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11 - 日本経済研究センター

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11 - 日本経済研究センター
日 本 経 済 研 究 セ ンタ ー
Table of Contents
Japan Center for Economic Research
http://www.jcer.or.jp
2013/11
地道な検証 労作多く
2013/11
アベノミクスとケインズの公開書簡
2013/11
賃金は本当に上がるのか
2013/11
タブー死すべし ニクソン・ショック(中)∼「...
2013/11
一人当たりGDPの成長ではなぜいけないか
2013/11
オリンピックの意外な経済効果
2013/11
さよなら大悲観主義
2013/11
安倍政権の財政再建目標
2013/11
「緑の贈与」―環境投資促進の国際的な知恵比べ
2013/11
もしかして異次元M&Aの始動
2013/11
ウォルマートのインド合弁解消が意味するところ
2013/11
ドイツ総選挙後の展開とイタリアリスク―ECB...
2013/11
「中国が世界に与える影響」をテーマに議論
2013/11
【帰国にあたって】東京は混雑が少なく、静かな...
2013/11
少子高齢化社会の回避、「フランス」手本でも3...
2013/11
世界経済の変調と日本の針路―サマーダボス会議...
2013/11
11月−12月のセミナー(東京・大阪)
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本記事は日本経済研究センターの会報ページを印刷したものです。無断複製、無断転載を禁じます。
2013年11月号
第 56 回日経・経済図書文化賞決まる
2013 年 11 月 3 日発表
日本経済新聞社と日本経済研究センター共催の 2013 年度・第 56 回「日経・経済図書文
化賞」受賞図書は、次のように決まりました。
《受賞図書》賞(賞金 100 万円および副賞として記念品を著者へ、賞牌を出版社へ贈呈)
「自殺のない社会へ」
澤田康幸・上田路子・松林哲也著(有斐閣)
「家族と社会の経済分析」
山重慎二著(東京大学出版会)
「関わりあう職場のマネジメント」
鈴木竜太著(有斐閣)
「利益率の持続性と平均回帰」
大日方隆著(中央経済社)
「近代日本の研究開発体制」
沢井実著(名古屋大学出版会)
総
評
地道な検証
労作多く
審査委員長/東京大学教授
吉川
洋
出版、とりわけ学術出版を取り巻く環境が厳しい中、昨年に続き、今年度も受賞作が5点、幅広い分
野から生まれた。特に経営、会計の両分野で揃って受賞作が選ばれたのは、1995 年度以来のことであ
る。
97 年の金融危機を境目に、日本の自殺者は年間 2 万人から 3 万人へ急増した。『自殺のない社会へ』
(澤田康幸・上田路子・松林哲也著)は、デュルケームの『自殺論』以来の問題について、経済学の立
場からエビデンス(証拠)に基づく堅実な実証分析を行い、その分析をベースに具体的な政策的提言し
ている好著である。あるべき書物の姿を示す書として多くの審査員から高く評価された。
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2013年11月号
『家族と社会の経済分析』(山重慎二著)は、家族や共同体を分析対象とした現代的な社会政策論で
ある。伝統的な共同体だけではなく、人々が自発的に結びつく「新しい共同体」も考慮に入れた見通し
のよい著者の視点は、今後の社会保障のあり方などについて、私たちに大きな示唆を与えてくれる。
『関わりあう職場のマネジメント』(鈴木竜太著)は、関わり合いの強い職場では社員同士がお互い
助け合い、勤勉さや創意工夫も高まり、企業の競争力が高まる、という仮説をヒアリングやアンケート
を通して検証した経営書である。バブル崩壊以降、かつて日本の職場が持っていた良さが失われ、人間
関係もぎすぎすしてきた、と指摘されることが多い。職場の再生に向け、どう取り組んだらよいのか、
一条の光を当てた書物とも言えよう。
『利益率の持続性と平均回帰』(大日方隆著)は、営業利益率などが時間とともに産業の平均水準に
どれだけ回帰する傾向があるかを丹念に分析している。一見、地味な実証分析だが、こうした分析の結
果により、日本の会計基準により合理性があるという結論を導く本書は、何でもグローバルスタンダー
ドという近年の風潮に一石を投じる書でもある。
『近代日本の研究開発体制』(沢井実著)は、政府による国家的な研究開発体制が第1次世界大戦後
に構築され、戦後 50 年代まで継続した、という著者のテーゼを緻密に実証した経済史の本格的な研究
書として、高い支持を集めた。
受賞作以外にも優れた書物が数多くあり、審査委員会ではそうした書物についても真剣な議論が行わ
れた。
『税務会計分析』
(鈴木一水著)は、税制が企業行動にどのような影響を与えているかについて経
済学的なアプローチを採り、日本固有の問題についても数多くの新たな知見を導き出した研究書である。
パイオニア的な業績だが、米国等では既に標準的になっていると指摘する声が出て、受賞には至らなか
った。
『税制改革のミクロ実証分析』(北村行伸・宮崎毅著)は、家計行動の分析を通して所得税・消費税
の税収弾性値や最適最高税率などについて実証分析をした労作だが、得られた結果の政策的含意につき
十分論じられていないとの難が指摘され、受賞を逃した。
『環境と効率の経済分析』(馬奈木俊介著)は、新しい効率性尺度を様々な分野に適用し、生産性の
計測を行った好著だが、政策的な議論が弱いとの指摘があり、選外となった。
30 年前の論文を中心に編まれたものであることから選外となったが、
『日本戦時経済研究』(原朗著)
は、戦時経済研究の基礎を築いた不朽の研究書で、学界の財産となる一冊が誕生した。
*本文中の「総評」
「書評」は、2013 年 11 月 3 日付日本経済新聞朝刊(特集面)から転載
しています。
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2013年11月号
◇審査対象
2012 年 7 月 1 日から 13 年 6 月 30 日(外国語著書は 11 年 1~12 月)の間に出版された日
本語または日本人による外国語で書かれた著作で、本賞に参加を得たもの(一般の人が自由
に購入できる図書に限る)。
◇審査委員
(委員長)吉川洋東京大学教授
(委
員)伊丹敬之東京理科大学教授
八代尚宏国際基督教大学客員教授
斎藤修一橋大学名誉教授
岩井克人国際基督教大学客員教授
本多佑三関西大学教授
杉原薫政策研究大学院大学教授
伊藤元重東京大学教授
井堀利宏東京大学教授
樋口美雄慶応義塾大学教授
桜井久勝神戸大学教授
池尾和人慶応義塾大学教授
金井壽宏神戸大学教授
翁百合日本総合研究所理事
大竹文雄大阪大学教授
松井彰彦東京大学教授
芹川洋一日本経済新聞社論説委員長
岩田一政日本経済研究センター理事長
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2013年11月号
受賞作品
自殺のない社会へ
―経済学・政治学からのエビデンスに基づくアプローチ
澤田康幸・上田路子・松林哲也著
有斐閣
x,227 ページ、2300 円(税別)
書評
経済学の手法で対策探る
国際基督教大学客員教授
八代尚宏
本書は自殺という大きなテーマを「個人の問題」ではなく「社会の問題」としてとらえている。こ
れを統計データに基づく経済学的な手法で、学術的に考えるアプローチは、極めて新鮮である。
自殺の要因は個人の精神的な問題ではなく、1997 年の東アジア経済危機や不良債権問題を契機に、
中高年男性を中心に大きく増加した。また、都道府県別の分析では、自然災害とも密接な関係にある。
最近では若年化が進行するなど、新たな傾向が見られるが、これには雇用環境の悪化も影響している
と考えられる。自殺者の増加は大きな外部不経済を引き起こす。政府の介入が必要とされる分野であ
る。
自殺行動に影響する要因としては、生命保険のモラルハザードがある。自殺で保険金が受け取れな
い免責期間の延長に伴い、自殺率が高まる時期が遅れるという関係は、保険金を目的とした自殺を示
唆している。
さらに、これまでの自殺防止対策の効果についても、他の条件をコントロールして分析している。
例えば、自治体の自殺対策基金の事業規模や、鉄道駅における青色灯の設置と、一定の関係が見られ
ているという。
こうした研究はまだ初期の段階だが、経済学の手法が自殺行動の理解を通じて、その防止に貢献で
きることを示した点で、社会的な意義がある。経済学の新たな分野を示したものといえる。
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2013年11月号
受賞の言葉
さわだ
やすゆき
1999年スタンフォード大よ
り Ph.D. ( 経 済 学 ) を 取 得 。
2012年より東京大大学院経
済学研究科教授。 67年生
まれ。
うえだ
みちこ
2006年マサチューセッツ工科
大よりPh.D.(政治学)を取得。12
年よりシラキュース大リサーチ・
ア シス タ ン ト・ プ ロ フ ェ ッ サ ー 。
1973年生まれ。
まつばやし
てつや
2007 年 テ キ サ ス A&M 大 よ り
Ph.D.(政治学)を取得。13年より
大阪大准教授。1977年生まれ。
エビデンスに基づく自殺対策をめざして
東京大学教授
澤田康幸
言うまでもなく,自殺は現代日本における最も深刻な社会問題の 1 つである。2006 年に「自殺対
策基本法」が制定され、それ以降、国を挙げた自殺対策が本格化し、地方自治体や民間団体も様々な
取り組みを行ってきた。自殺に関する学術研究も、主に精神医学や疫学・心理学などの分野において
優れた研究成果が蓄積されつつある。
このような状況のもとで、経済学者・政治学者である筆者らがあえて新たに自殺問題について研究
をしてきたのは、従来の取り組みには、その背後にある社会・経済・政治的な要因についての視点が
欠けており、社会科学者が取り組むことでより有効な自殺対策に資するという意見で一致したからで
ある。
どのような社会経済環境が自殺を引き起こすのか、自殺に対する政策介入はなぜ必要なのか、そし
てどのような介入が効果的なのか。本書では「個人の問題としての自殺」という見方を超えて、自殺
とは「社会的あるいは経済的な背景の解明と、社会全体への介入を必要とする政策課題」であること
を、先行研究や筆者らが独自に行った統計分析から、徹底した実態把握によるエビデンス(科学的根
拠)に基づいて論じた。
とはいえ、本書の分析内容からもわかるように、エビデンスの蓄積はまだ緒に就いたばかりであり、
自殺問題の氷山の一角に光を当てたばかりという感がある。今後こうした方向をさらに推進・加速す
る必要がある。今回、栄誉ある賞をいただいたことを胸に、更なる研鑽を積んでいきたい。
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2013年11月号
受賞作品
家族と社会の経済分析
―日本社会の変容と政策的対応
山重慎二著
東京大学出版会
v,309 ページ、3800 円(税別)
書評
共同体の意義 緻密に説く
東京大学教授
松井彰彦
経済学は人と人のつながりを科学するゲーム理論の発展に伴って、従来の市場の分析のための学問
という枠を大きく超えて、社会現象全般を視野に収める体系を構築しつつある。本書はそういった新
しい経済学の理論的成果を取り入れて、日本の現状と課題を分析した好著である。
これまで社会経済の全体像を理論経済学の立場からとらえる際には、市場と政府の関係を中心に議
論が展開されるのが通例だった。本書はここに家族も含めた共同体という第 3 の軸を導入する。
1回きりの付き合いと見なしても分析が可能な市場取引とは異なり、共同体は規範を破った者を村
八分にするなどの長期的関係を前提としなければ分析できない多くの特質を有している。著者はこの
問題を固定的なメンバー間の長期的関係を分析する理論である繰り返しゲームの理論などを用いて分
析する。
その上で、現代日本では、固定的なメンバーによる共同体が崩れつつあり、政府の役割の増大が必
然であるとする。またそれに伴い、共同体の存在意義がさらに薄れるというフィードバックもあると
論じている。
市場・共同体・政府それぞれの分析の緻密さに比べ、互いの連関の分析が手薄であるきらいがある
ものの、これまで言葉や印象論で語られることが多かった壮大なピクチャーを緻密な理論で語った意
義は大きく、経済学による現代日本の分析に厚みをもたらす可能性を秘めている。
7
2013年11月号
受賞の言葉
やましげ しんじ
1985 年一橋大卒、92 年ジョンズ・ホプキンス大より Ph.D.(経済学)取
得。トロント大助教授などを経て、2007 年より一橋大大学院経済学研究科
准教授・国際・公共政策大学院准教授。62 年生まれ。
変わる社会、変える未来
一橋大学准教授
山重慎二
日本社会は、戦後大きく変容した。特に、家族の変容は顕著である。たとえば「サザエさん」の家
のような三世代同居は、かつては普遍的に見られた。しかし、市場経済の浸透とともに、人々は親を
残して地元を離れ、流動的な社会の中で孤立的に生きるようになった。地域社会とのつながりも薄れ、
貧困に陥るリスクも高まった。そして人々は政府による社会保障を求めるようになった。
本書は、このように変わりゆく日本社会の構造を、近年発展してきた家族や共同体に関する経済分
析に基づいて明らかにし、少子高齢化、生活格差、地域格差といった社会問題を取り上げて、これか
らの家族や社会のあり方について、そして望ましい政策のあり方ついて考察した本である。
最新の人口推計によれば、日本の人口は 2082 年には半減する。しかし、未来は、私たちの選択に
よって変えられる。エピローグで提示した私の選択は、今を生きる多くの人にとって、違和感のある
ものかもしれない。しかし、市場経済をベースとして、公平で、効率的で、安定的な社会を構築する
という観点から、現実的選択を考えていくと、現時点では、この選択しかないと感じる。ただし、ま
だ十分考慮できていない選択肢もある。まだ発展段階にある私の研究に、名誉ある賞を与えて頂いた
ことへの感謝と責任を感じながら、今後とも経済学的思索や分析を深めていきたい。
なお、本書では、分析や提案の基礎となる経済学のモデルの説明も行われるが、結果の直観的な意
味については平易な言葉で説明することを心がけた。数学的な章は読み飛ばしても、基本的な主張は
理解して頂けるのではないかと思う。日本社会の変容、そして政策のあり方に関心を持っておられる
多くの方に読んで頂き、考えるヒントを見つけて頂けたら幸いである。
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2013年11月号
受賞作品
関わりあう職場のマネジメント
鈴木竜太著
有斐閣
ix,249 ページ、2500 円(税別)
書評
現場の声拾い仮説と考察
東京理科大学教授
伊丹敬之
小さな本だが、いい香りのする佳作である。まず、基本的なメッセージが魅力的である。
「仕事上相
互に関わりあうことが多い職場は、仲間を助けること、組織のルールややるべきことをきっちりこな
すこと、そして自律的に仕事の上で創意工夫することを職場のメンバーに促す」――まさに、そうい
うことが重要だというのである。
もちろん、それには「促す」ための組織のマネジメントが必要である。上からのマネジメントも下
からのマネジメントも必要だ、と著者はいう。この視点も斬新である。
著者はまず、一つの職場をとりあげて、詳細なインタビューなどから関わりあう職場の現場の声を
拾い上げる。そこから浮かび上がる仮説を、複数の職場でのアンケート調査という定量的方法で検証
していく。その仮説の学説史的位置づけや、その仮説が要請する新しいマネジメントのあり方につい
ての著者の見解の考察も行われている。
メッセージの魅力、視点の新しさ、研究の方法が現場の定性観察と定量測定を組み合わせているこ
と、そして新しいマネジメントへの提言。これらの諸要素が高いレベルで絡み合った本は少ない。香
りがいい、というゆえんである。
しかし、
「佳作」というのは、ボリューム感への望蜀の念がどうしてもするからである。これだけの
面白いテーマである。もう少し事例やデータや考察が量的に多く欲しかった。それであれば、著者の
メッセージの説得性はさらに増しただろう。
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2013年11月号
受賞の言葉
すずき りゅうた
1994 年神戸大卒、99 年同大学院経営学研究科博士課程修了。博士号
(経営学)を取得。静岡県立大学専任講師などを経て、2013 年より神戸大
大学院経営学研究科教授。71 年生まれ。
職場の関わりあいがもたらす行動
神戸大学教授
鈴木竜太
企業のマネジメントにおいては、仲間への支援ややるべきことをきっちりやるような行動も重要だ
が、自分なりに創意工夫をするような行動も重要である。なぜある職場では仲間を助け、やるべきこ
とをきっちりやり、自律的に職場のメンバーが働いているのに、同じ組織の別の職場ではそうでない
のか。この相反する公共的な行動と自律的な行動の双方をいかにしてマネジメントするのか、という
のが本書の問題意識である。
この問題意識に対し、本書は組織ではなく職場に着目し、個人目標よりも職場の目標を重視する、
あるいは仕事を相互依存的に行うといった職場における関わりあいの強さが、その職場のメンバーの
支援や勤勉、そして一見矛盾するように見える個人主義的な創意工夫の行動をもたらすことを実証研
究から明らかにした。その上で、職場という組織と個人の間に位置する存在が、この関係をもたらす
重要な役割を果たしていることを明らかにしている。
本書では、職場のあり方が個人の行動に与える影響について検討したが、経営管理という観点から
言えば、その関わりあう職場をいかにして組織はマネジメントできるか、という点も重要なマネジメ
ントの課題である。
経営管理や組織にまつわる課題は時代とともにある。歴史ある本賞の受賞に甘んじることなく、こ
の賞を励みに、そして叱咤激励と受け止め、今後もこの課題をはじめ、研究を進めていきたい。
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2013年11月号
受賞作品
利益率の持続性と平均回帰
大日方隆著
中央経済社
4,v,339 ページ、4400 円(税別)
書評
企業会計を実証的に解明
神戸大学教授
桜井久勝
企業の利益率は長く持続するものか、それとも産業平均へ向けて早く回帰する傾向が強いのかを、
