Comments
Description
Transcript
2007年1月号 - 信金中金 地域・中小企業研究所
ISSN1346-9479 第 6 巻 第 1号(通 巻 4 0 8 号 ) 2007. 1 新春対談 「豊かさを実感できる地域社会とは?」 ペ イ オフ解禁が家計の資産選択に与える影響 変 貌 する「企業城下町型集積」と今後の方向 − 「 北九 州 地 区」、「鈴 鹿 ・ 亀 山 地 区 」 の 事 例 か ら − 企 業 の農業参入を巡る最近の動向 − 成 長・ 注 目 分 野 シ リ ー ズ ③ − 米 銀 の成長戦略 動 産 担保を活用した資金調達 − 在 庫、 売 掛 債 権 、 知 的 財 産 権 等 を 担 保 と し た 資 金 調 達 − 経 済 見通 し 実 質 成長率は06年度2.4%、07年度2.1%と予測 − 景 気は 民 需 主 導 で 自 律 回 復 の 動 き を 維 持 す る 公 算 大− 供 給 サイドからの中小企業貸出分 析 信 用 金庫職員を対象とした地域振興支援実務研修の開 催 統計 「信金中金月報掲載論文」募集のお知らせ ○対象分野は、当研究所の研究分野でもある「地域」 「中小企業」 「協同組織」に関連する金融・ 経済分野とし、これら分野の研究の奨励を通じて、研究者の育成を図り、もって我が国におけ る当該分野の学術研究振興に寄与することを目的としています。 ○かかる目的を効果的に実現するため、本論文募集は、①懸賞論文と異なり、募集期限を設けな い随時募集として息の長い取り組みを目指していること、②要改善点を指摘し、加筆修正後の 再応募を認める場合があること、を特徴としています。 ○信金中金月報への応募論文の掲載可否は、編集委員会が委嘱する審査員の審査結果に基づき、 編集委員会が決定するという、いわゆるレフェリー制を採用しており、本月報に掲載された論 文は当研究所ホームページにも掲載することで、広く一般に公表する機会を設けております。 詳しくは、当研究所ホームページ(http://www.scbri.jp/)に掲載されている募集要項等をご 参照ください。 編集委員会 (敬称略、順不同) 委 員 長 堀内昭義 中央大学総合政策学部教授 副委員長 藤野次雄 横浜市立大学国際総合科学部長 委 員 筒井義郎 大阪大学社会経済研究所教授 委 員 濱田康行 北海道大学経済学部教授 委 員 吉野直行 慶應義塾大学経済学部教授 問い合わせ先 信金中央金庫総合研究所「信金中金月報掲載論文」募集事務局(担当:松崎、照沼) Tel : 03 (3563)7541/Fax : 03 (3563)7551 2007年01月号 目次 新春対談 「豊かさを実感できる地域社会とは?」 一橋大学 大学院商学研究科教授 信金中央金庫 総合研究所長 特別寄稿論文 ペイオフ解禁が家計の資産選択に与える影響 金沢学院大学 経営情報学部助教授 関 満博 武富 將 奥井めぐみ 2 20 地域シリーズ 変貌する「企業城下町型集積」と今後の方向 平井昌夫 39 研 究 企業の農業参入を巡る最近の動向 鉢嶺 実 53 米銀の成長戦略 青木 武 63 動産担保を活用した資金調達 谷地向ゆかり 81 角田 匠 96 総合研究所 112 −「北九州地区」、 「鈴鹿・亀山地区」の事例から− −成長・注目分野シリーズ③− −在庫、売掛債権、知的財産権等を担保とした資金調達− 調 査 経済見通し 実質成長率は06年度2.4%、07年度2.1%と予測 −景気は民需主導で自律回復の動きを維持する公算大− 査読付論文 「信金中金月報掲載論文」募集における査読付論文 供給サイドからの中小企業貸出分析 横浜市立大学 国際総合科学部準教授 信金中金だより 統 計 信用金庫職員を対象とした地域振興支援実務研修の開催 随 清遠 総合研究所 113 127 信金中央金庫総合研究所活動状況(11月) 128 信用金庫統計、金融機関業態別統計 129 2007 1 個人名による掲載文のうち意見にわたる部分は執筆者個人の見解です。 投資・施策実施等についてはご自身の判断によってください。 新春対談 「豊かさを実感できる地域社会とは?」 一橋大学 大学院商学研究科教授 関 満博 信金中央金庫 総合研究所長 武富 將 (順不同・敬称略) ■今、なぜ地域に注目するのか 感じ、どのような問題意識を持ったのか、ご 披露いただけますでしょうか。 武富:今日は「豊かさを実感できる地域社会 関:私は、大学院博士後期課程に在籍しなが とは?」というテーマの下、今、地域で起き ら、日本で最初のコンサルティング機関とい ていること、地域おこしの担い手が考えてい われている東京都商工指導所に勤めました。 ること、地域の将来の可能性と残された課題 そこで、毎日、大田区や八王子市の中小製造 などについて、この道の第一人者である関先 業の現場を訪問し、コンサルティングを行い 生からご意見を拝聴したいと思います。 ました。1970年代、 私がまだ見習いだった頃、 先生は、2001年に出版された著書『地域 他の所員に人気のなかった繊維産業を担当さ 産業支援施設の新時代』の中で、 「21世紀は せられることになりました。八王子市や青梅 地域の時代・中小企業の時代」であり、 「も 市の織物や都内のニットでした。ただ、大学 う先行モデルはない。自らの手で新しい状況 院の先生からは、 産業問題に取り組むのなら、 を切り開いていくしかない。 」と述べていま 繊維産業から始めるべきだと言われました。 す。私も全く同感です。これは、先生が30年 繊維産業は、歴史があり、産業問題のすべて 以上にわたって、地域産業の現場、中小企業 の要素を持っているからです。 の現場と深くかかわってこられて、その総決 武富:繊維産業は、家内工業的な部分がある 算として、実感されたことだと察しています。 し、産業構造が多段階で紡績から織布そして 学界に入られる前にも、中小企業と深い関 アパレルまであります。それぞれの間に流通 わりを持つ社会人生活を過されたと伺ってい も入っている。全体を眺めれば、日本の資本 ます。地域産業や中小企業の現場と関わった 主義の歴史みたいなことがわかります。ま 30数年にわたる流れの節目々々で、なにを た、繊維産業は、機械を使いますので、繊維 信金中金月報 2007.1 産業から機械工業に転身した例も多くみられ 関:本当に1985年は、重大な年でした。そ ます。 の頃、日本の中小企業は、低廉な労働力を求 関:繊維産業は、産業問題全体をとらえるの めて中国に進出し始めました。そうした中小 に適した産業です。10年くらい繊維産業を 企業の動きを受けて、私は、1985年頃から 担当して、私が30代半ばの頃に繊維産業の 有給休暇を利用して、中国の現場を訪問する 本を2冊ほど執筆しました。 ようになりました。それでも、有給休暇だけ ただ、このままいくと、繊維産業とともに、 では時間が不足したので、41歳の誕生日に 自分まで衰退していってしまうような感じを 東京都商工指導所を退職し、東京情報大学に 抱き、専門分野を大田区・墨田区の機械工業 移りました。その後、専修大学、一橋大学に に大転換しました。この時、機械の知識を得 移り現在に至っています。 るため、工業高校の機械・電気関係の教科書 社会に出て33年、実務家と学界人とちょ を読み、機械工作法の専門書まで手にとりま うど半々です。実は、20代の終わりに考え した。おかげで、 工場の現場で機械を見ると、 た目標を達成するために、これまで体系的に メーカー、年式、能力など、全部わかるよう 仕事に取り組んできました。その目標とは、 になりました。 63歳頃までにアダム・スミスの国富論のよ ■1985年から日本は別の国になった 武富:先生のご知見は、 『フルセット型産業 構造を超えて』という著書に結集されていま すが、大田区の機械工業について、技術まで うな、一つの時代を体系的に綴った、何百年 も後世に受け継がれるようなものを書くとい うことです。 ■人は地域でしか生きられない 含めて熟知する機会があったということです 武富:先生の心の中で、地域や中小企業、信 ね。だからこそ、先生の著書は、わかりやす 用金庫の活躍の場は、どのような位置を占め いですし、説得力があります。 ていますか。 当時の時代背景は、ニクソンショック、オ 関:結局、人は地域でしか生きられません。 イルショックがあって、 最後のとどめとして、 高齢社会になってくると、余計にそれが実感 1985年にプラザ合意が行われ、しかも1986 できます。これまでの日本の都市計画は、住 年には前川レポートが発表されました。まさ むところと働くところを高速道路と鉄道で結 に日本経済が内需主導型に転換しようとし ぶことによって、分けてしまった。 た時代でした。先生は著書の中で、日本の資 これから定年を迎える団塊世代はどうなる 本主義は、近代工業化百年の踊り場に来て、 のでしょうか。勤務先が大手町で、八王子市 1985年を境に、産業の底辺からみると別の に住んでいる人は、定年後の大半の時間を八 国になったとおっしゃっていますね。 王子市で過ごすことになります。年に1回か 新春対談 2回の同窓会に出席するために、銀座に出て 関:日本語では、東アジア地域、関東地域ば 行くだけです。そこで、徐々に自分の住んで かりでなく、町内会までも地域と呼びます。 いる街の重要性が高まってきます。これから 私は、その中でも、人の姿の見える地域、自 の時代は、自分の街だと思えるところを豊か 分の街を、それぞれの人が大事にすることが にしていくことが、非常に重要です。 基本だと考えています。 私の研究対象は、人の 武富:豊かさとは、いったい何でしょうか。 姿の見える地域と産業・企業との関わりです。 関:大変難しい質問ですが、経済的な豊かさ 武富:先生は、よく東京圏・地方圏・東アジ も必要です。その基礎となるのは、やはり産 ア圏の三極構造問題を取り上げますが、その 業でしょう。産業は目的ではありませんが、 中で最も弱い地方圏が、苦しんでいます。 豊かさを得るための極めて重要な手段です。 ところで21世紀の高齢時代には、地域の 産業が育ち、それに関わっている人たちが、 生活に密着した場でいろいろなニーズが生ま 生きがいを感じられるような仕組みを作って れてくると思いますが、それにあわせた豊か いくことが重要だと思います。 な社会をどのように作っていくのかというこ ■地域の基本は「人の姿の見える地域」 とが大変重要になってきました。また、IT 革命が起こると、仕事の取組み方から生活の 武富:先生は「人の姿の見える地域」という 仕方まで変わってきます。さらに、環境に対 言葉を使っています。 する意識も変わってきます。 信金中金月報 2007.1 こうした変化の中で、現在の効率性を追求 した分断構造を、もっと人間にあったものに 変えていくことが、先生流の新しい国富論で あって、それを実際に提案する舞台が日本の くのか、ということが重要だとわかってきま した。 ■衰退圧力を反発エネルギーに 地域ではないでしょうか。ただ、同じ地域で 武富:地域活性化のうねりが生まれる場合に も、どのようにして立て直そうかと模索して は、いろいろなパターンがあるでしょうし、 いる地域と、これから新しい豊かさを創ろう 成功するための条件も様々かもしれません。 としている地域とでは少し違うような気がし 一般化することができないが、何か共通する ます。 ことはあるはずです。 北上市の事例について、 関:小さな地域に関心が深まったのは、2000 もう少し詳しくご説明いただけますか。 年近くになってからです。一般的に地方は大 関:最近活性化している地域は、かつて開発 変だと言われていますが、中には非常に活性 が遅れていたところが多い。それがバネにな 化しているところがあります。それは、人口 ります。 が大体5万人から10万人程度の市や町です。 私が北上市に初めて訪れたのは、20年ぐ 武富:例えば、どのようなところですか。 らい前でした。まず、工業団地の立地がよす 関:最初にそれを強く感じたのは、岩手県の ぎるということに驚きました。 北上市です。その次が花巻市です。両市は、 北上市は、1954年に黒沢尻町と近隣6村が 隣り合っています。今、日本で活性化してい 合併してできました。北に花巻市、南に水沢 るところは、隣りあっているところが多いの 市(現奥州市)が隣接しています。花巻市は です。北上市と花巻市が典型例ですが、その 温泉観光で栄え、水沢市は物資の集産地とし ほか、東京都の八王子市と神奈川県の相模原 て発展しました。黒沢尻町には何もなかった 市も当てはまります。また、滋賀県の彦根市 のですが、北上市に合併後、花巻市は観光、 と長浜市は、米原市を挟んで隣り合っていま 水沢市は商業だから、うちは工業でいくと決 す。こうした同規模で、相手がよく見えて、 めたのです。 性格の違う都市が競争しあうと、お互い活性 ただし、当時は、工場らしきものはほとん 化していくということがわかってきました。 どありませんでした。それなら誘致という 日本は、上から変わりそうもありません。 ことで、1950年代後半、工場誘致のために、 むしろ、市町村くらいの地域が頑張っていく 120ヘクタール級の工業団地を作りました。 ことによって、日本が豊かになっていくので 企業誘致において、立地のよい場所に工業団 はないでしょうか。90年代の中盤ぐらいか 地を作るということは、地元の熱意の表れと ら、それぞれの地域の個性を生かして、どの 言われています。 ようにして自分たちにとってよい街にしてい 新春対談 に職場に着いたら、まず、日刊工業新聞と日 経産業新聞を読めと命令されました。市長か ら、企業の増産計画に関する記事に反応しろ と言われたそうです。 記事を見つけたら、その日の午前9時前に 市庁舎を出発して、当時8時間ぐらいかけて、 増産計画の記事が掲載されていた企業の東京 にある本社に出向いたそうです。夕方、その 関 満博 会社に飛び込んでも、会ってくれるのは広報 ■ 一橋大学 大学院商学研究科教授 1976年 成城大学大学院経済学研究科博士 課程修了 1993年 東京情報大学助教授 1995年 専修大学商学部助教授 1998年 一橋大学商学部教授 主 著: 『地域経済と地場産業』新評論 (1984) 『フルセット型産業構造を超えて』 中公新書(1993) 『空洞化を超えて』日本経済新聞社 (1997) 『上海の産業発展と日本企業』新評 論(1997) 研究分野:地域産業開発論(産業論、中小 企業論、地域経済論) 課長ぐらいです。そこまでいったら、3日間 は粘れと命令されたそうです。 3日間も訪問し続けると、相手もあきれて、 なかには工場新設計画について、教えてくれ ることがあります。それを聞いた商工課の担 当者は、地元に戻り、市長に報告して、今度 はトップセールスを始めます。市長が一生懸 命セールスするので、企業側も一度くらいは 表敬訪問しないとまずいだろうと思うように なります。そして、企業の担当者が北上市の ■市職員の工業団地セールス 工業団地に行ってみると、 「いいじゃないか、 これだ。 」と驚くのです。 武富:活性化している地域には、必ずキーマ 武富:今でこそ北上市といえば、地域活性化 ンがいると言われています。北上市には、命 の典型例として、 『中小企業白書』等に取り がけで地域おこしに取り組んだキーマンがい 上げられていますが、地域の時代と言われ始 たのですか。 める前から、コツコツそのような努力をして 関:北上市の場合、最初のキーマンは、市長 きたのですね。 でした。この市長が、方針を決めて、それを 受けて若手が頑張りだしました。 ■よそものを受け入れる風土 大きな工業団地は作ったけれど、1970年 関:私も20年前に北上市を訪れて、工業団 ぐらいまでは、1社の工場も来ませんでした。 地を見たときは、その立派さに驚きました。 その頃の市長の命令は、工業団地への企業誘 さらに、夕方、飲食店に行った時に再度驚き 致でした。市の商工課の職員は、朝の8時半 ました。どの店に入っても、10分か15分た 信金中金月報 2007.1 つと、自分が10年来の常連じゃないかと錯 覚するような感じがするのです。街が持つホ スピタリティなのでしょう。 もともと北上市は、他県から人が移ってで きた街です。それで、外からやってきた人間を 非常にあたたかく迎えてくれるのでしょう。 ですから、誘致企業の視察団も、昼に立派な 工業団地を見せられて、夜にあたたかいもて なしをされるので、 気に入ってしまうのです。 また、工場進出後も興味深い。例えば、東 京から50歳くらいの工場長が転勤してきた とします。7~8年、 工場長として赴任します。 単身赴任の彼らは、奥さんに「北上に引っ越 そう」と誘いますが、奥さんは「寒そうでイ 武富 將 ■ 信金中央金庫 総合研究所長 1964年 東京大学経済学部卒業(工業経済 論) 1964年(株)日本興業銀行入行 1968年 米コロンビアビジネススクール卒 業(MBA) 1995年 同行常務取締役(代表取締役) 1998年 日本銀行政策委員会審議委員 2005年 信金中央金庫総合研究所長 ヤ」といやがります。ところが、一冬過ぎて みたら、たいして寒くないことに気が付きま す。山菜が出る5月頃、奥さんに「温泉もあ えば外来者の住みやすい街づくりなどが課題 るので、来てみないか」と声を掛けると、一 になります。北上市では、以前からそのよう 週間くらい滞在することがあります。工場長 なことに取り組んできたということですね。 の身であるため、 日中は相手ができないので、 そのような努力の積み重ねをしてきた地域 市役所の職員が地元の奥さんに、 「温泉を案 の経済的な豊かさは、そのようなことをして 内して」とか、 「漬物を一緒に作ったら」とか、 こなかった地域と比べて、高いということに いろいろなかたちで声を掛けるそうです。 なるのでしょうか。 武富:コミュニティというか、人の輪という 関:ここ10年ぐらい、中心市街地にあった大 か、今時のはやり言葉で言うと、信頼の形成 型店は、郊外に移転しました。北上市ではそ というか、もう少し広げると、ソーシャルキ の逆の動きです。4~5年前に、街の中心地に ャピタルみたいなものがあるのですね。 大きなショッピングセンターができました。 関:最後の極めつけは、定年間近の58~59 武富:コンパクトな街になっているのですか。 歳になると、 「住宅を世話しましょう」と誘 関:非常にコンパクトで住みやすい。 われ、それで、定住者が増えていきます。 武富:産業集積は、なるべく街中にあったほ 武富:地方自治体にとって、地域イノベーシ うがよいということでしょうか。 ョンの具体化にあたり、インフラの整備、例 関:そうだと思います。 新春対談 ■県庁のサポート 武富:話がずれるかもしれませんが、欧州連 合ができるときに、サブシディアリティとい 武富:日本では、地域のキーマンまたはリー う言葉が使われました。日本語に訳しにくい ダーは、やはり市長ですか。 のですが、補完性の原則とでも訳すのでしょ 関:市長の役割は重要ですが、 岩手県の場合、 うか。 なるべく小さな単位に自主権を持たせ、 県庁のサポートが非常によかった。 そこができないことについて、上位の単位が 弱小勢力が戦う時は、力を分散してはいけ 手を貸すという原則です。連邦政府は、なけ ません。これを地域振興策で実行しようとい ればそれにこしたことはないけれど、下の単 うことになりました。すでに当時、北上市で 位がどうしてもできない外交、防衛、通貨の は、芽がありましたから、県は、金も人もす 3つの機能を持つということです。そのよう べての力を北上市に投入しました。一つ成功 なことが欧州連合化の過程でよく議論されま すれば、必ず刺激されて、またどこかの地域 した。私は、地域開発や地域活性化において が頑張ると考えたのです。 も、サブシディアリティの原則に沿って、一 武富:市ができなくて、県であればできるこ 番小さな単位に自主権を持たせたほうがよい とに、どのようなことがありますか。 と思います。 関:地域活性化の直接的な担い手は、 市です。 関:それが、人の姿の見える地域だと思い 県には、やりやすい環境を作る役目がありま ます。 す。邪魔なものを取り除いて、やりやすいよ うに背中を押してあげる役割があります。国 との調整なども非常に重要です。 ■一点突破の全面展開 関:岩手県では、一点突破して、1990年代 に入って北上市の成功が見えてきました。一 点突破の次は、隣接する花巻市を活性化させ ようということになりました。 花巻市は、かつては豊かでしたが、北上市 に逆転されてしまいました。象徴的な現象と して、1990年頃、花巻市の飲食店が北上市 に移転していきました。花巻市の人たちは、 それを見て悔しくないわけがありません。第 2弾は、その悔しさを利用します。 また、県が、北上市の地域おこしのときに、 花巻市役所の若い職員2人を指名して手伝い をさせていました。 その若手職員を核にして、 信金中金月報 2007.1 1994~95年頃には、花巻市が地域おこしに 柚子の木1本のオーナーになってもらうよう 向けて燃えていきました。 にしました。オーナーは、時々町に遊びに来 ■21世紀型地域おこし 武富:その他、21世紀型地域おこしにふさ わしい成功例があれば、ご紹介願います。 て、柚子の収穫期に実を持って帰ります。こ のような仕組みを作ったり、道の駅で柚子加 工品を売るといった事業を始めました。 茂木町にとって、柚子製品が全国ブラン 関:最近、栃木県の茂木町に注目していま ドになる必要はありません。13戸の集落で、 す。栃木県の茂木町は、栃木県の南東に位置 そこに住む人たちが、希望を持てればよいわ し、人口1万6,000人ほどの典型的な中間地域 けです。都会の人が町に来て交流ができて、 です。以前は、専売公社のたばこ加工工場が 道の駅で柚子製品が少し売れてくれれば充分 あったこともあり、有名な葉たばこ生産地で です。そのような意味では、この事業は見事 した。ところが、1980年代の中ごろに葉た に成功して、現在、オーナーは、500~600 ばこ生産が衰退し、人口も減少しました。 人いるそうです。 茂木町では、町の職員にキーマンがいまし 武富:茂木町のような中間地域は、日本の構 た。彼は、農協の預金部にいたのですが、そ 造調整の中、先行き展望が持ちにくい地区の の部門が町役場と合併して、町の職員になり シンボルと言えます。地元の特産品を全国ブ ました。農協出身の彼は、農業しか担当で ランドにして東京に売るのではなく、会員制 きないだろうということで、以来、30年間、 にしたという点でユニークです。 農林畑です。いわゆる、専門職です。 葉たばこ生産衰退後、彼は、一つの集落に ■高齢社会の地域活性化モデル 注目しました。茂木町全体ではなく、わずか 関:彼は、柚子の木のオーナー制によって一 13戸、人口50人ぐらいの集落に注目したの つ成功したので、その成功を踏まえて、周辺 です。そこは、葉たばこ生産をしていました の集落に説得に行きます。一点突破の全面展 が、7割の畑は藪でした。彼は、藪の中に柚 開です。今は、12の集落がそれぞれ面白い 子の木が何本か生えていて、実をいっぱいつ 活動をしています。 けていることに注目しました。 一方、集落の半分以上は高齢者です。彼は、 例えば、ある集落では、梅の木を植えて、 オーナー制をとりました。3月の梅の花見か 集落の人たちと話し合い、1985年から柚子の ら始まり、最後に梅を収穫して帰ります。一 栽培を始めることにしました。それが、実を 本の木から収穫できる梅の実は、とても量が つけ始めたのが1990年代に入ってからです。 多いので、梅干にしたいという人もいて、町 彼は、柚子の木のオーナー制を導入し、宇 都宮市や東京都の人たちに年会費1万円で、 の人がそれに手を貸すという仕組みです。 さらに、2000年以降、大変興味深いこと 新春対談 が起こりました、オーナーの中の1人が、す 品で勝負できるのが良い。茂木町では、そ っかり茂木町の集落を気に入ってしまって、 ばのオーナー制を採用している集落もあり 従業員100人規模の介護老人保健施設を設置 ます。2005年1年間で26,000人の来店客数を しました。地元の雇用増につながったことに 数え、売上高も3,000万円を超えたそうです。 加えて、町から農園を提供して、入居者のリ 従業員に支払った賃金が合計で1,500万円だ ハビリ目的に農作業をしてもらうといった素 そうで、わずかな額かもしれませんが、画期 晴らしい効果を生みました。 的なことです。 武富:地域活性化というと、5年前と現在と 比べて、工業製品出荷額が伸びた伸びないみ ■循環型社会モデル たいなことを一つの判断基準にするきらいが 関:茂木町でのもう一つの仕掛けは、循環型 あります。そういう意味合いの活性化は、中 社会モデルづくりです。牛を飼育している農 間地域では難しい。 家が13戸、頭数で600頭います。近年、牛糞 労働市場に参入していない女性、あるいは高 齢者の方が、自分たちも役に立って、多少の収 尿の処理問題が浮上してきたので、リサイク ル施設を作る必要性が出てきました。 入もあって、交通が不便でも地元に人が来てく しかしながら、わずか13戸の農家が飼育 れて、人がつながっていくというのは、望まし する600頭の牛のための予算は、町議会では い姿です。そのような希望を持てる環境を作 なかなか通りません。そこで、牛糞尿と家庭 ることが、活性化だという認識に共感します。 の生ごみとを組み合わせてリサイクルするこ ■農村レストランという出口 関: 現 在、 茂 木 町 は とを考えました。家庭の生ごみと牛糞尿をあ わせたリサイクル施設を設置することで、予 算が町議会を通りました。 12の 集 落 で 活 性 化 策 牛 糞 尿 で 作 っ た 質 の よ い 堆 肥 は、1ト ン を講じています。そこ 4,000円で販売しています。とても評判がよ には、出口が2つある くて、農家のトラックが列をなすほどです。 点が大きい。一つが道 その堆肥で育てた野菜には、 シールを貼って、 の駅で、もう一つは、 産地直送で販売しています。 農村レストランです。 武富:循環型社会は、21世紀の一つのモデ 農村レストランは、 「地産地消」がポイン ルです。環境にフレンドリーな地域社会を作 トです。今、栃木県内に、50か所余りの農 ることは、地域おこしをするうえで、ポイン 村レストランが営業しており、茂木町だけで トになると思います。 3か所あります。県内の農村レストランの約 8割が手打ちそば屋です。そば屋は、そば単 10 信金中金月報 2007.1 先生は、今の時代、 「食」 、 「環」 、 「住」 、 「福」 が大切だというご意見のようですね。これら が地域に密着した21世紀の人の見える社会 ょうか。 での豊かさ実感の源泉になる。そこには、安 関:それは、かなり難しいでしょう。企業に 心や安全といった基準が入ってくる。今まで 勤めていて、経理を担当していたから会計士 の先生のお話の中には、かなりそのような要 よりも会計に詳しい、あるいは、法務部門に 素が含まれていました。 勤めていたので、法律について弁護士よりも 循環型社会では、 「環」 境が大切でしょうし、 詳しい人もいます。しかし、資格を持ってい 北上市の例ですと、 「住」 も入るでしょう。 「食」 ないので、リタイヤ後は、地域で彼のキャリ については、 今の例ですね。 「福」 については、 アを活かせる場がありません。特に、首都圏 これからの高齢社会の中で、安心して福祉を の場合、住むところと働くところが別々で、 享受できるのか、地域として、それに対する リタイヤ後のサラリーマンの働く場がベッド サービスをいかに提供していくかが問われて タウンにはありません。 います。この点に関連し、もし、よい事例が あれば教えて下さい。 ■リタイヤ後のサラリーマンの悲哀 ■異なる知の融合からイノベーションへ 武富:団塊の世代が一挙に退職すると税収が 急激に減少する一方、高齢者向けの行政支出 関:高齢社会の問題ですが、30年前、私が が増加して、 財政収支の悪化が危惧されます。 駆け出しの頃、日本の男性の平均寿命は約 リタイヤ後のサラリーマンを活かす必要があ 70歳でした。現在は、人生80年です。ここ りますが、どうしたらよいのでしょうか。 30年で、10年ほど延びました。ただ、私た 関:東京都三鷹市のSOHOのケースが一つの ちの頭の中や社会の仕組みは、30年前のま 解決の手段だと思います。 まで、制度設計が実情にあわなくなっていま す。私は、実年齢の7掛けで考えたほうがよい のではないかと言っています。例えば、60代 三鷹市のケースは、IT時代にふさわしい、 1つの仕組みのように思います。 最近、 三鷹市で興味深いことがありました。 の方は40代前半、20歳の大学生は14歳です。 今、三鷹市にはSOHOの施設が6つぐらいあ 武富:ですから、60歳定年でリタイヤした りますが、その1つでは個室がなく、隣との壁 らもったいないので、これまでの経験やノー を取っ払えるように改装してあります。 ハウを地域に還元したらよいのです。 武富:混じるということは、非常によいこと 関:今の状況だと60歳を過ぎたら、やること です。これも先生の著書『地域産業の未来』 が何もない。地域に戻って、ボランティアに で取り上げていた岡山県のリサーチパークの 取り組もうとしても、福祉系が多く、サラリ 話ですが、バックグラウンドの違う人たちや ーマンが簡単にできることではありません。 研究分野の違う人たちが、食堂で会話をする 武富:金融機関に勤めていた人は、無理でし と、異質なもの同士の交流で新しいものが生 新春対談 11 まれるというものでした。 関:岡山方式といいます。 武富:岡山方式を読んだときに、ふと思い出 熱心です。 ■産学官連携の「学」は、学生 したことは、サンタフェ研究所のことです。 関:私は、学生・大学院生に、地域に身を投 サンタフェ研究所では、意図的に交流できる じさせています。例えば、島根県に2年ぐら 施設を設計して、その中から新しい付加価値 い行き来させています。小さい町でしたら、 や、新しい知見を生んでいくような仕掛けを 産学官連携の「学」は、学生です。 作っています。 武富:どのようなお話ですか。 関:岡山県や三鷹市のSOHOのケースをみる 関:私のゼミの学生が、島根県に行って古本 と、やはり人間は、隔離されたら自分の世界 屋を作りました。商店街の本屋が消えてしま から出られませんから、逆にそれをはずす欲 う中、結構繁盛しています。本のほかに、地 求が出てくるのですね。 元の物産を売るコーナーを設けたり、店の真 ■産学官連携は工専とがうまくいく ん中にテーブル、椅子、清涼飲料水の自動販 売機を置いて、サロン風にしています。 武富:日本では、中小企業の二代目経営者が その本屋は、地元のNPOが運営していま 異業種交流を始めました。近年では、産学官連 す。地元の人々は、商店街に明かりがついた 携や新連携という活性化の実例も出ています。 と、喜びました。学生が行き来するので、地 関:確かに、今、異業種交流会から2つのう 元の人たちも元気になりました。 ねりが出ています。一つは、産学官連携、も 武富:人の熱気に触れると、周囲も元気を出 う一つは経営者の小集団私塾です。 すということはよくあります。若者、後継者 産学官連携の方は、私の見る限り難しい。 に体系的に経営を継承するための教育がない 特に大学との産学官連携は、非常に難しい。 ので、先生は私塾で教えているそうですね。 むしろ、工業高等専門学校、いわゆる工専 金融機関が後継者教育に関わることができな との連携のほうがうまくいくような気がしま いのかと思います。 す。工専間には格差がなく、工専の先生は、 地元に定着しやすいので、産学官連携を長期 ■男に志を持たせるには 的な視点に立って取り組みやすいのです。 関:今の若い人たち、特に男の子は、感性や 武富:大学での産学官連携の成功事例は、あ 能力は非常に高いのですが、社会的使命感や りますか。 志を持っている人が少ない。年々そのような 関:日本の国立大学の中で産学官連携に一番 傾向が強まっています。女の子の方が、しっ 熱心なのは、岩手大学です。岩手大学の先生 かりしています。母親は、一般的に男の子を は、地元に定着しているので、産学官連携に 大切にします。男の子は、立派に育てなけれ 12 信金中金月報 2007.1 ばいけないと思いがちです。有名な学校に入 学させて、一流企業に就職させようと考えま す。女の子までは手が回りません。女の子は、 子供の頃から自分で判断していかざるを得な いので、20歳くらいになると、何事も自分 で判断できるようになります。 男に志を持たせるには、言葉で言っても無 理なので、ある時、ゼミ生を中国に行かせま した。1か月ほど滞在させたら、信じられな いくらい変わって帰ってきました。中国のよ うに熱くて、燃えているところに行けば、彼 らも変わるということがわかりました。 以来、私は、3年生の男子学生に、夏休み ■地域産業おこしに燃える人 を利用させて2週間ぐらい工場の現場で中国 武富:これまで伺ってきたような地域活性 の労働者と同じ生活をさせています。 化の事例の一つひとつは、GDP換算すると、 10人部屋の宿舎に住み込みさせて、1日10 たいした数字ではないかもしれません。 時間以上働かせます。2週間がたち、帰ると これからの日本は、人口が減少し、経済成 きに、同じ工場で働いている女子従業員たち 長率が下がっていくことが予想されます。そ が、わずかな小遣いでお茶とかお菓子を用意 もそも何のために経済成長していくのか、経 して、学生たちのために送別会をしてくれる 済発展を目指すのかという議論はあるのです そうです。最後に、彼らは、彼女たちから「あ が、現在、抱えている年金や財政などの問題 なたは、大学生でしょう。日本のためにがん を解決するには、ある程度の経済成長が必要 ばるのよ。」と言われるそうです。彼らは、 になってきます。 そのようなことを言われるのは、生まれて初 ところが、経済成長率やGDPの大きさで めてですから、そこで、社会に出たら何かを 考えると、地域からボトムアップで経済全体 しなければいけないと痛感し、就職観が変わ の底上げをしようとした場合、今までお伺い るそうです。 したようなやり方だけでは、解決しないよう 武富:そのようなことは、若い人たちだけで な気がするのですが、このギャップは、どう はなくて、例えば、団塊の世代が定年退職後 したらよいのでしょうか。 にどうするのかということについても当ては 関:その質問に対する答えとはなりません まるかもしれません。 が、 少し違う視点でお話ししたいと思います。 当時の小泉首相から希望が持てる話をして欲 新春対談 13 しいと言われました。それも抽象的な話では 立上げから最終段階まで1人が担当していた なくて、固有名詞で具体的な話がよいと言わ ので、次が続かず、そのことが教訓になりま れました。 した。花巻市の地域活性化のときは、その点 私は、日本で活性化している地域は、約 3,000の地方自治体のうちの3%程度で、これ を1割まで引き上げることを提唱しました。 を配慮したので、 次につながっていきました。 ■地域活性化の目的 300の地方自治体で、地域のために命がけで 武富:私も量が全体の10%になったら、質 身を捧げる300人の人たちが出てくれば、日 が変わるということについては、直感的にそ 本は変わると申し上げました。 小泉首相から、 のように感じます。ある臨界点を超えると、 自分に何ができるかと尋ねられたので、 私は、 物事というのは、一気に拡がっていきます。 ぜひ3%の中の30人に会って欲しいと伝えま 全体の10%までどのようにして持っていく した。その30人を首相官邸に呼んで直接話 かが重要です。 をして、激励してほしいと頼みました。 その結果、その30人全員が2003年9月に首 ただ、2~3%の経済成長率は、本当に地域 の力だけで今後も継続できるのかは疑問です。 相官邸に呼ばれ、小泉首相は、彼らを「地域 関:地域活性化は、経済的な効果を期待する 産業おこしに燃える人」と命名しました。 と無理があります。 ■私塾、後継者の育成 武富:経済的効果だけ を目的に取り組んだ 武富:一般的に地域おこしは、 「3年間はなん ら、非常に意味の薄い とかなる。」と言われています。ただ、それ ものになるし、かとい を超えると、燃える人がいても、3年で燃え って、生活や暮らしば 尽きてしまって、後継者が育っていないとい かりに焦点を当ててし うことがあります。 まうと、本来その暮ら 中小企業の後継者だけではなくて、地域活 しを支える産業がなかなか充実しないという 性化の後継者作りも、国策として取り組むべ ことになります。そのようなジレンマがある きではないかと思います。 ように思います。 関: 私は、 地 域 活 性 化 に 取 り 組 む の な ら、 地域も域内でモノを作り、域外から購買力 35歳から40歳くらいの主担当に、必ず25歳 を獲得しなければなりません。自分たちの生 くらいの副担当をつけたほうがよいと言って 活を豊かにしつつ、あわせて域外マネーも獲 います。 得する必要があります。 立上げ段階から、経験を共有しておかない と、様々な施策が続きません。北上市では、 14 信金中金月報 2007.1 地域活性化を言うときに、究極の目的は、 その地域の豊かさをどのように演出するか、 住民一人ひとりが豊かさを実感できるような ン市には市民集会の伝統があって、1975年 地域社会をどのように形成していくかという に、2000年のアクロン市をどうするか、そ ことなのだろうと思います。私は、トータル して2000年が近づいた頃には、2025年のア で地域を活性化していくことが重要だと思い クロン市をどうするかという市民集会が開か ます。産業だけ活性化するというのは、バラ れたそうです。 ンスに欠けます。 何のために地域を活性化するかと言うと、 その分科会の一つで、町の中心にどのよう にして飲食店街をつくるのか、というテーマ 最終的には、一人ひとりが異なる価値観で、 が真面目にとりあげられたそうです。 それは、 満足を感じることができる有機的につながっ 一つの市のシンボルですし、人が集まるため た場を作るということだと思います。 の手段でもあります。 ■アクロン市の地域活性化 都市再生を議論する際、よくエンターテイ メント施設をどのように誘致してくるのか、 武富:先生から地域産業と中小企業に関する という点が採り上げられますよね。市民が来 ご意見を伺ったので、これからは、地域の総 たい、見たい、触りたいと感じるような、賑 合力とは何なのかという観点で、議論させて わいを感じさせるその町特有の文化です。そ いただきたいと思います。 のようなものも含めて、地域の活性化を考え 私は、米国の地域活性化に興味を持ち、そ のことをシリコンバレーの地域コンサルタン トをしている人に話す機会がありましたが、 ていかなければならないという例として、ア クロン市での議論を思い起こしました。 地域の特色を活かすと言いつつも、人がそ 彼から90年代の米国のIT化のなかで変身し こで満足して暮らすためには、共通の必要な たアクロン市を調べてみたらどうかと、アド ものがあるということでしょう。 バイスを受けました。 アクロン市は、オハイオ州にあって、ゴム ■地域における信用金庫の役割 の町として有名です。タイヤ製造のトップメ 武富:信用金庫と地域との関係について、ア ーカーが集中する都市です。アクロン市のタ ドバイスをいただきたいと思います。 イヤ生産は、1930年代には全米の3分の2を 関:私と信用金庫とのお付き合いは、多摩信 占めるまでに達し、 まさにタイヤの都でした。 用金庫との話になります。もう30年以上の しかし、その後、アクロンのタイヤ製造業は 付合いになります。 衰退し、それに伴いアクロン市も活気を失な っていきました。 確か30年か40年前に、周年事業の一環で、 年末にお得意様を新宿コマ劇場に招待してい 日本での素材型企業城下町で衰退している ました。当時の理事長がもっとほかのことが ところと同じような地域です。幸い、アクロ できないかと言い出し、その後、多摩信用金 新春対談 15 庫は、様々な事を始めました。 まず、立川市にある本店の1フロアーをギ で、毎年10社程度表彰するので、すでに40 人以上の経営者を表彰したことになります。 ャラリーにして、多摩地域の画家や彫刻家が 2005年に、この人たちを集めて、多摩の経 個展を開くときに無料で提供しました。また 団連を作ろうということになりました。 個展を開いたときに同時に少しずつ購入した そこで、2006年1月に「多摩ブルー・グリ 美術品が、かなりの量になって、それらの美 ーン倶楽部」を発足させました。当面は、講 術品を陳列するために、今度は、青梅市の御 演会を軸にした交流会にするということにな 岳に美術館を開設しました。国立市にも美術 りました。次には、彼らが集まりやすい場所 館を開設しています。 を提供しようということになって、現在、検 また、多摩文化資料室を設置して、多摩関 討が進められているそうです。 係の資料も収集しました。四半期に1回、 「多 さらに、京王八王子駅前の多摩信用金庫の 摩のあゆみ」という冊子を出版し無料で配布 ビルに「インキュベーション施設ブルームセ しています。これが、お茶の間郷土誌とも言 ンター」を設置しました。また、 「サイバー われていて、とても人気があります。私も何 シルクロード八王子」という企業の交流施設 度か原稿を書いています。 にフロアーを提供しています。 現在では、多摩文化資料室は、 「財団法人た このようなことを通じて思うことは、人の ましん地域文化財団」という財団になってい 姿が見える地域では、立場によって様々な役 ます。財団本部は、国立支店の中にあります。 割があるということです。例えば、市長は、 このような活動によって、多摩の知識人は、 地域全体を経営する社長で、役所は会社の企 とても多摩信用金庫のことを尊敬しています。 画部であり、商工会議所や商工会は、広報・ 私は、長い付合いなので、歴代の理事長と 話をするたびに、多摩信用金庫の文化メセナ は、日本の金融機関で一番だと伝えています。 営業部隊です。信用金庫は、財務部門で、地 域の工専は、人材育成機関です。 こうした考え方で地域を経営したらどうか ただ、もう少し金融業の本業で、できること とお話しをすることがあります。そういう意 はないのかと注文をつけました。 味で、信用金庫は、非常に重要な役割を担っ そうしたら4~5年前に「多摩ブルー・グ リーン賞」を創設しました。 多摩地域の中小企業を「技術や製品」で表 彰するブルー賞と、 「地域社会への貢献」で ていると激励しています。 ■地域金融機関に期待するファイナ ンス 表彰するグリーン賞があります。私は、選考 武富:地域金融機関に期待するファイナンス 委員長をしています。 は、融資でしょうか、それともキャピタルの ブ ル ー・ グ リ ー ン 賞 は、2006年 が4回 目 16 信金中金月報 2007.1 部分にも資金を提供して欲しいということで しょうか。 関:キャピタルの部分まで、踏み込んで欲 ■ものづくりの大切さ しい。 武富:人の姿の見える地域において、生活関 武富:金融機関にとって、リスクをどこまで 連のマイクロビジネスと、グローバル時代に とるかという判断は、結構難しいのですが、 高い技術力で世界を相手に戦う企業が車の両 地域活性化に関係したもので言うと、今、一 輪のように必要だということですね。 番必要なファイナンスは、どういうものにな 関:両方必要だと思います。そこで、とても るのですか。 困っていることですが、東京都の場合、工場 関:今、地域で起業したい人たちは、女性高 数が1983年にピークを打ち、現在では、ち 齢者が多いようです。花屋やパン屋を開業し ょうど半分の5万ぐらいになっています。こ たいという話が多く、資金も100万円や200 の現象をどのように受け止めるのかという議 万円で済む話だそうです。ただし、担保がな 論です。 いので、無担保融資への需要が一番強いよう です。 そのような人たちのために、生活クラブ生 協の組合員が中心となっている神奈川ネット ワークが信用組合をつくろうとしています。 よいところだけ残ればよいのではないかと いう考え方があります。ただし、工場が減少 していく業種は、順番が決まっていて、鍛造 (たんぞう) 、鋳物(いもの) 、鍍金(メッキ) の順番です。 そして、最後は、金型製造です。要するに、 ものづくりの一番基本となるところが減って いきます。市場経済であれば、 必要なものは、 また生まれるという考え方がありますが、日 本では、もう生まれません。生まれるのであ れば、中国です。現在の日本がそのようなこ とを見通して、中国との関係をつくっている ようには見えません。 武富:3Kと言われているような仕事を、皆 いやがるのであれば、給与水準を引き上げる ということも考えられます。 関:もちろん、そうすべきだと思います。 武富:そのような市場原理が働かなくて、日 本の産業を支えるべき基盤技術がなくなって いくということは、困ります。 新春対談 17 関:最近の創業の多くは、パソコン1台でで 関:なかなか、そのようなところはありませ きるビジネスです。金型製造のような基盤技 ん。鍛造や金型製造は、日本に残していく必 術は、初期投資が膨大です。だから、そのよ 要があるのですが、 なかなか難しい問題です。 うな産業は生まれてきません。私が知ってい 武富:それがなくなると、日本は、マニュフ る範囲内では、最近、創業した金型製造業者 ァクチュアリングの基盤を失うということに は、1社だけです。 なりますね。 武富:先生は、中国には基盤技術と特殊技術 関:とても危ない状況です。 はあるが、中間技術がないと指摘しています。 関:かつては、欠けていました。 ■この時代に40歳になる幸せ 武富:日本の組立加工業の企業が中国に進出 関:私の私塾に来ている二世経営者の会社で し、現地の基盤技術を活用して、現地企業と は、すでに中国でも持っている技術水準の会 共存共栄できるような格好にしようとする 社が多いのです。そこまで、中国の技術水準 と、日本の基盤技術を持つ会社に調整圧力が が上がっています。そのことを二世経営者に 働きます。こうした企業が、一段階高い技術 盛んに言うのですが、ピンときていないよう レベルを持つ企業に進化していければよいの なので、彼らを中国に連れていきました。 ですが。 金型製造会社を経営している二世経営者 は、中国の技術水準を自分の目で見て、私の 説明どおりだと驚きます。そして、先代であ る父親は、見たくないだろうなとため息をつ きます。 武富:先生が、若手の二世経営者に期待して いることがわかりますね。 関:彼らの父親世代の仕事は、時代遅れです が、もう父親の価値観を変えることはできま せん。変えることができるのは、成功体験の ない40歳以下の人たちです。 そのような後継者をうまく動機付けしなが ら、技術を伝承していくしかありません。減 少している基盤技術をこれ以上減らしてはい けないのです。 武富:最低限持っていなければならない水準 というのは、ありますね。 18 信金中金月報 2007.1 関:絶対あります。私は、そのような思い まあ、課長になって、やっと一人前というと で今、私塾を運営しています。嬉しいこと ころです。 を言ってくれた二世経営者がいます。彼は、 関:この言葉を聞いたときに、彼は、私の 40歳で北上市の建設業者の社長です。彼は、 言ってきたことを理解しているなと思いま 「この時代に40歳になる幸せ」と言いました。 した。先ほど話をした花屋開業の100万円、 今まででしたら、父親の仕事をそのまま引き 200万円という話もありますが、もう一つは、 継ぐだけでしたが、現在は、その方法ではだ 金型製造などの大切な産業で、創業しようと めでしょう。今は、父親の残してくれた資産 する人たちは、本当に困っています。そうし を元手に創業ができます。サラリーマンでは た志を持った人たちをどのようにサポートし 無理ですが、二世経営者であれば、資産があ ていったらよいのか、 これが大きな課題です。 りますから。そのようなチャンスは、人生に 武富:先生のお話を聞いて、地域金融機関 はそうはないでしょう。 は、融資以前の段階で、自ら専門家に声を掛 また、日本の社会では、40歳になるまで けて、先生が運営されている私塾的なものを 人格がありません。人格を認めてくれる40 運営し、そこを通じて成長していく事業家に 歳になったときに、そのようなチャンスにめ 対して、融資をしていくような仕組み作りを ぐり合えたことが幸せだというのです。 していくことが重要だと思いました。 武富:そうですね。日本の大企業でも、40 歳にならないとなかなか認めてくれません。 本日は、大変示唆に富むお話を拝聴するこ とができました。ありがとうございました。 新春対談 19 特別寄稿論文 ペイオフ解禁が家計の資産選択に与える影響 (注) 1 金沢学院大学 経営情報学部助教授 奥井 めぐみ 【プロフィール】 大阪大学大学院国際公共政策研究科博士後期課程終了。 郵政研究所リサーチ・アシスタントを経て、2000年より現職。 主な著書に、 『現代女性の労働・結婚・子育て』 (ミネルヴァ書房)第7章 (共著) 、 『日本経済論』 (ミネ ルヴァ書房) 第9章、 『働く女性の21世紀―いま、 働く女性に労働組合は答えられるか』 (第一書林)第3章。 (キーワード) ペイオフ解禁、家計、資産選択、高齢化、危険資産 (要 旨) 本稿では、ペイオフ部分解禁と全面解禁における家計の対応について概観し、さらにペイ オフ全面解禁における家計の資産選択行動と家計の属性とに関係があるのか分析することを 目的としている。分析には、ペイオフ全面解禁直前の2004年に、郵政総合研究所が行った アンケート調査の個票を利用している。主な分析結果としては、次の5点があげられる。 (1) 集計値で見る限り、 ペイオフ解禁は家計の金融資産構造に大きな変化を与えたとはいえない、 (2)ペイオフ全面解禁に対して、全体の7割は、 「預金総額が一人当たり1千万円を超えない ので特に何もしない」と回答している、 (3)ペイオフ全面解禁の対応予定策として一番多い のは、「預金の預入先を分散」である、 (4)家計の属性が、ペイオフ全面解禁時の対応予定 策決定に与える影響については、実物資産、金融資産が多い家計ほど「預金の預入先を分散」 し、貯蓄総額の多い家計は「他の金融機関に分散」する傾向にあること、 「決済用預金に預 け替える」かどうかには、世帯主年齢や子供の数など世帯の構成の影響が大きいことがわか り、また、年齢層で分けたグループで結果が若干異なる、 (5)家族一人当たりの預金額が1 千万円未満である世帯でも、ペイオフ全面解禁に際して、何らかの対応を予定している家計 が多い。ただし、家計の属性がペイオフ全面解禁への対応予定策に与える影響は、有意であ るものの、値は小さく、さらに、多くの家計はペイオフで保証される限度内の預金しか保有 していないことから、ペイオフ全面解禁が社会経済に与えた影響は小さいと予想される。 (注)1.本稿の作成に当たり、郵政総合研究所から個票データを利用させていただきました。ここに、感謝の意を表します。なお、 論文中に残る誤りはすべて筆者の責任です。 20 信金中金月報 2007.1 1.はじめに の属性が与える影響を明確にする。分析結果 は、金融機関が今後の顧客サービスを検討す わが国では、90年代に入ってからの相次 る際に役立つばかりでなく、ペイオフ解禁の ぐ 金 融 機 関 の 破 綻 の た め に、1996年 以 降、 ような制度的な変化や、その他の金融環境の ペイオフは凍結されてきたが、2002年4月1 変化が発生した場合の家計行動を予測する上 日からペイオフが部分解禁、2005年4月1日 でも役立つことが期待される。 からは全面解禁となった。全面解禁により、 以下の構成は次のとおりである。2節でペ ペイオフ対象外となる一部の金融商品を除け イオフ前後における家計の資産保有構造の変 ば、金融機関が破綻した際に補償される預金 遷を集計値で示し、3節では、日本の家計の の範囲が限られるため、これを機に、預金先 ペイオフ対応や資産選択に関する先行研究 や預金額の見直しを行った家計もある。 を紹介する。4節では利用データについて説 本稿で利用した郵政総合研究所の 「家計に 明し、5節では利用データより、ペイオフ解 おける金融資産選択等に関する調査 (平成16 禁に対する家計の対応についてクロス表を示 年度)」は、ペイオフ全面解禁前に行われたもの す。6節は、家計の属性が、ペイオフ全面解 であるが、2002年のペイオフ部分解禁時におい 禁時に予定している対応策に与える影響につ て家計が実際に行った対応のみならず、2005 いての分析結果、7節はむすびである。 年のペイオフ全面解禁において家計が予定し ている対応についても尋ねている。それによる 2.家計の金融資産保有の変遷 と、ペイオフ全面解禁への対応策として、 「1金 本節では、家計の金融資産保有がどのよう 融機関に1千万円超えないように分散する予 に推移してきたのか、さらに、日本における 定である」と回答した家計は12.4%、 「別の 危険資産保有に関してどのような先行研究が 金融機関にすべて預け替える予定である」と あるのかを概観する。 回答した家計は3.3%存在した。ペイオフ全 まず、総務省の『家計調査』より、1989 面解禁の前年において、1割を超える家計が 年以降の家計の貯蓄総額の推移を図表1に示 何らかの対応を予定していたことがわかる。 す。なお、 この集計内容は、 2000年までは『貯 本稿では、ペイオフ部分解禁と全面解禁に 蓄動向調査』で行われたものである。 おける家計の対応について概観し、さらにペ 図表1には、名目貯蓄額と、2000年を100 イオフ全面解禁が、どのような属性を持つ家 とする消費者物価指数でデフレートした実質 計の資産選択行動に影響を与えうるのかを分 貯蓄額とを示している。実質貯蓄でみると、 析する。分析では家計レベルのマイクロデー 2000年までは緩やかに上昇の傾向があるが、 タを利用することで、マクロレベルの金融資 細かく見ると、1992年、1996年、2000年が 産の推移だけでは見えてこない、個々の家計 ピークとなって、若干の浮き沈みがある。 特別寄稿論文 21 図表1 家計の貯蓄額の推移 (千円) 20,000 18,000 16,000 14,000 12,000 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 名目貯蓄 (年) 実質貯蓄 (出所)総務省統計局『家計調査』、『消費者物価指数』より筆者作成 残念ながら2001年のデータは得られなかっ はなく、ペイオフ全面解禁が貯蓄額全体の変 たので、2002年のペイオフ部分解禁前後で 化に与える影響は特に見られない。 大きな変化があったのかはわからない。ま 次に、ペイオフ解禁が、貯蓄構成に影響し た、2002年以降は、それほど大きな変化は たかを見るため、同じく、総務省の『家計調 見られない。ペイオフ全面解禁が実施された 査』より、1989年以降の家計の貯蓄構成の 2005年は前年と比べて、これといった動き 推移を示す(図表2) 。 図表2 家計の貯蓄構成の推移 (年)0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 通貨性預貯金 定期性預貯金 (出所)総務省『家計調査』より筆者作成 22 信金中金月報 2007.1 生命保険など 有価証券 金融機関外 (%) 100 全体の傾向としては、通貨性預金の比率が と銀行預金額とが同時決定となっていること 徐々に上昇していること、1990年代におい に着目した分析を行っている。すなわち、ペ ては低下してきた有価証券の比率が、2000 イオフ部分解禁対応の結果、銀行以外の金融 年に入ってからは上昇していることがわか 機関から銀行へのシフトがあれば銀行預金額 る。2004年 か ら2005年 に か け て の 動 き は、 は増加し、逆に他の金融商品に預け替えたの 有価証券の比率が増加する代わりに、定期性 であれば、銀行預金額は減少する。その一方 貯蓄の比率が低下しているように見受けら で、銀行預金額が大きい家計ほどペイオフの れ、定期性貯金から有価証券へ、家計の金融 影響が大きいので、ペイオフ対応を予定する 資産が動いたことをうかがわせる。これは、 はずである。彼らはこの双方向の因果関係を ペイオフ全面解禁の影響なのか、それとも、 考慮した分析を行った。 好調な株価など、他の要因によるものなのか は、このデータだけでははっきりしない。 彼らの分析結果では、銀行預金額が多い家 計ほどペイオフ対応を行うと同時に、ペイオ 本稿で利用した調査では、調査対象に、ペ フ対応を行う家計は銀行預金額が多くなると イオフ全面解禁で行うことを予定している対 いう、双方向の因果関係が確認された。この 応策を具体的に尋ねているため、貯蓄の有価 結果は、家計のペイオフ対応において、銀行 証券への推移がペイオフ全面解禁によるもの 預金額を減らすことはなく、預金を他の金融 かをある程度明らかにできる。1節で挙げた 機関の預金口座に分散するなどして対処した ように、ペイオフ全面解禁の対応策として、 ことを示している。 「別の金融機関にすべて預け替える予定であ 彼らが着目したのは、ペイオフ全面解禁で る」と回答した家計は3.3%であり、それほ はなく、部分解禁時における家計の対応であ ど多いとは言えない。2004年から2005年に る。部分解禁では、通貨性預金は全額保護さ かけての有価証券比率の上昇は、ペイオフ全 れたので、家計の対応も、定期性預金から通 面解禁によって、預金資金が流れたというよ 貨性預金への移動という、預金総額には影響 りは、別の要因の影響の方が大きいといえそ の少ないものであったといえる。本稿では、 うだ。 むしろ、ペイオフ全面解禁における家計の対 3.先行研究 応に着目する。全面解禁では、一部の預金を 除けば、預金保護の上限が決まってしまうの わが国におけるペイオフ解禁が家計の資産 で、家計は、預金以外への金融資産への分散 選択に与えた影響について分析したものに、 も含めた、さまざまな対応を検討すると予想 松浦・白石[2004、第11章]の研究がある。 