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パキスタン経済の現状と展望~第3次シャリフ政権発足

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パキスタン経済の現状と展望~第3次シャリフ政権発足
Economic Research(Singapore)
BTMU ASEAN TOPICS
(No.2013-9)
Aki Fukuchi 福地 亜希
[email protected]
July 12, 2013
パキスタン経済の現状と展望
~第 3 次シャリフ政権発足、民間主導の成長加速に向け構造改革が始動~
【要旨】
¾ パキスタンでは、5 月の総選挙でナワズ・シャリフ総裁(元首相)率いる野党・
パキスタン・ムスリム連盟ナワズ派(PML-N)が単独過半数を確保、6 月はじめ
には第 3 次シャリフ政権が発足した。同国では 1947 年の独立以来、軍事クーデタ
ーによる政権交代が繰り返されてきたが、今回は文民政権が初めて任期を満了し、
選挙による政権交代が実現したという点で、歴史的に重要な意義を持つ。
¾ 前政権下では治安の悪化やエネルギー不足などで景気低迷が長期化し、実業界出
身のシャリフ氏には、経済立て直しへの期待が特に高い。政権発足後一週間で発
表した 2013 年度予算案では、所得税増税や補助金削減など国民に一定の負担を強
いる一方、インフラ向けの支出拡大や法人税減税、国営企業の民営化推進などを
盛り込むなど、民間主導の成長を目指す方針を打ち出した。
¾ 足元は外貨準備の減少を背景に国際支援の獲得が不可欠な情勢となっていたが、7
月 4 日には IMF との間で総額 53 億ドルの支援について基本合意に達した。今後、
IMF 支援決定を受けた他の国際機関による支援再開などで当面の国際収支バラン
スの改善が見込まれる。
¾ 今後シャリフ新政権にとって、持続的な安定成長に向け、財政赤字の削減やエネ
ルギー問題の解決、投資環境の改善など取り組むべき課題は山積している。治安
の問題の解決は容易ではないものの、アフガニスタンを巡る地域安全保障におい
て、パキスタンは重要な位置を占めることから、米国をはじめとする国際社会と
の協力関係の維持・強化に向け現実的な着地点を模索することが期待される。
Page1
Economic Research (Singapore)
1.選挙結果および新政権の経済政策
(1) 初の選挙による政権交代が実現
5 月 11 日、パキスタン下院(二院制、任期 5 年)の任期満了に伴う総選挙が実施され
た。投開票の結果、ナワズ・シャリフ総裁(元首相)率いる野党・パキスタン・ムスリ
ム連盟ナワズ派(PML-N)が定数 272 議席(注 1)のうち 145 議席を獲得、さらに各党の獲
得議席数に応じて配分される女性留保議席(34 議席)と非ムスリム議席(6 議席)を合
わせて合計 185 議席と総議席数(342 議席)と単独過半数を確保した(第 1 表)。一方、
ザルダリ大統領が共同党首を務める与党・パキスタン人民党(PPP)の獲得議席数は 41
議席(前回:125 議席)と大幅に議席数を減らした。このほか新興勢力としては、クリ
ケットの元スター選手イムラン・カーン氏が率いるパキスタン正義行動党(PTI)が二大
政党への不信を追い風に 35 議席を獲得、第 3 党に躍進した。
もっとも州議会選挙(全 4 州)では、PML-N が単独で政権を確保したのはパンジャー
ブ州 1 州にとどまり、シンド州では PPP(単独)、ハイバル・パフトゥンハー州では PTI
(連立)が政権を獲得した。またバロチスタン州では PML-N が第 1 党となったものの、
獲得議席は総議席 65 議席中 18 議席(28%)にとどまったことから、知事や主席大臣な
どの要職は連立を組む他党に譲る決断をした。また上院(任期 6 年、3 年毎に半数改選)
では依然として PPP を中心とする野党勢力が過半数を占めており、少なくとも次の上院
選が予定されている 2015 年までは協調的な政治運営が求められる。
パキスタンでは 1947 年の独立以来、軍事クーデターによる政権交代が繰り返されてき
たが、今回は文民政権が初めて任期を満了し、選挙による政権交代が実現したという点
で、歴史的に重要な意義を持つ。PPP 敗退の要因としては、首相が 2 度にわたり汚職で
解任されるなど政治の腐敗、治安の悪化やエネルギー不足の深刻化に伴う景気低迷の長
期化などで国民の不満が高まっていたことが指摘される。得票率が 55%と前回(2008
年:44%)を大きく上回ったことなどからも有権者の政治への関心の高まりが窺えよう。
(注 1)下院議会総議席数(342 議席)のうち、一般議席 272 議席を小選挙区から選出、さらに各党の獲得議席数に応
じて女性留保議席(60 議席)および非ムスリム議席(10 議席)が配分される。
