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現代国際経済が内包する暴力性について 全体テーマ「グローバル化時代

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現代国際経済が内包する暴力性について 全体テーマ「グローバル化時代
現代国際経済が内包する暴力性について
2012 年 10 月 10 日
文責:圖子晶彦、吉野雄理慈、木村優希
1.
はじめに 全体テーマ「グローバル化時代における国際秩序の再考」
経済における国際秩序とは何か。それを考える際に直近の出来事として挙げられるのは、
2008 年に起きた米国の大手投資銀行・証券会社リーマンブラザーズの経営破綻と、その影
響による世界的な金融危機である。秩序とは、社会が望ましい状態を保つために求められ
るものを指すが、この危機によって経済的な秩序が大きく揺らいだことは火を見るよりも
明らかである。
本稿では、グローバル化に伴う結果として発現した経済問題を取り上げ、その背景にあ
る原因や問題を掘り下げることで現代の経済における国際秩序を考察することとする。
2.
総論 経済とは
((「経国済民」「経世済民」の略)) 国を治め民を救済すること。政治。
人間の生活に必要な財貨・サービスを生産・分配・消費する活動。
また、それらを通じて形成される社会関係。
1
○実体経済と金融経済
実体経済とは
お金と商品・サービスの等価交換
お金でモノを取引する経済活動
金融経済とは
お金そのものを商品として将来の利殖を謀る
お金でお金を取引する経済活動
○新自由主義
国家による管理や財政政策による経済への介入を排し、市場の自由な競争に委ねること
によって経済の効率化と発展を実現しようとする経済思想。~1970 年代後半からラテンア
メリカ諸国,イギリスのサッチャー,アメリカのレーガン,日本の中曽根康弘の各政権が
新自由主義を採用した。(参考:百科事典マイペディア電子辞書版)
○経済におけるグローバル化
・特に、米ソの冷戦構造解消後、経済自由化が進み、企業が海外市場を視野に入れた活動
を展開し始めた。また、金融面では、特に株式市場の国際化によって、より有利な投資先
を求めて世界中を資金が駆け巡るようになった。(参考:日経ビジネス Associe)
3. 各論 事 例 ① サ ブ プ ラ イ ム 問 題 に 端 を 発 す る 世 界 的 金 融 危 機
概要
サブプライムローンとは、米国の金融機関が信用力の低い借手に貸し出す住宅ローンで
ある。2007 年、金利が徐々に高くなる返済方式や米国の不動産価格上昇の鈍化などが影響
し、ローンを返却できなくなる人が増えて急速に不良債権化が進んだ。これが原因で米国
株価の下落、株式市場における大豆、金、原油市場などへの資金の流入、原油高、ドル安
などが起こり、結果として個人消費の低迷、設備投資の不振、景気の減速、失業率の上昇
などの形で世界経済に波及した。また、ローン会社がローン債権を金融機関に売却し、金
融機関はこれを小口に分割して証券化、高利回りの金融商品にして市場で販売した。ロー
ンの返済が滞り始めたことで、証券化商品の価格が急落して機関投資家や金融機関が損失
を被った。
2
米国では住宅ローンの融資条件は借手の所得の多寡ではなく、信用力によって決定
●プライム…信用力があり、返済に問題のない優良顧客層
●サブプライム…信用履歴に欠陥があり、融資リスクが最も高い層
●オルトエー(Alt-A)…信用履歴はプライムに近いが、所得ないし資産証明が不十分で
延滞などのリスクがある顧客層
サブプライムおよびオルトエーに対する融資額 00 年 1,250 億ドル(住宅ローン総額の 12%)→06 年 1 兆ドル(同 34%)
そのうちサブプライムローンの額は 00 年 1,000 億ドル→06 年 6,000 億ドル
[理由]・00 年以降の住宅価格の上昇
・01 年 9.11 から 04 年夏まで続いた歴史的な低金利政策
・ブッシュ政権による持ち家の推進
・住宅ローン金利の上限撤廃(1980 年 預金金融機関規制緩和通貨管理法)
・変動金利ローンの容認(1982 年 選択的抵当権取引均等法)
・民間ベースの住宅ローンの証券化ビジネスが爆発的に拡大
└金融工学を駆使した技術革新と安易な証券格付
ハイブリッド変動金利ローンなどの非伝統的なローンの登場
↳当初 2 年間は魅力的な低金利で固定し、残り 28 年は変動金利 ※米国の住宅ローンは伝統的に期間 30 年の固定金利が一般的 モーゲージ・ブローカーの暗躍 ↳住宅取得と契約理解の能力に欠けた人々にも危険なローンを売りつけた サブプライムローンの返済条件別構成
(単位:件、%)
『グローバル金融危機と世界経済の新秩序』p14 より抜粋して作成
3
住宅価格が下落し始めると、07 年半ばから市場は急速に縮小し、ローンの焦げ付きが急増
↓
証券化商品の価格暴落によって投資銀行などに巨額損失が発生、金融市場は危機的状況に
また、危機は実体経済をも揺るがし、米国のみならず欧州や日本の雇用にも打撃
なぜ世界的な金融危機に発展したか?
