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アメリカオオアカイカの流通 -ペルーを中心として-
アメリカオオアカイカの流通 -ペルーを中心として- 三木克弘(中央水産研究所)・酒井光夫(遠洋水産研究所) 1.はじめに アメリカオオアカイカ(アメアカ)は、メキシコ沖からチリ沖にかけての太平洋東岸に広範囲に分 布する大型のアカイカ類である。アメアカ資源の存在は古くから知られていたが、その産業的利用が 始まるのは 1990 年代に入ってからである。そのきっかけは、1991 年に我が国の大型イカ釣り漁業が ペルー沖でアメアカの漁獲を開始したことにある(図1参照)。さらに翌年以降、ペルー等からのア メアカ輸入が開始されている。この時期、我が国でアメアカに対する関心が高まったのは、それまで アカイカの供給を行ってきたイカ流網漁業が 1992 年末をもって禁漁となることで、アカイカの供給 が逼迫することが予想されたためである。しかし、イカ流網漁業の禁漁後、中型イカ釣り漁業による アカイカ生産が増加し、さらに中国からのアカイカ輸入も開始されたことにより、実際にアカイカの 供給が逼迫したのは 1990 年代前半の短い期間に限られた。その結果、1990 年代には、アメアカを原 料とした製品開発は必ずしも順調に進まず、イカ加工原料としてのアメアカ需要は低迷が続いた。 2000 年以降、それまでイカ加工原料として重要な地位を占めてきた、アルゼンチンイレックス (SA イカ)やアカイカの国内生産が相次いで減少に転じたことで、イカ加工原料に占めるスルメイ カの比重が高まることになるが、スルメイカの生産も減少し、魚価が上昇したことから、安価なアメ アカがイカ加工原料として再評価されるようになっていった。また、イカ加工業者の長年の製品開発 努力の結果、アメアカを原料としたイカ加工品は、従来のアカイカ系の主要用途である惣菜加工品分 野に留まらず、塩辛や乾燥珍味の分野にも拡大していった。こうして、アメアカを原料としたイカ加 工品のシェアが増大した結果、近年加工原料としてのアメアカの重要性が高まっている。 ところが、2000 年以降、アメアカをとりまく環境は大きく変化している。それは、 第1に、アメアカに対する需要が高まる中で、アメアカの供給漁業である大型イカ釣り漁業では、 経営問題により漁船隻数が大幅に減少しており、それに伴いアメアカの国内生産も減少傾向にあるこ と、 第2に、1990 年代半ば以降、沿岸国(ペルー、メキシコ、チリ)によるアメアカ生産が増加した ことで、アメアカに対する国際的な資源配分関係が変化したと考えられること(図2参照)、 第3に、2000 年以降、アメアカの総生産量が急増し、FAO(2007)統計によると、2004 年には 80 万トン水準に達したとされること、 第4に、アメアカ生産の増大は、資源増加や沿岸国の供給力増大の結果であると同時に、アメアカ の需要が増大した結果でもあると考えられることから、海外において、アメアカに対する需要が高ま ってきていると考えられること、等である。 こうした中で、アメアカ資源の開発と利用を先進的に行ってきた我が国においては、近年のアメア カを巡る国内および海外の状況変化を分析した上で、当該資源の利用に対する適正な政策の選択が求 められている。特に、当該資源は今日なお1万トン以上の国内生産(大型イカ釣り漁業)が継続して いることから、今後の大型イカ釣り漁業に対する漁業政策のあり方が問われている。一方、水産加工 原料としてのアメアカの重要性が高まっていることから、水産加工政策の面からも対応が求められて いる。アメアカについては、こうした2つの側面からの検討が不可欠と考えられる。 小稿は、上記の目的に資するため、アメアカに関する情報収集とその分析を目的として行われた国 内およびペルーにおける調査結果を中間段階でとりまとめたものである。なお、本研究は、平成 19 年度交付金プロジェクト研究「アメリカオオアカイカの利用拡大に関する研究開発」の一環として行 われたものである。 ( 万トン) 60 スル メ イカ類計 スル メ イカ アカイカ ア メア カ SAイカ NZイカ 50 40 30 20 10 0 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 '06 '07 図1.