第1表:パキスタン下院選挙結果
今回
215
185
30
119
41
35
23
20
334
8
342
獲得議席数
シェア(%)
前回
63
106
54
92
9
14
35
236
12
125
10
0
7
25
6
86
98
2
100
342
与党
パキスタン・ムスリム連盟ナワズ派(PML-N)
その他与党
野党
パキスタン人民党(PPP)
パキスタン正義行動党(PTI)
統一民族運動(MQM)
その他野党
計(確定分)
未確定
合計
(注)2013年7月11日時点。
(資料)パキスタン選挙管理委員会資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
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シェア(%)
31
27
4
69
37
0
7
25
100
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Economic Research (Singapore)
(2) 第 3 次シャリフ政権が始動
6 月 5 日、パキスタン下院は総選挙で勝利した PML-N のシャリフ総裁を新首相に選出
した。シャリフ氏の首相就任は第 1 次(1990~93 年)と第 2 次(97~99 年)に続く約
14 年ぶり 3 度目。シャリフ氏は実業界出身かつ第 1 次政権(1990~93 年)時代に国営銀
行の民営化などで経済手腕を発揮したことなどから、特に経済立て直しへの期待が高い。
またインドのマンモハン・シン首相と同じパンジャーブ地方出身、選挙公約ではインド
との関係改善や貿易拡大を掲げ、
PML−N の圧勝が視野に入るとシン首相との電話会談を
実施するなど、印パ関係の改善が期待される。
8 日には新閣僚が宣誓を行い、新政権が始動した。財務相にはイスハーク・ダール氏、
治安などを担当する内務相にはチョードリ・ニサール氏など経験豊富で政界に精通した
大物を多く起用、PML-N 以外の他党から 2 名の連邦大臣を任命するなど、安定感ととも
に他党との協調に配慮した布陣と評価される。また行政の効率化に向け、大臣級ポスト
には合計 29 名(連邦大臣 16 名、国務大臣 9 名、首相顧問 2 名、首相特別補佐官 2 名)
を任命(注 2)、前 PPP 政権時代の合計 62 名(大臣ポスト 49 名、首相顧問ポスト 5 名、首
相特別補佐官ポスト 8 名)から大幅に削減した。
(注 2)商業相など空席となっているポストについては追加で任命される見込み(最終的には 40 名以内に抑える方針)。
(3) 2013 年度予算案で改革姿勢を強調
新政権発足から一週間後の 6 月 12 日にはイスハーク・ダール財務相が 2013 年度予算
案を発表した。パキスタンの財政バランス上、歳入面では税収が GDP 比 10%以下と低
水準にとどまる中、防衛費・利払い・補助金が合わせて歳出全体の 4 割強を占め、イン
フラなどの開発向け支出余力が限られるなど、歳出の硬直化が課題とされる。近年は景
気低迷に伴う税収が伸び悩む中、防衛費および利払い負担の増大に加え、洪水復興費用
などの歳出が嵩み、2012 年度の財政赤字は GDP 比▲8.8%と当初予算(同▲4.6%)を大
幅に上回る公算が高まっている(第 1 図、第 2 表)。
2013 年度予算案には、税収の拡大や補助金削減など国民に一定の負担を強いる一方、
民間部門の活性化に向けた措置が多く盛り込まれている。具体的には、所得税増税(高
額所得者の最高税率引き上げ(20%→30%)、農業所得税支払い促進など)や一般販売
税(GST)引き上げ(16→17%)などで税収増を図る一方、国防費の支出抑制、補助金
支出の抑制(電気、ガス、肥料、砂糖、小麦など社会的弱者保護目的に限定し、それ以
外は削減)などを通じて 2013 年度の財政赤字を同▲6.3%へ圧縮、さらに 2014 年度には
同▲5.0%、2015 年度には同▲4.0%への縮小を目指す。ただし公共投資計画(Public Sector
Development Program: PSDP)の割合を拡大させるほか、法人税減税、国営企業の民営化
推進などを盛り込など、民間主導の成長に配慮した内容となっている。
BTMU ASEAN TOPICS (No. 2013/9)
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Economic Research (Singapore)
第1図:財政赤字
第2表:パキスタン予算
(GDP比、%)
(10億ルピー)
0
0
-1
-200
-2
-400
-3
-600
-4
-800
-5
-1,000
-6
-7
-1,200
-1,400
財政赤字
-8
財政収支/GDP(右)
-9
-1,600
-10
