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第2回:組織を省みる ~リフレクティブ・マネジメント - i

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第2回:組織を省みる ~リフレクティブ・マネジメント - i
組
織
を
考
え
る
組織と
人の
オルガノン
開かれた組織と個人の成長
経験学習について
今 年アメリカのダラスで開 催された ASTD(American
Society of Training & Development)のインターナショナル・
コンファレンスの基調講演で、ゼロックス パロ・アルト研究所の
ディレクターを務めた後、大手企業の顧問を歴任し、テクノロ
ジーとラーニングの融合の理論によって著名なジョン・シーリー・
ブラウンは、以下の趣旨のプレゼンテーションを行いました。
変化のスピードが速くなり、世界はストックからフローの時
代に移っている。ナレッジもフロー化してゆく現在、研修の
役割も大きく変わってきた。固定的なビジョンとあるべきゴー
ルに向けて、決められたコンテンツを学ばせるプッシュ型の
教育から、学習者としての社員を中心に置き、社員が起業
家的なリーダーとして、自分の周りにあるすべての機会から
学ぶことを推進するプル型にシフトしつつある。知識の保存・
連載 第 2 回 組織を省みる
∼リフレクティブ・マネジメント∼
伝承だけではなく、知識創造の流れに参画することが大切
である。
また、これからの人事・人材部門の役割をこのように定義
しています。
ラーニング部門の役割は、組織における学習のアーキテ
クチャーや、学習文化の創造を促す学習環境をデザインす
ることである。
図表 1
企業におけるアダルト・ラーニング
10%
研修
片岡 久
株式会社アイ・ラーニング
代表取締役社長
1952 年広島県生まれ。1976 年日本 IBM 入社後、製造システム事
20%
メンタリング/コーチング
70%
仕事の経験を通して
業部営業部長、本社宣伝部長、公共渉外部長などを経て、2009 年
に日本アイ・ビー・エム人財ソリューション株式会社代表取締役社長。
2013 年より現職。 内閣府ジョブカード推進協議会委員、American
Society of Training & Development(ASTD)Japan 理事、全日
本能率連盟 MI 制度委員会委員を務める。
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数年前から人材育成の世界で70:20:
図表 2
組
織
を
考
え
る
組織と人 の オルガノン
開かれた組織と個人の成長
D.コルブの経験学習のサイクル
10という数字が語られていることを、ご存
じの方も多いと思います。企業における
いわゆるアダルト・ラーニングの 70%は仕
経験
事そのものの経験を通じて行われ、20%
がメンタリングやコーチングによるもので、
クラスルームでの研修の割合は10%に過
の
て
経験を
ぎないというものです。これは研修の機会
が 10%しかないということを表すのではな
く、70%を占める経験の部分をいかに学
習に結びつけるかが、人と組織の成長に
とって非常に重要であるということを意味
経験
の
を
の
の経験を
しています(図表 1)。
つまりどれだけ意図的に「経験を学習
としてデザインする」かということで、ジョ
ン・シーリー・ブラウンの言う「自分の周り
にあるすべての機会から学ぶプル型の学
習」 への移行そのものです。組織の成
長は個人の成長にかかっているわけですが、成長を促すた
めには仕事のプロセスそのものを学習の視点から見直すこと
の重要性を表しています。
経験から学ぶ「経験学習」は、体系化・汎用化された知
識を習い覚える、知識伝達型の学習やトレーニングと異なりま
す。仕事という経験は、特定の環境で1 度しか起きない個別
的で個人的な経験ですが、これをその場限りのものにするの
な経験)
(2)これらの新しい経験をさまざまな視座・視点から見ること
のできる観察と振り返りの能力
(省察的観察)
(3)この経験から統合的な考えや概念を生み出すことのでき
る分析的能力
(抽象的概念化)
(4)これらの新しい考えや概念を実際の実践に使うことのでき
る決断や問題解決のスキル
(積極的な実践)
ではなく、条件が異なる別のプロジェクトやまったく違う種類の
仕事において、
応用できるようになることが「経験学習」であり、
経験から学んだ仕事のやり方、ということになります。
