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農山漁村の特性と新事業創出

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農山漁村の特性と新事業創出
平成24年度
新事業創出人材育成事業
農山漁村の特性と新事業創出
-日本の農業と農村の危機的状況の中で?-
早稲田大学 柏 雅之
講義のポイントー6次化の基礎となる日本農業への理解をー
1.日本の稲作など土地利用型農業の危機的状況
■農業の「多面的機能」を守っているのは土地利用型農業!
■労働集約型や資本集約型農業は収益性でメリットはあるが、
「面」としての地域資源(農地、水、環境)を守れるわけではない
■大規模個別借地農路線か? 地域営農集団路線か?
2.高齢化・人口減少にあえぐ農山村
■水田が守れない ⇒地域農業を守る「堡塁」の構築を!
3.地域農業の「堡塁」を拠点として、さらに農産加工・直売・
交流事業などを展開させる!
■加えて、住民の多様なニーズへの対応も!
4.日本農村型の「社会的企業」をめざせ!
BC過程とM過程によるコスト・ダウン
短期の場合、農地面積が一定であれば肥料等の増投に対して収穫逓減
則が働きコスト低減困難だが、長期の場合、規模拡大によってM過程に
よって収穫逓増になる。
短期の場合でコストダウンする道は、技術進歩による単収増によって、
「10a当コスト/単収」の、分母を増大させる。土地の狭い国では重要。
山下一仁(2010)に筆者が加筆
大規模化すれば日本稲作も生き残れるとする論理
日本の小規模な農家
山下(2010)に筆者が加筆
平均費用曲線が国際価格を下回るように規模
拡大しえた日本の大規模経営の場合
「物財割れ」の大赤字稲作への対応方向
1.大規模個別借地農という路線
■国際価格水準までコスト低下は可能か?
⇒対象を絞った直接支払い(小泉農政改革)
■「面」としての農地をどれだけ守ってくれえるのか?
■条件不利地域は守られるのか?
2.集団営農組織という路線
■零細な農家でも集落農場制をとって集団営農すれば効率化
■「面」としての地域資源を保全するにメリット大
■数々の「集落営農」の栄枯盛衰
■地域営農法人をめざしているが
3.旧村レベルを守る多様な営農法人
■第3セクター、JA出資型法人、全戸出資型法人・・・
4.上記それぞれの主体で6次産業化への展開は可能だが・・・・
農山村の危機
■中山間地域では1960年代から続く急激な人口減少が終末段階へ
人口規模の大幅な縮小・高齢化
今後新たな挑戦のための基礎を奪い、先人のあらゆる努力
の成果を台無しにする
■報告者が多くの「優良事例」を訪問して思うことは、その努力の賜物
を継承する「ひと」が不在化する懸念
■中山間地域等直接支払制度(2000~)は、沈滞する高齢化農家を
鼓舞し力を結集させ多様な成果をもたらした(集落の活性化など)
■しかし、「成果」を継承発展させる人的基盤はどうなのか?
とくに、来る人口規模縮小に耐えうる仕組みを持った地域営農の
持続可能な担い手システムはほとんど形成されていない
→地域資源管理の危機再来と膨大な政府投資のムダ金化
中山間地域等直接支払制度の危機と対応戦略
■本場の西欧(1975~)の条件不利地域では一応成功!
・西欧では少数の農家が大量の農地を放牧などで粗放的に管理する
・EUの支払い単価は日本の1割しかないが、面積が圧倒的に大きいの
で支払われる総額は大きく、十分「所得補償」といえる!
・他方、日本では支払い単価こそ10倍だが、零細規模なので「所得補
償」には到底ならない
■本制度は、一定の人口賦存量とそれをベースとした集落の活力が
前提条件となってはじめて機能する
■しかし、多くの地域その前提条件が崩れる可能性
⇒人口問題は本制度が期待したシナリオの立脚基盤を掘り崩しうる
■与件変化(人口空洞化)に対応した制度の運用戦略が必要
⇒「おおぜいの人間が多くの農地を周密に管理する」従来の発想の
ではもうもたない
⇒地域営農のコアとなる「堡塁」を築け! そして公民連携を!
人口減少にともなう担い手像の変化
少数の担い手への依存度
自治体依存型の市町村農業公社
地域経営法人
・旧村レベル、コミュニティ所有、高度の経営管理システム、
多様なサービス供給、直払金集中、日本農村型「社会的企業」
重層的営農集団
・集落レベル、経営構造の近代化
⇒そう簡単にはできない
集落営農(高地代・低労賃型)
・集落レベルでの地主層による防衛的組織 ⇒ 崩壊するケース続出
各農家での対応
原点「過去りし古き良き時代?」
人口減(高齢単一世代化)
やや「広域」な地域の担い手は成立可能か?
■本来、多数の農家が存続し中山間地域農業が維持されていくことが
望ましい。しかし人口空洞化でそれが困難となるなら、少ない担い手
で多くの面積を、粗放的管理も含めて維持するシステムへと転換
■どの程度のエリアを担うのか?・・・やや「広域」とは?
