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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察

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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
東北大学大学院教育学研究科研究年報 第 60 集・第 2 号(2012 年)
小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
山 本 佐 江
本研究は,形成的アセスメントの中核及び主要な要素である形成的フィードバックについて,明
確に把握するための概念化を目指している。さらにその概念を実践に生かすためにガイドラインの
作成を試みた。フィードバックについては欧米を中心に非常に多くの文献が産出されてきており,
その展望を通して概念を把握する。文献より抽出された形成的フィードバックの特質を生かし,実
際に取り組めるように精選したものをガイドラインとしてまとめ,提案していくこととする。
キーワード:形成的フィードバック,形成的アセスメント,フィードバックガイドライン,教室学習
1.はじめに
新しい学習指導要領の実施に伴い各教科の学習において言語活動の充実が目指されるようにな
り,教室での対話を通した学びが奨励されるようになった。また言語活動を通じて思考・判断した
ことがその過程を含めて評価されるものとなり,教師は授業において知識を一方的に伝達する指導
形式から学習者と相互作用の中で対話的に学習を進める形式へと転換することが必要となってき
た。教師としての成長には「語るから聴くへ」
(Suurtam,2010)と役割の移動が欠かせないのである。
クルックス(2001)が引用している言葉は正にこのことを言い得て妙である(Easley and Zwoyer,
1975)
。
「もしあなたが,子どもの言うことを聴き,それが正しいか間違っているかの判断だけではなく,
子どもが考えていることを示すかもしれない情報の断片であると答えを受け止めることができた
なら,
あなたは単なる情報の伝播者ではなく,
達人教師になる大いなる一歩を踏み出すことでしょ
う(p.25)
。
」
聴いて受け止めた後,教師のフィードバックがきっかけとなって継続していく対話をつくり出す
ようになる。そのためループをつくる形成的フィードバックについて教師が理解を深め,授業で活
用できるようになることが望まれる。本論では,形成的フィードバックについて概念化を図り,教
師たちが自分の実践をフィードバックループに組み込めるように(Sadler,1989)
,ガイドラインを
設定していくことを目的とする。
教育学研究科 博士課程後期
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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
2.研究の方法
形成的フィードバックは複雑な概念であり(Shute,2008),文献によって様々な定義がなされて
いる。同様に複雑で多様な定義がある形成的アセスメントの中核として明記されることもあり
(Bloom,1968;Sadler,1989;Black&Wiliam,1998b;Heritage,2010),単にフィードバックだけで
は十分ではないと断定されることもある(Perrenoud,1998)。フィードバックについて関心が深く
長く論議されてきた欧米では,その効果について多くの文献を渉猟したレビューがいくつか出され
ており,そのレビュー文献を整理することによって,形成的フィードバックについて考察する枠組
みを提示することとする。
文献から統合的な要素を抽出した後,さらに欧米の文献で述べられているものが日本の授業の文
脈に合うかどうかの考察を加えて,日本の教師が授業で使うためのガイドラインを作成する。
3.形成的フィードバックの定義
表 1 単なるフィードバックと形成的フィードバックの比較
フィードバック
形成的フィードバック
・情報をもどす
・学習の改善のための情報をもどす
・正誤の結果に基づく
・抽出された証拠に基づく
・価値判断的
・事象説明的
・制御的
・調整的
・外発的
・外発的および内発的
・ワンウェイ
・ループ
単なるフィードバックと,
形成的フィードバックは異なるものである。表1は,形成的フィードバッ
クについて文献からまとめた結果である。
形成的フィードバックとは,表 1 で上げた特徴を有するものであると定義する。6 つの要素がす
