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隠し立てのない,透明性のある話し合いが,原子力へ
インタビュー (ムイヨ) 283 Interview 「隠し立てのない,透明性のある話し合いが, 原子力への理解を深める」 ―仏 COMEX NUCLEAIRE 社のムイヨ社長に聞く WIN (Women In Nuclear) は,原子力や放射線の分野で働く 女性のネットワーク。そのフランスでの会長を務めるのが, COMEX NUCLEAIRE 社の社長,ムイヨ氏だ。同氏に原子力 をめぐるフランスの状況などを聞いた。 ―日本でも状況は全く同じです。原子力分野の女性の数 は非常に少なく,原子力学会の女性の会員の比率はわ 自分を正当に評価してもらうために,懸命 ずか2. 4%しかありません。フランスは,今はどうな に努力した のでしょうか。 ―ムイヨさんは非常におしゃれな方ですね。会えてうれ しく思います。ご専門は何でしょう。 「今はすべての原子力関連分野を含めると,研究職や 一般企業も含めて,女性の比率は約22%です」 「大学では化学を勉強しました。仕事を始めてからは, ―日本の約10倍ですね。 ずっと原子力に携わっています。フランス原子力庁や米 国,ドイツ,フランスの民間企業で,原子力の安全に関 COMEX の目標は,メンテナンスと廃炉サー わる測定の仕事をしてきましたが,1989年にフランス ビスの技術輸出を拡大すること ONET グ ル ー プ の 部 門 会 社 で あ る COMEX NUCLEAIRE (以下 COMEX) に入り,原子炉に関する ―ムイヨさんご自身の仕事に関して,将来の抱負をお聞 かせください。 メンテナンスやアフターサービスの仕事を始めました」 ―現在は何をされているのでしょう。 「私たちの会社で手がけている廃炉やメンテナンス分 「COMEX の社長です。私たちの会社は,保全サービ 野での市場シェアと技術輸出を増やし,3年後には海外 ス や 廃 炉 事 業 を 手 が け て い ま す。ま た 私 は,WIN における売上げ比率を10%にもっていきたいという目標 を持っています。この分野は非常に有望な分野です。私 (Women In Nuclear)France の会長も務めています」 ―これまでで一番大きなご苦労は,どのようなものでし た? たちの企業が持っている能力,人材を最大限に活用し て,クライアントが必要としている技術,サービスを今 「自分が原子力分野でキャリアを積み始めたころに は,原子力分野に女性はわずかしかいませんでした。当 後とも提供していきたいと考えています」 ―廃炉技術の輸出対象には,日本も含まれますか。 時は,女性の能力を正当に評価してもらうのが非常に難 「その願望はありますが,現在はマーケットとして東 しかった時代でした。自分の能力を証明し,クライアン 欧諸国を考えており,リトアニアとはすでに契約をかわ トから信頼を得るために,とても苦労しました」 しています。私たちはイタリアに子会社を持っており, ―そのために,男性より長時間働く必要がありました イタリアのイスプラ研究所に対しては,廃棄物に関する か。 作業を定期的に提供しています。また私たちは,炉のメ 「はい。具体的には知識をよりたくさん持つこと,い ンテナンスについては,フランスの原子力発電所で培っ ろいろな懸案事項に対する知識をしっかり身につけるこ た長年の経験を持っており,この技術も,日本を含めた と,そして原子力分野における専門知識を身につけるこ ほかの国の発電所で使ってもらいたいと思っています」 とを,男性よりたくさんやっていかなくてはなりません でした。相当な努力が必要でした。でも,そういったこ とを続けるうちに,能力がぐっと身についてきました」 日本原子力学会誌, Vol. 49, No. 4(2007) ( 49 ) 284 「隠し立てのない,透明性のある話し合いが,原子力への理解を深める」 た時のリスクがあることでした。特に70歳以上の世代で は,その48%が大きな事故が起きた時のリスクが怖いと 隠し立てのない,透明性のある話し合いを しています。 ―フランスでは総電力量の80%を原子力でまかなってい フランス国民の全体的な意見としては,原子力発電に ます。また PWR や高速炉に関しても,独自の技術を は賛成しています」 開発しています。私たちからみると,フランスは非常 ―日本の場合,フランスの国民の意見と大きく違うの にエネルギー先進国というイメージがあります。フラ は,現在の原子力発電に関する不安が非常に多いこと ンスの国民は,原子力に対してどのような認識を持っ です。その原因の一つには,企業の文化の違いがある ているのでしょう。 と思います。例えば,日本の企業では,データの改ざ 「そういったことがらに関するアンケートが,いくつ んや不祥事が現在でも散見されます。これに対してフ か実施されています。その結果によると,フランス国民 ランスは安全文化や透明性について,かなり成熟した は,フランス政府のこれまでのエネルギー政策に満足し 企業文化を持っているように感じます。それは伝統的 ているということでした。フランス国民は,原子力は大 なものなのでしょうか,それともそのような安全文化 気を汚染せず,エネルギーを作り出すのに非常に有効な が醸成されるようにかなり努力した結果なのでしょう 手段であると考えています。