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第1回:組織を開く - i-Learning 株式会社アイ・ラーニング

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第1回:組織を開く - i-Learning 株式会社アイ・ラーニング
組
織
を
考
え
る
組織と
人の
オルガノン
開かれた組織と個人の成長
組織とは何か
「人は社会的動物である」といわれるように、私たちは隣人
なしでは生きていくことができず、より良く生きるために秩序と
規範を持った集団として社会を作って生活をしています。さら
にある特定の目的を実現するために、組織に所属して活動を
します。
組織の目的を達成する上でその成果を向上させるために
は、リーダーシップなど個人の実行力に焦点を当てる方法と、
組織そのものの風土の改善や活性化を図る方法の 2 つのア
プローチがあります。後者を総称して組織開発と呼びますが、
これからこの組織開発についてさまざまな手法や実例をご紹
介しながら、組織の成長と個人の育成について考えてみたい
と思います。まずは組織とは何か、から始めましょう。
「組織」は共通の目的を実現するために集まった人たちで
構成するシステムです。目標達成のために仕事の分業と調整
連載 第 1 回 組織を開く
を行い、そのための規律と秩序をもっています(図表 1)。
人類の歴史の中で組織が現れるのは、国家や軍隊などの
政治的組織や教会などの宗教組織が先行しますが、大航海
時代から産業革命を経て経済活動が飛躍的に発展していく
につれて、企業という組織のかたちが急速に進化してきまし
た。企業規模の拡大とともに効率よく組織を運営する必要性
から、行政組織や軍隊や官僚制度の組織形態である階層
型組織が採用されていきます。 19 世紀末から20 世紀は、工業化の時代、機械生産の時
代でしたので、組織も機械に例えられました。工業製品がそ
れぞれ特異な機能を持った部品から構成されるように、組織
もさまざまな機能を持った部門から構成されます。さらに部門
は機能を発揮するスキルを持った人たちと、組織を束ねる管
理者で構成されます。
片岡 久
株式会社アイ・ラーニング
代表取締役社長
1952 年広島県生まれ。1976 年日本 IBM 入社後、製造システム事
業部営業部長、本社宣伝部長、公共渉外部長などを経て、2009 年
このモデルで組織に求められるのは、あらかじめ設計され
に日本アイ・ビー・エム人財ソリューション株式会社代表取締役社長。
た機能を、誰でも繰り返し実現することができる正確性と、同
2013 年より現職。 内閣府ジョブカード推進協議会委員、American
じ機能をできるだけ短時間で実現する生産性です。そのた
Society of Training & Development(ASTD)Japan 理事、全日
本能率連盟 MI 制度委員会委員を務める。
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階層型組織にマッチした
「機械的組織」観
めに分業化によって、高度な職人技を必要とする複雑な仕事
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組
織
を
考
え
る
組織と人 の オルガノン
開かれた組織と個人の成長
を単純な作業に分解し、誰もがトレーニングによって作ること
なっており、
「無理・無駄・ムラを取り除く」とか、業務を単
ができるようにしました。また、機械に欠陥があれば部品を取
純化してミスを起こしにくい仕事にするなど、組織の効率を
り換えて修復するように、組織の品質を保つには、分解して
上げるために使われます。さらにグローバル経営を行う上で、
定義された取り換え可能な作業単位を明確にして、必要に応
国境を越えてプロセスの標準化を進めたり、同じ機能を日本
じてバックアップ体制を作ることでした。この組織の典型的な
以外のより低コストの地域で行うことで、生産性を上げて競争
ものがテーラー・システムであり、フォーディズムと呼ばれる考
力を維持したりするのも、組織を取り換え可能な部品の集合
え方です。
体とする見方の延長線上にあります。
余談ですが、同じく社会や組織を分解していくと、それ以
上分解できない基本単位として、
「個人」に行き着きます。英
語で言うインディビデュアル、in-dividual(分けることが -でき
変化していくための
「生命体的組織」観
ない存在)としての「個人」です。分業による企業の機械
的組織化と、血縁や地縁から自由になり都市にでて自分の人
生に責任を持つという個人主義の進展は、資本主義経済を
進めていくための車の両輪として働きました。ただ本来「個人」
一方、最近になって企業組織は生命体との類比で説明さ
は自分で自分の人生を決めることができる存在であるはずな
れるようになりました。テクノロジーの進歩や社会の変化が激
のですが、機械的組織においてはある1 つの取り換え可能な
しくなるにつれて、お客様や経営環境の変化に応じて、一度
機能として定義されるため、チャップリンの映画 「 モダン・タイ
決めたことを遵守し続けるのではなく、自律的に適応し変化し
ムス」のように、仕事における人間性の喪失感が生まれたり、
ていくことが企業に求められます。それは太古の昔からの長
個人がつながりを切り離された「孤人」となって「 孤独な群
い歴史の中で、生命体が単細胞生物から多細胞生物に進
集 」といわれたりすることになります。
化することで、多様な変化に適応してきたことをモデルにして
この機械的組織観は現在でも職場の改善活動の基本と
います(図表 2)。1 つ1 つの細胞はさまざまな機能を持った
図表 1
組織の目的
社会
課題
機能組織
目的
意思決定
成果
部門
課題
機能
・組織は1人では実現できない課題を分解して機能化し
・専門的な機能の統合によって成果を実現し、社会に貢献する
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図表 2
生命は連携することでパフォーマンスを上げます。機械的な
機械的組織と生命体的組織
