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造形活動における素材記述

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造形活動における素材記述
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造形活動における素材記述
-発展的活用に応えるデータベース構築の要件として-
高木厚子'
(平成5年9月30日受理)
I.造形素材に関する従来の3つの観点
造形学習の場面を思い描くとき,そこにはまず学習者がいる。そして,周辺には,種々
の形態をなすもの達がある。学習者は,それらの対象に何らかの方法で手を加え,つなぎ
合わせたり,切り離したり,変形するなどして新たな形態の対象を造りあげる。ここでは,
この状況を, 「学習者による造形的働きかけを待っている事物たちが,学習者の環境に設
置されている」と記述しておくことにする。学習者による造形的働きかけを待っているも
のとは,指導者が用意し,学習の場に設置する,いわゆる,通常,素材・材料とよばれて
いるところのものを指している。
素材・材料について,どのような記述がなされてきているのか,今一度,授業・教材・
カリキュラムなどに関する文献1)や,造形に関する文献2)にあたった結果,造形素材につ
いての従来の観点の主なものとして,以下の3つの観点があると解釈した。
1.描画材
絵の具に代表される色材,水などの溶材,定着剤,画用紙などの支持体は,描画材と呼
ばれることも多いが,造形物を成立させる素材・材料の中で最も広く親しまれているもの
であるともいえる。これらの中には用途に最適な使い心地が得られるよう製品化され,商
品として販売されているものが数多く存在する。図画工作科あるいは美術科の教科名をき
いたときに何を恩いうかべるか問われたとき,一般の人の多くは,商品として販売されて
いる描画剤を最初に想起する傾向が大きいようである。
小中学校における学校教科の各々に結びっけて思いおこされることの多い,典型的な能
力や動作について調査したところ,最も高い頻度で得られた反応の一つが,この措画材的
なものであることを筆者は以前に報告した3)。また,各種販売されている技法書のテーマ
分類としても描画材料が重要な観点になっていることはあらためて指摘するまでもないだ
ろう。ペン画技法,水彩画技法などのタイトルを冠した書籍はあまりにも数が多い。素材・
材料についての観点として,第1にあげられるのが,この括画材各種に関するものである。
2.物質的差異
第2に目にすることが多いのは,木・石・土・金属・ガラスなどの物質的な差異にもと
づく観点だ。学校教科の一つである技術科において領域内容を特定するのに,木材加工,
金属加工の名が使われる例もある。この場合,具体的な個々の加工技術は,それが高度な
ものになればなるほど,道具も単一の目的のために特殊化され,物質の種類に各々結びつ
けられて,別個に知識が記述され,蓄積される傾向が大きくなる。たしかに,接着法一つ
をとってみても,物質によって最適な接着剤は異なるし,接着剤ではなく,別のものを接
'兵庫教育大学第4部(芸術系教育講座)
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台のために使用する場合,たとえば,釘を使う,ホチキスを使う,熱で溶かした物質を使
う,芯を通すなど,これらの場合にもまた個々の物質別に知識がまとめられて記憶された
り,記述されたりする傾向がある。一般の人に対して,どんなものを小学生のとき学校で
図画工作科の時間に作ったかを問うと, 「木で箱を作った」であるとか, 「紙工作をした」
であるとか, 「粘土で動物を作った」などといった答が返ってくる場合が多く,往々にし
て,どの種の物質を材料に使ったかが,自分の造形行動の種類を規定するような説明のし
かたをする。
学校教科に結びつけて想起されやすいものを調査したときに,図画工作科・美術科の場
合,措画材の名前が数多く出てきたことは既に述べたとおりだが,さらに,その調査の結
果では,たとえば,木・繊維・金属・食物のようなものは,図画工作科よりも技術科や家
庭科に結びついたものとして想起されやすく,それに対して,紙・土などの物質は図画工
作科に結びっけて想起されやすい傾向があった。
たしかに,技術科・家庭科・図画工作科・美術科は,いずれも,ものづくりにかかわる
学習を含んでおり,どちらも素材・材料に相当する対象が想起されやすいことは,容易に
理解できるのだが,本来,素材の物質的差異に基づいて,ものづくりにかかわる学習を技
術・家庭科と図画工作・美術科の問で分担しているわけではない。ものづくりにどちらも
関わっているとはいえ,その中心となる学習目的が技術・家庭科と図画工作科・美術科問
で異なっているのであるが,彼らにとっては,自分の行なった行為の意味よりも,材料の
物質的差異の方が印象に残りやすいようだ。それは,木には木の,金属には金属の,布に
は布の,食品には食品についての,道具や加工技法が,それぞれに既に完成されたものと