法人企業統計の個票データを用いて実証的に解明した労作である。
いま日本の会計基準は、国際基準との統合を目指して新設や改正が進められているが、企業利益の
概念と指標や、M&A(合併・買収)で取得したのれんの償却の要否など、残された相違点もある。
これに対し、著者が本書で提示する実証的証拠を基礎として、日本の会計基準の合理性について主張
する結論は、視点の適切さと現代性において優れている。
具体的には、利益率の平均回帰傾向の描写には、のれんの規則的償却が必要なこと。平均回帰速度
は利益の種類ごとに相違するから、当期純利益を尊重し、経常利益も表示する区分損益計算書は合理
的であること。利益率の持続性の歴史的な低下傾向は、競争の激化などに起因しており、日本の会計
基準の陳腐化を示唆するものではないことの 3 点がそれである。
さらに本書では、多様な実証分析方法の反復的な適用により、分析結果の頑健性の確認に十分な配
慮が行われている。本書が示す分析の堅実性や着実性は、後に続く研究者の手本となるだろう。利益
率の平均回帰傾向は欧米企業にも共通するが、欧米でのれんの規則的償却を行わないのはなぜか。著
者も認識する未解決の論点がいくつか残されているが、企業会計の喫緊の課題に堅実な手法で取り組
んだ優れた研究書である。
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2013年11月号
受賞の言葉
おびなた たかし
1985 年東京大卒、90 年同大学院経済学研究科博士課程修了。94 年
東京大より博士号(経済学)を取得。東京大准教授などを経て、2008 年よ
り同大学院経済学研究科教授。60 年生まれ。
会計学の存在意義を問い直す
東京大学教授
大日方
隆
企業の利益率が産業平均に対して回帰することは、経済学、経営学では当然のこととして受け止め
られ、それは基本的な共通知識となっている。ところが、会計制度および会計学の領域においては未
だに、この平均回帰について成熟した知見があるとはいえない。超過利益が永続するかのような「の
れんの非償却」が、米欧の会計制度では義務づけられているからである。日本のなかにも、それを真
似すべきであるという論者もいる。
利益率は産業平均に向けて回帰するのか、それを確かめなければ、会計学は孤立してしまうかもし
れない。会計基準の設定が、現実の客観的把握とは無関係にすすめられるとしたら、経済学(者)や
経営学(者)は、会計学(者)を疑いの眼差しで見るであろう。本書の研究動機は、会計上の利益率
の平均回帰傾向を確かめることにより、経済学や経営学と比肩しうるはずの「会計学の存在意義」を
問い直すことである。
本書の仮説はじつに素朴である。得られた実証結果にも大きな驚きはない。本書が最もこだわって
いるのは、検証結果の頑健性である。どの学問領域においても基本とされるような検証をきちんとこ
なさないかぎり、会計学は一人前として認知されないことを強く意識したからである。今回の栄誉は、
会計学の存在意義の一端が社会的に認められたものとして、大変喜んでいる。今後もこれを励みとし
て、会計と会計学を問い続けていきたい。
12
2013年11月号
受賞作品
近代日本の研究開発体制
沢井実著
名古屋大学出版会
vi,613 ページ、8400 円(税別)
書評
国家の関与 包括的に論述
政策研究大学院大学教授
杉原
薫
研究開発への国家の関与はどうあるべきかという問題は、市場原理への介入や国の競争優位といっ
た視点からだけでなく、学術のあり方の側面からも広く議論されてきた。しかし、そもそも国家が研
究開発をいかなる目的意識を持ってどのように組織したのかを包括的に検討した歴史研究は多くない。
本書は、ナショナル・イノベーション・システム(研究開発体制)という概念を、第 1 次大戦期か
ら 1950 年代までの日本経済史に適用し、そこにおける科学と技術の関係、政府と民間の関係、軍需
と民需の関係を正面から論じた初の本格的な研究である。
著者によれば、日本ではこの時期に、技術、政府、軍需に大きく偏った、軍産官学を幅広く巻き込
んだ体系的なシステムが形成された。第 1 次大戦という総力戦によって目的意識が高まり、陸海軍、
他の中央官庁、国鉄、国立研究所、官営の試験研究機関と民間企業及び大学が連携・協力関係を構築
していった。その形成過程に踏み込んだ詳細かつ冷静な叙述は本書の圧巻である。
戦前、特に戦時期に目指した「機械工業の兵器工業化」が、戦後は経済復興と輸出振興に目的が変
わったにもかかわらず、著者によれば、産官学連携の「共同研究」といった仕組みの面での連続性は
極めて大きかった。政治的な変化を超えて半世紀続いたこのシステムのバランスのとれた評価は、今
後の歴史研究にとって喫緊の課題だと言えよう。
13
2013年11月号
受賞の言葉
さわい みのる
1978 年国際基督教大卒、83 年東京大大学院経済学研究科博士課程
修了。98 年大阪大より博士号(経済学)を取得。大阪大助教授などを経
て、98 年より同大学院経済学研究科教授。53 年生まれ。
ナショナル・イノベーション・システムの歴史的変遷
大阪大学教授
沢井
実
本書の目的は、近代日本の研究開発体制(ナショナル・イノベーション・システム)の特質を 1910
年代以降約半世紀に及ぶ長期的視野から考察することである。本書では分析の起点を第1次世界大戦
期においた。遅れて世界経済に参入した後発工業国日本にとって、技術的キャッチアップの課題は「近
代前期」ともいうべき明治期以来のものであるが、総力戦を明確に意識して軍官産学の4部門が連携
しながら、その中でも軍官の政府部門が強い主導性を発揮しつつ、キャッチアップを目指して研究開
発に取り組む時代の到来を、本書では研究開発体制における「近代後期」の始まりと理解した。
一方、技術的キャッチアップの目標が基本的に達成され、政府部門の役割が後退し、国際的展開を
示す民間企業がナショナル・イノベーション・システムを主導する時代を研究開発体制における「現
代」と呼ぶならば、高度成長期は「近代後期」の終わり=「現代」の始まりの時期であった。戦前・
戦中・戦後と約半世紀に及ぶ「近代後期」、次いで「近代後期」の終わり=「現代」の始まりという「過
渡期」としての高度成長期をへて、研究開発体制における本格的「現代」が 1980 年代から始まると
いうのが、本書の描く粗い見取り図である。
技術的キャッチアップを目標に掲げ、
(軍)官産学の諸部門が濃密な関係を構築し、政府部門が強い
主導性を発揮した「近代後期」の「現代」に対する規定性は圧倒的である。
「近代」からの蓄積と制約
の重さを抜きに、
「現代」における選択肢を語ることはできない。本書が「近代後期」日本の研究開発
体制を考察の対象にした理由である。歴史ある本賞を授与されたことを励みとして、今後ともさらに
近代日本の経験の固有性と普遍性を明らかにする作業に取り組んでいきたい。
14
2013年11月号
岩田一政の万理一空
アベノミクスとケインズの公開書簡
ケインズの3つの提案
ケインズは、1933年12月31日にフランクリン・ルーズベルト大統領に当てた公開
書簡をニューヨークタイムズに寄稿した。そこでケインズは、米国経済の政策運営について
3つの提案を行った。
第一は、国債発行による一時的な財政拡大である。敏速な実行が可能な「ワイズ・スペン
ディング(賢明な支出)」である。
第二は、大規模な公開市場操作を通じる長期国債の購入だ。ケインズは、「チープ・マネ
ー(安価な貨幣)」政策と呼んでいた。
第三は、米国と英国の間での為替レート安定化のための共通の政策の採用によって物価水
準の安定を図ることであった。
アベノミクスとの比較
アベノミクスは、3本の矢から成り立っている。
第一の矢は、拡大的な金融政策だ。しかも、政策の操作目標変数は、マネタリー・ベース
であり、2年で倍増を目指している。
第二の矢は、柔軟な財政政策だ。2013年1月には、13兆円の補正予算が組まれてい
る。
15
2013年11月号
第三の矢は、再興戦略であり、中長期に実質2%、名目3%の成長率の実現を目指してい
る。
ケインズの3つの提案のうち「ワイズ・スペンディング」と「チープ・マネー」は、それ
ぞれ第二の矢、第一の矢に対応している。ケインズは、ニューディールの下での制度改革に
は興味がなかった。しかし、物価水準の安定のためには、米国と英国との共通の為替レート
安定化政策が必要であると考えていた。この提案はやがてブレトンウッズ体制へと結実する
ことになる。
1934年にルーズベルト大統領は、国際通貨制度に関する会議の開催を呼びかけた。ケ
インズは、「ルーズベルト大統領の金政策」という小論を書いた。この会議では、「硬直的
な金本位制度に戻らないこと、しかし、貿易収支ならびに国内物価政策の緊急性といった理
由による場合を除いて、暫定的な平価を設定することになるであろう」と述べた。
「チープ・マネー」とQQE
金融拡大政策について、ケインズと日本銀行による「量的質的金融緩和政策(QQE)」
とは、方向性は同じであるが、内容は異なっている。
短期金利がほぼゼロに接近していたので、ケインズは、3−3.5%で推移していた長期
金利を長期国債の大規模購入によって2.5%以下に抑制することを提言した。
他方、日本銀行は、マネタリー・ベースの倍増を通じて、イールド・カーブ全体を引き下
げることを意図しているが、長期金利について明確なフォワード・ガイダンスを行っていな
い。
ところで、金融政策の操作目標変数について量をとるのか価格をとるのかによって大きな
違いがある。
ケインズは、財政支出拡大の代わりに貨幣供給量の拡大を進める提案を受け入れなかった。
貨幣供給量の拡大は、「サイズの大きなベルトを購入することによって、太ろうとする試み
だ」と批判した。ケインズは、古典派の貨幣数量説は、完全雇用の下では有用であるにして
も、完全雇用均衡からかけ離れた経済においては、該当しないと考えていた。
16
2013年11月号
米国は、やがて戦時下で長期金利に2.25%の上限を設定するようになった。戦後にな
っても、当時のトルーマン大統領は、庶民の重要な貯蓄手段である国債の価格が暴落するこ
と、すなわち長期金利が2.25%以上に上昇することを決して認めないという頑固な態度
を維持していた。
米連邦準備理事会(FRB)は、長期金利の上限を超えないよう貨幣供給量を増加させた
ために、インフレを抑制することが不可能になった。この結果、政府とFRBとの間で「ア
コード」が締結され、FRBはインフレをコントロールすることが可能になった。
一般的には、中央銀行が、マネタリー・ベースと金利の両方をコントロールすることは不
可能であるといえる。
逆に、中央銀行が量的な操作目標変数の達成のみに注力する場合には、長期金利の変動や
上昇を抑制することがやがて困難になるであろう。
同様に、資本移動が完全な下で、ファンダメンタルな要因で決定される為替レートの水準
を下回るレートを維持しようとすれば、中央銀行は貨幣供給量のコントロールを失うことに
なる。固定レートの維持が、1970年代前半のギャロッピング・インフレを誘発したこと
は、日本経済の経験が示す通りである。
日伛経済政策絍会での議論
10月26日に開催された2013年度の日本経済政策学会主催による「第12回国際コ
ンファランス」では、デヴィッド・マッカラム・カーネギーメロン大学教授と私が基調講演
を行った。
マッカラム教授は、ルールに基づく金融政策の話をし、テイラー・ルールに代わるマネタ
リー・ベースを操作目標変数とするルールと為替レートを操作目標変数とするルールを紹介
した。
日本銀行は、いずれかのルールに基づく政策運営を実施すべきであったこと、また、後者
のルールを採用する場合には、日本銀行が外貨建て債券を購入することが求められると述べ
17
2013年11月号
た。もちろん、これら2つのルールを同時に実施することは不可能である。
QQEと長期金利
では、日本がデフレを克服する上で量と利子率のいずれを重視すべきなのであろうか。量
的緩和政策の政策効果は、フォワード・ガイダンスと量的拡大の2つに分けて考えることが
できる。
日本銀行は、2001年3月から2006年3月にかけての量的緩和政策において物価上
昇率がゼロ以上になるまで現在の緩和政策を維持するという政策を採用した。「時間軸効果」
であるとか「政策持続効果」と呼ばれる、自らの行動を拘束する政策を採用した。
確かに、「時間軸効果」は、長期金利を低位に安定化する効果をもっていたが、その政策
のみで一度デフレ均衡に陥った経済を正常な姿に戻すことは難しいと私は考えていた。
フォワード・ガイダンスがデフレ脱却に有効であるためには、その政策が信頼のおけるも
のであることが必要である。例えば、デフレが開始される前の物価水準への回復を目標とす
る「物価水準目標政策」との組み合わせが求められる。
長期金利は、将来の期待された短期金利とターム・プレミアムに分解することが出来る。
前者はフォワード・ガイダンスに影響を受け、後者は量的拡大によって長期国債の稀少性が
増加することを通じて影響を受ける。ジェレミー・スタインFRB理事らの実証分析によれ
ば、将来の期待された実質短期金利は、非金融部門の実物投資決定に大きな影響を与え、タ
ーム・プレミアムの低下は資産価格に大きな影響を与える。
仮に日本銀行が、非金融部門の投資行動に影響を与えたいのであれば、将来の期待された
短期金利に働きかけることが必要になる。日本銀行が、金利に関する明示的で、信頼のおけ
るフォワード・ガイダンスを導入することは、不可避の課題になっているといえよう。
(日本経済研究センター 理事長)
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2013年11月号
新井淳一の先を読む
賃金は本当に上がるのか
植木を移すに必ず時あり。時を失すればその木枯れることあり、これ労して益なし。
(大橋佐平 明治の出版王、博文館の創設者)
幕末の越後長岡藩と言えば司馬遼太郎の小説の主人公となった河井継之助が有名だが、歴
史学者の磯田道史さんによると、大橋の方がずっと先が見えていたという。河井の新鋭機関
銃ガトリング砲で固めた武装中立論が理念先行と主張、戦争回避に奔走した。大橋の見る通
り、官軍は中立を許さず、町は丸焼けに。大橋は裏切りものとして命を狙われた。維新後、
彼は地元長岡の文明開化に力を尽くす一方、晩年は東京に出て出版社「博文館」を設立、2
日に1冊の猛スピード出版で、明治の出版王と言われた。
その大橋が大切にしたのが「全てのコトには時がある」だ。「時を失すれば労して益なし」。
彼の成功は明治中期の国民の識字率向上という流れに乗ったことだが、時を得る巧拙がコト
の成否を左右するのは、平成のいまでも変わりない。消費増が投資増を呼び、賃金の上昇を
伴って「良いインフレ」にというのが安倍政権のねらいである。大胆な金融緩和と財政出動
で消費と投資には動きが出てきた。これが本当に賃上げにつながるのか。来春には消費税率
の引き上げがある。それを克服して好循環を維持するには、金融の一層の緩和と大型補正で
は役不足。渋る経営者から賃金増を引き出す必要がある。それが可能か。アベノミクスにと
っての「時」とは、消費税率引き上げと春闘が重なる来春であり、加えて言えば、そこに至
るこれからの200日である。その間に経営者が納得できるような政策努力ができるか、と
いうことだ。
振り返って見れば日本の賃金が減少傾向に入ってからもう15年になる。毎月勤労統計で
は、労働者一人当たりの平均賃金は1997年がピークであった。その間、景気の好不況で
若干の上がり下がりはあるが、通算すると昨年までの15年間で1割の低下だ。97年に至
る15年間で5割以上アップしているのだから、完全に様変わりで賃金の「失われた15年」
といってよい。①グローバル化で賃金の低い新興国と競争が激しくなっている②産業構造の
変化で製造業から非正規労働比率の高い非製造業へ労働者が移った③そもそも技術革新が進
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2013年11月号
まず生産性が伸び悩んでいるなど、「失われた15年」の理由付けには事欠かないが、アベ
ノミクスはこれを反転させようとしているのである。簡単ではないことはよく分かる。
むろん、アベノミクス効果で、短期的には賃金にも多少は良い知らせがある。たとえば、
夏のボーナス、経団連調べでは平均妥結額は前年比4.99%増と22年振りの高い伸びだ。
家計調査でも7月は世帯主の定期収入は1.2%増で20カ月連続増である。13年度の最
低賃金も引き上げ幅が全国平均14円に決まった。10円を越える二ケタ増は3年振りだ。
しかし、ボーナスの高い伸びも基本的には円安による輸出増の恩恵にあずかった大企業だけ
のもので中小企業を含む企業全般ではない。最低賃金引き上げは底辺労働者の底上げにつな
がり生活保護収入との逆転現象を直すよい機会だが、時給800円未満の労働者数は労働者
全体の1割以下。賃金全体の中でウエートは小さい。家計調査での世帯主収入の改善もそれ
が定着するかどうか。いずれにせよ、賃金はまだ「失われた15年」の枠の中なのである。
ポイントは経営者が来春闘へ向けていま何を考えているか、にかかっているのである。
安心も不安も伝染する。病気と同じだ。それどころか安心と不安はどんな病気より伝染力が
強い。
(ノーベル経済学賞受賞のロバート・シラー米エール大教授)
では経営者はいま何を考えているのか。シラー教授の言葉を借りると「安心」が足りない
のである。第2次安倍政権がスタートしてほぼ1年、経済指標はたしかに良くなっている。
企業収益も改善の方向だ。しかし、月例賃金の上昇を伴う本格賃上げとなるとまだ「不安」
が残るということではないか。安心と不安を病気の伝染で説明するのは、行動経済学の草分
けとされるシラー教授らしい表現だが、言ってみれば日本の経営者は先行きまだ「不安」の
伝染の中にあるということなのだ。
日本経済新聞社が10月1日に実施した経営者緊急アンケートによると、来春、月例賃金
か一時金の引き上げを考えていると答えた経営者は23%である。内訳を見ると「月例賃金
と一時金の引き上げを検討」が8.1%、「月例賃金だけ」が2.4%、「一時金のみ」が
13.0%だから、今の時点で本丸の月例賃金引き上げを検討するところは全体の1割にす
ぎない。経営者はアベノミクスによる経済指標の好転に気を許していないことが分かる。
一方、この調査では、復興特別法人税廃止による税負担軽減分をどう使うかも聞いている。
その順序は複数回答で国内設備投資がトップで34.1%、次が海外設備投資の30.1%。
人件費の拡充は3番目の23.6%である。経営者の頭の中はグローバル競争への対応がま
ずは第一。競争力強化であろう。「復興税加算を廃止するのだからそれを賃上げに使ってほ
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2013年11月号
