...

デ ィ ス パ ッ チ ャ ー

by user

on
Category: Documents
13

views

Report

Comments

Transcript

デ ィ ス パ ッ チ ャ ー
第 ❸ 回
デ ィ ス パッ チ ャ ー
的な運航を行うための飛行計画(フラ
のではありません。国家試験である運
新 しい技 術 、伝える 技 術
出発・到着・代替空港などの周辺の気
べての運航を集中管理する O CC(オ
イトプラン)を作成し、パイロットに
ディスパッチャーとは、地上から航
署が早めに準備・対策に臨めるように
│
イロット)や客室乗務員、整備士だけ
象、滑走路などの空港施設の状況、さ
空 機 の 運 航 を 管 理 す る 者 の こ と で す。
が担っているわけではありません。羽
らには航路・空域の気象や飛行禁止区
安 全 で 快 適 な 運 航 は 運 航 乗 務 員( パ
キロ離れた場所にある
域などの状況を確認して、安全で効率
田空港から約
時間体制です
ペ レ ー シ ョ ン コ ン ト ロ ー ル セ ン タ ー)
提 供 し ま す。 こ れ は J A L の す べ て
J AL の 本 社 に は、
が あ り、 そ こ で は「 地 上 の パ イ ロ ッ
の便で実施しており、一日で国内線の
また、ディスパッチャーはフライト
ト」と呼ばれるディスパッチャーが運
析し、専門知識をフル活用して最適な
前の飛行計画を作成するだけではな
約 6 0 0 便、 国 際 線 の 約 1 4 0 便 の
航路をパイロットに提案します。今回
く、航空機が飛び立った後も運航の状
航を支えています。刻一刻と変わる気
は、空の安全・安心の影の立役者であ
況を監視し、地上から安全運航を支援
飛行計画を作成します。
るディスパッチャーの仕事や、ディス
しています。
象や空港の状況などの情報を収集・分
パッチャーを育てるための取り組みに
ついて紹介します。
厳しい審 査 を 経て
ディスパッチャーになる
最も重要です。ディスパッチャーが気
しています。
ディスパッチャーは誰でもなれるも
航管理者技能検定に合格する必要があ
象をみるポイントとしては、単に晴れ
ディスパッチャーとは
年間の運航管理補助業務を
進 む た め に は、 数 カ 月 に 一 度 行 わ れ
り に な っ て い ま す。 こ の 社 内 審 査 に
パッチャーになれるという険しい道の
し た 者 だ け が 初 め て J AL の デ ィ ス
厳 し い 社 内 審 査 を 設 け て お り、 合 格
さ ら に J AL で は 国 家 資 格 よ り も
た者しか担当することができない仕事
施設・空中航法)と実地試験に合格し
気象・航空工学・無線通信・航空保安
経 験 し た の ち、 学 科 試 験( 法 規・ 航 空
た め、 運 航 効 率 が 悪 く な る だ け で な
目的地を変更することになったりする
るときに必要な予備の燃料が不足して
陸できる状況になるまで上空で待機す
着予定時刻に着陸できなかったり、着
ければ運航の安全に影響するほか、到
す。ここをしっかりと把握しておかな
ないかどうかという観点が特に重要で
場 所 と 動 き な ど が、 離 着 陸 に 支 障 が
港周辺における雨雲・雪雲や霧の発生
風向・風速と滑走路の方向の関係、空
か雨かという点ではなく、空港周辺の
柱である飛行計画の作成もシステム化
に、ディスパッチャーの仕事の大きな
航空機そのもののハイテク化ととも
適な飛行を支えています。
報を素早く活用しながら、安全かつ快
に影響するさまざまなリスクなどの情
混雑状況、火山の活動状況など、運航
する情報や航空交通管制による上空の
その日に使用する航空機システムに関
デ ィ ス パ ッ チ ャ ー は 気 象 以 外 に も、
ります。
る「見極め」と呼ばれる試験に合格し
く、お客さまにご迷惑をおかけするこ
が進んでいます。その昔は航法計算盤
ます。これらの数回のチェックを通過
ラクターが違う目線で評価をしていき
しい評価基準をもとに複数のインスト
とができます。この実地訓練では、厳
アした者だけが、実地訓練を受けるこ
を問うものです。そしてこれらをクリ
日々の気象状況の監視に加え、数日先
象 レ ー ダ ー 画 像 な ど を 駆 使 し な が ら、
の技術による数値予報や衛星画像、気
