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階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の 高効率化

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階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の 高効率化
日本金属学会誌 第 79 巻 第 11 号(2015)538
547
特集「熱電材料研究の新展開~新しい物性解析技術と新材料~」
オーバービュー(解説論文)
階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の
高効率化テルライドから硫化物へ
太田道広
国立研究開発法人産業技術総合研究所省エネルギー研究部門
J. Japan Inst. Met. Mater. Vol. 79, No. 11 (2015), pp. 538
547
Special Issue on Progresses in the Development of Thermoelectric Materials: New Analyses and New Materials
 2015 The Japan Institute of Metals and Materials
OVERVIEW
Hierarchical Structures for High
Performance Chalcogenides: From Tellurides to Sulfides
Michihiro Ohta
Research Institute for Energy Conservation, National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST),
Tsukuba 3058568
An efficient way to enhance the performance of thermoelectric materials is to tune its structure at all length scales from
atomic to microscopic. This review addresses recent developments in alllengthscale hierarchical structuring of the
thermoelectric chalcogenides, including PbTe, mineralbased sulfides, and layered sulfides. The inclusion of nanostructures in
PbTe significantly reduces the lattice thermal conductivity without affecting the charge carrier mobility, leading to very high
thermoelectric figure of merit ZT. The high efficiency in the nanostructured PbTebased devices was demonstrated. For
mineralbased sulfides, the lowenergy atomic vibration inhibits heat flow, resulting in a low lattice thermal conductivity and high
ZT. In layered sulfides, the lattice thermal conductivity is reduced through the intercalation of guest atoms/layers into host
crystal layers which effectively scatters heatcarrying phonons. Furthermore, the highly oriented microtexture of layered
systems allows high carrier mobility in the inplane direction, leading to a high thermoelectric power factor. Among all
chalcogenides, sulfides could pave the way for environmentfriendly and costeffective thermoelectric systems.
[doi:10.2320/jinstmet.JA201513]
(Received May 7, 2015; Accepted June 16, 2015; Published November 1, 2015)
Keywords: lead telluride, mineralbased sulfides, layered sulfides, hierarchical structure, intercalation, lowenergy atomic vibration,
nanostructuring, oriented texture, thermoelectric modules
ここで,T̃=(TH+TL)/2 である.温度 T における ZT は,
1.
緒
言
ZT = S 2T / rktotal ( S, r, ktotal はそれぞれ,ゼーベック係数,
電気抵抗率,熱伝導率)と表すことができる.さらに,熱伝
持続可能な社会を実現するためには,地球温暖化を 2°
C以
導は格子振動(フォノン)と電荷を運ぶキャリアが担うので,
内に抑制することが避けて通れないとされ,そのためには,
熱伝導率は格子の寄与 klat とキャリアの寄与 kel の和, ktotal
化石燃料由来の温暖化ガスの排出量を加速的に削減すること
= klat + kel と 書 く こ と が で き る . r と kel は Wiedemann 
が求められる1).この 2°
C シナリオを達成するためには,一
Franz 則を通じて, kel= LT / r( L はローレンツ数)の関係に
次エネルギーの 50以上を占め,利用されずに棄てられる
ある.すなわち,モジュールの変換効率を高くするために
だけのもったいない未利用熱エネルギーの回収が不可欠であ
は,熱電材料の電気特性に関わる因子 S 2/r(出力因子と呼ば
る.固体デバイスである熱電発電デバイスは,ゼーベック効
れる)を高くして,その上で格子熱伝導率 klat を低くする必
果に基づき,熱エネルギーを電気エネルギーに直接変換する
要がある.
ことができる.そのため,熱電発電技術を用いれば,未利用
例えば,温度差 300 K において熱電変換モジュールの変
熱エネルギーを利用価値の高い電気エネルギーとして回収す
換効率が 12 まで向上し,それが自動車に搭載された場
ることが可能となる.
合,排熱回収熱電発電により 7の燃費改善,さらにペルチ
熱電変換モジュールの最大変換効率 hmax は,モジュール
ェ局所空調による車内空調の効率化により 3の燃費改善が
の上下の温度をそれぞれ TH , TL とすると,カルノー効率
見込まれる3).合計 10の改善が達成されれば,社会にもた
(TH-TL)/TH と熱電材料の性能指数 ZT̃ を用いて以下のよ
らすインパクトと意義は非常に大きい.ただし現状は厳し
うに記述できる2).
T H- T L
1+ZT̃-1
hmax=
TH
1+ZT̃+TL/TH
く,既存の熱電材料の ZT は低く(1.0 以下),その結果,市
(1)
販のモジュールの多くでその最大変換効率は 5 に満たな
い4).その上,既存の熱電材料(Bi2Te3 や PbTe)の多くは,
第
11
号
階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の高効率化テルライドから硫化物へ
Pb などの有害元素や Te といった希少元素を多量に含有し
539
らを参考にして頂きたい2629).
