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パッペンドーフ: レディ・ホワイトと ブランシェ
パッペンドーフ: レディ・ホワイトと ブランシェ け きゃく ま に もつ やま いち ばん アナベルは ケスラー家の 客 間を のぞいて、あぜんと した。荷物の 山の 一番 うえ きょだい はこぶね じょう ぶ あ よこだお 上には 巨大な ノアの 箱舟が、 上 部が 開いたまま 横倒しに なっている。しかも、 なか み ゆか お やま 中身は ほとんど 床に 落ちて 山と なっている。 はや き お 「カイラ、早く 来て! シ~ッ、みんなを 起こさないようにね!」 アナベルが さ さやいた。 なか ま せ かいじゅう ぜん ぶ 「うわあ! すごく たくさんの 仲間たちね。まるで、世界 中 の ぬいぐるみが 全部 あつ い 集まったみたい。だけど、どうして みんな、ねむっているのかしら?」 カイラが 言った。 ふたり こ 「エリンと ジュリエットと 二人の 子どもたちが、はるばる ヨーロッパから やって き む いま じ かん じ さ い 来たばかりなの。向こうでは、今 みんな ねむっている 時間なのよ。時差ボケって 言 せつめい うんですって。」 アナベルが 説明した。 たいない ど けい かんけい じ しん い 「どうやら、体内時計と 関係が あるらしいわ。」 アナベルが 自信ありげに 言った。 な ごえ き おも 「ホー、ホー、わしゃ ねむっておらんぞ。」 フクロウの 鳴き声が 聞こえたかと 思 はね おと はこぶね なか と で うと、羽を バタバタさせる 音が して、箱舟の 中から フクロウが 飛び出てきた。 「わ しゃ、オリーじゃ。フクロウの オリー。」 さ だ にんぎょう い あいそう フクロウが つばさを 差し出すと、人 形 たちは「こんにちは」と 言って 愛想よく しゅ あく手を した。 い ひる よる とき フクロウが 言った。 「ほかの みんなは、昼でも 夜でも、ねたい 時に ねれば いい。 な ひつよう よる お な ホーホー 鳴く 必要は ないからな。だが、わしは 夜には 起きていて、ホーホーと 鳴 ひる ま いま おな かねば ならん。そして、昼間に ねむるのじゃ。だが、今は ほかの みんなと 同じく、 め ち え だい な 目を さましておる。これでは わしの 知恵も 台無しじゃ。」 「まあ。どうしてなの?」 アナベルが たずねた。 よる しず かえ みみ 「つまりだな、わしは 夜に しーんと 静まり返っていないと、耳を かたむける こと つ じ かん にっちゅう が できんのじゃ。ここに 着いてから、まだ 2,3 時間しか たっておらんし、日 中 の ざつおん こんらん じ ぶん かんが き そうぞうしい 雑音と 混乱の せいで、自分が 考 えている ことすら 聞こえん。 」 ふか かんが い なに て う アナベルは 深く 考 えこんで 言った。 「では、何か 手を 打たなければ いけないわね。 そう だん まい にち き きゅう アンジェラに 相談しましょうよ。アンジェラは いつも、毎日の 決まりごとが 急 に か たいへん にち しず お つ たす 変わって 大変な 1日に なっても、わたしたちが 静まって 落ち着くのを 助けてくれ るもの。」 き たし よる 「ふむ。わしの 決まりごとは、確かに メチャクチャに されてしまいおった。夜に しょう き かしこ ぜったい ねむるだって? 正 気な 賢 い フクロウなら、そんな ことは 絶対に せんぞ。」 2 き も き うし ほう こえ 「その 気持ち、わかる 気が するよ。」 後ろの 方から、声が した。 しょうかい 「あら、ブルーノ。こちらは オリーよ。」 アナベルが 紹 介した。 くち ねったい ち ほう き 「口を はさんで ごめんよ。だけど、ぼくは クマだって いうのに、熱帯地方に 来て とうみん たの まい から 冬眠の 楽しみが なくなって、参ってるんだ。」 ふ へい きんもつ い 「まあまあ、ブルーノ。不平は 禁物よ。」 カイラが 言った。 はな よろこ はなし き 「そうだね、ごめん。