して伝授されるべく用意され,これは,ああすると良い,それは,こうすると良いという
形で彼らの前に山のように積み上げられているにすぎないと思えるからであろうか。
しかし,具体的な個々の最適な加工法は,物質的な差異によって個別化して考えざるを
えない側面がたしかにあるとしても,根本にあるところの,ひとつの対象を前にして,今,
それに手を加え,何か別の形態にしようとする際の,働きかけの通すじには,物質の差異
にかかわらない,ある種の普遍的な共通性があるはずなのではないだろうか。素材・材料
についての第2の観点は物質的な差異に関するものであった。
3.入手方法
第3番目に,入手方法についての観点がある。たとえば, 「身のまわりにあるもの」,
「公園で見つけたもの」,あるいは「空箱」 「包装紙」のような例は,この観点からのもの
であり,入手場面や入手経路に着目していることになる。この種のものは,前述の物質的
差異についての観点からすると,物質の種類としては何が出てくるかわからないのが特徴
である。特定の物質用のものに限定されることなく,多種類の道具を数多く手元に備える
ことができ,加工法に関する知識の基本を即座に知る用意ができ,さ`らに,領域的な広が
りについては広範にわたりつつも深さの点では基本的なものしか用意されていない限られ
た量の道具や知識を元にして応用したり発展させ,種々の状況に対処できる高度な能力が
なければ,このような観点から造形素材を扱いっつ自由に造形活動を進めることには困難
がつきまとうだろう。素材に関する第3の観点は入手場面や入手経路に着目したものであっ
た。
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4. 3つの観点の起源と新たな総合的観点の必要性
以上,造形素材の記述に関する3つの観点を指摘した。
第1は描画材に関するもの,第2は物質的差異に関するもの,第3は入手方法,すなわ
ち,入手場面や入手経路に着目したものであった。これら3つの観点が,主として,どこ
に起源をもっているか考えてみると,描画材に関する観点の場合は,ほとんどが平面造形
領域からのものであり,物質的差異に関する観点は立体造形領域からのもの,入手方法に
関する観点は教育関係領域からのものだと思われる。
これら3つの観点は,並置されるにとどまり現在に至っているようである。また,概し
て,括画材に関する観点にそったものが相対的に数多く想起される傾向にある。造形教育
にかかわる知識情報を体系的に理解していこうとするとき,造形素材について,より総合
的観点を探っていくことが必要なのではないか。
Ⅱ.コンピュータの生成する空間内での造形と実際の空間内での造形
造形素材について再考することは,コンピュータ環境内における造形活動が本格的にE]
常化しつつある現在にあって,コンピュータ環境内における造形活動で扱う造形素材とし
てどのようなものを作りうるのか,あるいは,現時点までにどのようなものが作り出され
てきているのか,という点と合わせて考えてみると,また興味深いものとなろう。
絵空事ということばがあるが,実は,絵の具などを使向して描く従来からの絵というも
のは,見る人の意識がどうであるかはともかくとして,実際には,身体を使用し,画材で
ある物質の制約と闘ったり,助けられたり,その物質的特徴に触発されて造られていく物
質的裏づけをもった立体物であったという点が,コンピュータ環境で造りあげられるヴァー
チャルリアリティーあるいはアーティフィシャルリアリティと対比させて考えてみること
によって,誰にでも,非常によく納得できるようになるからだ。
物質的裏づけをもつ素材と,コンピュータ環境内における実在としての素材は対応関係
をもちながらも,各々の独自の特性をより明確化していく形で,今後発展していくことに
なろう。もちろん,それは,造形技術教育ではない造形教育にとっても,よそごととはい
えない。これまでの知識との整合性をもたせながら,コンピュータ環境における造形につ
いても考慮に入れていくことのできる,総合的な新たな枠組みを探っていく必要があると
筆者は考えている。コンピュータ環境内における造形に照らすことによって,実際の環境
における従来からの造形についても,多くの人々からの理解を容易にしていくことのでき
る,明瞭な視点が生みだされていくに違いない。
ところで,コンピュータを使って何かを描くということは,見方によってはディスプレ
イの光を素材として造形しているともいえるかもしれない。そのような面もたしかにあり,
この種の説明が試みられる場合もあるが,コンピュータ環境内で造形するということは,
たとえ,ディスプレイの解像度やコンピュータの性能が低下しても,そこに実体が置かれ,
そこに自分がいるような,きわめて強い存在感を生じさせるものであるため,単なる特殊
な素材としてすまされるものではありえない。
人間の活動に応じて一定の規則性をもって刻々と変化する様相を見せるコンピュータ環
境のしくみによって,コンピュータ環境内の対象への人間の働きかけと,コンピュータ環
境内の対象についての人間の認識は,表裏一体のものとなっており,その関係は,まさに,