00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14
(年度)
(注)2013年度以降は予算案。
(資料)CEICおよびパキスタン財務省資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(10億ルピー)
2012年度 2012年度 2013年度
(当初予 (修正後) (予算案) 構成比
算案)
(%)
2,719
1,903
3,010
75.5
歳入
2,335
1,659
2,434
61.1
国内収入
384
243
576
14.5
対外収入
484
1,576
975
24.5
銀行借入
3,203
3,478
3,985
100.0
合計
3,203
3,478
3,985
100.0
歳出
2,612
2,907
3,196
80.2
経常支出
926
1,029
1,154
28.9
利払い
545
570
627
15.7
国防
209
367
240
6.0
補助金
716
753
808
20.3
その他
216
187
367
9.2
対外債務返済
591
571
789
19.8
開発支出
▲ 8.8
▲ 6.3
財政収支(GDP比、%) ▲ 4.6
56.6
63.5
61.3
政府債務(GDP比、%)
(資料)パキスタン財務省資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
2.足元の景気動向
(1) 国際支援および民間投資の低迷により経済の停滞が長期化
2001 年 9 月の米国同時多発テロ事件後、アフガニスタンにおける米国の「テロとの戦
い」にとってのパキスタンの重要度が高まり、パキスタン政府も、従来のタリバン支援
から米国への支援姿勢へ方針転換したことから、米国との関係が緊密化、国際支援や海
外からの資本流入を追い風に成長ペースが加速した。2005 年度(2005 年 7 月~2006 年
6 月)の実質 GDP 成長率は前年比+9.0%と過去最高を記録、2002~06 年度の 5 年間の平
均成長率は同+6.0%と比較的高水準を達成した(第 2 図)。
しかし 2007 年度以降、国際商品価格の高騰に伴うインフレの進行や経常収支の悪化、
グローバル金融危機後の世界経済悪化に伴う輸出の不振などで 2008 年度には同+1.2%ま
で減速、その後持ち直しに転じるも、治安悪化に伴う海外からの資本流入の減少や 3 年
連続の洪水被害などが重石となり、2012 年度(見込み)は同+3.6%(目標:同+4.3%)、
2007 年度以降の平均成長率は同+3.3%と低水準にとどまった。
第2図:実質GDP成長率
10
第3図:上場企業のROE
(前年比、%)
パキスタン
9
タイ
8
インドネシア
7
マレーシア
国際商品価格高騰、
グローバル金融危機
6
5
中国
3年連続の洪水被害
インド
4
フィリピン
3
シンガポール
2
テロ掃討作戦を巡り
米国との関係悪化、
国際支援低迷
米国同時多発テロ後、
対米関係が緊密化、
国際支援拡大
1
2011年
2012年
台湾
香港
韓国
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
0
5
10
15
20
(年度)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
BTMU ASEAN TOPICS (No. 2013/9)
25
30
(%)
(資料)JETRO資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
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Economic Research (Singapore)
一方、上場企業の収益は、主要アジア諸国の中でも高水準のパフォーマンスを見せて
いる(第 3 図)。業種別では、エネルギー不足を背景にエンジニアリングや化学・肥料
などは不振が目立つが、自動車や食品・消費財など内需向けの産業は総じて好業績を維
持している。背景としては、在外パキスタン人による送金の拡大が内需を下支えしてい
るほか、公式統計に捕捉されない経済活動(Unorganized Economy)が全体の 3~4 割に
達するとの指摘もあり、公式統計と実体経済とに温度差が窺える。近年のショッピング
モールの開業などからも国民の購買力の高まりが窺える。
(2) インフレ率低下を受け、中銀は追加利下げを実施
パキスタンでは原油をはじめ一次産品の多くを輸入に依存しており、物価は国際商品
価格変動の影響を受け易い。消費者物価上昇率は、2007 年末以降、資源価格高騰を受け
急上昇、2008 年 8 月には前年比+25.3%に達した。その後、食品をはじめとする資源価格
の軟化、ガソリン価格の引き下げなどを背景に低下基調を辿り、2013 年 5 月には前年比
