湖の畔)というシミュレーションモデルを使うこと
によりまして、解決することができるようになったわけなのですけれども、この個人と社
会的利益の合意プロセスのモデル、シミュレーションモデルというふうに使うことができ
ます。
そして、湖モデルは研究プロセスをよく理解させ結論を形成させるものです。
そして、このビジネスゲームの行動ですけれども、この企業活動の条件でとらえるわけで、
ある企業が湖の近くにある設定で、そこからの排水が湖に流されるということを考えます。
ゲームでは、シンプル化された企業内の活動がシミュレーションモデルとして表現されま
す。つまり、湖は企業にとっての活動に必要な産業用水の水源でありますし、水質はその
後の自然に色々な作用することになります。企業はまた、毎月のサイクルで稼働していま
して、水を使用する企業は水の質と、それから取締役会の決定に依存していくことになり
ます。それから、企業の役員ですけれども、これは水利用のサイクルなどの色々な企業内
の決定を行ったり、契約を結んだりします。
そして、役員会ですけれども、マネジメントの機関で企業内の合意を促すものです。
そして、企業メカニズムは役員による決定に基づいたルールで動くようになっているわけ
です。この表ですけれども、各企業は 1 ヶ月の実サイクルで次の解決のうち1つを実現す
ることになります。解決は個別にとられるが、様々な互恵的な戦略をとることができるわ
けです。それが、このビジネスゲームのポテンシャルとなります。
この、全員にとって利益をもたらすストラテジーを実現するか、グループのゲームプロセ
スが形成するかどうか、それからプレーヤーが共同行動の潜在的利益を評価しその他の当
事者を説得できるか、それからゲームに社会ストラテジーの効果的な有効メカニズムと刺
激メカニズムを構成できるかなどに、左右されることになります。
そして、この中でこれを組み合わせることによりまして、ゲームに可能性が沢山でてくる
わけです。もう一度スライドをご覧になっていただくとおわかりになるように、様々なゲ
ームのポテンシャルを拡大するためには色々な条件がございまして、それが書かれている
わけです。
それから、このビジネスゲームの経済的な実験によりまして、実験グループの結果が出て
きます。システムは、それに依存しましてシステムが崩壊しなかったり、収入も高いとい
う良い結果が出てくることによりまして、解決策の選択と実現のプロセスの技術化の結果
- 121 -
となります。
ここでみていただけるのは、理想的な実験の為の収入の意味です。つまり、共同での合意
がなされてストラテジーが使われるわけです。例えば、このような形でここでの可能性の
あるストラテジーというもの、それから、それが導き出す結果というものが表れてくるわ
けです。そして、個人的及び公的な方向性というのが一致することになるわけです。
それから、ビジネスゲームの内容ですけれども、ゲームの中ではモデルレベルで個人と社
会の利益の矛盾が示されます。この矛盾の解決は、個人そして社会の利益のプラスになる
ものです。一番目のケースでは、産業システムの方が崩壊して、二つ目のケースでは生産
活動の効果的な機能が補償されます。
そして、社会的な個人的な利益が満足させられる、実生活でもこの様なケースが多くみら
れます。そして、ゲームを何度も行ってみると、個人社会の利益の方に有効なのは生産メ
カニズムであることがわかってきます。
この際の条件は、三か所の行動が自動的に生産活動と結びつくことです。
そして、このような中で執行機関と立法機関というものができ、このような生産メカニズ
ムの開発と実現は、マネジメントの法的執行機関の役割と法的機関は効果的なグループス
トラテジーを作って、執行機関はこのストラテジーを実現することになります。
法的機関の有効性ですけれども、組織構造の決定とグループの決定のプロセスの技術化に
依存します。そして、これによって、説得、動機、必要性に基づいて行われ、これにより
3つの執行機関のバリエーションが出てきます。
1番目ですけれども、執行機関がコストなしで社会的な初めのステージで実現されますが、
信頼性は低くコントロールが脆弱で、追加的な収入を期待する人が必ず出てくるという欠
点がございます。
2番目ですけれども、これは執行機関が動機にベースを置いているもので、全てのプレー
ヤーはこれをコントロールすることになります。
3番目ですけれども、これは連立してコントロールを行っていくわけですけれども、社会
にとってこれの方が実益があるかもしれません。一番良いケースでは、個人主義者は生産
システムを崩壊させることになります。そして、この様な中で、社会セクターのパートナ
ーとして相互関係に大きな注意が払われるようになってきています。
そして、1 つのセクターの力による問題解決法では不十分で、別々に動きながら各セクタ
ーが各活動を実現し、競争し、行動を繰り返していくと、このためのパートナーシップこ
そが各当事者の利益の合意メカニズムに有効になってきます。
そして、このメカニズムが持続的な発生プロセスにおいて重要になってきます。
そして 1 つのセクターだけでは、先ほど申し上げたように不十分なわけです。そして、別々
に働きながら全ての流れが統一されたときに、1 つの流れとなって解決に結びつくように
なってくるわけです。
ここでは、効果的なパートナーシップの利益と原則が示されています。パートナーアプロ
- 122 -
ーチの基本は、セクター内の相互関係によってのみ社会発展の複雑な問題の解決ができる
という確信がでてきます。
パートナープロジェクトの多くが世界中で実現中でありまして、これこそがセクター間の
相互関係が効果的で持続的であることを証明しているものです。
パートナーアプローチですけれども、これは行動の条件がよく理解でき、また各セクター
の可能性も理解しやすくなりまして、社会発展の新しい可能性が開けることになります。
各種レベルでの協力例というものの 1 つは私共、今皆様と話し合っているアムール・オホ
ーツクエコシステムというものであります。
そして、この中の当事者にあたるのは中央政府機関、地方政府機関、国家社会機関、その
他の社会組織などがあります。
そして、このプロジェクト事態の問題解決の協力は色々なレベルで実現されまして、政府
間、地域間、国家社会間、社会的協力などがありまして、政府間はロシアと中国であると
か各国の地域間のようなこともありますし、PPPやこのアムール川流域の保護に関する
グループもそうですし、各団体間の社会的協力というものも行えるわけです。
特に科学者間、科学ベースでのこのパートナーシップなどは、これに入るものです。
最後に申し上げたいのは、全体としてみると、問題の解決は全ての当事者による共同の努
力に依存するということです。勿論、様々な当事者の個別の活動はあります。1 つの結論
を導くことになりますけれども、部分的な改善というものも行われることはあります。
しかし、その中で全体としての問題は解決することなく、結果的には、例えば今この皆さ
んとの仕事の中でのアムール・オホーツク生態系の悪化と繋がることになってしまいます。
そして、有効的なグループとしての全ての当事者による行動が非常に重要でありまして、
広いパートナーシップを形成し、その枠内での問題解決のためのメカニズムを作っていく
ことが非常に重要です。社会的利益に見合うような、全ての皆さんのための活動制度を作
り、この様なメカニズムこそがエコシステム維持を可能とします。ユニークな生物多様性
を維持し、北東アジアの国々の生活の条件を形成することになります。
今日はこの様な発表の機会をいただきまして、心から御礼申し上げます。ありがとうござ
いました。(拍手)
○田畑座長
それでは討論、質問に移りたいと思いますが、何方か発言があるでしょうか。
はい。お願いします。
○池田
北大の池田といいます。1つ発表の中で、不思議に思った点があるので、どうい
うお考えか教えてください。研究者、科学者がパブリックグループに入っていて、市民と
言われる人たちの顔が見えないのですが、それは国の特別な状況でしょうか。それともモ
デルを考える上で自然なことでしょうか。
○トゥ
はい、ありがとうございます。当事者は3つのグループに分けられるわけですけ
れども、政府、ビジネス、そして社会。そして、今おっしゃったごくごく普通の市民とい
- 123 -
うのは、社会の中のメンバーということになります。
特に、地域の住民というのもある形の組織化をされたグループに入っているわけです。
そして、例えば社会団体の中に入ってきます。この団体とは、きちんとした公式なものも
あれば、もしかするとただグループになって何人かで形成されているものかもしれません。
ただ、例えば専門的な組織かもしれないし、例えば協同組合の様なものかもしれません。
しかし、発展に際しましては何らかの形でだんだん力を持ってくることになります。
そして、この様な国民社会へのツールが発展されることになりまして、その市民の顔が見
えるようになってくると考えております。
○田畑座長
私から 1 つ質問させていただくと、非常に一般的なモデルを示されたと思う
のですけれども、このオホーツク海というところにこれを適用する場合に、何か特に注意
しなければいけない点のような、特殊な事情というものが出てくるのでしょうか。
○トゥ
はい、ありがとうございます。勿論、アムール・オホーツクプロジェクトという
ものは非常にユニークなものです。非常に大がかりなものでございます。
そして、これは各国沢山の国が参加している訳ですし、参加する組織も沢山なってきます。
その意味で、この活動を効果的にするためには色々なアイディアがあります。
それについては、今日色々な皆さんがおっしゃっています。
ですけれども、政府が色々な下から上がってくる色々な意見について聞く耳を持たなかっ
たり、聞くためのメカニズムを持たなかったりしています。ですから、やはりエコシステ
ム自体が多様なものがございますので、そして科学者側が自らの役割を果たしていくため
には、きちんとしたパートナーシップを構築し、その中に政府の代表も必ず入ることが非
常に必要だと思います。
そして例えば、この様な科学の分野からの人達の声を聞きながら、その政策決定の代表者
達とのオープンな討議というものをおこなっていくということで、初めて動くと思います。
今日、他の発表者の皆さんから、非常にこれは難しい問題でなかなか実現することができ
ないという発言がありました。特に、この広い意味でのパートナーシップというのは、決
定機関、政府の代表というものが必ず出席し、そしてその意見をオープンに討論していく
必要が非常に大きいと思います。
○田畑座長
それではこれで、トゥ先生からの報告は終わりにしたいと思います。どうも
ありがとうございました。(拍手)
続いて、北海道漁業環境保全対策本部の石川清さんから報告をお願いします。報告のタイ
トルは、
「サハリン・プロジェクトと北海道漁業」というものです。よろしくおねがいしま
す。
「サハリン・プロジェクトと北海道漁業」
石川
○石川
清(北海道漁業環境保全対策本部)
北海道漁業対策本部の石川です。
「サハリン・プロジェクトと北海道漁業」に関し
- 124 -
てお話しをさせていただきます。
まず、北海道の漁業生産についてお話しします。
北海道の漁業生産量は日本全体の 25%、生産額では 20%にも上がります。
北海道では漁場環境を保全するために、かなり以前から内陸での環境保全活動を行ってい
ます。河川の環境を守ることが、海域への汚染物質を防止するためです。
また、サケが上がってくる河川の環境を保全するためです。内陸には様々な汚濁原因があ
ります。工事の濁水、工場排水、家畜の糞尿、土砂が流出して海域のホタテが死んでしま
うこともあります。また、海域での油流出による事故も、漁業被害を招く原因となってい
ます。
これらの漁業被害を防ぐために、現地調査や環境分析を漁業関係者が自ら行うだけでなく、
環境保全のための要請活動も行っています。また、豊かな漁場環境を守るために、山に木
を植える植樹活動も二十年以上続けています。この植樹活動は今年、生物多様性保全活動
として表彰されています。
さてここで、北海道の漁業者が不安になる大きな問題が出てきました。
北海道の北方にある、サハリンでの原油開発です。サハリンを含むオホーツク海一円には、
多くの油田地帯が分布しています。サハリンでは現在、サハリンⅠとサハリンⅡでの原油・
LNGの生産が行われています。サハリンからの原油・LNGはタンカー等で運搬されま
すが、通行路となっているサハリンと北海道の間の宗谷海峡は、非常に狭い海峡です。こ
の宗谷海峡を利用して、多くのタンカーが北海道周辺を航行することとなりました。
また、サハリンⅡではサハリン南部のアニワ湾に積み出し基地がありますが、ここから原
油が流出した場合には、北海道へ漂着する可能性があります。さらに宗谷海峡でタンカー
事故が発生した場合には、北海道北部のオホーツク海沿岸に油が漂着する可能性もありま
す。
では、これらの事故に対して北海道での防除体制はどうなっているのでしょうか。油防除
に携わる海上保安庁の船舶、油防除資機材の配備は、北海道の南部を中心に配備されてい
ます。流氷も漂着する厳しい北海道の海を守る海上保安庁の船舶は、耐用年数を過ぎた船
舶が多いという問題があります。非常に予算が足りないということになっています。オイ
ルフェンスなどの油防除資機材も、北海道の南部を中心に配備されています。
この様な中で、サハリンでの原油開発が本格化する前に、北海道漁業関係者は様々な要請
活動を行ってきました。北海道の漁業関係者は、海洋環境の監視システム、周辺国との情
報共有、国内の情報伝達網の整備、油防除体制の整備を要請してきました。このなかで、
サハリンⅡの事業を行うサハリンエナジー社と書簡交換を行い、油防除への備えと北海道
漁業関係者への情報提供を要望しました。
サハリンエナジー社は北海道地域に対して、油防除に関する様々な協力を実施してきまし
た。日本国内の漁業関係組織も、サハリン原油開発事業での油流出事故に対して様々な準
備を行ってきました。北海道の漁業関係者は、日本としてサハリンⅡに融資を行うことと
- 125 -
した国際協力銀行に対して、我々の活動への協力を要請しました。更に、サハリンⅡへの
融資に対する保険付保を行う日本貿易保険、こちらに対しても我々の活動への協力を要請
しました。また、北海道の漁業関係者は、海上保安庁が開催するサハリン関係のタンカー
の安全航行会議にも参加しています。
我々北海道の漁業関係者の活動は、日本の小説にも登場します。最近、この小説は中国で
も出版されました。残念ながら、ロシア語にはまだ翻訳されていないようです。
北海道の漁業関係者は、サハリンへも訪問して要請を行ってきました。2008 年から 2011
年まで、定期的に現地協議を行っています。次回は、是非サハリン国立大学のトゥ先生を
訪問したいと思っております。サハリン州政府には、北海道とサハリンの共通の海の環境
保全を要望しました。また、日本国在ユジノサハリンスク総領事には、油流出事故に関す
る敏速な情報収集を要請しました。サハリンエナジー社には、情報共有と油流出事故への
対応を要請しました。
また、サハリンエナジー社のパイプライン、積み出し基地の視察も行いました。現在は、
タンカーやLNG運搬船がひっきりなしに出港しています。サハリンエナジー社との良好
な関係の中で輸出基地の集中管理室、更に原油・LNGの分析室の視察も行うことができ
ました。我々のサハリン訪問は、ロシア国内でも報道されています。
サハリンエナジー社との良好な関係の証として、記念の植樹も行いました。北海道の漁業
者は、道内だけでなく、ついに海外でも植樹活動を行うことができました。この記念植樹
は、サハリンエナジー社の年間報告書にも記載されています。昨年、北海道の稚内で開催
されたNOWPAP(ナウパップ)の会合で、私たちは初めてエクソン・ネフテガス社の
担当者と会うことができました。このため、私たちはNOWPAPのゾンさんに大変感謝
しております。このときに作った繋がりで、サハリンで初めてサハリンⅠのオペレータで
あるエクソン・ネフテガス社に対して、情報共有の構築を求めました。昨日、ロシア極東
水文気象研究所のカラシェフさんとも話しましたが、エクソン・ネフテガス社の協議は、
非常に困難なものです。
どの位苦労しているかといいますと、ここに日本の扇子がございます。この扇子に実はサ
ハリンⅠとサハリンⅡの会社のマークを印刷したものを用意しまして、相手の担当者にプ
レゼントして持って行っている。なんとか友達になって、良好な関係を築こうということ
で涙ぐましい努力をして、毎年サハリンに行っております。
サハリンエナジー社から今年、同社がサハリンで行います社会貢献活動の一環としての展
覧会に、小池総領事と共に私たちは招待されました。
道内では私たちの他に市民団体のオホーツク環境ネット、こちらが同様にサハリンエナジ
ー社との情報共有体制を築いておりまして、オホーツク沿岸の各都市でエナジー社の報告
会を開催しています。エナジー社は、オホーツク環境ネットと共に紋別の国際流氷シンポ
