Comments
Description
Transcript
体力不足が登山事故を招く
健康によい登山 大阪府山岳連盟遭難対策委員会主催 (2013,11,16 大阪) 体力不足が登山事故を招く 登山を始めてから健康面でよくなったこと・悪くなったこと 現代の登山者に見られる体力の弱点とトレーニングの盲点とは? 鹿屋体育大学 256人の中高年登山者からの回答 山本正嘉 80% <テーマ> 回答者の割合 1.日頃からの体づくり 普段のトレーニングの再点検 2.故障を防ぐ ひざと腰のケア 3.登山中の元気を保つ 山でのエネルギーと水の補給、 低体温症、高山病対策 病気: カゼ,胃腸,血圧,糖尿病,ぜんそく,等の改善 70% 体力・健康: 疲れにくくなった,食欲が出た,快眠,など 60% 精神面: ストレス解消,生活の充実,友人ができた,など 50% 40% ほとんどが膝痛と腰痛 30% 20% 10% 4.自分の実力を知る方法 3000m級の山や健脚コースでも 安全・快適に歩けるように 弱点チェックシートを使う 0% 良くなった Ainsworthら,2000より作成 ①運動強度が高い + ②時間も長い から (山本,登山医学入門:5章,2006) 山 頂 上 り 下 り 心拍数( 拍/分) 上手に行えば・・・ ・体力の増進 ・健康の改善 ・精神的な充実感 160 4時間の登山 (鹿児島県・高隈山) 運 *メッツとは, 安静時の何 倍のエネル ギーを使うか を意味する 120 上手に行えないと・・・ ★疲労 ★つらくて不快 ★故障、不健康 ★事故! 1時間の平地 ウォーキング 80 0 1 2 3 運 動 時 間 動 生活活動 寝る,座る,立つ,食事,入浴,デスクワー ク,車に乗る, 1メッツ台 2メッツ台 ストレッチング,ヨガ,キャッチボール, ゆっくり歩く,立ち仕事, 3メッツ台 やや速く歩く,軽い筋力トレーニング,ボー リング,バレーボール,室内で行う軽い体 操, 普通に歩く~やや速く歩く,階段を下りる, 掃除, 4メッツ台 速歩き,水中運動,バドミントン,ゴルフ,バ レエ 速歩き,自転車に乗る(時速16km以下), 高齢者や障害者の介護,庭仕事 140 100 特になし 登山の「きつさ」は、他のどんな運動に相当する? 登山が健康によい理由 180 悪くなった 5メッツ台 かなり速く歩く,野球,ソフトボール かなり速く歩く,子供と遊ぶ,動物の世話 ハイキング→ 6メッツ台 ジョギングと歩行の組み合わせ,バスケット ボール,水泳(ゆっくり),エアロビクス 家具の移動,スコップで雪かきをする, 健脚登山→ 7メッツ台 ジョギング,サッカー,テニス,スケート,ス キー 雪山・岩山→ 8メッツ台 ランニング(分速134m),サイクリング(時速 20km),水泳(中くらいの速さ) 9メッツ台 10メッツ台 ランニング(分速161m),柔道,空手,ラグ ビー, 11メッツ以上 階段を駆け上がる(15メッツ),速く泳ぐ(11 メッツ) 4 重い荷物を運ぶ,階段を上がる, 荷物を上の階に運ぶ ★たとえハイキングであっても,ジョギング的な強度を含んでいる 1 テーマ1.疲労・事故を防ぐための体づくり 中高年登山者の山でのトラブル発生状況 「中高年安全登山指導者講習会」の参加者164名のデータ 山岳県・長野県での登山事故 (平成24年度) 心肺能力の不足 (長野県警地域課資料) 不明・その他(7%) 脚力の不足 落石・雪崩・落雷(5%) ★中高年の事故が多い ★転ぶ事故が多い. つまづき,浮き石に乗る,踏 み外し,スリップ,バランスを 失うなど. 