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2008 年度 小学校理科・地学領域(担当:長島雅裕)
水の三態変化と気象
1.水(H2O)の相
氷(固体; solid)、水(液体; liquid)、水蒸気(気体; gas)
温度、圧力によって変化する。下に、H2O と CO2(二酸化炭素)の相図を示す。縦軸:
Pressure(圧力)、横軸:Temperature(温度)。1atm は 1 気圧の意味。
(http://www.chem.neu.edu/Courses/1131Tom/Lecture25/sld007.htm より転載)
1 気圧下では、水は 0℃で凍り、100℃で沸騰し水蒸気になる。しかし、実際には 100℃
未満でも水は少しづつ蒸発している。空気中の水蒸気圧が低い場合(つまり湿度が低い場
合)、水分子が水の表面から分離して水蒸気になる速さの方が、空気中の水分子が結合し
て液体の水に戻る速さよりも大きい(速い)ため、少しづつ蒸発するのである。この速さ
が等しくなった場合(「平衡」)の水蒸気圧が「飽和水蒸気圧」であり、その温度で空気
が抱え込める最大の水蒸気の量になる。この時、湿度は 100%である。
今回は、温度や気圧(圧力)によって水がどう変化するか、湿度の測定や、雲、雪といっ
た気象現象の観点から考えてみる。
2.雪
雪は上空の水蒸気が直接凍ったものであり、要するに、氷である。冷凍庫の氷との違い
は、水分子が直接付着して氷が成長するため(気相成長と言う)結晶形状を取る点にある。
雪の結晶(水の結晶で
もある)の形状は、温度
と湿度によって決定され
ることが、中谷宇吉郎に
よって示されている。こ
の図は Nakaya diagram と
呼ばれている。水蒸気が
たっぷりあり、-15℃程度
の気温の時に、樹枝状の
結晶が成長する。
今回は、ドライアイス
を使ってそのような低温
領域を作り、ペットボト
ル中に雪の結晶を作る
(平松式人工雪発生装置、
別紙参照)。
なお、今回作るのは厳
「スノーフレーク」(ケネス・リブレクト)より
密には「霜」である。雪
は上空の「ちり」などを核として水蒸気がはりつき成長していくものであるが、「霜」は
地上の物質を核にして成長するものである(今回は釣糸が核になる)。しかし、それは核
がなにか、というだけの違いであり、雪も霜も出来方には基本的な違いは無い。
最近、一部で「ありがとう」「愛・感謝」などの文字を見せた水や、感謝の気持ちを念
ずると「綺麗」な結晶ができるという話が語られているが、それは中谷らの業績をはじめ
とする膨大な実験事実と矛盾するものであり、科学的には否定されている。しかし、小学
校の道徳の授業などでは教材として使われることが全国的に見られるという報告があり、
注意を要する。
水蒸気圧[hPa]
3.湿度と結露
空気中の水蒸気の量は、水蒸気による圧力(分圧)で表される。圧力は分子数に比例す
るので、分子の量が多くなるほど水蒸気圧も高くなる。ある温度で、水→水蒸気となる速
度と水蒸気→水となる速度が等しくなる(つまり平衡)水蒸気圧を、飽和水蒸気圧と呼ぶ。
空気中に最大どれだけ水蒸気を抱え込めるかの指標になる。
飽和水蒸気は温度の関数であり、右図の実線のように与えられる。通常の状態では、空
気中の水蒸気圧は飽和に達しておらず、実線よ
70
りも下にある。
60
湿度は、(水蒸気圧/飽和水蒸気圧)×100[%]で
飽和水蒸気圧
定義される。図の記号を用いると、A の状態で
50
は (a/b)×100[%]である。
さて、昼間、図のA点に示すような温度・湿
過飽和
40
度の状態だったとしよう。夜になって日が沈む
30
と、太陽からのエネルギーを地面が受け取れな
くなるため、気温が低下し、夜明け前に一番冷
b
20
B
え込むことになる。空気中の水蒸気圧があまり
A
結露
変わらなかったとすると、温度のみが下がり、
10
昼間
明け方
