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夜の川

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夜の川
夜
ふ化事業日誌シリーズ
「さげとます」
口長沢
JIl
の
N。
・
3
誌l2 号ょり転載
有 .尼
陸海稚魚観測所は
,述部な漁港から
半道
なっていた。この牧場には
数ヵ所に大きな
ばかりのところにあ
った。そこは非常に
風
エ ルムの樹があって,その木蔭に
臥伏して
土色豊かな場所だ
,,
@>た。 幅の広い川がタッ
いる牛が数頭いた。
プリと水を湛えて
,ゆっくり音もなく
流れ
月夜には,エルムの
陰影が黒々としてい
てお 先 その対岸は川原というものがなく
,
るかわりに,牧場の
緑は一段と輝きを
増し
広い野原が続いていた。
草の色は照明をあ
て美しく静かだった。
牛は依然として草を
てたように輝くばかりの
緑で,気持ちよく
噛んでいるのに
,その存在を
全く忘れさせ,
遠くまで拡がっていた。
所々に乳牛が草を
日に写らないのは
不思議なことであった。
観測所は初めからそれだけの
目的で作ら
噛んでいたが目に5 つる限りでほ200頭は
りいるように
思えた。野原のず一つと,
れたものではな
同 5 に 堤防があってその上に
冊が 囲 らさ
行な ために,以前から
建てられた木造の
ね 、 牛がどこかへ行ってしまわないよ5 に
大きな家に殺げられていた。
その家は一棟
う
3Ⅰ
,川から戻って
ではあるが,中は採卵
室,倉庫,従業員詰 ビニールのバケツをさげて
所等があって,川岸から
30 米ほど離れた道
ぎた。バケツの中には5
路ふちに建てられていた。
秋になると,こ
の稚魚が数10 尾入っていた。
彼は黒板にそ
一 6 センチのサケ
の川にのぼってくる
サケを捕獲して,ここ
14 .33 .21
の居敬を 4 行に分けて,左から
で卵を採り,人工授精をして
上流のふ化室
へ収容するのである。 春には,これらの卵
計68 と幼稚な字で
書いた。そして,身につ
からかえった
稚魚が放流される。
それらが
ベットにもぐり
込んでしまった。
一体どのぐらい
川を降って海へ出るのか観
測するのがここの
仕事である。 放流場所か
けているものは
,いっさい,捌り出して,
四端技官は,自党時計が,今度は
3 時に
鳴るように仕掛けてからべ
ット に入った。
らこの観測所までは
約50 ㌔あった。わが国
この観測所の
仕事は,サケの
稚魚がどの
の サケは大部分が人工増殖で
資源が保たれ
くらい海へ出たか
計測するもので
,川に仕
ているので,親になって
川へ帰ってくるに
掛けてある稚魚採集器に
入る稚魚を一定時
も,生れて川を出て行くにも同じ場所でチ
ェックされる。
ちょうど,出入国する
検閲
る。
計算によって陸海量を求めるものであ
間毎に計数して
,後でこの数をしかるべき
所 のようなものだが
,相手が人間じやない
この稚魚の採集業務は
1 日中夜も昼もぶっ
ので総て作りが
雑になっていた。
通し続けるように
計画されていた。
そのか
わり,次の24 時間は休暇が与えられていた
建付けの悪い窓でも
月光が射し込んで
,
が, このⅠ週間は
特別な実験をやっている
も ぬげのからになっている
二つのべットの
上に青白い光がスポット・ライトのように ので昼夜連続休みなしで
計数を実施してい
ふり注いでいた。
るため,別の1 組 と交替になった。
しぱらくして田端技官が
完全な没衷情な
夜中に小刻みに
起されるのは
全く苦痛で
勤労意識で,重そうに足をひきづって
入っ
あ った。しかし,自分達が手をぬけば
, そ
てぎた。手作りのサイドテーブルには
, モ
れだけ推定値の精度は低くなり,誤差が大
ダンな目覚時計と
萎れたチューリップが
土
きくなり,全くあ
てにならない
結果となっ
を入れた聖岳に着込んであった。そのほか
てしまうことが
,自分の存在価値を
失
に汚れたグラス
二つと養命酒が1 満載って
のだと思った。
う
も
いた。出端技官は脚のつけれまで
入るゴム
だが,そう思 けのはいつも昼間で,夜中