しい」という政府の期待は空振りに終わりそうなのである。
では、どうしたら良いのか。シラー教授の言う「安心と不安の伝染力の強さ」に着目、「
不安」の世界から「安心」の世界へ脱出を図ることであろう。幸いこの秋はアベノミクス第
3弾の成長戦略の詰めの議論が行われている。国家戦略特区を中心に据えた規制緩和、産業
競争力会議(議長安倍首相)の場での農業、雇用・人材、医療・介護を対象にした競争力強
化策、加えて大詰めに来ている環太平洋経済連携協定(TPP)交渉などで、どれぐらい生
きのよい経済活性化策が出てくるか。中味次第では「不安の世界」からの脱出だってありえ
ないことではない。「もはや作文には意味はない。実行なくして成長なし」と安倍首相は言
う。「改革なくして成長なし」と言った小泉元首相の言葉に比べれば、実行の中味と方角が
あいまいという気もするが、この際,あら捜しはやめよう。消費税率引き上げまでの200
日がアベノミクス成功のカギを握るという認識は安倍首相も同じだろう。
200日という短期決戦では、9月から始まった政府、経営者、労働界の政労使会合の活
用も有効だ。政労使協議の成功例としては、1980年代のオランダのケースが有名だ。深
刻な不況による失業増大を避けるため、政府が法人減税でアメをまず配り、経営側が時短の
導入で雇用者を確保、労働側が賃下げを飲んだ。いまの日本とは置かれた状況も違い解決を
求められている課題も別だが、政労使3者の痛み分けで問題を解決するやりかたは変わらな
い。従来の政権と違っておしきせの多い安倍政権には労使とも戸惑いを覚えるようだが、失
われた20年を取り戻すという大きな課題から見れば、おしきせもこの程度ならよいという
べきではないか。
10月17日の政労使会合では、「できることを実行に移してもらいたい」と企業経営者
に賃上げを要請した安倍首相に対し、参加者の川村日立製作所会長と豊田トヨタ自動車社長
の日本を代表する企業の経営者が来春の春闘でのベア・アップに含みをもたす発言をして話
題となった。川村会長は「ベアは一つの選択肢」、豊田社長は「労組から依頼が来た時点で
考えたい」と可能性を示唆しただけで、明言とは言い難いが、それでも「賃上げを政労使の
場で話すのはよくない」という従来の立場からすれば、大きな変わりようである。
しかし、経営者側の本音は「ベアは1年早い」というところだろう。賃上げは利益を上げ
た翌年からというのが常識だからだ。本年度はどうやら増益でいける。それを確認してもう
1年、引き続き利益が出るような環境ならばベアをというのである。慎重の上に慎重。シラ
ー教授の言う「不安の世界」である。となると、今度は消費増税による景気の腰折れを防げ
るかという問題が発生する。明治の出版王、大橋さんの「時を失する」恐れが出てくる。難
21
2013年11月号
しいところだ。
ところで、先に紹介した日経の調査。実はこの調査は別の読み方もできる。この数字はど
うか。月例賃金の引き上げを「検討する」は10社に1社で決して多くはないが、「何とも
言えない」との回答が65%と調査対象の3分の2近くになる。3社に2社が決めていない
ということは、場合によっては、その場になれば、賃上げに応じるかもしれないということ
だ。要はまだ経営者の気持ちはまだ決まっていない。安倍政権がこれから半年、何を政策と
して提示できるかで経営者が「安心」の世界へ移ることだってありうるということなのであ
ろう。川村、豊田両トップの発言も政府にきちんとした規制緩和や構造政策を実行すること
を前提としたものと理解するべきではないか。
先日、野口武彦さんの「慶喜とカリスマ」(講談社)を読んでいて「ネジアゲの酒飲み」
という言葉に出くわした。嫌だ嫌だと言いながら強く勧められると開き直って底なしに飲む
タイプで、最後の将軍・徳川慶喜の性格、行動の一面を比喩するものということだ。誤解を
恐れず言うと、いまの日本の経営者にも「ネジアゲ」の部分はあるのではないか。できるこ
となら従業員に賃上げで報いたい。できないのはグローバル経済下での激烈な競争がある上、
規制や役所の干渉などで不自由なビジネスを強いられているからだ。それならどうだろう。
4月までの200日。成長戦略の中味を充実させ、全ての経営者を「ネジアゲの酒飲み」に
してしまうというのは。
(日本経済研究センター研究顧問)
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2013年11月号
小峰隆夫の私が見てきた日本経済史
タブー死すべし ニクソン・ショック(
中)~「誤った政策割り当て」導く
前回述べたように、ニクソン・ショックが起きる前の段階で、円レートを切り上げるとい
う議論はタブーであった。「ニクソン・ショックの前の段階」だけではない。円レートが1
ドル=258円に切り上げられると、今度はこの258円を必死に防衛しようとしたから、
タブー状態はさらに続いた。当時、政府は全部で3回の「円防衛のための経済対策」を決定
しているのだが、そのうちの2回は、円が258円に切り上げられてから決定したものであ
る。
固定レート制時代の経済政策運営
この「円切り上げタブー視」によって、日本経済は、本来払わないでも済んだ大きなコス
トを払うことになった。これは、今から考えると、円レートを変えるという政策手段をタブ
ー視したために、誤った政策割り当てを行ってしまったのだと解釈できる。
すなわち、1960年代頃までの日本経済は、固定レートの下で国際収支の天井をメルク
マールとして、経済政策を運営してきた。それはこういうことだ。景気が過熱してくると、
輸入が増えて国際収支の赤字が増える。赤字が増えるとドルの需要が増えるが、固定レート
を維持するためには、外貨準備を取り崩してドルを供給する必要がある。外貨準備が減って
くると、これが枯渇するのを防ぐために、政策的に引き締め政策を講じて、景気の過熱を抑
える必要が出てくる。こうして結果的に経済政策は円滑に運営されてきた。
こうした政策がうまくいった一つの理由は、経済政策の運営がいわば「自動的化」されて
いたため、結果的に政治的な介入を排除できたことだ。「政治的な介入を許すと、必要な金
融引き締めが遅れてしまうから、日銀の中立性を維持しておく必要がある」というのが現代
的な政策論だが、当時はこうした配慮は不要であった。「外貨準備が枯渇してしまう」とい
う議論の前では、政治家も産業界も引き締めに反対することなどできなかったからだ。
23
2013年11月号
しかし、今にして思えば、これは円レートが実勢に近く、経常収支の変化はほぼ循環的な
変化だったという大変幸運な時代だったからだ。60年代に入って、この幸運な条件が崩れ
てくる。アメリカの物価上昇率が高まり、ドルが過大評価、円が過小評価になってくると、
景気循環を超えて構造的に経常収支の黒字が増えてくる。こうした構造的な経常収支不均衡
に対しては、為替レートを変更(切り上げ)するしかないというのがオーソドックスな政策
割り当てである。
当時もあったまともな議論
タブー視されていたとはいえまともな議論もあった。昔のことなので十分探すことが出来
なかったのだが、例えば、海外の論説では、日本の金・外貨準備の急増(国際収支の黒字)
は基礎的不均衡によるものなのだから(構造要因に基づくものなのだから)、これを是正す
るためには円の切り上げが当然だという指摘が多かったようだ。海外から日本を見た場合に
は、変なしがらみがないので、オーソドックスで自然な議論ができるということだろう。し
かし、当時の日本国内では、これは要するに日本に輸入の自由化を迫るためのジェスチャー
だと受け取られていたようだ。
日本国内でも多くの議論があった。金森久雄氏は「戦後の経済論争」(日本経済研究セン
ター会報2004年11月号)で、(1971年当時)高橋亀吉氏や下村治氏は円切り上げ
反対であり、篠原三代平氏は自由変動相場制を主張したと紹介している。私が探した範囲で
も、新開陽一氏が「所得分配、資源配分の問題には、財政政策、経済の安定には金融政策を
使いたい。とすると、国際収支の調整には為替相場しか残らない」(1970年、週刊東洋
経済)と主張している。現在の視点から見ると、篠原氏や新開氏の主張はもっともに見える
のだが、当時の日本では、円を切り上げたら輸出産業が大打撃を受けるという議論が圧倒的
に支配的で、自ら円を切り上げるなどという政策は一顧だにされなかった。
1971年7月には、小宮隆太郎氏を中心とする近代経済学者グループが「円レートの小
刻み調整について」という政策提言を発表した。いわゆるクローリング・ペッグ制の提案で
ある。理論的に望ましいとされる変動相場制と、極めて強い円切り上げ拒否論の中間を行こ
うとしたものだと言えるだろう。
24
2013年11月号
当時の誤った政策割り当てとは
では、当時の議論は、切り上げに変わってどんな政策を割り当てようとしたのか。
第1は、政策的に輸入をプッシュすることだ。71年6月に決まった「8項目の国際収支
対策」をはじめとする円高防止策では、「輸入の自由化」「特恵関税の早期実施」「関税率
引き下げ」「非関税障壁の撤廃」などの対応が並んでいる。しかし、これらの政策は、長期
的な市場開放策として実施されるべきものであり、これを国際収支不均衡の是正策として割
り当てのるは誤りである。これらの政策は「国際収支が黒字になったから実施して、赤字に
なったら元に戻す」というわけには行かないものだからだ。
日本の政策決定は、各省庁の政策を寄せ集めパッケージとして決定されることが多いため、
短期的な当面の政策と長期的・構造的な政策が混在することが多い。これは、その後も続く
日本的政策決定の悪癖と言えるだろう。
第2は、景気を刺激することだ。景気が良くなって、経済活動が活発化すれば、輸入が増
えて国際収支の黒字が減り、円高圧力も減殺されるはずだという理屈である。それまで「国
際収支が赤字になると、景気拡大にストップをかける」という政策を繰り返してきたわけだ
から、「景気を拡大させて黒字を減らす」というのは、自然な発想であったのだろう。これ
も現代の目から見ると、「国際収支のために景気を操作するのは、尻尾が犬を振るようなも
ので、誤った政策割り当てだ」ということになる。
特に、円が258円に切り上げられた後は、何としても再切り上げを阻止すべきだという
考えが強まり、72年10月には公共投資の追加を主体とした大型補正予算が決定するなど、
相次いで景気刺激策が取られている。これは、もともと「国際収支不均衡を是正するために
景気刺激を」という考えが根強い中で、実際に円の切り上げが起きたため、「輸出産業が苦
しい」という声がこれに加わったためだと考えられる。円レートが切り上げられた直後のテ
レビ番組で、某評論家は「360円レート放棄は、北海道を失うほどの損失」と発言したと
いうのだから、当時の人々が円切り上げをいかに恐怖していたかが分かる。
第3は、実際に採用されるには至らなかったが、調整インフレ論、すなわち人為的に物価
上昇率を高めることで、円高圧力を回避しようという政策だ。日本銀行『日本銀行百年史』
(1986年)は、「拡大均衡論の高まりを背景に、調整インフレ論が急速に台頭した」と
25
2013年11月号
し、当時の田中首相も記者会見で「(円の)再切り上げには中小企業などはとても対応でき
ぬという体制が現状であり、国内政策を行うべきだ。これまでは積極的な政策を取れば物価
が上がるからいけないということで、国内政策が中途半端だった…」と述べたことを紹介し
ている。
結局、政府の再切り上げ回避努力をもってしても国際収支の不均衡と円切り上げ圧力を回
避することはできず、73年2月に円は変動制に移行した。そして、円切り上げをタブー視
する議論は雲散霧消することになる。
円切り上げを恐怖したことは、円の切り上げという政策をタブー視することにつながり、
誤った政策割り当てをもたらした。その結果、国民はその後のインフレという形で大きなコ
ストを支払うことになる。
以上が日本経済全体についてのマクロ的な議論だが、円切り上げをタブー視したことは、
私の身の回りでミクロ的にも大きな悲劇を生むことになった。私が「経済の議論にタブーは
禁物だ」と強く考えるようになったのは、次回述べるこのミクロレベルの経験が大きく影響
している。
(日本経済研究センター 研究顧問)
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2013年11月号
齋藤潤の経済バーズアイ
一人当たりGDPの成長ではなぜいけな
いか
日本の経済成長は、高齢化・人口減少を背景に、徐々に鈍化をしています。現在の潜在成
長率を計測してみますと、1%を下回るところまで低下をしていると考えられます。このよ
うな状況を打開し、日本の中長期的な成長能力をいかに高めるのか、そのための成長戦略が
問われています。
しかし、高齢化、人口減少の下で、潜在成長率を高めることが容易なことではありません。
さらに、そもそもマクロのGDP(国内総生産)成長率はそれほど重要なものかという問題
提起もされてきています。その一例が、一人当たりGDPを重視する考え方です。その考え
方によれば、一人当たりGDPが成長していれば、仮にマクロのGDP成長率がマイナスで
も問題ではないということになります。
今回は、この議論を念頭に、なぜマクロの経済成長が重要なのかを考えてみたいと思いま
す。
【一人当たりGDPの意味】
確かに一人当たりGDPの成長は重要です。一国の豊かさを測る分かりやすい指標として、
しばしば一人当たりGDPが用いられます。仮に国民一人ひとりに適切に分配できるとすれ
ば、一人当たりGDPが成長しているということは、一人ひとりがより豊かになっているこ
とを意味しているからです。
また、最近は、一人当たりGNI(国内総所得)に関心がシフトしています。GNIとい
うのは、GDPに居住者が国外で稼いだ要素所得(利子・配当や賃金)の純受取を加えたも
のですが、それに基づいて計算される一人当たりGNIを重視する考え方も、基本的には同
じような考えかたに拠っていると考えられます。例えば、世界銀行は、一人当たりGNIに
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2013年11月号
よって世界各国を分類しており、2012年のデータで1035米ドル以下が低所得国、1
万2616米ドル以上が高所得国、その中間が中所得国と定義されています(ちなみに日本
は4万7870米ドルで高所得国に属します)。
しかし、このことから発展して、一人当たりGDPこそが重要で、マクロの経済成長は場
合によってはマイナスになってもいいと考えてしまうと問題があるように思います。
【マクロの経済成長がマイナスになると】
マクロの経済成長がマイナスになると、具体的には、以下のような問題が生じることが考
えられます。
第1に、マクロの経済成長がマイナスになるということは、国内市場が縮小するというこ
とです。このことは、国内市場によって支えることができる産業規模が縮小し、雇用も減少
してしまうことを意味します。
もちろん輸出産業は海外市場を開拓することによって、国内市場の縮小を補うことができ
ます。しかし、もともと輸出産業では、グローバル競争の下で、生産拠点を海外に移転する
傾向が続いています。したがって、輸出企業が国内でどれだけ雇用を維持するかは不透明で
す。
他方、サービス産業などの非製造業は、基本的にその産業規模が国内市場に依存している
ため、国内市場の縮小の影響を受けないわけにはいきません。その結果、非製造業の雇用は
縮小せざるを得ないと考えられます。
そうなると、人口減少の下で労働力人口がどのような推移をたどるかにもよりますが、国
内市場の縮小による雇用の減少は、失業率を高めることが懸念されます。
第2に、国内市場が縮小すると、非製造業を中心に規模の経済を享受できないことになり
ます。縮小していく国内市場を対象に多数の企業が生産を行うことになると、各企業の生産
規模は減少し、規模の経済を発揮しにくくなります。
そのことは生産性を引き下げ、物価上昇圧力を強めることになると考えられます。これは
28
2013年11月号
輸出産業にとっては国内生産のコスト増を意味するので、製造業を中心に生産拠点の海外移
転を促進することにもなりかねません。
第3に、国内市場が縮小すると、それによって支えられる財やサービスの種類が少なくな
ります。
例えば、東京では、海外のブランド品が身近にあり、映画やコンサートなども好きなだけ
見に行ったり、聞きに行ったりすることができます。しかし、人口が減り、高齢化が進んで
いる過疎地では、そうしたものを見つけることは容易なことではありません。それどころか、
必需品を買い求めることさえも、大きな困難が伴うという状況にあります。
この過疎地の例が示しているように、国内市場が縮小すると、多様な財・サービスを支え
ることができなくなり、消費者の選択の余地は極めて限られたものになっていくのです。生
活の豊かさは決して高いとは言えなくなります。
第4に、社会保障や財政の持続可能性が揺らぐことです。年金等の社会保障給付は、高齢
化の進展に伴って増加をしていきます。それを賄うには、社会保障基金に蓄積されている積
立金を大幅に取り崩すのでなければ、残された選択肢は、社会保障負担が増加するか、政府
からの経常移転(社会保障関連支出)が増加するしかありません。
しかし、マクロの経済成長がマイナスになり、所得が減少するような状況の下では、社会
保険料から構成される社会保障負担が増加することは極めて困難です。また、社会保障関連
支出が増加するためには、まずは税収が増加することが必要ですが、所得が減少するような
状況では、これも同様に極めて困難です。結局、社会保障関連支出の増加を賄うためには、
既に多額に上っている政府債務をさらに累積させなければならないことになります。
したがって、社会保障や財政の持続可能性を確保するためには、マクロの経済成長を高め、
社会保障負担と税収の増加をもたらすことが重要なのです。もちろん給付や負担の在り方を
見直すことも必要です。社会保障改革と税制改革は避けて通ることはできません。しかし、
それも、マクロの経済成長が続いているような環境において初めて可能になると考えられま
す。
29
2013年11月号
【強力な成長戦略が求められる】
以上のように考えてくると、マクロの経済成長がマイナスになっても良いということには
ならないことが分かります。一人当たりGDPが増加することはもちろん必要です。しかし、
マクロのGDP成長率もプラスであることが必要なのです。高齢化・人口減少の下で、マク
ロの経済成長を高めることは容易なことではありませんが、それなくしては、日本の経済も
社会保障・財政も立ち行かなくなる可能性が高いのです。 潜在成長率を高める強力な成長戦略の立案と実行が求められています。
(日本経済研究センター研究顧問)
30
2013年11月号
大竹文雄の経済脳を鍛える
オリンピックの意外な経済効果
景気拡大効果は本当か?
