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エネルギー技術研究所関連研究成果

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エネルギー技術研究所関連研究成果
(エネルギー技術研究所関連研究成果)
研究年報/2007 年版 目次
(エネルギー技術研究所関連研究成果)
総括
基盤研究課題
○エネルギー技術研究所
研究分野
需要家エネルギーサービス
○CO2 回収型高効率石炭ガス化発電システムの熱効率
○給湯用ヒートポンプサイクルに関する熱力学的考察
─理想サイクル及びその成績係数(COP)の導出と各冷媒の
上限 COP の評価─
化石燃料発電
○火力・原子力高温圧力機器の構造設計および余寿命評価のための
各種簡易構造健全性評価法の開発
○数値シミュレーションによる実証機石炭ガス化炉のガス化特性予測
○フライアッシュ添加による IGCC スラグの高付加価値化(発泡性改善)
○DME を用いた下水汚泥の超高効率脱水
○熱物質収支解析に基づく発電プラント性能劣化診断技術の高度化
新エネルギー
○バイオマスガス化ガス用多成分対応乾式ガス精製システムの開発
─酸化亜鉛脱硫剤および高性能ハロゲン化物吸収剤を適用した
プロセスの構築─
次世代機器絶縁
[目的]
近い将来見込まれている電力流通設備のリプレース需要に合わせて、環境調和とメンテナンスフリー化を実
現する次世代機器絶縁技術を提供する。
[主な成果]
・SF6 ガスに代わる環境負荷低減ガス絶縁媒体として、N2 および CO2 について雷過電圧に対する絶縁破壊電
圧特性を解明し、これらを適用したガス絶縁開閉装置の絶縁設計に資する試験電圧決定手法を確立した。
電磁環境評価
[目的]
電力の供給者と利用者双方の利便性と信頼性の確保を図るため、直流から GHz 帯域における放射および伝
導の電磁現象の評価手法を確立する。
[主な成果]
・商用周波磁界による生体影響評価のために、さまざまな磁界の特性に対応する人体内誘導電流評価プログラ
ムを開発した。これと既開発の電力設備周辺の磁界計算プログラムを融合した統合ツールを開発した。
・商用周波磁界による生体影響に対する国の施策決定に資するために、磁界強度に関して、立ち上がりケーブ
ルおよび路上変圧器周辺の分布特性と、全国 4 箇所における送電線や配電線からの季節変動を明らかにした。
レーザー・フォトン応用計測科学
[目的]
設備診断や運転状況把握を的確に行うための物体深部計測・診断技術やレーザー誘起ブレークダウン分光技
術(LIBS)などの要素技術を開発する。
[主な成果]
・配管内面の減肉を、現場で外部から計測できる放射線透過検査(RT : Radiographic Test)技術を開発する
ため、T キューブレーザーによる小型 X 線発生装置の電子の加速条件と、最適な検出装置(シンチレータ)
の条件を明らかにした。
・水素ガスなどの大気中漏洩ガスの可視化技術として、レーザー光による反ストークスラマン散乱光を利用し
た水素ガス可視化技術を開発し、2ml/分以上の漏洩量を画像化できることを明らかにした。本手法は水素
ガス以外の分子性ガスにも適用できる。
7.エネルギー技術研究所
火力発電の運用・保守技術
[目的]
新種液体燃料の基礎燃焼特性の把握、燃焼基盤技術の確立、既設火力高温機器を対象とした信頼性評価ツー
ルの開発を行い、火力発電の運用・保守技術の高度化に資する。
[主な成果]
・パーム油など新種液体燃料に関する調査を行うとともに、パーム油燃焼実験に向け、既設基礎燃焼実験装置
の液体燃料評価バーナの改良を行った(図 8)。
・ボイラ管のクリープ、亀裂進展などを対象とする解析的な簡易余寿命評価法について、当研究所に蓄積され
た知見を体系化し、総合報告をとりまとめた。
バーナ外周が青炎となり,
ススの堆積は,ほとんどな
かった。
(空 気 温 度 : 400℃ , 燃 料 温
度 : 52℃ , 燃 料 圧 力 : 0.69
図 8 パームメチルエステル(PME :パーム油とメタノールを反応させてエステル化し,粘性や引火点などを
下げた燃料)燃焼時の火炎の状況
19
燃料改質と環境保全技術
[目的]
低品位燃料の改質や石炭灰の改質に関わる基盤技術の開発、揮発性微量物質等の除去技術の開発を行い、燃
料多様化および環境保全に資する。
[主な成果]
・低品位炭の効率的利用の促進に向け、褐炭を超臨界水で改質し、メタノールなどの低級炭化水素やフェノー
ルクレゾールなどのフェノール類が生成することを確認した。
・セラミックハニカムにセリア酸化物触媒を担持した揮発性有機化合物(VOC)分解モジュールを試作し、
印刷、塗装工程等で排出されるトルエンについて、250 ℃で 95%以上の分解率が達成でき無害化できること
を明らかにした。
高効率エネルギー変換技術
[目的]
将来の高効率エネルギー変換技術の基盤となる、燃料電池技術、燃料クリーン化技術、ヒートポンプ冷媒伝
熱技術、蓄熱技術、ならびに各種エネルギーシステムの評価技術の開発を行う。
[主な成果]
・将来の高効率発電システムの探索・可能性評価、各種燃料電池発電技術の評価および MCFC 単セルの低コ
スト製造に関する基礎技術を開発した。
・ヒートポンプ・伝熱技術、蓄熱技術および乾式ガス精製技術に関する要素技術の評価を行った。
8.材料科学研究所
水素基盤技術
[目的]
水素製造・輸送、貯蔵・利用に関わる新規技術に対応し、水素社会実現時の電気事業大としての取組みを明
示する。
[主な成果]
・エネルギー技術評価のために当研究所で開発した「日本版水素エネルギーモデル」を用いて、エネルギーシ
ステム全体の中で、水素技術の経済性・環境性・エネルギーセキュリティなどについて競合技術と合わせて
水素技術の役割について評価した。
・量産されている安価な金属が使用可能な 600 ℃付近で高出力密度化を目指す SOFC(セラミックリアクター)
の開発において、単セル加圧評価を行い、高い燃料利用率条件において、加圧条件(∼ 0.7MPa)で高い出
力密度を得た。また、銀ナノ粒子コーティング技術を開発し、空気極材料に応用した結果、高効率運転が可
能な低電流領域で未コーティングセルに比べ出力密度が 1.8 倍に向上した。
構造材料評価
[目的]
構造材料評価の側面から、火力原子力発電材料に関する諸問題の解決に貢献するため、強度特性の把握、寿
命評価法および腐食低減技術の開発を行う。
[主な成果]
・ガスタービン動翼材料である Ni 基多結晶超合金および一方向凝固超合金の多軸疲労寿命評価法を提案し、
その妥当性を検証した。また、1300 ℃級ガスタービン初段動翼の寿命評価がパソコン上で実施できる簡易
寿命評価プログラムを開発した。
・新型原子炉の健全性評価法の開発に向け、高クロム鋼長時間クリープ疲労試験データの取得および構造健全
性評価システムの基本設計を実施した。
水化学管理技術
[目的]
水化学技術の高度化と標準化により、被ばく低減による軽水炉のコスト低減と水化学の観点からの SCC 対
20
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主要な研究成果
CO2 回収型高効率石炭ガス化発電システムの熱効率
背 景
石炭は電力のベストミックスを確保するために必要であり、石炭火力発電の高効率化は、CO2 排出量の削減
のために重要である。CO2 の更なる排出量削減のためには、将来の石炭火力からの CO2 回収も有効であり、高
