...

7.永観堂 8.洛翠庭園 9.碧雲荘

by user

on
Category: Documents
69

views

Report

Comments

Transcript

7.永観堂 8.洛翠庭園 9.碧雲荘
貴重な水辺のいくつか―7 琵琶湖疏水の水辺
51
年に,小田原市に建てられた別荘で,自然主義的庭園
の形式を無鄰菴に続いてとったとされる。その庭園は,
高低差15mの間に上段の庭,中段の庭,下段の庭等と
いった形で構成され,その高低差を巧みに利用した流
水や,滝を配したことが特徴として挙げられる。古稀
庵には一度出かけたが,植え込みや水の管理のせいか
写真写りは良くなかった。
7.永観堂
東山の山際にあり,広い池があって紅葉の名所であ
る。浄土宗西山禅林寺派の本山。禅林寺を永観堂と通
称するのは,11世紀の名僧であった永観律師に由来し
写真-10 洛翠庭園
浅い池で南湖のところで,右の橋は近江大橋にあたる
ている。大きな池には疏水の水が入っているが,池が
大きすぎるのか,紅葉は素敵であるが,水のきれいさ
し荒れた感じがした。この施設は,経営が良くないら
は乏しい感じであった。
しく,平成21年 5 月に閉めてしまった。今後はどうな
るのだろう。
9.碧雲荘
碧雲荘は扇ダムからの放水が急な斜面を勢いよく流
れる水路わきの目立つところにあり,地図で見ると庭
は永観堂の庭園くらいある広いものである。野村證券
を興した野村徳七が,大正時代から昭和時代にかけて
京都市・南禅寺付近に築造した数寄屋造りの別邸。 6
千坪の敷地に茶室だけで 9 室もあり,2006年12月,国
の重要文化財に指定された。北村捨次郎らの設計によ
写真-9 永観堂の池
8.洛翠庭園
る,数寄屋造りの高度な技法を凝らして作られた建築
物と,小川治兵衛が作った美しい庭園がある。大正時
代から建築が始まり,昭和 3 年頃に完成した。船遊び
のできる広い池,東山と永観堂の多宝塔の借景など素
晴らしいとされる。庭師が一年中出入りするなど管理
明治42年に,実業家・藤田小太郎の私邸が建てられ
たところで,本館前の池は,琵琶湖の形を模して,竹
生島,橋など置かれているが,北湖が小さいなど,相
似ではない。
池の西の下流側には,底が見え清涼感のある浅い流
れが造られ,琵琶湖大橋や近江大橋の位置に石橋が架
けられている。
ここは郵政関連の施設となり,ゆうりぞうと京都(洛
翠)
として営業していた。筆者も一度昼食で立ち寄り,
庭を見学させていただいた。南湖に当たるところは小
川治兵衛の技法の一つで浅くなっている。浅い水深で
底が見えると,清涼感は増すが,そのかわり池の底を
常にきれいにしておかなければならない。水はきれい
であったが,庭木は普通の庭のような管理に見え,少
工水09-随筆-亀田.indd
51
写真-11 扇ダムからの流れ
急な流れ。碧雲荘が左に
2010/10/08
15:48:07
2010年9月
52
工
業
用
水
No.602
もしっかり行われている。
非公開になってしまい,見ておかなかったのが悔やま
何度も行きたくなる名刹など多くの京都のいい庭
れる。
は,こまめな剪定,清掃など東京の名だたる庭園にな
い,きめの細かさで手をかけているらしい。
11.對龍山荘(たいりゅうさんそう)
碧雲荘はエリザベス女王も訪問されたことがあるそ
うであるが,テレビでときどき拝めるだけで全く公開
薩摩出身の実業家・伊集院兼常の別荘として建てら
されていない。財団管理でなく,野村證券の財産らし
れ,のち京呉服で財をなした市田家所有となり改修さ
いが,定期的に公開するなり,顧客サービスに使うな
れた。市田氏の明治中期の改修の際に小川治兵衛の手
りするのなら分かるが,高額の維持費がかかっていて,
が入り,贅沢な造りとなっている。
国賓級以外誰にも見せないで会社が負担しているとな
庭は母屋の東に細長く広がっている。みどころは建
ると,不適切な支出になるような気がする。
屋の前の大きな園池を中心とした北側部分で,碧雲荘
10.何有荘(かいうそう)
くらいの大きなスケールである。建屋は前面に展開す
る池にせり出して建てられ,対岸に大滝とのどかに回
転する水車を望み,背後には東山が悠然とその姿を見
染色技術を学ぶためにフランスに国費留学し,織物・
せ,典型的な最高レベルの日本庭園である。
染色産業振興に尽力し,我が国に映画をもたらしたと
また浅い小流れを中心とした芝地の南側部分も凝っ
される稲畑勝太郎がつくったもので,敷地は 5 千坪も
ている。2001年に一度だけ公開された。最近,外資系
ある。敷地に高低差があり,疏水の水を使った,高さ
の会社の所有になったような話がある。
30m,延べ 3 段の滝がある。滝が流れ込む池,書院,
家族のための 2 階建ての洋館のほかに,小さな茶室を
