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2 最近の住宅ローンの貸出動向について

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2 最近の住宅ローンの貸出動向について
2 最近の住宅ローンの貸出動向について
-「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」から-
住宅金融支援機構 業務推進部 調査役
峰村 英二(みねむら えいじ)
早稲田大学政治経済学部を卒業後、筑波大学大学院、多摩大学大学院でベイズ統計学、計量経済学、ファイナンス理論などを学ぶ。
博士(経営情報学)
、修士(経済学)、日本証券アナリスト協会検定会員補。日本ファイナンス学会、日本金融・証券計量・工学学会各会員。
公 刊 論 文:Minemura, E. (2006),“An Interest-rate Model Analysis Based on Data Augmentation Bayesian Forecasting”,
Journal of Applied Statistics, 33,(10),「 階層的ベイズモデルによる金利モデル分析」
(2007 年6月)
、
『 日本ファイナンス学会第 15 回
大会予稿集 』所収、
「 動的線形モデルに基づくファット・テール分布の確率測度変換 」
(2013 年2月;共著)
、
『 経営・情報研究多摩大
学研究紀要No. 17』所収ほか多数。住宅総合調査室、調査部等を経て、2015 年4月より現職。
[概要]
◦本稿は、住宅金融支援機構が2015年3月に公表した「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」の調査
結果の中からポイントを絞り、いくつかの調査結果を紹介するものである。
◦金利タイプ別の住宅ローン貸出実績(2013年度実績)では、新規貸出で「変動金利型」のシェアが減少した
一方で、
「10年固定」のシェア増加が目立っている。他方、貸出残高では、
「変動金利型」のシェア増加が
目立っている。
◦住宅ローン新規貸出額の対前年度増減をみると、全体的な傾向は、
「大幅増」
、
「増加」とした割合が「減少」
、
「大幅減少」とした割合を上回り、
「大幅増」
、
「増加」とした割合が拡大する傾向が続いている。ただし、新規
貸出額に占める借換割合の平均値は低下した。
◦住宅ローンに関して今後とも積極的に取り組むと回答した金融機関に対して、その理由を尋ねると、
「貸出残
高増強」
、
「家計取引の向上」
、
「住宅以外の貸出伸び悩み」の回答割合が大きい。また、積極的に取り組む際
の方策を尋ねると、
「商品力強化」
、
「借換案件の増強」
、
「金利優遇拡充」
、
「営業体制強化」などが上位にある。
なお、今後重視する商品は、
「新築向け」
、
「借換」
、
「リフォーム」
、
「中古住宅向け」などである。
◦懸念する住宅ローンのリスクは、
「金利競争に伴う利鞘縮小」が最も多く、次いで、
「中長期的な採算性悪化」
、
「他機関への借換」などとなっている。今回調査では、前回調査で3位の「中長期的な採算性悪化」が「他機
関への借換」と入れ替わり、2位となった。
1. はじめに
はじめに
金利優遇を活用した営業推進の展望等の項目について
尋ねた結果を取りまとめたものである1。
住宅金融支援機構は、2015年3月に「2014年度 民間
本項では、この調査結果の中からポイントを絞り、い
住宅ローンの貸出動向調査結果」を公表した。これは、
くつかの調査結果を紹介する。
民間住宅ローンを取り扱う金融機関に対してアンケート
調査を行い、金利タイプ別の住宅ローン貸出実績、住
宅ローン新規貸出額の対前年度増減、住宅ローンへの
取組みに関する意識、審査に関する事項、証券化の実績、
2. 金利タイプ別の住宅ローン
はじめに
貸出実績
金利タイプ別の住宅ローン貸出実績(2013年度実績)
1 調査時期は、2014年10月30日~11月28日、調査対象機関は、都市銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、モー
ゲージバンク・その他から構成される333機関で総回答数は311、回収率93.4%。
30
[レポート2]最近の住宅ローンの貸出動向調査について
図表1 金利タイプ別の貸出実績(金額加重平均)
新規貸出0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
2.0%
58.2%
100%
5.4%
2.9%
23.8%
5.6%
1.4%
0.4%
2012年度
n=222
68.4%