イカの種類別国内生産動向 出所:全漁連「魚種別需給動向」より作成 900 その他 中国 メキシコ チリ ペルー 日本 800 漁獲量(千トン) 700 600 500 400 300 200 100 0 '90 '91 '92 '93 '94 '95 '96 '97 '98 '99 '00 '01 '02 '03 '04 '05 図2.アメリカオオアカイカの国別漁獲量の推移 出所:FAO(2007)統計より 2.国内におけるアメアカ需要の増大 (1)アメアカ需要増大の背景 1990 年代に低迷したアメアカ需要が 2000 年頃から増大を始めるのは、その製品市場が拡大してき たからである。アメアカの製品市場が拡大した要因は製品分野によって異なるが、その背景として共 通していることは、各製品市場において低価格品のシェアが拡大してきたこと、アメアカの供給が始 まって 15 年以上が経過したことで、アメアカを原料とした商品開発が進展してきたこと、イカ加工 原料の供給がタイトになってきたこと、等である。以下、各製品分野毎にアメアカ製品市場拡大の要 因をみていく。 (2)イカ惣菜加工品市場におけるアメアカ製品需要増大の要因 かつてアカイカ系の供給が国産アカイカに限られていた時代には、アカイカを原料とする惣菜加工 品は、ロールイカ(脱皮した切身をロール状にして凍結した製品)とそれよりグレードが1ランク下 の製品であるベタ(ロール状でない製品)の2つの1次加工品を中心に、より加工度の高い製品とし て、天ぷら原料やイカロースト、各種惣菜が作られていた。その後、アカイカの国内生産が減少し、 中国からのアカイカ(ベタ)輸入が増加するようになると、アカイカの1次加工品市場ではロールイ カが減少し、輸入ベタを中心とするようになった。こうした中で、アメアカ製品はアカイカ製品の代 替品(低価格品)と位置づけられてきたが、次第にその市場規模を拡大していった。 このように、アカイカ系の惣菜加工品市場は、「国産品のみ(ロールイカとベタ)」→「国産品 (ロールイカとベタ)と輸入品(ベタ)」→「アカイカ製品(輸入品中心)とアメアカ製品」、とい ったように、次第に低価格品への収斂が進む中で、アメアカ製品の市場規模が拡大していった。 (3)イカ塩辛市場におけるアメアカ製品需要増大の要因 アメアカを原料とした塩辛が生産されるようになったのは 1990 年代末といわれる。イカ塩辛の原 料としては、かつて SA イカが使われたこともあるが、近年は、ほとんどスルメイカである。塩辛は イカの部位(胴、耳、足)の配合比率で製品のグレードが決まるが、さらに低価格の製品需要が増大 し、それに対応するためにアメアカの耳とスルメイカの内蔵(ゴロ)を原料とする塩辛が作られるよ うになった。こうした低価格品は薄利多売が求められることから、製造業者は大手に限られている。 (4)イカ乾燥珍味市場におけるアメアカ製品需要増大の要因 イカ乾燥珍味原料としてものアメアカ利用は 2000 年頃からといわれる。アメアカを原料としたイ カ乾燥珍味のうち国内で加工されているものは足製品とクンセイ(クンカン)である。 イカ乾燥珍味市場には、スルメイカを原料とした差別化商品があるが、スルメイカの価格上昇に対 して、製品価格への転嫁が十分に行われていないことから、スルメイカの魚価が上昇傾向となった 2000 年代以降、こうした差別化商品の生産から得られる利益は少なくなってきているといわれる。 こうした中で、製品価格は安いものの原料価格も安いことから加工による利益が確保されるアメアカ 製品のシェアが増加している。 こうした経営的な理由に加えて、アメアカを原料とした乾燥珍味類は、アメアカ特有のボリューム 感や食感をもつことが特徴であるが、これらがイカ乾燥珍味市場において新たな製品市場を形成して きた。こうした製品は、加工技術が高いことから、まだ国内生産が優位な状況にあるといわれる。一 方、アメアカからサキイカも作られているが、これについては主として中国で加工され、2次加工品 として輸入されるケースが大半である。すなわち、アメアカを原料とした乾燥珍味類では、今日国産 品と輸入品が加工技術水準の違いに基づく製品の種類によって市場をすみ分けていると考えられる。 表1.