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物質の極性 - 日本大学松戸歯学部

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物質の極性 - 日本大学松戸歯学部
平成 24 年 04 月 16 日
ガイダンス
MENU
1
はじめに
4 他教科との関連
2
授業内容
5 ともかく …
3
化学1と化学 2
6 カレンダー ?
はじめに
1
自己紹介
松戸歯学部 化学教室 の 城座 (しろざ) です。メールアドレスは [email protected] です。
2
授業資料の閲覧方法
松戸歯学部公式 HP → 講座案内 → 教養学 (化学) → 城座担当分授業資料 の順にクリックすることにより、授
業資料、練習問題、参考資料などを自宅からでも閲覧することが可能です (図 05 参照)。
3
授業への参加
授業は午前9時より開始されます。遅刻をしないように、余裕を持って出席すること。遅刻して入室する際
は、一礼した後に着席する。授業中の私語は、授業を円滑に進行させる上での大きな妨げとなりますので厳に
慎むこと。また、授業中に体調不良などて席を離れる際は、必ずその旨を担当者に伝えてから退室する。欠席
に対しては、必ず欠席届を提出すること。これにより、提出物の有無などの確認が可能となる。試験に際して
質問などがある場合には、この講義ノート、および後に述べる Concept Map を持参すること。
4
授業内容
化学に関連する授業は、化学1(前学期)、化学2(後学期)、および化学実験 (前学期) から構成されており、主
に 城座 が担当します。本科目は基礎分野に属し、専門基礎分野である、生化学、生理学、および 薬理学・麻
酔学 などへの導入科目の1つと位置づけています。それ故、内容を確実に理解する必要があります。しかしな
がら、高校時代に化学を履修してこなかった学習者でも理解できる様に、分子モデルを用いたわかりやすい授
業となる様に心がけます。以下に授業内容について簡単に説明致します。
前学期の化学1は「物質の極性・一般化学」、および「化学実験」で構成されています。「物質の極性」は薬
理学への導入であり、これは「化学実験」と並行しています。「一般化学」は高等学校の化学の復習的な内容
であり、一方で後学期の物理化学への導入ともなっています。また、後学期の化学2は、「物理化学・血液ガ
ス交換」、「生物化学・代謝の概要」で構成されており、それぞれ生理学、生化学への導入です。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 1
1
平成 24 年 04 月 10 日修正
ガイダンス 第1回
化学教室での授業内容
前学期
前半
演 化学1
後学期
後半
習 2時間 (月)
実験
5
前半
演 化学2
後半
習 2時間 (月)
物質の極性
一般化学
薬理学
物理化学
物理化学 血液ガス交換
生理学
生理・麻酔
前半
実 化学実験
演 化学2
習 3時間
習 2時間 (金)
後半
A, B 2クラス (火・木)
生物化学
代謝の概要
出席、態度、平常試験
生化学
生化学
図 01
計
4
単
位
再試験について
再試験は原則として行ないませんが、必要と認められる場合には本試験の点数はゼロとして以下の基準でおこ
ないます。再試験該当ラインは、過去の進級状況、ならびに国家試験合格状況を基としています。具体例を以
下に示します。平成 23 年度に松戸歯学部を卒業して第 105 回歯科医師国家試験を受験した、36××× の学生
番号を持つ皆さんの先輩 (便宜上 36 番と呼びましょう) の場合、編入生も含めて133 名在籍していました (正
確には、まだ在籍している学生もいますが)。この中で、留年をすることなく卒業したのは 87 名であり、その
中の 79 名が国家試験に合格しました。この状況を 33 番からと共にまとめたのが下表です。36 番を基準にし
ますと、皆さんの 42 番では、40 %、すなわち下位 46 名が成績不振者として再試を受けることとなります。
そして、追再試験の合格基準は、80 点を目安としており、この点数を取れば、留年・不合格ラインから脱出し
たと判断され、中間試験や定期試験の点数が 60 点として充てられます。
6
在籍者数
現役進級数 (%)
現役合格数 (%)
再試該当数 (%)
33 番
132
100 (75.6)
81 (61.4)
32 (24.2)
34 番
135
87 (64.4)
71 (52.6)
48 (36.4)
35 番
135
90 (66.7)
75 (55.6)
45 (33.3)
36 番
133
87 (65.4)
79 (59.4)
54 (40.6)
42 番
117
図 02
133 − 79 = 54
46 名
成績評価
演習を 600 点、実験を 100 点とし、計 700 点満点とします。各試験の得点を総計した点を個人の「持ち点」
とし、この持ち点から出欠・提出物の有無に対する減点を行ない、減点後の 1/7 が化学の成績となります。
各試験の結果は可能な限り開示いたしますので、ご自分の成績を的確に把握することに努力して下さい。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 2
2
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 16 日
ここに示す内容は他教科への導入となるので、知識の通過点ではなく蓄積することが最終目的となる。
化学1
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
資
料
の
購
入
な
ど
ガ
イ
ダ
ン
ス
混
成
軌
道
電
気
陰
性
度
化
学
結
合
と
官
能
基
質
量
作
用
の
法
則
物
質
の
極
性
極
性
物
質
の
ゆ
く
え
前
半
試
験
・
分
子
モ
デ
ル
構
築
物
質
量
と
濃
度
物
質
の
三
態
と
熱
エ
ネ
ル
ギ
ー
結
合
エ
ネ
ル
ギ
ー
と
生
成
熱
化
学
反
応
と
反
応
熱
物
質
の
反
応
性
と
酸
化
・
還
元
容
量
分
析
後
半
試
験
物質の極性
一般化学
化学実験と平行した内容であり、
一般的な化学の内容であり、後期
薬理学への導入となる。
の物理化学への導入となる。
修正式;
図 03
修正式;
物質の極性
整理番号
素点
修正
一般化学
再試
再試は原則
素点
整理番号
修正
再試
20 点引き
他教科との関連
専門科目
専門基礎科目
麻酔学
歯科薬理学
口腔病理学
組織・発生学
衛生学
口腔微生物学
口腔解剖学
歯科生体材料学
図 04
口腔生理学
口腔生化学
基礎科目
平成 24 年度 物質の極性
化 学
生物学
数学
物理学
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 3
3
平成 24 年 04 月 10 日修正
ガイダンス 第1回
資料の閲覧法
nusd:M
日本大学
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(http://www.mascat.nihon-u.ac.jp)
松戸歯学部について
カリキュラム
講座案内
キャンパスライフ
卒業後
図 05
↓
入試情報
講座案内
↓
教養学系
ホーム > 講座案内
↓
講座案内
教養学 (化学)
歯科基礎医学系
歯科診断学系
↓
歯科外科学系
保存歯科学系
教養学系
補綴歯科学系
城座担当分授業資料
特殊歯科学系
教養学 (物理学)
教養学 (数理科学)
教養学 (化学)
社会歯科学系
教養学 (生物学)
教養学 (英語)
教養学 (ドイツ語)
医科学系
教養学 (健康スポーツ科学)
教養学系
まとめと質問
で、今日のこの話、いったい何に関係するの ?
これからホントに役に立つの ?
松
戸
歯
学
部
入
学
現在
CBT
第1学年
第2学年
第3学年
第4学年
第5学年
第6学年
松
戸
歯
学
部
卒
業
国
家
試
験
合
格
臨床歯科医師として活躍 !!
図 06
6年
平成 24 年度 物質の極性
12年
18年
24年
30年
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 4
4
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 16 日
ともかく この通りに作ってみよう
*とッ その前に、各自の分子モデル キットに名前を記入しよう !!
赤
赤
赤
図 07
赤
青
青
非共有電子対
透明
非共有電子対
透明
*不斉炭素原子
2つの結合口を有するパーツ
フェニルアラニン
芳香族アミノ酸
この化合物は何なのだろう?
H
O
O
C
O
二重結合
COOH
H 2N C H
H2N
CH2
C OH
H 2N C H
図 08
CH2
非共有電子対
構造式を書いてみよう
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 5
5
平成 24 年 04 月 10 日修正
ガイダンス 第1回
化学物質の略記法
* 炭素原子の表現法;針金の末端、屈曲点、交点を炭素原子として表現する場合がある。
* 水素原子は、炭素原子に結合している場合には示さないことがある。
* 酸素原子、窒素原子などは省略しない。
* 化学結合の手の数は;イオン化しない限り;C → 4、N → 3、O → 2、H → 1
イオン化した場合は;C+ → 3、N+ → 4、O− → 1、H+ → 0
* 二重結合の存在などに充分注意して構造を示すこと。
O
分子を構成する炭素原子の元素記号 C は省略し、骨格は「針金」の様に表現する。針金の
C OH
末端、屈曲点、および交点には炭素原子が存在する。また、原則として、炭素原子に結合し
H 2N C H
CH2
ン
、
こ
れ
は
何
?