だけど、その ことで 話したかったら、喜 んで 話 を 聞いてあ げるよ、オリー。」 ひる ま め はな あい て とき 「ありがとうよ。もし 昼間に 目が さめて、話し相手が ほしい 時には、よろしく たの 頼むよ。」と オリー。 やま うご はな すると、ぬいぐるみの 山が もそもそと 動き、オリーに、だれと 話してるのと た こえ ずねる 声が した。 にんぎょう で かお み 「おとなりさんの クマと 人 形 たちじゃ。出てきて、顔を 見せなされ。」 オリーが こた い 答えて 言った。 くび ま ゆき ま しろ すると、首に ピンクの リボンを 巻いた、雪のように 真っ白な メスの ホッキョク こ で め たま と で いき グマの 子が 出てきた。ブルーノは、目の 玉が 飛び出そうなほど ドキッと して、息を のんだ。 3 はじ な まえ 「初 めまして。わたしの 名 前 は、ブランシェ・ホワイト。レディー・コンスタンス・ むすめ ホワイトの 娘 よ。」 はにかみながら、ホッキョクグマが あいさつした。 はじ 「初めまして、ブランシェ。わたし、アナベルよ。」 「わたしは カイラ。」 「ぼ、ぼく・・・ブ、ブルーノ。」 きょう にちじゅう ち ぱな 「アナベル! カイラ! 今日は 1日 中 ドールハウスが 散らかしっ放しよ!」 い い はな たの カイラが 言った。 「アンジェラだわ。わたしたち、行かなくちゃ。お話しできて 楽 はや じ さ なお しかったわ、オリー。そして ブランシェも。みんな、早く 時差ボケが 直ると いい わね。」 「ありがとう。まあ、 おも と 思 いっきり 飛 んでく れば、つかれて ねむ れるかも しれん。」 な ホーと 鳴 くと、オ まど と リーは 窓 から 飛 び た あと 立 っていった。 後 に は、ブランシェの か め がやく 目 に くぎづ こと ば けに なって 言 葉 が で のこ 出ない ブルーノが 残 された。 4 しん はい 「ねえ。あそこに ある バッグには、信じられないくらい おいしい ものが 入ってる こ わら のよ。」 ホッキョクグマの 子は、いたずらっぽく 笑いながら ささやいた。 「はちみつかい?」 た 「もちろん ちがうわよ。クマは みんな、はちみつを 食べるもの。」 「シロップ?」 くび よこ き ブランシェは 首を 横に ふった。 「ちがうわ。もっと いい ものよ。来て。」 かべ あ ブルーノは ブランシェと、壁に かたむきかげんに 開いている ダッフルバッグに よ のぼ じ登った。 おお あ なか まえあし ちゃいろ えきたい 「なめてごらんなさいよ。 」 ブランシェは 大きな ビンの ふたを 開け、中に 前足を つっこんだ。 した 「う~ん。」 ブルーノは 舌なめずりを した。 い 「おいしいでしょ?」 ブランシェが ほほえんで 言った。 ふたた まえあし 「うん。これ、なあに?」 ブルーノは 再 び 前足を とろっとした こげ茶色の 液体に い ひたしながら 言った。 とうみつ 「糖蜜よ。」 き 「聞いたこと、ないなあ。」 きた き なか 「北ヨーロッパでは、どこにでも あるのよ。気を つけて、バッグの 中の あちこちに、 お ちゅう い したたり落ちてるわ。」 ブランシェが 注 意した。 いったいぜんたい なに 「ブランシェ! 一体全体、何を してるの!」 み あ おとな かお め ブランシェと ブルーノが 見上げると、大人の ホッキョクグマの おこった 顔が 目 はい に 入った。ブランシェは ドキッと した。 5 おも 「マ、ママ! ねてるんだと 思ってたわ。」 み 「そこらじゅうを ベタベタに して。エリンと ジュリエットが 見たら、すごく おこる わよ。それに、そこに いるのは だれ?」 かれ かれ 「彼は、ブルーノって いうの。彼も クマよ。」 み ちゃいろ はは ごえ 「そんな こと、見れば わかるわ。だけど 茶色じゃ ないの。 」 母グマは うなり声を あげた。 「それが どうかしたの、ママ?」 むすめ ちゃいろ つ あ 「 娘 には、茶色い クマとなんか 付き合って ほしくは ないわ。」 はじ あ かれ 「だけど ママ、わたしたち、まだ 初めて 会ったばかりよ。それに、彼は とっても やさしいの。」 