効率発電と CO2 回収により、エネルギー資源の有効利用と CO2 排出量低減の両者を成立させることが必要であ
る。当所では、石炭ガス化複合発電システムからの CO2 回収技術や、酸素利用型発電システムによる容易な
CO2 回収方法を提案しており、これらのシステムについて CO2 回収時の熱効率を評価する必要がある。
目 的
CO2 回収を容易とする高効率石炭ガス化複合発電および燃料電池システムについて、その発電効率を評価し、
高効率発電と CO2 回収を共に達成できるシステム構成を明らかとする。
主な成果
1.従来型 CO2 回収型 IGCC システム(酸素富化空気吹きガス化+空気燃焼ガスタービン)
石炭ガス化方式に酸素富化ガス化炉を想定し、ガス化後のガスをシフト反応により CO2 リッチとすること
により、CO2 分離を容易としたシステムの熱効率評価を行った。本システムでは 50%程度の CO2 を回収しな
がら 42%HHV 程度の発電端効率を達成できることが分かった(図 1、表 1)
。
2.1
高効率 CO2 回収型石炭ガス化発電システム(酸素吹きガス化+クローズドガスタービンサイクル)
酸素吹き石炭ガス化方式と CO2 循環型のクローズドガスタービンサイクルを組み合わせたシステム構成を
提案し、その熱効率解析を行った(図 2)。本システムでは酸素利用システムを構成したことにより、57%HHV 程度の発電端効率と 45%程度の高い送電端効率を維持しながら、CO2 の全量回収を可能とした(表 1)。
2.2
高効率 CO2 回収型石炭ガス化燃料電池発電システム(酸素吹きガス化+燃料電池)
酸素吹き石炭ガス化方式と MCFC ・ガスタービン・蒸気タービンを組み合わせ、MCFC に酸素利用方式
を適用した発電システムを提案した。本システムの特徴は MCFC に酸素を利用したことにより電池性能を
高くしたこと、及び、MCFC の燃料入口ガスの昇温手段にシフトコンバータを適用することにより MCFC
内部での発熱を抑制し、電池の温度調整を容易にしたことである(図 3)。本システムを高圧運転(2MPa)
することを想定し、10MPa の液体 CO2 回収を行った場合の熱効率を解析した結果、CO2 液化動力を含めた
送電端効率は 58%HHV 程度を維持することができた。また、システムの簡略化を目的に、MCFC と蒸気
タービンのみを用いて CO2 回収型発電システムを提案し、10MPa の液体 CO2 回収を行った場合の熱効率解
析を行った。その結果、CO2 液化動力を含めた送電端効率は高圧システム(2MPa)で 56%HHV、低圧シス
テム(0.15MPa)で 48%HHV となることが分かった(表 1)
。
以上の結果から、酸素利用形石炭ガス化発電システムを構成することにより、高い発電効率での CO2 回収
の可能性が明らかとなった。
今後の展開
石炭ガス化技術における有効な CO2 利用方法を検討するとともに、ガスタービンや燃料電池等の構成機器に
ついて、信頼性や運用上の課題を明確にしていく。
主担当者
エネルギー技術研究所 エネルギー変換工学領域 主任研究員 吉葉 史彦
プラント工学領域 上席研究員 幸田 栄一
関連報告書
「高効率 CO 2 回収型石炭ガス化燃料電池発電システムの熱効率」電力中央研究所報告:
M06011(2007年 3 月)
54
3.需要家エネルギーサービス
420 ℃
空 気 +酸 素
ガ
ス
化
炉
図1 CO2回収型石炭ガス化
複合発電システム構成図
300 ℃
金
属
フ
ィ
ル
タ
COS
石炭
シ
フ
ト
反
応
器
CO 2
回
収
装
置
40℃
℃
水
洗
浄
塔
変
換
器
340 ℃
湿
式
脱
硫
装
置
40℃
℃
CO 2
空気
ガ
ス
タ
ー
ビ
ン
排
570 ℃ 熱
回
収
ボ
イ
ラ
110 ℃
煙
突
340 ℃
420 ℃
※CO2
酸素
300 ℃
金
属
フ
ィ
ル
タ
ガ
ス
化
炉
図2 高効率CO2回収石炭ガス化
複合発電システム構成図
40℃
℃
COS
石炭
水
洗
浄
塔
変
換
器
340℃
酸素
ガ
ス
タ
ー
ビ
ン
ガスをリサイクル
排
熱
回
収
ボ
イ
ラ
420 ℃
※CO2
酸素
※CO2
300 ℃
金
属
フ
ィ
ル
タ
ガ
ス
化
炉
CO2
40℃
CO S
石炭
図3 高効率CO2回収石炭ガス化
燃料電池発電システム構成図
湿
式
脱
硫
装
置
水
洗
浄
塔
変
換
器
ガスをリサイクル
340 ℃
シ
フ
ト
反
応
器
湿
式
脱
硫
装
置
ガ
ス
タ
ー
ビ
ン
酸素
カソード
アノード
570 ℃
燃
焼
器
燃料電池
排
熱
回
収
ボ
イ
ラ
CO2
表1 高効率CO2回収石炭ガス化発電の発電効率
ケース
CO2 発電端 送電端
CO2排出
所内率
効率
原単位
回収率 効率
(%) (%) (%) (%) (g/kWh)
0
47.7
41.6
12.8
765.3
50
42.3
34.5
18.6
413.6
高効率CO2回収IGCC
100
56.6
45.0
22.7
-
高効率CO2回収IGFC
100
70.4
60.1
15.0
-
高効率CO2回収IGFC
(10MPa,LCO2回収)
100
67.1
56.7
15.5
-
従来型CO2回収IGCC
55
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主要な研究成果
給湯用ヒートポンプサイクルに関する熱力学的考察
―理想サイクル及びその成績係数(COP)の導出と各冷媒の上限COPの評価―
背 景
冷房や暖房に利用されるヒートポンプの成績係数(=熱出力/圧縮動力: COP)の限界を決めるサイクル
として、逆カルノーサイクルがある(図 1)。しかし、給湯用では、水の高温度差加熱が必要となるため、単
純な逆カルノーサイクルが COP の限界を決めるサイクルとしてあてはまらないことは明らかであり、新たに
検討が必要である。さらに、現有の各種冷媒の中で給湯用に COP が最も高くなる可能性を有する冷媒を明示
しておく必要がある。
目 的
給湯用の理想サイクルを明らかにしてその COP を導出するとともに、各種冷媒について、上限となる COP
を求め、給湯用に高い COP が期待できる冷媒を明らかにする。さらに、その冷媒を用いた給湯用ヒートポン
プの実現可能な COP について検討する。
主な成果
1.給湯用理想ヒートポンプサイクルの定義と COP の導出
給湯用では、加熱範囲内で比熱が一定と仮定できる水の高温度差加熱が必要となる。このため、COP の
限界を決める理想サイクルを、高温熱源の温度が比熱一定で変化し、かつ他の過程は逆カルノーサイクルと
同じと定義した。図 1 に提案したサイクルの T-S 線図および導出した COP を逆カルノーサイクルと並べて示
す。提案した給湯用理想サイクルの COP は、逆カルノーサイクルと同様、絶対温度のみの関数として表現
できることを明らかにした※ 1。
2.各種冷媒による給湯用ヒートポンプサイクルの上限 COP の検討
図 1 に示した理想 COP に対し、各種冷媒による損失のないサイクルの COP(上限 COP)を検討した。条
件は、JRA4050 の定格条件※ 2 である、外気温度 16 ℃、給水温度 17 ℃、給湯温度 65 ℃である。各種冷媒での
検討結果を図 2 に示す。さらに、図 3 に CO2 冷媒と R410A 冷媒における T-S 線図を示す。
給湯用理想サイクル COP の 12.9 に対し、CO2 冷媒では 11.5 と他の冷媒に比べ最も高い。CO2 冷媒では、臨
