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B3-6 腫瘍総論シケプリ
B‐3‐6 腫瘍 シケプリ 0)到達目標の説明に入る前にまず、腫瘍について少し説明をします (井上雅) ・腫瘍の定義:正常組織と比較して増殖が速く、正常組織との協調を欠き、その変化を引 き起こした原因となるもの(発ガン物質など)が作用しなくなった後もなお 過剰な増殖を続ける組織の異常な集塊である。 通常は、勝手に増殖を起こさないように細胞分裂は制御されていますが、腫瘍ではそのタ ガが外れて無限に増殖してしまう、ということ。 ・腫瘍の構成:全ての腫瘍は良性でも悪性でも基本的には二つの成分からなる。すなわち、 ①腫瘍細胞からなる実質、②結合組織、血管、リンパ管からなる間質である。 腫瘍の生物学的特性を決定するのは、腫瘍の実質組織であり、名称もそれに 由来する。しかし、間質組織は血液を供給し実質細胞の増殖をうながし、そ れにより腫瘍の増殖を助けるという重要な役目を担っている。 それでは到達目標の説明に入ります。 1) 組織の再生と修復や肥大、増生、化生、異形成と退形成を説明できる (井上雅) ①組織の再生と修復:修復は炎症の非常に早い時期に始まり、それには次の二つのプロセ スがある。 (a) 損傷組織が同じタイプの実質細胞から再生する :損傷の程度が軽いと細胞の再生が線維化を上回り、同じタイプの実質細胞から再生する。 (b) 結合組織によって置換され(線維形成)、永続的な瘢痕となる :実質細胞と間質の骨組みの両方の損傷をきたすような重篤な、あるいは持続性の組織損 傷及び炎症によって、実質細胞の再生のみでは修復し得ない状況が生じる。このような 場合には、損傷された再生不能の実質細胞は増殖した線維芽細胞と血管内皮細胞によっ て置換され、肉芽組織を生じる。肉芽組織は結合組織の基質中にどんどん増加し、最後 には線維化に終わる(瘢痕化)。 ※一般に組織修復にはこの二つが色々な程度に混じりあっています。 以下②∼④は細胞がストレスを受けた場合の適応としての行動です。 ②肥大:肥大とは、細胞のサイズの増加及びそれによって生じる臓器サイズの増加を意味 する。つまり細胞の数が増えるのではなく細胞が大きくなるのみである。さらに 細胞は水腫性に腫大するのではなく細胞骨格タンパクや細胞内小器官も増加する。 ③増生(=過形成):過形成とは、ある臓器や組織の細胞数が増加することである。過形成と 肥大は密接に関連しておりしばしば両者は同時に生じ、その結果臓器の サイズが増加することになる。 ④化生:化生とは一つの成熟したタイプの細胞が他の成熟したタイプの細胞に置き換わる ことである。これもまた、ストレスに対する細胞の適応の一つの型であり、ある ストレスに対して脆弱な細胞が、そのような新たな環境によりよく耐えうるよう なほかのタイプの細胞に変化することである。 ⑤、⑥はがん細胞特有の行動です。 ⑤異形成:異常な増殖ではあるが、非腫瘍性である(異形成=がんというわけではないし、 がんへ進行しないわけでもない、ということ)。原則的に上皮で見られる。個々 の細胞の形態が不均一となり、整った組織構築が失われる(個々の細胞の分化レ ベルがまちまちになっている、ということ)。多型性に富み、大型で濃染する核 を有することが多い。 ⑥退形成:脱分化、または正常細胞の分化した機能や構造を失うということを意味する。 しかし、全てではないにしろほとんどのがんは組織の幹細胞に由来すると考え れており、分化の喪失は特殊に分化した細胞が脱分化したというよりも、分化 が十分に進んでいないものとされている。 2)良性腫瘍と悪性腫瘍の違いを説明できる (井上雅) 分化と退形成、増殖速度、局所浸潤、転移などをもとに鑑別されます。しかし中には診断 の難しいものもあります。一部は良性でありながら、他の部分では悪性像を示すこともあ るからです。また、腫瘍の形態とその生物学的態度は必ずしも平行しないのです。しかし これらはあくまで例外的なことであり、一般的には鑑別基準は信頼しうるものです。以下 に表としてまとめます。 重要なことは、良性腫瘍の細胞はほとんど常に高度に分化しており、由来した正常細胞に 類似していますが、がん細胞は多少とも分化していても、分化を喪失している部分が必ず 存在する、ということです。 性質 良性 悪性 増殖速度 遅い 速い 核分裂像 少ない 多い 核染色質 ほぼ正常 増加 分化 良い 悪い 局所発育 膨張性 浸潤性 被包 あり なし 破壊性発育 ほとんどなし 著名 脈管侵襲 なし しばしば 転移 なし しばしば 宿主に対する影響 ほとんどなし 影響大(死) 3)上皮性腫瘍と非上皮性腫瘍の違いを説明できる (四條) その腫瘍の由来細胞、構築が上皮系か非上皮系か、という違い。命名法は以下の通り。 由来 良性 悪性 上皮性 ―腫 ―癌 非上皮性(間葉性) ―腫 ―肉腫 Ex)①上皮性腫瘍 ・重層扁平上皮由来…扁平上皮乳頭腫(良性)、扁平上皮癌(悪性) ・腺上皮由来…腺腫(良性)、腺癌(悪性) ②非上皮性腫瘍 ・脂肪腫(良性) ・平滑筋腫(良性)、平滑筋肉腫(悪性) ※10:1 位の割合で上皮性の方が多い。 