2011年度
n=226
0.7%
67.8%
2010年度
n=216
6.4% 2.4%
0.7% 6.6%
59.2%
0.4% 6.0%
5.5%
変動金利型
2年固定
3年固定
2011年度
n=213
2010年度
n=198
3.2%
5年固定
10年固定
その他(10年未満)
18.0%
0.4%
0.2%
24.5%
10年超
3.9%
0.6%
0.3%
0.3% 3.1%
3.7%
全期間固定型
全期間固定型
1.0%
2013年度
n=213
2012年度
n=206
17.1%
固定期間選択型
変動金利型
貸出残高
90%
0.7%
2013年度
n=229
1.0% 6.2%
61.0%
4.2%
21.6%
4.2%
0.8%
0.9%
52.4%
1.0%
54.0%
48.3%
9.2%
1.0%
1.3%
5.4%
10.3%
11.6%
6.3%
7.2%
2.2%
25.1%
22.6%
23.9%
1.3%
1.1%
3.7%
1.1%
1.7%
3.3%
4.8%
(資料)住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
では、新規貸出で「変動金利型」のシェアが減少した一
方で、
「10年固定」のシェア増加が目立っている。他方、
貸出残高では、
「変動金利型」のシェア増加が目立って
3. 住
宅ローン新規貸出額の
はじめに
対前年度増減
いる【図表1】
。
次に、住宅ローン新規貸出額の対前年度増減をみると、
この様に、今回の調査によれば、新規貸出と貸出残
全体的な傾向は、
「大幅増」、
「増加」とした割合(50.7%)
高で対照的な結果が得られた。
が「減少」、
「大幅減少」とした割合(23.5%)
を上回り、
「大
新規貸出において、
「変動金利型」のシェアが低下し、
幅増」、「増加」とした割合が拡大する傾向が続いている。
「10年固定」のシェアが高まったことに関しては、昨今の
ただし、業態別にみると、今回調査では、都市銀行・信
低金利傾向の定着や金融当局の指摘等を受けて、従来
託銀行で「大幅増」とする割合が無くなり、「減少」、「大
の「変動金利型」を中心とした住宅ローンの取組み姿勢
幅減」とする割合 (40.0%)が現れるなど、前回とは異な
に変化が生じ、多くの金融機関で「10年固定」の取扱い
る傾向が見られている【図表2】
。
を強化し始めたことが想定される。
一方、貸出残高において、
「変動金利型」のシェアが
高まり、
「10年固定」のシェアが低下したことについては、
4. 新
規貸出額に占める
はじめに
借換割合の分布
大手行を中心として、
「10年固定」の貸出後10年を経過
一方、新規貸出額に占める借換割合は、平均で26.6
した残高部分の金利固定期間終了後の金利タイプ選択
%と前回調査の値よりも減少し、2割台となった。特に、
において、相対的に低利となる「変動型」への選択又は
3年前の調査の借換割合(平均36.7%)と比較すると10
切替えが増えている可能性があると考えられるが、この
パーセントポイント低下しており、足もとの住宅ローン市
点に関しては、その背景、影響等を含め、今後、さら
場において借換え需要が一巡したことが想定される【図
に考察を重ねる必要があるものと思われる。
表3】
。
31
2
図表2 住宅ローン新規貸出額の対前年度比増減
大幅増(10%超)
0%
2012年度 n=268
2011年度 n=267
2010年度 n=270
第
二
地方銀行
信用金庫
信用組合
モーゲージ
バンク・その他
50%
減少(5%超10%以下)
60%
70%
2012年度 n=29
38.5%
7.7%
23.1%
14.3%
57.1%
2012年度 n=7
16.7%
14.3%
16.7%
14.3%
66.7%
2013年度 n=6
20.0%
20.0%
20.0%
40.0%
20.0%
2012年度 n=10
23.1%
30.0%
50.0%
2013年度 n=10
12.5%
31.2%
7.7%
25.0%
31.2%
2013年度 n=16
16.6%
19.0%
9.3%
14.3%
27.9%
9.7%
10.3%
3.4%
25.2%
12.6%
10.9%
12.3%
5.3%
12.9%
12.9%
34.5%
22.6%
27.9%
2012年度 n=147
8.8%
31.6%
10.3%
36.4%
2013年度 n=151
7.0%
33.3%
14.0%
21.1%
41.9%
41.4%
2013年度 n=31
20.0%
20.0%
20.0%
20.0%
40.0%
33.3%
33.3%
2012年度 n=57
100%
14.1%
14.9%
18.4%
30.4%
8.9%
26.3%
