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カテナリー

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カテナリー
カテナリー曲線について
1.
はじめに
測量で、インバールワイヤやスチールテープを用いて精密な距離測定を行う場合、ワイ
ヤやテープをある支点間にぶら下げたならば、ワイヤやテープをいくら強く引っ張っても、
その自重のためワイヤやテープは必ずたるむ。そのたるみ曲線(slackening curve)はカテナ
リー曲線(catenary)と呼ばれている。”Catenary"という言葉は 1691 年にホイヘンス
(Huygens)によって作られ、その語源はラテン語のチェーンを意味する"catena"である。
カテナリーは測量のインバールワイヤやスチールテープだけではなく、ロープ、送電線、
橋梁ケーブルなどにおいても同様である。そこで、テープによる測距以外での送電線など
の調査測量におけるカテナリーの問題について質問を受けることが少なくない。テープの
径間の中央部での最大たるみやたるみによる伸びの量の近似公式が示されている測量の専
門書は多いが、その導き方についての記述が余りないようであるので、カテナリー曲線式
についてここに示すことにする。
2.
カテナリー曲線
たるみは、図-1(a)及び(b)に示すような例が考えられるが、まず両支点が水平な位置にあ
る場合を想定する。カテナリーにおいて、テープの曲がり方は小さいから、テープの曲げ
抵抗はないものと仮定する。
図-2(a)に示すように、AB の中点 C を直角座標(x,y)の原点とする。カテナリー曲線の最
下位点は、中点 C の直下 O にある。両支点 A,B では、張力とテープの自重のために、水平
軸力と垂直反力が生じる。径間内での任意点 P における接線 PT の方向に引張内力が発生
する。
図―2(b)のように微小長dL
PQ をとり、釣り合い方程式をつくる。テープの単位長さ当
たりの重さをωとすれば、dL 部のテープの重さはω・dL で表される。これは鉛直下方(y)
に向かう。そのω・dL は、点 P における内力の水平分力と、点 Q での内力の垂直分力との
差と釣り合う。点 P での張力の水平分力を-ηとすれば、水平方向(x)の釣り合い条件から、
点 Q に同じ水平分力ηが生じる。点 P における垂直分力はηtanθである。そうすれば、
点 Q における垂直分力はηtanθに垂直力の微小増分を加えることにより求められる。垂直
力の微小増分はd ηtanθ で表される。つまり、点 Q における垂直分力は次式で表される。
ηtanθ
d
ηtanθ dx
dx
この力は、上向き(符号+)である。以上の 3 つの垂直力によって釣り合い条件が保たれる。
したがって、
ω ∙ dL
ηtanθ
ηtanθ dx
ηtanθ
0
または
ωdL
η
tanθ dx
0
となる。ここで、ω及びηは定数である。
また、次図は微小長 PQ(=dL)と dx との関係を表す。
上の図より、dL
ωsecθ
η
secθdxである。これを上式に代入し、整理すると、
tanθ
を得る。そして、
tanθ
tanθ
sec
であるので、上式は次の関係で書ける。
dx …(1)
secθdθ
ここで、a ≡ η/ωとおいた。
式 1 は、カテナリー曲線の微分方程式を表す。この式の左辺をθ=0 からθ、右辺を座標
原点 C から点 P(つまり x)まで積分すると、
dx
secθdθ
または
lntan 45°
…(2)
x/a
で表される。ここで、
secθdθ
dx
ln|secθ
tanθ|
lntan 45°
x/a
である。
そして、式 2 を指数関数に直すと
tan 45°
e
⁄
…(3)
によって表される。また、
tan 45°
cot 45°
2tanθ
である。この式に式 3 を代入し変形すると、
tanθ
e
⁄
e
⁄
を得る。そこで、tanθ
dy
sinh
dy/dx を表すので、
sinh x/a dx …(4)
である。この式を積分すると、
y
acosh
C
を得る。ここで、C は積分定数である。また、x=ℓ/2 のとき y=0 であるから、これらを上式
に代入すると C は次のようになる。
acosh
C
ℓ
C
acosh
0
ℓ
したがって、y の式に C を代入すると、次のようなカテナリーの方程式が導ける。
y
a cosh
cosh
ℓ
…(5)
またこれは双曲線を示し、a ≡ η/ωである。
3.