ている水素原子は示さない。酸素原子、窒素原子などは省略せず、これらの原子に結合する
水素原子も省略しない。各原子の結合の手の数は一定であるが、イオン化すると異なる。
二重結合の存在などに充分注意して構造を示すこと。
C
H
H
C
C
C
H
図 09
C
C
H
H
ではここで質問デス
ここで構築した分子をどれほどの数だけ結合すると、私達のからだ程度の大きさになるでしょうか。
ここで構築した分子をどれほどの数だけ結合すると、私達のからだ程度の大きさになるであろうか。
構築したモデルはアミノ酸の1種、フェニルアラニンである。その大きさは手の上の乗るほどであ
り、タンパク質を構成する他の 19 種のアミノ酸も同様な大きさである。そこで、この分子モデルによ
りできるだけたくさんのアミノ酸を構築し、それを(一応ペプチド結合により)つなげるとしよう。
そして完成した大型モデルを、私たちの身体と同程度の大きさにしようとするならば、どれ程のアミ
ノ酸が必要であろうか。100、200、あるいは 500 個程度かも知れない。ところで、それほどの数のア
ミノ酸がペプチド結合により重合したものはタンパク質である。したがって、モデルの世界のスケー
ルでは、私たちはタンパク質、あるいは酵素にたとえることができる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 6
6
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 23 日
混成軌道
MENU
*
前回の復習
1
分子と原子
2
モデルを組もう
3
原子の構造
1
炭素原子
2
水素原子
5
元素の化学的性質
6
同位元素
7
混成軌道
1
単結合
原子の電子構造
2
二重結合
1
古典的モデル
3
分子の形状
2
元素の周期律
4
8
まとめと質問
分子と原子
100℃ で沸騰
0℃ で凍結
図 01
分子
H2O
H2O
H2O
H2O
H2O
H
O
H
を示す最小単位
H2O H2O H2O H2O
H2O
H
そのものの性質
H
O
O
H
H
原子
H2O
分子を構成する
粒子
化合物; 構成原子の比率が一定
図 02
混合物; 構成原子の比率が変化
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 7
7
平成 24 年 04 月 10 日修正
混成軌道 第2回
モデルを組もう
プラスティックパーツ;原子
Hydrogen
非共有電子対
水素
Carbon
Nitrogen
炭素
窒素
透明
Oxygen
赤
酸素
図 03
黒
青
赤
非共有電子対
黒
青
赤
赤
メタン
アンモニア
水
水
CH4
NH3
H2 O
H2 O
図 04
原子の構造
電荷
陽子
2s 軌道
プラス1価
原子核
C
中性子
原子
L殻
電子
ゼロ
マイナス1価
2p 軌道
炭素原子
K殻
図 05
陽子の数により核種が規定される
電子の数により原子の化学的性質が規定される
中性子の数により同位元素としての性質が規定される
最外殻に存在する電子が化学反応に関与する
1s 軌道
水素原子
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 8
8
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 23 日
原子の電子構造
白
黒
青
赤
C
N
O
炭素原子
窒素原子
酸素原子
2s 軌道
L殻
K殻
H
図 06
1s 軌道
水素原子
2p 軌道
軌道と殻
1 電子は軌道に存在しており、複数の軌道が殻を形成している。
軌道には s 軌道、p 軌道、d 軌道などがある。
殻には K 殻、L 殻、M 殻などがあり、K 殻は 1s 軌道、L 殻は 2s 軌道 2p 軌道から、
また M 殻は 3s 軌道 3p 軌道 3d 軌道から構成されている。
図 07
2 s 軌道には電子が最大で2個まで存在することができる。
3 p 軌道には電子が最大で6個まで存在することができる。
4 d 軌道には電子が最大で 10 個まで存在することができる。
* 実際の軌道の形状は非常に複雑である。
元素の周期律表
1s
1s
1H
2.2
2 He
6C
2.5
7N
3.0
3s 11Na 12 Mg 13 Al 14 Si
15 P
2s 3
19
Li
K
4 Be
5B
8O
3.5
9 F 10Ne 2p
4.0
16 S 17 Cl 18 Ar
3p
図 08
20 Ca
電子を1つ放出して1価
電子が飽和しているので
の陽イオンとなりやすい
電子を2つ放出して2価
電子を1つ獲得して1価
全く反応性を示さない
アルカリ金属
の陽イオンとなりやすい
の陰イオンとなりやすい
不活性ガス
アルカリ土金属
ハロゲン元素
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 9
9
平成 24 年 04 月 10 日修正
混成軌道 第2回
元素の化学的性質
1
1s、および 2s 軌道に電子が1個だけ存在する場合は、その電子を放出する傾向にある。
電子はマイナスに帯電しているので、この場合1価の陽イオンを与える。
例;H +、Li +、Na +
2 1s 軌道にだけ電子が2個存在する場合は、反応性は非常に乏しい。例;He
3
2s 軌道、3s 軌道に電子が2個存在する場合は、それらの電子を放出する傾向にある。こ
の場合は2価の陽イオンを与える。例;Mg
4
2+
、Ca
図 09
2+
p 軌道に電子が5個だけ存在する場合には、電子をもう1つ獲得する傾向にある。この場
合は1価の陰イオンを与える。例;F -、Cl -
5 p 軌道に電子が6個完全に存在する場合には、反応性は非常に乏しい。例;Ne、Ar
K殻
陽子
陽子
H+
1s 軌道
電子
水素原子
e
水素イオン
(プロトン)
−
図 10
電子
水素原子は陽子と電子が1つづつで構成されており、電子を放出して1価の陽イオン、即ち水素イオンになり
やすい傾向にある。水素原子核の構造は、陽子そのものであり、英語で陽子を proton と呼ぶので、水素イオ
ンをプロトンとも呼ぶ。このプロトンは、化学的にはいわば「手ぶら」の状態にたとえることができる。化学
記号は H + と表現。
同位元素としての性質が規定される
陽子数 + 中性子数
質量数
n
m
Z
1
1
原子番号
H
2
1
H
水素
重水素
3
1
H
図 11
トリチウム
陽子数;核種が規定される
電子数:通常陽子数に等しい
同位元素
平成 24 年度 物質の極性
原子番号が同一で質量数の異なる元素 −
中性子の数が異なる
放射性となる場合がある
放射性同位元素
−
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 10
10
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 23 日
同位元素
質量数
1
安定同位元素
放射性同位元素
2
3
K殻
図 12
水素
1s 軌道
重水素
三重水素
(トリチウム)
陽子
陽子
陽子
中性子
中性子
中性子
電子
電子
電子
原子番号が同一で質量数の異なる元素 −
中性子の数が異なる
放射性となる場合がある
放射性同位元素
−
質量数と原子量
18
17
陽子数 + 中性子数
20
17
陽子数 + 中性子数
質量数
質量数
35
17
原子番号
Cl
37
17
原子番号
塩素
陽子数;核種が規定される
75%
図 13
Cl
塩素
陽子数;核種が規定される
天然存在比は・・・
25%
天然の塩素は、質量数 35 の塩素原子と質量数 37 の塩素原子が 75:25 の割合で混合されており、通常は分離
不可能である。そこで、天然の塩素の質量数は、両者の計算値である 35.45 と示される。この様に、同位体の
存在をふまえた質量数を原子量と呼ぶ。
35 × 0.75 + 37 × 0.25
塩素の原子量は
原子量
= 26.25 + 9.25
35.45
17
Cl
= 35.45
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 11
11
平成 24 年 04 月 10 日修正
混成軌道 第2回
混成軌道
z
2p 軌道は、2px、2py、2pz の
x
3つの軌道から構成されている
y
2pz
s
L殻
2s 軌道
z
z
図 14
K殻
x
y
2px
x
2py
y
1s 軌道
2px、2py、2pz 軌道
炭素原子
sp3 混成軌道-1
単結合の場合
C
2s 軌道
H
L殻
化学反応には原子の最外殻に
C
H C H
存在する電子が関与する。
図 15
H
2p 軌道
炭素原子
炭素原子は6個の電子を保持しており、その電子構造は 1s 2 (K殻) 2s 2 2p 2 (L殻) である。上述した様に、最
外殻に存在する L 殻の電子が化学結合に関与する。2s 軌道に存在する2個の電子は既に電子対を形成している
ので、化学結合には関与することができず、したがって炭素原子は 2p 軌道に存在する2個の電子により化学
結合を形成する、すなわち、炭素原子における化学結合の「手」の数は2である … ?
ウーム何だか変だ。メタンは CH 4 で示される様に、実際の炭素では化学結合の「手」の数は4のハズであ
る。これはどういうことだろうか。
結論から先に述べるならば、炭素原子の最外殻の軌道は1つの
ニ
2s 軌道と3つの 2p 軌道とが融合した sp3 と
呼ばれる「混成軌道」により構成されているのである。この sp3 混成軌道では、空間中に4つの等価な軌道が
正四面体の各頂点に向かって配置されており、その重心に原子核が存在している。この4つの等価な軌道に1
個づつ順番に電子が配置された状態、これが炭素原子の電子構造となる。したがって、炭素原子では化学結合
の「手」の数が4となる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 12
12
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 23 日
sp3 混成軌道-2
非共有電子対
C
N
Ne
O
図 16
炭素原子
窒素原子
酸素原子
ネオン原子
飽和結合を与える sp3 混成軌道の形状
では、1s 2 (K殻) 2s 2、2p 3 (L殻) の窒素原子はどうかというと、今まで電子が1個ずつ存在していた計4つ
の sp3 混成軌道の中の1つにさらに1個の電子が加わる。その結果、その軌道には電子が2個存在することと
なる。つまり、その軌道は自身の電子で飽和されることとなり、それは通常の化学結合には関与することので
きない状態となる。これを非共有電子対 (孤立電子対) と呼ぶ。
さらに、1s 2 (K殻) 2s 2、2p 4 (L殻) の酸素原子の場合はというと、窒素原子の電子構造にさらに1個の電子
が加わるので、sp3 混成軌道の非共有電子対の数は2個であり、化学結合の「手」の数が2となる。
もし、この4つの sp3 混成軌道すべてに2個ずつ、計8個の電子が存在したらどの様な性質になるであろう
か。化学結合するための電子、つまり「手」が全く存在しないので、化学的に非常に不活性な状態となろう。
これがネオン原子の電子構造、1s 2 (K殻) 2s 2、2p 6 (L殻) であり、実際ネオンは不活性ガスと分類されてい
る。
Hydrogen
非共有電子対
水素
Carbon
Nitrogen
炭素
窒素
黒
図 17
透明
Oxygen
非共有電子対
酸素
青
赤
アンモニア
水
NH3
H2 O
原子価電子とは;最外殻に存在する電子。価電子とも呼ぶ。
非共有電子対とは:1つの軌道に自身の電子が2個存在している状態。孤立電子対とも呼ぶ。
不対電子とは:1つの軌道に電子が1個存在している状態。化学結合の「手」となる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 13
13
平成 24 年 04 月 10 日修正
混成軌道 第2回
sp2 混成軌道
二重結合の場合
図 18
C
H
H
C
C
H
H
ところで、化学結合には飽和結合のほかに、二重結合、三重結合などの不飽和が存在する。そして、二重結合
の形成には sp2 と呼ばれる混成軌道が関与する。この sp2 混成軌道では4つの軌道のうちの3つが正三角形の
各頂点に向かって配置され、その中心に原子核が位置する。そして残りの1つの軌道はその正三角形の面と直
行する様に配置される。しかしながら、この上下に配向された軌道が実際に二重結合の形成に関与する場合に
は、横向きに屈曲した形状をとっていると考えられている。これが炭素原子の sp2 混成軌道となる。また、二
重結合の形成関与する原子は、全て同一平面上に存在する。
非共有電子対
C
N
炭素原子
窒素原子
O
酸素原子
二重結合 (不飽和結合) を与える sp2 混成軌道の形状
黒
青
図 19
赤
パーツとしては、非共有電子対は示さない。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 14
14
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 04 月 23 日
分子の形状
図 20
シクロヘキサン
この化合物は何?