界温度が 30 ℃と低く、高圧側が超臨界圧条件となるため、凝縮の過程がなく、図 1 に示した理想サイクルと
形が近くなり、COP が高くなる。一方、R410A などの冷媒では、凝縮過程があるため、サイクルの形がむ
しろ逆カルノーに近くなり、CO2 冷媒に比べ、COP が低くなる。
以上の検討と外気温度や給水・給湯温度などを変えた他条件での検討から、最も高い COP を達成できる
冷媒は、CO2 冷媒であることが明示できた。
3.CO2 冷媒を用いた給湯用ヒートポンプにおける実現可能な COP に関する検討
各種冷媒の中で最も高い上限 COP となる CO2 冷媒に関し、JRA の定格条件において、要素機器の効率を
考慮した実現可能な COP の程度を検討した。蒸発熱交換温度差を 5 ℃、給湯熱交換最小温度差 3 ℃、断熱圧
縮効率 0.75、断熱膨張効率を 0.5 とすると、6 程度の COP が得られた。
主担当者
関連報告書
エネルギー技術研究所 エネルギー変換工学領域 上席研究員 斎川 路之
「給湯用ヒートポンプサイクルに関する熱力学的考察」電力中央研究所報告: M06002
(2006 年 12月)
* 1 :給湯用理想サイクルの COPは、無限個の逆カルノーサイクルを考えることで導出できることを付記しておく。
* 2 :日本冷凍空調工業会が、家庭用ヒートポンプ給湯機に関して制定した自主規格。ヒートポンプ本体の性能評価の
定格条件は、外気温度(乾球/湿球): 16/ 12℃、給水温度:17℃、給湯温度:65℃。
56
3.需要家エネルギーサービス/最適エネルギー利用技術
過 程 1→ 2: 等 エ ン ト ロ ピ 圧 縮
過 程 2→ 3: 可 逆 等 温 圧 縮 ( 逆 カ ル ノ ー サ イ ク ル )
可逆比熱一定変化(給湯用理想サイクル)
過 程 3→ 4: 等 エ ン ト ロ ピ 膨 張 、 過 程 4→ 1: 可 逆 等 温 膨 張
Q 2 3 : サ イ ク ル か ら 取 り 去 ら れ た 熱 量 ( 高 温 熱 源 )、 Q 4 1 : サ イ ク ル に 加 え ら れ た 熱 量 ( 低 温 熱 源 )
W : サ イ ク ル に 加 え ら れ た 仕 事 : =Q23-Q41
COP : 高 温 熱 源 を 出 力 と す る サ イ ク ル の 成 績 係 数 : =Q 23 /W=Q23/(Q 23-Q41)= 1/( 1- Q41/ Q23)
T: 温度 [K]
T: 温度 [K]
Q 23
3
2
W
4
Q 23
3
W
4
1
1
給湯用理想サイクルは、水の高
温度差加熱が必要になるため、
高温熱源の温度が比熱一定で変
化(図右の過程2→3)し、かつ
他の過程は、逆カルノーサイク
ルと同じと定義した。
Q41
Q41
S: エントロピ [kJ/kg・K]
COP =1/ (1-T1/T2)
2
S: エントロピ [kJ/kg・K]
COP =1/ (1-T1ln(T2/T3)/ (T2-T3))
(a)逆カルノーサイクル
(b)給湯用理想サイクル
図1 導出した給湯用理想サイクルのT-S線図とCOP(逆カルノーサイクルとの比較)
COP
14
A: 給 湯 用 理 想 サ イ ク ル
B: CO2
C: R22
D: R134a
E: R407C
F: R410A
G: イ ソ ブ タ ン
H: プ ロ パ ン
12
10
8
6
4
2
給湯用理想サイクルの
COP12.9(図のA)に
対 し 、 C O 2冷 媒 で は
11.5(図のB)と他の
冷媒と比べ最も高い。
0
A B C D E F G H
冷媒の種類
図2 各種冷媒の上限COPの検討結果(JRA4050 定格条件の値)
60
成績係
数2(C
3.811.5
COOPP) =
CO
理想サイクル
40
20
80
T: 温度 [oC]
T: 温度 [oC]
80
60
R410A COP = 9.1
理想サイクル
図左の CO2 冷媒のサイクル
は、図右のR410Aに比べ、
一点鎖線で示した理想サイ
クルの形に近く、COPが高
くなる。
40
20
飽和線
飽和 線
0
1.0 1.2 1.4 1.6 1.8
S: エントロピ [kJ/kg・K]
0
1.0 1.2 1.4 1.6 1.8
S: エントロピ [kJ/kg・K]
図3 CO2とR410Aの上限COPとなるサイクルのT-S 線図(JRA 定格条件の値)
57
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主要な研究成果
火力・原子力高温圧力機器の構造設計および
余寿命評価のための各種簡易構造健全性評価法の開発
背 景
我が国のボイラ、圧力容器等の発電用圧力機器の構造設計に適用される設計規格* 1 には円筒などの 2 次元形
状の応力解析を前提とする処理(応力分布の線形近似)を含む簡易構造健全性評価法が採用されている。この
ため 3 次元形状の機器に対する簡易構造健全性評価法は確立されていない。米国高速炉設計規格* 2 に採用され
ている詳細非弾性解析に基づく評価法ではひずみの線形近似処理が必要とされ、同様な問題を含んでいる。ま
た、詳細非弾性解析は弾性解析よりも解析に要する労力が高い上、荷重履歴の依存性の取扱方法等が明確化さ
れていないため、評価結果が解析者の考え方に依存し得る。これらの問題点は機器の保守管理にあたって重要
性が増しているき裂状損傷の余寿命評価法にも共通している。
目 的
発電用高温圧力機器を対象として、3 次元解析を行った場合でも構造設計およびき裂状損傷の余寿命評価を
容易にし得る、弾性解析を基調とした簡易構造健全性評価法を開発する。
主な成果
べき乗型の関数で表される簡便な応力−ひずみ曲線* 3 を用いた弾塑性解析から得られる各種の構造応答パラ
メータを活用する各種の簡易構造健全性評価法を開発した。これらのパラメータは荷重の大きさや機器の寸法
に依存せず、パラメータの値が既知の形状であれば、弾性解析に基づく構造健全性評価が可能となる。また、
弾塑性解析から決定したパラメータは同一応力指数* 3 を持つクリープ問題にもそのまま適用できる。
1.構造設計法の開発
既存の弾性解析に基づく設計規格が求める「荷重制御型応力」、
「クリープ疲労損傷」および「累積ひずみ」
の評価について、2 次元解析を前提としない簡易評価法を開発した。
荷重制御型応力については、米国軽水炉設計規格* 4 における極限解析法について検討し、これまで明確で
なかった複数荷重の取扱法の力学的根拠を与えた。また、極限解析法と不整合を持つ同規格の二倍勾配法を
改良した「弾性勾配減少法」を新たに提案し、極限解析法との整合を確認した(図 1 −(1))。
クリープ疲労損傷については、我が国の高速炉設計方針* 5 に採用されているピークひずみおよびクリープ
中のピーク応力緩和履歴の評価に用いられる「弾性追従係数」の性質を検討し、弾性追従係数が熱応力に対
する収束性を持つことを初めて示し、その収束値を荷重の大きさによらず一定値として用いるピークひず
み・ピーク応力緩和履歴の簡易評価法を提案し、その妥当性を確認した(図 1 −(2))。
累積ひずみについては、米国高速炉設計規格が求めるひずみの線形近似を要さない「相対弾性核寸法」に
基づく評価法を提案し、提案法が既存手法と同等な許容応力を与えることを確認した。
2.非弾性 J 積分評価法の開発
き裂の進展予測に用いる非弾性 J 積分(疲労に対する弾塑性 J 積分とクリープに対するクリープ J 積分)に
