...

リアルタイム橋梁遠隔監視システムの開発

by user

on
Category: Documents
1

views

Report

Comments

Transcript

リアルタイム橋梁遠隔監視システムの開発
橋梁監視
災害対策ソリューションへの取り組み
光ファイバセンサ
監視映像解析
特
集
リアルタイム橋梁遠隔監視システムの開発
NTTデータでは,地震発生時あるいは平常時に橋梁の損傷状態を常時把握
するために,光ファイバセンサにより橋梁を遠隔監視するシステムの開発に
取り組んできました.本システムでは地震発生時に多数の橋梁の被害状況を
いしかわ
リアルタイムで収集し,短時間に交通可否を判定します.さらに平常時には,
石川 裕治 /竹本 健一
監視映像との統合解析により,橋梁損傷の主要因となっている重量超過車両
みやざき
の交通状況のデータ収集を行います.本稿では,橋梁遠隔監視システムの概
宮崎 早苗
ゆ う じ
たけもと
けんいち
さ な え
要を説明するとともに,橋梁異常リアルタイム監視技術および重量超過車両
NTTデータ
の監視技術の実現に向けた取り組みについて紹介します.
橋梁遠隔監視システム開発の目的
■橋梁監視に対する社会的要求
近年国内外で多発する地震災害を
浜国立大学と協同で,道路橋の損傷
断は,管理センタに設置した診断エキ
度把握を,連続的かつリアルタイムに
スパートシステムによって行います.
行うモニタリング・診断エキスパート
■本システム導入の効果
システム(橋梁遠隔監視システム)を
(1),(2)
本システムにより,従来,少数の専
背景に,地震発生時にさらなる迅速な
開発しています
.橋梁遠隔監視
門家による現地調査に頼っていた橋梁
対応が求められています.地震発生時
システムの概要を図1に示します.本
の損傷度把握が高精度かつ迅速・自
の対応の遅れは,人命を脅かすととも
システムでは,橋梁の損傷度を把握す
動的に可能となることから,多数の橋
に,甚大な社会的・経済的損失を与
るため,光ファイバセンサを中心とし
梁に対する維持管理計画が同時かつリ
えます.現在,道路行政においては,
た最新のセンサネットワーク技術に基
アルタイムに立案され,費用対効果の
このような甚大な社会的・経済的損失
づいてデータの収集を行います.各橋
高い保全計画・補修計画が立案可能
を軽減させるため,地震発生時に道路
梁において計測したセンサデータは光
となります.そして,適切な計画に基
構造物の被害を迅速に把握し,路線
ファイバ通信網を通じて管理センタで
づいた補修により橋梁の長寿命化を実
ごとに通行の可否を判定するシステム
集約・一括管理します.損傷度の診
現することによって,莫大な橋梁の架
の整備が強く求められています.
また現存供用中の全橋梁の40%が
高度成長期に建設されていることから,
多くの橋梁は設計寿命が近づいてお
り,地震発生時はもちろん通常の供用
中でも,異常の増加が予想されていま
管理センタ
各橋梁
映像センサ
ひずみ
センサ
地震等による橋の被害
ひずみセンサ
す.通常時の損傷における主要因は重
変位センサ
量超過車両の通行によるものであり,
車種別の通行データに基づく損傷予
測を行って,費用対効果の高い保全
傾斜センサ
高速伝送
【機能(例)】
●自動情報収集・管理機能
各種最新データを一元管理
●高速画像表示機能
各種データの表示
●計測機能
変位,ひずみ,重量
●診断機能
損傷度
●業務情報作成機能
通行可能ルート検索
補修優先度支援情報
計画・補修計画を立案することが急務
です.
■橋梁遠隔監視システムの概要
このような社 会 的 要 求 を背 景 に,
データベース
(例)橋桁の間隔を計測
図1 橋梁遠隔監視システムの概要
NTTデータでは,東京工業大学,横
NTT技術ジャーナル 2006.9
21
災害対策ソリューションへの取り組み
替コストを大幅に削減することが期待
■FBGセンサの詳細
橋梁異常リアルタイム監視技術
されます.また常時リアルタイム計測
FBGセンサは特定の波長だけを反射
