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ポーラス Si
福井大学 工学部研究報告 295 第4 2 巻 第 2号 1 9 9 5年 9月 強制振動子法による ポーラス S iの格子振動の解析 伊藤孝本橋本明弘紳 山本嵩勇柿 NumericalAnalysisontheLatticeVibrationsofPorousSi i h i r oHASHIMOTO,andAk i oYAMAMOTO TakashiITOH,Ak ( R e c e i v e dAug.31,1 9 9 5 ) Numericala n a l y s i sont h el a t t i c ev i b r a t i o no fporousS ihavebeenp e r f o r m e d . h e Twos i g n i f i c a n tmodelsont h el i g h te m i s s i o nmechanismso fporousS if i l m s,t quantums i z ee f f e c tandt h equantums p o n g emodels,havebeenanalyzedbya newnumericalmethodwhichi sbasedonmechanicalresonancet oe x t r a c tpure v i b r a t i o n a leigenmodelsf o rv e r yl a r g es y s t e m s .Thes i m u l a t i o nr e s u l t si n d i c a t e t h a tt h el a t t i c ev i b r a t i o n si nt h equantumspongemodelshowt h eremarkably d i f f e r e n tp r o p e r t i e sduet ot h erandoms t r u c t u r e sfromt h equantums i z ee f f e c t modelsucha st h es p a t i a ll o c a l i z a t i o n so ft h el a t t i c ev i b r a t i o n s .D i f f e r e n c eo ft h e temperaturedependenceo fh e a tc a p a c i t a n c ec a l c u l a t e dfromt h ephonond e n s i t y o fs t a t e sbetweent h etwomodelsa r ea l s od i s c u s s e d . 1. 研 究 の 背 景 及 び 目 的 陽極化成法により多孔質化した S i (ポーラス S i )は,赤外域の禁止帯幅を有する間接選移型半導体であ iが,量子サイズ効果により室温で高効率の可視発光をする るS ことから,新しい可視発光デバイス 1 ) iの光学的特性は,陽極化成条件や化成後の の材料として注目されている。しかしながら,ポーラス S 表面処理などに大きく依存する。したがって,特性の安定した高性能な発光デノくイスを作製するために iの発光機構を解明し,材料を制御する必要がある。これまでの研究により発光機構のモ はポーラス S デルとして,量子サイズ効果 1)制)や量子スポンジモデ/レ 4)などが提案されている。しかしながら現在の ところ,いずれのモデルにおいても PLスベクトルなどの多くの光学的特性を定性的に説明することは ある程度可能であり,また,より定量的な議論は nm程度の複雑な微細構造を有するポーラス S iゆえ の解析の困難さから 5 )発光機構モデルを特定するには至っておらず,結局,定説がないというのが現状 である。 *大学院工学研究科電子工学専攻(現在 三菱電機(株)北伊丹製作所) **電子工学科 2 9 6 ところで,筆者らは,光学特性の解析から発光機構を検討してし、く過程で,発光時定数ての温度依存 性の測定結果から,ポーラス S iの発光再結合過程が,電子及び正孔が表面・界面近傍の局在準位問を フォノンの助けを借りて遷移する過程であると考えられることを指摘したの7 ) 。