一方で廃棄物の長期貯蔵に か? 対しては,不安であるという結果が出ています。 「両方だと思います。フランス国民には伝統的に,そ 最近,フランス国内の各地で,原子力のさまざまな問 のようなことをクリアにしていくという文化が国民性と 題に関する討論会が行われています。廃棄物貯蔵に関す してあります。それと同時に,いろいろなコミュニケー る懸念についても,透明性の高い話合いがたくさん行わ ションの道具を使いまして,安全性や原子力全体に関す れています。討論会は,これまでわかりにくかった部分 る情報を,いろいろな組織や企業,機構が一般国民に情 を全部クリアにしてくれる効果があります。 報を流すという努力もしています。原子力庁をはじめ, また隠し立てのない,このような討論会が,原子力の 原子力安全関連省庁連絡委員会,公開討論国家委員会, 理解を深めるのに有効な方法であることがわかってきて 原子力関連の企業や組織が,インターネットを使用し います。 て,定期的にあらゆる情報を流しています。このため一 これまでの実績を分析した結果では,学卒者の52%が 般の人々は,例えば廃棄物処分などのさまざまな問題等 原子力賛成,そうでない人たちは38%が原子力賛成と に関して,ネットを通じて十分な情報を得ています」 なっています。また世代別に見ると,18∼25歳の人達は ―日本でも,廃棄物の問題は非常に大きな問題です。高 49%が反対派で,その他の世代に比べ,原子力に対する レベル廃棄物の処分場はまだ決まっていません。フラ 拒否反応が高いのが特徴です。原子力は未来の技術とし ンスでは,地層処分にするのか,核変換を開発するの て,若い世代により賛成してほしいと思っているので, か両方検討中であると聞いていますが,ムイヨさん自 身はどちらが良いと考えておられますか。 この結果は憂慮すべき数字です。ただし,原子力発電所 そのものに対する反対というよりは,放射性廃棄物の処 「核変換に関しては,南仏のマルクール再処理施設で 理・貯蔵による環境汚染に対する不安によるものが多く 研究をしていますが,個人的には,核変換の方を支持し を占めています。彼らは原子力が温暖化ガスを出さない ます」 ことをよく知っています。 ―それは,リサイクルができるということと,将来の人 間環境への影響が少ないということでしょうか? 一方,原子力のメリットに対するアンケートを実施し たところ,1番目にエネルギーの独立性,2番目に電力 「量が少なくなり,リサイクルによりエネルギーをま の価格安定,3番目に温暖化ガスを出さないこと,4番 た取り出すことができるメリットがあります。また地層 目に先端技術をはぐく 処分には,心理的な抵抗も何となくあります。けれども むことができることが そういうことより,むしろ地層処分よりも核変換を確立 挙げられています。逆 していく方が,満足度がより高いということです。ハイ に,原子力に対するデ テクの企業などにも良い影響があるのではないでしょう メリットについて か」 は,1番目が廃棄物の ―フランス国民の意見も同じなのでしょうか。地層処分 に対する心配が多いようですし。 貯蔵の問題で,次世代 までこれを残さざるを 「フランス国民は地層処分に関して,心配はしていま 得ないこと,2番目は せん。私も安全性に関しては両方とも問題ないと思って 被ばくへの不安,3番 いますが,2つを比較した場合,私の技術的な興味とし 目は大きな事故が起き ては,核変換の方がおもしろいと思います」 ( 50 ) 日本原子力学会誌, Vol. 49, No. 4(2007) インタビュー (ムイヨ) 285 としています。そのために現在,原子力分野で重要な地 位についている女性,デュピーさん(国の廃棄物の機関 活躍する女性の姿を,WEB 上に公開 である ANDRA のディレクター) たちのプロファイルを ―最後に,WIN France の会長として,フランスの原子 Web 上に載せ,こういうふうになれるという目標を紹 力分野で働く女性の地位と活用に関して抱負をお聞か 介しています。例えば,ベルナールさんは,ゴルフェッ せください。 シュの発電所の所長をしていますが,そのプロファイル 「WIN France の大きな目標の一つは,若い女性達に も紹介しています。 原子力分野への興味を持たせるということです。そのた 企業は,男女の数のバランスを取ることにより豊かに めには,例えば高校や大学と連絡を取り,女性の生徒さ なり,発展していくものだと思います。 両方の才能をしっ んたちに原子力の面白さを伝えていきたいと考えていま かり活用していく必要があると思います」 す。また各学校や各原子力関連の企業でネットワークを ―日本でも若い女性に原子力への興味を持ってもらわな 作り,若い女性の学生さん達に企業の原子力に関する研 ければならないというのは全く同じですので,非常に 修を実現したいと考えています。これにより採用をしや 参考になりました,また,日本の企業は,フランスの すくするとともに,原子力に対する興味を持たせようと 企業の安全文化を見習っていく必要があり,そういう しています。 意味でも,今日のお話は非常に有意義でした。ありが 同時に,原子力分野で仕事をすると,こういったキャ リアが積めるというサンプルを若い人たちに紹介しよう 日本原子力学会誌, Vol. 49, No. 4(2007) ( 51 ) とうございました。 (聞き手:日本原子力学会 編集委員 小林容子)