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インターネット環境における情報量と情報連携手法
インターネット環境における情報量と情報連携手法についての考察と提案 —― センサーネットとのマッシュアップを対象として —― Proposal of Method for Information Linkage in the Internet Environment - Mash-up for Sensor Networks大野 誠士†,大西 克実†,中野 秀男† Satoshi OHNO†,Katsumi ONISHI† and Hideo NAKANO† 概要: ICT の発展は我々の社会生活に大きな利便性をもたらしてきた.とりわけネットワークおよびインター ネットに関するこの 15 年あまりの変化は非常に大きなものがあり,そのような環境下でインターネットを中心 とするメディアにおいて流通情報量の急激な増加と消費情報量の格差には検討すべき多くの課題が内在している といえる.常に進化し続けるインターネットの世界においては新しいサービスやコンテンツによって流通情報量 は日々増加し続けていくと思われる.インターネットにおける WWW とは,ハイパーリンクという概念により 様々な情報を結びつけ,情報共有を容易にすることを目的として生み出されたものである.しかし当初の目的は その後,世界規模の巨大な情報発信・広告媒体へと変貌し,更には商取引や分散システムの基盤へと変化してき ている現実がある.このような環境では,Web の情報量の急激な増大,情報の氾濫の中で必要な情報の検索が 逆に困難となる,また生かされないといった状況が表出してくるようになった. 本論文では,インターネットとその情報流通を対象として情報連携手法についての考察と提案を行う.情報連 携手法として現在提供されている様々な Web API を利用したマッシュアップを活用し,幾つかのアプリケーシ ョンを開発・実装したモデルを構築する.提案のコンセプトとしては,いわゆるインターネットと,それ以外の 独立したネットワークとしてセンサーネットワークを対象とする.センサーネットワークは様々な場所で様々な 情報を取得・連携することが可能であり,そしてその情報はある目的をもって収集されたものであるということ ができる.そのため実験ではマッシュアップのモデルとともにセンサーネットワークを用いることとする.この 実験はセンサーネットワークで得られた情報と種々のインターネットサービスによる情報連携の効果を確認する ことを目的とする. キーワード :センサーネットワーク,アドホックネットワーク,情報連携,フィードバック Keywords :Sensor networks,Ad hoc network,Information sharing with the ICT,Feedback られる(総務省,2009). また従来では,いわゆるインターネットとは別の独立し たネットワークシステムも近年ではインターネットに参加 するような動向が増加している.その一例として「センサ ーネットワーク」があるが,このネットワークは様々なデ ータを扱うようになってきている.例えば,企業活動では 工場などの製造現場や物流,また自治体や研究機関などで は環境データのように様々な場所で様々な情報の取得・提 供が可能であり,情報そのものに目的を持たせていること から情報流通の観点でも注目度が高い. 本論文では,現状のインターネット上での情報量 [2]と情 報提供手法についての調査・分析を行い,その状況と傾向 を探るとともに,現状の課題・問題点の抽出と,その改善 策について検討する.とくに現在,地球環境問題などへの 対応で注目される「センサーネットワーク」からの情報流 通を対象としてとりあげ,それを活用した手法についての 提案を行う. 1. は じ め に 「流通情報量」とは,電話網による音声伝送,インター ネットによるブログ記事伝送,放送電波による番組伝送, 郵便ネットワークによる郵便物配達,書店を通じた書籍販 売などメディアを通じて情報受信点まで届いた情報の総量 と定義されている(総務省,2009).2008 年度では 7.12 ゼタ ビット[1]で前年度より 19.5%の増加となっており,うちイ ンターネットは 22.2%である.それに対して消費者が受信 した情報を実際に認知した量を「消費情報量」と定義され ている.流通情報量に比べて4桁小さくなり,対前年伸び 率も 6.0%にとどまっている.そのうちインターネットは 55.6%と突出している.他メディアが減少,マイナス傾向 にあるのに比べインターネットは流通情報量・消費情報量 ともにその伸びが顕著であり,情報の品質向上に伴って流 通する情報量が増大する傾向にある.また,インターネッ トは,ブロードバンド化の進展によって高精細な映像や高 品質な音声がネットワークを流通するようになったことか ら,これが情報量の増大の要因の一つになっていると考え 2. 研 究 の 概 要 はじめに総務省による「我が国の情報流通量の計量と情 報通信市場動向の分析に関する調査研究結果」 [3]を情報量 † 大阪市立大学大学院創造都市研究科 Graduate School for Creative Cities,Osaka City University 34 考察の指標として参照し,現状のとりわけインターネット における調査を行う.つぎに「新たなIT市場の現状と展 望」[4],「先進的『ウェブ・サービス』を中心とする情報技 術ロードマップ策定」 [5]における事例を比較検討対象とし た分析を行ない,情報量との相関や傾向について考察する. 抽出された課題を克服するための手法を検討し,それを確 認するためのシステムを設計・構築する.実装されたシス テムによる実験を計画・実施し,結果についての検証と評 価を行う. 3. イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 情 報 流 通 この章では,研究の対象となる各メディアにおける流通 情報量と消費情報量および進展するインターネットの現状 について調査した結果について述べる. 3.1 Web 環 境 の 変 遷 我が国では 2000 年を起点として「e-Japan 戦略」から 「u-Japan」へと国家戦略での ICT[6]拡充を図ってきた.[7][8] それによりブロードバンドによる高速ネットワーク基盤と 低料金でのネットワーク利用を実現している.1997 年から 現在までのインターネット利用者と普及率の推移を図 1 に 示す. 国内でのインターネット利用者数は,1997 年の時点で 1,155 万人であったが,2009 年では 9,408 万人となった. この時点での人口普及率は 78.0%であり,増加率は 1997 年からの 12 年間で約 8.15 倍となっている.[9] このよう に我が国は基盤と利用者のレベルにおいても世界最高水準 となり,最先端のマーケットと技術環境の利用が可能とな ったといえる.