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165 - 15年戦争と日本の医学医療研究会
労 働 と 健 康 第165号 2001.5.1発行 Ⅴ。1.27 No.3 「化学物質を安全に管理するために」 1.化学物質による健康障害とリスクアセスメント 名古屋大学大学院医学研究科 竹内 康浩…… 1 2.職場報告 労働衛生コンサルタント 原 一郎 1 1 京都府立高等学校教職員組合 福井真由美 高等学校における化学実験の問題点 シックハウス症候群(職場での事例) 匡l際海上コンテナ輸送の安全輸送について 6 8 0 2 化学工場での開発研究における安全管理 化学一般関西地本ダイトーケミックス支部 堀谷 昌彦 全港湾阪神支部労職対 中山寛治郎 闘いっづけて手にした労災認定 1.過労死したトラック運転手の遺族が損害賠償命令を勝ち取る 一大阪地裁 2001年2月− 編 集 部 …… 14 ・悔しさをバネに闘いっづけて 西原 松子 …… ・夢で会う父 西原マユミ …… 15 16 (1)経過と勝訴の意義 (2)遺族の思い 2.32年間のコンベアー労働の過酷さ認められた! 一松下電器・元定時社員・清藤ユキエさん 頸肩腕障害で労災認定勝ち取る 松下働く者の健康を守る会 松本 明子 …… 大阪証券労働組合 A生 …… 一人の勇気ある闘いが過労死を防ぐ 17 20 20世紀から21世紀へ 一働く人のいのちと健康とりくみの課題一 労働医学研究所名誉所長 細川 汀 …… 23 こんなしごと・あんなしごと(41)<回転寿司店> パート・アルバイト労働研究会 三戸 秀樹 …… 27 養護学校教師の股関節症認定 疑惑の死 ドゥエのルノー社の労働者は過労によるものか? ・職場におけるメンタルヘルス対策 一精神障害等の労災認定「判断指針」対応 日本産業精神保健学会編(労働調査会)……… ・規制緩和と労働者・労働法制 高井隆令・脇田滋・伍賀一道編(旬報社)……… 33 34 ・A 人は誰でも間違える −より安全な医療システムを目指して− L.コーン/J.コリガン/M.ドナルドソン編 米国医療の質委員会/医学研究所著、医学ジャーナリスト協会訳(日本評論社)……… 35 B ヘルスケア・リスクマネジメント ー医療事故防止から診療記録開示まで一 中島和江・見玉安司著(医学書院)……… あとがき 大阪労災職業病対策連絡会(大阪職対連) 35 「化学物質を安全に管理するために」 2000年10月21日午後からエル大阪で、「第7回化学物質と労働者の健康研究会」が開催され、 名古屋大学大学院医学研究科環境労働衛生学教室の竹内康浩教授が「化学物質による健康障害と リスクアセスメン山と遷して講演された。引き続き、堀谷昌彦氏(化学一般関西地本ダイトー ケミックス支部)による「化学工場での開発研究における安全管理」、福井真由美氏(京都府立 高等学校教職員組合)による「高等学校における化学実験の問題点」、原⊥郎氏(労働衛生コン サルタント)による「シックハウス症候群(職場における事例)」、中山寛治郎氏(全港湾阪神支 部労災職業病対策委員会)による「海上コンテナ輸送の安全輸送について」の四題の職場報告か なされた。 参加者は研究者、労働衛生コンサルタント、保健婦、,企業内の健康管理担当者、労働者、学生 で合計40名弱、うち約半数が労働者であった。 本特集は講演者が報告内容を文書化したものである。 名古屋大学大学院医学研究科環境労働衛生学講座教授 竹 内 康 浩 1.産業の変革期は労働者にとって危険な時期 定されている化学物質はまだ多くはない。 現代はIT革命の時代といわれるが、もう 化学物質による健康障害予防の目的で、よ 一つの側面として、化学物質が身の回りに蔓 り毒性が少なく、環境に影響の少ないものを 延する化学化の時代でもある。現在、産業現 使うようになった。 場では数万種の産業化学物質が使用され、私 フロン等がオゾン層を破壊する恐れがある たちは頭の先から足の先まで、化学物質のお との論文が1974年に発表されて以来、国際 世話になっている。その上、毎年わが国では 的に調査が行なわれて、オゾン層破壊の進行 新規化学物質として500程前後が新しく製造 が明らかになり、1987年に採択された「オゾ 輸入され、職場に導入されている。現在よく ン層を破壊する物質に関するモントリオール 使われている化学物質数を表1に示した。 議定書」にもとづいて日本でも1996年から 特定フロンと1,1,1,−トリクロロエタンの生産 これらの化学物質の中毒による健康障害が 多数発生した。産業中毒学ではこれらの原因 と使用が全廃された。このため、様々なフロ を明らかにし、予防対策を進めてきた。しか ン代替物が産業現場に導入された。しかし、 し、比較的毒性がよく知られ、許容濃度が設 これらの毒性は必ずしも十分に明らかではな −1− 表1 よく佳われている化学物質の数(米国環境保護庁1988) 55,000種 よく使われている化学物質 約80,000種 毎年約1,000種増加し、2000年には 大量に使用されている化学物質(450トン以上/年) 12,800種 登録されている農薬 35,000種以上 食品薬品局(FDA)で承認された食品添加物 3,000種 化粧品に使われているもの 1,500種 家庭の日用品に使われているもの 1;200嘩 飲料水中の汚染物質 700嘩 食品添加物摂取量(砂糖、塩を除く) (許容濃度の設定されているもの(ACGIH,1998) 4kg/年 約800種) トスイッチ部品組立工程で使用されていた2− かった。 最近、フロン代替溶剤として使用された2− BPは月本から輸入さ■れたもので、日本では ブロモプロパンによる生殖障害、1−ブロモプ そのような問題は起きていないとして、かな ロパンによる神経障害、HCFC−123による肝 りの量の2−BPが使用された。 しかし、調査の結果、′1994年の夏以来、月 障害の様な重大な健康障害が明らかになった。 歴史を振り返ってみても、産業の大きな変革 経の停止、頭痛、めまいこ′風邪様症状の持続、 期には新しい職業病や中毒を引き起こし、労 腰痛、神経痛、末梢神経の麻痺、全身の紫斑 働者に大きな健康被害をもたらしてきた。現 などの症状が発生していた。 韓国の電子部品会社のタクトスイッチ部品 在も産業の重大な転換期で労働者の健康保護 に特に注意を要する時期と考える。 組立工程で2−BPを主成分とする溶剤を使用 していた女性労働者16名に卵巣機能低下症、 2.代替フロンの健康障害 男性労働者6名に精子形成機能低下症、生殖 (1)2一ブロモプロパンと1−ブロモプロパンに 機能および造血器障害が共に認められたもの よる生殖障害と神経障害 7名が発生した。女性では貧血、白血球数減 ① 2−ブロモプロパン中毒 少症、血小板数減少症などの造血器障害およ 2−ブロモプロパン(2−BP)は沸点が低く、 び月経の中断、卵胞刺激ホルモン(FSH)の 燃えにくく、オゾン層破壊係数も低い。昔か 著しい増加、黄体化ホルモン(LH)の増加 ら農薬や医薬品分野で使われてきた。 が認められている。 韓国のL祉の電子部品工場で、日本から輸 男性では造血器障害、精子数の減少(6名 出された2−BPがフロン113の代替溶剤とし 中2名は無精子症)、活動精子率の減少が認 て1994年2月から使用された。労働者への2− められ、精子形成能の著しい障害を示している。 BPの健康影響を最初に発見したのはこの工 患者の発生したタクトスイッチ部品組立室 場で職場巡視をしていた看護婦たちであった。 の2−BP濃度は局所排気装置を稼動させた場 1995年7月に5名の若い女性の月経が停止し 合には9∼19ppmであったが、労働者が曝露 ていることが発見された。しかし、このタク される可能性のある浸漬槽の浸漬液上1mの −2一 濃度は4140ppmが検出されている。2−BPは 当に大丈夫か」と毒性テストを依頼してきた。 沸点が低く揮発しやすいために、適切な環境 かつては日本の許容濃度設定においても、 対策が行われないで使用された場合は作業環 「動物実験で200ppmで大丈夫なら100ppm 境濃度は高濃度に達したことが予想された。 でよかろう」と決めていた時期もあった。し 2年後の追跡調査で、月経が停止した女性 かし、米国の環境保護庁(EPA)は「動物実 16名中、月経の回復したのは1名のみ、他の 験の結果からヒトヘの毒性を推定する場合は、 1名は無月経のまま妊娠し健康な子供を出産 その不確実性を考慮して、ヒトでは動物の最 したと報告されている。 大無作用量の1/10以下にする」との考えを 私は研究室員とともに韓国と協力して、2− とっている。 BPの生殖毒性を検討するための動物実験を メーカーの専門家に質すると「1000ppmで 行った。雄ラットに2−BP3,000ppm、1,000 は死亡した」というのみで、死因はわからな ppm、300ppm、8時間/日、9週間曝露実 いとのことであった。 験を行なった。体重あたりの精巣重量、精子 1−BPは日本でも結構使用され、エアコン 数、活動精子率は量依存的に著しく減少し、 のパイプ洗浄に使用してかなりの曝露を受け 活動精子率は1,000ppm以上の曝露群では動 ている労働者がいた。彼らの健康管理をする いている精子は全く認められなかった。 人は「血液検査や肝機能検査に異常はないが、 中に入ると頑が痛い、重い症状になる。あん 骨髄所見では造血器細胞の減少が量依存的 に有意に認められた。これらの結果は2−BP な経験をしたことはない」とのことであった。 が精巣に対して特異的な強い毒性を有するこ 中枢神経系への影響が疑われた。 と、造血機能も障害することを示した。 ラットの雄に濃度段階別の曝露実験を行っ 雌ラットにも同様に曝露実験を行った。卵 た。1−BP800ppm、400ppm、200ppm、8時 巣の組織所見では1,000ppm群および300ppm 間/日、12週間をラットの雄に曝露した実験 群で濃度依存的に正常卵胞数の減少、閉鎖卵 では、400ppm以上の群で四肢の筋力の低下、 胞及び嚢胞状卵胞の著しい増加、黄体数の減 800ppm群ではMCVの遅延とDLの延長が 少がみられた。2−BPが始原卵胞の卵細胞に 認められ、病理組織学的にも末梢神経の変性 対して特異的な毒性を有することが認められた。 が認められた。曝露群の精巣重量は対照と比 較していずれの群も優位差は認められなかっ たが、400ppm以上の群で精巣上体の重量減 ②1−ブロモプロパン中毒 2−BPに代わるものとして「生殖毒性、発 少、精子数の減少、活動精子率の減少、無尾 精子出現率の増加が認められ、200ppm以上 がん性、変異原性のいずれもが弱い」とアメ の群で精嚢重量の減少が認められた。 リカのあるメーカーが売り込みに来た。メー 1−BP800ppm、400ppm、200ppm、8時間 カーの説明会には毒性評価ををした研究者も ついてきた。メーカーの説明では400ppm、 /日、12週間をラットの雌に曝露した実験で 600ppmで肝臓に軽い障害があるが、200ppm は800ppm群以上で性周期の停Lヒ、400ppm ではそれがないので100ppm以下の曝露なら 群で性周期の有意な乱れが認められた。病王里 大丈夫とのことであった。日本の業者が「本 組織学的な検索では卵胞の成熟、排卵、黄体 ー3一 形成が400ppm以上で抑制ない七障害されて HCFC−123は世界の17の化学会社が共同 して代替フロン毒性試験を実施し、その結果 いた。 が1993年に公表された。その結果は3,500pp 以上の所見から、1−BPは神経と生殖器に mまでのラット、イヌを用いた急性・亜急性 対して毒性を有することが示された。生殖毒 毒性、5,000ppmまでのラットを用いた発が 性については、1−BPは2−BPと作用機序が異 ん性を含む慢性毒性、5,000ppmまでのラッ なり、精子および卵胞の成熟過程を障害する ト、ウサギを用いた生殖、発生毒性、遺伝子 可能性がある。 毒性試験を総合して、経皮・吸入急性毒性は 1−BPは安全な溶剤としてアメリカでは大 低く、長期曝露では良性の寿命に関係のない 量に販売・使用されてきたが、最近になって、 腫瘍の発生の増加があり、発生‘生殖毒性は 神経障害事例が報告されるようになった。 なく、遺伝子毒性もないと評価された。しか 最近米国から報告された1−BP使用者の神 し、HCFC−123中毒による肝障害が発生し大 経障害事例として19歳の男性の脳脊髄根神 きな問題となっている。わが国で起きた中毒 経障害を紹介する。トBPをもちいた金属塗 事例の一つを以下に紹介する。 装の剥離洗浄作業に従事、1998年1月中旬に HCFC−123を冷媒とした小型冷却装置試作 知覚麻捧、中程度の進行性脱力が下肢近位部 ラインで、2名の作業者が体調の不良を訴え、 及び右手に出現し、曝露開始2ケ月後の1998 企業内診療所を訪れた。黄痘が観察されたた 年2月に入院した。 めに、他の12名の作業者についても肝機能 検査と自覚症状調査が実施された。曝露濃度 入院時には人の助け無しに一人では立っこ とはできなかった。一過性の喋下困難と排尿 の推定値が500−1000ppmの高濃度曝露者5 困難が認められた。神経伝達速度等の検査で 名全員が肝障害に雁患していた。