長靴を膝まで折り下げると,グラスの一つ
の計測の時に
物凄い睡気を,やっとのこと
に半分程養命酒を
注ぎ, 顔を天井に仰げて
で払いのげ,夢遊病者のように
暗い夜の川
一息きに口仁含ませ
,次に偏向き加減にな
へ向ぅ時には,昼間のまともな
考えなど全
ってゴクリと昔をたてて咽喉に流し込ん
然思いもつかなかった。
だ。そして今度は少し眼を傭せて
火気のよ
彼が夜中に思けことは
,この文明が手さ
うな息をプッと花の上に吹きつげた。
それ
ぐり状態で進んできた
5,000 年のうち,地
からゆっくりと両手の掌が巨大な鳥の足み
球が円いとわかったのは
,近々500 年のあ
たいに帽子とへッ ドランプを摘んでテーブ
いだのことに
過ぎなく。この川が今のよう
ルの上に置いた。
に流れ始めて以来も
う
彼がべットの乱れた毛布と白布を整えて
l,000 年以上は優に
過ぎているといわれており
,そう ゆ 途方
う
もない時間の
流れの中でわずか
60 余年しか
いると,彼の使用人である若い男が
, 赤い
32
生命をもたぬ自分が何で眠たいのを
我慢し
りであった。
て真夜中の川に
入ることがあるものか,と
考えるのであった。
そ九でも出端技官と
一緒に仕事をしてい
る
それでもなお,採集器に稚魚が
何尾入っ
う
ちに,少しずつわかってきた
" 絶海稚
魚の計測という
,不可解な仕事の
枢要な部
たか調べに行くのをやめるわけではなかっ 分であることを,今では十分知っていた。
た。 それは本当に自分がこの川のサケ
稚魚
そして彼がやらされている
仕事が, あ た
の降海量を知りたいと
思う からではなかっ
かも車体の下のナットのように
目立たない
た。 また,星が空いちめんに
輝いているの
が,なくては困る重要な部分であ
ることに
を見たいのでもなかった。
面倒臭いと思い
気付いていた。
けれども,ナットと
旨 5や
ながらも,どこから起るのか
知らないが,
つは,老人の酉のように,大した
損傷を受
何か大きな圧力が
彼の意志にかかわりなく
げなくても,ゆるんで
,外れてしまうもの
作用していることを
感じていた。そして結
だと考えた
" だから,彼は
非番の日に,
た
局は,ただ調子を
合せるために,やってい
だぬれって l 日を何も知らずに
過すこと
るのだ,ということに
落石いてしまうのだ
が,何かひどく
損するような気がしてなら
った。
なかった。それは一種の強迫感念に近いも
たしかに生きていくのに
は,そういう口
分の意志以覚のものと
調子を合わせていか
ねばならないことは
, も
う
何年も前から
知
っていたし,それ
以上に,もっと良い考え
や,進んだ思想は
思い浮ばなかった。
彼の使用人である 芥共助は,北海道の四
のであった。と 言ってl 日中目を覚まして
いても何一つ得るものはないのだが
,それ
だけに共助は
段々ゆるんで, しまいには外
れて,さび果てるのでないかと
考えた。
今やっている
実験というのは
, この川で
使っている,
稚伍の採集器の
能力というか
,
海岸にある小さな漁村の
生れで,最近まで
・性能というか
,要するに効率がどのくらい
漁師をやらされていた。
の値を示しているかを
調べるものだった。
彼は初めのうちは
, 自分が今ここでやら
それは出端技官も
既に疑問には 、 っていた
されている仕事が
何のことか,ちっとも
解
事だった。例えば,採集器が
川の断而に対
らなかった。
彼が今までに獲った魚は,・
常
して l00 分の 1 の 縮少壮で採補 していると
に,金に換えることが
出来たし,多く
獲る
すれば,採集器にl0 尾入った時にはl,000
ことが世に認められることであ
った。とこ
尾と計算される。ところが,この採集器が
ろが,川の小魚を
獲るのだ,と 言われてき
理想通りに働いていればそのままでいいの
たこの観測所では
,全く勝手が違って い
だが,l0 尾入るべき ものが,何かの
作用で
た。 彼が渡ら
5 尾とか3 尾しか入らないことが
十分観察
稚魚で,市場へ
打ち込んでも全然値打ちの
されているからであ
る。 こ 5 した稚魚の降
ないものだった。
そして,もっと沢山棲ろ
下生態については
逐次,