される。それについては、5節以降で示す。 彼らは、本稿で利用したデータと同じデータ ペイオフ解禁の影響について分析した研究 を利用し、家計のペイオフ部分解禁への対応 は、他にはほとんどみられないが、日本の家 特別寄稿論文 23 計の資産選択に関する研究は多い。日本の家 国47都道府県の8,000世帯を対象に行われた。 計は欧米諸国に比べると危険資産の保有が少 回収数は4,914サンプルで、回収率は61.4% ないことが指摘されているが、その原因につ である。この調査の特徴は、世帯主の属性や いては、年功序列賃金制度に求める米澤・松 家計の構成員についての情報、家計の金融資 浦・竹沢[1999]の研究、持家選好に求め 産構成、貯蓄目的、さらに、2002年ペイオ る古藤[2000]の研究、機関投資家の影響 フ部分解禁と2005年ペイオフ全面解禁に対 を指摘する松浦[1996]の研究、株式持合 応して家計がとった、あるいはとる予定の行 の影響を指摘する松浦[1999]の研究がある。 動についても調査されている点にある。 90年代における危険資産の消極化について 分析にあたって、次のようなサンプルの は、中川・片桐[1999]は、予備的貯蓄動 限定を行った。 (1)世帯主年齢については、 機の高まりを指摘する。 20歳以上59歳と、60歳以上のサンプルを扱 また、家計の資産選択に家計のライフステ った。 (2)世帯主年齢が20歳以上59歳以下 ージなどの家計属性が与える影響を指摘した のサンプルでは、世帯主が働いているサンプ 研究も多く、比較的新しいものでは、白石 ルに限った。 (3)変数を作成する際に必要 [2005]は地域レベルの集計データによるパ な情報の得られないサンプルを落とした。こ ネルデータを利用し、奥井[2006]は、郵 れらの限定を行った結果、もともとのサンプ 政総合研究所のアンケート調査より数年分の ル数に対して、分析で利用されたサンプル 個票データを利用して、分析を行っている。 は、世帯主年齢20歳以上59歳のサンプル数 奥井の研究結果からは、危険資産保有に関し が401、世帯主年齢60歳以上のサンプル数が て、家計の属性が重要な役割を果たすだけで 423、計824となった。 なく、株価の推移も大きな影響を与えること ここで、 「金融資産調査」と『家計調査』 が示されている。Iwaisako[2003]は、持ち との間に乖離がないかを確認するため、 『家 家を保有していることが家計の株式投資に強 計調査』の集計値と今回利用するデータの集 く影響していることを指摘している。 計値との主な変数の比較を行う。図表3-1 4.利用データ 本節では分析に利用したデータについて説 で、二人以上世帯全体について、 『平成16年 家計調査』と「金融資産調査」との集計値を 比較する。また、図表3-2では、勤労者の 明する。利用したのは、郵政総合研究所のア 二人以上世帯について、 『平成16年家計調査』 ンケート調査「家計における金融資産選択等 の集計値と、 「金融資産調査」 の集計値に加え、 に関する調査(平成16年度) 」 (以下、 「金融 「金融資産調査」に上で述べたサンプルの限 資産調査」という。 )である。この調査は、 定を加えた後の集計値とを比較する。比較す 2004年10月13日から11月22日にかけて、全 る変数は、世帯主年齢、所得、貯蓄総額、負 24 信金中金月報 2007.1 図表3−1 家計調査と金融資産調査との比較(全体、二人以上世帯) (歳) (万円) 世帯主年齢 60.0 54.3 貯蓄総額 2,000 53.0 1,692 1,600 40.0 1,259.2 1,200 800 20.0 400 0.0 家計調査 (万円) 700 600 500 400 300 200 100 0 650 金融資産調査 家計調査 (万円) 所得 421.1 家計調査 0 金融資産調査 700 600 500 400 300 200 100 0 金融資産調査 負債総額 635.3 524 家計調査 金融資産調査 図表3−2 家計調査と金融資産調査との比較(勤労者、二人以上世帯) (歳) 50.0 (万円) 世帯主年齢 60.0 46.4 49.4 49.4 30.0 1,161.9 400 10.0 家計調査 (万円) 金融資産調査 サンプル限定後データ 730 754.7 0 785.4 800 600 400 400 200 200 金融資産調査 サンプル限定後データ 債総額である。 比較の結果、世帯主が勤労者、非勤労者を 0 金融資産調査 サンプル限定後データ 負債総額 1,000 600 家計調査 家計調査 (万円) 所得 1,000 0 1,483.5 800 20.0 800 1,273 1,200 40.0 0.0 貯蓄総額 1,600 921.5 745.7 655 家計調査 金融資産調査 サンプル限定後データ は、所得と貯蓄総額が低めに、また負債総額 は高めになっていることがわかる。しかし、 含めた図表3-1では、世帯主年齢ではそれ 図表3-2にあるように、勤労者世帯に限っ ほど差がないものの、所得と貯蓄総額、負債 て比較したところ、所得や貯蓄総額に見られ 総額に関しては、 差が見られ、 「金融資産調査」 た乖離は減少していることがわかる。 ただし、 特別寄稿論文 25 「金融資産調査」 のサンプル限定後の値は、 『家 かを見ていく。 計調査』と比べて所得、貯蓄総額、負債総額 図表4-1は、ペイオフ部分解禁を知って すべてが高めになっており、分析の対象とな いた世帯のみを対象とし、ペイオフ部分解禁 るサンプルには、若干の偏りがあるのは否定 に際して実際に行ったことについて、各選択 できない。 肢を選択したサンプル数を示している。図表 5.ペイオフ解禁への対応 4-2は、 「金融資産調査」の全サンプルを対 象に、ペイオフ全面解禁に際してどのような 本節では、 「金融資産調査」より、ペイオ ことを行いたいと思っているか、という設問 フ部分解禁と全面解禁において、家計がどの に対し、各選択肢を選択したサンプル数を示 ような対応を行ったのか、また行う予定なの している。なお、全面解禁については、ペイ 図表4-1 ペイオフ部分解禁における対応策 (単位:人、%) ペイオフ部分解禁対応策 全体 別の金融機関にすべて預け変えた 25歳以上59歳以下 60歳以上 92 2.7 33 1.5 57 4.5 金融機関につき一人当たり1千万円を超えないよう、預 金の預入先を分散した 470 13.5 194 9.0 273 21.3 国債、投資信託、保険・年金など他の金融資産に分散した 166 4.8 54 2.5 112 8.8 21 0.6 9 0.4 12 0.9 2,631 75.8 1,778 82.8 815 63.7 162 4.7 71 3.3 91 7.1 88 2.5 49 2.3 38 3.0 3,470 100.0 2,147 100.0 1,279 100.0 預金を解約して現金で保管するようにした 預金総額が一人当たり1千万円未満なので特に何もしな かった 預金総額が一人当たり1千万円以上であるが特に何もし なかった その他 合計 図表4-2 ペイオフ全面解禁における対応予定策 ペイオフ全面解禁対応予定策 (単位:人、%) 全体 25歳以上59歳以下 60歳以上 別の金融機関にすべて預け変える 160 3.3 95 3.1 59 3.4 金融機関につき一人当たり1千万円を超えないよう、預 金の預入先を分散する 611 12.4 331 10.9 271 15.6 国債、投資信託、保険・年金など他の金融資産に分散する 145 3.0 63 2.1 79 4.6 一人当たり1千万円を超える預金については、無利息で はあるが、全額保護される決済用預金に預け替える 117 2.4 45 1.5 67 3.9 71 1.4 38 1.3 29 1.7 3,556 72.4 2,343 77.1 1,108 63.9 預金総額が一人当たり1千万円以上であるが特に何もしない 124 2.5 52 1.7 72 4.2 すでに対応済みなので、特に何もしない 279 5.7 130 4.3 146 8.4 71 1.4 38 1.3 29 1.7 4,914 100.0 3,041 100.0 1,735 100.0 預金を解約して現金で保管するようにする 預金総額が一人当たり1千万円未満なので特に何もしない その他 合計 26 信金中金月報 2007.1 オフ全面解禁についての知識がない回答者に の時に比べて減少し、20歳以上59歳以下で も答えられるように、設問の前に、ペイオフ は3.3%から1.7%へ、 60歳以上では、 7.1%から 全面解禁の内容を説明している。選択肢は複 4.2%へ減少している。また「既に対応済み 数回答が可能である。結果は、全体と、世帯 なので、特に何もしない」との回答も多い。 主年齢20歳以上59歳以下、世帯主年齢60歳 それ以外の対応策としては、 「金融機関に 以上に分けて示した。 つき一人当たり1千万円を超えないよう、預 まず、図表4-1より、ペイオフ部分解禁 金の預金先を分散する」が1割超を占めてお に対して、どのような対応策が取られたのか り、 部分預金の場合と同様である。 続いて、 「別 を見てみよう。最も多かったのは、 「預金総 の金融機関にすべて預け替える」 「国債、投 額が一人当たり1千万円未満なので特に何も 資信託、保険・年金など他の金融資産に分散 しなかった」であり、20歳以上59歳では全 する」があり、それぞれ全体の3%程度を占 体の8割、60歳以上でも6割をも占めている。 める。 次に多いのは、 「金融機関につき一人当たり 残念ながら、 「金融資産調査」では、ペイ 1千万円を超えないよう、預金の預金先を分 オフ全面解禁における対応策は、予定しかわ 散した」で、20歳以上59歳では9.0%、60歳 からない。家計に対して、実際に、ペイオフ 以上では21.3%が選択している。 「国債、投 全面解禁によりどのような対応を行ったか 資信託、保険・年金などほかの金融資産に分 を調べた調査があるので、ここで紹介してお 散する」も、60歳以上では9%近い。興味深 く。平成17年に行われた金融広報中央委員 いのは、「預金総額が一人当たり1千万円以 会の「家計の金融資産に関する世論調査」で 上であるが特に何もしなかった」が比較的多 は、ペイオフ全面解禁に対応して、自分の貯 い点で、60歳以上では7.1%が選択している。 蓄などをより安全なものにするため何かし この原因として考えられるのは、預金先が破 たかを尋ねている(複数回答) 。それによる 綻リスクの低い都銀などの金融機関であるケ と「経営内容がより健全で信用度が高いと思 ースである。 われる金融機関に預け替えた」家計は全体の 続いて、図表4-2をみる。やはり、一番 12.8%、 「1つの金融機関に預けた預金金額が 多いのは、部分解禁の場合と同様、 「預金総 1,000万円を超えないように、預け入れ先を 額が一人当たり1千万円未満なので特に何も 複数に分散した」家計は15.7%と、何らかの しない」で、全体の7割程度を増える。しかし、 ペイオフ対応を行った家計がある一方で、 「何 20歳以上59歳以下の世帯では、部分解禁の もしていない」家計は55.1%であった。 時に比べてその比率が若干減少している。 「預 次に、4節で説明した限定後のサンプルに 金総額が一人当たり1千万円以上であるが特 ついて、ペイオフ部分解禁、全面解禁への に何もしない」と回答する世帯も、部分解禁 対応策を示す。図表5-1、5-2、5-3では、 特別寄稿論文 27 図表5-1 ペイオフ部分解禁対応策と全面解禁対応予定策のクロス表(全体) 全面解禁 部分解禁 別の金融機関へ預 け替え 別の金融 1,000万円 1,000万円 既に対応済 預金の預入 他の金融資 決済性預金 機関に預 現金保管 未満で何 以上だが何 みなので何 先を分散 産に分散 に預け替え け替え もしない もしない もしない その他 合計 % 4 4 2 1 0 6 1 4 0 16 1.9 預金の預入先分散 6 67 11 9 0 24 3 32 0 127 15.4 他の金融資産に分散 2 16 20 3 1 9 2 9 0 49 5.9 現金保管 0 1 0 0 2 0 1 0 0 4 0.5 7 39 5 8 2 554 8 15 3 621 75.4 0 18 3 2 2 3 14 4 1 43 5.2 0 2 2 1 0 7 0 1 5 14 1.7 100.0 1,000万円未満なの で何もしない 1,000万円以上だが 何もしない その他 合計 13 121 31 21 5 590 24 59 6 824 % 1.6 14.7 3.8 2.5 0.6 71.6 2.9 7.2 0.7 100.0 図表5-2 ペイオフ部分解禁対応策と全面解禁対応予定策のクロス表(20歳以上59歳以下) 全面解禁 部分解禁 別の金融機関へ預 け替え 別の金融 1,000万円 1,000万円 既に対応済 預金の預入 他の金融資 決済性預金 機関に預 現金保管 未満で何 以上だが何 みなので何 先を分散 産に分散 に預け替え け替え もしない もしない もしない その他 合計 % 2 2 1 0 0 2 0 1 0 5 1.2 預金の預入先分散 2 18 5 1 0 5 1 7 0 33 8.2 他の金融資産に分散 1 3 7 0 0 1 0 1 0 9 2.2 現金保管 0 0 0 0 1 0 1 0 0 2 0.5 2 22 3 3 0 303 4 6 0 340 84.8 0 7 1 1 1 1 2 2 1 15 3.7 0 1 0 1 0 2 0 0 1 4 1.0 4 47 13 6 1 314 7 17 2 401 100.0 1.0 11.7 3.2 1.5 0.2 78.3 1.7 4.2 0.5 100.0 1,000万円未満なの で何もしない 1,000万円以上だが 何もしない その他 合計 % 図表5-3 ペイオフ部分解禁対応策と全面解禁対応予定策のクロス表(60歳以上) 全面解禁 部分解禁 別の金融機関へ預 け替え 別の金融 1,000万円 1,000万円 既に対応済 預金の預入 他の金融資 決済性預金 機関に預 現金保管 未満で何 以上だが何 みなので何 先を分散 産に分散 に預け替え け替え もしない もしない もしない その他 合計 % 2 2 1 1 0 4 1 3 0 11 2.6 預金の預入先分散 4 49 6 8 0 19 2 25 0 94 22.2 他の金融資産に分散 1 13 13 3 1 8 2 8 0 40 9.5 現金保管 0 1 0 0 1 0 0 0 0 2 0.5 5 17 2 5 2 251 4 9 3 281 66.4 0 11 2 1 1 2 12 2 0 28 6.6 0 1 2 0 0 5 0 1 4 10 2.4 9 74 18 15 4 276 17 42 4 423 100.0 2.1 17.5 4.3 3.5 0.9 65.2 4.0 9.9 0.9 100.0 1,000万円未満なの で何もしない 1,000万円以上だが 何もしない その他 合計 % 28 信金中金月報 2007.1 限定後のサンプルについて、ペイオフ部分解 では、 クロス表の結果を詳しく見ていこう。 禁対応策と、全面解禁対応予定策とのクロス 全体としてみると、部分解禁、全面解禁共 表を、グループ別に示している。図表5-1 に、 「預金総額が1千万円未満なので何もしな は全体、図表5-2は、世帯主年齢20歳以上 かった(しない) 」という家計が一番多いこ 59歳以下、図表5-3は、世帯主年齢を60歳 とがわかる。全体では、サンプル824中554 以上を対象とした結果である。 (67.2%) 、20歳以上59歳以下では、サンプル まず、サンプル限定によって、各対応を行 401中303 (75.6%) 、60歳以上では、サンプル った者の比率に変化が生じたかを確認するた 423中251 (59.3%)である。若年層では、預 め、図表4-1、4-2の結果と、図表5-1、5 金額が少ないことを反映してか、いずれの解 -2、5-3の結果とを比較する。部分解禁対 禁時も対応しなかった家計の割合が大きい。 応策については、サンプル限定によって、全 全面解禁では「すでに対応済みなので何も 体では、「預金の預入先を分散した」という しない」と回答している家計もあるが、これ 回答者の比率が、増加し(13.5%から15.4% らの家計がとった、部分解禁時の対応策でも へ)、20歳以上59歳以下では、 「預金総額が1 っとも多いのは、 「預金の預金先を分散」で 千万円未満なので何もしない」が増加(82.8% ある。全体では、 「すでに対応済みなので何 から84.8%へ) 、60歳以上で、 「別の金融機関 もしない」と回答した59サンプル中、部分 に預け替えた」が減少(4.5%から2.6%へ) 、 解禁時に「預金先を分散」したのは32サン 「1千万円未満なので何もしなかった」が増 プルと、半数以上を占める。 加(63.7%から66.4%へ)するなど、若干な 全面解禁時に何らかの対策を予定している 変化は見られるが、おおむね似た値となって 家計では、部分解禁の時にとった対応策を、 いる。 全面解禁の時にも予定しているケースが多い 全面解禁対応予定策については、サンプル 点も興味深い。例えば、部分解禁の時に「預 限定によって、全体では「預金の預入先を分 金の預入先を分散」した家計は、全面解禁 散する」が増加(12.4%から14.7%へ) 、20 でも「預金の預入先を分散」する予定である 歳以上59歳以下では、 「別の金融機関へ預け と答えているケースがもっとも多いし、部分 替える」が減少(3.1%から1.0%)し、 「他 解禁の時に「他の金融資産に分散」した家計 の金融資産に分散する」が増加(2.1%から は、全面解禁でも「他の金融資産に分散」す 3.2%へ)、60歳以上では、 「預金の預入先を る予定であると答えているケースがもっとも 分散」が増加(15.3%から17.5%へ)する、な 多い。これは、一度とった対策を、引き続き どの変化はあるが、部分解禁と同様、サンプ 行う方が、口座の開設やノウハウの蓄積など ルを限定したことによる大きな変化は見られ のコストの発生を抑えることができるからで ない。 はなかろうか。 特別寄稿論文 29 6.ペイオフ全面解禁対応に影響を与 える要因分析 本節では、ペイオフ全面解禁における家計 の式に置き換えることができる。 µ h =ΣJj = 1 eh µ j -Rbh-ΣJj = 1 chjehj ( бh )2=ΣIi = 1 ΣJj = 1 ehiehjCi j µ j は、単位あたり資産 j の期待収益率、Rは、 の対応に、家計属性がどのような影響を与 単位あたり有利子負債の利子、chj は、家計 h えたのかを分析する。まず、King and Leape が資産 j を単位当たり保有する際に発生する [1998]に基づいて、家計の資産選択に関す コスト、Ci j は、第i資産と第 j 資産との収益 率の共分散である。chj の、資産 j を単位当た るの理論モデルを示す。 今、家計の期待効用関数が以下のように表 されるとする。 り保有する際に発生するコストとは、金融機 関へのアクセスに伴うコストや、投資への情報 h F h =[ µ h, ( бh )2] (1) F h は家計hの期待効用関数、µ h は家計hの ポートフォリオにおける期待収益、 ( бh )2 は家計hのポートフォリオの収益の分散であ 収集に必要なコストなどを想定している(注)3。 家計のポートフォリオには、以下の非負制約 をつける。 ehj 0 ,∀j ,h (3) る。家計はリスク回避的であると仮定すると、 (2)式、 (3)式の制約のもとで、 (1)式 期待効用関数を第1成分で偏微分した値と、 を最大化するという家計の最大化問題を解く 第2成分で偏微分した値は、それぞれ、 1h > 0 、 と、各資産の需要ej について、以下の式が得 2h < 0 となる。そして、家計の絶対的リスク られる。 回避度は- と表すことができる。また、 家計hの予算制約は、以下の式で表すことが できる(注)2。 ΣJj = 1 ehj =Wh+bh ΣIi = 1 ehiCi j =- (µ j -R-chj) (4) h1 、 h2 は、それぞれ、家計 h の期待効用関 数を第1成分、第2成分で偏微分したもので (2) ある。 (4)式の左辺はベクトルの内積で表示 ehj は、家計hのj資産に対する需要を表す。 できるので、 (4)式をすべての j についてま 家計が保有しうる資産の数は J である。 Whは、 とめて行列表示することができる。そして、 家計 h が保有する純資産、bhは、保有する有 i 行 j 列成分をCi j とする J × J 行列 C の逆行列 利子負債の金額である。また、 (1)式の家計 を左からかけることで、家計のポートフォリ hが保有するポートフォリオの期待収益(リ オを表す式を求めることができる。 ターン)と、収益の分散(リスク)は、以下 (注)2.King and Leape[1998]では、利子に対する課税も考慮に入れているが、分析では課税については考慮しないため、モ デルでも考慮していない。なお、このモデルは、白石[2005]も提示している。 3.ここでは、モデルを単純にするために資産の保有額に対して比例的に費用が増えるという仮定を置いたが、実態を考え ると、費用は逓減していく場合が多いと思われる。 30 信金中金月報 2007.1 (e1 ,e2 ,…,eJ )=- (µ 1 -R-ch1 ,µ 2 -R -ch2 ,…,µ J -R-chJ )C-1 なお、- (5) は、家計の絶対的リスク回避 資産へ投資する家計もあるかもしれない。 以上の理論を踏まえて、以下の推計式をプ ロビットモデルで推計する。 Y*h=βXh +u h Y*h<0であれば、Yh =0 度の逆数となる。 (5)式より、家計のポート Y*h 0であれば、Yh =1 フォリオ需要には、家計の絶対的リスク回避 ここで、Y*hは観測することはできないが、 度が与える影響が大きく、絶対的リスク回避 家計 h がある行動を選択する時の基準となる 度が小さいほど、リスクのある資産の保有に 値である。一方、Yh は、家計 h のとる行動を 積極的になることがわかる。その他、期待収 表す値で、1の時には家計 h はある行動をと 益が大きい資産ほど保有額は増え、負債の利 り、0の時は行動とらないことになる。 子率が高いほど、資産の保有に伴う費用が大 ここでは、被説明変数Yh として、ペイオフ きい資産ほど、収益の分散、すなわちリスク 全面解禁における各対応予定策について、そ が大きい資産ほど保有額が減ることになる。 の対応策を行う予定である場合には1、それ したがって、ペイオフ全面解禁によって、 以外は0をとるダミー変数を用いた。ペイオ 家計が資産構成を変えるか否かは、これらの フ全面解禁における対応予定策としては、 「別 要因によって決まることがわかる。例えば、 の金融機関に預け替える」 「預金の預金先を 預金額が1金融機関において、一人当たり1 分散する」 「他の金融資産に分散する」 「決済 千万円を超えるような家計では、超える部分 用預金に預け替える」の4つをとりあげ、そ については、元本が保証されなくなるため、 れぞれについて分析を行った。それ以外の対 他の預金口座に分散しない場合は、その部分 応予定策については、対応を行う予定のサン は預金先の破綻確率に応じてリスクが発生す プル数が少なすぎるので、今回は分析を行っ る。分散すれば、安全資産のままなので、リ ていない。 スクはゼロだが、分散する際のコストが発生 説明変数Xh には、家計のリスクに対する する。破綻確率が低いような金融機関に預金 態度や、資産を保有した場合に発生する費用 を預けていれば、あるいは、分散のコストが の代理変数として、次のような家計の属性 高ければ、家計はわざわざ預金を分散しない を用いた。すなわち、世帯主年齢、同居する であろう。 子供がいる場合に1をとるダミー変数、同居 また、一人当たり1千万円を越える部分に する家族の人数、世帯の年間所得(万円)、 ついて、収益率が低くリスクが発生する預金 持ち家に住んでいる場合に1をとるダミー変 として持っておくよりは、同じリスクが発生 数、20歳以上59歳以下ではすべて世帯主が するのであれば、収益率がより高い他の金融 働いているサンプルだが、60歳以上につい 特別寄稿論文 31 ては世帯主が働いていない場合も含むので、 ると、対応策を選択する確率が何%変化する 世帯主が働いている場合に1をとるダミー変 かを表している。0か1の値をとるダミー変 数、世帯主が雇用者である場合に1をとるダ 数の場合は、その変数が1である時、0の時 ミー変数、貯蓄総額(万円) 、負債総額(万 と比べて対応策を選択する確率が何%変化す 円)、預金総額(万円)である。預金総額が るかを表している。 大きいほど、ペイオフで保護されない部分が 図表7-1では、 全体の分析結果を示す。 「別 大きくなる可能性が高く、対応しなかった場 の金融機関に預け替える」では、有意な変数 合の預金資産のリスクは大きくなる。主な変 は観察されなかった。別の金融機関に預け替 数の基本統計量を全体、20歳以上59歳以下、 えるか否かには、例えば、現在の預金先の金 60歳以上別に、図表6-1から図表6-3に示 融機関の破綻確率など、本稿で用いた変数以 しておく。 外の別の要因が影響して決まると予想され 分析結果を図表7-1から図表7-3に示す。 る。 「預金の預金先を分散する」では、持ち 分析結果では、 変数の限界効果を求めている。 家有り、貯蓄総額、預金総額が有意にプラス、 すなわち、連続変数の場合は、説明変数の平 負債総額が有意にマイナスであった。実物資 均値の周りで、その変数の値が1単位変化す 産や金融資産が多く、預貯金額も多い家計ほ 図表6-1 変数の基本統計量(全体) 変数 サンプル数 平均 標準誤差 最小値 最大値 全面解禁対応策 別の金融機関にすべて預け替える 824 0.0158 0.1247 0 1 824 0.1468 0.3542 0 1 824 0.0376 0.1904 0 1 824 0.0255 0.1577 0 1 824 57.1092 14.6230 20 87 同居している子供あり 824 0.5291 0.4995 0 1 家族人数 824 2.9697 1.3348 1 6 年収 824 440.2002 523.8548 0 3,850 持ち家あり 824 0.8095 0.3930 0 1 世帯主が労働者 824 0.5910 0.4919 0 1 世帯主が雇用者 824 0.4102 0.4922 0 1 貯蓄総額 824 1,647.1380 2,013.0150 3 23,300 負債総額 824 532.5631 1,327.6090 0 12,000 預貯金総額 824 705.2998 1,080.2170 0 10,900 金融機関につき一人当たり1千万円を超えないよう、 預金の預入先を分散する 国債、投資信託、保険・年金など他の金融資産に分散 する 一人当たり1千万円を超える預金については、無利息で はあるが、全額保護される決済用預金に預け替える 預金を解約して現金で保管するようにする 32 信金中金月報 2007.1 図表6-2 変数の基本統計量(20歳以上59歳以下) 変数 サンプル数 平均 標準誤差 最小値 最大値 全面解禁対応策 別の金融機関にすべて預け替える 401 0.0100 0.0995 0 1 401 0.1172 0.3221 0 1 401 0.0324 0.1773 0 1 401 0.0150 0.1216 0 1 401 44.4115 9.5571 20 59 同居している子供あり 401 0.7257 0.4467 0 1 家族人数 401 3.4339 1.4427 1 6 年収 401 744.4813 472.5596 0 3,400 持ち家あり 401 0.6983 0.4596 0 1 世帯主が雇用者 401 0.7606 0.4273 0 1 貯蓄総額 401 1,218.1170 1,893.5250 3 23,300 負債総額 401 892.2519 1,522.3570 0 10,000 預貯金総額 401 474.5910 850.3771 0 10,900 金融機関につき一人当たり1千万円を超えないよう、 預金の預入先を分散する 国債、投資信託、保険・年金など他の金融資産に分散 する 一人当たり1千万円を超える預金については、無利息で はあるが、全額保護される決済用預金に預け替える 預金を解約して現金で保管するようにする 図表6-3 変数の基本統計量(60歳以上) 変数 サンプル数 平均 標準誤差 最小値 最大値 全面解禁対応策 別の金融機関にすべて預け替える 423 0.0213 0.1445 0 1 423 0.1749 0.3804 0 1 423 0.0426 0.2021 0 1 423 0.0355 0.1852 0 1 423 69.1466 5.6566 60 87 同居している子供あり 423 0.3428 0.4752 0 1 家族人数 423 2.5296 1.0501 1 6 年収 423 151.7447 390.0482 0 3,850 持ち家あり 423 0.9149 0.2794 0 1 世帯主が労働者 423 0.2033 0.4029 0 1 世帯主が雇用者 423 0.0780 0.2685 0 1 貯蓄総額 423 2,053.8460 2,040.4870 8 15,477 負債総額 423 191.5816 1,000.5770 0 12,000 預貯金総額 423 924.0095 1,221.3530 0 10,900 特別寄稿論文 33 金融機関につき一人当たり1千万円を超えないよう、 預金の預入先を分散する 国債、投資信託、保険・年金など他の金融資産に分散 する 一人当たり1千万円を超える預金については、無利息で はあるが、全額保護される決済用預金に預け替える 預金を解約して現金で保管するようにする ど、 「預金の預金先を分散」 することがわかる。 かない。子供と同居している家計では、いざ 「他の金融資産に分散」は、貯蓄総額のみが となれば、子供の収入を頼ることができるこ プラスに有意であったが、限界効果はゼロに とから、ペイオフで保護される上限1千万円 近い。ペイオフの対象外となる「決済用預金 さえ確保できれば、 それを超える分について、 に預け替える」では、世帯主年齢と世帯主労 無利子にしてまでリスクをゼロにしようとま 働者ダミー変数が有意にプラス、同居する子 では思わないのかもしれない。 供有りダミー変数が有意にマイナスである。 図表7-3は、世帯主年齢が60歳以上に限 決済用預金に預け替えるか否かの決定には、 った分析である。 「別の金融機関に預け替え 資産額よりは、家族構成や家族のライフステ る」 では、 やはり有意な変数が見られない。 「預 ージが影響を与えることをうかがわせる。 金の預入先を分散」 では、 有意な変数は、貯蓄 図表7-2は、世帯主年齢20歳以上59歳以 総額のプラスと、預金総額のプラスのみであ 下に限った分析である。 「別の金融機関に預 る。預金総額は、図表7-1、7-2、7-3いず け替える」は、図表7-1と同様、有意な変 れにおいても安定して有意にプラスである。 数はない。「預金の預金先を分散」では、貯 一方、 「他の金融資産に分散」では、貯蓄 蓄総額が有意でなくなったが、それ以外の変 総額がプラスに有意だが、預金総額がマイナ 数は、図表7-1と同様、有意で、符号も変 スに有意となっている。世帯主年齢が60歳 わらない。また、限界効果の絶対値が若干増 以上の世帯では、預金総額が多い家計では、 えている。「他の金融資産に分散」では、貯 ペイオフ全面解禁によって、その預金を株式 蓄総額がプラスに有意であるが、限界効果は や投資信託などの他の金融資産に移し替える ほとんどゼロであり、世帯主雇用者ダミー変 よりは、 他の金融機関に預金口座を作って (あ 数が、新たにマイナスに有意となっている。 るいは、すでに作ってある口座に)分散して 世帯主が雇用者であれば、自営業に比べ、生 いるということがうかがえる。また、家族人 涯に渡って比較的安定した収入が得られる。 数がマイナスに有意となっている。この結果 このような安定職を選ぶ世帯主はそもそもリ は、世帯主年齢が60歳を超える場合で同居 スク回避度が高く、そのため、リスクの高い 家族が少ない場合は、思い切った危険資産へ 危険資産への投資は控えることが影響してい の投資がなされることを表しているといえる。 るのかもしれない。 「決済用預金に預け替え 「決済用預金に預け替え」では、世帯主年 る」では、有意な変数が減り、同居する子供 齢のみが有意にプラスである。年齢が高くな 有りダミー変数のみが、マイナスで有意であ るほど、決済用預金を利用するのは、高齢者 るが、有意性は、図表7-1に比べると高く、 ほど、将来もらえる利子所得にはあまり興味 限界効果の絶対値も大きくなっている。決済 がなく、確実に資産を保持したいと考えるこ 用預金は確実に預金が保護されるが利子はつ とを反映しているのだろうか。 34 信金中金月報 2007.1 図表7-1 分析結果(全体) 説明変数 世帯主年齢 同居する子供有りダミー 家族人数 所得(万円) 持家有りダミー 世帯主労働者ダミー 世帯主雇用者ダミー 貯蓄総額(万円) 負債総額(万円) 預金総額(万円) obs. P pred. P Number of obs LR chi2 Prob > chi2 Pseudo R2 別の金融機関に預け替え 限界効果 標準誤差 0.00029 0.00032 -0.00059 0.00718 0.00141 0.00280 -0.00001 0.00001 0.00929 -0.00155 0.00000 -0.00001 0.00000 0.00965 0.00726 0.00000 0.00001 0.00000 預金の預入先を分散 他の金融資産に分散 決済用預金に預け替え 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 -0.00067 0.00145 0.00048 0.00065 0.00113 0.00050 ** -0.00346 0.03905 0.00473 0.01609 -0.02497 0.01630 * -0.01672 0.01459 -0.00686 0.00623 0.00351 0.00484 0.00004 0.00003 0.00001 0.00001 -0.00001 0.00001 0.06404 0.03032 * 0.02379 0.01107 -0.00467 0.01428 0.03287 0.04454 0.02559 0.01668 0.02553 0.01417 * -0.03120 0.03364 -0.02028 0.01298 0.00302 0.01254 0.00002 0.00001 ** 0.00001 0.00000 *** 0.00000 0.00000 -0.00002 0.00001 ** 0.00000 0.00000 -0.00001 0.00001 0.00004 0.00001 *** 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.01578 0.00711 0.14684 0.12584 0.03762 0.02389 0.02549 0.01561 824 9.97 0.3527 0.0746 824 74.43 0 0.1083 824 35.12 0.0001 0.1329 824 18.43 0.0481 0.0942 ***…有意水準1%で有意、**…有意水準5%で有意、*…有意水準10%で有意 図表7-2 分析結果(20歳以上59歳以下) 説明変数 世帯主年齢 同居する子供有りダミー 家族人数 所得(万円) 持家有りダミー 世帯主雇用者ダミー 貯蓄総額(万円) 負債総額(万円) 預金総額(万円) obs. P pred. P Number of obs LR chi2 Prob > chi2 Pseudo R2 別の金融機関に預け替え 預金の預入先を分散 他の金融資産に分散 決済用預金に預け替え 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 0.00006 0.00013 -0.00268 0.00199 0.00090 0.00059 0.00070 0.00050 0.00890 0.05101 0.01275 0.01091 -0.05450 0.04920 ** 0.00050 0.00088 -0.02758 0.01755 0.00191 0.00412 0.00411 0.00384 0.00000 0.00000 0.00005 0.00003 -0.00001 0.00001 0.00000 0.00001 0.06483 0.03457 * -0.00376 0.00981 -0.00001 0.00132 -0.05001 0.04022 -0.02091 0.01703 * 0.00085 0.00635 0.00000 0.00000 0.00001 0.00001 0.00000 0.00000 *** 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 -0.00003 0.00001 ** -0.00001 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 0.00005 0.00002 *** 0.00000 0.00000 0.00000 0.00001 0.00998 0.00072 0.11721 0.09578 0.03242 0.01040 0.01496 0.00575 401 12.88 0.0751 0.2874 401 31.45 0.0002 0.1085 401 28.79 0.0003 0.2509 401 10.54 0.3083 0.1691 ***…有意水準1%で有意、**…有意水準5%で有意、*…有意水準10%で有意 図表7-3 分析結果(60歳以上) 説明変数 世帯主年齢 同居する子供有りダミー 家族人数 所得(万円) 持家有りダミー 世帯主労働者ダミー 世帯主雇用者ダミー 貯蓄総額(万円) 負債総額(万円) 預金総額(万円) obs. P pred. P Number of obs LR chi2 Prob > chi2 Pseudo R2 別の金融機関に預け替え 限界効果 標準誤差 -0.00005 0.00083 -0.00879 0.01225 0.00394 0.00605 -0.00008 0.00004 0.05968 0.00440 0.00000 -0.00001 0.00000 0.06822 0.02669 0.00000 0.00002 0.00001 預金の預入先を分散 限界効果 標準誤差 -0.00026 0.00342 -0.03159 0.05543 0.01609 0.02492 0.00005 0.00007 0.09804 0.04873 0.01579 0.07523 0.07571 0.09606 0.00003 0.00001 ** -0.00001 0.00002 0.00004 0.00002 * 他の金融資産に分散 決済用預金に預け替え 限界効果 標準誤差 限界効果 標準誤差 0.00045 0.00129 0.00240 0.00139 * 0.02351 0.03038 -0.01175 0.02268 -0.03298 0.01209 ** -0.00235 0.01043 0.00001 0.00002 -0.00001 0.00004 0.00565 0.02280 0.00175 0.02850 0.02854 0.04022 0.04147 0.05533 0.00483 0.03099 0.02042 0.04747 0.00002 0.00001 *** 0.00001 0.00001 0.00000 0.00001 -0.00001 0.00002 -0.00001 0.00001 * 0.00000 0.00001 0.02128 0.01115 0.17494 0.15019 0.04255 0.02319 0.03546 0.02609 423 5.12 0.8237 0.0588 423 47.5 0 0.1211 423 23.58 0.0088 0.1584 423 9.61 0.4757 0.0741 ***…有意水準1%で有意、**…有意水準5%で有意、*…有意水準10%で有意 特別寄稿論文 35 今回、分析の対象としたのは、第5節で限 対応を予定している家計が存在する。 例えば、 定を行ったサンプルであるが、本来、ペイオ 「預金の預金先を分散」することを予定して フ全面解禁に伴い、なんらかの対応策をとる いる家計は、一人当たり預金額が1千万円未 のは、一人当たりの貯蓄額が1千万円を超え 満である770サンプル中、97(12.6%)にも る家計のみである。しかし、ペイオフ全面 のぼる。そのため、今回は、サンプルを一人 解禁時に対応を予定している家計でも貯蓄総 当たりの貯蓄額が1千万円を超える家計に限 額が「家族人数×1千万円」を切っている場 定しなかった。 合があった。図表8に、全体のサンプルにつ いて、各対応策の予定の有無と、家計の預金 7.むすび 総額を家族人数で求めた一人当たりの預金額 本稿では、ペイオフ全面解禁において、家 が、ペイオフで保護される1千万円以上か未 計がとりうる対応策を集計値で概観し、さら 満か、との関係をクロス表で表した。 に家計がどのような対応をとるのかに、家計 図表8より、全サンプル数824のうち、家 族一人当たり預金額が1千万円未満の家計 の属性がどのように影響を与えるのかを分析 した。主な分析結果は以下のとおりである。 は、54と少ないことがわかる。しかし、各対 (1)集計値で見る限り、ペイオフ解禁は家 応策を予定している家計は、必ずしも、この 計の金融資産構造に大きな変化を与えたとは 54サンプルのみではなく、一人当たり預金額 いえない、 (2)ペイオフ全面解禁に対して、 が1千万円未満の家計770サンプルの中にも、 全体の7割は、預金総額が一人当たり1千万 図表8 ペイオフ全面解禁対応予定と一人 当たり預金額が1千万円未満か以上か (サンプル数) 他の金融機関へ預け替え 家族一人当たりの預金額 対応予定 予定無し 合計 一人当たり預金額1千万円未満 12 758 770 一人当たり預金額1千万円以上 1 53 54 合計 13 811 824 預金の預金先を分散 家族一人当たりの預金額 対応予定 予定無し 合計 一人当たり預金額1千万円未満 97 673 770 一人当たり預金額1千万円以上 24 30 54 合計 121 703 824 他の金融資産に分散 家族一人当たりの預金額 対応予定 予定無し 合計 一人当たり預金額1千万円未満 27 743 770 一人当たり預金額1千万円以上 4 50 54 合計 31 793 824 決済用預金に預け替え 家族一人当たりの預金額 対応予定 予定無し 合計 一人当たり預金額1千万円未満 16 754 770 一人当たり預金額1千万円以上 5 49 54 合計 21 803 824 36 信金中金月報 2007.1 円を超えないので特に何もしない」と回答し ている、 (3)ペイオフ全面解禁の対応策とし て一番多いのは、 「預金の預入先を分散」で ある、 (4)家計の属性が、ペイオフ全面解 禁時の対応予定策決定に与える影響について は、実物資産、金融資産が多い家計ほど「預 金の預入先を分散」し、貯蓄総額の多い家計 は「他の金融機関に分散」する傾向にあるこ と、 「決済用預金に預け替える」 かどうかには、 世帯主年齢や子供の数など世帯の構成の影響 が大きいことがわかり、また、年齢層で分け たグループで結果が若干異なる、 (5)家族一 人当たりの預金額が1千万円未満である世帯 でも、ペイオフ全面解禁に際して、何らかの 対応を予定している家計が多い。 今回の分析結果より、集計値レベルでは、 こと、実際は多くの家計の貯蓄額はペイオフ で保証される限度内であったことから、ペイ ペイオフ全面解禁が家計の行動に与える影響 オフ全面解禁が社会経済に与えた影響はそれ は明らかではなかったが、 ミクロレベルでは、 ほど大きくなかったと結論付けることができ 家計の属性によって、取られる対応策が異な よう。ペイオフ全面解禁は、その弊害がいろ ることがわかった。 いろと憂慮されていたため、延期の末に実現 この結果を利用すれば、各金融機関が顧客 されたという経緯はあるが、 それは杞憂で、 い を確保するために、どのような点に力を入れ ざ全面解禁になると、家計の方はそれぞれの るべきかが見えてくる。実物資産や金融資産 事情から判断し、冷静に対応していったこと が多く、負債も少ない家計では、取引先の金 がうかがえる。 融機関を増やすことで生じるコストがあるに なお、家計の有価証券保有の増加は、日本 もかかわらず、複数の金融機関に預金口座を の金融システムが直接金融へ移行していく上 開く傾向がある。預金口座を扱う金融機関に で不可欠な流れであり、今回の分析結果は、 とっては、ペイオフ全面解禁は、預金者の利 ペイオフ全面解禁が一部の家計の有価証券保 便性を充実させるなどして、このような堅実 有の増加に貢献したことがうかがわせるもの な顧客を取り込むチャンスである。また、貯 であった。Hori and Shimizutani[2004]は、 蓄総額の多い家計は、ペイオフ全面解禁を機 株式を保有している家計の消費が株価に影響 に、株式や投資信託など、預貯金以外の金融 を受けることを指摘している。また、Ando, 資産へも関心を抱いていることがわかる。特 Christelis and Miyagawa[2003]は、日本の に、60歳以上の高齢者でその傾向が大きい。 株式における投資収益率や配当は企業の実力 図表2の集計値でみると、平成16年(2004年) よりも低いことを指摘し、そのことで失われ から17年(2005年)にかけて、家計の有価 ている家計の収益は、1998年で395兆円に上 証券の保有が増えているが、 そのいくらかは、 るとしている。この金額が消費に回された場 ペイオフ全面解禁の影響かもしれない。決済 合の経済効果は大きい。今後、預金額が一人 用預金は、ペイオフ全面解禁の混乱を避ける 当たり1千万円を越える家計が増え、有価証 目的で作られたが、その利用を考えている家 券を保有する家計がさらに増えたならば、株 計は意外と少ないのも印象的である。 価の変動が、家計の行動を通して、これまで ただ、分析結果より、家計の属性はペイオ フ全面解禁での対応策に有意な影響を与えた 以上に景気に与える影響は大きくなることが 予想される。 とはいえ、限界効果の値は非常に小さかった 特別寄稿論文 37 〈参考文献〉 Ando, Albert, Dimitrios Christelis and Tsutomu Miyagawa “Inefficiency of Corporate Investment and Distortion of Savings Behavior in Japan”, NBER Working Paper Series, No.9444. 2003 Hori, Masahiro and Satoshi Shimizutani “Asset Holding and Consumption: Evidence from Japanese Panel Data in the 1990s”, Seoul Journal of Economics, Vol.17, No.21, pp.153-179. 2004 Iwaisako, Tokuo “Household Portfolios in Japan”, NBER Working Paper Series, No.9647. 2003 King, Mervyn A. and Jonathan I. Leape “Wealth and portfolio composition: Theory and evidence”, Journal of Public Economics, Vol.69, pp.155-193. 1998 奥井めぐみ「家計の危険資産保有に関する実証分析」郵政総合研究所提出論文(2006) 古籐久也「わが国家計の資産選択行動について―持家選好・年功序列賃金制度と株式保有―」金融市場局ワーキング ペーパーシリーズ2000-J-9(2000) 白石小百合「家計の選考と資産選択」日本経済学会2005年度春季大会発表論文(2005) 中川忍・片桐智子「日本の家計の金融資産選択行動―日本の家計はなぜリスク資産投資に消極的であるのか?―」日 銀調査月報11月号掲載論文(1999) 伴金美・中村二朗・跡田直澄『新版エコノメトリックス』 (有斐閣) (2006) 松浦克己「家計の株式投資行動の変化」証券アナリストジャーナル37巻 pp.7-17(1999) 松浦克己「機関投資家と家計の株式投資」橘木俊詔・筒井義郎編『郵政研究所叢書日本の資本市場』 (日本評論者)第 9章 pp.195-220(1996) 松浦克己・白石小百合「資産選択と日本経済」東洋経済新報社(2004) 郵政総合研究所「第9回家計における金融資産選択等に関する調査結果報告書(平成16年度) 」 (2005) 米澤康博・松浦克己・竹澤康子「年功序列賃金制度と株式需要―何故、我が国家計の株式需要は少ないのか―」現代 ファイナンスNo.6, pp.3-18(1999) 38 信金中金月報 2007.1 地域シリーズ 変貌する「企業城下町型集積」と今後の方向 -「北九州地区」、「鈴鹿・亀山地区」の事例から- 信金中央金庫 総合研究所主任研究員 平井 昌夫 (キーワード) 企業城下町、中核企業、下請企業、系列、水平分業 (視 点) 国内の企業城下町型産業集積は、自動車・電機などこれまで円高、グローバル化による親 企業のリストラ、海外シフトなどの環境変化のなかで、製品転換、高付加価値化などの対応 を迫られ変貌を遂げてきた。ここでは、 「福岡県北九州地区」 (自動車) 、 「三重県鈴鹿・亀山 地区」(電機「クリスタルバレー」 )の比較的新しい集積事例を取り上げ、形成の過程、特徴、 今後の方向 (集積機能の変化) などを概観することを企図するものである。なお、 本稿は、 『 「産 地」の変貌と今後の方向~環境変化と求められる「地場性」を活かす市場戦略』 『信金中金 月報』(2006年8月号)の続編として、 「産地」と並ぶ「産業集積」の代表的形態である「企 業城下町型集積」を取り上げたものである。 (要 ● 旨) 「親企業(中核企業)を頂点とする効率的な分業構造」を特徴とする「企業城下町型集積」 も、中核企業を取り巻く環境変化を受けて変化を余儀なくされている。すなわち、①グロ ーバル競争の激化による親企業のリストラ(事業再構築) 、②親企業と下請企業の取引関 係の変化、である。 ● このため、 「企業城下町型集積」も、①中核企業のグローバルな視点での立地選択、②集 積内の取引構造の変化、への対応に迫られている。新たな集積としては、①川上・川下産 業を含めた周辺の産業集積の充実、②大学や研究機関等の技術・研究人材の蓄積などが求 められるほか、集積内取引も、垂直型の分業から系列流動化による水平型分業へ、さらに は業種、地域を超えた取引関係が見られるようになってきている。 ● 事例として取り上げた「北九州地区」 (自動車) 、 「鈴鹿・亀山地区」 (電機)では、労働力 の確保、国内立地多様化によるリスク分散や、生産と開発の一体化による技術開発を重視 した国内立地として新たな産業集積地が形成されつつある。 地域シリーズ 39 1.企業城下町型集積の現状 (1)「企業城下町型集積」の定義 (注) 1 「企業城下町型集積」は、 「産業集積」 の 一つである。中小企業庁では、産業集積を、 ①企業城下町型集積、②産地型集積、③都市 型複合集積、④誘致型複合集積の4形態に分 類している( 『中小企業白書(06年版) 』 ) (図 図表1 産業集積の類型 産業集積のタイプ 企業城下町型集積 産地型集積 都市型複合集積 誘致型複合集積 特 徴 特定大企業の量産工場を中心に、 下請企業群が多く立地 消費財などの特定業種に属する企 業が特定地域に集中立地 戦前からの産地基盤や軍事関連企 業、 戦中の疎開工場などを中心に、 関連企業が都市圏に集中立地 自治体の企業誘致活動や、工業再 配置計画の推進によって形成 (備考) 中小企業庁『中小企業白書06年版』より信金中金総 合研究所作成 表1)。これによると、 「企業城下町型集積」 は、 成り立ってきたと言えよう。親企業の生産組 特定の大企業の生産拠点(工場)の周辺に、 織に組み込まれることによって、生産管理や 直接または間接の下請取引を行う多数の中小 新規顧客開拓のコストを少なくし、集積内の 製造業が立地することにより形成されている 中小製造業は生産工程に特化することで発展 集積と言える。集積の中では、 中小製造業は、 してきた。一方、特定の大企業や業種への依 自らの事業基盤を専ら取引のある大企業との 存度が高いため、業況はこれらの好不調に左 生産一体化に求め、その機能を特殊化してき 右されやすいという特徴を持っている。 た。一方、大企業は、こうした中小製造業を こうしたなか、近年、後述するような環境 いわば社内に準ずる組織として、自らの生産 変化を受けて、企業城下町型集積の状況は大 組織の中に組み込んでいった。この結果、両 きく変化しつつある。 『中小企業白書(06年 者間の関係が極めて密接となり、家電や自動 版) 』によると、企業城下町型集積の事業環 車産業の「ケイレツ」に代表される閉鎖的な 境の優位性について、20年前には多数の企 取引関係が形成されてきたと考えられる(注)2。 業が回答していた「地域企業からの受注の取 りやすさ」 、 「製品の納品先が近い」が減少し (2)「企業城下町型集積」の動向 ており、特定の企業や業種に依存することが 企業城下町型集積においては、いずれも特 難しくなってきたことがわかる。一方で、 「質 定の大企業に依存する割合が高いタイプの集 の高い情報の入手・交換」 、 「大学や試験研究 積であることから、地域の産業構造は特定の 機関利用の容易さ」を事業環境のメリットと 業種に傾斜することが多い。集積地域内企業 してあげる企業が増加しており、企業単位で への売上割合が他の集積地域と比較して高 市場の方向性を把握し、 ニーズにあった製品、 く、特定企業との取引を高めることで経営が 技術を投入できる環境もできつつあるという (注)1.「産業集積」の形成・維持の条件については、(1)産地の外部から需要を搬入する企業の存在、(2)産地の分業集積群 が外部の変化する需要に機敏に対応できる柔軟性、が重要であり、柔軟性の基礎的条件として、①技術蓄積の深さ、②分 業間調整費用の低さ、③創業の容易さ、が必要であるとされている。また、柔軟性を満たすには、①分業の単位が細かい、 ②分業の集まりの規模が大きい、③企業の間に濃密な情報の流れと共有がある、という3点が分業・集積のあり方として重 要とされる(伊丹他[1998])。 2.西岡正「企業城下町の変遷」(伊丹他[1998]) 40 信金中金月報 2007.1 ことができよう(図表2) 。この結果、企業城 また、 「広島湾地区」では、輸送機械の出荷 下町の特徴であった系列重視の垂直型の分業 額が全体の4割弱を占めるに至っている。こ から系列流動化による水平型分業へ、さらに れらは、いずれも全国平均を大きく上回って は業種、地域を超えた取引関係が見られるよ おり、特定業種への特化状況を示している。 うになってきている。また、そうした対応な しかし、97年との比較で見ると、両地区と しには産業集積としての存続が難しくなり、 も集積内における中心業種の事業所、出荷額 その意味で「企業城下町型集積」は大きく変 が減少し、 構成比でも、 「日立地区」では低下、 質を迫られている。 「広島湾地区」でもほぼ横ばいにとどまって 次に、事業所数、出荷額の動向から、企業 いる。 城下町型集積の状況を分析してみることとす 「日立地区」 、 「広島湾地区」は、それぞれ る(図表3、4) 。なお、ここでは、従来型の 中核企業である日立製作所、 マツダを中心に、 企業城下町と併せて、今回事例として取り上 その下請企業群が周辺に集積する典型的な企 げた比較的新しい集積も取り上げる。 業城下町である。そして、中核企業の主たる 従来型の企業城下町として、 「日立地区」 (日 事業である電機または自動車産業のグローバ 立製作所の発祥の地) 、 「広島湾地区」 (マツ ル化が進展する中で、中核企業はリストラ ダの発祥の地) 、新しい集積として「北九州 (事業再構築) 、海外展開などを余儀なくされ 地区」、 「鈴鹿・亀山地区」を取り上げる。 「日 ている。その結果、下請企業は中核企業から 立地区」では04年において、電気機械が全 の自立を促されているが、下請企業の中核企 事業所の約2割、全出荷額の約3割を占める。 業への物理的・精神的依存度が高く、こうし 図表2 事業環境の優位性の差異(企業城下町型集積) 地域企業からの受注の取りやすさ 製品の納品先が近い 特にない 分業による少量、多品種、短納期への高い対応力 量的な労働力の確保 安価で安定した原材料の確保 質の高い労働力(経験者等)の確保 質の高い情報の入手・交換 分業による量産発注への高い対応力 共同受注体制による地域外からの受注の取りやすさ 用水・用地等の整ったインフラ 都道府県等からのサポートの受けやすさ 20年前 現在 大学や試験研究機関利用の容易さ その他 0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50 (注)1.20年以上同一集積地域内で操業している企業のみ集計 ( 2.