+5.1%と約 9 年ぶりの水準まで低下した(第 4 図、第 5 図)。
パキスタン中央銀行は 2011 年 8 月から 2012 年 12 月にかけて合計 4.5%ポイントの利
下げを実施、その後は財政赤字やパキスタン・ルピー(以下、ルピー)安などを背景に
インフレ圧力が根強いことから、金利を据え置いてきた。しかし 4 月以降はインフレ率
が 5%台まで低下してきたことから、6 月には 0.5%ポイントの追加利下げを行った(政
策金利:9.0%)。
第4図:物価と政策金利
(前年比、%)
第5図:消費者物価上昇率(品目別)
(%)
30
消費者物価上昇率
コアインフレ率
政策金利(右目盛)
25
(前年比、%)
20 30
18
その他
輸送・通信
衣類
住居・燃料・光熱費
食品・飲料
消費者物価上昇率
25
16
14 20
20
12
15
15
10
10
8
10
6
5
4
5
0
08
09
10
11
12
13
2
0
0
-5
08
09
10
11
(年)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
12
13
(年)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(3) 国際収支バランスは依然脆弱~7 月には IMF 支援で基本合意
パキスタンは国際収支上、貿易赤字を在外パキスタン人の送金と海外からの資本流入
でファイナンスする構造となっている(第 6 図、第 7 図)。2008 年 9 月以降、グローバ
ル金融危機が深刻化する中、資本流出に伴い外貨準備高が急減したため、2008 年 11 月
には IMF との間でスタンドバイ取極(SBA)を締結(当初 52 億 SDR、2009 年 8 月に 72
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Page 5
Economic Research (Singapore)
億 SDR へ増額)、さらに世銀グループや ADB などの国際機関および二国間の支援が実
施された。パキスタン政府は 2010 年 5 月までに計 5 回、総額 49 億 SDR(約 73 億ドル)
の IMF 支援を引き出したが、財政赤字削減などのコンディショナリティを満たさなかっ
たことから、2010 年 5 月以降、IMF からの支援は途絶え(正式には 2011 年 9 月末の引
き出し期限到来をもって終了)、他の国際機関や政府からの新規借入も低調となった。
輸出は全体の約 5 割強を占める縫製品のほか、皮革製品などの軽工業品や米などの農
産物など一次産品およびその加工品が中心となっており、足元は主要輸出先である欧米
諸国の景気減速に伴い伸び悩んでいる(第 8 図)。一方輸入は、原油・石油製品が全体
の 3 割強を占める最大の輸入品目となっており、原油価格の影響を受けやすい。また在
外パキスタン人の送金については、年明け以降、最大の送金元であるサウジアラビアこ
そ堅調を維持しているものの、UAE、米国などは伸び悩みがみられる。他方、政治およ
び治安情勢の不安定化などを背景に直接投資および証券投資など民間資本の流入が低迷
しており、国際支援に依存せざるを得ない状況と言える。
2013 年 3 月末時点の対外債務残高は 609 億ドル(GDP 比 25%)、このうち中長期債
務が全体の 9 割、かつ公的債務(公的機関の借入、または公的機関の保証付)が大半を
占めるなど、対外債務の規模自体は必ずしも大きくないが、足元外貨準備の減少に伴い、
国際支援の獲得が不可欠な情勢となっている(第 9 図)。2011 年後半以降、国際収支バ
ランス悪化に伴うルピー安に対し、中銀がドル売り介入で対応したほか、2012 年 2 月か
ら SBA に基づく IMF からの借入の返済を開始したことなどから外貨準備の取り崩しが
一段と進み、2013 年 4 月末時点で中銀保有分では 67 億ドル(輸入比 1.7 カ月分)、商業
銀行保有分を合わせて 118 億ドル(輸入比 3 カ月分)まで減少した。このため政府は 6
月下旬から 7 月はじめにかけて IMF との間で協議を実施、7 月 4 日には拡大信用供与措
置(EFF)に基づき総額 53 億ドル(注 3)の支援を受けることで基本合意、9 月の IMF 理事
会で正式決定される見込みとなっている。今後、IMF 支援決定を受けた他の国際機関に
よる支援再開などで当面の国際収支バランスの改善が期待される反面、IMF 支援の前提
条件とされる財政赤字の削減やエネルギー問題の解決、投資拡大に向けた事業環境の改
善などへの対応が求められる。
この他インドとの関係改善に加え、2014 年から EU の特別特恵関税(GSP プラス)(注
4)
が適用されれば、輸出拡大を通じて国際収支バランスの改善にプラスに寄与すること