2020年に東京でオリンピックが開催されることに決まった。自分が住んでいる国でオ
リンピックが開催されるというのは、国民にとって喜びであり、誇りだ。それに加えて、オ
リンピック開催の経済効果が期待されている。オリンピックによって外国からの観光客が増
えることが、輸出振興に貢献するということもしばしば指摘される。
一方で、オリンピックという一時的な催しに費用をかけることに否定的な意見も多い。ど
ちらの考えが正しいのだろうか。多くの経済学者は、オリンピックの経済効果には否定的だ
ったが、オリンピック招致には輸出入を増やすという意外な効果があることが、最近明らか
にされている。
東京でオリンピックが開催されることの経済効果はどのくらいだろうか。東京都は開催ま
での7年間の施設整備による経済波及効果が約3兆円になると試算している。150兆円の
経済効果があるという予測もあるそうだ。しかし、こうした経済予測には、多くの経済学者
は否定的だ。確かに、オリンピックの開催には、多額の投資がなされ、公共投資による景気
拡大効果は一時的にはあるかもしれない。
オリンピック開催に費用がかかるのも事実だ。様々な競技施設や宿泊施設の建設費や道路
整備費は莫大なものだ。それだけの費用をオリンピック以外の教育や福祉に振り向ければ、
私たちはもっと豊かな生活ができるかもしれない。それに、特定の競技にしか使えない設備
や開催期間中というピーク時に会わせた宿泊施設は、オリンピック以降は過剰設備になって
しまうかもしれない。オリンピックが終わった後のことを考えても、本当に経済効果はプラ
スなのだろうか。
31
2013年11月号
自由化のシグナル?輸出を増やす
カリフォルニア大学バークレイ校のアンドリュー・ローズ教授とサンフランシスコ連銀の
マーク・スピーゲル氏もオリンピックの経済効果に懐疑的な研究者たちだった。少なくとも、
彼らが『オリンピック効果』というエコノミック・ジャーナルという経済学専門誌に201
1年に掲載された論文を書くまでは(Rose, A. K. and Spiegel,
M. M. (2011))。
彼らは国別のデータをもとに計量分析をして、オリンピックの開催経験が、輸出を少なく
とも20%長期的に増やすことを明らかにした。もともとオリンピックの経済効果に懐疑的
だったのは彼ら自身である。様々な統計的なチェックをしてみても、その結果が揺らぎない
ものであることを確認した。
しかも、興味深いことに、オリンピック開催国だけではなく、オリンピック招致国として
選ばれなかった候補国も同様に、輸出が増えていたのである。輸出の増加は、オリンピック
招致の決定直後からはじまって、オリンピック開催後も低下しないことも明らかにされてい
る。この輸出増加という効果は、オリンピックに限らず、サッカーのワールドカップの開催、
万国博覧会の開催でも同じ傾向が観察されたのだ。
では、なぜオリンピック開催は、輸出を増やすのだろう。ローズ教授らの解釈は、オリン
ピック招致に立候補するということは、政府がこれから貿易の自由化を本気で行うという意
図をもっていることを企業や投資家に信じてもらえるようなシグナルとして機能するという
ものだ。こんなにお金がかかることにコミットするのだから本気で貿易を自由化すると政府
は考えているはずだ。それなら、安心して投資をしていいと、企業や投資家は考えるという
のだ。
コミットメントに安心感
確かに、安倍総理大臣が、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加表明をしたのは20
13年3月、TPP会議に参加したのは7月であり、9月のオリンピック招致国決定のタイ
ミングにちょうど合っている。また、国家戦略特区の報告書には、「東京オリンピックの開
催も追い風に」という表現が何度も出てくる。ローズ教授らの論文にも、似たような例が紹
32
2013年11月号
介されている。北京オリンピックの招致が決定したのは2001年7月であるが、中国が世
界貿易機関(WTO)に貿易自由化をコミットしたのはその2ヶ月後だった。1964年の
東京オリンピックの年に日本は、国際通貨基金(IMF)と経済協力開発機構(OECD)
に加盟した。バルセロナでのオリンピック開催が決まったのは1986年だが、その年にス
ペインは欧州経済共同体(EEC)に加盟した。
オリンピックというのは、様々な政策のコミットメント手段として有効なのであり、将来
の政策に関する安心感をもたらすのだ。それが本当のオリンピックの経済効果なのかもしれ
ない。アベノミクスというのは、コミットメントの経済政策がその実態だとすれば、今後、
そのコミットメントを守っていくことが、政策の成功への鍵となるはずだ。
参考文献
Rose, A. K. and Spiegel, M. M. (2011), Th
e Olympic Effect. The Economic Journal, 1
21: 652–677. doi: 10.1111/j.1468−02
97.2010.02407.x
(日本経済研究センター 研究顧問)
33
2013年11月号
小島明のGlobal Watch
さよなら大悲観主義
長いあいだ極端な悲観主義に陥っていた日本が変わりつつある。その変化が海外でも注目
され、ジャパン・パッシング、さらにはジャパン・ナッシングと軽視され、あるいはほとん
ど無視されがちだった日本への関心が復活し、しかも隣の中国と韓国を除けば、アジア各国
から好感されてもいる。
米国ワシントンにあるピュー研究所の最近の調査(2013年3−4月時点)の結果を紹
介しよう。まず、日本人の意識だが、自国の経済と国全体の状況について「満足している」
とする人が33%、「向こう12カ月にさらに改善する」と見る人が40%である。ともに
半分に満たないが、ピュー研究所は調査を始めた2002年にはそれぞれ12%、11%で
しかなく、2012年と比べてもそれぞれ13%ポイント、24%ポイント上昇している点
に着目し「社会のムードは明らかに好転した。安倍晋三首相の支持率が71%もある理由も
ここにあるようだ」と解説している。同研究所はまた「自民党の支持基盤は伝統的に圧倒的
に地方にあったが、いまや大都市や周辺都市部にも広がっており、安倍首相の支持率は性別、
世代別、階層別、学歴別に見てもほとんど変わらない」ことに注目している。
そうした日本国内のムード好転を多くの国が好感している。フィリピンでは62%が肯定
的、15%が否定的、マレーシアは53%が肯定的で、否定的は9%(38%は「分からな
い」)、インドネシアは46%が肯定的、11%が否定的(同42%),オーストラリアは
30%が肯定的、16%が否定的(同56%)。
ただ、隣国の韓国と中国はともに85%が否定的で肯定的な回答は韓国12%、中国9%に
とどまる。しかし2020年オリンピックの東京招致に際し、中国が支持の姿勢を見せたと
森喜朗元首相は感謝の意を表明している。
34
2013年11月号
CRICサイクルからの脱出
政府の経済政策にも、企業の経営姿勢にも前向きな変化がある。政策に関しては、エコノ
ミストのロバート・フェルドマン氏が論じていたCRICサイクルから抜け出しそうである。
CRICサイクルとは危機(Crisis)に直面し、その場しのぎの対応(Respo
nse)をし、状況が多少改善(Improve)すると気を抜いて(Complacen
cy)しまい、痛みを伴う構造改革などを先送りしてしまう。その結果、経済構造もほとん
ど変わらないし、一時しのぎの施策の効果は消えてしまい、新たな危機が発生する。しかし、
とられる政策はやはりその場しのぎのもので、再び多少の好転で気を抜き問題先送りを繰り
返した、という見方である。
1993年の「55年体制」崩壊後、短命で政策理念も異なる政党による連立政権が多く
生まれた。どの政権も痛みを伴うような構造改革についての議論はしたが、実行段階に至る
前に次の政権に変わってしまい、結局、一時しのぎの政策だけしか生まれなかった。構造改
革については繰り返し議論されたため、人々は構造改革が進んだかのような錯覚に陥り、改
革もしないのに「改革の痛み」論が生まれ、「改革反対」の声ばかりが高まったきらいがあ
る。多くの場合、「痛み」はむしろ必要な改革を先送りし続けて結果の痛みだったというべ
きだろう。
CRICサイクルの繰り返しで生まれたものは政府債務の膨張であり、潜在成長率の低下
である。アベノミクスは、そうしたなかで登場した。その使命はCRICサイクルからの脱
出であり、構造改革をテコとしてバブル景気崩壊後低下する一方だった日本経済の潜在成長
率をトレンドとして反転、上昇させることである。
アベノミクスの「3本の矢」のうち、大胆な金融緩和政策と機動的な財政政策は、従来も
やってきた反循環的な政策を大胆にやったことであり、短期的な景気対策としては効果があ
る。また黒田東彦新総裁以前の日銀はゼロ金利政策でも量的緩和政策でもやる前から「効果
がない」と消極発言を繰り返し、金融政策にとって重要な“アナウンスメント効果”を日銀
自身が潰してしまったきらいがある。
黒田体制になった日銀は「異次元」の量的・質的金融緩和政策を「確実に効果がある」と
大宣伝しながら展開している。
35
2013年11月号
世界が注目するのは構造改革
金融緩和と財政刺激策という1本目、2本目の矢で景気は上向く。しかし、持続的な成長、
潜在成長率の底上げを確保するには3本目の矢である構造改革が決定的に重要である。経済
協力開発機構(OECD)も国際通貨基金(IMF)も最新の日本経済レヴューでアベノミ
クスを評価し、期待も表明しているが、ともに「3本の矢政策が全て一体として断行される
ことが不可欠」だとし、もっぱら残された「構造政策」の成り行きを注視している。
安倍政権の優先政策について安倍首相周辺は「1に経済、2に経済、3に経済、そして4
は長期政権」だと言っている。長期政権のためには経済を強くし、安倍首相自身の健康を維
持することが必要である。国会の“ねじれ”が解消し、長期政権が確保されるなら効果がで
るまで2、3年あるいはそれ以上かかり、その前に痛みが生じるような政策でも実行できる
はずである。
安倍政権は10月15日からの臨時国会を「成長戦略実行国会」としている。その臨時国
会冒頭の所信表明演説で安倍首相は「(成長戦略として)やるべきことは明確である。これ
までも同じような成長戦略はたくさんあった。違いは、実行が伴うかどうかだ。実行なくし
て成長なし」と強調した。しかし、この演説の段階ではスローガンが掲げられただけである。
各国は「だから具体的などんな構造政策をするか」と具体策を見守っている。
企業家精神も悲観主義から脱出の兆し
日本の持続的なデフレが始まったのは1998年であり、ことしで15年目。デフレはか
なりの部分、企業家精神そのもののデフレ、つまり萎縮、あるいは消極経営に原因がある。
1998年以降、企業はリストラクチャリング(リストラ)と称しながらも経営全体の抜本
的な改革、新しいビジネスモデルの構築を目指したものではなく、当座の収益改善のために
人件費削減に過度に依存した安易な経営を続けた。経営危機に見舞われた一部の家電メーカ
ーを例にとっても、この20年間に世界を驚かせた新商品をどれほど開拓したのかと問わざ
るを得ない。
人件費を削減するだけで企業経営が長期的に成り立つなら、だれでも経営者になれる。そ
れは企業家精神自体がデフレに陥った経営である。15年デフレのなかで家計所得は減り続
36
2013年11月号
け、家計の貯蓄率は1%そこそこまで低下した。企業の方は賃金コストを削減して得た利益
を投資にあまり向けず、手元流動性として積み上げている。日本の産業の近代化の歴史で企
業セクターが全体として貯蓄余剰となったのは初めてではないか。
しかし、こうした構図は持続できない。企業が家計所得を縮小させることは自らの市場を
縮小させることに過ぎず、この構図が長期化すれば経済萎縮の悪循環になる。合成の誤謬が
生まれるわけだ。
ただ、その企業家精神にも下げ止まり、反転の気配がうかがえる。設備投資や研究開発投
資に動意が見られる。政府の賃上げコールもあるが、一部の企業は賃金コスト圧縮に依存し
過ぎた経営から脱しようとしているようだ。政府が賃上げを呼びかけることには異論もあろ
うが、多くの企業が長期にわたって賃金コストを削減し続け、新しいビジネスモデル、新商
品、新技術、新分野の開拓を怠れば経済全体が萎縮する一方になることへの自覚がなさすぎ
たことは否定できない。
企業もCRICサイクルを脱する必要がある。経済・社会全体に根を張っていた行き過ぎ
た悲観主義、メガ・ペシミズムから脱出する兆しが現れだしたことに注目したい。
(日本経済研究センター参与)
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2013年11月号
深尾光洋の金融経済を読み解く
安倍政権の財政再建目標
消費冎率引き上げは第一歩
ことわざに「いつまでもあると思うな親と金」とあるが、同じことが日本政府の信用につ
いても言える。「日本の国債は、国内の銀行や生保などの金融機関や日銀がその大部分を保
有しているので価格の急落はありえない」といった議論が時折聞かれるが、このような議論
には何の根拠もない。日本の国民や金融機関であっても、日本政府の信用に不安を感じて国
債を売って外貨や不動産、貴金属などに資金を逃避させることは可能であり、実際に起こり
うることだ。
国際通貨基金(IMF)が10月に発表した世界経済見通しによれば、日本政府の債務残
高は2012年末でGDP比238%に達し、財政破綻したギリシャの157%を大幅に上
回っている。政府が保有する金融資産を負債と相殺した政府純債務残高でも日本は133%
となっており、ギリシャの155%と肩を並べつつある。こうした中で安倍政権が決断した
消費税率の引き上げは、日本の財政の健全性を維持するために必要不可欠であり、その方向
性は高く評価できる。しかしこれは財政再建のための第一歩に過ぎず、今後も厳しい支出の
削減と増税を避けることはできない。
安倍政権の財政再建目標
安倍政権が8月に発表した財政再建目標では、国・地方合計の基礎的財政収支(利子の受
け払いを除く収支)赤字を2010年度のGDP比6.6%から2015年度には3.3%
へと半減させ、さらに2020年度までに黒字化することを目標としている。しかしこの目
標には、今後急増が見込まれる利子支払が含まれていない。楽観的な「経済再生ケース」に
おいても、利払いを含む政府の財政赤字は、2020年度でもGDP比5.6%となってお
り、健全化とはほど遠い内容となっている。1ポイントの消費税率引き上げによる税収はG
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2013年11月号
DP比で約0.5%であり、2014、15年度の合計5ポイントの引き上げを行っても、
財政赤字はGDP比2.5%しか改善できない。
財政再建戦略のもう一つの問題点は、長期的な経済成長見通しがあまりに楽観的なことだ。
特に潜在成長率について、2013年度の0.8%から2020年度までに米国並みの2.
4%まで高まっていくと想定している。この数字は過去20年以上、日本の潜在成長率の実
証分析を行ってきた筆者の目から見れば、驚くべき高さだ。
日米経済の成長要因の最大の違いは労働力の動向にある。日本の労働力人口は今後10年
間の平均で見て毎年1%減少していくが、米国では1%程度上昇して行くと見込まれている。
この労働力の伸びの2ポイントの差を生産性の引き上げで埋めるのは、不可能に近い。高度
成長期の日本では、海外の技術を積極的に取り込んでキャッチアップすることで高い成長率
を達成できた。しかし現在は違う。既に日本の生産性水準は欧米諸国と肩を並べており、そ
れをさらに高めていくことは容易ではない。政府が力を入れている少子化対策についても、
仮に出生率が来年から上昇したとしても、日本経済の成長に寄与するのは生まれた子供が成
人する20年も先のことだ。(文末図表参照)
移民政策を成長戦略の柱に
日本の成長力を取り戻すためには、移民の積極的な受け入れが不可欠となるだろう。文化
・教育・職場での摩擦を最小限にして移民を受け入れるには、日本語能力が高いバイリンガ
ルの外国人を積極的に受け入れていく戦略が必要だ。現在の移民受け入れ審査では、専門性
が重視されている半面、日本語能力についてはあまり高いウエートが置かれていない。しか
し日本に定着し、日本の社会に溶け込んでいける移民を受け入れるためには、日本語能力に
高いウエートを置いた移民受け入れ政策が必要だ。高い日本語能力を持つ外国人であれば、
日本の文化を理解しているし、またその子どもが日本の学校に適応する上でも、大きな力に
なれるだろう。また、アジア諸国からのバイリンガルの移民受け入れは、日本をアジアのビ
ジネスセンターとして大きく成長させる起爆剤となるだろう。
(日本経済研究センター参与)
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2013年11月号
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2013年11月号
小林光のエコ買いな?
