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マルチポート・デバイスおよび 平衡デバイスの測定について

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マルチポート・デバイスおよび 平衡デバイスの測定について
マルチポート・デバイスおよび
平衡デバイスの測定について
Application Note 1373-1
はじめに
無線通信およびエレクトロニクス業界では近年、集積化の流れが
激しさを増しています。デザイン・エンジニアのあいだでは、サ
イズ、コスト、質量、および消費電力を抑える必要性から、ディ
スクリート・コンポーネントを複雑なモジュールに置き換える動
きが広まっています。この結果、1つの基板でコンポーネント・
レベルの統合が行われるようになりました。こうしたモジュール
は複数のRF経路、および複数の端子接続を備えており、これら
を1つのユニットとしてまとめて測定する必要があります。
本アプリケーション・ノートでは、3個以上の端子接続を持つデ
バイスを高確度で測定するための手法と、テストに関する特別な
注意事項について紹介します。
マルチポート・デバイスおよび
平衡デバイスとは
端的にいえば、マルチポート・デバイスとは、複数の入出力を持
つ回路です。こうした受動回路は通常、複数の出力間を通過する
RF信号の分離、分割、フィルタ処理に用いられます。3ポート・
デバイスの一般的な例として、携帯電話で使用されているダイプ
レクサがあります。ダイプレクサは、1つの共通ノードを共有す
る2個のフィルタです。RF信号の送受信を異なる周波数で同時に
行うことができるため、しばしばデュプレクサとも呼ばれます。
その他のマルチポート・デバイスには、カプラ、パワー・ディバ
イダ、サーキュレータ、一部のSAWフィルタ、アンテナ・スイ
ッチ・モジュールがあります。コネクタを装備したRFデバイス
の各ポートは、2個の端子から成ります。1個の端子コネクタが
RF信号の送信に使用され、もう1個の端子コネクタがグランド基
準として使用される場合、このポートはシングルエンドと呼ばれ
ます。従来、ほとんどのRFデバイスはこのモードで動作するよ
うに設計されていました。
1個の端子がもう一方の端子の信号を基準とするように設計され
ている場合、端子は差動モードで動作します。この端子対は、差
動ポートまたは平衡ポートと呼ばれます。これらの回路は、1対
の電気的に対称な信号経路を持つように設計されています。信号
は、互いに180度位相がずれた状態でデバイスを通過して伝送さ
れます。両方の端子に対して共通(同相)の信号は、理想的には
除去され、回路を通過しません。こうした特性により、差動回路
は電磁干渉(EMI)の影響を受けにくく、長年、差動の回路と伝送
ラインが使用されています。これらの回路を通過する信号の振幅
と種類を正確に測定することは、困難な作業となることがありま
す。受動平衡回路の良い例がSAWフィルタです。SAWフィルタ
には平衡およびシングルエンドの入力または出力ポートが組み合
わされています。差動デバイスを従来の2ポート・ネットワー
ク・アナライザでテストするのは容易なことではありません。マ
ルチポート・デバイスは差動であれシングルエンドであれ、計測
器に多くの物理的な接続が必要になります。また、テスト・セッ
トアップの要件はどちらもほぼ同じです。これらの要件により、
平衡デバイスは通常、マルチポートデバイスのカテゴリのサブセ
ットであると見なされます。図1に、シングルエンド・ポートと
平衡ポートの両方を持つアンテナ・スイッチ・モジュール
(ASM)
の一般的なブロック図を示します。この回路の解析には固有の問
題がいくつか存在します。
2
アンテナ
ダイプレクス・フィルタ
HPF分岐
LPF分岐
RFスイッチ
制御ライン
Rx経路
Tx経路
図1: 平衡ポートとシングルエンド・ポートを持つアンテナ・スイッチ・
モジュール
Sパラメータによるマルチポート回路の
特性評価
Sパラメータは、高周波回路のリニア応答の特性評価に広く用い
られている手法です。このSパラメータに、少し追加するだけで2
ポート回路と同様にマルチポート回路や平衡回路にも利用できる
ようになります。2ポート回路では、S 12とS 21がデバイスの複素
挿入損失または利得の指標、反射パラメータS11とS22がそれぞれ
入力と出力の不整合損失の指標となります。マルチポート回路の
Sパラメータ・マトリクスは、n2個の要素に展開する必要があり
ます。nは回路のポート数です。図2aは、図2bに示す一般的な3ポ
ート・デュプレクサの9項のSパラメータ・マトリクスを示したも
