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第5グループレジュメ(PDF)
ストレングスモデル ―利用者が障害受容をしていくために― 伊藤美早紀 片岡愛理 上村美帆 滝野広晃 1.はじめに 私たちは、社会福祉援助技術現場実習Ⅰ(以下、実習とする)での体験をもとに話し合 いを行った。私たちは、主観的に利用者と関わっていたという共通点があることに気づい た。そのため、 『専門的な価値観』とテーマを設定した。 しかし、実習担当教員との面談で、 「専門的な価値観のどこに焦点を当てるのか不明確で ある」と助言をいただいた。さらに、それぞれの体験の捉え方にずれがあるという助言も いただいた。そこで、私たちは、もう一度実習の体験を話し合い、文献をもとに様々な実 践モデルやアプローチを調べた。その結果、全員一致するものがストレングスモデルであ ると考えた。研究を進めていく中で、「ストレングスモデルは、ただ単に『利用者の強さ』 だけを意味しているのではない」と実習担当教員との面談で助言をいただき、私たちはス トレングスモデルについて理解が不十分であることに気づいた。 これらのことから、私たちは利用者を支援するにあたり、ストレングスモデルがどのよ うに活用されているのか、理解を深めるために、上記のテーマを設定した。 2.方法 (1)個々の体験を挙げる (2)それに基づいて意見交換し、まとめる (3)どこに焦点をあてるか話し合う (4)参考文献・資料を探し情報を収集する (5)文献と体験を照らし合わせ、話し合った焦点が妥当か確認する (6)研究を展開する (7)参考文献を活用して、個々の体験と比較し、考察を行う (8)自分たちの体験の自己評価を行う (9)今後の課題について考える - 45 - 3.先行研究 (1)ストレングス Ⅰ.定義 ①(狭間香代子) 個人や集団、または、コミュニティなどが潜在的に保持する総合的な力のようなもの ②(ゴールドシュタイン) 健康や潜在力のようなものに属し、一連の過程を包合する組織な構成物である 引用文献:①狭間香代子「エンパワーメント・アプローチにおけるストレングス視点の 『社会福祉実践理論研究(9) 』 日本社会福祉実践理論学会 P.70 意味」 2000 年 ②狭間香代子「自己決定とストレングス視点」 『社会福祉学』第 40 号(2) P.46 2000 年 Ⅱ.ストレングス ストレングスは、利用者本人と環境面に存在する。 利用者本人…本人の有する能力、意欲、自尊心、嗜好、資産など 環境…家族、近隣、地域、ボランティアなど 参考文献:社会福祉士養成講座編集委員会編『相談援助の理論と方法Ⅱ』 中央法規 2010 年 (2)ストレングスモデル ①ストレングスモデルとは ソーシャルワーカーが支援課題をとらえていこうとするときに、「強さ」や「能力」 に焦点を当てようとするモデルである。また、 「豊かな能力、活力、知恵、信念、確信、 望み、成長、自然治癒力など現在から将来に至るまでの強さに着目し、それらを引き 出し、活用して問題を解決しようとする」支援観でもある。 引用文献:社会福祉士養成講座編集委員会編『相談援助の理論と方法Ⅱ』中央法規 P.134-135 ,140 2010 年 - 46 - ②特徴 ・利用者主体 利用者自身が自分の持っている生活を営んできたという強さや力を再認識すること で、利用者が主体となって課題に取り組むことにつながる ・利用者の「強さ」を見出し、 「意味づけ」する 利用者が自分自身のストレングスに気づくだけでなく、なぜストレングスになるの か、利用者自身が認識するように支援者が導く ・ナラティブ重視 人の思いや考えは、科学だけではわからないため、利用者の物語る内容を重要視し、 そこからストレングスを見出す 利用者の「強さ」を見出し、 「意味づけ」する ストレングスモデル ナラティブ重視 利用者主体 図1 注:クライエントを利用者と置き換えている 参考文献:社会福祉士養成講座編集委員会編『相談援助の理論と方法Ⅱ』中央法規 P.134-135 ,140 2010 年 山口真理「ストレングスに着目した支援過程研究の意味」 『福祉社会研究』 第 4・5 号 P.109 2004 年参照 4.