10.7%
90%
9.4%
11.6%
11.2%
29.9%
30.7%
12.3%
9.4%
大幅減(10%超)
80%
25.7%
60.0%
2012年度 n=13
労働金庫
40%
14.1%
2012年度 n=5
2013年度 n=57
地方銀行
ほとんど変わらず(±5%以内)
30%
20.0%
2013年度 n=5
都銀・信託
20%
36.6%
31.3%
30.3%
23.7%
2013年度 n=276
全体
増加(5%超10%以下)
10%
(資料)住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
図表3 新規貸出額に占める借換割合とその分布
10%以下
0%
2013年度 n=188
単純平均26.6%
20%以下
10%
30%以下
20%
30%
40%以下
40%
50%以下
50%
60%以下
70%以下
60%
70%
80%以下
80%
80%超
90%
100%
0.5%
11.7%
27.7%
27.1%
15.4%
9.6%
1.6%
0.5%
5.9%
2.8%
2012年度 n=180
単純平均30.3%
8.3%
2011年度 n=183
単純平均34.3%
7.7%
18.9%
24.4%
19.4%
18.9%
3.9% 3.3%
0.0%
2.7%
2010年度 n=179
単純平均36.7%
14.2%
22.4%
16.9%
16.9%
9.8%
1.0%
8.2%
4.5%
6.1%
14.0%
20.1%
17.9%
16.8%
11.7%
1.7%
7.3%
(資料)住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
5. 積極的に取り組む理由、
はじめに
方策及び重視する商品
32
り組む際の方策では、
「商品力強化」
、
「借換案件の増強」
、
「金利優遇拡充」、
「営業体制強化」などが上位にある。
今回の調査では、前回調査2位の「商品力強化」が、
「借
住宅ローンに関して今後とも積極的に取り組むと回答
換案件の増強」と入れ替わり、1位となった【図表5】
。
した金融機関に対し、その理由を尋ねると、
「貸出残高
これらの結果から、従来見られた借換案件の増強に
増強」
、
「家計取引の向上」
、
「住宅以外の貸出伸び悩み」
よる推進がやや劣後し、その一方で、商品力の強化に
などの回答割合が大きい【図表4】。また、積極的に取
よって顧客への訴求力を高めつつ、住宅ローンの貸出を
[レポート2]最近の住宅ローンの貸出動向調査について
図表4 住宅ローンの取組みに関して今後も積極的な理由
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
77.3%
貸出残高増強
72.9%
73.4%
68.1%
64.6%
64.6%
家計取引の向上
42.1%
50.0%
49.4%
住宅以外の貸出伸び悩み
27.5%
26.1%
23.6%
貸倒が少ない
複数回答可
26.7%
23.6%
29.2%
中長期的な収益が魅力
今回調査 n=273
(調査時点:2014年10~11月)
26.0%
20.7%
19.2%
市場シェア拡充
5.9%
5.0%
5.9%
住宅ローンが主たる業務
短期的に収益獲得が可能
前回調査 n=280
(調査時点:2013年9~10月)
前々回調査 n=271
(調査時点:2012年10~11月)
0.7%
0.7%
0.4%
(資料)住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
図表5 今後の積極化方策
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
56.7%
(49.8%)
56.3%
(59.6%)
商品力強化
借換案件の増強
48.9%
(48.4%)
金利優遇拡充
38.1%
(35.4%)
35.9%
(31.0%)
営業体制強化
販売チャネル拡充や見直し
21.1%
(15.2%)
19.3%
(19.1%)
審査期間の短期化
ターゲット層見直し
14.8%
(15.9%)
営業エリア等の拡充や見直し
手数料や諸費用の引下げ
その他
70%
複数回答可
n=270
(注) 括弧内は昨年度の回答構成比
4.1%
(2.9%)
1.1%
(1.1%)
(資料)住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
足掛かりとしてその他のローンや金融商品取引を拡充す
るクロスセル戦略により、家計取引を向上させようとする
方策が重視され始めている様に見受けられる。
6. 住宅ローンのリスク及び
はじめに