また、消化 は一次性」対称性、脱髄性多発神経炎である 器、中枢神経、粘膜刺激症状の有症率も高濃 ことを示した。、MRIでは脳室周囲白質のT 度曝露者に高率であった。この事例からHC 2信号の斑点状増強、腰部脊髄根の増強像、 FC−123は単独で肝障害を生じることが明ら かにされた。(大前和幸、武林 亮.医学の 体位感覚誘発電位の異常が認められた。これ らの神経障害所見は名古屋大学のラットの実 あゆみ1999;191(2):172−173) 験結果とよく一致しており、1−BPによる中 毒性神経障害と推定された。(Sclar G.Clin 3.化学物質による健康障害予防への取り組 NeuroINeurosurg1999;101:199T202) みの歴史と最近の課題 (1)職業性中毒の多発とその診断、補償、業 (2)HCFCr123中毒による肝障害 務上疾病が重要な課題であった時代(50 フロン代替物質として、塩化弗化炭素(C ∼70年代) FC)に水素のついたHCFCがオゾン層破壊 ベンゼン中毒、二硫化炭素中毒、鉛中毒、 係数が小さいとして使用されるよぅになった。 ノルマルヘキサン中毒などが多く取り組まれ、 その一つがCFC−111の代替品として使用さ 多くの職業病の診断基準や予防法が確立された。 れるようになったHC −4− 表2 過剰発ガン生涯リスクと対応する評価値 物質名 評価値 過剰発ガン生涯リスクレベル 〇 〇 d一 〇 3 〇 d一 0.15繊維/ml O.015繊維/ml O.03繊維/ml O.003繊維/m1 3〝g/d O.3〝g/d 1 ppm O.1ppm 3 〇 の開発や発展が期待されている。 d一 (2)早期発見、早期対策が大きな課題であっ 3 〇 ベンゼン d一 〇 l l l l l l l l 一 一 一 一 一 一 一 一 ヒ素及びヒ素化合物(Asとして) 〇 クリソタイル以外の石綿繊維を含む時 3 石綿 クリソタイルのみの時 た時代(2次予防)(60∼70年代) 特殊健康診断の実施;早期診断法の開発、 (4)生殖毒性の重視(90年代∼) 配置転換、環境改善、許容濃度の設定、労働 2−BP中毒、内分泌撹乱物質問題などを契 衛生法規の整備など職業性中毒の予防対策が 機に、生殖毒性に対する考え方や取り組みが 精力的に行われ、その結果として職業性中毒 変わってきた。生殖毒性の考え方と分類表を は大いに減少した。 表3∼4に示した。 (3)リスク評価とリスク管理の重視(1次予 (5)化学物質過敏症、シックハウス症候群 防)(90年代∼) (90年代∼) 化学物質安全データシート(MSDS)の設 化学物質過敏症やシックハウス症候群が社 置、発がん物質の許容濃度の考え方の変化な 会問題になり、感受性の個体差、ハイリスク ど、リスク評価・リスク管理により、健康へ グループの検出と対策、代謝酵素などの遺伝 の悪影響のリスクを効果的に減少させること 子多形性と個体差、遺伝子解析に伴うプライ に大きな努力が向けられるようになった。発 バシー がん物質の例を表2に示した。リスク評価法 いる。 の保護などが大きな問題となってきて 表3 生殖に有害と考えられている要因 1.遺伝子に有害な因子 ベンゼン、エビクロルヒドリン、酸化エチレン、遺伝子毒性抗がん剤 スチレンオキサイド、塩化ビニル、電離放射線(放射性核種を含む) 2.生殖器に有害な因子 ジプロモクロロブロバン(DBCP)、鉛とその無機化合物、2−エトキシエタノr ル、エチレンジプロマイド、クロロブレン、マンガン、2−メトキシエタノール、 二硫化炭素、合成エストロジュンとプロジュストロン 3.妊娠中の有害因子 生物学的因子 発がん物質、麻酔ガス、水銀及びその化合物、一酸化炭素、鉛、細胞増殖抑制 剤、有機溶剤、変異原性物質(R45)、発がん物質(R46)、発達毒性物質(R61) ウイルス(B型肝炎、ヘルペス、サイトメガロ、水痘、風疹)、細菌(ジフテリ 物理学的因 電離放射線(放射性核種を含む) 化学的因子 ア)、トキソプラズマ −5− 表4.生殖/発生毒性分類クラス及びサブクラス(OECD) クラス1 別枠のクラス クラス2 人の生殖または発生に対する毒物 人の生殖に対する毒物である 授乳に対する、ま であることが既知である、または ことが疑われるもの たは授乳を介した 想定されるもの クラス1A 作用 クラス1B ①人への有害性の疑いがある 女性に吸収され、 授乳を妨害するも 人への有害性 人への有害性が 情報(人、動物実験)のある もの、②動物実験で明らかな 有害性が認められていても、 の事実(デー 十分推量できる 人に対する影響の関連性に疑 念をもたらすに十 夕)が知られ 動物実験情報の いが生じるようなメ 分な量で母乳中に ているもの あるもの の情報がある場合、③クラス 1に分類するにはまだ証拠が 存在する(代謝物 既知である 想定されるもの の、または授乳中 の子供の健康に懸 も含む)もの 十分でないもの の工業化・有機化合物製造を行っています。 化学工場での 製造現場では、過去には大きな事故もあり、 開発研究における安全管理 その経験から、労使間の基本協約で安全衛生 化学一般関西地本 についての考え方(安全第一)を確認してき ダイトーケミックス支部 堀谷 昌彦 ています。少し変わった協約では、事前協議 1.「安全なくして労働なし」 協定を持っていて、安全衛生面に関しては、 私は、入社以来10年以上研究開発にいた 新たな物質・設備・技術の導入においては、 こと、労働組合役員として安全衛生について 労使間で事前に協議し合意の上で進めていく 携わってきた経験から、現場に近いところか ことにしています。 らの安全管理報告をしたいと思います。 染料を長く製造してきた関係で、呼吸器・ また、ダイトーケミックスでは「安全」と 尿路系の発癌物質を取り扱ったこともあり、 「衛生」の使い分けをして(「安全」は火災・ ビスクロ・ベンジジン協約は早期発見から補 爆発などの事故防止、「衛生」は薬害・疾病 償などを決めています。実際に発病した方も 予防の考え方をしています)、今回は火災・ おり、定年退職後のOBもフォローし、何件 爆発防止のために普段どんなことをしている かを労災認定させています。 のかを報告します。 「安全なくして労働なし」はかなり浸透し ダイトーケミックスでの研究開発は、フラ ていますが、今日的(コストダウンや合理化 スコレベルから0.5∼10tリアククーなどへ が求められている)時代背景の中では、労働 16− 組合が手を抜けばたちまち安全衛生は取り残 報、制御システムを採用する。一緊急冷却、放 されてしまいます。 出等、異常時対策を確立する。作業者は、取 扱い基準を守るム管理者、作業者は、反応面、 2.安全面からみた技術基準について 物性面での特性を把握し、異常時の対策が取 れるよう熟知しておく。熱・摩擦・衝撃に対 研究開発段階で講ずべき安全対策は†技術 基準としてまとめています。そこには、1) して敏感な物質については、乾燥、粉砕、混 安全対策の基本、2)化学物質危険性評価の 合(配合)、運搬等の操作機器及び操作条件 手順、3)化学物質の危険性評価方法、4) の選定に、・十分安全面を考慮する。」 実験立案時の安全検討マニュアル(a予備調 衛生面でのアプローチは、できる限り特定 査、b実験検討に組み込む項目、C安全対策 化学物質取り扱い時の一般手法と手順(扱わ のチェックポイント)、5)ダイトーケミッ ない、密閉化、局所排気装置」、・作業管理、保 クスにおける物性面からの安全性について、 護具、環境管理、健康管理など)を取ります 6)各論があり、基本的考え方から具体的対 が、時々これらの手法や順番が守られないこ 処方法を規定しています。今回は1)と4) とがありますので、事前協議の中で指摘し修 を紹介します。 正しています。 2)∼3)及び 5)∼6)は、今回省略。 1)安全対策の基本 一度、製品化しますと溶剤変更や処方変更 は、大変困難ですから、危険な有機溶剤や化 4)実験立案時の安全検討マニュアル 予備調査として、物理化学的性質・化学反 学薬品は始めから使わない方が良いという考 え方が基本にあります。ダイトーケミックス 応性・危険な操作などをマニュアル化してい では塩化メチレンやジオキサンなどの使用が ます。以前はダイトーケミックス独自で薬品 あります(生産に当たっては非常に便利な溶 安全データシートを作成していましたが、最 剤です)が、衛生面を考慮して最初から使用 近は、MSDSの普及やインターネット・RT しないようになってきています。 ECSなどの活用で大変助かっています。 実験検討に組み込む項目としては、反応熱 取扱う化合物の危険性に着目した、一般的 な安全対策の考え方は、以下の通りです。 の測定やガスの発生状況の把握などを主にチェッ 「原料、中間体、副生成物が危険な場合、よ クしています。静電気爆発防止対策も重要で、 り安全な合成法を見い出す。より安全な溶媒 ダイトーケミックスでは最近起こっていませ を使用する。希釈して操作する。より低温で んが、化学一般傘下の支部の中には、トルエ 操作するとともに、過熱や熱が蓄積するよう ン・キシレンの静電気爆発事故や爆発防止用 な条件を避ける。一度に大量の発熱反応を避 に用いた窒素による窒息死事故などが数件起 けるため、一括仕込みは回避し、滴下方式と きています。日に見えない危険性については、 する。やむを得ない場合は、段階的に反応さ 十分気をっけていかなければならないと考え せ発熱を分散させる。危険を最小限にとどめ ています。 るような小規模方式とする。信頼性のある警 −7− 3.事前協議制度について 予防活動には日常パトロー ルが大変重要な活 動です。 事故の対策よりも予防こそが、最も重要な 課題です。予防システムの根幹が前述した事 前協議制度です。事前協議メンバーは、工場 長、安全管理者、衛生管理者、技術責任者及 高等学校における 化学実験の問題点 び担当者、生産関係責任者及び必要と認める 者、組合代表安全衛生担当(2名)で構成さ 京都府立高等学校教職員組合 れ、必要に応じて設備担当や環境保全担当な 福井 真由美 どが参加します。 私が勤務している高等学校には80名ぐら 昨年は、組合より234件の指摘事項を上げ ました。その内訳は、衛生対策25件、静電 いの職員がいますが、そのうち理科実験に携 気爆発防止12件、反応熱関係8件、ガスの わっている実習助手が2名います。そのうち 発生について11件、設備改善25件、品質関 の1人が私です。実習助手は理科実験にかか 係15件、その他138件でした。 わる専門職種です。高等学校の理科は4教科 あり、これを2人でやります。 衛生対策では、有機物の急性毒性値や慢性 文部科学省は1996年から小、中、高校に 毒性値から判断して危険性が大きいものにつ いて設備改善や作業改善などをしています。 労働安全衛生委員会を設置するように指導し 静電気爆発防止では、窒素シールの量と吹き ていますが、いまだに出来ていないのが実態 込み速度の確認や是正、酸欠防止対策などを です。京都でも労働安全衛生委員会がない中 しています。 で意識的に安全衛生にかかわることをやって います。 目立っのは、衛生対策と設備改善です。作 実習助手は実験実習にかかわるはとんどす 業方法や保護具の強化では、いっまでもその 作業をしてくれるかわからないので、設備改 べてのことをやっていますが、その中で化学 善へと結びつけて、より安全で快適な作業を 物質とかかわるところは「器具・試薬の準備」 目指しています。 「予備実験」「演示実験」「生徒実験」「かたず けの指導」です。私の学校の化学実験室の薬 まだまだ、重複する指摘が多く、技術の伝 承が課題となっていますが、事前協議制度を 品庫にはベンゼン、トルエン、n−ヘキサン、 最大限に活用して、水際で事故や災害を防い クロロホルムなど180種類くらいの薬品があ できています。 ります。生物実験室にもありますので200種 類くらいの化学物質を保存していることにな ります。 4.日常パトロールの重要性について 組合代表の事前協議委員として、毎日1回 これらの化学物質がどういうように実験に は職場パトロールを実施してきました。確認 使われているかを調べてみたところ、使用量 された作業が変更されていないか、設備が省 は非常に少ないが、種類は非常に多いことが 略されていないかなどを見るだけでなく、新 わかりました。また、1∼2時間目にエステ たな危険の芽が発生していることも多々あり、 ルの実験があって、酪酸が臭いなと思ってい ー8− 1996年12月に、■鉛蓄電池の実験がありま たら、3∼4時間目にハロゲンの実験をやる というように極端な場合には1日6時間化学 した。希硫酸の中に鉛を入れて3ボルトの電 物質にかかわっているような状況もあります。 流を流しました。生徒の実験台と教卓実験台 私は化学実験というものは臭いのが当たり とで行ったのですが、教卓実験台の鉛板が溶 前だと思ってきましたし、そういう環境を空 けてビューと飛んでしまちたんです。おかし 気のような存在として感じていました。たま い、おかしいと言って電気工事の人にきても たま、1996年に研究会の役員になり、健康問 らって調べたら、100ボルトの交流が流れて 題をやってくれと言われて、それまでは薬品 いたんです。