6 き いま で まえあし 「そんな こと、聞きたく ないわ。今すぐ、そこの バッグから 出なさい。前足を ふ ちゃいろ とも いて、茶色の 友だちに さよならするのよ。」 なみだ で へ や で 涙 ぐみながら、ブランシェは バッグから はい出た。そして 部屋を 出ていく ブルー て はは つづ はこぶね なか はい い ノに 手を ふると、母グマに 続いて 箱舟の 中に 入って行った。 * かい おと おも い 2 回ほど ドアを ノックする 音が したかと 思うと、だれかが「どうぞ」と 言う ま あ 間も なく、ドアが バタンと 開き、レディー・コンスタンス・ホワイトが どかどかと はい まえあし ちい かみ き かお 入ってきた。前足には 小さな 紙切れを つかんでいる。それを、アナベルの 顔に つ きつけた。 なん い 「これが 何だか、わかる?」 レディー・ホワイトが 言った。 かみ き こた かた 「紙切れでしょ?」 アナベルが わざと とぼけた 答え方を すると、パッペンドーフの わら みんなが どっと 笑った。 7 いったい い ねむ こえ いま ひる 「一体、どうしたと 言うのよ?」 アンジェラが 眠そうな 声で たずねた。 「今は 昼 ね じ かん 寝の 時間よ。わたし、つかれてるんだけど。」 ば しょ せきにんしゃ けん き 「あなたが、この しけた 場所の 責任者ね。それなら、この 件は あなたに 聞くべ い きね。」 レディー・ホワイトが 言った。 けん 「この 件って?」 よ 「これを 読んでちょうだい。」 かみ き う と みじか て がみ よ アンジェラは 紙切れを 受け取ると、短 い 手紙を 読んで ほほえんだ。 い 「やさしいのね。」 アンジェラが 言った。 あらあら い 「やさしいですって?」 レディー・ホワイトが 荒々しく 言った。 ひる ね ひと 「シーッ。お昼寝してる 人が いるの。そうよ、やさしいわ。」 アンジェラが ひそ ごえ い ひそ声で 言った。 ところ し あ かんしょうてき 「あなたの 所 の ヒグマの 知り合いから わたしの ブランシェへの 感 傷 的な ラブ レターが やさしいですって?」 かれ かんしゃ 「ラブレターという わけじゃ ないわ。彼は ただ、ブランシェと いられるのを 感謝 じ かん す い していて、もっと いっしょに 時間を 過ごしたいって 言ってるだけじゃ ない。」と ア ンジェラ。 て がみ さい ご か おお 「それじゃあ、手紙の 最後に 書かれている この X の マークと、大きな ハートは なん 何なのよ?」 「X は キスの ことで、ハートは・・・。」 あい なに わ 「そういう こと。つまり、ラブレターじゃ ないの。愛が 何か、まだ 分かってさえ かれ いないのに。ところで、彼は どこ?」 8 もり ひる ね おも す 「ブルーノは たぶん、ふしぎの 森で 昼寝をしてると 思うわ。あそこが 好きなのよ。」 こた アンジェラが 答えた。 とも おも 「わたし、ブルーノと ブランシェが 友だちに なったら すてきだと 思うわ。」 ドリ くち さいきん かれ スが 口を はさんだ。 「最近 彼は さびしそうだもの。」 かれ わ 「さびしいですって。彼は さびしいって ことが どんな ことか、分かってないのよ。」 ひく ごえ い レディー・ホワイトは 低い うなり声で 言った。 き かか 「ちょっと お聞きしますが、ブルーノが ブランシェと 関わる ことを、なぜ そんな はんたい に 反対するのかしら?」 アンジェラが たずねた。 かれ しゃかいてき ち い ひく むすめ じゅんすい 「彼は、社会的に 地位の 低い ヒグマよ。だけど うちの 娘 は、 純 粋な ホッキョ ぜったい クグマなの。だから そんなの、絶対に だめよ。」 きん じょ ひと プリシラが たずねた。 「どうしてなの? 近所に キャサリンと エドガーって 人が す はくじん ちゃいろ ひと 住んでるけど、キャサリンは 白人で エドガーは 茶色いわ。とっても いい 人たちよ。」 こころ あい あ い 「それに、心 から おたがいに 愛し合っているわ。」 アンジェラも 言った。 けっこん こ 「ふん。