通常環境における,対象への人間による造形的な働きかけと,対象についての造形的な認
識の関係を思いおこさせるものである。
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こうした新しい面も考慮に入れながら,造形素材について総合的観点を探っていくこと
が必要と思われる。一つのアプローチとして,ここでは,人間の造形的活動のあり方に着
目して素材を特定し,造形に関する各種の知識を記述し,新たな枠組みを求めていくこと
を考えてみたい。
Ⅲ.造形素材と人間との相互関係
1.日常的事物か造形素材化する過程
人間の前に一つのまとまりがあるとする。このまとまりをどう認識するかによって,追
形的働きかけの種類が制約される。また,造形的働きかけとして実際にとられた行動から,
その人がどのような造形素材としてそれを認識したかをうかがい知ることができる。造形
的働きかけの種類がどのように制約されたのかということと,一つのまとまりがどのよう
に認識されたのかということは,表裏一体の関係にあり,このような拘束的関係は,対象
のもつ造形素材的側面への注意と働きかけであるとしてとらえることができよう。
知覚心理学者のギブソンは,かつて新しいアプローチとしてアフォーダンスの概念を提
出し,人間(動物)は生息環境において,対象の変数である色,形態,位置,空間,時間,
運動を知覚するのではなく,対象のアフォ-ダンスを知覚するのであり,対象のもっ意味
を動物は直接知覚するのだと指摘し,価値から自由な物理的対象を知覚した後にそれに知
性的な操作をくわえることによって対象のもっ意味や価値が得られるのではなく,環境の
中に無尽蔵に含まれている意味や価値を人間は知覚するのであり,知覚は身体的な移動や
操作に依存すると同時にそれらを助け,生涯をかけて人間は環境の中にある意味や価値を
発見し続けていくのだと論じた4)。生活する環境において,広い意味での造形的な働きか
けを行なうことのできる対象を発見し,その知覚に助けられ造形的働きかけを行なう人間,
素材の認識と造形的働きかけの間の相互関係について考察を進めていくことにしたい。
試みに,ここで,素材について, 6つの柱をたてることにしよう。点として認識される
まとまり,線として認識されるまとまり,面として認識されるまとまり,塊として認識さ
れるまとまり,場として認識されるまとまり,体表面に認識されるまとまりの6つである。
それぞれを点表象体,線表象体,面表象体,塊表象体,場表象体,体表面随伴表象体とよ
んでおくことにする。物理的には同一の物体であっても,条件によって,点としての認識
に相当する造形的働きかけを導くこともあれば,線としての認識に相当する造形的働きか
けを導くこともあるだろう。筆者は,以前に,別の報告でこれらについて簡単に述べたこ
とがあるが5),ここでは,造形素材と人間の原初的な相互関係に焦点をあて,未報告の調
査結果を手がかりとしながら検討する。
ところで,素材についてこのように想定してみたわけだが,たとえば,実際に点として
認識されるまとまりとしてほどのようなものが典型的なのだろうか。また,線として認識
されるまとまりとしては,どのようなものが,典型的なのだろうかOまた,それらの典型
的なものは,そうでないものと比較して,対応する造形的働きかけを導きやすくなってい
るのだろうか。その手がかりを得ることを目的として,点表象体,線表象体,面表象体,
塊表象体の4つについて想起されやすい具体物と,それぞれの典型的な例に対する造形的
働きかけの種類を調べた。
2.日常的事物の造形的認識
大学生(兵庫教育大学学校教育学部2年) 47名を対象として, 「点に見えるもの,線に
造形活動における素材記述
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見えるもの,面に見えるもの,塊に見えるものをそれぞれ3個以上書いてください」と指
示を与え,自由な記述を求めた。得られた記述から,そこにあげられていたものをすべて
列挙し,点・線・面・塊のいずれとされていたか,それぞれ頻度を求めた。
記述の個数は,面が一番少なく,線がそれに続き,点や塊が多かったが,これは,ごく
自然な結果といえよう。以下に5つの側面から結果をまとめる。
(1)対象表面上の変化
立体的なものと平面的なものが記述には混在していた。対象の表面上に把握できる平
面的ながものあげられることの多かったのは点であった。ほくろ,あるいは,みかんの
皮など,対象の表面にある円形状の小さな凹凸や色の変化を点に見えるものとして多く
あげていた。
(2)対象との距離
点の場合には,空高く舞い上がった風船,砂漠にいる人や動物のように,対象との通
常の距離内における物体の大きさではなく,視野に占める視角の小ささによって点に見
えるとされているものがあげられていた。線の場合には,線路,道,川などがあった。
星を記述した者が多数いたが,星の場合は,対象との通常の距離において,点に見える
のであり,前述の空高く舞い上がった風船の場合とは異なる。また,多くの星は静止し