べて同時に起こる必要はないが,この内のいくつかはまとまって起こる。また 1 番上の「学習の改
善のための情報をもどす」
が必須であり,すべての要素の根底にある。
⑴学習の改善のための情報をもどす
スクリバン(1967)がカリキュラム評価で用いた概念枠組みを,ブルームら(1971)はすべての子
どもに確かな学力を保証するために教授学習過程として組み込んだ。学習の完全習得をめざすマス
タリー・ラーニング過程で実施される評価の機能を診断的・形成的・総括的と分類し,形成的評価は,
このプロセスの途中で行われ,指導者が目標と照らし合わせて子どもに必要な発展学習や回復学習
を行うものとして提起された。3 種の評価それぞれで子どもに情報を返すフィードバックの重要性
が強調された。この後形成的評価は,教室での子どもの学習に焦点化されると形成的アセスメント
と言う用語に変わっていき(Allal & Lopez,2005),さらに学習のためのアセスメント(Assessment
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for Learning:AfL)と言われることも多くなった(Wiliam,2010)。この発展的過程の理論化を試み
たサドラー(1989)は,元来のシステム制御機能による先行の定義を引きつつフィードバックを形
成的アセスメントの中核に位置づけた。
「フィードバックは形成的アセスメントの主要な要素であり,通常いかに成功裡に何かがなされ
たか又はなされているかについての情報と定義する。・・・フィードバックはまたその情報的内
容よりもその効果の観点で定義しうる:
『フィードバックはどうにかギャップを変えるのに用い
ら れ る シ ス テ ム パ ラ メ ー タ ー の,実 際 の レ ベ ル と 参 照 間 の ギ ャ ッ プ に 関 す る 情 報 で あ る
(Ramaprausad,1983)
』
(Sadler,1989)
」
これ以降,学習上の実際と参照間のギャップを閉じる情報として,学習の改善のためのフィード
バックということがより明確になった。
⑵抽出された証拠に基づく
授業の最中に(Loony,2005;Shepard,2005)生徒の進行中の学習について証拠を得ることは,生
徒の学習の進歩・改善をめざす教師にとって必須である。教師は意図的な質問,観察,課題の多様性,
提出ノート,市販テストのようなカリキュラムに埋め込まれたアセスメントなども含まれる様々な
方略に基づいて証拠を収集する(Heritage,2010)。日本では机間指導として,生徒が自力解決をし
ている最中に教師が教室中を歩き回り,生徒の理解の様子を把握することが多く行われている
(Clarke,2010)
。
この抽出された証拠に基づく形成的フィードバックは,学習の正誤や点数・成績のみを伝える「結
果の知識」
としてのフィードバック(Sadler,1989)とは異なる。
⑶事象説明的
タンシュトゥールとギップス(1996)
によるフィードバックの類型論によると,フィードバックは
大きく価値判断的と事象説明的に分類される。価値判断的なフィードバックは,動機づけや自己有
能観を維持する目的で情動や意欲と関連している。事象説明的なフィードバックは,課題や一般的
な目標に関連したパフォーマンスや能力のための特定の言及であり,認知の影響を受け,明確に形
成的アセスメントとつながっている。この類型論に基づく教授方略は次の通りであり,変化してい
く連続体として提案されている(Gipps et al. 2000)。
価値判断的フィードバック
⒜報酬と罰を与えること
⒝賛意と不賛意を表すこと
事象説明的フィードバック
⒞生徒に合っているかまちがっているか言うこと
⒟なぜ答えが正しいのか説明すること
⒠生徒に何が達成したか達成しなかったか言うこと
⒡何かをよりうまくやる方法を明示したり暗示したりする。
⒢生徒に改善できる方法を提案するようにさせる。
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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
ギップスらの形成的フィードバックには,⒞のように正誤を伝えることが含まれているが,例示
によるとより詳しいフィードバックが挙げられており,単に正誤を告げるというより⒟の説明の方
に重点が置かれているように見える。
⑷調整的
アラールとロペス(2005)による形成的アセスメントについての OECD のフランス語文献の論評
では,特に「調整」