仮事例検討 <障害者入所支援施設> 利用者A(40 歳 女性 以下、Aさんとする) 結婚歴なし ・3年前に、交通事故に遭い、職に就いていたが、障害を抱え退職することになった。 その後リハビリに通ってから、半年前に障害者入所支援施設に入所した。 ・障害程度区分3 身体障害者手帳2級 ・下半身麻痺 車いす利用 - 47 - 【場面1】情報収集 実習生はAさんと関わり、Aさんが中途障害であったことや事故に遭い施設に入所した ことを知り、Aさんが今まで施設でどのように過ごしてきたのかを実習担当職員に聞いた。 すると、実習担当職員は「Aさんはリハビリを行い、車いすを利用できるまでに回復した んだよ。だけど、事故のことがショックで気持ちがうつむいている様子なんだよね。身の 周りのことも自分でしたがらないんだよね」と話した。 A さんは気持ちがうつむいている様子なんだよね 実習生 実習担当職員 そうなんだ・・・ 【場面2】語り(ナラティブ) 実習生は再びAさんと関わった。Aさんは中学校教師として職に就き、ずっと働きたい と思っていたが、Aさんは「もう一度教師として働きたいけど、こんな体では・・・。頑 張って身の回りのことを自分でできるようにしたって、車いすではもう職に就くことはで きないから」と実習生に話した。Aさんは今までできていたことが、障害を抱えたことに より、できなくなってしまったと自信を失っているようだった。その後の会話の中でも「何 もしたくないし、やる気もない。二度と誰かに何かを教えることもできないよ」と話して いた。そのため、実習生はAさんが自信をなくしたことに目を向けた。 もう何もしたくない・・・ そうなんですか・・・ 実習生 利用者A - 48 - 【場面3】助言① 実習生はAさんと関わり、Aさんが自信を失っていることを実習担当職員に話した。す ると、実習担当職員から「確かにAさんは自信を失っているけど、別の視点からAさんを 考えてみては?」と助言を受けた。そこで、Aさんとの関わり方を振り返った。そのこと から、実習生はAさんのマイナス面に捉われてしまっていたことに気づいた。 Aさんは自信を失っているんですね Aさんに対する見方を 変えてみたら? 実習生 見方を変える・・・? 実習担当職員 場面1・2・3の考察 実習生は、Aさんが自信をなくしたというマイナスな面に着目し、Aさんと関わってい たため、Aさんのストレングスに気づくことができなかった。 【場面4】利用者主体と語り(ナラティブ) そして、実習生は再びAさんと関わり、Aさんが復職したいことを思い出した。実習生 はAさんが復職するためには、Aさんが自信を取り戻すことや、身の回りのことを自分で 行えるようになることが必要であると考えた。そのため、実習生はAさんに、「何か趣味は ありますか?」と尋ねた。すると、Aさんは「事故に遭うまでは、編み物をやっていたよ」 と話した。実習生はAさんにまず、自信を取り戻してもらうために、 「編み物をまたやって みませんか?」と誘ってみたが、 「そんな気分にはなれない・・」と断られてしまった。 編み物をまたやってみませんか? そんな気分にはなれない 実習生 利用者A - 49 - 【場面5】助言② 実習生はAさんに、 「編み物をやってみませんか?」と話したが、断られたことを実習担 当職員に話した。そこで実習担当職員から、 「Aさんは自信をつかむきっかけが必要だと思 うんだよね。Aさんはよく一人でいるから、他の利用者さんと関わる機会を作ってみるの もいいかもね」と助言を受けた。そこで、実習生は実習担当職員の助言を参考に、Aさん と他の利用者が関わる機会を増やそうと考えた。 