のです。挿入損失の項は6個に、反射の項は3個に増えています。
ポート2と3のあいだを信号が通過しないことが望ましいので、こ
れらのSパラメータはアイソレーション項と呼ばれます。損失と
反射の無次元の式であるSパラメータによって、回路の性能が物
理的に明らかになるばかりでなく、信号フロー・グラフ[1]に使用
する固有パラメータ・セットも作成されます。図3に、この3ポー
ト回路のフロー・グラフを示します。信号フロー・グラフでは、
検討対象の回路の各ポートが2個のノードで表されています。回
路の外からデバイスに入る信号は、anノードで回路に入り、bnノ
ードから出ていきます。“n”は、ポート番号を表します。次に複
素散乱係数が、回路内のノードをつなぐ分岐上に乗数として示さ
れます。これらの散乱係数は、“a”ノードから“b”ノードへ矢印の
方向に移動します。フロー・グラフを使用すると回路のポート間
の信号の流れを図として表示することができるので、解析が容易
になります。フロー・グラフとSパラメータの詳細については、
『Agilent application note 95-1 S-Parameter Techniques for Faster, More
Accurate Network Design』を参照してください。
挿入損失
リターン・ロス
アイソレーション
図2a: 3ポート・デュプレクサの9項のSパラメータ・マトリクス
受信
ポート2
アンテナ
フィルタ1
ポート1
送信
ポート3
フィルタ2
図2b: 一般的な3ポート・デュプレクサ
ポート3
ポート1
ポート2
図3: 3ポート回路のフロー・グラフ
3
シングルエンドSパラメータ・マトリクスを使うと、平衡ポート
を持つ回路を誤って解釈したり、解釈が難しい場合があります。
平衡デバイスの動作モードをそれぞれ独立して考慮するために
は、Sパラメータの定義を拡大する必要があります。シングルエ
ンドSパラメータの場合と同様、平衡ポートで定義された電圧と
電流を使って正規化したパワー波を定義することができます。こ
れらの新しいミックスドモード正規化パワー波はSパラメータと
異なり、モードに固有です。再度正規化応答と入射パワー波の比
をとると、ミックスドモードSパラメータ・セットを定義するこ
とができます[2]。この手法では、各ポートが1対の端子から成る
と仮定しています。ミックスドモードSパラメータを使用する場
合、差動モード・スティミュラスを差動ポートに供給し、すべて
のデバイス・ポートで対応する差動モード応答とコモン・モード
応答を測定します。同様に、同じポートにコモン・モード・ステ
ィミュラスを供給し、再度差動モード応答とコモン・モード応答
を測定します。概念的には、図4aに示す4×4マトリクスは、4つ
の独立した動作モードDD、CC、CD、DCを表す4つの象限に分け
ることができます。各象限からは、入力および出力の反射特性と、
そのモードの順方向および逆方向の伝送特性が得られます。
平衡ポートとシングルエンド・ポートの両方を持つ回路も同様に
説明することができます。こうしたデバイスのSパラメータを定
義するには、3つのモードを含める必要があります。シングルエ
ンド・ポート(この例ではポート1として指定)のシングルエン
ド・モードと、平衡ポート(ポート2)上の差動モードおよびコモ
ン・モードです。図4aを参照すると、差動スティミュラスまたは
差動応答を持つポート1の項がマトリクスから自動的に除去され
ます。コモン・モード・スティミュラスまたはコモン・モード応
答の項は、シングルエンドに変わります。図4bに示すように、残
った9項は見やすいように再グループ化します。
ミックスドモード解析を使えば、差動デバイスに特徴的なモード
変換を減少させ、対称性を改善することができます。
差動モード・
スティミュラス
ミックスドモードSパラメータ・マトリクスの左上の差動モード
(DD)象限は、差動スティミュラスおよび差動応答による回路の
動作を表わします。
右下のコモン・モード(CC)象限は、コモン・モード・スティミ
ュラスおよびコモン・モード応答による回路の動作を表わしま
す。DD象限からの差動利得をCC象限のコモン・モード利得と比
較することにより、コモン・モード除去比(CMRR)を求めること
ができます。左下の差動-コモン・モード変換(CD)象限は、差動
スティミュラスおよびコモン・モード応答による回路の動作を表
わします。理想的な平衡デバイスでは、これらの項はすべてゼロ
に等しくなります。すなわち、モード変換はありません。しかし
実際にはいくらかのモード変換が起こります。差動モードからコ
モン・モードへのモード変換が多いほど、システムからのEMI放