うと思えば,とる
方法もない訳ではないが
,
いた。札幌ではそれを
検討した結果,調査
それは駄目なんだと
言うのであった。要す
してみないと
結論は出せないとなった
,
るに自然に獲れたものを取るのだと
説明さ
オし
@
へ報告されて
今のところ,計数は3 時間毎に行ってい
れた。漁師として長いあ
いだ魚を獲ってき
るが,
た共助にしてみれば
,合点のいかない
急度
もあろうし,採集器を
避けて行くものもあ
3 時間の間に採集器から
逃げるもの
ろ
う
。 普通の状態ではl 度採集器に入ると
あ る。 従って,この
採集器の採捕効率を求
めったに外え出るものではないが
,流速が
め ほ げれば,陸海員を
評価する答にならな
弱い時,採集器の
網目がゴ ,等で閉塞され
る。 それを調査するため
いというわげであ
の実験が行なわれていた。
ると水はげが
悪く採集器の中に逆流が生じ
た時,等が稚魚を
逆に覚へ追い出す現象を
2 つの実験が計画され
,その l つは,採
起しているらしかった。
また,採集器の
口
集器に l00 尾ずつ稚魚を入れて3 時間後に
から水が押出されていれば
,稚魚は何か障
取調べること
増えているか減っているかを
害物を感じて,そこを避けて
通ることも考
だった。それは何回か繰返えされ,その
時
えられた。川の中には3 台の採集器が据え
の流速や,川のあ
らゆる状況に
応じた変化
られているが
,両岸のものは
一度入ったも
と合わせて行なわれ
,時間も3CW分から3 時
出る傾向があった。
のが3 時間以内に外へ
間までセクシ, ソ して観察された
" 更にま
中央のものは
避けて通る傾向があ
った。そ
た, 日中,タ方,夜中,
明 暁の変化なども
れは明らかに流速の違いであ
あ ると思われ
調べられた。結果は案の捉l0 尾から30 尾く
た,両岸の流速は
中央部に較べると
大部弱
らいに減っており
,平均l2-l5
く稚魚の出入りが
可能なものであった。採
集器の濾斗状の長い袋網で
後部が取外しが
採捕能力しかないと
考えられた。
出来るよ になっていた。
つまり入口が
大
上流 300 ㍍の地点から,稚魚 l0 万尾を放し
ぎく開いているので
流速がないとぎ は,出
て, どれだけ採集出来るかという
試みであ
口ともなるのであ
る。 現在のところ
流れに
った。採集器は河川断面積に
対して大体
う
尾くらいの
もう一つの実験は
,採集器が並んでいる
, ㏄
抵抗なく設置するにはこのようなタイプの l00 分の 1 の縮尺地になっているので
る。
採集器が一般に
使用されているのであ
万屋通過したとするには
l,000 尾の稚魚を
川の中央部に据えられたものは
,両岸のも
稚魚
採集しなければならない勘定になる。
のよりやや流速が
強いので,稚魚がそれに
は夜行性があるので計数の
大部分は深夜で
さからって逃げ
出す傾向は少ないが,流速
あ った。しかし昼間は
全然稚魚が移動しな
が速いだげにゴ,の付着や浮沖 物体も多
いというものではなく
,夜間に絞 らべると
く,網目の閉塞が
比較的短時間に
起り 3 時
極めて少ないが
,見逃せる数量ではなかっ
間後には,水が
温出していることが
貫 々あ
る
た。 わずか300 ㍍の距離ではあるが,稚魚
全部計数ラインを
通過するのは5 一60 時間
。 このような時ほ
稚魚はそこを避けて通
降下移動する
るのである。 そして中央部を
を要した。勿論,早いものはl 一 3 時間で
稚魚は両岸のものより
大きいものが多いの
通過するものもあ
るが,稚魚が
最も激しく
成長したものは
障
である。 焦、 と雄も大きく
移動するのは夕方の6 時から夜中のl2 時で
害物や危険物に
対する回遊能力が
発達して
あ る。 だから計数のピークは
,いつもこの
いるのせ大きくなればなる
程採集しにくく
間に見られる。
そのために,稚魚はタ
方7
なるものである。
時を期してl0 万屋が一斉に放された。稚魚
そんな訳でこの
採集器が, 川の断面に分
は計数地点から300 ㍍上流まで,トラック
而 している稚魚を
,それと同じ比率で採補
で運ばれ,そこから
稚魚は水槽を傭えた月
していないということになり