●銀行が世界的な視野で最適な資金調達・資金運用を模索する過程で、本国の金融環境
の変化が海外拠点や取引相手国に波及
●米国で開発された証券化商品が欧州や日本の機関投資家にも販売されるとともに、両
地域でも証券化市場が拡大
危機に至る背景には何があったか
金ドル交換停止
●米国は貿易収支赤字・国際収支赤字の根本的改善を行うことなしに、金ドル交換を停止
●金による制約を取り除くことで、通貨膨張・信用膨張・財政赤字拡大による経済政策を
実施できるように
●金ドル交換のために余儀なくされてきた対外投融資規制を撤廃
●金融の自由化・国際化によって、米国内の金融証券市場の活性化、米国の金融覇権の強
化、金融収益の膨大化の実現による米国経済の再生を図る
初期 IMF 体制崩壊後の変動相場制において、各国による「国際資本移動の規制」は撤廃
新自由主義の台頭
各種の規制や保護を削減ないし廃止し、経済全体、世界全体にわたって規制緩和・競争
市場原理導入による「効率化」を推進
・金融面での規制緩和(金融の自由化と国際化)
・国有企業・公的機関の民営化
・民間企業の活力利用
・社会保障・社会福祉の縮小=自助努力
・労働市場・労働関係への競争市場原理導入
・労働組合の力の抑制
新自由主義政策による産業空洞化の深化
└経済停滞、失業、賃金抑制を促す作用
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実体経済から独立した投機
投機とは:価格の予想にもとづく価格変動差それ自体から収益を獲得しようとする取引
実体経済から離れた、金融面それ自体での収益を獲得しようとする投機活動の展開
└特に「証券化」においては制約が無く、国境を越えて対象を拡大
実体経済の好況・不況に関わらず、恒常的に展開
↓
実体経済から独立した金融活動それ自体によって生じた危機による、実体経済の混乱
○投 機 バ ブ ル
1980 年代以降、アメリカ政府と IMF が主導してグローバルな規模で金融自由化を推進
↳資本の国際的移転に対する各国政府のコントロールを取り払う
金融機関や機関投資家(ヘッジファンド)の手元に集中されたものの、経済の実体部門
で投資資金として活用できない過剰な貨幣資本が、世界中の金融市場に入り込むように。
↓
最新の取引技術と豊富な情報を利用し、巨額の貨幣資本を動かすことのできる、欧米の
大手金融機関と機関投資家が、大きな利益を上げることができるようになった。
1990 年代に大量に海外流出した欧米諸国の貨幣資本が、
90 年代半ばにアジアでバブル崩壊を引き起こした。
アジア通貨危機
▽ バブル崩壊を契機に貨幣資本が海外市場から引き上げられ国内に回帰 ↳再び国内市場に溢れた過剰な資本貨幣が、アメリカで IT 分野に流入 株式バブル 2000 年代はじめに崩壊 その前後には、株式を高値で売り抜けた投機資金が原油市場に流入し、原油価格が上昇 ▽ 株式バブルが崩壊すると、住宅市場の高揚策がとられたため投機資金が 住宅ローン担保証券市場に殺到 住宅バブル ▽ アメリカの住宅バブルが崩壊の兆しをみせると、投機資金は再び原油市場に殺到 5
2008 年 9 月 リーマン・ショック
金融危機対策で膨大な財政資金と中央銀行の資金が投入されたが、
これらの資金は新興国と食糧・資源市場に殺到し、新興国バブルが発生するとともに、
食糧・資源価格も高騰
投資家たちが食糧への投機で数十億ドルにのぼる利益を手にする一方で、食糧バブルは
記録的な食糧価格の高騰を引き起こし、数百万人が飢え、多くの国々が政情不安に陥った。
2010 年 6 月から 12 月にかけて、世界の食糧供給量と需要に関して大きな変動がなかっ
たにも関わらず、投機によって食糧価格は平均で 32%上昇。また、世界の小麦貯蔵量は安
定していたにも関わらず、同年 6 月から 12 月の間に小麦の市場価格は 70%跳ね上がった。
近代の歴史の中で、人類は数度しかバブルというものを経験しなかった
Ex)チューリップ・バブル,南海会社泡沫,1920 年代末のアメリカの株式バブルなど
