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繰り返しレート 80MHz における個々のテラヘルツパルスの検出

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繰り返しレート 80MHz における個々のテラヘルツパルスの検出
繰り返しレート 80MHz における個々のテラヘルツパルスの検出
フローリアン・レティック 1、ファビアン・フォール 1、ニコ・ヴィーウエグ 1、オレグ・コホカリ 2、
アンセルム・デニンガー1
1 トプティカフォトニクス AG,
2ACST
82166 グレフェルフィング、ドイツ
GmbH, 63457 ハーナウ、ドイツ
概要
過去数年で時間分解テラヘルツシステムは著しく成熟したが、測定速度が問題として残っている。制
限要因は時間遅延である。データアクイジションが制限されるので、測定レートは数 10Hz からせい
ぜい数 kHz となる。ここでは、個々のテラヘルツパルスの強度を繰り返しレート 80MHz で測定する
新技術を紹介する。われわれの装置構成としては、フェムト秒ファイバレーザ、テラヘルツエミッタ
として光伝導スイッチ、レシーバとしてゼロバイアスショトキーディテクタ、および高速データアク
イジションユニットを統合したものとなっている。検出信号は数 ns(ナノ秒)幅であり、これはレーザ
の逆繰り返しレートよりも遙かに短い。したがってこのシステムは真の「超高速」テラヘルツ伝送計
測を可能とし、ウエッティング(濡れ)動力学をリアルタイムで調べることができる。
1.前書き
テラヘルツは、周波数 100GHz と 10THz との間の電磁波、あるいは 3 ㎜~30µm の波長を言う。
言い換えると、マイクロ波と赤外の間の光と言える。テラヘルツ波は、プラスチック、塗装膜、紙袋、
段ボール箱や繊維の内部を見ることができる。X 線と違い、テラヘルツ波は電離作用を起こさない、
また生物学的に無害と一般には見なされている。従来まで強いテラヘルツ照射を生成するのは難しか
ったが、過去 10 年でレーザベースの生成技術に著しい進歩があり、これが「テラヘルツギャップ」
を埋めるのに役立った。今日では、ユーザはかなり広範なベンダから商用システムを選択し入手する
事ができる。 標準の時間分解テラヘルツ(TD-THz)セットアップでは、光伝導スイッチもしくは非線
形結晶が赤外レーザ短パルス信号をテラヘルツ照射に変換する。テラヘルツパルスは、サンプルと相
互作用し、レシーバでレーザパルスのタイムシフトコピーとしてサンプリングされる。この「ポンプ
プローブ」デザインでは、時間遅延の実行が必要になる。これはテラヘルツパルスの時間幅が一般に、
赤外レーザパルスよりも一ケタ大きく広がっているためである。時間遅延は、全ての先進的 TD-THz
システムに共通の原理であり、これの実現には移動ステージによるか、あるいは 2 つのフェムト秒レ
ーザのパルストレインを同期させるかのいずれかの方法による。メカニカルディレイが一般的な計測
レート、10Hz~500Hz[1, 2]を達成するのに対して、同期繰り返しレートをベースにしたシステム
は kHz 領域を可能とする[3, 4]。とは言え、システムが 1 秒間に生成する数千万のテラヘルツパ
ルスに比べれば、これらの数字はすべて小さく見える。言い換えると、タイムディレイ(時間遅延)
は、達成可能なデータレートの点では依然として大きなボトルネックとして存在している。
一方で極限的な速度でテラヘルツ観察をしたいという要求が存在する。一例として、水中のタ
ンパク質の動態研究がある、ここでは溶解した生体分子がミリ秒あるいはマイクロ秒以内に広が
る、さらに同じ時間スケールでタンパク質-溶液混合物のテラヘルツ吸収特性が変化する。産業環
境においては、高速なベルトコンベア上のサンプルの特性のモニタリングは、真の「超高速」測
定手法を必要とする、特に高い空間分解能(「全数検査」)のパラメータマッピングが望まれる場
1
合である。
われわれは、従来のポンプ-プローブスキームに代わる方法を開発した。これは 4~7 ケタ高速であ
る。テラヘルツレシーバとして高帯域ショトキーダイオード使うことで遅延ステージの必要性を完全
に排除した。入射テラヘルツパルスに含まれるスペクトル情報は犠牲になるが、テラヘルツ振幅信号
そのものは前例のない速度で計測される。十分な発振強度を持ったテラヘルツエミッタにより、われ
られのセットアップはロックイン検出器もパルスピッキングも、信号の平均化も必要としない。した
がって、個々のテラヘルツパルス振幅の定量的評価が可能になる。計測速度を制限するのはフェムト
秒レーザの繰り返しレートだけである。これはわれわれのセットアップでは、80MHz に相当する。
このコンセプトは、時間分解能が数ナノ秒の動的プロセスの観察に役立つ。