だけど、うちの ブランシェが あなたの とこの ブルーノと 結婚して 子グマ う じゅんすい か けい た が 生まれたら、どうなるのよ? うちの 純 粋な ホッキョクグマの 家系が 断たれる のよ。」 こ しろ なに おお もんだい 「子グマが 白くないと、何か 大きな 問題にでも なるの?」 ドリスが たずねた。 て かみ き レディー・ホワイトは、プンプンしながら アンジェラの 手から 紙切れを つかみ と むすめ とも 取った。 「とにかく わたしは、うちの 娘 が あなたたちの とこの ヒグマ友だちと こ い じょう かか だん こ はんたい ことわ れ以 上 関わる ことには、断固として 反対ですからね。きっぱり お 断 りします。」 い ふんがい そう 言うと、レディー・コンスタンス・ホワイトは 憤慨しながら、ドアを バタンと し で い 閉めて 出て行った。 * 9 し まい いえ まえ よう い アンジェラと パッペンドーフの みんなが、ヒルズ姉妹の 家の 前に 用意された お ちゃ まわ あつ し まい く ろう てい 茶の セットの 周りに 集まった。 「ヒルズ姉妹は、わたしたちのために 苦労して 低カ ゆうしょく よう い い ロリーの すてきな 夕 食 を 用意してくれたのよ、ブルーノ。」と アンジェラが 言った。 くち あ たの 「口に 合わないかも しれないけど、せめて 楽しそうに してね。」 い ふつか バーバラ・ヒルズも 言った。 「そうね。ここ 2 日ほど、あなたは ふさぎこんでるわ。 あたま 頭 でも いたいの?」 くび よこ ブルーノは 首を 横に ふった。 ね ぶ そく 「じゃあ、寝不足?」 ビバリーが たずねた。 げんいん 「ブルーノは たくさん ねてるわよ。原因は たぶん、あの ことじゃ ないかしら。」 い カイラが 言った。 ま あ 「待って。わたしが 当てるわ。えっと・・・、ブランシェの ことでしょ?」 アナベ い ルが 言った。 なに い ブルーノは うつむいて、何も 言わなかった。 「ブランシェって、だあれ?」 バーバラが たずねた。 むすめ 「ホッキョクグマの レディー・コンスタンス・ホワイトの 娘 よ。」 じょうきゅうしゃかい かのじょ 「まあ。 上 級 社会のね~。なるほど。ずんぐりして なければ、彼女は きれいなの にね。」と ビバリー。 げんりょう なん 「減 量 の ことなら、わたしたちが 何とか してあげられるわ。」と バーバラ。 びょう き かぎ 「クマは ふつう、ずんぐりしてる ものよ。 病 気でない 限りはね。」 アンジェラが い 言った。 * 10 あ め さ ドアが 勢いよく バタンと 開き、ねむっていた パッペンドーフの みんなが 目を 覚 こんかい ました。ただ、みんなの ほっとした ことに、今回は レディー・コンスタンス・ホワイ むすめ かのじょ な め トでは なく、娘 の ブランシェだった。彼女は 泣きはらした 目を している。ブルーノ だん ばこ と だ に だん お ひとばんじゅう ゆか ころ は 段ボール箱から 飛び出した。プリシラの 二段ベッドから 落ちて 一晩 中 床に 転 め がっていた アナベルも、目を こすった。 ねむ い 「おはよう、ブランシェ。どうしたの?」 アナベルが 眠そうに 言った。 ひとばんじゅう かえ き し 「ママが・・・。一晩 中 、ママが 帰って来てないの。どこに いるか、だれも 知ら よる で ないのよ。夜 出かけたみたいなんだけど、まだ もどってきて ないの。」 たいへん 「あら、大変。」と アナベル。 め さ かい わ このころには、パッペンドーフの みんなも はっきりと 目を 覚まし、この 会話を き 聞いていた。 い バーバラ・ヒルズが 言った。 「シュンバに さがしてもらいましょうか。きっと、すぐ み に 見つけてくれるわ。」 うたが ぶか め おお み ひら シュンバは 疑 い深そうに 目を 大きく 見開いた。 おとな と く あ 「それは どうかな。大人の メスグマと 取っ組み合いを した ことなんて、ないから なあ。」と シュンバ。 い と く あ い み すると、バーバラが 言った。 「取っ組み合いなんて 言ってないわ。