ついて既存の簡易法を改良し、精度向上および適用範囲の拡大を図った。
荷重制御下での参照応力法* 6 の精度を向上させる実断面応力補正係数および極限荷重補正係数を導入し、
その効果を確認した。また、高温保持開始直後のクリープ J 積分が高い状態(小規模クリープ状態)を考慮
する手法を新たに提案し、その妥当性を確認した(図 2 −(1))。
熱膨張等の変形が与えられる条件下(変位制御下)で、参照応力に対する弾性追従係数の決定法を初めて
明確化し、変形量に対する収束性があることを初めて示した。さらに得られた収束値を一定として用いる簡
便な方法によって、非弾性 J 積分を高精度で近似可能とした(図 2 −(2))。2 次元解析を前提としない熱応力
下でのクリープ J積分評価法を初めて提案し、その妥当性を確認した(図 2 −(3))。
今後の展開
構造設計手法は発電用設備規格への反映を働きかけ、700 ℃超級先進超々臨界圧ボイラ等の設計合理化に資
する。き裂状損傷評価法は火力高温機器の余寿命評価技術の高度化・簡便化に反映する。
主担当者
関連報告書
エネルギー技術研究所 プラント工学領域 上席研究員 藤岡 照高
「無次元化構造応答パラメータに基づく発電用高温圧力機器の簡易構造健全性評価法の開発」
電力中央研究所総合報告: M03(2007 年 8 月)
* 1 :日本機械学会発電用火力設備規格および発電用原子力設備規格
* 2 : ASME, Boiler and Pressure Vessel Code, Section III, Subsection NH
* 3 :弾塑性に対する Ramberg-Osgood 則およびクリープに対するNorton 則のこと、その乗数を応力指数と呼ぶ
* 4 : ASME, Boiler and Pressure Vessel Code, Section III
* 5 :高速増殖原型炉(もんじゅ)の高温構造設計方針(科学技術庁内規)
* 6 :英国の構造健全性評価手順書(R5 および R6)に取り入れられている簡易非弾性J積分評価法
94
6.化石燃料発電
内圧と軸力の組合せを受ける複雑形状容器の解析により、二倍勾配法に
替わる弾性勾配減少法(減少弾性勾配と非弾性解析結果との交点で極限
荷重(荷重の許容性判定に使用する)を決定)が極限解析法と整合する
極限荷重を与えることを確認
1.0
1.0
極限荷重の高さ
0.8
Pressure
内圧
(MPa)
内圧 (MPa)
(MPa)
内圧 (MPa)
Pressure
(MPa)
0.8
0.6
極限解析結果
Tensile
axial+引
load 張軸力
内圧
内圧+圧
Compressive
axial縮軸
load 力
内圧
のみ
No axial
load
0.4
0.2
非弾性解析結果
内圧axial
+引
張軸力
Tensile
load
内圧+圧
縮軸
力
Compressive
axial
load
のみ
No内圧
axial load
RES
減少弾
性for
勾TAL
配
RES
for CAL
内圧
+引張軸力
RES
for NAL
内圧
+圧縮軸力
内圧のみ
0.6
0.4
0.2
0.0
0.0
2.0
4.0
6.0
8.0
0.0
0.0
10.0
2.0
Displacement
(mm)
変形量 (mm)
4.0
6.0
8.0
10.0
Displacement
(mm)
変形量 (mm)
(1)荷重制御型応力の評価法
応力集中部を持つノズル形状の解析により、べき乗型の簡便な応力−ひず
み曲線を仮定した弾塑性解析から得られる弾性追従係数の収束値を一定と
して使用し、弾塑性状態でのピークひずみやクリープ中応力の緩和履歴を
精度よく評価できることを確認
600
クリープ中のピーク応力(MPa)
弾塑性状態でのピークひずみ
0.004
詳細弾塑性解析結果
(
(応力指数=10)
FEA solution (m=10)
簡易ピークひずみ評価法(
法(使用した弾性追従係数)
simplified method using qp for m=10
(応
(応力指数=10に対する収束値)
simplified method using qp for EPP
(
(応力指数→∞に対する収束値)
0.003
0.002
0.001
0.000
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
5.0
500
400
300
200
詳細クリープ解析結果(
(応力指数=10)
=10)
FEA solution (n=10)
100
簡易ピーク
応力評価
法
(
(使using
用した
性m=3
追従係数)
)
simplified
method
qp弾for
simplified
method
using
qp性解
for m=10
(応
(応力
指数=3に
対する
弾塑
析での収束値)
simplified method using qp for EPP
(応
(応力
指数=10に対する弾塑性解析での収束値)
((応力指数→∞に対する弾塑性解析での収束値)
0
-1
10
10
0
弾性解析によるピーク応力/
降伏強さ
1
10
10
2
10
3
10
4
5
10
保持時間(時間)
(2)熱応力下ピークひずみ、ピーク応力
緩和履歴の簡易評価法
図1 2次元解析を前提としない構造設計法の妥当性検証例
変位制御下での弾性追従係数決定法を初め
て具体化し、き裂入り平板における弾塑性
J 積分を精度よく評価することを確認
10
-1
10
-2
10
-3
10
-4
10
-5
10
-6
10
-7
10
-8
0.010
10
既存の参照応力法
極限荷重補正係数を用いた参照応力法
既存の小規模クリープ状態評価法
本研究提案の極限荷重補正係数と小規模クリープ状態評価法
0.008
弾塑性J 積分(MN/m)
クリープJ 積分(MN/m hr)
詳細ク
ープ解析結果
FEMリ
solution
(a/w=1/4, without primary creep)
Method
str ss method (original)
簡易評価
法 A Reference stress
2次元解析を前提としないクリープ J 積分評価法を
初めて提案し、熱応力を受けるき裂入り円筒にお
けるクリープJ 積分を精度よく評価することを確認
4
詳細弾塑性解析結果
FEA
solution=3
(m=3)
応力指数
FEA
solution=5
(m=5)
応力指数
FEA
solution=10
(m=10)
応力指数
詳細クリープ解析結果
10
Reference
stress重補正
method係数を
(m=3, enhanced)
簡易評価
法
法(
(極限荷
用いた参照応力法)
Reference stress method (m=5, enhanced)
応力指数=3
Reference stress method (m=10, enhanced)
応力指数=5
応力指数=10
クリープJ 積分(MN/m hr)
小規模クリープ状態の考慮方法を提案し、荷
重保持を受けるき裂入り円筒におけるクリー
プJ 積分を保持時間によらずに精度よく評価
することを確認
0.006
0.004
0.002
簡易評価
法
簡易評価法
ノイバー法に基づく定常クリープ解(本研究で初めて提案)
既存の小規模クリープ状態評価法
本研究提案のノイバー法と小規模クリープ状態評価法
2
10
0
10
-2
10
-4
10
-2
10
-1
10
0
10
1
10
2
10
3
10
4
保持時間(hr)