ている.これらの要因から,熱電発電技術は宇宙開発などの
もう一つの指針が階層構造制御である.この指針では,結
ニッチな分野での実用化に留まっている5).熱電発電技術の
晶(原子),ナノ,マイクロの各階層の構造を制御して ZT を
幅広い実用化を達成するためには,熱電材料の ZT 向上を実
向上させる.階層構造制御は,次章以降に述べるように,多
現させるとともに,その構成元素を環境に調和した元素に代
くの材料系に適応されて,ZT の向上という成果を生んでい
替させる必要がある.このような背景の中で,スクッテルダ
る.この設計指針には様々な戦略が含まれており,例えば,
イト69),ハーフホイスラー10,11),クラスレート4,12,13),酸化
結晶構造レベルでは原子の大振幅振動や部分構造の制御が,
物1417) などと並んで,資源として豊富に存在して,環境負
ナノレベルではナノ構造化が,そして,マイクロレベルでは
荷の少ない硫黄を主成分とした硫化物熱電材料に関心が寄せ
結晶配向制御がある.次節から,テルライドと硫化物熱電材
られている4,1723).
料とそれらのモジュールを例に,元素戦略的な観点も交えな
本稿では,まず,第二章で,熱電材料の ZT を向上させる
がら,これら戦略を詳細に見ていく.
ための指針である階層構造制御などについて俯瞰する.その
後,第三章から第五章で階層構造制御を用いたカルコゲナイ
ナノ構造化熱電材料
3.
ド熱電材料の高効率化について,元素戦略の観点を交えなが
ら解説する.ナノ構造化に関する戦略に関しては鉛テルライ
鉛テルライド PbTe は, 1950 年代から盛んに研究されて
ド(第三章)を,原子の大振幅振動に関しては熱電変換鉱物
きた実用熱電材料であり,その地位は現在でも変わらな
(第四章)を,結晶配向制御や部分構造制御に関しては層状硫
い5,25).特に,自動車から排出される未利用熱エネルギーに
化物(第五章)を例にとる.我々は,実用化への橋渡しをス
熱電発電技術を適用しようという機運が高まった 2000 年代
ムーズに行うために,熱電材料だけではなくモジュール開発
ころから,階層構造化,特にナノ構造化によって PbTe の熱
にも力を入れており,その成果も併せて紹介する.
電性能指数 ZT は急激に向上している3035).2000 年代まで,
PbTe の ZT は 1.0 程度であったが,今では 2.0 を超えるま
2.
熱電性能指数 ZT を向上させるための指針
でに押し上げられている36,37).
縮退半導体や金属の場合,ゼーベック係数 S と電気抵抗
率 r は,次式で書くことができる24,25)
1
ne2te
=nem=
r
m
8p2 k 2B
S=
3eh2
(2)
(3pn)
ナノ構造化
Fig. 1 に,我々が作製した(a)PbTe2 Mg4 Na 焼結
2/3
mT
3.1
(3)
ここで,n, e, m, te, kB, h, mはそれぞれキャリア濃度,電
体(p 型)と,(b)PbTe0.2PbI2 焼結体(n 型)の高分解能透
過型電子顕微鏡( TEM )により得た格子像を示す38) . TEM
写真からわかるとおり,PbTe バルク体中に二つの異なる形
状,板状と球状のナノ構造が混在している.これらナノ構造
は,試料全体に均一に分布している.一つ目は,p 型,n 型
荷,移動度,緩和時間,ボルツマン定数,プランク定数,有
効質量である.式( 2 )と( 3 )中に含まれるいくつかの物性
値の中で,n は比較的容易に調整できる.すなわち,出力因
子 S 2/r の増加を通じて熱電性能指数 ZT を向上させるため
には,n を調整することが最も容易な方法である.熱電材料
の開発はドーピング・ゲームである,といわれる所以であ
る . 一 般 的 に , n = 1019 ~ 1020 cm-3 で S 2 / r は 最 大 と な
る25) .本稿ではナノ構造化などの最新の技術について紹介
するが,n の調整も重要であることを忘れないで欲しい.先
端技術にのみ走りすぎて,n の調整をおろそかにしている例
を多々見かける.
n を調整したうえで,さらに ZT を向上させる指針とし
て,二つの代表的なものが知られている.一つは,バンド・
エンジニアリングと呼ばれる手法で,電子のバンド構造を設
計して S 2/ r を増大させて, ZT を向上させる指針である.