, 採捕効率は
に移された。舟は,あらかじめ張られたロ
非常に低いのでないかと
考えれらるからで
,向 岸まで,ゆっ
ープに支えられながら
34
う
くり横断しながら
,均一に稚魚を
川の中へ
出端技官は,夜がこんなに
美しいと思っ
放して行った。これらの稚魚は
,知床事業
たことは,今までになかった。
彼は,空を
場から運んできたものであ
った。6 月上旬
仰備した。無窮の空間が花々として限りな
となると北海道では
,知床半島と根室海峡
かった。彼は今まで殆んど気がつかなかっ
に出る川のほかは
,殆どさげの稚魚は放流
た大自然の生命を
感じた。それと同時に
,
る。 知床事業場のふ
されていないからであ
無限無窮の大自然のうちに
生滅浮動する人
化室は,水温が低いため
,発生が遅れ,他
間,人生の事実を
痛感した。
そしてまたも,
の河川では稚魚が
沿岸に出てしまう
頃にな
何のためにさげの
稚魚を採らねばならぬの
って,やっと
放流される。しかし,川が
短
か,その意味に
疑問を抱いたが
,それは不
かく,放流地点からl-2
, もは
思議で深玄なる所へ置くことにして
㌔で海へ出られ
るから,結局は
,他の河川から
出てき たも
のと,一緒になってしまうのであ
る。 自然
やそれを深く
考える気は起さなかった。
朝 8 時の計数が終ると
,別の2 人と交代
は実にうまく出来ていて
,早くても,遅く
して,その日は
翌日の8 時まで休みであ
っ
ち やんとその意志に
従
ても,結局において
た。 しかし,非番とはい ものの,1 日中
わせているのであ
る。 われわれはその自然
寝て過せるものではなかった。
気象観測
う
るのか,もっと,もっと,
の意志が何であ
と,川の観測を
定刻にやらねばならなかっ
探求する必要がある。
た。 それは特につらいものではないが
,異
時間がくると,四端技官は, 芥共助をう
ながして,冷寒い
空気と暗欝な 影 とが立ち
状がなくても,朝夕2 回,水温,水位,流
速,流量,濁度等を記録し,採集器を
設置
こめている中を
,別に悲しいとも
辛苦いと
してある横断面の面積を
毎日算出して求め
も思わず,川の
方へ出て行った。
ておかればならなかった。
そのほか,採集
2 人は何も言わずに
舟を押し出し
,川の
した稚魚の成長をみるため
, これらの魚体
l0 ㍍間隔で並んでいる3 台の採
を測定しておか
ぬぱならないし,当然,
炊
集器の集魚網を端からつずつ取替えて行っ
事 もやらねばならなかった。
そのため,1
横断面仁,
た。 取替えている間,共助は舟の
流れを止
日中観測所を
空けることは出来なかった。
めて,採集器の
網目に塞 っている塵芥を
掃
結局,所在のない1 日となってしまうので
除したり,集魚網の
中の稚魚をゴ ; の中か
あ る。
ら選り分けてバケッに
移したり,稚魚を
数
えたりした。
川の音は殆んどなく
,舟を押し進める
時
そういうある雨の日に,幅広い
自動車が
2 台もやってきた。
その町の実力者と
漁協
の役員達であった。要するに,見学したと
の竿の音だけが
,小石でも落したよ
う に,
いう以外に,何も
得るものはなかったのだ
時々,も よく響くだけで
,初夏とも晩春と
が,本当は,どのくらい稚魚を
放流して,
もつかぬ,ぬるい
風が頻りに四囲を
掻き乱
どのくらい海に
出たのか知りたかったので
していた。
あ る。
月は東に高く登って,黒雲が
飛散集合し
それは漁協にとっては
,今後の経営上に
て 千変万化に天界を
乱舞していた。この雲
大きな要素となるからであ
る。 今年の降海
間から月がもれ
,濡れた舟べりに光を射落
量が, 大きいか,小さいかは
,来るべき3
すと,キラリと 一点,黄金色に
光った。
一 4 年後の回帰年には
,サケ漁の準備の
仕
楳 があるというものだ。
ふ化場が,その
年
する動機は十分承知のヒ だが,そのことの
の漁獲ヰ 想を発表し得ないまでも
,せめて
答 として「イェス」にしろ「ノー」にしろ
,
放流魚の回帰年次ぐらいの
予想は言ってい
いずれも借金を
作ることだと考えた,彼は
いのでないかと
漁協の人は占う。
それが的
こうい 人達の即決即断ぶりをうらやまし