配線ミスでした。生徒の実験台 の取り扱いとしては爆発したときの対処や保 をみると気体が出ていないところがあるんで 管方法などばかり考えていましたが、人との す。やはりその電気工事の人が調べたら、コ かかわり、化学物質と代謝などについて日頃 ンセントが全部錆びていたのです。錆の原因 感じていたこともあって、研究会の会員にア は換気不十分のため実験室内にたまったガス ンケートをとりました。そうすると、例えば だったのです。その電気工事の人は「こんな 「塩素でくしゃみが出て困る」とか「本校の 状態で10年、20年やっていたらココ(頭を 化学実験室および準備室は4階にあり、非常 指さし)にくるよ」と、ちょうど施設担当の に温度が上がり通気性が悪く大変臭い。薬品 事務所の人がいる前で言われたんです。そし の数が多いのでいっ何が起こってもおかしく たらもうみんな青ざめてしまって、換気設備 ないと日々思っている」などのことが具体的 を徹底して改善しなければいけないというこ に数多くあがってきたのです。どうも私たち とで、事務所の人が行政に足を運んだのです。 の周りには臭い気体がいっぱいあって、悪臭 そのときに武器になったのが、先に述べた調 で苦しんでいる人が沢山いるのではないかと 査デー いうことで、換気扇の調査をしてみようとい のですが、やはり自分たちで化学実験室の安 うことになりました。調査の結果、例えば化 全をしっかり確かめていくことが大切なんだ 学実験室の換気扇の数は平均6カ所で、少な タです。そういうことで改善はされた という意識になりました。 いところでは2カ所、多いところでは12カ 1997年11月に労災職業病一泊学校に始め 所でした。同じ規模の学校でなぜこんなに差 ていきました。そのとき田渕先生から四塩化 があるのかと疑問に思い、健康実態と合わせ 炭素の話を聞きました。そのときちょうど四 て換気扇をもっと設置してもらう取り組みを 塩化炭素を使っていてドキッとして、これは 行うことになりました。 私たちのやっている実験の中身を1つ1つ見 化学実験室としてふさわしくないと思われ 直さなければならないという意識にかられた る学校もありました。例えば、私の学校では んです。そこで組合の専門部である実習職員 外気と空気を入れかえる窓は実験室の東側し 部で1998年11月に行われた交流会で二酸化 かないのです。だから換気扇はそこしかつけ 硫黄、硫化水素、硫懐の実験について私が健 られなくて、4つしかついていません。下方 康面からこの実験を検討した内容について話 換気もない中で実験しているという実態がわ をしたんです。私の学校では硫化水素を発生 かってきました。 させる実験で、硫化鉄15.4gと濃硫懐9.6ml −9− を使用すると硫化水素が許容濃度に達するこ ため 7.実験に関わる全ての者への白衣の支 とがわかりました。そこで、硫化水素の実験 を行うにあたっての健康キーワードをっくり 給 8,実験台、薬品室、準備室内の空気汚 ました。そして、こういうことをこれから地 道にやっていく必要があるということで、組 染検査の実施 合が中心となって一つ一つやっています。こ 9.目、のど、身体の洗浄設備 のことを今年の山口県であった全国数研で発 10.長時間、多種類の薬品と接する職員 表しました。そうしたら、出版社からこれを の健康診断 載せて欲しいという依頼があり9月号に載せ てもらいました。 「化学教育」という雑誌がありますが、そ の中である先生が、「高校の化学教育の中で 3つの欠点がある。その1つは化学物質に関 シックハウス症候群 する危険性とか、人間との関わりをきちっと (職場での実例) 教えられていないことだ。このことは将来的 労働衛生コンサルタント 原 一郎 に化学物質を取り扱っていく世代に大変不安 を感じる」と述べています。具体的な化学物 1.シックハウス症候群とは? 質の危険性(人体に与える影響)などについ 1)問題の始まり:1988年、米国EPA(環 境保護庁)のビルで100人もの職員が発症、 ては教科書にもほ′とんど上いっていいくらい 載っていません。これから追求していかなけ これが“シックビルディング症候群”との呼 ればならない課題だと思っています。 び名の始まりで、1996年には、全米のオフィ ス労働者の20∼30%が、建築物が原因の疾病 にかかっていたという。わが国では、「ビル 硫化水素の実験を行うにあたっての 管理法」によって、シックビルディングは米 健康キーワード 国と比べて少ないとされている。 2)シックハウス症候群:主として新築また 1.生徒実験台への換気装置−プッシュ は改修家屋で、室内のいろろな空気汚染物質 プル方式、鼻、口より下に設置 (ホルムアルデヒド、揮発性有機化合物、煙 2.各生徒実験台にキップの装置一必要 草の煙、犬・描からの粉塵、微生物など)に 量だけ気体を発生させるため より、頭痛、眼の痛み、気分不良などを生じ 3,ガスマスク る。化学物質過敏症との関連も考えられている。 4,ドラフトの充実と点検一生徒たちが わが国では、シックハウス症候群の職業病 十分に使える広さを持ったもの 例はないとされているが、最近厚雉労働省は、 5,下方換気装置 内装工事関連作業場の実態と従業員の健康状 6.製氷機一やけどなどの応急措置、酸、 態についての調査を始めている。 アルカリ希釈溶液作成時の熟をとる 私が最近相談を受けた3例を、次に紹介する。 −10− 姶。就労場所の真横で工事が行われており、 2.症例 症例1女性 45歳 建築業の協同組合事務 塗布薬剤の臭い・粉塵の飛散により目や喉が 痛み、皮膚には湿疹が生じ、さらに食物アレ 1999年4月27日、大阪市南部の高層ビル 11階の新設展示場(約70坪)での、受付け・ ルギーが発症した。労災請求に対し、湿疹は 案内業務に配置替えになった。このモデル建 業務上疾病、食物アレルギーは業務外となっ 物の新しい内壁、家具、デスクから強い臭気 た(発生は滋賀県であるが、大阪の診療所に が発生していた。2−3週後から頭痛、眼の も受診している)。 同人の既往症として、就労以前からアレル 刺激が生じた。その後、さらに眼の刺激・頭 ギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎等が 痛が増強、咽頭痛、吐き気などが加わった。 あり、毎年冬∼春には花粉症が出現していた。 8月上旬に、2医療機関で受診したが、対 症治療のみだったので、8月9日に府勤労者 症例3 女性 36歳 商品の企画業務 健康推進センターに電話相談。以後、同セン 2000年5月22日、リフォーム中のビルに ターで紹介された病院耳鼻科で治療継続。休 業すると症状は軽減。8月末「慢性咽頭炎、 会社が移転、事務所内のペンキ臭に酔い、吐 作業環境の影響の疑い、2週間要休業」の診断。 き気、頭痛を覚えた。その後も社内に異臭を 8月21日:現場視察(原)。8月31日: 感じ、頭痛、鼻・喉の違和感、目やになどの 作業環境測定(府立公衆衛生研究所 労働衛 症状が出現。6月に入って皮膚疹、激しい喉 生部)。結果は許容濃度が存在する25物質の の痛みなどを生じて受診。5医療機関を経て、 濃度は、いずれも産衛学会の勧告値よりもは タウンページをみて11月7日府勤労者健康 るかに低かった。しかし建築から4ケ月後の サービスセンターに相談。 労基署ならびに医療機関の紹介を受け、会 測定であるのに、一般住宅内における目標濃 度としてWHOが掲げる値と比較するとトル 社にも説明して、労災申請を行っている。 エンなど芳香族炭化水素類の濃度は目標値よ 3.まとめ りも高かった。エステル類の濃度も若干高く、 シックハウス症候群は、住宅のみでなく、 全VOC(TVOC)濃度も目標値を上回った。 新築またはリフォーム建物における就労にお 事業場の対応:7月末から自覚症状を上司 に伝え、空気清浄器の設置、通院等につき了 いても発生していること、しかし潜在してい 解を得たが、配置転換等については要望が入 る可能性が大きいことが明らかになった。 医療機関の診断は、病因である就労場所と れられず、10月上旬には頬に発疹も生じた。 の関連についての検討を行っていないため、 10月31日退職。 症候的診断にとどまっており、患者は数ケ所 労災申請も考えたが、事業場・労基署との 対応で困難を感じ、体調の関係で中途断念した。 の医療機関の診察を受けるという苦労をして いる。 症例2 女性 37歳 商店事務 「職業性シックハウス症候群」の存在に注 目し、その予防対策に務める必要がある。 1998年3月3日∼同月11日の間、新築工 事中の店舗で出店中込の書類受け付け等を開 ーーー11− 追加発言: は日本で一番海コンドライバーを組織してい 上原 裕之(シックハナスを考える会代表・ る組合として、20年以上安全問題の運動をお 歯科医) こなってきました。 海コン輸送が始まるまでの港湾物流は、本 1993年に新しい診療所を作った際に私や家 族・従業員が目や喉の症状が出たので、原因 船から(または将に一旦降ろした後)岸壁に を調べる中で農林省に問い合わせてホルムア 荷物が降ろされた後倉庫などに入れて、一般 トラックに積み替えられて国内輸送基準で荷 ルデヒドが問題であることを知ったのが私の 主まで運ばれていました。それが海コン輸送 活動の始まりです。 では、外国で荷物をコンテナに積み込み、そ 最初は被害者の救済が主な活動であったが、 やがて企業・行政も対策の必要を感じて若干 のコンテナが直接日本国内で輸送される(ド の対応が進んでおり、今はメーカー・行政・ アーツー 被害者のつなぎ役となっている。この度、阪 また1998年には、ISO規格によるフル積載 大・関西医大・建築技師会などが共同して、 での国内輸送が始まっています。 ドア)ことが一番大きな問題です。 日本で一般トラック輸送の規制は高さが3.8 シックハウス問題の疫学調査をすることにな り、成果が期待される。(最近の行政・教育 m、軸重は10トンでありましたが、国際間 現場などでの動きについても詳しく紹介され で動く海上コンテナの現状は高さが4.2m、 たが、紙面の都合で割愛する) 軸重が11.5トン以上あり、国内法に当てはま らず、規制緩和と特例措置で安全を無視し運 行させてきました。それ以外に日本では、有 害危険物輸送についての安全輸送について、 国際海上コンテナ輸送の 安全輸送について 海上・航空輸送においては国連勧告を批准し 遵守していますが、陸上輸送については勧告 全港湾関西地方阪神支部 労災職業病対策委員会 事務局長 中山 寛治郎 発行以来40年以上経過しているのに未だ批 准していません。 このことにより、陸上での有害危険物輸送 日本の国際貿易に関する海上輸送は、国際 について現在多くの問題が発生しています。 複合一貫輸送として1966年に導入された国 その中でも、海上コンテナ(ドライコンテナ) 際海上コンテナ(以下海コン)方式が、現在 での有害危険物表示が、コンテナ船から日本 では海上輸出入量の95%以上を占めています。 の岸壁に下ろされたときワザワザ外され、国 在来船時代から見れば荷役の機械化により、 内輸送ではコンテナに表示せず運ばれていま 荷役の人手が大幅に減少され、時間も大幅に す。(専用タンクコンテナで輸送される場合 短縮しました。 は表示と規制があります) また、貿易に関する通関手続きをはじめ、 このように、日本での海上コンテナ輸送に 安全審査も簡素化され作業と食品についての おける安全問題が、法整備の不備から大きな 安全問題が発生しています。その中で、海コ 問題となっています。但し、問題にしている ン輸送の安全問題について、全港湾阪神支部 中心団体は、労働組合である全港湾阪神支部 ー12− です。 の荷物が爆発する事故が発生する。 「日本で起きている海コン輸送における安全 (3)一般コンテナでの有害危険物輸送におい 問題については」 て日本の国内法では、二重梱包での輸送 (1)海上コンテナの重量規制が守られずに では、有害危険物について表示義務を解 (特に東南アジアからのコンテナ)日本 除しているために、横転事故等が発生し に輸入され輸送されることでの事故。 ても中身が分からず、消火及び中和方法 ①港での荷役中コンテナの底が破れJ中 がわからない。 の荷物が落下する。 ②陸上輸送中に重量オーバー ①コンテナ内に積まれたドラム缶入りの によるブレー 黄燐が水が漏れて走行中自然発火した キの効き悪く、交通事故が発生する。 が、ドライバー も中身知らないので消 防署は、消火作業できず自然消火する ③日本の国内法である軸垂違反が多く発 生している。 まで何もできなかった。 ②組合独自の運動で、有害危険物輸送に (2)コンテナ内の荷物の積み付け不備による おけるイエローカードの配布運動を行っ 事故。 てきたが、強制規制がないので実施率 (彰コンテナ内の重量バランスが悪く、横 が悪い。 転事故が多発している。中には、相手 以上の3項目についての安全対策のために、 を死亡させる最悪の事故も発生してい る(重量も原因している時あり)。 全港湾は関係行政に対して(主に国土交通省) 全港湾阪神支部が中心に調べた海上コ 海コン安全運送法の制定を要求してたたかっ ンテナ横転事故は、1989年から今年1 ています。 月までで、74件起きています。