複数回答 (備考)中小企業庁『中小企業白書06年版』より信金中金総合研究所作成 (%) 地域シリーズ 41 図表3 主な企業城下町の事業所数・出荷額(2004年) ①事業所数 (単位:所、%) 全国 鉄鋼 非鉄 一般機械 電気機械 輸送機械 精密機械 小計 金属製品 プラスチック 食料品 小計 その他 合計 4,370 2,908 33,508 20,733 12,053 4,377 77,949 34,764 16,233 33,886 84,883 108,074 270,906 日立地区 構成比 1.6 1.1 12.4 7.7 4.4 1.6 28.8 12.8 6.0 12.5 31.3 39.9 100.0 19 30 130 229 83 31 522 123 82 108 313 316 1,151 広島湾地区 構成比 1.7 2.6 11.3 19.9 7.2 2.7 45.4 10.7 7.1 9.4 27.2 27.5 100.0 44 12 341 107 196 21 721 369 112 348 829 932 2,482 北九州地区 構成比 1.8 0.5 13.7 4.3 7.9 0.8 29.0 14.9 4.5 14.0 33.4 37.6 100.0 ②出荷額 74 17 230 138 56 14 529 274 69 236 579 614 1,722 構成比 4.3 1.0 13.4 8.0 3.3 0.8 30.7 15.9 4.0 13.7 33.6 35.7 100.0 鈴鹿・亀山地区 構成比 5 1.0 9 1.8 41 8.0 63 12.3 99 19.3 2 0.4 219 42.8 43 8.4 46 9.0 44 8.6 133 26.0 160 31.3 512 100.0 (単位:全国は十億円、その他は百万円、%) 全国 鉄鋼 非鉄 一般機械 電気機械 輸送機械 精密機械 小計 金属製品 プラスチック 食料品 小計 その他 合計 14,141 6,193 29,074 49,847 50,700 3,972 153,927 13,454 10,636 22,789 46,879 83,612 284,418 日立地区 構成比 5.0 29,749 2.2 372,675 10.2 335,625 17.5 477,153 17.8 34,494 1.4 26,433 54.1 1,276,129 4.7 62,537 3.7 70,144 8.0 47,852 16.5 180,533 29.4 176,166 100.0 1,632,828 広島湾地区 構成比 1.8 385,129 22.8 28,032 20.6 457,440 29.2 65,681 2.1 1,279,863 1.6 15,912 78.2 2,232,057 3.8 118,309 4.3 62,222 2.9 278,433 11.1 458,964 10.8 626,077 100.0 3,317,098 北九州地区 構成比 11.6 596,654 0.8 32,231 13.8 240,737 2.0 339,473 38.6 1,169,932 0.5 7,208 67.3 2,386,235 3.6 191,062 1.9 73,458 8.4 90,000 13.8 354,520 18.9 611,862 100.0 3,352,617 鈴鹿・亀山地区 構成比 構成比 17.8 24,162 1.1 1.0 115,825 5.2 7.2 165,498 7.5 10.1 311,959 14.1 34.9 1,264,711 57.2 0.2 ― ― 71.2 1,882,155 85.1 5.7 17,171 0.8 2.2 135,386 6.1 2.7 21,818 1.0 10.6 174,375 7.9 18.3 156,166 7.1 100.0 2,212,696 100.0 (備考)経済産業省「工業統計表工業地区編」より信金中金総合研究所作成 た経営体質からの脱却が進まないケースも多 輸送機械の構成比は低下しているのに対し、 い。このため、地域を超えた他地域メーカー 電気機械は10.6ポイントの顕著な上昇を見せ との取引が容易でないといった共通の課題を ており、電気機械への集積が急速に進展して 抱えている。 いる。 一方、比較的新しい集積の状況をみると、 日立、広島湾地区は、従来からの中核産業 「北九州地区」では、出荷額で鉄鋼、輸送機 の落込みをカバーする産業がみられないのに 械への特化がうかがえる。97年と比較する 対し、北九州、鈴鹿・亀山地区では、新たに と、出荷額は鉄鋼が減少しているのに対し、 地域経済を牽引していく産業が育ってきてい 輸送機械が増加しており、構成比でも輸送機 るといった違いがみられる。 械の顕著な上昇が見られるなど、 輸送機械 (自 動車)への集積が進んでいる。また、 「鈴鹿・ 亀山地区」では、出荷額で輸送機械が57.2% と過半を占める。しかし、 97年との比較では、 42 信金中金月報 2007.1 図表4 主な企業城下町の事業所数・出荷額の変化(97-04年) ①事業所数増減数 (単位:所) 全国 鉄鋼 非鉄 一般機械 電気機械 輸送機械 精密機械 小計 金属製品 プラスチック 食料品 小計 その他 合計 日立地区 構成比 △ 1,129 0.1 △ 690 0.1 △ 6,549 1.2 △ 8,165 △ 0.4 △ 1,465 0.7 △ 1,241 0.0 △19,239 1.6 △ 9,392 0.5 △ 2,247 0.8 △ 5,462 1.5 △17,101 2.9 △51,000 △ 4.5 △87,340 0.0 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ 3 0 20 134 4 2 163 42 7 31 66 117 346 広島湾地区 構成比 0.2 0.6 1.3 △ 4.4 1.4 0.5 △ 0.4 △ 0.3 2.1 0.1 1.9 △ 1.5 0.0 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ 北九州地区 構成比 5 0.2 8 △ 0.2 57 0.6 3 0.7 28 0.5 3 0.3 98 2.1 89 △ 0.2 10 0.5 47 1.0 146 1.3 314 △ 3.4 558 0.0 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ 26 1 53 27 10 7 124 74 12 85 171 236 531 構成比 △ 0.1 0.2 0.8 0.7 0.3 △ 0.1 1.7 0.5 0.4 △ 0.5 0.3 △ 2.1 0.0 鈴鹿・亀山地区 構成比 △ 1 △ 0.0 1 0.4 △ 14 △ 1.0 1 2.1 0 3.1 1 0.2 △ 12 4.8 △ 20 △ 1.9 △ 2 1.1 △ 9 △ 0.1 △ 31 △ 1.0 △ 54 △ 3.9 △ 97 0.0 構成比 0.9 △ 0.1 0.4 △ 0.7 6.9 △ 0.0 7.3 △ 0.5 0.8 △ 0.2 △ 1.7 △ 5.6 0.0 鈴鹿・亀山地区 構成比 △ 3.3 △ 0.1 △ 11.8 △ 1.0 48.6 2.2 315.1 10.6 △ 6.0 △ 6.2 ― ― 11.5 5.5 △ 26.9 △ 0.3 △ 43.3 △ 5.1 △ 4.9 △ 0.1 △ 38.9 △ 5.1 5.4 △ 0.4 4.3 0.0 ②出荷額増減率 (単位:%) 全国 鉄鋼 非鉄 一般機械 電気機械 輸送機械 精密機械 小計 金属製品 プラスチック 食料品 小計 その他 合計 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ 日立地区 2.9 13.8 10.7 17.4 6.9 11.8 7.6 25.8 1.8 5.9 11.8 19.0 12.0 構成比 0.5 △ 0.0 0.1 △ 1.2 3.1 0.0 2.5 △ 0.9 0.4 0.5 0.9 △ 3.4 0.0 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ 構成比 14.9 0.1 9.5 2.3 16.9 0.5 24.7 △ 2.3 53.6 1.0 22.9 △ 0.1 17.2 1.5 12.9 0.3 52.3 2.0 4.9 0.4 7.4 2.6 41.5 △ 4.1 18.8 0.0 広島湾地区 △ △ △ △ △ △ △ △ △ 30.4 68.1 27.3 16.5 12.5 47.4 10.5 29.0 5.4 4.0 11.0 25.6 13.8 北九州地区 構成比 3.9 0.4 △ 2.5 △ 0.1 0.6 0.2 2.5 △ 0.8 0.3 0.9 0.8 △ 3.4 0.0 △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ △ 13.8 27.8 13.2 23.1 2.0 20.6 8.6 24.2 24.8 23.9 17.4 41.7 18.0 (備考)1.構成比は04年と97年のポイント差 2.経済産業省「工業統計表工業地区編」より信金中金総合研究所作成 2.環境変化と対応の方向―自動車・ 電機を中心に の転換、海外生産の拡大、海外製品の利用の 拡大が進んでおり、下請中小製造業にとって 厳しい受注環境が続いている。外注利用の目 (1)環境変化―グローバル競争の激化 的も、製造コスト削減から、親企業が有して イ.親企業の事業再構築・海外展開 いない技術や能力を活用するケースが増加傾 自動車産業では、グローバル競争が激化す 向にあり、こうしたニーズに対応できる企業 る中で、完成車メーカーが「海外生産」 、 「国 と、 そうでない企業との格差も顕在化している。 内工場の統廃合」など生産体制の見直しを進 また、電機産業でも、白物家電や情報機器 めている。下請中小企業に対しての単価引き の量産品を中心に生産機能の再編成、海外生 下げ、品質管理の向上、納期の短縮、多品種・ 産シフト、部品等の海外調達など親企業の事 小ロット化への要求はますます強くなり、高 業再構築、海外展開が進んでいることは自動 度な技術力や提案力が求められるようになっ 車産業と同様である。 ている。親企業による外注先の選別、内製へ 地域シリーズ 43 ロ.親企業と下請企業の取引関係の変化 開を遂げ、国内空洞化も見られるような状況 自動車産業では、完成車メーカーが海外生 が生じている。したがって、中核企業が国内 産拡大等による「車種統合」 、 「部品の共用 立地を選択し、産業集積の中心的役割を担う 化」に伴って、 「系列外取引の拡大」など部 ためには、国内のみならず、海外も含めたグ 品調達の見直しを進めている。特定の親企業 ローバルな視点からの適地選択の動機や要因 と関連下請企業群との間の長期固定的な取引 が必要になっている。 関係は崩壊する傾向にあり、下請中小企業は これまで、企業立地を推進する地域にとっ 親企業への依存体質からの転換が求められて ての重要なアピールポイントは、①価格の低 いる。系列関係が流動化する中で、取引高最 廉性、②豊富な労働力、③交通インフラの整 多企業への依存度が低下する傾向(注)3にあり、 備、④マーケットへの近接性、などが挙げら 主要取引先からの受注減少に対応して、多く れた。最近では、最適生産地の世界的レベル の中小企業は受注先の多角化を進めている。 での競争のなかで、企業の求める条件は、① 電機産業の場合は、わが国メーカーが比較 川上・川下産業を含めた周辺の産業集積の充 的高い国際競争力のある電子部品で、試作・ 実度、②大学や研究機関を中心とした技術・ 開発、多品種・小ロットへの対応を中心に国 研究人材の蓄積、③労働者を支える福祉・医 内の高度な集積を担う中小企業の役割は大き 療・教育・環境など生活関連サービスの充実 いが、自動車産業と同様に、Q(品質)C(コ などが重要になってきたといわれる(注)4。 スト)D(納期)により企業選別が強まって 『 も の づ く り 白 書(06年 版 ) 』 に よ る と、 近年、わが国の製造業が国内に生産拠点を設 いる。 置するメリットを認識し、イノベーション創 (2)対応の方向―新たな集積の形成へ イ.グローバルな視点での立地選択への対応 「企業城下町型集積」を含む「産業集積」 出拠点として位置づけていることが明らかに なった。開発と生産の一体化によって技術開 発を加速し、集積している高度な部品・材料 の存立条件は、①産地の外部から需要を搬入 産業を活かすことによって効率的に事業を進 する企業の存在、②需要の変化に機敏に対応 めるという技術面を重視して国内に量産拠点 できる柔軟性にある(前出脚注1) 。しかし、 を維持しているとしている(図表5) 。後述 従来の多くの産業集積、特に、 「企業城下町 の事例でも見るように、中核企業は、新たな 型集積」においても、前述のように、グロー 労働力の確保、国内立地多様化によるリスク バル競争が激化する中で第1の条件である需 分散に加えて、技術開発を重視したマザー工 要搬入企業(中核企業)がリストラや海外展 場としての国内立地として新たな産業集積地 (注)3.「モノづくり中小企業の取引構造は、少数の取引先に密接に依存したものから、多数の取引先との薄く広い多面的な取引 へと、いわゆる取引構造の「メッシュ化」が進んでいると考えられる(『中小企業白書(06年版)』)。 4.三重銀総研「地域経済と企業立地」(03年4月) 44 信金中金月報 2007.1 図表5 国内生産拠点を維持すべき理由 開発と生産の一体化により技術開発を加速 できるため 59.7 国内の部材産業の集積や熟練工を活用した ほうが効率的であるため 59.7 最先端のキーデバイスや製造装置など製造 技術のノウハウの海外流出を防ぐため 43.8 人件費やエネルギーコストが競争力の決定 的要因とならないため 33.3 自動化などによるコストダウンの余地が大 きいため 21.9 0 10 20 30 40 50 60 70 (%) (備考)経済産業省、厚生労働省、文部科学省「05年度ものづくり白書」より信金中金総合研究所 ( 作成 を重視していると思われる。なお事例で取り がらも、国内立地を選択する理由がある。 上げた「北九州地区」 (自動車)と「鈴鹿・ 一方、中核企業を誘致する地域サイドも大 亀山地区」(電機)では、業種による技術の きく変わりつつある。 「企業城下町型集積」 性格(自動車ではプロセスイノベーション重 を対象とした地域振興政策も地域の変貌とと 視で、部品メーカーとの協業、開発依存度が もに変化し、近年、 「産業クラスター計画の推 強まる傾向があり、一方、電機では、技術革 進」など、広域連携をも視野に入れたよりダ 新が速くプロダクトイノベーション重視で、 イナミックな政策が打ち出されてきている。 内製化も強まる傾向がある。 )や、立地選択 また、最近では、地方自治体が地域の経営 理由の違い(自動車では、新たな労働力の確 資源を活かした独自の産業振興政策を打ち出 保、国内立地多様化によるリスク分散、電機 すとともに、外部からの企業誘致を競い合う では、生産と一体化した技術開発拠点が重視 など地域活性化に力を注いでいる。今回の事 される。)から、地域経済への波及効果等に 例で見るように、三重県の「クリスタルバレ 違いが出ている。 ー構想」 、北九州の「北九州モノづくり産業 このように、立地選択が海外も含めたグロ 振興プラン」などが打ち出されている。 ーバルな視点から行われ、産業集積の性格 も、これまでの「地域内の効率的な分業体制」 ロ.集積内の取引構造の変化―垂直分業から から「先取・創造的なものづくりを行う集積 水平分業へ 体」へ、 「すでに存在する市場」のほかに「新 集積内部での取引構造も変化しつつある。 たな市場を創り出す」機能が重要になってい る(注)5。そこに、グローバル化の中にありな 「企業城下町型集積」の特徴であった親企業 を頂点とする系列取引が流動化しつつあり、 (注)5.第8章「新たな産業集積を目指して」(中小企業総合研究機構「産業集積の新たな胎動」(2003)) 地域シリーズ 45 下請企業も過度の親企業依存からの自立化を 図表6 福岡県における北九州地区の位置 要請される中で、垂直型の分業から系列流動 北九州市 化による水平型分業へ、さらには業種、地域 苅田町 を超えた取引関係が見られるようになってき ている。事例でみる「北九州地区」 、 「鈴鹿・ 亀山地区」でも、前者では、自動車と半導体な 大分県中津市 ど自動車のエレクトロニクス化などに伴う産 業融合、後者でも、液晶産業と半導体、自動車 産業との取引が今後進むことが期待される。 既述のように、 企業城下町がこれまでの 「地 (備考)信金中金総合研究所作成 域内の効率的な分業体制」から「先取・創造 80年代に状況が一変し、近年は事業所数や 的なものづくりを行う集積体」へ、 「すでに 従業者数の減少、出荷額の低迷に苦しんでき 存在する市場」のほかに「新たな市場を創り た。北九州地域には、安川電機、東陶機器な 出す」機能が重要になっていることから、集 ど鉄鋼以外の機械金属関連の大企業が立地す 積内の先進的企業にとってはこうした機能に るほか、日産自動車(75年、福岡県苅田町、 対応できる産学連携や異業種間ネットワーク 以下 「日産九州」という。 )やトヨタ自動車 (92 づくりなど広範な事業活動が必要になってい 年、福岡県宮若市、以下「トヨタ九州」とい るのである。 う。 ) 、ダイハツ車体(04年、大分県中津市) 3.事例―注目される新たな「企業城 下町型集積」 (1)北九州地区(自動車) 以下では、自動車産業の集積として、北九 州地区(北九州市、苅田町等13市町、図表6) の操業開始後、数多くの自動車関連企業が進 出し、 「北九州地区」や隣接する「筑豊地区」 に事業所を設立している。こうした自動車関 連企業の進出により新たな自動車産業の集積 が形成されつつある(図表7) 。 完成車メーカーの生産拠点の海外展開が進 を中心としつつ、九州全体にも触れることと 展するなかで、なぜ国内か、さらに、なぜ九 する。 州かを考えてみると、前者については、海外 拠点の立ち上げに伴い、基幹人員を長期間派 イ.集積の経緯 遣することによる国内拠点の弱体化に対する 北九州地域は1901年に官営八幡製鉄所が 懸念があげられる。一定規模の国内生産の維 福岡県筑豊地域に石炭と海外からの鉄鉱石輸 持が、リスク分散の観点からも競争力を担保 入によって創業を開始して以来、鉄鋼業とと するうえでも必要であると判断されたと思わ もに発展を遂げてきた地域である。しかし、 れる。後者については、 ①人材確保の容易性、 46 信金中金月報 2007.1 図表7 北九州における完成車メーカーの生産拠点の概要 日産自動車九州工場 ト ヨ タ 自 動 車 九 州 宮 田 工 場、 ダイハツ車体大分工場 苅田工場 所在地 福岡県苅田町 福岡県宮若市、苅田町 大分県中津市 操業開始 75年 92年 04年 敷地面積 236ha 144ha 130ha 従業員数 約4,700人 約4,500人 約1,600人 年間生産能力 乗用車53万台 乗用車43万台、エンジン22万基 乗用車(軽含む)25万台 生産実績(05年度) 42万台 31万台 17万台 (備考)各社HP等より信金中金総合研究所作成 ②新鋭拠点の存在、 ③地震等のリスクヘッジ、 工場を立ち上げている。ダイハツ車体は当 ④インフラコストの低さ、⑤アジアへの近接 初年間15万台でスタートしたが、05年末ま 性などがあげられる。 でには20万台に増強し、06年中には25万台、 さらに07年末には48万台まで増やす予定に ロ.集積の現状 なっている。 現在、九州には3つの自動車組立工場があ このように、04年以前は年間約80万台で るが、そのうち生産能力が最も大きいのが日 あった自動車生産能力は05年までに年間100 産九州で年間53万台である。日産の国内車 万台を超え、07年末には140万台を超える見 両組立工場の中で最も多く、同社の重要な生 込みである。生産台数としても06年以降は 産拠点となっている。次いで生産能力が大き 100万台に届くと見られている(図表8) 。 いのはトヨタ九州である。05年9月の第2工 次に、九州の自動車産業の事業所の分布を 場の生産開始により、年間生産能力はそれま 見ると、北部九州地域に集中している。県別 での23~25万台から43万台へと一気に拡大 にみて最も多い福岡県においては、北九州市 した。また、05年12月には苅田にエンジン が最も多く、次いでトヨタ九州が立地する宮 図表8 九州の自動車生産台数と全国シェアの推移 (万台) (%) 100 90 80 9 8 生産台数 全国シェア 7 70 6 60 5 50 4 40 3 30 20 2 10 1 0 0 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005(年) (注)全国シェアは九州の乗用車生産台数が全国の乗用車生産台数に占める割合を示す。 (備考)九州経済産業局調査課資料より信金中金総合研究所作成 地域シリーズ 47 若市となっている。 自動車関連産業の事業所数を98年時点と 現在と比較すると、九州全体では687件から 863件と25.6%の増加となっている。 克服、ネットワークの拡大、地場企業の事業 拡大・自動車関連事業への取組み、などが必 要であろう。 地場中小企業の自動車部品への参入支援の 自動車関連産業の事業所のうち、地場企業 取組みとして、05年11月に「パーツネット は442件で52.3%、進出企業の事業所は403 北九州」が設立された。これは、自動車に関 件で47.7%となり、98年から06年にかけて地 心を持つ43社で構成されるもので、地場製 場企業の割合が約3ポイント上昇している。 造業の自動車産業への事業拡大、新規参入の 北九州地区における自動車産業の集積とし 促進とともに、他地域とも連携し北部九州で ての特徴を整理すると、①現状では完成車メ の部品現地調達率向上を目指すものである。 ーカーが設計開発機能や部品調達権限を持た これまでの活動としては、自動車メーカーと ず、生産機能に特化した組立加工拠点である の情報交換、見学会、会員同士の情報交換、 こと、②九州に進出してきた1次部品メーカ セミナー開催、展示商談会や中国自動車ミッ ーの多くは、東海や関東など既存生産拠点か ションへの参加などの活動を行っている。ま ら、物流コスト負担の大きい車体部品を中心 た、北九州市では、自動車産業参入・事業拡 に生産移管して操業する一方、小型で高付加 大のため、 設備投資や人材育成に対する助成、 価値な電子部品や生産設備に多額の投資を要 自動車メーカー現役社員・OBの派遣事業な するエンジン部品などの駆動系部品は、まだ ども行っている。 スケールメリットが働く生産規模にいたって また、北九州市の「モノづくり産業振興プ いないために生産移管がすすんでこなかった ラン」 (05年2月)によると、北九州地域は、 こと、が挙げられる(注)6。 発展してきた歴史的経緯から鉄鋼のウエイト が高いことから大企業の内製率が高く、下請 ハ.今後の課題 取引も系列関係が目立つとしている。今後は 北九州地区を中心に九州で自動車関連の産 北九州学術研究都市地域が「知的クラスター 業集積が台頭しつつあるとはいえ、まだ、未 創成事業」の地域指定を受け、システムLSI 成熟であり、形成段階にあるといえる。完成 技術とマイクロ・ナノ技術に関する研究開発 車メーカーを含め進出企業の域内における部 と事業化に取り組んでいることから、取引先 品調達は総じて低く、地場企業との(ないし の多様化、異業種間の連携、水平分業・ネッ 地場企業間でも)生産連携の広がりも十分と トワーク化が課題とされている。進出が進む はいえない状況にあると見られる。 このため、 自動車関連企業でも環境技術や電子技術での 産業集積を高めるためには、規模の経済性の 異業種取引が不可欠となっており、技術開発 (注)6.西岡正[2006] 48 信金中金月報 2007.1 やもの作りの面で集積メリットが活かされる 構造を形成し、活力ある地域づくりを目指 ことが重要である。 す」ことを基本的理念とする「クリスタルバ レー構想」を進めている(図表10)。これは、 (2)鈴鹿・亀山地区(電機) シャープ三重工場を中心とする既存の産業集 以下では、液晶を中心とする電機産業の集 積をさらに拡大させる形で誘致した同社亀山 積として、鈴鹿・亀山地区(図表9)を中心 工場を中心に、 「企業城下町型集積」を育成 としつつ、三重県全体にも触れることとする。 する取組みといえる。もっとも、シャープを 中心とする液晶産業にとどまらず、わが国の イ.集積の経緯 高機能電子部品素材、装置関連企業群が支え 三重県は、 「液晶をはじめとするフラット るFPD産業の集積を目指している点で従来 パネルディスプレイ(FPD)産業の世界的 型の「企業城下町型集積」とは異なってい 集積をつくることにより、多様で強靭な産業 る。FPD産業の集積を目指す理由は同産業 図表9 三重県における鈴鹿・亀山地区の位置 が、①液晶(LCD) 、プラズマ・ディスプレ イ(PDP) 、有機ELディスプレイ、電界放 出ディスプレイ(FED)を含み、裾野の広 亀山市 い産業であること、②市場規模の拡大が見込 鈴鹿市 める成長産業であること(経済産業省による と、ディスプレイ用デバイス市場は、2000 年5.1兆円から2010年には約12兆円に拡大す ると見込んでいる。 ) 、によるものである。 そもそも三重県の場合、大別して3つの既 存集積がある。第1に、四日市コンビナート に代表される石油化学関連産業、第2に、本 (備考)信金中金総合研究所作成 田技研工業鈴鹿製作所を中心とした自動車関 図表10 クリスタルバレー構想の概要 基本理念 目指すべき姿 6つの戦略 三重県に液晶をはじめとするFPD(フラットパネルディスプレイ)産業の世界的集積をつく ることにより、多様で強靭な産業構造を形成し、活力ある地域づくりを目指す。 1.国際競争を勝ち抜くFPD関連産業の生産拠点の集積 2.FPDに関連した最先端の製品群を進化させ続ける高度な技術知識の集積 3.FPD産業を支える多様な人材の育成と集積 1.クリスタルバレーの情報発信と情報推進体制の整備 2.核企業・関連企業に対する戦略的な誘致活動の推進 3.県内関連企業の変革と新事業創出の支援 4.国内・外の研究機関との連携支援および地域の研究・技術開発機能等の強化 5.魅力ある企業立地インフラの整備 6.FPD関連の知識・技術を持った人材の育成 (備考)三重県資料より信金中金総合研究所作成 地域シリーズ 49 連産業、第3に、シャープの液晶事業と、富 きいといわれる。技術開発拠点と生産拠点を 士通、東芝の半導体事業を中心とした電子部 国内に、かつ1か所に集約することで「開発 品・デバイス関連産業である。90年代まで と生産の密接なすりあわせが可能になり、た は、これらの3つの産業はそれほど強い関連 ゆまぬ改善が進む」 (シャープHP)としてお を持っていなかった。しかし、近年、その関 り、 「FPD産業の関連企業が多数集積してい 連が強まってきている。たとえば、石油化学 ることから、関連企業とのコミュニケーショ 関連産業での燃料電池への取組みや自動車関 ンを互いに深め、新規素材の開発や製品設 連産業での電子技術応用によるITS(高度道 計の開発スピードを飛躍的に高めることが可 路交通システム)の取組みなどである。液晶 能」としている(同) 。 産業については、JSR(旧日本合成ゴム)が、 亀山工場では、第1工場において、液晶パ 四日市工場内に液晶ディスプレイ向けフィル ネ ル 生 産(06年8月 か ら 月 産6万 枚 ) か ら、 ム製品生産のための光学フィルム工場を新設 液晶テレビ(月産10万台)までを一貫生産し している。 ている。また、05年7月に、シャープは、亀山 工場の敷地内に第2工場を着工、06年8月に ロ.集積の現状 中核企業としては既存の産業集積としてシ 稼動した。投資額は1,500億円にのぼり、第8 世代ガラス基盤を月産1万5,000枚生産する。 ャープ三重工場があり、さらに04年1月に稼 さらに、07年中に、第2期ラインを導入し、月 動した同社亀山工場がある(図表11) 。シャ 産2万枚への増強を予定している。こうした ープが亀山に進出した理由としては、①既存 動きに伴い、凸版印刷など部材メーカーも生 の三重工場(多気町)および天理工場(奈良 産増強に動いている。大手企業の研究開発機 県)といずれも約1時間という近距離に立地 能も徐々に集まりつつあり、県内における電機 し、生産連携が図れること、②シャープの進 産業シェアは今後さらに高まるとみられる。 出に地元行政が迅速に対応できたこと、が大 クリスタルバレー構想では、2010年まで 図表11 シャープ㈱亀山工場の概要 工場全体 所在地 三重県亀山市白木町幸川464 敷地面積 約330千m2 第1工場(着工02年9月、稼動04年1月) 第2工場(着工05年7月、稼動06年8月) 〈大型液晶工場〉 〈大型液晶工場〉 延床面積 約130千m2 延床面積 約279.1千m2 マザーガラスサイズ 第6世代:1,500×1,800ミリメートル マザーガラスサイズ 第8世代:2,160×2,460ミリメートル (32型なら8枚、37型なら6枚取り) (40型なら8枚、50型なら6枚取り) 投入能力 60,000枚/月 投入能力 15,000枚/月 〈大型液晶テレビ工場〉 延床面積 約77.6千m2 生産品目 26型以上の大型液晶テレビ 投入能力 100,000台/月 (備考)シャープ㈱HPより信金中金総合研究所作成 50 信金中金月報 2007.1 を構想の計画期間としており、当初は04年 年比約3割増となっているが、このうち、電 度までにFPD関連企業数で55社、FPD関連 子部品・デバイスが62%を占め、シャープ 事業所数で64拠点まで拡大させることを目 の液晶パネルの増産等から同約4割増となっ 標としていた。05年10月現在で企業数65社、 ている(図表12) 。 事業所数73拠点まで拡大し、目標を上回る ペースで順調に推移している。三重県による ハ.今後の課題 と、シャープ亀山工場と協力・関連企業26 シャープおよび関連企業の進出、取引拡大 事業所からの16年度の県税収入(法人事業 に伴う設備新増設が進捗している。 このため、 税+法人県民税)は約50億円となり、前年 02年には1社だけだったビジネスホテルが04 度の1.5倍に増加、県全体の収入の約7%を占 年には5社になるなどサービス業での波及効 めている。 果が現れている。しかし、関連製造業では県 また、亀山工場と協力・関連企業38社を 外企業の進出が多く、シャープおよび関連企 合わせた雇用者数は、05年5月時点で約5,700 業と地元企業との取引が今のところ少ないと 人、うち県内出身者が約7割を占めている。 も言われる。自動車部品メーカーの液晶テレ 特に亀山市内では住宅や宿泊施設の建設が進 ビへの参入(塗装業)や、自動車運送業者(液 み、交通量も大幅に増加しており、経済効果 晶関連原材料、製品の運送・保管)など地元 が広がっている。 中小企業との取引拡大も見られるが、地元信 県のクリスタルバレー構想は、シャープの 用金庫の貸出金でも、アパート、マンショ 液晶事業拡大の流れに乗って、集積の効果を ン建設資金の案件は見られるが製造業は少な 高めているといえる。ちなみに、三重県の電 いようだ。地元に多い自動車部品メーカーか 機産業出荷額(04年)は、2兆171億円で前 らの電機産業への参入には技術的な障壁もあ 図表12 三重県の電機産業の事業所数・出荷額推移 (所) (億円) 25,000 1,000 出荷額(億円) 事業所 20,000 900 800 700 600 15,000 500 400 10,000 300 200 5,000 100 0 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004(年) 0 (備考)三重県「工業統計」より信金中金総合研究所作成 地域シリーズ 51 り、ある程度時間もかかりそうである。雇用 城下町などの産業集積は重要な役割を果たし についても、増加はみられるものの、正社員 ているが、とりわけ企業城下町では中核企業 が少なく派遣社員やパート社員の割合が高い の海外展開や系列流動化が進み、大きな試練 といわれている。デジタル家電を中心とする に直面している。従来型の取引関係が崩れ、 電機産業では技術革新のスピードが極めて速 下請型中小企業は特定の業種、企業、製品に く、その変化に柔軟に対応するためにはやむ 依存した経営が難しくなっている。 を得ない側面もあるといわれる。今後は、地 それでも、自立化を促される中で、好調な 元中小製造業を中心に県外進出企業との取引 企業は自社の優位技術に経営資源を集中させ 拡大を期待する声も強いだけに、県の一層の たり、他社との提携など集積内資源を積極的 支援等により取引拡大による異業種間の融合 に活用するなどの対応を進めている。 が進むことが期待されよう。 3.おわりに 幸いにして、わが国製造業の国内立地件数 が3年連続して増加するなど、ここへきて生 産や投資に国内回帰の動きが見られるように 本中金総合研究所の「全国中小企業景気動 なってきた。こうした好環境を活かし、企業 向調査」によると、中小企業の景況は改善傾 城下町が新たな新産業の集積として生まれ変 向が続いているものの、地域別にはばらつき わっていくことが期待される。 も見られる。地域経済において、産地や企業 〈参考文献〉 泉谷渉『次世代ディスプレイ勝者の戦略』東洋経済新報社(2004) 伊丹敬之他『産業集積の本質』有斐閣(1998) 伊丹敬之+伊丹研究室『空洞化はまだ起きていない』NTT出版(2004) 機械振興協会『地域産業イノベーションの実態分析と成功要因』 (2005) 九州地域産業活性化センター『九州の自動車産業を中心とした機械製造業の実態及び東アジアとの連携強化によるグ ローバル戦略のあり方に関する研究』(2006) 経済産業省『工業統計表工業地区編』(各年版) 中小企業金融公庫『半導体・FPD関連産業における中小企業の現状と課題』 (2005) 中小企業総合研究機構『産業集積の新たな胎動』同友館(2003) 西岡正『グローバル時代の新たな国内産業集積の形成と課題―九州地域の自動車部品産業を事例として―』 (2006) 日本自動車工業会『日本の自動車工業2006』(2006) 日本政策投資銀行『企業城下町の挑戦-技術集積地域日立地区における変化の胎動』 (2001) 幕井梅芳『よくわかる電機業界』日本実業出版社(2003) 三重県『クリスタルバレー構想』(2005) 52 信金中金月報 2007.1 研 究 企業の農業参入を巡る最近の動向 -成長・注目分野シリーズ③- 信金中央金庫 総合研究所上席主任研究員 鉢嶺 実 (キーワード) 農業参入、新経済成長戦略、規制緩和、規制改革、構造改革特区、参入 支援 (視 点) 農業人口減少が深刻化するなかで、新たな農業の担い手として、企業の農業参入へ期待す る動きがここへきてクローズアップされている。06年6月に政府が打ち出した「新経済成長 戦略大綱」においても、一般企業等の農業参入を5年で3倍増とする目標が明記されるなど、 さまざまな規制緩和を進めることで、意欲ある担い手たる企業の農業参入を支援する動きは 地方自治体等へも広がりをみせている。それにつれて、地場建設業者などが農業分野へ参入 を図る動きが、全国の農村地域で散見されるようになってきている。 そこで本稿では、企業の農業参入の動きにあらためて着目し、農業参入を支援する政策的な 流れや参入企業の実情などを概観するとともに、併せて最近の農業参入事例2件を紹介する。 なお本稿は2006年度の「成長・注目分野シリーズ」の第3弾として取り上げたものである。 (要 ● 旨) わが国農業分野の担い手不足が深刻化するなかで、新たな農業の担い手台頭の動きのひと つとして、企業の農業参入がにわかに脚光を浴びている。 ● 規制緩和などによって企業の農業参入を支援する動きはもはや“国策”となりつつある。 農林水産省の調べによると、2006年9月1日現在、建設業者や食品会社など173社がすでに 農業参入を果たしている。ただし、収益面では苦戦している様子もうかがえる。 ● 企業の農業参入を支援する動きは、地域経済振興を目論む地方自治体等へも広がりを見せ ている。農村地域を営業エリアとしている地域金融機関にとっても、農業参入は既存取引 先の新たな動きのひとつとして、目の離せないものとなりつつある。 ● 具体的な動きとしては、公共工事縮減に悩む地場建設業者の農業参入事例が、農村地域を 中心に散見されるようになっている。 研 究 53 でいる。10年後あるいは20年後を見据えた 1.もはや“国策”となりつつある農 業参入促進策 場合、担い手不足の深刻化は、まさに“火を 見るよりも明らか”ともいえるような状況に ある(図表1) 。 わが国農業分野の担い手不足が深刻化する なかで、新たな農業の担い手台頭の動きのひ こうしたなかで、農林水産省が06年4月に とつとして、 「一般企業の農業参入」がここ 打ち出したわが国農業の将来ビジョンである 「21世紀新農政2006」では、国内農業の体質 へきてにわかに脚光を浴びている。 強化の一環として、 「担い手の育成・確保と すなわち、農林水産省の「農業センサス」 によると、わが国の農業就業人口は調査を重 新規参入の促進」にも言及、一般企業の農業 ねるごとに減少の一途をたどっている。直近 参入法人数を5年で3倍に増やすなどの数値 の05年調査では、農業就業人口は約334万人、 目標が盛り込まれるに至っている(図表2) 。 ちなみに、 「農業参入法人数を5年で3倍に 65歳以上の占める割合は実に58%にも及ん する」という数値目標は、財政再建 図表1 農業就業人口と65歳以上の占める割合 (千人) (%) 6,000 70 農業就業人口(左目盛り) 60 5,428 58.1 50 52.9 5,000 4,818 43.2 33.1 4,000 40 65歳以上の占める割合(右目盛り) 4,139 30 3,891 26.6 3,337 3,000 85 90 95 00 する政府の「新経済成長戦略」 (06 年6月)に付随した工程表や、いわ ゆ る「 骨 太 方 針2006」 (06年7月 ) でもその実行があらためて明記され ているような状況にある。意欲ある 20 担い手(一般企業)の農業参入の支 10 援は、いまや“国策”のひとつとい 0 05 (年度) (備考)農林水産省「農業センサス」をもとに信金中金総合研究所作成 と並んで成長戦略を政策の2本柱と っても過言ではない。 なお、前出の「新経済成長戦略」 図表2 国内農業の体質強化へ向けた担い手の育成・確保と新規参入の促進に関する目標 目標: (1)担い手の育成・確保 (2005年) 認定農業者 約19万5千 集落営農 約1万 認定農業者等への農地の 約5割 利用集積面積 (農業構造の展望(2015年) ) 効率的かつ安定的な家族農業経営 33万~37万 効率的かつ安定的な集落営農経営 2~4万 効率的かつ安定的な農業経営の経営面積 7~8割 (2)一般企業等の農業参入法人数を5年で3倍増 156(2005年度)→ 500(2010年度) (3)新規就農者数(39歳以下)毎年12,000人程度 (備考)農林水産省「21世紀新農政2006」(2006.4.4)より抜粋(一部信金中金総合研究所にて加筆修正) 54 信金中金月報 2007.1 では、地域サービス産業活性化へ向けた取組 2.着実に増加する農業参入企業 みの中で、医療介護や大学と並び、農業へ参 入する企業を地域金融機関が金融面から支援 企業による農業参入を支援する動きが、農 することの重要性も指摘されている状況にあ 林水産省によって「21世紀新農政2006」が る(図表3)。農業の担い手不足を参入者の支 打ち出される以前からすでに具体化しつつあ 援という形で解決していこうという流れは、 ることは周知のとおりである。 いまや大きな潮流になっているといえよう。 たとえば、05年9月に施行された改正農業 このように、近年の農業分野は、就業人口 経営基盤強化促進法によって、それまで構造 減少という衰退産業的なイメージとは裏腹 改革特区だけで認められていた一般企業の農 に、新たな担い手が台頭してその躍進を担う 地リース方式による農業参入が、一定の条件 べきという、いわば“成長・注目分野”のひ の下であるとはいえ、すでに全国で可能とな とつとしてクローズアップされつつあるのが っていることは、その典型といえる。 現状となっている。 なお、これに関連して農林水産省が06年 10月に公表したデータによると、06年9月1 図表3 地域サービス産業活性化に向けた取組み 医療介護 農業 大学 資金需要 資金調達の課題 ・最新機器の導入や改築等による資金 ・農地転用規制の緩和や株式会社参 ・国立大学の法人化により施設整備 需要増大 入の解禁により、企業の参入拡大 等に係る資金需要増大 ・病院倒産件数が増加 ・農水産品のブランド化等により、 ・地方私立大学の経営悪化 ・公的病院の経営効率化・再生が課題 資金需要増大 ・事業再生の必要性 ・従来の不動産担保主義は限界、介護 ・農地は担保不適格。売掛金や在庫 ・PFI手法や学校債等による資金調達 ビジネス等は担保物件無 の有効活用が必要 の大規模化が課題 ・事業者の情報開示不十分 ・事業者の情報開示不十分 ・事業者の情報開示不十分 ・経営ノウハウも低い。 ・経営ノウハウも低い。 ・経営ノウハウも低い。 ①アセットファイナンスの拡大 ②経営情報の透明化 対応策 ○ABL手法の普及啓発 ○財務管理サービスの育成 ○売掛債権や各種報酬債権 ○情報開示ガイドライン普及 等の流動化促進 ○農業・医療・大学版CRD ○公的金融による協調融資 ○大学破綻法制の整備 ○固定資産流動化規制緩和 ○資産と経営の分離」促進 ③直接金融の拡大 ○再生ファンド等の評価ベンチ マーク整備 ○社会的責任投資の推進 (備考)経済産業省「新経済成長戦略」 (2006年6月)をもとに信金中金総合研究所作成 研 究 55 図表4 組織形態別、業種別の農業参入法人数 参入法人数 組織形態別・業種別 業種別 株式会社 特例有限会社 NPO等 建設業 食品会社 その他 (NPO、第3セクター) 2006年9月1日現在 173 89 46 38 59 46 68 (2006年3月1日現在) (156) (80) (41) (35) (57) (41) (58) (2004年10月1日現在) (71) (37) (19) (15) (24) (21) (26) (備考)農林水産省「企業等の農業参入の状況について」(2006.10.20)をもとに信金中金総合研究所作成 図表5 営農類型別の農業参入法人数 参入法人数 米麦等 野菜 果樹 畜産 花き・花木 工芸作物 複合 2006年9月1日現在 173 34 67 22 6 5 4 35 (2006年3月1日現在) (156) (30) (65) (24) (6) (3) (5) (23) (2004年10月1日現在) (71) (15) (31) (11) (3) (1) (1) (9) (備考)農林水産省「企業等の農業参入の状況について」(2006.10.20)をもとに信金中金総合研究所作成 日現在、全国での農業参入企業等は80市町 村で173法人となっており、着実な増加基調 にあることがうかがえる。 ることを垣間見ることができる。 今後の“成長・注目分野”のひとつとして、 急速に脚光を浴びている農業分野ではある ちなみに、参入企業等を業種別にみると、 が、その一方で、 「収益をあげていくことは容 ①建設業が59(参入企業等全体の34.1%) 、 易ではない」という厳しい現実もあることに ②食品関係46(同26.6%) 、 などとなっている。 は留意しておく必要もありそうだ(図表6) 。 これはそれぞれ、①公共工事縮減に悩む地場 ちなみに、農業参入を果たした法人が参入 建設業者における新分野進出の動き、②消費 時に苦労・困難だったこととしては、 「農地 者の安全・安心志向等をにらんだ食品製造業 者による新しい調達戦略の動き、などが背景 になっているものとみられる(図表4、5) 。 ただ、その一方で、企業による農業参入が 厳しい現実に直面しているという実態を示す データもある。 図表6 農業に新規参入した法人の農業部門 1 の経営状況 その他 9% 営農開始間もなく 収支不明 30% 目標以上に黒字 2% 黒字だが納得できる ほどではない 5% 赤字だが経営次 第で目標達成 35% すなわち、農林水産省が農業に新規参入し た法人に対して実施したアンケート調査によ ると、農業部門で黒字を達成している法人は、 全体の1割にも満たず、収益面ではまだまだ 厳しい現実から脱却し切れていない状況にあ 56 信金中金月報 2007.1 赤字だが利益 期待していない 15% 大きな赤字で 経営転換を検討 4% (備考)農林水産省「農外から農業に新規参入した法人(同 ( 法人が参入している市町村を含む)に対するアンケート」 ( (2006.9.1) をもとに信金中金総合研究所作成 図表7 農業に新規参入した法人が参入時に苦労・困難だったこと 希望にあった農地の確保 42 初期投資に必要な資金の確保 38 販路の確保 31 農地の改良 79 参入手続きが面倒 16 地元との調整 15 その他 26 0 20 40 60 80 100(法人数) (備考)農林水産省「農外から農業に新規参入した法人(同法人が参入している市町村を含む)に ( 対するアンケート」 (2006.9.1)をもとに信金中金総合研究所作成 の改良」をあげる法人が最も多い(図表7) 。 のなかで、参入方法、参入可能区域、農地情 実態として“耕作に適した農地”に新規参入 報、参入事例、相談窓口などの情報を広く参 企業が巡り合うケースは少ないとみられ、参 照できる状況を構築しており、農業参入を検 入時に手がける「農地の改良」に予想外の手 討している企業等にとっては、大いに参考と 間とコストがかかることが、結果的に収益面 なろう。 で苦戦を強いられる原因のひとつになってい また、地域経済振興を目論む地方自治体等 るのではないかと思われる。これは、現行制 でも、たとえば、島根県では全国の都道府県 度下での農業参入が、いわゆる「耕作放棄地」 に先駆けて2002年度より専門相談員(農業 を中心に進められていることも背景にあると 参入促進スタッフ)を配置して、企業の農業 みられるが、こうした“見えない参入障壁” 参入を支援する体制を構築するなど、農業参 のようなものの存在が、結果的に円滑な農業 入支援を視野に入れた体制整備の動きは地域 参入の動きを阻害する要因となるおそれもあ 経済振興を目論む地方自治体へも広がりをみ り、今後の改善が望まれよう。 せている状況にある。 なお、参考までに図表8および図表9では、 3.地方自治体等へも広がりをみせる 農業参入支援の動き 島根県が策定した「農業参入マニュアル」な 企業の農業参入支援が国策となりつつある と「農業参入事例に見るポイント」を示して なかで、参入支援サイドの動きも国から地方 みた。一般企業にとっての農業参入は、まだ 自治体へと広がりをみせている。 まだ“わかりにくい”面があり、収益的にも どをもとに、 「一般企業の農業参入パターン」 農林水産省のホームページ(http://www. 楽観視できないのが実情ではあるが、近年で maff.go.jp/)では「法人参入支援のページ」 は自治体等の相談機能も充実してきており、 研 究 57 農業分野にビジネスチャンスを見出そうとす る企業にとっては、フォローの風が吹いてい るといえそうだ。 4.企業の農業参入事例 以下では、最近の企業による農業参入事例 として、島根県奥出雲町と北海道下川町のケ 図表8 企業の農業参入パターン 1.農地を利用する ①農地を取得する 対応方法 ■農地法に基づく農業生産法人を設立する。 農業生産法人については下記参照 【法人の形態】 有限会社、株式会社(株式の譲渡制限あり) 、農事組合法人 【事業】 主たる事業が農業及びその農業に関連する事業(農産物の加工販売、農作業の受託等)であり、そ の売上高が過半を占めること。 【主な構成員要件】 ・農業従事者、農地の権利提供者等 ・当 該法人と継続的取引のある個人、法人(産直契約者、生協等) 。ただし、これらの議決権が1/4 以下で、かつ1構成員あたり1/10を超えないこと。 【役員】 役員の過半は農業に常時従事(原則年間150日)する構成員 さらにこの役員のうちの過半は農作業に原則60日以上従事すること。 ②農地を借入する 対応方法 ■農地法に基づく農業生産法人を設立する。 上記の「農地を取得する場合」の農業生産法人の設立に同じ。 ■企業が直接農地を借入する。 ※農業経営基盤強化促進法により市町村が基本構想で設定したエリア区域内の農地 2.農地を利用しない 対応方法 ■企業として直接農業参入することが可能である。 【農業参入のパターン】 ●農地としては利用しない生産施設(例:温室、畜舎、菌床、椎茸生産施設等)を利用した農業経営 ※留意点/法律に基づく定款手続き変更等 ●農作業の受託 ※留意点/法律に基づく定款手続き変更等 (備考)島根県農林水産部パンフレット「島根県は「企業の農業参入」を積極的に支援します」などをもとに信金中金総合研究所 作成 図表9 農業参入事例に見るポイント ●規模拡大と作業の効率化等による労働環境改善 ●農産物の生産から販売に至る一貫経営 ●参入企業と地域が連携した産地づくり ●環境と調和した持続的農業(資源循環、減農薬・減化学肥料栽培等) ●消費者の安全・安心志向への対応(有機JAS認証、エコロジー農産物、トレーサビリティ等) ●商品の差別化・付加価値化(加工処理、栄養機能や糖度、鮮度等) ●マーケティング活動の徹底(消費者・小売業者等のニーズ把握) (備考)島根県農林水産部パンフレット「島根県は「企業の農業参入」を積極的に支援します」などをもとに信金中金総合研究所 作成 58 信金中金月報 2007.1 ースについて、それぞれの農業参入経緯の概 佐藤工務所が改良中の農地 略等を紹介する。 (1)島根県奥出雲町の農業参入事例 島根県仁多郡奥出雲町(05年4月に旧・横 田町と旧・仁多町が合併して誕生)では、公 共工事縮減に頭を痛める地場の土木建設業者 3社が、構造改革特区認定などを契機として それぞれ農業分野に参入、雇用維持などで一 定の効果をあげる一方で、06年に入り3社連 中村工務所が栽培中の農地 携の動きを強めつつあり、今後の動向が注目 されている。 島根県奥出雲町は、鳥取県、広島県との県 境に位置し、 「ヤマタノオロチ伝説」の地と しても知られている。近年、公共工事の縮減 と耕作放棄地の増加が深刻化するなかで、 旧・ 横田町の申請していた構造改革特区計画「奥 出雲来遠(らいおん)の里づくり特区」が 野での事業多角化(竹炭関連製品の製造等) 04年12月に特区認定を受けるに及び、一般 を実践していた旧・仁多町の有力土木建設 企業の参入によって地域農業の新しい担い手 業者(㈲植田工務店:従業員約20名)では、 を確保するための環境整備が積極的に進めら すでに特区認定を受けていた旧・横田町との れていた。 合併を契機として05年半ばごろより本格的 こうしたなかで、数年前より独自に農業分 図表10 島根県奥出雲町の位置 に農業参入、長らく未利用状態にあった国営 開発農地(いわゆる「開パイ」 )を利用して、 焼酎原料となるシモンイモをはじめとしたイ モ類の栽培をスタートさせた。 一方、旧・仁多町および旧・横田町内の有 力土木建設業者2社(㈱佐藤工務所:従業員 島根県奥出雲町 約45名、㈲中村工務所:従業員約40名)に おいても、特区認定を契機として、前出の㈲ (備考)信金中金総合研究所作成 植田工務店と同様、国営開発農地を活用する 研 究 59 形での農業分野参入を表明、05年半ばより (2)北海道下川町の農業参入事例 ㈱佐藤工務所では健康食品の原料となる大麦 北海道上川郡下川町では、公共工事縮減の 若葉やハトムギ若葉を、また㈲中村工務所で 中で事業多角化を模索する地場の土木建設業 は、将来の果樹観光農園化も視野に入れつつ 者3社が、 「フルーツトマト」と呼ばれる糖度 ブルーベリーやシーベリー等の栽培と有機栽 の高いトマトの栽培をベースに、地域振興を 培による杜仲茶の生産を、それぞれ本格的に 目論む下川町役場の働きかけを受けるような スタートさせた。 形で農業分野へ参入、地元企業と町役場が一 こうした状況のなかで、地元信用金庫の 媒介などが契機となって農業参入3社が連携 体となって実現した農業参入事例として、全 国的にも注目を集めつつある。 を模索した結果、06年3月には健康食品産業 の振興に寄与することを目的に「奥出雲町 北海道下川町は、北見山地と天塩山地に囲 健康食品産業生産者協議会(MOHG:Make まれた道北エリアの名寄盆地に位置し、森林 Okuizumo Healthy Group) 」を結成し、相互 資源が豊富なことに加え、2006年冬季トリ に協力し合いながら農業分野を軌道化させて ノ五輪のジャンプ競技で4人の地元出身代表 いくための事業基盤が構築されつつ現在に至 選手を輩出したスキーの町としても知られて っている。 いる。 3社の農業参入に共通しているのは、 公共工 近年、公共工事縮減などにより地域経済全 事縮減のなかでも 「雇用維持」に重点を置き、 体が活力を失いつつあるなかで、トマト栽培 地域経済を支える有力企業として、余力の生 を通じて地域振興を目指す下川町役場(㈶下 じていた経営資源(従業員や建設機械など) 川町ふるさと開発振興公社クラスター推進 を新分野(農業)へ投入していった点にある。 部)が、地元の下川町建設業協会に対しトマ 参入当初は、長らく放置されていた国営開発 ト栽培への参入を働きかけ、これに応えるよ 農地の改良に多くの手間やコストがかかるな うな形で会員の建設業者6社が、地元トマト ど、事業採算面では楽観できない状況はあっ 生産農家の全面的な協力も得ながら05年初 たものの、地域経済を支えようとする3社の 図表11 北海道下川町の位置 使命感に支えられるような形で、こうした困 難を乗り切りながら今日に至っている。 北海道下川町 今後については、販路拡大などが3社共通 の課題となっているが、協議会を通じた営業 活動を効果的に展開することにより、健康加 工食品原料向けやインターネット販売などの 販路拡大に努めていく意向である。 60 信金中金月報 2007.1 (備考)信金中金総合研究所作成 めよりトマト栽培の実習を開始した。 その後、 に根強いファン層を有しているため、常に品 「改正農業経営基盤強化促進法」の施行(05 不足(品切れ)の状態にあり、原料トマトが 年9月)によって一般企業の農業参入がしや 恒常的に不足するという事態が生じていた。 すくなったことを契機として、前出6社のう こうしたことから、下川町では、トマト栽培 ち中核企業の㈱谷組(従業員約45名)をは の新たな担い手確保が急務となるなか、近年 じめとした地場の有力土木建設業者3社が、 の公共工事縮減で新たな活路を模索していた 遊休農地を取得した下川町から農地を借り受 地元の土木建設業者へ白羽の矢を立てるにお ける形(特定法人貸付事業)で、06年春よ よび、今般の㈱谷組はじめ3社の農業参入が、 り本格的にトマト栽培をスタートさせた。ち 地元信用金庫の協力も得て実現したという経 なみに、3社の農業参入は、北海道の「建設 緯がある。 業等ソフトランディング対策モデル事業」に 今般のトマト栽培参入は基本的に3社それ も採択されており、05年9月の規制緩和によ ぞれが実施し、共同事業の形はとっていない る企業の農業参入としては道内第1号となっ が、 互いに隣接した場所で実施しているため、 ている。 農業機械は共同で利用するなど、一定の協力 下川町産のトマト(銘柄名:桃太郎)は、 関係も構築している。なお、3社の中でも中 水やりを極限まで抑えることで糖度を高めて 核的な存在である㈱谷組によれば、実質的な いるのが特徴で、いわゆる「フルーツトマト」 初年度にあたる06年の収穫状況は目標とす として、東京や大阪の一部の市場で高値で取 る水準には若干届かなかったものの、①中期 引されているほか、下川町の運営で食品加工 的には軌道化(収益化)できるメドも立ちつ も手がける農産物加工研究所において、 『ふ つあること、②投入資源を必要最小限に抑制 るさとの味100%とまとジュース「ふるさと するなど本業経営に無理のない範囲で手堅く の元気」』の原料としても利用されている。 実施していること(人員は専担者1名、初期 なお、このトマトジュース「ふるさとの元 投資額は総額で2,000万円弱程度) 、などから、 気」は、㈱谷組の関連会社が運営するインタ とまとジュース「ふるさとの元気」 ーネットショッピングモール「のーすもーる 北海道の森」 (http://www.northmall.jp/)を はじめとしたネット販売などを通じて全国的 谷組によるトマト栽培風景 研 究 61 今後も継続してトマト栽培に取り組んでいけ 手であるケースが多く、信用金庫などの地域 る素地は整いつつある。 金融機関と長年にわたって密接なつながりを 下川町の農業参入事例は、地域(下川町) と地元企業が一体となり、農業参入を通じて 有している地場有力企業であることも少なく ない。 地域振興に取り組んでいる事例として、今後 も注目を集めていくことになりそうだ。 おわりに 近年、農業者向け金融の拡大に注力する地 域金融機関が全国的に増加するなか、地域金 融機関と農業分野との接点は、既存取引先の 新分野進出(すなわち農業参入)という方向 近年、いろいろな形で農業分野が脚光を浴 からも増加していく流れができようとしてい びるケースが増えているが、こと農業参入に る。