[5] 10,000 利用者数(万人) 9,000 8,529 人口普及率(%) 7,730 8,000 8,754 8,811 9,091 9,408 19 世紀末以降の技術の発達によって社会のコミュニケー ションのあり方を大きく変化させる様々な情報流通メディ アが創出されてきた.我が国におけるこれまでの代表的な メディアとしては以下のものがある. ・郵便制度の開始(1871 年) ・電信・電話の登場(1869 年,1890 年) ・ラジオ放送の開始(1925 年) ・テレビ放送の開始(1953 年) これらの各種メディアの発達と比例するかたちで社会に 流通する情報は増大し続けてきたと考えることができる. そしてコンピュータが広く利用されはじめた 1970 年代以 降にはテレビ放送の多チャンネル化等と相まって「情報爆 発」という言葉も使われるようになった.その後も情報通 信分野に関連した新たなメディアの登場とともに流通する 情報量はさらに増大している.その中でも「情報爆発」を 本格的なものとしたのが,1990 年代以降に始まったインタ ーネットの普及である.それに伴う利用者およびコンピュ ータ台数の増加と CPU 処理能力の急速な向上は,それに 一層の拍車をかけた. この期間の我が国におけるインターネットトラヒックの 推移を図 2 に示す. 90.0 80.0 70.0 60.0 6,000 5,593 50.0 4,708 5,000 40.0 図 2:総務省「我が国のインターネットにおける トラヒックの集計・試算」(出所:総務省[11]) 4,000 30.0 2,706 3,000 2,000 3.2.1 現 状 7,948 6,942 7,000 調査研究結果」(総務省,2009)を参照し考察を行う. 20.0 1,694 1,155 10.0 1,000 0 0.0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 図 1:インターネット利用者と普及率の推移 このブロードバンドの普及と常時接続および高速回線が トリガーとなり,Web サービスは爆発的普及をすることと なった.常時接続があたりまえのものとなったことにより, 従来は「見るだけ」だったユーザが「発信できる」形態へ 変化し,Web 上には新たなサービスが登場するようになる. 膨大な情報が容易に扱えるようになった理由としては,高 速回線の他にもストレージ[10]の大容量化と低価格化を挙げ ることができる. 3.2 流 通 情 報 量 と 消 費 情 報 量 1節で述べたように Web サービスの現状は,ネットワ ーク基盤の整備と利用料金低価格化などの環境整備から爆 発的普及へと繋がってきた.つぎに本節では,これらのこ とから考えるべき”情報量”について,総務省による「我が 国の情報流通量の計量と情報通信市場動向の分析に関する 35 このように実質的に 1997 年以降で発生したインターネ ットトラヒックは,2001 年を境に増加が顕著となり 2004 年からブロードバンドのトラヒックと合わせて「情報爆 発 」 と い え る 推 移 と な っ て い る . こ の 2004 年 ご ろ が Web2.012 の登場し始めた時期といわれており,一般のユー ザにとってのインターネット利用形態が変化したポイント であるということができる. ここでの情報量とは,通信工学上の概念に基づく情報量 ではなく,人間の認知レベルを考慮した情報量となってい る.したがって流通情報量は「情報受信点で受信された情 報量」と定義される.(量各メディアのしくみによって受 信点まで届けられた情報量は総発信流通情報量と定義され る) 一方で「消費情報量」は,「情報消費者が受信した情報 のうち,実際に意識レベルで認知した情報量」として定義 されている.流通情報量と消費情報量の推移を図 3 に示す. があり,増加し続ける流通情報量に対して消費情報量が追 いついていない.ここでの差分はインターネット上での無 駄な情報,ノイズということになりトラヒックへの負荷や ユーザによる情報検索時の障壁ともなりうるため,この差 を近づけていかなければならない.この格差を解消し,イ ンターネット上の流通情報が無駄なく消費されるよう,ま た消費されるべき情報が流通情報の中心であるようにする 必要がある.すなわち必要な情報が必要なときに必要なだ け入手でき有効に活用できるために,基盤とは別に全体概 念の見直しを行うべきであると考える. 図 3:メディアグループ別情報量の推移 (出所:総務省[13]) 3.2.3 先 行 研 究 と 事 例 つぎに流通情報量と前年度対比を表 1 に示す. 先行研究としては,坂本ほか(2010),牧野ほか(2006) があるが,これらで述べられている Web マッシュアップ は既存 Web サービスの組み合わせを前提として検討され ている. 本研究ではセンサーネットワークと対になる概念的ネッ トワークとしてユーザをその対象と考える.既存 Web サ ービスと「コンピュータの外」をマッシュアップさせるこ とを研究対象とすることが相違点と考える. 近年センサーネットワークは地球環境問題への対応で注 目されているが,それだけでなく様々なデータを様々な場 所で取得・連携することが可能であり,情報そのものがあ る目的をもって取得されることから有効な情報源と捉える ことができる.また現在のインターネット環境においては, ユーザも従来の「単なる情報の消費者」から「情報の発信 者」としての役割を担うようになってきており「情報源」 とみなすことができる. これらのことから情報流通の観点において,ユーザを対 象としセンサーネットワークを活用することは有益である と考えることができ,多用な展開も想定されることから本 研究の対象とする. 表 1:流通情報量および対前年比(出所:総務省[13]) 流通情報量は,平成 20 年度では 7.12 ゼタビットで前年 度より 19.5%の増加となっている.印刷・出版と電話は平 成 13 年度から継続して減少しているがインターネットは 常に増加し続けている.つぎに消費情報量と前年度対比を 表 2 に示す. 表 2:消費情報量および対前年比(出所:総務省[13]) 4. イ ン タ ー ネ ッ ト 上 の 情 報 (デ ー タ )連 携 4.1 目 的 現状のインターネットを情報流通という切り口から俯瞰 した場合の課題として,流通情報量と消費情報量の格差が あると3章で述べた.これを解消するためには効率的なデ ータ連携を実現させることが有効であると考える.本章で は利便性の向上と有用な情報の取得,活用を目的とした手 法および事例について考察を行う. 消費情報量は流通情報量に比べて4桁小さくなり,対前 年伸び率も 6.0%にとどまっているが,そのうちインター ネット 55.6%と突出している.このように他メディアが減 少傾向にあるのに比べ,インターネットは流通情報量・消 費情報量ともにその伸びが顕著であり,今後もその傾向が 持続されていくと推測できる.