を行っていることから,地震発生など
するように光ファイバに加工を施し,
異常時の通行規制・緊急輸送路確保
加工部のひずみと反射波長の変化量が
広域震災時に道路ネットワークの
等に対しても迅速な対応が可能となり
比例することを利用したひずみセンサ
健全性を確認するためには,橋梁の通
ます.
です.さらに変位量や傾斜量をひずみ
行可否判断を迅速に行う必要がありま
本稿では,最初に光ファイバセンサ
に変換する機構によって変位計や傾斜
す.そのためには地震発生直後に橋桁
の利用技術について説明します.続い
計などさまざまな種類のセンサを実現
の間隔を基本とする橋梁の変形状態を
て,橋梁遠隔監視システムの研究開発
可能にしています(図2).またそれ
計測し,情報を収集することが重要で
における,地震発生時の被害把握に向
らを1本の光ファイバ上に直列に接続
す.橋梁の基本的な構成は図3に示
けた取り組みとして,光ファイバ変位
し,同時に計測することができます.
すように,橋台と橋脚に橋桁が載る構
計および光ファイバ傾斜計による橋梁
この場合,計測値としてはセンサの
造で,震災時には橋桁の移動が発生し
異常のリアルタイム監視技術を紹介し
数だけ反射波長が得られます.1本の
て通行不能になる場合が多いと予想さ
ます.また平常時の車両通行実態把握
ファイバ上に複数のセンサが混在する
れています.本技術は各桁に設置した
に向けた取り組みとして,光ファイバ
場合,センサと計測波長を対応付ける
FBG変位計およびFBG傾斜により計
ひずみ計と監視映像による重量超過車
仕組みが別途必要となります.今回開
測をし,そのセンサ情報を統合するこ
両の監視技術を紹介します.
発したシステムでは,反射波長とセン
とによって,橋桁の3次元姿勢をリア
サの対応テーブルを作成し,FBG計測
ルタイムで推定します(図4).そし
用のソフトウェアが対応テーブルを参
て,管理基準に照らして各橋梁の車両
照することで,センサ種別に合致した
の通行可否を自動判定します(図5).
計測値(ひずみ,変位,傾斜等)の
この技術により,広域に点在する複数
出力を実現しています.
の橋梁の被害状況を1カ所(例えば管
光ファイバセンサ利用技術
■光ファイバセンサの選択
橋梁遠隔監視システムにおいて各橋
梁と監視センタを結ぶ通信網としては,
■本技術の概要
国土交通省が整備し,民間開放を進
めている光ファイバ敷設用の地下管路
「情報BOX」を利用することがコスト
m
300 m
面・耐震面で有効です.情報BOXの
光ファイバ通信網に,光ファイバ自体
をセンサとして利用する光ファイバセ
ンサを直結することで電気系の機器が
20 mm
不要になり,耐久性の高いシステムを
構築できます.光ファイバセンサでは
(a) FBGひずみ計
主に次の3つの方式が利用されてい
(b) FBG変位計
ます.
・BOTDR(Brillouin Optical Time
(3),(4)
Domain Reflectometer)
・OTDR( Optical Time Domain
(3)∼(5)
Reflectometer)
265 mm
150 mm
・FBG(Fiber Bragg Grating)
出典:NTTアドバンステクノロジ
http://keytech.ntt-at.co.jp/optic1/prd_1037.html
この中でFBG方式は高感度かつ高
頻度の計測を可能とし,震災直後の
迅速なデータ取得や車両通過時の動的
な橋梁挙動の計測に適しています.
22
NTT技術ジャーナル 2006.9
(C) FBG傾斜計
(d) FBGアナライザ
図2 FBG方式による光ファイバセンサと計測器
特
集
理センタ)で同時に収集でき,迂回
橋桁
ルートや補修優先度を迅速に決定する
ことが可能になります(図6).
■モデル橋梁の破壊実験による技術
橋台
橋脚
検証
本技術の実現可能性に関しては,モ
デル橋梁に震災時の損傷を想定した破
(a) 通行可能状態
(b) 通行不能状態
地震
発生
壊状態を再現した計測実験により検証
しました.計測時には16台のFBG変