「緑の贈与」―環境投資促進の国際的な
知恵比べ
英国で始まった家庭版ESCO―補助金頼みから脱却
2013年1月から、英国では家庭版ESCO(省エネルギー支援サービス)と言うべき
「グリーン・ディール」が始まった。その仕組みは、前回に紹介したハワイのものと近似し
ている。
エコ改修のための資金源はグリーン・ディール・ファイナンス・カンパニーという非営利
のコンソーシアムが年利7%弱25年償還といった原資を提供し、住宅の居住者や所有者は、
省エネ・創エネ改修を行った場合の支払いを電気会社への月々の支払いと一緒に行う、とい
うものである。政府からの初期投資段階での補助金も、最大で工事費の2分の1と手厚く用
意されている。このスキームの下、政府が示している試算例では、利用者は、従前の電力料
金に比べ、年々数十から百ポンドといったオーダー(1万円前後)で電力料金とローン償還
額の合計額を減らすことができる。
英国の工夫は、店子である住宅借り手にこそ、このスキームの利用を可能にした点だ。仮
に、当該賃貸住宅から退去した場合、次の居住者がローン支払い義務を引き継ぎ、承継が制
度的に担保されている。また所有者(大家)自身もこのスキームを利用できるが、店子から
改修の要求があった場合、拒めない。将来的には、省エネ性能の悪い住宅は賃貸に供するこ
とが禁じられるという厳しい義務が課せられている。また電力会社自体にも、このグリーン
・ディールでカバーできない低所得者などを含め、住宅のエコ改修を行うことが義務付けら
れている。
英国では、この政策により、CO2排出量を年間450万トン、削減ができると推計して
いる(この数字は日本であったとしても大きな量と言えよう。削減量は100万kW級の原
発2基分)。さらに、重要なことには、経済面の効果が大きいことがある。英国政府は、例
41
2013年11月号
えば断熱業界に限っても、雇用の倍増以上の効果(5年間で3万4000人の増加)を見込
んでいる。この政策のプログラムが、各種の断熱工事を中心とした手作業の多い対策の実施
促進をターゲットにしているからである。
ちなみに、前回紹介した太陽光溢れるハワイでは、当面は、太陽光パネルの導入から政策
が開始される。
ハワイの例といい、今回の英国の例といい、各国が、これまで難しかった家庭の環境対策
を促進するべく、新たな経済的なインセンティブづくりとグリーンな経済の活性化に知恵比
べとも言える状況が生まれている。
日本の新工夫を探す―世代間でエコの譲り渡し
残念ながら、何事もコンサーバティブ(保守的)なのが我が国である。我が国では、自然
エネルギーからの電力の固定価格買い取り制度(FIT)が、導入されるという大きな変化
はあったものの、これを除くと、太陽光設備やHEMS(家庭用のエネルギー消費の見える
化のための設備)、蓄電池、電気自動車給電設備などに対する初期投資の補助金といった伝
統的なアイデアに政策は依存したままである。こうした補助金の原資が、多くの場合、石油
石炭税であることは、対策をする場合としない場合の差として機会費用を作り出し、微温的
とはいえ、それなりの効果を生み出していると評価できる。とはいえ、この石油石炭税にも
反対し、単に、補助金だけを望む向きもあると聞き及ぶに至っては、我が国のコンサバ振り、
イノベーション嫌いも極まっていると思う。
このようなコンサバな我が国で、それでも工夫のあった家庭の環境政策の誘導策としては、
これも本コラムで紹介したことのある、家電エコポイント政策、住宅エコポイント政策があ
る。現在も、木材使いのポイントとして、その末裔をかろうじて見ることができる。
ここに今、新星が生まれそうになっている。
それは、「緑の贈与」である。この考え方は、京都大学の植田和弘教授と地球環境戦略研
究機関(IGES、横須賀市)とが中心となって提唱したもので、2013年5月13日の
日本経済新聞・経済教室で説明されている。
42
2013年11月号
この緑の贈与は、太陽光への投資を自ら行うことには乗り気ではないが、金融資産を持つ
祖父祖母、あるいは親世代と、その子ども達、すなわち、太陽光発電設備を設けることに魅
力を感じる一方で手元の資金のない世代とをつなげる考えである。簡単に言えば、高齢世代
が子世代名義の太陽光発電設備を設置し贈与した場合、その贈与額を贈与税対象額から控除
する。応用的なものとしては、一層大規模な市民出資の太陽光発電所の受益権を子や孫に贈
与する場合のカバーも検討されているようである。
このような仕組みを設ければ、高齢者が子孫に何か有益な資産を残したいとする意向を汲
み取ることができる。しばしば言われるように、高齢者には、2000万円を超えるタンス
預金(現金)や金融資産を使わずに亡くなるケースが多い。しかし、自らその資産を太陽光
発電に投資して収益を得たり、安心を買ったりする気持ちには乏しい。自らの寿命を考える
からである。もちろん子孫の安寧に自らの資産を残す気持ちは大きいが、贈与税や相続税が
掛かる。税金を納めて現金の移転を図っても、子や孫たちが有益なことに使わなかったらど
うしようと悩んでもしまう。
高齢者にIGESでアンケートを行ったところ、高齢者の約2割が緑の贈与をしてみたい
とし、投じたい金額は平均430万円にのぼった。
これを全国に拡大して推計すると、全国の高齢者世帯は、2000万世帯に及び、その中
でも収入が支出を上回る世帯は、600万世帯ほどあると言われる。すべてとは言えないが、
2000万世帯の2割に相当する400万世帯が緑の贈与のスキームを活用し、仮に400
万円規模の投資を行ったとすると、その総額は16兆円規模に達する。この資金動員が15
年間で果たされるとしても年額約1兆円の、追加的な需要が太陽光パネルに生まれることと
なる。
贈与税の軽減で、世代間の大きな資金移動が生まれることは、既に、教育資金の移転支援
に関する政策で実証されているが、太陽光パネルも、世代間の資金移転を触発する良い契機
になると言えよう。
今、自民党、公明党の与党では税制調査会で、この税制の新設に向けた真剣な検討を行っ
ていると報道されている。日本では、政策の知恵が乏しく、欧米のような、民間の活力を呼
び込む魅力的な政策がなかなか具体化しないが、この緑の贈与のように、子孫の安寧に寄与
したいと気持ちとCO2を減らし、エネルギーの安全保障を進めるという公益とを同時達成
する仕組みはユニークなものであり、是非、実現してもらいたいものだ。(文末図表参照)
43
2013年11月号
なお、政策減税すると、その目指す公益は増進させられるが、政府税収は減ることを通じ、
その他の公益の達成は阻害されると考え、心配する向きもあろう。IGESでは、太陽光パ
ネル設置費用の贈与税減免による贈与税減収と、太陽光パネル売り上げ増に伴う消費税収増
の関係などを分析している。それによると、上図のとおりであって、贈与税収減と消費税収
増とはほぼ均衡し、財政に悪影響を及ぼすものではないことが推計されている。政府の帳尻
から、民間市場に目を転じると、これも上図のとおり、雇用の増加が期待されている。
欧米に負けない、政治家主導の政策イノベーションを期待したい。
(日本経済研究センター 研究顧問)
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2013年11月号
西岡幸一の産業脈診
もしかして異次元M&Aの始動
先月に続いてM&Aを取り上げたい。
というのも、2010年から今年6月までに196件、約2兆円のM&Aを実行した米グ
ーグルには遠く及ばないものの、日本企業のM&A件数は急ピッチで増えている。資金豊富
な企業の腰が浮いているのか、技術や事業や時間を買いたいという強い意欲は蔓延している。
その中で経営戦略として、興味深いM&A案件がこのところ立て続けに生まれている。
興味深いというのは、欧米では常識の振る舞いであっても、これまでの日本企業のM&A
にはない新奇性がみられることだ。たとえば①過去なら容易に実現しなかったM&Aの相手、
②資金調達の多様性やM&A戦略の高度化、③国レベル、国家レベルの影響を勘案するより
も企業自身の利益第一での行動、などである。日本的経営の桎梏(しっこく)からの脱出と
「時間を買う」だけから一段進化した格好だ。裏を返すと、内需縮小や外部環境変化で土壇
場に追い込まれていることと、アベノミクスを追い風に「タブー」を超えた振る舞いが許容
される機運を活用している風にも見える。
3つの新しい動き
注目されるのは有力企業による3つのケースだ。
第1は東京エレクトロンと米アプライド・マテリアルズの統合だ。統合会社の株主の実態
からすれば、米メディアが報じる通り、約9200億円を投じたアプライドによる東エレク
の買収なのだが、半導体製造装置で世界1位と同3位(日本1位)の企業の統合である点が
まず目を引く。半導体製造装置の世界では、露光装置とその他の製造装置では技術的にかな
り違いがあり、蘭ASMLとニコン、キヤノンの3社に絞られる露光装置以外の製造装置の
市場では、アプライドと東エレクは圧倒的な世界1、2位の企業であり、この統合でまさに
ダントツのトップ企業が出現する。
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2013年11月号
さらに日本の半導体業界や製造装置業界にとって重要なのは、東エレクが退潮著しい日本
勢の中で主導的企業であり、半導体メーカーとの共同技術開発や産官学協力体制の要の位置
を占めていたことである。昨日まで米国勢や韓国・台湾勢に対する巻き返しを図っていた業
界の中心会社が、「イチ抜けた」とばかりに世界トップ企業と合体する。「まさか」と絶句
した半導体メーカー、装置メーカーが多かったのはうなずける。
国皅トップ企業も標的に
ということは、東エレクはそれだけ革命的な経営判断をしたということでもある。最盛期
には世界の半導体装置需要の50%超のシェアを占めた国内半導体メーカーの設備投資が、
今年はわずかに7%まで落ち込む。これでは国内メーカーの行方を斟酌していられない。自
らの生き残りを図るために、比較的に製品や技術が重複しないアプライドと組む、というの
は東哲郎会長兼社長が選択した乾坤一擲の鬼手である。
財務体質はまだ健全であり、日本企業的な業界のしがらみや国内トップとしてのメンツな
どにこだわると、とてもこんな意思決定はできなかったろう。日本の優れた企業に触手を伸
ばしたい海外企業に対して、「業界トップ企業でも売りに出ている」というメッセージを与
えた意味は大きい。
ただ、統合がどういう結果を生むかは楽観を許さない。本社を節税効果が大きいオランダ
に置き、図抜けた市場シェアをテコにインテル、サムスン電子などの巨大半導体メーカーと
互角の交渉力を持つかもしれないが、そもそも両者の企業文化が違いすぎる。結節点は両社
のトップが親しいということだけだ。統合ハネムーン後のスリム化が課題だ。
「ハゲタカ」アレルギーの超越
第2はパナソニックがヘルスケア部門を米投資ファンドのKKRに1650億円で売却す
るケース。ここでの注目点は対象となる事業と相手である。
ヘルスケア事業は今後の成長産業のひとつと見なされている。東芝は半導体、原子力に次
ぐ注力事業に挙げているし、ゼネラル・エレクトリックやフィリップスなど欧米有力メーカ
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2013年11月号
ーも中核事業として大胆に経営資源を投じている。大黒柱の家電事業が大きく揺らぎ、巨額
の投資をした薄型パネル事業も、大赤字の苦しみから撤退し始めているパナソニックとして
は成長分野に何とか軸足を移したいところであるが、その候補の一つをあえて切り捨てた。
社内にヘルスケア事業のタネや関連技術は多く存在するが、世界的大企業が入り乱れる激戦
地に今からでは時間的に間に合わない、との判断かもしれないし、10年余り前に、後発の
位置から巨額の設備投資攻勢で一挙に先頭に出る決断をしたプラズマパネルの戦略が、結果
的に大敗北になったのを教訓にしたのかもしれない。携帯電話、半導体はじめ戦線の縮小が
目立つ最近のパナソニックの決断の中でも、ある意味で異色の決断であろう。
異色といえば、相手にKKRを選んだのも同社らしくない。KKRはいわゆる「ハゲタカ」
に分類されがちな投資ファンドであり、先のルネサスエレクトロニクスの再生をめぐっては、
水面下ではKKRが出資とともに再生を主導するはずだったのが、産業界や経産省などの反
発をうけて実現しなかった。事業の分離・売却に際しては、事後の従業員の処遇に配慮して、
温厚なイメージの企業やブランドとして釣り合う相手を優先するパナソニックとしては、何
をしでかすかわからないファンドは本来ありえない選択肢である。あらゆる神話を放棄し、
2000年代前半の中村邦夫社長時代の改革も評価し直しながら、並みの会社という視点か
ら再生を図る同社の姿勢が表れている。
資金調達のセンス
第3はLIXILグループによる独住宅用機器メーカーGroheの買収のケースだ。総
額4000億円規模の買収案件になるが、資金調達に工夫を重ねている。具体的にはLIX
ILの買収には違いないが、LIXILの出資は普通株、無議決権優先株合わせて約100
0億円にとどまり、残りを銀行団の出資や融資に仰ぐ。たとえば政府系の日本政策投資銀行
は500億円の議決権付き優先株を取得し、民間銀行団は500億円弱の無議決権株式を取
得する。
要は中期的に海外売り上げを足もとの約2000億円から1兆円に大幅に増強するため、
M&Aに多額のカネをつぎ込むが、見かけのバランスシートを傷めないようにしながら、政
府の信用や民間金融機関を活用する。Grohe買収では同社の株式の87.5%を獲得す
ることになるが、LIXILの持ち分は半分にとどめるため、連結決算上はGroheは持
ち分法適用の関連会社になる。Groheの抱える負債や買収に伴うのれん代はLIXIL
のバランスシートからは外れる。LIXILの業績が順調に拡大し、バランスシートへの打
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2013年11月号
撃が吸収できる段階で100%子会社にする構えだ。
これらの資金調達戦略はウェルチ会長の薫陶を受け、GE副社長や日本GE社長として手
腕を発揮した藤森義明社長によるところが大きい。同社長の下でイタリアの建材大手や米国
の大手衛生陶器メーカーの買収など、LIXILは果敢にM&A攻勢をかけているが、タネ
になる資金をいかに膨らまして事業を飛躍させるか。大きな目標の達成に向かって、トップ
の経営センスが問われるひとつの先例になろう。
貧すれば鈍する、ということも一面の真理だが、窮すれば通ず、という言葉もある。M&
Aではどちらがあてはまるか。貧すればというよりカネをもてあませば鈍する、という例は
枚挙にいとまがない。2020年までの上げ潮に乗らなければ後がない、という空気が産業
界に広がり始めている。それが上滑りのM&Aを誘発しているきらいがあるが、横並びから
脱皮し始めているのは確かだ。もしかして異次元のM&A競争が始動したのかもしれない。
(日本経済研究センター研究顧問)
48
2013年11月号
山田剛のINSIDE INDIA
ウォルマートのインド合弁解消が意味す
るところ
「インドの小売市場は国内勢が頑張って成長してきた。ウォルマートがいなくなったとこ
ろでさほど深刻な影響はない――」。
印携帯電話サービス最大手のバルティ・エアテルと合弁企業を設立し、インドの総合小売
市場への本格進出を目指してきた米ウォルマートは10月上旬、合弁を解消して総合小売業
から手を引き、当面は独資による会員制現金卸売業(キャッシュ・アンド・キャリー)に専
念することを決めた。冒頭の発言は、ウォルマートの投資計画見直しがインドの外資誘致政
策にダメージとなるかどうかを問われたチダムバラム財務相の見解である。
総合小売業、つまりスーパーや量販店といった大規模小売店の業態を外資に開放する政策
は、昨年9月のいわゆる「ビックバン改革」の目玉として打ち出され、国内の様々な反対を
押し切って実現させた、外資誘致政策の柱となるべきものだった。政府にしてみれば、20
14年春に控えた総選挙の前にウォルマートの「総合小売1号店」の開店を外資政策の成果
として派手に宣伝したかったところだろう。
今年7月にはインド出身の鉄鋼王ラクシュミ・ミッタル氏率いるアルセロール・ミッタル
と、韓国・ポスコが相次いで印国内での製鉄所建設計画の一部を見直すと表明したばかり。
経済減速が鮮明となる中、経常収支赤字(CAD)の削減を目指すインド政府にとって、期
待した大型FDI(対印直接投資)が皮算用に終わったことは小さからぬ痛手だろう。
決定宛だった「30%ルール」
昨年9月の段階では「1年半以内に小売業としてインドでの出店を開始します」などと宣
言していたウォルマートが計画を大幅修正した背景には、国内の零細商工業者に配慮した結
果として外資に押し付けた様々な出店条件が挙げられる。
49
2013年11月号
外資がインド国内で総合小売業を展開するためには、①最低投資額1億ドル以上②このう
ち50%を農村部などの食品加工場、倉庫、配送センターといったバックエンド・インフラ
に投資すること③仕入額の30%相当分を国内中小事業者から調達すること④立地先は人口
100万人を超える大都市圏に限定する、しかも⑤既存の商店・企業の買収は投資にはカウ
ントしない――といったかなり厳しい条件が並ぶ。
のちに、このうち②の「50%ルール」は初期投資の1億ドルに限っての適用とされ、「
中小事業者」の定義も当初「総固定資産投資100万ドル以下」から「同200万ドル以下」
に拡大、さらに④の「100万都市ルール」も各州政府が特に認めた場合は許可するなど、
相次ぎ緩和措置がとられた。だが、大手小売業にとってもっとも厄介だった③の「30%ル
ール」について印政府が「あくまで(30%ルールは)変更しない」(シャルマ商工相)と
明言したことが、ウォルマートがバルティとの「離婚」を決断する決め手になったとみられ
ている。
インドの総合スーパーでは、仕入額のおおむね30∼40%は生鮮を主とする食料品であ
るため、この「30%ルール」を遵守した場合、非食品以外のアイテムのうちほぼ半分を地
場中小企業から仕入れなければならなくなる。世界的な大手小売業に対して品質・数量とも
に安定供給できる会社はもはや中小企業とは呼べないだろうし、たとえば日用品などはロッ
トがそろわず、かえって価格も割高になってしまう可能性が高い。急速に目が肥えてきたイ
ンドの消費者が、こうした製品を喜んで買うとはとても思えない。
