...

リコノミクス VS アベノミクス

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

リコノミクス VS アベノミクス
リサーチ TODAY
2013 年 7 月 30 日
リコノミクス VS アベノミクス
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
下記の図表は最近話題になることが多い、中国の李克強首相による経済政策「リコノミクス」と、安倍政権
の経済政策「アベノミクス」の比較である。「リコノミクス」の3本柱は、①景気刺激策を行わない、②レバレッ
ジを抑制、③構造改革とされる。すなわち、それまでの過度な信用拡張を抑制してバブル潰しを行い、同
時に国営企業中心であった中国経済を市場化により民間の効率を高める構造改革を行うことにある。
■図表:リコノミクスとアベノミクス
リコノミクス
①デレバレッジ
主要政策 ②景気刺激を行わない
③構造改革
アベノミクス
①積極的金融政策
②積極的財政政策
③成長戦略
(資料)みずほ総合研究所
次の図表は中国の銀行貸出と電力消費量を示す。2008年の「4兆元経済対策」までは中国の貸出残高
は発電量と殆ど同じペースで上昇していたが、2008年以降は急速に貸出量が拡大し、両者は大きく乖離
する。2008年以降「4兆元経済対策」をはじめとする大拡張戦略をとった中国が、今は過剰設備・過剰債務
を中心とした調整の局面にある可能性が高く、それがリコノミクスによる調整を急ぐ背景にある。
■図表:中国の銀行貸出残高と発電量推移
(2001/2=100)
700
4兆元の経済対策
600
中国の銀行貸出残高
約30兆元(480兆円)に
相当
500
中国発電量
400
300
200
100
0
01
03
05
07
09
11
13
(暦年)
(注)約 30 兆元=(2013 年 5 月末の銀行貸出残高の実額)-(発電量の伸びと同じペースで銀行貸出残高が増加した
と仮定し推計した額)
(資料)CEIC よりみずほ総合研究所作成
1
リサーチTODAY
2013 年 7 月 30 日
1990年の日本のバブル景気とその崩壊を目の当たりにした筆者にとって、過度な信用拡張の正常化を
構造改革という名の下に行うこと、つまりバブル潰しにより経済の「浄化」を行うとの発想は、20年前の三重
野日銀総裁の頃を思い出させる「空気」である。ただし、バブル潰しの難しさは、緩やかに収縮することの困
難さであり、風船が弾けるごとく、先行き期待の悪化と過剰債務を抱えたセクターの深刻な資本問題が生じ
ることにある。
下記の図表は日米欧の民間債務の対名目GDP比を示す。日本の信用拡張は1990年頃がピークで、そ
の調整がその後10年以上、2000年代半ばまでかかった。今日の債務の水準は、30年前の1980年代前半
であるが、それでも再びレバレッジ拡大にまで戻る明確な動きは確認されておらず、「デフレ均衡」のままに
ある。
■図表:民間債務対GDP比率推移
200
(%)
米国
日本
ユーロ圏
180
160
140
120
100
80
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
(年)
(注)米国・ユーロ圏は暦年、日本は年度。民間は民間非金融法人企業+家計として算出。
(資料)Haver、内閣府、Eurostat、欧州委員会よりみずほ総合研究所作成
日本は90年代初以降、バブル崩壊が続き、近年漸く過剰債務は正常化したが、先行き期待の低下が続
く。いまや「アベノミクス」として、①景気対策総動員、②レバレッジ拡大に向けた金融緩和、③リフレ策を採
ることは、リコノミクスの正反対の対応にある。つまり結果的に中国が今日否定する、これまでの経済政策の
発想と類似する。リコノミクスとアベノミクスとは、従来の日中の経済政策の主客逆転だ。確かに、中国のよう
に統制された経済の国家では、欧米で生じたような市場での投機ブーム後のバブル崩壊が急に危機をも
たらすには至らないだろう。しかし、過去20年の日本のバブル崩壊と、2000年代の欧米のバブル崩壊を体
験した者の目からみて、「今回だけは違う」として中国だけがバブル潰しを計画通りできるかは疑問だ。
もっとも、中国のサポート要因は中国の成長段階が日米よりも若いことにあり、潜在成長率の高さを活か
すことが出来る分だけ中国の回復力は高い。1970年代の日本がバブル崩壊後に当時の成長率の高さから
回復を早く遂げたのと同じような面は中国にもある。ただし、バブル潰しで生じる収縮を受け止めるには、外
需拡大に依存するか新たなバブルしかない。中国は新たな拡大策を国内でとるか、若しくは海外の需要に
依存しない限り、調整負担は正常化しない。また、危機は回避されても非効率な分野を残存させ経済成長
が低下するという副作用が生じやすい。結局、信用拡張とその反動は人間の性(さが)、中国も例外ではな
かったということか。
当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき
作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。
2
Fly UP