2.セットアップ
われわれの計測セットアップ(図 2)は 4 つのコア構成要素からなる。(i)コンパクトなフェムト秒フ
ァイバレーザ(トプティカフォトニクス社、“FemtoFErb 1560”)、(ii) InGaAs ベース光伝導テラ
ヘルツエミッタ(フラウンホーファーHHI、モデル THz-P-TX)、(iii) アンプ(ACST GmbH)を集
積したゼロバイアスショトキーダイオード、(iv) 高速データアクイジションユニット(LeCroy,
“Waverunner”)である。
レーザが照射する短パルスは、~80fs 半値幅、繰り返しレート 80MHz、中心波長~1.5µm で
ある。偏波保持光ファイバがパルスをテラヘルツエミッタに送り出す。通常、光パルスは標準的
な光ファイバ内で分散するためパルスを成形しアンテナの位置で最短パルスになるように、われ
われのファイバアセンブリは分散補償手段を含んでいる。
光伝導アンテナの特徴は多層構造、ここでは活性層(光伝導 InGaAs)がタッピングレイヤ(光学的に
透明な InAlAs)に挟まれている。ストリップラインアンテナが自由空間にテラヘルツパルスを放射す
る。パワーの最大値を示す 450GHz 付近での平均パワーは、~60 µW に達する [5]、
。スペクトル
幅全体は 6THz に広がる。
レシーバユニットは、利用可能な周波数範囲が 50GHz~1.2THz のゼロバイアスショトキーダ
イオードとデータレート 5GS/s の高速オシロスコープで構成される。テラヘルツパルスが広がり、
レシーバでローパスフィルタリングされるが、検出は個々のテラヘルツパルスを分解できる程度
に高速である。
3.結果
図 3 は、自由空間伝搬(参照信号、黒色)および、ポリアミドとガラスファイバコンポジット(GFC, 厚
さ 5 ㎜)製のプラスチックプレートサンプル(PA, 厚さ 2 ㎜および 3 ㎜)を透過したテラヘルツパルスの
振幅トレースを示している。パルス形状は、フォトコンダクティブレシーバの振幅トレースに似てい
る。しかし、ショトキーディテクタがテラヘルツパワーを計測しているのであって、入射パルスの電
界を計測していないため双曲形状は明らかに不自然な結果であるが、これは集積増幅回路のリンギン
グに起因するものである。アンテナからのテラヘルツパルス(半値幅、~650fs)と比較すると、検出パ
ルスは広がって見える。プラスローブとマイナスローブはそれぞれ半値幅が~1ns、2ns を示してい
る。しかし、このセットアップが、定量的伝送データを 10ns の時間スケールで提供できることを指
2
摘しておきたい。図 2 の例では、描かれている 3 つの例、2 ㎜ PA、3 ㎜ PA、5 ㎜ PA の GFC はピー
ク強度の減衰がそれぞれ 43%、55%、88%である。これらの結果は、サブマイクロ秒の時間分解能
を持つわれわれの測定系がプラスチック製品の品質コントロールに適していることを示している。
2 番目の原理実証実験では、3 つの異なるサンプルのウエッティング(濡れ)動力学をモニタするため
のセットアップを用いた: 1 枚のティッシュペーパー、スポンジおよび 1 個の角砂糖である。サンプル
をテラヘルツビームの中に連続して置き、各サンプルの端をピペットで濡らした。数百ミリ秒以内に
水滴がサンプルに広がり、それにともなって伝送テラヘルツビームの強度が低下した。
ミリ秒レベルの時間分解能はわれわれの事例研究の吸収動力学解明に十分なため平均 1000 の連続
するテラヘルツパルスを抽出した。言い換えると、われわれはシステムを減速してデータレートを~
10µs にした。これはまだ従来の TD-THz 装置よりも数ケタ高速であることを示している。図 4 は、
テラヘルツパルスのピーク強度を示している、つまり時間に対するプラスとマイナスローブの和であ
る。緑色、青色および赤色の線はそれぞれ、ティッシュペーパー、スポンジ、角砂糖の水吸収動力学
を示している。透過率減衰 90%/10%の値を元に計算すると、吸収時定数はスポンジで 606ms、角砂
糖で 570ms、ティッシュペーパーで 137ms となる[6]。
4.まとめと展望
・繰り返しレート 80MHz で個々のテラヘルツパルスを分解できる TD-THz 計測システムを紹介した。
アセンブリユニットは、コンパクトなフェムト秒ファイバレーザ、強力な InGaAs ベース光伝導スイ
ッチおよび高帯域ショトキーダイオードレシーバ。達成される時間分解能は、われわれのレーザの繰
り返しレートによってのみ制限を受けた。
・われわれのコンセプトでは、機械的または電気的ディレイステージが不要となるので、非常に堅牢
でコスト効率の優れたシステム設計を実現可能である。高出力なテラヘルツ信号とショトキーディテ
クタの感度により、
信号の平均化やロックイン検出機構なしでもデータアクイジションは可能である。