我が国におけるアメリカオオアカイカの利用形態 製品分野 代表的製品 惣菜 塩辛 ステーキ 天ぷら 中華惣菜 原料 主産地 企業規模 備考 八戸 国産切身 三陸 中小 輸入切身、耳(ペルー) その他 アカイカ製品の代替品 国産耳 輸入耳(ペルー) 低価格品 アメアカの耳+スルメイカ のゴロ 函館 大手 気仙沼 輸入半製品(メキシコ、 クンサキ 函館 ペルー) 乾燥珍味 足製品 八戸 白サキイカ 国産下足 中小 零細 アメアカを原料とするクン サキ、足製品は乾燥珍味 市場に新たな市場を形成 中国からの輸入品あり 3.我が国へのアメアカの流通経路 (1)流通経路の概要 図3は、我が国へのアメアカの流通経路を示したものである。アメアカは太平洋東岸に広範囲に分 布しているが、今日我が国に供給されているものは、ペルー沖で大型イカ釣り船によって漁獲され、 八戸に水揚されるもの(原魚形態=耳とり、耳、下足)、メキシコあるいはペルーにおいて地元船に よって漁獲され、現地で1次加工され、輸入されるもの、中国船等が漁獲したものが中国で加工さ れ、輸入されるもの(1次加工品、2次加工品)、さらにはメキシコ、ペルーから中国へ輸出された 1次加工品が、中国で2次加工され、輸入されるもの、とみられる。 アメアカ(メキシコ産) 地元船が漁獲 メキシコで1次加工 1次加工品 大型イカ釣船が漁獲 原魚形態 アメアカ(ペルー産) 日本 1次加工品 地元船が漁獲 ペルーで1次加工 1次加工品 2次加工品 アメアカ 中国船等が漁獲 中国で1次加工 中国で2次加工 図3.アメリカオオアカイカの我が国への流通経路 (2)輸入品の内容 表2、表3は、アメアカ資源の沿岸国から我が国へのアメアカ輸入の実態をみるために、アメアカ が含まれている輸入品目(冷凍イカは統計品目番号 0307.99-129、イカ調製品は 1605.90-219)につい て、主要沿岸国であるメキシコ、ペルー、チリからの輸入動向をみたものである。この3国以外のア メアカ資源の沿岸国としてエクアドルがあるが、我が国へのイカの輸出量は極めて少ない。 冷凍イカとして輸入されるアメアカは、切身、短冊、耳、下足等の1次加工品で、国内では惣菜加 工品もしくは塩辛、乾燥珍味類(足製品)等の原料にされる。これらについては、1990 年代にはメ キシコ、ペルー、チリの3国から輸入されていたとみられるが、2000 年以降はその大半がペルーか らの輸入となっている。 イカ調製品として輸入されるアメアカは、業界で「水ダルマ」と呼ばれるボイルフィーレが中心で ある。これは国内で乾燥珍味類(クンサキ)に加工されている。「水ダルマ」については、ペルーに おいても大量に作られているが、我が国が輸入する「水ダルマ」はメキシコ産が大部分を占めてい る。メキシコには韓国系のアメアカ加工業者が 10 社程度あり、地元船によって水揚げされたアメア カを水ダルマに加工して輸出しているという。なお、アメアカからはサキイカの原料となるダルマ (乾燥ダルマ)も作られているが、これについては、大部分が中国へ輸出され、2次加工品(白サキ イカ)が中国から日本へ輸出されている。 統計にみられるように、沿岸国から我が国へのアメアカ輸入はメキシコとペルーが大部分を占め、 このうちメキシコからは調製品の輸入が多く、ペルーからは冷凍品の輸入が多い。一方、中国から輸 入されるアメアカが相当量あるものとみられるが、これは中国船等が漁獲し中国で1次、2次加工さ れたものと、沿岸国から輸入された1次加工品が中国で2次加工品されたものと考えられる。 表2.アメリカオオアカイカ沿岸国からの冷凍イカの輸入動向 メキシコ 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 数量(t) 0 0 0 0 0 247 1,036 2,130 0 164 24 0 0 0 74 0 0 0 金額(100万円) 0 0 0 0 0 47 190 378 0 25 4 0 0 0 10 0 0 0 単価(円/kg) 0 0 0 0 0 192 184 177 0 152 150 0 0 0 129 0 0 0 ペルー 数量(t) 金額(100万円) 単価(円/kg) 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 0 277 332 4,108 722 157 1,730 0 139 702 574 228 1,309 1,909 3,110 4,734 7,748 0 0 60 77 1,070 195 45 522 0 28 140 97 32 211 347 363 439 732 0 0 217 231 