疲労・ 凍死傷 (6%) 道迷い (10%) 転落・滑落 ・転倒 (61%) 病 気 (12%) ★自分の場合はどうか, チェックしてみよう (若い人でも,トラブル状況 は中高年と同じです) ついていけない ★下り道で多発 ★病気による事故も増加 約4時間以下 ★「病気」→心肺能力が低い ★「転ぶ事故」→脚力が弱い 山本と西谷, 登山研修,2010年 中高年登山者(リーダー層)の体力レベル 中高年安全登山指導者講習会での結果 (男女とも平均年齢は59歳) 測 定 項 目 脚筋力(30秒間椅子立ち上がり) 男 性 (88名) 5~6時間 7時間以上・・・・・・歩行時間 1000m以上・・・・・累積の標高差 (上り・下り) ★健脚向けコースでは、体力に不相応な登山をしている人が多い 約500m以下 500~1000m トレーニング方法を見直してみよう 「やってはいるが,登山には役立っていない」ケースが多い 女 性 (76名) 測定値 体力年齢 測定値 体力年齢 33.1回 20歳+ 31.6回 20歳+ 腹筋力(30秒間上体起こし) 21.4回 35歳 14.2回 37歳 バランス能力(開眼片足立ち) 57.7秒 49歳 59.5秒 46歳 柔軟性(長座体前屈) 37.3cm 50歳 40.1cm 48歳 ★同年代の一般人と比べると,かなり優れているが,・・・・ 「健脚コース」に必要な体力を十分持っているとはいえない. ウオーキングに効果がない訳は? 階段登りに効果がない訳は? 運動時間はよいが,負荷が弱すぎる 負荷はよいが,距離が短すぎる ★一般の人が 「健康のため」 にやっているやり方では,山では通用しない! → 「登山仕様」 のやり方を工夫することが必要 2 「登山仕様」とはどういうことか? トレーニングの見直し方 目的とする山の負担度にあわせてトレーニングを組み立てる 「登山仕様」とは? + 1)目指す山をはっきりさせる その上で、 2)その山を登っている時と同じような負荷をかける ★開聞岳登山の負担度 ・運動時間: 4時間弱 ・歩行距離: 8.5km ・登高距離: 800m上る ・下降距離: 800m下る ・荷物の重さ: 5kgくらい ★六甲山には六甲山のための、槍ヶ岳には槍ヶ岳のための、 富士山には富士山のためのトレーニングが必要 =シミュレーショントレーニング (リハーサルと言ってもよい) ★健康のための負荷 ・30分 ・3km ・0m ・0m ・0kg ・階 段 ・坂 道 ・荷 物 ・筋トレ など、 登山仕様 にするため の負荷 ★登山のための負荷 →60分(1ピッチ分) →6km →坂道や階段を上る →坂道や階段を下る →5kg +筋力トレーニング 目的とする山で要求される体力と,普段の 体力トレーニングとの間に,大きなギャップ があるために,山でトラブルが起こる 持久トレーニング(平地ウォーキング)の改善例 白馬岳縦走の場合 坂道ウォーキング 160 心拍数( 拍/分) 150 140 実際の登山に おける心拍数 130 120 6時間の激しい運動後,3000mに近い高度で宿泊 110 平地ウォーキング 100 90 0 10 20 30 時 40 50 60 間 (分) ★平地ではなく坂道のウオーキングに変えると登山仕様になる. 坂道ウォーキングは脚力を鍛える効果も大きい 山と渓谷社のガイドブックより 3 <白馬岳登山に必要な体力> <改良した日常トレーニング> ・歩行時間:1日に6~7時間 ・歩行距離:1日に7~12km ・期 間:2日間連続で歩く ・荷物の重さ:10kgくらい ・登降量:1日目は1700m以上上る 2日目は2000m以上下る 坂道歩行+筋トレに変更 ・歩行時間:1時間 ・歩行距離:6km ・登高量:上り・下りとも150m +筋力トレーニング(スクワットなど) ★それでもやはり,普段のトレーニング だけでは足りない.