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社会的企業の基礎知識

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社会的企業の基礎知識
社会的企業の基礎知識
(2010.10.14 午前)
[Ⅰ]社会運動としての社会的企業
(1) 「社会的企業」とは、事業を通じて社会に一定の解決提案をする企業のこ
とを言う。したがって社会的企業は事業体ではあるが運動体でもある。運
動は、その始まりが少数であることが多い。その少数の志ある人たちが、
共感と賛同を広げ、参加者を広げていく活動ということになる。
(2) 「社会的企業」の用語は、Social Enterprise の日本語訳。すなわち、考え方
や運動の発祥は欧米にある。
(a) アメリカにおいて「社会的企業」という用語は、社会的に不利な人
たち、ホームレス、その他危険に晒されている人たち向けに、就労機
会の創造という方法で、事業を立ち上げた非営利団体のグループによ
って 1970 年代に作りあげられたとする。NPOを発祥とするアメリ
カの社会的企業は「非営利団体」として記述される。
(b) ヨーロッパにおける「社会的企業」については、イタリアの社会的
協同組合制度の整備、すなわち、1991 年の「社会的協同組合法」の制
定が大きなインパクトとなっている。1996 年、欧州委員会第 12 総局
の支援を得て、EMESネットワークが設立されて、その調査研究が
「社会的企業」の大きな広がりをもたらした。
(3) 日本においても、欧米においても、この類似語、概念とも実に多様である。
徐々にではあるが、包括的な用語として「社会的企業」が定着しつつある。
(a) 「社会的経済を担う企業」
「社会統合をめざす企業」
「社会結合をめ
ざす企業」「社会目的を持った企業」「コミュニティに密着した企業」
「コミュニティ・ビジネス企業」「社会ベンチャー」「非営利収入生成
活動」「非営利企業」など。
(b) フランスの「共同体利益協同組合」。のオーストリアの「社会的経
済企業」、ベルギーの「社会目的を持った会社(組合)」、スペインの
「社会起業協同組合」、イタリアやポルトガルの「社会的協同組合」、
イギリスの「コミュニティ利益会社」など。
(c) なお、“Social Firm”は、社会的企業の一分野としての概念が定着し、
そのネットワークがヨーロッパや日本に存在している。日本では「社
会的事業所」(ソーシャル・ファーム)と言う。
(4) 本講では事業の「社会的」意味を、次のように使う。
1
(a) 活動の目的が利潤ではなく、構成員やコミュニティに貢献すること。
(生み出された剰余は「社会化」される。)
(b) 非営利の資源を使っていること。
(利潤分配の制限、Patient Capital、ボランティアなど)
(c) 独特の組織方法で運営していること。
(多元的構成員、資本に依存しない決定方式)
(5) 社会的企業は新しい「企業」である。
(a) 企業自体の持続性のため、収益性も大切である。
(b) 新しいため、<起業>が特徴である。~「社会的起業家」
① 独立起業
② 企業内起業
③ 社会連帯による起業
(c) 市中には、①や②に関する本やセミナーはあるが、③対応は少ない。
本講座の主眼目はこの③「社会連帯による起業」にある。
[Ⅱ]「企業」の核心
(1) そこで働くものが生活できなければならない。すなわち、報酬・給与等の
収入が確保できる企業体が基本である。個人企業だろうと集団企業だろう
と。そして、ILO(国際労働機関)の言う、ディーセントワーク(人に
たる労働;収入も、職場環境も、働き方も)の確保。
(2) 「企業(ビジネス)とは顧客の創造である」(P.ドラッカー)
企業も収入が必要だ。企業がアウトプットする財やサービスにお金を支払
うのは、利用者や委託先である。モノは作っただけでは収入にはならない。
そして、直接の利用者・顧客ではなくとも「ファン」が重要だ。
(3) 企業の定義;(「日本の企業システム第 1 巻」(有斐閣)より)
1.
財・サービスの提供を主な機能として作られた、
2.
人と諸資源の集合体で、
3.
一つの管理組織のもとにおかれたもの。
(4) 「企業成功の4条件」
1.
ビジョン(関係者みんなが実現したいと思う確かな未来像)
2.
技術力(企業は動いている。予測して、今なすべきことがやれる力)
3.
関係性(コミュニケーション、信頼・期待、社会関係資本)
4.
リーダーシップ(これがないと不安です)
2
[Ⅲ]近代的企業の種類
(1)
発展とは拡大であった
(a) 個人企業
(無限責任)
→合名会社(無限責任)
:出資者が経営執行する
:
〃
、(人的結合)
→合資会社(無限責任+有限責任):
→株式会社(有限責任)
〃
〃
:出資と経営の分離、(物的結合)
(b) 資本調達の大規模化・出資者の増大
(c) 多数出資者の意思統一の仕方
(2)
企業概念の整理
(a) 営利経済事業組織
① 個別企業形態
♦ 個人企業
:単独企業(出資者1人)
♦ 持分会社(合名、合資、合同)
:少数集団企業
♦ 株式会社
:多数集団企業
② 結合企業
♦ 株式相互所有、社長会、役員相互派遣、集団内取引、系列融資、
共同投資会社、持株会社、取引系列
(b) 非営利経済事業組織
① 協同組合
:多数集団(生協等)
:少数集団(労協等)
② 公企業・三セク企業
③ 自営業(家族労働)
[Ⅳ]「経営の組織」再考
(1)
伝統的個別企業組織モデル
(a) 企業発展の行き着く先([Ⅲ]の(Ⅰ))
1.