またインターネットの人口 普及率の高止まりを考慮すると,一人あたり平均利用時間 の増加が消費情報量を押し上げているものと考えられる. 4.2 手 法 3.2.2 課 題 このようにインターネットを取り巻く環境の発展に伴い 流通情報量,消費情報量ともに急速な増大を続けているが, そこには格差が存在していることに着目しなければならな い.図 2 からもわかるように 2003 年(平成 15 年)からの急 速な増大があるが,2007 年(平成 19 年)から 2008 年(平成 20 年)では消費情報量が急増しており,その差が縮まって きていることがわかる.要因のひとつとして Web2.0 によ る効果があると推測できるが,その差にはまだ大きな開き 36 効率的なデータ連携は利便性向上に繋がることとなる. 膨大な流通情報の中からノイズを除外し有用な情報を取得 し活用していくためには,何らかのかたちでデータが連携 される,あるいは結びつけるための仕組みが準備されてい ることが望ましい.そのためには,情報の洪水や氾濫を引 き起こす様々な林立したシステムでなく,情報を収斂する 機能と仕組みを有するシステム開発の概念が必要となる. いわゆる Web2.0 以降,さまざまなアプリケーションと コンテンツが登場し,膨大な情報量となってインターネッ ト上を流通している.ただし,ここでの情報流通は従来と 比較し消費情報量が微増ではあるが上昇傾向にある. Web2.0 の登場とその後の消費情報量の関係性は本論文に おける重要なポイントとなり,本節での手法検討では,こ Google のことを大いに参考として考える. GoogleMaps API 4.2.1 マ ッ シ ュ ア ッ プ 複数の異なるコンテンツや技術を複合させ新しい別のサ ービスを創出することを称して「マッシュアップ」と呼ば れている. もともとは音楽業界など用いられていた言葉で あるが,Web2.0 による変革の中で Web 技術としてのマッ シュアップが誕生した.ユーザは自身の Web サイトに他 の情報を組み入れることが可能となり,付加価値をもった 情報サービスの提供ができるようになった.マッシュアッ プの概念図を図 4 に示す. サービスA サービスB マッシュ アップ マッシュアップWebページ Google Maps API ぐるなび ぐるなび API ぐるなび API このマッシュアップの動作を Web(フィールド情報ラボ )により公開されている例を用いて説明する.Google Maps から表示された地図上の任意の場所をクリックする ことで座標を取得し,つぎにその座標をぐるなびへ渡して 登録されている店舗情報を受け取る.そしてその情報を再 度 Google Maps へ渡し,地図上にピンを表示させる仕組み となっている.表示されたピン上にマウスを持っていくと ピンが示す店舗名が表示され,さらにピンをクリックする と詳細店舗情報が吹き出し表示される (図 6) . 当然ぐる なびホームページへのリンクも張られている. [ 15 ] サービスC 図 4:マッシュアップの概念図 Web 環境において様々な情報を扱うマッシュアップを実 現するためには,サービス相互間の認証が重要となる.方 法としては,従来より広く使用されてきたベーシック認証 や OpenID,最近では OAuth や XAuth などがあり,API[14] の提供元により異なり一律となっていない.今後も新たな サービス創出のためのマッシュアップは増加していくと思 われるため,セキュリティ面でより強度の高い認証方式の 使用が望まれるところである. 4.2.1.1 Web 環 境 の 変 遷 と マ ッ シ ュ ア ッ プ の 関 係 マッシュアップは Web2.0 の特徴である「リッチなユー ザ体験」,「ユーザ参加」,「分散性」といった部分を体 現する代表的なもののひとつであるといえる. マッシュアップが流行したその背景として有力な Web 企業による API 公開を挙げることができる.Amazon.com, Flickr,Google,Yahoo,Youtube などによる自社 Web のサ ービス無償提供がユーザ側のマッシュアップ Web 開発を 大きく支援したことが流行に拍車をかけた結果となってい る. 現在提供される API は,大部分が無償で利用可能であり 一部制限での商用利用が許可されているものも多数ある. このことからマッシュアップは個人ユーザによる利用だけ に留まらず企業での利用も急速に拡がっていった. 4.2.1.2 Web API を 利 用 し た マ ッ シ ュ ア ッ プ 例 図 6:Google Maps とぐるなびのマッシュアップ例 [15] (出所:フィールド情報ラボ ) このような形態のマッシュアップは多数存在しており主 流を占めている.Web サイトを作成するユーザは開発の労 力が軽減されるため API を歓迎し,API を提供する企業も 自社のメリットとなるため API 公開に積極的になるという 典型的な利害関係が成立しているといえる. 4.2.1.3 マ ッ シ ュ ア ッ プ の 可 能 性 マッシュアップは個人ユーザだけでなく企業の情報シス テムにおいても柔軟な情報サービス構築が可能である点で 期待されている.この場合は「エンタープライズ・マッシ ュアップ」と呼ばれている.企業での情報提供サービスに 関するニーズの概念を図 7 に示す. 事例として「Google Maps」と「ぐるなび」のマッシュ アップ例を示す. 「ぐるなび」とは「株式会社ぐるなび」が運営する飲食 店の情報を集めた Web サイトである.主に飲食店をクラ イアントとした Web 広告により収益をあげているが,消 費者が行動することまでを目的としているのが特徴であり Web2.0 の流れに乗った企業のひとつといえる.そのため マッシュアップを想定した API を公開することは自社にと っても大きなメリットがあるといえる.このマッシュアッ プの概念図を図 5 に示す. 図 5:マッシュアップ例(Google Maps+ぐるなび) 37 情 報 サ ビ ス の 潜 在 的 利 用 者 数 いる.[16] センサーネットワークは地球環境問題への対応で注目さ れているが,それだけでなく様々なデータを様々な場所で 取得・連携することが可能である.そしてなにより情報そ のものが,ある目的をもって取得されることから有効な情 報源と捉えることができる.これらのことから情報流通の 観点においてセンサーネットワークを活用することは有益 であり,また多用な展開も想定される.よって本研究では インターネット上の情報を主な研究対象とするが,センサ ーネットワークもその範疇であると考える. 以上を踏まえ,情報連携の最適化に貢献できる手法につ いて 5 章で提案を行う. 情報システムの対応範囲 Web-APIとマッシュアップが 有効と考えられる範囲 情報サービスの種別 図 7:Web API とマッシュアップの有効領域 (出所:科学技術動向研究センター) 5. 