↓
ところが、短期間のうちに世界中でバブルが頻発
世界的に進行したグ ロ ー バ リ ゼ ー シ ョ ン の 負 の 側 面
6
事 例 ② ア ジ ア 通 貨 危 機
○アジア通貨危機(バーツ大暴落)までの流れ
7
○アジア通貨危機の余波
投資家たちはタイだけではなく、その他のアジア諸国の経済も憂慮し始めた。
→一斉にアジア諸国から投資を引き上げる バーツ通貨危機からアジア通貨危機へ
アジア以外の国でも影響が
ロシア・ブラジル…アジア諸国不安から新興国不安へと広がりロシア財政危機・ブラジル
危機を引き起こす
南アフリカ…東南アジアと目立った経済関係もなかったのだが、投資家が東南アジアでの
損失を補うために南アフリカの持ち株を大量に売却。結果南アフリカ株式市
場は大暴落
結果、東南アジア全体で多くの民間企業が倒産、失業者約 1,000 万人。貧困ライン以
下の生活を余儀なくされた人々約 5,000 万人とも言われる。
○IMF の財政緊縮策による混乱
・アジア通貨危機の被害が特に大きいタイ・インドネシア・韓国は IMF の力を借りざ
るを得なくなった。
・IMF から融資を受ける際に条件を課される。(IMF コンディショナリティ)
1.金融・財政の引締め、高金利政策→社会関係費用・企業融資の極端な削減
2.金融機関の改革
3.企業(財閥)の改革
4.労働市場の改革
5.貿易・資本市場の自由化→外国企業による買収が自由に→⇒韓国:銀行や企業が破綻、
失業率が 8%超え
結果
・タイ・韓国・インドネシアでは数週間で数十万人の失業者が発生
・困窮者のための国庫助成が停止
→学校給食の廃止・医薬品の欠乏・スラム街の飢餓と栄養不足の悪化
・中産階級の多くが破綻
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事 例 ③ ラ テ ン ア メ リ カ の 新 自 由 主 義 政 策 ○ グ ロ ー バ ル 化 経 済 に 翻 弄 さ れ る ・70 年代…オイルショックにより先進国の経済低迷・一方石油産油国からの投機マネー
「オイルダラー」が流入 →ラテンアメリカの一次産品産業への投資増加、ラテンアメリカは増産のために外国か らの資金の借り入れ ・70 年代後半~80 年代…一次産品の交易条件の悪化 and アメリカ国債増刷を発端とした
国際金利高騰により対外債務返済が困難に…債務危機・財政赤字 (出典:図説ラテンアメリカ経済 p22)
(出典:図説ラテンアメリカ経済 p15)
・解決のために、国際収支を安定させ、政府歳出を削減する必要性が生じる →構造調整政策を受け入れる ○ 構 造 調 整 政 策 ・IMF と世界銀行により主導…融資と引き換えに、規制緩和・民営化・税制改革・資本と
貿易の自由化の方向の政策を強要される →①市場の効率性において中長期的な経済発展を実現 ②「小さな政府」化によって歳出削減し、マクロ経済を安定させる 事が目標となった つまり、構 造 調 整 政 策 と は 、市 場 の 機 能 を 重 視 す る 新 自 由 主 義 に 基 づ い て 国 の 経 済
シ ス テ ム を 作 り 替 え る こ と 9
○ 政 策 の 主 な 具 体 例 ・政府介入型の輸入代替工業モデルの終焉 それまでの、国内工業の振興によって輸入工業品から国産品への代替を進め、保護
政策の下で工業化を図ろうとする開発政策から、市場原理を重視した開発政策へと
移行する ・雇用柔軟化の動き 80 年代以前、正規労働者は輸入工業化政策と労働法により雇用・賃金を保障されて
いた →しかし、市場競争においては非効率・高コストだ、という批判が起こる →非正規雇用の拡大など、雇用柔軟化 ○ 構 造 調 整 政 策 の 評 価 ・インフレを抑制し、マクロ経済を安定させる事には成功した ・企業の民営化推進により、効率的な運営と国際競争力を獲得 ・にもかかわらず、一般の社会的状況は悪化 ・都市失業者の増加…自由化による外国企業との競争激化の中、生産性の改善→雇用機