ただ、見つける さいのう はっ き だけよ。きっと、才能が 発揮できるわよ。だって、ジャングル・キングで あなたは・・ ・。」 に だん で み い アンジェラが 二段ベッドから 出てくるのを 見て、アナベルも すかさず 言った。 「ノ ウジーでも いいんじゃない? やってみたら?」 い み ノウジーが 言った。 「においを たどれるよ。きっと 見つかるさ。」 11 ま 「トラブルに 巻きこまれたのかしら?」と ブランシェ。 あた ま 「この辺りで 巻きこまれる トラブルなんて、あるかしら。ジャングルを うろつくよ い うな オスの ホッキョクグマも いないのにね。」 バーバラが いやみを 言った。 い まった けいそつ い アンジェラが 言った。 「 全 く、バーバラったら。そんな 軽率な ことを 言うもんじゃ ないわ。」 かた け はじ バーバラは 肩を すくめると、ゆううつそうに かみの毛を ブラッシングし始めた。 い い かれ ちゅうもく 「ぼくが 行くよ。」 そう ブルーノが 言うと、みんなが 彼に 注 目した。 「あなたが?」と ビバリー。 わ 「ぼく、ほかの クマの においは よく 分かるんだ。」と ブルーノ。 「ホッキョクグマでも?」と ブランシェ。 あたま じょう げ さ ゆう うご わ ブルーノは 頭 を ゆっくりと 上 下左右に 動かした。 「うん。もし 分からなかったら、 かのじょ み いの 彼女が 見つかるように 祈ることも できるし。」 い りっ ぱ じ ぶん ち え たよ アンジェラが 言った。 「立派ね。自分の 知恵に 頼るよりも いいじゃない。あなた まか に 任せるわ。」 かい かつ ふか いき むね は 快活そうに ほほえむと、ブルーノは 深く 息を すいこみ、胸を 張った。そして、 まえあし さ だ しんらい まえあし と 前足を ブランシェに 差し出した。ブランシェも 信頼して ブルーノの 前足を 取ると、 に とう にん む は へ や で い 二頭は 任務を 果たすために、ゆっくりと 部屋を 出て行った。 い ち か しつ む 「どこへ 行くの?」 地下室へ 向かいながら、ブランシェが たずねた。 きゅう くう き なか い 急 に、ブルーノは 空気の 中に ただよっている においを かいで 言った。 「・・ ・やっ たし ま ぱり、確かに クマの においだ。だけど、ほかの においも 混ざっている。」 くら ふ あん 「暗いわね。」 ブランシェが 不安そうに ブルーノに しがみついた。 12 しんぱい ち か しつ にんげん おとこ ひと もの なお 「心配ないよ。ただの 地下室さ。ここで 人間の 男 の 人たちは、物を 直したり、 だい く し ごと どう ぐ ひつじゅひん 大工仕事を したり するんだ。だから、ここには いろんな 道具や 必需品が あるんだ。 」 ところ いったい なに 「だけど、ママが こんな 所 で、一体 何を するかしら?」 かた ブルーノは「わからない」と いうように、肩を すくめた。そして、においを かぎ つづ とつぜん い む はい 続けた。 「そこだ!」 突然 そう 言うと、ブルーノは すみに 向かって ずんずん 入って い れい はい おお とうみつ 行った。 「あそこに あるの、例の バッグに 入っていた 大きな 糖蜜の びんじゃ ない?」 まわ ゆか かた ちゃいろ ブランシェは うなずいた。そして、周りの 床に こぼれて 固まっている 茶色の か み たまりの においを かいだ。 「そうは 見えるけど、においが ちがうわ。」 きゅう ち か しつ あ すると、急 に 地下室の 明かりが ついた。ブルーノと ブランシェは、セメントの ふくろ 袋 の かげに かくれた。 ぼう ふ ざい も は け 「そこの 防腐剤の びんを 持ってきておくれ。わしは、刷毛が きれいに なっている かくにん ねんぱい おとこ ひと こえ か どうかを 確認しておくから。」と、年配の 男 の 人の 声が した。 13 わか こえ こ すると、若 い ほうの 声 が した。 「よしきた。・・・おい! 子 どもの だれかが、 お ここに テディベアを 落としたみたいだぞ!」 たいへん ごえ い 「大変! ママだわ!」 