射があるか、不要なグランド・ループが生成されている可能性が
高くなります。
ポート1
ポート2
4
ポート1
ポート2
ポート1
差動モード
応答
ポート2
コモン・モード
応答
ポート2
ポート1
図4a: 4ポートの平衡ー平衡Sパラメータ・マトリクス
差動
コモン・
シングル
モード・
モード・
エンド・
スティミュラス スティミュラス スティミュラス
ポート1
右上のコモン・モード-差動変換(DC)象限は、コモン・モード・
スティミュラスおよび差動モード応答による回路の動作を記述し
ます。この場合も理想平衡デバイスでは、これらの項はすべてゼ
ロに等しくなります。すなわち、モード変換はありません。しか
し実際にはいくらかのモード変換が起こります。コモン・モード
から差動モードへのモード変換が多いほど、コモン・モード・ノ
イズ(グランド・ノイズまたはEMI)に対するシステムの感受性が
大きくなります。
コモン・モード・
スティミュラス
シングルエンド
応答
ポート
1
差動モード
応答
ポート
2
コモン・モード
応答
ポート
2
ポート2
ポート2
図4b: 3ポートのシングルエンドー平衡Sパラメータ・マトリクス
マルチポート回路の測定手法
従来から、ネットワーク・アナライザには、被測定デバイスとの
接続用に2個のテスト・ポートが装備されています。フルSパラメ
ータ・ネットワーク・アナライザは、1つのRFスティミュラスを
順方向と逆方向の両方に供給することができます。シングルエン
ドと差動のどちらのマルチポート・デバイスも3個以上のコネク
タを装備しているので、従来のネットワーク・アナライザを使う
とデバイスのデザインやテストが複雑になります。シングルエン
ド・デバイスと差動デバイスのどちらにも、多数のテスト手法が
あります。最初に、シングルエンド・デバイスを測定するための
4つの主要な手法について説明します。
シングルエンド・デバイスに対する手法
最も単純な手法としては、1台の2ポート・ネットワーク・アナラ
イザを使い、マルチポート・デバイスに対して一連の測定を行う
方法があります。この手法の場合、必要なすべてのSパラメータ
を取得するには、デバイスを何度も接続/再接続し、複数回の2
ポート測定を行う必要があります。この手順は、特にデバイス・
ポートの数が増えたときには非常に煩雑です。測定経路には2個
のポートしかないので、デバイスの残りのポートはネットワー
ク・アナライザに接続されないままになります。ポートが接続さ
れていないと、信号がオープン・ポートによって反射され、誤差
信号が測定経路に戻ります。したがって、未接続のポートを理想
負荷に正しく整合させて、この信号の影響を最小限に抑える必要
があります。図5に、E8358A PNAシリーズ・ネットワーク・アナ
ライザで実行した、セルラ・ハンドセットのデュプレクサの2つ
のアイソレーション測定を示します。送信通過帯域と受信通過帯
域間のアイソレーションは、アンテナ・ポートを理想負荷で終端
していないときのアイソレーションよりも約10dB向上していま
す。誤差信号の影響を理解し、影響を最小限に抑えることは、正
確なマルチポート測定を行う上での最も重要な問題です。このテ
スト手法のもう1つの短所として、すべてのデバイス経路を同時
に測定できない点が挙げられます。デュプレクサを正しくチュー
ニングするには、送信経路と受信経路の両方を同時に表示する必
要があります。2つの経路間にカプリングがあるため、1つの経路
のチューニングが、しばしば両方の経路に影響を与えるからです。
図5: デュプレクサの第3ポートをオープンにしたときと、ポートに負荷を接続
したときのアイソレーション測定
マルチポート・デバイス測定に2ポート・ネットワーク・アナラ
イザを使用する際の別の手法として、測定経路に外部スイッチを
追加する方法があります。これにより、デバイスの各ポートを1
回だけ接続し、アナライザのテスト・ポートをすべての測定経路
間で切り替えることができます。スイッチングと測定を調整する
ために、外部電源と外部コンピュータによるコントロールが必要
です。また、アナライザには2個のポートしかなく、同じSパラメ
ータ・アノテーションが繰り返し使用されるので、どの測定がど
のSパラメータに対応するかはユーザが覚えておかなければなり
ません。さらに、各スイッチには固有の損失があるため、測定経
路ごとに個別の2ポート校正を実施する必要があります。校正の
実施には、複数のチャネルまたは機器ステートの使用と呼び出し
が必要です。この手法は、効率および正確さの面で一般的に用い
られる構成ではありません。
図6: Z5623A H45スイッチマトリクスのブロック図
高品質スイッチを、2ポート・ネットワーク・アナライザに直接