実際に はこの倍以上の件数が発生しているも ◎仮称・「海上コンテナ安全運送法」による規制 のと思われる。 1.コンテナへの荷物の重量証明書の発行 2.コンテナへの荷物の積み付け証明書の発 ②コンテナの荷物を出すために、ドアー を開けたところ荷物が飛び出し、それ 行 3.コンテナによる有害危険物輸送の表示と による作業員の死亡事故 ③医療廃棄物を違法に外国へ輸出する。 規制 ④コンテナ船が海上輸送中に中身の有害 危険物が漏れ出し、緊急避難で日本国 今年度はこの運動について全国闘争に位置 内の外貿岸壁に降ろしたが、そのコン づけ、業者の団体や全国港湾・交運共闘・交 テナの積み付け不備に対する罰則がな 運労協を巻き込み署名活動やマスコミと共同 く、日本企業負担で、中和焼却処理す しての宣伝活動を旺盛に行い、制定を求めて る事故発生。 いきます。 ⑤港で一般コンテナ荷役中、コンテナ内 −13− 闘いつづけて手にした労災認定 1.過労死したトラック運転手の遺族が 損害賠償命令を勝ちとる 一大阪地裁で2001年2月− (1)経過と勝訴の意義 編 集 部 2001年2月19日、長い困難な道のりを経 ら、スーパーダイ エーの食品配送業務に変更 て、西原松子さん、真弓さん、真一さん母子 になり、時間外労働時間は一目当たり3時間 は西原道保さんの過労死認定を勝ち取り、名 半へと減少したが、トラックが2トン車から 糖運輸は大阪地裁から約4600万円の損害賠 4トン車に変わり、コースも全く異なったた 償支払いを命じられた。堺労基署における不 めかえって精神的なストレスは増大した。 支給決定取り消しの判決が下された昨年1月 2月23日朝(気温0.8℃)勤務中運転席で に引き続いての勝利である。 意識不明で倒れて亡くなった。当時46歳、 西原道保さんは1973年9月、名糖運輸に 急性心不全であった。 妻の松子さんが遺族補償給付等の請求をし トラック運転手として入社し、スーパーへの 配送業務に従事した。西原さんの労働時間は たが、堺労基署は4年余りも放置したあげく 午前4時半から午後5時ないし6時ごろまで、 1995年9月不支給と決定した。大阪労基局に 拘束時間は13−14時間にもなり、一目平均 審査請求したが2年余後に申請は棄却された。 4時間も残業した。各店舗への配送量は店に 松子さんは再審査請求する一方で大阪地裁 よって異なったが一日約480ケース(重さは に行政訴訟と損害賠償を提起して裁判を闘っ 約7200kg)をトラックに手作業で積み込み、 て来た。 各店舗ではカート車で運んだ。配送量の多い 2000年1月、松子さんは先ず行政訴訟で勝 店舗では120ケースもあった。 訴したが、国・労基署側がこれを不服として 西原さんは有給休暇を1989年7月に2日 控訴した。松子さんは大阪高裁で係争しなが 取得したのみで、欠勤は4年間ゼロ、毎日2 ら、今回大阪地裁での民事訴訟に勝利した。 ∼3日の休日出勤をしていた。 判決は自動車の運転はもともと精神的緊張 西原さんは1991年1月中ごろよりめまい をともなううえ、道保さんの勤務時間が7年 や不整脈を訴え、同年’2月6日には医師の診 以上の長期間にわたり、▲早朝から夕刻まで1 察を受け、薬を飲みながら仕事を続けていた。 日13時間を超え、配送時間を厳守し、合計 西原さんは被災直前の1991年3月20日か 3トン以上の牛乳バックケースを積み降ろさ −14− なければならないなど労働密度は高く、この たとして、損害賠償義務を負うとした。 ような勤務の継続が精神的身体的に負担とな 被告が道保さんのサービス残業(年間約40 り、蓄積され、慢性的な疲労をもたらしたこ 万円)を認めたので、サービス残業分が逸失 と、さらに、このような過重な労働が続いた 利益算定の基礎に加えられたことの意義は大 たにもかかわらず、1カ月に3日程度の休日 きく、また、長時間・過密労働が常態となっ しかとらず、無遅刻・無早退を4年以上続け ているこの業界に警鐘を鳴らした意義も大き ており、疲労の蓄積は免れず、死亡4日前に い。しかし、自己保健義務と証拠に基づかな 就いた新業務は従前より軽減されたものの、 い喫煙本数の認定を理由に、20%もの寄与度 運転車両や運送方法の変更などの業務環境の 減額を行ったことは極めて不当である。 変化で相当の精神的ストレスがあったとし、 会社側がこの判決を不服として控訴したた 道保さんの冠動脈硬化を著しく促進し、急性 め、今後は行政、民事両裁判が大阪高裁で争 心筋梗塞を発症させた結果死亡したと認めた。 われることとなった。 運動面など詳細については本誌158号 そして、会社が道保さんの業務が過重であっ (2000.3.1)、159号(2000.5.けを参照されたい。 たことを容易に認識し得たのに、健康を損な うことがないように注意する義務の違反があっ (2)遺族の思い 夕方の6時から7時と長時間の勤務でした。 くやしさをバネに闘いつづけて 入社した頃は、月に1∼2度しか休みも無く 私達には子供が二人おりますが、ほとんど学 西原 松子 みぞれの降る寒い朝でした。電話が鳴って、 校行事には行けず母子家庭のようなものでし 受話器を取れば会社の方で、ビックリし、直 た。会社も従業員の人が少ないため、休みは 感で夫に何かあったのでは……と。 交代制で、なかなか取れずやっと休みになっ もともと夫は紳士服の技術者でした。昭和 たと、喜んで帰って来た時の様子が忘れられ 50年代に繊維関係が不況になり、その関係の ない、それ程休みを待っていたのです。でも 仕事が無いため車の仕事に転職したのです。 朝の早くから電話がかかってきて、「欠勤が 出たから、出てくれないか」と、上司から頼 生活して行くのには、あれこれと言ってい られなかったのです。昭和58年に名糖運輸 まれ、「今日は勘弁してよ」と言ってまこした。 ㈱に入社し堺営業所で、平成3年迄約8年勤 何度も言っているうちに、断りきれず「やっ 務の中での……。会社での就業規則には、誠 ぱり行ってくるわ」と、しぶしぶ出かけたこ に良い様に苦いてありますが、それが守られ とも何度かありました。 仕事の内容も牛乳など水物ですから、重た ていないのがはとんどと言ってもよいと思い ます。残念なことです。夫は夜が明ける前の く一箱に何本も入っているケースを重ね、上 午前4時すぎに家を出かけ、帰宅は、いつも げ下げし運び、その上運転もするという大変 −15− な仕事で、店への時間も守らなければならな 方達と話し合い、支え合い、色々な方達がお いのです。 られます。終わられた方達に相談し、助言を いただき、頑張っております。支援して下さ ある日、支援の会の藤垣氏に、奈良の王子 コース(夫の走っていた場所)へ行ってもら る皆さん傍聴に釆ていただくことが原告にし いました。長時間かかり、曲がったり、坂に ては、どんなにか力強いことです。本当に元 なったり、混んでいるところもあり、色々と 気が出ます。ありがとうございます。 大変、そんな所を毎日通っていた夫がかわい 西原の事件は、行政と民事の二つの裁判を そうで私の思いは辛かったです。私は荷物を しているためとても大変です。弁護士の先生 運んだりするわけでもないのに、疲れて気分 方も本当に大変だと思います。そして支援の が悪くなりそうで、藤垣氏に申し訳なく思い 組合のみなさま、個人のみなさまへ感謝して ました。 おります。 名糖の会社も、従業員の健康管理から、安 今回の民事裁判の判決も、どうなるかと前 全配慮などを守うて会社の利益ばかり考えず、 夜も眠れずに考えておりました。でもみなさ 労働者への思いやりがあればまた違っていた ま方のご支援で勝訴出来ました。嬉しかった と思う。企業とは冷たいものです。 です。でも減額された意味が、タバコの事と、 夫もせっかくこの世に生まれて、46歳で他 病院に行ってなかったと言われていますが、 界し、生き残った私達はくや・しさでいっぱい 夫は病院に行って薬を飲みながらの勤務をし です。 てたのです。会社も働く人が少ないため、休 会社に新しい人が入っても、大変だから、 みもとれず無理をして働かせていたのです。 2∼3日働いてす’ぐに辞めてしまうので、仕 もういくら言っても夫は帰って来るわけでな 事を教えても、教えてもとても残念がってい いし、思えばむなしくて、悲しいです。 また会社の内部のずさんさもはっきりして ました。私は夫に「仕事変わったら」とも言 いました。でも夫は「人が足らない時に辞め たのに控訴しました。こちらも控訴して、こ るのはしのびない」と言いました。そんなに れから高裁で頑張って行くことになりました。 まで会社のためを思い働いていたのに、こん 力の強い者ばかりがのさばって、こんなん な状態になっても会社は冷たいもので、代わ でよいでしょうか。腹がたってたまりません。 今の現状リストラで解雇された方達、また りはいくらでもいる。商品の使い捨てのよう に。過去を振り返り、何度考えてもくやしく 残って過重労働されてる方達にも、過労死が 残念でなりません。 出ないために企業への改善を望みたい一心で す。私も一審では行政も民事も勝訴させて頂 弁護士の先生方の調査、医学的な事で東先 生と、同僚の中村氏、小谷氏と、そして支援 きましたが、まだ完全勝利でないので、それ して頂く労働組合の方々、友人知人とお世話 まで頑張ります。今闘っている方達も一緒に になり、裁判していくのは大変なこと、何も 勝利へと……。皆さんよろしくお願い致しま 見えない暗闇の中を一歩ずっ進んで、その度 す。 胸が苦しいのです。 今闘っている方々、家族の会のメンバーの −16一 の父の会社は、川の近くにありました。何か 夢で会う父 の配送業務の会社でしたが、今でも父は働い 西原 マユ三 ているようです…… 体とは、出来る事の範囲がある。それは誰 (笑)この夢を見るまで は、体が大きく思っていた父も、助手席で小 でも分かっていることなのに、その基本を無 さく見えました。 視するということが出来るのは、人間の姿を この話を母にしたところ、父は背が低い方 した悪魔としか私には見えない。 で、生前働いていた会社は、川の近くにある 日々進化、便利化していく中で、働き過ぎ ということを私は知りました。少し不思議な で死に至るというような職場がある以上、本 感覚でしたが、小5の時に別れたままの父に、 当の進化=成長した社会とは言えない。 21歳になってやっと再会できました。これま で10年かかったのは、何か大きな意がある ー夢の話一 のだと私は思います。 最近まで、父の夢を見ても、父は寝てばか りで、時代背景も当時のままでしたが、近頃 一訴えについて− になり、不思議な父の夢を見ました。その内 この訴えは、私達の声であり、父の声であ 容は、父が5分後に会社に入らないといけな る。亡くなってしまった者は訴える事は出来 いのに、まだ寝ていて、私が「お父さん、早 ないけど、私達は訴える事が出来る。一人の く行かな会社に遅れるで〝」と言いました。 一般市民が亡くなったことで、この社会は変 そしたら父は、笑いながら「そんなお前の年 わらないけれど、父の死のことを知った人達 で、免許なんか持ってるわけないやんか」と がたくさん集まっていけば、いずれ社会は好 言いました。私は「お父さんが寝ている間に、 転する!と信じている。 免許も取って、革もあるねんで」と言い、父 (西原の件だけでなく、同じく闘っている皆 さんも同じに。) を助手席に乗せ、会社まで送って行きました (当時の父は、車があったのですが……)。そ 2.32年間のコンベアー労働の過酷さ認められた! 一松下電器・元定時社員・清藤ユキエさん 頸肩腕障害で労災認定勝ち取る一 松下働く者の健康を守る会 松 本 明 子 「業務外の病気」とした決定を取り消しました。 はじめに 3月14日 大阪労働者災害補償保険審査 清藤さんは、1968年、松下電器産業株式会 官(大阪労働基準局)は、松下電器産業株式 社にパートタイマーとして入社し、コンベアー 会社の元・定時社員・清藤ユキエさん(61歳) で、自動車に搭載するラジオカセットなどの の「頸肩腕障害」を「業務上」の病気と認定 組み立て、ハンダ付け作業など、32年間働い し、昨年7月、北大阪労働基準監督署が、 てきました。 −17− 「清藤さんの労災認定を支援する会」の 1997年ごろより、腕の肘や、手首がはれだ 結成。審査官・鑑定医の前で作業を再現 し、拓きのため、家に帰っては、氷で冷やし 清藤さんは2000年9月決定を不服として たり、健康管理室で湿布をもらったり、通院 異議申請しました。 したりしながら働いてきました。 60歳を目前にして、身体中の激痛で夜も眠 清藤さんの労災認定を支援する会を結成し、 れないだるさとしびれ、痺きに神経もおかし 門真市職員労働組合の西浦誓児委員長を会長 くなる日々となり、99年11月、西淀病院に に選出、必ず認定を勝ち取るために、2000年 受診し」「頸肩腕障害・腰痛症」(主治医・田 10月26日に支援する会総会をもちました。 尻俊一郎医師)と診断され、休業加療にはい 1 団体署名・個人署名に取り組むこと りました。 2 会員を増やし、運動を広げること 3 作業の過酷さを、さらにわかりやすく表 99年12月、松下働く者の健康を守る会、 大阪労災職業病対策連絡会、北河内労災職業 現し、審査官にも、仲間にもわかっても 病対策連絡会、大阪労連・北河内地区協議会、 らうため努力する。 