例えば,PbTe において,キャリアの有効質量の小さな価電
子帯と有効質量の大きな価電子帯をともに電気輸送特性に効
率的に貢献させて,ZT を~1.8(850 K)まで向上させたとい
う報告がある26) .バンド・エンジニアリングは有効な方法
であるが,一方で本稿の本題である階層構造制御と比較して
その研究例はまだ少ない.バンド・エンジニアリングに関し
ては, PbTe や PbSe の詳しい文献を引用しているのでそち
Fig. 1 Highmagnification transmission electron microscopy
images of (a) PbTe2 Mg4 Na and (b) PbTe0.2 PbI2
taken along [001] and [111] zone axes.38) (c) Highangle
annular dark field scanning transmission electron microscopy
image and energydispersive Xray spectroscopy mappings in
PbTe2 Mg4 Na.38)
540
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
第
79
巻
両試料に存在し,Fig. 1(a)と(b)にてで示している晶帯軸
子は MgTe であることが明らかとなった38) . Kanatzidis ら
[001]の格子像に見られる板状のナノ構造である.この板状
は,Sr, Ca, Ba を添加した PbTe2 Na の系でも 10 nm 以
ナノ構造は多くの文献で報告されており36,3844),諸説はある
下の同種のナノ構造が分布し,このナノ構造の周辺が大きく
が,板状ナノ構造内の格子点の間隔が PbTe の格子定数の半
ひずんでいることを明らかにした45,46).このひずみは,フォ
分程度であることなどから, Te や Pb 空孔といった格子欠
ノンを効果的に散乱して klat を減少させる.
陥であろうと考えられている40,41).我々は,試料内に Pb の
Fig. 2 ( a )に,アルカリ土類金属の Mg と Sr を添加した
みから成る粒子を発見しており,本試料では Pb 欠陥が板状
PbTe 4  SrTe 2  Na 焼結体36) と PbTe 2  Mg 4  Na
ナノ構造を形成しているのではないかと推測している44) .
焼結体38) , Mg と Sr を添加していない PbTe 2  Na 焼結
PbTe は NaCl 構造という単純な結晶構造を有しているにも
体36)と PbTe4 Na 溶融バルク体47)の熱伝導率 ktotal と klat
かかわらず,低い格子熱伝導率 klat を有している.この要因
を 示 す . す べ て の 試 料 で , 300 ~ 923 K に て ktotal は 4.3
として,重い Pb を含むことなどの様々な要因が挙げられる
W K-1 m-1 以下を示す.重要なことは,Mg と Sr を添加し
が,本結果は,低い klat の要因の一つに,この板状ナノ構造
た PbTe の klat は,添加していない PbTe のそれよりも小さ
が引き起こす効果的なフォノン散乱が含まれることを示唆し
い.例えば, 300 K で, PbTe 4  SrTe 2  Na 焼結体の
ている.
klat は~2.0 W K-1 m-1 で,PbTe2 Na 焼結体の klat~2.8
上記の板状ナノ構造の他に,アルカリ土類金属36,38,4347),
W K-1 m-1 よりも約 30小さい.これは,Fig. 1(a)に示す
Sb48,49), PbS37,5052), CdTe53,54), HgTe54) などを添加すること
球状ナノ構造が効果的にフォノンを散乱して,klat を低減さ
で,PbTe バルク体中にナノ構造を形成できる.この種のナ
せていることに起因している.
ノ構造は,PbTe の熱電特性を劇的に向上させる.Fig. 1(a)
球状ナノ構造のもう一つの重要な点は,このナノ構造が
に示す,アルカリ土類金属の一種の Mg を添加した PbTe
PbTe の電気輸送特性に大きな影響を与えないことである.
焼結体の晶帯軸[111]の格子像において,板状ナノ構造とは
Fig. 2(b)と(c)に示すとおり,アルカリ土類金属の有無にか
異なる球状ナノ構造(図中のの記号)が見てとれる.このナ
かわらず,すべての試料でゼーベック係数 S と電気抵抗率 r
ノ構造は 5 nm 程度の大きさである.もっとも重要な特徴
はほぼ同じ値を示す.例えば, 810 K で, PbTe 4 SrTe
は,ナノ構造が母相の PbTe とコヒーレントな界面を形成し
2  Na 焼 結 体 の r は ~ 23 mQ m で S は ~ 250 mV K-1 ,
ていることである.後述するとおり,このコヒーレントな界
PbTe 2 Na 焼結体の r は~ 29 mQ m で S は~ 260 mV K-1
面のために,ナノ構造は PbTe の電気輸送特性に大きな影響
ある.これは,PbTe と球状ナノ構造がコヒーレントに接合
を与えない. Fig. 1 ( c )に示す走査透過電子顕微鏡の高角度
されていることに起因している.このコヒーレントな界面は,
散乱暗視野像には,10~100 nm 程度の大きさを持つ粒子も
PbTe 母体と球状ナノ構造の価電子帯の間に小さなバンド・
見つかり,エネルギー分散型 X 線分析の結果から,この粒
オフセットを与えるので,球状ナノ構造は PbTe のキャリア
Fig. 2 Temperature dependence of the (a) total thermal conductivity (ktotal) and lattice thermal conductivity (klat), (b) electrical
resistivity ( r), (c) Seebeck coefficient (S), and (d) thermoelectric figure of merit (ZT) of the sintered compacts of PbTe4 SrTe
2 Na,36) PbTe2 Mg4 Na,38) and PbTe2 Na36) and melted ingot of PbTe4 Na.47)
11
第
号
541
階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の高効率化テルライドから硫化物へ
移動度と電気特性に影響を与えないと推測できる45).