提 案 マッシュアップの有効性として横軸を情報サービス種別, 縦軸を情報サービスの潜在的利用者数とすると,情報サー ビスのニーズは指数関数で近似できるような長い尾を持つ 曲線とみることができる.ただし潜在的ニーズは実測が困 難であるため連続的な曲線が描けるわけではなく,図 7 は あくまでも概念図となる. 4.2.1.4 フ ィ ー ド バ ッ ク 入出力を持つ系からの出力を入力側へ戻す操作,または 流れについて“フィードバック”という概念がある.機械 系や生物系,経済などに幅広く適用例があるが,これをイ ンターネット上におけるデータ連携について適用した場合 を考えてみる. Web2.0 の特徴である「貢献者としてのユーザ」や「ユ ーザ参加」といった概念はある意味でのフィードバックと 考えられる.具体的には“Amazon”や“ぐるなび”のレ ビューやブログなどがそれに該当する.Web サイトから発 信された情報(出力)に対して,サイトを閲覧したユーザ がそのページにコメントを付加するという行動で情報を Web サイト(入力)へ戻す.元の情報はユーザが付加した 情報を含めて再び出力されるというフィードバック形態と なる.Web2.0 の特徴から派生したマッシュアップという 手法は,図らずもこのフィードバックという機能を持って いることになる. 5.1. 提 案 手 法 の 基 本 概 念 インターネットにおける情報流通量と情報消費量にかか わる課題ついて考慮すべき点を考える. 1.インターネット普及に伴う流通情報量の急速な増大 2.Web2.0 を契機とした流通情報量に対する消費情報量 の増加傾向表出 3.センサーネットワークをはじめとする他ネットワー ク技術とインターネットの統合 手法として,「マッシュアップによる Web と他システ ムとの連携およびフィードバック」を提案する.マッシュ アップは手法そのものが「情報連携」ということができる が,インターネット以外のネットワークや他のシステムを その連携範囲とすることによる効果の拡大を狙いとする. 流通情報量の急速な増加とそれに伴う情報価値の低下に 対しては,今後セマンティック Web がその解決策のひと つとなるであろう.しかし本研究においては現状の環境で の解決方法を模索し検討した結果,マッシュアップによる 手法をベースとすることが,より現実的且つ最適であると 考える. Web2.0 での「ユーザ参加/集合知」を象徴するマッシ ュアップをメトカーフの法則[17](図 8)になぞらえてみた 場合,マッシュアップアプリケーションの価値は,ひとつ の場にマッシュアップされたデータ量や参加者数の 2 乗に 比例するということができる(XML コンソーシアム,2007). 4.2.1.5 セ ン サ ー セ ッ ト ワ ー ク の 近 況 A 前述のマッシュアップでは主に Web 上でのアプリケー ションを例に挙げたが,それ以外に目を向けた時,有用な 新技術が数多く存在していることに気付く.センサーネッ トワークもそのひとつである. 近年のセンサーネットワークは,センサー自身の小型化 と低価格化,ネットワーク基盤の充実などによってその可 能性がさらに大きく拡がりつつある技術である.今後の更 なる ICT 情報化社会への発展の中で,既に一部では始まっ ているが必要とされる電子機器類にはすべて IP アドレス が割り当てられ,それぞれが相互に会話するようになると いわれている(総務省,2005).このような環境下において センサーネットワークの活用範囲は非常に広域にわたる. 現在のセンサーネットワークは従来の「閉じたネットワ ーク」から進化し,インターネット接続が前提に設計され るようになってきた.そのため,このネットワークは情報 連携とフィードバックを考えるうえでも応用実現性が非常 に高いということができ,現在では多くの研究が行われて D B C 図 8:メトカーフの法則 その際に注意すべきことは,単に Web(システム)から ユーザ(人)への一方的な情報提供に留まらず双方向の情 報連携(フィードバック)でなければならないということ である.ここでのインターフェース部分は今後一層重要と なると考える.さらにインターネット以外の独立したネッ トワークも包括的にひとつの大きなネットワークであると 38 捉え,従来の Web という既成概念から脱却する取り組み も必要である. ビル・建物管理事業者はより高度かつ厳密なエネルギー管 理が要求されることとなった (経済産業省資源エネルギー 庁,2008) . この省エネ法への従来型対応での問題点としては,大型 測定機を用いて単に CO2 濃度や数値を測定し役所へ報告す るだけという本来の目的とは乖離し形骸化しやすいという ことが挙げられる.また測定設備設置以前の問題として老 朽化したビルや建築構造上の理由,設置コストの問題から 測定が困難となる場合も多い.そのため今後の排出量削減 に向けた新たな施策が必要となっている. 本システムと従来型計測の大きな違いは,大がかりな工 事・施工が不要であることと,無線のセンサーネットワー クを構築して対応することがあげられる. 「CO2 を測定する」ことを目的とするこのセンサーネッ トワークシステムの中にも取得データの有効活用という点 で本研究のテーマである「情報連携」は深く関係している といえる.本実験は,このセンサーネットワーク技術を用 いて収集される情報をその対象として行った. 5.2 モ デ ル と す る シ ス テ ム モデルとするシステムは Web API を利用したマッシュア ップによるシステムであり,インターネット以外の独立し たネットワークとも連携するものである.フィードバック 結果を DB(データベース)として蓄積する.提案する手法概 念のモデルフローを図 9 に示す. Feedback DB Internet Internet Mashup Resource Resource Resource Network-x Feedback DB 6.2.2 シ ス テ ム の 構 成 図 9:手法概念のモデルフロー このモデルではインターネット環境におけるマッシュア ップによって複数の既存情報をユーザへ連携する構造を基 本とする.そのうえで別の独立したネットワーク-x をマッ シュアップに加えるものとする.マッシュアップアプリケ ーションはユーザへ情報を提供するだけでなくユーザ側か らも情報を受け取る機能を持たせ取得した情報をデータベ ースとして蓄積させる.データベースはネットワーク-x の 情報とユーザから発信された情報を併合して蓄積され,さ らにユーザへ向けて発信される循環を繰り返すものとする. この循環をモデルでのフィードバックと考える.また,こ こでのネットワーク-x には 4.2.4 項で述べたセンサーネッ トワークを想定している. 