接続可能な固定外部テスト・セットに統合する方が簡単な場合が
よくあります。高機能なアナライザには、標準測定器としての柔
軟性を高めるためのこうした外部テスト・セットを制御するため
のファームウェアが内蔵されています。測定経路のセットアップ
や校正、測定中のスイッチングの制御にソフトウェアを使用する
ことができます。外部テスト・セットの内部スイッチ・アーキテ
クチャはさまざまです。テスト・セットには被測定デバイスのす
べてのポートに接続できる十分なポートがあるというだけなの
で、必ずしも全部のポート間の測定が可能というわけではありま
せん。図6に、PNAシリーズ・ネットワーク・アナライザで動作
するように設計されたZ5623A H45外部スイッチングマトリク
ス・テスト・セットのブロック図を示します。このスイッチ構成
を使用する場合、ポートX3とポートX4間、およびポートX5とポ
ートX6間の測定は行えません。既知の測定経路セット間にのみ
内部測定経路を提供すると便利な場合もよくあります。内部スイ
ッチが少ないと、コストを下げることができ、テスト・セットを
通る挿入損失も小さくなります。ただし、こうした構成には、さ
まざまなデバイスのテストに柔軟に対応できないという制限があ
ります。
5
任意の2つのテスト・ポート間に対してテスト・セットの内部に
経路を作成できるシステムは、フル・クロスバーと呼ばれます。
メカニカル・スイッチと半導体スイッチのどちらも使用でき、そ
れぞれに異なる利点があります。半導体スイッチは、高速のスイ
ッチング速度、高い再現性、無限の寿命を備えています。このた
め、半導体スイッチは製造環境に適しています。しかし、半導体
スイッチは損失が大きいため、システム全体のダイナミック・レ
ンジが狭くなります。メカニカル・スイッチは、損失が低く、整
合性に優れており、より高いRFパワー・レベルを処理すること
ができます。その機械的な性質により、メカニカル・スイッチの
ライフサイクルは有限です(通常500万サイクル)。メカニカル・
スイッチは、小量生産または研究開発環境で広いダイナミック・
レンジが必要なアプリケーションに最適です。
スイッチマトリクス・テスト・セットを選択する際に考慮すべき
重要な仕様は、各アクティブおよび非アクティブ・ポートのリタ
ーン・ロス、挿入損失、クロストーク、およびアイソレーション
です。これらの仕様のそれぞれの意味と、測定に与える影響を理
解することが重要です。リターン・ロスは、ネットワーク・アナ
ライザに一般的な負荷および信号源整合仕様と同様の影響を与え
ます。リターン・ロスは、テスト・セット・ポートに入射した後、
反射されて測定器に戻ってくる信号の指標です。2ポート・ネッ
トワーク・アナライザをスイッチマトリクス・テスト・セットと
一緒に使用すると、この概念を簡単に理解できます。1つのポー
トのスティミュラスともう1つのポートの受信機との間には1つの
測定経路があります。テスト・セット上の2つのポートが同時に
アクティブになります。その他のすべてのポートは非アクティブ
です。テスト・セットの内部スイッチが変化し、新しい測定経路
が確立されると、アクティブおよび非アクティブ・ポートが変わ
ります。実際に測定を行っているポートだけが補正済みポートで
あるため、これは重要です。非アクティブ・ポートは補正の対象
外となっており、負荷で内部的に終端されています。このため、
非アクティブ・ポートはアクティブ・ポートと異なるリターン・
ロス仕様を持ちます。3ポート以上のネットワーク・アナライザ
を外部テスト・セットと一緒に使用するときには、原理は同じで
すが、より複雑になります。複数の受信機が同時に測定を行うの
で、デバイスを通る測定経路が1つであるとは言えなくなります。
補正には複数のアクティブ・ポートが含まれます。残りのポート
はすべて非アクティブで、ポートに補正が適用されません。挿入
損失は単に、アナライザからテスト・セットのポートまでの損失
です。挿入損失は、システムの全体のダイナミック・レンジに影
響します。重要な最後の2つの仕様が、クロストークとアイソレ
ーションです。これらはどちらも、内部の信号リーケージの指標
です。アイソレーションを測定するには、テスト・セットの各ポ
ートにショートを接続し、受信機と結合した信号レベルを測定し
ます。クロストークを計算するには、テスト・セットの順方向お
よび逆方向のリターン・ロスにアイソレーションを加算します。
スイッチマトリクス・テスト・セットを使用する場合の短所の1
つとして、通常すべてのSパラメータを取得するのに多くの掃引
測定が必要になることです。多くのアプリケーションでは、考え
られるSパラメータを全部測定する必要はなく、スイッチマトリ