むしろ低下している失敗例を多く見かける.ナノ構造化の恩
アルカリ土類金属を添加することで生じる球状ナノ構造は,
恵を受けるためには,フォノンのみを選択的に散乱させる必
klat のみを選択的に減少させて, PbTe 本来の高い出力因子
要があり,そのためには,ここで示したようなナノオーダで
S 2 / r を維持する.その結果として ZT は大きく向上する
かつコヒーレントな界面を有したナノ構造を形成することが
( Fig. 2( d )).例えば, PbTe 2  Na 焼結体の ZT は 815 K
有効である.
で~ 1.4 であるが, PbTe 4 SrTe 2  Na 焼結体の ZT は
915 K で ~ 2.2 に 達 す る . ZT が 2.0 を 超 え た と い う 事 実
3.3
モジュール化
は,性能が低くて使えないという熱電材料のこれまでの常識
さて,素晴らしい ZT を示す材料を手に入れたので,熱電
を覆して,実用化に向けて大きな道筋をつけるものである.
変換モジュールを作製しない手はない. Fig. 4 ( a )に,我々
3.2
が作製したナノ構造 PbTe を用いた熱電変換モジュールの外
キャリア濃度の調整
観の写真を示す38).p 型には PbTe
2 Mg
4 Na 焼結体,
ここまで,ナノ構造に焦点を合わせた議論を進めてきた
n 型には PbTe0.2 PbI2 焼結体を使用している.一つの熱
が,キャリア濃度の調整を実施したうえでナノ構造化を進め
電変換素子のサイズは~ 2 mm ×~2 mm ×2.8 mm であり,
た結果, ZT の向上に成功したことを見落とさないでほし
16 個( 8 個の p n 対)の熱電変換素子を接続して熱電変換モ
い.キャリア濃度の調整はこの記事の本題ではないが,ここ
ジュールを作製した. Fig. 4 ( b )に示すように,開発した装
に簡単に触れる.PbTe に限らず,熱電材料のキャリア濃度
置60) を用いて,このモジュールの発電特性を測定したとこ
を調節するには,アクセプターあるいはドナーを注入する.
ろ,低温端と高温端の温度がそれぞれ 303 K と 873 K のと
Na は古くから知られているアクセプターであり, 2 から
きに,最大変換効率は~8.8に達した(Table 1).最大変換
4の添加量のときに最大の ZT を与えることが知られてい
効率が 5に満たない市販のモジュールと比べると4),優れ
る36,38,42,43,4547,5458).同様に,PbI2 は古くから知られている
た性能が達成されたことがよく理解できると思う.さらに,
ドナーである44,53,55,59) . PbTe x 
PbI2 の場合, 710 K にお
Bi2Te3 とのセグメント型モジュールを作製したところ(Fig.
い て , PbI2 量 x の 増 加と と もに , S は~ 250 mV K-1 ( x =
4(c)),最大変換効率は~11に跳ね上がった.いよいよ,
0.12 ) か ら ~ 120 mV K-1 ( x = 0.60 ) ま で 半 減 し , r は ~ 40
熱電発電技術において効率 10の時代が到来した.
mQ m ( x = 0.12 )から~ 8.2 mQ m ( x = 0.60 )まで 1 / 5 に減少す
る44) . k
-1
-1 (
有限要素法によってその発電特性を物性値から三次元シミ
x = 0.12 )から
ュレーションしたところ,Table 1 に示すとおり,低温端と
~2.2 W K-1 m-1(x=0.60)まで増加する.この結果,Fig. 3
高温端の温度がそれぞれ 303 K と 973 K のときに, 12 の
に示すとおり, ZT は x = 0.40 の際に最大値を示し, 860 K
最大変換効率を示す可能性があることがわかった38) .シミ
total
は, 670 K で,~ 1.2 W K
m
で~ 1.2 に達する.ナノ構造を導入しなくても ZT が 1.0 を
超える事実は,n 型 PbTe の潜在力も高いことを意味してい
る.今後,ナノ構造化によって,n 型 PbTe の ZT も大きく
向上することであろう.
ここで,ナノ構造化によって,キャリアの移動度を減少さ
せないように注意する必要がある.ナノ構造はフォノンだけ
でなく,電荷キャリアの散乱源にもなりうる.ナノ構造化に
よる klat の低減効果以上に, r を低減させてしまい, ZT が
Fig. 4 Photographs of the (a) nanostructured PbTebased
module,38) (b) module testing system,60) and (c) segmented
Bi2Te3/PbTe module.38)
Table 1 Measured and simulated maximum conversion efficiency (hmax) of nanostructured PbTebased module and