本システム構築にあたっては,まず「インターネットを さらにより広いネットワークと捉えられること」として CO2 センサーネットワークをその対象とし,ユーザ側をも うひとつの別のネットワークとして考えることとする.3.3 節で述べたようにこの部分は有効な情報源となる. つぎに「既存の資源,情報源を利用活用できること」と 「相互の連携・共有が可能であること」,「情報そのもの の価値を高められること」を実現するためにマッシュアッ プアプリケーションを開発する.このシステムの概念図を 図 10 に示す. CO2 センサーネット (人をセンサーと捉えた) センサーネット 6 実 験 図 10:システム概念図 この章では,5 章で挙げた提案での基本概念確認のため に行った実験について述べる. このように「CO2 センサーネットワーク」と「(ユーザ をセンサーと捉えた)ネットワーク」から構成され,この 別のネットワークを Web マッシュアップにより連携,協 調動作することを実現させる. 6.1 実 験 概 要 森本ほか(2010),一ノ瀬ほか(2010),大野ほか(2010)は 2009 年度より本稿と関連する研究として 「センサーネッ トワークによる CO2 測定」を共同で行ってきた.そのシス テムでは複数台の CO2 センサーをアドホックネットワーク で運用するものとなっている. 本実験では,そこでの基盤と取得データを利用するもの とする. 6.2.3 CO2 セ ン サ ー ネ ッ ト ワ ー ク の 最 小 ノ ー ド CO2 センサーネットワークにおける最小単位であるノー ドの構成を図 11 に示す. RS-232C 6.2 構 築 シ ス テ ム CO2センサー 6.2.1 CO2 セ ン サ ー ネ ッ ト ワ ー ク 構 築 の 背 景 CPU 無線�通信 図 11:最小ノード構成 このシステム構築にあたっては,地球温暖化などの諸問 題への対応として 省エネルギー法(省エネ法)が 2010 年 改正・施行されたことがその背景にある.この改正により CO2 センサーデバイスにはスウェーデンの SenseAir 社製 aSENSE[18] を採用した.このセンサーは小型低価格で省電 39 力設計されており,CO2 の他に気温も測定する. これを制御するコンピュータ(CPU)には,小型の Linux 搭載組込みコンピュータ「Armadillo」[19]を使用する計画で あったが,Linux でのシステム開発工数負荷が予想以上に 大きく,ここではノート PC で代用することとした.ノー ト PC からは無線 USB で他ノードと通信する. このノードを複数箇所に散在させアドホック環境による CO2 センサーネットワークが構成された.このネットワー クは,あるノードが故障している場合にはそこを迂回し別 ノードとの通信を行う機能を持つ.各ノードより取得され たデータはサーバ上のデータベースに集積・蓄積される. アプリケーション名 次に「ユーザをセンサーと捉えたネットワーク」のノー ド概念図を図 12 に示す. アプリケーション CO2センサーネット 取得情報 ・人数 ・混雑状況 ・天候 ・制御指示 API PHP - 測定結果検索 PHP - 測定状況グラフ表示 PHP + JavaScript 測定データ配信 Ruby 測定データ地図表示 HTML + JavaScript Twitter API Google Maps API 使 用 し た プ ロ グ ラ ム 言 語 / ス ク リ プ ト は , PHP , JavaScript,Ruby などでありパッケージソフト等ではなく 全てオープンソース環境にて開発と実装を行っている. 開発アプリケーションを介した情報の流れを図 13 に示 す. 6.2.4 ユ ー ザ を セ ン サ ー と 捉 え た ネ ッ ト ワ ー ク Live-E! Live-E! •・ リアルタイム状況表示 •・ データフィードバック(twitter) •・ 状況表示マップ(Google Map) 言語 測定状況テキスト表示 配 配信 信 Web twitter twitterAPI API ・気温 ・CO2濃度 蓄積 蓄積 データ データ CO2 CO2 センサー センサー ネットワーク ネットワーク Google Google Map Map API API 付 加 情 報 (≒センシングデータ) 循環 リアルタイム リアルタイム 状況表示 状況表示 図 13:情報の流れ 図 12:ユーザをセンターと捉えたノード概念図 CO2 センサーネットワークでは aSENSE というデバイス がセンサーであったが,この「ユーザをセンサーと捉えた ネットワーク」では,ユーザをノード上のセンサーの位置 に考える.ここでは,まず CO2 センサーネットワークから 得られた情報を取得し,それに対する付加情報をセンシン グ対象とする.付加情報の例としては,CO2 測定情報に対 する二次的要因,あるいはセンサーを制御する指示情報な どがある.それを行うために複数の連携アプリケーション を用意し,それらを介して Web でサーバと通信する構成 となっている.センサーと位置付けているユーザであるが, 3.3 節で述べたようにユーザは「単なる情報の消費者」で はなく「情報の発信者」であり重要な情報源である. 取得データの連携アプリケーションは「CO2 センサーネ ットワーク」で取得された情報を「ユーザをセンサーと捉 えたセンサーネットワーク」に向けて発信する. リアルタイム状況表示アプリケーションでは取得データ を Web 上に公開し各地点(ノード)の気温,CO2 測定状況 をグラフィカルにリアルタイム表示させることでユーザに 対して環境への配慮と省エネルギーへの喚起を促すツール としての役割を持たせる. 本システムでは現時点で公開されている web サービスに 対 す る API の 中 か ら 特 に 利 用 頻 度 の 高 い 「 Twitter」 と 「Google Maps」とのマッシュアップ行っている. つぎに開発した各アプリケーション詳細について次項で 述べる. 6.3.1 取 得 デ ー タ Web 公 開 ア プ リ ケ ー シ ョ ン これは CO2 センサーネットワークで測定,取得されたデ ータを Web 公開することを目的として作成したアプリケ ーションである. CO2 センサーの測定結果は 30 秒間隔でアドホックネッ トワークを介し中央に位置するサーバへと蓄積されている. ここではそのままの全データを閲覧することも出来るが, 気温や CO2 の変動範囲を絞り込んで抽出することを可能と した.表示形式はテキスト表示とグラフ化した表示を用意 している.表示の例を図 14 に示す. 6.3 開 発 ア プ リ ケ ー シ ョ ン 本システムでは CO2 センサーネットワークでの取得情報 をユーザへ提供するために複数のアプリケーションを開発 した.開発アプリケーション一覧を表 3 に示す. 表 3:開発アプリケーション 40 装が簡単である一方セキュリティ面での不安があるのも事 実である.Twitter API 利用での BASIC 認証を考えてみた 場合,Twitter と連携した外部サービスを利用するために Twitter のユーザ名とアカウントを第三者に渡してしまうこ ととなる.