Comments
Description
Transcript
先端生物電子顕微鏡法による細胞構造機能イメージングを
先端生物電子顕微鏡法による細胞構造機能イメージングを基盤とした 植物科学研究の新展開 代表者:金子 康子(教育学部・教授) 分担者:西田 生郎(理工研・教授) 森安 裕二(理工研・教授) 竹澤 大輔(理工研・准教授) 浅枝 隆(理工研・教授) 1 研究の目的 元素分析装置を備えた低温・低真空走査電子顕微鏡では、生きている状態に近い植物細胞微細構 造を観察すると共に細胞内外の元素分布を画像化することができる。 また STEM トモグラフィー機 能を備えた 200 kV 分析電子顕微鏡では、急速凍結後凍結置換した試料切片から傾斜シリーズ画像 を取得して三次元構築することにより、細胞構造と物質局在の高分解能立体観察を行うことができ る。これらの装置を活用して、生きている状態に近い高分解能微細構造観察と元素分析を組み合わ せた細胞構造機能イメージング法を導入し、従来法では得られなかった新たな視点から植物科学研 究を展開することを目指す。 2 ムジナモ捕虫葉の腺毛の構造と機能 水生食虫植物ムジナモは二枚貝葉の捕虫葉で獲物を挟み込んで捕え、その捕虫葉間で消化・吸収 を行う。これまでの研究により、ムジナモ捕虫葉中央域に分布する消化腺毛から獲物を捕獲後プロ テアーゼが分泌されることが分かっており、このプロテアーゼはアルミニウムイオンにより活性化 するメタロプロテアーゼであることを示す実験データを得てきた。アルミニウムイオンと結合して 特徴的な蛍光を発する試薬モリンを用いることにより、消化腺毛細胞中のアルミニウムイオンの局 在(図1)は捕食活動開始後に著しく変化し、プロテアーゼ活性と共に消化腺毛から放出されるこ とが分かった。急速凍結した獲物捕獲後の捕虫葉を、低温・低真空走査電子顕微鏡観察し、自然な 状態の消化腺毛の構造と共に、反射電子像により異なる元素の分布を可視化することができた(図 2)。今後、消化腺毛におけるアルミニウムの元素マッピングを試み、捕食活動に伴うアルミニウ ムの局在変化を他の微細構造変化と関連させながら追跡する。 1 2 3 10 um また、捕虫葉辺縁域に分布する X 型を呈する吸収毛の細胞膜を蛍光染色して経時変化を観察す ることにより、獲物捕獲後の一時期に細胞膜由来の小胞が激しく移動することが分かった(図3) 。 さらに急速凍結後凍結置換した吸収毛細胞中では、透過電子顕微鏡観察により多量のゴルジ体や小 胞体などの膜構造が活発に活動する様子が明らかになった。今後、細胞内微細構造を 3 次元立体構 築することにより、ムジナモ捕虫葉腺毛細胞のダイナミックな膜構造変化と機能を詳細に解明する。 3 シアノバクテリア細胞内構造の立体観察 シアノバクテリアの細胞内 DNA を蛍光染色すると、その形状は細胞分裂周期に合わせて規則的 に変化することが分かった。細胞質領域に拡散している DNA は、細胞分裂に先立って凝集し、一 時的にコンパクトな波状構造をとった(図4) 。この構造を電子顕微鏡観察により立体的に明らか にすることを試みた。酵素処理により細胞を部分融解した後、急速凍結して低温走査電子顕微鏡観 察すると、巨大らせん様の構造をとっていることが示唆された(図5) 。また急速凍結したこの時 期の細胞をそのまま超高圧電子顕微鏡で観察すると、DNA を含む構造が太いひも様に波打つ様子 が観察できた(図6) 。今後 STEM トモグラフィーや DNA 特異的な標識を組み合わせて、この時 期の DNA 形状の高分解能微細構造を解明していく。 4 5 6 1 um 4 様々な植物科学研究課題への適用と今後の展望 分析装置を備えた低温・低真空走査電子顕微鏡や 200 kV 分析電顕による STEM トモグラフィー などの先端生物電子顕微鏡法を適用して、次の挙げる現代植物科学の課題の解明を目指した研究に 取り組んできた。1)シロイヌナズナにおける高 CO2 環境下での糖転流と原形質連絡の形成、2) 原形質連絡形成の変異株 rsx1 について、組織特異的な RSX1発現によって回復する表現型の程度 と、二次原形質連絡形成の関係について、3)植物細胞におけるオートファジーの仕組みと役割、 4)コケ植物におけるストレス耐性獲得の仕組み、5)水生植物の成長生理と環境との関わり。い ずれの課題においても、急速凍結試料などで、生きている状態に近い細胞微細構造と物質の局在を 三次元的に明らかにすることにより、従来は困難であった細胞構造機能のイメージングを可能とし、 分子生物学や生理・生化学的研究と統合することにより、新たな植物科学研究を展開していくこと が期待できる。 5 謝辞 低温・低真空 SEM の使用と元素分析に際しては科学分析支援センターの徳永 誠技師にお世話 になりました。また氷包埋したシアノバクテリアの超高圧電子顕微鏡観察では生理学研究所の村田 和義博士にお世話になりました。