構造式を描いてみよう
軌道は何?
図 21
ベンゼン
電子の軌道は分子の何に影響を与えるのであろうか?
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 15
15
平成 24 年 04 月 10 日修正
混成軌道 第2回
まとめ
1 電子は原子核の周囲を土星の輪の様にまわっていると考えられていたが、実際の電子の軌道は複雑である。
2 化学反応におていは、原子の最外殻に存在する電子が関与する。これを原子価電子と呼ぶ。
3 炭素原子が飽和結合を形成する際は、空間に4つの等価なの電子の軌道が配置される。これを sp3 混成軌道
と呼び、その形状は正四面体構造となる。
4 また、炭素原子が不飽和結合を形成する際は、まず空間に3つの等価なの電子の軌道が正三角形状に配置さ
れる。さらに残りの1つの軌道はこの正三角形の重心に対して直行する様に配置される。これを sp2 混成軌
道と呼び、実際に二重結合が形成される際には、直行する軌道は正三角形の1つの頂点に向けて屈曲する。
5 混成軌道が分子の立体構造を規定する。
質 問
Answer Yes or No
1
化学結合では、原子に存在する全ての電子が関与する。
2
したがって、炭素原子には計6個の電子が存在するので、結合の「手」は6となる。
3
いいや、最外殻の4つだけが化学反応に関与するのだ。
4 そうだ、その通りだ。だから窒素原子の場合は最外殻の5個の全ての電子が結合の「手」になるのだ。
5 sp3 混成軌道は正三角形をしている。
6
違います。sp2 混成軌道が正三角形をしているのです。
7
そしてこの sp2 混成軌道は飽和結合を形成するのです。
8
間違えました。sp3 混成軌道が正四面体構造をとっており、飽和結合を形成するのです。
9
分子の立体構造は原子の電気陰性度が規定する。
10
二重結合の形成関与する原子は全て同一平面上に存在する。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 16
16
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 07 日
電気陰性度
MENU
*
前回の復習
5
官能基の性質
1
電子雲の広がり
1
カルボキシル基
2
原子の電気陰性度
2
アミノ基
3
電子の局在性
3
遊離型と解離型
4
物質の極性
6
まとめと質問
電子雲の広がり
原子核が大きくなると、電子雲の広がりは大きくなるかのように思える。しかしながら、同一周期中の原子を
比較した場合、原子核が大きくなるにつれて、電子を引きつける力が強くなる。その結果、電子雲の広がり
は、原子番号が大きくなるにつれて、逆に小さくなる。この内容を示す指標となるのが、電気陰性度である。
C
O
N
F
図 01
同一周期の元素では、電子雲の広がりは 原子番号の大きい元素ほど小さい。
このことは、異なった原子同士が化学結合をすることにより形成される「官能基」の化学的性質を理解する上
で大変重要な因子となる。
原子の電気陰性度
原子核が電子を引き付ける強さ
2.2
2.5
3.0
3.5
H=C<N<O
電気陰性度
1s
1s
1H
2.2
2 He
6C
2.5
7N
3.0
3s 11Na 12 Mg 13 Al 14 Si
15 P
2s 3
19
平成 24 年度 物質の極性
Li
K
4 Be
5B
8O
3.5
図 02
9 F 10Ne
4.0
2p
16 S 17 Cl 18 Ar
3p
20 Ca
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 17
17
平成 24 年 04 月 10 日修正
電気陰性度 第3回
電子の局在性
電子の偏りがない
電子の偏りがある
非極性
極性
H
C
C
脂溶性
水
溶
性
H3C−(CH2)n−COOH
2.2
電気陰性度
δ+
δ-
2.5
3.0
H
δ+
δ+
δ+
H
3.5
O
O
N
δ図 03
δ-
δ-
H=C<N<O
部分的に正・負に帯電
物質の極性
分子内での電子の偏りが …
非共有電子対
δδ
δδ+
+
δ
δ+
+
図 04
メタン
アンモニア
水
CH4
NH3
H2 O
等しい
電気陰性度が ・・・
異なる
存在しない
電子の偏りが ・・・
存在する
非極性
極
性
脂溶性
水溶性
(非水溶性)
非極性分子
極性分子
脂溶性分子
水溶性分子
モノトーン
平成 24 年度 物質の極性
分子モデルでは …
カラフル
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 18
18
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 07 日
官能基の性質
カルボキシル基 -1
O
+
C
O
C
R
H
R
O
O
H
O
H
C
R
O
+
プロトン
図 05
A
B
C
遊離型
遷移状態
解離型
H
+
プロトン
O
O
C
R
C
H
O
O
+
R
H
H
O
C
R
+
プロトン
O
1)カルボキシル基
カルボキシル基を構成する C=O 結合では、電気陰性度の差により炭素原子に存在する電子が酸素原子側に引
きつけられる (図 05 A 参照)。その結果、酸素原子は負に、また炭素原子は相対的に正に帯電する (B)。
一方、水素原子は 1s 軌道に電子がただ1個だけしか存在せず、その電子は放出されて水素イオン (プロトン)
を形成する傾向が強い。そこで炭素原子の不足した電子は −OH の水素原子に存在する電子により補填され、
水素原子はプロトンとなって放出される (C)。
カルボキシル基が −COOH の状態にある場合 (A) を「遊離型;liberated form」、−COO− の状態にある場
合 (C) を「解離型;dissociated form」と呼ぶことがある。状態 B は遊離型から解離型に変化するその中間に
位置しているので、「遷移状態;transit form」とみなすことができる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 19
19
平成 24 年 04 月 10 日修正
電気陰性度 第3回
カルボキシル基 -2
A
H
O 赤
sp2
sp2
赤
sp3
C
H
+
C
+
プロトン
−
O
赤
H プロトン
O
赤
O
C
R
R
遊離型
遷移状態
図 06
解離型
H
非共有電子対
B'
A'
C'
−
O
O
H
sp2
C sp3
H
O
R
プロトン
−
O
+
sp3
sp2
O
+
C
C
sp2
O
R
R
非共有電子対
ここで、カルボキシル基を構成する2個の酸素原子の軌道に注目してみよう (図 06 参照)。遊離型では C=O
結合を構成する酸素原子の軌道は sp2 混成軌道である。これは二重結合を形成していることから明らかである
(A')。また、−OH 基を構成する酸素原子の軌道は sp3 混成軌道である。しかしながら、遷移状態における
C=O 結合は、炭素原子に由来する電子を保持した結果「非共有電子対」が3個に増加し、さらに C−O 間の
結合が単結合となった sp3 混成軌道へと変化している (B')。また、解離型での −OH 基を構成する酸素原子
は、遊離型では上述の様に sp3 混成軌道であったのが、水素原子由来の電子を獲得して二重結合を形成し、sp2
混成軌道に変化している (C')。この例からわかる様に、混成軌道は容易に変化することが理解できよう。
|
ところで、炭素原子や酸素原子の結合の手の数は、通常
4、あるいは 2 であった。しかしながら、C+ や O−
で示される様に、これらの原子がイオン化した場合には 3、あるいは 1 に変化することが明らかである。
C' に示す軸にそって炭素原子間の結合軸を回転させると、C' と A' とはほとんど同一の構造を取っていること
がわかる。実際、カルボキシル基を構成する2個の酸素原子は、一方が二重結合であり他方が単結合である、
ということではなく、両者が二重結合と単結合との間を行来する平均的な構造を取っていると考えられてい
る。この様な構造を共鳴構造 (resonance) と呼ぶ。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 20
20
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 07 日
カルボキシル基 -3
A
O
赤
−
C
遊離型
O
赤
解離型
H
C
赤
赤
C
O
R
O
R
遊離型の実際の表現
解離型の実際の表現
A'
C'
図 07
B'
遊離型の正しいパーツ
解離型の正しいパーツ
遷移状態を示す正しいパーツ
分子モデルを用いた場合に、遊離型、および解離型のカルボキシル基がどの様に表現されるかを示したのが
図
ム 07 である。酸素原子に存在する非共有電子対を表現するか (A' → B' → C')、あるいはしないか (A および
C) により使用するパーツが異なる。遊離型において、酸素原子に存在する2個の非共有電子対の存在を正しく
表現すると A' の様になる。また、解離型においては、炭素原子から移動してきた電子が第3の非共有電子対を
形成し sp3 混成軌道を形成するので、全ての非共有電子対を表現すると C' の様になる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 21
21
平成 24 年 04 月 10 日修正
電気陰性度 第3回
アミノ基
H
A
B
C
遊離型
遷移状態
解離型
+
H
R
プロトン
H
+
R
プロトン
N
H
H
N
R
H
+
H
N
+
H
H
+
H3N −R
H2N−R
図 08
非共有電子対
H
N
H
配位結合
+
N
R
H
青
H
R
青
H
2)アミノ基
アミノ基を構成する窒素原子には、通常は化学結合に関与しない非共有電子対が存在する。この非共有電子対
は、水分子の解離により生じたプロトンを配位結合を形成して結合する能力を有することから、アミノ基は塩
基性を示す。また、窒素原子がイオン化した場合の結合の手の数は、炭素原子と同数の4となる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 22
22
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 07 日
遊離型と解離型
モデルを組もう !!