このことは Twitter で行える全権限を第三者に 委譲していることに等しく特に問題である.この問題の改 善として,ユーザ名とパスワードとは紐付かないトークン ベースであらかじめ決められた API のアクセスのみを許可 しようとするものが OAuth 認証である.OAuth は外部サー ビ ス に 対 す る 適 切 な 利 用 権 限 委 譲 の た め , Google や Twitter が中心となって考案したものである.OpenID[24]に 類似している印象を受けるが OpenID がログインや新規登 録時の本人確認を外部で担保するためのものであるのに対 して OAuth 認証は外部サービスなどを通じた API の利用 に対して制限可能な認可をトークンに対して与えるもので, リソースの種類や有効期間などを細かくコントロールでき ることが特徴となる (Itmedia,2010) . 図 14:取得データ Web 公開アプリケーション これらのアプリケーションは,ただ単純にデータ Web 上へ公開するだけである.しかし元となるデータは,セン サーネットワークという別の世界から連携されていると考 えることができ,この部分が重要なポイントだといえる. 別の閉じたネットワークのデータがインターネットを介し てさらに広域に連携されることに意義があると考える. 6.3.3 Google Maps API 6.3.2 Twitter API 現時点までに国内でのユニークユーザ数が 200 万人を突 破したといわれる Twitter とのマッシュアップは消費情報 量の増加と情報価値そのものの向上という点で有効な手法 であると考える.ここで作成するアプリケーションは CO2 センサーによって測定されたデータを Web 上へ発信し, また取得することを目的としたものである.Twitter API[20] を利用して開発したプログラムは測定データを一定間隔で Web に自動で配信し続けるいわゆる「bot」 [21]の動作をと る.測定結果を文字列として Twitter へ「発言」する形式 となり,発言内容は,ノード名,気温,CO2 濃度である. そしてその「発言」に対するユーザのリプライ[22]を取得し, サーバに蓄積された DB へフィードバックするかたちで書 き 込 み を 行 う . リ ン ク さ れ て い る ペ ー ジ か ら は Google Maps マッシュアップページへとジャンプするようにして ある. 地図上に CO2 測定ポイントおよび測定内容を表示して視 覚的に訴えるアプリケーションを Google Maps API を用い て開発した.この API は現在全世界で最も多く利用されて いるものであり,Google Maps API を利用したマッシュア ップもまた消費情報量増加と情報価値向上に貢献可能なも のといえる. このマッシュアップによって表示された画面イメージを 図 16 に示す. 図 16:Google Maps 連携 ここではこの API を使って CO2 センサー設置ポイントの 座標から地図上にマーカ表示させ,測定情報(ノード名, 気温,CO2 濃度)を吹き出しで連携させる.前述の Twitter では,この Map 表示のページへリンクを貼っていたが, こちらからは Twitter へ相互リンクを張るようにしている. この Map 画面を閲覧しているユーザは直感的に Twitter か ら測定情報への二次的付加情報書き込みを可能とすること を目的としている. 図 15:Twitter API を利用したアプリケーション 4.2.1 項で述べたように様々な情報を扱うマッシュアップ においてはセキュリティ確保のため,サービス相互間の認 証が重要となる.この Twitter API の場合は特筆すべき点と して,認証方式に「OAuth」を採用していることが挙げら れる.この OAuth は,現在実用的な認証でのセキュア面で もっとも優れた考え方をもった方式のひとつであるといえ る.もともと用いられていた認証方式は,Base64[23]でエン コードしたユーザ名とパスワードを HTTP リクエストと一 緒に送る「BASIC 認証方式」であった.BASIC 認証は実 6.4 実 験 方 法 森本ほか(2010),一ノ瀬ほか(2010),大野ほか(2010)によ り進行していた「センサーネットワークによる CO2 測定」 と本研究を統合する形態での実験を行った. 41 も無加工のデータを扱っているため 2 次利用可能であるこ とが特徴のひとつといえる. Twitter API マッシュアップアプリケーションでは測定結 果を一定間隔で Web に自動配信し続け,Google Maps API マッシュアップアプリケーションでは測定結果を Twitter と相互リンクしながら視覚的にユーザへ提供することがで きた. このように「センサーネットワークによる CO2 測定」と いうひとつのシステムが正常稼動し続ける間,もうひとつ の「マッシュアップ」システムも想定したとおりの動作を 続けることができた.ここでは図らずも結果としてシステ ム同士のマッシュアップを生み出したということができる. また,従来概念と本提案の比較という点からは次のことが いえる. 従来のシステム構築概念であれば,CO2 測定結果の公開 には大規模な開発工数での多数の専用アプリケーション開 発が必要であり,膨大な労力とコストがかかることとなる. そこから結果を 2 次利用するために再び専用アプリケーシ ョン開発が発生し,労力やコストとともに重複した情報を 増加させる結果ともなってしまう.それに対して本論文の 提案からは,マッシュアップによる既存資源の利活用と共 有,情報の価値を高めることを目的とした実験を行った. マッシュアップという手法は,情報の有効活用や付加価値 の創出が可能であり,消費情報量を増加させることができ る.このことは実験を通して確認することができた.そし てインターネットだけではなくセンサーネットワーク等を 通して幅広い情報処理が可能となることを示した.また物 の位置や状態が関係する場合などにおいては本論文で取り 上げた認証技術である「OAuth」が十分に有効であること を示せたと考える. 表 4:実験実施概要 実施時期 2010 年 8 月 1 日 ~ 2010 年 8 月 31 日 実施場所 大阪市立大学梅田サテライト (大阪駅前第 2 ビル:センサーノード設置場所) 大阪市立大学学術情報総合センター (杉本キャンパス:サーバ設置場所) 実施概要 夏季集中講義開講中の教室におけるセンサーネ ットワークによる CO2 濃度測定および取得デー タの 2 次利用 梅田サテライトと学術情報総合センターを拠点とした実 験の概念図を図 17 に示す. USER 測定 蓄積 Upload 梅田サテライト 受信 配信 学術総合情報センター 図 17:実験の概念図 夏季集中講義開講中であった梅田サテライトの 2 教室に センサーノードを配置し CO2 測定を行った.