そこで・・・・ 近郊の山での定期的な登山 たちうち できてくる ・歩行時間:4時間 ・歩行距離:8.5km ・荷物の重さ:わざと10kg背負う ・登高量:上り下りとも800m ★目標とする山をシミュレーションした負荷 をかける(荷物を重くする,荷物が軽い時に はわざと速く歩く,2日間連続で行く,など). 2週間に1回のペースで,夏山までに3回は 行っておきたい. キリマンジャロ登山のための「カルテ」 日 程 1日目 行 程 標 高 登山口 1700m →マンダラハット →2700m 登高距離 歩行距離 歩行時間 1000m登り 12km 4~5時間 1000m登り 15km 6~7時間 なし なし なし 15km 6~7時間 8~9時間 2日目 →ホロンボハット →3700m 3日目 休養日 3700m 4日目 →キボハット →4700m 1000m登り →登頂 →5895m 1200m登り 6km →ホロンボハット →3700m 2200m下り 21km 7時間 (計3400m) (計27km) (計15~16時間) →登山口 →1700m 2000m下り 27km 6時間 合 計 上り+下りで 約8400m 合 計 約96km 合 計 37~41時間 5日目 6日目 最高高度 約5900m 順化の要素 体力の要素 身につける ものの重さ (10kg前後) ★キーワードは「シミュレーション」 「リハーサル」 スポーツ選手のトレーニングは、上のような考え方で行われている 登山のための体力トレーニングの着目点 目的としている山では ★いずれも、どれくらいの負荷がかかるのかを,具体的な数値で明確にする. そして,現状の体力レベルやトレーニング内容とのギャップを明確にし,その 部分を補完するためのトレーニングを追加する. ★これらは,頭で考えているだけでは明確にならない.紙とペンで書き出して みることが重要. 三浦雄一郎式のシミュレーション 「ヘビー」ウォーキング 街でのウォーキングをエベレスト仕様に変える (5年がかりで徐々に) ザック:20-30kg 右足:靴2kg+重り5kg 左足:靴2kg+重り5kg 計:34~44kgの負荷 (+20kgの体脂肪も?!) 体重あたりの脚筋力 ・1日に何mの標高差を登る/下るのか? ・1日に何km歩くのか? ・1日に何時間歩くのか? ・荷物は何kgくらいか? ・何日間連続で行動するのか? ・高度,雪,低温,高温,乾燥,日射などの環境は? ・食事,宿泊等の生活環境は? ★高所順化の問題以前に,まず強い体力が必要 4 三浦敬三さんの場合 自分の体重を負荷した筋力トレーニング 基本はやはり 「筋トレ+ウォーキング」 + 時にはジョギングも! 現代の登山者の「最大の弱点は筋力不足」にある.特に中高年になると、筋力が 落ちてくるので、自分の体重を負荷とした筋力トレーニングが重要となる スクワット →ふともも(大腿四頭筋) 敬三流ウォーキング 敬三さんの普段の歩幅=74cm これは彼の身長(155cm)の48%に相当 ゴムチューブを使ったスクワットを70回 近所を4kmくらいウォーキング&ジョギング →普通の人の歩幅は身長の約37% かなり速いウォーキング時で約50% 筋力のよしあしは登山能力に直結する (山本と西谷,登山研修,2009) 上体起こし →腹 筋 ①最初は 10回×3セット・・・これを週に3回程度行う これができない人や、できても筋肉痛になった人は「転倒予備軍」 ②慣れたら 15回×5セット・・・これを週に3回程度行う これが楽にできるようになれば,北アルプスなども快適に歩けるようになる 下界でできる簡単な体力テストとその目標値 脚筋力や腹筋力が高い人ほど、早く、楽に歩ける 