透明パーツ
赤
A
C
B
青
D
赤
ユニット1
図 09
赤
ユニット2
遊離型か解離型か
水溶性か脂溶性か
ベンゼン環に結合するユニット1に A、あるい
は B のパーツが結合した場合の、また、ユニッ
ト2に C、あるいは D のパーツが結合した場合
の物質名、構造式、遊離型、解離型、水溶性、
脂溶性の各性質はどの様か。
記号
物質名
構造式
遊離型 or 解離型
水溶性 or 脂溶性
A
イオン化した安息香酸
C6H5 COO−
解離型
水溶性
B
安息香酸
C6H5 COOH
遊離型
脂溶性
C
ベンジルアミン
C6H5 CH2 NH2
遊離型
脂溶性
D
イオン化したベンジルアミン
C6H5 CH2 NH3+
解離型
水溶性
図 10
カルボキシル基、およびアミノ基には遊離型と解離型が存在することは既に述べた。遊離型と解離型とでは化
学的にはどの様な差異が見られるであろうか。C=O、O−H、N−H 結合では、構成している原子の電気陰性
度の差により電子の分布が偏っている。それらを極性と呼び、極性基は一般に水溶性を示す。また、C−H 結
合では両者の電気陰性度はほぼ等しく、この結合様式により成り立つ分子は非極性となり脂溶性を示す。
ここで注意を要することは、極性の官能基を有する分子は全て水溶性を示すとは限らない、ということであ
る。結論から先に述べるならば、低分子の場合は遊離型と解離型のいずれも水溶性を示す。しかしながら、ベ
ンゼン環にカルボキシル基が結合した酸性物質、あるいはアミノ基が結合した塩基性物質などは遊離型は脂溶
性、解離型は水溶性を示す。これは、解離型分子においては、イオン結合をしているため強い水溶性を示す塩
化ナトリウムと同様、官能基の構成に関与する電子が完全に解離したイオンの構造をとるためと説明できる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 23
23
平成 24 年 04 月 10 日修正
電気陰性度 第3回
まとめ
1
同一周期では原子番号が大きいほど電子雲の広がりは小さい。
2
原子核が電子を引きつける力の指標を電気陰性度と呼ぶ。
3 電気陰性度がほぼ等しい原子間の結合では電子の偏りが生じない。
4
電子が偏らない状況を非極性、電子が偏る状況を極性と呼ぶ。
5
一般に、非極性分子は脂溶性、極性分子は水溶性となる。
6 芳香族酸性物質、芳香族塩基性物質などは、解離の状況により水溶性、あるいは脂溶性となる。
質 問
Answer Yes or No
1
同一周期では原子番号が大きいほど電子雲の広がりは大きい。
2
原子核が電子を引きつける力の指標を電気陰性度と呼ぶ。
3 電気陰性度が等しい原子間の結合では電子の偏りが生じない。
4 電子が偏らない状況を極性、電子が偏る状況を非極性と呼ぶ。
5
非極性分子は脂溶性、極性分子は水溶性となる。
6
水は非極性分子である。
7
分子モデルでは、非極性分子はカラフルに表現される。
8 カルボキシル基に存在する2個の酸素原子は、両者とも sp3 混成軌道である。
9 極性基を有する化合物は常に水溶性である。
10
いいや、解離の状況により、脂溶性にもなり得るのだ。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 24
24
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 14 日
化学結合と官能基
MENU
*
1
前回の復習
3
電子を介した結合
モデルを組もう
4 官能基の・・・
1
共有結合
1
種類
2
配位結合
2
化学結合
2
電子を介さない結合
5 覚えるべき・・・
3
イオン結合
1
2価カルボン酸
4
水素結合
2
アミン類
5 疎水結合
化学結合の分類
6
まとめと質問
1 電子を介した結合
2
1)共有結合
電子を1つずつ出し合い共有する
2)配位結合
非共有電子対を介した共有結合
電子を介さない結合
図 01
3)イオン結合
電子の移動後の静電結合
4)水素結合
電気陰性度による電子の偏り後の静電結合
5)疎水結合
電子の非局在化による似たもの同士の会合
3 化学反応後に形成される結合
1
共有結合
電子を介した結合
非共有電子対
化学反応には、最外殻に位置する電子が関与するが、
C
H
N
O
非共有電子対は、通常の条件では反応に関与しない。
H
H
H C H
H
H
C
H
H
H
H
C
H
H
H
H
C
価標
H
H
原子が互いの電子を1個ずつ出し合って形成される結合様式を共有結合と呼び、原子が共有結合で結ばれてい
図 02
る状態を1本の線で示す。この線を 価標 と呼び、1本の価標には、それぞれの電子が1個ずつ存在する。
存
在
す
る
電
子
は
必
ず
8
個
オ
ク
テ
ッ
ト
説
H
H C H
H
この部分は・・・
平成 24 年度 物質の極性
水素原子
共有結合
炭素原子
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 25
25
平成 24 年 04 月 10 日修正
化学結合と官能基 第4回
配位結合
非共有電子対
H+
H+
H
H N H
+
H N H
+
H N H
H+
H N H
H N H
H
H
H
H
H
+
H
OH
-
図 03
非共有電子対;自身の電子で軌道が満たされている状態
配位結合
→ 通常の条件では化学反応に関与しない。
;非共有電子対を介した共有結合
sp3 などの混成軌道では、1つの軌道に最大2つまでの電子を収容することができる。1つの軌道を満たして
いる自身の2つの電子を非共有電子対と呼び窒素原子などに存在する。さて、この非共有電子対に電子を全く
持っていないプロトンが近づいてくるとどうなるであろうか。そうすると、窒素原子は何と親切にも非共有電
子対の2つの電子の中の1つを、手ぶらのプロトンに貸してあげるらしい。これによりプロトンは電子を1つ
を獲得するので、電気的には中性となる。さらに、窒素から借りた電子で共有結合を形成する準備ができる。
一方、窒素原子はプロトンに電子を1つ貸したので、電気的には正となる。そして、貸してあげた電子を介し
て化学結合を形成する。これが配位結合である。その際、N → H と記述する場合がある。窒素原子の結合の手
の数は本来3であるが、イオン化することにより変化し、ここに示す様に N + では4となる。
イオン結合
2 電子を介さない結合
M殻
3s
M殻
3s
3p
Na
図 04
Na+
Cl
Cl−
食塩は、イオンにより構成されている化合物である。
イオン結合の代表的なものは言うまでもなく、ナトリウムイオンと塩素イオン、即ち Na
+
と Cl
-
の結合であ
る。元素の周期律表において、ナトリウムなどのアルカリ金属元素の電子構造は、最外殻にはただ1つの電子
が存在する。一方、塩素などのハロゲン元素は安定な最外殻電子数に1つ不足する電子構造をとる。そこで、
ナトリウムは電子を1つ放出して1価の正イオンとなりやすい。これとは逆に、塩素は電子を1つ獲得して1
価の負イオンとなりやすい。この両者が静電結合することにより塩が形成され、その結合様式をイオン結合と
呼ぶ。この他に、フッ化ナトリウム NaF もイオンにより構成されている化合物である。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 26
26
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 14 日
水素結合
C
C
δ
+
δ
+
δ
−
δ
−
H
O
O
H
δ
+
δ
+
N
δ
δ
−
図 05
−
O
電気陰性度の差により、官能基内での電荷の偏りが生じ、
その結果、官能基間での静電的結合が生じる
カルボキシル基−アミノ基
C O
カルボキシル基−水酸基
H N
C O
H O
水素結合の例
染色体
タンパク質
塩基対の形成
α−ヘリックスの形成
図 06
β−シートの形成
世の中にこれ程重要な結合様式は他に無い
疎水結合
非極性物質は非極性物質同士で
極性物質は極性物質同士で
O
似たもの同士
C OH
疎水性領域
図 07
「似たもの同士」は会合しやすい
パルミチン酸
平成 24 年度 物質の極性
「似たもの同士」は親和性を示す
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 27
27
平成 24 年 04 月 10 日修正
化学結合と官能基 第4回
モデルを組もう
C
B
赤
回転軸
赤
a'
a'
赤
赤
3
組
作
成
す
る
赤
赤
図 08
a 青
a
青
A
α
*不斉炭素原子
α
β
青
赤
α
β
β
黄
横から眺めたもの
N-末端アラニン
正面から眺めたもの
C-末端セリン
赤
黄
青
図 09
赤
D
青
青
赤
赤
赤
赤
システイン
赤
赤
ともかく この通りに作ってみよう
赤
システイン
赤
赤
青
図 10
C-末端セリン
青
赤
青
黄
N-末端アラニン
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 28
28
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 14 日
官能基とは・・・
複数の異なった原子が化学結合し、一定の化学的性質を示す原子団
1s
1s
1H
2.2
2 He
6C
2.5
7N
3.0
3s 11Na 12 Mg 13 Al 14 Si
15 P
2s 3
19
Li
4 Be
K
5B
8O
3.5
9 F 10Ne 2p
4.0
図 11
3p
16 S 17 Cl 18 Ar
20 Ca
C, H, N, O, P, S・・・ 有機化合物を形成する
官能基の種類
COOH
カルボキシル基
酸性を示す
NH2
アミノ基
塩基性を示す
OH
水酸基
CH3
メチル基
リン酸基
SO3H
スルホ基
O
P OH
NO2
ニトロ基
P
三リン酸
図 12
OH
O
O
O
P
P O P O P OH
OH
OH
O
P
O
P
P
P
OH
官能基間での化学結合
3
化学反応後に形成される結合
*
6)エステル結合
酸とアルコールとの脱水縮合
7)アミド結合
酸とアミンとの脱水縮合
8)ジスルフィド結合
チオール基の酸化還元反応 → 酸化還元 参照
エステル結合
R COOH
R−O−R'
アミド結合
R COOH
R COO R'
R' OH
R CONH R'
R' NH2
H 2O
平成 24 年度 物質の極性
O
HO C CH3
O
図 13
H 2O
O
R' OH
その他にエーテル結合
R' OH
HO C R
O
アセチル基
R' O C CH3
R' O C R
アセチル化
アシル化
アシル基
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 29
29
平成 24 年 04 月 10 日修正
化学結合と官能基 第4回
アミド結合の二重結合性
A
B
O
C
R
O
+
C
R'
N
C
R
R'
N
H
C
R
H
O
C
R'
N
O
C
R
R'
N
H
R'
N
H
O
R
O
H
C
R
R'
N
全
て
同
一
平
面
上
に
存
在
す
る
二
重
結
合
の
形
成
に
関
与
す
る
原
子
は
図 14
H
ペプチド結合などを形成するアミド結合(-CO-NH-)では、C=O 間の電気陰性度の差により、炭素原子の電子
は酸素原子側に引きつけられる。その結果、酸素原子は負に、また、炭素原子は正に荷電する。同様な状況にあっ
たカルボキシル基の場合では、炭素原子の電子が不足した状態は OH 基の水素原子に由来する電子により補填さ
れ、その結果プロトンが放出された。これとは異なり、アミド結合に関与する窒素原子には非共有電子対が存在す
る。そこで、アミド結合での炭素原子の電子が不足した状態は、窒素原子に由来する非共有電子対により補填され
る。その結果、窒素原子は正に荷電する。さらに、非共有電子対が移動した後の炭素-窒素間の結合に注目する
と、二重結合に変化している。この結合様式では炭素-窒素間での結合軸で回転することはできないため、アミド
結合の形成に関与する全ての原子は同一平面上に位置することとなる。この様な性質を「ペプチド結合の二重結合
性」と呼ぶことがある。
電気陰性度の差により炭素原子に由来する電子が酸素原子側に引きつけられ酸素原子は負に、また、炭素原子は正
に荷電する。その際、酸素原子は sp2 混成軌道から sp3 混成軌道に変化する。この状態での酸素原子の結合価数に
よ∼く注目すると、その数は何と1である。すなわち、酸素原子がイオン化した場合には、結合の「手」の数は本
来の2から1へと変化する。これは、「酸素原子の結合の手は2個である」という経験則に矛盾しており、不安定
ではないのだろうか?