ジウムにおいて、油流出対策分科会を共催しています。
現在私たちは、次のことに取り組んでいます。まずタンカーなどの大型船舶の安全航行を
- 126 -
目的として、研究者の協力を得て、独自に大型船舶の航行監視をおこなっております。現
在サハリンからは、原油・LNGの輸出が本格化しています。日本へも、原油・LNGが
運ばれています。原油・LNGの輸出が本格化する以前は、サハリン原油に対応した防除
資機材は、北海道の南部を中心に配備されていました。私たちの要請と関係機関の協力の
元で、現在はサハリンに面した北海道の北部にも配備が進んでいます。
しかしながら、事故はいつ起きるか分かりません。最近でも、原油掘削基地やタンカーの
事故が報道されています。我々も参加しています第一管区海上保安本部のタンカー安全航
行会議の活動の1つをご紹介します。最近ロシア軍の訓練がオホーツク海で実施されまし
た。しかしながら、この訓練海域がタンカーの時間調整海域であったために、タンカー運
航会社に注意喚起を行いました。これはタンカー事故を防ぐため、ひいては油濁事故を防
ぐために必要な措置です。
我々はこれからも漁業を守るために環境保全の努力をしなければなりません。皆さんのご
協力を、お願いします。ありがとうございました。(拍手)
○田畑座長
ありがとうございました。それでは質問、ご意見がありましたらお願いしま
す。
○松田
横浜国大の松田と申します。お話しありがとうございました。海外で植樹をした
という話に大変興味を持ったのですが、ご存じの通り日本の漁業者は魚付き林という形で、
植樹をすれば自分の沿岸の漁場が良くなると考えてやっていると思いますし、このアムー
ルプロジェクトも、アムール川全体の生態系が豊かになるからオホーツク海が豊かなのだ
という考えに基づいてやってきたわけですが、その魚付き林という考え方が外国の方にど
れだけ理解されているかというところ、あるいはどういう風に説明しようとしているか伺
いたい。
○石川
植樹は、街中のユジノサハリンスクのサハリンエナジー社の社宅の中で行ってお
ります。本来であれば、河畔林に木を植えるのが漁業者の通常の植樹の方法になっており
ますけども、最初は木を植える記念行事そのものがエナジー社のロシア人に理解してもら
えなくて、北海道の漁業者は山に木を植えて魚を増やしているのだということを説明して
「あっ、そういうものなのか」と、じゃあ記念にやりましょうということで認めていただ
いております。少しずつその木が増えて社宅の中に広がっていけばいいな、とは思ってお
ります。ありがとうございます。
○田畑座長
○白岩
他にどうでしょうか。白岩さん。
大変努力をされて、オホーツク海を守られていることがよく分かりました。あり
がとうございます。
それでちょっと質問なのですが、日本に漁業者がいるようにサハリンにも漁業者がいると
思うのですが、例えば日本の様な漁協があるのか私は知りませけど、そういう漁業者とサ
ハリンエナジー社との関係、あるいは日本の漁業者とサハリンの漁業者との関係、その辺
でこういうネットワークを作るという動きがあるのでしょうか、教えていただきたいと思
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います。
○石川
サハリンに訪問する場合に、先ほどのスライドにありますように会社だけでなく
て様々な所に併せて行くようにしております。
次回は是非とも国立大学の方にもお伺いしたいと思っているのですが、その中で水産加工
場とか、出来れば漁業協同組合の様な組織があるということでそちらの方も見学したいと
考えておりますが、まだ現地の孵化場とかそういうものの見学程度に止まっておりますの
で、今後、先方の漁協との環境分野での、うちは経済組織ではありませんので、環境分野
での協力というものができるかどうか、というのはこの要請活動を続けて行く上で1つの
課題になるかな、というふうには考えております。ありがとうございます。
○会場
この辺の漁業資源はもの凄く大事なのだけれども、サハリンⅡが始まるときに札
幌に来てロイヤルダッチが説明した時には、環境を壊すと元に戻らないからと言ったら、
樺太で流出事故が起きても稚内まで1%しかこないとか言っていた。
今はロシアのサハリンエナジー社がやっているが、ちゃんとやってほしい。
環境問題、山が大事ということをロシアの漁業者とも手を繋いでやっていって欲しい。
○石川
懐かしい話をありがとうございました。
サハリン州政府の方にも、サハリンエナジー社への行政上の指導ということで、お願いを
しているところであります。ただ圧力団体としてサハリンエナジー社と話をするのではな
くて、私たちがサハリン州政府とサハリンエナジー社に要望したことは、これが現地の報
道でも取り上げられたところなのですが、取り上げられるように要請をしたのですが、日
本と北海道、北海道とサハリンの共通の海であるオホーツクを油から守りましょう、とい
うような要請の仕方を州政府の方にはしてきております。
また、サハリンエナジー社とは定期的に協議をする中で、日本への環境影響の未然防止だ
けではなくて、現地でのパイプラインのその後の復元状況とか土砂の流出防止等について
も現地で確認をさせていただいております。
昨日今日の話の中にもありましたけれども、良好な関係を作ること、その中で情報共有す
ることが環境を守るために必要なのだろうという認識の上で私たち活動をしておりますの
で、今後とも皆様と御一緒に豊かな北海道の生産の基盤でありますオホーツクの海を守る
ために、私たちも協力したいと思っております。どうもありがとうございます。
○野口
北海道立総合研究機構の野口です。
うちの方では以前オホーツクに流れ着いた油まみれの鳥の油の分析とか行っております。
そういう意味では、油の色んなサンプルがあるとどこの油か判断しやすいので、環境デー
タということだけじゃなく、サンプルとしてもサハリンⅠとかサハリンⅡとか北海道内の
油も集めた上で、そういう情報も調べていきたいなというふうに私たちも考えております
し、その点で協力を願い事もあるかと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします。
○石川
野口先生ありがとうございます。
私たちで出来ることでありましたら、北海道庁の方にも色々とご協力をしたいと思ってお
- 128 -
ります。エナジー社がこちらの方に来るときには、ロシアの方皆さんそうでしょうけども、
なかなか北海道の中でどこに行けばいいんだとか、お役所と会うためにはどうすればいい
んだとお悩みになることもあろうかと思いますが、サハリンエナジー社が札幌に来たとき
には、例えば道庁であるとかその他の各種機関を廻って、北海道の危機意識というものを
知っていただく為に色々と廻っているところです。
今月もサハリンエナジー社の方が2名ほどいらっしゃるのですが、経済産業局はじめ幾つ
かの機関にお連れしてお話をしていただこうと、北海道の話を聞いていただこうというこ
とも計画しております。そのような努力もしております。
○会場
昨年において、オイルの事故が何件あってどういう規模だったという情報は1つ
あるのか。
二つ目の問題として例えばサハリンⅠでもⅡでも、こういう流出があった場合、道東にお
けるこれだけの被害が想定されるというシミュレーションは、やっているのでしょうか。
特にオホーツク海のサケマスの影響は、私は非常に大きいと思います。あとはスケトウだ
とか、そういうシミュレーションはやっているのか。それと昨日もちょっと聞いているの
ですが、色々情報を出しているのですが、例えばこういった問題についてはこうアクセス
すれば分かります、とかっていうまとめたものはあるのかどうか。教えていただければ助
かります。
○石川
事故の情報ということであれば、確かに来ております。
サハリンのユジノにありますNHKと北海道新聞社が記事にしたときには、恐らく皆さん
もご存じだと思います。ただ、もし新聞に載らないサハリンエナジー社がロシア政府もし
くはサハリン州政府だけに伝えるだけのものですと、それが外に出なければ我々には会場
の皆さんには届かない、ひょっとしたら外務省は知っているかもしれません。そういうこ
とがないように、私たちは直接情報をいただくようにしていますので、道新に出たものは
当然知っています。道新に出なかったものも知っています。ただそれが北海道に来ない、
来なかったというような事故だったということは、私どもの方で情報は押さえております。
それとエナジー社のシミュレーションについては、油が出たときに北海道に漂着するとい
うようなレポートは出ております。それは、エナジー社のホームページの中で公表されて
いるはずです。ですからこちらの方も、通常のルートではホームページ上で英語もしくは
ロシア語もしくは非常にボリュームの少ない日本語のものしか手に入らないというのか従
前の状態だったのですが、今は直接情報を要求する中でこういう情報が欲しい、こういう
情報が欲しいということで情報共有をしている。それが書簡交換の目的でもありましたし、
それは実行されているということになっております。
いずれにしても、事故が起きたときにどの位の被害が出るのかということは、一番最初の
スライドにありましたように、かなり甚大なものになると考えております。
ですから、事故が起きないように未然に防止する、そのための準備をどこまでやったので
すかというような問いかけを毎年毎年定期的に行っている、ということで御理解いただけ
- 129 -
ればと思います。ありがとうございます。
○田畑座長
どうもありがとうございました。
時間になっていますので、石川さんの報告はここまでとさせていただきます。どうもあり
がとうございます。(拍手)
続きまして、モントクレア州立大学とコロンビア大学ウェザーヘッド東アジア研究所のエ
リザベス・ウィシュニックさんに報告をお願いします。報告のタイトルは、
「アムール川流
域は危険に直面しているか?松花江における化学物質の流出の結末と中露協力に対する期
待」というテーマです。よろしくお願いします。
「アムール川流域は危険に直面しているか?松花江における化学物質の流出の結末と中
露協力に対する期待」エリザベス・ウィシュニック(モントクレア州立大学・コロンビア
大学ウェザーヘッド東アジア研究所)
○ウィシュニック
私はモントクレア州立大学・コロンビア大学ウェザーヘッド東アジア
研究所から参りました。私にとっては第3の外国語でありますロシア語で話しますので、
すこし間違えるかもしれません。
私は、スンガリの化学工場の薬品物質のスンガリ川への影響、そして中露協力の展望につ
いて申し上げたいと思います。
これがスンガリ川でありまして、中国語では松花江です。
中国の東北地方というのは、農業にとっても工業にとっても非常に重要な部分でありまし
て、そこの環境というのもシベリアアムールのトラなどの野生生物に対しても影響を与え
るものであります。
この川では3回の事故がありました。そしてその影響が隣国に広がりました。
最初の 101 工場というものが、2005 年に工場での事故が起きています。その頃はソビエト
ですけどソ連は、この工場を建てる時に 1950 年代に支援して作ったわけですが、その時に
中国側としてはハバロフスクの近くに作りたいと希望したのですが、ソ連側としては拒否
しました。といいますのも、やはり事故が起きたときには都市のそばに付いていることが
まずいのではないのかということを考えたのであります。
そして、11 月 13 日にこの工場で爆発が起きまして、100 トン以上のベンゾールやその他毒
性物質がスンガリ川に流れ込みました。そして、吉林省の当局は水の汚染について否定し
ましたけれども、やはりハルビンでは給水装置の故障なのだとしたのです。
また、地震があったのではないかというようなこともいわれましたけれども、11 月 23 日
になって初めて中国の環境省は爆発が起きて川を深刻な汚染に導いたということを認めま
した。
そしてスンガリ川は、このスンガリでの事故の前から汚染されていました。6つの川のカ
テゴリーがありますけれども、スンガリは5番目のカテゴリーです。これは、工業用水と
してしか使えないというものであります。そして、その他の時期には第4のカテゴリーで
- 130 -
ありまして、それは飲んではいけないというカテゴリーであります。しかし、その水はハ
ルビンでは飲まれていました。
これがその爆発の情景であります。このスライドは、その汚染の水が吉林省からハバロフ
スクに向かっていくところであります。11 月 13 日に爆発があったわけですけれども、そ
の後ハルビンを通って、ハバロフスクには 12 月 9 日に到達しました。
これはスンガリですけれども、2005 年の爆発の後であります。魚が死んでいます。
そして、これに対して中国側が何をしたかでありますけれども、江沢民首相がハルビンを
訪れています。石油会社の幹部が辞任させられました。また、吉林省の環境省である当局
も石油会社に対して罰金を科すなどの処置を執りました。最大百万元というものでありま
した。
しかし、これを除去するのには 10 億ドルが掛かります。環境省の幹部がいましたけれども、
その人は今、中国の発展省の次官になっておりまして、2009 年からコペンハーゲンで環境
問題を担当しています。
また、中国側はUNEP(ユネップ)を招きました。自然環境に関係してですけれども、
なかなかこの訪問というものを支援せず、そして自由に調査することを支援しませんでし
た。
これは、ハルビンの市民達でありますが、爆発の頃に飲料水を受け取っている状況です。
2006 年に、2回目のスンガリ川に影響する事故がありました。
この時は、化学物質をトラックの運転手がスンガリ川の支流に放り込んでしまったという
ことであります。そして、その水面にはこのような被膜が出来てしまいました。
3つ目の事故ですけれど、それは最近起きたものでありまして、2010 年に起きております。
洪水があって、その時に化学物質が入っている7千個のドラム缶が、吉林市のそばで川に
流れてしまいました。そのドラム缶というものは、爆発が起きうるものであります。
そして、400 万人が水が使えないという状態になりました。しかし、吉林省は水の汚染が
あったと認めませんでした。中国の新華通信社が、この7千個のドラム缶が投棄されたと
いうことを認めました。吉林省には、7千以上の化学工場が川のそば、あるいは大きな都
市のそばにつくられています。そして、危険性のある化学工場は 157 カ所あります。
この、川に浮いているドラム缶ですけれども、中国の労働者は「これは時限爆弾のような
ものでいつ爆発するか分からない」と言っております。
水の安全、あるいはリスク管理というものが、中国でどのようにおこなわれていたかとい
うと、これまで、最初の爆発が起きるまで、中国では緊急対応政策という体制がありませ
んでした。このようなシステムが作られたのは、SARS(サーズ)という肺炎が流行っ
たときでありまして、2003 年であります。その時に緊急対応政策、体制というものが作ら
れました。結局のところ初めて緊急事態についての言及があったのであります。
そして 2006 年には緊急対応室というのが作られて、その目的というのが吉林省の爆発に対
応するというものでありました。
- 131 -
2007 年 11 月 1 日から、新しい緊急対応法というものが発効されました。それまでの間は、
生産の安全というものは考えていましたけれども、水の安全とか環境のリスクに対するこ
とと安全ということは、考えていませんでした。
2005 年のスンガリの事故というものは、世界銀行からも、対応するだけではなくて予防を
考えなければならないと、批判されています。
そして、中国での結論ですけれども、これらの事故があったことによって、より多くの注
意を工業災害、事故、特に水の汚染というものに向けるようになりました。
また、新しい方法や、ハルビンやハバロフスクの住民が使う水の新しい水源を探すように
なりました。しかし、問題があります。それは、経済が急速に中国で発展しているので、
どうしても社会的なリスクというものが起きてしまいます。中国では、急速な経済成長が
必要で、それが優先であります。
そして、食料品あるいは工業製品の安全、あるいは輸送の安全、最近も事故がありました
けれども、その様なことに対しては後回しになってしまう。どこの国においても、日本で
もそうですけれども、福島でもありましたが、或いはアメリカの南部でも石油の流失など
もありましたが、そのような工業の発展と必ず災害というものがつきものですけれども、
どこでも情報の透明性が足りないと。そして中国では今、知る権利というものがでてきま
したけれども、外国に対しての秘密というは相変わらず守られています。
このことから、社会的なリスクというコンセプト、これは西ヨーロッパ的なコンセプトで
あります。そして、政府或いは工場が、そのリスクをつくっているということに責任を負
わせる、という原則を持つべきであります。
そして、ロシアと中国の関係の状況でありますけれども、この 2005 年の爆発の後で、中国