各ノードでの 取得データは学内 LAN 経由で杉本キャンパス学術情報総 合センター9 階に設置されているサーバへアップロードさ れ,データベースとして蓄積される.ここまでが別プロジ ェクトの「センサーネットワークによる CO2 測定」の範囲 である.これに本研究のデータ連携部分を付加したものが 全体の実験となる.この実験におけるシステムの処理手順 を図 18 に示す. CO2センサーによる CO2 測定 CO2センサーネットより 測定情報をサーバの DB へ蓄積 Twitter-APIより サーバの測定情報 DB へ情報付加 ユーザ 7 今 後 の 課 題 と 可 能 性 7.1 積 み 残 さ れ た 課 題 センサーにより測定されたデジタルデータへの付加デー タとして,ユーザ側からのアナログのデータを入力として いる点では更に一考が必要であると考える.情報の質と精 度を高めるためには今後,ユーザインターフェースに係わ る認知科学や人間工学など幅広い学術領域に跨った考察が 必要となるであろう. マッシュアップに関しては,実存する API など別資源を 利用するものであることから,連携先システムの改変やバ ージョンアップなどに対応したメンテナンスも必要となっ てくる.また物理的対応以外でもマッシュアップ自体が陳 腐化して無駄な情報の発生源となってしまわぬよう Web コンテンツの内容やトレンド動向などにも注視していく必 要があると考える.加えて現時点でのセキュリティ面の認 証技術は,本論文で触れた OAuth のように十分考慮された ものが全てに適用されているわけではなく,今後さらに重 点を置く必要がある. また取得されたデータは単一の範囲内での利用に留めず, 幅広い分野での応用を意識して公開していく必要がある. 本実験では測定した CO2 データ等を Live-E![25]に提供する 予定であったが実験期間中には実施することができなかっ た. サーバの DB を INPUT に状況表示 サーバの DB を INPUT に Google-Maps 配信 サーバの DB を INPUT に Twitter へ配信 図 18:処理手順フロー 6.5 実 験 結 果 と 評 価 実験期間中「センサーネットワークによる CO2 測定」は 間欠なく予定どおりのデータ収集と蓄積を行うことができ た.そしてそのデータは実装された各連携マッシュアップ アプリケーションによりユーザに向けて配信された.取得 データ Web 公開アプリケーションでは測定結果をそのま ま Web へ提供し続けた.ここでは単純な情報公開以外に 42 7.2 今 後 の 可 能 性 今後の可能性としては,あらゆる電子機器類をすべてネ ットワークで管理するという考え方からセンサーネットワ ーク技術においては一層の充実化が図られることが予測さ れる.それに伴い本論文で示した広範囲でのマッシュアッ プの可能性はさらに拡大していくこととなる. また,創出される様々なマッシュアッププリケーション やツールからは,CO2 など環境対策に有効な手段の誕生も 十分期待することができる. 本論文での提案手法は,省エネ法対策としてビル管理者, オーナーへ向けた商用利用への展開も可能であり,テナン ト獲得時などのツールとして利用することができると考え る.無加工の生データを常に蓄積し続けている部分は,環 境的側面の研究に十分役立つものであるといえる.このよ うなデータについては世界規模で共有していく概念と仕組 みが必要であると考える.その意味で例えば Live-E!のよ うな活動をさらに推進していけるような体制づくりなどは 重要な要素のひとつである. 8 .まとめ 本論文では,ICT の使い方という観点からインターネッ ト上における情報量を課題のひとつに挙げて考察と検討を 行った.その目的は「流通情報量の減少」だけに焦点を置 くわけではなく,むしろ「消費情報量の増加」と「情報そ のものの付加価値を高める」という方向に重点を置き提案 を行った.マッシュアップによる情報の有効活用,消費情 報量の増加は十分可能であり付加価値の創出にも期待する ことができる. 今後のさらなる ICT の発展と我々の生活環境の変化,利 便性向上には大いに期待したい.とりわけインターネット 環境の変貌への期待は大きいが,5 年後,10 年後のその姿 を正確に予測することは困難なほどである.期待とともに あえて不安要素を挙げるとすれば,進化進展が急速であれ ばあるほど「置き去りにされる課題」が生み出され易い現 実が伴うということであろう.よって我々は変化し続ける この ICT 環境の中で利便性のみを追求するばかりでなく, 大きく全体を俯瞰できる広い視野をもって常に課題と向き 合う姿勢を保持する必要があると考える. ク』,丸善株式会社 坂本寛幸ほか,2009,『センササービスのマッシュアップを 実現するサービス指向基盤の提案』,電子情報通信学会技 術研究報告,109(276),P.23-28. 総務省情報通信政策局総合政策課情報通信経済室,2005, 『ユビキタス社会の動向に関する調査報告書』, http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/ ubiquitous_houkoku_h17.pdf,(2010/12/30 確認) 総務省,2009,『我が国の情報流通量の計量と情報通信市場 動向の分析に関する調査研究結果』, http://www.soumu.go.jp/main_content/000070316.pdf, (2010/12/30 確認) 本田 正純,2007,『マッシュアップかんたん AtoZ』,シーア ンドアール研究所 牧野浩之ほか,2006,『マッシュアップと Web サービス API ~Web サービスの組み合わせによる新たな価値の創造 ~』,同志社大学理工学部インテリジェント情報工学科知 的システムデザイン研究室リポート, http://mikilab.doshisha.ac.jp/dia/monthly/monthly06/ 20060501/makino.pdf ,(2010/12/30 確認) 森本旭紘ほか,2010,『閉じた空間でのセンサーネットワー クによる CO2 モニタリングとその統計処理による環境 因子の相関』,平成 22 年度情報処理学会関西支部支部大 会講演論文集 XML コンソーシアム,2007,『エンタープライズ・システム のための Web 2.0』, http://www.xmlconsortium.org/wg/web2.0/teigensho/ 0--intro.html,(2010/12/30 確認) 注釈 [1] ゼタビット:情報や記憶装置の単位であり,1 ゼタビットは 1021 ビットである.