が期待される。パキスタンは綿花生産量で世界第 4 位、製造業の生産の 5 割、輸出の約
6 割を縫製品が占めており、バングラデシュなど他の繊維輸出大国に対する競争力の維
持・改善が見込まれよう。もっとも中長期的な成長加速に向け、輸出品目の多角化、高
付加価値化が不可欠であることは言うまでもない。
(注 3)引出期間 3 年、返済期間 10 年(うち据置期間 4 年)、借入利率は現状 3%(変動金利)。
(注 4)パキスタン政府は 3 月に EU に対し特別特恵関税(GPS プラス)の適用を申請。欧州委員会は 6 カ月以内に
GPS 適用の可否を判断、認められれば 2014 年 1 月から EU 向け輸出の関税率は原則無税となる。
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Page 6
Economic Research (Singapore)
第6図:経常収支
第7図:資本収支
(10億ドル)
30
(10億ドル)
四半期(右目盛)
経常移転収支
20
10
15
(10億ドル)
(10億ドル)
経常収支
6
資本収支
10
4
10
2
0
3
四半期(右目盛)
8
5
2
証券投資
1
直接投資
0
-2
-10
0
0
-4
-20
-6
サービス収支
所得収支
総合収支
-5
-1
その他投資
-8
貿易収支
-10 -10
-30
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
(年度)
12
13
(年)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
-2
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11
(年度)
12
13
(年)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
第8図:輸出(品目別)
第9図:対外債務と外貨準備高
(カ月)
(前年比、%)
(%)
12
50
その他
その他軽工業品
繊維・縫製品
食品
輸出
40
30
20
10
70
外貨準備/輸入比率
対外債務/名目GDP比率(右)
8
60
50
40
6
10
30
4
0
-10
20
2
10
0
0
-20
-30
10
11
12
13
(年)
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
3.
95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13
(年)
(注)2013年は3月末時点。
(資料)IMFなどより三菱東京UFJ銀行経済調査
対内直接投資動向
(1) 足元、新規の投資は伸び悩み
パキスタンにおける対内直接投資は、2006~2008 年にかけて通信および金融分野での
大型投資が相次ぎ、他のアジア新興諸国を大きく上回る投資額を記録したが、2007 年の
56 億ドルをピークに減少傾向を辿り、2012 年は 8.5 億ドル(前年比▲36.2%)と 9 年ぶ
りの水準まで低下した(第 10 図)。業種別では石油・ガス採掘(全体の 68%)が最大
の投資分野となっており、金融(18.9%)、化学(10.4%)がこれに続く(第 11 図)。
国別では、最大の投資国である米国(2.1 億ドル)や香港(1.8 億ドル)、スイス(1.5
億ドル)、英国(1 億ドル)に対し、日本は 2,870 万ドルにとどまったものの、内需拡大
を睨み、輸送機械や既進出企業の拡張投資の動きがみられる。
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Economic Research (Singapore)
第10図:対内直接投資額
6
第11図:対内直接投資(業種別)
(10億ドル)
6
(10億ドル)
その他
金融
通信
化学
石油ガス採掘
全体
5
5
4
ミャンマー
カンボジア
バングラデシュ
パキスタン
ラオス
4
3
3
2
2
1
1
0
0
00
01
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
(年)
-1
02
03
04
05
06
07
08
09
10
11
12
(年)
(資料)UNCTADより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(資料)CEICより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
(2) 労働力に優位性がある一方、治安・電力不足などが課題
パキスタンにおける投資の最大の魅力は、豊富で安価な労働力および将来の消費市場
としての潜在性だろう。パキスタンは人口約 1 億 8,000 万人と世界第 6 位の人口大国で