261 270 286 302 0 201 200 169 141 162 182 117 93 94 チリ 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 数量(t) 0 0 1,475 2,521 54 80 0 0 0 0 0 0 20 0 22 23 25 81 金額(100万円) 0 0 419 587 17 8 0 0 0 0 0 0 4 0 2 1 3 10 単価(円/kg) 0 0 284 233 309 106 0 0 0 0 0 0 210 0 80 58 103 124 出所:財務省「貿易統計」統計品目番号 0307.99-129 表3.アメリカオオアカイカ沿岸国からのイカ調製品の輸入動向 メキシコ 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 数量(t) 0 0 0 0 0 425 928 1,533 266 213 859 1,850 4,949 4,041 6,834 2,412 3,729 5,513 0 0 0 0 0 103 216 378 71 46 138 317 860 632 1,116 393 650 984 金額(100万円) 0 0 0 242 232 246 267 217 161 171 174 156 163 163 174 178 単価(円/kg) 0 0 ペルー 数量(t) 金額(100万円) 単価(円/kg) 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 0 0 108 179 843 586 279 109 0 287 0 0 218 317 541 440 561 386 0 0 28 39 204 170 77 31 0 89 0 0 29 43 70 59 81 64 0 0 256 215 242 290 275 288 0 308 0 0 132 135 129 134 144 166 チリ 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 数量(t) 0 0 5 0 2 0 0 0 0 0 0 0 87 21 150 126 210 544 金額(100万円) 0 0 1 0 0.4 0 0 0 0 0 0 0 15 3 21 18 34 83 単価(円/kg) 0 0 263 0 213 0 0 0 0 0 0 0 169 149 141 142 160 152 出所:財務省「貿易統計」統計品目番号 1605.90-219 4.ペルーにおけるアメアカの流通実態 (1)アメアカ漁業の実態 ペルーのアメアカ加工業者の情報によると、ペル-の現地漁業者が利用するアメアカ漁場は、パイ タ、タララを中心とする北部と、マタラニを中心とする南部に分かれている。このうち北部は漁獲量 が多く大型のアメアカが主体であるのに対し、南部は品質の高い小型のアメアカが主体であるが、漁 獲量が少ないことに加え、漁獲は不安定で全く獲れないことが続くこともある。アメアカは周年漁獲 されるが現地の夏場(12~3月)は、冬場(8~9月)の数倍の漁獲がある。また、夏場は比較的近 場に漁場が形成されるのに対し、冬場は比較的遠方に形成される。 今日、ペルーでアメアカ漁業を行っている漁船は 1000~1200 隻程度あり、その半分は北部のパイ タを基地に操業を行っている。漁船は2~3トンクラスから 15 トンクラスまでであるが、5トン未 満が全体の3分の2を占めている。また、北部では大型の船が多く、南部では小型の船が多い。漁船 所有者は、1人で複数の漁船を所有しているケースが多い。乗組員は小型船で6人、大型船で 10 人 程度で、漁船のオーナーは船に乗らない場合が多い。漁船の装備としては、操船用のコンパス以外は 簡易な水中集魚灯を持つ船もある。操業方法は、イカ釣り機を使わない手釣り方式で、乗組員全員が 1本ずつ漁具を持って行う。操業時間は、午後港を出て、数時間かけて漁場まで行き、数時間操業し て、翌朝港に戻るという夜間日帰り操業である。漁獲物の配分は大仲歩合制で行われており、水揚か ら大仲経費である油代と食費等を差し引いた残りを、一定の比率で船側と乗組員側で按分している が、乗組員の最低保証はない。そのため、漁が少ないと乗組員の手取りがなくなることから、不漁や 低価格が予想されるときには出漁を見合わせることが多い。 