結論を先に述べるならば、実際にはそれでも安定なのである。1つの軌道中に電子が2個
存在さえしていれば、それが共有結合の形成に関与していようとも、あるいは非共有電子対として存在していよう
とも関係なく安定な状況となる。この安定性は sp3 混成軌道でも、また次の例の sp2 混成軌道でも変わらない。同
様な状況がアミド結合に関与する窒素原子にも見られる。ペプチド結合の二重結合性を示している窒素原子では、
非共有電子対を炭素原子に供出した結果、炭素-窒素間の結合は二重結合へと変化し、それに伴い正にイオン化す
る。そしてこの窒素原子の結合価数に再びよ∼く注目すると、通常の3から4に増加している。イオン化した酸素
原子と同様、これでは不安定性ではないかと思われるが、sp3 混成軌道から sp2 混成軌道への変化に伴う、非共有
電子対から共有結合の「腕」への変化であり、1つの軌道中に電子が2個存在しているという状況には変化がない
ので安定なのである。したがって、電気陰性度、および混成軌道の知識を基盤とすれば、酸素原子、および窒素原
子の結合価数は、イオン化することにより変化することが理解できよう。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 30
30
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 14 日
二価カルボン酸とその誘導体
グルタミン酸
グルタミン
グルタル酸
α−ケトグルタル酸
COOH
COOH
H 2N C H
H 2N C H
マロン酸
コハク酸
シュウ酸
COOH
COOH
COOH
COOH
COOH
C O
CH2
CH2
CH2
COOH
COOH
CH2
CH2
CH2
CH2
CH2
CH2
CH2
CH2
CH2
COOH
CO NH2
COOH
COOH
COOH
図 15
COOH
酸アミド
アミノ酸
COOH
COOH
H 2N C H
α−ケト酸
C O
COOH
CH2
CH2
CH2
CO NH2
COOH
COOH
アスパラギン酸
乳
酸
CH3
COOH
H 2N C H
アスパラギン
HO C H
COOH
H 2N C H
C O
CH3
オキサロ酢酸
三価カルボン酸
CH3
アラニン
ピルビン酸
多価アルコール
二価アルコール
三価アルコール
図 16
CH2 COOH
CH2 OH
CH2 OH
HO C COOH
HO C H
CH2 OH
CH2 COOH
CH2 OH
エチレングリコール
クエン酸
グリセロール
アミン類
解離型・遊離型、水溶性・脂溶性の区別をつけよう
一級アミン 塩酸塩
H
二級アミン 塩酸塩
三級アミン 塩酸塩
H
H
+
CH2 N H
Cl
H
+
CH2 N H
+
CH2 N CH3
Cl
CH2 N H
H
一級アミン
Cl
CH2
CH3
CH3
塩酸で中和
遊
離
型
・
脂
溶
性
四級アミン 塩酸塩
CH2 N H
CH3
二級アミン
CH3
Cl
図 17
解離型・水溶性
CH2 N CH3
CH3
CH3
+
N CH3
三級アミン
CH2
CH3
+
N CH3
CH3
四級アミン
遊離型・脂溶性
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 31
31
平成 24 年 04 月 10 日修正
化学結合と官能基 第4回
まとめ
1
化学結合には、原子の最外殻に位置する電子(原子価電子)が関与する。
2 窒素原子に存在する非共有電子対は、特殊な状況を除き、通常は化学結合には関与しない。
3
化学結合には電子を介する結合と介さない結合が存在する。
4
前者には、共有結合、配位結合が、また、後者にはイオン結合、水素結合、疎水結合が含まれる。
5
配位結合、イオン結合など電子の偏りが存在する極性基は水溶性である。
6
2価カルボン酸は、生体に関与する重要な化合物である。
質 問
1
化学結合では、原子に存在する全ての電子が関与する。(Y or N)
2
共有結合とは、電子を1つずつ出し合い共有することにより形成される。(Y or N)
3
配位結合とは、非共有電子対を介したイオン結合である。(Y or N)
4
イオン結合とは、電子の移動後の共有結合である。(Y or N)
5
水素結合とは、水素原子を介した共有結合である。(Y or N)
6 疎水結合とは、電子の非局在化による似たもの同士の会合による。(Y or N)
7 配位結合を含む分子は脂溶性である。(Y or N)
8
酸とアルコールから水分子がとれて形成される化学結合の名称は?
9
カルボキシル基と水酸基から水分子がとれて形成される化学結合の名称は?
10
炭素数が5の2価カルボン酸の名称は?
そのα-ケト誘導体の名称は?
メ モ
原子と原子を結ぶ線を 価標 とよぶ。
H
H
C
H
H
H
H
C
H
H
H
H
C
H
H
配位結合を含む共有結合では、1本の 価標 にはそれぞれの原子に由来する2個の電子が存在することを示す。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 32
32
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 21 日
質量作用の法則と中和滴定
MENU
*
前回の復習
1
変化を比較するには
2
指数と対数
1 滴定装置
3
質量作用の法則
2
中和反応
3
滴定曲線
4
酢酸の中和適定
1
水の電離
2
pH の定義
5 緩衝作用
3
酢酸の解離
6 まとめと質問
物事の変化を比較するには ・・・
変化が小さい場合
「現在」の事象から「過去」の事象を引く
昼食の前後での体重の変化
差
なんと、昼飯で1キロ太った !!
昼飯前の方が1キロ少なかったのに∼
変化が大きい場合
「現在」の事象を「過去」の事象で割る
年間を通しての銀行預金の変化
比
図 01
なんと、預金が 1/40 に減った !!
1月の方が 40 倍あったのに∼
「現在」から「過去」を引くと差が出る
図 02
預金が 1/40 に
なってしまった !!
「現在」を「過去」で割ると比が出る
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 33
33
平成 24 年 04 月 10 日修正
質量作用の法則 第5回
指数と対数
対数とは、かけ算を足し算として扱う。
非常に大きな、あるいは小さな数値の表現に用いられる
23=8
10 2 = 100
2の3乗が8
2の3乗が8
10 の2乗が 100
log 2 8 = 3
log 10 100 = 2
10 の2乗が 100
対数の「底」と呼ぶ
底が10の対数を常用対数と呼び、通常底の表現を省略する。
a1=a
21=2
ある数の1乗はある数
a0=1
20=1
ある数の0乗は1
10 1 = 10
a
10 の1乗は10
10 0 = 1
図 04
log 1 = 0
10 の0乗は1
= a -1 の対数は・・・ log
log 100 = 2
log 10 = 1
10 の1乗は10
10 の 0 乗は 1
log a n = n log a
a n の対数は・・・
1
図 03
1
a
= log a -1 = -1 log a = - log a
図 05
10 n の対数は・・・
log 10 n = n
10 -n の対数は・・・
log (a / b) = log a - log b
log (a × b) = log a + log b
log 1 = 0
log 10 = 1
平成 24 年度 物質の極性
log 10 -n = -n
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 34
34
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 21 日
質量作用の法則
「現在」の事象
A+B
[C]eq [D]eq
Keq =
[A]eq [B]eq
C+D
を
「過去」の事象
反応系
生成系
「過去」の事象
で割る
平衡定数 平衡時のモル濃度
「現在」の事象
図 06
平衡;equilibrium
平衡時での反応系と生成系のモル濃度の積の比率を平衡定数と呼び、温度・圧力が一定
ならば、一定の値となる。これを質量作用の法則と呼ぶ。
水の電離
[H +] [OH -]
K=
[H2O]
H + + OH -
H2 O
「現在」の事象
を
「過去」の事象
反応物
生成物
平衡定数
水のモル濃度
で割る
図 07
「過去」の事象 「現在」の事象
質量作用の法則によると・・・
電気化学的測定によると・・・
水分子は、ほんの一部だけが電離している
Kw;水のイオン積と呼ぶ
水の電離
水分子は、ほんの一部
H + + OH -
H2 O
(1)
だけが電離している
K=
質量作用の法則では・・・
[H +] [OH -]
[H2O]
+
K=
[H ] [OH ]
電気化学的測定では・・・
Kw;水のイオン積と呼ぶ
+
イオンと水酸イオンの
濃度は等しいので・・・
+
水のモル濃度
-
55.5
水が中性の場合は水素
(2)
= 1.8 × 10 -16
(3)
= 1.8 × 10 -16
図 08
-
Kw = [H ] [OH ] = 55.5 × 1.8 × 10
-16
(4)
Kw = [H +] [OH -] = 1.01 × 10 -14
(5)
Kw = [H +] 2 = 1.01 × 10 -14
(6)
[H +] = 1 × 10 -7
(7)
-
[H ] = [OH ]
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 35
35
平成 24 年 04 月 10 日修正
質量作用の法則 第5回
pH の定義
Kw = [H +] [OH -] = 1.01 × 10 -14
水が中性の場合は水素イオンと水
(5)
酸イオンの濃度は等しいので・・・
+ 2
Kw = [H ] = 1.01 × 10
-14
(6)
[H +] = 1 × 10 -7
[H +] = [OH -]
(7)
ここで、[H +] の対数をとり・・・
図 09
さらに、その値のマイナスを考える。
log [H +] = log 10 -7 = - 7
(8)
pH = - log [H +] = 7
(10)
これを pH と定義する。
pH = - log [H +]
(9)
水が中性の場合、実に5億分の1ほどの分子が解離していることとなる !!
酢酸の解離
ここで、平衡定数 Ka の対数をとり
さらに、その値のマイナスを考える。
これを pKa と定義する。
CH3COO - + H +
CH3COOH
(11)
pKa = - log Ka
両辺の対数を取って
Ka =
[CH3COO -] [H +]
[CH3COOH]
移項すると・・・
log Ka = log
移項
pH、pKaの定義より
[CH3COO -]
[CH3COOH]
+
- log [H ] = - log Ka + log
再度移項すると
= 1.8 × 10 -5
(12)
移項
+ log [H +]
[CH3COO -]
[CH3COOH]
(13)
(14)
図 10
[CH3COO -]
pH = pKa + log
[CH3COOH]
(15)
移項
[CH3COO -]
[CH3COOH]
pH - pKa = log
pH が pKa に等しい場合
0 = log
1=
この式の持つ意味は?