略記では Zbit または Zb となる. [2] 本論文では,総務省による「我が国の情報流通量の計量と情 報通信市場動向の分析に関する調査研究結果(総務省, 2009)を情報量の指標として用いる. [3] IICP 総務省情報通信政策研究所調査研究部により 2010 年 6 月 16 日公表された. [4] 『新たなIT市場の現状と展望』,経済産業省, http://www.meti.go.jp/press/20070629006/honbun.pdf, (2010/12/30 確認) [5] 『先進的「ウェブ・サービス」を中心とする情報技術ロードマッ プ策定~ソフトウェアサービス化及び情報の高付加価値化 への潮流~報告書』,IPA, http://www.ipa.go.jp/about/pubcomme/200707/070712Road mapHokoku.pdf,(2010/12/30 確認) [6] ICT(Information and Communication Technology):情報通 信技術と和訳される.IT(Information Technology)に対し てネットワーク技術を強調する表現であったが現在では, ほぼ同義として用いられている. [7] e-Japan 戦略:2001 年内閣に設置された「高度情報通信ネ ットワーク社会推進戦略本部(IT 戦略本部)」により策定され た国家戦略.u-Japan:総務省により 2006 年から 2010 年に かけて実施されているユビキタスネットワーク社会の実現を 目指して ICT を推進するための政策. [8] 『「e-Japan 戦略」の今後の展開への貢献』,総務省, http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ict/ u-japan/new_outline01.html,(2011/01/22 確認) 文献 アイティメディア株式会社,2010,『Twitter の BASIC 認証廃 止 企業ユーザーが知っておくべきこと』, http://www.itmedia.co.jp/enterprise/articles/1004/28/ news012.html,(2011/1/15 確認) 一ノ瀬正一ほか,2010,『アドホックモードを応用したセン サーネットワーク通信方式の検討と構築』,平成 22 年度 情報処理学会関西支部支部大会講演論文集 大野誠士ほか,2010,『取得データ連携手法の最適化とフィ ードバックに関する研究』,平成 22 年度情報処理学会関 西支部支部大会講演論文集 経済産業省資源エネルギー庁,2008,『平成 20 年度省エネ法 改正の概要』, http://www.enecho.meti.go.jp/topics/080801/080801.htm, (2011/1/21 確認) 小牧省三ほか,2004,『無線 LAN とユビキタスネットワー 43 [9] [25] 『総務省:情報通信統計データベース:分野別データ:通信: インターネット』, http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/field/tsuushin01.html, (2010/12/30 確認) [10] ストレージ(Storage):データを保管するシステムや装置のこ とであり,一般的に「ハードディスク」「磁気テープ」「光ディス ク」「SSD」などを指し,本論分ではユーザ側で利用するもの を指す. [11] 『我が国のインターネットにおけるトラヒックの集計・試算』, 総務省, http://www.soumu.go.jp/main_content/000010371.pdf, (2010/12/30 確認) [12] Web2.0:2005 年ティム・オライリー(Tim O’reilly)らによ り提唱された概念.「動的・双方向的」,「ユーザ参加・集 合知」,「ロングテール的」などの要素を含むものと捉え られているが明確な定義づけがなされているわけでは ない.次の 7 事項が要素とされている. 1.ユーザの手による情報の自由な整理(Folksonomy) 2.リッチなユーザー体験(Rich User Experiences) 3.貢献者としてのユーザー(User as Contributor) 4.ロングテール(The Long Tail) 5.ユーザー参加(Participation) 6.根本的な信頼(Radical Trust) 7.分散性(Radical Decentralization) [13] 『我が国の情報流通量の計量と情報通信市場動向の分析に 関する調査研究結果(平成 20 年度) 』,総務省, http://www.soumu.go.jp/main_content/000070316.pdf, (2010/12/30 確認) [14] API(Application Program Interface):OS やアプリケーション ソフトが自らの機能の一部を外部のアプリケーションやサー ビスから簡単に利用できるようにするインターフェース. [15] フィールド情報ラボ, http://www.hishiyama.com,(2011/1/15 確認) [16] 『情報通信分野における研究開発の推進』,総務省 http://www.soumu.go.jp/menu_seisaku/ictseisaku/ictR-D/, (2011/1/22 確認) [17] メトカーフの法則:イーサネットの発明者であり 3COM 社の 創設者の 1 人でもある Robert M. "Bob" Metcalfe は,1995 年に「コミュニケーション・ネットワークの総合価値は接続する 人数の二乗に比例する」と述べた. [18] 『SenseAir 社』ホームページ http://www.senseair.se/includes/products/asense.php, (2011/1/21 確認) [19] 『アットマークテクノ社ホームページ/armadillo240』 http://www.atmark-techno.com/products/armadillo/a240, (2011/1/21 確認) [20] 辻村 浩,『Twitter API プログラミング』,WORKS コーポレ ーション,(2010 年) [21] bot:ロボット(robot)の略称で,人間が行っていたコンピュー タ処理を自動的に実行するプログラムを指して bot と呼ばれ る. [22] リプライ:コミュニケーションサービス「Twitter」にお いて投稿されたメッセージ(ツィート)に対して返信で きる機能. [23] Base64:MIME で定義されたバイナリデータをテキストにエ ンコードする方法のひとつ [24] OpenID:複数の Web サイトで共通の ID 情報を利用でき る認証方式 44 『LiveE!~活きた地球の環境情報~』 ホームページ, http://www.live-e.org/,(2011/1/15 確認) LiveE!の活動のひとつである「デジタル百葉箱」では, 個人や組織により設置運営され取得された様々な環境 データを多様な領域に活用するための取り組みを行っ ている.