(1)小規模クリープ状態を含む
荷重制御下クリープJ 積分
0.000
0.0
0.5
1.0
1.5
2.0
弾性解析による公称応力/
降伏強さ
2.5
3.0
-6
10
-3
10
10
-2
10
-1
10
0
10
1
2
10
10
3
10
4
保持時間(hr)
(2)変位制御下での弾塑性J 積分 (3)熱応力下でのクリープJ 積分
図2 2次元解析を前提としない非弾性J 積分簡易評価法の妥当性検証例
95
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主要な研究成果
数値シミュレーションによる実証機石炭ガス化炉の
ガス化特性予測
背 景
250MW 級 IGCC 実証機計画では、その実施主体である(株)クリーンコールパワー研究所により建設が進め
られており、平成 19 年度より実証試験が開始される予定である。実証機計画の成功に向け、実証試験におけ
る供試炭のガス化炉特性の予測・評価を通じ運転段階での支援を行うことが重要である。
目 的
数値シミュレーション技術を中心とする炭種適合性評価手法(図 1)* 1 * 2 を用いて、性能表示炭* 3 使用時に
おける実証機ガス化炉特性への運転条件の影響を予測する。
主な成果
当研究所が開発した炭種適合性評価手法により、性能表示炭に対しベース空気比* 4 ± 4%の範囲で実証機石
炭ガス化炉の解析を行い、以下の結果を得た。
1.流動状態および粒子挙動
本研究の空気比範囲では、200t/日パイロットプラント石炭ガス化炉内とほぼ相似な旋回流が形成され、
ガス流動状態は良好なことがわかった(図 2)。しかし、高空気比条件では、高温状態の粒子がリダクタへ
流入しており、スロート部から後流の炉壁面への灰粒子付着に注意を要することがわかった(図 3)。
2.主要なガス化性能
空気比がベース条件から 4%低下すると、生成ガス発熱量は約 4%上昇し、冷ガス効率* 5 は約 2%向上する
(図 4)。しかし一方で、生成チャー量は約 37%増加する可能性があり(図 5)、チャー回収系容量を超えない
空気比を決定する必要がある。
3.溶融スラグ排出性
コンバスタ底面のスラグ層厚さは、空気比が 4%低下すると約 13%厚くなるものの、溶融スラグ排出に対
する不安定化要因のスラグ溜まりにおけるオーバフロー* 6 は観察されなかった。一方、空気比が 4%上昇す
るとスラグ層暑さは約 17%薄くなるものの、熱遮蔽効果のあるスラグ層が極端に薄くはならないことがわ
かった。
(図 6)。
4.溶融スラグ飛散性* 7
高空気比条件ほどスロート部壁面近傍のガス流速が上昇するため、液滴飛散限界* 8 に近づくものの、ベー
ス空気比± 4%の空気比範囲では溶融スラグ飛散の可能性は低いことがわかった(図 7)。
今後の展開
適用炭種拡大に向けた候補炭のガス化炉特性を予測するとともに、実証試験データによるガス化炉特性の評
価を行う。
主担当者
関連報告書
エネルギー技術研究所 燃料改質工学領域 主任研究員 渡邊 裕章
「商用規模石炭ガス化炉のガス化特性・炭種適合性評価技術の確立」電力中央研究所報告:
M06401(2007年 4 月)
* 1 :ガス化炉内現象数値解析ツール(電力中央研究所報告: W99015)
* 2 :溶融スラグ流動伝熱解析ツール(電力中央研究所報告: W03021)
* 3 :性能表示炭:プラント性能を算出するための炭種
* 4 :空気比:ガス化炉に投入された空気流量を石炭の理論燃焼空気流量で除した値で、ガス化炉の運転指標
* 5 :冷ガス効率:生成したガス熱量をガス化炉に投入された石炭の化学熱量で除した値で、ガス化炉の効率指標
* 6 :湯口以外からの溶融スラグ流出現象で、スラグ排出不安定化要因の一つ
* 7 :溶融スラグ飛散現象評価手法(電力中央研究所報告: W09031)
* 8 :液滴飛散限界(限界ウェーバー数)を超えると、溶融スラグの飛散現象が発生する可能性が高くなる。
96
6.化石燃料発電/環境・革新技術
石炭A
石炭B
ガス
化炉
象
ガス化
炉内現
現象
数値
解析
ル
数値解
析ツー
ール
ガス化
炉性
能
ガス化炉
性能
簡易
解析プ
ログラム
簡易解析
プロ
石炭C
性状分析値
灰粘度分析
ガス化性能
+
ガス化炉内現象
ガス
応特
性
ガス化反
化反応
特性
基礎
実験
基礎実
験
熱分解反応特性
溶融スラグ伝熱
グ伝熱流動
数値解
析ツ
ール
数値解析
ツー
ガス化反応特性
スラグ排出特性
石炭の燃料比、発熱量、
および灰融点など従来の
炭種評価に加え、数値シ
ミュレーションによる詳
細な炉内現象予測によっ
て、より確度の高い炭種
評価が可能となる。
運転条件範囲の検討
従来の炭種適合性
評価項目
炭種適合性評価
図1 数値シミュレーション技術を中心とする炭種適合性評価のフロー
← 200t/日 炉 とほぼ相似の
旋回流が形成されて お
り、ガス流動状態は 良
好。
実証炉 1700t/日炉
200t/日炉
-4%
ベース空気比
実証炉 1700t/日炉
→ 高 空 気比条件で高温の
粒子がコンバスタ外 に
達するため、灰粒子付着
現象に注意を要する。
-4%
+4%
ベース空気比
+4%
図2 実証炉の垂直断面流速ベクトル(色は軸流速)
図3 実証炉内の粒子軌跡(色は粒子温度)
図4 生成ガス発熱量と冷ガス効率の比較
図5 炉内炭素転換率と生成チャー量の比較
低空気比化により生成ガス発熱量と冷ガス効率が向上するが、一方で生成チャー量が増大するの
で、チャー回収系容量により運転空気比を決定する必要がある。
図6 生成ガス発熱量と冷ガス効率の比較
図7 炉内炭素転換率と生成チャー量の比較
本研究の空気比範囲では溶融スラグのオーバフローと飛散現象が発生する可能性は低い。
97
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主要な研究成果
フライアッシュ添加による IGCC スラグの高付加価値化
(発泡性改善)
背 景
石炭ガス化複合発電(IGCC)では石炭中の灰分がスラグとして排出される。この IGCC スラグを高付加価
値化すれば、副産物収入の増加により運用コストが低減され、IGCC の商用化支援につながるものと考えられ
る。当所は、スラグの加熱発泡特性に着目して軽量骨材への利用を検討し、前報で Si、Al の含有量に注目し
て推奨スラグ組成を示した* 1。しかし、推奨スラグ組成から大きく外れ、スラグ発泡性の低い(発泡体密度の
大きい)炭種もみられるため、スラグ発泡性の改善技術が不可欠である。また、様々な炭種、幅広い組成のス
ラグに対応するには、Fe 含有量が発泡性に及ぼす影響の評価も必要であり、Fe 分を多く含むスラグ
(Fe2O3>10%)のデータ拡充が求められている。
目 的
これまでに発泡性を評価した炭種の中で、発泡性の低い DL 炭を対象として、スラグ発泡性改善法を検討す
る。また、発泡性をまだ評価していない炭種のうち、Fe 分を多く含む高 Fe スラグ(DD 炭、IL 炭、TH 炭、
Fe2O3>10%)に注目し、その発泡性を評価する。(DL 炭、DD 炭は中国炭、IL 炭は米国炭、TH 炭はインドネ
シア炭である。)
主な成果
1.既検討炭種のうち発泡性の低いスラグを用いた、スラグ発泡性改善法の検討
(1)パーライト等で発泡性改善に有効とされる予備加熱* 2 等を試みたが、DL 炭スラグに対しては効果が認
められなかった。
(2)当所石炭ガス化研究炉* 3 において、フライアッシュ等を DL 炭(微粉炭)に添加し* 4、灰中の Si ・ Al 成