平成 24 年度 物質の極性
[CH3COO -]
[CH3COOH]
(16)
0 = log 1
(17)
[CH3COO -]
[CH3COOH]
(18)
[CH3COOH] = [CH3COO -]
(19)
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 36
36
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 21 日
中和滴定の装置
この様な装置を用いました
図 11
酢酸の中和滴定
14
pH 指示薬
12
中
和
点
10
8
フェノール
フタレイン
解
離
型
酢酸と酢酸イオン
pH
図 12
の量が等しい
6
pH = 4.7
4
遊
離
型
2
1/2 当量点
メチルレッド
当量点
0
0
0.5
1.0
1.5
2.0
NaOH 滴下当量
CH3COO - +Na + +H2O
CH3COOH +NaOH
図 13
(20)
酢酸の水酸化ナトリウムによる中和反応は式 (20) の様に示される。滴定の始点では遊離型の酢酸が存在し、
当量点では中和反応が進行して、全ての酢酸分子が解離型の酢酸イオンとなる。その間の pH 変動を連続的に
測定した結果が滴定曲線として示される。この滴定曲線において、「加えたアルカリに対して pH 変化が最も
少ない」のはどのあたりであろうか。
どうも当量点の半分の領域、つまり 1/2 当量点の様である。その点を検証してみよう。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 37
37
平成 24 年 04 月 10 日修正
質量作用の法則 第5回
酢酸と酢酸ナトリウムを等モルずつ混ぜた溶液を調製する
水溶液中には・・・
CH3COOH
CH3COO -
図 14
Na + が存在する。
CH3COO - +Na + +H2O
CH3COOH +NaOH
(20)
緩衝作用
CH3COOH
CH3COO -
+ H+
(21)
酢酸は弱酸であり、0.1規定溶液では1%ほどしか解離しておらず、ほとんどの酢酸は水にはとけてはいるも
のの遊離型の酢酸分子として存在している。
CH3COONa
CH3COO -
+ Na +
(22)
図 15
酢酸ナトリウムは塩であり、ほぼ完全に解離している。
そこで、酸を加えると・・・
CH3COOH
CH3COO -
+ H+
(21)
溶液中には解離型の酢酸イオンが存在している。このイオンは、わずかな量の水素イオンが存在していいても
それを見逃さず、直ちに遊離型の元の酢酸分子に戻ろうと待ち構えている。その様な状況の中に塩酸が加えれ
られるので、生じた水素イオンはたちまち酢酸分子へとトラップされてしまった。すなわち、溶液の pH はそ
れほど低下しない。
また、アルカリを加えると・・・
図 16
NaOH
CH3COOH + NaOH
Na + + OH -
(23)
CH3COO -
(24)
+ Na + + H2O
今度は遊離型の酢酸が解離することにより水素イオンが生成する。水酸化ナトリウム由来の水酸イオンは、こ
の水素イオンと結合して水分子となる。したがって、ここでも pH の変動はそれほど大きくはない。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 38
38
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 21 日
酢酸と酢酸イオンの量的関係
[CH3COOH] %
100
酢
酸
の
存
在
量
% [CH3COO -]
100
酢酸と酢酸イオンの
量が等しい
領域 A
領域 B
50
50
領域 C
0
0
0
1/4
1/2
3/4
酢
酸
イ
オ
ン
の
存
在
量
図 17
1
滴定当量
1
酢酸は水溶液中ではほとんど解離せずに遊離型で存在する。NaOH などのアルカリ(塩基)は、水溶液中
では Na+ と OH− とに解離することにより pH が上昇する。ここで水溶液中に酢酸が存在する場合で
は、加えた NaOH は遊離型の酢酸分子と中和反応を起こし、CH3COO- (酢酸イオン) 、Na+、および水
分子を形成する。この結果、NaOH に由来する OH− は存在することがないので、加えたアルカリによる
pH 上昇が抑制される。酢酸はアルカリの添加による pH 上昇を抑えることかできる。しかしながら、酸
の添加による pH 降下には対処できない (領域 A)。
2
酢酸ナトリウムを溶解することにより生じる酢酸イオンは、溶液中に Na+ (水素イオン) が存在するとた
だちにこれと反応し、元の遊離型の酢酸分子に戻ろうとする傾向が強い。したがって、酢酸ナトリウム水
図 18
溶液に塩酸などの酸を加えても、塩酸に由来する H+ は酢酸イオンにトラップされて酢酸分子が形成され
るので pH の下降が抑制される。酢酸ナトリウムは酸の添加による pH 降下を抑えることができる、しか
しながら、アルカリの添加による pH 上昇には対処できない (領域 B)。
3 したがって、酢酸と酢酸ナトリウムとが等量ずつ存在する領域 (pH = pKa に相当する) では、酸を添加し
ても、アルカリを添加しても pH の変動を抑制することができる。これが緩衝作用である (領域 C)。
で、生体内で重要な緩衝作用というと
血液の場合;非常に複雑
→ 生理学の教科書を参考のこと
唾液の場合
炭酸脱水酵素
図 19
炭酸/重炭酸緩衝系
CO2
+ H2O
H2CO3
HCO3
-
+ H
+
炭酸ガスをゴボゴボやってもなかなか炭酸水にはならないが、炭酸脱水酵素が存在すると、容易に炭酸水とな
る。これは解離して重炭酸イオンを与える。この酵素は炭酸水を二酸化炭素と水とに分解する逆反応にも関与
する。炭酸が1段階解離したイオン HCO3 - を重炭酸イオンと呼ぶことがある。例えば、NaHCO3 は「炭酸水
素ナトリウム」または「重炭酸ナトリウム」と呼ばれる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 39
39
平成 24 年 04 月 10 日修正
質量作用の法則 第5回
まとめ
1 反応物と生成物のモル濃度の比は、温度・圧力が一定ならば一定の値となる。
2 上記の関係を質量作用の法則と呼び、その比例定数を平衡定数と呼ぶ。
3 水分子はほんの僅か電離しており、これを質量作用の法則で示すことができる。
4 酢酸分子も解離しており、同様に質量作用の法則で示すことができる。
5 酢酸の中和滴定において pH = pKa の状況では解離型と遊離型の物質量が等しく、緩衝作用が見られる。
質 問
1 物事の小さな変化を比較するには、過去の事象から現在の事象を引く。(Y or N)
2 log 1 はいくらか。log 1/10 はいくらか。また、log 10 n はいくらか。
3 質量作用の法則を述べなさい。
4 純水のモル濃度はいくらか。また、水のイオン積の値はいくらか。
5 pH の定義を述べなさい。
6 酢酸の解離に関する質量作用の法則を示しなさい。
* 酢酸を水酸化ナトリウムで滴定する際;
中和滴定
7 1/2 当量点とはどの様な状況か。
8 1/2 当量点で酸を加えるとどうなるか。
9 1/2 当量点で塩基を加えるとどうなるか。
10 生体内でみられる緩衝作用の例を2つ述べなさい。
緩衝作用
数 式
試薬調製
大切な計算問題
式 (15) により、
pH = pKa + log
[CH3COO -]
[CH3COOH]
の関係が示されている。酢酸と酢酸イオンの濃度比が
3 : 1 の溶液は、図 12 のどの部分に対応するかを、図 14 を基として考えなさい。また、その際の pH はいく
らか。常用対数表を用いて計算しなさい。同様に酢酸と酢酸イオンの濃度比が 1 : 3 の溶液ではどうか。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 40
40
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 28 日
物質の極性
MENU
*
前回の復習
1
中和滴定と pKa
3
逆相クロマト
1)解離曲線と pKa
1)結果の予想
2)pKa 前後での極性
2
2)アスピリンの服用
物質の極性
3)リドカイン注射液
1)概要と実験法
2)試料の整理
4
まとめと質問
3)薄層クロマトの原理
pH - pKa = log
pH が pKa に等しい場合
0 = log
1=
この式の持つ意味は?
[CH3COO -]
[CH3COOH]
[CH3COO -]
[CH3COOH]
(16)
0 = log 1
(17)
[CH3COO -]
[CH3COOH]
(18)
[CH3COOH] = [CH3COO -]
(19)
図 01
つまり、酢酸と酢酸ナトリウムを等量ずつ混ぜた溶液とは ・・・ pH = pKa の場合に相当し、緩衝作用が最も強
い。滴定曲線では、 1/2 当量点がこれに当たる。
講義ノート 127 ページ参照
平成 24 年度 物質の極性
化学実験 第2回の結果から酢酸の pKa 値は
4.7
化学実験 第4回の結果からアスピリンの pKa 値は
3.5
化学実験 第6回の結果からリドカインの pKa 値は
7.8
図 02
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 41
41
平成 24 年 04 月 10 日修正
物質の極性 第6回
ところで …
pH = pKa の場合は、[CH3COOH] = [CH3COO -] であった。
つまり、「解離型と遊離型の濃度が等しい」状況にある。
図 03
そこで・・・
酸性物質
高
塩基性物質
解離型
pH
高
遊離型
pH
pKa
遊離型
低
pKa
低
解離型
酸性物質は pKa より低い pH 域で、また、塩基性物質は pKa より高い pH 域で遊離型となる
物質の極性
分子内にこれらの官能基を含む物質
極性基
高い
物質の極性
低い 非極性基
- OH
- CH3
水溶性
- CO-NH2
HO
脂溶性
- COO - Na +
酸性物質
- COOH
- NH3 + Cl -
塩基性物質
- NH2
- (CH2)n - CH3
OH
HO
解離型
遊離型
図 04
酸性物質は pH が低い環境下では遊離型となる。
塩基性物質は pH が高い環境下では遊離型となる。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 42
42
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 28 日
ここで実験デス
サンプルのスポッティング
図 05
水層
有機層
水層
有機層
水溶性
脂溶性
薄層板の展開
高分子
物 質
窒素あり
低分子
窒素なし
薄層板の正しい持ち方
A-1-1
図 06
溶媒の入った展開槽に
平成 24 年度 物質の極性
素早くプレートを入れ・・・
展開する
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 43
43
平成 24 年 04 月 10 日修正
物質の極性 第6回
試料の整理
酸性・酸性・あぶら
H
COOH
酸性物質
+
OH
O
アスピリン、抗炎症薬
アスピリンナトリウム塩
H 2O
O
塩基
O
pH により極性が変化する。
−
COO
−
H
遊離型
H
O
pH により極性が変化する。
H
+
図 07
配位結合
N
塩基
−
H 2O
H
O
酸
N
+ H 2O
イオン化による水溶性
非共有電子対
リドカイン、局所麻酔薬
+
解離型
脂溶性
塩基性物質
+ Na
O
酸
+
N
N
OH
三級アミン構造
H
遊離型
塩基性・塩基性・あぶら
H
+
+
+ Cl
−
アミド結合
解離型
リドカイン塩酸塩
水溶性物質
OH
O
O
OH
アスコルビン酸;ビタミン C
HO
OH
水酸基が多く、pH に関係なく極性が高い → 常に水溶性
図 08
脂溶性物質
O
HO
トコフェロール;ビタミン E
分岐した脂肪鎖を持ち、pH に関係なく極性が低い→ 常に脂溶性
水溶性リガンドと脂溶性リガンド
CH3
O
+
H3C N CH2 CH2 O C CH3
水
溶
性
物
質
OH
CH3
NH2
γ
脂
溶
性
物
質
COOH
アセチルコリン
H 2N C H
CH2
β
CH2
CH2
α
1
CH2
HO
COOH
γ-amino butylic acid
75 % reduction
活性型ビタミン D3
HO
γ-アミノ酪酸 (GABA)
OH
図 09
OH
1α, 25-ジヒドロキシビタミン D3
ドパ (DOPA)
1α, 25 (OH) 2 D3
この他にも多くの水溶性・脂溶性物質が挙げられます。これらの物質の生体内で役割は何でしょうか?