確に チ想できるなら
, ゲッ ソリ する程の大
く思った。
{
う
損をする程もないだろうと
,不満を述べ
「わかりません。
・…‥まあ 風向き次第と
た。 そのほか,ふ
化場が,一言,今年の
回
言
旨うことにでもしておぎましょうか」と
帰暑は大きいぞと
,一寸ふれこんだだけ
っておいた。
「なるほど……そういう訳ですか」と解
で,銀行から出る金の額も,桁が違ってく
るのだ,と言うものであ
る,だから何とか
ったような返事をしたので
,彼は驚いて
,
早 漁獲予想が出来るよう
そいつの顔を,穴のあくほど見つめてか
と
川端技官は何度もしつこく」われた。
そ
ら,
おごそかに
んなことを,われても
,彼にはど するこ
「そうです,
まさにお説の
通りです」と
とも出来ず,そういう
キは, 場艮に言って
丁重に言って,一歩しりぞいた。
するとま
くれと,収合わなかつた。
失除,彼にそん
たも妙なことを
言いだした。
う
な事を要求するのは
見当外れではあるが,
「
ふ一む,
ここは世界でも
実に大したと
漁協にしてみれば
,出端枝頂を 一個人とは
ころです。こんな素晴しい
調俺なしている
見れず,ふ化場という
一つの機関を代表す
処は滅多にないという
訳ですね。だが,儂
る人物に見えるのも
,無理のないことであ
Z0 午になるが,サケのふ
化
はこの町へ来て
った-
放流はそれより
, もっと以前からやってい
町の辿 l帖,財源の大部分が
,水産業か
ら入るので,この町に
サケが溢れること
た, と聞いているが
, どうして今までこの
ような調査をしなかったものでしょうね
,
を,願っていることはいつまでもないこと やはり予算のせいでしょうか
? それとも,
である,
評価が難かしいためでしょ
j か ? あ るい
@l@ 技, は,Ⅲ丁 /@>降海量を経済的な面
ドヰ
・
で 捉えようとしているのに
,絶海量の評価
をどうやってやるのか
,方法論についての
は,河川減耗といj ものが,今までは
,な
いとぼっていたものでしょうかな
?
」
「そうでしょうな」出端
技旧は,ただ調
技術的な説明ばかりを
一生懸命にしてい
子を合わせるためにそう
言った。すると相
た。 聞く方は,計数の
方法など,どうでも
手は
よく,そんな
事は,お前通がいいように
考
えてやればいいので
, 自分速は,少しでも
安定出来るかどj かがむ配なのだった。
だ
「はあ ,そうですか」と言った。田端技
笘は首をかしげざるを
得なかった。
両者の問答は, 日本人が日本語で
話して
から両者の話がチンカンプソで
,傍で何気
いるのだが,まるで英語で
質問してロシヤ
, これは奇妙
なく聞いていた
外見助でさえ
語で答えて、
な会話だと,
ぽ、 っ たくらいである。
「
-体,
儂竿は,さ けで生活を続けるこ
とが 山 荘るのか9- :
と
"
う
問題について
,
[W 拙技Ⅲは,竹岡
グ )風味や,それを問題に
0 合っているのだが
, ちっとも判っきりし
なかつた,川端枝頂は ,一体,
この連中が
いつまでこのう るさいたんごとを
続けるつ
もりか,見 とどげてやりたかった
,
それでも迂回した。
螺旋形の途を辿りつ
つ彼等にわからせたことは
, 暗渚たる不完
全さであった,そして
, その不完全の
雲間
が望むことは常に曲 角 で消えてしまい
,そ
れを掴んだことがなかった。
今まで,中へ入るような気配のなかった
から完全な光の
一筋をチラ つかせたのは
,
共助が, 急にバタバタと馳けつげるよ に
実に巧妙であった,
して入って来た。
まるで今にも
破れそうな
だが,川端技官
御木人にとっては
, 自分
う
盲腸でも持ち込んだみたいに
急いでいた。
の晒劣な心の迷路を自分でのぞき
込んだよ
「文場の自動車が
来ましたょ
うな気がした。
「ほんとかい
? また誰か案内して
来たの
彼等の自動車が
,再び雨の中を
大きく揺
れながら姿を消した時,何か
奇怪な,ふた
のない潜水艇でも
操縦しているような
錯覚
に捉われた。
」
かな,それとも
何か急用かな……」
車から降りたのは
,窪田次長と東村係長
だった。2 人は部屋へ入ると
愛想よく「お