(教師がどのように生徒のための学習を生徒とともに編成するか)という概念に
焦点を当てている。彼女らは,
生徒にフィードバックすることの重要性ばかりでなく,教授法を様々
な生徒のニーズに適応させたり,自己(把握・申告)アセスメントを行うための技能とツールを生徒
に提供したりすることの重要性も強調している。また,調整を相互作用的調整,遡及的調整,先行
的調整の3様式に区分し,
形成的アセスメントの各実践と結び付けることを提案した。さらに,ブラッ
クとウィリアム(1998a)によるギャップをつくりかえるフィードバックの概念に付け足し,そのプ
ロセスにおいて生徒を巻き込んで教師と生徒が共に行う調整を強調した。調整は「フィードバック
+ 調整 = 修正」
として形成的フィードバックを通して,形成的アセスメントを実行するものである。
⑸外発的および内発的
フィードバックは内発的と外発的に分けられ,内発的フィードバックは学習者が自分自身の行動
を通して得る情報,外発的フィードバックは他の人が学習者に与える情報と言われている(菅井,
2006)。外発的フィードバックについては,教師のみではなく学習者を取り巻く様々な資源(教師,
友達,本,親,経験,コンピューター)から与えられる(Kluger & DeNisi,1996;Hattie & Timpary,
2007)
。
内発的フィードバックは,サドラー(1989)
が強調したセルフ・モニターとメタ認知的活動に関係
する。それらを通して生徒は教師のもつ概念と似た質の概念を抱くようになる。質の概念は,目標
とする基準(またはゴール,参照レベル)の概念をもつことから,次は実際(または現在)のレベルと
それらを比較し,やがてそのギャップを閉じるような適切な活動に従事する経験を通して,発達し
ていく。内発的なフィードバックを効果的に使うことで,質の概念はさらに発達する(Heritage,
2010)
。目標や基準を明確にし,自己調整やギャップを閉じる機会を提供して,教師や友人との対話
と肯定的な動機づけを励ますことで,内発的なフィードバックの形成は支援される(Nicol &
MaCfarlane-Dick,2006)
。
⑹ループ
OECD で形成的アセスメントの調査報告をまとめたルーニー(2005)は,
「形成的アセスメントは,
学習のニーズを確認し,授業に適切に合わせていくための学力進捗状況や理解の頻繁かつ対話型の
アセスメントを指す。
」
と定義している。対話は,ループの形で行われる。そのループに教師は,
「ど
の技能が学ばれ,誰がよいパフォーマンスを承認して評し,よいパフォーマンスを立証し,いかに
乏しいパフォーマンスが改善されたかの指標をなすことができるかを知る教師を含む(p.120)
」
(Sadler,1989)
ように巻き込まれる。
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4.形成的フィードバックガイドラインの先行研究
フィードバックガイドラインとして,引用されることの多い文献はシュート(2008)と,ヘリテイ
ジ(2010)
である。膨大な文献の詳細な展望における抽出と,文献に著者自身の幅広い実践経験も加
味したものとそれぞれに特徴が異なるが,ガイドラインとしてまとめられた点については共通する
部分も多い。そこで,まずこの 2 つの文献の形成的フィードバックガイドライン作成の主要なポイ
ントに触れ,本研究の形成的フィードバックガイドライン作成の基礎となる部分を説明する。
シュートは,「形成的フィードバックへの焦点」
(2008)という論文で,コンピューターを使って,
経験的デザインを使用しメタ分析的な手続きを用いた形成的フィードバックに関連するものという
基準により 141 の文書を選び出した。
形成的フィードバックは以下のように定義されている。
「学習を改善する目的のために,彼または彼女の思考や行動を修正されるように意図された,学習
者へ伝達される情報(p.154)
」
文献から発見したことを,形成的フィードバックガイドライン作成へと適用することを研究の目
的とし,学習を促進するために最も効果的で効率的な形成的フィードバックの特徴を同定し,どん
な学習支援の条件下でそれを決定するのかということを追究した。だが,フィードバックには様々
なタイプがあり,研究によっては同じ変数でも全く異なる見解を示し,他の変数と相互作用するゆ
えに,それは容易なことではなかった。そこで,一般的なまとめのフィードバックよりも課題レベ
ルのフィードバックに特化した。まとめのフィードバックは,一斉授業を調整する教師や,自分た
ちが大体進歩しているとわかっている生徒に役立つ。課題レベルのフィードバックは,生徒の理解