組織では基本的には内部のコミュニケーションが重視されます
が、生命的組織では変化に適応していくために、外部とのコ
課題
機械的組織
ミュニケーションが重視されます。個々の細胞は細胞膜によっ
て内部の秩序を保っているわけですが、細胞膜は内部組織
を維持するだけではなく、外部とエネルギーや情報を交換す
生命体的組織
るためのコミュニケーションを行う機能も果たしています。生
化する
命体は常に外部環境とのコミュニケーションを適切に行い、そ
課題
分解・統合
れによって内部の秩序を変化させて生命を維持しています(図
成果
表 3)。
ということで組織生命体論を進めていくと、組織をオープンに
的
することが重要になります。
さまざまな変化に適応するためには、
成果
部門間で常に情報交換がなされ、状況を共有し合いながら自
分の役割を変化させていくことが必要になります。あるいはプ
ロジェクト・チームのように、必要に応じてさまざまな部門の人
微生物が合体してできています。個々の細胞はそれらの管理
たちが集まって、ある目的を達成するために一定期間組織を
者である核を持っていますが、多細胞生物は膨大な数の細
作り、目的達成後は解散するということも対応の1つです。
胞核がお互いにコミュニケーションをとり合うことで、それぞれ
このように企業内のオープンなコミュニケーション風土作りも
の細胞を運営しながらも、1 つの生命体として統合された活
大切ですが、企業を取り巻く環境全体を生態系として捉える
動をしています。企業の運営も自律的な個人が集まって、共
と、お客様や業界他社、パートナー企業や、テクノロジーの
通の目的と理念を実現していくものであると考えられます。機
進歩なども含めたすべての存在を、自社との関係という視点
械的組織論と比べると、変化への適応とか、自律的な個人と
によって考える、ネットワーク的な視点の広がりが重要になりま
いう点が異なります。
す。他社やお客様との関係をよりオープンにすることで、あら
もっと大きな違いはコミュニケーションのあり方です。機械は
たなビジネス・モデルの構築を模索し、提携・買収・売却など、
分割して部品にすることでパフォーマンスを向上させますが、
組織の境界の柔軟な設定が可能になります。
図表 3
生命体的組織
的組織
社会
目的
課題
・
・
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し
の
人、
の
を
、
化を
化に
し、
しな
的に
、成果を
を
する
成果
し、
的な 人・
・組織
・
的の
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組
織
を
考
え
る
組織と人 の オルガノン
開かれた組織と個人の成長
で経営者にわかりやすいものですが、どうしてもあらかじめ決
効率を求める
組織・可能性としての組織
められたパフォーマンスを出すための改善手法として使われる
ので、個人にとってはやらされ感が強くなったり、参加意識が
下がったりします。
ところでオーガニゼーションという言葉はオーガンという言葉
これに対して生命体的組織観による組織開発は、可能性
が語源で、もともとの意味の中に、人間が作った「道具」と
としての組織を生成していくことを主体としたアプローチです。
いう機能中心の意味と、自然の中で与えられた生命を維持し
1 人ひとりが自律した存在であることを前提として、組織の活
ていく「器官」という意味の2 つの側面を持っています。だ
動に主体的に関わることを促し、お互いの関係性をよくしてい
から機械的な組織論と、生命体としての組織論の2 つが出て
くことで多様で豊かな場のエネルギーを生み、組織のパフォー
くるのも自然なことです。
マンスを期待以上に向上させるという手法です。自己組織化
さらにオーガンの同義語の「オルガノン」はアリストテレスの
と呼ばれたり、ホールシステム・アプローチといわれたりしてい
論理学に関する著作の総称で、真理を探究するための道具、
ますが、このアプローチのベースにマサチューセッツ工科大
方法という意味でした。組織、オーガニゼーションは自然と宇
学のダニエル・キム教授の「組織の成功循環」モデルがあ
宙の究極の目的を探求し、実現するための器官、道具であり、
ります(図表 4)。
それは論理のつながりと目に見えない秩序を持っているという
組織が高いパフォーマンスを上げるためには、メンバー間
ことです。
の関係の質を改善し、それによって考え方が柔軟になり、深
組織開発の観点から機械的組織と生命体的組織について
く理解し合えるようになり、その結果行動が変わることで成果
考えてみると、機械的組織では、明確なビジョン、ミッション、
が改善される、というのがキム教授の理論です。つまり高い
戦略のもとで、目的を達成するために最も効率の良い組織を
成果を得るには、組織のメンバー間の関係の質を上げるのが
作ることが組織開発の目標になります。そのために仕事の正
最初のステップだということです。私たちはともすると、この図
確さや時間を短縮するトレーニングを実施したり、目標が達成
を逆周りにたどっていないでしょうか。結果が出ないことを指
されない場合のギャップ分析や原因究明の手法を用いて改
摘し、その原因は行動の仕方が悪いからだと責めてから、そ
善策を作ったり、あるいはすでに実証されている経験やノウハ
もそもその考え方がなっていないからそんなことしかできないと
ウを自組織に適用し、期待した成果が出るまで訓練するか人
言い、肝心の組織の理念や部門の目標の意義がどうして理
を入れ替える、といったアプローチになります。とても論理的
解されないかには思い至らない、というのがよく見られるケー
スです。
次回から最近の組織開発の考え方について、もう少し見て
図表 4
みましょう。
ダニエル・キム教授の「組織の成功循環」
・ 組織を
の
・ 組織
・
果の
の
る
、
の
・
・
の 成
社
、
社
に いて
連載予定
第 1 回 組織を開く(本号)
の
第 2 回 組織を省みる(次号)
第 3 回 組織を掘る
第 4 回 組織を創る
第 5 回 組織を育む
第 6 回 組織を読む
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