編み物をやってみませんかと言ったんですけど、 断られてしまいました 実習生 実習担当職員 Aさんには、何か自信につながる きっかけが必要なのでは・・・ 場面4・5の考察 実習生は、Aさんが復職したいという思いを受け入れ、利用者主体が尊重されていた。 そこで、 “Aさんが編み物をやっていた”というストレングスに気づき、「編み物をまたや ってみませんか」と声かけをしたが、意味づけが不十分であったため、Aさんに断られて しまった。 【場面6-1】利用者主体と語り(ナラティブ) 後日、実習生は実習担当職員にお願いをして、同じ中途障害の方とAさんが関わる機会 を作った。しかし、その日Aさんは他の利用者と会話をすることはなかった。実習生は時 間をかけて関係を築いていくことが必要だと考え、その日から毎日、Aさんと他の利用者 が関わる機会を持つようにした。すると、初めは会話をすることがなかったAさんが、徐々 に他の利用者と話す姿が見られるようになった。特に、同じ中途障害である利用者B(以 下、Bさんとする)が、色々なことに挑戦していることを知り、自分一人だけが辛いわけ ではないということに気づいた。また、実習生は一度着目した編み物とAさんを結びつけ るために、あらかじめBさんにAさんを編み物クラブに誘ってみてほしいことを伝えた。 そこで、BさんがAさんに「編み物クラブに参加してみない?」と話したところ、Aさん は迷っている様子であった。 編み物クラブに参加してみない? 利用者B どうしよう・・・ - 50 - 利用者A 【場面6-2】利用者主体と語り(ナラティブ) その後、実習生は、 「Aさんにも他の利用者さんと同じようにできることはあると思いま すよ。それに、編み物をやることで、何か変わるかもしれませんし、一緒に編み物クラブ に参加してみませんか?」と伝えた。するとAさんは「参加してみようかな・・・」と話 した。 一緒に参加してみましょう 参加してみようかな 実習生 利用者A 場面6の考察 場面6では、実習生がAさんの様子や変化に目を向けながら、Bさんを介して、 「編み物 をやることで、何か変わるかもしれない」と理由づけをしたことで、Aさんが編み物クラ ブへ参加することに至ったのだと考える。 【場面7】ストレングスの意味づけ 実習生はAさんから“参加してみようかな”という気持ちを聞くことができたため、A さんとともに編み物クラブへ参加した。その活動の中で、Aさんは上肢に片麻痺があり、 編み物ができず見ているだけだった利用者C(以下、Cさんとする)を目にし、Aさんは 片手でもできる編み方をCさんに教えた。そのことで、今まで編み物ができなかったCさ んもやり方を工夫することで編み物ができるようになり、とても喜んでいた。そのような 様子を見たAさんは、障害を持っていても工夫することで色々なことができるようになる のではないかと考えた。そして、そのことからAさんは、「障害を抱えたことで、自分にで きることは何もないと思っていたけど、編み物クラブでCさんに編み物を教えることがで きた。障害があっても工夫すれば、できることもあるとわかり、むしろ障害がある私だか らこそ伝えられることもあるんじゃないかな」と話した。そのことで実習生はAさんが自 信を取り戻すきっかけになったのではないかと考え、そのことを実習担当職員に報告した。 私だからこそ、伝えられることが あるんじゃないかな・・・ 実習生 自信を取り戻してくれたかな 利用者A - 51 - 【場面8】語り(ナラティブ) 後日、実習生は実習担当職員から「Aさんは養護学校の教員になりたいと話していたよ。 今は私たちと一緒に養護学校の教員になる方法を調べながら、身の回りのことを少しずつ 自分でできるように取り組んでいるよ」と話をうかがった。そこで、実習生はAさんの様 子を見に居室に行くと、今まであまりしていなかった身の回りのことをAさんが進んで行 っている姿を目にした。