4)腫瘍細胞の異型性と多型性を説明できる (四條) ①異型性:正常細胞と違うさま。例えば、核染色質の過染色、核/細胞質比の増加、異型核 分裂像、巨細胞の出現(核や細胞分裂の異常)、細胞配列の異常などが挙げられる。 ②多型性:異型性を示す細胞のバリエーションが多い状態を指す言葉。例えば個々の細胞 の大きさや形に様々な変化が見られる状態を多型性に富むという。 5)局所における腫瘍の増殖、局所浸潤と転移を説明できる (出淵) ①腫瘍細胞の増殖について a.単クローン性…はじめに遺伝子傷害を受けた1つの細胞が増殖して、腫瘍の塊ができる。 b.腫瘍の異質性…腫瘍は単クローン性であるが、増殖の過程で突然変異により様々な性質 の細胞からなる不均一な細胞塊となる。具体的には核型、浸潤性、増殖 速度、ホルモン依存性、転移能、抗癌剤感受性に違いが生じる。 機序 (ⅰ)腫瘍細胞は、遺伝子変異が起きやすい。 cf)初期の細胞ほど変異は起きにくい。 (ⅱ)無作為的突然変異が起きる。 (ⅲ)選択圧(免疫系の働き、酸素・栄養などの周囲の環境)がかかる。 (ⅳ)生存可能 or 増殖に有利なサブクローンの増大。 (ⅰ)∼(ⅳ)の繰り返し。 c.臨床段階で見つかる癌は、初期であっても癌の自然史全体から見ればかなり遅い時期の ものである。 以上 a,b,c の 3 点が腫瘍細胞の増殖の特徴として挙げられる。 ②局所浸潤と転移 a.浸潤の定義:周囲の正常組織の中に連続的に分け入って増殖すること。 ※癌は良性腫瘍と違って被膜を持たない →境界不明瞭な塊。周囲の非腫瘍組織に食い込む。 b.転移の定義:腫瘍細胞が非連続的な塊を形成して増殖すること。 ・伝播(腫瘍が体腔内で広がる) ・リンパ行性転移 ・血行性転移 の 3 つがある。 c.細胞外基質への浸潤と転移の段階(授業プリントの図などを参考にして下さい) (ⅰ)基底膜を破壊し、細胞外基質へ浸潤 (ⅱ)細胞外基質を通過 (ⅲ)血管内侵入 (ⅳ)血管内で生存 (ⅴ)血管内皮への接着 (ⅵ)血管外へ出る (ⅶ)増殖 ※ (ⅱ)について…まず、基底膜上のラミニンと腫瘍細胞のラミニン受容体が結合する。次 に腫瘍細胞はタンパク質分解酵素を分泌したり、線維芽細胞にそれを分泌させたりして、 基底膜と間質結合組織を破壊する。 ※ (ⅳ)について…腫瘍細胞と血小板などが凝集して栓子をつくることで、NK細胞の攻撃 などから免れようとする。 6)腫瘍発生に関わる遺伝的要因と外的因子を概説できる (出淵) a.遺伝的要因:親の生殖細胞の遺伝子異常のため、DNA修復タンパクに先天的に遺伝性 突然変異があることがある。 Ex)家族性網膜芽腫、色素性乾皮症 b.外的因子 ・化学発癌物質…ほとんどの化学発癌物質は取り込まれたのち、肝臓においてミクロゾー ム酵素による不活化を免れ、それから代謝的活性化を受け、最終発癌物質となりDNA に付加して、遺伝子傷害を起こす。 ・放射線…とくに重要なものとして、紫外線はピリミジン二量体を形成することでDNA を損傷する。 ・ウイルス DNAウイルス:human papilloma virus(HPV)→子宮頚癌 hepatitis B virus(HBV)→肝細胞癌 RNAウイルス:human T-cell leukema virus-1(HTLV-1)→成人T細胞白血病 7)癌遺伝子と癌抑制遺伝子を概説できる (出淵) ・癌遺伝子:proto-oncogenes の突然変異によって生じるもので、正常の増殖信号なしに細 胞増殖をどんどん促進してしまう。対立遺伝子(allele)は対側が正常であって も細胞を癌化できる。 ・proto-oncogenes:細胞が本来持っている、細胞増殖を促進する正常な遺伝子のこと。 ・癌抑制遺伝子:正常では細胞周期に作用して細胞増殖を抑制する。2 つの allele が両方と も変異しないと癌化しない。 Ex)retinoblastoma gene(RB),p53,Wilms’ tumor gene(WT-1) 最後に、癌発生の機序について図を使って説明します。 proto-oncogenes、癌抑制遺伝子、アポトーシスを調節する遺伝子に致命的でない遺伝子傷 害が起きることで、遺伝子に①、②、③の変化が生じ、はじめの 1 つの癌化した細胞がで きる。また、DNA修復に関与する遺伝子に起きる傷害も間接的に癌発生に関与する(=④)。 ⑤の部分…5)で示した腫瘍の異質性形成の機序で、腫瘍が成長する。 後天性(環境) 正常細胞 DNA 損傷因子 DNA 修復の成功 ・化学 ・放射線 DNA 損傷 ・ウィルス ・DNA 修復に影響を DNA 修復の失敗 体細胞ゲノムの 増殖促進癌遺伝子 の活性化 ② 与える遺伝子 (⑤) ・細胞増殖または アポトーシスに影響 突然変異 ① 遺伝性突然変異 を与える遺伝子 アポトーシスを制御 ③ する遺伝子の変化 癌抑制遺伝子の 不活性化 変化した遺伝子産物の発現と 調節遺伝子産物の喪失 クローン増量 ↓ ⑤ 突然変異の反復 (プログレッション) ↓ 不均一性 悪性腫瘍 以上、質問、訂正などがあれば担当のシケタイに聞いてください!