お ,わが同志よ 」と言った風・清で気取った
,頭をぽ
芥共助は ,のんきな顔をして
り
挨拶をした。共助が椅子を出すと,それを
ばりかき,いつまでも
外に突立っていた。
横にして腰をかけ
,けむそうに
煙草を契い
別K. いま去った連中を
見送っているのでも
はじめた。
なかった。ただ雨に濡れて
, おごそかに立
そして今までの
経過を訊きながら
,無駄
っているだけだった
, 山 瑞枝何は,窓から
なくらい,くどくどと,
きまりきった
指示
声をかけた"
や,注意をした。
それは,夜は
風邪をひか
「おい,一体,何をしているんだ
,入ら
んのか,濡れちゃうじゃないか」
「うん……」気のない短い返丁だった。
ぬ 2 3 セーターを着て
川へ行げとか,食事
はちゃんと規則正しく
摂 るべきだとか
,含
糊 ま :必ずラ イポンF を使って洗えとか
,今
週の週刊紙は何々が面白いから
退屈なら読
そして
「雨はいいな」と
独語した。彼は雨が好
んでみろ,と言ったたぐいの
指示が多かっ
きだった。
雨はホームシックにする
, と再
た。 仕事に対する
厳しさは殆んど感じられ
ぅ
のだ。たしかに,彼の
観測所における
無
為な生Ⅲの中で
,最も楽しそうな
,時間で
あ った。こ 5 い 5 時の彼は,犬に
似た素直
な眼をした。田端技官は,彼のその
限をみ
なかっなが,日々の生活について
, 小 うる
さいお袋のようだった
,
窪田次長は大きな
官舎に l 人で暮してい
た。 そこには余計なものは
何一つないが
,
ていると,無限の
安全感に包まれた。
そし
まるで船乗りが
暮しているように
,必要な
て共助が,静かに降る雨を胸一杯に受け,
ものだけが整然と
小ぎれいにととのってい
魅せられて,顔に
柔らかくあたる感触にあ
た。 そのせいか独創的なものには
乏しかっ
やされて,いつまでもここに
立っていてく
た。 しかし,そっと彼を観察しているうち
れるといいな
, と心に願づた。それは,彼
に, この人は何か
悲しみを経験した
人だと
を安楽な気持にさせたからであ
った。それ
苫ぅ 印象があった。
は彼が時々,頭にくる
時間とが,目的など
というものが
, も
う
2 度と彼を苦しめた
、
ところが,
だろうと舌 われた,
, とりとめもない
話ば
次長はいつまでも
かりしているので
,出端技官は,ちょっと
失敬して膀胱を
軽くしに立たねばならなか
ったほどであった。東村係長は,きょとん
とした大きな目をしばたたきながら
,奇妙
のだと感じた。
極端な場合,不便なところ
な ァ ラビヤ風の笑顔を
続け,煙草をパイプ
なるが故に医者が
間に合わず,遂に自分の
に差してふかしているばかりで
,何か捕捉
子供を死なせてしまった
時,一体,それは
った。
しがたいものがあ
誰のせいと言えばよいのたろ
うか 。 転動さ
やっと窪田次長が
用件らしきことを
喋り
せた者か受諾した
者か ? 次長も係長もわか
らなかった。
誰にだってわかるものではな
出した。
「実はね,為に
転勤の内示があったんだ
い。 神の意志という
以外にないだろう。
な
よ」すると係長が
吸いかけの煙草をひねり
ぜならその子が
死んだ時に,はじめてこん
つぶして,始めて口を開いた,
なところにいなければ
死なずにすんだであ
「君も知っている
通り,稚内の近くに新
ろうに,と言えるからだ。
東京の国電に乗
しいふ化場が出来た。そこへ行ってもらい
る。 その時,多分,
って事故死することもあ
たいと言う ことなんだがね」
田舎に住んでおればこんなことにならなか
@-あ あ ,道北文場の中山事業場ですか」
ったろ に とぼ けかもしれない。人間はい
「そ
つだって何か起らぬ限り,過去を
知ること
う
,
そこの場長になってくれと
言う
う
わげなんだ,君の
下に職員が@ 名配置され
も未来を知ることも
出来ないのだ。
世界は
るが,それは
道北文場管内から
来るそうだ」 未来のために出来ていることほ
確かなよう
出端技官はゴムの
頭蓋骨の上にゴムの
槌
だ。 だが,月のことがわかり
,火星のこと
が打ち落された
時の鈍い音が聞えてぎそう
りわかったとしても
,そんなことはちっと
だった。
も