この分野で最も有名なD.コルブの経験学習理論によると、
省みるとは
具体的な経験はそれだけでは学習にならず、やったことを省
みること、そして経験したことのエッセンスを抽出してまったく
別の仕事にも応用できるように抽象化・概念化すること、そし
経験学習サイクルの4 つのステップで重要なのは、省察の
て新しいスキルとしてこれを新たな仕事で試すことによって経
ステップです。
「省察的観察」の「省」は「かえりみる」と
験と学習が統合化されると説明しています(図表 2)。
読みますが、
「はぶく」とも読みます。東洋思想家の安岡正
経験と学習は終わりのないスパイラルなプロセスです。学習
篤によれば、この漢字の意味は以下のようになります。
で獲得した新しいスキルを仕事で使い、そこで得た知識やノ
樹木が成長するにしたがって枝や葉が増してくると、太陽
ウハウを新たに加えて、それまでに蓄積した個人の価値観や
の光がいきわたらなくなり成長が鈍化します。ここからさらに
ものの見方と融合することで、自らの職業観や仕事に取り組
成長し、花を咲かせ、果実をつけるために、庭師は樹木全
む姿勢などのいわゆる「持論」になっていくわけです。コル
体を眺め直して、不要な枝葉を省くこと、これが「省みる」
ブは、経験からよりよく学ぶための能力として、次の4つの能
です。政府の行政機関での名称にこの「省」を使うのは、
力を挙げています。
複雑になっていく所管業務を、国家の目的に照らして簡素化
(1)新しい経験にかかわることへの開放性や自発性(具体的
する、つまり省くことで国家運営を円滑にすることが本来の役
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目であることから、省と名づけられたとのことです。
きく異なることを、チームリーダーや管理職の方や、人事を担
また、物事を理解することを分別とか、物分かりがいいとい
当された方はよくご存じだと思います。その場合、成長の個
うように、分けて考えることが分かることにつながります。ちょう
人差は本人のもっている能力や取り組み姿勢の差だとして、
ど樹木が成長していくとどんどん枝分かれしていくように、組
個人の課題にしていないでしょうか。あるいは上司と部下との
織も成長とともに「分解」つまり分けて解ることによって専門
関係での育成課題として扱われていないでしょうか。
化が進みます。しかし専門化しすぎるとある時点で本来の目
的がわからなくなる、ということが起きます。庭師が樹木全体
を見渡して枝葉末節を省くことで、本来の目的である根や幹
の成長を促すように、専門化を止めて全体の中での自分の
企業における
「省察」
位置づけを捉え直し、個別の経験をそれまでの経験や組織
の目的に統合していくことが成長へのステップになります。
ところが経験を学習にするためのこの重要なステップは、
「抽象化、概念化」のステップとともに個人の意識の中で行
かつての日本企業はこの経験学習プロセスを、日常活動と
して自然な形で組み込んでいました。営業部門では上司と部
われるため、通常の業務設計においてはプロセスの一部とし
下が一緒にお客様を訪問した後、帰り道に喫茶店に寄って、
て設定されていません。コルブ教授の「経験学習のサイクル」
お客様とのやり取りを再現しながら、
「あのとき、経理部長さん
の中には、企業組織のプロセスとして定義される部分と、個
が聞きたかったことは君の答えたこと以外にもう1 つあったは
人の内部で起きる意識作用の 2 種類の活動が混在していま
ずだ」、
「なぜなら……」という会話が交わされるということが
す。企業が仕事の定義をする場合、個人の意識の中で起こ
ありました。そこでお客様とのやり取りを振り返りながら、コミュ
る内部的な作用は業務範囲に含まれません。作業手順書に
ニケーションの本質をつかんでいくわけです。また、仕事が
は記述されず、また作業時間には含まれないのですが、組
終わった後の居酒屋でのノミニケーションは、先輩が後輩の
織学習の視点でここに着目してみると、個人の成長を組織と
仕事のやり方について「省察」を促す場でもあります。先輩
して支援するためのヒントが出てきます。
にとっても「概念化」された仕事論に新たな事例を付け加え
同じような仕事をしても、個人によって成長する度合いが大
ることで、より体系的な持論を作る場でもありました。
組織の成果を上げるため、
この経験学習サイクルのプロ
図表 3
組織的な省察の取り組み
セスに注目して、組織メンバー
全員が意図的に仕事の経験
ー
ー
を振り返る時間を作ることで、
個人の成長と組織の活性化
を図っている企業もあります。
A 社の営業部門では、金