分を推奨スラグ組成* 1 に近づけた上でガス化したところ(図 1)、排出スラグの発泡性が改善され、軽
量骨材の絶乾密度目標値(1.6g/cm3 以下)を満たす発泡体が得られた(図 2)。スラグ発泡体の軽量骨
材への適用性については検証済み* 5 であり、本発泡性改善技術の開発によりスラグ発泡体の軽量骨材へ
の適用性については基本的に目途がたったといえる。また、IGCC 商用機においてフライアッシュの添
加によるスラグ発泡体製造が実現できるなら、既設微粉炭火力から排出されるフライアッシュの有効利
用拡大につながると期待される。
2.未検討炭種のうち Fe 分を多く含む高 Fe スラグの発泡性評価
(1)供試した高 Fe スラグは 3 種とも発泡性が高く、フライアッシュ添加などの処理なしでも、加熱温度
1050 ℃で絶乾密度 1.6g/cm3(前報目標* 1)以下まで軽量化した(図 3)。
(2)DD 炭スラグは発泡性が高く、1100 ℃の加熱で低密度(0.7g/cm3)、低吸水率(9.7%)の超軽量発泡体
が得られた(図 4)。この超軽量発泡体は、高粘度の生コンクリートでなければ混合し難しいため、現
場でポンプ圧送施工するコンクリート用骨材には適さないが、黒曜石パーライト* 6 に準じた用途へ利用
できる可能性がある。
(3)これまでに得られているデータとあわせてスラグ組成と発泡性の相関を検討した結果、スラグ中の
SiO2 濃度が高いほど発泡性が高いこと、SiO2 濃度 40 ∼ 60%の範囲では Fe2O3 濃度の増加により発泡性
が向上することを明らかとした(図 5)。
今後の展開
発泡体に求められる密度は用途により異なるため、密度制御技術の開発が必要である。組成調整により発泡
性が改善できることは本報で確認されたので、スラグ組成と発泡体密度のデータを拡充し、密度制御技術の確
立を目指す。
また、超軽量発泡体のパーライト用途などへの適用性を評価する。
主担当者
関連報告書
エネルギー技術研究所 燃料改質工学領域 上席研究員 沖 裕壮
「石炭ガス化スラグ有効利用に向けた発泡化技術の開発―フライアッシュ添加によるスラグ
発泡性の改善―」電力中央研究所報告: M06006(2007 年 4 月)
* 1 :スラグ中 SiO 2 50 ∼ 60%、Al 2 O 3 10 ∼ 30%であれば、絶乾密度 1.6g/cm 3 以下で、吸水率が市販軽量骨材の 1/2
(6%)以下の高品質な軽量骨材が得られることを示した。
(電中研報告W03040)
* 2 :土木・建設用途に利用されるパーライトは、黒曜石などの天然鉱石を加熱して得られる発泡体であるが、焼成前
に 500 ∼ 700℃で5 ∼ 6 分予備加熱すれば、未処理時より10∼ 40%軽量化される。
* 3 :原三郎ほか、「石炭ガス化技術実用化にむけた 3 トン/日石炭ガス化研究炉の開発」、電力中央研究所報告、
M05009、
(2006)
* 4 :微粉炭コンベアの点検口から微粉炭 500kg(灰量 30kg)に対しフライアッシュ 20kg、珪砂 15kgを添加した。
* 5 :黒曜石パーライト(吸水率 10 ∼ 30%)は、排水性改善用の土壌改良材などに用いられる。
* 6 :蔵重勲ほか、
「石炭ガス化スラグの高付加価値化有効利用技術の開発」
、電力中央研究所、N05040、(2006)
98
6.化石燃料発電/環境・革新技術
SiO2
4
s
3
3
簡易計測密度(g /cm )
高品質な軽量骨材を
製造できる
1
1)
スラグ組成範囲* *
●
フライアッシュ
添加による
発泡性改善
●
DL炭+フライアッシュ(試料A)
DL炭+フライアッシュ(試料B)
DL炭(フライアッシュ未添加)
*試料A、試料Bは、同一条件で
生成された同一性状品
( 採取時刻が異なる)
フライアッシュ添加
による発泡性改善
2
↓
人工軽骨目標(参考)
絶乾密度<1.6g/cm3
1
DL炭
●
DL炭+フライ
+フライ
アッ
アシュ
ッシュ
●
0
900
The Others
Al 2 O3
1100
1000
1200
加熱温度(℃)
図2 フライアッシュ添加による発泡特性の変化
図1 フライアッシュ添加による組成調整
(簡易計測密度は、
24 時間吸水後乾燥して計測する絶乾密度より大となる)
もともとDL炭スラグは発泡性が低いが、
フライアッシュなどを混合してガス化すると発泡性が向上する。
4
GroupⅡ
Group Ⅰ ● Fe2O3>10%
2
↓
人工軽骨目標( 参考)
絶乾密度<1.6g/cm3
1
1100
2
Group Ⅲ
1
0
1000
Group Ⅱ
3
↓
水より軽い
超軽量発泡体
900
▲ Fe2O3<10% and SiO2 50∼52%
3
密度(g / cm )
DD炭
IL炭
TH炭
GrⅠSiO2<40%
GrⅡ40%<SiO2<60%
GrⅢSiO2>60%
黒曜石
(推算密度)
0
1200
0
20
40
加熱温度( ℃)
60
80
100
SiO2 (wt%)
図3 高Feスラグの発泡特性
(1)スラグ中SiO2濃度との相関
4
DD炭スラグは発泡性に優れ、
水に浮くまで軽量化できる。
人工軽量骨材以外への用途拡大が期待される。
Group Ⅱ
● Fe2O3>10%、SiO2 40∼60%
3
3
密度 (g / cm )
簡易計測密度(g / c m3)
3
2
1
0
10
15
20
25
30
Fe2O3 (wt%)
(2)スラグ中Fe2O3濃度との相関
図5 スラグ化学組成と発泡性の相関
図4 超軽量発泡体
(DD炭1100℃加熱試料)
前報で注目したSi分、
Al分だけでなく、
Fe分も
スラグ発泡性に影響を及ぼすことが明らかとなった。
99
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主要な研究成果
DME を用いた下水汚泥の超高効率脱水
背 景
石炭、廃棄物、バイオマスなどの高含水固体を低コストで脱水するニーズが高い。これまでに開発されてき
た脱水手法は、基本的に固体の水分を高温で蒸発させるため、所要エネルギーが大きい。当所では高含水の低
品位炭を主な対象に、常温で若干加圧すると液体になるジメチルエーテル(DME)* 1 を用いて、石炭内の水
分を抽出して脱水し、脱水後に減圧して DME を蒸発させて、残った水分を分離する手法を開発してきた。
目 的
DME 脱水法の適用対象を小規模でも実用化が可能な物質へと拡大し、速やかな実用化を図ると共に、最終
的ば目標である石炭脱水プラントへの段階的スケールアップを可能にする。
主な成果
1.様々な高水分固体の脱水に成功
下水汚泥、食物残渣、生花などの、廃棄物やバイオマスを対象に DME 脱水法を適用し、いずれに対して
も高い脱水性能を有する事を明らかにした。これらの物質の中から、最も有望な下水汚泥を対象にした。
2.プロトタイプ(試作機)による汚泥脱水試験
当所が設計、開発した試作機を用い、同装置に充填した 3.2kg の汚泥ケーキ* 2(水分 78%)に液化 DME を
流した結果、汚泥の水分が 30%に激減した。また、脱水後の汚泥は黒色から灰色に脱色され(図 1)、臭い
も殆ど無くなった。一方で、汚泥の油脂(臭いの元)が排水に移行することにより、排水は黒く濁り(図 2)、
悪臭が酷くなることが明らかになった。このため、油脂が水に溶けにくく DME に溶けやすいという性質を
利用した、排水浄化法を考案し、基礎実験に成功した。
3.実機を想定した DME 脱水プロセスの性能試算による、省エネルギー脱水