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 44
44
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 28 日
似た者同士は行動を共にする
極性の高いものは高いもの同士
が、集まる。
極性の低いものは低いもの同士
図 10
性質の似た者同士は会合しやすい
水溶性物質
脂溶性物質
高
い
極性
低
い
移動相
極性が低い
低
い
高
い
固定相
順
相
極性
極性が高い
性質の似た者同士は親和性を示す
水溶性物質
脂溶性物質
高
い
極性
低
い
移動相
極性が高い
高
い
低
い
固定相
逆
相
極性
極性が低い
図 11
ではここで pH を変化させるとどうなるでしょうか?
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 45
45
平成 24 年 04 月 10 日修正
物質の極性 第6回
薄層板 表面の構造
順 相
原
溶媒の展開方向
移動相
点
CHCl3
CHCl3
固定相の表面
OH
O
Si
OH
O
Si
O
は極性が高い
図 12
CHCl3
CHCl3
CHCl3
シラノール残基
極性の低い溶媒
CHCl3
OH
O
Si
O
OH
O
O
Si
O
O
固定相
極性の高い試料は極性の高い固定相と親和性を示し、同様に極
性の低い試料は極性の低い移動相と親和性を示す。この結果、
順相では、極性の低い物質が早く移動する。
逆 相
原
溶媒の展開方向
移動相
点
CH3-OH
極性の高い溶媒
CH3-OH
CH3-OH
CH3-OH
CH3-OH
CH3-OH
オクタデシル基
CH2 (CH2)6-16 CH3
固定相の表面
は極性が低い
O
Si
O
O
Si
O
O
Si
O
O
Si
O
図 13
O
固定相
順相とは逆に、逆相では極性の低い試料が極性の低い固定相と
親和性を示すので、極性の高い試料が早く移動する。
ウン ? この固定相の構造は何かに似ている !!
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 46
46
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 28 日
ではここで質問デス
私たちの体は「水」でできており、細胞の中も「水」である。つまり、細胞の内外はともに極性が高い。極性
が高い状態のものを区切るには、どの様な性質を持つものがよいのだろうか?
極性の低い物質が必要となる
身近な「極性の低い物質」とは脂肪鎖が考えられる。
細胞膜の構造
細胞外
リン脂質二重層
リン脂質
極
性
基
非
極
性
領
域
脂
肪
鎖
図 14
細胞内
チャンネル
ミトコンドリア
細胞膜はこの様に
示すことが多い
細胞外
核
レセプター
核膜
cAMP
ATP
α
βγ
リガンド
図 15
細胞内
小胞体
何かに似ている !!
ペルオキシソーム
ゴルジ体
リソソーム
真核細胞
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 47
47
平成 24 年 04 月 10 日修正
物質の極性 第6回
逆相クロマトの結果の予想
逆相
固定相の極性
遊
離
型
塩
基
性
物
質
酸
性
物
質
解
離
型
解
離
型
低い
展開溶媒の極性
高い
塩
基
性
物
質
酸
性
物
質
酸性溶媒
遊
離
型
図 16
塩基性溶媒
逆相
固定相の極性
水
溶
性
物
質
低い
脂
溶
性
物
質
水
溶
性
物
質
展開溶媒の極性
高い
脂
溶
性
物
質
逆相クロマトの実際の結果
1 アスピリン
2 リドカイン
COOH
展開溶媒 水系 酸性
O
O
N
O
N
H
逆
相
ク
ロ
マ
ト
3 アスコルビン酸
OH
O
O
HO
展開溶媒 水系 塩基性
解離型
OH
OH
遊離型
4 トコフェロール
O
1
解離型
図 17
遊離型
2
3
4
1 2
3 4
HO
酸性
酸性
あぶら
1 アスピリン
酸性物質
塩基性
塩基性
あぶら
2 リドカイン
塩基性物質
逆相
あぶら
3 アスコルビン酸
水溶性物質
細胞膜
あぶら
4 トコフェロール
脂溶性物質
酸性物質は、酸性状況にするとあぶらっぽくなる
塩基性物質は、塩基性状況にするとあぶらっぽくなる
これらの逆
→ 水っぽくなる
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 48
48
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 28 日
どちらがどの様な挙動を示すのだろう?
アスコルビン酸
トコフェロール
OH
O
O
O
OH
図 18
HO
HO
OH
細胞外
非
極
性
領
域
細胞内
過剰摂取すると、細胞内に蓄積され
中毒症状が現れる
逆相クロマト
薬物が効果を発揮するためには、細胞内に浸透する必要がある
アスピリン
COOH
O
O
酸
性
溶
媒
細胞外
塩
基
性
溶
媒
図 19
非
極
性
領
域
細胞内
逆相クロマト
どちらがどの様な挙動を示すのだろう?
遊離型
解離型
COO
COOH
O
O
アスピリンの中和反応
NaOH
O
O
Na
胃酸の pH は2前後である。アスピリンを服用した際の「行方」はどの様に考えられるか?
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 49
49
平成 24 年 04 月 10 日修正
物質の極性 第6回
神経細胞の概要
前興
細奮
胞性
シ
ナ
プ
ス
樹状突起
前抑
細制
胞性
シ
ナ
プ
ス
細胞体
膜電位変化の伝導
図 20
軸索
髄鞘
リドカインの作用機作
遊離型リドカイン
Na
Na
Na
軸索外
Na
ナトリウム
軸索内
チャネル
Na
図 21
軸索部における
活動電位の発生抑制
脱分極
刺激伝達されず
刺激の伝達
局所麻酔
リドカインは、歯科領域では局所麻酔薬として汎用されている。その作用機作は、神経細胞のナトリウムチャ
ネルを遮断し、活動電位の発生を抑制することにある。リドカインが機能を発揮するためには、先ず神経細胞
の内側に入り込む必要がある。細胞膜はリン脂質二重層で構成された、非極性領域である。低分子物質は、リ
ン脂質と同様に極性の低い状態、換言するならば遊離型の状態であれば細胞膜を自由に透過することができ
る。したがって、遊離型リドカインは細胞膜を透過して局所麻酔薬としての機能を発揮することができるが、
イオン化した解離型リドカインは局所麻酔薬としての機能が低下する。
ここで、炎症領域の pH は低下しているという。その様な領域ではリドカインの局所麻酔としての作用はどの
様であるか、考察してみよう。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 50
50
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 05 月 28 日
薬物が効果を発揮するためには、細胞内に浸透する必要がある
リドカイン
O
N
N
H
図 22
酸
性
溶
媒
細胞外
塩
基
性
溶
媒
非
極
性
領
域
細胞内
どちらがどの様な挙動を示すのだろう?
逆相クロマト
リドカイン注射液はどの様にして調製するのであろうか?注射液は細胞内に浸透するのであろうか?
炎症領域では、組織の pH は低下しているという。どの様なことが予想されるか?