・「広域」とは、中山間地域直接支払金収入を含めた採算で赤字になら
ない規模
・さらに、直接支払金の運用等で比較的合意形成が容易な地域単位
こうしたことから「旧村」に着目
■複数集落できれば旧村レベルを目途に、中型機械化体系が適用可
能な圃場の基幹作業を担える地域営農主体をつくっていく必要性
→「ストッパー」(初級)からはじめ「堡塁」(上級)をめざせ!
⇒そこで6次化事業がアシスト機能を果たせ
中山間地域における「規模の不経済」
平均費用
規模の不経済
(スケール・デメリット)
条件不利地域
(条件不利地域で圃場を団地化した場
合)
平地地域
作付規模
条件不利地域農業における規模の不経済
原因:区画の狭さ、法面の高さ(傾斜)
従って、条件不利地域では作付規模を拡大すると、規模の不経済が早い段階から発
生する→ これを緩和するには、①圃場整備や、②圃場の団地化 が重要となる
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中山間地域で大規模な耕作はできないのでは?!
■定説だが(規模の不経済)、最初から諦めないこと
■未整備・狭隘区画、急峻傾斜な圃場は無理だが、最低10~20a程度
程度の整形区画で、一定(最低1ha程度)の団地・連坦規模があれば、
新たな経営管理手法によって家族経営でも10~20haの事例は少なく
ない ⇒ 関川村の「三栄農産」は実にすごい!
※経営管理の一例
①標高差を利用した作期延長など高度の作業管理
②畦畔草刈等の徹底した省力化
③棚田米のブランドによるマーケテイング戦略・・・・・
※ただ、こうした個別経営は希少で、地域の「面的担い手」なり難い
■中山間地域直接支払金は、零細規模農家には所得的にメリットは
乏しいが、「コア的な地域経営体」に集中するなどで効果は上げえる
→広域を担う営農主体にとって、規模の不経済を採算的に補いえる
■そのためには、集落協定の中で、その営農主体が地域営農の大事
な担い手として認知・承認されなければダメ(信用がないと!!)
■そのためには、自治体の役割も重要
紹介する事例
1.旧村レベルでコア的な地域営農経営体を設立し、
広域集落協定で中山間地直払い金を経営体に集中
ー富山県南砺市五箇山地区、利賀地区ー
2.旧村レベルでコア的な地域営農経営体が重責を担いつ
つも、拠点集落に担い手法人を形成しながら地域営農の
重層的な担い手システムを形成
ー上越市清里区櫛池地区ー
3.コア的な地域営農経営体の採算を守るため、
規模の不経済を回避しようと、「3haルール」を定め、自治
体が各集落で農用地利用改善団体の設立を促進
ー福島県昭和村ー
旧村レベルで農地を守る「コア」としての地域営農主体
■富山県南砺市の旧平村、旧利賀村、旧上平村では、中山間地域等
直接支払制度導入を契機に「農業公社」を設立
■法人には集落協定によって直払金総額の33%、50%、100%が集中
■「(財)上平農業公社」の事例
・11の小規模集落、農家数168戸、守るべきは41haの傾斜水田
(水田の8割が傾斜1/20以上、10a区画の基盤整備は終了)
・JA出身の事務局長(オペ兼)と3名のオペレータ
・集落協定により、約800万円の直払金が入る
・2005年度の粗収入は約4000万円、コストを引くと14万円の黒字
・自治体、JA等からの補助は皆無
・農村高齢化の中で「頼りになる経営体」が旧村レベルでできて地域は
安堵 ⇒一種の「社会的企業」
・イノベーションがあればさらに経営成長は可能
コストをどう賄うか?-南砺市のケースを参考に-
■一般企業では、利潤最大化を狙う⇒耕作規模は限定される
■「社会的企業」の場合、コストを償えれば利潤ゼロ点まで規模拡大
可能⇒耕作可能規模はある程度広がる
■しかし、それでも増加する耕作委託のニーズにこたえられない場合
どうするのか?
①社会的企業に対する中山間地直払い金の集中(南砺市のケース)
⇒耕作可能規模(コストをフルにカバー)はより広がる
⇒それでもニーズを満たせない場合は?