すなわち,発光過程に 格子振動が大きく関与しているものと考えられる。そこで,量子サイズ効果モデル及び量子スポンジモ デ〉レの両モデ〉レにおいて,格子振動にどのような相違があるのかという問題は発光機構を解明する上で も重要な問題になるものと考えられる。 本報告では,以上述べたように,現在,発光機構として有力な候補である量子サイズ効果モデルと量 子スポンジモデルの 2つのモデルにおける格子振動に着目し,両者の格子振動の状態密度 (DOS)及び格 子振動モード‘パターンの相違を,複雑な系の格子振動の解析に大変有効な解析手法である「強制振動子 法 Jめを用いて明らかにした結果について述べる。 2. 解 析 に 使 用 し た モ デ ル i微粒子による量子サイズ効果モデル及びパ 前節で述べたように本研究では,格子振動系として, S ーコレーションネットワークによる量子スポンジモデルについて理論解析を行った。簡単のために,両 モデルとも 2次元正方格子上の構造を仮定する。両モデルの格子振動における特徴的な振る舞いは 2次 元正方格子構造においても十分に理解することができるものと考えられるからである。さらに,実際の 系において表面・界面近傍が重要であることからも,とりあえず 2次元系における相違を明らかにする ことは重要であると考えられる。また,実験結果から知られているように,格子歪みは存在しないもの と仮定し,さらに表面に特有な表面原子の再配列構造は考慮に入れていない。ポーラス S iにおいては, ダングリングボンドが水素原子により終端されていると考えられるため,今回の解析においても表面 S iのダングリングポンドは全て水素原子で終端した状態を考えた。 2 . 1 .S i微粒子モデル 図 1に本報告で考えた量子サイズ効果モデルの基本と i微粒子を示す。直径はおよそ 3 . 3 n mであり, S iの なる S 平均原子層間隔(1.6 6 A ) 9 )から求めると直径上に 2 0個の S i 原子が並んだ構造である。量子サイズ効果を仮定した計算 により予想される 3 . 3 n mの球形 S i微粒子の発光エネルギ ーは,およそ1.8eVであり ,典型的なポーラス S iの発 3 ) 光波長域である。量子サイズ効果そデルではポーラス S i は,このような S i微粒子が多数個連結した構造であると 考えられている。そこでまず図 1に示したような, S i微粒 子 1 0 0個が, IOX1 0の単純正方格子に配列している構造 • S Iatom( t o t a l3 1 6 ) Hatom( t o t a l8 0 ) 図1. S i微粒子モデル について格子振動を解析した。この場合, S i微粒子は隣接する S i微粒子と 6個の S i原子同士で結合 しているものとした。また, S i微粒子同士の結合に関与した S i原子の水素原子は取り除いた。 2 . 2 . 量子スポンジモデル 量子スポンジモデルは,フラクタル図形であるパーコレーションネットワークと関連づけられる 1 2 ) 。 本研究で用いたパーコレーションネットワークは,以下に示すボンド‘パーコレーションと呼ばれる操作 2 9 7 によって作製した。 まず,ある任意の大きさを有する 2次元正方格子を設定 S i H 3 する。設定されたすべての格子点上に,ある存在確率 pで S i H • S iatom 原子を配置する。次に,すべての原子について,最近接原 子(上下,もしくは左右)が存在する場合,原子同士をポ ンドで結合してクラスターを作製する。この状態で,最も 原子数の多いクラスター以外は格子点上から削除する。以 上述べたような一連の操作により残ったクラスターはパ i原子 ーコレーションネットワークを形成する。最後に, S のダングリングボンドを水素原子で終端する。このような 操作によって形成した,パーコレーションネットワークの 模式図を図 2に示す。図より部分的に SiH, S i H 2 . S i H 3結合 図2 . パーコレーシヨンネットワーク が形成されていることがわかり,実際のポーラス S iにおける赤外吸収スベクトルにおける各結合にお ける吸収と対応づけられる。 3. 