クス・テスト・セットで必要な性能が得られます。
6
掃引回数の問題は、ポートそれぞれに対して測定用受信機を持つ
テスト・セットによって取り除くことができます。図7に、4ポー
トENAシリーズ・ネットワーク・アナライザのブロック図を示し
ます。この独自のアーキテクチャには、高速マルチポート測定を
最適化するために、各ポートに測定および基準用受信機が含まれ
ています。ポートと測定用受信機間にスイッチがないため、複数
の伝送測定を同時に実行することができます。4つのポートすべ
てが同時にアクティブになるので、全部のSパラメータを測定す
るために必要な掃引回数を各ポートの1回の順方向掃引に減らす
ことができます。4ポート・デバイスの場合、外部スイッチマト
リクス・テスト・セットを使うと8∼12回必要だった掃引が、わ
ずか4回に減少します。この種のテスト・セットは、しばしばネ
ットワーク・アナライザ自体に内蔵されています。内蔵されるこ
とにより、ハードウェアが提供するフル機能セットを中心にファ
ームウェアがデザインされるため、テスト・セットの確度や使い
やすさが向上します。Sパラメータを他のセットアップと整合さ
せるために行う必要があった多くの手順も不要となります。これ
によりマルチポート測定を、2ポート・デバイス測定と同じ容易
さ、確度、効率で実行することができます。
ポート1
ポート2
ポート3
図7: ENA受信機ベースのテスト・セットのブロック図
ポート4
平衡デバイスに対する手法
従来、平衡デバイスの特性評価は、測定経路にバランを配置し、
各平衡ペアをシングルエンド・ポートに変換するという手法で行
われています。バランを介してデバイスを測定すると、測定の確
度が制限されます。バランの損失、振幅バランス、位相バランス、
アイソレーションはすべて既知でなければなりません。また、誤
差補正を適用する必要があります。さらに、バランの帯域幅は比
較的狭いため、特に広い周波数レンジでの特性評価が必要な場合、
その実用性が低下します。さらに、バランによってデバイスを完
全に特性評価することはできません。図4aをもう一度参照すると、
この手法で測定できるのはミックスドモードSパラメータ・マト
リクスの差動象限のみです。バラン手法を使用すると、コモン・
モード除去比(CMRR)、デバイスのモード変換動作などのコモ
ン・モード性能に関する情報が失われ、測定でコモン・モードの
影響を補正することができません。こうした理由から、平衡回路
の特性評価にバランが使用できる状況は限られています。
フル・ミックスドモードSパラメータ・マトリクスの特性評価に
は2つの主要な手法があります。180度の反転位相でロックできる
2個のRF信号源を持つ、ピュアモード・ベクトル・ネットワー
ク・アナライザ(PMVNA)と呼ばれることのあるシステムを使用
することができます。このPMVNAは被測定デバイスに、差動モ
ード信号とコモン・モード信号、およびこれらの測定から直接作
成されるミックスドモードSパラメータ・マトリクスを提供しま
す。こうしたシステムを構築する場合、システムの位相が高い安
定性を示す必要があります(校正面での変動(代表値)が1度未満)。
平衡システム用のトレーサブルな校正標準は存在するものの、平
衡回路に対する標準誤差補正法が広く受け入れられていないた
め、こうしたセットアップの使用はさらに限定されます。
より実用的な手法が、リニア回路の重ね合わせの原理に基づいて
開発されています。この計算ミックスドモード手法では、各ポー
トで一連のシングルエンド測定を実行し、回路のすべての差動お
よびコモン・モード応答を計算します。この手法では、トレーサ
ブルなシングルエンド校正標準と4ポート誤差補正計算を使用す
ることができます。計算ミックスドモードSパラメータ手法を使
用するいくつかの製品が、現在市場に出ています。この方法では、
ミックスドモードSパラメータ・マトリクスの4つの象限すべてが
得られます。差動測定を実行するための手法の詳しい内容につい
ては、『Agilent application note 1373-2 Concepts in Balanced Device
Measurements』を参照してください。
校正および誤差補正
校正と誤差補正は、ネットワーク・アナライザ測定を実行すると
きに理解しておく必要のある最も重要なトピックです。完全なテ
スト・ハードウェアは存在しないため、性能を改善するためのい
くつかのプロセスが必要です。校正では、高品質標準を測定し、
その応答と標準に対する既知の応答とを比較します[3]。同じテス
ト・セットアップで行われるすべての測定は、これと同じずれを
示します。この情報を用いて、システムの不完全性を除去するた