と能力のレベルを考慮して,問題や課題への詳細な応答についてより特定の情報をその場で生徒に
返すものである。
シュートが文献から発見した論点をまとめると,以下の通りである。
○学習にとってネガティブな影響を与えるフィードバックがあるが,それは定義に沿うと形成的と
は言わない。
○形成的フィードバックは,現在の達成度と目標とのギャップの不確かさ,認知的負荷,不適切な
課題解決の方略を減らすことができる。
○情報メッセージとして表される特定で明瞭なフィードバックを提供することが合理的であるが,
学習者の特性や成果の違いによって結果は変わってくる。
○効果的なフィードバックは,確認と精緻化の 2 タイプの情報を学習者に提供する。確認は答えが
正しいかどうかの単純な判断であり,精緻化は学習者を正答へ導く手がかりとなるものである。
○長く複雑なフィードバックは,効果がなかったりネガティブな効果をもたらしたりすることがあ
る。
○形成的フィードバックによって,学習者が目標を志向し,能力や技能,努力や失敗などの学習観
が調整される。またフィードバックが目標に応じる努力に対して伝えられる時に,学習者は強く動
機づけられる。
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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
○形成的フィードバックは,スキャフォールディングされたフィードバックとして学習者に役立つ
が,時期を経て徐々に取り除かれていく。
○研究者たちは「迅速」か「遅延」かで何十年も実験してきたが,フィードバックのタイミングと効
果,効率の関係は矛盾した結果を示し,一貫しなかった。
○フィードバックのタイプとタイミングは,学習者の能力や応答の確かさ,目標志向,規範を参照
するかどうかなどの要因と相互作用する。
こ れ ら の 知 見 を 元 に,形 成 的 フ ィ ー ド バ ッ ク に 関 す る 主 要 な 研 究(Kluger&DeNisi,1996;
Bangert-Drown et al.,1991;Narciss & Huth,2004;Mason & Bruning,2001)の枠組みを用いて,4
つのガイドラインがまとめられた。学習を増加させるもの,学習を減少させるもの,タイミングに
関するもの,学習者の特性に関するものである。
ヘリテイジ(2010)の本「形成的アセスメント―それを教室で起こすこと」は,スティーグラー
(2010)による緒言にあるように,形成的アセスメントにより全生徒のための学習の改善に焦点が当
てられたものであり,それはすなわち未来の教育に要求される研究,デザイン,実践の統合を提供
する。形成的アセスメントの理論と研究,その実際の教室での運用に橋を架ける意図で,著された。
世界的に形成的アセスメントのブームを起こすきっかけとなったブラックとウィリアム(1998)に
よる研究から,学習へのフィードバックの効果の文献,アセスメントが動機づけと自己調整に働く
役割まで,教師による実践例を交えて述べられている。形成的フィードバックについては,全 8 章
の内 2 章が割かれ,指導のための形成的フィードバックと学習のための形成的フィードバックに分
けて詳説している。形成的フィードバックが,形成的アセスメントに置いてどのような機能を果た
すか明確にするために,ヘリテイジの定義と,形成的アセスメントプロセスを図 1 に示す。
図 1 形成的アセスメントのプロセス(Heritage,2010)
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「形成的アセスメントは,教師と生徒に現在の学習と望まれる目標との間のギャップを閉じる
フィードバックを提供するために,指導と学習の期間中継続して起こるプロセスである。(P.10)」
ヘリテイジ(2010)
は学習のための形成的フィードバックを,生徒が教師や仲間から受け取る外的
なフィードバックと生徒自身の内的なフィードバックに分けており,ガイドラインは教師が生徒に
彼らの学習を支援するものとして提供する中で使われるものである。必ずしもすべてのタイプが肯
定的な結果を招かず,否定的な結果になるものもある。そこで多くの研究結果から,学習について
効果を上げ生徒の学習を助けるフィードバックについてリストアップした。
5. フィードバックガイドライン試案
前節までの文献より抽出した形成的フィードバックの特質に基づき,シュート(2008)の予備的ガ
イドライン,ヘリテイジ(2010)
の学習の改善のためのガイドラインを参照しながら作成したガイド
ラインを提示する。