とロシアの協力は強化されました。そして、緊急対応についても協力が強化されています。
そして、中国側は化学物質の膜が出ていかないように堤防を作るというようなことを行っ
ております。また、双方は条約を交わしまして監視をおこなっていくことを合意しました。
また、緊急時の対応訓練というものも共同で行っております。
しかし、不信感というものも強くなっている部分があります。といいますのは、ロシア側
は 11 日も待って、やっと、この 2005 年の爆発の情報を得ました。また、安全に対するハ
バロフスク市民の不安、またサハリン市民の不安、住民達漁業関係者達は、非常に不安を
持っています。また、両国の間には、事故が起きたときの緊急時の損害賠償の合意があり
ません。
そして、当時のハバロフスク州知事がいったのですけれども、我々には支援は要らないと、
そうではなくて我々の隣人が戦略的なパートナーとして、このようなことが起きないよう
に予防してくれることが大事なのだといいました。
ロシア側もかなり、懐疑的にこの一時的なダム或いは堤防の建設ということもあまり信用
していないと、これは単なる中国側の口実だろうというふうに見ています。
環境に対する影響ということですが、人々の健康、あるいは飲料水などについての注目を
- 132 -
集めたのはこの事故であります。そして、化学物質によって地下水の汚染という問題も起
きてきております。また、冬には氷が保持されますけれども、長いことこれが保存されて
いて、春になるとまたそれが溶けて出てくるという問題も起きます。
そのほか、植物連鎖や、あるいは野生生物にも影響を与えます。
この爆発があった後で、化学物質がクリル諸島や北海道の島あるいはサハリン辺りでもオ
ホーツク辺りでも見つけられています。
2005 年に訪問した時に、アムール川を守らなければいけない、そして環境汚染、環境災害
から守らなければいけないということを提言しています。
以上です。ありがとうございました。(拍手)
○田畑座長
○白岩
それでは質問、コメントをお願いします。
ウィシュニックさんに質問させていただきたいのですが、個人的な興味としてウ
ィシュニックさんがこの松花江の問題に興味をもたれたきっかけを教えていただきたいの
です。
元々、この辺で環境問題のことを調査されていたのでしょうか。
○ウィシュニック
私は関心を持ちました。というのは、私はずっと中露関係をやってき
た者であります。
そして、ロシア政府と中国政府あるいは地域レベルでの関係あるいは極東レベルというよ
うな、あるいは北東地域その辺りとの関係というものに注目してきのです。
そして、この地域間の関係というものは、現場でおきていることに対して政府レベルより
ももっと重要であると考えたのであります。
それともう一つ言えることなのですけれども、私の中国の友達が言ったのですけれども、
今日もおっしゃっていましたが、非伝統的な安全ということですね。それにも注目すべき
であると。環境の事故、環境災害ということにも、国際関係の中で考える必要があるので
はないかということを考えたのです。
○田畑座長
○ゾン
ありがとうございました。
時間がありますので、私も補足をしたいと思います。
先ほど、松花江の汚染の事故についてお話しされましたね。私、NOWPAPから来まし
たゾンといいます。
NOWPAPも情報の通報に関係することをしました。北京にデータセンターがありまし
て、そこを通して韓国政府の要求のもとに即時に通報したわけですけれども、汚染が起き
たとき、松花江におけるモニタリングしたデータを通知したわけです。
UNEPも専門家チームを派遣して中国に行きまして、彼らも報告レポートを出しました。
松花江の汚染のレポートを出しました。これも、先ほどお話をされましたよね。
私の考えでは、先ほどこの松花江の 2000 年の中国の洪水によって化学工場の汚染事故とい
うものがありました。2000 年から注目をされてきたわけですけれども、中国側の専門家が、
この問題に、事故についての事後の調査、評価について説明や報告がなかった事が悔やま
- 133 -
れます。こういった、専門家がさらに細かい情報を中国側から届けていただければ、より
前面的な理解に繋がるのではないか、という感想を持ちました。
○ウィシュニック
私もまったくそうだと思います。質問して下さって、ありがとうござ
いました。(拍手)
○田畑座長
それでは北海道大学スラブ研究センターの花松泰倫さんに報告をお願いしま
す。タイトルは「他地域における天然共有資源の保護に関する地域環境協力と条約の検討」
です。よろしくお願いします。
セッション5:アムール・オホーツク地域の社会と経済
23
「他地域における天然共有資源の保護に関する地域環境協力と条約の検討」
花松
泰倫(北海道大学スラブ研究センター)
○花松
北海道大学のスラブ研究センターの花松と申します。私の方からは、他地域の地域環境協
力の事例についてお話したいと思います。
アムール・オホーツクコンソーシアムが出来て、これで2年経ちます。会合もこれで2度
目なのですが、これから一体どういうふうに国際協力の枠組みを作っていくか、という事
に関してはまだまだ模索の段階で不透明な部分があると思います。
そこで私の報告では、他の地域で成立している実際に動いている地域的な環境協力の事例、
なかでもバルト海の海洋環境保護、それからライン川とメコン川の流域に関する地域協力
の事例を、特にデータや情報の共有という点に注目してごく簡単に紹介したいと思います。
その中で、データや情報の共有が地域協力にとって重要であるということを確認した上で、
ではその様に共有されたデータや情報が、実際に国際的な政策決定過程にどういうふうに
反映させていくべきなのかという点について、最後に少し問題を提起したいと思います。
まずバルト海ですが、9つの国が取り囲んでおりまして、現在は9つの国とEUが共同で
特に陸上起因の海洋汚染について取り組んでいます。バルト海の海洋環境保護の動きは、
60 年代に自然科学者達がバルト海の汚染について警鐘を鳴らし始めた事が、きっかけにな
っています。この時期にかなり国際会議等が盛んに行われまして、それがメディアにとり
あげられた結果、一般市民の汚染に対する関心も高まった、というふうにいわれています。
それに加えまして、当時バルト海の沿岸諸国は冷戦構造の中で西側東側に分かれておりま
して、協力するというのは凄く難しい状況だったのですが、60 年代から 70 年代にかけて
緊張関係が緩和していくということもありまして、74 年にヘルシンキ条約が成立して、そ
の条約の管理機関としてHELCOM(ヘルコム)、ヘルシンキコミッションというのが成
立します。
このHELCOMというのは政策決定機関なのですが、実際には科学的またはテクニカル
な性質の法的拘束力のない勧告、レコメンデーションを多く出して締約国に実施を緩やか
な形で求めています。
- 134 -
最初の 10 年ほどは、データの収集とか情報交換を積極的に行って、80 年代後半になって
ようやく次第に活動を強めていくという経緯です。その後、92 年、冷戦終結後に条約が改
正されて、保護の範囲とか度合いが強化されていった。この 20 年で、特定有害物質の特定
や特に汚染のホットスポットへの対応というものが、非常に大きな成果を上げたといわれ
ています。最近は 2007 年にアクションプランを策定して、更なる汚染の除去を求めていま
す。
この地域の環境協力の特徴をみてみたいのですが、基本的にはヘルシンキ条約という枠組
みの中で、HELCOMが主導する形でアセスメントやレビューや資金的技術的援助をお
こないながら、ソフトな形で保護を徐々に進めていくというやり方をとっています。その
裏で特定の国、例えばデンマーク、ドイツ、フィンランド、スウェーデンといった国が主
導国となって他の国をけん引したり、或いはそれらの国が関わっている二国間の経済援助、
というものを行ったりしています。現在はロシア以外の締約国は全てEUに加盟しました
けれども、かつてEU加盟を目指して国内の環境法を強化する、結果としてバルト海保護
の国内政策も強化されていった、という具合に進んでいきました。その意味では歴史的に
も現在においても、EUの関与というのは非常に大きなファクターになっています。
一方でデータや情報の取り扱いに注目しますと、HELCOMが行っている科学的技術的
アセスメントというのは、政策との関連性というものを非常に意識したものになっていて、
その結果として政策決定過程に上手く利用されています。HELCOMは、自然科学のデ
ータだけじゃなくて社会的なデータも収集していますけれども、それらを含めた科学的な
データに基づいた活動によって、政治的なファクターから独立したある種の権威とか正当
性というものを獲得しているといわれています。
さらに 90 年代から公的あるいは私的なステークホルダーが、非常に様々な形でトランスナ
ショナルなネットワークを形成して、情報交換したり共同で政策を考えたりしています。
これらは殆ど自発的に発生しているものです。そういうネットワークが、HELCOMの
枠組みの中だけではなくてその枠組みの外、他の枠組みの中にもあったり、あるいはその
枠組み同志がネットワークを形成したり、というような感じで知的ネットワークの網の目
のような様相を呈しています。初期の頃は、冷戦という政治的な分裂を克服してとにかく
トランスナショナルな枠組みを作ろうという目標だったのですが、最近では単にネットワ
ークを作って情報を共有するという段階は徐々に超えて、実際の政策の実施評価であると
か実際の環境改善というものにどう貢献していくのか、というところに次元がシフトして
います。
この表にあるのは、HELCOM以外のバルト海への海洋環境保護の枠組みです。政府中
心のネットワークもあり、地方自治体同志のネットワークとか、あとは大学NGO同士の
ネットワーク、沢山あります。それからこれは、HELCOMでオブザーバの立場で会議
に参加している組織の一覧です。バルト海に面していないベラルーシやウクライナといっ
た国々も入っていますし、あと国連関係の国際機関とか、或いは研究者、NGO、産業界
- 135 -
などのネットワークがオブザーバとして参加しています。
さて、バルト海は海を囲んだ沿岸国が共同で対処するという枠組みで、オホーツク海の保
護にとっては参考にはなるのですが、ただアムール川の生態系も一緒に考えなければいけ
ないということを考えると、やはり国際河川の事例もみておく必要があります。
1つ事例として上げたいのはライン川です。ライン川はスイスのアルプスを起源としてい
まして、ドイツ、フランスなどを流れてオランダから北海に流れ出ます。
ライン川は、19 世紀からサケの保護に関するサケ国際委員会という枠組みがあったんです
が、結局サケがいなくなってしまったことによって活動が縮小しまして、その代わりに 50
年代から塩化物汚染の問題が出てきます。
これは上流部のフランスの鉱山から出る大量の塩化物が、下流オランダとかまで流れてラ
イン川を汚染して飲料水として利用することが難しくなるという問題です。主にオランダ
が主導しまして、50 年に流域5カ国でライン川委員会というのを作って共同で対処しよう
とするわけなのですが、最初はこのライン川委員会の権限は非常に小さくて、主に共同調
査を行うことに止まっていました。
調査が進む中で、塩化物汚染の起源の大部分がフランスのアルザス鉱山であることがわか
って、オランダがフランスに対して汚染除去の措置を求めるのですが、フランスがなかな
か始めようとはしません。これは、汚染の除去に非常に莫大なお金が掛かるからです。
なかなか進まないので、オランダがついに痺れを切らせて費用の一部を負担するというこ
とをします。だいたい 30%位です。そして 71 年にコストシェアリング、費用分担原則と
いうのを関係国で合意してその後条約を作ります。
ただそれとは別に、他の化学物質の汚染の問題も大きくクローズアップされてきまして、
同じ 76 年に条約ができるのですが、86 年にスイスのバーゼルでサンドス事故という大き
な事故があって、ここで大量の化学物質がライン川に流れ出るということが起こりました。
それを受けまして、87 年にラインアクションプログラムというのが出来ます。これは、法
的拘束力はありません。各国に自発的な対応を求める類のものなのですが、これが非常に
上手く機能して成功したといわれています。
化学物質の汚染については、99 年にまた新しい条約が出来まして規制が強化されて、2001
年にはまた目標を定めてあくまで自発的な措置を求めるというようなアクションプラン、
ライン 2020 というアクションプランが出来ます。
一方で塩化物汚染の問題については、先ほど申しましたように費用分担の原則に基づいて、
オランダとフランスが主に対処していたのですが、最終的にその費用分担の件で紛争にな
りまして、2004 年に国際仲裁裁判所というところで判決が出ましてそれで解決しました。
ライン川の環境協力の特徴をみますと、1つは先ほど述べましたように初期の頃はフラン
スとオランダが上流下流で利益対立をしていてなかなか進まなかった。その間に、ライン
川委員会がデータや情報をコツコツと収集していた、というのが上げられます。
これはあくまで委員会内での活動なのですが、自然科学から社会科学も含めて6つのグル
- 136 -
ープを作って調査研究をしていました。それから汚染の除去費用に関してですが、利益を
受ける国、特にオランダが率先して費用を負担するという動きもみられましたし、もう1
つは、サンドス事故という事故が起こるまでは、各国は比較的法的拘束力のあるような合
意を目指していました。ところがそれがなかなかうまく行かずに協力が前に進まなかった
ので、事故の後にはむしろ拘束力のない自発的な措置を求めるアプローチに切り替えて、
それが上手く行ったといえます。
もう1つ、次になかなか協力が難しいといわれている、メコン川の協力を簡単にみてみま
す。メコン川はチベットを源流にしまして、中国、ミャンマーを抜けてラオス、タイ、カ
ンボジア、ベトナムを通って東シナ海に流れます。57 年にメコン委員会というのが4カ国
の合意でできますが、基本的にはこれは環境協力というよりも、開発ベースの協力でした。
これも冷戦構造の中で、東側の共産化を防ぐためにアメリカがかなり大きなお金を出して
進んでいった。それをベースにして、メコン川流域を共同で開発して地域全体を発展させ
ていく、ということを目的にしていました。
これも、初期の頃は調査と研究がメインだった。ところが 75 年の共同宣言でメコン委員会
の権限が強化されて、活動がそこから活発化していきます。ただ 60 年代後半から 70 年に
かけて、この地域は非常に政情不安になりまして、ベトナム戦争ですとかそういうものが
ありまして、メコン委員会は1度解体します。その後は、カンボジアが入れなくなってし
まったので、暫定委員会を作って非常にささやかに活動します。そして、冷戦が終わって
90 年代に入ると特にタイなどで市民の環境意識が高まってきて、メコン川の水の配分であ
るとか合理的利用についての協力がだんだん求められるようになる。それを受けて、95 年
にまた4カ国で新しい条約を作ります。その条約に基づいて、新しいメコン川委員会を作
ります。そして、メコン川でのダムの開発などを委員会の合意に服させる、というような
ことがなされています。
ただ、最上流国の中国とミャンマーがこの条約を批准していないということが非常に問題
になっていまして、この2カ国は、そうはいいつつも 96 年から対話パートナーという立場
でこの枠組みに参加していますし、2002 年には洪水情報に関する合意にも入っていまして、
一定の、本当にささやかですが一定の貢献をしています。
メコン川の協力の特徴なのですが既に述べましたように、50 年代からアメリカを中心とし
た国とか、或いは国際組織などからの援助をもらって開発ベースで進んで行ったこと、そ
れから冷戦構造のなかで、政治的状況というものが協力の形に大きな影響を与えたという
ことです。
それから、最初のメコン委員会の活動初期、つまり 60 年代、それから活動が停滞していた
70 年代から 90 年代というところまでは、委員会は主にデータ収集や情報共有をコツコツ
とやっていたということが重要です。実体的な措置がなかなか進んで行かないという中で、
そういう難しい時期にデータや情報の確保だけは進めていた、ということが重要だと思い
ます。それから中国なども含めて、この地域の国々は政治的にも経済的にも非常に結びつ
- 137 -
きが強いので、何らかの協力枠組みは維持したい、というインセンティブは持続している
というのも重要な点です。中国が入っていないというのが問題なのですが、今の段階では
対話というアプローチを通して、一歩ずつ進んでいくしかないという状況になっています。
これらの事例であるとか、それから今日は触れませんでしたが他の環境協力の事例に関す
る研究をレビューしてみますと、データや情報といったものが国際環境協力とどのような
関係にあるのか、ということが少し見えてきます。それを書いたのがこのスライドです。