いまだに外資導入に反対する零細商工業者や労組、これを支援する野党などに配慮した結
果とはいえ、政府が掲げた一連の参入ルールはもともと矛盾を抱えた無理筋の話だったと言
えるだろう。ウォルマートのアジア担当CEOのスコット・プライス氏も「30%ルールは
(店舗展開にとって)致命的な参入障壁だった」と発言している。
インド政府の思惑に踊らず
先進国と違い、コールドチェーンが不備で(そもそも停電が頻発)、道路事情も悪いイン
ドでは、生鮮食品などのオンタイム輸送には最初から大きなボトルネックがある。しかも所
得水準の割には出店にかかる土地代も高い。シンガポールの総合金融グループ、フィリップ
・キャピタルによると、インドの大都市で小売業を出店する場合には利益の25%が家賃で
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2013年11月号
吹っ飛ぶといい、これは世界平均の約2倍の水準だ。よほどハイレベルの売り上げを維持し
ないと黒字にはならないのである。
そこに加えて現状の投資ルールは、立ち遅れたインフラを外資の金で整備させようという
実に虫のいい話だった。インド経済が年率9%を超えるような高成長を続けていた2000
年代後半ならいざ知らず、新興国で軒並み厳しい競争に直面している大手流通業にとっては
そう簡単に政府の思惑には乗れなかった、ということだ。
インドの小売業界が抱える問題は何も外資に固有のものではない。総合小売業が割に合う
商売なら、ビジネスセンスにあふれるタタやリライアンス、ビルラなどの地場大手財閥がも
っと大々的に店舗展開に乗り出しているはずだ。地場最大手のフューチャー・グループをは
じめ、業界全体の成長がやや鈍っていることからもインド小売市場が直面する問題の難しさ
がわかるだろう。
※図表「インドにおける主要流通業の動向」は会員限定PDFをご覧ください。
ウォルマートとバルティは2007年に合弁会社を設立してキャッシュ・アンド・キャリ
ー業態の「ベストプライス・モダン・ホールセール」を展開、これまでに20店舗を出店し
てきた。ウォルマートはバルティが展開するハイパーマーケット「イージーデイ」212店
の運営でも協力しており、バルティとの6年間の合弁でインド市場におけるノウハウをつか
んだウォルマートとしては「ベストプライス」に当面経営資源を集中し、状況の好転を待つ
という戦略だろう。
実際同社は中小事業者からの調達義務について「19.5%なら何とかなる」などと発言
し、条件闘争に持ち込む構えも見せていた。14年春の総選挙さえ終われば新たな条件緩和
の可能性も出る。一回あたりの最低購入額は「500ルピー(約800円)以上」という決
まりがあるが、営業実態はスーパーなどの大手小売業と何ら変わりがなく、地場同業者から
「規制逃れ」と批判されてきた。
「小売業」の看板を掲げて面倒な規制をかけられるぐらいなら、100%外資がOKで自
由に商売ができるキャッシュ・アンド・キャリーで当面やっていこうと思うのは至極当然だ
ろう。2014年春には次期総選挙を控えており、次期政権ができるまで小売業への外資規
制に関する新たな追加規制緩和は期待薄だからだ。
51
2013年11月号
「離婚」相次ぐJV
またインドにおける外資とのJV自体も、近年はほころびが目立ってきた。合弁規制の相
次ぐ緩和で外資にとっても地場のパートナーと「離婚」しやすくなったこともあり、近年は
外資とインド地場企業による合弁解消のケースがにわかに増えている。輸出戦略をめぐる意
見対立から2012年に合弁解消に踏み切ったホンダとヒーロー・グループの例はよく知ら
れているが、最近でも豪喫茶チェーンのディベラ・コーヒーで本社とローカル・パートナー
の間の対立が先鋭化、中傷合戦が繰り広げられている。最も成功しているといえるマクドナ
ルド・インディアでさえ、インド独自のベジタリアン(菜食主義者)向けメニューを「輸出」
する際のロイヤルティ支払いを巡る対立が伝えられ、経営の主導権をめぐる不協和音も聞こ
えてくる。外資の側も長年の経験から単独でやっていける自信がついてきたため、JV維持
でもはや無駄な我慢をしなくなったということもあるだろう。 景気の先行きは依然すっきりしないが、インド小売市場の中長期的な成長性を疑う投資家
はあまりいない。現在5000億ドル規模の小売市場が、2018年にも1兆ドルを突破す
るという見込みは信用していいだろう。歴史的豊作に恵まれた今年度のように、農村部が適
度に潤っていれば消費の底上げにつながり、十分に達成可能な数字だと思う。
今回のウォルマートの「離婚」は確かに投資家にとってはよいシグナルではない。だが、
総選挙を半年後に控えたこの時期、小売業への外資導入を巡って再度論争に火が付くことを
恐れる現政権としては、これ以上外資に甘い顔は見せられなかったということだろう。投資
家の側にとってもある意味想定内だったといえる。
捨てる神あれば、ではないが、ウォルマートの合弁解消決定からわずか1週間後、印最大
の財閥タタ・グループと提携してハイパーマーケットの展開に参画している英テスコは、同
社のテスコ・エクスプレスをモデルとしたコンビニエンス・ストア「スター・デイリー」の
1号店を西部マハラシュトラ州の文教都市プネーにオープンした。品ぞろえを生鮮食品や日
用品に絞り、朝7時から夜10時までの長時間営業を行う。同じトレントが運営するハイパ
ーマーケット「スター・バザール」に比べて売り場面積も40分の1∼20分の1の180
0平方フィート(約170平方メートル)と小型だ。テスコはすでに同チェーンに自社のP
B(プライベート・ブランド)商品を供給するなど全面的な協力体制を構築している。
新興の経済紙ミント電子版によると、仏カルフールも今後インド国内にキャシュ・アンド
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2013年11月号
・キャリー8∼10店舗の開店を計画しているという。東南アジアからは軒並み撤退した同
チェーンだが、インドには踏みとどまる考えのようだ。
そして、1000億ルピー(約1600億円)を投資してインドに25店舗を展開する計
画を発表しているスウェーデンの家具製造販売大手イケアも、今年5月に印政府から進出許
可を得ていよいよ本格出店に動き始めた。有力経済紙エコノミック・タイムズによると、イ
ケア・インディアは南部の中核都市ハイデラバード市内に約2万平方メートルの土地を探し
ており、同市に少なくとも1億ドルを投資する計画、という。またニューデリー郊外の産業
都市グレーター・ノイダへの出店も取り沙汰されている。こちらは新たに100%外資が認
められた「シングルブランド小売業」というカテゴリーでの出店となる。
いったんはインド進出を断念したイケアが、いまやインドでの外資小売業の象徴的存在に
なりつつあるのは皮肉なものだ。
こうした外資各社の動きを見ていると、冒頭のチダムバラム氏発言もあながち強がりだけで
なない気がする。 今後は春の総選挙に向け、最も議論を呼びそうな総合小売業に関する外資政策に大きな動
きは期待しにくい。新たな新規投資案件も停滞しそうだ。それでも海外流通大手は先を急ぐ
ことなくじっくりとインド市場に対応している。次期政権がどんな顔ぶれになるのかは依然
予断を許さないが、外資誘致で手っ取り早く結果を出さねばならないのは新政権も同じだ。
となれば、彼らが再び海外大手流通業に秋波を送り、規制緩和に動く可能性は十分ある。あ
まり悲観する必要はなさそうだ。
(日本経済新聞英文編集部編集委員<THE NIKKEI ASIAN REVIEW副
編集長> 山田剛)
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2013年11月号
林秀毅の欧州経済・金融リポート
ドイツ総選挙後の展開とイタリアリスク
―ECBは“四重苦”に
独大連立は双方の利害が一致
ドイツ総選挙は、予想通り現与党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が勝利し、
メルケル首相の3選が事実上確定した。メルケル氏は、今回支持を伸ばした最大野党の社会
民主党(SPD)との間で二大政党による大連立を模索している。
それでは、大連立は成立するだろうか。選挙直後から、この交渉が難航するだろうという
報道が続いている。確かに両者の間には、国外ではギリシャなど問題国の救済策、国内では
財政・年金政策などをめぐり隔たりがある。しかしそれにも関わらず、筆者は大連立が成立
する可能性は高いと考えている。
これは2005年から2009年にかけての第一次メルケル政権で両党が大連立を経験し
ており、今回首相候補となったシュタインブリック氏が当時財務相を務めていたという経緯
に加え、今回は、双方にとって大連立を組むことに十分なメリットがあるためである。
まず与党側は、メルケル首相を中心とした体制を一段と安定化できる。さらに、従来メル
ケル首相は、ギリシャなど問題国の救済について、ドイツ国民の意向を反映し、問題国に対
し財政規律を中心とした厳しい要求を行った上で、最終的には妥協する、といういわば「手
順」を踏んできた。これによりドイツ国民の支持と、他のEU主要国と協力しながら救済に
取り組むという相矛盾する役割を果たしてきたのである。
ここで、親EUの姿勢を取り問題国の救済にも積極的な社会民主党が入閣すれば、メルケ
ル首相にとって「救済に取り組まざるを得ない」という理由がさらに加わることになり、こ
とを進めやすくなるという面がある。
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2013年11月号
前月の本レポートでは、現在の比較的落ち着いた市場環境のもとでは、メルケル首相が選
挙後、南欧諸国の支援に積極的な姿勢にすぐに転じることは考えにくいと述べた(*)。こ
の意見は今も変わっていないが、以上述べたような間接的な効果によって、一定の時間を経
た後に、結果的に問題国支援にプラスの面が出てくることは考えられる。
(*)「ユーロ圏最大のリスクは何か―景気低迷・各国危機から制度改革の遅れへ―」
http://www.jcer.or.jp/column/hayashi2/index532.html
一方、野党・社会民主党にとっては、政権内に入り政策に携わり発言することにより、自
らの存在意義を高めるという意味がある。メルケル首相の人気が非常に高い現状では、閣外
から発言を行っても社会民主党にとり現状を改善する見込みは高くないためである。
ただし社会民主党にとって連立は「両刃の剣」となる可能性がある。党の中心的存在であ
るシュタインブリック氏は失言が多いことで知られ、大連立を組んでも結果的にメルケル首
相の有能さが際立つことになる展開が想定される。言い換えれば、大連立が成立した場合、
しなかった場合、いずれの場合でもメルケル首相を中心とした体制が安定化に向かいやすい
といえる。
以上に関し、ユーロ圏に対する厳しい指摘で知られるFinancial Times紙
の寄稿は、第一に大連立が成立しても危機対応は変わらないとして、危機対応は「問題国債
務の期限を延ばし、十分価値があるかのように振る舞う(extend and pret
end)」だろうと述べている。第二に、社会民主党はこれまでにも連立を組むと現実的な
方向へ政策を転換してきたため、大連立内でメルケルの政策を支持し、自らの政策に対する
ある程度の見返りを得るにとどまるだろうとしている。
イタリア連立政権、今後の政策運営が課題
イタリアでは、中道左派のレッタ政権が崩壊の危機を免れた。今年2月の総選挙後、連立
工作が難航し、4月になってようやく誕生したという経緯がある。総選挙では、前首相モン
ティ氏の構造改革路線が国民に不人気であることに乗じて、元首相ベルルスコーニ氏の中道
右派等が勢力を伸ばし、連立政権にも参加していた。
今回、数々の不祥事と訴追案件を抱えるベルルスコーニ氏の議員資格はく奪の動きが進ん
だため、ベルルスコーニ氏があえてレッタ氏と意見の異なるVAT(付加価値税)を争点に
55
2013年11月号
持ち出し、自派の閣僚5名を引き揚げさせたという見方が強い。
その後、議会に提出されたレッタ首相の不信認が否決されたことに市場は安堵し、イタリ
ア国債の利回りは低下した。しかし、今回、元々不安定なレッタ政権が窮地を免れたにすぎ
ず、問題が根本的に解決した訳ではない。ベルルスコーニ氏は今回の倒閣劇で自派から反対
者が出た上、議員資格をはく奪されていることが確実視されているが、完全に力を失った訳
ではない。
同時に、レッタ氏の政策が支持されている訳でもない。中道左派と中道右派の連立により
ようやくできあがった現政権は、財政支出の削減、雇用市場の改革などについて具体的な政
策を決定することには、今後も困難が伴うことになるだろう。
ECBに“ユーロ高”の重荷
それでは、以上のようなドイツ・イタリア情勢について、欧州中央銀行(ECB)はどの
ような影響があると考えている。
まずドイツに関しては、総選挙後の新政権作りが軌道に乗るまで、11月始めに予定され
るECBによる単一の銀行監督(SSM)の規則案の発表が遅れたり、その後ドイツの頑な
な姿勢によって、来年3月に向け銀行の破たん処理を進める単一救済基金(SRM)の設立
が遅れるのではないかという質問が出ていた。これに対しドラギ総裁は、単一の銀行監督を
第一段階とすれば単一救済基金は第二段階と位置付けであり、着々と進めていくしかないと
答え、その口調には歯切れの悪さが感じられた。前月の本レポートでは、新たな制度構築の
遅れがユーロ圏にとって最大のリスクではないかと述べた。この点がドイツの国内政治情勢
との関連で注目される可能性があろう。
一方、イタリアの政治情勢と市場への影響についても質問があった。ドラギ総裁は、個々
の問題国による市場の不安定化は、これらの国の成長への期待を妨げることはあっても、数
年前と異なりユーロ圏全体の状態を損ねることはないとかつてのギリシャ、ポルトガルのよ
うな不安定な状態が、現在はイタリアに見ることができると述べ、イタリアの現状と今後に
対する懸念の深さを示した。
さらに今回は、ユーロ高への懸念に関する質問が相次いだ。ドラギ総裁は、従来通り為替
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2013年11月号
レートに関する直接の言及は避けた。ただし、これとは別に米国暫定予算案の不成立による
一部政府機関の閉鎖などの影響について聞かれ、「長引いた場合にはリスクになる」と答え
ている。今回のユーロ高が米国財政への懸念の裏返しであると考えられること、10月中旬
には債務上限の引き上げ期限が迫っていることから、ドラギ総裁の指摘通り長引いた場合に
は、ユーロ高の持続につながりかねない。これはユーロ圏景気の下振れ、問題国への懸念の
再燃、制度構築への取り組みにユーロ高を加えた「四重苦」といえるのではないか。
(特任研究員 林秀毅)
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2013年11月号
AEPR編集会議
「中国が世界に与える影響」をテーマに
議論
日本経済研究センターは10月5日、アジアの諸問題を取り上げる政策提言型英文ジャー
ナル「Asian Economic Policy Review (AEPR)」の編
集会議を都内で開いた。テーマは「中国が世界に与える影響」で、国内外の研究者ら25人
が出席。来年7月に発行する第9巻第2号(通算第18号)の掲載予定論文6本について議
論した。
中国の対外直接投資(FDI)などについて多角的に分析
中国は世界の工場として生産あるいは輸出面で注目されるだけでなく、積極的な対外投資
などを通じて、海外、特に途上国との関係を強めている。今回の編集会議では、中国が途上
国を中心にどのような影響を与えているのかを検証するため、中国から投資を受ける側のア
フリカや中南米の視点に立った分析と、中国側の視点に立った分析のそれぞれに関する発表
が行われた。
一番手は、豊富な資源を持つアフリカと中国との関係を分析したピーター・ドレーパー・
南アフリカ国際問題研究所シニアリサーチフェロー。参加者の中で唯一、アフリカから編集
会議に出席したドレーパー氏は、資源獲得を目的とした中国の国営企業を中心とした昨今の
投資状況などを概観したうえで、中国の経済改革の動きが加速すれば、中国国営企業の存在
は薄まる半面、中国の私営企業を中心とした製造業などの投資が将来的には徐々に増えてい
くのではないかとの見方を示した。これに対し、アフリカの労働コストは他国に比べて一概
に安いとは言えないほか、アフリカ向けに製造業で投資があった場合に、生産された製品の
輸出先はどこになるのか、という意見などが出された。
一方、中南米に対する中国の影響は、より複雑で多様である。米ピーターソン国際経済研
究所のバーバラ・コトチュウォー・リサーチフェローによると、中国は中南米産の天然資源
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2013年11月号
の輸出先であるとともに、中南米向けの投資の資金源でもあり、中南米の貿易や経済成長に
対して重要な役割を果たしている。その一方で、中南米の製造業にとって、中国は中南米の
自国市場ないしは第三国における競争相手であり、中国からの輸入品に対して中南米側がア
ンチダンピング関税を課すという緊張関係が生じることもある。また、中国との貿易緊密度
を踏まえ、貿易協定に関する姿勢にも国によって濃淡がある。
中国の投資を受け入れるアフリカと中南米に共通する問題として、両地域に豊富な天然資
源の輸出による経済発展がかえって経済に悪影響をもたらすオランダ病を懸念する議論も多
く聞かれた。
一方、中国の対外直接投資が相手国に与える影響について、中国社会科学院世界経済政治
研究所のワン・ビジュン(王碧珺)助理研究員は以下の3つの点を挙げた。
すなわち、①大きな雇用創出効果と限定された技術移転②十分な資本投下と中国市場への参
入③企業の社会的な不正行為による損害――である。ただ、こうした影響は、中国からの投
資に伴う摩擦の増加、そして学習効果、さらには中国国内の構造改革の進展によって一時的
なものとなる可能性もあると指摘する。
中国経済の行寿についても議論
経済発展を背景に途上国などへの影響力を拡大している中国だが、原動力となっている経
済の見通しはどうなのか。この点についての出席者の関心は高かったが、見解は分かれた。
北京大学のファン・イーピン(黄益平)教授は、中国の経済発展モデルが変化していること