segmented Bi2Te3/PbTe module.38) The hotside temperature
(TH) was 873 K and coldside temperature (TL) was 303 K or
283 K.
Hot
side
temperature,
TH/K
Fig. 3 Temperature dependence of the thermoelectric figure
of merit (ZT) of the sintered compacts of PbTex PbI2.44)
Cold
side
temperature,
TL/K
Nanostructured PbTe
based module:
Measurement
873
Simulation
873
Segmented Bi2Te3/PbTe module:
Measurement
873
Maximum conversion
efficiency, hmax
()
303
303
8.8
12
283
11
542
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
第
79
巻
ュレーション値と実測値の差は,ナノ構造 PbTe と接合電極
高い硫黄 S に注目が集まり,硫化物熱電材料が脚光を浴び
の間に存在する界面抵抗の影響である.今後の研究におい
ている.その中で最も有望な材料として,熱電変換鉱物,す
て,界面抵抗を下げることができれば,ナノ構造 PbTe のみ
なわち,テトラヘドライトとコルーサイト(ともに p 型)が
から成る熱電変換モジュールで,シミュレーション値に近い,
挙げられる4,2023).ともに,S と Cu(Cu も地殻埋蔵量が豊富
10を優に超える変換効率を得ることが期待される.
で,環境調和性が高い)を組成の主成分としており,元素戦
略の面から見て魅力的な熱電材料である.
4.
熱電材料としての硫化銅鉱熱電変換鉱物
4.1
テトラヘドライト
PbTe は, ZT の観点から見たとき最も優れた熱電材料で
鉱物を模倣して人工的に作製したテトラヘドライト
あることに間違いはない.しかし,主な構成元素の Pb は世
Cu12-xTrxSb4S13 ( Tr : Mn, Ni, Zn )の ktotal と klat の温度依存
界中で厳しい使用制限がかけられている毒性元素で,さらに
性を,Fig. 5(a)と(b)にそれぞれ示す6164).ここで,本材料
Te は希少元素である.すなわち,元素戦略の面から考える
は, Cu サイトの一部を M で置換している. 300~ 800 K の
と PbTe は大きな課題を抱えており,これが PbTe 熱電材料
温度範囲で, ktotal は 1.3 W K-1 m-1 以下と低く,klat は 0.7
の幅広い実用化を妨げている要因の一つである.そこで,
W K-1 m-1 以下と極端に低い.我々は,熱電材料として魅
Te と同族に属しており,地殻埋蔵量が豊富で環境調和性の
力的なこの極端に低い klat の起源を探るために,大型放射光
Fig. 5 Temperature dependence of the (a) total thermal conductivity (ktotal) and (b) lattice thermal conductivity (klat) of
Cu10.5Ni1.5Sb4S13,61) Cu11.5Zn0.5Sb4S13,62) Cu11.6Mn0.4Sb4S13,63) Cu10.5Ni1.0Zn0.5Sb4S13,64) Cu26V2Ge6S32,66) and Cu26V2Sn6S32.66)
(c) Power factor (S 2/r) plotted against the chemical composition (x) in Cu11-xTrxSb4S13 at 660 K670 K. (d) Temperature dependence of the thermoelectric figure of merit (ZT). Parts of the figures (b) and (d) were taken with permission from Ref. 23).
Fig. 6 (a) Crystal structure of Cu12Sb4S13 and lowenergy vibration of the Cu atom2023,61) and (b) crystal structure of Cu26V2M6S32
(M : Ge, Sn). Sizes of atoms in this figure are arbitrary.
11
第
号
543
階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の高効率化テルライドから硫化物へ
施設 SPring8 において,高輝度 X 線を用いた回折実験を実
施した61).その結果, Fig. 6( a)に示すように,[ CuS3]三角
形面内に位置する Cu が,この面に垂直な方向に低エネル
ギーの大振幅振動することを明らかにした.このような原子
の大振幅振動は,スクッテルダイト68) やクラスレート12,13)
Table 2 Measured and simulated maximum conversion efficiency (hmax) of single thermoelectric leg of Cu11Ni1.0Sb4S13. The
hotside temperature (TH) was changed from 370 K to 673 K.
The coldside temperature (TL) was held at 300 K.
Hot
side
Cold
side
Measured maximum Simulated maximum
temperature, temperature, conversion efficiency, conversion efficiency,
TH/K
TL/K
hmax ()
hmax ()67)
といったかご状構造を有する熱電材料で観測されており,こ
370
472
673
れらの材料ではラットリングと呼ばれている.これら材料の
かごの中に充填されたゲスト原子が大振幅振動して,フォノ
300
300
300
1.2
2.3
1.5
3.7
7.8
ンを効果的に散乱させて klat を減少させる.テトラヘドライ
トにおいても,ラットリングと類似した Cu の大振幅振動に
起因した効果的なフォノン散乱と,単位格子中に 58 個もの
コルーサイトの r と S は,温度とともに上昇する66) .例
原子を含む複雑な結晶構造が,極端に低い klat を導くと考え
えば, Cu26V2Ge6S32 の場合, r は 300 K の~ 36 mQ m から
られる.
660 K の~ 71 mQ m まで, S は 300 K の~ 120 mV K-1 から
2012 年にテトラヘドライトにおいて低い klat の報告があ
り65), 2013
年には,我々と米国のグループがほぼ同時に,
660 K の~ 210 mV K-1 まで増加する. S 2 / r は, 660 K で
~620 mW K-2 m-1 に達する.