以上の成功を受けて、実機に近い脱水能力 76 ton/日(褐炭で 114ton/日、汚泥で 97ton/日)を想定したプ
ロセス(図 3)を設計した。蒸留塔(i)で一部の DME を蒸発させずに残し、その後談の DME/水分離器で、
液化 DME 層に油脂を溶かし、水層には油脂を溶かさずに水層を抜き出すことで、排水浄化が可能になる。
更に、DME ガスや、DME と水の混合液について物性を詳細に計算し、厳密に脱水プロセスの所要エネル
ギーを試算した。その結果、理論上、常温(50 ℃未満)において、DME の損失を 1 %未満* 4 に抑えつつ、
投入エネルギーが 1100kJ/kg―水で脱水できることを明らかにした。
4.下水熱利用による投入エネルギー「ゼロ」運転の可能性
DME 脱水プロセスは、常温で DME の蒸発と凝縮を繰り返す。一方、下水は年間を通じて温度が 20 ∼
25 ℃でほぼ一定(図 4)であるので、DME の蒸発と凝縮の熱源として下水熱と大気熱が利用でき、冬期を
中心に年間の 1/3の期間で、「DME の蒸発と凝縮」部分への投入エネルギーがゼロの運転が可能である。
(なお、本研究の一部は、ガス化学関連会社、汚泥関連メーカーとの共同研究として実施した。)
今後の展開
残された課題である、DME と汚泥ケーキの高効率な接触方式を確立できれば、実用化の目処が立つ状態に
なったため、DME 脱水プロセスの早期の実用化に向け、本脱水プロセスの各構成要素を最適化し、理論値に
近い省エネルギー脱水が可能な、数 ton/日以上の規模のテストプラントを開発する。
主担当者
関連報告書
エネルギー技術研究所 燃料改質工学領域 主任研究員 神田 英輝
「液化 DME を水分抽出剤として用いる高水分炭の脱水プロセスの概念設計と所要動力の試
算」電中研研究報告: M06004(2007 年 5 月)
* 1 :標準沸点は− 25 ℃、5 気圧では沸点 20 ℃。液化状態の DME には水分が溶ける。中華人民共和国で、LPG より安
価な代替燃料として急激に普及中の合成燃料でもある。既存の最も高効率とされるプロセスの原理上の投入エネ
ルギーは約 2100kJ/kg 水である。
* 2 :下水が、微生物処理、凝集剤添加による沈殿、遠心分離、ベルトプレス等の工程を経て、最終的に得られる下水汚
泥の形態。水分78%が脱水のほぼ限界であり、
「1%」の性能向上を巡ってメーカーが技術開発をする状況にある。
* 3 :蒸発した DME ガスを圧縮機で昇温・昇圧して凝縮して、高温で生じる凝縮潜熱は、低温での蒸発潜熱の全てを
賄うことが出来ない。これは、高温ほど凝縮潜熱が小さくなる物理法則と、蒸発側の DME には蒸発しにくい水
分が溶けていることが原因である。
* 4 :DME 損失量が多いと、脱水プロセスのコストが高くなる一方で、DME 損失量が少ないと、ロス分の DME の製
造コストが高くなるので、今回は暫定的に DME の損失を1 %に設定した。
(これらの成果は、2004 年 日本エネルギー学会奨励賞、2006 年 粉体工学会技術賞、2007 年 日本化学会講演奨励賞を
受賞した。)
100
6.化石燃料発電
40
下水温度
最高気温
最低気温
35
30
温度((℃
℃)
25
20
15
この温度差を、
DMEの蒸発
と凝縮のサイクル
に利用可能
10
5
0
図1 脱水後の下水汚泥
図2 脱水で生じた排水
−5
4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月
月 11月
月 12月
月 1月 2月 3月
図4 下水温度と気温の季節変動の概念図
常温で汚泥の水分を30%へと脱水できた事は画期的で
ある。同時に黒色から灰色に脱色され、脱臭もできた。
逆に排水は茶褐色になり、悪臭が酷かったが、これを
解決する排水浄化技術も開発し、基礎実験に成功した。
高水分炭や
汚泥ケーキ
圧縮機
沈降槽
DME
(損失分補給)
脱水槽
フラッシュ
蒸留塔
(i)
減圧弁
脱水物
DME/水
分離器 (DME層)
加熱器
フラッシュ
蒸留塔
(ii)
排水
(水層)
圧縮機
水
フラッシュ
蒸留塔
(iii)
都市の冷暖房の廃熱は下水を通
して、都市全体から下水処理場
に集まる。このため、下水の温
度は一年中ほぼ一定である。
DME脱水は、常温でDMEの蒸
発と凝縮を繰り返す。下水の都
市廃熱と大気の温度差を利用す
れば、エネルギーゼロの究極の
省エネ脱水が可能になる。
冷却器
蒸留塔(i)でDMEの95%を回収で
きる。残りの5%をDME層と水
層に分離して、各々を抜き出し
てDMEを回収することで、水
1kgを1100kJで脱水する(既存
の半分のエネルギー)、驚異的
な省エネルギー脱水と排水浄化
が可能になる。
排水
図3 DME脱水プロセスの構成
101
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主要な研究成果
熱物質収支解析に基づく
発電プラント性能劣化診断技術の高度化
背 景
電力市場自由化と地球環境問題の観点から、発電プラントにおいては熱効率の維持・向上とコスト低減が求
められており、そのためには性能劣化要因を究明し、速やかに対策を行うことが必要である。しかし、計測
データのみではプラントの内部状態を十分に把握することができず、性能の劣化要因を特定することが困難で
ある。また、プラントの性能は大気条件(温度、圧力、湿度)や海水温度等の影響も受けるため、これらを標
準状態に換算した性能比較が求められている。
目 的
発電プラントの計測データを有効に活用し、逆解析による計測困難な状態量や機器性能の推算、大気や海水
条件を標準状態に換算した性能比較、運転条件を変更した場合のシミュレーション等が可能な発電プラントの
運用管理支援ツールを開発する。さらに本ツールを活用して発電プラントの性能劣化診断を行う。
主な成果
1.発電プラント運用管理支援ツールの開発
発電プラントの熱物質収支解析を行う当所開発の「発電システム熱効率解析汎用プログラム(EgWin)」
を中核とし、発電プラントの効果的な保守・運用を支援するツールを開発した。その主な特徴は次の通りで
ある。
・管理用計算機内の膨大な計測データを有効活用した運転データ自動読込機能、連続計算機能による計測困
難な状態量、機器性能の逆解析
・データベース化機能を活用した容易なデータ検索・閲覧とグラフ化による経年変化の把握、大気条件と機
器性能などとの相関関係の把握(図 1)
・オンライン・自動解析機能(管理用計算機の運転データをある周期毎に自動的に保存し、そのファイルの
データを自動的に読み込んで熱物質収支計算を行う機能)による、熱効率管理業務の省力化、簡略化(図2)
2.発電プラントの性能劣化診断例
(1)コンバインドサイクル発電所における圧縮機性能解析
蓄積された解析データにより圧縮機の性能関数を作成し大気条件を標準状態へ換算することにより、運
転開始時と現在の圧縮機断熱効率を同一条件下で比較評価し、真の性能低下量を明らかにした(図 3)。
(2)熱効率低下要因の特定
機器効率、運転条件等の変化に応じて、大気条件、海水温度を標準状態に換算した上でそれら個々の因
子が熱効率に与える影響を定量的に算出し、熱効率低下の主要因を特定した(図 4)。
今後の展開
EgWin の使用許諾契約は全電力会社に及び、大学や高専でも研究・教育用として活用されており、既に利
用本数は 200 本を超えている。また、支援ツールを活用した性能劣化診断や運転条件変更シミュレーションを