農業に活路を見出そうとする地場有力企 関しては、建設業者や食品加工業者など、農 業のみならず、農村地域を営業エリアとする 業分野以外の事業者が主役であることはいう ような地域金融機関にとっても、農業分野か までもない。また、当然のことながら、農業 ら目を離せないような状況が今後も続いてい 参入を目論む事業者は地域経済の主要な担い くことになりそうだ。 〈参考文献〉 経済財政諮問会議「経済成長戦略大綱」(2006年6月) 経済産業省「新経済成長戦略」(2006年6月) 島根県農林水産部農業経営課「企業の農業参入マニュアル」 農林水産省『平成18年版食料・農業・農村白書』 (2006年6月) 米田雅子『建設帰農のすすめ』(2005年版) 62 信金中金月報 2007.1 研 究 米銀の成長戦略 信金中央金庫 ニューヨーク支店次長 青木 武 (キーワード) 米国金融機関、生産性 (視 点) 「優れた金融機関」の定義は、唯一無二ではない。 『New York通信第17-3号』でいう「超 一流銀行の条件」のように、長期間安定した収益率を維持している金融機関こそ優れた金融 機関と考える見方もある。一方、株主の力が強い米国では、成長こそが優れた金融機関の条 件であるという考え方も根強い。金融機関が成長すれば利益が増え、利益が増えれば株価が 上昇し、株主価値が上昇するからである。また、日本の読者から見ても、以前は並の業績で あった金融機関が急成長し、利益を増加させていくプロセスには魅力を感じることと思われ る。そこで、本稿では、最近5年間に急成長した金融機関は何が違うのか、検証していくこ ととしたい。 (要 ● 旨) 成長銀行の多くは、成長している地区を基盤としているか、またはそのような地区に進出 している。リテールバンキングがリテール(小売)業である以上、立地条件は重要である。 ● 成長銀行は、非金利収入よりも伝統的な金利収入、特に貸出金を増加させて収入を増やす 一方、経費の伸びを抑え、その結果として急激な利益の増加を達成している。 ● つまり成長している地区に進出して、自行の得意分野を伸ばすことが成長の基本となって いる。 ● 成長銀行は、店舗数や職員数などのインフラ面を拡大しているが、それ以上に資産や収入 を増加させている。つまり成長銀行は、職員1人当たりの収入が多く、1店舗当たりの資 産等が大きく、効率的で生産性が高い。 研 究 63 目次 1.定義 2.データ比較 3.個別の成長銀行の検証 4.考察 取材協力先(注)1 参考文献 参考:成長銀行と比較対象銀行の5年間の成長率比較 1.定義 率は、ハイテク業界の雄であるマイクロソ フト社の場合は年率2.7%、インテル社の 銀行の成長を検証するためには、まず「成 場合は18%である。優良銀行であるバン 長」を定義する必要がある。成長の定義にも、 クオブアメリカは15.5%、ウェルズ・ファ 利益、総資産、預金、貸出等のうち、どの項 ーゴは8.6%、シティ Gは5.1%である。年 目の成長を重視するか選択することが可能で 率38%成長ということがいかに並外れた あるが、資本市場が効率的であれば、そうし 業績であるかということがわかる。なお、 た要素のすべては、株価に反映されるはずで データ収集の問題上、対象銀行は、すべて ある。例えば、最近5年間で最も株価が上昇 5年以上ナスダック等の米国有力市場に上 している金融機関(実際に上場しているのは 場していることを条件とした。 金融機関の持株会社であることが多いが、本 ②自己資本利益率(ROE)が10%以上 稿では金融持株会社、銀行持株会社も表現上 株価を成長させていても、利益を犠牲に は金融機関に含める。 )が、最も成長してい してしまっては意味がないので、ROEが る金融機関と定義することができる。 よって、 10%未満の金融機関は除外した。 具体的には、下記の条件を満たす金融機関を 本稿では、「成長銀行」と定義した(注)2。 ①過去5年間の株価が5倍以上(2001年3月~ 2006年3月) 株価が5年間で5倍以上になるというこ とは、年率38%以上で増加するというこ ③設立10年以上 設立したばかりの銀行であれば、もとも との株価が低いため、5年間で5倍になる ことは珍しいというほどではない。したが って、設立10年未満の銀行持株会社・銀 行は除外した。 とである。ちなみに、該当期間の株価成長 (注)1.本稿作成にあたり、巻末にあるとおり、銀行関係の方々に貴重な時間を割いていただき、多大なご協力をいただいた。 この場をお借りしてお礼申し上げたい。 2.株価関連のデータは主にYahoo! Financeから入手 64 信金中金月報 2007.1 ④2001年3月のROEが全銀行の下位25%では バレーを抱え、人口も流入し、地域として成 ないこと(つまり6.52%より大きいこと。 ) 。 長しているエリアである。したがって、住宅 たまたま5年前の業績が悪く、それが回 需要、建設需要も大きく、地域の金融機関と 復したため株価が急成長することも考えら して成長機会が多くあることになる。 つまり、 れる。「危機からの回復」というテーマで カリフォルニア州の銀行は、たまたま成長し あれば魅力的な銀行になるが、本稿の趣旨 ている地域にあるから成長しているという運 はあくまで普通の銀行が 「急激に成長する」 の要素が強く、銀行の経営として参考になる ことに注目しているため、5年前の業績が かどうかは、疑問がないわけでもない。 悪い銀行は除外した。 一方、同じカリフォルニア州にありなが ⑤2006年3月時点の時価総額が1億ドル以上 であること ら、株価がさほど上昇していない金融機関も 多い。また、 「運も実力のうち」と言えない ③と同趣旨であるが、もともと小さな銀 こともなく、成長著しい地区に積極的に営業 行であれば、成長率の分母が小さいため、 基盤を広げていったために運を呼び込み、成 成長率が高くなりがちである。また、日本 長した銀行も多いと思われる。 の信用金庫よりもあまり小さな銀行であれ このため、 「超一流銀行の条件」と同様に、 ば参考になりにくいため、株式時価総額が 本稿においても「比較対象銀行」を定義し、 1億ドル未満の金融機関は除外した。 その比較の上で論点を整理していきたい。比 こうして選び出された金融機関は、次の 較対象銀行は、成長銀行と規模・地区が類似 10行である(図表1) 。 しており、成長はしているものの成長銀行ほ ここで驚いたことは、全米で最も成長して ど高い株価成長率ではない銀行を選定した。 いる銀行10行中、7行は西海岸カリフォルニ さらに、成長銀行と同様に次の条件も加味し ア州の銀行という事実である。カリフォルニ て選定した(図表2) 。 ア州は、気候がよく、大都市ロスアンゼルス、 サンフランシスコ、サンディエゴやシリコン ①5年以上ナスダック等の米国有力市場に 上場していること。 図表1 成長銀行のリスト 番号 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 銀行(持株会社)名 バインヤード 第一リージョナル ウィルシェア オザーク プライベート(シカゴ) バージニア商業 フリーモント投融資 ビバリーヒルズ第一 センター 西シエラ 州 カリフォルニア カリフォルニア カリフォルニア アーカンソー イリノイ バージニア カリフォルニア カリフォルニア カリフォルニア カリフォルニア 年間株価成長率 (2001.3~2006.3) 73.8% 62.3% 63.0% 63.0% 50.6% 56.5% 43.1% 45.5% 43.8% 38.2% 研 究 65 図表2 比較対象銀行のリスト 番号 銀行(持株会社)名 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 コロンビア川 3郡 州中央 イベリア ボストン・プライベート メイン通り 西アメリカ ユナイテッドセキュリティ アメリカウエスト 西海岸 年間株価成長率 (2001.3~2006.3) 28.2% 30.3% 16.9% 26.9% 12.5% 15.9% 9.7% 21.9% 26.3% 24.6% 州 オレゴン カリフォルニア カリフォルニア ルイジアナ マサチューセッツ ジョージア カリフォルニア カリフォルニア ワシントン オレゴン ②設立後10年以上経過していること。 にも達している。いかに成長銀行の成長が著 ③2006年3月時点の時価総額が1億ドル以 しいかがわかる。 上であること。 それぞれの番号のうち、最初の番号が1で あれば成長銀行、2であれば比較対象銀行で ある。次の2桁の数字が成長-比較対象のペ 2.データ比較(データ詳細はP.79の (参考)を参照) (1)バランスシート項目 アである。つまり、成長銀行であるバインヤ 成長銀行、比較対象銀行および全銀行の ード銀行の比較対象銀行がコロンビア川銀行 2000年12月末から5年後の2005年12月末まで である。比較対象銀行といっても、失敗して の成長率(年率)を比較してみると、図表3 いる銀行ではなく、多くの銀行は年率20~ のとおりとなる。成長銀行である以上、総資 30%で株価を成長させているかなりの優良 産の成長率が高いことは容易に予想できる 銀行である。 仮に、比較対象銀行の株式に2001年3月30 図表3 バランスシート項目の比較 (注) 3 1 (2000.12∼2005.12) (%) 日に1ドルずつ、合計10ドル投資したとする 40 と、およそ5年後の2006年3月15日には2.7倍 35 の27ドルにもなっている。同時期に、ダウ 平均に投資したとすれば1.1倍、ハイテク銘 柄が多いナスダック平均に投資したとして 全銀行 25 20 15 (注)3.本稿の株価関連以外の金融機関計数のデータ出典は特に断りがない限り、連邦預金保険機構(FDIC)データベース 66 信金中金月報 2007.1 ティア1資本 運用資産 不良債権 預金 負債 0 貸出金NET ことになる。それでは、成長銀行10行に1ド 総資産 5 常勤役職員 較対象銀行は市場の2倍以上で成長している 国内店舗 10 2001年 の10ド ル は5年 後 に91ド ル(9.1倍 ) 比較対象銀行 30 も1.3倍にしかならないことを考えると、比 ルずつ投資していればどうなるかというと、 成長銀行 が、実際に、成長銀行の総資産成長率(10 行の成長率の単純平均。以下同じ。 )は、年 図表4 損益計算書項目の成長率 1 (2000.12∼2005.12) (%) 率ベースで32%となっており、比較対象銀行 50 10行の単純平均19%、全銀行の総資産成長 40 率8%を大きく上回っている。なかでも、貸 30 出金の成長率が年率34%となっており、成 長銀行は貸出金を増加させることにより、収 入を増加させていることがわかる。一方、不 成長銀行 10 当期利益 物件費 人件費 非金利費用 非金利収入 金利利鞘 -10 金利費用 が増加している割には不良債権の成長率は比 金利収入 0 時点では必ずしも貸出金の急成長が信用リス 全銀行 20 良債権の成長率を見ると、成長銀行は貸出金 較対象銀行よりも低く、少なくとも2006年 比較対象銀行 クの増大にはつながっていない。つまり貸出 その分調達コストである金利費用も増加して 基準を甘くして貸出を増やしているわけでは いるが、金利収入の成長率の方が高いため、 ないことがわかる。また、基礎的な自己資本 金利利鞘の成長率は大きくなっている。対象 であるティア1資本も貸出金増加率を上回る 期間である2000年と2005年末を比較すると、 率で増加しており、貸出増加にともなうリス 金利は下降局面にあり、つまり比較対象銀行 ク増加のバッファーとしての自己資本も増加 や全銀行がそうであるように、調達規模が大 していることがわかる。なお、店舗数や常勤 きく変わらないのであれば、調達コストは下 役職員数に関して、成長銀行と比較対象銀行 がる環境であった。それにもかかわらず、成 との差は有意な差ではなく、必ずしも物理的 長銀行において金利費用が上昇しているとい な成長が貸出金や利益の成長とはリンクして うことは、 貸出金の成長があまりに速いため、 いないことがわかる。 ある程度コストをかけてでも調達をする必要 があり、それでも貸出の金利収入が調達費用 (2)損益計算書項目 を上回っているため、利鞘が拡大しているこ 通常、企業の利益が増加すれば株価は上昇 とがわかる。一方、非金利収入の成長率に関 するため、株価上昇の最大の要因は利益の上 しては、成長銀行も比較対象銀行も有意な差 昇といえるが、成長銀行の当期利益の成長率 はなく、つまり成長の鍵とはなっておらず、 は年率46%にも達しており、これは5年間で 成長銀行は貸出という従来型のビジネスを急 利益が6.6倍にもなるという猛スピードの成 拡大して収益を増やしていると考えられる。 長率である。これを図表4から分析してみる また、人件費・物件費といった経費の増加率 と、成長銀行は特に金利収入の成長率が高く、 に関しても、成長銀行と比較対象銀行の差は 研 究 67 小さく、つまり成長銀行は、金利収入が増加 しているということは、収入の伸びが経費の している割には経費の伸びは低く抑えられて 伸びを大きく上回っており、その結果、経費 おり、その結果、比較対象銀行よりも最終的 率が下がっているということになる。また、 な当期利益が大きいという状況になっている 貸出が増えているため、預貸率が成長銀行に ことがわかる。 おいて増加していることは当然であるが、貸 出や総資産における不良債権の比率はむしろ (3)諸比率 低下しており、やみくもに貸出基準を下げて 総資産当期利益率(ROA)や経費率(経 融資を拡大しているわけではないということ 費/(金利収入-金利費用+非金利収入) ) も改めて確認できる。また、自己資本比率 などの諸比率に関しては、比率の成長率では (BIS型リスクウェイト式)も成長銀行にお なく、2005年末の10行の諸比率の単純平均 いて上昇しており、やはり安全性も確保され から2000年末の比率を引き算すると、図表5 ていることがわかる。 のようになる。金利低下局面であったことか ら、運用利回り、調達利回りはいずれも低下 (4)効率性 しているが、ROAおよび自己資本当期利益 「超一流銀行の条件」においては、超一流 率(ROE)に関しては、成長銀行において 銀行とその比較対象銀行の最大の違いの一つ 大きく改善していることがわかる。その最大 は効率性であった。今回、成長銀行とその比 の理由が経費率の低下である。ここでいう経 較対象銀行とを比較してみると、ここにおい 費率は経費の収入(粗利)に対する割合であ ても効率性関連の指標が大きく異なっている る。よって、成長銀行において経費率が低下 ことがわかる。職員1人あたり資産の成長率 図表5 諸比率の差(2005年12月の比率マイナス2000年12月の比率) (%) 20 成長銀行 比較対象銀行 全銀行 15 5 0 -5 -20 -25 68 資産運用 利回 資金調達 利回 金利利鞘 信金中金月報 2007.1 roa roe 償却率 経費率 不良債権 /総資産 不良債権 /貸出金 預貸率 BIS式自己 資本比率 (2000.12~2005.12の成長率を年率換算。以 員が有能でよく働いていることが成長の最大 下同じ。)、1店舗あたりの総資産、職員1人あ の秘訣となっていると考えられる。 たりの収入(金利収入-金利支出+非金利収 (5)成長の方法 入)に関しては、いずれも、成長銀行が比較 対象銀行を有意に上回っており、比較対象銀 成長銀行はどのようにして成長しているの 行は、全銀行とさほど変わらないことがわか であろうか。成長の方法には、①他行を買収 る。つまり、比較対象銀行も店舗や職員数の する、②支店を増やす、③営業マンを増やす、 増加率などのインフラ面に関しては、成長銀 ④何らかの方法によりインフラはそのままで 行並みに高いにもかかわらず、成長銀行に株 総資産や利益を増やす、またはそれらの組み 価成長率が及ばない最大の原因の一つが、こ 合わせが考えられる(図表7) 。まず、買収に の効率性にあることが考えられる(図表6) 。 関しては、成長銀行も平均的には、この5年 このように成長銀行は、支店の数や職員数の 間で1回以上の合併、買収を行っており、積 増加率と比較して、貸出金などがより大きく 極的ではないとはいえないが、比較対象銀行 増えている、つまり効率性がよい、または職 の方がむしろ多い傾向がある。一般に、金融 機関が他の金融機関を買収したり合併したり 図表6 パーヘッド・パーブランチの成長率 1 (2000.12∼2005.12) すると、総資産は増加するが、株価は上昇す (%) 20 18 成長銀行 比較対象銀行 るとは限らない。つまり、本稿でいう成長の 全銀行 定義が総資産増加率ではなく株価の上昇率で 16 ある限り、合併・買収が必ずしも成長のため 14 の最適な手段ではないことは理解できる。 12 10 次に、支店の増加率については、成長銀行、 8 比較対象銀行とも全金融機関を大きく上回っ 6 4 ており、特に成長銀行における支店増加率が 2 高いが、総資産や当期利益の増加率の差に比 0 職員1人当たり資産 1店舗あたり資産 べると差は小さく、これは従業員数の増加率 職員1人あたり収入 図表7 成長の方法の比較(注)4 買収件数 増加 支店数 職員 増加率 総資産 増加率 当期利益増加 率 成長銀行 1.25 11.8 16.0% 32.3% 46.4% 比較対象銀行 2.43 9.40 13.9% 19.1% 18.5% 全金融機関平均 0.10 0.68 2.35% 7.83% 10.5% (注)4.いずれも2000.12~2005.12の5年間の比較だが、増加率は年率換算。データ出典は合併データは連邦準備銀行(FRB)そ れ以外は連邦預金保険公社(FDIC)。全金融機関平均の合併件数1金融機関当たり平均のみ2001~2002年の2年間の平均に 5/2を乗じた。 研 究 69 においても同じことがいえる。つまり、成長 らである。また、カリフォルニア州以外の3 銀行は、合併や買収もある程度は行っている 行は、まさに経営が優れているから株価が上 銀行もあり、支店の出店には意欲的であり、 昇しているのである。 従業員も増加させてはいるが、そうしたイン 実際には、この仮説①②とも正しいように フラの増加分以上に総資産や利益が増加して 思われる。 リテールバンキングがリテール (小 いる、つまり効率性が飛躍的に上昇している 売)業である以上、その立地条件が重要であ ため、成長している部分が大きいことが確認 ることは論を待たないであろう。一方、必ず できる。 しも成長していない地区の成長銀行は、どの ここまで見てくると、銀行が成長するため ようにして成長しているのかについては、日 には、買収を行ったり、従業員を増やしたり 本の読者にとってより興味のある内容と思わ 支店を設立するなど、物理的に大きくなるこ れる。よって、次章では、成長銀行の成長の とは必要ではあるが、その効果を増幅させて 秘訣について、カリフォルニア州以外の成長 さらに成長しているかどうかが成長銀行と比 銀行を対象により深く定性的に検証してみる 較対象銀行との大きな違いであるように思わ こととしたい。 れる。 そこで2つの説が考えられる。①成長銀行 の多く、実に10行のうち7行はカリフォルニ 3.個別の成長銀行の検証 (1)オザーク銀行(アーカンソー州) ア州の銀行である。カリフォルニア州は、ハ オザーク銀行は、総資産20億ドル(約2,300 イテク産業が発達し、人口が流入し、その結 億円、$1=¥115換算。以下同じ。 ) 、米国南 果住宅需要が増加し、住宅の価格は上昇して 部アーカンソー州の地方銀行である。アーカ いる。つまり、そこに存在する銀行からみれ ンソー州は、ビル・クリントン前大統領の出 ば、普通に住宅ローンや住宅関連建設ローン 身地であり、世界最大の小売業者ウォール を出しているだけで自動的に収益があがる状 マート社の本拠地であるが、それ以外では、 況ともいえ、つまり成長銀行が成長している 特に目立たず、州内総生産は全米50州中34 のは、たまたま地元で不動産ブームが起きて 位(2004年) 、州内総生産増加率は全米39位 いる、つまり単に運が良いに過ぎない。②カ (注) 5 (1997~2004年) 、1人当たり所得では全 リフォルニア州の銀行が、すべて成長銀行並 米50州中48位といった地味な州である。少 みの高度成長を遂げているわけではなく、同 なくとも、州内総生産1位、独立国だとすれ じくカリフォルニア州にある比較対象銀行と ば、OECD諸国並みの経済規模を持つカリフ 比較しても成長銀行の成長が顕著であるとい ォルニア州とは比較にならないほど銀行の成 うことは、やはり優れた経営を行っているか 長にとっては難しい環境である。しかしなが (注)5.出典:商務省経済分析局(BEA) 70 信金中金月報 2007.1 図表8 オザーク銀行の株価 (ドル) 1,200 オザーク Yahoo 1,000 800 600 400 200 (月/日) 4/2 7/2 10/1 1/2 4/1 7/1 10/1 1/2 4/1 7/1 10/1 1/2 4/1 7/1 10/1 1/3 4/1 7/1 10/3 1/3 01年 02年 03年 04年 05年 06年 ら、このアーカンソー州を本拠地とするオザ ーク銀行の成長ぶりは目覚しい。 図表8は、もし2001年4月当初に$100投資 していたら、約5年後の2006年3月初めには ・5年 間 成 長 率( 年 率 換 算 ) : 総 資 産21 %、 当期利益36%、株価63% ・組織:持株会社の下に1つの子銀行および 関連会社を持つ。店舗は59店舗 株価はどうなっていたかという状況を示すグ ラフである。オザーク銀行の株価は、なんと ②新規出店戦略 $1,014にもなっており、仮に同時期にハイテ オザーク銀行の成功の鍵は、独特の新規支 ク企業であるYahoo社に$100投資していた 店設立成長戦略とその実行力にある。オザー としても、$320にとどまっており、いかにオ ク銀行では図表9にあるとおり、1995年以降 ザーク銀行の成長が並外れているかがわかる。 積極的な新規店舗設立により業務を拡大して いる。 ①同行の概要(2005年12月末) ・設立:1903年(ただし、現在の経営者と なったのは1979年) 同行は、現在のCEOであるグリーソン氏 が25歳のときに実家の農場を担保にして借 金をし、買収した小銀行が発端である。その ・連結総資産:2,127百万ドル(約2,450億円) 後、1994年にその借金を返済できたことか ・連結ROA:1.78%、連結ROE:22.84%(同 ら、新規出店による拡大を行うこととした。 規模平均はそれぞれ1.37%、12.78%) ・経費率:42.26%(同規模平均は56.79%) ・非金利収入/収入:20%(同規模平均は 35%) ・不良債権および償却/貸出金:0.36%(同 規模平均は0.88%) 図表9 オザーク銀行の店舗数 年 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 店舗数 4 7 6 9 10 16 19 年 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 店舗数 23 24 28 33 42 51 59 研 究 71 当初は、田舎の小さな町が拠点であったが、 出したとしても、同行は他行とは異なり、マ すこしずつ大きな町、より高く成長している ーケットシェアの最大化ではなく、最適化を 町にステップ・バイステップで進出していっ 目指している。つまり、限界コストが限界収 た。1994年当時にこの戦略を始めたときは、 入を上回ってもシェアを広げるつもりはな これからはATMやテクノロジーなどにより、 い。この考えのもと、その24の進出予定郡 もはや銀行の支店など必要ないといわれてい のキャパシティを分析し、同州内には合計で たが、今となっては、どの銀行も支店の重要 現在56店に対し、83の店舗が必要であると 性を理解し、支店不要論が誤りであることを 考えている。 理解している。同行が拡大計画を行うよう になった1994年から2005年までの11年間で、 貸出金は年率換算で25.5%、預金は24.1%、 ③経営者インタビュー 同行は、いかにしてこれだけの業績を上げ 当期利益は24.0%、1株当たり利益は20.1% 続けているのであろうか。同行のジョージ・ で増加している。 グリーソン頭取との個別インタビューにより ただし、同行が闇雲に拡大しているわけで その秘密を探る。 はない証拠として、 同行は不良債権が少ない。 Q:成長戦略に必要なものは何か。 過去8年間の償却率は業界平均の約3分の1の A:適切な人材を見つけることである。正し 水準となっている。また、利益を犠牲にして い人材であれば、市場が不利な状況であっ いるわけでもない。同行の金利利鞘は4.19% ても成功するし、誤った人材であれば、市 と、同規模平均の3.88%より厚い。さらに、 場がよくても中くらいの結果しか残せな 経費率が低いことも同行の強みである。その い。人材がナンバーワンの要素である。 結果として、2005年のROA、ROEとも同規 Q:適切な人材とは何か。 模金融機関平均よりも高い。 A:人材にとって必要な要素は、経験のある 同行の拡大計画は、細心かつ大胆である。 ベテランであること。そのコミュニティに 同行は、本店の周辺に無秩序に支店を設置し 深く根付いており、客がついていて、その ているわけではなく、合理的な計算に基づい 人材を引き抜けば客も一緒についてくるこ て進出エリアの決定を行っている。具体的に と。 それから一番大事なのは行動力である。 は、アーカンソー州の75の郡(注)6のうち、3 どのような優れた審査能力があったり、新 分の1にあたる24の郡は進出に値すると考え 規開拓能力があっても、勝ちたいという意 ている。残りの郡は人口密度も低く、成長が 欲と行動力がない者は、チャンピオンには 見込まれないことから、進出しない。また進 なれない。例えば、採用面接の時に、丸テ (注)6.米国の「郡」は、州内の比較的小さな行政区分である。日本の郡とは異なり、町村だけでなく大都市もいずれかの郡に 属している。 72 信金中金月報 2007.1 ーブルに5~6人の採用候補者が座ってい った場合でも、当行に来てくれることがあ て、私が彼らの話を聞いているとしよう。 る。なぜか?これもやはり形には表れない いずれも、経験のある優秀なバンカーだと 要素であるが、 強いプロフェッショナルは、 しても、その中で1人くらい、形には表れ 勝っているチームに入りたいからである。 ない、強いキャラクターを発揮している者 野球でも一流のプレーヤーは、自分の年棒 がいるものである。そうした強い個性のあ だけでなく、そのチームに入れば優勝でき る人物であれば、厳しい状況の中でも、道 るかどうかを重視するはずであるが、それ を切り開いていくものである。 と同じである。長いキャリアのうち、強い Q:貴行はどのようにして、高い成長率、低 チームにいたという経験は、例えばそのと い不良債権、高い収益性を両立させている きの報酬が多少低かったとしても、その人 のか。 のキャリアにとってプラスになるからであ A:当行の審査基準は厳しく、普通の銀行で る。こうした企業文化のような無形の資産 あれば認められるであろう貸出案件のう は、カネよりも大事なことがある。このよ ちの4分の1は審査上の理由で却下される。 うにして、正しい人材が見つかればよい。 また別の4分の1は、金利など業務・収益 その人の顧客にとっても、自分のバンカー 上の理由で却下される。つまり、 当行では、 が勝っているチーム(銀行)にいると心配 普通の銀行よりも半分しか融資案件が通ら しないものである。逆に、カネだけで人を ない。それでも、 当行の貸出金の増加率は、 釣ると、またカネだけで逃げるし、カネが 普通の銀行の2倍である。なぜか?普通の なければ生産性もあがらない。 銀行の4倍の量の案件を見ているからであ 私は、この銀行を成長させることを決意 る。そうしたことができる人を雇うのが経 した11年前、いいバンカーに会ってはう 営の鍵である。 ちに来て働いてくれと頼んだ。多くの人は Q:それだけ優秀なバンカーであれば、他の だめであった。しかし、めげずに優秀なバ 銀行も欲しがるので、獲得は容易ではない ンカーを訪ねて話をした。今では、当行は のではないか? 勝っているチームなので、人材は獲得しや A:もちろん獲得は容易ではない。ただし、 すくなった。 まずはそうした優秀なバンカーを、つまり Q:どのようにして貴行は、アーカンソー州 誰が本物かを見つけることである。もし見 のようなあまり成長していない州で成長し つかれば、次に誘いをかけることである。 ているのか? こうした場合に必要なのは、給与水準など A:アーカンソー州の中で、有望な市場を探 の目に見えるものだけではない。給与水準 すためには、その地域の属性をよく知るこ が同じレベルか、場合によってはやや下が とが必要である。また、当行は年率20% 研 究 73 で成長しているが、アーカンソー州のうち ので、再び借金をして銀行を買収すること の伸びている地区といってもそれには及ば は考えられなかった。一方、この銀行を成 ない。よって、当行の成長の多くは、競争 長させて上場させるのが夢であった。つま により他行から得た顧客によるものであ り残された道は、新規に支店を設立するこ る。このため、新規に出店する地区を探 とだけであった。そのビジネスモデルを考 すときは、その地区の人口や経済が成長し 案し、テストし、そしてそれは機能した。 ていることが前提であるが、さらに、その 地区の競争相手が強いか弱いか、もかなり 大事である。当行は2000年くらいまでは、 (2)プライベート銀行(シカゴ) プライベート銀行は、オザーク銀行と同様 主に大銀行から顧客を奪っていた。最近で に3行しかないカリフォルニア州以外の成長 は、当行より小さい銀行からも顧客を獲得 銀行の1つである。カリフォルニアの銀行は、 している。大きな銀行から顧客を獲得でき 地元不動産市況の活況により成長しており、 る理由は、サービスレベルが違う、人材が オザーク銀行が独自の新規支店設立戦略で成 違う、または単に先方でトラブルがあるか 長しているが、このプライベート銀行は、地 らである。大銀行は一貫性がなく、よく方 元の「小金持ち」市場というニッチに集中す 針が変わり、中小企業からみると、いつ取 ることにより飛躍的に成長しているユニーク 引を切られるかわからないという不安があ な銀行である。 る。当行はサービスがよく、方針も一貫し ている。一方、当行より小さい銀行は、ア ①同行の概要(データは2005年12月) ーカンソー州に169行あるが、彼らには十 ・設立:1991年 分なサービスや商品がない。住宅ローン、 ・連結総資産:3,485百万ドル(約4,000億円) キャッシュマネジメント、信託、支店網、 ・連結ROA:1.27%、連結ROE:14.46%(同 貸出上限額などが十分ではない。我々の銀 規模平均はそれぞれ1.37%、12.78%) 行規模は、大銀行と小銀行の中間であるた ・経費率:44.81%(同規模平均は56.79%) め、両方のよいところを持っている。 ・非金利収入/収入:14%(同規模平均は Q:現在の新規支店設立戦略を1994年に開始 した時は、今のように成功するだろうとい う確信はあったのか。 A:確信はなかった。私は、25歳の時に借金 をしてこの銀行を買い、その後2つの銀行 も買った。そして1994年についに借金を 返した。もはや借金にはこりごりしていた 74 信金中金月報 2007.1 35%) ・不良債権および償却/貸出金:0.03%(同 規模平均は0.88%) ・5年 間 成 長 率( 年 率 換 算 ) : 総 資 産24 %、 当期利益36%、株価50% ・組織:持株会社の下に3つの子銀行および 関連会社を持つ。店舗は13店舗 ②経緯・概要 2002年以降はアセットマネジメント会社、 同行は、スイスのプライベートバンクをモ モゲージバンカー、デトロイト郊外のプライ デルにしたヨーロピアンスタイルのプライベ ベートバンクを買収した。つまり新設と買収 ートバンキングを目指している。アメリカ型 の両方を適宜行って成長している。同行によ の銀行は、バイスプレジデント(課長・次長 ると、どちらが良いかはケースバイケースで 級)、シニアバイスプレジデント(部長・役 あるが、いずれの場合でも重要なのは適切な 員級)など縦型の序列組織となっていること 人材がいるかどうかであるという。新設の場 が普通であるが、同行は約380人の職員のう 合は、その地に適切な人材がいればやるし、 ち、114人がマネジング・ディレクター(MD) 買収の場合もターゲット会社の人材がよいか と呼ばれる20~25年もの経験を持つプライ どうかが鍵である。 ベートバンカーであり、組織も横長のフラッ 同行の特徴は、MDと呼ばれるプライベー トなプロフェッショナル集団となっている。 トバンカーであり、この数と質で勝負が決ま 同行の対象となる顧客は、年収15万ドル るといってよい。彼らは、経験豊富で能力が (2,000万円弱) 、純資産百万ドル(1億円強) 以上のプチ富裕層であり、もっぱら大富豪を 対象とする大手プライベートバンクよりもハ あるだけでなくインセンティブなどにより、 銀行と利害関係を共有している。 一方、 同行の特徴は、 「プライベートバンク」 ードルが低くなっている。つまり非常にリッ という豪華なイメージとは対照的に経費率が チではないが、かといって普通のレベルでも 低いことである。同行は競合他行と比較して ない小金持ちが対象である。具体的には、起 人件費が低いが、これは安月給という意味で 業家・中小企業のオーナーが多く、彼ら個人 はなく、MDの給与水準は市場水準であり、 とその企業が対象である。こうしたプチ富裕 ストックオプションのようなインセンティブ 層は、大手プライベートバンクに行けば、そ もある。むしろMDは多いがサポート人員は れほど重要顧客として扱われないという不満 少ないため、職員数が同業平均よりも少なく がある一方、一般の銀行においてごく普通の 効率的で生産性が高いということである。こ 人々と同様に扱われることも本意としない。 のように経費率が低いのは、生産性が高いか 彼らに、他の一般の銀行では味わえないよう らである。ペンや鉛筆を節約しているわけで な経験をしてもらうことが同行の戦略である。 はない。 顧客とは一生涯の付き合いをする。また、遺 同行はこれまでの成功に奢ることなく、絶 産相続などがあれば、 次の世代も対象となる。 えず現在の自行の状況を把握しなければなら 同行は、1991年に設立され、その後シカ ないと考えている。同行は、ボストン・プラ ゴ地区に支店を新設し(計8店舗) 、2000年 イベート銀行やノーザントラスト等の他のプ には初めて地域外のセントルイスに新設し、 ライベートバンクをベンチマークとして、一 研 究 75 株当たり収益の5年成長率、預金・貸出金増 では、 大銀行ではそれほど優遇されないため、 加率、経費率を比較して業績を管理している。 同行が好まれるという。 同行で最も重視されている指標はEPS(1株 プライベートバンキングにとって、差別化 当たり当期利益)の成長率であるが、EPS の最大のポイントは「顧客にとっての経験」 はこの5年間で5倍となっており、順調に成 である。同行は、大手銀行のように担当者が 長している。 頻繁に変わることはなく、顧客は広く深い取 引を期待できる。もちろん、 同行にとっても、 ③業務 MDが他行に引き抜かれたり、引退したら顧 資産面でいうと、同行の主要な資産は不動 客を失うというリスクはあるが、各MDには 産担保貸付である。この多くは、オーナーが 権限を与えているため、同行は仕事がしやす 使用または居住している不動産であり、必ず い環境にあり、MDが引き抜かれた例は少な しも不動産業者という意味ではない。不動産 く、また、MDの引退は避けられないが、若 担保貸付はリスクが高いと考えられている いバンカーを雇ったり、 育ってきているので、 が、同行のノウハウもまたそこにある。 世代交代が難しいとは考えていないという。 貸出面については、担保や個人保証を厳格 最近始めた富裕顧客向けのサービスとして に徴収し、審査部長も経験25年以上のベテ は、コンシェルジュと提携して、例えばニュ ランであり、審査基準は厳しい。例えば、先 ーヨークで一番よいレストランの一番いい席 日、ある職員の知り合いから貸出の依頼があ を予約するように言われたら無料で行うサ ったが、無担保であったので却下されたとい ービスをはじめた(もちろん食事代は顧客持 う。職員の知り合いだからといって、審査基 ち) 。このような、他行では得られない違った 準が甘くなるわけではない。 経験をしてもらうことが同行の強みである。 ④他行との差別化 4.考察 同行の競合先は、コミュニティバンクなど 日本のコミュニティバンクは協同組織が中 小銀行の場合もあれば、全国型の大銀行の場 心であり、株主からの株価成長のプレッシャ 合もある。まず、小規模のコミュニティバン ーがないことから、本稿でいう成長銀行のよ クと同行の差別化は、同行の方が規模がやや うにハイテク企業並みかそれ以上の成長率を 大きいため貸出額の上限が高いこと、同行の 期待されることもなければ、必要性も感じら 方が複雑な取引を行うことができることであ れないかもしれない。しかしながら、年率40% る。ただし、実際にライバルとなるのは小銀 という高成長ではないにしても、組織が発展 行よりも、大銀行が多い。大銀行との差別化 し、職員には雇用と昇進の機会を提供し、よ は、サービスの質である。小金持ち程度の客 り多くの顧客により大きなサービスを提供 76 信金中金月報 2007.1 し、地域社会のなかで存在感を増していくた ら獲得することは、少なくともこの米国では めには、成長が必要であることは間違いない。 成長を目指す銀行の有力な選択肢の一つとな 本稿での定量的・定性的な分析は金融機関が っている。 成長するために何が必要かを示唆している。 (2)得意分野を成長させる (1)生産性の鍵は人材にある 成長というものは、闇雲な拡大ではなく、 定量分析の項で明らかになったとおり、成 管理した成長でなければ、いずれ不良債権拡 長している銀行は生産性が高い。つまり、職 大や価格競争による利益率縮小で自滅するこ 員1人当たり、支店1店舗当たりの収入が顕 とになる。定量分析で明らかになったとお 著に高い。また、オザーク銀行の成長の根源 り、本当に成長している銀行は古典的な貸出 も生産性にあると考えられる。同行では、厳 業務において金利収入を増加させて成長して しい審査基準および収益基準をパスするよう いる。つまり自分の得意分野を成長させてい な融資案件しか通していないため、不良債権 る。オザーク銀行にしても、プライベート銀 は少なく、収益性は高い。それにもかかわら 行にしても、収入は貸出が中心である。自分 ず貸出金増加率の高さをも達成している最大 の不得意または不慣れな分野に多角化して成 の理由は、生産性の高い人材である。同行は、 長を目指すよりも、得意分野である貸出業務 普通の銀行の4倍もの量の案件を審査してい を拡大して成長する方が現実的な成長である るからこそ、安全で収益性の高い融資だけ通 ことがうかがえる。むろん、貸出は需要がな していても、他行よりも高い成長を享受でき ければ成長しない。 カリフォルニアのように、 るのである。そして、同行の生産性の鍵は人 たまたま自行がいた地区の貸出需要が成長す 材にある。同行は、生産性の高い人材を見つ るという運の要素も否定できないが、オザー けることを優先課題としており、それができ ク銀行のように、必ずしも成長率の高くない た場合に新規に支店を設立し、 成長を目指す。 アーカンソー州においても、比較的成長率の プライベート銀行の場合も、実際に顧客と接 高い地区を選んで進出し、また進出先では競 してプライベートバンキング業務を行う優秀 争相手を撃破して成長を図っている銀行もあ なMDを確保することを業務と規模の拡大の る。日本のコミュニティバンクのビジネスモ 前提としている。 デルにこれが馴染むのかどうかという問題は 日本のコミュニティバンクの場合、融資渉 あるにしても、日本の中でも比較的成長率の 外のような従来型かつ基本的な業務で中途採 高い地区に支店を設立したり、成長率が高い 用を行うことは必ずしも一般的ではないのか 地区の金融機関を合併・買収して自行の得意 もしれない。しかしながら、実際に顧客とつ 分野を成長させることは、成長のための重要 ながりを持っている融資渉外担当者を他行か な選択肢の一つにはなるだろう。 研 究 77 〈取材協力先〉 オザーク銀行 プライベート銀行(シカゴ) スーパーコミュニティバンクコンファレンス ほか 〈参考文献〉 Collins, J., Good to Great: Why Some Companies Make the Leap...and Others Don't, HarperCollins Publishers Inc., New York, 2001 Fest, G., “Profits and Growth: Two Banks Step up Their Game,” USBanker, New York, Jan 2005, Vol. 115, Iss. 1, P. 50 Sparkman, W., “BOZ Brings It to the Table,” Northwest Arkansas Business Journal, Fayetteville, Apr 11 2005, Vol9, Iss. 2, p1,5 Waldon, G., “BOZ Ranks Near Top in Efficiency,” Arkansas Business, Little Rock, Apr. 25, 2005, Vol. 22, Iss. 16, p. 1 Waldon., G., “Northwest Area Targeted in Bank of Ozarks Roll Out,” Northwest Arkansas Business Journal, Fayetteville, Jun 7 2004, Vol 8, Iss 6, P. 16 青木武「超一流銀行の条件」『New York 通信第17-3号』信金中央金庫総合研究所(2006年2月) 78 信金中金月報 2007.1 (参考)成長銀行と比較対象銀行の5年間の成長率比較 成長銀行5年間の比較 番号 銀行名 101 Vineyard Bank 102 First Regional Bank 103 Wilshire State Bank 104 Bank of the Ozarks 105 The PrivateBank and Trust Company 106 Virginia Commerce Bank 107 Fremont Investment & Loan 108 First Bank of Beverly Hills 109 Center Bank 110 Western Sierra National Bank 単純平均 標準偏差 州 CA CA CA AR IL VA CA CA CA CA 国内 常勤 総資産 貸出金 店舗数 役職員 19.1% 31.3% 72.8% 76.8% 5.9% 18.4% 42.7% 48.8% 18.0% 12.8% 31.5% 34.5% 19.7% 17.0% 20.9% 21.9% 11.4% 30.0% 33.2% 34.2% 10.4% 12.2% 32.5% 33.2% 2.0% 29.9% 21.4% 22.0% 0.0% -15.3% 16.2% 11.0% 23.2% 11.7% 29.9% 32.3% 16.9% 12.3% 22.1% 25.7% 12.7% 16.0% 32.3% 34.0% 7.6% 12.9% 15.4% 17.2% 負債 71.7% 42.3% 30.9% 20.9% 33.1% 32.1% 20.2% 16.1% 30.3% 20.8% 31.8% 15.3% 預金 66.9% 38.6% 29.7% 19.0% 33.4% 32.0% 17.5% 7.4% 30.3% 19.5% 29.4% 15.3% 不良債権 23.8% 3.6% 15.8% 12.5% 29.9% 30.5% -8.4% -12.0% 21.3% -4.1% 11.3% 14.9% 比較対象銀行5年間の比較 番号 銀行名 201 Columbia River Bank 202 Tri Counties Bank 203 Mid-State Bank & Trust 204 Iberiabank 205 Boston Private Bank & Trust Company 206 Main Street Bank 207 Westamerica Bank 208 United Security Bank 209 AmericanWest Bank 210 West Coast Bank 単純平均 標準偏差 州 OR CA CA LA MA GA CA CA WA OR 全金融機関平均 差のt検定 有意水準 有意水準90%以上 国内 常勤 総資産 貸出金 店舗数 役職員 6.6% 5.2% 15.0% 17.7% 5.0% 9.0% 13.7% 16.8% 3.3% 2.3% 10.4% 10.8% 1.5% 9.4% 15.3% 15.2% 47.6% 34.2% 40.2% 41.3% 2.7% 6.0% 18.3% 21.1% -0.6% -1.3% 5.0% 1.5% 6.6% 11.2% 11.9% 9.6% 51.6% 58.2% 53.1% 57.9% 5.0% 4.9% 8.1% 9.2% 12.9% 13.9% 19.1% 20.1% 18.47% 17.36% 14.54% 16.07% 負債 預金 15.2% 13.3% 10.7% 15.3% 38.7% 16.9% 4.6% 11.5% 52.7% 8.0% 18.7% 14.29% 15.4% 12.3% 11.0% 14.4% 40.4% 15.9% 3.5% 15.1% 52.5% 8.9% 18.9% 14.46% 不良債権 37.3% -6.0% -12.2% -7.2% 44.3% 51.8% -5.6% 17.2% 107.1% -28.9% 19.8% 38.74% 1.4% 2.35% 7.83% 7.75% 7.40% 7.76% 0.45% -0.040 3.1% 0.312 24.1% 1.973 93.5% ○ 1.874 92.2% ○ 1.992 93.7% ○ 1.575 86.6% -0.648 47.0% 成長銀行5年間の比較 番号 銀行名 101 Vineyard Bank 102 First Regional Bank 103 Wilshire State Bank 104 Bank of the Ozarks 105 The PrivateBank and Trust Company 106 Virginia Commerce Bank 107 Fremont Investment & Loan 108 First Bank of Beverly Hills 109 Center Bank 110 Western Sierra National Bank 単純平均 標準偏差 州 運用資産 CA CA CA AR IL VA CA CA CA CA 76.8% 44.1% 32.1% 20.3% 32.3% 32.9% 19.8% 16.4% 30.5% 21.6% 32.7% 16.7% 州 運用資産 ティア1 非金利 非金利 金利収入 金利費用 金利利鞘 資本 収入 費用 84.2% 65.0% 79.0% 59.8% 24.7% 37.1% 47.9% 36.5% 31.8% 37.7% 26.8% 23.4% 38.4% 24.9% 21.7% 26.7% 24.7% 17.7% 20.7% 13.4% 2.3% 25.0% 26.5% 18.4% 32.0% 24.7% 18.7% 30.7% 38.8% 23.4% 39.2% 26.4% 18.1% 32.5% 20.8% 22.1% 31.9% 15.9% 7.8% 23.2% 47.1% 25.7% 18.8% 8.9% 1.8% 19.3% -55.9% -18.4% 24.9% 23.0% 19.3% 24.9% 17.6% 19.7% 29.1% 17.8% 0.7% 26.0% 28.3% 19.9% 36.7% 25.6% 20.1% 30.6% 19.9% 18.9% 17.9% 15.0% 21.9% 10.9% 26.6% 13.5% 比較対象銀行5年間の比較 番号 銀行名 201 Columbia River Bank 202 Tri Counties Bank 203 Mid-State Bank & Trust 204 Iberiabank 205 Boston Private Bank & Trust Company 206 Main Street Bank 207 Westamerica Bank 208 United Security Bank 209 AmericanWest Bank 210 West Coast Bank 単純平均 標準偏差 OR CA CA LA MA GA CA CA WA OR 15.9% 13.7% 10.1% 14.4% 39.4% 17.1% 5.2% 11.2% 53.4% 8.1% 18.9% 14.54% ティア1 非金利 非金利 金利収入 金利費用 金利利鞘 資本 収入 費用 16.7% 9.3% -2.1% 14.0% 9.9% 9.3% 16.9% 5.2% -8.8% 10.9% 11.2% 10.8% 4.1% 3.1% -10.9% 6.5% 2.9% 5.7% 14.0% 5.4% -1.6% 10.9% 12.6% 9.7% 42.5% 29.7% 15.3% 39.8% 17.5% 35.5% 22.9% 12.4% 7.2% 15.9% 19.1% 14.2% 2.5% -2.1% -14.3% 2.1% 7.9% 1.6% 17.4% 6.1% -5.8% 11.7% 19.5% 13.0% 54.0% 47.0% 32.7% 54.3% 55.4% 64.8% 8.6% 0.9% -13.6% 8.5% 13.6% 5.9% 20.0% 11.7% -0.2% 17.5% 17.0% 17.0% 15.57% 14.38% 14.06% 15.57% 13.73% 18.14% 全金融機関平均 7.87% 9.24% 0.45% -5.82% 6.24% 6.05% 5.53% 差のt検定 有意水準 有意水準90%以上 1.975 93.5% ○ 2.230 96.0% ○ 2.119 95.1% ○ 2.470 97.4% ○ 2.185 95.6% ○ 0.315 24.2% 0.261 20.2% 研 究 79 成長銀行5年間の比較 番号 銀行名 101 Vineyard Bank 102 First Regional Bank 103 Wilshire State Bank 104 Bank of the Ozarks 105 The PrivateBank and Trust Company 106 Virginia Commerce Bank 107 Fremont Investment & Loan 108 First Bank of Beverly Hills 109 Center Bank 110 Western Sierra National Bank 単純平均 標準偏差 州 CA CA CA AR IL VA CA CA CA CA 人件費 42.7% 25.0% 18.3% 20.6% 25.4% 24.0% 25.1% -10.4% 15.8% 24.3% 21.1% 12.5% 物件費 43.3% 20.7% 14.6% 16.5% 20.9% 18.1% 30.6% -8.0% 28.0% 21.2% 20.6% 12.4% 比較対象銀行5年間の比較 番号 銀行名 201 Columbia River Bank 202 Tri Counties Bank 203 Mid-State Bank & Trust 204 Iberiabank 205 Boston Private Bank & Trust Company 206 Main Street Bank 207 Westamerica Bank 208 United Security Bank 209 AmericanWest Bank 210 West Coast Bank 単純平均 標準偏差 州 OR CA CA LA MA GA CA CA WA OR 全金融機関平均 人件費 物件費 11.2% 11.2% 6.3% 11.8% 39.3% 14.2% 3.4% 14.9% 62.3% 10.5% 18.5% 17.25% 13.9% 9.5% 8.2% 8.3% 31.7% 16.7% 1.0% 7.7% 69.9% 0.1% 16.7% 19.66% 7.06% 5.45% 当期 資産運用 資金調達 金利 利益 利回 利回 利鞘 107.7% -1.79 0.46 -2.26 65.0% -2.17 -0.76 -1.41 41.3% -2.61 -1.32 -1.30 35.6% -1.49 -2.53 1.04 44.8% -2.59 -2.17 -0.43 44.2% -2.11 -1.94 -0.18 36.9% -1.86 -2.38 0.52 28.5% -2.41 -2.75 0.34 25.9% -2.42 -1.20 -1.22 34.6% -1.43 -2.20 0.78 46.4% -2.09 -1.68 -0.41 22.9% 40.9% 93.5% 104.2% 当期 資産運用 資金調達 金利 利益 利回 利回 利鞘 19.7% -2.26 -1.95 -0.31 14.0% -2.65 -2.21 -0.44 6.7% -2.59 -1.45 -1.15 12.7% -2.55 -2.09 -0.46 32.7% -3.00 -2.58 -0.41 17.7% -2.54 -1.75 -0.79 5.7% -2.31 -1.59 -0.71 14.4% -2.68 -2.35 -0.33 43.3% -1.92 -1.99 0.07 17.7% -2.13 -2.52 0.39 18.5% -2.46 -2.05 -0.41 10.92% 29.52% 36.08% 40.75% 10.49% -2.47 -2.19 -0.28 ROA 1.01 1.03 0.57 0.87 0.37 0.51 1.44 0.48 -0.34 0.66 0.66 45.4% ROA ROE 7.17 11.40 3.03 10.61 4.95 3.40 4.90 5.91 0.72 -0.98 5.11 372.0% ROE 0.39 4.62 0.08 -3.17 -0.36 -2.49 -0.06 -1.79 -0.29 -8.24 -0.17 -8.29 0.07 -4.16 0.05 -1.72 -0.66 -6.23 0.54 5.10 -0.04 -2.64 33.45% 439.31% 0.14 -1.07 差のt検定 0.379 0.529 3.491 2.34 1.17 0.01 3.95 4.26 有意水準 29.0% 39.6% 99.6% 96.7% 73.2% 0.7% 99.9% 99.9% 有意水準90%以上 ○ ○ ○ ○ (注)諸計数の増加率は、2000.12~2005.12の5年間の増加率を年率換算したもの。ただし、ROE等の比率は2005.12の比率マイナ ス2000.12の比率。 