漁船と 1 次加工業者は契約を結んでいる場合が多い。価格は相対で決められ毎日変動するが、近年 のアメアカの相場は原魚形態で1kg 当たり 0.25 ソーレス(約 10 円)から 0.8 ソーレス(約 30 円)である。な お、アメアカの価格は水揚の多い夏場に低く、水揚の少ない冬場に高くなる傾向がある。 我が国の大型イカ釣り漁業によるアメアカ生産は、極めて高コスト型の生産方式であるのに対し て、ペルーの現地漁業によるアメアカ生産は低コスト型の生産方式となっている。 (2)アメアカ輸出の動向 前掲図2、表2~5によると、ペルーのアメアカ輸出は、不漁年である 1998 年の前後で大きな変 化がみられる。ペルーから日本へのアメアカ輸入が開始されるのは 1992 年であるが、これが契機と なってペルーにおいてアメアカ加工が本格的に行われるようになったと考えられる。1994 年には、 パイタやタララにおいて、品質の高い小型のアメアカが大量に獲れ、日本からの買付ブームが起きた ことでペルーのアメアカ加工業者は大きな利益を得た。しかし、その後、日本でアメアカの需要が低 迷したことから、ペルーのアメアカ加工も低迷が続いた。このように、1997 年までのペルーのアメ アカ輸出(加工)は、日本の需要によって支えられてきたものである。 1999 年以降、ペルーにおけるアメアカの生産量や輸出量は急増しているが、これは中国やスペイ ンを始めとするグローバル市場におけるアメアカ需要によって支えられているもので、主として日本 の需要によって支えられてきた 1997 年までとは大きく状況が異なっている。 図4は、ペルー産のアメアカ(大型イカ釣り船や中国先頭にによる漁獲を含む)の流通経路をみた ものである。アメアカの消費国を日本と日本以外のアメアカ消費国に分けた場合、そのどちらもペル ーから直接輸入されるものと、中国で2次加工されて輸入されるものがある。我が国への流通経路で は、ペルーから直接輸入されるものは、ペルーが輸出するアメアカの僅か 2.3%(2006 年、金額ベー ス、ヤリイカ類を含む)であることから、中国で2次加工された後に日本に輸入されるアメアカが増 えてきていると考えられる。なお、この中には、中国船等がペルー沖等で漁獲した分も含まれてい る。 表6は、ペルーから輸出されるアメアカの加工形態についてみたものである。このうち、上から3 つまでの品目(「冷凍フィーレ、耳、下足」、「冷凍チューブ」、「リング、派生品」)は惣菜加工 品を中心に、塩辛や乾燥珍味類の原料にもなるもので、全ての輸出先に輸出されていると考えられ る。それに対して、その下の3品目(「ボイルフィーレ、耳、下足」、「乾燥フィーレ、耳、下 足」、「サキイカ」)は乾燥珍味の原料あるいは2次加工品であることから、これらは基本的にイカ 乾燥珍味類の加工国や消費国である中国、韓国、日本3国への輸出と考えられる。金額ベースでは、 前者が 48%、後者が 40%となるが、前者の中には乾燥珍味類の原料となるものやロリゴ(ヤリイカ 類)が含まれていると考えられることから、ペルーから輸出されるアメアカは金額ベースでは、惣菜 加工品の原料(塩辛原料含む)と乾燥珍味類の原料が同じ位になるものと推定される。 表4.ペルーのアメアカ輸出動向 単位:US$FOB 国名 2004年 26,296,476 27,508,314 12,242,535 5,062,864 11,479,658 82,589,847 2002年 中国 スペイン 韓国 イタリア 他 計 2003年 8,223,543 16,006,955 3,330,653 2,021,882 11,285,236 40,868,269 16,604,211 16,604,211 2005年 18,740,314 38,261,073 9,932,772 9,229,687 17,806,899 93,970,745 2006年 46,883,578 27,847,024 17,245,865 6,078,217 22,372,227 120,426,911 出所:PROMPERU(ペルー政府輸出振興機関) 原魚形態 大型イカ釣り 漁業 産地市場 (八戸) 最終製品 最終製品 国内イカ 加工業者 中央市場 1次加工品 現地1次 加工業者 現地漁業者 商社 問屋 2次加工品 最終製品 1次加工品 中国船等 中国イカ加工業者 2次加工品 商社 問屋 ベンダー 仲卸業者 リパック業者 最終製品 市販向け: 量販店 コンビニエンストア 生協 その他小売店 業務向け: 量販店バックヤード 外食産業 給食 弁当 ホテル・旅館等 日本以外のアメアカ消費国 1次加工品、2次加工品 図4.