懸念される要因
なお、今後重視する商品は、
「新築向け」
、
「借換」
、
「リ
懸念する住宅ローンのリスクは、
「金利競争に伴う利
フォーム」
、
「中古住宅向け」などである。
鞘縮小」が最も多く、次いで、
「中長期的な採算性悪化」
、
「他機関への借換」などとなっている。今回調査では、
前回調査で3位の「中長期的な採算性悪化」が「他機
33
2
図表6 懸念する住宅ローンのリスク
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
金利競争に伴う利鞘縮小
58.4%
中長期的な採算性悪化
49.2%
39.3%
景気低迷による
延滞増加
金利上昇局面における
延滞増加
担保価値の下落
金利下降局面における
繰上返済の増加
ALM管理の困難さ
返済履歴データ整備
53.1%
55.5%
他機関への借換
貸倒引当金の増加による
収益圧迫
100%
92.9%
94.1%
93.4%
6.2%
8.2%
9.5%
5.2%
5.9%
6.9%
4.5%
6.6%
6.2%
2.6%
2.0%
5.6%
20.1%
22.0%
26.6%
63.0%
66.9%
47.9%
63.6%
35.4%
38.0%
33.4%
複数回答可
今回調査 n=308
(調査時点:2014年10~11月)
前回調査 n=305
(調査時点:2013年9~10月)
前々回調査 n=305
(調査時点:2012年10~11月)
(資料)住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向調査結果」
関への借換」と入れ替わり、2位となっており【図表6】
、
ローン金利水準の設定が、通常経費のほか、与信関係
金融機関の多くが利鞘縮小と採算性悪化を懸念してい
費用を含むコスト全般を適切にカバーでき、金融機関の
る。
中長期的な収益構造の強化に関して十分に寄与し得る
7. おわりに
はじめに
か否かについて慎重に検討すべき、とする見方が強まり
つつある。
本 稿では、「2014年度 民間住宅ローンの貸出動向
しかしながら、その一方で、一部の金融機関において、
調査 結果」を基に、金融機関の住宅ローンに関する
住宅ローンを足掛かりとして家計取引を推進するために、
取 組み姿 勢、戦略及び懸念するリスク等について考
独自の審査モデルや生涯収支シミュレーション等を活用
察した。その結果、新規貸出においては、従来見ら
して顧客の信用リスクを把握し、信用リスクに応じたき
れた借換案件の増強策よりも新規 顧客の開拓に重点
めの細かいリスクプライシングを導入することなどにより、
が 移りつつある傾向が示された。しかしながら、商
与信ポートフォリオの質を維持する事例も現れている2。
品 性の向 上と家 計 取 引の向 上を目論 む中で、 依 然
この様な取組みによる住宅ローンの推進は、顧客の
として金利優遇を活用した推進がなされていることから、
属性等に応じたきめ細かいリスク評価に裏打ちされた能
金融機関の多くが利鞘縮小及び採算性悪化を懸念する
動的で主体的なものとなり得る3。そして、この様な方向
傾向にあることについても、改めて明らかとなった。
性を模索し検討することが、住宅ローンのみならず、個
足もとでは、とりわけ住宅ローンが与信ポートフォリオ
人ローン全般のビジネスモデルに変革をもたらす可能性
に大きなウェィトを持つ金融機関において、現行の住宅
があるものと考えられる。
2 例えば、金融庁の「金融検査結果事例集(平成25事務年度版)」では、地域銀行において、
「住宅ローン関連部署が、住宅ローンリスク管理について、審
査モデルと生涯収益モデルを活用し、信用リスクに応じたきめ細かいリスクプライシングを導入する等により、ポートフォリオの質を維持している事例」を
評価している。
3 また、住宅ローンの一部を証券化し手数料収入を得ることによりポートフォリオのリスクと収益のバランスを調整しつつ、併せて、顧客に向けたきめの細か
い与信サービスを行う戦略についても、金融機関の中長期的な収益構造の維持等に関して有効性を持ち得るかもしれない。
34
[レポート2]最近の住宅ローンの貸出動向調査について
今回の調査から得られたいくつかの結果を一つの参
考として、今後とも、わが国の住宅ローン市場に係る研
究及び考察がさらに一層活発になされることを願ってや
まない。
※本稿において、意見に係わる部分は執筆者個人のものであり、
住宅金融支援機構の見解ではありません。
<参考文献>
金融庁「金融検査結果事例集(平成25事務年度版)
」
住宅金融支援機構「2014年度 民間住宅ローンの貸出動
向調査結果」
35
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