成長銀行5年間の比較 番号 銀行名 101 Vineyard Bank 102 First Regional Bank 103 Wilshire State Bank 104 Bank of the Ozarks 105 The PrivateBank and Trust Company 106 Virginia Commerce Bank 107 Fremont Investment & Loan 108 First Bank of Beverly Hills 109 Center Bank 110 Western Sierra National Bank 単純平均 標準偏差 州 CA CA CA AR IL VA CA CA CA CA 償却率 -0.28 0.05 -0.55 -0.25 -0.19 0.02 -0.06 -0.20 -0.09 0.10 -0.15 18.3% 比較対象銀行5年間の比較 番号 銀行名 201 Columbia River Bank 202 Tri Counties Bank 203 Mid-State Bank & Trust 204 Iberiabank 205 Boston Private Bank & Trust Company 206 Main Street Bank 207 Westamerica Bank 208 United Security Bank 209 AmericanWest Bank 210 West Coast Bank 単純平均 標準偏差 全金融機関平均 州 OR CA CA LA MA GA CA CA WA OR 償却率 0.14 -0.66 0.07 -0.06 0.02 0.32 -0.14 -0.04 0.44 -0.08 -0.00 28.12% -0.10 不良債権/ 不良債権/ BIS式自己 職員当たり 店舗あたり 職員あたり 預貸率 総資産 貸出金 資本比率 資産 資産 収入 -39.62 -0.24 -0.35 26.34 2.03 31.55% 45.01% 18.51% -26.31 -0.48 -0.65 35.31 -1.07 20.59% 34.75% 15.61% -14.60 -0.31 -0.52 14.62 1.93 16.51% 11.43% 11.87% -13.62 -0.24 -0.12 9.39 -0.87 3.34% 0.97% 7.13% -15.04 0.01 0.00 2.77 -0.39 2.42% 19.58% 1.21% -18.97 -0.01 -0.02 4.67 2.20 18.07% 20.08% 16.67% -8.01 -1.35 -1.41 19.81 4.50 -6.50% 19.04% 0.74% -58.47 -1.26 -1.19 22.95 1.94 37.15% 16.16% 21.44% -7.19 -0.07 -0.13 6.13 -2.30 16.25% 5.44% 10.02% -15.14 -0.17 -0.25 21.83 1.85 8.67% 4.38% 12.55% -21.70 -0.41 -0.46 16.38 0.98 14.81% 17.68% 11.57% 1,517.6% 46.8% 46.5% 1,010.7% 194.7% 12.67% 13.03% 6.60% 経費率 不良債権/ 不良債権/ BIS式自己 職員当たり 店舗あたり 職員あたり 預貸率 総資産 貸出金 資本比率 資産 資産 収入 -6.85 0.40 0.45 8.81 -0.38 9.39% 7.94% 7.65% -0.29 -1.00 -1.39 16.27 -1.24 4.25% 8.27% 1.78% -1.36 -0.32 -0.35 -0.38 -4.49 7.94% 6.90% 3.49% -0.06 -0.40 -0.59 2.64 -0.92 5.45% 13.67% 1.72% 1.43 0.56 0.03 3.09 -1.27 4.48% -5.00% 0.41% -4.22 0.67 0.80 20.22 1.06 11.65% 15.20% 9.84% -3.79 -0.14 -0.11 -6.92 0.34 6.39% 5.65% 4.61% 0.66 0.15 0.59 -20.55 3.10 0.60% 4.98% 1.43% 17.58 1.00 1.21 16.96 -0.87 -3.20% 1.03% -2.38% -10.84 -0.42 -0.53 1.32 -1.20 3.02% 2.86% 4.30% -0.78 0.05 0.01 4.15 -0.59 5.00% 6.15% 3.28% 709.89% 58.03% 73.00% 1,164.21% 184.15% 3.88% 5.31% 3.21% 経費率 -1.16 -0.21 -0.31 -0.06 0.62 4.81% 5.18% 3.27% 差のt検定 -1.37 -3.95 -1.96 -1.73 2.51 1.85 2.34 2.59 3.57 有意水準 81.1% 99.8% 93.4% 89.6% 97.8% 91.8% 95.9% 97.5% 99.7% 有意水準90%以上 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ (注)諸計数の増加率は、2000.12~2005.12の5年間の増加率を年率換算したもの。ただし、ROE等の比率は2005.12の比率マイナ ス2000.12の比率。 80 信金中金月報 2007.1 研 究 動産担保を活用した資金調達 -在庫、売掛債権、知的財産権等を担保とした資金調達- 信金中央金庫 総合研究所研究員 谷地向 ゆかり (キーワード) 在庫担保、動産担保、売掛債権担保、知的財産権担保、ABL、動産・債 権譲渡登記 (視 点) これまで、中小企業が金融機関から資金を借入れる際に提供する担保は、不動産が一般的 であり、在庫等の動産は、不動産担保だけでは十分な資金を調達できない場合の添え担保 か、信用力が悪化した局面で利用される最終的な担保手段として位置づけられることが多か った。 しかしながら近年、信用力に問題のない業績好調な企業が、在庫、売掛債権等、不動産以 外の資産を担保とした資金調達を実施する例が増えている。 不動産以外の資産が担保として利用できるようになれば、不動産を持たない中小企業の資 金調達がこれまでに比べ容易になることも期待できる。 そこで、本稿では、不動産以外の資産を担保として利用した資金調達手法を概説する。 (要 ● 旨) 在庫等を担保とした資金調達手法は、調達金額、業種、商品の性質等によってさまざまな バリエーションがあるが、中小企業の場合、在庫等を担保に借入をする形式が多い。 ● 在庫、売掛債権に担保権を設定しても、在庫の販売、売掛債権の回収は、通常どおり行う ことができる。売掛先に担保権を設定したことを通知する必要もないことが多い。 ● 担保として利用できる資産の種類は、さまざまである。これまでの実施例では、製造業、 卸売業の在庫、売掛債権を担保としたものが多いが、小売業、農業、畜産業等の例もある。 ● これまでの実施例をみると、在庫等を担保として資金調達をしたことが、その企業の信用 不安につながる可能性は低いものと考えられる。 ● 現時点では、金融機関によって考え方や実務的な対応が大きく異なる。また、契約内容も 多岐に渡ることが多い。そのため、契約内容をよくチェックことが重要である。 ● 在庫等を担保とした資金調達手法が普及するか否かは、中小企業と金融機関が協力して適 切な実務慣行を構築できるかにかかっており、両者の協働が期待される。 研 究 81 1.在庫等を担保とした資金調達手法 の拡がり やすくなるだろう。 そこで、本稿では、不動産以外の資産を担 保とした資金調達手法について概説し、実際 中小企業が、不動産以外の資産を担保とし に資金調達を行った中小企業の事例を紹介す て資金調達を実施する動きは、2005年頃か るとともに、中小企業がこれらの担保を使っ ら徐々に増え始め、全国に広がっている。担 て資金調達を行ううえでの留意点をまとめた。 保として利用された資産は、在庫、売掛債権、 知的財産権等多岐に渡っている(図表1、2) 。 図表2 担保として利用される主な資産 景気の回復が中小企業にも拡がりつつある なか、中小企業の資金需要も徐々に増加する 不動産担保 土地、建物 傾向にある。一方で、不動産価格は長期にわ 動産担保 原材料、仕掛品、在庫 たって下落傾向が続いていたため、保有する 機械、設備 不動産の担保価値が低下し、不動産を担保と して金融機関から借入をすることが難しい状 債権担保 況にあった中小企業が、少なくなかったと考 えられる。不動産以外の資産が担保として利 用できれば、このような中小企業が借入をし 預金債権 売掛債権 知的財産権担保 特許権、商標権、著作権 (備考)信金中金総合研究所作成 図表1 不動産以外の資産を担保として利用した主な資金調達事例 実施時期 2005年10月 2005年12月 2006年01月 2006年03月 2006年03月 2006年03月 2006年03月 2006年04月 2006年04月 2006年05月 2006年05月 2006年05月 2006年06月 2006年06月 2006年07月 2006年08月 2006年09月 2006年09月 2006年09月 2006年09月 資金調達を実施した企業 金融機関 主な担保 ㈱西昆(海産物加工・卸売業) 福岡銀行、商工中金 昆布、煮干、売掛債権、預金口座 清酒製造業 中小公庫 清酒 ㈱春うららかな書房(中古書籍卸売業) 福井銀行、政投銀 プログラム著作権 ㈲十和田湖高原ファーム(養豚業) 商工中金 豚、売掛債権 畜産業 びわこ銀行 近江牛 食料品製造業 岩手銀行、商工中金 商品、売掛債権、預金口座 巽製粉㈱(三輪そうめん製造業) 南都銀行、商工中金 そうめん、売掛債権、預金口座 ㈱クロイツ(バリ取り機械製造業) 岡崎信用金庫、商工中金 バリ取り機械、売掛債権、預金口座 ㈱はなおか(精肉卸売業) 政投銀 冷凍精肉 ㈱中村醸造元(醤油製造業) 政投銀 醤油、売掛債権 ㈲ヴィノラム(ワイン輸入販売業) 商工中金 ワイン、売掛債権 幸福米穀㈱(米卸売業) 中小公庫 玄米、白米 ㈱田幸(芯地製造業) 十六銀行、商工中金 芯地、売掛債権 福岡銀行、熊本ファミリ 三和リース㈱(建設機械リース業) 建設資材、備品 ー銀行、商工中金 ㈱親愛コーポレーション(農業) びわこ銀行、商工中金 育成者権 日本インテリジェンス㈱(システム構 政投銀 (出願中の)特許権 築コンサルティング業) 東海醱酵工業㈱(清酒・焼酎等製造業) 岐阜信用金庫、商工中金 焼酎、清酒等、売掛債権 ㈱アジテック(業務用タレ卸売業) 北日本銀行、商工中金 業務用タレ、売掛債権、預金口座 ㈱阿部蒲鉾店(蒲鉾製造業) 北日本銀行、商工中金 蒲鉾、売掛債権、預金口座 小松菜、チンゲンサイ、売掛債権、 ㈲余湖農園(農業) 北洋銀行、商工中金 預金口座 (出所)新聞、雑誌、各行庫HP等 82 信金中金月報 2007.1 2.在庫等を担保とした資金調達手法 の概要 保権が利用されることが多い。 なお、在庫等に担保権を設定しても、企業 は原則として設定前と同じように在庫を販売 不動産以外の資産を担保とした資金調達の できる。売掛債権についても、企業が企業の 具体的な手法は、調達金額の多寡、資金調達 名義で回収し、売掛先に担保権を設定したこ を行う企業の業種や取り扱う商品の性質、在 とを知らせる必要がない場合が多い。知的財 庫の管理状況、売掛先の規模や信用力、担保 産権についても、 原則として自社の事業には自 処分の難易度等に応じて、さまざまなバリエ 由に利用できるという契約にすることが多い。 ーションがある。 本稿では、これらのなかから中小企業の利 用が多い資金調達手法を中心に概説する。 在庫、売掛債権については、それぞれ動産 譲渡登記制度、債権譲渡登記制度がある。在 庫、売掛債権に譲渡担保権を設定した場合に は、これらの制度に基づいて登記を行うこと (1)資金調達の形式 資金調達規模の大きい大企業、中堅企業の 場合には、特別目的会社(SPC)を設立し、 が多い。これらの登記は、金融機関の担保権 を保全するために行われるものであり、不動 産担保の場合の抵当権の登記に相当する。 担保となる資産を特別目的会社に譲渡するな どの方法を採ることもあるが(注)1、中小企業 の場合は、不動産を担保とする場合と同様に、 (3)担保として利用できる資産 担保として利用できる資産は、金融機関が 在庫等に担保権を設定して金融機関から借入 採る考え方によって異なる。金融機関の考え をするという方法を採ることが多い。 方は、債権回収を重視する考え方と、債権管 借入の返済原資は、担保とした在庫等が生 理を重視する考え方に大別できる。 み出すキャッシュ・フローに限定されておら ず、不動産を担保とした場合と同様に、企業 全体のキャッシュ・フローから返済するとい う場合が多い。 イ.債権回収を重視する考え方 一般に、担保は、金融機関が債権を回収す るための最終的な手段である。すなわち、金 融機関は、企業が弁済不能に陥った場合に、 (2)担保権の設定方法 担保権の設定方法には、質権と譲渡担保権 担保を処分して、処分代金から優先的に弁済 を受けるために担保の提供を受ける。 があるが、在庫、売掛債権については譲渡担 このような考え方に基づくと、担保として 保権が、知的財産権については質権と譲渡担 利用できる資産は、処分しやすいもの、すな (注)1.2004年に中古車販売大手の㈱ハナテン(大阪市、大証2部上場)が行った資金調達手法で、㈱ハナテンが特別目的会社に 在庫の中古自動車を譲渡し、三井住友銀行、三洋電機クレジット㈱が特別目的会社に融資する形式を採った。 研 究 83 わち処分ルートが存在し、処分価格・処分コ ていないことから、担保として利用できるの ストがおおむね算定できるものに限定される は、原則として相対取引で処分できる見込み こととなる。不動産は、まさにこのような資 のあるものに限られることとなろう。 産の典型である。 また、担保管理のしやすさという観点から、 価格変動の程度や毀損・滅失・盗難リスク等 も考慮される。 ロ.債権管理を重視する考え方 一方、担保を債権回収の手段ではなく、債 権管理の手段として位置づける考え方もある。 在庫であれば、いわゆる倒産処分品市場で この考え方は、企業が弁済不能に陥った場 処分できる見込みのあるものは、担保として 合に、金融機関が担保を処分して債権を回収 利用できる可能性が高い。ただし、この場合 するのではなく、企業が弁済不能に陥らない は処分価格が低くなるため、企業が在庫を担 ように、金融機関が担保管理を通じて企業の 保に借入れられる金額も限られる。 業況を詳細に把握し、業況悪化の兆しが見え また、安定的な販売先があり、当該販売先 た場合には、早い段階で経営サポートを行う が相対で買い受けてくれることが期待できる ことで、 債権を保全しようとするものである。 在庫も、担保として利用できる可能性が高い。 具体的には、金融機関は、在庫と売掛金の この場合には、在庫の担保価値の評価は、販 担保提供を受け、さらに売掛金の入金口座を 売価格を基準として評価することができるた 金融機関の口座に指定する。企業は、月次程 め(図表3) 、倒産処分品市場で処分する場 度の頻度で金融機関に担保として提供した在 合に比べ、多くの資金を借入れられるものと 庫の数量、売掛金の残高等を報告する。 考えられる。 安定的な販売先がある場合には、 金融機関は、企業からの報告をもとに、貸 在庫と併せて、当該販売先に対する売掛債権 出した仕入れ資金が在庫に変わり、在庫が販 を担保とすることも多い。 売されて売掛債権に変わり、さらに売掛債権 知的財産権については、処分市場が発達し が企業の口座に入金されていることを確認す る。また、企業からの報告に加えて、金融機 図表3 在庫の担保価値評価のイメージ 在庫 ︵販売価格︶ 関が企業を訪問し、在庫等の管理状況を直接 確認する場合も多い。 担保処分 コスト までも金融機関が企業の業況を把握するため 担保評価額 在庫 ︵簿価︶ 業 種、 販路、 販売実 績 等を勘案した評価額 このような考え方に基づくと、担保はあく の手段であるため、処分ルートの有無や処分 価格、処分コストが算定できるか否かは、重 要な問題ではない。企業の業況を適切に反映 (備考)日本政策投資銀行作成資料をもとに信金中金総合研究 ( 所作成 84 信金中金月報 2007.1 する資産であれば、原則としてどのような資 ABL(Asset Based Lending)とは何か 新聞、雑誌等でABLという言葉がよく使われるようになっている。 ABL(Asset Based Lending)とは、経済産業省が普及を推進している資金調達手法であり、2006年3月に経済産 業省が公表した「ABL研究会報告書」では、「動産・債権等の事業収益資産を担保とし、担保資産の内容を常時モ ニタリングし、資産の一定割合を上限に資金調達を行う手法」と定義されている。 一方、上記報告書と同時に経済産業省が公表した「動産、債権等の活用による資金調達手段~ABL~テキスト一 般編」(野村総合研究所作成)では、ABLとは「企業の事業そのものに着目し、事業に基づくさまざまな資産の価 値を見極めて行う貸出」、とされている。 また、商工組合中央金庫(以下、商工中金という。 )では、ABLを「流動資産一体担保型融資」とし、 「在庫が販 売され売掛金となり、売掛金が回収され流動預金となる『事業のライフサイクル』に着目し、在庫・売掛金・流動 (注) 預金を一体として担保取得するとともに一定の極度融資枠を設定するスキーム」と説明している 。 経済産業省が公表した報告書およびテキストの定義は、いずれも漠然としているものの、これらは担保となる資 産を流動資産に限定しておらず、むしろ機械設備のような固定資産をも想定している。これに対し、商工中金の定 義は、流動資産に限定したものとなっている。 このように、ABLという言葉は、非常に多義的に用いられていることに注意を要する。 (注)2005年5月26日付同庫ニュース・リリース「流動資産一体担保型融資(アセット・ベースト・レンディング)」第1号 案件を実行-事業のライフサイクルを主眼とした中小企業の資金調達の新展開-(http://www.shokochukin.go.jp/news/ nl_abl.html)参照 産でも担保として使用できることとなる。 項(注)2が盛り込まれることが多い。これらの 条項に違反した場合には、原則として担保の このように、金融機関が債権回収を重視す る場合には、担保として利用できる資産は限 積増しや金利の引上げなどのペナルティが課 されることとなる。 定的になる反面、債権管理を重視する場合に 誓約条項を設定するのは、 経営者のモラル・ は、多様な資産が担保として利用できること ハザードを防止するためでもある。特に、債 となる。 権管理を重視し、早い段階から金融機関が経 ただし、金融機関の考え方は、必ずしも債 営サポートを行うこととする場合には、経営 権回収重視か、債権管理重視かという両極端 者の甘えを招く可能性がある。このため、誓 に分かれているわけではなく、両方の考え方 約条項の遵守を求め、違反した場合にはペナ を取り入れながら、具体的な案件の内容に応 ルティを課すこととすることで、経営者の意 じて担保として利用できる資産を選定してい 識を高める目的がある。 る場合もあるものと思われる。 (5)業種、業態 (4)誓約条項(コベナンツ)の設定 在庫等を担保とした資金調達においては、 金融機関との契約に、自己資本比率等の財務 現時点では、在庫等を担保とした資金調達 の実施例は、 製造業や卸売業のものが多い (前 掲図表1) 。 比率や担保とした在庫の数量等を一定水準 これは、製造業、卸売業では在庫と売掛債 以上に保つことなどを経営者が誓約する条 権の両方が発生することが多く、かつ安定し (注)2.これらの条項を一般に「コベナンツ」と呼ぶ。 研 究 85 た販売先がある場合が多いためであると考え (7)金融機関の取組姿勢 られる。特に、大手メーカーに部品等を販売 2006年3月に経済産業省が公表した「ABL している中小製造業者や、大手小売業者に商 研究会報告書」によると、金融機関の60.0% 品を販売している中小の卸売業者の在庫、売 がABL(注)4の実施に前向きな姿勢を見せてい 掛債権は、担保として利用できる可能性が高 る(図表4) 。 いものと考えられる。 ただし、多くの金融機関にとって、在庫等 一方、小売業では、在庫は発生するもの を担保にした融資はまったく新しい融資手法 の、現金商売であるため通常は売掛債権が発 であるため、定着するまでには時間を要する 生せず、また一般消費者を顧客としているた ものと思われる。 め安定的な取引先がない場合が多いことなど 金融機関の間では、企業に在庫等を担保に から、在庫等の処分見通しがつきにくい面が した融資を提案すると、企業から「在庫まで ある。しかし、閉店セールによる在庫処分を 担保に取るのか」という反発を受けるのでは 想定し、小売業に対して在庫を担保とした融 ないかと懸念する声もある。 資が行われた事例もある(注)3。 また、在庫等を担保とした資金調達を実施 その他に、農業、畜産業、リース業等で、在 した企業が、風評被害に遭う可能性を指摘す 庫等を担保とした資金調達の実施例がある。 る金融機関もある。仮に、日々の営業の糧で ある在庫までも担保として提供しなければ、 (6)調達金額、金利水準 1件あたりの調達金額は、大手銀行が手が 図表4 ABLの実施に対する金融機関の取組 姿勢 ける案件では数億から数十億円という規模で 積極的に 実施したい 8.5% あるが、政府系金融機関や中小・地域金融機 関が手がける案件では、数千万から数億円程 度のものが多い。 金利水準は、まちまちである。これは、在 庫等を担保とした資金調達の事例に、DIPフ ァイナンスの事例が含まれているためである。 実施した くない 40.0% 実施して もよい 51.5% DIPファイナンス以外の、通常の企業の資金 調達事例においては、無担保の場合より低い金 利で調達している場合が多いものと思われる。 (備考)2006年3月経済産業省公表「ABL(Asset Based Lending) ( 研究会報告書」(アンケート結果編)より信金中金総合 ( 研究所作成 (注)3.2004年4月5日付日本政策投資銀行ニュース・リリース「日本政策投資銀行がわが国初のスキームによる動産担保融資を 実施~ターンアラウンダーとの連携を実現!~」(http://www.dbj.go.jp/japanese/release/rel2004/0405_rev.html)参照 4.ここでいうABLとは、「動産・債権等の事業収益資産を担保とし、担保資産の内容を常時モニタリングし、資産の一定割 合を上限に資金調達を行う手法」である。 86 信金中金月報 2007.1 資金調達ができない状態に陥った、という誤 った風評が流れれば、企業の取引先や従業員 に不安を与えるであろうし、 最悪の場合には、 取引先との取引解消、従業員の退職等に結び つく可能性がないわけではない。 しかしながら、近年実施されている在庫等を 担保とした資金調達は、信用力に問題のない 健全な企業が行っているものが多く、在庫等を 担保に提供したという一事をもって、信用不 安が広がる可能性は低いものと考えられる。 次に紹介するように、実際に在庫等を担保 ㈱クロイツの概要 所在地:愛知県刈谷市 設立:1989年4月 代表者:中田周一氏 資本金:3,000万円 年商:6億5,000万円 従業員数:約30名 URL:http://www.kreuz.jp/ いるメーカーである。 バリとは、金属、樹脂等を成型、加工する にして資金調達を実施した企業の事例をみる 際に生じる余分な出っ張りを指す(図表5)。 と、風評被害を受けるどころか、むしろ金融 バリ取りは、精度の高い部品を製造するため 機関が在庫等を高く評価している証であると には欠くことのできない重要な工程であり、 して、取引先からうらやましがられることも バリ取りの精度が、部品の組付や最終製品の あったとのことである。 性能に影響を与えることも少なくない。 3.在庫等を担保とした資金調達の実 施例 不動産以外の資産を担保に資金調達を実施 当社のバリ取り機械の性能は高く評価され ており、主要な取引先にはトヨタ自動車㈱、 トヨタグループをはじめ、大手・有力メーカ ーが名を連ねている。 した中小企業の事例として、バリ取り機械製 造業の㈱クロイツ、清酒・焼酎等製造業の東 海醱酵工業㈱、ワイン輸入販売業の㈲ヴィノ ラムの事例を紹介する。 図表5 なお、これらの事例で融資を行った金融機 関は、いずれも債権回収よりも債権管理を重 バリ 視する考え方に基づいている。 (1)バリ取り機械製造業:㈱クロイツ(愛 知県刈谷市) イ.事業内容 ㈱クロイツは、バリを取る機械を製造して (備考)信金中金総合研究所作成 研 究 87 ロ.動産等を担保とした資金調達を実施した 経緯 ハ.資金調達の概要 この資金調達方法では、在庫と売掛債権を 当社のバリ取り機械は、すべて受注生産で 信用金庫に担保として提供し、信用金庫から ある。当社の場合、受注から納品までに3か 借入を受ける(注)5。また、信用金庫に担保とし 月程度、さらに納品後代金を受領するまでに て提供した売掛金の入金口座は、当該信用金 2か月程度を要することが多い。このため、 庫に開設した口座とする。 5か月分程度の運転資金が必要となる。 当社では、これまで資金調達の必要が生じ 信用金庫は担保管理のため、月次で当社か ら報告を受け、また実際に当社を訪問して、 るたびに、不動産担保や信用保証協会の保証 当社の在庫数量、売掛金残高が適正な水準で を利用して借入を行ってきたが、資金効率を 推移しているかをチェックする。併せて、信 高めるために、あらかじめ年間に必要となる 用金庫に開設した売掛金入金口座の入金状況 資金を把握・管理し、計画的に資金調達を行 が、当社の資金計画と合致しているかをチェ いたいと考えていた。また、資金管理と併せ ックする。このようなプロセスを通じて、信 て受注管理・在庫管理を徹底して生産効率を 用金庫は当社の資金、受注、在庫管理の適切 高め、より多くの仕事を受注できる体制を整 えたいと考えていた。 このような当社の考えを、かねてから取引 のあった地元の信用金庫に相談したところ、 在庫、売掛債権、預金口座を一体として担保 提供する資金調達方法の提案を受けた。 ㈱クロイツが実施した資金調達の概要 実施年月:2006年4月 担保種類:在庫(機械、仕掛品、部品) 、売掛債権、 預金口座 金融機関:岡崎信用金庫、商工中金 調達金額:極度額1億円(岡崎信用金庫:5,000万円、 商工中金:5,000万円) 調達方式:コミットメント・ライン方式による借入 (備考)信金中金総合研究所作成 ㈱クロイツが製造しているバリ取り機械 (注)5.本件は、岡崎信用金庫と商工中金によるシンジケート・ローン形式を採っていることから、厳密にはこの2金庫に対して 担保提供し、2金庫から借入を受けている。なお、担保管理等は主に岡崎信用金庫が行う契約となっている。 88 信金中金月報 2007.1 性・効率性について、当社と意見交換し、必 要に応じてアドバイスを行う。 当社は、この資金調達方法により、極度額 1億円のコミットメント・ライン方式による 従業員についても、不安を感じている様子 はまったくなかった。むしろ、在庫を担保とし て利用したことで、従業員があらためて在庫 管理の重要性を認識したという効果もあった。 借入を実施した。 コミットメント・ライン方式による借入れ とは、あらかじめ一定の額の借入枠を設定し、 ホ.資金調達実施後の感想等 当社代表取締役の中田氏は、信用金庫が当 その枠内であればいつでも借入れできるとい 社の事業を評価し、当社の在庫管理、資金管 う借入方式である。 理の強化をサポートするとともに、安定的な 借入枠を設定することにより、当社は信用 資金調達を実現するための新たな手段とし 金庫に対してコミットメント・フィーと呼ば て、在庫、売掛債権を担保とした資金調達方 れる手数料を支払わなければならなくなる。 法を提案してくれたことを高く評価している しかし、資金需要が生じたときには機動的に とのことである。 借入ができるため、安心して限界まで手元資 金融機関からの借入では、担保提供できる 金でやりくりすることができるようになり、 不動産の有無が重視されることが多いが、中 結果として借入を抑えることが可能となる。 田氏はかねてより不動産の有無ではなく優れ 本件についても、借入枠を設定したのは た製品を製造・供給する能力そのものを評価 2006年4月であるが、実際に借入を行ったの して欲しいと考えていた。本件は、まさに中田 は同年10月に入ってからである。 氏の考え方に合致するものであったと言える。 また、中田氏は在庫管理、資金管理の状況 ニ.取引先・従業員等の反応 を信用金庫に報告し、信用金庫にチェックし 当社が在庫・売掛債権を担保に資金調達を てもらうことは、当社の経営の強化を図るう 行ったことは、手法の目新しさなどから複数 えで望ましいことだと考えているとのことで の新聞等で報じられた。しかしながら、今回 ある。なぜなら、経営強化の進捗状況を、外 の資金調達に関して、取引先からは特に大き 部の目で確認してもらうことができるからで な反応はなかった。これは、 当社の取引先が、 ある。仮に、経営が悪化した場合にも、それ 当社の業況が順調であることを良く理解して を隠すことはできなくなるため、早い段階で いるためだと考えられる。当社についての誤 信用金庫と問題意識を共有し、対応を考える った風評、すなわち、在庫や売掛債権まで担 ことができる。 保提供しなければ、借入ができない状態にあ このような考え方に基づき、本件の資金調 るのでは、というような風評が流れることは 達を実施したため、在庫管理等の状況を月次 一切なかった。 で信用金庫に報告することの負担感は大きく 研 究 89 ないとのことである。むしろ、信用金庫のア ドバイスを受けて経営体質の強化を進め、よ り多くの仕事を受注できる体制を整え、営業 活動を強化したり、さらに前向きな研究開発 等に取り組んでいきたいと考えているとのこ とである。 (2)清酒・焼酎等製造業:東海醱酵工業㈱(愛 知県北名古屋市) イ.事業内容 東海醱酵工業㈱の概要 所在地:愛知県北名古屋市 設立:1942年10月 資本金:7,500万円 売上高:65億円 従業員数:77名 URL:http://www.tohkaihakkou.jp/ 類の製造は免許事業であることから、当局に よる検査が入る。このため、酒造業者におい 東海醱酵工業㈱は、清酒・焼酎等を製造し ては、製造過程にある仕掛品の管理も、他の ているメーカーであり、焼酎では東海地区ト 業種に比べ厳格になされていることが多い。 ップクラスの生産量を誇る。代表銘柄の清酒 このように、当社は十分な在庫を持ち、そ 「四君子」、焼酎「金龍門」のほか、数多くの の管理も厳格に行っていることから、在庫を 居酒屋、販売店等のプライベート・ブランド 活用した資金調達に適した企業であった。 商品を製造しており、銘柄数は300近くに上る。 ハ.資金調達の概要 ロ.動産等を活用した資金調達を実施した経緯 当社が実施した資金調達方法は、前出の㈱ 清酒の製造は、熟成期間の長短によるもの クロイツの場合と同様に、在庫と売掛債権を の、相応の期間を要する。 焼酎は、清酒に比べれば短期間で製造でき るが、当社が数多く手がけている居酒屋、販 信用金庫に提供して借入を受けるものであ る(注)6。また、売掛金の入金口座は、商工中 金に開設した口座とした。 売店等のプライベート・ブランド商品は、欠品 在庫の数量、債権の残高については、当社 が許されず、かつ1回あたりの取引数量が大 が月次で信用金庫に報告することとなってい きいという特徴がある。このため当社は、在 庫を多めに持つことでプライベート・ブランド 商品を安定的に供給する体制を整えている。 また、酒造業者は、酒税法上、出荷時に課 税されることから、もともと出荷ベースでの 商品管理は厳格に行われている。さらに、酒 東海醱酵工業㈱が実施した資金調達の概要 実施年月:2006年9月 資産種類:在庫、売掛債権 金融機関:岐阜信用金庫、商工中金 調達金額:極度額2億円(岐阜信用金庫:1億円、商 工中金:1億円) 調達方式:コミットメント・ライン方式による借入 (備考)信金中金総合研究所作成 (注)6.本件は、岐阜信用金庫と商工中金によるシンジケート・ローン形式を採っていることから、厳密にはこの2金庫に対して 提供し、2金庫から借入を受けている。当社の在庫数量等の報告の受領は岐阜信用金庫が、売掛債権の入金状況の管理等は 商工中金が行う契約となっている。 90 信金中金月報 2007.1 東海醱酵工業㈱の在庫商品 る。このほかに、年に1回、当社と岐阜信用 である。 金庫、商工中金の3者が集まり、当社が事業 当社はこれまで、取引先との関係上、在庫 の状況について報告を行うこととしている。 を多く抱えがちであったが、今回の資金調達 を機に、信用金庫と相談しながら、より適正 ニ.取引先・従業員等の反応 当社の取引先の多くは、在庫等を資金調達 な在庫水準を見極め、さらなる改善を図って いきたいとのことである。 に活用できるということに驚いていたとのこ とである。また、在庫を活用できるというこ とは、金融機関が当社の在庫の価値を高く評 価しており、かつ金融機関との間に深い信頼 (3)ワイン輸入販売業:㈲ヴィノラム(東 京都中央区) イ.事業内容 関係があるということであるから、うらやま ㈲ヴィノラムは、フランスワイン、カリフ しいという趣旨の感想が多かった。当社の業 ォルニアワインの輸入・販売を手がける会社 況について、誤った風評が流れることもなか である。代表者である野田氏は、日本初のソ った。 ムリエール(注)7として、数々の有名ホテルで 従業員については、営業担当者全員と製造 部門の管理職に対して、今回の資金調達の仕 組みを説明したが、これといった反応はなか った。 ホ.資金調達実施後の感想等 当社の代表者は、信用金庫が当社の事業を 評価し、在庫、売掛債権に高い価値を認めて くれたことをありがたく思っているとのこと ㈲ヴィノラムの概要 所在地:東京都中央区 設立:2000 年 11 月 代表者:野田宏子氏 資本金:600 万円 売上高:6 億 8,500 万円 従業員数:9 名 URL:http://www.vinorum.co.jp/ (注)7.女性のソムリエ 研 究 91 活躍した実績を持つ。 当社は、輸送時の温度を一定に保つととも に、振動を抑えた特殊なコンテナを使用し、 当社が契約している海外のワイン醸造所から ワインの購入者の手元まで、ワインの品質を 劣化させることなく輸送する体制を確立して いる。 ㈲ヴィノラムが実施した資金調達の概要 実施年月:2006年5月 担保種類:在庫(商品) 、売掛債権、預金口座 金融機関:商工中金 調達金額:極度額5,000万円 調達方式:コミットメント・ライン方式による借入 (備考)信金中金総合研究所作成 債権を商工中金に担保提供して借入を受ける ものである。売掛債権の入金口座は、商工中 ロ.動産等を担保とした資金調達を実施した 経緯 金の口座とした。 担保提供した在庫の数量、売掛債権の残高 当社が販売するワインの評判が広がり、当 社の売上はこの1、2年で急速に伸びた。こ については、月次で商工中金に報告すること となっている。 のため、増加運転資金が必要となったが、当 当社は、もともと極めて厳格に在庫管理を 社が保有している不動産は、事務所として利 行っている。当社が輸入したワインは、定温 用しているワンルーム・マンションの1室の 倉庫に保管されており、ワインの1本1本に みであり、これを担保にして金融機関から借 つき、産地、銘柄、収穫年、入出庫の日時等 入をしても、わずかな金額しか調達できない が管理されている。また、倉庫内の在庫の状 ことは明らかであった。 況は、事務所のパソコンからも確認できるよ また、当社はこれまで自治体の制度融資、 うになっている。このため、商工中金に対す 大手銀行の無担保ローン等を利用していた る在庫の数量等の報告は、これらのデータの が、制度融資は多くの手間と時間を要するこ 一部を電子メールで送付するだけで済む。 と、無担保ローンは金利が高いこと、調達可能 当社が厳格な在庫管理を行っているのは、 な金額が少ないことなどに不満を感じていた。 今回の資金調達のためではなく、当社の顧客 当社が資金調達の方法を検討していたと のニーズに最も合うワインを最も適したタイ き、当社の評判を知った商工中金の担当者が ミングで提供するためであるが、結果的に、 当社に来訪し、当社に対して、ワイン、売掛 在庫を担保として利用するうえでも非常に役 債権等を一体として担保提供する資金調達方 立った。 法を提案した。 ニ.取引先・従業員等の反応 ハ.資金調達の概要 この資金調達方法は、前出の㈱クロイツ、 東海醱酵工業㈱の事例と同様に、在庫と売掛 92 信金中金月報 2007.1 当社の場合、売掛債権に担保権を設定する にあたって、当該売掛先に担保権を設定する ことをあらかじめ通知している。売掛先には やや驚いた様子もあったが、当社の業況が順 と事業資産の価値が評価されたものである。 調であることをよく理解しているため、反対 そのうえ、相談から借入までに要した期間が されることはなかった。また、当社の業況に 1か月程度と、通常の借入と大差ないスピー ついて、誤った風評が流れることもなかった。 ドであったこと、無担保融資に比べて金利が 当社は、従業員9名で運営されており、 全員 低かったことなどから、非常に満足している が会社の状況をよく理解しているため、従業員 とのことである。 からも特に反応はなかったとのことである。 これまでみてきたように、在庫等を担保と ホ.資金調達実施後の感想等 した資金調達を実施した企業の満足度は極め 前述したとおり、当社が保有する不動産は て高い。これは、 金融機関が企業の事業内容、 ワンルーム・マンション1室のみであるが、 在庫等の状況を十分に調査したうえで、それを 実のところ、代表者が個人資産として保有す 評価してくれたことが大きいものと思われる。 る不動産を担保にすれば、資金調達は可能で また、これらの事例をみると、すでに厳格な あった。 在庫管理を行っている企業だけではなく、こ しかしながら、 当社専務取締役の梅原氏は、 れから在庫管理の高度化を図ろうとしている 代表者の個人資産を担保にすると、万が一、 企業についても、在庫等を担保にして資金調 債務の返済ができなくなった場合には代表者 達できる可能性が十分にあることがわかる。 の個人資産を手放せばよいという発想に陥 一般に、中小企業においては完璧に在庫等 り、経営に甘えが生まれることを懸念してお を管理している例は少ないため、本稿で紹介 り、事業資金は可能な限り事業内容や事業資 した事例を取り扱った金融機関は、いずれも 産を裏づけとして調達したいと考えている。 管理水準については柔軟に考えるとしている。 本件の資金調達は、まさに当社の事業内容 代わりに、事業内容や将来性、経営者の意欲 ㈲ヴィノラムが販売しているワイン(東京都中央区銀座1-12-4ヴィナリス銀座(ブティック)) 研 究 93 や能力、誠実性といった面は厳格にみることと を一定水準以上に保つことなどを経営者が誓 しており、長期的な取引が期待できる信頼性 約する条項が盛り込まれることが多い。これ の高い企業を中心に、在庫等を担保とした融 らの条項に違反した場合には、原則として担 資を実施していくという方針をとっている。 保の積増しや金利の引上げなどのペナルティ このような金融機関の姿勢を踏まえると、 が課されることとなる。 在庫等を担保とした資金調達を実施すること この誓約条項の内容は、企業の状況に応じ が、企業の信用不安の兆候だという考え方 てさまざまである。金融機関によっては、早 は、すでに妥当しなくなっているものと思わ い段階で企業の経営者に危機感を持たせるた れる。むしろ、特に中小企業に関しては、金 め、できるだけ厳しい内容とすることも考え 融機関からの信頼が厚い企業が、在庫等を担 られる。 保とした資金調達を実施している場合が多い のではないだろうか。 4.在庫等を担保とした資金調達にか かる留意点 このため、企業においては、誓約条項の内 容をよく検討し、自社が遵守できるギリギリ のものではなく、ある程度の余裕を持って遵 守できる内容にするよう交渉することが重要 である。 在庫等を担保とした資金調達の実施例は、 徐々に積み上がっているものの、現時点では 取り扱う金融機関によって考え方や実務面で の対応が大きく異なる。 (2)担保提供する資産の範囲 万が一、企業が倒産した場合、金融機関の ように担保権を持つ債権者は、担保権を実行 また、不動産を担保とした資金調達では、 して債権を回収することができるが、担保権 契約内容が定型化されていることが多いが、 を持たない取引先や従業員等は、通常、担保 在庫等を担保とした資金調達の場合は、契約 権のついていない資産の処分代金から債権を 内容の定型化が進んでおらず、契約内容が多 回収することとなる。 岐に渡ることも多い。 そのため、在庫等を担保とした資金調達を このため、企業が保有する在庫等を一括し て金融機関に担保提供してしまうと、 万が一、 実施する場合には、金融機関との契約内容を 企業が倒産した場合には、担保権を持たない よくチェックすることが重要である。 債権者の債権回収が困難になることが予想さ れる。したがって、担保として提供する資産 (1)誓約条項の内容確認 前述したとおり、在庫等を担保とした資金 は、調達する金額に見合う程度とすることが 原則である。 調達においては、契約書のなかで、自己資本 しかしながら、通常は、在庫等の一部より 比率等の財務比率や担保とした在庫の数量等 も全部を担保提供した方が、管理が容易であ 94 信金中金月報 2007.1 る。また、在庫等の管理体制が確立していな の添え担保として、在庫等の担保提供が求め い段階では、在庫等の一部のみを担保提供す られる可能性がある。 ることが現実的に難しい場合も少なくない。 このような場合、過剰な担保提供を避ける さらに、在庫等を一括して金融機関に担保 観点から、必要最小限の在庫等を提供するに 提供することで、金融機関のアドバイスを受 けながら在庫等の管理の高度化を図ることが できるというメリットもある。 留めるような対応が望ましいものと思われる。 おわりに これらのことを考え合わせると、担保提供 以前から、金融機関の融資は不動産担保に する資産の範囲を決める際には、調達金額と 過度に依存しており、中小企業の事業内容や のバランス、担保提供した資産の管理にかか 将来性を適切に評価していないとの批判があ る手間、一括して担保提供することのメリッ った。この批判に応える形で、現在、多くの ト等を総合的に考えることが重要である。 金融機関が、財務スコアリングモデルを活用 した融資や、不動産以外の資産を担保とした (3)追加担保、添え担保としての利用 融資等への取組みを強化している。 在庫等を担保として利用することが一般化 このような金融機関の取組みが、一過性の してくると、既存の借入のために提供してい ブームに終わることなく、中小企業の資金調 る不動産の担保価値が低下するなどで担保割 達手段の多様化につながるか否かは、金融機 れの状態が生じている場合に、金融機関から 関と中小企業が協力して適切な実務慣行が構 追加担保として在庫等を提供するよう求めら 築できるかにかかっており、今後の両者の協 れる可能性がある。 働が期待される。 また、新規の借入の場合にも、不動産担保 〈参考文献〉 ABL研究会「ABL(Asset Based Lending)研究会報告書」経済産業省(2006年3月) 高橋太「在庫・動産の処分・買取り・評価の専門事業者を利用した動産活用による資金調達について」 『銀行法務21』 (2006年9月号) 中村廉平、藤原総一郎「流動資産一体担保型融資(アセット・ベースト・レンディング)の検討―事業のライフサイ クルを主眼とした中小企業の資金調達の新展開―」 『金融法務事情No.1738』 (2005年5月) 野村総合研究所「動産、債権等の活用による資金調達手段~ ABL (Asset Based Lending) ~テキスト一般編、 金融実務編」 経済産業省(2006年3月) 林揚哲、新井竜作「ABL普及促進に向けた現状と今後の課題」 『リージョナルバンキング』 (2006年9月号) 研 究 95 調 査 経済見通し 実質成長率は06年度2.4%、07年度2.1%と予測 -景気は民需主導で自律回復の動きを維持する公算大- 信金中央金庫 総合研究所上席主任研究員 角田 匠 1.06年7~9月の実質成長率は前期比0.5%―設備投資が景気をけん引 個人消費は天候不順の影響などで前期比0.7%減と2期ぶりに減少したが、設備投資は2.9% 増と景気回復をけん引した。輸出は欧米向けの自動車、アジア向けの素材・部品を中心に増 勢が加速し、輸出から輸入を差し引いた純輸出は実質成長率を0.4ポイント押し上げた。 2.景気の成熟化で成長テンポは鈍化するが、日本経済は今後も回復基調を維持 米景気の減速で輸出の増勢はこの先やや鈍化しようが、好業績を背景に企業の投資意欲は 根強く、幅広い業種で設備投資の拡大が見込まれる。06年度も設備投資が景気をけん引し よう。企業部門が主導してきた景気回復は、今後、着実に家計部門に波及していくとみられ、 企業と家計のバランスの取れた息の長い景気回復が続くと予想される。景気の成熟化で成長 テンポは鈍化するが、07年度も民需主導で自律回復の動きを維持する公算が大きい。 3.実質成長率は06年度2.4%、07年度2.1%と予測 足元の賃金回復テンポが緩慢なうえ、天候不順の影響で夏場の個人消費が伸び悩んだこと などから、06年度の実質成長率(前回予測2.8%)を下方修正し2.4%と予測した。ただ、日 本経済が民需主導で自律回復の動きを維持するとの見方に変化はない。07年度は、設備投 資の増勢が一服するものの、労働需給のひっ迫を背景に家計の所得回復テンポが高まること で、個人消費の伸びは徐々に高まろう。07年度の実質成長率は2.1%と予測した。 4.デフレ脱却でコールレートは07年中に0.75%程度へ 日本経済は民需主導の自律回復局面にあり、需給ギャップの縮小でデフレ脱却も視野に入 ってきた。消費者物価は安定的なプラス基調が続くとみられ、年度内に無担保コールレート の誘導目標は0.5%程度に引き上げられよう。07年度にはGDPデフレーターもプラスに転じ、 コールレートの誘導目標は07年中に0.75%程度まで引き上げられると想定した。 (注)本稿は2006年11月15日時点のデータに基づき記述されている。 96 信金中金月報 2007.1 図表1 GDP成長率の推移と予測 (単位:%) 前回(06年8月) 2003年度 2004年度 2005年度 2006年度 2007年度 〈実績〉 〈実績〉 〈実績〉 〈予測〉 〈予測〉 06年度(予)07年度(予) 実 質 G D P 2.3 1.7 3.3 2.4 2.1 2.8 2.3 個 人 消 費 0.8 1.6 2.6 1.3 2.5 2.1 2.2 住 宅 投 資 △ 0.0 1.7 △ 0.2 0.7 1.4 2.1 1.8 設 備 投 資 7.0 5.6 7.3 9.2 3.4 8.5 3.2 公 共 投 資 △ 9.5 △ 12.4 △ 1.4 △ 13.4 △ 4.8 △ 6.6 △ 2.3 純輸出(寄与度)( 0.8)( 0.5)( 0.5)( 0.5)( 0.2)( 0.2)( 0.1) 名 目 G D P 1.0 0.5 1.8 1.9 2.4 2.4 2.6 (備考)内閣府『四半期別GDP速報』より作成。予測は信金中金総合研究所 で季節消費が伸び悩んだ(図表3) 。また、ガ 1.06年7~9月の実質成長率は前期 比0.5%―設備投資が景気をけん引 ソリン価格の高騰や株価の下落なども家計の 消費マインドを下押ししたと考えられる。一 06年7~9月の実質成長率は、前期比0.5%、 方、設備投資は前期比2.9%増と引き続き高 年率に換算すると2.0%と7期連続のプラス成 い伸びとなり、景気回復をけん引した。好調 長を達成した。景気の実感に近い名目成長率 な企業収益を反映して、幅広い業種で設備投 も、前期比0.5%(年率1.9%)と堅調だったが、 資が増加している。公共投資は災害復旧事業 実質成長率を小幅ながらも下回り、 「名実逆 が一巡したことで前期比6.7%減となり、前 転」は、04年4~6月以降、10期連続となっ 期(6.5%減)に続いて実質成長率を大きく た(図表2)。 押し下げる要因になった。 7~9月の動きを需要項目別(実質)にみ 輸出は前期比2.7%増と前期の0.9%増から ると、個人消費は、前期比0.7%減と2期ぶり 伸びが加速し、6四半期連続で増加した。ア に減少した。サッカー・ワールドカップの開 ジア向けに素材や部品の輸出が堅調に推移し 催で4~6月に販売が伸びた薄型テレビの反 たほか、欧米向けに自動車や一般機械の輸 動減が影響したことに加え、夏場の天候不順 出が増加した。輸入は1~3月、4~6月と高 めの伸びとなった反動で、7~9月 図表2 GDP前期比と寄与度 は前期比0.1%減と3期ぶりに減少し (%) 2.0 1.6 た。この結果、輸出から輸入を差し 1.2 引いた純輸出は、実質成長率を0.4 0.8 ポイント押し上げる要因となった。 0.4 0.0 総合的な物価動向を示すGDPデ -0.4 フレーターは7~9月も前年比0.8% -0.8 -1.6 00 実質GDP 名目GDP 純輸出 公的需要 民間需要 -1.2 01 02 03 04 (備考)内閣府『四半期別GDP速報』より作成 05 06 (年) の下落となった。今回の統計から消 費者物価の基準改定の結果が反映 された影響で、すでに公表されてい 調 査 97 図表3 個人消費関連指標(前年比増減率) (単位:%) 05年 06年 06年 10~12月 1~3月 4~6月 7~9月 1月 全 世 帯 実 質 消 費 平 均 消 費 性 向( 勤 労 者 ) 乗 用 車 販 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 0.7 △ 1.6 △ 1.5 △ 3.8 △ 2.4 △ 1.0 △ 1.6 △ 1.5 △ 1.3 △ 1.7 △ 1.3 △ 4.3 △ 6.0 76.3 74.4 売 △ 7.0 74.5 69.5 75.1 75.4 0.5 △ 4.6 △ 4.5 0.1 0.7 74.1 71.1 76.2 76.2 68.5 69.8 70.3 0.5 △ 5.0 △ 6.4 △ 2.8 △ 6.2 △ 2.5 △ 4.3 (普通+小型乗用車) △ 9.0 △ 2.3 △ 9.9 △ 9.4 △ 1.9 △ 2.7 △ 2.1 △10.8 △10.0 △ 9.2 △11.4 △ 7.2 △ 8.9 (軽乗用車) △ 1.7 百 貨 店 販 売 額 7.2 1.2 7.9 7.5 4.9 9.0 7.2 7.8 1.8 13.7 7.0 8.3 7.3 0.4 △ 1.1 △ 0.4 △ 0.9 0.3 1.8 △ 0.4 △ 1.2 △ 1.9 △ 1.4 △ 0.8 1.3 ス ー パ ー 販 売 額 △ 1.9 △ 3.1 △ 1.3 △ 0.1 △ 4.1 △ 3.3 △ 1.8 △ 1.3 △ 1.9 △ 0.7 △ 1.3 0.7 0.4 商 業 販 売・ 小 売 業 1.1 0.8 0.5 0.6 △ 0.2 0.6 △ 0.4 1.1 1.0 △ 0.8 0.1 0.2 △ 0.1 (衣類・身の回り品) △ 0.8 △ 2.7 △ 2.1 △ 1.2 △ 3.6 △ 2.5 △ 1.9 △ 2.3 △ 2.6 △ 1.4 △ 1.4 △ 2.0 △ 0.3 (飲料・食料品) △ 1.0 △ 2.4 △ 0.5 (自動車) △ 1.3 (家庭用機械) △ 1.0 (燃料) 8.8 3.3 0.0 △ 1.5 △ 2.3 △ 2.1 △ 0.6 11.3 6.0 (その他) △ 0.1 △ 1.0 △ 0.2 外 食 産 業 売 上 高 1.2 △ 2.4 △ 2.3 △ 2.6 △ 0.8 △ 1.1 1.8 △ 3.5 △ 3.8 △ 1.0 - - - 8.3 11.8 11.1 0.5 △ 0.1 2.5 △ 0.7 1.8 11.0 7.0 0.2 △ 3.8 △ 1.3 △ 2.4 △ 3.3 7.1 3.9 0.6 △ 1.7 △ 0.5 △ 0.7 △ 1.2 △ 0.2 - △ 2.7 △ 0.3 1.8 2.6 △ 4.6 △ 2.4 △ 3.5 △ 3.7 △ 0.7 △ 6.3 1.1 0.7 0.1 7.9 8.2 8.8 0.8 △ 0.3 0.8 1.4 0.4 1.6 2.2 0.1 (備考)1.平均消費性向は季節調整済みの実数。百貨店、スーパー、外食産業売上高は既存店ベース 2.総務省『家計調査報告』、経済産業省『商業販売統計』などより作成 た06年4~6月までのGDPデフレーターが下 なったほか、輸出の好調が続く輸送機械は4 方修正されたものの、7~9月の前年比下落 期連続で前期の水準を上回った。製造工業生 率は前期(1.2%の下落)に比べて縮小した。 産予測指数も10月は前月比0.2%減、11月は また、国内需要デフレーターは、前年比0.1% 0.5%増と見込まれており、10~12月の生産 の上昇とプラスに転じた。 も高水準を維持するとみられる(図表4) 。 2.景気の成熟化で成長テンポは鈍化 するが、日本経済は今後も回復基調 を維持 個人消費の伸び悩みなどで、7~9月の内 需(実質)は前期比0.1%増にとどまったも のの、日本経済は引き続き民需主導の自律回 復の動きを維持していると考えられる。 企業活動(製造業)の代表的な指標であ る鉱工業生産指数(00年=100)は、8月に 106.8と過去最高を更新し、06年7~9月は前 期比1.0%増と4期連続のプラスとなった。薄 型テレビや携帯電話の需要増を背景に、情報 通信機械や電子部品・デバイスが高い伸びと 98 信金中金月報 2007.1 7~9月の生産活動をけん引した電子部品・ デバイスの在庫が積み上がっていることが不 安要因だが(図表5) 、先行きのIT関連製品 の需要拡大余地はなお大きい。例えば、薄型 図表4 鉱工業生産指数と輸出数量指数の推移 (00年=100) 126 122 118 114 110 106 102 98 94 90 86 82 98 輸出数量指数 予測指数 生産指数 99 00 01 02 03 04 05 06 (年) (備考)1.シャドー部分は景気後退期 ( 2.10∼11月の予測指数は製造工業 ( 3.財務省、経済産業省、内閣府資料より作成 図表5 電子部品・デバイスの在庫循環 図表6 世界半導体出荷額の前年比 図表5 (シリコンサイクル) (%) 在庫︵前年比︶ 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 -40 (%) 01年1月 06年9月 06年1月 05年1月 03年1月 02年1月 -30 04年1月 -20 -10 0 10 20 出荷(前年比) 30 40 (%) (備考)経済産業省「生産・出荷・在庫」より作成 60 50 40 30 20 10 0 -10 -20 -30 -40 -50 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年) (備考)Semiconductor Industry Association資料より作成 テレビなどデジタル家電は中期的にも高い伸 設備投資の先行指標である機械受注(船 びが期待できるほか、次世代OS(基本ソフ 舶・電力を除く民需)は(図表7) 、06年4~ ト)「ウインドウズ・ビスタ」の発売(07年 6月に前期比8.9%増と高い伸びとなった反動 1月30日)に伴って07年入り後はパソコン販 で7~9月は11.1%減と落ち込んだが、10~ 売の回復が見込まれる。08年の北京オリン 12月の受注見通しは5.7%増と持ち直す見込 ピックに向けてシリコンサイクル(半導体景 みである。日銀短観(9月調査)の06年度設 気循環)は上昇傾向で推移しよう(図表6) 。 備投資計画も、全規模・全産業ベースで前年 足元のIT関連在庫の増加で、短期的には 比8.3%増と前年9月調査の05年度計画(6.8% 生産調整を余儀なくされる可能性もあるが、 増、実績は8.9%増)を上回る伸びが見込ま 調整幅は軽微なものにとどまると予想される。 れている。足元の機械受注の落込みは短期的 生産活動への影響が大きい輸出は、7~9 月も堅調に推移した。輸出数量指数(季節調 整済み)は、06年4~6月に5期ぶりの前期比 マイナスとなったものの、7~9月は1.5%増 と再びプラスに転じた。ただ、先行きについ ては、米景気の減速が下押し要因となる。為 替レートが企業の想定より円安に振れている ことが輸出の下支え要因ではあるが、輸出の 増勢は07年前半にかけて緩やかに鈍化しよう。 一方、設備投資は引き続き景気回復のけん 引役として期待できるうえ、7~9月に減少 した個人消費も再び持ち直すと予想される。 な調整の範囲内であり、設備投資の拡大トレ 図表7 名目設備投資と機械受注の推移 1 (年率換算) (兆円) (兆円) 86 15 機械受注 84 10∼12月 見通し 機械受注 82 14 (船舶・電力を除く民需) 80 右目盛 78 13 76 74 12 72 70 11 68 66 10 設備投資 64 (名目GDPベース) 62 左目盛 9 60 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 (年) (備考)内閣府『機械受注統計』などより作成 調 査 99 ンドに大きな変化はないと考えられる。 復基調を維持する公算が大きい。 家計の所得環境は引き続き緩やかながら改 3.実質成長率は06年度2.4%、07年 度2.1%と予測 善傾向を維持している。06年7~9月の現金 給与総額(1人当たり)は、前年比0.1%増と 緩慢な伸びにとどまっているものの、雇用者 実質成長率は06年度2.4%、07年度2.1%と 数は着実に増加しており、家計全体の所得を 予測した。天候不順の影響などで夏場の個人 示す雇用者報酬は、06年7~9月に前年比1.3% 消費が伸び悩んだことなどから、前回見通し 増と6期連続のプラスとなった。企業業績の (06年度2.8%、07年度2.3%)を下方修正し 好調を背景に06年冬のボーナスも増加が見 たが、日本経済は民需主導で自律回復の動き 込まれており、雇用者報酬は今後も緩やかな を維持するとの見方に変化はない(図表8) 。 増加が続くと予想される。定率減税の半減 06年度の景気をけん引するのは引き続き などで、06年度の家計の税・社会保障負担 設備投資である。設備投資は03年度から増 は、前年に比べて2.5兆円程度(可処分所得 加が続いているものの、不採算設備の廃棄を の0.9%程度)増加すると試算されるものの、 並行して進めている結果、生産能力はさほど 雇用者報酬の増加で吸収できるとみられる。 高まっていない。企業収益の拡大持続とバラ 個人消費は10~12月以降再び回復基調を取 ンスシート調整の一巡で資金面での余力は大 り戻そう。 きく、企業の投資意欲は根強いものがある。 企業部門が主導してきた景気回復は、 今後、 06年度の実質設備投資は前年比9.2%増と、 着実に家計部門に波及していくとみられ、企 高い伸びを示した05年度(7.3%増)をさら 業部門と家計部門のバランスの取れた形で息 に上回ると予測した。 の長い回復が続こう。