すでにデータや情報、あるいはそれらの共有というのは様々な協力枠組みの重要な一部に
なっていて、例えば紛争を予防したり、問題の重要性を周知して協力の機運を上げたりし
ます。ただ情報共有がなされるためには、関係国間の一定の信頼関係であるとか、問題の
共通認識、資金や技術の援助等々が必要になります。
それから、法的に拘束力のある枠組みができるまでの間、もしくはそれができてもうまく
動かない時期、そういう段階において、データや情報の共有を継続していくということは、
知識を集積しておいて、事態が上手く動くようになったときに使えるように準備しておく
ということも、ライン川の事例などから見ると重要であると思います。逆にデータや情報
がちゃんと収集されていないと、協力がなかなか進まないという事例も見られます。それ
から、多くはないのですが、データや情報の共有をどうするかということを巡って、関係
国間で合意ができないことによって協力の大きな枠組みが遅れるというケースもあります。
つまり、データや情報の共有のコストという面にも注目しなければいけないと思います。
最後に、データや情報の共有をどう実現していくかという、今回のシンポジウムの中心的
なテーマについては、総合討論で議論されると思いますのでここでは触れないのですが、
その次のステップとして、では共有されたデータや情報を、今後どうするべきかというこ
とについて少し考えてみたいと思います。
いろんな事例を見てみますと、データや情報を共有したり交換するだけでは必ずしも政策
決定過程にはなかなか反映しないことがあります。それは、3つのファクターがバランス
良く考慮されていないからではないかと考えています。
一つは、そのデータが政策そのものや、政策決定者の関心に妥当していること、つまり合
致しているということ。
2つ目は、データそのものの事実や理論が正しいものであるということ。
3つ目は、データや情報の収集や共有の過程で、ステークホルダーがしっかりと関与して、
それが正当なものであるということ。
つまりステークホルダーが一緒にやっていってもいいという認識が生まれるという、そう
いうことです。
ただ、この3つのファクターはトレードオフの関係になることがありまして、例えば、自
然科学者が自然科学の観点から正しいと信じているデータ、そういうものを政策決定者に
そのまま提示しても、政策決定者はそれに関して関心がないとか、或いは他の関係者が情
報共有の過程に関与してない場合には、なかなか政策に結びついていかないという事例も
- 138 -
見られます。
もちろん、政策決定者やステークホルダーの側も、自然科学のデータや情報について学習
するということも必要なのですが、おそらく大事なのは、データを作る側とデータを使う
側のコミュニケーション、相互理解のプロセスが重要なのだろうと思います。データをた
だ単に作って共有してそのまま政策決定者に持って行く、というような一方的なコミュニ
ケーションのやり方では難しいのではないかと思います。
結論ですが、1つは、必ずしも法的拘束力を持った地域環境協力が、うまくいくとは限ら
ないということ。もっとソフトな形で、アクションプランや情報、政策決定のネットワー
クというものを基礎にしてやるほうがうまくいく場合もある。その際に、データや情報の
共有というものが、大きなファクターになるだろうと思います。
それから、データや情報を、政策にちゃんと反映させるための戦略というものも考えなけ
ればならないと思いますし、とくにデータや情報を扱う自然科学者の側と、政策決定に関
わる側の相互のコミュニケーション、知識共有のプロセスそのものがキーになるだろうと
思います。
以上で終わりたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
○田畑座長
○会場
それでは質問、コメントをお願いします。どうぞ。
地球研のウヤルです。花松さん、非常に面白いご発表、どうもありがとうござい
ました。
確かにおっしゃるとおり、それぞれの例を見たらデータの共有、データのモニタリングと
いったところで出発点になっていますので、それはアムール・オホーツクコンソーシアム
の為にも非常に重要なところで、ある意味良いモデルで勉強になると思います。
それと一緒に、おっしゃるとおり色々それぞれの例を見たら、殆ど 70 年代に活発的になっ
ているのですね、50 年代 60 年代から始まって。70 年代の事情を考えたら丁度冷戦も、あ
る意味解けてきてラプローシマン(関係改善)のステージに入って、国際社会も環境問題
に関してエネルギー問題に関しても、ちょっと興味が高まってきているところで、それぞ
れの環境地域連携の枠組みもそういうインセンティブをもってきてないかなと思っていま
す。そういうところで今回のアムール・オホーツクコンソーシアムも、どういうインセン
ティブをもっているか、ある意味もうちょっとプラグマティックに言えばどういう出発点
があるか、もうちょっと皆さんで総合討論の話にもなりますけど、もうちょっとそれを再
認識したらどうでしょうか、と思っています。
それと簡単に1つの質問ですけれども、たぶんHELCOMの場合が出てきてソサエティ
のデータもよくあったというところで、アムール・オホーツクコンソーシアムの場合もソ
サエティのデータの収集かモニタリングという計画もされてますでしょうか。ありがとう
ございます。
○花松
ありがとうございます。
1つ目の質問ですが、アイスンさんのおっしゃるとおり、だいたい他の枠組み歴史のある
- 139 -
枠組みのものは殆ど 70 年代に発展しています。それはまさにおっしゃるとおり、冷戦の緊
張緩和というものが非常に大きなきっかけにはなっています。それと同じような融和する
ような、そういう雰囲気が今現在あるか、それから今後あるかということに関しては、こ
ればかりは歴史を変えることは出来ませんので、それに匹敵するような流れが作れるかど
うかということに関しても、私はハッキリとした主張が言えない、というのが状況です。
非常に確かに難しい問題なのですが、そういう協力が今後進んでいくかもしれないという
可能性はある中で、今現在動いてない状況でも、データ情報を共有して交換していくその
作業そのものは恐らく今後の活動に必ず繋がっていくというふうに思っています。
まさにそこが重要だと思いますし、今回のシンポジウムのテーマもまさにそこであろうと
考えています。
2つ目なのですが、HELCOMの社会的なデータですね、これに関してはアムール・オ
ホーツクコンソーシアムでも、例えば木材の極東から中国への輸入でありますとか、そう
いう社会的な問題に対するモニタリングであるとか分析というものは既になされています
し、日中間あるいは中露間の経済協力といった問題も既にカバーされていますので、そう
いう意味ではアムール・オホーツクコンソーシアムの範囲に入っている問題だろうという
ふうに思います。
○田畑座長
○会場
はい、他に。
ゾン・シャオドンです。花松先生の御紹介、非常にありがとうございました。
HELCOMの情報についてもありがとうございました。北東アジア地域それからこの太
平洋地域におきまして、HELCOMというものが非常に重要なメカニズムでありました。
私はNOWPAPというものに関わっております。これはHELCOMと同じように地域
の海に関わるプログラムであります。4つの国が主導している海洋の保護のプロジェクト
であります。私どもにも4つのセンターというものがあります。この情報の共有というも
のも、このNOWPAPの方でやっております。私どもは、データアンドインフォメーシ
ョンのアクティビティーセンターというものもございます。それから、おっしゃられてお
りました情報データの戦略というものを、やはり4つの国もそれを承認したことがありま
す。このインフォメーションのシェアリングのストラテジーというものであります。こう
いったものも、今やっております。どう表現するかですけれども、NOWPAPの範囲に
は、黒竜江省それからアムールそれからオホーツクというものが、私どもの仕事に含まれ
ていないのが事実であります。
○田畑座長
○会場
お二方、先に質問。じゃあ、お願いします。
京都から来ました大津と申します。
3つの例のうちの3番目のメコンなのですけれども、メコンのこの協力関係には中国が入
ってないというふうに強調されましたけど、実はグレーター・メコン・サブリージョンで
すねGMSと俗称されている、ここには北京政府、中国は入っていませんけれども雲南省
はですね、入っていてメコン共同開発のですね。これ大変珍しい例だと思うのですけど、
- 140 -
私も雲南大学行ってメコン地域に関する関係者も集まって色々、門外漢ながら勉強したこ
とあるんですけども、同時に北東アジアのアムール地域における共同研究協力の上でも、
中国全部、北京政府入れっていったらなんですけども、北東アジアの三省が入るとか、そ
ういう形ででも示唆的ではないかと思って、中国が入った、入っていないというのはどう
なのかと、ちょっと疑問に思いました。
○田畑座長
○会場
それでは最後、手短にお願いします。
ライン川のサケいなくなったのは、何でいなくなったのか。
それと、オランダとフランスで負担金問題があったということだが、どういうふうに決着
になったのか。
世界では、まだまだお互いの国同士で利害関係があって環境問題とか本当はやらなきゃい
けない地域がいっぱいあるのだけれども、学者達でそういう、環境オホーツク地域が模範
になって、世界でもやっていったらいいと思うのだけれど。
○花松
ありがとうございました。
1つ目の質問ですが、何故サケがいなくなったか、これは 19 世紀からの経済発展等々で、
塩化物を含む化学物質の汚染によってサケがいなくなったといわれています。
それから2つ目なのですが、国際仲裁裁判所にかかりまして判決がおりたんですが、オラ
ンダとフランスで共同除去作業にオランダが 30%、だいたい資金を供与しました。ところ
が実際になされた措置に対してお金が余ったのです。それで、お金が余ったのでオランダ
が余ったお金を返せというのに対してフランスは返さないといって、国際仲裁裁判所にか
かりまして結局、返しなさいといわれてフランスも同意したということです。
○田畑座長
はい、どうもありがとうございました。
この議論は総括討論にも繋がっていくと思いますので、またそちらで議論を深めていただ
きたいと思います。どうもありがとうございました。ではこのパネルを終わりたいと思い
ます。
○司会
田畑先生ありがとうございました。
それでは総合討論に入る前に皆様もお疲れになったと思いますので、少し休憩を取ります。
休憩の間にエネルギーを養っていただいて、総合討論に望んでください。総合討論は 3 時
40 分から開始します。
帰られる方いましたらイヤホーンを受付にご返却下さい。よろしくお願いします。それで
は休憩です。
〔
休
憩
- 141 -
〕
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
総合討論「環オホーツク地域の環境データ共有化にむけて」
討論前の発表(立花氏・三寺氏)
日
場
時:平成23年11月6日(日)午後3時40分ら
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
- 142 -
第1会議室
総合討論:環オホーツク地域の環境データ共有化にむけて
DATA BUILDING AND SHARING ACROSS NATIONAL BOUNDARIES
座長:白岩孝行 (北海道大学低温科学研究所)
○白岩
二日間に渡り活発な討論と貴重なデータを提供いただきありがとうございました。これ
から 2 時間 20 分の間、総合討論として、今回のコンソーシアムの最終目標である「環境デ
ータの共有化にむけて」を大きなテーマとして掲げ議論してきいきたいと思います。
総合討論の時間は 2 時間とさせていただきます。今回の会議の目的が、データの共有化
を考えるということなので、まずお二人の方から話題を提供していただきます。
立花さんは私の先輩で、アムール川とオホーツク海の関係を日本人としてはかなり早い
段階で調べ始めた方です。アムール川の淡水がオホーツク海の海氷生成に影響を与えてい
るという昔からの考えがあったのですが、これについて、ロシア極東水門気象環境監視局
が保有する実際のデータにアクセスするということをされました。これは、なかなか簡単
なことではなかったのですが、このような事をされ、90 年代に非常に斬新な研究結果を発
表されました。そういう意味で、データを共有する、あるいは新しくデータを構築すると
いうことを実践された方です。
三寺さんは、低温科学研究所の教授です。現在、低温科学研究所のプロジェクトとして
現在ウラジオストクにあるロシア極東水文気象研究所(FERHRI)という機関と共同でデー
タを再構築し、オホーツク海の海洋物理学の様々な側面に迫っているという作業をされて
います。
このお二人に話題提供していただきます。その後、このお二人に対する質問、コメント
を含め、この二日間全体の発表に対する質問を受け付けます。これはだいたい 20 分程度を
予定しており、その後本論に入りますが、データを構築していくあるいは共有していくと
いう問題についてまず考えたいと思います。
その後、本論と外れますが、アムールオホーツクコンソーシアムの大きな目的のひとつ
が、
「データの共有化と環境モニタリングの共同作業」なので、我々から、アムール川にお
いての共同のジョイントクルーズについてプロポーザルをさせていただきたいと思ってい
ます。
最後に二年後(次回)の会議について少々議論し、その後、現在我々が制作している Web
サイトについてご紹介し、ご協力を得たいと思っています。
17 時 40 分までディスカッションを行い、最後に各国のコンソーシアムの幹事の方から
挨拶をいただきます。お二人の発表終了後は、前には各国幹事と総合討論発表者お二人に
座っていただき、会場とパネリストの間で議論を展開するような流れにしていきたいと考
えています。
- 143 -
「我如何にしてロシア極東水門気象環境監視局と科学的連携を構築せしか」
立花義裕(三重大学大学院
生物資資源研究科)
○立花
立花と申します。白岩先生から紹介をいただきましたが、タイトルにもあるように、
90 年代に一人でアムールオホーツクプロジェクトを開始しました。その話を今日はさ
せていただきたいと思います。専門は気象学ですが、どうしてこのような事を始めたか
ということを説明させていただきます。
10 数年前にシンポジウムを開催しようとしても、せいぜい 10 名くらいしか集まらな
かったのではないかと思いますが、本日のコンソーシアムには 100 名近く集まっていま
す。勝手に申し上げると、コンソーシアムは私自身が産みの親ではないかと思っており
ます。そして、子は白岩先生で、コンソーシアムは孫である。そうしますと、私はこれ
ほど多くの孫に恵まれた非常に幸せな老人であるということになります。親が居なくて
も子は育つと言いますが、親が居ないと子は産まれませんので、本日はどのように子が
産まれたかという話をし、皆さんに癒しを与えたいと思っています。
何故、私がオホーツクアムールに興味を持ったのかというと、それは偏にオホーツク
海が気象学的に非常に魅力的だからです。私はそれに魅せられました。
オホーツク海の海氷は凍りますが、北海道出身の私自身が初めて海氷を見たのが大学
生になってからです。海氷のある網走は、札幌からはかなり遠いのでわざわざ見には行
かないものです。
魅せられた理由はふたつあります。まず、海氷は大気の影響を受けて、ある年はたく
さん凍り、ある年はあまり凍りません。一方、海氷は大気を冷やすことにより、大気に
対して影響を及ぼします。これは、北海道のようなローカルにも影響を及ぼしますが、
もっと東の方のアリューシャン低気圧の活動にも影響を及ぼすことが、新潟大学本田先
生との共同研究によりわかっていることです。つまり、オホーツク海の海氷の増減は、
北海道周辺だけではなく、グローバルに影響が及ぶということです。オホーツク海の海
氷の理解できるということは、地球規模の気候の変動の理解にも繋がるという意味で、
それは非常に興味深いというわけです。
もうひとつの理由ですが、オホーツク海は海氷ができることから、基本的に非常に冷
たい海です。地球規模でみると、実はこの緯度帯で一番冷たい海です。ということは、
非常に冷たい海特有の影響を受けた気象現象が起こります。それはオホーツク海高気圧
と名付けられていまして、夏に発生します。オホーツク海の高気圧が夏に発生すると日
本では寒い夏となります。つまり、北海道であれば、寒すぎて農作物が獲れないという
負のものをもたらしますが、本州のような南の方では非常に暑い夏ではない夏となりま
す。
今年は福島原子力発電所の影響で、日本の原子力発電所が節電をしていました。夏に
- 144 -
暑くないということは、電力会社的には非常に助かるわけです。8 月の暑さのピーク時
期にこれが発生したおかげで、今年の計画停電はうまく行ったのだと私はそう思ってお