ペルーからのアメリカオオアカイカの流通経路 表5.ペルーからのイカ輸出先(2006 年) 輸出先 中国 スペイン 韓国 イ タリ ア 日本 米国 ロシア ドイ ツ フィリ ピ ン 南 ア フリ カ タイ チリ その他 (合 計 ) 金額 数量 単価 (千 ドル ) (トン ) (ドル / トン ) 46,907 28,800 17,248 6,329 2,898 2,858 2,192 2,080 1,687 1,493 1,348 1,273 11,968 127,083 80,084 52,910 26,088 4,591 5,455 2,148 3,489 2,388 3,769 1,349 2,406 2,053 17,746 204,475 586 544 661 1,379 531 1,330 628 871 448 1,107 560 620 674 622 出所:ペルー輸出統計より作成 注 :アメアカが中心であるが、ロリゴ(ヤリイカ類)も含まれる。 表6.ペルーからのイカの輸出形態 加工品の種類 冷凍フィーレ、耳、下足 冷凍チューブ リング、派生品 ボイルフィーレ、耳、下足 乾燥フィーレ、耳、下足 サキイカ その他 (合計) 金額 (千ドル) 49,603 5,728 6,056 46,127 3,307 1,328 14,922 127,070 数量 単価 (トン) (ドル/トン) 109,662 452 6,985 820 3,441 1,760 63,056 732 2,666 1,240 2,126 625 16,528 903 204,465 621 出所:ペルー輸出統計より作成 注 :アメアカが中心であるが、ロリゴ(ヤリイカ類)も含まれる。 (3)現地1次加工の実態 ペルーでアメアカの加工を行っている加工業者は約 20 社である。これらの企業の約半分は外国人 (イタリア、スイス、フランス、スペイン、韓国、日本、中国)による経営である。ペルーのアメア カ加工企業は、その4分の3が北部のパイタとその周辺にある。特にパイタはアメアカ加工業者が集 積しており、ここだけで 10 社以上がアメアカ加工を行っている。2007 年8~9月に行ったパイタを 中心とする6社のアメアカ加工業者からの聞き取り調査を行ったが、その結果に基づき、以下ペルー におけるアメアカの1次加工の実態について記す。 ペルーのアメアカ加工業者は、アメアカ加工専業ではなく、メルルーサ、アジ・サバ、シイラ、ア ナゴ、タコ、貝類等の加工を併せて行っているケースが多い。アメアカを含めこれらの水産加工品は 輸出用である。輸出先として衛生管理基準の厳しい EU も含まれることから、工場の衛生管理は高い 水準にあると考えられる。 ペルーのアメアカ加工では、加工業者は契約している漁船から原料を購入する場合と、ブローカー を通して購入する場合がある。ブローカーを通してのアメアカの購入は、漁船からの直接購入よりや や割高になるが、原料が不足するときに原料の確保を目的に行われている。原料は1日に必要な量だ け購入し、コストをかけないため原料在庫は持たない。原料が少ないときには労働者数で調整を図る が、休業になるようなことは極めて希であるという。これらのことから、ペルーのアメアカ加工で は、原料供給が比較的潤沢で安定性も高いことと、労働力に恵まれていると考えられる。ちなみに、 あるアメアカ加工場の労働者の賃金は1日 30 ソーレス(約 10 ドル)ということであった。 ペルーにおけるアメアカ加工は、冷凍品の加工とダルマ加工に大別される。全体の3分の2近くの 加工業者は冷凍品とダルマの加工を行っている。残りの加工業者はアメアカ冷凍品だけを加工してい るところはあるが、ダルマだけを加工しているところはほとんどない。近年、アメアカ加工は生産量 が増えたことで、1次加工品であるフィーレやダルマでは、利益率が低下しているといわれる。こう した状況に対処するため、各社ではアメアカ以外の加工品を含め、2次加工品の加工割合を高める努 力をしている(表7参照)。 表7.