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新井 啓之
特 映像モニタリングサービスを支える画像処理技術 集 主役登場 「監視されている」から 「見守られている」へ あ ら い ひ ろ ゆ き 新井 啓之 NTTサイバースペース研究所 主任研究員 昨今の生活空間での治安悪化,公共空間でのテロ懸念の 員で見ているケースが多く,「監視員としては問題を感じ 増大などにより,監視カメラの活用に注目が集まっていま つつも,とてもすべての映像を見ることはでき得ない」と す.このような社会背景に加え,カメラやネットワークの いうのが実態でした. 低価格化が後押しして,監視カメラ利用のすそ野は急速に このような状況を考えてみると,一見相反する2つのこ 拡大しています.駅や空港といった従来からの利用場所に とを解決する必要がありそうです.1つは, 「大量のカメラ 加え,オフィス,商店街,コンビニエンスストア,マンショ 映像を監視員が効率的に見るための技術を提供し,監視カ ン,一般家庭まで,日常生活の中で当たり前のように監視 メラをフル活用させること」であり,もう1つは,監視カ カメラを見かけるようになりました. メラがフル活用される状況で一層重要となる「監視されて このような状況において1つ大きな問題となるのが, いる不快感を取り除く仕組み,技術を実現すること」です. 「監視されている」という不快感です.犯罪捜査において 特に後者の不快感を取り除く技術の実現は難しく,簡単 監視カメラが大きな貢献をするケースが増えてきているこ に答えは出ないと思いますが,1つのアプローチとして, ともあり,そのメリットとデメリットを天秤にかけて,監 一方的な監視ではなく双方向の映像コミュニケーションを 視カメラの利用もやむなしと判断されている場合も多いよ 基本とすることにより,誰に見られているのかが分からな うですが,そこにはさまざまな考え方があり,単純には割 いという不快感を取り除く方法があるかもしれません. り切れないようです.ジョージ・オーウェルのSF小説 施設監視の例ですと,そこに監視員が立っているのと同 『1984年』では,テレスクリーンと呼ばれる監視装置に市 様の状況をつくることです.独居老人の見守りの場合には, 民が管理・統制される社会に個人が押しつぶされる様が描 家の中に配置されたセンサやカメラが危険な状況を検知し かれていますが,監視カメラは,このような個人の自由や たことをトリガーにして,双方向のコミュニケーションに 社会のありようの問題としてもとらえられているようです. 切り替えることが大切です.この例は,そんなに遠い将来 私個人についていえば,監視カメラに撮影されていても のことではないと思います. あまり気にはなりません.これは,「撮影されてはいても, 「監視されている」ではなく「見守られている」と感じ 見られている可能性は低いだろう」と思っているためです. てもらえるような仕組み,技術を提供できるよう,今後の これまでさまざまな監視カメラの利用場面を見学してきま 研究開発を進めていきたいと考えています. したが,数十台から数百台の監視カメラ映像を少数の監視 NTT技術ジャーナル 2007.8 25