ります。これが、どのような理由で発生するかを理解することは大変重要であり、その
あたりに非常に興味を持ったわけです。
私は魅せられてしまったので、オホーツク海の気象についての本「「オホーツク海の
気象」気象研究ノート」を新潟大学本田先生と書いたので参考にしていただきたい。あ
まり出回っていない本ですが、数年前には北海道大学の生協では販売していました。
年表を追っていきます。実は 1997 年頃に、アムール川の流量とオホーツク海の海氷
は負の相関関係にあるいうことを調べました。これは公開されているデータを使って調
べたのですが、下に書かれているのが論文のタイトルで、これは 2001 年に出た論文で
す。調べた時期と論文発表の時期は随分ずれていますが、その理由はのちほど説明しま
す。
この図はよく言われている関係とは逆です。これがその時我々が持っていたデータで
す。
赤い方と青い方がありますが、青い方が CIS、横軸が横軸は年号です。100 と書かれ
ているのは 2000 年の間違いです。
このデータは、世界中の河川のデータを集めている機関である GRDC(Global Runoff
Data Centre,世界河川流量センター)のパブリックなデータです。これを使って調べた
結果、アムール川の流量変動とオホーツク海の海氷変動ときれいに逆相関になっている
ことを発見しました。しかし、論文を投稿すると、そのデータについて、そんな事があ
るわけない、たまたまなのではないかなどといろいろと批判があり、大変苦労した結果、
発表が遅れたわけです。では、最近の結果をもっと調べたらいいのでは思い、論文の発
表が遅れたのです。
では、どう調べたかですが、1998 年の夏に、ロシアのプロフェッサークロモフ号に
気象学者として便乗した際に、オホーツク海でラジオゾンテをあげさせてもらい、一ヶ
月半航海しました。その間、ロシアの海洋学者に先ほどのグラフを見せて、ロシアの方
と議論をしました。そうすると、その議論によって、そのデータをおもしろいとロシア
の海洋学者たちに言われ、ロシア極東水文研究所のダンチェンコフさんにロシアには最
近のデータがあるということを教えてもらいました。ダンチェンコフさんがロシアに来
ないかと言ってくれました。
それがきっかけで、1999 年にウラジオストクで太平洋の生態系に関するシンポジウ
ムに参加した際に、ダンチェンコフさんと一緒にハバロスフクへ行き状況を見させても
らいました。それに基づいて、科学研究費補助金を申請したというわけです。行った時
は研究費もなく貧乏だったので、夜行列車で行きました。これがその時に写真です。そ
こに行ってアレクサンダー・ガバリノフさんとディスカッションをしました。これが
1998 年の話です。
- 145 -
議論した結果、最近のデータはあるとのことでした。我々が一番ほしいのは、アムー
ル川の影響を一番オホーツク海に与えている一番最下流のバグロフツカ観測所のデー
タです。しかし、最近はクオリティが落ちているとのことでした。なぜ落ちているかと
いうと、船で観測するわけですが、どこの国も同様ですが、予算不足で船があまり出せ
なく、データ観測ができないからです。予算不足のため、観測はハバロスフクを中心に
おいて、バグロフツカでの観測はあまりしないようにしていこうとなっていると聞きま
した。
これはいけないと思い、科学研究費補助金に申請したところ採択されました。そして、
予算不足ということであれば、船の運航経費は科学研究費から出資できるので、一緒に
データ観測し共有しよう。そして最近までのデータをアップデータさせていただけない
かとガバリノフさんに持ちかけました。何度も何度も訪問するという涙ぐましい努力を
しました。
何度も何度も行った船の写真がこれです。バカロツカの写真がこれです。もっと最下
流のニコライスクにも行きました。なぜいろいろな気象台に行ったかというと、気象デ
ータはだいたいどの国でも持っていますが、このようないろいろなローカルの気象台に
も行くべきだと教えてくれた有名な気象学者の松本淳さんという方の教えを受け、私も
いろいろな所へ行くようにしたわけです。ここに行った時に聞いたら、ニコライスクの
気象台に来た日本人は私がはじめてだと言われました。
データを集めた結果、最新のデータを見ても、やはり逆相関だということが判明した
わけで論文をもう一本書いたというわけです。話をまとめますと、1998 年のクロノフ
号の海洋観測プロジェクトが非常に重要だったと思われます。これは西岡さんが昨日紹
介したとおり、海洋を中心としたプロジェクトでありましたが、プロジェクトに気象も
少しおまけで名前を載せてもらいました。気象というのは人間の生活に関わるので、だ
いたい載せてもらえるものなのです。少し載せてもらえたため、フレンドシップができ
ました。そして、結果が出てそれで終わりかと思いましたが、その後、2003 年に総合
地球環境学研究所でアムールオホーツクプロジェクトの予備研究が開始され、流れがう
まく繋がったということであります。
- 146 -
「オホーツク海データの FERHRI との共同解析について」
三寺史夫(北海道大学大学低温科学研究所)
○三寺
北海道大学低温科学研究所、環オホーツク観測研究センターの三寺です。
今、白岩先生よりご紹介があったように、我々は FERHRI と共同研究をしております。
同じ研究センターの西岡や今の立花先生からも紹介がありましたが、船を使って観測を
します。その時に FERHRI の協力を非常に受けて観測をしています。1989 年から 8 回の
クルーズをオホーツク海で行っております。一番最近のクルーズは 2011 年の 7 月から
8 月にかけて行いました。そのような信頼関係があり、そのような背景があり、過去の
既存データを一緒に解析しようというプロジェクトを現在行っております。
それが始まったのは 2008 年であり、オホーツク海の水温と塩分と溶存酸素のデータ
の解析をはじめました。その年に西岡らは栄養塩のデータ解析もはじめています。今年
からはベーリング海のデータも共同解析するというようなこともはじめています。
データの解析は単純に行くわけではなく、いくつか乗り越えなければならない点があ
ります。ベーリング海、ロシアの西側のデータですが、水分と塩分の生データをロシア
研究者以外は使ってはならない。ただし、解析したデータは扱って良いとは言われてい
ます。そういうことがありますので、私たちは共同で解析しよう、ただし、ロシアのル
ールに則って水温と塩分の生データの解析だけは FERHRI が行う、ということではじめ
ました。そして現在も行っております。
オホーツク海の FERHRI のデータセットがどれだけ良いものかをお見せします。これ
が既存のもので、データの数を表したものです。だいたい 100 個くらいですが、ロシア
の FERHRI のデータセットは非常に増えていることがわかります。特に重要な沿岸域の
データは非常に多く、400 から 600 に近いところもあります。これが増加分を示したも
のですが、特に沿岸に関しては少なくても一度一度のボックスの中で 200 以上の増加を
示しています。
これが、どれだけデータがあるかという時系列ですが、赤いものがロシア FERHRI の
データで、見にくいかもしれませんが黒い線で書かれているものが既存のデータです。
見ていただくとわかるのですが、各都市に関してだいたい 3 倍から 5 倍程度のデータが
あることがわかると思います。そのデータを使ったひとつのデータ解析の例をここでご
紹介したいのですが、それは中層循環に関しての研究です。中層循環というのは、オホ
ーツク海で氷ができた時に、氷から重たい塩分の濃い水ができて、それがだいたい 300
mくらいのところを流れていくといった循環です。
これがなぜ大事か。これが、アムールオホーツクプロジェクトの一つのメインテーマ
であり、昨日発表した低温研の西岡が発見した事なのですが、中層を伝って鉄の流れが
あり、それと中層循環というのが非常によく対応しております。この鉄が太平洋の方に
- 147 -
出ていくことにより、親潮域の生物生産を支えているということがだんだんわかってき
ております。中層循環が大事だという動機があるので、それを FERHRI のデータで見て
いきます。
ひとつの例ですが、北の方で 0 度以下の非常に冷たい水ができており、それが南に下
がっていきます。これは 300mくらいの深さを表しているのですが、これが先ほど話し
た中層
の流れで、これが鉄を運んでいます。酸素は非常に高い濃度を示しており大気
に接しているので新しい水だということがわかります。ここがどうなっているかという
と、300m くらいの水温を FERHRI のデータセットにより見てみると、1950 年代から現在
にかけてだんだん温暖化していることがわかります。また、このように 10 年くらいの
規模の大きな変化があるということもわかります。
この中層水(冷たい水)ができているところから遡ってみていくと、塩分がだんだん
下がっていることがわかります。更に、オホーツク海の循環は反時計回りですので、そ
の上流を見てみると、同様にだんだん塩分が下がっているということがわかる。また同
時に、1950 年代に非常に冷たくなっている時には、水ができるところと東側の塩分も
がものすごく高くなっています。塩分が高くなるとどうして冷たくなるかというと、こ
こでの水温は、太平洋から入ってくる温かい水温とここでできる冷たい水温が足し合わ
さってできているようなものなのですが、高塩分の水がたくさんできると、そこの温度
が下がるということを表しております。塩分と水温は関係しており、こういうところで
たくさんできているということを表しています。
このような変動をもう少しきちんと見てみます。このようにたくさんのデータがある
のは、ロシアの研究所を一緒にやっているからでありますが、変化だけを見ると、東側
の塩分の変化とここでの水温の変化が関係していることがわかります。だいたい、2 年
から 4 年の時間のラグをもって変化していることがわかってきました。
これはオホーツク海の中だけの関係なのですが、現在、ベーリング海を含めて調べて
いまして、ベーリング海の表面での変化、ひとつは 1950 年代から塩分が下がってきて
いるという影響というのが、オホーツクの東側や親潮の方にも見えてきているのですが、
これと同時に 10 年~20 年の変化というものも見えてきています。
これが表面の変化ですが、先ほどお話ししたオホーツクの中層を見ると、ここで塩分
が下がったものが 1 年くらい経って海氷ができるところに到達し、2 年から 4 年たって
300m の深さところまで到達し、親潮に影響するというデータが見えてきます。これは
ロシアのデータが非常に多いためこのような研究ができたものだと思っている。
このように共同で解析させていただいているのですが、水温と塩分に関しての生デー
タはロシア人以外の研究者は扱えませんが、そこを共同解析することで進めています。
もう一点ですが、解析したデータは外国人研究者が扱えます。一度一度の気候値に関し
ては、自由にアクセスできるように今解析しているところです。
- 148 -
○白岩
三寺先生ありがとうございました。立花先生ありがとうございました。お二
人から、海洋学と気象学という分野でデータを共同あるいは共有していくという事例を
紹介していただきました。この話をお二人にお願いした理由は、このような国境地域に
おいて、データを共有あるいは共同構築していくことで、いかに多くの事がわかってく
るかということを、ディスカッションの前に皆様にお示ししたかったという理由がござ
います。ここから総合討論に移っていきたいのですが、その前にお二人に対して質問の
ある方はいらっしゃいますか。
○竹田眞司
三寺先生に対しての質問です。
1950 年頃は塩分が多くて、海水の温度が低いと言っていたが、アムール川から流れ
てくる水は淡水なので、それが冷たくなり、これが下がり、海水の塩分が上がるという
節を聞いたことがあります。アムール川の淡水の温度が上がってきたら、下に下がらな
くなり、海水の塩分濃度が・・・三寺先生の話はそれと少し違うがどうなのでしょう。
アムール川の水が表面を覆って、それが冷たくなると、深層海水の塩分が上がってきて
濃くなるという話がありました。
温暖化になっているという話ですが、気温が下がってきているという節もある。北極
海に海氷が増えてきた、太陽活動が活発ではなくなってきているという節もあるがそれ
はどうなのでしょうか。
○三寺
アムール川からの流量はあまり変わっていないので、そういう意味ではアムール川が
表面の塩分を変えて中層を温暖化するということはないと思います。アムール川との関
係という意味では、温暖化と関係がないですと思います。
ただ、今日はお話しませんでしたが、海氷がずいぶん減ってきているので、それは温
暖化には関わっていると思っています。地球全体の温暖化ですが、今年の海氷は随分少
なかったそうです。大きく変化しながら、どちらかというとやはり温暖化の方に進んで
いるのではないかと思う。
○白岩
この二日間の発表全体を通した質問があればお願いします。
○金森
函館みらい大学の金森と申します。現在、科学コミュニケーションの仕事を
北海道函館市でしているのですが、北海道に住んでいでる者として、それから地球シス
テム科学の分野で博士号をいただいた者として非常に関心がありこの二日間参加させ
ていただきました。ありがとうございました。
昨日のシャーモフさんあるいは大西先生の発表の中で、1997 年に溶存鉄のピークが
- 149 -
あったようなお話がありました。どなたにお答えいただくのが良いのかよくわからない
のですが、溶存鉄がたくさん出てそれが生物生産に具体的に影響があったような実際の
データなり、観測シミュレーションなりはあったのでしょうか。
○西岡
海洋での生物生産のデータセットは親潮域では decadal に取られています。
そういうものをみると徐々に親潮域ではフラフラしながら減っているのですが、1998
年にピークがあったかというような明確なシグナルははっきりとは見えていません。た
だ、完全に否定できる話でもないので、その linkage(連鎖)についてはいろいろなデ
ータを集めてまだ見なければいけないものだとは思っています。明確に 1998 年のアム
ール川の溶存鉄のピークが親潮域の生物生産にリンクしていたかどうかについては、今
ははっきりしていないと思います。
- 150 -
第
2
回
アムール・オホーツクコンソーシアム国際会合
総合討論「環オホーツク地域の環境データ共有化にむけて」
総合討論、各国幹事からの挨拶
日
場
時:平成23年11月6日(日)午後4時10分から
所:北 海 道 大 学 学 術 交 流 会 館
- 151 -
第1会議室
総合討論
DATA BUILDING AND SHARING ACROSS NATIONAL BOUNDARIES
データの構築化と供給化
【パネリスト】
ロ シ ア:ピョートル・バクラノフ(ロシア科学アカデミー極東支部・太平洋地理学研究所)
中
国:笪 志剛(黒竜江省社会科学院東北アジア研究所)
モンゴル:オユンバートル・ダンバラジャー(モンゴル水門気象局)
日
本:江淵直人(北海道大学低温科学研究所)
○白岩
それでは時間も限られてまいりましたので、お二人の話題提供から総合討論の本
題の方に移らせていただきたいと思います。
最初にお示ししたスライドですが、今は 1 番が終わったところです。ここから 2 番に移ら
せていただきます。2 番ではパネリストの皆様に登場していただくのですが、2 番に移る前
に、これまでの議論を踏まえて、データ構築あるいはデータ共有化、特に私たちの場合は
アムール川とオホーツク海という 4 つの国、あるいは北朝鮮を入れると 5 つの国を跨ぐ大
きな環境システムを越えてデータをどうやって共同で得ていくということに直面している
わけです。その論点を整理するために簡単に私のほうでまとめさせていただきました。
さきほど、立花さんあるいは三寺さんからご説明がありましたように、各国が所有してい
るデータセットというものがあります。これには様々なレベルのデータがあるのですけれ
ども、私たちが知らないデータはおそらくたくさんあります。法律でもちろん様々な規制
はありますが、使えるデータを掘り起こしていく、というプロセスがまずあります。それ
から、そのようなデータを如何にして皆さんが得やすいように繋いでいくか、どこにどの
ようなデータがあるのかがわかるような仕組みを作っていくか、という問題がもうひとつ
あります。
それから、ないデータ、例えば、先ほどの三寺さんから、生データを解析して使えるデー
タに作りかえていくといった話がありましたが、いったそういうデータの構築というプロ
セスもあります。
例えば、私の経験したことなのですが、ロシアのウラジオストクにありますバクラノフ先
生の研究所である太平洋地理学研究所でアムール川の流域の GIS(土地利用図)を作ると
いう作業を行いました。実際には太平洋地理学研究所のガンゼー先生とエルモーシン先生