現在の日本の教師たちの抱える多忙化の問題を考慮し,多くの観点を網羅するより,これだけは
と思うキーポイントに絞り込んで作成した。試案の段階だが,ビギナー教員 3 名(教職 2 年目 2 名,3
年目 1 名)に見せて,意味が通るか,実践現場で使えると思うかどうかの確認をとった。彼らからは
今まで知らなかったフィードバックについての知見が盛り込まれ,大変参考になるとの感想を受け
取った。今後このガイドラインに沿って,形成的フィードバックの実践を試してみたいと感じたそ
うである。
尚,例は筆者の長い職業経験の中から観察によって導き出されたものである。
◆効果がない,またはマイナス効果のフィードバック
種 類
説明と例
生徒への賞賛のフィー ・クリューガー & デニシ(1996)より,生徒の注意を課題から逸らし自分自身に向ける。
ドバック
「あなたはがんばってるね。よくやってる。」
成 績 や 点 数 を つ け る ・クリューガー & デニシ(1996)ウィリアム(2007)より,点数だけを受け取る生徒は何も
フィードバック
獲得せず,コメントだけを受け取る生徒は学習の改善や興味を示し,両方受け取ると生
徒は点数のみに関心をもちコメントは無視する。
「惜しい,80 点だったよ。もう少しここを丁寧に書けばいいのに。」
比較のフィードバック
・ブラック & ウィリアム(1998b)より,友達と比べて,クラスでの位置づけを示す。
「見てごらん,他の子はしっかりやれているのに。このままじゃ,クラスで 1 番最後にな
るよ。」
批判のフィードバック
・クリューガー & デニシ(1996)シュート(2008)より,生徒を落ち込ませ,自己有能観を
低下させる。自分自身へ注目を向ける。
「だめだね。ちゃんとやってないんじゃないの ?」
複 雑 す ぎ る フ ィ ー ド ・シュート(2008)ヘリテージ(2010)より,結局どうすれば改善できるかよくわからない。
バック
「あなたがこの文を直すには,まず問題に何が書かれてるかよく読んで意味がわかってか
ら書き直しなさい。その時,点や丸に気を付けて書きなさい。それから,一つの文を,
・・・
で・・・でとだらだら続けないで,短く切って書くんですよ。」
― ―
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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
◇学習を改善する助けとなるフィードバック
種 類
説 明
課 題 に 焦 点 を 当 て た ・ハティとティンパリー(2007)シュート(2008)より,生徒の実際のレベルの理解と目標
フィードバック
との間にあるギャップを同定し,いかに改善すべきかの情報を与える。ただの正解不正
解の情報だけにとどまらず,特定の問題について何をするか,どのようにするか,なぜす
るのかを説明する。
目 標 を 明 確 に し た ・シュート(2008)ヘリテージ(2010)ウィリアム(2011)より,ゴールを明らかにし,生徒
フィードバック
がどうすればそのゴールに達するかについての情報を与える。生徒が『能力と技能は実
践を通して発達し,努力が技能を伸ばすために重要であり,失敗は技能を獲得するプロ
セスの一部である』とみなせるよう支援する。
事象説明的なフィード ・ギップスら(1996,2000)より,生徒に達成基準についての情報を与える。不正解から正
バック
解へ範囲を見通させることで再考を促し,なぜそうなるかという説明を受け入れられる
よう,基準を元に目標に関して達成したか否かを告げる。未達成の領域に関して方法の
明示・暗示により,学習者自身の思考・提案を引き出そうとする。
単純だが単純すぎない ・シュート(2008)より,確認や直接的で支援的なフィードバックと,ヒントや手がかりの
フィードバック
ような間接的フィードバックを使い分けるが,できるだけ 1 つの手がかりに基づいたも
のを提供する。
短 い 単 位 に 関 し た ・シュート(2008)より,長い単位に関する多すぎる情報は認知的負荷を引き起こすので,
フィードバック
十分短い単位の小さい断片のフィードバックを提供し,段階的なフィードバックの提示
を行う。
学 習 者 の 特 性,課 題 の
レ ベ ル,知 識 の 種 類 に
応じたタイミングの
フィードバック
・シュート(2008)ヘリテージ(2010)より,低学力の生徒や困難な課題,新しい課題,知識
を保持するにはには迅速なフィードバックを与える。単純な課題や処理する作業の多い
課題,学習の転移を促す時には生徒が自分自身で取り組む機会を提供するため遅延の
フィードバックを使う。