4 発病時期などについて、もう1度、よく 電機労働者懇談会等の支援をうけて、労災申 よく思い出し、資料を提出する。 請しました。 2000年2月、北大阪労働基準監督署が、松 などの意見が出されました。 仲間たちは、中古自動車屋を訪ね、メカを 下の職場へ立入り調査に入り、安全衛生課が、 清藤さんの作業のうち次の2点について改善 探し回りました。 電気ドライバー(4万3千円)、片手ハン するように文書で指導しました。 1 ピンチローラーのはめ込み作業は過酷で ダ鐘(6千円)など、清藤さんが当時使って あり、人員を増やすこと。 いたものと全く同じものを購入し、作業をデ 2 片手ハンダ鐘は、重く手の負担がきつい ジタルカメラで撮影しました。 290gの片手半田送りハンダ鐘を右手に持 ので、使用をやめること。 このような指導をしながらも、北大阪労働 ち、390gのメカを、左手に腕を苗に浮かし 基準監督署は、 て支え持ち、2ミリの間隔ででている2本の 1「発病前、生産台数が半分になっている」 端子にリード線をハンダ付けをする作業。首 (これは監督署の事実誤認であることは審査 を90度近く折り曲げ、息を詰めて行う作業 官の調査でも判明。午前中は前半の作業、午 です。 後は後半の作業をするバッチ生産という生産 カラーのデジタル画像は清藤さんの作業を 方法。申請以来、幾度も説明したが誤認のま はっきりと写しだしました。 (北大阪労働基準監督署が、審査官に提−Iiし ま) 2 「加齢によるもの」 た写真は、本人ではなく、改善後に他の作業 として不当にも「業務外」の決定を下したの 者を写したものであることが判明したのです) でした。 また、審査官の聴取の時、道具一式を持っ ていき、作業を再現しました。 審査官に、ピンセットとハンダ鍵を同時に −18− もって働くこと、ピンチローラーのバネ掛け ③長年、手、指の繰り返し作業であったこと。 作業の指先の負担など実際に感じてもらいた などが明確た認定されてしJます。 かったのです。審査官も作業をしてください 定年後も症状で苦しんでいる仲間が多い! ました。 あきらめずに闘うこことの大切さ 2月7日、鑑定医に受診する時も工具一式 桧下では、23名の仲間が「頸肩腕障害」で を持ち込み、「できるなら、私の作業を見て 認定を勝ち取っていますが、認定闘争は、ど はしい」と頼み、「診察机の狭いところでよ の人の場合も、会社の非情な攻撃との闘いで ければ」と許可され、作業をさせてもらいま した。 今回も、中古自動車屋を回った仲間、勇気 した。こうして、1年3ケ月かけて、労災認 定を勝ち取ったのでした。 を奮って証言してくれた仲間、お正月も、早 めに切り上げ資料を作った仲間、署名をこっ 大阪の多くの働く仲間から、地域の仲間か ら、北海道の空知の国労の仲間から、東京の こつ集めてくれた仲間にささえられてがんばっ 電機労働者から、松下の職場から、1万を越 た結果です。 す個人署名と、304団体からの団体署名が集 清藤ユキエさんは、「入社以来、32年間、 まり、大阪労働基準局に届けました。 コンベアーで、一日中、片時もピンセットを 離さず、ハンダ付けや、バネ掛け作業など必 6万字を越す決定書 死でやってきました。50歳の時、退職を強要 「1年契約で働くことの苦しみと、生産に され、仲間とともに、雇用を守ってはしいと 運動もしました。60歳を前に身体中の痛み、 追われる日々の積み重ねが原因」と断定 3月15日清藤さんのもとに、「業務上」認 肩や肘の腫れと捲きで眠れず苦しんできまし た。全国から、署名をいただき本当にありが 定する決定書が届きました。 66ページ(6万字を越す)にわたる決定書 とうございました。これから健康を取り戻し、 には、清藤さんの作業内容、作業日数、会社 前向きに生きていこうと思います。」といっ の主張と本人の主張、労災申請に対する本人 ています。 の切実な思いなど、当事者が、提出した資料 会社に対する補償と、職業病を出さない職 場にするための、運動に力を合わせて取り組 を丹念に読み、整理されて記されていました。 「業務上」と認定した理由として、 みたいと思っています。 ①一年毎の契約更新を条件とする定時社員の 活藤さケは、50歳以降、会社から退職を強 要され、失職の不安と、加齢による体力の 減退のために、作業負荷が相対的に増すた めの桓状発現に苦しんできたこと。 ②自動機のトラブルなどで、ぎっしりと並ぶ メカを作業時間内にこなさなければならな かった精神、肉体的負担があったこと。 一19− 一人の勇気ある聞いが過労死を防ぐ 大阪証券労働組合 A生 会社合併のスタートはコンピュータから? 黙っていたり我慢してはダメ 私は、社長との個人面談でこの実態の改善 昨年4月、合併により資本金1251億円、 従業員7500人、店舗数99と大手三社につぐ を訴えましたが、社長が慰労会で大阪にくる 証券会社が誕生しました。 2週間後までは変化なく過ぎました。 そこで再度役員室へいき改善の要請を行う 証券会社の合併は、コンピュータの統合が とともに、勤務実態の一覧表を提出しました。 重要な課題となり、コンピュータ部門の仕事 それからの会社の対応は早く、アリナミン 量の増大は避けられません。 等の疲労回復剤を配ったり、人員増(派遣社 合併時は最小限の暫定統合システムでスター 員4名・東京からの支援)を進めてきました。 トし、一次、二次、三次と進め統合が完了し ました。この間コンピュータ関連会社は東京 に集中することに決定し、とりあえず運用部 改善された結果 その結果、本年1月は徹夜日数14日、休 門のみ大阪に残し仕事をすすめてきました。 日出勤72日中21日、振替休日23日と大幅 に改善されました。 業務量の増大をこなす ムチャクチャな労働実態 職場では、「振休がとれ身体が楽になった」 合併によるデータ量は約2.5倍化し、統合 と喜びの声があがっています。 私は一人でも、大阪証券労組の組合員であ へのテストはオンライン業務終了後に行われ るため徹夜や残業が増大していきました。た り、法律違反に対しては一人でも闘えるとい とえば昨年10月、6名の労働者の徹夜目数 うことを実証したと思っています。 は27日、休日出勤は60日中40日にもなり、 私の集めたデータを大阪職対連の川野氏が しかも振替休日は1日のみという実態でした。 表とグラフにまとめてくれましたので以下に 示します。 1拘束時聞 H12.10 A珪 366.29 8氏 341.30 氏 380.35 H13.1 211.37 19¢.21 り4.3¢ D氏 366.39 208.00 邑医 385.3丁 t3l.10 F氏 ヰ24.36 337.18 計 22仙06 ほ58.2 ー20一 2徹夜回数 H12.10 A氏 2 B氏 4 C氏 D氏 2 5 2 4 3’ E氏 5 F氏 H13.1 2 ヰ 8 合計 ‘ I 3休日日数く振替体8を含む) H12.10 A氏 4 H13.1 12 15 8氏 8 C氏 4 IO D氏 2 12 E氏 5 り ○ F氏 9 ;l 合計 小腹替取得日赦 H12.10 H13.1 A氏 0 B氏 C氏 氏 E氏 F氏 合計 3 6 1 0 ヰ 0 3 0 5 ○ 1 2 23 5休日出勤数 H12.10 H13.1 A氏 8 ユ B氏 5 3 C氏 8 2 D丘 3 E氏 5 F氏 10 合計 ヰ0 5 5 2l 昨年tO月の各人推定時間割り当て 拘束時間 睡眠時間 自由時間 A氏 13.50 8 2.叫 B氏 lヰ.05 8 2.35 C氏 14.08 8 2.32 D氏 12.¢3 8 3.37 E氏 lヰ.05 8 2.35 8 2.32 F氏 1ヰ.08 上記時間割は単純にはめたものである。対掛ま深夜脾宅が多く睡眠■時間はもっと短いと思われる。通勤時間は含まず 今年l月の各人一日の時間割り当て(推定) 拘束時聞 睡眠時間 自由時間 A氏 1l.12 8 4.88 B氏 12.28 8 3.74 8 8.83 8 4.70 8 9.45 8 l=35 C氏 D氏 9.t7 11.30 E氏 ¢.55 F氏 †4,85 ー22− 20世紀から21世紀へ 一働く人のいのちと健康とりくみの課題一 労働医学研究所名誉所長 細 川 2000年 汀 さ10m)が爆発し、作業員4人が死亡し、 ①1999年9月のJCO臨界事故で死亡した2 住民27人がけがをした。住民は工場閉鎖 人の社員の労災が認められた(1月)。茨 を要望しているが、会社は再操業の準備を 城県警はJCOの幹部6人を逮捕したが、 すすめている(6月)。また、愛知武豊町 国の事故対策会議は解散、原子力委員会も の火薬工場も爆発、住民50人がけがをし 再開、国の原子力対策はほとんど変わらな た(8月)。日本油脂工場でも爆発があり、 かった。当日の被爆者も150人と発表され 住民にPTSDの症状が認められた。 たが、実は500人をこえると見られる。 ⑤大手乳製品メーカー雪印乳業の大樹工場で ②東京目黒区の営団地下鉄日比谷線で下り電 停電により黄色ブドー状球菌が増殖、その 車の最後尾車輌が脱線し反対線の上り電車 毒素を含む加工乳が大阪工場などで作られ と衝突、大破、乗客4人死亡35人重軽傷。 て販売、多数の食中毒患者を発生した。優 原因はカーブの安全設備節約、電車の軽量 良加工HACCPの認定のひきかえに食品衛 化、過密ラッシュと人不足、点検不良によ 生管理者の設置義務を外すなど、安全対策 るものであった(3月)。12月京福電鉄越 の手抜きが多くみられた(7月)。三菱自 前本線の、26人死傷した電車同士の正面衝 動車の会社ぐるみ」長期の欠陥と事故隠し 突は、ブレーキロットの疲労破壊と点検不 もまた規制緩和、国際競争の嵐の中で計画 良(人べらしによる)のせいだった。国労 的に行われていた。 大阪は黒書を発表して危険の増大を訴えた。 ⑥伊王島や嘉穏炭鉱でじん肺になった24人 (5人死亡)の日鉄鉱業じん肺全国訴訟の ③最高裁は広告代理店「電通」の上告審判決 控訴審をはじめ、全国の22訴訟がすすみ、 で、若手社員の超長時間過密労働の負担を 軽くする措置をとらなかった会社の責任を トンネルじん肺訴訟でもゼネコンとの和解 認定し、彼の自殺は過労によるうつ病に伴 成立の方向に進んでいる。労働省も予防指 う自殺とした(3月)。この年自殺の認定 針(12月)を出したが、法的拘束力がなく、 申請が増加(HlO年の3.7倍)した。また、 実効性があるかまだ分からない。 ⑦リストラ、配転出向、しめっけや差別、ノ 厚生省係長(4月)、広島オタフクソース (5月)、日立造船(5月)、水島製鉄所 ルマや能力査定、IT化などによる労働者の (10月)らの件も労災と認められた。 精神障害や自殺が急増しているため、労働 ④群馬尾島町の化学薬品メーカーの工場で、 省はメンタルヘルス対策報告書にもとづき 労働者のチェックや住民の不満を無視して 「心の健康づくり」指針を発表した(6月)。 操業したヒドロキシルアミンの蒸留塔(高 しかし、本人の自∴己責任とする傾向が強い −23一 ので要注意。セクハラもノック問題やアカ OSHAは人間工学計画基準を決定した)。 デミックハラスメントが社会問題化した。 労働者・労働組合が奮起するかどうか、い また欧米ではIT化の進行に伴う「うつ桓 のちと健康を守る人間としての最大の権利 状」の増加の調査を行い、その対策の重要 が問われている。 なことを喚起している。 30年まえ政府と「労基法研」の労働安全衛 ⑧高濃度のダイオキシン汚染が問題になった 大阪府能勢町のごみ処理施設の労働者が健 生法案に反対する集会を開いた大阪の労働者 康障害を訴えて国などに5億3000万円の が本格的な労基法・労案法改正に立ち上がる 損害補償を訴えた(1月)。淀川労基署は ときである。 がんや皮膚炎の二人の労災認定申請を業務 2001年 外とした(3月)。解体作業者の血液から も高濃度のダイオキシンが認められている。 ①京大病院点滴薬取り違えと虚偽診断書で看 ⑨1999年の横浜市大患者とりちがえ事件以後、 護婦7人書類送検(1月)。問題を起こし 「医療事故」が社会問題化している。96∼ 対策を取ったはずの横浜市大病院やその他 98年で全国のエイズ拠点病院で医師・看護 の大病院でも医療災害が多発。国立大学病 婦の針刺し事故が15000件あり、28人のC 院の看護職員の医療「ニアミス」経験者93 型肝炎感染が報告された。しかし病院の %、看護詰め所が留守が多い(28.5%しば 「災害かくし」の姿勢は強く、実態はなか しば、40.2%時々)、注射薬のチェックして なか分からない。医師・看護婦の絶対数不 いる28%(いない22%、時々40%)、パニッ 足と過重・過密労働、夜勤・交代制、相互 ク「よくある」16%、「時々」44%、「いっ 関係の欠如、入院期間の短縮、技術の複雑・ も疲れている」28.8%(全大教調査)。被害 危険化、安全予防体制の欠如などが原因の を受けている人は交通事故の死亡者よりも ものが多い。堺ではセラチア菌の院内感染 多いと言われている。厚労省もおくればせ 事件が発生した。 ながら「安全対策室」を作った(2月)。 ②1月31日日航907便が同958便とわずか ⑲1日拘束13時間、休日月3日のトラック 運転手の過労死や、東大阪市保母さんの頚 10mの間隔ですれ違った事故は「管制官の 腕症をはじめ関西でも数多くの認定を勝ち 便名の言い間違えが直接原因とされたが、 取った。