最小たるみ
y
0 であるから、座標原点 C でのたるみは最小となる(図-2(a)参照)。最小たるみ(y
)
は、式 5 に x=0 を代入すれば、以下のように求めることができる。
a 1
y
ℓ
cosh
…(6)
[例題①]
図-2(a)に示すような水平な位置にある両支点 A,B の径間はℓ=100mであり、その間で単
位重量ω=0.2kg/mのケーブルをη=30kgf で引っ張ったとする。このケーブルの最小たるみ
を求めなさい。
(解答)
a
150
.
∴y
a 1
cosh
ℓ
150 1
cosh
8.411m
放物線近似の計算式によれば、次のようになる。
∴y
4.
.
ℓ
≒
8.333m
たるみによるテープの伸び
張力ηで張られたテープは、弾性的に伸びる他、図-2(a)のように必ずたるむ。そのため、
読み取る長さは AB=ℓではなく、ℓより少し長い曲線 AOB(=L)の長さになる。
長さ L は、線素dL を-ℓ/2 から+ℓ/2 まで積分すると、以下のように求められる。
L
ℓ/
ℓ/
dL
⁄
L
1
ℓ⁄
e
⁄
dx …(7)
dy
⁄
e
1
dy⁄dx
1
dx
ここで、dL
e
ℓ/
2
e
e
⁄
⁄
dx
2
⁄
e
ae
⁄
e
e
⁄
ℓ⁄
⁄
e
⁄
a eℓ⁄
e
ℓ⁄
∴L
2asinh
ℓ
…(8)
たるんだテ-プの読みは、直線距離ℓよりΔℓ(=L-ℓ)だけ長い。
∆ℓ
L
ℓ
2asinh
ℓ
ℓ
…(9)
ここで、η:スチールテープの引張力(kgf)
ω:テープの端に長さ当たりの重さ(kg/m)
a=η/ω
ℓ:径間長
W:支点間のテープの全重量(kg)
[例題②]
例題①と同じデータによってケーブルの伸びΔℓを求めなさい。
(解答)
∆ℓ
2asinh
ℓ
ℓ
2
150sinh
100
1.862m
従来の近似式より
∆ℓ
5.
ℓ
1.852m
支点間に高低差がある場合
図-4 に示すように、支点 A,B に高低差hがあるときのカテナリーの伸びは以下の式によ
って求められる。ただし、ℓに対してhは十分小さい値とする。
s
a sinh
sinh
h
a cosh
cosh
…(10)
…(11)
s
h
2a
∆ℓ
acosh
∆ℓ
ℓ
cosh
1
1
2a
cosh
ℓ
1
…(12)
…(13)
s …(14)
又、参考までにインバールワイヤによる距離補正の式を表しておくと、次のようになる。
(M.Kneissl: Handbuch der Vermessungskunde)。
(水平距離)
1
L
ℓ
λ
σ
σ
L
λ …(15)
ここで、Lo:インバール長、λ:尺定数、σ:インバールの前端と後端の読みの差、a:前
述の値である。上の式において、両支点が水平でインバールにカテナリーをかけ、尺定数
補正、温度補正、張力補正、重力補正及びインバールの前端と後端の読みの差がそれぞれ
ないものと仮定した場合、ℓは Lo に等しくなるようになっている。
[例題③]
図-4 に示すような支点 A と B の高さが異なる場合のケーブルの伸びの量を求めなさい。
ただし、S=100m,h=5m、η=30kgf、ω=0.2kg/m とする。ケーブルの伸びの量は、次
のようにして導くことができる。
(解答)
a
.
150
ケーブルの伸び
Δℓ
acosh
1
ℓ
150cosh
1
100
1.884m
6. おわりに
2 つの視点にスチールテープ、ロープ、送電線あるいはケーブルをぶら下げた場合には、
それらは必ずたるむ。そのたるみの最小値(カテナリーは凹型曲線で、たるみはy
0の範
囲にあるから、最小値と呼ぶことにする。)と、直線長とたるんだ長さとの差、つまり伸び
の量を求める式を導いた。今まで、それらについてはテーラー展開した近似式(その場合
たるみ曲線は放物線になる。)が用いられてきた。しかし、近時 sinhx、coshx などが簡単
に計算できるようになったことから、カテナリー曲線式も近似化しないで計算できるよう
になったので、ここに示すことができた。
(1991 年 4 月小林和夫)
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