多様な方法でのフィー ・シュート(2008)より,聴覚的な口頭のフィードバックだけでなく視覚的提示,コン
ドバック
ピューター,書かれたコメント,非言語的なものなど多様な形式でフィードバックを与
える。中でもコンピューターはバイアスが除かれた中立的な形式と受け止められる可能
性がある。
診断的よりも未来志向 ・AfL ラーニングハウトゥーラーン(いかに学ぶかを学ぶ)ワークショップ(2002)シュー
的フィードバック
ト(2008)ヘリテージ(2010)より,学習者の弱みよりも強みに気づかせ,その強みをいか
に発達させるかについての情報を与える。
与える側よりも受け手側 ・ブラック & ウィリアム(2009)ヘリテージ(2010)ハーグリーブス(2010)より,受け手
がどうとらえるかを考慮 側がフィードバックを有効なものとして受け止めるために,一方的にフィードバックを
するフィードバック
与えるのみでなく,相互作用を起こす学習環境の設立が大切。中でも教師,友達との良
好な人間関係の設立が鍵となる。
フィードバックを与え ・シュート(2008)ヘリテージ(2010)より,学習者が課題に実際に取り組んでいる時,
な い と い う フ ィ ー ド フィードバックを与えることでその邪魔をしない。また,学習者が最初に答えて学習を
バック
進める前に,フィードバックを与える必要はない。
6. まとめと考察
この論の最初に記したように教師たちが教室の実践を対話的フィードバックループで行うために
は,まず生徒に声を与え,教師がそれを聴くことから始まる。しかし教師たちに変化をもたらすこ
とは,
周知のごとく困難なことである(Black et al.,2002 ; Fullan,2003)。形成的フィードバックは,
梶田(2002)が形成的評価について述べているように評価の機能に関わる概念であり,その機能を充
― ―
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分活用するためにはある種の理念(Shepard,1998)や哲学(Adamson,2011)に基づく教育観,学習
観が必要となる。困難を克服する一方法として,教師にとって使いやすいガイドラインを教師が実
際に使用しその結果生徒の変容を実感として把握することを通して,機能面から逆に教師のビリー
フに働きかけることも考えられる。そこでこの形成的フィードバックを単なるフィードバックと区
分して概念化を図り,ガイドラインを提示することによって教室学習における実践へ示唆するもの
を示し,さらに教室学習で実践するために残る課題を考察して,まとめとする。
実践的示唆の第一点目は,現在様々な目的のために行っている評価を,学習の改善という形成的
フィードバックの概念で統合できることである。そのため異なると考えられていた情報を関連付け
ることができるようになる。アラールとロペス(2005)はこの統合には方法の多様性が要求される
と述べているが,逆に言えば多様な方法で行うことを統合的な視点でとらえることによって,多忙
感を感じている教師が形成的フィードバックの実践は指導と学習をつなぐ架け橋になるという
(Black & Wiliam,2009;Wiliam,2010)意義を見出すことにつながるであろう。また統合されたも
のは教科,学校種,地域や国など様々な枠を越えて比較検討することが可能であり,身近ではない
資源を活用する可能性も開かれる。
二点目は,生徒のための指導を継続してきた教師にとって,形成的フィードバックの使用はけし
て今まで行ってきこととは異なる特別なことではない(Wiliam,2007;Heritage,2010)
。それゆえ
新しいことに取り組む負担感は少なくてすむかもしれない。むしろ,生徒の学習を促進するために
自己の実践を省察して,形成的フィードバックの視点で統合することの方が重要である。
三点目,日常的な授業を通して教室学習を改善する可能性をつくり出すということは,教師が直
接的で迅速な方法で取り組むことと認められる(Black &Wiliam,2009)。すなわち,形成的アセス
メント実践を理解した教師の様相は,授業での形成的フィードバックを通して観察される機会が多
い。教師がより質の高い形成的フィードバックを産出することは形成的アセスメント実践の必要十
分条件であり,そのためのガイドラインの考察は,形成的アセスメントの実践に必須のものである。
しかし,数秒の内に瞬時に意思決定を行わなければならない教師にとって(Wiliam,2011),形成的
フィードバックとならないばかりか悪影響を及ぼす可能性のあるフィードバックを返すことがある
かもしれない(Shute,2008;Wiliam,2011)