景気の成熟化で成長テ 設備投資と並んで景気をけん引してきた輸 ンポは鈍化するが、日本経済は07年度も回 出は、米景気の減速などの影響で増勢はやや 図表8 実質GDP成長率(前年度比、前期比年率)の推移と予測 〈半期ベース、年率〉 〈年度ベース〉 (%) 予測 3.5 純輸出 公的需要 民間需要 実質GDP 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 00 01 02 03 04 05 06 (%) 4.5 4.0 3.5 3.0 2.5 2.0 1.5 1.0 0.5 0.0 -0.5 -1.0 -1.5 07(年度) 予測 04年度 信金中金月報 2007.1 06年度 07年度 上期 下期 上期 下期 上期 下期 上期 下期 (備考)内閣府『四半期別GDP速報』より作成。予測は信金中金総合研究所 100 05年度 純輸出 公的需要 民間需要 実質GDP 鈍化しよう。ただ、中国を中心としたアジア 地域の景気は堅調を維持しているうえ、円安 も追い風となっており、年度下期に日本の 輸出環境が大きく悪化する可能性は小さい。 (1)前提条件―為替相場、原油価格、財政 政策、海外経済 (為替相場) Fed( 米 連 邦 準 備 制 度 ) は、8月8日 の 06年度の実質輸出は前年比7.8%増と05年度 FOMC(米連邦公開市場委員会)で04年6月 (9.1%増)に比べて伸びは鈍化するものの、 から17会合連続で実施してきた利上げを見 引き続き景気回復に寄与しよう。 送ったものの、市場では「再利上げの可能性 家計部門にも景気回復の恩恵が緩やかなが が残る」との見方が根強く、その後もドル買 ら着実に波及している。企業収益の大幅な増 い優勢の相場が続いた。一方、日本では8月 加に加え、景気回復の持続で企業の人手不足 25日に発表された消費者物価指数が、基準 感が一段と強まっていることで、人件費の増 改定に伴って大幅に下方修正されたことで、 加を容認する企業が増えている。前述したと 06年中の再利上げ観測が後退し、9月半ばに おり、06年度の税・社会保障負担は、前年 は1ドル=118円台まで円安が進んだ。さら 度比2.5兆円程度(可処分所得の0.9%程度) に、北朝鮮による核実験の実施(10月9日) 増加すると試算されるが、雇用者報酬の増加 を受けて、翌10日には1ドル=119円台まで が続くことで、税・社会保障負担増は吸収で 円が売られたが、その後は、円売りを進めて きよう。天候不順などの影響で夏場の消費は きた投機筋のポジション調整をきっかけに円 振るわなかったが、実質個人消費は年度下期 買戻しの動きが広がった。 先行きに関しては、 には持ち直し、06年度トータルでは前年比 米景気の減速とFedの利上げ打止めが予想さ 1.3%増と予測した。 れる一方、時期に関しては不透明ながら日銀 07年度は、デジタル関連投資の一巡で設 による追加利上げの方向性に変化がないこと 備投資の拡大が一服すると予想される。 ただ、 を考えると、ドルは徐々に水準を切り下げる 国内外の需要が底堅く推移すると想定してお 公算が大きい。もっとも、米景気は個人消費 り、設備投資が失速する可能性は小さい。実 と設備投資が底堅い動きを続けていることか 質設備投資は前年比3.4%増と予測した。 ら、ソフトランディングに成功する可能性が 家計部門は再び増勢を強めよう。07年度 高く、日銀の利上げテンポは緩やかと予想さ も堅調な企業収益が見込まれるうえ、労働需 れる。日米金利差が依然として大きいことも 給のひっ迫が続くことで、家計の所得増加テ あって、ドルの下落テンポは緩やかなものに ンポは徐々に高まるとみられる。06年度に とどまろう。年度平均の為替レートは、06 天候不順で落ち込んだ反動もあって、実質個 年度が1ドル=116.0円、07年度が112.0円と 人消費は前年比2.5%増と06年度から伸びを 想定した。 高めると予測した。 調 査 101 (原油価格) ー・バランス)の黒字化を目標に歳出削減 原油価格(WTI)は、米国最大のアラス に取り組んでおり、07年度の公共投資も同 カ油田の操業停止による供給不安から8月7 3%程度削減されると予想される。引き続き 日には終値で1バレル76.98ドルと7月14日に 緊縮型の財政運営が継続されよう。なお、実 付けた77.03ドル(終値ベースの過去最高値) 質GDPベースの公共投資は、05年度に新潟 に次ぐ水準まで上昇した。ただ、その後は高 県中越地震(04年10月)などの災害復旧事 値警戒感から商品ファンドの売り圧力が強ま 業が進捗したことが下支え要因となったが、 り、夏場のガソリン需要が一巡した8月末に 06年度にはその反動などもあって、減少幅 は1バレル70ドルを割り込んだ。さらに、9 は拡大すると予想される。 月11日に開催されたOPEC総会で生産枠が 据え置かれたことも弱材料となり、9月25日 (海外経済) 〈米国〉…7~9月の実質成長率は前期比年 には1バレル60ドル割れとなった。米景気が 率1.6%(事前推定値)と、4~6月(2.6%) 減速傾向で推移していることも売り要因と から一段と減速、2四半期連続で巡航速度 なり、10月20日には1バレル56ドル台まで下 (3~4%程度)を下回る低成長にとどまっ 落した。その後はOPECの減産で需給が引き た。個人消費と設備投資は底堅い動きを 締まるとの観測からやや値を戻し、11月前 続けたものの、住宅投資が17.4%減と前 半は1バレル60ドルを挟んだ動きとなってい 期(11.1%減)に続いて成長率を大きく押 る。当面は、米景気の減速の影響が原油価格 し下げた。先行きについても、堅調な雇用 を押し下げる要因となろうが、冬場の暖房油 情勢とガソリン価格の低下に伴うマインド 需要の増大や中東を中心とした地政学的リス の改善で個人消費は底堅く、企業収益の拡 クを背景に、原油価格の一段の下落が進む可 大を背景に設備投資も増加傾向を維持しよ 能性は低い。経済見通しの前提となる原油価 う。住宅投資が引き続き低調と予想される 格(通関ベース)は、06年度1バレル63.0ドル、 ため、当面の実質成長率は、潜在成長率を 07年度58.0ドルと想定した。 下回る伸びにとどまるとみられるが、住宅 (財政政策) 市場の調整が一巡する07年後半にかけて、 06年度予算は、公共投資関係費(公共事 米景気は再び成長テンポを高めると予想さ 業関係費+その他施設費)が7兆8,784億円、 れる。実質成長率は06年3.3%、07年2.7% 前年度当初予算比4.8%減と、05年度(同4.0% と予測した。 減)に比べて削減率が拡大した。政府は、 〈欧州〉…ドイツ経済は、堅調な世界経済 2011年度に基礎的財政収支(注)1(プライマリ を背景に輸出がけん引役となり、回復傾向 (注)1.国債発行を除いた歳入から、国債の元利払いを除いた歳出を差し引いた収支。単年度の歳出を税収で賄えるかどうかの 指標である。 102 信金中金月報 2007.1 で推移している。回復の遅れていた雇用情 の世代(注)2」の大量定年退職が始まる07年を 勢にも改善の兆しがみられるなど、企業部 前に、企業が正社員を中心に積極的に採用を 門の回復が徐々に家計部門へも波及しつつ 増やしていることが背景にある。1人当たり ある。ただ、米景気の減速で今後は輸出 現金給与は緩やかな伸びにとどまっているも の伸びが鈍化するとみられるほか、07年 のの、賃金に雇用者数を乗じて算出される雇 から付加価値税率(現行16%)が3%引き 用者報酬は、6期連続で前年比プラスとなっ 上げられることで個人消費の回復が抑制さ た(図表9) 。 れよう。ドイツの実質成長率は06年2.6%、 景気回復の持続で人手不足感が一段と強ま 07年1.4%、ユーロ圏の実質成長率は06年 るなか、人件費の増加を容認する企業が増え 2.5%、07年1.8%と予測した。 ている。特に、企業業績の好調が続いている 〈アジア〉 …中国経済は高成長を続けている 大企業・製造業を中心に、ベースアップなど が、春以降の金融引締め政策で過熱気味に の本格的な賃上げに応じる企業も少なくな 推移してきた投資は鈍化している。一方、 い。マクロベースでみても、労働分配率(注)3が、 農家の所得向上などを背景に個人消費は好 適正レベルと考えられる80年代の平均水準 調を維持している。今後は、米国経済の減 を下回っていることから(図表10) 、今後は 速を受けて輸出の増勢はやや鈍化しよう 賃金引上げの動きが産業界全体に広がる可能 が、所得増加に伴う消費の好調が中国経済 性がある。 をけん引すると予想される。また、北京オ 一方、家計の税・社会保障負担増が可処分 リンピック(08年夏)関連の投資や、西 所得の下押し要因となる(図表11) 。06年1 部大開発に伴うインフラ投資が続くことも 月からは、定率減税の減税幅が半分に縮小さ 景気を下支えしよう。実質成長率は、06 年10.5%、07年9.2%と高めの成長が続く と予測した。 図表9 雇用者報酬の前年比 (%) 5.0 4.0 3.0 2.0 (2)景気回復の恩恵は家計にも着実に波及 ―07年度には個人消費の増勢が加速 家計の雇用・所得環境は改善傾向を維持し ている。総務省の『労働力調査』によると、 06年7~9月の雇用者数は前年比1.2%増と6 期連続で前年同期の水準を上回った。 「団塊 1.0 0.0 -1.0 -2.0 -3.0 -4.0 -5.0 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06(年) (備考)内閣府『四半期別GDP速報』より作成 (注)2.1947年から1949年(昭和22年から昭和24年)生まれが「団塊の世代」と呼ばれている。 3.労働分配率=雇用者報酬÷帰属家賃を除く名目GDP。一定期間に生み出された付加価値のうちどの程度を人件費として 労働者に配分したかを示す指標 調 査 103 れ、平年度ベースでは国税1兆2,500億円、住 引下げなどで、増加額は1.9兆円程度と06年 民税4,000億円の税負担が増加する。年金保 度に比べて縮小すると予想される。 険料などを含めた06年度の家計の税・社会 足元で緩やかな増加にとどまっている1人 保障負担は、05年度に比べて2.5兆円程度(可 当たり現金給与は、堅調な企業収益と労働需 処分所得の0.9%程度)増加すると試算され 給のひっ迫を背景に、07年度にかけて増加 る。07年度も定率減税の廃止(07年1月)な テンポを高めよう。また、07年度には、税・ どで税・社会保障負担の増加が続く見通しだ 社会保障負担の増加額が縮小することで、可 が、介護保険料引上げの一巡や雇用保険料の 処分所得の伸びも高まると予想される。実質 個人消費は、06年度に前年比1.3%増とやや 図表10 労働分配率の推移 伸び悩むが、07年度には2.5%増に伸びを高 (%) 61 めると予測した。 60 80年代の平均 59 58 (3)家計のマインド改善で住宅投資も緩や 57 かに回復 56 雇用・所得環境の改善で先行き不安が後退 55 するなど、家計のマインドが改善しており、 54 53 80 82 84 86 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 (備考)内閣府『四半期別GDP速報』より (年) これが住宅投資の回復に寄与している。ま た、中長期的な金利の先高観が根強いうえ、 図表11 05年度以降の税・社会保障制度の変更に伴う家計の負担増減額 実施年月 05年4月 〃 6月 9月 06年1月 06年4月 〃 〃 ポイント 国民年金保険料の引上げ(月280円) 月1万3,300円→2017年度・月1万6,900円 雇用保険料引上げ(1.4%→1.6%労使折半) 配偶者特別控除・上乗せ分控除廃止(住民税) 厚生年金保険料の引上げ(毎年0.354%労使折半) 定率減税の縮小(半減)全廃で国税2兆5,000億円、住民税8,000億円の 負担増 国民年金保険料の引上げ(月280円) 介護保険料の引上げ 児童手当の支給対象拡大(小学3年→小学6年)と所得制限の緩和 6月 〃 7月 9月 10月 07年1月 07年4月 住民税の定率減税縮小 高齢者への所得課税強化(住民税) たばこ税の増税(年間1,800億円) 厚生年金保険料の引上げ(毎年0.354%労使折半) 70歳以上の高所得者の医療費窓口負担引上げ 定率減税の廃止 国民年金保険料の引上げ(月280円) 〃 雇用保険料率の引下げ(労使合計1.6%→1.4%) 9月 厚生年金保険料の引上げ(毎年0.354%労使折半) 負担額 700億円 1,500億円 1,700億円 4,000億円 1,800億円 700億円 2,600億円 2,600億円 (受取り増) 3,300億円 1,200億円 1,400億円 4,000億円 800億円 1,800億円 700億円 1,800億円 (負担減) 4,000億円 (備考)1.(※)年度計には、制度変更の平年度化に伴う負担増を含むため、内訳の合計とは一致しない。 2.信金中金総合研究所作成 104 信金中金月報 2007.1 (※)年度計 05年度計 1.2兆円 06年度計 2.5兆円 07年度計 1.9兆円 1970年前後に生まれた「団塊ジュニア」が 度127万戸、07年度128万戸と予測した。 住宅を取得する年齢に達しており、マンショ ンを中心に住宅建設は堅調に推移している。 (4)設備投資は今後も景気のけん引役―企 一方、郊外に戸建て住宅を保有しているシニ 業収益の拡大持続で投資余力は大きい ア層を中心に、既存住宅の建替えよりも都市 設備投資は03年度から増加が続いている 部のマンションへの住替えを選択するケース ものの、不採算設備の廃棄を並行して進めて が増えており、持家建設は緩やかな回復にと いる結果、 生産能力はさほど高まっていない。 どまっている(図表12) 。 企業収益の拡大持続で資金面での余力も大き 06年度下期もマンションなど分譲住宅を く、企業の投資意欲は根強いものがある。 中心に住宅投資は堅調に推移するとみられる 具体的には、需要拡大が続く薄型テレビや ほか、金利の先高観を背景に持家も緩やかな その周辺部品、携帯電話関連など情報通信の 増加が続くと予想される。06年度の実質住 分野では、大規模な能力増強や新工場建設が 宅投資は前年比0.7%増と2年ぶりのプラスに 進められている。08年夏の北京オリンピッ 転じると予測した。 ク開催に伴うデジタル家電の需要を取り込む 07年度も家計のマインドは良好を維持し ためには、07年半ばまでに量産体制を整え よう。住宅ローン減税が08年末で期限切れ る必要があり、電機各社はそれまでに集中投 となるため、やや前倒しで住宅建設が進めら 資を実施する計画である。 れる可能性がある。ただ、投資用賃貸マンシ 実 際、 日 銀 短 観(9月 調 査 ) の06年 度 設 ョンは、供給増の影響などで徐々に頭打ちに 備投資計画をみると、製造業全体で前年比 なるとみられ、07年度の実質住宅投資は前 12.5%増、そのうち電気機械が16.7%増と製 年比1.4%増と緩やかな伸びにとどまると予 造業の設備投資をけん引する見込みである 測した。なお、新設住宅着工戸数は、06年 (図表13) 。また、運輸、情報通信、電力な ど非製造業でも設備投資の拡大が見込まれる 図表12 住宅着工戸数の推移 など、設備投資のすそ野は一段と広がってい (万戸) 70 貸家 60 50 分譲住宅 40 と、高い伸びを示した05年度(7.3%)をさ らに上回ると予測した。 設備投資は、03年度から06年度まで4年連 続で高い伸びが続くと想定しており、07年 30 20 る。06年度の実質設備投資は前年比9.2%増 持家 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 (備考)1.06年度は06年4∼9月年率換算値 ( 2.国土交通省『住宅着工統計』より作成 (年度) 度は、デジタル関連投資の一巡などで設備 投資の拡大が一服すると予想される。ただ、 国内外の需要が底堅く推移すると想定して 調 査 105 図表13 日銀短観の設備投資計画 〈製造業〉 〈非製造業〉 (%) 20 (%) その他加工 輸送機 電気機械 15 10 計画(9月調査) その他素材 鉄鋼非鉄 化学 8 6 4 5 2 0 0 -5 -2 -10 -4 -15 -6 -20 98 99 00 01 02 その他 不動産 電気ガス 03 04 05 (備考)前年度比増減率。日銀短観より作成 -8 06 (年度) 98 99 計画(9月調査) リース 運輸 通信 00 01 02 03 04 05 06 (年度) おり、設備投資が失速する可能性は小さい。 一方、輸入は堅調な内需と、年度上期の原油 07年度の実質設備投資は前年比3.4%増と予 高の影響で、名目ベースでは輸出を上回る高い 測した。 伸びとなろう。06年度の貿易黒字は前年比 4.1%減と2年連続で縮小すると予想される。 (5)所得収支の黒字拡大で、06年度の経常 海外企業からの特許・工業権使用料の受取 黒字は初の20兆円台へ の増加が続き、サービス貿易の赤字は前年比 設備投資と並んで景気をけん引してきた輸 7.1%減と2年連続で縮小しよう。海外の金利 出は、米景気の減速などの影響で徐々に増勢 上昇による利子収入の増加や、海外現地生産 が鈍化しよう。ただ、中国を中心としたアジ 子会社からの配当収入の増加で、所得収支の ア地域の景気は堅調を維持しているうえ、円 黒字は引き続き拡大すると予想される。06 安も追い風となっており、年度下期に日本の 年度の経常収支の黒字は、前年比7.3%増の 輸出環境が大きく悪化する可能性は小さい。 20.5兆円と予測した(図表14) 。 図表14 経常収支の推移と予測 (兆円) 経常収支 所得収支 貿易収支 25 予測 サービス収支 経常移転収支 20 15 10 5 0 -5 -10 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 (備考)日本銀行資料より作成。予測は信金中金総合研究所 106 信金中金月報 2007.1 01 02 03 04 05 06 07 (年度) 米景気は、住宅市場の調整が一巡する07 給ギャップの縮小を背景に、最終製品の価格 年後半にかけて、徐々に成長率を高めると予 引上げが継続すると予想される。07年度の 想され、日本の輸出も再び増加テンポを高め 国内企業物価は、前年比1.3%の上昇と4年連 よう。原油価格の高騰が一服することで輸入 続で前年水準を上回ると予測した。 消費者物価は、8月25日の発表分から基準 の伸びが鈍化するとみられ、07年度には貿 易黒字が増加に転じると予想される。 さらに、 年が00年から05年に変更された。新基準に 対外純資産の積上がりと海外金利の上昇で、 よる前年比は06年1月に遡って発表された 所得収支黒字は一段の拡大が見込まれる。経 が、改定幅は予想以上に大きく、コア消費者 常収支の黒字は前年比6.8%増の21.9兆円と6 物価(生鮮食品を除く総合)の前年比は0.4 年連続で増加すると予測した。 ~0.6ポイント下方改定された。 新基準によるコア消費者物価の前年比は、 4.デフレ脱却でコールレートは07年 中に0.75%程度へ 06年5月以降ゼロ%以上で推移しているが、 (1)需給ギャップの縮小でコア消費者物価 どまっている。ガソリンなどエネルギー価 直近の9月も0.2%の上昇と緩やかな伸びにと の上昇率は緩やかに加速 格が物価を押し上げる一方、パソコンやテレ 国内企業物価の前年比上昇率は、06年8月 ビなどの耐久消費財、携帯電話料金が押下げ と9月に3.5%に達した。原油や銅などの国際 要因になっている。このため、新たに正式発 商品市況の高騰が主因であるが、素原材料の 表されることになった米国式のコアである食 価格上昇を部品などの中間財や最終製品の価 料・エネルギーを除く指数は、9月が前年比 格に転嫁する動きが広がっており、化学、プ 0.5%の下落と依然として水面下の動きが続 ラスチック、繊維、紙、など多くの品目で上 いている。 ただ、06年10月には高齢者医療費の自己 昇率が加速している。10月には原油価格の 高値修正を主因に、国内企業物価の 上昇率は2.8%に鈍化したが、今後 図表15 消費者物価(前年比)の推移と予測 (%) 0.8 もこれまでの原材料価格の高騰分を 0.6 製品価格に転嫁する動きが続くと予 0.4 想される。06年度の国内企業物価 0.0 -0.2 昇率(2.1%)を上回ると予測した。 -0.4 の押上げ効果が一巡するとみられ る。ただ、景気回復の持続による需 コア指数(生鮮食品を除く総合) 0.2 は前年比2.8%の上昇と05年度の上 07年度はガソリンなど石油製品 予測 -0.6 -0.8 -1.0 00 米国式コア (食料・エネルギーを除く総合) 01 02 03 04 05 06 07 (備考)総務省資料、予測は信金中金総合研究所 調 査 08 (年) 107 負担増に伴って医療関連の物価が上昇するほ 続いている。足元の原油価格が大幅に下落し か、11月には昨年値下げされた携帯電話料 ていることを考慮すると、10~12月以降は、 金の影響が一巡することが物価を押し上げる 控除項目である輸入デフレーターの上昇率が 要因となる。また、需給ギャップが縮小する 鈍化する一方、原材料価格高騰分の最終財へ なか、衣料品や日用品などモノの価格全般が の価格転嫁が続くと見込まれるため、GDP 下止まりから上昇に転じてきたことも押上げ デフレーターの下落率縮小テンポは加速する 要因となろう。一方、原油価格の下落を映し と予想される。06年度のGDPデフレーター てガソリン価格の押上げ効果が徐々に剥落す は前年比0.5%の下落と水面下の動きが続こ ると予想される。食料・エネルギーを除く指 うが、原油価格の上昇一服と最終財への価格 数でみれば、前年比下落率の縮小テンポがや 転嫁の進展で、07年度には0.3%の上昇に転 や加速し、06年末にはゼロ近辺まで改善す じると予測した。 る可能性があるが、コア消費者物価の上昇率 は引き続き緩やかにとどまろう。06年度の コア消費者物価の前年比上昇率は0.3%と予 測した。 (2)コールレートは07年中に0.75%程度へ 日銀は、7月13~14日に開催された金融政 策決定会合で、ゼロ金利政策の解除を全会一 景気回復の持続を前提にすると、07年度 致で決定した。操作目標である無担保コール も物価は上昇傾向で推移しよう。需給ギャッ レート(翌日物)の誘導目標は、おおむねゼ プの縮小に伴うモノの価格上昇に加え、賃金 ロ%から0.25%程度に引き上げられたが、そ 上昇を背景にサービス関連の物価上昇圧力も の後は同水準に据え置かれている。 徐々に高まろう。ただ、ガソリンなどエネル 追加利上げの時期を占ううえで注目されて ギー価格の押上げ効果が大幅に縮小する公算 いた「経済・物価情勢の展望」 (展望レポー が大きく、これがコア指数の上昇率を抑制す ト、10月31日発表)によると、実質成長率 る要因となる。07年度は、食料・エネルギ (大勢見通しの中央値)は、06年度2.4%、07 ーを除く米国式のコア指数の前年比上昇率が 年度2.1%と緩やかながらも回復基調を維持 0.6%に高まると予想されるが(06年度の米 すると想定し、コア消費者物価の前年比は、 国式コアは0.3%の下落と予測) 、コア消費者 基準改定に伴って4月の見通しから下方修正 物価の上昇率は0.5%にとどまると予測した。 されたが、06年度0.3%、07年度0.5%と物価 消費者物価の基準改定の結果が反映された 上昇率は徐々に高まるとの見方を維持した。 影響で、すでに公表されていた06年4~6月 福井総裁は、 「07年度にかけて景気は息の長 までのGDPデフレーターが下方修正された い拡大を続ける」と先行きに自信を示したう ものの、7~9月のGDPデフレーターの前年 え、低金利が長引くリスクについて言及する 比は0.8%の下落とマイナス幅の縮小傾向は など、利上げ継続の必要性を指摘した。 108 信金中金月報 2007.1 当研究所でも、足元の日本経済は民需主導 価格高騰の影響が一巡した後もコア消費者物 の自律回復局面にあると認識している。コア 価は安定的なプラス基調が続くと予測してい 消費者物価は、原油価格の下落で先行き上昇 る。GDPデフレーターも前年比プラスに転 テンポが鈍化するものの、需給ギャップは解 じ、デフレ脱却が確認できよう。日銀は、景 消されつつあり、食料・エネルギーを除く米 気後退期における金融の緩和余地を確保する 国式のコア指数は06年末にはゼロ近辺まで といった観点からも、超低金利の是正を目指 改善すると予測している。米景気の減速や、 そう。当研究所では、07年度のコア消費者 足元の経済指標が景気の足踏みを示唆してい 物価の上昇率が0.5%にとどまると予想して ることから、年内の利上げは見送られると想 いるものの、米国式コアの上昇率は0.6%と 定しているが、06年度内に、日銀はコールレ 上昇基調を強めると予測しており、それを前 ートの誘導目標を0.5%程度に引き上げよう。 提にコールレートの誘導目標は、07年中に 07年度も景気の拡大局面は継続し、原油 0.75%程度まで引き上げられると想定した。 調 査 109 〈06年度、07年度の日本経済予測(前年度比、前期比年率) 〉 04年度 名目GDP 実質GDP 国内需要 民間部門 民間最終消費支出 民間住宅投資 民間企業設備 民間在庫品増加 政府部門 政府最終消費支出 公的固定資本形成 財・サービスの純輸出 財・サービスの輸出 財・サービスの輸入 05年度 06年度 07年度 〈実績〉 〈実績〉 〈予測〉 〈予測〉 0.5 1.8 1.9 2.4 1.7 3.3 2.4 2.1 1.2 2.9 2.0 2.0 2.1 3.5 3.2 2.6 1.6 2.6 1.3 2.5 1.7 △ 0.2 0.7 1.4 5.6 7.3 9.2 3.4 △ 878 11 1,299 1,089 △ 1.4 0.8 △ 2.4 △ 0.4 1.8 1.4 0.5 0.6 △ 12.4 △ 1.4 △ 13.4 △ 4.8 13,783 16,476 19,655 21,055 11.4 9.1 7.8 5.3 8.7 6.5 4.6 4.8 前年度比 (単位:%、十億円) 06年度 07年度 上期 下期 上期 下期 〈実績〉 〈予測〉 〈予測〉 〈予測〉 1.4 2.9 1.7 3.4 2.1 2.2 1.8 2.5 1.7 2.5 1.9 2.0 3.3 3.4 2.5 2.5 0.2 2.7 2.3 2.8 △ 3.8 4.8 0.1 0.6 14.2 3.9 4.4 1.5 1,227 1,409 1,038 1,178 △ 3.7 △ 1.0 △ 0.3 0.0 0.5 0.5 0.6 0.8 △ 19.0 △ 7.7 △ 4.1 △ 3.9 19,433 19,879 20,144 21,996 7.1 4.0 3.7 10.2 5.0 3.8 4.0 7.4 前期比年率 (備考)内閣府資料より作成。在庫投資、財貨・サービスの純輸出は実額。予測は信金中金総合研究所 〈実質成長率の需要項目別寄与度〉 04年度 実質GDP 国内需要 民間部門 民間最終消費支出 民間住宅投資 民間企業設備 民間在庫品増加 政府部門 政府最終消費支出 公的固定資本形成 財・サービスの純輸出 財貨・サービスの輸出 財貨・サービスの輸入 〈実績〉 1.7 1.2 1.6 0.9 0.1 0.8 △ 0.3 △ 0.3 0.3 △ 0.7 0.5 1.4 △ 0.9 (単位:%) 05年度 06年度 〈実績〉 〈予測〉 3.3 2.4 2.8 1.9 2.6 2.4 1.5 0.8 △ 0.0 0.0 1.0 1.4 0.2 0.2 0.2 △ 0.5 0.3 0.1 △ 0.1 △ 0.6 0.5 0.5 1.2 1.2 △ 0.8 △ 0.6 前年度比 07年度 〈予測〉 2.1 2.0 2.0 1.5 0.1 0.6 △ 0.0 △ 0.1 0.1 △ 0.2 0.2 0.9 △ 0.7 06年度 07年度 上期 下期 上期 下期 〈実績〉 〈予測〉 〈予測〉 〈予測〉 2.1 2.2 1.8 2.5 1.7 2.2 1.9 1.9 2.5 2.4 1.9 1.9 0.1 1.5 1.3 1.6 △ 0.1 0.2 0.0 0.0 2.1 0.6 0.7 0.2 0.4 0.1 △ 0.1 0.0 △ 0.8 △ 0.2 △ 0.1 0.0 0.1 0.1 0.1 0.1 △ 0.9 △ 0.3 △ 0.2 △ 0.2 0.4 0.1 0.0 0.6 1.1 0.6 0.6 1.7 △ 0.7 △ 0.6 △ 0.6 △ 1.1 前期比年率 (備考)内閣府資料より作成。予測は信金中金総合研究所 〈前提条件〉 04年度 05年度 06年度 07年度 06年度 上期 下期 07年度 上期 下期 〈実績〉 〈実績〉 〈予測〉 〈予測〉 〈実績〉 〈予測〉 〈予測〉 〈予測〉 為 替 レ ー ト (円/ドル) 原 油 価 格 (CIF、ドル/バレル) 107.5 38.7 113.3 56.0 (前年比、%) 31.8 44.7 公 定 歩 合 (%) 0.10 0.10 無担保コール翌日物 (%) 春 闘 賃 上 げ (%) 116.0 63.0 112.0 58.0 115.3 67.8 116.7 58.2 111.0 58.0 113.0 58.0 12.5 △8.0 27.6 △0.5 △14.6 △0.3 0.10~0.75 0.75~1.00 0.10~0.40 0.40~0.75 0.75~1.00 1.00 0.00~0.02 0.00~0.05 0.00~0.50 0.50~0.75 0.00~0.25 0.25~0.50 0.50~0.75 1.67 1.71 1.79 1.90 - - - 0.75 - (備考)日本銀行資料などより作成。予測は信金中金総合研究所 110 信金中金月報 2007.1 〈主要経済指標の推移と予測〉 04年度 05年度 〈実績〉 〈実績〉 鉱工業生産指数 100.5 102.1 (前年比、%) 4.0 1.6 第3次産業活動指数 104.8 107.1 (前年比、%) 2.2 2.2 完全失業率(季調済、%) 4.6 4.3 企業物価指数 (国内) 96.4 98.4 (前年比、%) 1.5 2.1 消費者物価指数 100.3 100.0 (前年比、%) 0.0 △ 0.3 (除く生鮮食品) 100.1 100.0 (前年比、%) △ 0.1 △ 0.1 06年度 07年度 〈予測〉 106.0 3.8 108.9 1.7 4.1 101.2 2.8 100.5 0.5 100.3 0.3 〈予測〉 109.6 3.4 111.1 2.0 3.9 102.5 1.3 100.8 0.3 100.8 0.5 06年度 上期 下期 〈実績〉 〈予測〉 104.5 107.4 4.8 2.8 107.9 110.0 2.0 1.4 4.1 4.1 101.0 101.5 3.3 2.4 100.5 100.6 0.4 0.6 100.2 100.4 0.1 0.5 07年度 上期 下期 〈予測〉 〈予測〉 107.5 111.8 2.9 4.1 109.8 112.4 1.8 2.2 3.9 3.9 102.5 102.6 1.5 1.1 100.7 101.0 0.2 0.4 100.7 100.9 0.5 0.5 (備考)経済産業省、総務省資料などより作成。予測は信金中金総合研究所 〈経常収支〉 (単位:億円、%) 経常収支 前年差 名目GDP比(%) 貿易・サービス収支 前年差 貿易収支 前年差 サービス収支 前年差 所得収支 前年差 経常移転収支 前年差 02年度 03年度 〈実績〉 〈実績〉 133,872 172,972 14,748 39,100 2.7 3.5 63,607 96,053 25,040 32,446 113,739 130,115 25,110 16,376 △ 50,131 △ 34,062 △ 68 16,069 80,206 85,120 △ 6,547 4,914 △ 9,941 △ 8,201 △ 3,746 1,740 04年度 〈実績〉 182,096 9,124 3.7 95,624 △ 429 131,571 1,458 △ 35,947 △ 1,886 96,441 11,320 △ 9,969 △ 1,768 05年度 〈実績〉 191,233 9,136 3.8 74,072 △ 21,553 95,633 △ 35,938 △ 21,560 14,387 126,094 29,653 △ 8,934 1,035 06年度 07年度 〈予測〉 〈予測〉 205,229 219,220 13,996 13,991 4.0 4.2 71,679 79,278 △ 2,393 7,598 91,708 98,481 △ 3,925 6,774 △ 20,028 △ 19,203 1,532 825 144,007 149,750 17,913 5,742 △ 10,458 △ 9,808 △ 1,524 650 (備考)日本銀行『国際収支統計』より作成。予測は信金中金総合研究所 〈主要国の実質成長率の推移と予測〉 国 名 米 国 ユ ー ロ 圏 ド イ ツ フランス イ ギ リ ス 韓 国 台 湾 香 港 シンガポール タ イ マレーシア インドネシア フィリピン 中 国 00年 3.7 4.0 3.5 4.0 3.8 8.5 5.8 10.2 10.0 4.8 8.9 4.9 6.0 8.4 01年 0.8 1.9 1.4 1.8 2.4 3.8 △ 2.2 0.6 △ 2.3 2.2 0.3 3.8 1.8 8.3 02年 1.6 0.9 0.0 1.1 2.1 7.0 4.2 1.8 4.0 5.3 4.4 4.4 4.4 9.1 (単位:前年比、%) 03年 2.5 0.8 △ 0.2 1.1 2.7 3.1 3.4 3.2 2.4 7.0 5.4 4.9 4.5 10.0 04年 3.9 1.7 0.8 2.0 3.3 4.6 6.1 8.6 8.7 6.2 7.1 4.9 6.2 10.1 05年 3.2 1.5 1.1 1.2 1.9 4.0 4.0 7.3 6.4 4.5 5.3 5.6 5.0 10.2 06年 (予) 3.3 2.5 2.6 2.0 2.5 4.9 4.3 6.7 6.6 4.3 5.3 5.5 5.4 10.5 07年 (予) 2.7 1.8 1.4 2.0 2.4 4.3 4.1 5.4 5.0 4.2 5.0 5.8 5.3 9.2 (注)各国資料より作成。予測は信金中金総合研究所 調 査 111 「信金中金月報掲載論文」募集における査読付論文 信金中央金庫 総合研究所 ここに掲載した査読付論文は、信金中金総合研究所が、大学に籍を置く学者・大学院生を対象 として平成15年11月より募集している「信金中金月報掲載論文」に応募のあった論文で、編集委 員会が委嘱した審査員による審査を経て、編集委員会が一定のレベルに達しているものと認め信 金中金月報への掲載を決定したものである。 当論文募集の対象分野は、信金中金総合研究所の研究分野でもある「地域」 「中小企業」 「協 同組織」に関連する金融・経済分野としており、これら分野の研究の奨励を通じて、研究者の 育成を図り、もってわが国における当該分野の学術研究振興に寄与することを目的としている。 また、当論文募集は、①懸賞論文と異なり、募集期限を設けない随時募集として息の長い取組 みを目指していること、②要改善点を指摘し、加筆修正後の再応募を認める場合があること、を 特徴点としている。 【査読付論文に係る留意点】 ・審査員による審査および編集委員会における掲載可否の決定は、信金中金総合研究所および応 募論文の関係者等が関与しない形で、独立性、客観性、公平性を確保し厳正に行われている。 ・応募のあった時点から当月報掲載までには一定の時間の経過がある。 ・掲載した論文の文責は執筆者にある。 (参考)「信金中金月報掲載論文」募集要項 (一部抜粋) テーマ 募集する論文の分野は、当研究所の研究分野でもある「地域」 、 「中小企業」 、 「協同組織」に関連す る金融・経済分野とし、具体的には、当該分野における理論的、実証的、実務的、法制的、歴史的 研究の論文とします。 応募資格 原則として、大学に籍を置く学者・大学院生とします。 なお、応募資格を有する方による共同執筆も可とします。 応募論文の扱い 編集委員会が委嘱する審査員の審査結果に基づき、編集委員会において「信金中金月報」への掲載 可否を決定します(審査員の氏名、審査内容に関するお問い合わせには応じません) 。また、掲載 可とされた論文(以下「掲載論文」という。 )は、当研究所ホームページにも掲示します。 なお、掲載論文の版権は当研究所に帰属します。 編集委員会 編集委員会は次の委員で構成します。 (敬称略、順不同) 委員長 堀内 昭義 中央大学総合政策学部教授 副委員長 藤野 次雄 横浜市立大学国際総合科学部長(信金中金総合研究所顧問) 委員 筒井 義郎 大阪大学社会経済研究所教授 委員 濱田 康行 北海道大学経済学部教授 委員 吉野 直行 慶應義塾大学経済学部教授 募集方法等 締め切りを定めない随時募集 ・詳しくは、当研究所ホームページ(http://www.scbri.jp/)に掲載されている募集要項等を参照 112 信金中金月報 2007.1 査読付論文 供給サイドからの中小企業貸出分析 (*) 横浜市立大学 国際総合科学部準教授 随 清遠 (キーワード) 中小企業貸出、不良債権、貸し渋り、貸出低迷、貸出膨張、軌道修正 (要 旨) 本稿では、われわれは、地方銀行と第二地方銀行を対象に、1985年3月期~1999年3月期 における中小企業貸出供給関数を推計し、 各期間における供給関数の変化を比較した。また、 不良債権や自己資本比率といって銀行の健全性指標より、バブル期の貸出膨張のほうが、よ り有意に1990年代後半の貸出低迷を説明できること、さらに1990年代後半の不良債権水準 は、バブル期の貸出膨張に強く影響されることを確認した。いずれも、1990年代後半の中 小企業貸出低迷は、バブル期の貸出行動に対する軌道修正としてとらえられることを示唆す る。貸出低迷を改善しようとした政策は長期的には、貸出を回復させることができないであ ろう。 (*)論文の作成に当たって、レフェリーより有益な助言を頂いた。ここに記して感謝の意を表したい。もちろん、本稿の内容に ついて、いっさいの責任は著者にある。 査読付論文 113 1.はじめに 貸し渋りの存在は重要な問題である。貸し 渋り問題が深刻であれば、政府が優先的に講 銀行などの金融機関は非対称情報などの問 じるべき政策は、不良債権の解決ないし自己 題を解決するための制度的工夫である。この 資本の増強などを通じて金融機関の資金供給 立場から見れば、とくに情報問題が相対的に 能力をいち早く回復させることである。もし 大きいと思われる中小企業に対する資金提供 貸出の低迷は貸し渋りでない要因によるもの のあり方は、一国の金融仲介制度を評価する であれば、景気回復には投資や消費などの 際もっとも重要な要素となる。 バブル崩壊後、 需要面の改善、あるいは産業の構造調整を 中小企業に対する資金提供の環境変化は、さ 通じた非金融部門の生産効率アップが必要と まざまな角度から注目の的となってきた。そ なる。これまでの研究において、少なくとも れは、時には内閣にとって大きな政治課題と 1990年代後半については、貸し渋りの存在 なり、時には破綻金融機関を処理する方式を に関して肯定的な結論が多かった。 左右する重要なファクターとなり、また時に われわれの研究は、貸し渋りの存在の有無 はマスコミにおいて経済問題の深刻さを伝え を確認するのではなく、貸し渋りが発生した る絶好の題材となっていた。 背景を追求するものである。われわれの第一 本研究は、金融機関サイドから対中小企業 の関心は、そもそも1990年代後半における 貸出供給の変化を検証する。われわれはと 金融機関側の要因による中小企業貸出の低 くに1990年代後半の中小企業貸出の低迷が、 迷が、なぜ発生したかである。貸し渋りの発 それまでの金融機関の行動とどのように関連 生原因に対する追求は重要である。もし、貸 していたか、に注目する。海外の研究も含め し渋りをもたらす表面的な理由である金融機 て、これまでの中小企業金融に関する研究に 関の財務悪化が外生的なものであれば、政策 は、資本市場アクセスが大きく制限される中 的に貸出を促進することは有効な対策であろ 小企業が資金制約を受ける可能性、金融機関 う。しかし、もし貸し渋りが他のなんらかの の体力や貸し出し姿勢が中小企業の資金調達 問題によって内生的に生じたものであれば、 にとって重要な影響を及ぼす可能性、また金 このような問題が根本的に解決されない限 融機関の資金供給に強く影響する金融政策が り、貸出促進政策は長期的に貸出を回復させ クレジット・チャンネルを通じて景気動向を ることができないであろう。 左右する可能性などに関するものが多い。と われわれの結論は、金融機関の貸出姿勢の くに深刻な金融不安を経験した1990年代の 変化が決して偶然ではなく、それまでの貸出 日本において、金融機関の貸出行動ないし中 行動と深く関連したというものである。つ 小企業の資金調達に関する研究は、ほとんど まり、1990年代後半の貸出低迷以前の時期、 貸し渋りに関心が向けられてきた。 とくに1980年代後半以降の中小企業貸出の 114 信金中金月報 2007.1 膨脹があった。1990年代後半の貸出姿勢変 出に関する研究の多くは、貸し渋りの有無の 化はこれまでの行動を修正した側面が強い。 確認に焦点を当てている。多くの研究では、 もし、われわれの結論が正しければ、貸出低 自己資本比率や不良債権比率など金融機関の 迷を修正しようとした政策は長期的には、貸 「体力」を示す変数が貸出変動に対して有意 出を回復させることができないであろう。 な説明力を持つかどうかをもって貸し渋りの 本稿の以下の構成は次のようになってい 存在を確認している。貸し渋りの厳密な定義 る。第2節では、これまでの中小企業貸出の は簡単ではないが、供給側の要因による貸出 特徴を概観し、関連研究を検討する。第3節 低迷とみるのは一般的であろう。 では、個別金融機関のデータを使って対中小 供給側の要因は、実証的には金融機関の財 企業貸出供給に影響する要因を特定し、これ 務状況あるいはその代理指標から確認される らの要因について各時期を比較する。また、 ケースが多い。この供給側の要因(財務健全 1990年代後半の不良債権とそれまで各時期 性の悪化等)から、資金供給の低下まで様々 の貸出との関係を検証する。第4節では、本 な経路が考えられる。 稿を要約して、残された課題を検討する。 2.これまでの関連研究 まず考えられるのは、金融機関側の財務悪 化と需要側の要因とが連動する可能性であ る。もちろん、この経路による貸出低迷は純 前にも述べたように、1990年代の銀行貸 粋に供給側の要因によるものではなく、貸し 出行動に関する研究の多くは、貸し渋り問 渋りとしてとらえるのは適切ではない。貸し 題に集中していた。また、必ずしもすべての 渋りの検証を行うために、とくにマクロ時系 貸し渋りに関する研究は中小企業貸出だけを 列データによる検証を行う際、この需要側の 対象にしているわけではないが、中小企業が 影響を何らかの形で排除する必要がある。ま 直面する情報の非対称性問題を考えれば、か た、財務内容の悪化によって資金供給コスト りに中小企業貸出を対象にした研究でなくて を上昇させ、資金供給に影響することも考え も、貸し渋り問題はそのまま、あるいは大企 られる。銀行の資金供給コストは、投入費 業や産業平均以上に中小企業貸出にも当ては 用に該当する調達コストと資金仲介に不可 まると思われる。ここで、貸し渋り問題を検 欠な情報生産コストに分けることができる。 討し、それと関連するこれまでの研究を展望 1990年代後半において、日本の金融機関が、 する。この節の最後では、これまでの研究か ロンドンやニューヨークといった国際市場で ら残された問題を議論する。 資金調達する際、上乗せ金利(ジャパン・プ レミアム) が一時求められていた。 このように、 (1)貸し渋り発生の理論可能性 1990年代の銀行貸出ないしは中小企業貸 財務内容の悪い金融機関は高い貸付金利を課 されたり、あるいはそのような金融機関が市 査読付論文 115 場からの資金調達が難しくなったりすること て鈍化していた。多くの研究は貸し渋りの発 は十分考えられる。銀行にとっては、資金を 生を指摘した。その代表的なものをいくつか 仕入れるコストが上昇すれば、あるいは自ら みておこう。 の資金調達が困難に直面すれば、産業への資 金供給はマイナスの影響を受けるであろう。 (2)先行研究 銀行が資金を仲介するために発生するコスト 1990年代の貸し渋りに関する初期の研究 はさらに、技術的要因と組織的要因に分ける には、吉川他[1994] 、本多他[1996]およ ことができる。例えば、貸出先の将来収益に び前田[1996]をあげることができる。吉 関する判断は、知識や情報の蓄積、通信技術 川他[1994]の前半では、金融機関、企業、 や組織としての情報解析能力等に依存するで 商工会議所の責任者に対するヒアリング調査 あろう。技術的要因は、銀行の財務状況の悪 をまとめており、論文の後半では、1993年 化にともなって、後退するとは考えにくい。 度の銀行有価証券報告書のデータを使って銀 組織的要因は、経営者がいかに人的資源を効 行の不良債権規模を説明変数とし、貸出増加 率的に組織し、また、個々の行員がいかに高 率を被説明変数とした単純なクロスセクショ いインセンティブをもって銀行経営にかかわ ン回帰分析を行っている。不動産業貸出、あ るかに依存する。理論的には、この部分が銀 るいは信託銀行に関する推計結果において 行の財務状況の変化にともなってどのように は、不良債権による貸出への影響が有意に観 変化するか、はっきりしない。なぜなら、前途 察されるものの、他の業種や貸出合計、中小 多難な状況に直面する銀行において、行員の 企業貸出については、いずれも有意な証拠は 労働意欲の変化を通じて生産の効率性が影響 確認されていない。 を受ける可能性も考えられるからである。危 本多他[1996]は、マクロ時系列データ 機を脱出するために、より意欲を高め、より と個別銀行の財務データの両方を使って貸し 効率的に情報生産を行うことも十分考えられ 渋りに関する検証を行っている。時系列デー る。さらに、銀行の財務内容の悪化から資金 タによる検証では、銀行の自己資本あるいは 供給の低下までより直接的な経路は、 例えば、 不良債権比率の代理変数である手形取引停止 自己資本比率規制の場合、過小資本の銀行が 処分者負債比率はいずれも貸出への影響が確 貸出供給を増やすと、規制基準をクリアでき 認されたものの、それらの影響は強くない、 なくなるから、貸出を縮小せざるを得ない。 あるいは限界的な影響しか与えていない。ま 1990年代後半の日本では、相次ぐ金融機 た、1993年3月期から1995年3月期までの個 関の経営破綻や不良債権の顕在化にともな 別銀行パネルデータによる分析において自己 い、銀行業は深刻な経営不安に直面していた。 資本比率や不良債権比率から貸出増加率への 同時に、中小企業貸出の増加率は以前と比べ 影響は大銀行グループ(都市銀行、長期信用 116 信金中金月報 2007.1 銀行、信託銀行)にしか観察されない。しか よって貸出量が減少する」 [福田 (2002,p.81)] もいずれもその有意性は限界的なものにすぎ ことと定義した。1990年代後半を対象とし なかった。 たいくつかの研究を見ておこう。 吉川他[1994]を強く意識した前田[1996] 多くの研究が供給側の要因を金融機関の の研究は、同じく個別銀行の財務データを利 財務変数から定義するのに対してMotonishi 用していくつかの修正を試みた。銀行の貸出 and Yoshikawa[1999]は、供給側要因の代 供給関数を明示的に定義した上、不良債権比 理変数を『全国企業短期経済観測調査』にお 率とともに、 自己資本比率や有価証券含み益、 いて企業経営者が判断した金融機関の貸出態 債権償却特別勘定残高比率も説明変数に加え 度とした。この研究は、 『法人企業統計』デ た。吉川他[1994]とほぼ同じ時期を対象 ータを使って、時系列的手法に基づいて直接 としているにもかかわらず、不良債権比率が 金融機関の資金供給行動ではなく、上記の供 有意に貸出増加率あるいは中小企業貸出増加 給側要因による借り手企業の投資行動への影 率に負の影響を与えたことが確認された。し 響に焦点を当てた。前にも述べたように、時 かし、前田[1996]の分析は都市銀行と長 系列データを使って金融機関の貸出行動を分 期信用銀行しか対象としておらず、また、自 析するとき、需要側の要因と供給側の要因を 己資本比率については有意な結果を得ていな いかに区別するかは大切である。Motonishi い。もともと吉川他[1994]では、一部の and Yoshikawaは、金融機関の貸出態度によ 銀行部門あるいは一部の産業について不良債 る影響の絶対水準ではなく、それが大企業と 権比率の影響を確認できたから、前田[1996] 中小企業に影響した差異に注目した。その結 はそれに対する根本的な改善とは言い難い。 果、金融機関の貸出態度は大企業より中小企 さらに、債権償却特別勘定残高に対する解釈 業の投資行動により大きな影響を及ぼしてい は、佐々木[2000]とまったく逆になって たことが観察された。また、推計された係数 おり、この点についても議論の余地が残る。 に基づいてシミュレーションした結果、供給 前田[1996]にまとめられているように、 側の要因が企業の設備投資に無視できない影 1990年代前半の議論には、貸し渋りの存在 響を及ぼし、このような影響はとくに1997 について賛否両論があったが、その後の研 年以降大きかった。 究 で は、 福 田[2002] が 総 括 し た よ う に、 この研究が供給側の要因を企業経営者の判 「1997年末以降の金融危機の際に、深刻なキ 断を採用した点には議論の余地がある。なぜ ャピタル・クランチが日本で発生したこと なら、経営不振の原因いかんに関わらず、破 に関して幅広いコンセンサスがある」 [福田 綻の危機に直面する企業はまず金融機関の厳 (2002,p.85) ] 。もっとも福田は、キャピタル・ しい貸し出し態度に直面するからである。ま クランチを「銀行のバランス・シートの悪化に た、なぜ1990年代後半において貸し渋りが 査読付論文 117 発生したかについては、この論文で問題にし ていない。 (3)新しい課題 以上のように、貸し渋りの発生について、 堀江[2001]は、金融機関の自己資本比 少なくとも1990年代後半以降について、多 率や不良債権比率が貸出に与えた影響を、 くの研究ではそれを肯定する結論が出され 1997年度と1992年度について比較した。そ た。もし、 「貸し渋り」を本来貸すべき資金 れによると、1997年度においては、自己資 が金融機関側の要因によって供給されなか 本比率や不良債権比率は強く金融機関の貸出 ったと理解すれば、銀行の財務状況を改善 増加率に影響したのに対して、1992年度に し、本来の貸出供給能力を回復することが景 ついては、そのような関係が観察されなか 気を好転させるための前提条件となる。しか った。この結果は、金融機関の貸出行動が し、他方においてHoshi and Kashyap[1999, 1997年以降企業投資に影響するようになっ 2004]は、日本の銀行業は過大な規模(over- た と い うMotonishi and Yoshikawaの 結 果 と banking)を抱えており、健全な経営状態に戻 整合的であるといえよう。 るために、相当規模の資産縮小が必要であろ 筒井[2005]は、月次マクロデータを使 うと主張した。1990年代後半において、日 って、不均衡分析推定に基づいて、1990年 本では銀行側の要因によって本来の貸出が供 代の貸し渋り問題を検証した。貸出供給関数 給されなかったこと(貸し渋りの存在) 、同 における自己資本比率はむしろ貸出に負の影 時に日本の銀行業は過大な資産規模を抱えて 響も観察されるから、 「銀行がBIS規制によ おり、健全な経営状態になるために、相当な って貸出供給を減らしていたという見解を支 資産縮小が必要であること(over-banking)、 持しない」とした。また、1990年代の大半 この一見相反するような主張を整合的に理解 は超過需要状態であるので、貸出額は供給側 するために、われわれは、貸し渋りの存在を によって規定されるという意味で、貸し渋り 確認するだけでなく、1990年代において貸 が存在したと認めたものの、 「深刻なものと し渋りがなぜ発生したかを考えなければなら は考えられない」と結論づけた。もし、超過 ない。そうするためにバブル期の銀行行動を 需要の大きさで判断するなら、むしろ高度成 含めた検証が必要である。 長期のほうが「貸し渋り」が深刻であろう。 ただし、1998年以降、貸出供給曲線が需要 曲線よりも大きく左シフトし、筒井は、その 以降の貸し渋り問題が悪化した可能性を示唆 した。 これは次節の実証研究の課題である。 3.実証分析 この節では、個別金融機関のデータを使っ て、1990年代後半の貸出の低迷がどのよう にそれまでの貸出行動に依存していたか、を 検証する。特別な言及がない限り、本研究に 118 信金中金月報 2007.1 使用されるデータは、 『銀行本決算データ』 (日 できない。それ以外の時期の貸出増加率は図 本経済新聞社電子メディア局)によるもので 表1に示される。 あるとする。 まず時系列的変化をみると、1991年3月期 までの増加率はそれ以降と大きく異なる。銀 (1)業態別中小企業貸出の推移 行全体の中小企業貸出は1986年3月期から、 まず、1986年3月期から2004年3月期まで 1991年3月期まで毎年10%以上の増加率を保 各業態別の中小企業貸出増加率の推移をみて ち続けた。しかし、1993年3月期以降、すべ おこう。銀行の統合合併による影響を避ける て業態において一転して安定した中小企業 ために、各業態の中小企業貸出増加率は、業 貸出額で推移した。この期間においてすべ 態全体の合計値として定義した(注)1。対象期 ての業態について増減率は5%範囲内の水準 間中に中小企業貸出の定義は二回変更され で推移した。また、業態間の違いも興味深 た。一回目は、1992年3月期の当座貸越の合 い。1991年3月期以前において、地方銀行や 算である。二回目は、中小企業基本法の修正 第二地方銀行は他の銀行業態と同様に中小企 により、2000年3月期の中小企業の定義の拡 業貸出を増加させたものの、増加幅は都市銀 大である。この二つの年においては、同じ基 行、信託銀行、長期信用銀行には及ばない。 準で定義された中小企業貸出の増加率が計算 その差はとくに資産価格が急増した期間の前 図表1 業態別中小企業貸出増加率の推移 年月 1986年3月 1987年3月 1988年3月 1989年3月 1990年3月 1991年3月 1992年3月 1993年3月 1994年3月 1995年3月 1996年3月 1997年3月 1998年3月 1999年3月 2000年3月 2001年3月 全体 10.62 15.76 13.98 12.67 14.83 19.37 ― 2.72 0.34 0.34 1.84 -0.14 -3.00 -4.55 ― -2.10 都銀 14.70 21.82 17.80 15.52 16.51 23.81 ― 3.12 -0.69 -1.00 1.07 0.07 -3.95 -3.26 ― -1.30 (単位:%) 地銀 5.82 7.93 11.38 13.41 14.69 17.36 ― 3.24 1.71 1.92 3.77 0.47 0.04 -0.07 ― 1.34 信託銀 21.39 27.79 11.42 7.78 11.36 11.55 ― 1.70 -1.81 -1.35 0.75 -3.97 -7.94 -13.64 ― -3.90 長信銀 17.87 28.46 14.92 11.34 17.35 11.06 ― 2.38 2.68 0.57 1.41 1.51 -5.75 -36.24 ― -10.62 第二地銀 3.29 4.73 9.49 6.49 10.83 17.63 ― 1.07 1.32 2.51 -2.31 -0.58 -2.38 1.75 ― (-3.16) (注)1.銀行の統合合併による影響を避けるために、増加率は、業態貸出の合計に基づいて計算されている。 2.1992年3月期から中小企業貸出に当座貸越が含まれ、また2000年3月期から中小企業の定義が変更されたので、それぞれ の時期において以前の定義と連続性を持たない。 3.第二地方銀行の2001年3月期の計数は、それまでに存続していた個別銀行の増加率の平均値に基づいて計算されている。 (注)1.われわれの計算では、異なる業態間同士の統合合併や国有化の影響を排除できない。しかし、2000年以前について、長 期信用銀行以外はこのような影響は小さいと思われる。ただし、2001年3月期は、倒産・破綻や国有化の影響が大きく業態 貸出合計に影響を及ぼした第二地方銀行については業態合計の増加率ではなく、存続した個別銀行の増加率の平均値で計 上した。 査読付論文 119 半である1986年3月期~1987年3月期に大き 以下、パネル推計に基づいて、1985年3月 かった。逆に貸し渋りが発生したといわれる 期から1999年3月期までの期間を三つに分け 1997年3月期以降において、地方銀行、第二 て比較してみよう。期間の分け方は、①バブ 地方銀行中小企業の減少幅は都銀などの大手 ル発生期(1985年3月~1989年3月)②バブ 銀行より小さい。 ル崩壊期(1992年3月期~1996年3月期) 、そ して③貸し渋り期(1997年3月期~1999年3 (2)中小企業貸出供給関数の変化 月期)である。このように分けるのは、貸し 90年代後半の貸出低迷の長期的原因を探 渋りの発生について一般的コンセンサスが得 るために、ここで1980年代後半以降の銀行 られた1997年以降の時期とそれ以前の時期 の貸出供給関数を検証しよう。