強 制 振 動 子 法 格子振動を扱うときに一般的に用いられるように,上述の 2種類の 2次元結晶を N 個の原子がお互 いに線形な応答をするパネで連結した系と考える.簡単のために,原子は 1つの方向のみに変位(例 えば Z 方向)するとする。変位方向を 3次元化することは原理的には難しくない。通常,この系の解 析をおこなうためには NxN次元の力学的行列を対角化して固有値と固有ベクトルを計算しなければ 2Mb y t eのメインメモリを ならない。この場合,計算に必要なメモリは NlIこ比例するため,例えば 3 有するコンビュータを使用する場合には,全原子数は約数 1000個程度に限られてしまう。そこで,本 研究では以下に示すように, W i l l i a m sと Marisによって提案され,複雑かっ原子数の多い系の格子振 動の解析に有効であると考えられる強制振動子法を用いたへ まず,初期条件として,系における全ての原子は最初止まっており(速度 0 ) ,変位も 0であるとす 番目の原子のそれぞれに,外部から強制的に振動数 Q の周期的な力 る。さて, 1 円 二 九 伊ICOS(O/) (1) を加える。ここで, Foは定数で, Mlは原子の質量 ctlは Oから 2π までのランダムな値である。系 に周波数 Q の強制力を加えてから,時間 t経過後,系の全エネルギー E は,外部から加えた力の振動数 Q 及び Q 近傍における系の固有振動数 ω Aを用いて, げs i n{ [ ( ω 0 ) / 2 ] t } 1, , ("F ;el(A 2 , t E=~LI エ」市~JI ~L'U ..t λ¥ " i ザM1 ) --1' ( ω λ 0 ) -r) (2) と表すことができる。ここで, el(λ)は固有モード λに対するモードパターンを表している。また, (2) 式 右 辺 に お い て (1)式から, K 14J pcowl 川 ( [ … 3) である。ここで, (3) 式右辺の φlについてとりうることが可能なすべての値で平均し,またモード 2 9 8 パターンの規格直交性を用いると. (3)式の右辺は, [ F 手 早凡恥∞ ω 州 州 叫 (叫 (4) CO ωs となる。このとき系のエネルギーの平均値(期待値)は, p , ? s i 什[(ωλ n ) / 2 ] t } ( E ) =すZ t j 'r""I (5) となる。 振 動 数 Q 近傍のわずかな固有モードのみが励起されるような十分に長い時間 T経過後. (5)式は次 式のように 8関数で近似でき,強制振動された系のエネルギーは Q におけるフォノンの状態密度と関係 づけられる。 TF? ゃ rT凡~ Ng(D . ) ( E )符ミムジ (ωλ-Q)= 8 (6) ここで. g(Q)はフォノンの状態密度である。従って,強制的な振動数 Qの力が加わったとき,状態密 度 g(Q)は , 8 ( E ) g(D . )= ー ー で ー (7) πT F o " N から求めることができる。すなわち,系に周波数 Q の強制力が加わったとき,系は十分長い時間が経過 した後には Q近傍の固有モードのみ励起され,そのときのブオノンの状態密度は(6)式を数値計算し た 後 (7) 式を用いて求めることが可能である。 強制振動子法を用いた場合,必要なメモリは原子数 N に対して N のオーダーである。つまり, 3 2Mb y t eのメモリで数 100万個程度の原子を含む系を 扱うことが可能である。これは,本研究で扱う複雑かっ 原子数の多い系の解析の場合に大変有効である。 本研究の解析に用いた原子の質量及び各原子を結ふ 等価的なパネ定数を表 1に示す。等価的なパネ定数は赤 外線吸収分光スベクトルの実験結果に対応する S i - 表1.解析に用いた定数 水素原子の質量 1 .66X 1 0 -27( k g ) S i原 子 の 質 量 4 6 . 6 2X 1 0 -27( k g ) Si-H結 合 の パ ネ 定 数 34.9( N/m) S i・S i結 合 の パ ネ 定 数 2.836(N/m) H, S i S iの伸縮モードの振動数から見積もった。 4. 解 析 結 果 4. 1 . 