曜日はお客様の訪問を午前
中で切り上げて会社に戻りま
す。午後の時間はみんなで
会議室に集まって、その週の
お客様との出来事や、やり取
りを話し合います。まず自分
の体験を言葉にして語ること
で、体験がある程度客観的
な経験になります。さまざまな
感想やアドバイスを仲間からも
らうことで、今まで思い込ん
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開かれた組織と個人の成長
でいたことと違うことを思いつくことがあります。また、他人の
ワークショップを定期的に開催しています。また現場ではプロ
経験談を聴いているうちに、その内容がまったく違うケースで
ジェクトの最中にも適宜振り返りを行い、次のアクションに適用
あっても、自分がもっている課題や疑問の答えを思いつくこと
していくいわゆる「リフレクション・イン・アクション」を重視し
もあります。この会の良さは会社の公式なミーティングでありな
ているそうです。
がら、結果を求めるものではなく、結論なしの雑談で終わるこ
ところ、率直でオープンな会話が花開くところです。
「お客様
が意図していたことは、このことだったのではないか」それは
経験からの学びは
個人によって異なる
自分だけで問い詰めていても出てこなかった気づきです。一
人ひとりの意識の中で起きている内省のプロセスを言葉にす
ることで、無意識のうちに抽象化・概念化のステップが進み、
さらにメンバーからの質問やアドバイスによって、新たな実践と
経験学習サイクルの理論は、さらに実際に行った仕事のや
して具体的に適用することをイメージできます。
り方から学習するスタイルが、個人によって異なるとしていま
す。身体を使って仕事に習熟することで学びを深めるタイプ
や、反省会での他人の意見によって気づきを得るタイプ、ま
NTTデータアイの取り組み
たは今までの経験と照らし合わせて統合していく過程で学び
を深める人もいます。振り返りのワークショップでは、それぞれ
のメンバーが「実践」「経験」「省察」「概念化」の4 つの
プロセスのどこを中心にして学びを得るかという、個人の違い
NTT データ・グループの筆 頭 子 会 社である株 式 会 社
をお互いに理解し合うことで、さらにチームの関係が深まって
NTTデータアイでは、お客様から情報システムの開発を受託
いきます。
して、複数の部門のメンバーがプロジェクト・チームを組んで
ネットワークとITで仕事をする時代では、
「経験」は必ずし
仕事を進めます。プロジェクトの生産性と品質の向上は、個々
もオフィスや現場だけで発生するのではなく、ネット上でのコミュ
のプロジェクトの経験から、どれだけ多く学び、メンバーが成
ニケーションや Web サイトでの活動が、現実の仕事そのもの
長していくかにかかっています。ところが経験からの学びの度
として経験されます。これまで以上にオープンな組織環境の
合いは個人によってかなり異なります。
中で、
テクノロジーを活用したインフォーマル・ラーニングや、
ソー
プロジェクトの経験からの学びを全員がより深く得るための
シャル・ラーニングといわれる分野の取り組みについても、別
手法として、この企業ではプロジェクトの終了後、ワークショッ
途ご紹介したいと思います。
プによる振り返りのステップを導入しました。プロジェクトが 1 つ
完了するたびに、それにかかわったメンバー全員が参加し、
ファシリテータのリードによって、振り返りが行われます。つまり
個人的な省察ではなく「組織的な省察」が行われます。通
常はワークロードとして考慮されない、
「省察」と「抽象化」
●参考図書
リ
ー
ーグ
ン
のプロセスを、この企業ではワークショップの形式で、プロジェ
クト
・マネジメントの1つのフェーズとして設計しました。
まさに「経
験をデザインする」わけです(図表 3)。この取り組みは村
松充雄社長の発案のもと、トップ・ダウンの形で実現したそう
です。通常は業務としてカウントしないプロセスを、仕事の一
環として業務時間を使って行うようにしたため、トップ・ダウン
でなければできなかったとのことです。
この取り組みを継続的なものにするために、社員全員への
大規模なセッションを行い、ワークショップでの話し合いの仕方
を学んだり、管理職向けのセッション・リーダー養成のための
連載予定
第 1 回 組織を開く (前号)
第 2 回 組織を省みる(本号)
第 3 回 組織を掘る (次号)
第 4 回 組織を創る
第 5 回 組織を育む
第 6 回 組織を読む
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