B点に移動する。すると、ここで水蒸気圧は飽
a
(気温の低下)
和に達するので、一部の水分子は水蒸気でいら
0
0
10
20
30
40
れなくなり、液体の水になる。これが結露であ
温度[℃]
る。結露する温度のことを露点温度と呼び、湿度の代わりに露点温度を用いて水蒸気量を
表すこともある。
4.湿度計
アスマン通風乾湿計は、温度計を 2 本用意し、片方の温度計の球部をガーゼでくるみ、
ぬらしたものである。ぬらした方を湿球、ぬらしていない方を乾球という。ガーゼから水
が蒸発すると気化熱を奪い温度が低下するので、湿球の温度計は乾球に比べ低い温度を指
す(汗で濡れたシャツを着ていると、汗は体温とほぼ同じはずなのに、乾くにつれて冷え
るのと同じ)。そして、気温と、乾球・湿球の温度差から、湿度が測られる。
ここで、どれだけ温度が低下するかを考えよう。ガーゼから蒸発する水の量は、(飽和
水蒸気圧-周囲の空気の水蒸気圧)と関係しているはずである。もし周囲の空気が飽和状
態であれば、ガーゼからは水は蒸発できないからである。したがって、温度と温度降下の
両方がわかれば、周囲の空気の湿度がわかる。
通常は、読み取った乾球・湿球の温度からすぐに湿度がわかるよう、表を使って湿度を
読み取る。通常はこれで十分であるが、なぜ湿度が測定できるのか、原理を理解しておく
ことは重要である。
5.雲
上空に浮かぶ雲は、微小な水滴のあつまりである。雲はどのようにできるのか、水の状
態変化と関連させて考えてみよう。
大気の中から、適当な領域を切り出してきて、その中の空気について考える。この空気
のかたまりが上昇すると、上空に行くほど気圧が下がるので、空気のかたまりは膨張する。
膨張すると、温度が下がる(断熱膨張)。やがて露点温度まで温度が低下すると、空気中
のちりを核にして、水滴が生じる。これが雲である。
澄んだ大気の場合、ちりのような核が少なく、露点温度を下回っても結露しない場合が
よくある。これを過飽和という。この状態の空気にちりを入れると、すぐに凝結し、水滴
を生じる。これが飛行機雲の原理である。ジェットエンジンから出る燃えカスを核にして、
水滴が生じるのである。
簡単な実験で雲を作ることが出来る。ペットボトル中に雲を作ってみよう。ペットボト
ルの蓋を加工し、空気入れで空気を入れられるようにする(炭酸用のペットボトルを使う
こと)。ペットボトルの内部をぬらし、「ちり」の代わりに線香の煙を入れる。圧縮する
と温度が上がり、ペットボトル内部で水蒸気が増える。ペットボトルの蓋を開け、一気に
空気を抜くと、他と熱のやり取りをする暇もなく、空気が膨張し、ペットボトル外に逃げ
ていく。すると温度が下がり、線香の煙を凝結核にして水滴が発生し、雲状になる。
6.課題
1. アスマン通風乾湿計の値を読み取って、湿度を求める。湿度の求め方は、表を用い
てよい。
2. 水の結晶の成長過程を何回かに分けてスケッチする。実験開始から何分後のスケッ
チかも明記すること。結晶の形と中谷ダイアグラムとの関係も考察してみること。
3. 雲つくりの実験で、条件を色々変えて(内部の水の量、線香の煙のある・なし、注
入する空気の量、など)、できる雲がどう変わるか考察する。
スケッチは別紙メモを提出すれば良いですが、温度・湿度等のデータは、レポート(A4)に
清書(ペンまたは印刷。鉛筆はダメ)して出すこと。wikipedia のコピーはレポートとして
は認めません。参考にするのは構いませんが、自分で咀嚼して、自分の言葉で述べること。
提出先:4 階 417 号室(長島居室)今週金曜まで
小学校理科・実験メモ
実験日: 年 月 日
コース・選修・番号 氏名 湿度の測定
乾球の温度 ℃ 湿球の温度 ℃ 乾球と湿球の温度差 ℃
表から読み取った湿度 %
結晶のスケッチを以下に描く。開始後何分のスケッチか明記すること。
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