このため労働省も2001年には3 過密の航路、いっくかのレーダー 度目の認定基準改正を余儀なくされている。 報装置、まかされた選択のはぎまに立った しかし、大手の企業の労使、資本家団体、 、接近警 管制官と両機の機長がパニックに陥ったた 基金は依然としてわが国の労働安全衛生、 めと思われる。コンピュータ化、高速化、 労働条件、職場環境の改善にとりくまず、 効率化が生んだ問題と言える。原因調査よ むしろこれらをリストラによって低下させ り犯罪調査が優先していることも問題であ ている。このため欧米との格差もいよいよ る(医療も同じ)。 大きくなっている(12月、EUはけいわん・ ③堺小学校鈴木先生の過労死の裁判は敗訴 (2/5)、教師の多忙は平常範囲、負担と 腰痛・振動障害予防の指令の作成にかかり、 −24− 健康状態は「話半分程度」、発症原因は治 差別などについては排除している。これは 療を怠った糖尿病などのせいというものだっ ILO、ISO、EUなどの世界的な動きや水 た。京都小学校内藤先生の控訴審は勝訴、 準と逆行し、労基法さえふみにじるもので 過重・過密の仕事(持ち帰り、精神的スト ある。労働組合の取り組みがなければJCO レスを含む)、高校長の叱咤激励(援助な 事故をはじめ安全を守ることは出来ない。 し)、過労状態の放置によるものとの判断 ⑥今国会に「個人情報保護基本法」の上程が で、教委、校長、基金の責任を明確に指摘 準備され、各方面で論議を呼んでいる。労 した。また、99年度中病気休職教員(公立) 働者の健康管理については、健診や人間ドッ 中精神疾患が43%を占め、最多20年前の クなどの情報が雇用、配転、解雇などに利 2倍以上になっている。文科省はさらに、 用されており、そのことがかくされている 新指導要領、校長中心「不適応教員」排除、 実態が少ないことである。最近はHIV抗 教務評価制、奉仕活動強制、「通学停止」 体、B型肝炎抗体陽性者、心身障害などの などを打ち出している。 解雇や一方的配転例が報告されている。 ④ハワイオアフ島沖で宇和島水産高校の実習 逆に夜勤交代制の不通性や職場復帰訓練の 船が民間人への急浮上「ショー」をしてい ように、労働者の健康情報が生かされなけ た米国原子力潜水艦によって沈没。9人が ればならないケースも多いし、集団的デー 死亡1人が負傷した(乗組員34人)。死亡 タの推移を予防対策に利用する必要もある。 者の5人は教職員と実習生。米軍の「かく これらの問題について「基本法」制定を機 し」と独自の捜査のため原因と責任は不明 会に考える必要がある。 確。森首相のゴルフ続行に見られるアメリ ⑦事業者は仕事上の事故や病気を労基署に届 カへの弱腰姿勢は更に拍車をかけている。 けず、被災者は労災を使えず健保や自己負 沖縄での米兵の不法行為も重なり、全国で 担で治療したうえ、解雇されたり、障害が もさまざまな被害がふえつつある。またア 残り死に至ることもある。その原因は企業 スベスト被害やウラン劣化弾被害もある。 内の無災害運動や下請・孫請が契約取消し これらに対する取り組みが必要である。 を恐れるためである。それによって厚生労 ⑤2001年の日経連「労問研」報告は、これか 働省はデタラメの死傷統計や労災統計を発 らの労使の話し合い事項として賃金、雇用、 表して実態と称し、企業は災害原因の追及 ボーナス、退職金、福利厚生、職場環境、 や予防・補償対策を免れている。これが労 配転、教育訓練、生産性の向上をあげてい 災隠しであり、どこでもまかり通っている。 る。労働者のいのちと健康、権利と幸福に 元請でも公共工事などでは行政からかすく 関する労働条件、すなわち労働時間、夜勤、 ことも多い。社会保険庁の調査で、労災扱 交替制、休憩、休息、休日、.過密・過重労 いとすべきものを過去10年で約585件見 働、ノルマ、裁量労働、作業姿勢、安全衛 つけた。これは40億円の自己負担(治療 生、メンタルヘルス、病弱∼障害者対策、 費の20%)を要していたことになる。しか 女子労働と育児休暇、教育休暇、パート・ もこれは健保だけで、小零細やパートなど 派遣労働、労災補償、職場復帰、セクハラ、 が加入している国保ではもっとあるだろう。 −25− またけいわんや腰痛ははとんどが認定され 「労働安全衛生マネジメント」に固執して ていないといってよい。この「かくし」体 いるから、外国との格差は縮まらないであ 質を打ち破り、泣き寝入りする労働者をな ろう。日本の労働者は、職場の労働安全衛 くする運動がいまもっとも求められている。 生(規模、基盤、活動のすべてに)の実態 「110番」「相談窓口」組織化などの活動が (体制と権利、・計画と予算、実践と評価・ 重要。 監督)を再評価するとともに、(1)官庁統 計の是正のための作業と疫学、(2)災害・ ⑧政府の「IT革命」と企業内のコンピュータ 化の促進によって、労働の効率化、能力主 労災隠しの是正、(3)小零細・官庁・ヒュー 義化、過密化、拘束化はいっそう進んでい マン労働・パート・派遣・季節・外国人労 る。「規制緩和」と「グローバリゼーショ 働者の対策、(4)過密・長時間労働や過労死・ ン」(国際競争)を錦の御旗にした「合理 自殺を生み出している日本的生産システム 化」は止まるところを知らない。 の是正、などに取り組み必要がある。 厚労省は6月、VDT指針を改正しようと しているが、その実効性は労働者・労働組 労働者のもっとも強い要求だった「サービ 合が専門的チェック機能をつけることがで ス残業の解消」について厚労省は4月初め通 きなければ期待できない。そのための系統 達を出した。通達は、「使用者が割増賃金の 的計画的学習体制専門家の協力援助、教育 未払いや過重な長時間労働」をなくすよう 休暇制度の確立と利用、法行政の労働科学 「労働時間を管理する責務がある」ことを認 の尊重、大学研究所の専門分野の拡大など め、①始業・終業時刻を確認・記録(本人か が必要であろう。 らも確認)する、②自己申告を正直にしても ⑨堺市内クリーニング工場のプレス作業中、 ボーナス・昇進に影響させない、労働者や組 右腕切断の大けがをした知的障害者の民事 合が指摘したら台帳を閲覧させること、申請 裁判で2月28日大阪地裁は、会社と機械 の上限規制をしないこと、③残業時問の削減 修理業者に4376万円の支払いを命じた。 や手当の定額払いなどを見直すこと、が書か 障害者の雇用・安全衛生・疲労・ストレス れている。労働者はこれをよりどころにし、 対策などいっそうの安全衛生の注意義務が 賃金・時短・権利など労働条件全体の改善や あるのに、対策が遅れている。二次・三次 過労死防止の運動を強めなければならない。 障害対策を含めて(VDTなども)行政側 へも取り組みを必要としている。もっと 積極的連帯を。⑲2001年6月ILO・OHSM Sガイドライン草案の概要が示される予定 だが、(1)災害疾病の減少、(2)安全文化の 構築、(3)企業イメージの向上、(4)生産性 の向上、に役立っものとされ、方針・計画・ 評価・見直しの手法が示される。しかし日 本政府はあくまで安衛法とその水準下の 一26一 こんをんごと′易んをんごと(41) 酬ホSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS呑SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS呑SSSSSSSSS 回転寿司店 酬 パート・アルバイト労働研究会 1.はじめに する。結果的に、作業者は激しく移動するこ 回転寿司店のバイトである。回転寿司形式 とを余儀なくされる。 は、米国へ輸出されただけではなく、欧州に 作業場に入った時点で、社員から担当作業 おいても見られ、今や世界的規模で展開をは が指示される。製造作業については、製造場 じめている。日本食をヘルシーな健康食とし 所が第1∼3と3つに分かれており(図1参 てとらえる風潮にのり、地球的規模の展開と 照)、場所も固定される。基本的には、製造 なった。バイト作業はキッチン作業である。 に5人、デザート・細巻き(細巻きは人が巻 この店は、全国的規模でチェーン店展開して く)に1人、洗い場に1人(忙しいとき、2 いる大型店で、客席数は200席以上ある。 人になる)、のように分けられる。 2.仕事の概要 (2)作業時間 営業時間は、午前11時から午後11時となっ (1)仕事の内容 ている。朝は午前9時30分から開店準備が キッチン内での作業内容は、(D商品を作る、 始まる。大体午前中から午後5時までは、パー つまり、すしを握ってレーンに流すという作 業と、②洗い場の作業の2つに分かれる。す トさんが主に働いており、午後5時から閉店 しを握るといっても、しゃりを実際に握るわ までをバイトが働く。作業時間は、午後5時 けではない。しゃりマシーンと呼ばれる機械 によって、しゃりが形に押し固められ、つぎ つぎと作り出されるのである。これを皿にの せて、後はネタを上に置くだけという非常に 簡単な流れ作業である。一方、洗い場作業は、 もちろん、洗い物を洗っていくわけだが、す し皿には専用の洗浄機があるので、すし皿以 外を流し台で手洗いし、すし皿は洗浄機へ運 んで洗う……というように場所を移動しなが らおこなう。加えて、洗い場がよはど忙しく なった時以外は、図のように、洗い場近くに ある赤だしと、茶碗蒸しを注文に応じて寿司 図1 回転寿司店の作業場 が回るレーンにまで持っていくという作業も −27− 図2 洗い場の作業環境 図3 洗浄機の構造 以降は3∼5時間が多いパターンで、5時間 センチ以上の身長の人であれば、わざわざ頭 の場合は15分の休憩が間にはさまり、それ を棚の下まで下げて、洗い作業をしなければ 以上の場合は30分休憩となる。 ならないのである。流し台自体低い位置にあ 賃金は、時給制で基準は780円であるが、 るために、少し身体を下に沈めている上に、 午後10時以降働くことができる人は830円 頭、首の角度を大きく曲げる姿勢で拘束され となり、アルバイトの大半がこの時給である。 てしまう。この姿勢の時、全身の筋肉が緊張 さらに、午後10時以降は150円アップする。 状態にあり、とくに、全身のバランスを支え バイト生は奈良県在住だが、奈良県の最低賃 るために、背中から腰にかけての筋肉に非常 金はおよそ640円前後であるので、この店の に負担がかかることになる。 作業環境が悪ければ、それによって身体の 時給は高い部類にはいる。 負荷が余分にかかって障害を引き起こす。こ 3.作業環境 の場合であれば、腰痛になることは間違いな 作業内容は、①製造と②洗い場に明確に分 いであろう。 そして、2番目にあげられるのが、皿の洗 けられており、作業時間中はその作業に従事 し続けること、つまり、その場の作業環境に 拘束されることになる。そのため、各持ち 浄機である。洗浄機の構造は図3のようになっ ている。この場合は、上の台が非常に高い位 場 での作業環境が、作業行程に大きな影響を与 置にありすぎるのである。 洗浄機には渦のように丈夫に2つの穴があ えることとなる。 いており、左側に汚れた皿を入れると、右側 ここで述べる作業環境とは、洗い場の作業 環境についてである。前述したように、製造 の穴から洗われた皿が重なって順にでてくる。 の作業に比べて、作業内容自体、移動の激し そうしていくつか積み重なった皿を槙にある い作業である。これに加えて、作業環境が良 ボックスの中で並べて入れていくという作業 くない。まず最初にあげられるのが、流し台 が行われる。皿を持ってボックスに入れると の構造である。つまり、台の位置が低く、し いう動作は、全身運動であるので(とくに、 かも、頭上部分に低い位置に物を置く棚が取 ボックスが一段日の時は非常に高い位置から り付けられている。 低い位置へ移動する)、その動作はできるだ け回数を減らすのが望ましい。よって、洗っ 図2に示したように、棚があるために、155 −28− た皿をある程度ためてから入れる作業を行う なもの(椅子や机など)高さ、奥行き、幅な ので、皿特高く積み上げられる。それらすべ どの設計がどんな判断によってなされたのか ての皿を持っときに、台の位置が高いために、 という点に関心の目がいくム あの流し台や洗 非常に持ちにくく危険である。また、皿を洗 浄機に関しても、もっと作業の行いやすい高 浄機に入れる際も高い位置であると入れにく さを比較検討した結果がこれだったのであろ く感じる。 うか。少し高さが違うだけで、姿勢が変化し、 身体にかかる負担は増えてしまう。したがっ 4.おわりに 一採録着から一 て、ものの設計に際して、安易な妥協をして 洗い場における作業環境には2つの尚題点 はならない。 がある。 作業環境の不都合な点として、洗い場の問 い最近取り外されたことにより、その棚ひと 題を述べたが、実際は他にもいろいろな問題 つをとっただけでも非常に作業がやりやすく は存在していると考えられる。.棚の問題が解 なった。身体にかかる余分な負担の及ぼす影 決したことによる負担軽減を経験でき、作業 響を直接感じることができた。