を中心に行ったのですが、当然アムール川流域というのはロシアだけではありません。そ
のため、その時には中国の長春に行きまして、今回いらっしゃっているチャンバイ先生と
一緒に、最初にロシアと中国との土地利用の表記の違いについて議論するということを行
いました。それぞれの国でそれぞれの独自の定義で作っているものですから、国境を越え
て共有するというのはそういうプロセスが必要になってまいります。
- 152 -
それから、今度はそのようにして得られたデータをどのようにして公開していくか、ある
いは共有する、あるいは交換するという問題がでてきます。今回の議論の中で明らかにな
った点としては、データにはもちろんいろいろな種類があって、北海道の福山さんからご
紹介がありましたように、地方の行政府が中心となって取っているデータ、国が取ってい
るデータ、あるいは大学などに所属する研究者が取っているデータ、このようにいろいろ
なデータがあります。それから、もちろん国内だけで取っているデータもあれば二国間で
取ったデータ、さまざまなデータがあります。このようなものをどのように情報公開、あ
るいは共有していくかという問題も議論の中で明らかになってまいりました。コンパチビ
リィティという言った言葉が正しいかはわからないのですが、今回期せずしてロシア水門
気象研究所が取得した北太平洋における放射線核種の濃度データと日本の海洋学会が取得
したデータが出揃いましたが、それぞれ似たような場所で採取されておりました。このよ
うなデータがどのようにして比較されるのか、このような問題も明らかになってまいりま
した。
最後ですが、アムールオホーツクコンソーシアムというのは、データを共有、公開してそ
れを使いやすい形にしていきたいという希望があるのですが、どのようにして得られたデ
ータを記録して保存していくか、あるいは更に多くの人に見せていくか、そういう問題も
議論しなければいけません。
私が整理した論点はこういったことです。これに対してアムールオホーツクコンソーシア
ムとしてこうしたいといった答えがあるわけではありません。現在は 16 時 27 分ですが、
50 分程、この問題についてパネリストの皆さんに壇上に上がっていただき議論していきた
いと思います。もちろんここには網羅されていない論点もありますので付け加えていただ
いてまったく構いません。ただし、この間は、
「データの構築と共有化についての議論」と
いう事で話題を狭めさせていただきたいと思います。私の提案に対してご意見はあります
でしょうか。
それでは、会場からこの問題についてご意見がある方は積極的に発言していただきたいと
思います。
○八木
どうもありがとうございます。東京大学の八木と申します。
データの共有など共同的な作業を行うためには、メリットというか利益を共有化すること
が重要だと思うのですが、各国からお集まりの皆様でデータを共有化させたり、共同研究
をしたりすることで、各国がどのようなメリットが得られていると思われているかについ
てまずお聞きしたいです。
○白岩
今のご質問はアムール川とオホーツク海に関して、ということ理解してよろしい
でしょうか。では、こちらに各国の幹事の皆様がいらっしゃるので、まずは代表してお一
人ずつお答えいただければと思います。では、江淵先生よろしいでしょうか。
- 153 -
○江淵
江淵でございます。日本側の立場としては、立花先生と三寺先生お二人のお話で
もありましたように、データが存在するけれども我々が所在すらわからない、もしくはあ
るということはわかっていても、それぞれの国のルールで直接タッチをすることができな
い、直接データを使って研究を行うことができないものというのが、ロシア、中国、モン
ゴルにはあると思います。
そういうものを共同研究のカウンターパートの方々に教えていただき、データを提供して
いただく、もしくは先ほどの三寺先生の例のように、我々がタッチできないデータに関し
てはタッチできるレベルまで解析していただき、最終的な研究ができるということで、研
究者のレベルとしては非常にメリットがあると考えております。また、そうやって産まれ
た情報を皆様に還元するということは十分可能であると考えております。
○ピョートル・バクラノフ
昨日と今日のセッションを通じいろいろな報告がありました
が、そこから感じ取れた事は、日本でもロシアでも中国でもモンゴルでも、アムール川流
域やオホーツク海について様々な問題について調査、研究が行われており、様々なデータ
や情報が蓄積されているということが明らかになった事です。
従って、より系統だったデータベースを作るべきだということが明らかなのですが、実際
にデータベースをつくるという作業はかなり難しいということも明らかです。
そこで提案ですが、コンソーシアムの枠内で、すでに何らかのエキスパート達の核ができ
ているので、そこで作業を重ねることにより、アムール川流域やオホーツク海において研
究を行っている専門家グループがそれぞれある種の方向を決める、つまり、研究を大きな
ブロックに分けていくということができると思います。研究のブロックごとに Web サイト
を作る、あるいはひとつのサイトで様々なページを作るということはいかがでしょうか。
そして、なおかつ、コーディネーターが必要なので、研究者自らがコーディネーターとな
るということが必要になると思います。少なくとも研究者たちが、研究の進み具合のレベ
ルに関してコーディネートし、そして、例えば昨日今日のような会議で定期的に情報発信
をするということだと思います。
二番目ですが、すでにそれぞれの国に関して相当量のデータベースができているわけです。
そこで、情報を収集や情報を系統化させるという意味での基本となるセンターをそれぞれ
の国で明確にしなければいけないと思います。ロシアに関して言いますと、アムール流域
に関してですが、最もデータ量が多いのは、ハバロフスクの水利エコロジー研究所と、我々
の太平洋地理学研究所のふたつです。地域に関しての情報や、私自身が研究を行っている
アムールオホーツクに関しては、私たちの研究所でかなりの情報を蓄積しております。そ
しておそらく地質研究所や生物関係の研究所、あるいは大学などにもデータは集積されて
いるとは思いますが、とりあえず第一の段階では今申し上げたふたつの研究所がデータベ
ースとなると思います。
- 154 -
ということで、ベーシックセンターになるのはアムール川流域に関してはロシアでは今申
し上げたふたつの研究所だと思います。オホーツク海に関してはカラシェフさんの水利環
境研究所ですが、これはロシア気象庁管轄下の研究所であります。オホーツク海という「海」
に関する情報も相当蓄積されているわけです。
私たちの研究所は、ロシア科学アカデミー傘下の研究所であり、当然相当のデータを蓄積
しています。そこでカラチェフさんはハバロフスクの研究所のこの会議の席で代表されて
いる方であるわけです。
さて、私たちのシンポジウムは、情報を系統立てるという難しい作業を行う主体となると
いうことはいかがでしょうか。そして地図を作るという国際的作業を行うことが必要にな
ると思います。地図に納める地理的範囲はどうするか、縮尺はどうすべきかがデータベー
スをつくっていくステップのひとつとなると思います。最初は電子地図を作り、紙の地図
も各言語で作るとこいうことができると思います。そうすれば、需要も高いものになると
思います。アムール流域の地図とオホーツク海とその沿岸地域の地図のふたつを作ればい
いと思います。
例えばロシアのマガダンでは、北の地域の生物学研究所というものがあり、沿岸地域と陸
地に関して、一部は海の要素を含めて地図のシリーズを作るという提案をしています。
私自身は大変興味深く、人々の関心を呼べるプロジェクトだと思います。
地図の地理的範囲と縮尺を決めるというのが、これが現段階における私の提案です。全体
としては私自身も関心を持っているテーマであり、今回のシンポジウムの過程において、
さまざまな発表を我々の研究に使いたいと考えておりました。
○白岩
今のご質問の主旨は、共同のデータを作る場合利益があるかということでしたが、
バクラノフ先生のご提案は、利益があるというのはもちろん当然であるという基礎にたっ
てご発言されたということでよろしいでしょうか。
○バクラノフ
○白岩
よろしい。
次は中国の笪先生にお願いします。笪先生は今回のご発表の中で、一番積極的に
データセンターの存在について提言していただいたので、是非よろしくお願いいたします。
○笪
この問題に関して、私なりの考えを紹介します。2009 年 11 月にコンソーシアムを
起ち上げ以来、いろいろな成果を蓄積できたと評価しています。またデータの共有化は学
者レベルで進展をも見せはじめたと思います。今回のテーマの設定はとても素晴らしく建
設的なものですが、将来はこれをメインにこれをプラットフォームとして活かし、いろい
ろな面において実務レベルだけでなく総合リンクし、そのような働きを最大限に発揮する
ことを期待しています。
- 155 -
我々は、データ共有化を目指し、その出発点、最終目的である到達点、その中間にある中
継点に何を追求しているかを再確認、最明確にしなければいけません。なぜなら、極東ア
ジアあるいはアムール川、オホーツク海関連の 4 ヵ国の中での情報公開、データ共有化に
関する法制度、制度構築、条例などは国内事情によってそれぞれ違いますので、それらを
統合するには各国の情報公開の現行制度を研究しなければいけないからです。
すなわち、中国政府の場合、情報共有のために少なくともメリットがないとやりたくはあ
りません。例えば、情報共有化よってせめて 4 つの事が達成できれば共有する意欲がわく
のだと思います。
第 1 は、民衆のための情報取得です。すなわち、生態安全・環境保全関連の情報を民衆に
届けることです。このようなメリットがあれば、民衆が環境保全についての真相判明のた
めの能力を向上させることができます。第 2 は、汚染を出している企業のためです。すな
わち、汚染を減少させる、改善させるために役立たないといけない。第 3 は、政府の情報
公開管理の実務向上に繋がらないといけない。第 4 が一番追求したいことですが、政府間
と国家間の生態安全・環境保全に関する協力の促進に役立たないといけない。
この 4 つのようなメリットがあれば、コンソーシアムという国際交流のプラットフォーム
を活かしどんどん進化して、情報共有化の本当の効果が出てくると思います。
我々の国竜省社会科学院アジア研究所は、中国政府の地方のひとつのシンクタンクで、環
境保全、生態安全についての総合的なデータをたくさんは持っていませんが、コーディネ
ーター、調整役としては、将来は省内でこのような情報共有化のメリットを一生懸命政府
に働きかけることにより、将来は何らかの形で協力ができると確信しております。
○白岩
ありがとうございます。大変本質的なご指摘だったと思います。我々日本からみ
ると、物質は上から下に流れてきますので、いかなる協力もメリットなのですが、往々に
して上流側に国の立場を忘れてしまいがちです。そういう意味では、これからお話を伺う
オユンバートル先生はアムール川システムにおいては、一番上流にいらっしゃるので、是
非上流からのご視点で、共同でデータを作り、共有していくことのメリットについてのお
考えをいただければと思います。
○オユンバートル
公式の場で話すには言語に問題があるのかもしれませんがロシアで
話します。
モンゴルでは、いろいろな研究所がそれぞれの規制のもとにいろいろな研究データを持っ
ています。たとえば水文気象学研究所のデータは、古くからずっと続いているもので TIS
のデータもあります、このデータを公開していくためには基準などを考えなくてはいけま
せん。
学術研究所など国際的な機関において、モンゴルの気象学研究所という範囲内では、かな
り自由に相互間で使用できるようになっています。データは無料ではありませんが、象徴
- 156 -
的な程度の代金を支払えば、データを手に入れることができるので、このコンソーシアム
もアムール川流域の水質などの水門気象学的なデータを取得することは難しくはありませ
ん。つまり、水質などのデータを他の研究者たちが手に入れることは可能だということで
す。
○白岩
ユンバートルさんに言語の配慮が足りず大変申し訳ありませんでした。
パネリストからお話をいただいたので、まず会場からご意見をいただきたいと思います。
まずカラシェフ先生にまず口火を切っていただきたいと思います。
○カラシェフ
質問ですが、二日間のいろいろな報告の中で、研究所同士の共同研究があ
りました。共通のプログラムがありますが、それによりお互いに協力しあうというという
ようなプログラムにはなっていないような感じがします。例えば、合理的にそして持続的
にオホーツク海に関する生態系の資源を使っていくという、ロシア政府と日本政府間の協
定があります。プーチンと当時の阿部首相のプログラムです。そのようなプログラムがあ
れば、今後どのように進んでいけるかがわかると思うがご存知でしょうか。
このプログラムを中国あるいはモンゴルの方たちがご存知かはわかりませんが、日本とロ
シアではこの存在を知っています。そして、このプログラムの枠内で行われた協議やシン
ポジウムに参加してしました。そこでアムールオホーツク海域に関していろいろな問題が
解決されました。コンソーシアムの大きな目的、あるいはその枠組みというようなことに
はこのプログラムでも関わっておりまして、共通のデータベースを作る必要があるという
ことが話し合われています。これは、オホーツク海に関する政府間協定の主要な目的のひ
とつであります。同じグループではありませんが、我々のうち何名かの研究者たちは、こ
のプログラムの枠内で研究や作業をはじめています。
最初の一歩を進めたのがこのプログラムでした。そして、我々のこのコンソーシアムは次
の一歩を進んでいるのだと思います。具体的に実際のデータベースを作るというようなこ
とに近づいていく、そしてそれはより厳密なものを作っていくということになりますし、
今言われたプログラムの中で実現していくということではないでしょうか。
○白岩
カラシェフ先生から、政府レベルでの協定をまず考えるべきではないかという極
めて大事なご指摘がありました。もちろんバクラノフ先生からご指摘があったように、も
ちろん日本とロシアの間には 2008 年の日露生態系保全協力協定プログラムというがあり
ます。そしておそらく 2005 年の松花江での事故をきっかけとして、ロシアと中国の間では、
共同のモニタリングのプログラムができたのだと理解しています。こういうプログラムは、
政府間の取り決めなので、我々の立場からいたしますと極めて重いもので、もちろんそれ
が中心となるのであろうと思います。一方で、アムールオホーツクプロジェクトを通じて
わかったことは、このシステムは二国間だけではなかなか解決できない、あるいは二国間
- 157 -
を超えて考えることに意味があるという自然環境を含んでいることもまた事実であります。
アムールオホーツクコンソーシアムは、緩くといっては言葉が変ですが、政府間の動きと
してはまた別のレベルで継続して繋がっていくことに意味があるのではないかと思います。
大変大げさな言い方をすると、地域の共同の車の両輪のような形で動いていくことが重要
ではないかと私自身は考えております。
ですから、自ずとデータ共有に関しましても、政府レベルの共有とコンソーシアムの間で
の共有にはレベルがあることは当然だと思います。
○池田
笪先生のおっしゃったことに非常に賛成です。住民、人々のことを考えるという
ことは大変重要なのですが、そこに自分の国の人々のことを考えるだけではなく、他国の
人々のことも考えるということに広げてもらいたい。とかく政府は自国のことばかり考え
がちなので、専門家や研究者の方がむしろ他国の人の事を考えられる立場にあるのではと
いう気がします。
もう一点、緊急事態に対応する場合には扱い方や取り組み方が違うのではないかと思うの
でそういう視点も加えてほしいです。
○白岩
緊急事態に対応する仕組みをコンソーシアムで考えるという意味でしょうか。
○池田
コンソーシアムの任務の中に入っているのかは知らないのですが、何か今まで経
験したことが起きたときにそれに対応する、あるいは事前に想定しておくというのは大事
だと思うのでそういう視点も持っておいていただきたいという意味です。
○白岩
ありがとうございました。池田先生のコメントの際に、NOWPAP( Northwest Pacific
Action Plan)のゾン先生の手が挙がったのですが、まさに緊急事態、汚染に関して東アジ
アの海洋を考える多国間の唯一の仕組みだと思いますが、そういうところのコメントでし
ょうか。よろしくお願いします。
○ゾン
こういった機会を与えていただきありがとうございます。
先ほどの問題と直結しているわけではないのですが、私が申し上げたいのは、データ共有
化は非常に重要だということです。これはみなさんのコンセンサスを得ています。しかし、
データ共有化というのは、一方で難しいわけです。国と国のみならず、ひとつの国の中で