実施した発電所の数も 20 件を超え、熱効率改善の検討に貢献している。今後、発電プラントの運用管理の高
度化に向け、更なる運用支援ツールの機能強化と熱効率低下要因の詳細解析手法の開発を行いたい。
主担当者
エネルギー研究所 プラント工学領域 主任研究員 高橋 徹
関連特許
登録番号 3857840「システム解析方法及びこれを利用したシステム解析装置並びにシステム
解析プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体」
(平成 18 年 9 月 22 日登録)
102
6.化石燃料発電/先進保守技術
標準状態に換算することにより、
圧縮機断熱効率の真の低下量を
把握・
・評価
圧
縮
機
断
熱
効
率
データを読込んで連続し
て熱物質収支解析実行
実機データに基づく圧縮機特性
運転開始時
(%)
標準大気状態
機器性能変化傾向
の把握などが容易
現在
実測 値
入口空気密度 (kg/m3)
図3 標準大気条件に換算した機器性能経年劣化評
熱
効
率
増
減
値
︵
%
︶
図1 連続計算、
データベースによる機器性能経年変化グラフ
発電所既設設備
テキストファイル(1)
・
・入力データ
要因A
要因B
要因C
要因D
要因E
要因F
要因G
要因H
各要因が熱効率に与える影響
を 定 量 的に算出するこ とで
熱効率低下の主要因を特定
図4 要因毎の熱効率に与える影響
発電プラント運用
管理支援ツール
設定時間毎に
入力データ有無チェック
EgWin
・熱効率解析
テキストファイル(2)
ユニット管理計算機
・
・PI
PID番
D番号
・
・機器名
・
・プロパティ名
の関連付け
・データベース
・機器性能関数
更新
発電所毎作成
発電所毎の
ノウハウ蓄積
図2 オンライン自動解析システムの概要
103
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主要な研究成果
バイオマスガス化ガス用多成分対応乾式ガス精製システムの開発
―酸化亜鉛脱硫剤および高性能ハロゲン化物吸収剤を適用したプロセスの構築―
背 景
小中規模高効率発電として期待されるバイオマスガス化発電システムに適したガス精製技術として、当研究
所は簡素で運用性の高い乾式ガス精製システムの開発を進めている。本システムの構成を簡素にするため、同
じ運転温度で運用できる脱硫剤(H2S、COS 等を除去)とハロゲン化物吸収剤(HCl、HF を除去)が必要で
ある。硫黄化合物を低濃度(<1ppm)まで除去するには市販の酸化亜鉛脱硫剤が有望であるが、高濃度の水
蒸気がある場合、COS の除去性能の不足が懸念される。一方で、成形ハロゲン化物吸収剤* 1 については、当
研究所はナトリウム系吸収剤の基本製造法を確立したが、実機への適用のために、塩化水素の吸収容量を一層
向上させると共に、適切なプロセス設計が必要である。
目 的
脱硫剤のスクリーニングならびにハロゲン化物吸収剤の改良を進め、実用に適したバイオマスガス用の乾式
ガス精製プロセスを提案する。
主な成果
1.酸化亜鉛脱硫剤の適用性評価
市販品からスクリーニングした酸化亜鉛脱硫剤は、実機規模の運転を想定した条件で評価すると、COS
の除去には最も厳しいと想定される高い水蒸気濃度(28vol%)下において、僅か 10cm の脱硫剤層で長時間
にわたり H2S と COS を 1ppm 以下に低減できた(図 1)。この結果から、実際の乾式脱硫プロセスにおいて脱
硫剤を 60cm 以上の層高で充填すれば、同じ反応条件での脱硫剤の交換期間は 3 ヶ月以上で運用できると試
算された。
2.吸収剤運用コストの低減が可能なハロゲン化物除去プロセスの提案
ナトリウム含有量を増やすと共にグラスファイバーを添加して吸収剤のハロゲン化物吸収量向上と成形体
強度の両立を図った改良型吸収剤を試作した。この吸収剤は工業プロセスに適用可能な強度を有し、実機の
運転を想定した条件で長時間 ppm レベルの除去が可能である(図 2)。さらに排ガス処理用に用いられる安
価な消石灰を吹き込んで塩化水素を除去する粗精製と、成形吸収剤を用いた精密精製との二段除去プロセス
とすることで、成形吸収剤の交換頻度や消費量の低減が可能である(図 3)。
本研究の一部は、独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)との共同研究として実施した。
今後の展開
高温乾式ガス精製設備(処理ガス量: 200m3N/h)を用いて、当研究所のバイオマス炭化ガス化実験設備で
製造した実ガスを対象として、脱硫プロセスおよびハロゲン化物除去プロセスの性能や実用性を検証する。
主担当者
関連報告書
エネルギー技術研究所 燃料・燃焼工学領域 上席研究員 小林 誠、主任研究員 布川 信
「多成分対応乾式ガス精製システムの開発―酸化亜鉛脱硫剤のバイオマスガス化ガスにおけ
る脱硫性能評価―」電力中央研究所報告: M06008(2007 年 2 月)、「多成分対応乾式ガス精
製システムの開発―成形ハロゲン化物吸収剤の性能向上とシステム化検討―」電力中央研究
所報告: M06009(2007年 1 月)
* 1 :電力中央研究所 研究報告 M05017「多成分対応乾式ガス精製システムの開発―成形ハロゲン化物吸収剤の製造
法策定と適用性評価―」
108
7.新エネルギー/環境・革新技術
バイオマスガス化ガス組成(杉チップ相当, 水蒸気濃度 28 vol%)
300℃,0.2 MPa, SV 1,000 h-1,H2S, 400 ppm, COS, 100 ppm
15 ppm
10
H2S
H2S + COS
1
COS
0.1
分析計の検出下限
0
10
20
30
40
50
60
脱硫剤層の硫化率 [%]
図1 酸化亜鉛脱硫剤の実使用条件での脱硫性能評価
酸化亜鉛脱硫剤は、バイオマスガス中の水蒸気濃度(28 vol%)の高い場合でも、安定して硫黄化合
物(H2SとCOS)を除去し、長時間にわたり1ppm以下を維持することができる。
50
出口塩化水素濃度[ ppm]
出口硫黄濃度 [ ppm]
100
温度:300℃ 圧力:常圧 ガス流量:1000 ml/min
試料重量:35g 空間速度(SV):1000 h-1
CO:17% CO2:8.5% H2:25% H2O:28%
HCl:500ppm N2:Balance
40
30
改良型成形吸収剤
従来型成形吸収剤 破過開始時間
約125時間
20
10
0
破過開始時間
約196時間
性能向上
0
2000
4000
6000
8000
10000
12000
14000
経過時間[min]
図2 製造技術の改良によって長時間低濃度除去が可能となった成形吸収剤(大量生産品)
改良型の成形吸収剤は、従来型よりハロゲン化物の吸収容量が向上し、バイオマスガス中のHClを
1ppm以下まで除去できる時間が5割程度延伸した。
精製ガス
HCl,HF
集じん装置
50ppm
1ppm以下
消石灰
ハロゲン化物
除去装置
粗ガス
HCl,HF
500ppm
図3 吸収剤コスト低減のための2段階ハロゲン化物除去プロセス
安価な消石灰の吹き込みによる粗精製と、成形吸収剤による精密精製からなる2段除去プロセスで構
成すれば、成形吸収剤で全量処理する場合に比べて、吸収剤の交換頻度は1/10に、コストは1/8程度
となる見通しが得られた。
109
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