Aさんは実習生に「私は障害で昔よりできなくなってしまったこ とはあるけど、これからは昔みたいにできることは自分でやれるように工夫の仕方を見つ けていきたい。そして、それを私と同じように障害のある子どもたちに伝えていきたい」 と話した。 Aさんは今、養護学校について調べながら、 身の回りのことを頑張っているよ 目標ができて、 実習生 実習担当職員 頑張っているんだ! 場面7・8の考察 場面7と場面8では、Aさんは編み物クラブへの参加を通して、 ”工夫することで、でき るようになることもある”と気づき、そのような工夫の仕方は、障害を抱えている自分だ からこそ、伝えていくことができるのではないかと考えた。そのことで、Aさんは「もう 教師として職に就くことはできない」という気持ちから、「養護学校の教員になり、子ども たちに工夫の仕方を伝えていきたい」という気持ちに変わり、Aさんの語り(ナラティブ) が変わったと考える。 5.総合的な考察 私たちは、ストレングスモデルを活用した支援において、利用者のストレングスに目を 向けるだけではなく、利用者と支援者が一緒にストレングスを共有し、その意味を理解す ることが重要だと考えた。 私たちは、研究を進める前までは、ストレングスをただの「強さ」と認識していた。そ のため、実習中では、利用者の強さを見つけることや気づくことはできたが、支援に活か すことにまで至らなかった。 - 52 - 実習を終えて、研究を進めていく中で、また実習担当教員との面談を通して、ストレン グスモデルは、単に利用者の「強さ」を意味するだけではなく、ストレングスの意味づけ を利用者に行うことが重要であると理解した。さらに、利用者のストレングスに気づいた り、意味づけを行うためには、利用者の物語るナラティブが手掛かりになることも理解し た。そこには、利用者の主体性を尊重することが欠かせないと考えた。 今回の仮事例のように、利用者が障害を抱えたことにより、自信を失っているケースは 少なくないと考えた。そのような時に、専門職がストレングスモデルを活用した支援を行 うことで、再び利用者が自信を取り戻すきっかけになるのではないかと考えた。 6.おわりに 本日はお忙しい中、私たちの発表を最後まで聞いてくださり、ありがとうございました。 私たちのグループは研究を進めていくにあたり、話し合いが思うように進まず、行き詰っ てしまうことが多々ありました。しかし、メンバー間での話し合いや実習担当教員との面 談を繰り返しながら、少しずつ共通理解を図ることができるようになり、話し合いもうま く進めていくことができるようになりました。時には意見がすれ違うこともあり、何度か くじけそうになったこともありましたが、メンバー同士で励まし合い、最後まであきらめ ずにやり遂げることができました。 最後になりましたが、実習を受け入れてくださった施設職員の皆様と利用者の皆様、親 身になってご指導してくださった先生方、ともに頑張ってきた友人、そして家族、支えて くださった皆様に心から感謝いたします。本当にありがとうございました。 7.参考文献 ・社会福祉士養成講座編集委員会(編) 『新・社会福祉士養成講座6 相談援助の基礎と専 門職 第2版』 中央法規 2011 年 ・社会福祉士養成講座編集委員会(編) 『新・社会福祉士養成講座8 相談援助の理論と方 法Ⅱ 第2版』 中央法規 2011 年 ・白澤政和(編) 『ストレングスモデルのケアマネジメント いかに本人の意欲・能力・抱 負を高めていくか』 ミネルヴァ書房 2009 年 ・狭間香代子「エンパワーメント・アプローチにおけるストレングス視点の意味」『社会福 祉実践理論研究(9) 』 日本社会福祉実践理論学会 2000 年 ・狭間香代子「自己決定とストレングス視点」 『社会福祉学』 2000 年 ・山口真理「ストレングスに着目した支援過程研究の意味」 『福祉社会研究会』 第4・ 5号 2004 年 - 53 -