を踏まえ、ある程度のハードランディングは避けられないとする一方、世界経済の景気循環
が今後さらに劇的になることを考えると、ハードランディングとなってもそれは次への一歩
への準備になると強調する。これに対し、討論者として参加していた関志雄・野村資本市場
研究所シニアフェローは、住宅バブル、地方政府の債務増加、シャドーバンキングシステム
の3つが中国が抱える懸念材料だとしながらも、経済危機は回避されるのではないかという
やや楽観的な見方を示した。
AEPRは国際的な注目度を高め、AEPRに掲載された論文の引用機会を増やすため、
2014年から発行時期を現行より1カ月ずらす。そのため、通常は年2回の編集会議のと
ころを、2013年は臨時に1回増やすこととし、4月、7月に続いて10月に3回目の会
議を開くというハードなスケジュールとなった。来年4月に開催予定の次回の編集会議では、
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2013年11月号
2015年1月発行予定の19号(テーマ:イノベーション)に向けた論文について議論す
る。
(国際・アジア研究グループ)
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2013年11月号
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2013年11月号
【帰国にあたって】
東京は混雑が少なく、静かな街だった
アジアの若手研究者を招聘する「日経アジア・スカラシップ」プログラムによる客員研究
員として、2013年8月から3カ月間、日経センターに滞在していたルー・ヤンさん(中
国)。帰国を前に、思い出などを語ってもらった。
――日本での滞在は約3カ月と短かったですが、振り返ってみていかがですか。
とても短かったですが、以前から取り組みたいと思っていたテーマ(人口構造の変化が潜
在成長率に与える影響の日中比較)に集中することができました。北京では仕事が色々と忙
しくて、このようなテーマの論文を書く時間を確保することができません。今回、これまで
の研究で不足していた点を補うことができましたし、日経センターの研究員との交流を通じ
て日本の事情が理解できました。
論文をまとめたりするのに忙しく、帰国直前の1−2週間はかなり寝不足になりました。
睡眠時間が2−3時間という日もあり、我ながら良くやったと思います。スーパーウーマン
といってもよいですかね。
――東京の印象はどうでしたか。
東京は人口密度が高いはずなのですが、実際に来て見るとだいぶ印象が違いました。東京
スカイツリーの展望台から眺めると、東京の町並みは整然としていました。確かに人は多い
のですが、地下鉄など公共交通を利用する場合、ギュウギュウに混み合ったという感じでは
ありませんし、車内は北京ほど騒がしくなく、静かです。
――日常生活ではどうでしたか。
中華料理に比べて、日本食は油っぽくないので、食べやすかったです。言い換えると、日
本食の場合は、おいしいけれど、ちょっと胃に重たいなということはありませんでした。好
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2013年11月号
きなのは、鰻とか魚類で、日本の魚料理は新鮮でおいしかったです。日本食の中で、これは
ちょっと食べることが出来ない、と思ったものは、特にありませんでした。
――関西、東北、鎌倉などにも行きましたが、どこが思い出に残りましたか。
東北地方にいった時に訪ねた十和田湖畔が最も印象的でした。樹木で覆われた渓流沿いの
小道を歩くのはとても気持ちよく、しかも、渓流沿いには人っ子一人いませんでした。まる
で、仙人の住むところ(仙境)のような感じだったので、とても印象に残りました。この辺
は中国と全然違いますね。中国の名所旧跡となると、どこに行ってもたくさんの人がいて、
観光に来たのか、人を見に来たのか、分からないぐらいですが、十和田湖周辺の渓流はとて
も静かで気に入ったので、たくさん写真を撮りました。
――東京に一人住まいでしたが、週末はどう過ごしていましたか。
北京にいる時も週末は家にいることが多かったので、もともと、そんなに出歩く方ではあ
りません。でも、東京では、家(吉祥寺)の近所にある井の頭公園に行ったり、周辺をぶら
ぶらしたりしました。
気に入ってよく出かけたのは、ドラッグストアですね。化粧品など様々な小物が揃ってい
るので、あれこれ眺めるのが楽しかったです。難を言えば、商品の価格がやや高いことでし
ょうか。値段が高いということでは、果物の価格が北京に比べて高いのに驚きました。私は
食事の代わりに果物をよく取るのですが、日本ではちょっと割高だなと感じます。
――帰国したら、忙しい生活になるでしょうね。
帰国した翌日には、上海で開かれる都市化に関するシンポジウムに出席しないといけませ
ん。職場に戻れば、色々な仕事が待っているので、忙しくなりますね。
(国際・アジア研究グループ)
Lu Yang
中国社会科学院 人口労働経済研究所の副研究員。日経センターの客員研究員として10
月末まで滞在した。
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2013年11月号
十和田湖畔のハイキングを楽しむルーさん(2013年8月)
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2013 年 11 月号
研究リポート(サマリー)
《2050 年への構想》 フランスに学ぶ両立支援策
少子高齢化社会の回避、「フランス」手本でも 30 年
―保育や教育費への支出増、長時間労働の変革は不可避
2013 年 10 月 22 日発表
5 月に公表した「グローバル長期予測と 3 つの日本の未来」の中で、2050 年に向けた持続的成長を実
現するには、可能な限り女性の労働参加を促すことが大きなポイントであることを指摘した。少子高齢
化を回避しなければ、国民負担率は北欧並みの 60%弱まで上昇する可能性が高い。女性活用を 30 年間
かけて実現したフランスの働くお母さんたちへのインタビュー結果を交えながら、現地の保育システム
や女性の働き方の現状を紹介する。幹部職への登用には未だ男女差が残るなど、
「フランスモデル」に
ももちろん課題はある。それでも出産を機にキャリアが途切れてしまう女性が多い日本へのヒントは少
なくない。
詳細は http://www.jcer.or.jp/policy/concept2050.html をご参照ください。
65
2013 年 11 月号
セミナーリポート
「世界経済の変調と日本の針路―サマーダボス会議報告」
竹中平蔵・日本経済研究センター研究顧問
2013 年 10 月 8 日開催
オリンピック機に世界の需要取り込む努力を
―求められる岩盤規制の改革
<要旨>
① 将来、世界の中間所得層が全人口の半分まで増加する。先進国と途上国の経済が急速に収斂する中
で、世界のマーケットが新興国に比重が移り、大きく変化していく。その変化に対応するためにマ
ーケットを見る目を根本的に変える必要がある。
。
② アベノミクスの初期の金融、財政政策による経済効果はある程度認めることができるが、問題は持
続的な成長が実現できるかである。最大のポイントは規制改革の実行にある。農業や医療といった
長年守られてきた岩盤規制をいかに開放させるかが鍵となる。
③ 世界最大のコンテンツであるオリンピックの開催が日本に決まったことは、海外から観光客やビジ
ネスマンを呼び込む大きなチャンスである。インフラなどハード面だけでなくソフトへの投資効果
を最大限に発揮するには、国際戦略特区などを活用した規制改革を進めるほか、福島第一原発の汚
染水問題に真剣に取り組み、東京電力の処理に真剣に取り組むことが避けられない。
▼詳細は http://www.jcer.or.jp/seminar/sokuho/index201307.html#20131008 をご参照ください。
66
2013 年 11 月号
最近掲載のセミナーリポート
開催日
タ イ ト ル
世界経済の変調と日本の針路
―サマーダボス会議報告
10 月8 日
10 月4 日
オリンピック機に世界の需要取り込む努
力を
―求められる岩盤規制の改革
≪AEPR 特別セミナー≫
アフリカ市場の未来
―現実、神話、投資家のまなざし
開発・成長へ、強まる期待
―国ごとに差、難問も山積
PFI 活用を成長戦略の軸に
10 月4 日
9 月26 日
施設運営の民業移管こそ重要
―意識改革、法令整備が必要に
M2M から見える日本のビジネス、社会の
未来
ネットを使った課題解決、新たな段階へ
―課題ありきのデータ活用を
急増する対ベトナム投資と「中所得の罠」
9 月26 日
ベトナム、中期的には 5~6%成長か
―抜本改革進めば高成長も可能
中国の経済政策と日系企業の進出動向
9 月20 日
「中所得国の罠」克服を目指す習近平政権
――鍵となる改革の成否、
日系企業は対中事業の調整を加速
中国新政権の金融リスク管理と改革
9 月13 日
新指導部の姿勢は「改革」
―金利・為替・資本移動の段階的自由化へ
9 月12 日
9 月5 日
詳細は
サントリーのもの造り
―鳥井信治郎の考え
「やってみなはれ」の精神今も
―自主独立、独立自尊の気概が必要
ニッポンの消費社会は変わるのか
―消費税率引き上げを控えて
「一目瞭然」がキーワードに
―高齢化やネット進化に対応を
講 師
掲載項目
竹中平蔵・日本経済研究センター研
究顧問
ピーター・ドレーバー・南アフリカ
国際問題研究所シニアサーチフェ
ロー
安間匡明・国際協力銀行経営企画部
長・京都大学客員教授
森川博之・東京大学先端科学技術セ
ンター教授
大島哲也・NEC 第2キャリアサー
ビス事業部部長
司会)篠原洋一・日経産業新聞編集
長
トラン・ヴァン・トゥ・早稲田大学
社会科学総合学術院教授
司会)牛山隆一・日本経済研究セン
ター主任研究員
清水顕司・日本貿易振興機構海外調
査部中国北アジア課課長代理
(司会)伊集院敦・日本経済研究セ
ンター主任研究員
関根栄一・野村資本市場研究所北京
事務所首席代表
鳥井信吾・サントリーホールディン
グス代表取締役副社長・関西経済同
友会代表幹事
下原口徹・日本経済新聞社日経MJ
編集長
( 聴くゼミ:音声)http://www.jcer.or.jp/seminar/kikusemi/index.html
(読むゼミ:抄録)http://www.jcer.or.jp/seminar/sokuho/index.html
67
ピッ
ピックアップセミナー
東京
11月8日 12:00∼13:30
大阪
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
11月14日 12:30∼14:00
*会費:3000円(当日ご持参ください)、定員になり次第締め切ります
*会場:帝国ホテル大阪22階 ペガサスの間(大阪市北区天満橋1-8-50)
会員会社・部長昼食会
大阪昼食会
混迷するエジプト・シリア情勢
―米国の中東覇権体制の動揺
新時代の中国ビジネス戦略
―M&Aのケーススタディ
池内 恵・東京大学先端科学技術研究センター
孫 田夫・チャイナリスト投資顧問公司CEO
准教授
東京
11月20日 18:30∼20:30(開場18:10∼)
*会員・一般無料、定員500名(先着順、定員になり次第締め切ります)
*会場:日経東京本社ビル3階・日経ホール
≪日経センター設立50周年シンポジウム≫ 2050年 経済一流国堅持の条件
異次元改革で成長の実現を―人材立国 具体策を問う
野田 聖子・自民党総務会長、長谷川閑史・経済同友会代表幹事、川本 裕子・早稲田大学教授、
岩田 一政・日本経済研究センター理事長、司会)小林 辰男・日本経済研究センター主任研究員
公益社団法人
日本経済研究センター
〒100-8066 東京都千代田区大手町1−3−7 日本経済新聞社東京本社ビル11階
総務本部
総 務 ・ 広 報 グ ル ー プ
経 理 グ ル ー プ
03(6256)7710
03(6256)7708
事業本部
会 員 グ ル ー プ
事業グループ(セミナー)
03(6256)7718
03(6256)7720
研究本部
予 測 ・ 研 修 グ ル ー プ
研 究 開 発 グ ル ー プ
国際・アジア研究グループ
中
国
研
究
室
グ ロ ー バ ル 研 究 室
ライブラリー
(茅場町支所) 〒103-0025 東京都中央区日本橋茅場町2−6−1 日経茅場町別館2階 03(3639)
2825
大阪支所 〒540-8588 大阪府大阪市中央区大手前1−1−1 日本経済新聞社大阪本社8階 06(6946)
4257
03
(6256)7730
03
(6256)7740
03
(6256)7750
03
(6256)7744
03
(6256)7732
参加ご希望の皆様へ
会場の席数に限りがございますので、当センターホームページ(http://www.jcer.or.jp/)または裏面のFAX申込書
で事前お申し込みをお願いします。
セミナーの追加や日時の変更の場合もありますので、当センターホームページでご確認ください。
■会費
■場所
■入場
会員無料、一般は1回8,000円
東京:日本経済新聞社東京本社(東京都千代田区大手町1 3 7)
日経茅場町カンファレンスルーム(東京都中央区日本橋茅場町2 6 1)
大阪:日本経済新聞社大阪本社8階・日 経 セ ン タ ー 会 議 室(大阪府大阪市中央区大手前1 1 1)
(地図はホームページをご覧ください)
先着順(セミナー開始の30分前より受付を始めます)
■お問い合わせ(電話) 東京:
(03)6256−7720/大阪:
(06)6946−4257
東京
11月5日 14:30∼16:30
大阪
11月8日 14:00∼15:30
*会員、一般とも無料
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
「異次元金融緩和」で物価は上昇していくのか
政府は物価動向を踏まえ「デフレ状況ではなくなりつつ
ある」
(8月の月例経済報告)と強調しています。しかし、
ビジネスマンの多くが「消費者や取引先に値上げを受け入
れてもらえるようになった」と実感できる状況ではありま
せん。来年4月の消費税率の引き上げも賃金・所得が増え
ていかなければ、消費を下押しする可能性があります。
「異次元金融緩和」の効果について暫定評価を試みます。
景気点検講座
毎年5月と11月に開催する「景気点検講座」では、その
時々の経済動向、物価、景気の先行きなどについて、日本
銀行大阪支店の担当者が最新の情報を解説します(このセ
ミナーは「聴くゼミ」、「読むゼミ」、資料のホームページ
掲載は致しません)
。
竹井 信治・日本スーパーマーケット協会専務理事
山口 智之・日本銀行大阪支店営業課長
加藤 出・東短リサーチ社長チーフエコノミスト
1989年東京大学法学部卒、日本銀行入行。企画局企画役、総
務人事局企画役、政策委員会室広報課長などを経て、2012年か
ら現職
森田 京平・バークレイズ証券チーフエコノミスト
岩下 真理・SMBC日興証券債券ストラテジスト
司会)愛宕 伸康・日本経済研究センター短期経済予測主査
東京
11月8日 12:00∼13:30
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
会員会社・部長昼食会
混迷するエジプト・シリア情勢
―米国の中東覇権体制の動揺
エジプトの民主化の挫折は軍事クーデタから民族主義的
な翼賛体制へと変化しており、シリア内戦の泥沼化は地
域・国際紛争へと飛び火しています。米国覇権の下での中
東秩序は大きく揺らぎ、地域大国の自律化や域外大国間の
新たな競争を引き起こしています。流動化する中東秩序の
今後と日本への影響について、現地情勢に詳しい池内氏に
解説していただきます。
池内 恵・東京大学先端科学技術研究センター准教授
2001年東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。
日本貿易振興会アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究セ
ンター准教授等を経て、08年から現職。著書に『イスラーム世
界の論じ方』
(サントリー学芸賞受賞)
東京
11月11日 16:30∼18:00
*日英同時通訳付き
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
東アジアの地政学
―政権移行から1年で見えてきたもの
中国(習近平共産党総書記・国家主席)、日本(安倍晋
三首相)、韓国(朴槿恵大統領)の順に東アジアの主要3
カ国で政権移行が始まって1年。この地域が抱える様々な
問題と、それらを克服できた場合の可能性が、より明確に
なってきました。アジア重視を掲げる米国も大きな存在で
す。国際政治のリスク分析で定評のあるブレマー氏に日本
を取り巻く構図を読み解いていただきます。
Ian Bremmer・ユーラシア・グループ社長
1994年に米スタンフォード大学で博士号(政治学)。98年に
ユーラシア・グループを設立し、グローバルな政治潮流や新興
国の分析に注力。コロンビア大学客員教授なども務める
司会)春原 剛・日本経済研究センターグローバル研究室長
大阪
11月14日 12:30∼14:00
東京
*会費:3000円(当日ご持参ください)、定員になり次第締め切ります
*会場:帝国ホテル大阪22階 ペガサスの間(大阪市北区天満橋1-8-50)
11月22日 14:00 ∼ 15:30
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
大阪
11月25日 14:00 ∼ 15:30
大阪昼食会
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
新時代の中国ビジネス戦略
―M&Aのケーススタディ
中国の習近平政権は経済の安定成長を目指し、構造調整
と改革推進を柱とする新たな政策を進めようとしています。
経済の状況や投資環境が変わる中で内外の企業はどう動く
のでしょうか。日本滞在20年の経験をもつ金融の専門家で
あり、中国・北京で起業し日中企業のM&Aの事情に詳し
い孫氏がケーススタディを織り交ぜながら、新時代の対中
ビジネス戦略についてお話しします。
孫 田夫・チャイナリスト投資顧問公司CEO