サポートとして配置しています。最新
に長けた担当者をディスパッチャーの
れらをより深めるために、気象の知識
うにノウハウを伝承してきました。こ
て、 こ れ を 日 々 の 業 務 に 活 か せ る よ
たディスパッチャーの経験を蓄積し
知識に加えて、実際の運航から得られ
J AL では、気象の基本的な原理・
時の対処演習を実施し、コンピュータ
J AL で は、 シ ス テ ム ト ラ ブ ル 発 生
に大きなメリットがあります。そこで
空機の性能を再認識できるという非常
た計算手法は手間がかかりますが、航
昔ながらの航法計算盤などを使用し
いう流れになっています。
に入力すれば、システムが計算すると
報をディスパッチャーがコンピュータ
成していましたが、現在では重要な情
料・高度などの飛行計画を手作業で作
というものを使用して必要な経路・燃
です。
続けなければなりません。これは、国
とにもなってしまいます。
し、十分な訓練を行った者が、初めて
の運航に影響を及ぼす可能性のある
に頼らず、自分の知識と技量のみで性
技 量の維 持・向 上
家試験に比べてより実務に即した知識
社内審査に進めるのです。
顕著な気象現象(例えば台風の接近な
能を計算する取り組みを定期的に実施
運 航に大 きな影 響 を 与 える
「 気 象 」を 読む
航空機の運航において、空港周辺や
ど)をいち早く感知して、社内の各部
20
明日の翼 Vol.07
明日の翼 Vol.07
21
24
10
飛行経路の気象状態を把握することが
OCCにある大きなモニター。台風な
どのイレギュラー運航時にはここで
対策会議を行います。
1
しています。これにより、万が一のと
きの対策という観点だけではなく、技
合によっては不安全な方向に事象が進
相互に誤解を生みだすこともあり、場
す。 正 確 な 情 報 交 換 が で き な け れ ば、
行うかが重要なポイントになるので
るか、また相手に適切な問い合わせを
相手に正しく分かりやすい表現で伝え
ため、情報をやり取りする際にいかに
ります。専門的な用語を多く活用する
ています。
上からいかに簡潔に伝えるか訓練をし
り、パイロットが必要とする情報を地
像を使って学習しています。これによ
航を行っているか、シミュレーター映
にパイロットがどのような状況下で運
ます。例えば、イレギュラー運航の時
回具体的なテーマを設けて実施してい
力を持ったディスパッチャーの育成に
を提供するよう、感知力と冷静な判断
後も、お客さまに安全で快適な空の旅
安全を一人ひとりが支えていく。今
行っています。
求めていることを感じ取る取り組みも
ロットが求めていること、お客さまが
コックピットに搭乗して、現場のパイ
むことも考えられます。
象の振り返りや、降雪や滑走路の凍結
とで技量を維持しています。この訓練
ケーション訓練〟と題して情報交換の
のため離着陸に制限がかかりやすい冬
そ こ で 運 航 管 理 を 担 当 す る OCC
スキル向上を目指した独自の訓練を実
期運航のレビュー、新しく導入された
では、過去 年間に起こった不安全事
施しています。非対面、つまり身振り
規制・制度のレビューなどを行い、知
年 前 か ら〝 非 対 面 コ ミ ュ ニ
手振りや顔の表情を使って相手に情報
識のリフレッシュを行うことで技量や
で は、
を 伝 え ら れ な い よ う な 状 況 に お い て、
2
なれたのは入社から 4 年 9 カ月が経ったころでした。
着陸の可能性を信じて出発するという最終判断をし、
お客さまに影響を与えてしまい、落ち込むこともあり
結果として、少しの間だけ青森空港周辺の雲が消えて
ました。しかし現在では、イレギュラーな事態が起き
着陸することができました。経験豊富な機長が年次
た時でも、他の空をいつもと同じように飛んでいる飛
の若い私を信頼してくれたことが嬉しかったととも
行機があるのだと思い直し、落ち着いて業務に取り組
に、経験年数に関係なく的確に判断を下していかなけ
んでいます。そして周囲の協力も得ながら最善の判断
ればならない責任のある仕事だと改めて実感した出
を行います。また子育てを経験したことで考え方が
来事でした。
日々の業務では、判断を下す際に「もし自分の家族
が乗っているとしたらどうするか」と自分自身に問い
私たちの仕事は安全が最優先なので、時には「欠
かけるようにしています。例えば大きな揺れが予想さ