ブランシェが ひそひそ声で 言った。 ばこ い わか おとこ い 「こりゃ ダメだな。ゴミ箱に 入れとくよ。」 若い 男 が 言った。 な はじ あい ず ブランシェは わっと 泣き始めたが、ブルーノが こらえるようにと 合図した。 お す あと きょう 「ドアの そばに 置いとけや。捨てるのは 後で いい。今日は まず、あの さくの ペ お ねんぱい おとこ ひと かんだん あが ンキぬりを 終えなきゃ いけないからな。」 年配の 男 の 人が、階段を 上りながら い 言った。 おとこ ひと こえ き 男 の 人たちの 声が 聞こえなくなると、ブルーノと ブランシェは ぼうっと してい もと かのじょ とう き よわよわ る レディー・ホワイトの 元へ かけつけた。彼女は 2頭だと 気づくと、弱々しく ほ ほえんだ。 いったい 「ママ! そんな べたべたな ものに ひたっちゃって。一体 どうしたの?」 かのじょ じ ぶん せ なか ひ あ い あと おし ブルーノは 彼女を 自分の 背中に 引きずり上げて 言った。 「それは 後で 教えてく いま だっしゅつ ださい。今は とにかく ここから 脱 出 しないと。」 こえ じ ごく くる レディー・ホワイトが かれた 声で ささやいた。 「どうしましょう。あの 地獄の 苦 せんたく き なか はい す しみみたいな 洗濯機の 中に 入らないで 済むかしら。」 ばこ す み ほんとう 「ゴミ箱に 捨てられてしまうよりは いいわ。ママが 見つかって、本当に よかった。 い そこで おぼれてしまったかも しれないのよ。」 ブランシェが 言った。 * み なか け ぼう ふ ざい のこ あら お パッペンドーフの みんなが 見ている 中で、毛に ついた 防腐剤の 残りを 洗い落 あいだ あわ め とそうと プリシラが ゴシゴシ やっている 間、シャンプーの 泡が 目に しみるなどと い レディー・コンスタンス・ホワイトは ぶつぶつ 言っていた。 14 かわ せんたく 「わたしを 乾かすために、洗濯ばさみで つるしたりなんかは しないでしょうね? く まえ にんげん せんたく き ほう あと ほんとう ここに 来る 前、人間たちは わたしを 洗濯機に 放りこんだ後、つるしたのよ。本当に、 じ ごく くる 地獄の 苦しみみたいだったわ。」 い す プリシラが おだやかに 言った。 「タオルで ふけば、そうしなくて 済むかも しれな いわ。」 せんたく き あら か も 「だけど、 『洗濯機で 洗えます』とか 書いた ラベルは 持ってないんですか?」 ブ ルーノが たずねた。 まえ き と にんげん せんたく き 「前は あったわ。だけど、ブランシェに 切り取ってもらったの。人間に、洗濯機で あら かんが もんだい 洗おうなんて 考 えてほしくなかったもの。問題は、そんな ラベルが あっても なくて にんげん せんたく き ほう も、人間は とにかく わたしを 洗濯機に 放りこんだって ことよ。」 い まいにち あら アナベルが 言った。 「もし 毎日 こまめに 洗っていたら、そんな おおごとに ならな す くて 済むわ。」 15 しろ け すこ 「わたしは、いつも 白い 毛に 少しも よごれが ないように していたのよ。しみの まった はじ むすめ ついた ホッキョクグマなんて、 全 く 恥さらしですからね。 ここにいる 娘 の ブランシェ せいけつ ちゅう い にも、清潔さを おこたるたびに、 注 意しなければ ならなかったのよ。」 「 ママ~。」 ブランシェが うなった。 だい ぶ ぶん お と みだ 「とにかく、大部分は 落ちたわ。 」 取り乱した クマを タオルで ゴシゴシ ふくと、 い いろ すこ お ちゃいろ ドリスが 言った。 「だけど、色が 少しずつ 落ちていくまでは、茶色の ままで いなく ちゃ いけないようね。」 なん ちゃいろ 「まあ、何てこと! 茶色ですって?」 レディー・ホワイトは ぎょっと した。 ざんねん い じょう む り あか ちゃいろ 「残念だけど、これ以 上は 無理よ。でも、すてきな 明るい 茶色よ。」と アンジェラ。 に あ おも き 「ぼくは、とっても 似 合 うと 思 いますけど。