測定項目 脚筋力 上体起こし(回) 脚筋力(kg/kg) 1.0 0.8 0.6 0.4 0.2 0.0 きつい 普通 楽 * 35 30 25 20 15 10 5 0 * スクワット運動を10回×3 セット楽にでき,運動後に 筋肉痛にならない 左の条件で15回×5セット できる 腹 筋 力 上体起こし運動を10回×3 セット楽にでき,運動後に 筋肉痛にならない 左の条件で15回×5セット できる バランス能力 きつい 普通 楽 目標体力 (健脚コース) 脚 筋 力 腹筋力 * 1.2 最低体力 (一般コース) 片足立ちで(目は開けて) 左右とも10秒間以上安定し 左の条件で20秒間できる て立っていられる ★経験的な数値であり、絶対的なものではありませんが、このような試案を元に、いろいろ な人の意見を集めていけば、よい基準ができていくと思いますので、ご意見をください。 5 近郊の低山歩きは最良の持久トレーニング ・・・トレーニング+体力テストにもなる 登山者に必要な自重負荷の筋トレ さまざまな種目があるが、★をつけたものは特に重要 (大腿四頭筋と腹筋群) 「六甲タイムトライアル」 (関西山岳ガイド協会) 標高(m) ★もっとハードな登山をしたい 人は、1時間で500mの上昇を目指す ★近郊の山にトレーニングコースを 設定し、以下のような基準タイムを作 っておくとよい ★太もも前面 (大腿四頭筋) ふくらはぎ 足首周りの筋 (下腿三頭筋) Cランク:3時間30分以内で歩ける人(〃:290m以上) ・・・低山ハイキングなら問題ない Dランク:3時間31分以上かかる人(〃:290m以下) ・・・山を登るためにはもう少し体力が必要 ★腹筋群 年 齢 年間登山回数(回) 年齢(歳) →強い関係あり 体力不足 まあまあ よい 非常によい 30 ≦2:30 A A B 2:31〜3:00 B 3:01〜3:30 C 3:31≦ D 2時間30分以内 2時間31分~3時間00分以内 ・下界のテストは数分で終わってしまうが、山では何時間も歩く.だから,下界での体力テ スト成績がよいだけでは安心できない.なんといっても,山での行動能力そのものが、最 も正しい体力テストになる。低山トレーニングの時に、歩行能力を試してみるとよい。 60 測定項目 最低体力 (一般コース) 目標体力 (健脚コース) 歩行能力 標準コースタイムどおりに 余裕を持って歩ける 標準コースタイムの8割程 度のタイムで,余裕を持っ て歩ける 登高能力 1時間当たり(休憩も含む) 同じく400mを余裕を持って で、標高差300mを余裕を 登れる 持って登れる 40 20 0 0 ≦2:30 A 2:31〜3:00 B 3:01〜3:30 C ★トレーニングであることを意識して、 コースタイムより少し速く歩く ★1時間で400mの上昇率を目標に ★テスト兼よいトレーニングにもなる 登山中にできる簡単な体力テストとその目標値 年間登山日数 80 →タイムに関係なし 60 距離(km) Aランク:2時間30分以内で歩ける人(上昇率:1時間あたり400m以上) ・・・夏のバリエーションルートや雪山の一般ルートも問題なく登れる Bランク:3時間00分以内で歩ける人(=コースタイムを切れる、上昇率:333m以上) ・・・北アルプス等の無雪期の一般ルートなら問題なく登れる 「六甲タイムトライアル」の成績を決定づけていた要因とは? 90 六甲山 ロックガーデンコース <体力の評価基準> 肩の筋 腕,胸の筋 ・コースタイム:3.0時間 ・水平距離:6.3km ・上り距離:984m ・下り距離:114m 3:31≦ D C 3時間01分~3時間30分以内 D 3時間31分以上 ★年齢・性別や経験年数ではなく、現在、どれくらいの頻度で登っているかが重要 →低山でもよいから2週間に1回 ≓ 1年間に30日以上の山歩きを目指す ★このほかにも、「15kgを余裕を持って背負える」「8時間くらいは余裕を持って歩き続け られる」、などの能力が考えられる。 ★近郊の山で、「体力テストコース」をつくり、「基準タイム」を設定するとよい。 6 テーマ2.故障を防ぐ・・・中高年登山者が抱えている障害や持病とは? 623名の中高年登山者 に尋ねてみると・・・ 持病・障害が ない:297人(48%) ある:326人(52%) 半数以上がトラブルを抱えている ■筋力トレーニング 膝まわりの筋力を鍛えて,関節をガードする(週3回程度) スクワットは10回×3セットから.慣れたら15回×5セットを目標に 1.膝関節痛 131人 (21%) 2.腰 痛 96人 (15%) 3.高血圧症 74人 (12%) 4.白・緑内障 23人 (4%) ■ストレッチング 5.胃 腸 病 21人 (3%) 6.糖 尿 病 20人 (3%) 膝まわりの筋の柔軟性を確保して, 関節へのストレスを緩和する. 毎日行う.登山の前後にも行う. 7.心 臓 病 16人 (3%) 8.低血圧症 16人 (3%) 9.肝 臓 病 10.そ の 他 10人 (2%) <膝痛の対策> ■サプリメント グルコサミン,コンドロイチンで軟骨の形成促進 59人 (10%) ★膝関節痛、腰痛が最も多く,次いで高血圧症が多い ■ストレッチング ■筋力トレーニング 上体起こし(腹筋)運動で,腰まわりの 筋を強化し,関節を守る (10回を3セット,週に3回, 慣れたら15回を5セット,週に3〜5回) 腰背筋の柔軟性を確保し,関節へ のストレスを緩和する(毎日) 普段のトレーニングは、1週間単位でメリハリをつけて組み立てる ○登山自体も体力トレーニングと考える.山によく行く人は日常のトレーニングは 少なくし,あまり行かない人は多くする ○トレーニングは,複数の種目をミックスして行う ○ストレッチングは毎日行う ★自分のトレーニング 方法を再点検してみよう ○日によってトレーニングに強弱をつける ○休養日もつくる(週に1〜2日は休む) ○登山の前日は完全休養し,エネルギー充填のために炭水化物を多く摂る ○登山の翌日は積極的な疲労回復のため「ごく軽い」運動をする (ストレッチング、散歩、水泳など) 腰にクッションを 入れるとよい <腰痛の対策> 普通に ■腰のサポーター 山ではザックの腰 ベルトが代用となる 「人工腹筋」の役割を果たす. 電車,車,飛行機など,長時間 の移動中に使用すると快適 ごく軽い運動 (積極的な 疲労回復) 月 登山 (本番) 普通に 軽めに 休養日 火 水 木 金 完全休養 栄養補給 土 日 7 テーマ3.山に行ってからの疲労・トラブル対策 登山事故の発生時刻 「疲労」は1種類ではない・・・予防法も対策も異なる +低体温症と高山病 これらは前述の体力 トレーニングで強化 ・筋肉が動かなくなる ・脳や神経系の働きが低下 ・低体温症にもなりやすい 事故の件数 A.上りで起こる疲労(オーバーペース) B.下りで起こる疲労(筋肉の疲労) C.エネルギーの欠乏による疲労 D.