めに今後の全測定で使用する、補正項セットを計算することがで
きます。ネットワーク・アナライザ測定に存在する誤差の種類に
は、系統誤差、ランダム誤差、ドリフト誤差の3つがあります。
系統誤差は、校正と誤差補正プロセスによって補正できます。ラ
ンダム誤差は予測できないため、補正することはできません。ド
リフト誤差は、校正後のテスト・セットアップに対する変化(主
に温度変動など)によって起こり、再校正によって補正すること
ができます。系統誤差には6つの異なる種類があります。2つの誤
差は、被測定デバイスを通って伝搬することのない、信号源と受
信機間の信号の漏れによって起こります。これらは、方向性およ
びアイソレーション誤差信号と呼ばれます。さらに2つの誤差は、
入力ポートの不完全なインピーダンス整合に関係し、信号源整合
誤差および負荷整合誤差と呼ばれています。最後の2つの誤差項
は、システムの周波数応答誤差であり、反射および伝送トラッキ
ング誤差です。2ポート・システムの場合、これらの6つの誤差信
号が順方向と逆方向に存在します。補正済み測定を実行するには、
2ポート・デバイスの4つのSパラメータすべてを測定する必要が
あります。順方向からの6個の誤差項と逆方向測定からの6個の誤
差項の両方が誤差補正計算で使用されるので、これは12項誤差モ
デルと呼ばれます。デバイス・ポートの数が増えると、誤差項の
合計も3×n 2だけ増加します。ここで“n”はポート数です。nポー
ト誤差補正測定を計算するためには、n2個すべてのSパラメータ
を測定し、式に3×n2個の誤差項を使用して、補正されたSパラメ
ータ値を求める必要があります。
7
外部テスト・セットを使用する多くのマルチポート・システム
は、標準的な2ポート誤差補正のみを提供しています。こうした
構成では、2個のアクティブ・ポートによって生じる誤差のみを
補正して、測定から除去できます。図8aは、図2bに示した3ポー
ト・デュプレクサのS23アイソレーション測定のフロー・グラフ
です。必要なS23a測定は暗い実線で示されています。S23mは、送
信ポートから受信ポートまでの実測応答です。これは、S23a(実
際の応答)と存在するすべての誤差信号の組み合わせです。図8b
の4つの誤差信号Es33、Ex32、EL23、Et23が測定結果に影響を与え
ます。2ポート校正を使用すると、ポート3と2がアクティブ・ポ
ートになり、これらの4つの誤差項の影響が、誤差補正プロセス
を経由して結果から除去されます。ただし、一部の信号がポート
3と1の間で漏れます。点線によって示されたこの信号は、ポート
1の生の負荷整合により反射され、デバイスを通ってポート2に伝
搬し、検出されます。2ポート校正を使用するシステムには、
EL13による追加の影響を補正するための方法はありません。これ
により、測定の不確かさが大きくなります。反対に、フル3ポー
ト誤差補正測定では、この伝送測定の誤差項すべてが補正される
ため、高確度の結果が得られます。これらの計算を実行するため
には、9個のSパラメータすべてを測定し、計算に27個の誤差項を
使用する必要があります。図8cに、9個のSパラメータすべてと、
スティミュラスをポート3に適用したときに生じる9個の誤差項を
示します。さらに、スティミュラスをその他のポートのそれぞれ
に移動したときに、別の9個の誤差項が生じます。
送信
アンテナ
ポート3
ポート1
受信
ポート2
図8a: 図2bに示した3ポート・デュプレクサのS23アイソレーション測定の
フロー・グラフ
送信
アンテナ
ポート3
ポート1
計算ミックスドモードSパラメータ測定には、利用可能な最高レ
ベルの確度が必要です。測定データの不確かさは、ミックスドモ
ードの計算によって増加します。このため、フルnポート誤差補
正をしないでシングルエンド測定からこれらの計算を行うのは実
用的ではありません。校正は、マルチポート測定を行う上で最も
時間のかかる繰り返し作業ですが、校正を行わないと不確かさが
大きくなるため結果が無意味になります。
マルチポート・システムで校正を実行する方法は複数あります。
一部のシステムでは、測定経路のすべてのポート対間で一連の2
ポート校正を実行する必要があります。メカニカル標準を使用す
るときには、さらに繰り返しが多くなり、時間がかかります。多
くのポートが複数回測定されます。2ポート電子校正により、こ
の回数を減少させることができます。システムによっては、各ポ
ートでシングル1ポート校正を実施し、すべてのポート対測定経
路間でスルー測定を実施するだけで済む機能が内蔵されていま
す。この種のシステムでは、各ポートの校正標準測定を記憶して