水素終端した系の解析結果 解析するにあたって,原子数の違いによる効果を除く 咋s u r f a c ep a 悶v a t e d w1 hHa 旬開 5xHT i原子数を一定とした。また,パー ために両モデルの S =0.790 であ コレーションネットワークの存在確率は p った。両モデルに対する格子振動の状態密度の解析結果 i微粒子モデ を図 3に示す。破線と実線は,それぞれ S I- -Si同 副 官 ~ c . x市町『一一一 S ic r y s t a l 蹴闘{何閣制 1 ) 重 J-pen:oIaI同閣時同乃 c n3xHT" 。 』 :を2l<1(T~ E SMH ルとパーコレーションネットワークモデルに対する結 果を示しており,横軸は振動数,縦軸は状態密度 ( D O S ) を表している。また,既に求められている 2次元完全 S i 格子の解析結果も点線で示した。図 3より明らかなよう 初 .0 岡 田 Freq嶋 ncyσHz) 図3 . 状態密度の解析結果 2 9 9 に DOSの解析結果は,格子振動ス ペ クトルが両モデ、 ル . において異な っていることを示している 。また,振動ス 振動数側の二つの領域を有することが分かる 。 まず, 63THz近傍の高振動数側に存在するモードは, i原子に比べてお 表面終端した水素原子が骨格となる S saEQ (コ国)笠宮ヒ由u ペ クトルは,両モデルとも大き く分けて低振動数側と高 . ・ 島由直圃園田-..,園田 10 5 1 . 盛岡nl I • H. 個別 E よそ 1 1 2 8程度と軽い質量を有するために,水素原子近 0. 0 」一一一一一~ーー一一 3O x ' o ' 1曲 、 0 ' 曲 叩2 傍に生じる局在モードによるものであると考えられる。 そこで, 63THzの格子振動モード‘パターンについて解 . - SiteX 図4 . 高振動数側のそート ー ハ .~-ン i原子を示 析した結果を図 4に示す。図において Oは S し , ・は水素原子を表している 。縦軸は各原子の平衡位 i原子はほとんど変位し 置からの変位を示し,横軸はサイトの位置を示している。図より,明らかに S ていない,すなわち, S i原子は振動数 63THzの振動に寄与していないことが分かるのに対し,水素原 子は無秩序な方向と大きさに変位していることがわかる。ここで,水素原子が規則的な変位を示さない のは,本モデルにおいて最近接間同士の相互作用しか仮定していないために,水素原子同士が直接的な 相互作用を持たない結果であると考えられる 。以上より,高振動数側のモードは表面終端した水素原子 i微粒子モデ、ルにおい 近傍に存在する局在モードであり,フラクタルネットワークモデルにおいても S ても存在が確認できる 。また,高振動数側のモードの数は表面終端している水素原子数によって決定さ れるものと考えられる 。 i結晶のスペクトルとの比較からわかるように, 次に,低振動数側のモードは, 2次元完全正方格子 S S i原子骨格によるものである 。図 3より S i微粒子モデ‘ルのスベクトルは.ほとんど 2次元 S i完全正 方格子結晶と同じ形状を有するのに対して, パーコレー シ ョンネットワークモデルにおける DOSのピ ークは低振動数にシフトしていることが分かる 。この振動数の低周波側へのシフトは, パーコーレーシ ョンネットワークの構造に起因しているものと考えられる。なぜならば,一方で,パー コレー シ ョンネ ッ トワークと同 じ原子数を有している S i微粒子は,内部に空格子点を持たないため, パーコレー シ ョ ンネ ッ ト 構 造 に 対 し て 比 較 的 強 固 な 結 晶 構 造 を 有 し て い る も の と 考 え ら れ , ま た , こ れ が 2 次元正方格子結晶のス ベ クトルと極めて類似している原因であると考えられるからである。さらに,各 モデ 、ルにおける原子配列構造が格子振動に与える影響を調べるために,振動数 2THzの格子振動モ ー ド i微粒子モデ、ルにおける格子振動は,計算に用いた パタ ー ンを図 5及び図 6にそれぞれ示す。図より S 図 6.パ ー コレ ーγ ヨン ヰ γ ト ワ ー クの そード バ タ ー J 3 0 0 空間全体に広がっているのに対して,パーコレーションネットワークモデルにおける格子振動はかなり 局在していることが分かる。