ているので,空の表面にはりついてみえる。この点からも,動きまわる風船が点に見え
るとされた場合とは性質を異にする。
(3)対象と自分の位置関係
針の先端,的に当たった矢,あるいは,葉や紙の断面のような対象への通常の視点と
は異なる視点によるものがあった。
(4)球状立体
点に見えるものとして球状立体,線に見えるものとして柱状立体,面に見えるものと
して板状立体が最も多くあげられていた。ただし,点と塊は重複してあげられたものが,
線や面に比べ多かったので,両者の違いについて検討してみると,点に見えるものとし
てあげられたのは,かなり小さいために普通に見るだけでは形状がはっきりしないもの
であり,球状立体であっても大きいものは塊に見えるものとされていた。
(5)堅さ
線,面,塊には柔らかいものと堅いものがある。線の場合,ひもは柔らかく,わりば
Lは堅いものである。面の場合であれば,布,紙が柔らかであり,鏡は堅いもの,塊の
場合には,岩は堅く,ケーキ生地は柔らかいものに相当する。
3.日常的事物に対する造形的行動
数多く記述されていた対象のうち,手に入りやすいものを選び,点表象体,線表象体,
面表象体,塊表象体,各々の典型的な例となるものを用意した。そして,前述の調査とほ
ぼ同一の47名に対して,点表象体,線表象体,面表象体,塊表象体を順に与え, 4セッショ
ンにわたり,造形を行なわせた。 「できる限り,いろいろなやり方で,ここにあるものを
結合したり,分離したり,変形してみてください」と各セッションの冒頭に指示を与え,
活動させ,それを筆者が観察すると同時に,並行して活動している本人にも活動内容を筆
記するように指示を与えた。
点に見えるものの典型として豆を,線に見えるものの典型として,ひも,針金,わりば
し,竹串,紙テープを,面に見えるものの典型として紙シート,ポリ袋,布,板を,塊に
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見えるものの典型では,木塊,発泡スチロール,石,粘土を用意した。典型的なものとし
て与えられたそれぞれは豊富に用意されており,他に,接着剤各種,着色剤(描画材)各
種,切断.彫刻・研磨用道具各種,また,接合材(くぎ,粘着剤つきテープ,ホチキス等)
をそれに必要とされる道具と共に用意し,いずれを用いても良い旨を伝えると共に,その
場にはないものでも,それを使用すれば行なえることがあれば,あわせて記述するように
指示を与えた。点・線・面・塊のそれぞれについて20分ずつ加工の時間を与え,順に行な
わせた。結果を点・線・面・塊の順に簡単にまとめる。
(1)点では,接着剤や接合材を用いて線や面にするか,つぶす活動が多い。
(2)線では,堅いわりばしではなく,ひもや針金が多く用いられ,結ぶ,編む,巻きつけ
る,刺す活動がみられた。
(3)面では,包んで立体にする活動が多く出てきたOまた,し.ゆりけんなど伝承的な形を
作るか,しわにして丸めたものが見られた。堅いものよりも,紙・ポリエチレンシート
など柔らかいものが選ばれやすく,特に,表面に絵を措いたり,何か小さなものを表面
にはりつける活動が多かった。
(4)塊では,粘土の場合も発泡スチロールの場合も,球や柱に近いいくつかの比較的単純
な形状のパーツを作っては,それを組み合わせ,動物や食べ物など何か具体的なものを
作ろうとする活動がほとんどであった。塊の全側面から立体的に成形していこうとする
活動もあったが,ごく少数にすぎず,パーツを組み合わせる方向での造形の行なわれる
傾向が顕著で,発泡スチロールの場合には接着剤や粘着テ-プで貼り,粘土の場合は押
しつけて組み合わせる活動が多かった。
全体として,結合作業が多く,それも接着剤による結合が目立った。また,加工の容易
さのためか,柔らかいものの使用量が大きかった。面として認識できるものを使った作業
は多様性を欠き,面の表面に対する加工作業が多くを占めていた。点では,異体的なもの
を作ろうとする例がなく,線・面・塊の順に何か具体的なものを作ろうと意図していると
思われる例が多くなる傾向が見られた。点表象体,線表象体,面表象体,塊表象体の4つ
ば自分の視点を変えたり,加工をほどこすなどの,造形的働きかけを行なえば相互に変換
されるものであり,固定的ではないので,具体的な日常物を作ろうとするか否かとは独立
のはずであるが,点であるか,線であるか,面であるか,塊であるかに依存するという結
果が得られた。彼らが,造形的に未熟であったがゆえのことだとすれば,造形的に未熟な
者にとっては,変換活動の積み重ねが比較的困難であることを示す結果になっていると解
釈することができよう。
Ⅳ.ハイパーメディア上での造形素材の記述
2つの調査は,組織的に条件を変えて行なったものではなく,観察に近いものであり,
明確な結論を得ようとするものではないが,この結果にそって,点表象体,線表象体,面
表象体,塊表象体について説明するとすれば,点と認識できる素材とは,それ自体の形を
変えようとする活動ではなく,結合したり,消去する活動のみを導きうるもの,線と認識
できる素材とは,特定の方向の長さが目立ち,その長さを活かした活動,たとえば,結ん