おり、全部の校正にこの値を使用するので毎回測定を行う必要が
ありません。2ポート・ネットワーク・アナライザ測定の誤差補
正の詳細については、
『Agilent application note 1287-3 Applying Error
Correction to Network Analyzer Measurements』を参照してください。
受信
ポート2
図8b: 送信ポートから受信ポートへのS23実測応答に影響する4つの誤差信号
送信
アンテナ
ポート3
ポート1
受信
ポート2
図8c: スティミュラスをポート3に適用したときに得られる9個のSパラメータ
と9個の誤差項
8
適切なマルチポート・ソリューションの選択
結論
マルチポート・デバイスは、デザインも機能も多岐にわたるため、
所定のアプリケーションに対して最適なソリューションを選択す
るのは困難です。システムにどれだけ測定の柔軟性が必要である
か検討することをお勧めします。製造では、フル・クロスバー・
システムの柔軟性を犠牲にすると、最もコスト効率が高くなる場
合があります。デバイスの測定経路があらかじめ定義されるので、
そのデバイスのテスト専用にテスト・セットをデザインすること
ができます。許容可能な不確かさのレベルを決定する必要があり
ますが、おそらく実行中の測定に対しては、2または3ポート誤差
補正で十分です。もう1つの検討事項がユーザ・インタフェース
の使いやすさです。校正手順、測定セットアップ、パラメータの
表示方法、測定データのエクスポートの容易さはすべて、日常の
システムの使用に影響します。
通信システムでは、マルチポート・デバイスがより一般化し、広
く使用されるようになっています。モジュールの統合が増え、よ
り複雑化しています。こうしたデバイスに固有の問題を理解する
ことが重要です。マルチポート・テスト・ソリューションには、
こうしたデバイスのテストに対する3つの重要な利点があります。
マルチポート・テスト・ソリューションを使用すると1回の接続
で複数の信号経路をテストできるので、測定スループットを改善
できます。これは、デュプレクサの同調やテストなど、2つの経
路を同時に表示しなければならないときには特に便利です。マル
チポート・テスト・システムでは、動作中のデバイス性能の全体
像をもっとも良く把握することができます。ミックスドモードS
パラメータからは、他では失われてしまう差動デバイスのコモ
ン・モードおよびモード変換性能に関する情報が得られます。ま
た、マルチポート校正により、2ポート・ネットワーク・アナラ
イザと同じ容易さと確度でマルチポート・デバイスをテストでき
るようになります。
9
用語集
マルチポート・デバイス: 3つ以上のポートを持つデバイスです。
マルチパス・デバイス: 複数の信号経路を持つデバイスです。
シングルエンド: 共通グランドを基準とします。
平衡または差動: 2つの信号が互いを基準とします。
コモン・モード: 2個の差動端子に共通の信号です。
フル・クロスバー・テスト・セット: ポート間の測定経路をすべて確立できるため、最も柔軟なデザインです。
スイッチマトリクス・テスト・セット: 複数のデバイス測定経路間で、ネットワーク・アナライザのテスト・ポートを多重化するため
にデザインされたテスト・セットです。
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関連文献
『Concepts in Balanced Device Measurements』、Application Note 1373-2、カタログ番号5988-5635EN
『ネットワーク・アナライザ測定に対する誤差補正の適用』、Application Note 1287-3、カタログ番号5965-7709J
『S-Parameter Techniques for Faster, More Accurate Network Design』、Application Note 95-1、カタログ番号5952-1130
(www.agilent.comで対話式のApplication Note 95-1もご覧ください)
『Agilent ENAシリーズ 2、3、4ポートRFネットワーク・アナライザ』
、Brochure、カタログ番号5988-3765JA
『Agilent Introduction to the Fixture Simulator Function of the ENA Series RF Network Analyzers: Network De-embedding/Embedding and
Balanced Measurements』
、Product Note、カタログ番号5988-4923EN