極端に低い klat と高い S 2 / r の結果, Cu26V2Ge6S32 の ZT
Cu サイトを Fe, Ni, Zn で置換することで,キャリア濃度を
調整でき,高い
S2/r
を ZT を 達 成 で き る こ と を 見 出 し
は 660 K で ~ 0.73 に , Cu26V2Sn6S32 の ZT は 660 K で
た61,62) .ここで,上記金属元素以外にも, Mn と Co がアク
~ 0.56 に達する(Fig. 5(d )).コルーサイトへのドーピング
セプターとして働くことが知られている63,65).Fig.
などの研究がまだ着手されていない.ドーピングによってキ
5(c)に,
660 K か ら 670 K に お け る Cu11-xTrxSb4S13 ( Tr = Ni, Zn,
Mn )の
S 2/r
と置換量 x との関係を示す.すべての Tr にお
いて, x= 0.0 から 0.5 の範囲で S 2/r は最大値を有する.例
ャリア濃度が調整されれば,ZT はさらに上昇するだろう.
4.3
発電特性
えば, Cu11-xNixSb4S13 の場合, 660 K において, r は x =
熱電変換鉱物は p 型の優れた熱電特性を示す.ただ,モ
0.0 の~13 mQ m から x=1.5 の~40 mQ m まで,S は x=0.0
ジュールで対をなす n 型の熱電材料はまだ見つかっていな
の ~ 120 mV K-1 か ら x = 1.5 の ~ 190 mV K-1 ま で 増 加 す
い.そこで, p 型のテトラヘドライト Cu11.0Ni1.0Sb4S13 のみ
る.その結果, 660 K の S 2 / r は x = 0.5 のときに最大とな
から成る単一熱電素子を作製して,その発電特性を評価し
り,~1200 mW
K-2
m- 1
に達する61).
テトラヘドライトの低い klat と高い
た6769).Table 2 に,最大変換効率の実測値と物性値から計
S 2/r
は高い ZT をも
算したシミュレーション値を示す.低温端と高温端の温度が
たらす.Fig. 5(d)に示すとおり,Cu10.5Ni1.0Zn0.5Sb4S13 にお
それぞれ TL=300 K と TH=472 K のとき,実測の最大変換
いて最大の ZT が観測され,その値は 712 K で~1.0 に達す
効率は~ 2.3となった.単一熱電素子の評価によりテトラ
る.この事実は,環境に調和した硫化物熱電材料の幕開けを
ヘドライトの発電動作を確認した.ただ,熱電材料と電極材
告げるものである.
との間の高い界面抵抗に起因して,実測の最大変換効率はシ
4.2
コルーサイト
ミュレーション値よりも低い.シミュレーションによると,
TL = 300 K と TH = 673 K のとき 7.8 の最大変換効率が得
2014 年,我々はテトラヘドライトよりも化学組成に占め
られると推測される.今後,熱電材料と電極材との間の界面
る Cu と S の割合がさらに多い,すなわち環境調和性の高い
抵抗が低減すれば,実測値がシミュレーション値に近づくも
コルーサイト Cu26V2M6S32(M : Ge, Sn)で高い ZT を達成し
のと思われる.
た. Fig. 5 ( a )と( b )に,人工的に作製したコルーサイトの
テトラへドライトの極端に小さい klat が 2012 年に発表さ
ktotal と klat の温度依存性をそれぞれ示す66).コルーサイトの
れてから65),わずか 3 年のうちにその ZT は 1.0 を超え64),
ktotal と klat はテトラヘドライトと同程度であり 300 K から
その上,発電動作を確認するに至り67) ,またその派生材料
670 K の温度範囲において,それぞれ,0.7 W K-1 m-1 以下
とも呼べるコルーサイトも発見された66) .この開発スピー
と 0.6 W K
-1
-1
以下である.この極端に低い klat の起源
ドが,熱電材料としては異例の速さであることからも,人口
は明確ではないが, Fig. 6 ( b )に示すとおり,単位格子中に
鉱物が熱電変換材料としての高い可能性を有していることが
66 個もの原子を含み結晶構造が複雑であることに起因して
わかる.
m
いるのではないかと考えている.比較のために,サルバナイ
ト Cu3VS4( 8 つの原子から成る単純立方格子をもつ)を作製
5.
層状構造を有する硫化物熱電材料
し て klat を 評 価 し た . 350 K に て , コ ル ー サ イ ト
Cu26V2Ge6S32 の klat は~ 0.4 W K-1 m-1 であったが,サル
熱電変換鉱物と並び,硫化物熱電材料として注目を浴びて
バナイトの klat は 4.0 W K-1 m-1 を超えた66,67) .この結果
いる材料が層状硫化物である.層状構造を最適に設計するこ
は,コルーサイトはもちろん,テトラヘドライトについて
とで,熱電材料として魅力的な特性を引き出せる. 1997 年
も,それらの極端に低い klat の要因に複雑な結晶構造が関係
に寺崎ら14)が,NaCo2O4 において面内方向に高い S 2/r を見
していることを強く示唆している.