※「集中のメリット」は、担い手経営への耕作量集中が大きくなるほど
減少していく
②公民連携によるコスト分担、あるいは分社化など新たな組織再編
重層的な地域営農の担い手システム形成―櫛池地区―
表2
(農)K 生産法人の経営状況(2009 年)
集落、農家数、経営水田面積
基幹3集落、36 戸、24ha/基幹 3 集落以外に、遠隔高齢
化集落 Ao および集落 Ak の農地も借地(24ha の内数)
経営者、報酬
56 歳、民間企業出身、450 万円
専任オペレータ
65 歳、冬期は除雪と農産加工、270 万円
臨時雇用
田植、刈取:兼業農家(22~45 歳)10 名
水稲経営面積
24ha
転作
ソバ:1.5ha、大豆 40a、保全管理等 5ha
コメ収入
3189 万円(単収 480kg、単価 1.5 万円)
稲作作業受託収入
579 万円
加工部門収入
652 万円
合計
4420 万円
中山間地直払金
3 集落交付総額 665 万円、うち 410 万円が法人収入
補助金総収入
592 万円
経常利益
233 万円
稲作の生産性(注)
労働時間(10a 当り)
34 時間
10a 当り生産費
133 千円
玄米 60kg 当り生産費
16,588 円
注:稲作生産費の算出に当たっては、(農)K 生産法人の全面的協力の下に、コストにおけ
る農産部門と加工部門の分離、稲作部分と非稲作部分の分離、経営面積部分と受託部分の
分離を行って算出したものであり、数値は稲作経営部分を析出したものである。
公民連携で「規模の不経済」克服をめざす
福島県昭和村「特定農業法人・グリーンファーム」
■耕作を守る「コア」としての地域営農経営体(GF)
■JA出資型農業生産法人として出発⇒その後自治体も出資
■公共性(地域営農を守る)と採算性の両立を図る
⇒「規模の不経済」をどう克服するか!
①基盤整備
②団地化
■GFは役場に「3haルール」を提言
⇒役場はプロジェクトチームを立ち上げ、全集落に農用地利用改善団
体の設立を促進
■GFに農地を依頼するときは、改善団体が3ha(原則)にまとめてから
GFに委託するシステムが定着
昭和村での農用地利用改善団体の設立
2004年
2006年
2003年
2006年
2005年
2005年
2003年
2005年
2006年
19
情報収集・最大限の助成金の申請
政府
グリーンファーム
農林水産省
最大限の助成金確保
経営体
3ha 制の
3ha制に則った
事
業
提
携
提言
農地管理の委託
農用地利用改善団体
地区内の
農地管理
農用地利用改善団体
必要に応じてサポート
農用地利用改善団体
団体設立の促進
地区の最低限の
管理作業、基盤整備、団地化を行う
村全体に対する
公益的な役割
昭和村役場
地域営農活性化
プロジェクトチーム
必要に応じて
共同でサポート
JA会津みどり
福島県農業 会津農林事務所
(福島県)
振興公社
情報収集・最大限の助成金の申請
政府
グリーンファーム
経営体
担い手
担い手
農林水産省
最大限の助成金確保
提言
農地管理の委託
事
業
提
携
農用地利用改善団体
地区内の
農地管理
農用地利用改善団体
農用地利用改善団体
地区の最低限の
管理作業、基盤整備、団地化を行う
新たな経営構造の集落営農を行う
必要に応じてサポート
村全体に対する
公益的な役割
昭和村役場
地域営農活性化
プロジェクトチーム
必要に応じて
共同でサポート
JA会津みどり
福島県農業 会津農林事務所
(福島県)
振興公社
生活も守る社会的企業へ!!!
■JAの広域合併により、中山間部のJAや支所は撤退を余儀なくされた
・日本の農協は「総合農協」!
・広範な財・サービスを供給してきた主体が撤退することの衝撃
■さらに平成の市町村広域合併の衝撃
・周辺の中山間部はあたかも見捨てられたかのよう
■住民が自ら立ち上がり「地域経営法人」を設立し、JA等に代わって多
様な財・サービスを自らに供給するようになったケースが登場
→ 京都府旧美山町のケース(鶴ヶ岡地区の「有限会社タナセン」)
・非農家を含めた旧村住民全戸出資の「地域経営会社」
・美山町役場(当時)のサポート:「公民パートナーシップ」
・購買事業、営農支援事業から福祉事業までをカバー
・営農部門の黒字で、購買事業の赤字を補填
新たな地域経営主体の形成
旧村レベル
行政セクター
支援
モニタリング
地方自治体
(公的支援)
サービス提供
人資
的金
支
援
民間セクター
コミュ二ティ所有型
ビジネスのノウハウ
民間営利
経営資源
経営主体
「社会的企業」
コミュ二ティ・
市民セクター
サ
ー
ビ
ス
所出
有資
・
地域住民
資源管理のノウハウ
非営利・非公益
人
・物
農山村経営の社会的企業を
■社会的企業とは
①コミュニティへの貢献という明確な社会的使命感の存在
②使命感をわかりやすいビジネスの形で追求
③行政との連携はあっても高度の自律性を有する
④コミュニティの所有・管理(全戸出資などもある)
■地域農業再生をベースに6次産業部門の展開へ!
■農山村の農地管理を中心に、さらに住民生活の多様
なニーズを満たす「地域経営会社」の必要性
⇒それは「JA撤退」「自治体広域合併」の代行という消極的
発想ではなく、よりよい効果・効率性で財・サービスを供給
する新たなビジネス主体の形成と考えるべき
■こうしたサービスは混合財と位置づけられる
⇒その供給は多様な公・民セクターの結集がポイント
新たなマルチ・パートナーシップ型経営体を!
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