も機関、分野の違い、大学、学校、専門家の間の中でも、データ共有化にはあれこれと障
害が生じるものです。ですから、データ共有化の話をする前に、まずいくつかの問題をク
リアしなければなりません。
まず、一体「誰が」データを必要としているかをはっきりさせること、2 番目は「どんな」
データが必要なのか、3 番目はこのデータを使って「何を行おうのか、何をするのか」。こ
- 158 -
の 3 点について、話をする前に明確にしておかないと、あまり共有化の意味もないしオペ
レーションも難しいと思います。誰がどんなデータが必要で、そのデータを享受したあと
何をするかということがわからなければ意味がないと思います。ですから、ただ、データ
共有化という事をスローガンに掲げても、これが空中に宙づりの状態になってしまうので
はないかと思います。このアムールオホーツクコンソーシアムやメカニズムがあるという
ことで、白岩先生が最初から科学的な意義に基づいてこのエリアのデータ共有化を進めて
きたかと思われますが、実行可能な次の措置としては、ここに座っている専門家の皆さん
方が、政府に対して、現在のところこのエリアには既にこういった分類のデータはあると
いうことを教えることはできると思います。ロムデータではなく、データオブデータ、メ
タデータという言い方がありますが、ロシアのこのエリアやオホーツク海には水門や気象
などこういった分類のデータはあるという情報は与えることはできます。例えば中国の黒
竜江省の汚染データがあるなど、すべてを公開することはできないが、こういうものを持
っていると言うことはできます。
ある地域について、こういうデータがあり、こういう機関が所有しており、どういった専
門家チームがそこにいて、そのチームがどういう作業をしているのかの情報、分類に関す
るデータバンクをつくりあげ、必要なデータが水門なのか、汚染なのか、地下水のことな
のか、社会経済の問題なのか、農業開発・かんがいの事なのかの窓口をはっきりさせるこ
とで、データを多くの人に公開できるし、共有化もできるのだと思います。ですから、漠
然とデータ共有化という事だけを話し続けてもあまり意味のではないかと思います。
○白岩
ありがとうございます。大変、的を射たご指摘だと思います。もちろんパネリス
トの方にもお伺いしたいのですが、私個人的に「データの共有化」ということを議論の中
心に添えたことについてご説明をさせていただきたいと思います。
これは、我々としてもこれは、かなりチャレンジというか、無謀なことと理解しています。
あえてこういう極端なこと言うことにより、議論を喚起したいと思ったからであって、私
個人が少なくともイメージしているデータ共有化というものは、建物を作ってそこにいろ
いろなデータを集めそれをすべて管理するというものではありません。
まさにゾン先生からご指摘していただいたような、どこにどんなデータがあって、どんな
人がいて、どうやってその人にコンタクトをするかという、データというより情報に近い
のかもしれません。そういうことを我々はまず目指すべきだと考えています。
と言いますのも、ご承知のように、日本とロシアの国境あるいはアムール川も 2005 年の松
花江の事故以前は、それぞれの国が様々なデータを必要としてもなかなか交流できないと
いう状況が続いておりました。私たちはまだ国境を超えて様々な活動をする最初の 10 年く
らいに居るわけです。そういう意味で、データというのは少し極端な言い方ですが、デー
タを含む情報を共有するというところがこのキーワードの真意でございます。私の意見は
そうなのですが、皆さんに強要しているわけではありませんので、是非ご意見をお願いし
- 159 -
ます。
○江淵
おっしゃる通りで、無いデータはもらえないわけです。かつ、誰も欲しくない
データはあってもしょうがない。この 2 つがいかにマッチするかということが一番重要で
す。
ここで二日間話を聞いておられた方々は、どういう人がどこの国でどういう研究をやって
いてどういうデータを持ってそうだ、かつ、自分の専門から考えて、あの人のあのデータ
があれば自分の研究においてきっとこういうことができるといったことをイメージされて
いると思います。ここの場に居る方は、話をするなりメールを出すなり、直接コンタクト
を取れます。もちろん、出せないと言われるかもしれないし、こういうものだったら使っ
て良いという回答が来ると思います。しかし、それはあくまでここにいる方たちのみの共
有化でありまして、もう少し広い意味で研究者同士の共有化となると、メタデータを集め
たような web サイトやデータベースなどを作る必要があるのではないかと私は考えます。
○陳欣
中国瀋陽の中国科学院の陳欣と申します。
皆さんでデータベースのお話をされていましたが、コソーシアムの意義というのは非常に
重要です。このデータバンクの在り方を決めていると思います。
このコンソーシアムには、アムール川とオホーツク海に関係する周辺国の科学者や関係者
に限って参加しているわけですが、コンソーシアムの目的は生態環境の改善であり、重要
な主旨や任務は、我々の研究の領域をきちんと明確化することだと思います。それを基礎
にしてデータバンクを構築していく必要があるのではないでしょうか。そうすることによ
り、気象、水門、生態、土壌など、必要なデータに関連するものを集めるようになるのだ
と思います。このコンソーシアムとして必要なものの枠組みを決めることにより、歴史な
データも収集可能な部分もあるとか、オープンにすることができるとか、公開する文献の
中でデータを盛り込むことができるとか、今後データとして必要なものが何かがわかるの
で、共同プロジェクトを起ち上げてそのデータを獲得していこうという動きになるのでは
ないでしょうか。そういうことにより、データセットの枠組みを定めることができるので
はないでしょうか。
データの標準や比較の問題など大きな問題もあると思います。コンソーシアムにおいて、
専門家チームを設け、データの枠組みをきちんと決めることにより、これが今後より良く
なっていくのではないかと思います。
○白岩
ありがとうございます。できれば関連する質問の方に続いていただきたいので、
松田先生お願いします。
○松田(横浜国立大学)
松田と申します。
- 160 -
データと情報というふたつの話がありました。もちろんこれは両方とも重要です。今のお
話では、誰でも使えるデータをどう集めるかということでしたが、これは、アムールオホ
ーツクコンソーシアムに限らず、生物多様性条約全体としても同じ動きがあります。
例えば、日本の環境省では現在、アジアパシフィック地域で、Asia-Pacific Biodiversity
Observation Network(アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク)を組織し情報共有を進
めています。これは当然、生物多様性条約の国際事務局全体に共有されることになります。
この場で話していたのは、データではなく情報を共有するということですが、アムールオ
ホーツクコンソーシアムの非常に大きな価値でないかと思います。つまり、誰がどんな情
報を持っているという研究者間の信頼関係がこうして生まれてきている。信頼関係という
のは、決して皆が同じ意見でなくても良いと思うのです。それぞれどのような考えで意見
を持っている、どんなデータを持っているということがわかれば、いろいろな話ができる
し、いろいろな融通が利く。これは大変貴重なことだと私は思っています。ですから、ど
ちらか一方ではなく、データと情報の両方の共有を進めてほしいと期待しております。
○エルモーシン
データは、いろいろな面で発展しており、今は少なくても 1 年後はもの
すごく増加します。津波のように大きくなると思います。そして、これをひとつの Web サ
イトに蓄積するなんてことはとてもできないことだと思います。
現在の世界的な傾向というのは、データの保持は、データベースの空間的データ階層構造
として考えるわけです。例えばメタデータやデータオブデータというものになりますが、
これらデータを保管してこれにアクセスするということになります。データを保管、収集、
組織するということは、他の機関が行っています。しかし、アクセスというのはポータル
を使用しますので、ポータルは作らなければいけないと思います。メタデータやデータオ
ブデータを使いやすくし、データ間のリンクをつくり、アクセスできるようにします。も
ちろんアクセスには制限をかけなければいけませんが、どこにあるかによって、その制限
というものがテーマになってくると思います。データがどこにあるかにより、誰が使える
かが制限されますし、誰が使えるかいうこともわかってくるわけです。そういう意味での
空間的データというものをアムールオホーツクコンソーシアムの分についても整理する必
要があると考えています。
アクセスとデータ利用、その他の科学的データやそのほかの情報がありますが、科学的な
ものをまず整理して、その後、他のものも整理していきます。ポータルサイトへのアクセ
ス希望者は誰でもアクセスはできても、これを利用できるか、理解できるかということは
また違う問題であり、どういう目的に使うのかのかによっても変わってきます。要するに
アクセスについては我々できちんと確保していかなければいけないと思います。
科学的なデータやオペレーション上のいろいろなデータもあると思いますが、何のどのデ
ータが対象となるかということだけを決めておけば、各国の国民に対してもどのようなア
クセスを確保すればよいかがわかってくると思います。
- 161 -
○白岩
GIS の専門家でいらっしゃるので、データの階層構造あるいはポータルという概
念について極めて参考になる意見ありがとうございました。
○石川(北海道漁業環境保全対策本部)私の本業は、サハリンの交渉人ではなく水質分析
が専門です。先ほど笪先生がおっしゃっていたように食品の安全という問題があります。
また、白岩先生がおっしゃったように、北海道は一番下にありますが、その象徴的な話が
アムール工場の事故の一件です。事故は確か冬に起こったという記憶があるのですが、事
故の報道が北海道新聞に掲載されました。その日のうちに消費者から我々のところに電話
がありました。北海道の魚は、あの化学物質でピリピリして食べられないという内容でし
た。アムールで出たものがその日のうちに北海道まで来るわけがありませんので、それは
いわゆる風評被害というものなのですが、実はそのような問題を抱えています。
その時の新聞報道では、化学物質は漂流して夏に北海道に来るという記事が掲載されまし
たので、その方から6カ月後にそろそろ化学物質が来ましたかと電話で問い合わせがあり
ました。
我々はなんとかデータを欲しいと思ったのですが、なかなか手に入らないので非常に苦労
しています。北海道庁に聞いてもそれは外務省や環境省の仕事でしょうと言われる。外務
省は、中国のことは教えてもらえないと言われる。北海道庁の衛生研究所にデータがわか
るのかを聞くと、現在解析中と言われ教えてくれませんでした。我々がデータを知ったの
は北海道新聞にその記事が載ったあとです。直接はなかなか教えてもらえず、非常に苦労
しています。上流側のデータについては、食品安全という面からも非常に確認したいので
す。
さきほど、ゾン先生やエモーシン先生もおっしゃっていたように、どこにどのようなデー
タがあって、果たして利用できるかどうなのかということを、研究機関なり行政機関の外
にいるただ食品安全ということで対応しなければならないという使命を負っている我々の
ような機関としては、どういうデータがどこにあるのか、誰に聞けばいいのかがわかれば
非常にありがたいと思っています。
○白岩
様々なご意見を会場からいただきました。パネリストとしてというよりも、各国
の幹事としてご意見をいただけたらと思います。
○バクラノフ
ロシア側の立場を表明したいと思います。まず専門家のグループをつくり、
ベースとなるセンターを確定し、各国から集まるアムール川とオホーツク海流域の情報を
そこに蓄積するということを話しました。まさに私が申し上げたいのはメタデータを形成
するということです。そこで、エルモーシンさんの発言に私も賛同します。
昨日と今日のシンポジムの成果をまとめとして、我々の科学センターや大学などこの分野
- 162 -
の研究が行われているところに対して、データベースを作るということを呼びかけたいと
思います。
アムール川に関しては過去 100 年間のデータが膨大な量のデータが蓄積されています。オ
ホーツク海に関しては、もっと以前に研究が始まりましたので 100 年以上のデータがあり
ます。それら全てをまとめるのはもちろん無理な話なので、データについてのデータをま
とめるということをやっていきます。
アクセシビリティについても当然考えていきますので、オフィシャルな団体から非オフィ
シャルな団体からの要請にもどう応えていくかをまとめていかなければいけないと思いま
す。もちろんすべてのデータを公開するということにはならないでしょうが、大学や学術
センターで蓄積されたデータや情報を公開できるということになると思います。多くの国
民が関心を持っている分野というのがあると思いますので、住民にとって重要な意味を持
っている情報がたくさん蓄積されることはもちろん必要です。
カラシェフさんから複数の現地調査のデータをまとめた報告がありました。昨日カラシェ
フさんといくつもの実地調査について意見交換をしました。放射能に関する汚染、水、空
気、水中の生物、魚、そして海中の微生物といったようなことに関しても情報が必要であ
ります。これは単なる興味ではなく、日露、そしておそらく中国でも、いわゆる一般の人々
がそこで獲った魚を食べられるかというようなことに、深い関心や懸念を持っているとい
うことです。つまり、専門家に要請することになるかもしれませんが、事故に関して意見
を集めることも必要であり、きちんとした経験と知識に裏付けられている解説というもの
が必要であると思います。
いずれにしても、今話題になっている地域のメタデータを蓄積し、アクセスを考えるとい
うことです。そしてプロジェクトで今後継続されるというものが出てくるのであれば、新
しいデータの集積に役立つと思う。私たちが考えるべきことは、ある段階に至ったときに、
それぞれの地域ごと、あるいはこのふたつの地域を包括するような大きなプロジェクトを
まとめて、新しいデータを出すことです。いずれにせよ、シミュレーションを行い、予測
を含めた計算をしていくことが必要になります。
○笪
有益なご意見や啓発的な見方をいろいろお聞きでき、大変勉強になりました。
気づいた点が 2 点あります。まず、1 点目ですが、我々のコンソーシアムの主旨や今まで
のやり方をみて、学者による国際学者連盟という名前ですが、情報共有、データの共有ま
た関連の情報バンクを作る時に、地元各レベルの政府、汚染と関連の深い大型企業を抜き
には語れないと思います。すなわち、コンソーシアム発足時は最初の出発点を決めたので
すが、推進すると同時にいろいろと方向性の微調整、修正をしなければならない。たとえ
ば日中韓 3 国間の FTA(自由貿易協定)交渉について、来年末までに、産官学という形で
共同研究の成果出してそれを政府に提案することになっていますが、我々のコンソーシア
ムにおいても政府、企業など産官学とのパイプを持っていなければ関連の情報やデータを
- 163 -
集めることはできないです。なぜかというと、冷戦の時代は終わりましたが、今の現実の
世界において、情報は有料で価値があるからです。すべての人が見られる情報には価値が
ない。そういう情報の価値は低くなります。このような情報に一定の価値がある時代にお
いて、代価なしにいろいろ求めるのはちょっと難しいと思います。ですから、生態安全、
環境保全と関連性が強い企業、また、民間の NPO や組織と提携して、新たな情報の枠組み
を作らなければならない。また、情報のデータバンクや情報保存の場所という話があった
が、今はパイプさえあればそのようなインフラなどわざわざ作る必要はない。今は電子書
類を世界のどこへでも送ることができます。パイプ、協定、条例に基づいて、そのような
部品の調達を自由に求められるような仕組みがあればそれで十分だと思います。
もう 1 点ですが、アムールオホーツクコンソーシアムは中国、モンゴル、ロシア、日本の
4 ヵ国で形成されていますが、これは単純な学者による団体であり、国や地元や人民政府
のレベルといった枠組みではありません。ですから、日本がオホーツク海のデータやアム
ール川のデータを中国側に求める場合、中国側は反発できる。なぜかというと、我々はロ
シアと精通しているので、日本とはあまり関係ないからです。ですから、オホーツク海ま
でなぜそのような協力を拡大しなければならないか、主旨や将来のビジョンを第三者ある
いは別の国へきちんと伝えなければならない。今は二カ国三か国の枠組みを追求している
のですが、今回の報告で私は北東アジア環境共同体と提案をしました。場合によっては、
オホーツク海コンソーシアムの事業を、北東アジア環境事業の中の一環として今後展開す