『Agilent PNAシリーズ RF/マイクロ波ネットワーク・アナライザ』
、Brochure、カタログ番号5968-8472J
『High Performance Testing of Wireless Handset Front-end Modules』、White Paper、カタログ番号5988-4398E
『平衡コンポーネント用測定ソリューション』、Product Overview、カタログ番号5988-2186JA
『Agilent 87050E 50Ωマルチポート・テスト・セット』
、Brochure、カタログ番号5968-4763J
主なWebリソース
Agilentの平衡ソリューションの詳細については、以下をご覧ください:
www.agilent.com/find/balanced
以下の当社のコンポーネント・メーカ業界エリアをご覧ください:
www.agilent.com/find/component_test
参照文献
[1]『S-Parameter
[2]
Techniques for Faster, More Accurate Network Design』、Application Note 95-1、カタログ番号5952-1130
D. E. Bocklemann and W. R. Eisenstadt、『Combined Differential and Common-Mode Scattering Parameters: Theory and Simulation』、
IEEE Transactions on Micr wave Theory and Techniques、Col.MTT-43、July 1995
[3]『ネットワーク・アナライザ測定に対する誤差補正の適用』
、Application
Note 1287-3、カタログ番号5965-7709J
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サポート、サービス、およびアシスタンス
アジレント・テクノロジーが、サービスおよびサポートにおいてお約束できることは明確です。リス
クを最小限に抑え、さまざまな問題の解決を図りながら、お客様の利益を最大限に高めることにあり
ます。アジレント・テクノロジーは、お客様が納得できる計測機能の提供、お客様のニーズに応じた
サポート体制の確立に努めています。アジレント・テクノロジーの多種多様なサポート・リソースと
サービスを利用すれば、用途に合ったアジレント・テクノロジーの製品を選択し、製品を十分に活用
することができます。アジレント・テクノロジーのすべての測定器およびシステムには、グローバル
保証が付いています。製品の製造終了後、最低5年間はサポートを提供します。アジレント・テクノ
ロジーのサポート政策全体を貫く2つの理念が、「アジレント・テクノロジーのプロミス」と「お客様
のアドバンテージ」です。
アジレント・テクノロジーのプロミス
お客様が新たに製品の購入をお考えの時、アジレント・テクノロジーの経験豊富なテスト・エンジニ
アが現実的な性能や実用的な製品の推奨を含む製品情報をお届けします。お客様がアジレント・テク
ノロジーの製品をお使いになる時、アジレント・テクノロジーは製品が約束どおりの性能を発揮する
ことを保証します。それらは以下のようなことです。
● 機器が正しく動作するか動作確認を行います。
● 機器操作のサポートを行います。
● データシートに載っている基本的な測定に係わるアシストを提供します。
● セルフヘルプ・ツールの提供。
● 世界中のアジレント・テクノロジー・サービス・センタでサービスが受けられるグローバル保証。
お客様のアドバンテージ
お客様は、アジレント・テクノロジーが提供する多様な専門的テストおよび測定サービスを利用する
ことができます。こうしたサービスは、お客様それぞれの技術的ニーズおよびビジネス・ニーズに応
じて購入することが可能です。お客様は、設計、システム統合、プロジェクト管理、その他の専門的
なサービスのほか、校正、追加料金によるアップグレード、保証期間終了後の修理、オンサイトの教
育およびトレーニングなどのサービスを購入することにより、問題を効率良く解決して、市場のきび
しい競争に勝ち抜くことができます。世界各地の経験豊富なアジレント・テクノロジーのエンジニア
が、お客様の生産性の向上、設備投資の回収率の最大化、製品の測定確度の維持をお手伝いします。
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July 3, 2002
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