12.織寶苑など
過ぎて和風のトンネルを抜け,京都の街を見渡せる茶
室に至るまでの景色の変化がユニークである。トンネ
織寶苑(しょくほうえん)は東山別荘群を開発した
ルは一次大戦の空爆の恐ろしさを実感した稲畑が防空
塚本与三次が見本としてつくったもので,寝殿造り風
壕を兼ねてつくらせたもので,内部にはつくばいも配
の建物に特徴があった。戦後しばらく占領軍の宿舎に
してある。この屋敷は建設会社の所有であったが,
なり,和室が台所になるなどの改装をされてしまった。
2006年に競売となり,不動産会社津多家が28.4億円で
その後,タツムラシルクの迎賓館として海外の有名人
落札したが,不正登記問題で裁判になり,やっと解決
の来訪があった。最近,仏教教団真如苑の所有となり,
した。その後改修され,今年になってクリスティーズ
綿密な修復工事がなされていて,流響院として近く公
で80億円で売り出され,価格は不明だが米国実業家の
開されるとのことでありがたい。
手に渡ったらしい。
織寶苑,洛翠庭園と並んでいる真々庵は数寄屋造の
庭園は2003年から公開されていて,いろいろな見学
母屋と庭園があり,松下幸之助が入手し,整備し直し
記がホームページに載っているが2005年 7 月からまた
て真々庵の名で,松下電器の迎賓館となっている。ま
た有芳園は,住友家別荘のあった場所で,今は財団管
理になり,住友グループの迎賓館兼幹部研修所のよう
に扱われている。なかなか素晴らしい庭園らしいが,
一般公開はまれにしか行われていない。
13.哲学の道
蹴上からの疏水分線は水路閣を過ぎてすぐトンネル
になり,南禅寺本堂あたりで顔を出すが永観堂の裏手
ではまたトンネルになって,永観堂を過ぎた若王字付
近から,歩道が付いた水路となる。哲学の道はここか
ら銀閣寺までの遊歩道で,管理用通路としてつくられ
写真-12 南禅寺船溜り
無鄰庵,真々庵,洛翠庭園がすぐそばに
工水09-随筆-亀田.indd
52
たのであろうか。桜が両岸に植えられ,春や紅葉の秋
は多くの観光客でにぎわう。
2010/10/08
15:48:07
貴重な水辺のいくつか―7 琵琶湖疏水の水辺
53
写真14 疏水の紅葉
の 1 mg/Lを達成していない。滋賀県の下水道普及
率(%を 1 /10して表示)が 5 %から85%まで急上昇
するなど過去30年の懸命の水質改善努力に関わらず,
BODとCODが下がっていない。河川の場合,下水道
写真-13 哲学の道の桜
普及の上昇とともに急激に水質改善が進むが,湖の水
質改善の難しさを示している。自然の負荷,農業排水
哲学者・西田幾多郎がこの道を散策しながら思索に
の負荷や1980年に108万人だった滋賀県人口がどんど
ふけったことからこの名がついたと言われる。疏水は
ん増え,2008年に140万人になったこともあるのだろ
まだまだ続く。700mほど今出川通と並走したのち,
う。
再び北進し北白川疏水通から高野川を渡って行く。
ただ,南湖の栄養塩類の環境基準Ⅱ類型である,窒
素0.2mg/L,リン0.01mg/Lを目指して,滋賀県の流
14.水質
域下水道は高度な窒素,リン除去を行っていて,T-
N( 全 窒 素 ) が0.4mg/Lで あ っ た の が こ こ10年 で
琵琶湖南湖の水質を,疏水取り入れ口に近い三保ヶ
0.3mg / Lを切るようになってきたこと,またT-P(全
崎沖の水質を国交省水文水質データベースからグラフ
リン)が0.002mg/Lを超えるくらいであったのが,
にした。各年の平均水質はmg/Lで示されているが,
ここ10年で0.015mg/Lくらいに落ちてきて,環境基
グラフで見やすくするため,窒素は10倍,リンは100
準のⅢ類型になっているのが救いである。南湖の底泥
倍している。
から大量に発生していたユスリカも最近殆ど見られな
BODは 1 mg/L,CODは 3 mg/Lのままで推移し
いくらいに少なくなった。諏訪湖が改善されたように
ている。河川としてみるとBODはAAクラス。湖沼と
今後が期待される。
してみるとCODはAクラスで,琵琶湖の環境基準AA
15.おわりに
琵琶湖疏水は,運河として計画されたため,オープ
ンな水路となり,また庭園群への水供給もあって,目
に見える身近な存在となっている。淀川水系の水循環
で重要な位置を占め,様々な用途に使われている貴重
な琵琶湖疏水が将来もっとその価値を増すようにして
いくことを期待するものである。
5 月号で載せていただいた,スイスの氷河特急が事
故に遭ってしまった。ツェルマットを出発してそんな
に走っていない時で,しかも後部の 1 等車がまきここ
まれて,多くの方が被害にあってしまい,残念である。
グラフ 経年変化
工水09-随筆-亀田.indd
53
2010/10/08
15:48:07
Fly UP