対象とする金 と比較するためである。1999年3月期以降も、 融機関は、地方銀行と第二地方銀行である。 中小企業貸出の低迷が依然として継続したと このような金融機関だけを検証対象とした理 考えられるが、銀行の有価証券報告書におけ 由は下記のとおりである。まず、都市銀行、 る「中小企業貸出」の定義が中小企業基本法 信託銀行、長期信用銀行は大半、1990年代 の変更にともない変更されたので、ここで貸 後半以降、破綻になったり、あるいは統合合 し渋りが深刻に発生した時期を1999年3月期 併に関わったりして、組織的アイデンティテ までとする。また、1990年3月期から1991年 ィーを保てたものが少ない。また、貸出変動 3月までの時期を対象としない理由は、資産 の原因を検証する際、需要側の要因も重要で 価格の代表指標である日経株価平均が1989 あるが、金融機関サイドのデータを使って検 年12月にピークを記録しており、1989年度 証する場合、金融機関別の需要要因を特定す をバブル発生期と定義するのは適切でないか ることが容易ではない。地方銀行、第二地方 もしれないからである。また、1991年3月期 銀行はほとんど特定地域において業務を展開 から1992年3月期にかけて、有価証券報告書 しており、パネル推計を適用すれば、地域別 における「中小企業貸出」は当座貸越も新た の需要要因の影響を個別効果として排除する に加えられるようになった。この年度におい ことができる。さらに地方銀行、第二地方銀 ては、同じ基準で中小企業貸出の増加率を定 行は、信用金庫や信用組合のような他の中小 義できないために、1991年3月期も推計から 企業金融機関より、データベースが整備され はずした。被説明変数は、中小企業貸出の増 ていることもわれわれのサンプル選定にとっ 加率である。説明変数は、 資産規模の対数値、 て重要な決定要因となった。 推計においては、 経常利益率(経常利益/資産規模) 、自己資 倒産・破綻や統合・合併だけでなく、他の金 本比率(簿価) 、貸出金利、預金金利である。 融機関から全部あるいは一部営業譲渡を受け 貸出金利は、 「貸出金利息」対「貸出金合計」 た銀行をサンプルから除去した。 比率として定義される。本推計の目的から考 120 信金中金月報 2007.1 えれば、対中小企業貸出の金利水準指標は理 うな影響を個別効果として排除できる。例え 想であるが、貸出先規模別の利息指標は利用 ば、土地価格が担保価値に影響することを通 できないので貸出全体の金利指標で代用す じて貸出需要に影響する場合、地方銀行、第 る。預金金利は「預金利息」対「預金合計」 二地方銀行が特定の地域でしか営業しないと 比率として定義される。説明変数はすべて前 いう仮定の下では、地域別の地価変動による 年度末のものである。 影響は銀行の個別効果に吸収されると解釈で 現代の銀行規制においては、簿価自己資本 きよう。 比率は必ずしも銀行の健全性を表さないと見 推計結果は図表2に示される。 なされている。しかし、BIS基準の自己資本 バブル発生期を対象としたモデル1では、 比率はわれわれの推計期間においてほとんど 自己資本比率、貸出金利、預金金利はいずれ 利用できない。バブル期にさかのぼって、統 も中小企業貸出に対して有意な影響を及ぼさ 一した指標で貸出供給変化を比較することが ない。それに対して資産規模は、きわめて強 本稿の目的であるので、簿価自己資本比率を い正の影響を与えている。すなわち、バブル 使用する(注)2。推計方法はパネル推計(注)3に基 発生期(1985年3月期から1989年3月期まで) づく。供給サイドのデータを使って、貸出の において相対的に規模の大きい銀行がより積 変動要因をとらえる際、需要側の要因をとら 極的に中小企業貸出を拡大している。経常利 えるのがむずかしいという難点がある。しか 益ついても、有意な影響が観察されるが、符 し、もし、このような需要側の要因が特定の 号は理論的予測と逆である。すなわち、相 年度、あるいは特定の銀行に関連して発生す 対的に業績の悪い銀行ほど中小企業貸出をよ るものであるなら、パネル推計では、そのよ り拡大したことになる。バブル期に規模の大 図表2 中小企業貸出供給関数の変化 説明変数 資産規模 経常利益率 自己資本比率 貸出金利 預金金利 銀行数 観測数 adj R-sq モデル1 1985/3-1989/3 係数 t値 14.72 4.50*** -11.26 -2.90*** 1.40 1.35 -2.01 -1.02 -0.26 -0.11 モデル2 1992/3-1996/3 係数 t値 -1.90 -0.36 0.08 0.08 2.04 2.72*** 0.28 0.29 0.05 0.05 モデル3 1997/3-1999/3 係数 t値 -22.38 -2.58** -0.03 -0.07 1.07 2.81*** 6.73 2.88*** -11.22 -3.89*** 129 764 127 630 123 364 0.339 0.275 0.596 (注)1.被説明変数は、中小企業貸出対前期増加率である。 2.すべての説明変数は前期末の値である。 3.推計方法はpanel fixed effect modelに基づく。 4.***、**と*はそれぞれ1%、5%と10%水準で有意であることを示す。 (注)2.われわれは、すべての銀行について国内基準自己資本比率や『全国銀行財務諸表分析』(全国銀行協会)に集計された自 己資本比率を適用し、国内基準と国際基準を区別した上、推計を試みたが、ほぼ同じ結果が得られた。 3.Hausman検定では、すべてのモデルにおいて、fixed effect modelの採用が支持された。 査読付論文 121 きい銀行ほど、より急激に中小企業貸出を増 期まで)に関する推計結果も興味深い。資産 やした点については、それまでの経済環境変 規模はバブル発生期と正反対の影響を及ぼし 化や規制面の特徴と深く関わる。随[2002] ている。経常利益率がまったく有意な影響を において議論されたように、1980年代以降、 示さない点もバブル期と対照的である。自己 成熟した大企業はそもそも外部資金に対する 資本比率、貸出金利、預金金利はいずれも期 需要はかつてほど強くない。また、金融自由 待どおりの影響が観察される。対中小企業貸 化にともなって、信用度の高い企業は、有利 出は、預金金利、貸出金利といった価格変数 な条件で資本市場からの資金を調達すること に対して期待どおりの反応をするようになっ が可能になった。さらに、堀内[1998]に た。この意味で、この時期は健全な貸出を行 指摘されたように、金融業における自由化は うようになったといえよう。 非常に不徹底なものであった。規制金利の下 以上の結果を総合すると、特に貸し渋りが では、規模の拡大は直接レントの拡大につな 発生したと思われた時期の貸出供給は、バブ がるであろう。大企業による資金需要が減退 ル発生期と比べて影響要因が反対に作用した した中、レントの水準を維持あるいは拡大す か、それまで影響しなかった要因が影響する るために、貸出先を中小企業に求める理由は ようになった。すなわち、貸し渋り期の中小 規模の大きい銀行ほど強かった。 企業貸出の低迷はバブル期の行動の軌道修正 同じ推計モデルを適用させたバブル崩壊期 を反映したと解釈できよう。 (1992年3月期から1996年3月期まで)につい ては、各説明変数の影響は、一転してそれま (3)不良債権比率とバブル期貸出行動の影 でと比べてまるで異なる。具体的には、自己 響の比較 資本比率は有意で正の影響が観察されるが、 1990年代前半までの時期については、不 それ以外の説明変数は有意な説明力を持たな 良債権指標が公表されていないので、上記 い。金融機関の財務健全指標が貸出に与える の推計において、それを配慮していない。以 影響で貸し渋りを判断するなら、この時期に 下、貸し渋り期に限定して、不良債権指標を おいて貸し渋りが発生したといえる。 つまり、 説明変数に含めてクロスセクション推計を行 借り入れ企業の収益性や信用力と関係なく、 おう。 自己資本比率が低いという銀行サイドの要因 対象期間は、図表2推計における期間③の によって貸出増加率は低くなっている。 また、 説明と同じ理由で、1997年3月期から1999年 預金金利や貸出金利のような価格指標は貸出 3月期までにする。被説明変数は、1996年3 に影響を及ぼさないという意味で、この時期 月期から1999年3月期にかけて、中小企業貸 に正常な貸出供給が行われていない。 出の増加率である。説明変数は、不良債権比 貸し渋り期(1997年3月期から1999年3月 122 信金中金月報 2007.1 率、自己資本比率、預金金利、貸出金利そし て経常利益率である。これらの説明変数はす 益指標を説明変数に含めた推計3では、逆に べて1996年3月期のものである。結果を表に 自己資本比率が有意に中小企業貸出に正の影 報告していないが、地銀ダミーと第二地銀ダ 響を及ぼしたのに対して、不良債権比率は有 ミーも説明変数に加えた。また、バブル期に 意ではない。それに対して、不良債権比率や おける貸出行動の影響と比較するために、不 自己資本比率のような財務健全性指標の代わ 良債権比率と自己資本比率のかわりに、 「バ りにバブル期における中小企業貸出増加率に ブル期増加率」を説明変数に加えた推計も行 した推計4から推計6では、すべての推計結 う。この変数は、1986年3月期から1989年3 果においてバブル期の中小企業貸出増加率は 月期までの中小企業貸出の増加率として定義 有意に1997年3月期から1999年3月期までの される。 中小企業貸出に負の影響を及ぼしている。貸 推計結果は図表3に示される。 し渋り期の中小企業貸出に対してバブル期の モデル1からモデル3までは、不良債権比 貸出を修正する効果は、むしろ財務健全性指 率や自己資本比率が中小企業貸出に与えた影 標の影響より強く観察される。 図表2と図表3の結果は、貸し渋り期にお 響を検証するものである。収益指標を説明変 数に含めないモデル1とモデル3の推計では、 ける中小企業貸出の低迷は、バブル期の急拡 不良債権比率が有意に中小企業貸出に負の影 大を修正する側面が大きいことを示唆する。 響を及ぼしているが、自己資本比率が負の影 この結論は、バブル期における貸出行動が後 響を示しているものの、有意水準が低い。収 の銀行経営に大きなマイナス・インパクトを 図表3 不良債権とバブル期行動の影響の比較 説明変数 不良債権比率 自己資本比率 貸出金利 預金金利 経常利益率 観測数 adj.R-sq Fvalue 説明変数 バブル期増加率 貸出金利 預金金利 経常利益率 観測数 adj.R-sq Fvalue モデル1 係数 -0.59 -1.04 ― ― ― 93 0.211 9.181 モデル2 t値 -4.78*** -1.23 ― ― ― 係数 -0.52 -0.93 0.81 -10.73 ― 93 0.261 7.504 t値 4.88*** ― ― ― 係数 -0.09 -0.34 -11.62 ― 103 0.222 8.255 モデル4 係数 -0.11 ― ― ― 103 0.177 11.954 モデル3 t値 -4.11*** -1.14 0.40 -2.70*** ― 係数 -0.22 -1.72 -1.02 -9.62 6.19 93 0.312 7.943 t値 -3.54*** -0.17 -2.76*** ― 係数 -0.07 -1.34 -9.93 5.09 103 0.285 9.12 モデル5 t値 -1.37 -2.04** -0.49 -2.47** 2.72*** モデル6 t値 -2.82*** -0.69** -2.44*** 3.11 (注)1.被説明変数は、1996年3月期から1999年3月期にかけて、中小企業貸出の増加率。バブル期増加率は、1986年3月期から 1990年3月期までの中小企業貸出の増加率である。その他のすべて説明変数は、1996年3月期のものである。 2.表には含まれていないが、推計において、地銀ダミーと第二地銀ダミーを推計に加えた。***、**と*はそれぞれ1%、5% と10%水準で有意であることを示す。 査読付論文 123 与えたということを意味する。それでは、各 被説明変数とする。説明変数は、バブル発生 時期の中小企業貸出行動が1990年代に顕在 期(1985年3月期~1989年3月期) 、バブル崩 化された不良債権とどう関わっているであろ 壊期(1992年3月期~1996年3月期)と貸し うか。次の小節でこの問題を分析する。 渋り期(1996年3月期~1999年3月期)の中 小企業貸出増加率とする。地銀と第二地銀で (4)各時期の貸出行動と不良債権の発生 は、1999年3月期において、金融再生法に基 これまでの結果を別の表現を使えば、供給 づいて不良債権を公表した銀行は相対的に少 関数における不良債権比率の影響は、バブル ないので、リスク管理債権を基準としたサン 期における貸出行動に対する軌道修正を表し プル数と金融再生法を基準としたサンプル数 ているということになる。もし、この主張が が大きく異なる(注)4。また、地銀と第二地銀 正しければ、バブル期の貸出行動は、不良債 の業態間の違いを配慮するために、業態ダミ 権比率に大きな影響を与えたに違いない。以 ー変数も説明変数に加えた。推計結果は図表 下、1990年代後半以降報告された不良債権 4に示される。 比率の水準がそれまでの中小企業貸出行動に どのように依存したかを確認しよう。 バ ブ ル 発 生 期(1985年3月 期~1989年3月 期)の中小企業貸出増加率(増加率A)は、 不良債権にはいくつかの異なる基準があ いずれの基準の不良債権比率に対しても、正 る。ここで、リスク管理債権と金融再生法 で有意な影響を及ぼしていることが観察され に基づく不良債権(破産更生等債権、危険債 る。それに対して貸し渋り期(1996年3月期 権、要管理債権)に基づいた不良債権比率を ~1999年3月期)の中小企業貸出増加率(増 図表4 各時期の貸出行動と不良債権の発生 説明変数 係数 t値 係数 t値 係数 t値 リスク管理債権基準 貸出増加率A 0.07 貸出増加率B ― ― ― ― 貸出増加率C 銀行数 5.5*** 0.07 5.04*** ― ― -0.03 -1.58 -0.05 -2.12** ― ― -0.07 -3.08*** 121 121 122 adjR-sq 0.232 0.242 0.144 F値 19.14 13.74 7.80 金融再生法基準 貸出増加率A 0.10 3.12*** 0.09 ― ― 貸出増加率B ― ― -0.08 -0.83 -0.13 -1.32 貸出増加率C ― ― ― ― -0.18 -2.47** 銀行数 52 52 52 0.190 0.185 0.177 6.99 4.87 4.65 adjR2 F値 2.58** (注)被説明変数は、1999年3月期の不良債権比率である。貸出増加率A、B、Cはそれぞれ、1985年3月期~1989年3月期、1992 年3月期~1996年3月期、1996年3月期~1999年3月期の中小企業貸出増加率である。推計においては業態ダミー変数も説明変 数に加えた。***、**と*はそれぞれ1%、5%と10%水準で有意であることを示す。 (注)4.ほぼ同じサンプル数が得られる2000年3月期についても、同様の推計結果が得られる。 124 信金中金月報 2007.1 加率C)は有意に不良債権比率に負の影響を る形で発生する可能性が大きいこと、各銀行 与えている(注)5。この結果は、1990年代後半 の不良債権の発生が、バブル期の中小企業貸 の不良債権比率はバブル期における銀行行動 出増加の程度に強く依存したことなどが、本 の影響を強く受けることを示している。リス 研究の主な結論である。 ク管理債権を基準とした推計では、バブル期 本研究においてもっとも重視した点は、中 に、中小企業貸出が1%増加した場合、1999 小企業貸出の低迷の原因を理解する際、単純 年3年 期 の 不 良 債 権 比 率 が0.07%高 く な る。 な貸出残高の推移、あるいは不良債権や自己 バブルが崩壊して10年近く経過した1999年3 資本比率が、貸出へ影響する可能性だけでは 月期において、不良債権比率が、依然として なく、より長期的な要因も配慮すべきことで バブル期の貸出行動に対応していることは、 ある。これらの結論の政策的含意は次のとお 驚くべきことである。1999年頃、 「バブルの りである。 精算がほぼ完了しており、不良債権問題はむ 1990年 代 後 半 の 中 小 企 業 貸 出 増 加 率 の しろバブル崩壊後の景気低迷によって発生し 低迷を理由に、貸出を促進しようとした政 た」ということがよく指摘されていた。しか 策(注)6は、短期的には、さまざまな資源配分 し、われわれの結果はこの見方を支持しない。 のバイアスをもたらすだけでなく、長期的に 不良債権比率から貸出変動への影響は、多く みても、各金融機関の軌道修正を根本的に変 の研究では、貸し渋りの証拠とされたが、わ 更させることができないであろう。 れわれの結論では、このような証拠が、バブ 本研究の推計において、比較的整合的なデ ル期の貸出膨張に対して銀行が軌道修正を行 ータが利用できる地方銀行と第二地方銀行に った結果だとしても解釈できよう。 限定したが、都市銀行、信託銀行、長期信用 4.結びに変えて 銀行といった大手銀行は、バブル期において 地方銀行と第二地方銀行以上に中小企業貸出 本稿において、われわれは、中小企業貸 を拡大し、貸し渋り期において逆に地方銀行 出の供給関数がどのように変化してきたか、 と第二地方銀行より、中小企業貸出を大きく 1990年代後半の中小企業貸出の低迷や不良 減らした点を考えれば、 大手銀行においても、 債権の発生は、それまでの時期、とくにバブ 同様の、あるいはそれ以上の軌道修正が行わ ル期の貸出行動にどのように対応していた れたと予測できる。しかし、データ制約によ か、を検証した。1990年代後半の中小企業 り、この点を本稿では、確認できなかった。 貸出低迷が、バブル期の貸出急拡大を修正す また、需要側の要因を直接配慮していないの (注)5.増加率Aと増加率Cを同時に説明変数に入れた推計では、増加率Cについては、係数が有意ではない。これは、増加率Aと 増加率Cとの間に、強い負の相関(相関係数、0.38)を持つためである。この負の相関は、貸し渋り期の中小企業貸出行動 はバブル期のそれを修正した側面が強いというわれわれの主張と整合的である。 6.例えば、中小企業の資金調達を緩和する政策として、1998年10月から2001年3月まで、保証枠30兆円の特別信用保証制 度が実施された。 査読付論文 125 は、この分析の弱点の一つである。全体像を の守備範囲をこえるものであり、今後の研究 より正確に理解するために、企業側の分析は で解決されることを期待したい。 必要不可欠である。こういった問題は、本稿 〈参考文献〉 Hoshi, T. and A. Kashyap “The Japanese Banking Crisis: Where did it Come From and How will it End?” NBER Macroeconomics Annual 14, pp.129-201, 1999. Hoshi, T. and A. Kashyap “Solutions to Japan's Banking Problems: What Might Work and What Definitely Will Fail, ”Hitotsubashi University Research Unit for Statistical Analysis in Social Sciences, Discussion Paper Series, No.35, 2004. Motonishi, T. and H. Yoshikawa “Causes of the Long Stagnation of Japan During the 1990s: Financial or Real?” Journal of the Japanese and International Economies, vol.13, pp.181-200, 1999. 小川一夫『大不況の経済分析』日本経済新聞社(2003) 佐々木百合「自己資本比率規制と不良債権の銀行貸出への影響」宇沢弘文・花崎正晴編『金融システムの経済学』東 京大学出版会 pp.129-150(2000) 随清遠「80年代後半の銀行資産膨張について」松浦克巳・米沢康博編『金融の新しい流れ』日本評論社 pp.1-32(2002) 筒井義郎『金融業における競争と効率性』東洋経済新報社(2005) 福田慎一「日本における貸し渋り」『郵政研究所月報』pp.81-86(2002年4月) 堀江康煕『銀行貸出の経済分析』東京大学出版会(2001) 堀江昭義『金融システムの未来』岩波新書(1998) 本多佑三・河原史和・小原弘嗣「日本における貸し渋り」 『郵政研究レビュー』pp.157-185(1996年7月) 前田努「わが国銀行業における貸し出し伸び悩みについて」 『フィナンシャル・レビュー』 (1996年3月) 吉川洋・江藤勝・池俊広「中小企業に対する銀行による『貸し渋り』について」 『経済分析』政策研究の視点シリーズ1 (1994) 126 信金中金月報 2007.1 信金中金だより 信用金庫職員を対象とした 地域振興支援実務研修の開催 信金中央金庫 総合研究所 平成17年3月29日に公表された「地域密着型金 今般、こうした要望を踏まえて、2泊3日の日 融の機能強化の推進に関するアクションプログ 程での演習形式の研修を実施することとした。 ラム(計画期間平成17~18年度) 」では、 「地域経 日程は、2月14日~16日を皮切りに、3月上旬 済への貢献」の視点が盛り込まれ、より一層の までに計3回実施する予定である。 地域活性化に向けた積極的な取組みが求められ 研修の内容は、信用金庫の本店が所在する市 ている。今後、取組みをより効果的に継続させ 町村を対象に、当該市町村の現状や現在抱える ていくためには、地域活性化に関するノウハウ 課題を抽出し、地域活性化策の提言策定の演習 を身につけた人材がますます必要になってくる。 を行うものである。実際に受講者は、自金庫本 信金中金総合研究所では、これまで培った知 店所在地の現状や課題を把握して参加する。そ 識やノウハウを伝達するために、平成18年1月か の上で、4名程度のグループに分かれ、そのグル ら3月にかけて、1泊2日の日程で、実際の事例を ープ内で1地域を選定し、その地域での地域活性 パッケージ化した演習形式の研修を実施したと 化策の提言書を策定する。 ころである。その際、研修の参加者からは日程 なお、研修の講師は、当研究所の長山宗広主 の長期化、グループ討論の充実等の要望が数多 任研究員と奥津智彦主任研究員、笠原博主任研 く寄せられた。 究員が務める。 地域振興支援実務研修の主な内容 講義名 内 容 演習① 地域の現状報告(地域の紹介) ・地域の現状を中心に自金庫本店所在地を紹介する。 演習② 課題の発表と対象地域の選定 ・地 域 が 抱 え る 主 要 な 課 題 と そ の 選 定 理 由 を 発 表 す る。 そ の 後、 グ ル ー プ 内 で 活 性 化 策 を 検 討 し て いく対象地域を選定する。 演習③ 対象地域の活性化策の検討(個人作業) ・演習②で選定した対象地域の活性化策に関して、個人で活性化策を検討する。 演習④ 対象地域の活性化策の検討(グループ作業) ・演習③で検討した活性化策を持ち寄り、各グループで活性化策を検討・討論する。 演習⑤ 活性化策についての取りまとめ・整理 ・演習④に引き続き活性化策の検討を行い、発表できるよう取りまとめを行う。 演習⑥ 対象地域の活性化策について提言 ・演習⑤でまとめた活性化策について各グループで発表し、質疑を行う。 信金中金だより 127 信金中央金庫総合研究所活動状況(11月) 1.レポート等の発行 発行日 06.11.1 06.11.1 レポート分類 内外金利・為替見通し 内外経済・金融動向 通巻 18-8 18-8 06.11.1 アジア業務室情報 06.11.8 地域調査情報 06.11.16 経済見通し 18-3 06.11.22 金融調査情報 18-9 06.11.22 06.11.22 貿易投資相談ニュース 産業企業情報 139 18-12 06.11.29 産業企業情報 18-13 06.11.29 06.11.29 産業企業情報 NEW YORK通信 18-14 18-1 タ イ ト ル ― 都道府県別にみた少子高齢化について―地方圏は若年層の人口流出を食 い止めることが優先課題― 中国華南地域の投資環境―仏山市の現況― 51 (18-3) 18-3 執 筆 斎藤大紀 峯岸直輝 者 真下正博 (香港支店) 人口増加と経済振興の二兎を追うまちづくりを考える―地方中核都市の 笠原博 再生にリタイアメント層活用の環境整備を― 実質成長率は06年度2.4%、07年度2.1%と予測―景気は民需主導で自律 角田匠 回復の動きを維持する公算大― 2006年度上半期 全国信用金庫主要勘定増減状況―預金、貸出金とも 森嶋正興 に堅調に増加― ― ― 動産担保を活用した資金調達―在庫、売掛債権、知的財産権等を担保と 谷地向ゆかり した資金調達― 変貌する「企業城下町型集積」と今後の方向―「北九州地区」 、 「鈴鹿・ 平井昌夫 亀山地区」の事例から― 企業の農業参入を巡る最近の動向―成長・注目分野シリーズ③― 鉢嶺実 米銀の成長戦略 青木武 2.講座・講演・放送等の実施 実施日 種類 タ イ ト ル 06.11.1 講演 貿易投資相談 06.11.4 06.11.8 講演 講演 ベトナム、香港、中国視察出発前研修 貿易投資相談 06.11.8 講演 ~10 06.11.10 講演 06.11.14 講演 SDB個別相談会 06.11.14 ~15 06.11.15 06.11.15 06.11.16 講演 中小企業経営改善支援実務研修 講演 講演 講演 国内外の金融・経済情勢について マネジメント意識の重要性が高まる医療機関経営 国内外の金融・経済情勢について 06.11.16 講演 産業連関表のあらまし 06.11.17 06.11.17 06.11.17 06.11.20 ~22 06.11.21 06.11.21 ~22 06.11.22 講演 講演 講演 講演 中小企業経営への示唆 中小企業経営への示唆 講座・講演会・番組名称 西武信用金庫 「ビジネスフェア from TAMA」 上級管理者東南アジア研修 東海地区信用金庫協会 「しんきんビジ ネスマッチング ビジネスフェア2006」 SDB個別相談会 場所・放送局等 講 師 新宿NSビル 佐藤克己 全国信用金庫研修所 ポートメッセなごや 篠崎幸弘 佐藤克己 等 信金中央金庫北海道支店 SDB推進室 山形信用金庫総代懇談会 パレスグランデール 新潟信用金庫ながた支店「信友 山潟会館 会セミナー」 中小企業経営改善支援実務研修 信金中央金庫 四国支店 藤津勝一 長山宗広 加藤要一、里田雄俊 信金中央金庫 八重洲別館 斎藤大紀 おかやま信用金庫 鉢嶺実 ホテルニューオータニ熊本 斎藤大紀 日米の金融政策を取り巻く経済情勢について 産業連関分析の有用性 市街地活性化事例について 中小企業経営改善支援実務研修 佐野信用金庫経営塾セミナー 医療機関経営勉強会 信用金庫・九州信栄研究会・共 栄火災合同研究会 四国地域産業連関表作成担当者 会議 地域金融懇談会専門部会 産業連関表講演会 地域経済セミナー 中小企業経営改善支援実務研修 講演 講演 中国ビジネスの最新事情・法令等の改正動向 SDB個別相談会 中国セミナー SDB個別相談会 広島信用金庫 篠崎幸弘 信金中央金庫 南九州支店 SDB推進室 講演 国内外の金融・経済情勢について 浦和ロイヤルパインズホテル 斎藤大紀 06.11.22 06.11.22 06.11.24 06.11.27 ~29 06.11.28 講演 講座 講演 講演 チャイナ・プラスワンを考える 創業・新事業支援、経営改善支援の概要 国内外の金融・経済情勢について 中小企業経営改善支援実務研修 埼玉県信用金庫協会「有価証券 運用に関する研修会」 海外投資セミナー 姫路信用金庫寄付講座 資金担当役員会議 中小企業経営改善支援実務研修 講演 サービス産業の中国市場への参入可能性と課題 06.11.28 講演 市街地活性化について 06.11.29 講演 勝ち残る元気な経営者を目指して 四国経済産業局 奥津智彦 川口総合文化センター 四国経済産業局 埼玉縣信用金庫 信金中央金庫 北海道支店 武富將 奥津智彦 笠原博 加藤要一、里田雄俊 信金中央金庫 本店 姫路獨協大学 信金中央金庫 四国支店 信金中央金庫 東北支店 福井信用金庫北陸環日本海経済 福井県国際交流会館 交流促進協議会 「環日本海講演会」 北門・北空知信用金庫「市街地 ホテルスエヒロ 活性化セミナー」 滋賀中央信用金庫総代懇談会 彦根プリンスホテル 篠崎幸弘 鉢嶺実 斎藤大紀 加藤要一、里田雄俊 篠崎幸弘 笠原博 藤津勝一 3.原稿掲載 発行日 06.11.10 128 タ イ ト ル 取引先企業の海外進出と信用金庫⑦「他業態における海外 拠点展開の動向」 信金中金月報 2007.1 掲 載 誌 信用金庫11月号 発 行 (社) 全国信用金庫協会 執筆者 篠崎幸弘 統 計 1.信用金庫統計 (1) 信用金庫の主要勘定概況············· 129 (2)信用金庫の店舗数、合併等········· 131 (3)信用金庫の預金種類別預金、地区別預金····· 132 (4)信用金庫の預金者別預金············· 133 (5)信用金庫の科目別貸出金、地区別貸出金····· 134 (6)信用金庫の貸出先別貸出金········· 135 (7)信用金庫の余裕資金運用状況····· 136 2.金融機関業態別統計 (1) 業態別預貯金等···························· 137 (2) 業態別貸出金································ 138 統計資料の照会先:信金中央金庫 総合研究所 Tel 03-3563-7541 Fax 03-3563-7551 (凡 例) 1.金額は、単位未満切捨てとした。 2.比率は、原則として小数点以下第1位までとし第2位以下切捨てとした。 3.記号・符号表示は次のとおり。 〔 0 〕ゼロまたは単位未満の計数 〔─〕該当計数なし 〔△〕減少または負 〔…〕不詳または算出不能 〔*〕1,000%以上の増加率 〔 p 〕速報数字 〔 r 〕訂正数字 〔 b 〕b 印までの数字と次期以降との数字は不連続 4.地区別統計における地区のうち、関東には山梨、長野、新潟を含む。東海は静岡、愛知、岐阜、三重の 4県、九州北部は福岡、佐賀、長崎の3県、南九州は熊本、大分、宮崎、鹿児島の4県である。 ※ 信金中金総合研究所のホームページ(http://www.scbri.jp/)よりExcel形式の統計資料をダウンロードすることができます。 1.(1)信用金庫の主要勘定概況(2006年10月末) ○預 金 10月の全国信用金庫の預金は、月中5,815億円、0.5%減と、前年同月(454億円、0.0%減)と同様に減少した。 ① 要求払預金は、年金振込金等の滞留がみられたものの、営業資金および決済資金の流出、前月末休日に よる残高高どまりの反動減等から、月中3,610億円、0.9%減と、前年同月(1,308億円、0.3%増)の増加か ら減少となった。 ② 定期性預金は、公金預金や金融機関預金の流出、他商品へのシフト等から、月中1,951億円、0.2%減と、 前年同月(1,815億円、0.2%減)と同様に減少した。 ③ 外貨預金等は、月中253億円、5.0%減少した。 なお、2006年10月末の預金の前年同月比増減率は、1.0%増となった。 ○貸出金 貸出金は、月中5,935億円、0.9%減と、前年同月(3,114億円、0.4%減)と同様に減少した。 ① 割引手形は、前月末休日による商手決済のズレ込みや、期日落込みの増加等から、月中2,260億円、 11.4%減と、前年同月(410億円、2.1%減)と同様に減少した。 ② 貸付金は、住宅ローンの実行や経常運転資金の増加がみられたものの、売上代金・工事代金による返済 や、前月末休日による回収分のズレ込み等から、月中3,674億円、0.5%減と、前年同月(2,703億円、0.4% 減)と同様に減少した。 なお、2006年10月末の貸出金の前年同月比増減率は、1.0%増となった。 ○余資運用資産 余資運用資産は、月中44億円、0.0%減と、前年同月(3,915億円、0.7%増)の増加から減少となった。 主な内訳をみると、預け金は、月中444億円、0.2%減となった。 コールローンは、月中111億円、1.6%減となった。 債券貸借取引支払保証金は、月中258億円、149.8%増となった。 有価証券は、 投資信託(187億円減) 、 外国証券(158億円減)が減少したものの、国債(215億円増)、社債(979 億円増)等が増加したことから、月中1,221億円、0.3%増となった。 統 計 129 信用金庫の主要勘定増減状況(2006年10月末) 区 分 ( ( ( 産 項 目 ( ( 負 債 項 目 純 出 純 資 産 項 目 資 産 資 金 普 通 出 資 金 優 先 出 資 金 優先出資申込証拠金 資 本 剰 余 金 資 本 準 備 金 その他資本剰余金 利 益 剰 余 金 利 益 準 備 金 その他利益剰余金 特 別 積 立 金 前 期 繰 越 金 未 処 分 剰 余 金 処 分 未 済 持 分 自 己 優 先 出 資 自己優先出資申込証拠金 その他有価証券評価差額金 繰 延 ヘ ッ ジ 損 益 土 地 再 評 価 差 額 金 高 増 1,482,218 △ 136,981 ) ( △ 19,707,852 △ 17,780,281 ) ( 68,500 ) ( 0 654,690 △ 0 43,034 310,944 328,921 6,584 31,118,061 9,245,891 3,501,574 33,473 11,767,020 721,321 36 918,201 △ 4,797,589 △ 132,951 53,652,307 △ 62,694,709 △ 62,589,843 ) ( 296,921 1,747,778 △ 60,946,931 △ 6,254,818 △ 51,749,729 △ 2,942,384 △ 110,059,891 △ 109,519,281 ) ( △ 38,059,319 △ 2,510,065 △ 33,354,172 1,236,381 △ 126,237 △ 794,415 38,045 △ 71,526,486 △ 65,418,619 △ 6,107,866 △ 474,085 △ 109,922,909 △ 133,367 △ 161,972 56.8 資 現 金 (小 切 手 ・ 手 形) 預 け 金 (信 金 中 金 預 け 金) (譲 渡 性 預 け 金) 買 入 手 形 コ ー ル ロ ー ン 買 現 先 勘 定 債券貸借取引 支 払 保 証 金 買 入 金 銭 債 権 金 銭 の 信 託 商 品 有 価 証 券 有 価 証 券 国 債 地 方 債 短 期 社 債 社 債 株 式 貸 付 信 託 投 資 信 託 外 国 証 券 そ の 他 の 証 券 小 計 貸 出 金 (月 中 平 残) (うち金融機関貸付金) 割 引 手 形 貸 付 金 手 形 貸 付 証 書 貸 付 当 座 貸 越 預 金 ・ 積 金 (月 中 平 残) 要 求 払 預 金 当 座 預 金 普 通 預 金 貯 蓄 預 金 通 知 預 金 別 段 預 金 納 税 準 備 預 金 定 期 性 預 金 定 期 預 金 定 期 積 金 外 貨 預 金 等 実 質 預 金 譲 渡 性 預 金 借 用 金 預 貸 率 残 △ 6,096,145 675,059 602,319 72,740 0 33,780 33,780 0 5,219,266 389,484 4,829,781 4,671,587 158,009 183 720 0 0 0 2,769 165,990 (単位:百万円、%) 前 月 比 増 減 △ △ △ 月 前年同月比 減 額 増 減 率 月中増減額 月中増減率 増 減 率 107,586 △ 6.7 △ 2.4 △ 55,536 △ 3.5 7.9 164,322 ) ( △ 54.5 ) ( △ 1.3 ) ( △ 46,870 ) ( △ 25.2 ) ( △ 42.9 ) 44,476 △ 0.2 △ 5.7 △ 20,853 △ 0.0 △ 0.9 583,876 ) ( 3.3 ) ( △ 8.2 ) ( 2,178,499 ) ( 12.6 ) ( 0.3 ) 32,000 ) ( 87.6 ) ( 37.0 ) ( 9,000 ) ( 21.9 ) ( 31.5 ) 0 ― ― △ 30,000 △ 100.0 ― 11,102 △ 1.6 * △ 32,283 △ 44.3 △ 6.1 0 ― △ 100.0 2,999 ― △ 72.7 25,808 149.8 ― 0 ― ― 9,222 3.0 △ 9.9 △ 10,804 △ 3.0 △ 6.6 1,275 0.3 9.2 4,561 1.5 △ 7.0 318 5.0 △ 20.1 224 2.7 △ 26.7 122,118 0.3 3.9 533,196 1.8 7.7 21,526 0.2 9.0 265,195 3.2 14.1 16,819 0.4 2.7 48,596 1.4 13.6 12,490 59.5 △ 4.3 25,589 272.3 * 97,983 0.8 1.9 97,272 0.8 3.2 5,794 0.8 24.1 16,489 2.9 7.0 0 0.0 △ 35.7 0 0.0 △ 24.3 18,729 △ 1.9 12.3 39,571 5.0 20.4 15,864 △ 0.3 △ 3.3 36,897 0.7 1.1 2,098 1.6 8.6 3,590 3.0 93.6 4,422 △ 0.0 1.0 391,506 0.7 3.9 593,523 △ 0.9 1.0 △ 311,401 △ 0.4 △ 0.1 158,870 ) ( 0.2 ) ( 1.0 ) ( 260,545 ) ( 0.4 ) ( 0.2 ) 5,024 1.7 ― ― ― ― 226,098 △ 11.4 △ 6.5 △ 41,080 △ 2.1 △ 17.6 367,424 △ 0.5 1.2 △ 270,319 △ 0.4 0.4 73,542 △ 1.1 △ 6.8 △ 119,720 △ 1.7 △ 7.4 218,403 △ 0.4 2.4 △ 19,969 △ 0.0 1.8 75,478 △ 2.5 0.3 △ 130,632 △ 4.2 △ 2.7 581,522 △ 0.5 1.0 △ 45,471 △ 0.0 1.5 131,519 ) ( △ 0.1 ) ( 1.0 ) ( 140,673 ) ( 0.1 ) ( 1.8 ) 361,022 △ 0.9 3.6 130,849 0.3 6.5 456,414 △ 15.3 1.1 △ 240,132 △ 8.8 △ 1.5 79,146 0.2 4.0 517,716 1.6 7.0 5,804 △ 0.4 △ 2.1 1,937 0.1 △ 3.8 117,964 △ 48.3 3.0 △ 63,487 △ 34.1 △ 26.1 140,178 21.4 2.0 △ 86,556 △ 10.0 57.4 165 △ 0.4 △ 1.0 1,370 3.6 △ 6.6 195,136 △ 0.2 △ 0.2 △ 181,562 △ 0.2 △ 0.8 194,769 △ 0.2 0.5 △ 153,298 △ 0.2 △ 0.2 368 △ 0.0 △ 8.2 △ 28,263 △ 0.4 △ 6.2 25,363 △ 5.0 0.0 5,241 1.1 10.9 417,200 △ 0.3 1.0 1,398 0.0 1.6 4,004 3.0 △ 7.1 11,049 8.3 25.1 ― ― ― ― 19,121 △ 10.5 978 1,372 1,372 0 0 0 0 0 425 0 426 0 225 652 32 0 0 0 0 0 0.0 0.2 0.2 0.0 ― 0.0 0.0 ― △ 0.0 0.0 △ 0.0 0.0 0.1 △ 78.0 ― ― ― ― 0.0 0.0 (備考)1.預貸率=貸出金/預金・積金×100(預金には譲渡性預金を含む。) (備考)2.前年同月の前年同月比増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 130 信金中金月報 2007.1 前 前年同月比 増 減 率 ― 3.7 1.5 26.7 ― ― 12.1 ― ― 5.0 ― 4.7 13.0 △ 81.5 ― ― ― ― ― △ 10.3 △ △ 年 ― 356 356 0 ― ― 0 0 ― 0 ― 32 0 8 33 0 ― ― ― 137 同 △ △ ― 0.0 0.0 0.0 ― ― 0.0 ― ― 0.0 ― 0.0 0.0 0.8 ― ― ― ― ― 0.0 ― 3.9 1.8 31.6 ― ― △ 2.7 ― ― 3.4 ― 3.0 17.3 △ 79.6 ― ― ― ― ― △ 4.8 1.(2)信用金庫の店舗数、合併等 信用金庫の店舗数、会員数、常勤役職員数の推移 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 9 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 本 店 (信用金庫数) 349 326 306 298 298 297 296 294 294 292 292 292 292 292 292 292 292 292 290 店 舗 数 支 店 出張所 合 計 7,781 7,673 7,471 7,312 7,291 7,243 7,222 7,209 7,206 7,196 7,192 7,195 7,194 7,193 7,193 7,192 7,190 7,179 7,162 270 264 282 269 279 290 291 292 293 293 293 290 292 292 292 292 288 282 278 8,400 8,263 8,059 7,879 7,868 7,830 7,809 7,795 7,793 7,781 7,777 7,777 7,778 7,777 7,777 7,776 7,770 7,753 7,730 会 員 数 (単位:店、人) 常 勤 役 職 員 数 職 員 男 子 女 子 計 91,451 38,851 130,302 87,922 37,086 125,008 84,345 35,051 119,396 81,431 33,342 114,773 82,253 34,988 117,241 81,297 34,091 115,388 81,151 33,922 115,073 80,990 33,833 114,823 80,624 33,388 114,012 80,370 33,148 113,518 80,150 32,959 113,109 79,286 32,080 111,366 81,243 34,985 116,228 81,091 34,876 115,967 80,607 34,563 115,170 80,352 34,287 114,639 80,120 34,039 114,159 79,825 33,735 113,560 79,635 33,596 113,231 常勤役員 8,981,084 9,001,391 9,091,805 9,134,192 9,150,605 9,156,610 9,160,953 9,165,485 9,175,347 9,180,804 9,188,161 9,191,407 9,197,003 9,198,210 9,205,312 9,204,288 9,207,319 9,213,450 9,216,751 2,734 2,557 2,396 2,342 2,308 2,301 2,296 2,295 2,291 2,291 2,285 2,272 2,269 2,266 2,320 2,328 2,326 2,324 2,312 合 計 133,036 127,565 121,792 117,115 119,549 117,689 117,369 117,118 116,303 115,809 115,394 113,638 118,497 118,233 117,490 116,967 116,485 115,884 115,543 信用金庫の合併等 年 月 日 2003年 7 月 7 日 2003年 7 月 7 日 2003年 7 月22日 2003年 7 月22日 2003年10月20日 2003年10月20日 2003年10月20日 2003年11月 4 日 2004年 1 月13日 2004年 1 月19日 2004年 1 月19日 2004年 2 月 9 日 2004年 2 月 9 日 2004年 2 月16日 2004年 3 月22日 2004年 7 月12日 2004年 7 月20日 2004年10月12日 2004年11月15日 2004年11月22日 2005年 1 月 4 日 2005年 2 月14日 2005年 2 月14日 2005年 3 月14日 2005年 7 月19日 2005年10月17日 2005年11月21日 2005年11月21日 2006年 1 月10日 2006年10月16日 2006年10月16日 2006年11月 6 日 異 動 金 庫 名 芝 東調布 一宮 愛北 津島 東京東 小岩 赤穂 伊那 秋田 五城目 富山 射水 福岡ひびき 新北九州 門司 築上 能登 共栄 王子 太陽 荒川 日興 直江津 高田 北伊勢 上野 高松 さぬき 鹿児島相互 川内 興能 (高浜信組) 金沢 福光 下関 豊浦 彦根 近江八幡 大阪 南大阪 大牟田 柳川 足利 小山 伊勢崎太田 北海 古平 阪奈 八光 (大分県信組) 杵築 仙台 塩竈 高鍋 西諸 新川水橋 滑川 広島 大竹 多摩中央 八王子 太平 三島 伊豆 愛媛 三津浜 島根中央 (出雲信組) 直方 新金庫名 芝 いちい 東京東 アルプス中央 秋田 富山 福岡ひびき のと共栄 城北 上越 北伊勢上野 高松 鹿児島相互 興能 金沢 下関 滋賀中央 大阪 大牟田柳川 足利小山 アイオー 北海 大阪東 (大分県信組) 杜の都 高鍋 にいかわ 広島 多摩 三島 愛媛 島根中央 金庫数 325 323 322 321 320 319 315 314 311 310 309 308 307 307 306 305 304 303 302 301 301 300 299 298 297 296 295 294 292 291 290 290 異動の種類 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 名称変更 合併 合併 合併・解散 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 合併 統 計 131 1.(3)信用金庫の預金種類別預金、地区別預金 預金種類別預金 (単位:億円、%) 預金計 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 06 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1,028,198 1,035,536 1,055,175 1,074,324 1,088,655 1,089,613 1,089,159 1,087,826 1,103,111 1,088,256 1,092,582 1,092,212 1,101,907 1,093,548 1,102,468 1,097,672 1,101,933 1,106,414 1,100,598 前年同月比 増 減 率 △ 0.9 0.7 1.8 1.8 1.6 1.8 1.5 1.6 1.6 1.4 1.3 1.6 1.5 1.3 1.2 0.9 1.2 1.5 1.0 要求払 297,903 312,842 328,610 350,807 363,761 365,972 367,280 367,617 381,541 367,178 373,966 377,476 387,649 378,301 384,602 377,678 380,002 384,203 380,593 前年同月比 増 減 率 29.4 5.0 5.0 6.7 6.6 7.4 6.5 7.0 7.2 7.2 7.1 7.6 6.8 6.2 5.7 4.6 4.8 4.9 3.6 定期性 723,681 716,192 720,951 717,300 719,880 718,954 717,139 715,529 716,938 716,496 714,080 709,409 709,922 710,504 713,097 715,303 716,779 717,216 715,264 前年同月比 外貨預金等 前年同月比 増 減 率 増 減 率 △ 9.6 6,613 △ 3.1 △ 1.0 6,500 △ 1.7 0.6 5,614 △ 13.6 △ 0.4 6,216 10.7 △ 0.6 5,013 3.0 △ 0.7 4,686 △ 4.5 △ 0.8 4,739 10.9 △ 0.8 4,679 △ 2.9 △ 1.1 4,631 4.7 △ 1.2 4,581 △ 6.8 △ 1.4 4,535 △ 4.9 △ 1.1 5,326 △ 14.3 △ 1.1 4,335 △ 5.3 △ 1.0 4,742 △ 4.1 △ 0.9 4,768 △ 4.8 △ 0.8 4,690 0.8 △ 0.6 5,151 5.0 △ 0.2 4,994 6.5 △ 0.2 4,740 0.0 実質預金 1,024,192 1,032,788 1,052,971 1,072,219 1,087,371 1,087,757 1,087,771 1,086,362 1,100,680 1,086,917 1,091,199 1,089,623 1,099,171 1,092,083 1,101,018 1,096,211 1,100,566 1,103,401 1,099,229 前年同月比 増 減 率 △ 0.9 0.8 1.9 1.8 1.7 1.8 1.6 1.6 1.6 1.4 1.3 1.6 1.5 1.3 1.2 1.0 1.2 1.4 1.0 譲渡性預金 114 244 789 999 1,394 1,326 1,437 1,681 1,629 1,466 1,441 1,181 1,278 1,475 1,554 1,429 1,394 1,293 1,333 前年同月比 増 減 率 7.9 113.7 223.1 26.6 48.6 20.6 25.1 39.9 30.1 32.2 10.5 18.1 7.9 32.8 11.4 1.7 △ 4.6 △ 2.4 △ 7.1 (備考)1.預金計には譲渡性預金を含まない。 (備考)2.実質預金は預金計から小切手・手形を差引いたもの。 (備考)3.2005年3月から2006年2月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 地区別預金 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 06 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (単位:億円、%) 北海道 54,596 55,302 56,194 57,186 58,307 57,638 57,625 58,068 59,695 57,716 57,907 57,985 58,667 58,139 58,641 58,250 58,404 58,766 58,190 近 畿 201,814 201,600 205,213 209,461 212,695 213,535 214,020 213,536 216,153 213,807 214,494 214,393 216,618 215,672 217,305 216,718 218,060 219,449 218,458 前年同月比 増 減 率 2.2 1.2 1.6 1.7 1.6 1.3 1.0 0.9 1.3 1.2 1.2 1.3 1.3 1.4 0.5 0.4 0.7 1.9 0.9 前年同月比 増 減 率 △ 2.9 △ 0.1 1.7 2.0 2.1 2.4 2.5 2.4 2.5 2.1 2.1 2.3 2.1 2.2 2.1 1.9 2.4 2.7 2.0 東 北 39,036 39,462 39,896 40,036 40,773 40,518 40,708 40,594 41,041 40,524 40,707 40,213 40,905 40,390 40,779 40,538 40,737 40,770 40,602 中 国 49,651 50,175 50,456 51,044 51,784 51,572 51,495 51,270 51,913 51,128 51,507 51,229 51,795 51,068 51,570 51,351 51,555 51,527 51,291 前年同月比 増 減 率 △ 1.6 1.0 1.0 0.3 0.3 0.1 △ 0.0 0.1 △ 0.0 △ 0.1 △ 0.1 0.4 0.1 △ 0.1 0.0 △ 0.2 0.1 0.6 △ 0.2 前年同月比 増 減 率 0.1 1.0 0.5 1.1 1.3 1.2 0.9 0.7 0.4 0.2 0.1 0.3 0.3 △ 0.0 △ 0.4 △ 0.4 △ 0.3 △ 0.0 △ 0.3 東 京 190,125 193,270 196,903 200,759 202,650 203,468 203,396 203,419 205,991 203,675 204,331 205,069 206,045 204,634 205,867 204,884 205,326 206,799 205,450 四 国 18,064 18,206 18,625 19,286 19,695 19,766 19,637 19,677 19,939 19,771 19,847 19,914 20,031 20,015 20,286 20,255 20,373 20,416 20,345 前年同月比 増 減 率 △ 2.2 0.8 1.8 1.9 1.6 1.9 1.5 1.9 2.0 1.8 1.6 2.1 1.8 1.6 1.5 1.0 1.3 1.6 1.0 前年同月比 増 減 率 1.6 0.7 2.3 3.5 4.2 4.2 3.3 3.8 3.5 3.5 3.3 3.2 2.9 2.8 2.9 2.7 3.3 3.2 3.6 関 東 198,309 197,820 201,888 205,375 207,716 208,032 207,891 207,522 210,703 208,095 208,905 208,477 210,488 208,714 210,381 209,368 209,966 210,858 210,104 九州北部 17,916 17,984 18,298 18,597 19,124 19,041 19,128 19,046 19,319 19,046 19,172 18,916 19,395 19,163 19,345 19,193 19,291 19,249 19,185 前年同月比 増 減 率 △ 0.7 0.4 2.0 1.7 1.2 1.5 1.1 1.3 1.2 1.2 1.2 1.5 1.5 1.3 1.2 0.9 0.9 1.3 1.0 前年同月比 増 減 率 △ 0.1 0.3 1.7 1.6 1.9 2.0 1.6 1.5 1.2 1.1 1.0 1.7 1.6 1.1 1.1 0.2 0.5 1.0 0.3 北 陸 31,829 32,313 32,710 33,050 33,407 33,331 33,307 33,276 33,659 33,133 33,260 33,344 33,585 33,277 33,634 33,541 33,623 33,576 33,314 南九州 23,556 23,746 24,219 24,085 24,541 24,475 24,466 24,363 24,727 24,304 24,300 24,078 24,473 24,283 24,479 24,291 24,372 24,296 24,184 前年同月比 増 減 率 0.8 1.5 1.2 1.0 0.4 0.9 0.8 1.1 1.0 0.4 0.3 0.8 0.8 0.4 0.6 0.5 0.6 0.7 0.0 前年同月比 増 減 率 △ 3.4 0.8 1.9 1.0 1.5 1.3 0.9 0.6 △ 0.0 △ 0.0 0.2 △ 0.0 △ 0.0 △ 0.3 △ 0.2 △ 1.1 △ 0.6 △ 0.7 △ 1.1 (備考)1.沖縄地区は全国に含めた。 (備考)2.東京・関東地区の2003年3月の増減率は、地区間の事業譲渡を調整して算出 (備考)3.