ペルーにおけるアメアカ加工品 1次加工品 冷凍品系 生冷凍フィーレ 生冷凍耳 生冷凍下足 ダルマ系 ボイルフィーレ ボイル耳 ボイル下足 乾燥フィーレ 乾燥耳 その他 スリミ ミンチ 耳塩蔵 卵巣、白子 軟骨 カラス口 外皮 ミール 2次加工品 リング キュービック ボタン ステーキ 缶詰 サキイカ ハンバーグ フィッシュブロック 5.考察 図5は、図3および図4を元に、国内外のアメアカ産業をモデル化し、今日のアメアカ流通量を線 の太さで表したものである。アメアカの産業的利用が始まった 1990 年代前半には、アメアカ産業は 国内漁業→国内加工の流通ルート(図の最上段)が占める割合が大きかった。しかし、沿岸国や第三 国によるアメアカ漁業やアメアカ加工の開発が進んだことにより、国内産業のシェアは縮小してい る。以下、図5に基づき、わが国のアメアカ産業の展開方向について検討を行う。 (1)国内漁業の展開方向 わが国が行っているアメアカ漁業(国内漁業)は、沿岸国のそれと比べて、極めて大規模で近代的 なものである。しかし、既に述べたように、高コスト構造であることから、経営的に困難な状況に立 ち至っている。ここでは、さらにいくつかの特徴を加えた上で、今後の国内漁業の展開方向について 考察を行う。 アメアカ資源の沿岸国においては、日帰り操業によって日々アメアカの販売が行われている。その 結果、アメアカの需要は価格を通して翌日の操業に反映されている。すなわち、沿岸国のアメアカ漁 業は、その生産性は低いものの、低コストであるということを含めて、経営的な合理性が高いと考え られる。それに対して、漁獲から販売までに長時間を要する国内生産は、極めて高いコスト構造であ ることに加えて、需要を生産活動に反映させることが難しいという欠点をもっている。従って、高い 需要が長期間継続するような経営環境でないとその経営は困難と考えられる。 また、国内漁業はその供給先が国内加工に限定されているが、買手の国内加工では沿岸国や第三国 からの購入も可能であることから、市場は買手市場にならざるを得ない。国内漁業が行う船上加工 (1次加工)は、運賃節約と付加価値向上という2つの目的で行われているが、買手市場の下では付 加価値向上を実現することは難しく、船上加工(1次加工)は「サービス加工」となる傾向が強いと 考えられる。 上記のような国内漁業の特徴から、その展開方向を検討すると、コスト削減という大目標の他に、 漁獲してから販売するまでの期間の短縮化、国内加工以外の販売先の開拓ということが検討対象とし てあげられる。しかし、これらのことを現在の船型や操業形態で実現することは難しく、さらに現地 加工企業との合弁等の新たな枠組みの検討が必要となる。 (2)国内2次加工業の展開方向 アメアカを原料としたイカ加工品は、今日国内市場においては不可欠の存在となっている。しか し、イカ加工業原料としてアメアカに求められる最大の条件は「低価格であること」であり、その意 味で国内漁業が目指す方向とは相反するものである。しかしその一方で、アメアカを原料とした乾燥 珍味類では高い需要を背景に新たな市場が形成されていることなどから、今後は安定的なアメアカ供 給が一層求められるようになるとみられることで、国内加工にとって国内漁業の重要性は高まるもの と考えられる。 イカ加工は国内のみならず海外でも行われている。そのため、国内、海外のイカ加工は、潜在的に は国内市場と海外市場のシェアを巡ってせめぎ合っていると考えられる。こうした中で、冷凍イカの 輸入を制限するイカ輸入割当(IQ)制度が国内外のイカ加工に大きな影響を与えている。すなわ ち、国内イカ加工業者は、輸入冷凍イカの利用が制約される(その内容は、IQ 枠を持つ特定の既得 権者のみが輸入原料の利用が可能となること、輸入数量に上限があること、価格が割高になること等 である。)ことから、海外市場への進出が制約されている。その一方で、惣菜加工品の分野では、2 次加工品も IQ の対象となることから、国内市場が輸入から保護される結果となっている。このた め、イカ惣菜加工品の分野では国内加工→国内市場、海外加工→海外市場といったすみ分けが進むこ とで、イカ加工業者の存立条件が確保されてきたと考えられる。 船上加工 ア メ ア カ 資 源 国内 漁業 1次加工 ペルー、メキシコ等 陸上加工 沿岸国 漁業 沿岸国 1次加工 中国、台湾等 第三国 漁業 船上加工? 1次加工 国内 2次加工 国内市場 2次加工 中国、スペインほか 第三国 2次加工 図5.アメアカ産業のモデル 海外市場