大規模な企業には、多くの多様な労働者が生まれる。
2.
「規模拡大は競争に勝つこと」のために。
3.
したがって必然的に「軍隊の組織論」が導入された。
(プロイセン)
4.
第二次大戦以降、IE に OR、PART など「軍事産業の技術」も導入。
5.
経営組織は、合併、吸収を含め、「集中と排除」が世界を席捲する
ことになる。グローバリゼーション(グローバル化)。
6.
これには、労働の流動化が目的の、「多様な働き方」がセットにな
っていた。
(b) 雇用労働の基本
1.
法律に言う雇用契約とは、当事者の一方(労働者)が相手方(使用
3
者)の指揮命令に従って労働することを約束し、相手方がそれに対
して報酬を支払うことを内容とする。
2.
組織運営上、労働者が指揮命令を聞く上司は1名(同時に2人以上
から指揮命令を受けることはない)。指揮命令に従わない場合はペ
ナルティ(降格、配転含む)を受ける。
3.
もちろん、使用者の「専断・横暴」に対する労働者保護の法律(労
合法関連)があるが、それは、上記をベースとした保護である。
(c) 運営組織を図に描いてみると
(ライン・スタッフ組織)
(d) 伝統的な経営手法、経営論とは、
「マネジメントは命令や権限、統制
に依存するし、重要視されるのは力と権限である。各々の部分や機能
は分析可能で、別々の取り扱いが可能。組織は上級の幹部がリードす
べきもの。かくして人は組織目的に合うように訓練される、等々の考
え方、およびこれらを根底に置いた一連の業務とそのサイクル」を言
う。
(2)
新しい仕事の仕方:自立的「チーム活動」
♦
♦
このチーム(事業所)は、どうして結成したか?
結成の目的。社会的・地域的な使命とビジョン。
私たちのステークホルダー(複数いる)は、誰か?
計画―実行―総括(PLAN ‐ DO ‐ SEE)は、活動する限りは必ず
必要。これを押さえながら、チーム活動を。
♦
この仕事は、利用者にとってどうなのか?
この仕事は、地域とってどうなのか?
この仕事は、働く私たちにとってどうなのか?
そして、社会的にはどういう意味があるか?
共に経験し、学びあい、力を出し合いたいという人と一緒に働く。
期待を持ってコミュニケーションしているか?
ビジョンは共有されているか?
ステークホルダーに賛同と共感を広げているか?
4
♦
(3)
「他律的役割分担」から「自律的役割分担」 へ、自分たちで管理する。
「みんながリーダー」のチーム運営。
みんなで総括リーダーを選出する。
選ばれた責任。 選んだ責任。
どんな組織図が描けるか?
(利用者中心の「組織図」)(ネットワークによるサービス図)
[Ⅴ]「多様な働き方」の裏で、非正規雇用の拡大、差別の固定化
(1)
1990 年台から、「多様な働き方」が、主に経済界から提唱され始めた。
♦
1995 年当時の日経連が『新時代の日本的経営』の中で“長期蓄積能力
型、高度専門能力活用型、雇用柔軟型の 3 グループの、非正規雇用を
多数とする労働者の階層化”を提言。
♦
その 10 年前の 1986 年「労働者派遣法」は、1999 年の改正において原
則自由化され、2004 年に至って製造業務においてもフリーとなり、こ
こに「いつでも切れる」体制が整備されてしまった。
(2)
国際的には、スウェットショップ(搾取工場)等の問題化。
♦
90 年代のナイキ問題(児童労働、過酷な長時間労働等)と解決方向
♦
今世紀でも。たとえば、あるニュース(バイオ燃料と労働条件)
(3)
133 人の労働者が寒さと飢えに震え、ひどく不衛生な宿泊所
三角契約等により、雇用関係を不明確にする偽装雇用、偽装請負が蔓延る
ようになる。労働の劣化。貧弱な社会保障。
(4)
ギョーザ問題は、「食品の安全安心」だけの問題ではない。製品の負の影
響3相(地球圏、生物圏、社会圏<労働問題>)
(「エコを選ぶ力」ダニエル・ゴールマン著、ハヤカワ新書)
(「ブラック企業世にはばかる」(蟹沢孝夫著、光文社新書)
♦
企業向けの凶悪犯罪(不満が組織できない~個人暴走へ)
広島市のマツダ工場の自動車暴走致死傷
JR 西日本の安全装置予備電源ヒューズ抜き取り
5
[Ⅴ]企業の分類の見直し:「経済の見直し」でもある
(1)
(2)
対抗的視点
♦
営利
vs
非営利
♦
市場
vs
社会
♦
集中と排除
vs
(市場での成功、人々の幸福)
連帯と包容
「社会的企業」に連動して使われる用語
♦
福祉国家の終焉
♦
社会的経済・連帯経済
♦
社会・対人サービス/就労支援・労働統合
♦
コミュニティの(普遍的)利益
♦
アソシエーション・NPO
♦
労働統合の社会的企業(WISE「ワイズ」)
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