ただしまだ、 環境の整備の重要性を身にしみて実感するこ 流し台の高さおよび洗浄機の高さという問題 とができたそうだ。今後、他の作業環境にもっ 点が残されている。これを改善しない限り、 と注意を向けることが必要であろう。 作業環境の悪さがもたらす影響は、その作 真の快適さはえられない。棚はねじをはずす ことで簡単に取り除くことができたが、流し 業面だけでなく、身体的、ある・いは精神的な 台と洗浄機の高さは、別のものに取り替える 面にもおよんでいく。労働を快適にこなして しかない。 ゆくため、快適な作業環境を追求していくこ そんなことを考えると、身の回りにある様々 とは重要である。 (採録:三戸秀樹) 地地愈地政地政愈愈愈愈 コ、トランポリン、着替え、抱えてバスに乗 養窟学校■教師の腰一園節症認定 せたあと、教室のそうじ、資料作成を一日中 続けていた。1983年9月、足や腰が痛くなり、 「両側変形性股関節症」と診断され、95年6 京都府立丹波養護学校の山本美佐子先生 (49歳)は、教職員の不足している中でまと 月人工関節術・骨頭置換術の手術を受けるま もな休みもなく、朝礼、抱え移動、着替え、 でに悪化した。子どもには車椅子、多動や寝 集団指導、排泄指導、音楽、体育、図工を一 たきりの子が多かった。山本先生は93年3 緒にする。机を並べ食事指導、シーツブラン 月、基金に公務上認定を請求したが99年5 −29− 月基金は「公務外」と▲し、不服申請にも2000 好感の死 年2月棄却した。審査会は、山本先生が「歩 ドゥエのルノー社の労働者の死ば 過労によるものか7 き廻ったり、子どもを抱えながら跳んだり踊っ たりする動作が多い」ことは認めながら、先 (フランスの共済組合機関誌「VIVA」− 天性股関節脱臼が認められるからその素因が 2001年2月号−より) 原因で公務との因果関係はない。山本先生だ この2年間、生産部門の真っただ中で劣悪 け業務が過重でなく外傷を生じる事故がなかっ な労働条件のもと4人の労働者が死んだ。そ た、という理由をあげて業務外と主張した。 の自動車会社は、「自然死」と主張する。労 これに対し、主治医(宇多野病院)と審査 災事故死の場合であれば疾病保険の支払基金 会が鑑定を依頼した病院長(昭和大横浜市北 (Cram)がその補てんをする。職員を代表す 部病院)はいずれも、股関節脱臼のあった人 る人たちはこれらを「過労死症候群(JL、身の 間にとって、業務が過重であり症状を進行、 過労によってひき起こされたストレス死の一 発現させたと考えるのが妥当とした。担当9 つ)」と主張する。 人のうち8人は肢体に障害があり、平均体重 が22.8kgで、この子たちを抱えたり、しゃ 注:「過労死」とは?(ストレスが原因で人 がんだりする姿勢が必要だし、運動機能訓練 が死ぬ。しかし一例も認定されていない) では頻繁に重い子を抱えて跳んだり踊るのだ 「過労死症候群」は日本で「発見」され、 から股関節の負担は大きい。他に4名の職員 「労働に起因するJL、身の過労状態によっ がいたが実務経験が浅い,ので、山本先生は率 て生じたストレス死のひとっ」と定義さ 先して働かなければならなかった。「発症以 れた。心停止か自殺の形をとることが多 後も業務内容が二度軽減されたのに症状が進 い。公式の第一例は1991年の例であっ 行したから業務外」という基金の意見にも、 た。日本の大きな通信グループの58歳 「一旦病状が進行し始めると歩いている以上 の職員が職場で自殺した。1996年にはそ 必ず進行する」という上記の医師の意見が示 の企業に対して、家族に対する損害賠償 された。 を命ずる判決が下された。近親者によっ 中央の基金審査会は、これらの医学的知見 て起こされた訴訟は、たいてヤ、・の場合、 から、先天性脱関節脱臼という基礎疾患が股 重い賠償金の支払いで決着している。フ 関節に過重な負荷のかかる業務を担当したた ランスでは認定例は一例もない。 め急激に著しく増悪し股関節症が発症したも のとして、3月8日公務上と認定した。J」本 ジャンは平生からあまり休憩を取らない方 先生を支援してきた京高教組は、府基金や審 だった。古手のチームリーダーとして商品管 査会の姿勢のゆがみを直し、健康な職場づく 理部へ配属された。52歳の労働者として「使 りを当局の責任として果させる必要がある」 い古し」と思われたくなかった。ノール県 と決意を固めている。 (フランス北部)のドゥエにあるルノー社の 労働者であったジャンは昨年4月20日に死 んだ。働き者の彼は、ある日工場で気分が悪 −30− くなった。その後心臓発作を起こして数時間 と比べて別段変わっているわけではない」と 弁明した。だとすると、どういう状況で死を 後に医務室で息をひきとった。死因は何か? 会社側は「自然死」と主張した。労災事故 招いたかを調べていけば、これまで「管理上 死であれば疾病保険の支払基金(Cram)が の」慣行として通っていたことであっても、 その補てんをする。労働総同盟(CGT)から 原因と問題点が明らかになってくるであろう。 選出された「安全衛生と労働条件委員会 また塗装部門の長である48歳のエリック (Chsct)」の一委員であるギュイセップ・ガ は、2000年4月末に意識不明のまま更衣室で ンドルフ氏は、「健康上の問題がなかったこ 発見された。救急隊員が駆けつけ蘇生を行っ と以外は何も分かっていない。しかし同じよ たがすでに遅く、数時間後に亡くなった。エ リックは日頃から同僚に「めまい感」を訴え、 うな状況で亡くなったのは今回が初めてでは ない」と証言する。事実、この2年間に北部 工場の医務室を訪ねるよう勧められていた。 工場で新たに3人の労働者が仕事中に気分が ギュイセップ・ガンドルフ氏は「病気で休ん 悪くなり数時間後に息をひきとった。 でいる労働者には現場に戻るように圧力をか ける」、「医務室に行かないで済ます者には報 経営者側はこれらのいずれに対しても労災 適用に異議を唱えている。労働組合書記局の 奨金を出す」、「『無災害主義』をとっている」 ダニエル・シルヴェール氏は「被災者家族の などの問題点を指摘し、「これでは問題解決 一人は支払基金での審査を求めており、彼女 が遅れ、自己流に手当てをして一服の薬で済 からは夫が生前仕事が多くて大変だったこと、 ます者が出て当然であろう」と述べた。 労働条件も悪く、体がくたくただと嘆いてい たことも聞かされていました」と証言する。 誰かが病気で休むと そのチームには手当が付かない また別の技術者の夫が、ある朝、工場の駐車 場で自動車のハンドルを握ったまま昏睡状態 1999年5月、いっくかの班は「挑戦」とい でいるのを発見された。1999年の夏の日のこ う標語を掲げた。決めた目標は「チーム別、 とで、あと数日でヴァカンスを迎えるところ 月別に『無事故、無受診』を達成する」とい であった。ギュイセップ・ガンドルフ氏は うもので、「もし月に2回の事故があればそ 「経営者側はおそらく圧力をかけてくるでしょ のチームの獲得額はゼロ・フラン」、「獲得最 う。とくに、社会保障基金での審査を回避し 高額は560フランであり、それが3人に分配 たいがためにいずれの賠償にも門戸を開くこ される」。経営者側に言わせると「事故でけ とに難色を示している」と付け加えた。 がをした者には細かい気遣いをしている」と いう。班長が幹部のメンバーを伴って自宅で それに対して、会社の経営陣は広報責任者 のパトリック・フルネ氏を通じて「それらは 休んでいる従業員を訪問することも稀ではな 偽りの情報である」と反論し、「6000人もの い。その狙いは、現場へ一刻も早く復帰して 従業員を抱え、しかも平均年齢が46歳を数 もらうための地ならしをして、就労しないで えるほどの共同体では、死ぬべくして死ぬ人 も給料が支払われる状態を止めさせることに や、不運にも亡くなる人があっても別に不思 あるという。ある班長は、「私たちの役割は、 議はない。だからといってドゥエの状況が他 病気になった人にはその人に合った作業を見 −31一 つけ、日常生活の面でも過ごしやすくしてあ 告発されるペきは作業の加速化と げ、職場に戻れるよう励ますことができるか 自動機械化生産である どうかにある」と日記に記録している。 体の不調感につづいて突然起こった企業で 期間雇用契約のクサゲィェは38歳で死ん の4人の労働者の死。労働組合がそれを問題 だ。1998年11月23日のことだった。板金の 視する。冶金業労働総同盟(CGT)はその元 生産ラインの作業中に初めての不調を訴え、 凶を仕事による過労にもとめ、過労に起因す それが命とりになった。医務室に連れて行か る死を意味する「過労死症候群」であると主 れたのに、しばらくすると職場へ戻っていた。 張した。しかし研究と安全のための国立研究 再び不調が襲ってきた時、事情に詳しい同僚 所(Inrs)の研究責任者であるマルク・ムゼー が迎えにきて直ぐさま担当医の所へ運び込ん アマディ氏は「その意見は性急に結論を急ぎ だ。しかし彼は診療所で息をひきとった。工 過ぎる。過労死のケースは、その特徴として 場の産業医は「彼がそんなに重い病気をもっ 過重労働に加えて労働時間が法定労働時間を ているようには思えなかった。事実そのこと 越えて遥かに長い場合である」と見解を述べ を示す徴候は何もなかた」と説明した。「そ た。労働組合側は「作業場の危険防止のため れではクサゲィェは健康なのに死んだという の上級会議」にある「労組連合」の代表であ のか?」とダニエル・シルヴェール氏は怒り るジャン・オドゥブール氏の発言として「労 を抑えることができなかった。そして、「雇 働強化、自動機械化された作業、同じ作業が 用が不安定な彼は、常雇いになるために余分 次第に短縮されて繰り返される作業などが問 な仕事まで引き受けていた」「ルノー社では 題であるとの見解を発表した。 経営者側は「週35時間制を実施している 健康状態が悪くても問題視されない」と話し た。休業中の労働者が職場に復帰するが早い フランス企業と極端な例とを比較するのは納 か話し合いに呼び出された。次の手配は給与 得がいかない。それらの死は過労とはまった 生活者がいかに病気にかかりやすく、また長 く関係ない」と反論する。マルク・ムゼーア 患いをするかを伝えている。その抜粋である マデン氏も「事故が起こった状況についての がその中に、「このような状況が続けば企業 詳細な評価(前後の状況、労働負担、医学的 にとっても損失であり、こんな状態を容認す な情報など)がなければ何も結論づけができ るわけにはいかない」と書かれてあった。ダ ない」と述べた。 いずれにせよ、経営陣の意向だけからそれ ニエル・シルヴェール氏は「新労働組織」が 予め考え出した「15分間で弁当を食べて前後 らの死を「自然死」であると宣言して、実際 各8分間で終える」休憩時間とそれ以上の休 問題として権利の制限と労災事故の数や日数 憩を取る者への「休憩狩り」を告発している。 を少な目にしている事実については、それを また数カ月前に膀耽を手術したある労働者が 問題にするのは当然のことであろう。 「トイレに用足しに行くのさえ拒絶され、堪 (エルグェ・ブルゾ ー記者) (訳:京都民医連保健医療センター、京都城 え切れなくなって作業服の中に漏らした」と 南診療所所長 三宅成恒) いう証言もある。 −32− とその土台になったストレスー脆弱性理論、 ストレス性疾患、精神疾患のICD−10分類、 企業責任、自殺予防対策、海外状況について 述べ、第2部は職場での対応として、メンタ 職場におけるメンタルヘルス対策 ルヘルス対策(セルフケア、ラインによるケ 一精神障害等の労災認定「判断指針」対応一 ア、スタッフによるケア、外資源によるケア)、 日本産業精神保健学全 編 労働調査会 2500円 スタッフと看護職、産業医衛生管理(推進者) など、心理職、精神科医の役割について夫々 本誌では、20年以上前から仕事から起った 説明している。 精神障害や自殺の労災認定問題をたびたび取 次いで第3部は事業場外資源の有効利用と り上げてきたが、行政は一貫して聞く耳を持 して、EAP(従業員支援プログラム、内部E たず、「心の病気」を「からだの病気」から AP)、労災病院・勤労者メンタルヘルスセン 分断し、自殺は労働者本人の意思による行為 ター、府県産業保健推進センターと精神保健 として基本的には業務外としてきた。このこ 福祉センターがとりあげられているが、まだ とが社会的にも学問的にも、職場の実態から わが国では整備されているとは言い難い。 企業の中では、メンタルヘルスが社会環境 も合わないことが次第に運動によって明らか にされてきた。労災申請件数の増加はリスト や個人の要因変化によって重要になるケース ラや配転・ノルマや裁量制、長時間夜間労働 が増えたことは認めても、個人のプライバシー や過密労働、単身赴任や人権侵害などを背景 の配慮(逆にリストラ、配転、出向などに利 として、深刻な社会問題(過労自殺の裁判に 用されている)が、公にして扱いにくいのが おける引き続く勝訴)になっている。 現状であろう。そこで健産管理スタッフ、カ こうして厚生労働省も「労働者のメンタル ウンセラー、産業医などに頼るが、人事・労 ヘルス対策に関する検討報告書」(1999)と 務との連絡調整がやはりプライバシー これに基づく「心理的負荷による精神障害等 問題にかかわりやすい。