・検出回路のローパスフィルタによって、テラヘルツパルスのスペクトル成分に関する情報は失われ
るが本システムは前例のない高速性でテラヘルツ電界強度値を評価する。これによりナノ秒時間スケ
ールで伝送計測が可能になる。これは研究室だけではなく、システムを構成する高い機械的安定性に
より苛酷な産業環境でも実現可能である。われわれの予想では、この技術によってタンパク質の動態
など、超高速の生物学的過程、ベルトコンベアや紙漉機などの動きが速いサンプルの非破壊検査アプ
リケーションでも新たな展望が開ける。したがって、同システムは TD-THz 技術の産業界への普及に
道を開く可能性がある。これはスピードの点で利点が大きいためである。現在の先進的 TD-THz シス
テムに対して、われわれのセットアップは 1 万~1000 万倍高速である。
3
図 1 従来の TD-THz セットアップ(TX=トランスミッタ、RX=レシーバ)。テラヘルツパルスは、レ
ーザパルスの時間シフトコピーでサンプリングされるので、時間遅延の実行が必要になる。
図 2 上:セットアップ図。PCA=フォトコンダクティブアンテナ、RX=ショトキーレシーバ、DAQ
=データアクイジションユニット、PC=データ処理用の外部コンピュータ。
下:主要ユニットの写真、フェムト秒レーザ(前部)と DAQ(後)
4
Reference
PA, 2 mm
PA, 3 mm
GFC, 5 mm
Amplitude (mV)
5
0
-5
0
10
20
30
40
Time (ns)
図 3 パルスレート 80MHz で計測されたテラヘルツ振幅。参照信号トレースおよび 3 つの異なるサン
プル(PA:ポリアミド、GFC:ガラスファイバコンポジット)を通した透過パルスを示している。
8
Tissue paper
Sponge
Lump sugar
Amplitude (a.u.)
6
Wetting
4
2
0
-1.0
-0.5
0.0
0.5
1.0
1.5
Time (s)
図 4 水で濡らしたティッシュペーパー(緑)、スポンジ(青)、角砂糖(赤)の吸収力学。
5
――――――――――――――――
参考文献
[1]. N. Vieweg et al., “Terahertz-time domain spectrometer with 90 dB peak dynamic range,” J
Infrared Milli. Terahz. Waves, vol. 35, pp. 823-832, 2014.
[2]. G.J. Wilmink et al., “Development of a compact terahertz time-domain spectrometer for the
measurement of the optical properties of biological tissues,” J. Biomed. Opt., vol. 16, pp. 047006-1
– 047006-10, 2011.
[3] G. Klatt et al., “Rapid-scanning terahertz precision spectrometer with more than 6 THz
spectral coverage,“ Opt. Express, vol. 17, 22847-22854 (2009).
[4]. R.J.B. Dietz et al., “All fiber-coupled THz-TDS system with kHz measurement rate based on
electronically controlled optical sampling,” Optics Lett., vol. 39, pp. 6482-6485, 2014.
[5] R.J.B. Dietz et al., “64 µW pulsed terahertz emission from growth optimized InGaAs/InAlAs
heterostructures with separated photoconductive and trapping regions,” Appl. Phys. Lett., vol.
103, pp. 061103-1 – 061103-4, 2013.
[6] F. Rettich et al., “Field intensity detection of individual terahertz pulses at 80 MHz repetition
rate,” J Infrared Milli. Terahz. Waves, vol. 36, pp. 607-612, 2015.
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