出したことがきっかけとなり,CoO 層を有する酸化物熱電
544
第
日 本 金 属 学 会 誌(2015)
材料でナノブロック・インテグレーションという戦略が提唱
79
巻
ZT(~0.34 at 663 K)が面外方向より高くなる.
された16,17).この戦略では,電気伝導を担う層の間に,フォ
TiS2 の組成範囲は Ti リッチ側に広く, TiS2 から Ti1.1S2
ノンを効果的に散乱する乱れた層を挿入することで,電気伝
まで存在できる7476) .この範囲で Ti 量を調整することで
導層の高い S 2/ r と乱れた層による低い klat を両立させる.
キャリア濃度 n を調整でき, Fig. 8 ( a )に示すとおり, n =
酸化物熱電材料では,CoO 層が電気伝導を担い,その層間
の乱れた Na の配置や CaCoO 層がフォノンを散乱して klat
を低減させる.一般的に,酸化物と比較して硫化物の共有結
合性は強く,その結果として r が低く( S 2/r が高く)なる傾
向がある.そのため,近年,熱電コミュニティーは,ナノブ
ロック・インテグレーションに基づいた設計が可能な層状構
造を有する硫化物に注目している4,17,19,2123).
5.1
TiS2 層を基礎とした層状硫化物
TiS2 の結晶構造を Fig. 7(a)に示す.CdI2 型の TiS 層が
c 軸上に積み重なっており,その層同士はファン・デル・
ワールス力で弱く結合している70) . TiS2 の結晶構造は強い
配向性を示しており,それを反映して熱電特性も強い配向性
を有する7173) . Fig. 7 ( b )に示すとおり,加圧焼結法を用い
て,結晶構造を反映した組織を実現することができる.加圧
方向に垂直な方向に結晶粒が成長しており,その長さは約
10 mm である.c 軸は加圧方向に平行に配向していることが,
X 線回折パターンから確認された73).
面内方向に高い移動度(室温の移動度は面内方向で~ 2.1
cm2 V-1 s-1 ,面外方向で~ 1.2 cm2 V-1 s-1 )と, Table 3 に
示すとおり,それに起因した面内方向の低い r が観測され
た73) .一方,面外方向に層間でのフォノン散乱に起因した
10低い klat が観測された(面内 klat~2.0 W K-1 m-1,面外
klat~1.8 W K-1 m-1).ただ,高温(663 K)では,klat の差は
面内と面外方向でほとんどなくなる.S はキャリアの緩和時
間には強く依存しないため(式( 3 )),面内と面外方向で同
じ程度の値を示す.面内方向の低い r と配向の影響をほと
ん ど 受 け な い S に よ り , 面 内 方 向 の 高 い S 2 / r ( ~ 1300
mW K-2 m-1 at 663 K )を示し,その結果として面内方向の
Fig. 7 (a) Crystal structure of TiS2. Sizes of atoms in this
figure are arbitrary. (b) Scanning electron micrograph of the
fractured section of the Ti1.008S2 sintered compact (taken with
permission from Refs. 23), 73)).
Fig. 8 (a) Power factor (S 2/r) plotted against the carrier
concentration (n) at 300 K in the inplane (abplane) direction
for Ti1+xS2.7173,7782) Temperature dependence of the (b)
lattice thermal conductivity (klat) and (c) thermoelectric figure
of merit ( ZT ) of Ti1.008S2,73) Ti1.025S2,81) Cu0.1TiS2,80)
Ag0.1TiS2,82) [ BiS ]1.2 [ TiS2 ]2 ,83) [ PbS ]1.18 [ TiS2 ]2 ,83)
[SnS]1.2[TiS2]2 72) and [BiS]1.2[Ti0.95Cr0.05S2]2.84) Parts of the
figures were taken with permission from reference.23)
Table 3 Seebeck coefficient (S ), electrical resistivity ( r), power factor (S 2/r), lattice thermal conductivity (klat), and thermoelectric
figure of merit (ZT ) at 663 K in the inplane and outofplane directions for polycrystalline Ti1.008S2.73)
Direction
Seebeck coefficient,
S/mV K-1
Electrical resistivity,
r/mQ m
Power factor,
S 2/r/mW K-2 m-1
Lattice thermal conductivity,
klat/W K-1 m-1
Thermoelectric figure
of merit, ZT
In
plane
ofplane
Out
-150
-150
17
32
1300
710
1.8
1.8
0.34
0.22
11
第
号
階層構造化によるカルコゲナイド系熱電材料の高効率化テルライドから硫化物へ
545
2.8 × 1021 cm-3 付 近 で 室 温 の S 2 / r は 最 大 値 ( ~ 3700
ったが,シェブレル相8991)やホモロガス相92,93)なども重要な
mW K-2 m-1)に達する23,7173,7782).このように TiS2 は非常
カルコゲナイド熱電材料である.カルコゲナイドの中でも,
に高い
S 2/r
を示すが,一方で klat が高く,その結果として
ZT は低い値に留まる.そこで最近の研究は, klat の減少に
硫化物は環境に調和しており,これからの時代に相応しい熱
電材料群といえる.