きっと、ロード・ホワイトも、気 に い おも い 入ってくれると 思います。」 ブルーノが 言った。 め かな 「ロード ・ ホワイトは、こんなの 目にも くれないわ。」 レディー・ホワイトが 悲し げに つぶやいた。 き やぶ い ぼう ふ ざい 気づまりな ちんもくを 破って、アンジェラが 言った。 「それにしても、防腐剤って、 きょうれつ なん おも 強 烈ね。それが 何だと 思ったんですって?」 とうみつ こた 「糖蜜よ。」 レディー・ホワイトは おどおどしながら 答えた。 なに 「それ、何?」 ドリスが たずねた。 くろ こた 「モラセスみたいなもの。黒っぽい シロップみたいな ものよ。」 プリシラが 答えた。 「とにかく それが、ものすごく おいしいらしいのよ。そうでしょ?」 レディー・ホワイトが うなずいた。 * 16 へ や おと へん じ き パッペンドーフの 部屋の ドアを ノックする 音が した。 「どうぞ。」と 返事が 聞こ あ えると、ドアが ゆっくりと 開いた。レディー・コンスタンス・ホワイトだ。 いま 「今、おじゃまして よろしいかしら?」 よ ざっ し お 「ええ、もちろんよ。」 アンジェラは 読んでいた 雑誌を 置くと、すみの いすから た あ ごえ 立ち上がった。 「みんな ねているから、ひそひそ声でね。」 レ ディー・ホワイトと アンジェラ ひ で き ごと は その日の 出来事について ちょっと はな あ 話 し合 ったが、レディー・ホワイトが い ぼう ふ ざい じ 言 った。 「とにかく わたし、防 腐 剤 事 けん じん せい きょう くん まな 件から、人生の 教 訓を たくさん 学 げん だい ふう め ばされたわ。現 代 風 に いうと、目 を さ い 覚まさせられたって 言うのかしら。」 アンジェラが うなずいた。 はな つづ レディー・ホワイトは 話 し続 けた。 ふ とう わる 「わたし、ブルーノの ことを 不当に 悪 き かれ く 決めつけて いたわ。彼は とうとい こん かい じ けん かれ クマなのにね。今 回 の 事 件 で、彼 は じつ りっ ぱ しょう さん あたい 実に 立派だった。 賞 賛に 値する ふ るまいだったわ。」 め レディー・ホワイトの 目に、なみだ かれ が あふれた。 「クラレンス・・・つまり、ロード・ホワイトの ことなんだけど、彼は ブ ほこ おも おも むすめ ルーノの ことを とても 誇りに 思ってくれると 思うわ。そして きっと、娘 と ブルーノ とも しゅくふく おも が 友だちに なるのを 祝 福してくれると 思うわ。」 17 い ほんとう 「そんな ことを 言ってくれるなんて、本当に やさしいのね。」 アンジェラは ティ さ だ い シューを 差し出しながら 言った。 とも い 「だから、ブランシェが ブルーノと 友だちになって いいって いうことを、言いたかった はこぶね なん かんげい つた の。それに、箱舟で やることは 何でも、いつでも 歓迎するわって 伝えたかったのよ。 」 ほんとう 「本当に ありがとうございます。ブルーノにとって、それが どんなに うれしいことか、 そうぞう かれ もっと たよ いちいん 想像できないでしょうね。彼は パッペンドーフでは 最 も 頼りがいの ある 一員なん い ですよ。」と アンジェラが 言った。 たし しゅくふく き も つた 「それは 確かね。どうか、わたしの 祝 福と おわびの 気持ちを お伝えくださいな。」 と レディー・ホワイト。 とう みつ 糖蜜 ちゃかい かんげい 「もちろんよ。そして あなたも もちろん、いつでも わたしたちの お茶会に 歓迎す とうみつ るわ。エリンと ジュリエットの おかげで、糖蜜も たくさん ありますから。」 文:ギルバート・フェンタン 絵:ジェレミー Copyright © 2011 年、ファミリーインターナショナル "Puppendorf: Lady White & Blanche"--Japanese http://www.mywonderstudio.com/level-1/2011/12/28/puppendorf-lady-white-and-blanche.html