る必要があるのではないでしょうか。なぜかというと、オホーツク海でもアムールでも中
国でもそれは全部北東アジア地域だからです。だから相手を説得しやすいし、また、一般
市民の理解も得られると思います。我々のような単純な学者による発想を、もし今の現実
の世界と切り離して議論すると、その意義や価値が下がってしまうと思います。
○白岩
議論は尽きないのですが、だんだん残された時間が狭まってきました。総合討論
ですから、それなりの結論を出さないといけないと思うのですが、限られた時間の中で無
理にコンソーシアムの位置付けを決めるというは難しい事ですので、このたびの議論につ
いては、北海道開発局の皆さんにきちんと文書化してもらいます。記録をきちんと残しま
すので、この記録に基づいて更にこれから議論を詰めていくということにしたいと思いま
す。それでもコンソーシアムとしてはそれなりに方向付けを決めないといけないと思いま
す。先ほどのエルモ―シンさんの言葉をお借りしたいのですが、様々な情報あるいはデー
タがすでにある、あるいはそれを一生懸命作っている機関があって、そういうところに至
る「ポータルサイト」においてアムールオホーツクコンソーシアムをここ数年は考えてい
くということで、皆さんあまり異論はないのではないかと想像するのですが、今日はその
へんでこの議論に終止符を打ちたいのですがよろしいでしょうか。
○竹田眞司
環境問題や環境破壊や資源の使い方、水、空気、生物資源などに関するもの
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すごく大事なデータだと思いますが、これらのデータを、学者だけではなく一般の人にも
情報開示ができるようにしてほしいです。そして、この情報はどこが管理するのでしょう
か。管理するところが大事ですね。各国で情報管理を行ったら、中国を悪く言うわけでは
ないが、中国で情報を封鎖されても困る。一般の国民が見えるようになったら物事が解決
するので、一般国民が見られるようにしてほしい。
○白岩
情報管理の問題ですが、それを乗り越えるためにコンソーシアムという仕組みを
作って各国が持っているデータで皆が使えるものに関しては皆で共有していきたいという
動きがまさにこれです。
私たちが非常に重要だと思っているのは、環境という問題は、研究者のためにあるもので
はないので、ですからこの会議を公開しているわけです。今後コンソーシアムをどこで開
催するにしても情報はしっかりと顕示していきたいと思っています。いただいたご意見は
貴重なご意見なので、我々としても真剣に考えていきたいと思います。
時間が残り 30 分となりましたので、残された議題に進みたいと思いますが、パネリストの
皆様、それでよろしいでしょうか。
実は、根回しをしていない突然の提案があります。この写真を見て思い出される方がいる
と思いますが、2004 年の事なのですがハバロフスク政府が主催で、アムール川の環境モニ
タリングを多国間で行おうという試みがありました。この写真に写っているのは、ここに
いらっしゃるコンドラチェバ先生、チャンバイ先生、今回はいらっしゃっていないのです
が、先ほどからアムール川のデータを非常にたくさん蓄積しているハバロフスク水生態学
研究所のボルノフ所長です。
このときは日本も参加させていただいて、ロシア、中国、日本の 3 ヵ国の研究者がひとつ
の船に乗って、アムール川を 10 日間くらいさかのぼり、船上で様々な環境モニタリングの
会議を行いました。さらに、船上で行った議論をまとめて、「アムール川の共同利用宣言」
という文書を作り、アムール州に着いた時に、当時のアムール州の知事と副知事に宣言を
提出して政界の方々と意見を交換するという、2004 年の事ですが、非常に先進的な取組が
ありました。そのあと我々のプロジェクトが始まったのですが、残念なことに、2005 年に
大きな松花江の事故が起きまして、これ以降アムール川の問題を議論するときに、当事者
である中国やロシア以外の国が入ることができなくなりました。これは仕方のないことで
すが、提案なのですが、こういう議論をもう一度、会議室ではなく、アムール川の上でや
りたいと考えています。これは参加できなくなった日本のお願いなのですが、そういう事
を考えていただけないでしょうか。
この話を水生態学研究所の副所長であるマヒノフ先生にぶつけてみました。まだ細かい議
論はしていないのですが、2012 年にこういうことをできないかなという夢を持っています。
ここで何も汚染を計るなど、そういう事ではありません。今回はモンゴルからオユンバー
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トル先生という方が参加されていますので、当時は 3 ヵ国でしたが、今度は 4 ヵ国でアム
ール川とオホーツク海の問題をひとつの船の上で考えるということを提案させていただき
たいと思います
今回のコンソーシアムに関しては、日本では三井物産環境基金という民間のお金で支持さ
れていますが、このクルーズに関しても我々は資金を用意する準備がありますので是非ご
検討いただければというお願いです。今お返事をいただく必要はありません。我々からの
提案です。これについて特に大きなご意見がなければ、これは提案として議論していただ
ければと思います。
○立花
素晴らしい意見だと思いました。このコンソーシアムはアムールだけでなく、同
じことをオホーツク海でもやるというのはいかがでしょうか。どこの船ということは言い
ません。その了解もあるかもしれませんが、オホーツク海で一番上流の国の方から一番下
流の国の方まで一緒にやれば、まさにオホーツクもアムールも我々人類の共有の財産だろ
うということがお互い認識できてそこでも議論ができるのではないかと思いました。
○白岩
貴重なご提案ありがとうございます。予算の問題もあるので、もちろん検討が必
要ですが、今のところオホーツク海の観測は日本とロシアの共同研究という形で進んでお
りますが、是非そちらの方でも検討していただけたらと思います。過去にも確か香港の方
が乗られたことがありました。ですから、さまざまな可能性があると思います。
○立花
一番楽なのは、日本の船でギリギリのロシア領に入らない辺りで、ロシアの方も
招いて開催するのが一番現実的だと思います。
○白岩
ありがとうございます。コンドラチェバ先生、短めにお願いします。
○コンドラチェバ
9 月に「アムール 2011」という大きな会議が船で開かれたということ
をお伝えします。その会議では、中国とロシアからいろいろな発表がありました。両国間
の協力のまとめも行われており、とても興味深い結論が出されていました。どうしてその
時に日本が参加していなかったのか、その会議に対しての招待が来なかったのかと驚いて
います。
私たちはそのようなアムールでの会議経験があります。全員で 50 名くらい参加していたと
思いますが、10 名程度の小さな船ではなく、またこの同じ大きな船を使って、船上での会
議を行うという可能性もあります。そうすれば 4 ヵ国が参加するということもできますし、
ハバロフスクで開会し、その後トゥンジャンで閉会するというようなことです。
ブラゴベシチェンスクの近くやニコライスクまで行き、そこで分科会もありました。この
船は河川用であり、海洋用ではありませんので、北海道まで行くということは大変ですけ
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れども、1 週間ほどかけて川を上がってくといくというようなことをして、4 ヵ国が参加す
るということは現実的だと思います。それを 2012 年に行い、アムールオホーツクコンソー
シアムの行事とすることができると思います。
アムールオホーツクコンソーシアムでも、どんなデータにプライオリティをおいて収集し
ていくのかを決める必要があると、皆さんの発言を聞いていてこのような結論に達しまし
た。
例えば生物多様性にプライオリティを置くならばそれがひとつのプロジェクトになります
し、水質に置くならば、どの地域においてどういう季節に行うかということになります。
また、水に化学物質が入らないことに対する障壁のことについて、海氷や水が触れている
気象条件に対してどのような大きな影響を与えているかの発表がありましたが、このよう
なこと全てを考慮していくと、我々は、水質が冬にはどのように変わっていくのか、ある
いは水生生物や海産物がどのように変わっていくのかを見ることができます。つまり、我々
はプライオリティを決めれば、住民など一般の方に対する説得力も持つのではないでしょ
うか。
○白岩
前半と後半は違う話題でしたが、前半に関しては我々も是非参加したいと思いま
すので、そういうことを企画した場合は、是非日本にも声をかけていただけたらと思いま
す。後半もまったくおっしゃるとおりです。これも議事録に記録させていただき検討課題
としたいと思っています。
以上、駆け足で進んで参りましたがが、そろそろ残り時間も限られて参りました。もうふ
たつ重要なことを話し合わなければなりません。
まずひとつはご報告です。第 1 回目と 2 回目のコンソーシアムで話題に上がりましたが、
アムールオホーツクコンソーシアムというのは 2 年に一回会議を開くだけなのですが、2
年に 1 度情報交換するだけでは十分というわけではまったくありません。そのために、会
合の間はインターネットを使って情報交換をしなければならいということを 1 回目の会議
と去年の準備会合で合意と思います。私たち日本側としては、事務局の篠原が徹夜してと
りあえずたたき台の Web サイトを作りました。まだたたき台ですので、いろいろこれから
考えていかなければいけないのですが、まだ英語版と日本語版しかないので、みなさんの
協力をいただいて、ロシア語と中国語とモンゴル語でまとめていきたいという希望があり
ます。これは別にイニシアチィブをとるとかそういう話ではなく、みなさんが会議以外で
集まる場である共有のプラットホームが必要ではないかと考えています。これはある意味
ご報告です。これを今後どうしていくかに関しては、会議のあとに引き続き議論していき
たいと思います。これについて何かご意見ございますか。
もうひとつ重要なことを話し合わなければなりません。次のコンソーシアムの会議のこと
です。コンソーシアムは最初の共同宣言で 2 年に 1 回会合を行いたいとうたっているわけ
です。これまで第 1 回と去年の準備会合は札幌で開かせていただいたわけですが、これは
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なにも日本の組織ではないわけですので、できれば関係する国の持ち回りで開催していき
たいと考えています。もちろん各国の事情もありますし、すぐにお引き受けしていただけ
るわけではないかもしれませんが、私たちとしても三井物産環境基金で 2013 年の会議まで
は、どこで開催するにせよ、開催費用を負担する準備はありますので、是非次回日本以外
のところで開催したいと思っております。
まず、持ち回りで場所を変えることに対して、賛成あるいは反対のご意見はありますでし
ょうか。今、次にどこでやるということを決めなくてもいいと思います。もちろん開催国
が費用を全部負担するわけではありません。場所を変えることに意味があると思っており
ますので、できれば日本以外のところで開催したいです。
○バクラノフ
白岩先生、このことについてはまだお話しておりませんが、私としては、
次の会議である 2013 年の国際シンポジウムをロシアで引き受けることを考えたいと思い
ます。開催場所は、ウラジオストックやハバロフスクになるのでしょうか。ウラジオスト
ックは正式にはアムールと関係がないところなので、ここでというわけにはもしかしたら
いかないのかもしれませんが、ハバロスクでもよろしいと思います。ハバロスフで開催し、
ウラジオストックの来年完成する新国際ターミナル空港やルスキー島の斜張橋や、新しい
連邦大学も見ていただけると思います。
新しい経済危機が起こらなければ、研究所長としては予算面でもなんらかの形でロシアが
オーガナイザーとしてお引き受けする準備はできています。
○白岩
バクラノフ先生、どうもありがとうございます。ありがたいご提案をいただきま
したので、今後、ロシアでの開催をみなさんで前向きに検討していければと思います。
私どもで用意した議題は以上です。このあと最後にひとつだけご報告したいのは、今回様々
なご意見をいただき、かつ様々な研究発表をいただきました。これに関してはきちんと記
録に残したいと思います。まず、研究発表については、プロシーディングス(研究発表集)
を3月末までに印刷して配布すると同時に、インターネットでダウンロードできるように
いたします。
議事録に関しては、きちちんと文書化して記録に残したいと思います。日本側にできるの
は日本語と英語の議事録することですので、それを各国に訳していただきたいと思います。
最後に各国の幹事の皆様に一言お言葉をいただいて閉会したいと考えております。
各国幹事からの挨拶
○オユンバートル
我々の先輩でありますマクラノフ氏からはいろいろなお話を伺うこ
とができました。モンゴルに「隣人は兄弟である」という言葉があります。立花先生も私
どもに非常に親しくしていただき、いろいろなお手伝いをいただきありがとうございまし
- 168 -
た。そして、日本の皆様、今回はご招待いただき、温かくお迎えいただき、本当にありと
うとございました。今後、モンゴルが皆様のお仕事において、どんどん活躍できるように
私が努力していきたいと思います。本当にありがとうございました。
○笪
まもなく閉幕を迎えますが、この 2 日間の会議に参加しましたが本当に収穫、成果
の大きい会議だったと高く評価したいと思います。
このような集まりにより友好の和、人脈をつくり、今後はそのような絆を活かして、コン
ソーシアムのさらなる発展、実務レベルへのリンクを心から期待しています。また、今回
の大きな成果としては、データ共有についての意識喚起、問題提起、総合理解を得たと思
います。
マクラノフ氏から 2013 年会議の開催についてお話がありましたが、我々もそれに賛成しま
す。ロシアと先を争って戦うわけではないのですが、我々も関係各国や人民政府や企業さ
んに広く我々の理念をアピールし、そのような努力により民衆の支持を得ることにより、
今後の事業転換がやりやすくなると信じております。我々社会科学院の基本の姿勢として
は、2015 年、あるいはその次の機会にハルピンにて開催することを心から期待したいです。
このたびの会議開催にあたっては、日本側、各国の皆様はご苦労されたと思います。この
場をお借りして、皆さんに感謝の気持ちと敬意を表したいと考えています。ありがとうご
ざいました。
○バクラノフ
オーガナイザーの日本の皆様、第 2 回のシンポジウムは大変素晴らしいも
のでした。情報や、や評価、いろいろな新しい考えなど、たくさん得るものがありました。
そして、今回の情報を持ち帰りましてこれを消化する段階です。そして私どものプロジェ
クトをどうやって発展させていくかということ、また、今後私どもの地域に対してどのよ
うな貢献ができるかということを考えられると思います。
論文集についてはお待ちしておりますので、是非早くいただき、もう一度読み、日本、モ
ンゴル、中国、ロシアの研究者がどのような考えを持ち、どのような方向に向かっている
かということを今一度確かめたいと思います。皆様本当にありがとうございました。特に
モンゴルや中国などの外国からのお客様の皆様とお話できるような新しい機会を与えてい
ただき非常にうれしいです。まさに同僚であり、良い関係で心からの討論ができました。
今後はインターネットやメールを通じ、この関係を深めていきたいと考えております。ま
たお会いするのを楽しみにしております。
○江淵
北海道大学の江淵でございます。日本側の幹事の代表として御挨拶をさせていた
だきたいと思います。二日間に渡り、非常に長時間、活発な議論を本当にありがとうござ
いました。すべての講演者、出席者の方々に心からお礼を申し上げたいと思います。また、
主催、共催、協賛という形でいろいろな機関の方がこの会議を支えてくださいました。心
- 169 -
からお礼を申し上げるとともに、今後とも温かいご支援をいただきたいと思います。それ
から通訳の方々は、専門用語が飛び交い、かつ 3 カ国語、4 ヵ国語が入り乱れるという非
常に困難な作業を的確にこなしていただきました。厚く御礼申し上げたいと思います。最
後に、身内を褒めるのも何ですが、白岩さんをはじめとする事務局のメンバーも非常によ
く頑張ってくれたと思います。白岩さん、うしろにいる篠原さんほかスタッフの皆さんに
も私からお礼を申し上げたいです。本当にありがとうございました。
○白岩
それでは、これで第 2 回アムールオホーツクコンソーシアム国際会合を終了させ
ていただきたいと思います。ありがとうございました。
以
上
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