だり,編んだり,刺す活動を導きうるもの,面と認識される素材とは特定の方向からの表
面が目立ち,その表面への加工や,それを何かの土台とする活動や,何かを包む活動を導
きうるものであると記述することができるだろう。そして,塊として認識される素材の場
合は,多方向から形を捉え,関わっていく可能性をもつものであり,点と異なって,手を
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加えることにより,それ自体の形状を変える活動を導きうるものと記述することができる
だろう。
造形素材と造形的働きかけの関係について,ここまで述べてきたような造形素材観にた
ち,既存の知識とつながりを持たせながら記述していこうとするとき,マルチメディア情
報のリンク構造によって計算機上に記述していくこと,すなわち, -イパーメディアによ
る記述が有効と思われる。対象に関する造形的認識と造形的行動に関し,既にわかってい
ることを元にして,抽象的造形素材を計算機上に記述しておき,個々の具体的造形素材に
ついては,その性質の記述や造形的働きかけに必要とされる手続きについて,マルチメディ
ア的に記述された知識を抽象的造形素材から受け継ぎ,個々の異体的造形素材に特有の特
徴をそこに結びつけていくという方法をとることによって,情報に有機的体系をもたせる
ことができるであろう。たとえば,ひもや針金は線表象体の例に相当する。ひもや針金以
外にも多くの例があるが,これらはすべて,線表象体に結びつけて記述しておく。そのと
きに,想起されやすさがリンク強度となるように作成しておき,リンク強度の大きいもの
から順に表示されるようにすることによって,造形教育上,あるいは,製作上,同等の造
形的働きかけを導きやすい異体的造形素材を数多くの候補の中から獲得するといった活用
法を生み出していくこともできるであろう。
参考文献
1) 『実践図画工作科の授業』全15巻同朋舎1992
2)太田儀八・杉山明博・仲山進作(監修) 『工芸デザイン技法事典』鳳山社1992
3)高木厚子「学校教科のイメージ構造」兵庫教育大学研究紀要第10巻p.225-234
1990
4)ギブソンJ. J. (古崎敬・古崎愛子・辻敬一郎・村瀬支訳『生態学的視覚論』
サイエンス社1985 (Gibson, J.J. "The ecological approach to visual
perception" 1979)
5)高木厚子「伝承造形のオブジェクト指向的分析」大学美術教育学会誌第25巻
P.229-236 1993
本研究は,平成5年度文部省科学研究費奨励研究A (課題番号05780189)の補助を受けた。
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Description of objects in human formative acts
:as the requisite for development of useful detabase
Atsuko TAKAGI
Every objects in our life could induce human formative acts. But objects for
formative acts are generally called materials, and they are ofen considered as
special objects only used fomative acts. In the traditional ways of thinking about
materials, description of objects in formative acts have been done based on three
points of view, materials for drawing or painting, physical characters, and ways
of obtaining. These are insufficient for description about dynamic interaction
between human and objects in formative acts. So that it is important to consider
objects in formative acts from the new approach. Development of the new
framework for description, on computer system for useful database, of some
abstract materials naturally harmonized with human fomaive cognition and
behavior were tried in this article.
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