1987年人民大学修士課程修了、96年東京大学大学院博士課程
修了。94年日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)入行、日本
IBM、みずほ証券(中国マクロ経済担当シニアエコノミスト)
、
三菱UFJ証券(中国チーフエコノミスト)などを経て、2009年
から現職。中国社会科学院特聘教授を兼務
名古屋
*会場:日経名古屋支社ビル3階・会議室
日経センター短期経済予測説明会
予測期間:2013年10 12月期∼2016年1 3月期
直近の金融経済情勢および内閣府から公表される2013年
7−9月期のGDP1次速報値(11月14日予定)を踏まえ
て、当センターがとりまとめた2015年度末までのマクロ経
済見通しを解説いたします。
※今回は名古屋地区の会員の皆様にも、説明会を開催します。
愛宕 伸康・日本経済研究センター短期経済予測主査
●日経名古屋支社ビル
〒460-8366 愛知県名古屋市中区栄4−16−33
久屋通り
地下鉄東山線
三越
伏見通り
東京▼
ミスト4人が集まり、日本を含む東アジア経済の先行きに
錦通
地下鉄桜通線
テレビ塔
地下鉄栄駅
広小路通
東アジア経済の展望と課題
―国際・金融エコノミスト座談会
国際的なマクロ経済の動向や金融政策に熟知したエコノ
▲市役所
地下鉄久屋大通駅
桜通
大津通り
*日英同時通訳付き
*会場:日経東京本社ビル6階・カンファレンスルーム
▲名古屋城
地下鉄
名古屋駅
地下鉄鶴舞線
11月19日 14:00∼16:00
JR名古屋駅
▲京都
東京
11月26日 13:30 ∼ 15:00
松坂屋
北館
電通名古屋ビル
松坂屋
白川公園
名古屋高速
中日ビル
松坂屋
南館
日経経済新聞社
名古屋支社
地下鉄矢場町駅
ついてアベノミクス、米国の金融緩和の縮小、中国経済の
地下鉄 栄駅 13番出口から徒歩5分
減速などを軸に議論します。セミナーの冒頭では、日本銀
地下鉄 矢場町駅 1番出口から徒歩5分
行の量的質的緩和の効果について当センターの金融研究班
による最新の研究成果を報告します。 後援:日本経済新聞社
John Walker・英オックスフォード・エコノミクス会長
Robert Feldman・モルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミスト
東京
11月27日 13:30∼15:00
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
Joseph Zveglich・アジア開発銀行アシスタントチーフエコノミスト
岩田 一政・日本経済研究センター理事長
神戸
11月19日 13:20∼14:50
*会員、一般とも無料(11月11日締切)
*会場:神戸大学出光佐三記念六甲台講堂(神戸市灘区六甲台2-1)
高度成長期の終焉を迎える中国経済
―リコノミクスで難局を克服できるか
李克強・中国首相の「リコノミクス」が注目を集めてい
ます。高成長を無理に追わず、市場化を軸とした構造改革
を進めて安定成長を目指すものです。ただ「影の銀行」の
膨張や不動産バブル崩壊の可能性など難題も待ち受けてい
≪日経センター・神戸大学共催講演会≫
ます。2014年と中期的な展望を中国経済研究の第一人者で
日本とアジアの経済関係
―企業・個人ベースでの緊密化を考える
ある関志雄氏に語っていただきます。
可部 繁三郎・日本経済研究センター主任研究員
関 志雄・野村資本市場研究所シニアフェロー
1979年香港中文大学卒、86年東京大学大学院博士課程修了、
経済学博士。香港上海銀行、野村総合研究所、経済産業研究所
を経て、2004年から現職
大阪
12月3日 14:00∼15:30
東京
12月11日 13:30∼15:00
*会員、一般とも無料
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
≪日経センター政策提言「2050年への構想」
≫
株価座談会
2050年 経済一流国堅持の条件
―成長実現と人材立国をどう進めるか(仮題)
消費税率が上がり5兆円規模の経済対策が始動する2014
2014年 日本株の投資機会を探る
年、日本株はどう動くのでしょうか。経済成長と財政健全
報 告:小林 辰男・日本経済研究センター主任研究員
ゲスト:前田 正子・甲南大学マネジメント創造学部教授
1982年早稲田大学教育学部卒、松下政経塾入塾。94年ノース
ウエスタン大学ケロッグ経営大学院修了、第一生命経済研究所
主任研究員、横浜市副市長、横浜市国際交流協会理事長を経て、
2010年から現職。商学博士(慶應義塾大学)
東京
12月4日 12:00∼13:30
*会費:3000円(当日ご持参ください)
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
化の両立を目指すアベノミクスのもと企業が業績を伸ばせ
るかがカギです。海外では新興国の景気が減速し米国の量
的金融緩和の出口も気になります。お二人の専門家に株式
相場の見通しを語っていただきます。
村 裕樹・日興アセットマネジメント最高投資責任者
慶應義塾大学卒、日興証券(現SMBC日興証券)で、ヘッジ
ファンド運用など米国で12年にわたる業務経験を持つ。2004年
日興アセットマネジメントに入社、13年1月から現職
丸山 俊・BNPパリバ証券日本株チーフストラテジスト
会員会社・部長昼食会
2013年金融政策・財政再建の評価
年初から5月にかけて、金融政策の変更(期待と実現)
により円安・株高が進行し、8−9月には消費税率の予定
早稲田大学卒、三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コン
サルティング)でエコノミストとして景気予測、マクロ分析を
担当。2005年クレディ・スイス証券に入社、株式投資戦略など
を担当。11年7月BNPパリバ証券に入社し現職
司会)荒川 大祐・日本経済新聞社編集局証券部長
通りの引き上げか否かで大議論をしたあと、10月1日に安倍
首相が引き上げを決断しました。金融の異次元緩和と機動
的財政政策(短期的な刺激と中期的な再建)はうまく機能
東京
12月17日 15:00∼16:30
しているようにみえます。伊藤教授に今年1年の政策の動
*会場:日経東京本社ビル6階・セミナールーム2
きを評価し、今後の中期的な課題を指摘していただきます。
伊藤 隆敏・東京大学大学院経済学研究科教授・公共政策大学院院長
1975年一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。79年ハー
バード大学Ph.D.取得。一橋大学経済研究所教授、大蔵省(現
財務省)副財務官等を経て、2004年から現職
日銀短観ポイント説明会
12月16日公表の日銀短観で示される企業の景況感や経営
計画の動向について、11月の当センター短期経済予測公表
後の内外経済情勢や金融環境を踏まえながら解説します。
東京
12月6日 14:00 ∼ 15:30
愛宕 伸康・日本経済研究センター短期経済予測主査
*会場:日経東京本社ビル6階・カンファレンスルーム
大阪
12月9日 14:00 ∼ 15:30
*会場:日経大阪本社ビル8階・日経センター会議室
≪日経センター中期経済予測説明会≫
2014年度派遣研修生募集
次代の経営幹部・エコノミストを養成
日本経済 活力回復への課題
―成長の基礎体力を検証する(仮題)
会員企業の若手・中堅社員を1∼2年間お預かりし、経
人口の高齢化に加え資本ストックの平均年数が上昇、経
済予測などの実践訓練を通じて、論理的判断力や経済・経
済の高齢化が進んでいます。人材や知識の活用や東京五輪
営を見る目を養うプログラムです。各社の精鋭が集い、切
効果で活力回復を果たせるのか、成長の基礎体力と潜在力
磋琢磨する場となっており、業種を越えたネットワーク・
発揮への課題を点検します。世界経済のトレンドや消費増
税後の財政再建の行方も描きつつ、2025年までの日本経済
を展望します。
人脈作りの場としても高く評価されています。1400人を超
える人材を経済界に送り出しており、企業のトップや著名
なエコノミストも数多く輩出しています。
■詳細はホームページ(http://www.jcer.or.jp/training/)
桑原 進・日本経済研究センター中期経済予測主査
1989年東京大学経済学部卒、経済企画庁(現内閣府)入庁。
政策研究大学院大学准教授、内閣府経済社会総合研究所上席主
任研究官などを経て、2013年8月から現職
をご覧ください。
■お問い合わせは予測・研修グループまで 03 6256 7730
東京
11月20日 18:30∼20:30(開場18:10∼)
*会員・一般無料、定員500名(先着順、定員になり次第締め切ります)
*会場:日経東京本社ビル3階・日経ホール
≪日経センター設立50周年シンポジウム≫2050年 経済一流国堅持の条件
異次元改革で成長の実現を―人材立国 具体策を問う
Bridge to the Future
これまでの延長ではやがて成長は停滞、税・社会保障負担がのしかかり、国家破綻にも現実味―5月の当センタ
ー2050年予測が描き出した日本の姿です。それを避け経済一流国を堅持するカギは人材の潜在力開花と、海外からの
人、知恵、投資の呼び込みです。それには、今までにない「異次元改革」が求められます。政策提言プロジェクト
「2050年への構想」の最終報告を兼ね、人材立国、成長とイノベーション実現に向けた具体策を議論します。
≪プログラム≫
第一部 基調講演
「政府・与党の成長戦略」
「2050年への構想」から
野田 聖子・自民党総務会長
岩田 一政・日本経済研究センター理事長
第二部 パネル討論
論点(予定)
1)女性・外国人材がより活躍できる雇用制度とは
2)人口対策と財政・社会保障の安定化
3)規制改革と産業の活性化策
4)中長期のエネルギーミックスは
後援:日本経済新聞社
パネリスト
野田 聖子
長谷川閑史
川本 裕子
自民党総務会長
経済同友会代表幹事
早稲田大学教授
岩田 一政・日本経済研究センター理事長 司会)小林 辰男・日本経済研究センター主任研究員
インド
11月25日 10:00∼16:00
*同時通訳無し、英語のみ *参加費無料
*会場:Hotel Oberoi(インド・ニューデリー)
日経センター・Center for Policy Research(インド)共催セミナー
南アジアにおける日本の役割
日印包括的経済連携協定(CEPA)の発効などを背景に日本とインドの結びつきは一段と密になっていくものと期
待されています。11月末に控える天皇皇后両陛下による訪印でさらに弾みがつきそうです。日本経済研究センターで
は、このたび、インドを代表するシンクタンクCenter for Policy Researchとセミナーを共催し、勃興する南アジア全
体を視野に入れながら、両国関係の今後について議論を深めたいと考えております。
基調講演には「インドの『緑の革命』の父」とも呼ばれるM.S Swaminathan博士が登壇します。さらにパネル討論
として、この地域における日本の役割を取り上げる「Japan s Role in South Asia」
、そしてインドが農業の生産性向
上 を 基 点 に 製 造 業 へ の 人 材 移 動 な ど の 経 済 発 展 に ど う 結 び 付 け て い く か を 問 う「Growth Strategy of Indian
Agriculture」の2つのセッションを用意しております。
※詳細はホームページ(http://www.jcer.or.jp/)をご覧ください。
後援:日本経済新聞社
03(6256)7925
大阪のセミナーは… 06(6947)5414
東京のセミナーは…
Bridge to the Future
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2013 年11•12月の催し
TOKYO
月
ホームページまたはFAXでお申し込みください。
ホームページ
http://www.jcer.or.jp/
FAX ご希望のセミナーに○をしていただき、必要事項を
ご記入のうえ、このページをお送りください。
*詳細はホームページをご参照ください。*■は会員限定セミナーです。 ご希望のセミナーに○をしてください。
日
曜日
開催時間
5
火
14:30∼16:30
8
金
12:00∼13:30
11
月
16:30∼18:00
11 19
火
14:00∼16:00
20
水
≪日経センター設立50周年シンポジウム≫2050年 経済一流国堅持の条件
18:30∼20:30 異次元改革で成長の実現を―人材立国 具体策を問う
竹井信治 氏、加藤 出 氏、森田京平 氏、岩下真理 氏、愛宕伸康
会員会社・部長昼食会
混迷するエジプト・シリア情勢―米国の中東覇権体制の動揺
イアン・ブレマー 氏、春原 剛
東アジア経済の展望と課題―国際・金融エコノミスト座談会
ジョン・ウォーカー 氏、ロバート・フェルドマン 氏、ジョセフ・ズベグリッチ 氏、岩田一政
水
13:30∼15:00
4
水
12:00∼13:30
6
金
14:00∼15:30
水
13:30∼15:00
火
15:00∼16:30 日銀短観ポイント説明会
11
17
日
11 19
25
26
池内 恵 氏
東アジアの地政学―政権移行から1年で見えてきたもの
14:00∼15:30 日経センター短期経済予測説明会
8
14
12
「異次元金融緩和」で物価は上昇していくのか
金
OSAKA
月
参加希望
野田聖子 氏、長谷川閑史 氏、川本裕子 氏、岩田一政、小林辰男
22
27
12
セミナー名
愛宕伸康
高度成長期の終焉を迎える中国経済―リコノミクスで難局を克服できるか
関 志雄 氏
会員会社・部長昼食会
2013年金融政策・財政再建の評価
伊藤隆敏 氏
≪日経センター中期経済予測説明会≫
日本経済 活力回復への課題―成長の基礎体力を検証する(仮題)
桑原 進
株価座談会
2014年 日本株の投資機会を探る
村裕樹 氏、丸山 俊 氏、荒川大祐 氏
愛宕伸康
*詳細はホームページをご参照ください。*■は会員限定セミナーです。 ご希望のセミナーに○をしてください。
曜日
開催時間
セミナー名
参加希望
金
14:00∼15:30 景気点検講座
木
12:30∼14:00
火
≪日経センター・神戸大学共催講演会≫
13:20∼14:50 日本とアジアの経済関係―企業・個人ベースでの緊密化を考える
(神戸)
山口智之 氏
大阪昼食会
新時代の中国ビジネス戦略―M&Aのケーススタディ
孫 田夫 氏
可部繁三郎
月
14:00∼15:30 日経センター短期経済予測説明会
(大阪)
愛宕伸康
火
13:30∼15:00 日経センター短期経済予測説明会
(名古屋)
愛宕伸康
3
火
≪日経センター政策提言「2050年への構想」
≫
14:00∼15:30 2050年 経済一流国堅持の条件―成長実現と人材立国をどう進めるか(仮題)
9
月
小林辰男、前田正子 氏
14:00∼15:30
≪日経センター中期経済予測説明会≫
日本経済 活力回復への課題―成長の基礎体力を検証する(仮題)
11•12月のセミナー参加申込
会 社 名
所属・役職
氏 名
TEL
*皆様の個人情報は上記セミナーに関する確認のほか、
日経センターの事業にのみ使用いたします。
Mail
FAX
桑原 進
公益社団法人
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
http://www.jcer.or.jp
役 員
2010年(平成22年)4月1日(公益社団法人としての登記日) 事業
設立
代表理事
会長
杉田 亮毅
内外の財政、金融、経済、産業、経営等の諸問題に関する調
代表理事
理事長
岩田 一政
査、研究を行い、あわせて会員相互の研修を図り、日本経済
理事
新井 淳一
槍田 松瑩
大田 弘子
喜多 恒雄
小峰 隆夫
長谷川 閑史
御手洗 冨士夫
吉川 洋
監事
田村 達也
本田 敬吉
開始 1963年12月23日
目的
の発展に寄与することを目的としています。
上記の目的に沿って、主に次のような事業を展開しています。
事業
1
内外の財政、金融、経済、産業、経営等の諸問題に関する調査、研究
2
経済予測・分析・研修
3
セミナー・討論会・研究会等の開催
4
ライブラリー・情報サービス
5
研究奨励金の交付
研究顧問
新井
大竹
小林
小峰
齋藤
竹中
西岡
名誉顧問
金森 久雄
香西 泰
研究主幹
斎藤 史郎
普通会員、アカデミー会員(自治体、大学)、特別会員、名誉
会員
会員で構成してい ます。
会費、寄付金などで運営しています。
運営
日本経済研究センター 直通電話番号
総務本部
研究本部
03(6256)7710
役員秘書 03(6256)7700
経理グループ 03(6256)7708
総務・広報グループ
事業本部
予測・研修グループ 03(6256)7730
淳一
文雄
光
隆夫
潤
平蔵
幸一
事 務 局
研究開発グループ 03(6256)7740
事務局長
国際・アジア研究グループ 03(6256)7750
茅場町支所
事務局長補佐
兼総務本部長
石塚 慎司
事務局長補佐
兼事業本部長
村井 浩紀
研究本部長
猿山 純夫
大阪支所長
石塚 慎司
会報編集長
石塚 慎司
会員グループ 03(6256)7718
事業グループ 03(6256)7720
ライブラリー
03(3639)2825
大阪支所 06(6946)4257
グローバル研究室 03(6256)7732
源関 隆
所在地
東京・大手町
茅場町支所 (ライブラリー) 大阪支所
〒100-8066
〒103-0025
〒540-8588
東京都千代田区大手町1-3-7
日本経済新聞社11階
東京都中央区日本橋茅場町2-6-1
日経茅場町別館2階
大阪府大阪市中央区大手前1-1-1
日本経済新聞社8階
JCER
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日本経済研究センターでは、経済予測
T E L: 03(6256)7710
FAX: 03(6256)7924
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T E L: 06(6946)4257
FAX: 06(6947)5414
や研究レポート、会報などの情報を
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