階層構造制御は,今後,硫化物を中心としたカルコゲナイ
焦点が当てられており,ナノブロック・インテグレーション
ド熱電材料のみならず,あらゆる熱電材料の性能を高めるう
などの部分構造制御が適応されている.
上述したとおり, TiS 層はファン・デル・ワールス力で
えで重要な設計指針である.結晶構造レベルでの原子の大振
弱く結合しているだけなので,様々な原子や原子ブロックを
幅振動や部分構造制御と,ナノレベルでのナノ構造化は効果
インターカレーションすることができる. Fig. 8( b )に,銅
的にフォノンを散乱し,低い格子熱伝導率をもたらす.さら
や金属と硫黄から成る層をインターカレーションした系の
に,マイクロレベルでの配向制御は,キャリアの移動度を増
を 示 す23,72,73,80,8284) . イ ン タ ー カ レ ー シ ョ ン に よ り
加させて出力因子を向上させる.これら各階層の構造制御を
klat は 減 少 す る . 例 え ば , 300 K で , TiS2 の klat は ~ 2.0
一体的に進めていくことで, ZT の大きな向上が達成され
klat
K- 1
m- 1
から, Cu のインターカレーション( Cu0.1TiS2 )
る.学術的に見たときに,この階層構造制御は,電気輸送特
により~1.7 W K-1 m-1 まで,BiS のインターカレーション
性と熱輸送特性の個別制御への挑戦といえる.実用的に見た
W
([BiS]1.2[TiS2]2)により~0.7 W K
-1
m
-1
まで減少する.
Fig. 8 ( c ) に TiS2 系 の ZT の 温 度 依 存 性 を 示
す23,72,73,8084) .キ ャリア 濃度を調 整して
S2/r
場合は,階層構造制御は,熱電発電による未利用熱エネル
ギーの有効利用の扉を開くものである.
を改善 した
Ti1.025S2 で ZT ~ 0.48 ( 700 K ),インターカレーションによ
本研究の一部は,日米等エネルギー技術開発協力事業(経
り klat を低減させた Cu0.1TiS2 で ZT~0.47(800 K)を示す.
産省)と JSPS 科研費 25420699 からの支援によって遂行さ
これまで n とインターカレーションの制御は個別に実施さ
れた.本稿で記載した研究成果は,ノースウェスタン大学の
れてきたが,今後,ZT をさらに向上させるためには,これ
KANATZIDIS Mercouri G. 教授,広島大学の末國晃一郎助
らを同時に実施する必要がある.
教と高畠敏郎教授,北陸先端科学技術大学院大学の小矢野
TiS2 の興味深い点として,層間に有機物もインターカ
幹夫准教授,室蘭工業大学の平井伸治教授と谷俊博助教,
レーションできることが挙げられる.河本らは,
産業技術総合研究所の JOOD Priyank 博士と山本淳研究グ
[( hexylammonium )x ( H2O )y ( DMSO )z ],をインターカレー
ループ長,そして下記参考文献に名前を見つけることができ
ションした TiS2 がフレキシブル性を有し,その上, 373 K
る多くの共著者との共同研究によって成し遂げられた.紙面
の ZT
がやや高い値(0.28)を示すことを報告した85).無機材
を拝借して御礼を申し上げる.
料と有機材料との融合により,フレキシブル熱電変換モジ
ュールの可能性が示されたことは興味深い.
5.2
[MS]1+m[TS2]n 層状硫化物
紹介してきた TiS2 系は,組成式[MS ]1+m [ TS2 ]n ( M : Sn,
Pb, Sb, Bi,希土類金属元素T : Ti, V, Cr, Nb, Ta; m : 0.7
~0.28; n : 1, 2, 3)で表すことができる材料群の一つであ
る70) .元素 M , T ,整数 n の組み合わせを数えただけで,
[ MS]1+m [TS2]n には多数の類似化合物が存在していること
がわかる.しかしながら, TiS2 系を除くと,それらの熱電
材料としての研究は始まったばかりである.宮崎らが
[ MS ]1+m NbS2 ( M  希 土 類 金 属 元 素 )86,87) , 我 々 が
[ LaS]1+m NbS2 ( M : Cr, Nb )88) の熱電特性を報告している程
度 で あ る . そ れ ら の う ち で , ZT の 高 い も の で も
[ LaS ]1.14 NbS2 の 0.15 ( 950 K )に留まる.この数値は熱電材
料としては物足りない.今後,この膨大な組成の組合せを有
する材料群を舞台に,階層構造制御を基盤として熱電材料の
探索が進めば, TiS2 系のように新しい可能性を持った熱電
材料が見つかるだろう.
6.
結
言
本稿では,カルコゲナイド系熱電材料として PbTe,熱電
変換鉱物(テトラヘドライトとコルーサイト),そして層状硫
化物について紹介した.紙面の都合で触れることはできなか
文
献
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