水分の欠乏による疲労 (日本勤労者山岳連盟資料) 午前と午後にピークがあり,12時台には一旦減少する →エネルギーや水分の不足が関わっている? ・行動能力の低下 →持久力や筋力が低下 ・体温が上がる →熱中症 ・心拍数が上がる →心臓に負担,高血圧の 人はとくに要注意 ・血液がドロドロになる →心筋梗塞,脳梗塞 ・脳や神経の働きが低下 →集中力,短期記憶の低下 <疲労対策> エネルギーと水分補給の指針 一般的な登山コースを標準タイムで歩く場合,おおよそ以下の式が当てはまる ・エネルギー消費量(kcal)=体重(kg)×行動時間(h)×5 ・ 脱 水 量 (ml) =体重(kg)×行動時間(h)×5 ★自分の場合について,計算してみよう 計算例) 体重60kgの人が6時間の登山をすると, 60kg×6時間×5 =1800kcal,1800ml ★上記の量の7~8割を食べたり、飲んだりする ・上の例では,1300~1500kcal、1.3~1.5リットルとなる 一部は出発前に補給しておくとよい ・水分補給は少なくとも1時間に1回, エネルギー補給は2時間に1回行う ・3時間以上の登山では,塩分の補給も重要 塩気のある食べ物,スポーツドリンクなど 時 刻 例) 富士登山時のエネルギーと水の補給量は? ・吉田口五合目から往復した場合,上り5時間,下り3時間で,計8時間 ・体重60kgの人の場合 エネルギー消費量=60kg×8時間×5=2400kcal 脱 水 量 = 60kg×8時間×5=2400ml ■上記の7割の補給をするとした場合 ☆エネルギー・・・1680kcal (おにぎり10個分) ☆水・・・・・・・・・1680ml ■その一部は出発前に補給しておく ☆エネルギー・・・500kcalくらい ☆水・・・300mlくらい 行動中に補給する量 ・エネルギー:1180kcal(おにぎり7個に相当)・・・・・最低でも2時間ごとに補給 ・ 水 :1380ml・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・最低でも1時間ごとに補給 8 低体温症 冷水中での生存曲線 (トムラウシ山遭難はなぜ起きたのか:5章,2010) 生存時間( h ) 体の中心部の体温が35度以下になった状態 =疲労凍死ではない →夏山でも起こる トムラウシ山遭難の例 気温:6℃前後 風冷効果はマイナス10℃以下になる 歩行に必要な体力やエネルギー は2倍以上になる 風速:15~18m程度 (GiesbrechtとWilkerson,2006) 太った女性(体脂肪率32.3%) 太った男性(28.1%) やせた女性(19.0%) やせた男性(14.3%) 寒いと発揮できる筋力も低下してしまう 降水:雨~霧雨 この気温でずぶ濡れ状態が続く と,1~3時間で死亡する *このような気象条件は,夏でも北海道 はもとより,北アルプスでは珍しくない *春・秋・冬ならば、低山でも起こる 水温(℃) ★どんなに体力がある人でも,このような過酷な自然条件に長時間耐えることは不可能. ★濡れないようにする,暖かい服を着る,食べ物(エネルギー)を補給する,といった 「行動的(文化的)な適応」をすることが何よりも大切. ★最良の行動的・文化的適応とは,このような日には登山をしないこと . ★やせた人では、20℃以下の水温の水に浸かれば死亡する危険がある. ★やせている女性よりも、太っている男性の方が有利 →衣類の着方に類推できる ★つまり、体脂肪のある人はかなり有利ということ テーマ4.自分の実力を正しく認識するために 高山病・・・2500m以上での登山は「高所登山」! 高山病(急性)とは・・・ 頭痛に加え、吐き気、めまい、疲労感、睡眠障害などがある トムラウシ遭難時の外気温 自分の体の弱点チェックをする= 登山記録の「身体版」を作る 登山の未経験者が、鹿児島県の山に登った時の例 3376m ①今回の登山の反省点 ②今後に向けての改善案 登山中および登山後の身体トラブル 2400m以上になると高山病の発生は目立 って多い.命に関わる重症高山病も起こ る.高山病の程度は,日中に到達した高 度ではなく,睡眠時の高度の影響が大。 高 所 2400m 2400mまでならば、通常は高山病は起こ らない。