リドカインの膜透過性
10
9
解離型
pH
8
リドカイン
pKa 水
溶
性
脂
溶
性
図 23
遊離型
7
R-N(C2H5)2 H+
0.0
R-N(C2H5)2
0.25
0.5
遊離度
0.75
1.0
非
極
性
リ
ド
カ
イ
ン
の
中
和
反
応
平成 24 年度 物質の極性
細胞膜
リン脂質二重層
非共有電子対
H
O
N
H
+
配位結合
O
酸
N
塩基
−
H 2O
三級アミン構造
H
遊離型
塩基性・塩基性・あぶら
N
N
OH
+
H
H
+
+ Cl
−
アミド結合
解離型
リドカイン塩酸塩
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 51
51
平成 24 年 04 月 10 日修正
物質の極性 第6回
まとめ
1
極性が「高い」という表現は水溶性を、また「低い」は脂溶性を意味する。
2 酸性物質、および塩基性物質の極性は、溶媒の pH に依存する。
3
逆相クロマトの固定相の極性は低く、細胞膜にたとえることができる。
4
固定相に親和性を示す物質の移動度は小さい。
質 問
1
順相クロマトと逆相クロマトとの差異を述べなさい。
2
逆相クロマトと細胞膜との類似点を述べなさい。
3
逆相クロマトの固定相の構造と、脂溶性ビタミンの類似点を述べなさい。
4
細胞膜を透過することのできる分子の極性はどの様か、説明しなさい。
5
遊離型、および解離型アスピリンの調製法を述べなさい。
6
リドカインの薬理作用を述べなさい。
7
リドカイン注射液の調製法を述べなさい。
8
解離型リドカインに特徴的な結合様式は何か。
9
細胞膜を透過できるリドカイン分子は何型か。
10
炎症領域でのリドカインの薬理作用はどの様か、説明しなさい。
アスピリン
リドカイン
パーツ A COOH
O
パーツ C
O
遊離型・脂溶性
N
N
O
赤
H
赤
白パ
ー
ツ
D
パーツ C 透明
パーツ A
パーツ B
赤
赤
赤
青
図 24
青
赤
パーツ B
−
COO
O
解離型・水溶性
O
N
O
平成 24 年度 物質の極性
H パーツ D
N
+
H
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 52
52
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 06 月 04 日
極性物質のゆくえ
MENU
*
前回の復習
3
極性物質のゆくえ
1
唐突ですが・・・
4
演繹と帰納
2
溶媒抽出
5
これまでのまとめ
π
唐突ですが sin ( 2 - x) を考えてみましょう
演繹と帰納 -1
(cos x + i sin x) n
x
= cos n x + i sin n x
図 形
とりあえず変形して
π
y = sin ( 2 - x)
= sin {-(x = - sin (x -
π
2
π
2
e i x = cos x + i sin x
エ
レ
ガ
ン
ト
な
)}
)
図 01
腕ずくの
初等関数
数 式
標準的な
= cos x
sin (x + y) = sin x・cos y + cos x・sin y
cos (x + y) = cos x・cos y - sin x・sin y
座 標
y
sin (x - y) = sin x・cos y - cos x・sin y
sin x
cos (x - y) = cos x・cos y + sin x・sin y
x
sin (
π
2
1
- x) = sin (
sin (- x) = - sin x
π
2
0
)・cos x - cos (
π
2
)・sin x
= cos x
cos (- x) = cos x
演繹; 1つの事実が様々な事例として反映する。
帰納; 独立した複数の事例から、それぞれに共通な事実を導き出す。
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 53
53
平成 24 年 04 月 10 日修正
極性物質のゆくえ 第7回
溶媒抽出
1)酸性物質に対して NaOH、あるいは HCl を加える
2)塩基性物質に対して NaOH、あるいは HCl を加える
分液ロート
図 02
有機層
水層
有機層
水層
有機溶媒
エーテル;
上層
クロロフォルム; 下層
酸性物質
塩基性物質
有機層
有機層
水層
有機層
水層
有機層
図 03
解離型アスピリン
遊離型アスピリン
解離型リドカイン
遊離型リドカイン
NaOH を加えた時
HCl を加えた時
HCl を加えた時
NaOH を加えた時
平成 24 年度 物質の極性
酸性
酸性
あぶら
塩基性
塩基性
あぶら
逆相
あぶら
細胞膜
あぶら
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 54
54
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 06 月 04 日
極性物質のゆくえ−手順
水相
有機相
未知サンプル
蒸留水
NaOH
薄
層
ク
ロ
マ
ト
図 04
有機溶媒
よ
∼
く
振
る
よ
∼
く
振
る
よ
∼
く
振
る
図 05
水層
有機層
水層
有機層
薄層板の正しい持ち方
A-1-1
図 06
溶媒の入った展開槽に
平成 24 年度 物質の極性
素早くプレートを入れ・・・
展開する
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 55
55
平成 24 年 04 月 10 日修正
極性物質のゆくえ 第7回
極性物質のゆくえ−1
1 サリチル酸
2 サリチル酸 Na
3 リドカイン
4 リドカイン Cl
遊離型
解離型
遊離型
解離型
未知サンプル
図 07
蒸留水
よ∼く 振る
図 08
分
散
NaOH
溶
解
塩
と
な
り
溶
解
す
溶 る
解
有機溶媒
分
散
溶
解
よ∼く 振る
サ
リ
チ
ル
酸
の
ナ
ト
リ
ウ
ム
変
化
な
し
変
化
な
し
溶
解
分
散
引
き
続
き
遊
離
型
の
ま
ま
水
に
溶
け
て
い
ら
白 れ
濁 な
く
な
る
よ∼く 振る
解離型サリチル酸は
遊離型リドカインが
水相に残ったまま
有機相に溶け込む
リ
ド
カ
イ
ン
が
遊
離
型
と
な
り
図 09
図 10
逆層クロマト
酸性溶媒
塩基性溶媒
逆
相
ク
ロ
マ
ト
水
有機 水
1
平成 24 年度 物質の極性
有機
図 11
水
2
有機 水
3
有機
4
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 56
56
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 06 月 04 日
極性物質のゆくえ−2
1 サリチル酸
2 サリチル酸 Na
3 リドカイン
4 リドカイン Cl
遊離型
解離型
遊離型
解離型
未知サンプル
図 12
蒸留水
よ∼く 振る
図 13
分
散
溶
解
分
散
溶
解
よ∼く 振る
HCl
引
き
続
き
遊
離
型
の
ま
ま
変
化
な
し
分
散
水
に
溶
け
て
い
ら
白 れ
濁 な
く
な
る
有機溶媒
遊離型サリチル酸が
サ
リ
チ
ル
酸
が
遊
離
型
と
な
り
り
溶
解
す
る
溶
解
リ
ド
カ
イ
ン
の
塩
酸
塩
と
な
変
化
な
し
図 14
溶
解
解離型リドカインは
よ∼く 振る
有機相に溶け込む
水相に残ったまま
図 15
逆層クロマト
酸性溶媒
塩基性溶媒
逆
相
ク
ロ
マ
ト
水
有機 水
1
平成 24 年度 物質の極性
有機
図 16
水
2
有機 水
3
有機
4
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 57
57
平成 24 年 04 月 10 日修正
極性物質のゆくえ 第7回
演繹と帰納 -2
赤
溶媒抽出
赤
赤
中和滴定
赤
赤
有機層
水層
図 17
有機層
物質の極性
溶媒抽出
水層
リドカインの膜透過性
薄 層
10
9
解離曲線
解離型
pH
8
リドカイン
(塩基性物質の場合)
pKa 水
溶
性
脂
溶
性
遊離型
図 18
7
R-N(C2H5)2 H+
0.0
R-N(C2H5)2
0.25
0.5
遊離度
0.75
1.0
非
極
性
逆相クロマト
細胞膜
リン脂質二重層
酸性溶媒
塩基性溶媒
逆相
遊
離
型
酸
性
物
質
塩
基
性
物
質
解
離
型
固定相の極性
低い
展開溶媒の極性
高い
固定相に対して
親和性が低い
平成 24 年度 物質の極性
解
離
型
酸
性
物
質
塩
基
性
物
質
遊
離
型
図 19
固定相に対して
affinity
親和性が高い
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 58
58
平成 24 年 04 月 10 日修正
平成 24 年 06 月 04 日
マークシート問題 80 問を 40 分で仕上げるには
1問に1分かけると 80 分かかる
1問に 30 秒でちょうど 40 分となる ・・・ つまり見直しはできない
難易度
図 20
思
考
の
時
間
問題数
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
78 79 80
1問に1分かけると 80 分かかる
1問に 20 秒で ・・・ 見直しが可能となる
難易度
思考の時間
瞬時の判断
図 21
繰り返しによる知識の底上げ
問題数
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
平成 24 年度 物質の極性
認知領域
知識
精神運動領域
技術
情意領域
服装・礼儀・態度
78 79 80
数値化可能
数値化は難しい
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 59
59
平成 24 年 04 月 10 日修正
極性物質のゆくえ 第7回
これまでのまとめ を…
化学1
物質の極性
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
資
料
の
購
入
な
ど
ガ
イ
ダ
ン
ス
混
成
軌
道
電
気
陰
性
度
化
学
結
合
と
官
能
基
質
量
作
用
の
法
則
物
質
の
極
性
極
性
物
質
の
ゆ
く
え
前
半
試
験
・
分
子
モ
デ
ル
構
築
物
質
量
と
濃
度
物
質
の
三
態
と
熱
エ
ネ
ル
ギ
ー
結
合
エ
ネ
ル
ギ
ー
と
生
成
熱
化
学
反
応
と
反
応
熱
物
質
の
反
応
性
と
酸
化
・
還
元
容
量
分
析
後
半
試
験
図 22
非共有電子対とアミノ基のイオン化
カルボキシル基のイオン化
水素結合、配位結合、疎水結合
pH と pKa
酸性物質と塩基性物質
Concept Map にまとめる
個々の項目の関連性を知ることにより、知識を統合する。内容を暗記する、ではなく理解する。
1 内容の分からない単語をキーワードとして拾い出す。非常に多いハズ !!
2 キーワードの内容を調べた後に覚える。
3 個々のキーワードの関連性を調べる。
図 23
* 単なるキーワードの説明ではない !!
例;p 軌道 → px、py、pz → 混成軌道 → 原子価電子 → 非共有電子対 → 配位結合 → アミノ基のイオン化
この様な関連性を地図として描いたものを「Concept Map」と呼ぶ。個々の項目の関連性をいきなり紙面
に示すのは難しいので、キーワードを記述した小さなカードを準備して関連性を見いだすと良い。ここで
示した例を文章化すると次の様になる;
実際の p 軌道は3個の独立した軌道から構成されており、s 軌道と混ざり合った sp3 混成軌道が形成さ
れる。sp3 混成軌道の軌道数は4であり、窒素原子の原子価電子は5個なので、どれか1つの軌道には窒素
原子に由来する電子が2個占めることとなる。これが非共有電子対であり、電子を保持しないプロトンな
どが配位結合を形成する。この様な原理によりアミノ基がイオン化する。
質問
では、← p 軌道に至る内容を逆にたどるとどの様なキーワードが挙げられますか?
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 60
60
平成 24 年 04 月 10 日修正
「物質の極性」 Concept map の構築 -1
*「物質の極性」 中間試験に向けて、種々の項目がどの様に関連しているかを 図 22 を参考として示しなさい。
1回;ガイダンス、2 回;混成軌道、3回;電気陰性度、4回;化学結合と官能基
5回;質量作用の法則と中和滴定、6回;物質の極性、7回;極性物質のゆくえ
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 61
61
平成 24 年 04 月 10 日修正
「物質の極性」 Concept map の構築 -2
1回;ガイダンス、2 回;混成軌道、3回;電気陰性度、4回;化学結合と官能基
5回;質量作用の法則と中和滴定、6回;物質の極性、7回;極性物質のゆくえ
平成 24 年度 物質の極性
平成 24 年 03 月 20 日作成
1年次 前学期 62
62
平成 24 年 04 月 10 日修正
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