図3 橋梁の基本構造と通行不能状態の発生状況
位計と3つのFBGひずみ計を10,km
の光ファイバを介して計測器と接続し,
遠隔計測状態を再現しました.その結
果,全センサのデータを1台のPCによ
り,250,Hzで同時計測でき,破壊に
伴うモデル橋梁の構造的な変化を計測
ソフトウェア上でリアルタイムに把握
可能なことを確認しました.またFBG
変位計とFBGひずみ計の同時計測を
可能にしたことで,次項の重量超過車
両の監視機能と光ファイバ通信網や計
測器を共有できることが明らかになり
ました.これにより,平常時と異常時
の両方に利用可能な橋梁遠隔監視シ
ステムを,低コストで構築できる見通
図4 橋桁の3次元姿勢のリアルタイム監視
しが得られました.
重量超過車両監視技術
■技術開発の背景
平常時に橋梁損傷を発生させる主要
因として,重量超過車両の通行が問題
視されています.そのため,橋梁管理
における課題としては,重量超過車両
による損傷の進行を予測し,効果的な
補修計画を立案する必要があります.
損傷の予測を適正に行う1つの方法と
して,実際の通行状況を反映した車種
混合比率に基づいた,車両通行シミュ
レーションが利用されています.また
重量超過車両に対する指導や規制を
図5 通行可否判定結果(橋梁単位)
効果的に行うためにも,車種別の通行
実態把握が求められます.
重量超過車両の通行実態を把握す
るため,東京工業大学ではFBGひず
の重量を算出する技術を実現していま
み計で計測した橋桁ひずみから,車軸
す .しかし,車軸単位の情報だけで
(6)
NTT技術ジャーナル 2006.9
23
災害対策ソリューションへの取り組み
は車種情報を得ることが困難なため,
して影響が小さいため,すべて小型車
手法がありますが,リアルタイムでの
今回,NTTデータでは監視映像から
としています.
車両抽出を実現するために高速で処理
得た車両情報を加えることで車種を判
■車両抽出手法
が可能な背景差分法を用いました.こ
映像から移動物体を抽出する手法に
の手法では背景と同じ輝度値を持った
は,エッジ抽出法や車両モデルのマッ
車両が検出できないため,エッジ画像
チングによる車両検出などいくつかの
を同時に用いることでより高精度に抽
別する技術を開発しました.
■本技術の概要
図7に示すように本技術は大きく車
重算出,車両抽出,車種判別の3つ
で構成されており,NTTデータでは車
両抽出と車種判別の技術開発を行っ
ています.車両抽出では,車両重量の
算出結果をトリガとして監視カメラの
映像から画像を取得し車両領域を抽
出します.抽出画像は自動で保存・
蓄積されます(図8).車種判別では
蓄積された抽出画像に対し,辞書画像
との比較を行って車種を判別します.
本手法では橋梁損傷への影響が大きい
3軸以上の大型車両を判別対象とし
ています.具体的にはミキサー車・大
型ダンプ・タンクローリー・大型ト
ラック・トレーラーの5車種です.な
図6 通行可否判定結果(全域)と迂回ルートの提示
お,2軸車両の荷重は疲労損傷に対
FBGひずみ計
③車種判別
桁ひずみ
軸数・軸重
ミキサー車
①車重算出
(東工大開発)
大型ダンプ
タンクローリー
大型トラック
監視カメラ
重量
オーバ
状
トレーラー
形
・
さ
き
大
監視映像
②車両抽出
自動蓄積
交通量統計情報
図7 重量超過車両監視の処理フロー
24
NTT技術ジャーナル 2006.9
特
集
出できるように手法を改良しています.
交通状況が複雑な五叉路の映像を用
いて行った抽出実験の結果を図9に示
します.車両抽出の可否は目視により
確認しました.実験結果では1時間当
り3 , 8 8 4 台 の車 両 に対 して3 , 6 8 0 台
(94.7%)を抽出できました.
■車種判別手法
本システムでは軸パターンと車両画
像を統合解析し,より正確な車種判別
を行う手法を用いています.具体的に
は車両通過時にFBGひずみ計から軸
パターンを取得するとともに,監視カ
メラから車両画像を取得し,両者の解
析結果を正解となる車種情報と比較し