あり、24 歳以下が全人口の 57%と若く、生産年齢(15~64 歳)人口が 2060 年にかけて
増加が見込まれるなど(第 12 図)、生産拠点および消費市場としての潜在性は高い。製
造業(ワーカーレベル)の月額給与は 173 ドルと、インド(290 ドル)やインドネシア
(229 ドル)に比べても優位性が高い(第 13 図)。また英語が公用語の一つであるほか、
親日国である点なども魅力として挙げられる。
さらに投資規制が少ない点も注目すべきポイントの一つだろう。パキスタンでは、製
造業・非製造業を問わず外資 100%の出資が可能であり、小売業でも 100%の外資参入が
認められるなど、周辺アジア諸国に比べて外資の参入規制は低い。また輸出加工区にお
いては、法人税免除、資本財および原材料の無税輸入などの恩典が享受できるなど、優
遇措置も他国に引けをとらない。
第12図:生産年齢人口比率
75
第13図:アジア主要国の月額基本給
(製造業・作業員、2012年10月時点)
(%)
65
60
パキスタン
ミャンマー
バングラデシュ
インドネシア
タイ
55
ラオス
カンボジア
フィリピン
ベトナム
15
20
25
290
253
229
173
145
132
118
74
74
53
0
50
10
345
344
328
タイ
マレーシア
中国
インド
フィリピン
インドネシア
パキスタン
ベトナム
ラオス
スリランカ
カンボジア
バングラデシュ
ミャンマー
70
30
35
40
45
BTMU ASEAN TOPICS (No. 2013/9)
100
150
200
250
300
350
400
(ドル)
50
(年)
(資料)国連データより三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
50
(注)アジア進出日系企業、諸手当を除いた給与・正規雇用の一般工職で
実務経験3年程度の場合。
(資料)JETRO資料より三菱東京UFJ銀行経済調査室作成
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Economic Research (Singapore)
こうした魅力にもかかわらず投資流入が低調な要因としては、①テロのイメージが先
行するなど治安の悪さ、②脆弱なインフラ、③一貫しない産業政策の 3 点が挙げられる。
インフラの中でも深刻なのが電力不足の問題である。パキスタンでは、補助金により
消費者向けの電力が低く抑えられている上に、電力料金の未払い、送電ロスや盗電など
の問題などにより、送電・配電会社から発電会社に支払いが滞り、発電会社が燃料供給
会社(石油精製会社など)への支払いができないため、燃料供給会社が発電会社に燃料
を販売せず、発電会社の発電量が低下することによって停電が頻発するという電力分野
の「債務循環問題」が深刻化しており、こうした「循環債務」は 2012 年度末(2012 年 6
月末)時点で 8,720 億ルピーと名目 GDP 比 4%にも達すると試算されている。このため
新政権は、「循環債務」の解消に向け、電力料金の引き上げのほか、エネルギープロジ
ェクトへの投資促進のための包括計画の策定を進めている。
また産業政策の頻繁かつ突然の変更についても投資意欲を殺ぐ要因となっている。中
古車輸入規制の緩和や優遇税制適用条件の変更など特に自動車関連での政策変更が多く、
当該車産業育成に向け政策の一貫性が求められている。
治安の問題の解決は容易ではないが、シャリフ首相は、イスラム武装勢力「パキスタ
ン・タリバン運動(TTP)」との対話路線を打ち出すなど、歩み寄りによる事態の改善
を目指している。選挙運動の中では米国によるテロリスト掃討作戦(特に無人機攻撃)
に対し批判的な言動を繰り返すなど、対米強硬姿勢を見せていたものの、国内の政治お
よび経済の安定に米国との関係維持が不可欠であることは十分認識している。また 2014
年にはアフガニスタン駐留米軍の撤退が予定されているが、パキスタンは同地域を巡る
安全保障において重要な位置を占めることから、米国をはじめとする国際社会との協力
関係の維持・強化に向け現実的な着地点を模索することが期待される。
4.むすび
今後シャリフ新政権は、財政および国際収支バランス改善に向けた構造改革に着手し、
停滞した経済からの脱却と民間主導の成長加速が期待される。実業界出身の首相に対す
る内外の期待は高く、電力会社を中心とした国営企業の民営化などの課題を如何に一定
のスピード感を持って実現できるか、政治的手腕が問われよう。
以
上
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BTMU ASEAN TOPICS (No. 2013/9)
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