会の減少 ・インフォーマル・セクター(=労働法や社会保障を受けない非正規部門の経済活動)
と非正規雇用の拡大により、階級の固定化=相対的貧困を引き起こした (出典:図説ラテンアメリカ経済 p36)
○ 貧 困 の 女 性 化 ・新自由主義政策による不利益は女性が多く被る …債務危機により都市最低賃金が減少したにも関わらず、政府は公的サービスを縮小 →・かつて市場で購入あるいは公的サービスの利用により得ていたものを生産する必
要が生じ、家事労働=女性労働の強化 ・女性が新たに参入できる職業は、時間と能力による制約が無いインフォーマル・
セクターがほとんど
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4. 考察・分析 経済におけるグローバル化と、それに伴う自由化は、米国や金融機関、投資家といった、
経済的な影響力を強く持つ主体による恣意的な利益追求活動を推進し、その結果として、
逆に影響力を持たない人々の失業や生活難などを引き起こしたと言える。問題の根底にあ
るのは、利益を求める者と、それにより生まれる不利益を被る者が異なるという影響の不
可逆性、ある種の構造的な暴力なのである。
つまり、経済力は武力や暴力といったものと同様に、人々の生活を理不尽に脅かしうる
ものであり、現在の国際社会における平和を考える上での重要な課題であると言えるのだ。
5. おわりに グローバル化が進んだ現代国際社会においては、その秩序は大きく揺らいでいると言え
る。様々な規制緩和を伴う国際化や自由化は、強い影響力ないしは経済力を持つ主体によ
る利己的な「秩序」であり、その秩序の正当性は、皮肉にも多くの人々の苦痛を伴う形で
崩れ去ることになった。
これから考えるべきは、恣意的な利益追求による理不尽な不利益を決して生み出さない
ようにするための、新たな「秩序」(=ルール)である。百年に一度と言われた危機の後に、
収益を目的とした過度な投機活動を抑制するための金融取引税の構想や、銀行に対しより
一層の健全な運営を求めるバーゼルⅢの導入などといった動きが事実として出てきている。
ある一部のための利己的な「秩序」ではなく、世界に生きる人々が平和に暮らすための
「秩序」を地球的な規模で追求していくことが、グローバル化時代の経済において最も重
要なことなのである。
6. 参考文献
井村喜代子,2010,『世界的金融危機の構図』勁草書房.
青木健,馬田啓一,2010,『グローバル金融危機と世界経済の新秩序』日本評論社.
滝川好夫,2011,『サブプライム金融危機のメカニズム』千倉書房.
伊藤修,2010,『バブルと金融危機の論点』日本経済評論社.
Zonis, M.,Lefkovitz, D.,Wilkin, S.,THE KIMUCHI MATTERS : Globai Business and
Local Politics in a Crisis-driven World.,2005(=2005, 中谷和男 監訳 「グローバルリ
ズムの『失敗』に学ぶ 15 の原則――世界を揺るがす危機を読み解く」アスペクト.)
Ziegler, J. ,Die Neuen Herrscher Der Welt Und Ihre Globalen.,2004(=2004, 渡辺一男 監
訳「私物化される世界――誰がわれわれを支配しているのか」阪急コミュニケーショ
ンズ.)
宇佐見耕一,小池洋一,坂口安紀,清水達也,西島章次,浜口伸明,2009,
『図説ラテンア
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メリカ経済』日本評論社. 篠田武司,2009,『安心社会を創る――ラテン・アメリカ市民社会の挑戦に学ぶ』新評論.
IPS Japan HP http://ips-j.com/entry/3248?moreFlag
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