航」という重い判断をしなければなりません。お客さ
れるのであれば、怪我や怖い思いをさせたくないか
まにご迷惑をおかけすることになり大変心苦しいので
ら、遅延する可能性も考慮の上で違うルートを選ぼ
すが、安全を第一に考え、状況に即した判断を行いま
う、などと考えます。お客さまに安全に、そして快適
す。お客さまを安全に目的地にお送りすることを大前
にご旅行していただけるよう、地上から空の交通を
提に、できるだけ揺れの少ない航路を決定し、安全で
支えていきたいと思います。
取り組んでいきます。
のに。自分の判断が会社だけでなく何百、何千という
1
また、定期訓練を毎年必ず受けるこ
れました。しかし機長は私の意見に真剣に耳を傾け、
ディスパッチャーは乗務員や整備士
ので出発することはできる」と考える私で意見が分か
ずに済んだのに。お客さまにご迷惑をかけずに済んだ
などのように航空機に乗ることや直
判断しておけば、上空でもう少し待機できて引き返さ
接、機体に触れることこそありません
ことになる」という機長と「着陸できる可能性もある
が、安全運航に直結する非常に重要な
が読めないなか、
「出発しても着陸できず、引き返す
引き返すことになったとき。もっと燃料を搭載すると
役割を果たします。すなわち、どのよ
しあっていました。出発の時刻が近づいてもまだ天候
うな状況に直面しても、多角的に事態
以前は仕事の責任の重さに負けそうになったことも
ありました。例えば目的地の天気が悪く、出発空港に
を捉えること、常に冷静に判断して適
するベテランの機長と、出発するかどうかを朝から話
切なコミュニケーションをとることが
日は青森空港の天候が不安定で、夕方のある便を操縦
が報われる瞬間です。
求 め ら れ る の で す。 そ の 一 環 と し て、
りと備えた結果、安全かつ定時に運航できます。努力
ディスパッチャーの現場感覚を養うた
さらに半年後の冬、印象的な経験をしました。その
め、 定 期 的 に 運 航 し て い る 航 空 機 の
な状況への対策を考え、シミュレーションしてしっか
明日の翼 Vol.07
4
知識が風化しないようにしています。
し、社内資格を取得して JAL のディスパッチャーに
いかに正しく相手に情報を伝えるかを
なければなりません。毎日必死で先輩から知識を吸収
一番やりがいを感じるのは、悪天候などの状況下で
量・知識のブラッシュアップという点
に晴れてディスパッチャーになることができました。
3
~
のですが、数カ月に 1 度行われる見極めに合格し続け
きます。
テ ー マ に し た 取 り 組 み で、 年
チャーのアシスタントをしながら仕事や知識を学ぶ
業務をしながら国家試験と社内試験に合格し、7年後
でも大きな効果が得られています。
し、出発前のパイロットにフライトプランを説明する
ディスパッチャーは常に飛行してい
いからディスパッチャーを目指すようになりました。
入社後は、運航管理者の国家資格を取得してから
快適なフライトをご提供できるよう、今後も努めてい
る航空機の状況を監視し、必要に応じ
い。飛行機にもっと詳しくなりたい。そんな思
社内資格を取得するまでが大変でした。ディスパッ
ます。
てコックピットにいるパイロットと情
さい頃から好きだった飛行機の近くで働きた
たいと思うようになりました。入社後は空港で勤務
柔軟になり、仕事にもよい影響が出ていると感じてい
航法計算盤
小 楽しそうに仕事の話をされるのを見て、私もそうなり
も飛行機が定時に到着したとき。起こりうるさまざま
報交換するため、わかりやすく正確に
すが、JALのディスパッチャーになった大学の先輩が
情報をやりとりするスキルの向上にも
学生のときでした。気象学を専攻していたので
取 り 組 ん で い ま す。 情 報 交 換 の 手 法
ィスパッチャーという仕事に出会ったのは、大
は、主に無線を使用した口頭での交信
鎌田 紘司
と、専用システムを介した文字情報の
庭野 慶子
やり取りのみです。その内容は、空港
ディスパッチャー
や 空 域 の 最 新 の 気 象 情 報 や 混 雑 状 況、
ディスパッチャー
デ 23
最善の判断を下すのに
経験年数は関係ない
航空機の整備状況、お客さまの乗り継
安全が最優先。
そして、揺れの少ない航路を選ぶ
ぎや急病に関する情報など多岐にわた
V O I C E
明日の翼 Vol.07
22
Fly UP