「あ の事業場ね,中山村の役場でも
大変
構わない。一番確かなことは
,人はどこ
かに住んで,そして
食べなければ ならな
に刀を入れて協力して出来たところで
,ふ
い。 それは背からそうなんで
,
化生も飼育池も
事務所も調理室,倉庫,
柄
そうなのだ。
現在なんて
含も何もかもみんな
新品だ。野原の真中に
時間という言葉があ
るが,誰もその
意味を
こ
几からも
こつ然 と出来上ったので
構内も広い。ふ化
定義することが出来ない。過去があって,
用水は地下水をポンプ
揚水するので水温が
未来があって,そして
,時間が電流のよう
,その
高いから,仕事の
切上げが早いので
にその中を通っている。
現在というのは
,
割には楽だと思 けがね」
ただそうい 5 ものがある気がするだけで
,
出端技官は仕事の
内容など,どうでもよ
一種の夢の状態……一つの 逆楡なのだ。
かった。サケの稚魚を
生産するのが
, 自分
出端技官はそのょう に考えた。だが,そ
の天職だと思いかけている
彼は,今更,忙
れでこの転勤の
話に解決がついたわけでは
しいとか,設備の
良い悪いなどで
大した文
なかった。
要するに気乗りのしない
,しい
句はないが,その
中山事業場がひどく
不便
ていえば嫌なことだったが
,彼にはこれを
なところで,冬の
気候は極めて厳しいとこ
断る理由が何一つなかった。
ろだと聞いていた。
それが一番気になっ
結局,彼は夜中に
稚魚計数をやる よう
た。 仕事そのものは
,意義や目的は
別とし
に,眠くていやだと
思いながらも
, 自分で
て ,天職だと思い
込んでしまえば
多少のこ
目覚し時計を
仕掛けて,自分で
起き上り,
とは簡単にあ
きらめることが
出来るが,牛
仕方なく夜の川へ入って行くのと
同じよう
・
活のこととなると
,そ 簡単にはいかぬも
う
に,この話もまた
,いやだと思いながらも
,
自分で承諾して
,発令月Ⅱが来たら荷作り
5 わけさ
」
次長も二の辺が
彼に承諾させる
ヤてだと
をして自分で出て行かねばならないのだと
思った。彼にとって辞令はまさしく
日覚時
ぽ 7, たのか,間髪を入れず,力を込めて,
計のようなものだった
,
真両日な態度で
,
こういう話は
鱈の肝油の濃厚なやつでも
と
言
う
よりは,
柳か過剰
ではあるが,悲痛な
調丁で,言った
,
飲まないと聞いていられるものではなかっ
「ただ過去ぱかりを
見て,現在を通りぬ
た,しかし,そんなものがあ
る訳でもない
げているよ5 では,未来がない。
未来がな
ので, 芥共助に インスタント・コーヒーを
いということは
希望がない二とだ
,希望が
入れさせた,共助は
少し湯がぬるいなと
思
ないよ 9 では何の魅力もない
職場となって
ったが,少しでも
出端技官の気のすむよう
しまうからね。
君のような若い
者が責任を
にしてやるために
,大きな湯呑みに
半分程
もってどんどん
仕事をしてもら
,fっ ねばなら
入れてやった。
すると彼はブラックで
一気
んのだよ。人はある場面,ある場所,ある
に飲みほ した。
いはある生活から,いつの
間にか次のに
移
サケ,マスのふ
化放流臆業を自分の天職
づて行くものだよ。
それは次の世代のため
と思いかけている
彼は,つまるところ
,生
に必要なことなのだよ」出端技官は
次長の
活費を稼ぐだけのことだということをあ
ら
話を聞きながら
, 芥共助が入れてくれたイ
ためて知った
,だとすれば生き長らえる最
ソスタント・コーヒ
一のお代りを
,ちびち
も確な道は非凡な
連中の非凡な話に調子を
びとすすっていた
,今度は熱すぎて
, ぐい
合わせるか,さもなくば
,種類や形,目的
と
や意義の如何を
問わず,大きな
作用をおよ
も同じように
,一息で片ずげられるもので
ばすもの,大きな
働 ぎをしたものに
身売り
はなかった,
-
二と
するかである。 彼は,一体,人間たる
息に万づけられなかったのだ。
この話
「まあ ,少し考えさせて
下さい」彼はそ
の大きない標は
何なのか見当がつかなくた れ』上何も百 ことはなかった。
リ
文場の仮がぶったのはもう
黄昏ど ぎであ
つズこ 。
「それはいっ
発令になるんですか
?