これは,パーコレーションネットワークにおけるランダムな原子配列に起 因したブオノンの局在効果によるものと考えられる。 4. 2. 水素終端しない系の解析結果 i微粒子モデルについて微粒子の配列が格子振動に与える影響を詳細に調べるために,水素 次に, S i原子骨格の状態密度を解析した。すなわち, 1 0 0個の S i微粒子を正方構造(Mo d e l l ) 原子終端しない S と最密構造(Mo d e 1 2 ),及び配列の最も極端な例として一方向に全て並べた ( w i r e )構造に配列した系の 格子振動について解析を行った。各モデルに対する状態密度の解析結果を図 7に示す。興味深いことに, 全てのモデルに対する DOSの形状はほぼ一致しており,また,比較のために示した S i2次元完全正 i微粒子 1個に対する状態密度 方格子結晶の DOSと非常に良く一致していることがわかる。さらに, S の解析結果を図 8に示す。図 8に示したように, S i微粒子 1個の DOSは 2次元 S i完全正方格子結 晶における DOSをほぼ再現していることが分かる。以上の結果から,今考えている S i微粒子の大き さでは, S i微粒子 1個の内部に含まれる S i原子により 2次元 S i完全正方格子結晶の DOSの形状をほ i微粒子同士の配列の仕方に大きく依存しない DOS形状を有していることが分かつた。 ぼ再現し, S 0 > <' 0 ト - S iCtyatall胸 (M 州 0 " " 1 一 一 一 Si,措置叫<<XlOOatom) 2 . 5 . 1 1 ) 1 ' . ー il/¥1 ~5 0><'OOr/ゾ i - S ic r y a t a l l t t e( 316嵐 官n ) 書20><σ ' 副 旬 v ( / ) 同 . 。15M1σ" 含 : ・ 1 . ( ) ) ( 1 σ 帥 E 。 由 5C h c1 ( ) ' " a ' 5 お FrequencyσHz) Frequency( THz) 図7 .S i微粒子モデルの DOS 図 8. S i微粒子 1個の DOS 次に,パーコレーションネットにおいて,構造を決 ・・ 25x1 0 める主な要因である存在確率 pに対する DOSの依存 , 200x2 00の正方格子空間におけ 性を調べた。図 9に 刷 出 ・・ 2O x10 炉 問 c n1.5.10." る存在確率 p =O.593, 0 . 6 7 0, 0 . 7 9 0, 0 . 9 0 0のパーコレー . . - ションネットワークの DOSを解析した結果を示す。 ~,o><叩制 =0.593は正方格子上のサイトパ ちなみに,存在確率 p 0 50 > < ロ 的 E 曲 ーコレーションの臨界値である。また,比較のために, 2次元 S i完全正方格子結晶に対する DOSも同時に示 す。この場合には,上述の S i微粒子モデ、ルの解析結果 σ '・ 00 o '0'5 2 5 Frequency( THz) 図9 . ハ。ーコレーションネットワークの状態密度 とは異なり,存在確率の違いによって DOSの形状, また,ピーク位置に変化が現れることが分かる。図からも明らかなようにこの変化は,存在確率が低く なるほど顕著に現れ, DOSが低振動数側に移行していることが分かる。 i原子と この低振動数側へのシフトは,存在確率が低いパーコレーションネットワークほど最近接 S 3 0 1 4本の結合を持たない S i原子が増加しており,不飽和な結合を持つ S i原子の増加により,高い振動数 のモードが減少し,系の状態密度が低い振動モードに移行したためであると考えられる。 4. 3 . 比熱の比較 以上述べてきたように, S i微粒子モデル及び量子スポンジモデルの両モテ守ルにおける DOSの形状の 相違が明らかになった。そこで,本節では DOSを反映した物理量の例として格子比熱(格子比熱)を 考える,一般的に,比熱は次式で表され,系の全エネルギーを温度で微分することにより求められる。 {i 1ωi 、 ( 引 ¥♂'ノ 〆 / 判「r (生¥kBiT) 1"iD(ω凶 =kBr Cv = ν ¥ e X P I一一一│ J¥kBT) (8) r t l 1 e x o lニニ 1 1 1 I "¥kBT) I ここで, ωは振動数, D (ω) は状態密度, ksはボルツマン定数, nはプランク定数, Tは温度であ る 。 