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京の伝統工芸 - 京都工芸繊維大学同窓会

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京の伝統工芸 - 京都工芸繊維大学同窓会
京の伝統工芸
− 愛があふれている −
澤
(京都工芸繊維大学大学院
1.はじめに
田
美恵子
工芸科学研究科
准教授)
2.京の伝統工芸−技と美
文部科学省の「現代的教育ニーズ取組支援プ
18 年度は、3 年次生以上を対象とした「京の
ログラム」に申請し、18 年度に採択された「創
伝統工芸−技と美−」という授業を行いました。
造性豊かな国際的工科系専門技術者の育成−伝
これは、異分野の人たちと共に伝統工芸の工房
統からイノベーションへ
ローカルからグロー
をじっくり見学し、じっくり議論し、伝統工芸
バルへ−」という教育プログラムは、今年度 2
と先端技術を融合したひとつの新しいコンセプ
年目を迎えました。
トを提案することを通じて異分野の人の視点を
この「現代的教育ニーズ取組支援プログラム
理解でき、コミュニケーションできる「異分野
(現代 GP)」というのは、文部科学省が、各種
間リテラシー」を獲得することを目的とした授
審議会からの提言等、社会的要請の強い政策課
業です。今、大学は高度に専門化されて、研究
題に対応した優れた教育プログラムを選定し、
室単位で教育が行われることが多いと思います。
補助金により 3 年間支援するというものです。
しかし、働く場所は様々な専門や様々な分野の
この教育プログラムは、高い評価を得てこの現
人が話し合い、協力し合って問題を解決してい
代 GP の「実践的総合キャリア教育」というテー
く場所になっているのではないでしょうか。そ
マで採択されました。
こでは、自分と異なる専門の人たちを理解し、
まず、はじめにこのプログラムの概要を説明
また自分の持っている専門能力を最大限に発揮
します。本学には主に造形、デザインを専攻す
する能力が必要ではないかと考えます。この能
る学生と、主に工学を専攻する学生が混在して
力をここでは「異分野間リテラシー」と呼びま
おります。また本学が位置する古都京都には素
した。
晴らしい日本独特の文化を担ってきた伝統工芸
の工房が多くあります。このユニークな土壌を
3.京の伝統工芸−知と美
活かして留学生も加え、様々な国籍と専攻を異
19 年度(今年度)からは、「京の伝統工芸−技
にする学生で構成する少人数のグループを多数
と美」に加えて、4 年次生以上を対象とする「京
つくります。各グループには、一人の教員が担
の伝統工芸−知と美−」という授業を開講しま
当し、伝統工芸の工房で、ものづくりから異文
した。この授業では、海外の協定校から留学生
化、異分野の融合を体験させる学習を行います。
を招いて、共に伝統工芸をキーワードとしたも
そして体験学習等から学んだことを活かし、グ
ループでイノベーションへ繋がるような新たな
作品やアイデアをグローバルな企業へ提案する
という活動を通じて、自分の専門性や能力を自
覚し、主体的にキャリアデザインが描ける創造
性豊かな国際的工科系専門技術者を育成しよう、
というのがこのプログラムの狙いです。
会
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かな鯉のぼりができあがりました。鯉のぼり職
人の奥田さんは、「こんなに素晴しいものがで
きるとは思いもしなかった。オレは学生に惚れ
ました。」と言って下さいました。また、この
プログラムに携わったある教授は、この授業に
参加する学生たちを見て、
「愛があふれている」
と表現されました。互いに尊敬しあい、互いに
成長しあうことの大切さとその喜びを、学生達
と共に、私達は学びました。
この教育プログラムには国際化という言葉が
のづくりに取り組みます。21 世紀は地球規模、
掲げられています。私は国際化、グローバル化
グローバルな活動が余儀なくされる時代で、自
のゴールに平和な世界がなければならないとい
分の考えをしっかりと説明してコミュニケー
う信念を持っております。故に、そういった信
ションすることが重要です。たとえ異なる文化
念を学生達にも伝えていきたいと考えています。
の人であっても、その人の文化を理解し、また
これから世界の舞台で活躍し、平和な世界を築
自分の考え方や文化について説明できる能力が
ける人材を育成するためには、大学教育の中で、
必要となってきます。この能力は「異文化間リ
幸せな異文化交流の体験ができるよう工夫する
テラシー」と呼ばれています。この授業では、
ことが大切だと思います。
「同じ」を発見し、
「違
そのような能力を獲得することが目的となって
い」を楽しめる異文化活動を用意することが重
います。
要なのです。
今年度の授業では、オリジナルな香炉づくり
私は長年にわたり、留学生教育、異文化間教
に取り組みました。4 月のオリエンテーション
育に携わってまいりました。この授業を体験し
から、まずお香に関する歴史的な意味や、香炉
て、異文化間教育は、言葉による討論、ディス
のデザインの歴史的な変化を学んだ後、山田松
カッションでその違いや類似性を話しあうタイ
香木店で香木やお香の制作過程を見学し、最後
プのものより、1 つの目的に向かって、共に作
に香道を学ぶため源氏香を体験しました。
業をする時間を重ねるほうが、より深いところ
その後、各自でオリジナルな香炉をデザイン
し、本学意匠担当教官の前でデザインとコンセ
プトを発表し、デザインチェックを行いました。
で繋がることができるのではないか、と考える
ようになりました。
20 年度は、大学院生を対象とした「京の伝
素材は瓦、清水焼、金属の中から選択し、何日
統工芸−知
も工房に通い、各自の香炉を作成しました。そ
す。これで、3 つの授業が揃います。この授業
して、9 月にイギリス、オーストリア、韓国、
は、18 年度、19 年度と 2 年間行ってきたこと
香港、タイ(五十音順)の各国から 1 名ずつの留
の成果を発表することを目的としています。三
学生を新たに迎えて、異文化交流の中で、染色、
条御幸町のアートコンプレックス 1928 で、2008
組紐、お香づくりをしながら、香炉を仕上げて
年 9 月シンポジウムとエキスポを行います。
いきました。
美
技−」という授業を開講しま
愛にあふれている学生達と今年はどんな素敵
その過程で、異文化交流をより深めるために
な体験ができるのかと、今ワクワクどきどきの
本学の京丹後キャンパスに行き、鯉のぼり職人
毎日です。学生達と一緒に、この教育プログラ
の方のもとで、学生がデザインした鯉のぼりを
ムが成長し、継続していけることを心から願い
全員でつくりました。そして、非常に国際色豊
ます。
会
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