南九州地区・全国の2005年3月から2006年2月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 132 信金中金月報 2007.1 東 海 201,901 204,281 209,402 213,983 216,436 216,769 216,052 215,623 218,546 215,636 216,755 217,087 218,382 216,759 218,626 217,785 218,769 219,245 218,059 全国計 1,028,198 1,035,536 1,055,175 1,074,324 1,088,655 1,089,613 1,089,159 1,087,826 1,103,111 1,088,256 1,092,582 1,092,212 1,101,907 1,093,548 1,102,468 1,097,672 1,101,933 1,106,414 1,100,598 前年同月比 増 減 率 0.9 1.1 2.5 2.1 1.9 1.8 1.7 1.6 1.6 1.2 1.1 1.4 1.2 0.9 1.0 0.7 0.9 1.1 0.9 前年同月比 増 減 率 △ 0.9 0.7 1.8 1.8 1.6 1.8 1.5 1.6 1.6 1.4 1.3 1.6 1.5 1.3 1.2 0.9 1.2 1.5 1.0 1.(4)信用金庫の預金者別預金 (単位:億円、%) 年 月 末 預金計 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1,027,696 1,035,334 1,054,774 1,074,223 1,088,653 1,089,612 1,089,157 1,087,825 1,103,110 1,088,254 1,092,581 1,092,110 1,101,906 1,093,547 1,102,467 1,097,670 1,101,931 1,106,412 1,100,597 年 月 末 一般法人預金 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 06 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 182,602 173,622 175,652 178,067 177,155 181,345 178,309 178,644 186,837 176,261 175,410 181,849 187,231 179,693 179,403 178,083 176,761 188,039 180,405 要求払 12,046 11,804 9,929 10,292 12,975 12,164 11,825 13,636 10,441 12,239 12,786 11,146 11,224 14,438 12,804 13,020 13,113 10,336 11,444 前年同月比 増 減 率 △ 0.9 0.7 1.8 1.8 1.6 1.8 1.5 1.6 1.6 1.4 1.3 1.6 1.5 1.3 1.2 0.9 1.2 1.5 1.0 個人預金 前年同月比 増 減 率 △ 8.8 △ 4.9 1.1 1.4 0.6 1.3 △ 1.0 1.0 1.2 0.9 0.6 2.1 1.5 1.5 1.2 △ 1.0 1.4 3.6 1.1 要求払 前年同月比 増 減 率 237.4 △ 2.0 △ 15.8 3.7 2.5 5.2 24.6 4.3 2.9 3.8 6.0 8.3 6.8 0.4 △ 1.3 19.3 △ 3.5 △ 15.0 △ 3.2 定期性 802,012 820,195 842,751 861,039 869,500 867,853 871,741 867,927 879,663 873,292 878,272 873,926 879,149 871,964 880,320 876,412 881,572 878,465 881,996 85,538 84,315 88,396 93,657 93,743 98,079 94,945 95,955 104,457 93,567 93,057 99,317 104,550 97,252 97,585 96,189 94,774 105,045 97,031 10,738 10,366 10,554 9,410 14,284 13,407 12,888 12,547 12,173 11,967 11,120 9,939 10,767 12,495 15,607 15,741 15,481 15,022 14,280 前年同月比 増 減 率 1.2 2.2 2.7 2.2 2.1 2.1 1.9 1.9 1.8 1.6 1.5 1.4 1.4 1.3 1.2 0.9 1.1 1.2 1.1 要求払 前年同月比 増 減 率 22.8 △ 1.4 4.8 5.9 4.8 6.2 1.4 5.3 5.4 5.2 4.7 6.0 4.5 4.5 4.0 △ 0.5 4.2 7.1 2.1 定期性 195,149 211,169 226,091 243,198 254,127 252,417 257,750 254,484 264,251 258,346 264,618 263,269 269,491 263,122 271,461 265,473 269,063 266,124 269,584 96,760 88,922 86,899 84,078 83,097 82,962 83,076 82,422 82,105 82,419 82,083 82,264 82,398 82,145 81,528 81,605 81,709 82,719 83,101 前年同月比 増 減 率 27.3 8.2 7.0 7.5 7.8 8.3 7.6 8.1 8.3 8.3 8.3 8.2 7.8 7.4 6.8 5.7 5.7 5.4 4.5 定期性 606,630 608,742 616,073 616,915 614,540 614,698 613,315 612,835 614,856 614,405 613,125 610,130 609,129 608,263 608,292 610,364 611,947 611,781 611,896 前年同月比 外貨預金等 前年同月比 増 減 率 増 減 率 △ 5.0 220 △ 8.3 0.3 273 24.1 1.2 576 110.9 0.1 915 58.7 △ 0.0 822 39.0 △ 0.2 727 13.3 △ 0.3 665 △ 2.4 △ 0.3 597 △ 22.9 △ 0.6 546 △ 33.1 △ 0.8 531 △ 39.0 △ 1.0 517 △ 40.7 △ 1.0 515 △ 43.6 △ 1.0 519 △ 41.9 △ 1.0 568 △ 34.8 △ 1.0 557 △ 32.1 △ 0.9 564 △ 24.6 △ 0.7 552 △ 26.7 △ 0.4 549 △ 24.4 △ 0.2 506 △ 23.9 前年同月比 外貨預金等 前年同月比 増 減 率 増 減 率 △ 25.7 293 △ 5.0 △ 8.1 376 28.2 △ 2.2 349 △ 7.3 △ 3.1 323 △ 7.4 △ 3.6 306 △ 14.3 △ 3.8 294 △ 15.9 △ 3.5 279 △ 23.5 △ 3.4 259 △ 29.7 △ 3.5 266 △ 27.0 △ 3.3 266 △ 28.7 △ 3.5 261 △ 19.2 △ 2.1 259 △ 19.8 △ 2.0 274 △ 16.8 △ 1.6 287 △ 10.8 △ 1.8 281 △ 8.2 △ 1.6 279 △ 7.1 △ 1.5 269 △ 10.1 △ 0.2 266 △ 9.6 0.0 264 △ 5.1 前年同月比 外貨預金等 前年同月比 増 減 率 増 減 率 △ 48.1 200 △ 67.1 △ 3.4 118 △ 41.2 1.8 298 152.7 △ 10.8 349 17.2 △ 7.5 110 △ 70.1 △ 5.1 77 △ 59.3 △ 4.6 85 △ 19.2 △ 4.3 223 △ 17.0 △ 3.7 37 64.8 △ 4.6 5 △ 26.7 △ 4.6 4 92.8 5.6 444 27.0 2.2 3 213.1 5.4 5 △ 93.9 9.2 70 △ 36.0 8.6 116 92.1 9.9 240 43.8 12.0 122 57.6 10.8 65 △ 23.3 金融機関預金 20,084 19,217 15,579 15,055 14,619 14,756 14,300 14,838 13,948 14,481 14,980 14,797 13,523 14,942 14,252 14,288 14,755 14,420 12,397 公金預金 22,990 22,292 20,785 20,055 27,373 25,652 24,801 26,410 22,656 24,215 23,913 21,534 21,997 26,942 28,486 28,882 28,838 25,483 25,793 政府関係 前年同月比 預 り 金 増 減 率 △ 0.2 2 △ 4.3 1 △ 18.9 0 △ 3.3 0 △ 3.7 0 △ 4.7 0 6.6 0 △ 4.9 0 △ 1.5 0 △ 3.4 0 △ 3.6 0 △ 1.7 0 0.8 0 △ 2.9 0 △ 2.5 0 5.0 0 △ 1.4 0 △ 2.2 0 △ 13.3 0 前年同月比 増 減 率 △ 7.6 △ 3.0 △ 6.7 △ 3.4 △ 3.8 △ 0.9 7.2 △ 0.1 △ 0.7 △ 0.5 0.8 7.3 4.5 2.4 4.0 13.4 3.5 △ 0.6 3.9 譲渡性預金 114 244 789 999 1,394 1,326 1,437 1,681 1,629 1,466 1,441 1,181 1,261 1,475 1,554 1,429 1,394 1,293 1,333 (備考)1.日本銀行 「預金現金貸出金調査表」より作成。このため、「日計表」による(3)預金種類別・地区別預金の預金計とは (備考)1一致しない。 (備考)2.2005年3月から2006年2月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 統 計 133 1.(5)信用金庫の科目別貸出金、地区別貸出金 科目別貸出金 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (単位:億円、%) 貸出金計 639,805 626,342 622,364 620,948 615,243 623,513 620,399 621,327 631,723 623,448 622,893 626,702 624,475 620,794 622,741 624,218 624,589 632,882 626,947 割引手形 前年同月比 増 減 率 △ 3.3 △ 2.1 △ 0.6 △ 0.1 0.0 0.2 △ 0.1 0.2 0.4 0.5 0.6 0.9 1.0 1.1 1.2 0.7 1.2 1.5 1.0 28,762 24,051 22,388 20,555 19,607 19,111 18,700 18,729 22,105 19,243 18,624 18,931 20,311 18,094 18,176 17,970 17,515 19,738 17,477 貸付金 前年同月比 増 減 率 △ 15.2 △ 16.3 △ 6.9 △ 8.1 △ 9.5 △ 8.2 △ 17.6 △ 9.1 △ 8.3 △ 8.6 △ 8.6 △ 7.8 △ 7.6 △ 7.8 △ 7.2 △ 16.6 △ 7.3 3.2 △ 6.5 611,043 602,291 599,975 600,393 595,636 604,401 601,698 602,597 609,618 604,204 604,268 607,770 604,163 602,700 604,564 606,247 607,074 613,143 609,469 前年同月比 増 減 率 △ 2.6 △ 1.4 △ 0.3 0.1 0.3 0.5 0.4 0.5 0.7 0.8 0.9 1.2 1.3 1.4 1.4 1.3 1.5 1.4 1.2 手形貸付 90,943 84,739 77,758 71,918 66,413 68,330 67,133 66,818 68,633 66,976 67,046 67,172 63,896 61,531 61,659 61,985 62,071 63,283 62,548 前年同月比 増 減 率 △ 7.1 △ 6.8 △ 8.2 △ 7.4 △ 7.0 △ 7.4 △ 7.4 △ 7.6 △ 7.2 △ 7.0 △ 7.0 △ 6.5 △ 7.0 △ 7.4 △ 7.1 △ 7.4 △ 7.1 △ 7.3 △ 6.8 証書貸付 485,532 484,045 490,499 498,000 500,069 505,431 505,231 506,100 511,203 507,864 507,651 510,693 511,697 512,186 514,076 515,131 515,732 519,681 517,497 前年同月比 増 減 率 △ 1.7 △ 0.3 1.3 1.5 1.6 1.9 1.8 2.0 2.0 2.1 2.2 2.5 2.6 2.7 2.8 2.6 2.8 2.8 2.4 当座貸越 34,567 33,506 31,717 30,473 29,153 30,639 29,333 29,678 29,781 29,364 29,570 29,904 28,569 28,982 28,828 29,131 29,270 30,178 29,423 前年同月比 増 減 率 △ 3.9 △ 3.0 △ 5.3 △ 3.8 △ 3.5 △ 3.0 △ 2.7 △ 3.0 △ 1.5 △ 2.0 △ 1.6 △ 1.8 △ 1.7 △ 1.4 △ 1.1 0.6 0.0 △ 1.5 0.3 (備考)2005年3月から2006年2月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 地区別貸出金 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 06 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 (単位:億円、%) 北海道 29,521 29,628 29,855 29,999 29,029 29,610 29,707 29,663 30,593 29,801 30,024 30,652 30,010 29,437 29,539 29,543 29,665 30,167 30,050 近 畿 130,271 124,418 122,626 121,978 121,620 123,271 122,921 123,184 125,416 123,904 123,768 124,456 124,970 124,501 124,997 125,383 125,411 127,160 125,864 前年同月比 増 減 率 0.4 0.3 0.7 0.4 1.7 0.4 △ 0.0 0.1 0.9 1.0 1.5 2.1 1.8 1.3 1.7 1.0 1.5 1.8 1.1 前年同月比 増 減 率 △ 4.7 △ 4.4 △ 1.4 △ 0.5 △ 0.1 0.6 0.3 1.1 1.5 1.6 1.7 2.0 2.2 2.5 2.7 2.2 2.9 3.1 2.3 東 北 24,520 24,413 23,865 23,463 22,966 23,184 23,170 23,191 23,380 23,174 23,205 23,277 22,986 22,804 22,796 22,811 22,799 23,061 22,913 中 国 30,826 30,140 29,815 29,537 28,996 29,275 29,059 29,069 29,457 29,179 29,240 29,238 28,945 28,858 28,889 28,969 29,017 29,311 29,028 前年同月比 増 減 率 △ 1.4 △ 0.4 △ 2.2 △ 1.6 △ 1.1 △ 1.5 △ 1.5 △ 1.1 △ 1.0 △ 0.7 △ 0.8 △ 0.7 △ 1.0 △ 0.5 △ 0.7 △ 1.0 △ 0.9 △ 0.5 △ 1.1 前年同月比 増 減 率 △ 3.2 △ 2.2 △ 1.0 △ 0.9 △ 1.4 △ 1.4 △ 1.7 △ 1.3 △ 1.3 △ 1.0 △ 1.1 △ 1.0 △ 1.1 △ 0.1 △ 0.3 △ 0.7 △ 0.0 0.1 △ 0.1 東 京 125,915 124,445 123,525 123,026 122,684 123,856 123,478 123,774 125,602 124,020 123,604 123,508 123,598 122,884 123,438 123,723 123,541 124,975 123,718 四 国 10,974 10,823 10,800 10,753 10,627 10,727 10,601 10,587 10,666 10,565 10,543 10,631 10,486 10,491 10,472 10,466 10,474 10,565 10,447 前年同月比 増 減 率 △ 4.1 △ 2.1 △ 0.7 △ 0.4 △ 0.3 0.0 △ 0.3 0.2 0.2 0.3 0.3 0.3 0.4 0.6 0.6 0.0 0.6 0.9 0.1 前年同月比 増 減 率 △ 0.7 △ 1.3 △ 0.2 △ 0.4 △ 0.0 △ 0.4 △ 1.3 △ 1.3 △ 1.9 △ 1.5 △ 1.6 △ 1.1 △ 1.3 △ 0.8 △ 1.4 △ 1.5 △ 1.4 △ 1.5 △ 1.4 関 東 120,357 116,756 116,513 117,256 116,319 117,845 117,014 117,219 118,889 117,553 117,396 118,550 117,953 117,246 117,450 117,595 117,687 119,173 118,180 九州北部 11,551 11,575 11,406 11,364 11,223 11,408 11,412 11,432 11,631 11,489 11,493 11,523 11,501 11,398 11,433 11,475 11,523 11,684 11,537 前年同月比 増 減 率 △ 4.0 △ 1.9 △ 0.2 0.6 0.6 0.6 0.0 0.2 0.2 0.3 0.4 1.1 1.1 0.9 0.9 0.6 1.0 1.1 0.9 前年同月比 増 減 率 △ 2.0 0.2 △ 1.4 △ 0.3 0.3 0.8 0.5 0.8 1.1 1.1 1.0 1.3 1.9 1.9 1.8 1.1 1.7 2.4 1.0 北 陸 19,287 19,061 18,768 18,633 18,424 18,565 18,469 18,416 18,741 18,425 18,410 18,546 18,317 18,323 18,344 18,363 18,289 18,483 18,273 南九州 15,972 15,489 15,470 15,362 15,161 15,329 15,322 15,329 15,518 15,324 15,281 15,260 15,174 15,080 15,098 15,148 15,141 15,225 15,222 前年同月比 増 減 率 △ 3.9 △ 1.1 △ 1.5 △ 0.7 △ 0.8 △ 0.7 △ 1.1 △ 1.4 △ 1.0 △ 1.2 △ 1.1 △ 0.4 △ 1.3 △ 0.6 △ 0.4 △ 0.9 △ 1.1 △ 0.4 △ 1.0 前年同月比 増 減 率 △ 3.3 △ 3.0 △ 0.1 0.6 0.1 △ 0.3 △ 0.5 △ 0.7 △ 1.0 △ 1.0 △ 0.8 △ 0.6 △ 0.3 △ 0.7 △ 0.4 △ 0.2 △ 0.6 △ 0.6 △ 0.6 (備考)1.沖縄地区は全国に含めた。 (備考)2.東京・関東地区の2003年3月の増減率は、地区間の事業譲渡を調整して算出 (備考)3.南九州地区・全国の2005年3月から2006年2月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 134 信金中金月報 2007.1 東 海 119,553 118,573 118,715 118,485 117,159 119,414 118,219 118,432 120,793 118,975 118,882 119,924 119,417 118,724 119,225 119,683 119,986 122,032 120,674 全国計 639,805 626,342 622,364 620,948 615,243 623,513 620,399 621,327 631,723 623,448 622,893 626,702 624,475 620,794 622,741 624,218 624,589 632,882 626,947 前年同月比 増 減 率 △ 1.5 △ 0.8 0.1 △ 0.1 0.1 0.5 △ 0.0 0.5 0.7 0.7 0.9 1.2 1.5 1.5 1.7 1.3 2.0 2.1 2.0 前年同月比 増 減 率 △ 3.3 △ 2.1 △ 0.6 △ 0.1 0.0 0.2 △ 0.1 0.2 0.4 0.5 0.6 0.9 1.0 1.1 1.2 0.7 1.2 1.5 1.0 1.(6)信用金庫の貸出先別貸出金 (単位:億円、%) 年 月 末 貸出金計 企業向け計 前年同月比 2002.03 03.03 04.03 04.12 05.03 6 9 12 06.03 639,803 626,341 622,363 629,294 620,947 615,241 623,511 631,722 626,700 増 減 率 △ 3.3 △ 2.1 △ 0.6 △ 0.5 △ 0.1 0.0 0.2 0.4 0.9 6 9 622,739 632,880 1.2 1.5 年月 末 2002.03 03.03 04.03 04.12 05.03 6 9 12 06.03 6 9 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 04.12 05.03 6 9 12 06.03 6 9 卸売業 36,758 34,242 33,039 33,621 32,326 31,863 32,594 33,569 32,103 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 100.0 435,084 415,266 405,336 411,017 404,453 400,718 407,695 415,004 407,728 増 減 率 △ 5.2 △ 4.5 △ 2.3 △ 1.6 △ 0.1 0.1 0.6 0.9 0.8 100.0 100.0 405,032 414,906 1.0 1.7 前年同月比 構成比 増 減 率 △ △ △ △ △ △ △ △ △ 前年同月比 構成比 小売業 構成比 製造業 前年同月比 68.0 66.3 65.1 65.3 65.1 65.1 65.3 65.6 65.0 94,053 86,148 82,022 83,493 79,376 78,001 79,282 81,428 78,118 増 減 率 △ 8.2 △ 7.9 △ 4.7 △ 3.2 △ 3.2 △ 3.4 △ 2.7 △ 2.4 △ 1.5 65.0 65.5 77,451 80,002 △ 0.7 0.9 前年同月比 構成比 増 減 率 飲食店 構成比 建設業 前年同月比 14.7 13.7 13.1 13.2 12.7 12.6 12.7 12.8 12.4 71,366 65,273 61,786 61,279 59,463 57,124 58,624 59,608 58,229 増 減 率 △ 8.8 △ 8.5 △ 5.3 △ 4.2 △ 3.7 △ 3.1 △ 2.9 △ 2.6 △ 2.0 12.4 12.6 55,952 57,774 △ 2.0 △ 1.4 前年同月比 構成比 増 減 率 不動産業 構成比 11.1 10.4 9.9 9.7 9.5 9.2 9.4 9.4 9.2 8.9 9.1 前年同月比 構成比 増 減 率 6.5 6.8 3.5 3.7 2.1 1.7 0.2 0.1 0.6 5.7 5.4 5.3 5.3 5.2 5.1 5.2 5.3 5.1 42,824 39,615 37,328 36,058 34,509 33,935 34,141 34,293 33,303 △ △ △ △ △ △ △ △ △ 8.0 7.4 5.7 6.8 7.4 7.1 6.7 4.8 3.4 6.6 6.3 5.9 5.7 5.5 5.5 5.4 5.4 5.3 14,524 13,622 12,684 12,353 11,812 11,589 11,481 11,417 11,116 △ △ △ △ △ △ △ △ △ 7.0 6.2 6.8 5.7 6.8 7.4 7.8 7.5 5.8 2.2 2.1 2.0 1.9 1.9 1.8 1.8 1.8 1.7 74,989 78,140 82,306 86,796 92,942 94,618 96,850 98,269 100,311 4.3 4.2 5.3 6.1 12.9 13.5 13.8 13.2 7.9 11.7 12.4 13.2 13.7 14.9 15.3 15.5 15.5 16.0 31,809 △ 0.1 33,050 1.3 5.1 5.2 32,997 33,210 △ 2.7 △ 2.7 5.2 5.2 11,040 11,097 △ 4.7 △ 3.3 1.7 1.7 101,002 103,356 6.7 6.7 16.2 16.3 サービス業 前年同月比 (各種サービス) 増 減 率 構成比 77,123 86,079 83,956 84,233 80,908 80,333 80,851 81,816 80,075 地方公共団体 前年同月比 構成比 増 減 率 個 人 前年同月比 構成比 増 減 率 住宅ローン 前年同月比 構成比 増 減 率 △ 3.7 - △ 2.4 △ 2.3 △ 3.6 △ 3.6 △ 3.7 △ 2.8 △ 1.0 12.0 13.7 13.4 13.3 13.0 13.0 12.9 12.9 12.7 13,527 15,680 16,932 16,224 18,529 17,371 17,284 18,081 21,043 15.0 15.9 7.9 10.8 9.4 13.6 10.7 11.4 13.5 2.1 2.5 2.7 2.5 2.9 2.8 2.7 2.8 3.3 191,192 195,395 200,095 202,053 197,965 197,152 198,532 198,637 197,929 △ △ △ △ △ 0.2 2.1 2.4 0.8 1.0 1.2 1.2 1.6 0.0 29.8 31.1 32.1 32.1 31.8 32.0 31.8 31.4 31.5 127,347 134,682 143,110 146,884 143,956 144,394 145,956 147,674 148,058 3.1 5.7 6.2 2.9 0.6 0.4 0.7 0.5 2.8 19.9 21.5 22.9 23.3 23.1 23.4 23.4 23.3 23.6 80,006 △ 0.4 81,049 0.2 12.8 12.8 20,029 20,123 15.3 16.4 3.2 3.1 197,678 197,851 0.2 △ 0.3 31.7 31.2 148,634 149,526 2.9 2.4 23.8 23.6 (備考)1.日本銀行「業種別貸出金調査表」より作成。このため、「日計表」による(5)科目別・地区別貸出金の貸出金計とは一 1致しない。 2.企業向け計には、海外円借款、国内店名義現地貸を含む。 3.2003年3月の業種分類の見直しに伴い、製造業の対象業種から「出版業」が除かれ、従来の「出版・印刷業」に代えて「印 1刷業」のみが対象となったことから、増減率の算出においては、出版業・印刷業とも除いて算出した。また 「サービス業」 1は「各種サービス」となり飲食店等を含む。 4.2005年3月から2005年12月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 統 計 135 1.(7)信用金庫の余裕資金運用状況 (単位:億円、%) 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 005.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 年 月 末 2002.03 03.03 04.03 05.03 6 09 05.10 11 12 06.01 2 3 4 5 6 7 8 9 10 現 金 19,391 17,492 16,040 19,162 16,105 15,745 15,189 15,856 18,040 15,825 14,472 16,963 16,401 15,874 15,086 15,568 15,101 15,898 14,822 商 品 有価証券 212 197 159 78 77 80 82 72 70 75 77 69 75 72 70 69 69 62 65 預 け 金 うち信金中金預け金 182,044(△ 0.9) 194,070( 6.6) 196,398( 1.1) 199,157( 1.4) 227,835( 9.9) 209,322( 1.5) 209,114(△ 0.9) 207,048( 0.1) 207,651(△ 1.2) 204,109(△ 1.8) 207,857(△ 2.8) 194,245(△ 2.4) 207,945(△ 6.4) 199,982(△ 8.9) 205,076(△ 9.9) 193,841(△ 10.9) 198,110(△ 8.1) 197,523(△ 5.6) 197,078(△ 5.7) 有価証券 236,169( 248,064( 268,761( 287,574( 282,057( 294,130( 299,462( 299,266( 301,476( 301,071( 304,719( 306,055( 307,155( 308,646( 310,948( 312,821( 311,153( 309,959( 311,180( 159,156(△ 4.5) 159,131(△ 0.0) 154,855(△ 2.6) 150,939(△ 2.4) 213,816( 10.3) 172,021( 3.3) 193,806( 0.3) 191,498(△ 0.4) 191,858(△ 1.7) 188,391(△ 2.7) 191,451(△ 3.8) 151,668( 0.4) 191,763(△ 7.9) 182,155(△ 11.4) 187,438(△ 12.3) 177,260(△ 12.9) 179,808(△ 10.3) 171,964(△ 0.0) 177,802(△ 8.2) 国 6.5) 5.0) 8.3) 7.0) 0.1) 5.8) 7.7) 7.1) 8.0) 7.5) 7.7) 6.4) 10.1) 10.0) 10.2) 9.0) 6.1) 5.3) 3.9) 債 58,911( 62,730( 73,655( 82,465( 76,635(△ 82,122( 84,774( 84,253( 84,957( 84,600( 87,186( 89,127( 90,615( 91,551( 92,095( 92,900( 91,624( 92,243( 92,458( 株 式 貸付信託 投資信託 外国証券 4,987 4,206 5,449 6,131 5,709 5,642 5,807 5,898 6,192 6,451 6,586 9,236 6,760 6,882 7,070 7,042 7,001 7,155 7,213 24 17 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 8,034 5,176 5,650 6,745 7,797 7,776 8,172 8,036 8,182 8,516 8,533 8,911 8,204 8,927 9,282 9,404 9,282 9,369 9,182 39,660 41,917 46,121 47,983 48,009 49,288 49,657 49,179 49,106 48,635 48,415 47,338 47,967 47,616 47,974 48,064 48,082 48,134 47,975 15.9) 6.4) 17.4) 11.9) 1.9) 7.9) 14.1) 13.4) 13.4) 11.9) 11.5) 8.0) 19.5) 19.9) 20.1) 17.9) 13.3) 12.3) 9.0) その他の 証 券 442 565 643 1,102 1,072 1,187 1,223 1,217 1,221 1,229 1,228 1,466 1,276 1,285 1,270 1,288 1,298 1,308 1,329 金融機関 貸 付 等 買入手形 コール ローン 3,004 2,654 2,175 2,472 629 1,038 445 326 311 347 555 1,949 933 2,979 2,330 5,167 7,324 ― ― 0 0 600 907 0 300 0 0 11 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2,104 1,654 1,575 1,555 579 728 405 286 260 317 525 1,949 923 2,969 2,320 5,167 7,314 6,657 6,546 地方債 短期社債 24,778 24,914 26,755 31,460 31,518 33,584 34,070 34,428 34,765 35,042 35,240 34,696 35,056 35,096 35,087 35,488 35,433 34,847 35,015 ― 0 0 3 459 93 349 314 321 150 107 80 402 486 579 398 300 209 334 余資運用 資 産 計 (A) 445,987 468,216 489,360 514,265 533,452 526,842 530,757 529,130 533,911 527,702 533,913 524,777 538,719 533,856 540,046 533,910 538,211 536,567 536,523 信金中金 利 用 額 (B) 159,156 159,131 154,855 150,939 213,816 172,021 193,806 191,498 191,858 188,391 191,451 151,668 191,763 182,155 187,438 177,260 179,808 171,964 177,802 社 債券貸借取引 買入金銭 買現先勘定 金銭の信託 支払保証金 債 権 899 0 0 0 39 0 29 29 29 19 19 0 10 10 10 0 10 0 0 債 99,328( 108,534( 110,483( 111,680( 110,854(△ 114,432( 115,405( 115,936( 116,728( 116,442( 117,420( 115,196( 116,872( 116,798( 117,587( 118,233( 118,130( 116,690( 117,670( 預貸率 62.2 60.4 58.9 57.7 56.4 57.1 56.8 57.0 57.1 57.2 56.9 57.3 56.6 56.6 56.4 56.7 56.6 57.1 56.8 7.3) 9.2) 1.7) 1.1) 2.3) 2.9) 3.2) 3.4) 5.0) 4.8) 5.2) 3.1) 6.2) 5.8) 6.0) 5.8) 3.8) 1.9) 1.9) (A) /預金 43.3 45.2 46.3 47.8 48.9 48.2 48.6 48.5 48.3 48.4 48.8 47.9 48.8 48.7 48.9 48.5 48.7 48.4 48.6 ― 1,000 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 172 430 公社公団債 21,166 27,267 33,875 39,070 38,639 41,378 42,112 42,633 42,968 42,872 43,425 42,609 43,341 43,507 43,867 44,363 44,449 43,972 44,502 預証率 22.9 23.9 25.4 26.7 25.8 26.9 27.4 27.4 27.2 27.6 27.8 27.9 27.8 28.1 28.1 28.4 28.2 27.9 28.2 2,084 3,274 3,095 3,142 3,758 3,560 3,452 3,513 3,360 3,273 3,231 2,825 2,996 3,054 3,265 3,190 3,170 3,017 3,109 3,103 2,463 2,729 2,678 2,987 2,964 3,010 3,045 3,000 2,998 3,000 2,668 3,211 3,246 3,268 3,251 3,282 3,276 3,289 金融債 34,374 37,894 34,274 32,452 32,306 32,988 33,105 33,147 33,440 33,623 33,934 33,464 33,598 33,769 34,206 34,433 34,326 34,054 34,356 その他 43,787 43,372 42,334 40,158 39,907 40,065 40,187 40,155 40,319 39,946 40,059 39,122 39,931 39,521 39,513 39,435 39,354 38,663 38,811 (B) /預金 (B) / (A) 15.4 15.3 14.6 14.0 19.6 15.7 17.7 17.5 17.3 17.2 17.4 13.8 17.3 16.6 16.9 16.1 16.2 15.5 16.1 35.6 33.9 31.6 29.3 40.0 32.6 36.5 36.1 35.9 35.7 35.8 28.9 35.5 34.1 34.7 33.2 33.4 32.0 33.1 (備考)1.( )内は前年同月比増減率 (備考)2.預貸率=貸出金/預金×100(%)、預証率=有価証券/預金×100(%)(預金には譲渡性預金を含む。) (備考)3.2005年3月から2006年2月までの増減率は、旧杵築信用金庫を調整して算出 (備考)4.2006年8月末までの余資運用資産計は、現金、預け金、金融機関貸付等、買入金銭債権、金銭の信託、商品有価証券、 有価証券の合計 (備考)5.2006年9月末以降の余資運用資産計は、現金、預け金、買入手形、コールローン、買現先勘定、債権貸借取引支払保証金、 買入金銭債権、金銭の信託、商品有価証券、有価証券の合計 136 信金中金月報 2007.1 2.(1)業態別預貯金等 (単位:億円、%) 年 月 末 2002.03 信用金庫 前年同月比 増 減 率 1,028,198 △ 0.9 国内銀行 前年同月比 増 減 率 6,790,535 2.2 (債券、信託 を含む。) 大手銀行 前年同月比 増 減 率 4,416,792 2.9 うち預金 4,424,063 (債券、信託 を含む。) 前年同月比 うち都市銀行 前年同月比 増 減 率 増 減 率 2,699,067 9.4 2,308,919 9.8 地方銀行 前年同月比 増 減 率 1,813,848 1.5 03.03 1,035,536 0.7 6,798,976 0.1 2,760,299 2.2 2,377,699 2.9 1,813,487 △ 0.0 04.03 1,055,175 1.8 6,798,238 △ 0.0 4,420,297 △ 0.0 2,842,197 2.9 2,456,008 3.2 1,825,541 0.6 005.03 1,074,324 1.8 6,902,096 1.5 4,483,596 1.4 2,862,150 0.7 2,470,227 0.5 1,878,876 2.9 6 1,088,655 1.6 6,884,387 0.9 4,452,269 0.8 2,826,387 0.8 2,436,783 0.8 1,889,928 2.1 9 1,089,613 1.7 6,921,267 2.2 4,512,694 2.7 2,891,335 2.8 2,492,478 2.9 1,866,778 2.6 05.11 1,087,826 1.6 6,943,078 1.5 4,535,528 1.8 2,899,499 1.4 2,498,956 1.3 1,868,722 1.1 12 1,103,111 1.6 6,925,680 1.7 4,492,384 2.1 2,848,176 1.8 2,449,615 1.6 1,885,784 0.9 06.01 1,088,256 1.3 6,926,672 1.9 4,532,937 2.5 2,874,192 2.2 2,472,472 2.3 1,857,213 0.8 2 1,092,582 1.3 6,993,675 2.5 4,592,168 3.5 2,864,628 1.8 2,464,529 1.7 1,863,570 0.6 3 1,092,212 1.6 7,428,778 7.6 4,998,602 11.4 2,911,320 1.7 2,507,624 1.5 1,888,910 0.5 4 1,101,907 1.5 7,541,564 9.1 5,098,736 13.5 2,907,131 1.7 2,508,888 1.5 1,899,075 0.9 5 1,093,548 1.3 7,551,535 9.0 5,129,386 13.5 2,929,793 1.5 2,527,408 1.3 1,883,721 0.6 6 1,102,468 1.2 7,517,311 9.1 5,074,970 13.9 2,877,117 1.7 2,472,002 1.4 1,898,302 0.4 7 1,097,672 0.9 7,479,388 8.6 5,060,143 13.2 2,860,177 0.6 2,452,836 0.0 1,879,406 0.2 8 1,101,933 1.2 7,481,072 8.5 5,061,671 12.9 2,856,397 0.0 2,447,302 △ 0.4 1,878,598 0.5 9 1,106,414 1.5 7,483,080 8.1 5,048,943 11.8 2,862,311 △ 1.0 2,445,037 △ 1.9 1,888,120 1.1 10 11 1,100,598 1.0 7,473,541 9.4 5,066,363 14.1 2,851,295 2,432,161 △ 0.6 1,869,379 0.9 年 月 末 2002.03 第二地銀 前年同月比 増 減 率 559,895 △ 1.4 0.1 信用組合 前年同月比 増 減 率 153,541 △ 14.9 労働金庫 前年同月比 増 減 率 125,200 6.8 0.2 農業協同組合 前年同月比 増 減 率 735,373 2.0 郵便貯金 前年同月比 増 減 率 2,393,418 △ 4.2 預貯金等合計 前年同月比 増 減 率 11,226,265 0.2 03.03 561,426 148,362 △ 3.3 131,619 5.1 744,202 1.2 2,332,465 △ 2.5 11,191,160 △ 0.3 04.03 552,400 △ 1.6 152,526 2.8 135,713 3.1 759,764 2.0 2,273,820 △ 2.5 11,175,236 △ 0.1 05.03 539,624 △ 2.3 156,095 2.3 138,604 2.1 776,685 2.2 2,141,490 △ 5.8 11,189,294 06 09 542,190 △ 2.7 157,974 2.5 142,541 1.5 788,275 2.0 2,111,218 △ 6.6 11,173,050 △ 0.4 0.2 0.1 541,795 △ 2.7 159,594 2.9 140,895 1.5 785,263 2.0 2,067,335 △ 6.7 11,163,967 05.11 538,828 1.4 158,537 2.6 140,640 1.8 788,402 1.7 2,043,413 △ 6.8 11,161,896 △ 0.0 0.4 12 547,512 1.2 160,564 2.4 144,005 2.1 797,045 1.6 2,045,352 △ 6.7 11,175,757 0.0 06.01 536,522 0.7 158,898 2.1 143,014 1.9 790,430 1.5 2,030,901 △ 6.8 11,138,171 0.1 2 537,937 0.5 159,385 2.2 143,054 1.9 792,659 1.4 2,025,215 △ 6.8 11,206,570 0.5 3 541,266 0.3 159,430 2.1 141,803 2.3 788,653 1.5 2,000,023 △ 6.6 11,610,899 3.7 4 543,753 0.6 ― ― 143,865 2.1 791,604 1.3 p1,997,955 △ 6.4 p10,641,426 5.0 5 538,428 0.4 ― ― 142,958 2.0 ― ― p1,977,919 △ 6.3 p10,623,002 5.0 6 544,039 0.3 ― ― ― ― ― ― p1,978,874 △ 6.2 p10,598,653 5.1 7 539,839 △ 0.1 ― ― ― ― ― ― p1,963,059 △ 6.3 p10,540,119 4.6 8 540,803 0.4 ― ― ― ― ― ― p1,954,924 △ 6.4 p10,537,929 4.6 9 546,017 0.7 ― ― ― ― ― ― p1,933,738 △ 6.4 p10,523,232 4.4 10 11 537,799 0.1 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― p1,928,003 △ 6.5 p1,909,916 △ 6.5 p10,502,142 5.2 (備考)1.日本銀行『金融経済統計月報』、日本郵政公社ホームページ等より作成 2.大手銀行は、国内銀行-(地方銀行+第二地銀)の計数 3.国内銀行・大手銀行には、全国内銀行の債券および信託勘定の金銭信託・貸付信託・年金信託・財産形成給付信託を含めた。 (備考)4.信用組合、労働金庫、農業協同組合の計数については、日本銀行がデータの掲載を中止したことを受けて、更新を停止 (備考)4した。 (備考)5.預貯金等合計は、単位(億円)未満を切り捨てた各業態の預貯金残高の合計により算出した。なお、2006年4月以降に (備考)4ついては、信用組合、労働金庫、農業協同組合を除いたベースで算出した。 統 計 137 2.(2)業態別貸出金 (単位:億円、%) 年 月 末 信用金庫 大手銀行 前年同月比 増 減 率 前年同月比 増 減 率 都市銀行 地方銀行 前年同月比 増 減 率 第二地銀 前年同月比 増 減 率 信用組合 前年同月比 増 減 率 前年同月比 増 減 率 2002.03 639,805 △ 3.3 2,601,800 △ 5.2 2,035,627 △ 4.5 1,359,864 0.1 444,432 △ 4.6 119,082 △ 10.8 03.03 626,342 △ 2.1 2,451,214 △ 5.7 2,072,578 1.8 1,352,514 △ 0.5 429,130 △ 3.4 91,512 △ 23.1 04.03 622,364 △ 0.6 2,344,621 △ 4.3 1,958,921 △ 5.4 1,352,081 △ 0.0 420,236 △ 2.0 91,234 △ 0.3 05.03 620,948 △ 0.2 2,243,788 △ 4.3 1,869,540 △ 4.5 1,372,381 1.5 403,403 △ 4.0 91,836 0.6 6 615,243 △ 0.0 2,200,208 △ 3.5 1,824,916 △ 4.4 1,354,582 2.2 399,866 △ 3.1 91,048 0.6 9 623,513 0.2 2,266,669 △ 1.3 1,875,833 △ 2.3 1,369,059 2.9 405,462 △ 2.3 92,434 1.1 05.10 620,399 △ 0.2 2,251,223 △ 0.5 1,868,922 △ 1.1 1,364,726 1.1 403,561 1.6 92,093 0.6 11 621,327 0.2 2,264,277 0.1 1,879,404 △ 0.3 1,371,472 1.7 406,130 2.4 92,405 0.9 12 631,723 0.3 2,272,945 0.4 1,885,112 △ 0.0 1,397,915 1.7 414,620 2.5 93,401 1.1 06.01 623,448 0.4 2,261,135 0.8 1,876,550 0.6 1,384,823 1.6 407,736 2.3 92,875 1.4 2 622,893 0.5 2,255,267 0.6 1,870,702 0.1 1,386,624 1.5 408,121 2.4 93,002 1.6 3 626,702 0.9 2,291,469 2.1 1,896,885 1.4 1,403,556 2.2 412,564 2.2 93,078 1.3 4 624,475 1.0 2,271,918 2.1 1,878,937 1.8 1,395,087 2.2 411,936 2.9 ― ― 5 620,794 1.1 2,268,097 2.8 1,873,350 2.6 1,391,189 2.7 410,645 3.3 ― ― 6 622,741 1.2 2,276,952 3.4 1,876,598 2.8 1,395,179 2.9 412,768 3.2 ― ― 7 624,218 0.7 2,283,238 2.8 1,878,974 1.9 1,397,835 2.5 413,586 2.4 ― ― 8 624,589 1.2 2,283,586 2.7 1,879,127 2.3 1,400,043 2.9 413,587 2.9 ― ― 9 632,882 1.5 2,294,564 1.2 1,887,004 0.5 1,413,825 3.2 417,426 2.9 ― ― 10 626,947 1.0 2,273,750 1.0 1,874,181 0.2 1,403,404 2.8 411,609 1.9 ― ― 年 月 末 労働金庫 前年同月比 増 減 率 6.3 農業協同組合 公的金融機関 うち中小 企業向け うち住宅 金融公庫 合 計 2002.03 81,054 217,357 前年同月比 増 減 率 △ 1.2 1,693,486 前年同月比 増 減 率 △ 2.2 288,025 前年同月比 増 減 率 △ 1.8 726,516 前年同月比 増 減 率 △ 4.3 7,156,880 前年同月比 増 減 率 △ 3.1 03.03 87,266 7.6 215,147 △ 1.0 1,617,238 △ 4.5 279,743 △ 2.8 671,999 △ 7.5 6,870,363 △ 4.0 04.03 92,664 6.1 214,871 △ 0.1 1,531,569 △ 5.2 274,726 △ 1.7 605,947 △ 9.8 6,669,640 △ 2.9 05.03 94,887 2.3 212,986 △ 0.8 1,457,114 △ 4.8 270,971 △ 1.3 550,993 △ 9.0 6,497,343 △ 2.5 6 94,625 2.1 212,188 △ 0.9 1,441,328 △ 5.3 268,237 △ 1.6 538,538 △ 9.6 6,409,088 △ 2.1 9 94,624 1.1 212,976 △ 0.7 1,405,866 △ 6.0 265,100 △ 4.3 519,488 △ 10.2 6,470,603 △ 1.3 05.10 95,066 1.0 212,387 △ 0.8 1,397,416 △ 6.2 262,742 △ 4.5 514,832 △ 10.5 6,436,871 △ 1.2 11 95,454 1.0 211,993 △ 0.7 1,391,582 △ 6.2 262,952 △ 3.9 510,273 △ 10.8 6,454,640 △ 0.8 12 95,568 0.7 211,638 △ 0.5 1,385,491 △ 6.4 264,777 △ 4.5 504,912 △ 11.1 6,503,301 △ 0.7 06.01 95,362 1.1 211,082 △ 0.4 1,377,485 △ 6.3 260,758 △ 4.3 499,049 △ 11.3 6,453,946 △ 0.5 2 95,816 1.2 211,290 △ 0.4 1,368,985 △ 6.4 259,295 △ 4.4 493,362 △ 11.4 6,441,998 △ 0.6 3 97,095 2.3 213,185 0.0 ― ― ― ― ― ― 4,734,291 2.0 4 97,373 2.7 213,434 0.6 ― ― ― ― ― ― 4,703,416 2.0 5 97,809 3.2 ― ― ― ― ― ― ― ― 4,690,725 2.6 6 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 4,707,640 3.0 7 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 4,718,877 2.4 8 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 4,721,805 2.6 9 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 4,758,697 2.0 10 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 4,715,710 1.6 (備考)1.日本銀行『金融経済統計月報』より作成 (備考)2.大手銀行は、国内銀行- (地方銀行+第二地銀)の計数 (備考)3.公的金融機関は、日本政策投資銀行、国際協力銀行、国民生活金融公庫、住宅金融公庫、農林漁業金融公庫、中小企業 金融公庫、公営企業金融公庫、沖縄振興開発金融公庫、商工組合中央金庫の合計 (備考)4.公的金融機関のうち中小企業向けは、国民生活金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫の合計 (備考)5.信用組合、労働金庫、農業協同組合、公的金融機関の計数については、日本銀行がデータの掲載を中止したことを受け て、更新を停止した。 (備考)6.合計は、単位(億円)未満を切り捨てた各業態の貸出金残高の合計により算出した。なお、2006年3月以降については、 信用組合、労働金庫、農業協同組合、公的金融機関を除いたベースで算出した。 138 信金中金月報 2007.1 ホームページのご案内 当研究所のホームページでは、当研究所の調査研究成果である各種レポート、信金中金月報のほか、統計デー タ等を掲示し、広く一般の方のご利用に供しておりますのでご活用下さい。 また、 「ご意見・ご要望窓口」を設置しておりますので、当研究所の調査研究や活動等に関しまして広くご意 見等をお寄せいただきますよう宜しくお願い申し上げます。 【ホームページの主なコンテンツ】 ○当研究所の概要、活動状況、組織 ○各種レポート 内外経済、中小企業金融、地域金融、 協同組織金融、産業・企業動向等 ○刊行物 信金中金月報、全国信用金庫概況等 ○信用金庫統計 日本語/英語 ○アジア主要国との貿易・投資に関する各種情報 アジア業務室ページ ○論文募集 【URL】 http://www.scbri.jp/ ISSN 1346−9479 2007年(平成19年)1月1日 発行 2007年1月号 第6巻 第1号(通巻408号) 発 行 信金中央金庫 編 集 信金中央金庫 総合研究 所 〒104−0031 東 京 都 中 央 区 京橋3−8−1 TEL 03(3563)7541 FAX 03(3563)7551 <本誌の無断転用、転載を禁じます >