50 図 3に示した DOSの 解 析 結 果 を (8) 式に代入して l 求めた比熱の温度依存性を図 10に,示す。両モデルの ~ 比熱は, 150K以上の温度領域において明らかに異な i微粒子モデ った温度依存性を示し,その温度領域で S 一 向 45ιHo a s s i v 百t e d 35 i微粒 とがわかる。これは,図 3からも分かるように S 子モデルにおいて表面終端した水素原子による高振動 / : : . : : : 30 ち 25 Z 2 0 ) ルの比熱の方が温度にたいしてより大きく変化するこ 鉛/' r c o l a t i o nne t ¥ w rkp =O.7 s ic r y s 泊岨t e s(modeI1) δ 1 5 メ バ 10 0 . 5 00 0 Tempareture( K ) 数側の DOSがパーコレーションネットワークの DOS より低くなっているためである。 図 10. 比熱の温度依存性 以上,両モデルにおける比熱の違いからも分かるように,比熱の温度依存性のように DOSを反映し i薄膜の格子振動の DOSを直接に精密測定できるならば,発光機 ている物理量,あるいはポーラス S 構が量子サイズ‘モデ、ルで、あるのか,あるいは量子スポンジモデ‘ルで、あるのかという問題に対して,格子 振動という立場から議論することが十分に可能であると考えられる。 5. ま と め ポーラス S iの発光機構への関与が指摘されている格子振動について, S i微粒子モデル及び量子スポ ンジモデルを対象に強制振動子法による理論的解析を行った。発光機構として有力な候補である両モデ ルを解析した結果,両者の格子振動の状態密度及びモードパターンには明かな差異が認められた。さら に,量子スポンジモデルには,構造的ランダムさゆえに格子振動の局在化現象が顕著に生じていること がわかった。また,状態密度から直接求めることができる物理量の一つである比熱ついて検討した結果, 両モデルにおいて比熱は異なった温度依存性を示すことがわかった。 以上の結果から,光学的特性のみの検討からでは特定することが現在のところ困難であると考えられ iの発光機構について,格子振動という別の観点から新しい知見得ることが十分可能であ るポーラス S 302 るという結論を得た。 謝辞 本研究を行うにあたり,御助言,御激励を頂いた本学大学院工学研究科電子工学専攻の小)1達仁氏, 小塚謙一氏,さらにコンビューターシミュレーションをおこなうにあたって,種々有益な御指導,御討 論を頂いた本学教育学部物理の阪上雅昭助教授に心から厚く御礼申し上げます。 参考文献 1 )L .T .Canham,AppLP h y s .L e t t .57,1 0 4 6( 1 9 9 0 ) . l .,Appl .PhysL e t t .5 6,2379( 19 9 0 ) . 2 )H.Takagie ta .A l lan,andM.Lannoo,P h y s .R e v .B48,11024( 1 9 9 3 ) . 3 )C .Derue,G e v .B4 9,5236( 1 9 9 4 ) . 4 )S .Sawada,N.HamadaandN.Ookubo,Phys R I久 , 応 用 物 理 第 5 7巻 第 1 1号 1 7 1 0( 1 9 9 2 ) . 5 )伊藤利通, 加藤岡J 4,p . 7 4 7( 19 9 4 . 3 ) 6 )第 41回応用物理学関係、連合講演会講演予稿集, No.2,30p-ZK1 . 1 6 7 ( 1 9 9 4 .1 l ) 7 ) 平成 6年度日本物理学会・応用物理学会北陸支部合同講演会講演予稿集, G-6,p ‘ ・ 8 )Mic h a e lL .WilliamsandHumphreyJ .Mal'i s,P h y s .R e v .B3 1,4508( 1 9 8 5 ) . .Suemune, N.Noguchi, andM.Yamanishi, J p n .J .Appl .P h y s .31, L494( 19 9 2 ) . 9 )1