った。雨は既に正人,夕暮れの
赤い太陽が
」
「事業場は今建設中で
,九月中に竣工す
鈍い光を去問から
差込んできた。
その日は
るので,実際に
動くのはその頃になるそう
だよ」と窪田次長が
言った。
と,邪魔されることなく
ぼ け存分眠れるこ
「それで中山事業場だけが
,そんな事情
とが2 人にとっては食事以上に楽しみだっ
,他
で異例の処置がとられ
後廻しになるが
た。 芥共助は夕食の
準備にかかった
, 彼は
は全部5 月 l6 日付だよ,だが
中山車業場の
いつも休日の夕食は入念に手の混んだ料理
人車配置が決まらんと
他も決まらないのだ
彼
を作るのでl 時間はたっぷりかかった。
そ @5だ 」
はそれを楽しみにしていた。
余程腹が空い
た時は山拙技官も
手伝うが,そうでない
限
「なるほど,イモずるの
タ ライ廻しと言
ぅ訳か
」出端技官は柳か下里気味につぶや
いた。すると東村係長は
慰さめるつもりか
「そうでもないさ。
君がそこの場長にな
ってくれと言 事だからね。新人登用と言
う
39
り
共助の楽しみを
満足させてやるために
,
彼は夕方の気象と
川の観測に出かけた
,
彼が川の水位や
水温等を計っていた 時
に,
急に対岸の牛が
数頭暴走して
川の中ま
で入って来た。こ hl@ 全く予期していなか
今晩の料理のためにバイクで
街の内屋へ行
っただけにすっかり
驚き,慌ててしまい
,
った。この調子では
夕食にありつくのは
-大
あ やさく川の中へ
落ちかけた。牛はまるで
分遅くなるなど
思ったので散 歩に出掛け
脳の- 邱を取り去った
実験用の動物のよう
た。
に, わげもなくこちらへ
伺 って来たが,水
彼は川に沿った
道を上流の方へゆっくり
が腹までつくと急におとなしくなり
,川岸
と歩いた。しばらく行くと
道路は川の曲り
伝いに上流へゆっくり
歩いて行ってしまっ
角で, 少し高い岡のようになっていた。
そ
た。 水は狂気を落ちつげるものらしい。
そ
こはとても眺望のよいところだった。
れにしても,全く
油断もスキもならない畜
なだらかに起伏している
平野が広がって
生兵だ。彼は余程ビック したものか大憤
おり質朴な農家が
点々としていた。
土の色
慨で牛をののしった。
は,すでに荊黄色から濃緑へと変ってい
リ
た
「今度,そんなことをしやが
つ たら殺し
て 喰ってしま5 からそ5 思え ! 畜生娘 !
まだ野良仕事をしている
農夫の静かな雑
」
普段,川には十分気を配って,考えられ
る
音が漂ってくるのを
感じた。
雲は切れ,落日の
残光が幽かに残ってい
危険は一応想定して
万事に安全性を
十分
考慮していたが
,誰人として,対岸で静か
る黄昏の田園風景を
見ていると,世界がど
に草を噛んでいる
牛のことなど危険物とし
うなろ とちっとも構わない
気がした。彼
て 考えつく者はいなかった。
はすっかり陽が
落ちて夜のとばりがおりる
う
それだけに,これれは全く
思いがげない
のも気がつかずに
, しぱらくそこに立って
ことであり, 央切られた気持は
激しい憎し
いた。川は思い時のように
畑や牧場の上を
みに等しかった。
後で共助にこのことを
話
邪魔物のように曲って這っていた。 そし
したら,自分がその牛をバ
テ してやるから
て,いつの間にか
雲間から現われた
半月が
2 人で喰わないかと
大真面目に言うので
,
川の面をさざ波のように白く
反射してい
彼はまたも驚かねばならなかった。
確かに
た。
あ いつの肉は美味いに
違いないが,そんな
彼はやっと空腹を感じ,夕食のあ
る方へ
西部劇じみた真似は出来るものではなかっ 歩き出した。途中,野辺のすそに
一軒の住
家があった。月 かげにすかしてみれば
茅屋
た。 仮に牛への報復手段として
殺裁が許さ
れたとしても
,今の日本では
, 2 人で牛を
であった。誰が住むのか,住む人は誰なの
l 頭殺して喰う ということは
, あ まりにも
,世に生れ,
か,問 までもないことだが
う
豪快すぎて手の出しょうもない。
せいぜい
貧しく育ち,哀れにも
寂しく暮す一眠であ
鮭の l 尾を喰う のが適当なところだと
居、づ
った。やはりその人々も
,食物を手に入れ
たので共助にそれは
止めさせた。
るために戦っているのであ
ろう。
彼もまた,当分の
間, この名も知れぬ
人
共助はそれじゃ
仕方がないから止める
々と同じようなことを
続けることだろう。
が,急に牛肉が
喰いたくなった
,と言って,
40
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