て車種判別を行います.
車種判別は図1 0 に示す3つのStep
により行われます.Step1では最初
図8 重量超過車両監視システムの画面
にひずみデータのピーク位置から軸パ
ターン(1-2軸間の距離と1-3軸間の距
離)を取得し,各車種の設計データと
比較し,車種候補を決定します.そし
て,軸パターンの計測誤差が正規分布
に従うと仮定して,計測値が設計デー
タに一致する確率を車種候補ごとに算
出します.Step2では,事前に同じ車
種の画像を集めて固有空間法によって
図9 車両抽出処理の結果例
次元を圧縮することで辞書画像を作成
しておきます.この辞書画像と,入力
車両画像に対して同じ処理を行って得
た画像の類似度を算出して車種候補を
決定します.Step3では軸パターンか
ひずみデータ
Step1
軸パターンでの
車種決定
らの車種推定確率と車両画像からの類
似度の積によって車種判別の信頼度を
車種判別
Step2
車両画像での
車種決定
監視映像
算出し,信頼度が最大の車種を最終
的な判別結果とします.
Step3
信頼度算出
辞書画像
本技術はFBGひずみ計を設置した
橋梁で技術検証実験を行いました.図
図 10 車種判別の処理フロー
1 1 にStep2で用いた辞書画像と,各
車種に判別された車両画像の結果を示
トレーラーやミキサー車は設計データ
不可能でしたが,統合解析を行うこと
します.目視での確認によりほぼ適切
の軸パターンが同じで異なる車種が存
で判別可能となりました.
に判別されていることが分かりました.
在したため,軸パターンのみでは判別
NTT技術ジャーナル 2006.9
25
災害対策ソリューションへの取り組み
辞書画像
判別結果
ミキサー車
大型ダンプ
タンクローリー
大型トラック
トレーラー
図11 車種判別に用いた辞書画像と判別結果
今後の展開
今後は実際の橋梁で長期の監視実
験を行い,センサから解析・診断まで
システム全体の検証実験を実施すると
ともに,橋梁管理者と連携して管理業
務の効率化に貢献していく予定です.
■参考文献
(1) 石川・東森・宮崎・佐々木・三木:“光ファ
イバセンサによる多角的橋梁モニタリングシ
ステムの開発,”土木学会 第60回 年次学術講
演会,Vol.1,No.1-652,pp.1301-1302,2005.
(2) 竹本・石川・宮崎・佐々木・三木:“カメラ
映像を用いた通行車両の自動・リアルタイム
車種推定システムの開発,”土木学会 第60回
年次学術講演会,Vol.1,No.1-061,pp.119120,2005.
(3) 上原・馬場・田中・出口:“安全・安心なネ
ットワークに寄与する防災・セキュリティ技
術,”NTT技術ジャーナル,Vol.18,No.3,
pp.55-59,2006.
26
NTT技術ジャーナル 2006.9
(4) 野 沢 ・ 野 口 ・ 庄 司 ・ 上 原 ・ 大 本 : “ チ リ
CODELCO社との共同実証実験,”NTT技術
ジャーナル,Vol.17,No.11,pp.48-51,2005.
(5) 藤橋・上原・奥津・小松:“光ファイバセン
シング技術を活用した道路災害モニタリング
シ ス テ ム の 開 発 ,” N T T 技 術 ジ ャ ー ナ ル ,
Vol.15,No.10,pp.38-41,2003.
(6) 小林・三木・田辺:“リアルタイム全自動処
理Weigh-In-Motionによる長期交通荷重モニ
タリング,”土木学会論文集,No.773/I-69,
pp.99-111,2004.
(左から)宮崎 早苗/ 石川 裕治/
竹本 健一
近年の地震の増加傾向を考えますと,橋
梁遠隔監視システムの整備は道路管理者に
とって緊急を要する事項と考えられます.
そのため,本システムの早急な検証実験の
実施と,全国的な展開が期待されます.
◆問い合わせ先
NTTデータ
第一公共システム事業本部 企画部 システム技術担当
TEL 050-5546-2041
FAX 03-5546-8433
E-mail [email protected]
Fly UP