ただし、心肺能力の低い人、高所 に弱い人、普通の人でも体調が悪い時( カゼなど)では,起こることもある. 富士山五合目、立山室堂 乗鞍岳、西穂高岳、 唐松岳などの 登山開始地点 準高所 1500m 1500m以下の山では、高山病 は起こらない 0m ★乗り物で高いところまで行ける山、麓から容易に登れる山では起こりやすい ★低地から、一気に高所に上がって泊まらないようにする(途中で準高所に泊まる) ★それができない場合には、あらかじめ準高所の山に行って、身体を慣らしておく 低 地 コースの 体力度 ランク コースの 体力的な 負担度 ①金 峰 山 (636m) 初心者 向け 水平:1.3km 上昇:160m 下降:160m ②野 間 岳 (591m) 初心者 向け 水平:2.8km 上昇:230m 下降:230m 2 ③飯盛山・愛 宕山(485m) 初心者 向け 水平:4.5km 上昇:300m 下降:300m 1 ④開 聞 岳 (924m) 一 般 向け 水平:8.5km 上昇:815m 下降:815m 山 名 筋肉 痛 3 (脚) 1 (上半 身) 下りで 脚が ガクガ クにな る 膝の 痛み 2 登りで 心臓 や肺 が苦し い 筋肉 の痙 攣 腰の 痛み その 他 ①平地でのウォーキングしかして いなかった ②ウォーキングコースに坂道を取 り入れる(週に5-6回),脚力の 強化(階段上り時に意識的に) 3 2 3 ①これまでのトレーニング の反省点 ②今後の解決策 アキレ ス腱 (左) ①登山に適した歩き方ができてい なかった ②登山の歩行技術の習得 なし 3 ①坂道ウォーキングと階段での脚 力強化だけでは不十分な可能性 がある ②スクワットによる脚力の強化を 加える *トラブルについては0~3で評価 (0:なし,1:ややあり,2:あり,3:非常にあり) ★身体のトラブルは,登山経験,トレーニング,対象とする山の負担度により,次々に変化していく. ★そこで,毎回それを視覚化した上で,その解決方策を実行すること(PDCA)が重要。 9 ある初心者の例 人体図を使った体の弱点チェック ①金峰山(初心者向け) ③飯盛山・愛宕山(初心者向け) まとめ 特に、大きな山に行く前には、必ず実行して下さい 1) 日常では、筋力のトレーニングに最重点を置く 筋肉痛 3 3 3 3 3 ・自分の体重を負荷とした筋トレを、週に2~3回行う ・スクワットと上体起こしを、15回×5セットずつ、楽にできる事を目指す →登山中の疲労を防ぐとともに、膝痛や腰痛の予防・改善にもなる 2) 近郊の低山で、トレーニングとしての登山を励行する 3 ・最低でも2週間に1回は行く(年間30日以上)。または本番前に最低3回は行く ・コースタイムより少し速く歩く (1時間で400mの上昇能力をめざす) ・本番同様の負荷も時々経験しておく(荷物を重めにする、長い時間歩く、など) ・エネルギーと水分補給のリハーサルをする(体重×行動時間×5の式で) ④開聞岳(一般向け) ②野間岳(初心者向け) 2 1 2 3) 登山後には毎回、自分の体の弱点チェックをする 3 膝関節痛 ・「筋肉痛」「下りで脚がガクガクになる」「膝痛」などのトラブルチェック ・トラブルを解決するためのトレーニングを考え、実行する ・次の山で、前回のトラブルが解決されたかをチェックする 筋肉痛 アキレス腱(左) 腰または 筋肉の痛み 参考図書 『登山の運動生理学百科』 東京新聞出版局,2000年 (特に1~4章) 『トムラウシ山遭難は 『登山医学入門』 なぜ起きたのか』 山と渓谷社,2006年 山と渓谷社(ヤマケイ (特に5章:運動生理学) 文庫),2011年 (5章:運動生理学) 10