。形成的フィードバックガイドラインは,形成的フィー
ドバックが有効に機能するためのとっさの判断の指針となるであろう。
最後に本研究で残された課題について述べる。
第一に,形成的アセスメントや形成的フィードバックの概念を日本の実際の教室実践と結びつけ
る必要がある。その概念は生徒の学習を改善し,学力向上に有効であるとグローバルに認識されな
がら,日本では概念がないと言われてきた(Loony,2011)1。だが日本でも「昭和 26 年の学習指導要
領第Ⅴ章 算数についての評価」
には,ほぼ同じ評価観が見出され,次のような記述がある。
「評価は,こどもの困難を見いだすことから始まって,それが克服されるまで,絶えず指導のかじ
を取り続けるものである。・・・こどもを力づけて,解決に近づいていく糸口を見いだすのが評価
の真のねらいである。
」
― ―
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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
この評価観を,今の評価の主流である説明責任を負わされた総括的評価に埋没させず,相克する
ものとして浮かび上がらせるような手立てが必要とされる。教室で教師たちが連綿と続けてきたで
あろう子どもの困難を減らし励ますための評価の意義を,グローバルな国際比較の中で再度光を当
てることによって,形成的フィードバックがすべての教室で普遍的になるようにしていかなければ
ならない。そのために,日本の教室での教師の実践と生徒との相互作用の実際場面から,形成的
フィードバック実践の証拠を見つけ出すことが重要となるだろう。
第二に,文献から抽出した形成的フィードバックガイドラインの要素が,実際に使用可能なもの
かどうか精査していかなければならない。そのために,実践現場でガイドライン使用についての調
査が必要となってくる。
【註】
1 Loony, J. , Personal communication, 2011 November 26
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小学校教室学習における形成的フィードバックガイドラインの考察
Formative Feedback Guidelines for Learning
in the Classroom
Sae YAMAMOTO
(Graduate Student, Graduate School of Education, Tohoku University)
The dual aims of this research are to identify key elements of formative feedback from the literature review of feedback to capture the conception of formative feedback specifically and
apply key principals of effective feedback which are found from the literature review to create a
set of guidelines related to formative feedback.
Feedback must be used to improve learning. Hence since feedback works various ways in
classroom, it is proved that sometimes it can have a negative effect on pupils and teachers should
learn when, what, and how to use feedback to involve pupils to learn pleasantly and improve
pupils learning in their classroom. By references in formative feedback guidelines teachers could
help pupils enhance learning and improve their outcomes.
Key words:formative feedback, formative assessment, feedback guidelines, classroom learning,
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