集団教育をするにし に係る業務上外の判断指針」を公表した。こ ても、専門的知識を学習した人は少ない。こ の本はそれを受けて日本産業精神保健学会が のような状況の中で果たして、労働者の人権 設けた「精神疾患の業務関連性に関する検討 と適正な診断・医療・リハビリが行えるか疑 委員会」が「具体的に産業現場でどのように わしい。そしてこの行政「対策指針」がどの 対応したらよいのかを探った」もので、事実 ように学習・利用されるかについても明らか 上その後厚生労働省が発表した「メンタルヘ でない。学会の名の下に書かれた本であるが、 ルス対策に関する検討報告書」や「判断指針」 厚生労働省指針の解説を下請けしたような内 を含めて行政側の一連の文書の解説書になっ 容で、科学性、中立性にも欠けている。労働 ている。もっとも、この本ではまだ「指針」 組合の役割についても全く触れられていない。 は入っていない。 改めて、職場のメンタルヘルス問題について、 すなわち、第1部は精神障害の労災認定を 労働者の目からの調査研究と対策を行う必要 めぐって労災の考え方、認定作業、認定基準 があろう。332ページ。 一33− や人権 などの雇用保障法制、解雇法制、パート労働 規制緩和と労働者・労働法制 法制、労働時間法制、女性労働凍制と規制の 萬井 隆令・脇田 滋・伍賀 道 編 緩和が職場でどう進められているか、労働者 旬報杜 3800円 はいかに抵抗しているかについて、企業や 規制緩和やグローバリエー ション「IT革命」 「御用学者」への反論を含めて論及している のが本書の特長といえよう。 は聞こえのよい行政や企業の切り札のようだ が、以前の産業合理化、技術革新、行政改革 この労作が、片岡、脇田、中島、万井先生 と同じように、経済界の要求通りの法制度再 らの労働法学者と伍賀、浪江先生らの労働経 編と労働者の権利抜きの実行がされているに 済学者の共同研究から生まれたことも、その すぎない。しかもかつての「反合理化闘争」 内容からうなずける。一泊学校の記念講演で のように、真向から規制緩和に反対してスト の伍賀(1999)、中島(2000)両先生の話が、 ライキを打てるような労働組合は(タクシー この本を読むと再現されて感動的である。 の一部組合を除いて)見られない。欧米も同 (ちなみに、以前片岡・浪江先生も講演され じように規制緩和の波に労働組合の機能低下 たし、脇田先生はたびたび本誌に投稿されて 傾向や組織率の減少は見られるが、労働運動 いる)。 における基本的原則や権利、雇用や時短、社 編者が言うように「規制緩和問題は労働の 会保障などの労働基準の向上を求める実力行 あり方を変革し、労働者とその家族の生活の 使が活発化している。これに比べて何という あり方にもかかわらざるをえない、すぐれて 違いであろう。 実際的な問題である。したがって、当然、労 わが国のリストラや雇用の弾力化と権利剥 働組合と労働運動にとっても重大な問題であ 奪の展開を見ると、人事労務管理が非正常従 る。この本にもとりあげられているが、ILO 業員の相対的拡大利用、雇用の(企業にとっ が21世紀の戟略として打ち出したDecant て)・勝利のよいJIT化、人件費の徹底的削減、 Work(働きがい、生きがい、ゆとりある仕 ホワイトカラーを含めた生産性向上のための 事)や、事務局長の「グローバル化と規制緩 能力主義化、企業別労使関係のとじこめによっ 和への最良の薬は強い労働組合の存在である て「自己責任」「個人尊重」「能力評価」が強 という言葉をよくかみしめて、組合運動の活 められ、労働者が分断化され職場が暗く、将 性化に取り組んで欲しい。そういう点では、 来への展望が持てなくなっている。 規制緩和に関わる労働条件、労働者の生活の この本は、これまでの規制緩和と労働者へ 在り方にかかわる問題、たとえば安全衛生 の影響を、大阪を中心に実践的総合的に調査 (JCOなどの事故、厚生労働省マネジメント 分析し、問題の指摘、現状と国際的動向、規 など)、社会保障(年金、医療保険、団体生 制緩和を「錦の御旗」にする理論の真のねら 保など)、能力開発(労働者の学習教育など) い、貝体的なあらわれ方と労働法からの批判 についてもとりあげて欲しいし、今後の共同 立法論的提起などを行っている力作である。 研究の継続をお願いしたい。 とくに、・最近の一連の労働法制の改悪、す とにかく、読みやすく、読みごたえのある、 なわち労働契約制、派遣労働法、職業紹介法 執筆者の熱意が伝わって働く人の元気がつく 一34− 本である。 こす前に是正できるものである。」 A この本はアメリカで書かれたものである A 人は誰でも間違える −より安全な医療システムを目指して− が、①患者の安全を医療機関の最優先目標と L.コーン/」.コリガン/M.ドナルドソン 編 し全従事者の責任とする、安全に関する役割 米国医療の質委員会/医学研究所 著 医学ジャーナリスト協会 訳 を明確にし、目標を設定し、エラーの分析と 日本評論杜 2500円 システムの改善に人と金を使う。②人間が持 つ限界に配慮した職務と人員を設定し、記憶 B ヘルスケア・リスクマネジメント ー医療事故防止から診療記録開示まで− や人的監視に頼らず、プロセスを簡素化、標 中島和江、兄玉安司 著 準化し、機械・装置・器具の安全化を常には 医学書院 2800円 かる。③チームに働く人々のチーム・トレー 医療ミスが社会問題になっている。個人の ニングをする。安全設計と医療プロセスに患 開業医が数人の患者を相手にして起こすヒュー 者を参加させる。④不測の事態に備え、事前 マンエラーの時代と違って、現在の医療は、 のアプローチ、修復システムの設計、正確で 救急医療、外来診療、入院患者のケア、在宅 タイムリーな情報へのアクセスのしくみと風 医療、麻酔を使った手術、臨床検査や画像診 土を作る。⑤エラー、ヒヤリハットの発生に 断、調剤薬局などそれぞれが多くの職種や器 関する報告を奨め、それに制裁を加えないこ 具・装置・機械を有する巨大なシステムのセッ との保証、組織序列にとらわれない自由なコ トであり、そこでは個人、チーム、手順、規 ミュニケーシ ョンの風土、院内規定や作業手 制、コミュニケーション、設備や用具機器、 順、指針の作成と実施、フィードバック・メ 保険制度が絶えず変動し、不確定な環境条件 カニズムの実行とエラーからの学習、可能な の中で、元来危険性を持つ医療行為が行われ かぎりシミュレーションを活用、リスクマネ ている。 ジャー 「安全を脅かす行為は蚊のようなものだ。 の配置を医療機関に提起している。同 時に行政に対して「患者安全センター」を制 一時は叩いて追い払うことはできるが、必ず 度化して、起こった事故、起こりかけた事故 また新しい蚊がやってくる。唯一効果的な方 に関する情報を、起こした医療機関だけでな 法は彼らを育てている水溜りの水をなくすこ く、全体として学び、研究調査を行い、有効 とだ。エラーやミスで言えば、その水溜りは、 な予防対策や国民への啓発を行うとともに、 医療従事者のミスを誘発する用具・器具の設 エラーに関する報告(強制、自発)システム 計、間違ったコミュニケーション、過重労働、 と法的保護を提言している。 これらは、航空機災害対策や労働安全衛生 予算や経営上の圧力、担当業務を早く片付け るために余儀なくさせられる基準からの逸脱 の水準に早く医療を引き戻そうとする意志が (手抜き)、不適切な組織構造、予防措置や安 ありありと表れている。医療の安全対策は他 全対策の欠如……といった具合にとめどがな の分野よりアメリカでも10年は遅れている い。これら表面に見えないエラーの真の要因 と書かれている。273ページ は検知できるものであり、不幸な出来事を起 −35− Bはアメリカの公衆大学院で医療事故(第1 忙、人不足、新人まかせ、一人勤務(夜間) 章)や医事紛争(第4章)について学んだ臨 などが増えている、などのシステムの欠陥が 床医がアメリカの実情を紹介(第2章)する 多い。 とともに、わが国の実情(第3章)および診 医労連の最近の「現場実態調査」報告によ 療情報管理−とくにカルテ開示(第5章)に ると、「医療事故やニアミス」を94%の看護 ついて述べ、今後の課題と取り組みの方向性 婦が経験し、その原因として「忙しさ」(84.6 をあげている。まことに意欲的な本である。 %)、「交代制による疲労」(42.0%)、「知識、 とくに医療の質を向上させることによって 技術不足」(37.9%)、「人手不足」(30.6%) 安全を確保する主張は正しい。著者はわが国 が指摘されていた。また、看護協会などの調 の現在の問題点として、医療事故が頻発して 査では、「医療事故」の多発の原因として、 いることと、重大なエラーや事態の発生が病 (1)欧米に比し患者当たり医師・看護婦のき 院上層にすぐ報告されず、患者や家族にきち わめて少ないこと、(2)ミス・エラーをかく んと説明されていないこと、すなわち事故防 し、看護婦や研修医の不注意として処分して 止と事故対応の体制が作られていないことを いること、(3)診療報酬制度上、医療関係職 あげている。しかし、依然として上層部の経 種(薬剤師、検査等)も少なく権限・業務が 済的社会的評価下落をおそれての事故かくし 不明確であること、(4)医療が高度複雑でリ と、現場従業員への責任転嫁(始末書、処分、 スクも多いのに未熟練者が多いこと、(5)在 被告)傾向、さらに「単純ミス」「不注意」 入院日数の短縮が制度上迫られたため、夜勤 論による決着が改められないかぎりそのこと や入退院日の作業が増えていること、(6)多 は改善されないであろう。 職種、身分、交代制の人が交錯しお互いの連 また、たとえば手術に関する事故に次ぐ薬 絡協力が阻まれていること、などがあげられ 剤による事故は、副作用によるものも含めて ている。さらに、医師の調査報告によると、 知識不足(22%)、患者の情報不足(14%)、 医師の年休取得は3∼8日、休日出勤(月) 規則違反(10%)、うっかり(9%)、複写ま 2∼3日、「勤務が多忙で体力的限界と思わ ちがい(9%)」不完全な同定(7%)が多 れることがあった」(月)5回以上がもっと いが、その背景には、(1)スタッフの知識と も多く、当直時には睡眠不足のまま翌日の勤 記憶が完璧であることを前提としている、(2) 務に移行していた。また、勤務状況、給与、 薬剤の種類や投与量の適切さを確認、弁別 拘束、睡眠、身分、配転などについての不満 しにくい、(3)患者の臨床情報や服薬状況を からくるストレスも大きかった。これら蓄積 把握していない、(4)投薬プロセスを追跡し 疲労、ストレス要因が医療事故を起こす可能 ていない、(5)医師の指示の伝達がチェック 性が報告され、その対策として①仕事の軽減、 されていない、(6)投与量や投与方法、機器、 ②職場環境(対人を含む)の改善、③仕事に 薬剤の配置や作業手順がさまざま、(7)注射 おける裁量権や自主性の容認、④リフレッシュ 薬の混合が病棟のナースでされ、患者の移動 休暇や健康づくり、ゆとりの配慮、⑤サポー や転棟時はもちろん、問題が起きたときでも トシステムの確立をあげている。 これらを見ると、医師・看護婦の針刺し事 責任の所在があいまいなことが多い、(8)多 −36− 故(C型肝炎やエイズなどの感染をおこす) や、患者からの感染症などを含めて、さまざ まの労働要因による事故は、医療災害という 概念で受け止め、単なる事故、出来事、エラー とだけで捉えてはならない。日本の「災害か くし」「責任のなすりあい」「マスコミさわぎ」 の現状は、アメリカよりもさらに20∼30年 おくれていると言える。労働安全衛生活動に ついてだけでも学校と同じように安全衛生委 員会活動がはとんどないか、無気力だし、国 や自治体、企業がリスク・マネージメント、 カルテ開示、情報公開を積極的にしていると ころも稀である。実際には医療災害は、毎日 どこかで起こっており、その数は交通災害よ りも多いと言われているだけに、患者・国民 と医療関係者が協力してこの問題の解決のた めに取り組むことが急がれている。両書とも 大部でやや専門的であるが、今のところ少し がまんして勉強してはしい。 一37一 あ と が き 読者の皆様の、「文字を大きく」とのアンケートでのご要望に応えて、 今号から文字サイズを大きくしました。 これまで、大阪職対連のインターネットホームページには「労働と健康」 誌の目次のみ掲載してきましたが、今号から一部の論文について全内容を 掲載することにしました。今回は「こんなしごと・あんなしごと(41)<回 転寿司店>」と「過労死したトラック運転手の遺族が損害賠償命令を勝ち 取る」の二論文です。お知りあいの方にこれを見ていただくようお薦めく ださい。そして、「労働と健康」誌の定期講読を訴えてくださるようお願 一編集部− いします。 労働と健康 No.1る5(隔月刊) (会員に限り配布) 2001年5月1日発行 発行人 大阪労災職業病対策連絡会 〒530−0034 住 所 大阪市北区錦町2−2 国労会館内 TEL・FAX O6−6882−2084 郵便振替口座 00980−2−69015 加入者名 大阪労災職業病対策連絡会 インターネットアドレス http://www9.big.or.jp/∼roren/shoku/